国際会計基準審議会(IASB)の第27回IFRS諮問会議(IFRS Advisory Council、以下「諮問会議」という。)(*1) が、2010年2月22日と23日の両日にわたり、ロンドンで開催された。日本からは、諮問会議メンバーである金子誠一社団法人日本証券アナリスト協会理事、米家正三伊藤忠商事株式会社常勤監査役、オブザーバーとして、金融庁より園田周企業開示課課長補佐が出席した。
以下、会議の主な概要を報告する。
諮問会議議長及び副議長、IASB議長から、それぞれ最近4か月の動向が報告された。また、National Standard Setters Group(NSS)議長及び欧州財務報告諮問グループ(European Financial Reporting Advisory Group(EFRAG))議長から各組織の紹介が行われ、米国SECからのオブザーバー及び他の諮問会議メンバーからも各国における活動状況が報告された。
定款レビューの完了を知らせるプレス・リリースが公表されている(*2)。定款レビューについて、2つの点で諮問会議の議論が分かれていた。そのうち1つは、「原則ベースの基準」という表現を定款に盛り込むかどうかであったが、評議員会は適切なバランスをとり、IFRSは「明確に表現された原則(clearly articulated principles)に基づかなければならない」との表現で決着した(*3)。また、もう1つの論点は加速されたデュー・プロセス(緊急手続)を認めるかどうかであったが、非常に稀な場合に限り、評議員の4分の3以上の事前承認によってこれを認めることとなった(*4)。さらに、従来の定款ではコンバージェンス自体が国際会計基準委員会財団(定款変更により、今後財団の名称も「国際財務報告基準財団」(IFRS財団)に変更となる)の目的とされていたが、今回の見直しにより、コンバージェンスはアドプションを促進するための手段であることが明確にされた(*5)。
評議員会は、諮問会議の構成と運営について、更なる改善が必要かどうか、年内にレビューを行う予定であることも上記のプレス・リリースで明らかにされている。
オーストラリアでは、グローバル金融危機後、監査人の役割に焦点が当てられている。オーストラリアにおけるIFRSのアドプションは、カーブアウトもなく非常に順調であった。現在は、より実務的な論点に議論は移っており、経営者による財務諸表の利用に係る懸念や基準の有用性に関心が集まっている。
オーストラリアの関係者、特にCorporate Reporting Users Forum(CRUF)との会合において、次のような要望が聞かれた。
FASBとのMoU項目のうち、時間的制約から無形資産のプロジェクトが除外され、企業結合が完了したため、残る9つのプロジェクトを2011年6月までに完了しなければならない。2009年9月のG20サミットで、G20メンバー国は、MoU項目を2011年までに完了させることへの支持を確認した。また、SECは来年、最終的なロードマップを決定する予定である。
2011年及び2012年にIFRSをアドプトする国々がある。彼らは、アドプトした直後にまた新たな基準を導入したくはないだろうから、MoUプロジェクトを完了させるプレッシャーが増している。発効日について(すなわち、基準を段階的に導入するのがよいのか、一斉に導入するのがよいのか、あるいは早期適用を認めるのかどうか)議論する予定である。
金融危機により、金融商品、公正価値測定、連結及び認識の中止に関心が集まっている。IASB及びFASBは、金融安定化理事会及びG20によって、プロジェクトを加速化することが奨励されている。
2009年11月、予想損失モデルに関する公開草案が8か月のコメント期間で公表されている。IASBは、発生損失モデル及び予想損失モデルを運用可能にする方法を議論するため、専門家グループを設置した。システム変更が必要となるため、早期施行は見込まれていない。
FASBは、分類と測定に関する文書を公表する計画である。共同会議の結果、2つの異なる分類モデルの下で共通のヘッジ・モデルにたどり着くのは困難であることが明らかとなったため、現在我々は、共通の規準の開発を試みている。
2009年11月にIFRS第9号を公表した後、関係者から多くのコメント・レターが寄せられているが、IASBはIFRS第9号に関して完全なデュー・プロセスを踏んでおり、その時点で最善の決定を行っている。基準公表から2年後に、基準を再評価するための施行後レビューを行うことが定められており、その時点で改善を図ることができる。IASBは、FASB版の公開草案を公表するが、IFRS第9号を変更することは予定されていない。
サイクル全体にわたる引当(through-cycle provision)の考え方に関して、IASBと健全性監督機関との間で議論が行われているが、これは我々が知る財務報告の一部ではない。しかし懸念は、健全性監督の課題がIASBによって取り扱われないということである。提案としてあり得るのは、規制上の利益に関する別個の計算書を開示し、純利益や包括利益に影響を与えないようにすることである。
IASBのリエゾン国会議として始まったNSS会議は、2005年9月にその役割を世界会計基準設定主体者会議(WSS)に譲り、その後は各会計基準設定主体が行っている研究プロジェクトなどを議論する場となった。NSS会議は、毎年春(3月又は4月)と秋(9月)の2回開催され、公式の会議報告がIASB議長に提出される。次回の会議は2010年4月に韓国で開催される予定である。
NSS会議の主な役割は、IASBの支援、意見交換、時事問題の議論及び作業計画などの長期的な課題の検討などである。2009年9月に開催された会議での主な関心は、IAS第39号改訂のスピードとIASBのアジェンダの緊迫度であった。また、概念フレームワーク・プロジェクト及び開示フレームワーク・プロジェクトに対する支持もあった。
EFRAGは、欧州委員会に対して会計基準承認のための助言(endorsement advice)を提供するという役割を担っている独立の団体である。その最も重要な役割は、IASB及びIFRICに対してプロアクティブに情報を提供することである。EFRAGの最も重要なアウトプットは、そのコメント・レター案である。EFRAGは、関係者の意見形成に資するため、IASBの公表物に対するコメント・レター案をウェブサイトに掲載する唯一の組織である。
EFRAGのメンバーは、EFRAGによって作成された文書が世界中で読まれていることを承知しており、文書の公表によって、関係者が重要な論点に関する理解を深めることに役立っていると考えている。
米国SECは、2010年2月24日に公開会議を開催し、高品質でグローバルな一組の会計基準に対する支持及びIFRSを米国発行者の報告システムに組み入れることに関する継続的な検討について議論する予定である(*6)。
(参考)
日本経団連企業会計部会、企業会計基準委員会、日本公認会計士協会「インド・シンガポールミッション報告」(2010年3月)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2010/015.pdf
2009年11月の諮問会議において、XBRLに対するメンバーの関心が高かったことから、IASBのディレクターにより、タクソノミー開発の進展状況やXBRLに関する基本的な論点が紹介された。
現在は、主要財務諸表間での比較可能性はあるが、XBRLによって情報をとらえることができるようになれば、注記においてもより比較可能性が高まる可能性がある。時が経つにつれ、より詳細な情報が注記で捉えられるようになると考えられている。
XBRLが非常に複雑となり得ることから、ユーザビリティに関する懸念があるが、より細かい情報が得られることの便益にはそれだけの価値がある。IASBがXBRLに関与することによって、XBRLが開示要件のように解釈されるリスクがあるということを認識しなければならない。
諮問会議メンバーは、XBRLの利点について支持を表明したものの、監査の観点からの懸念があるとコメントした。
このトピックは、2010年4月14日及び15日に韓国(ソウル)で開催されるNSS会議におけるアジェンダに挙げられている。NSS会議で本トピックのプレゼンテーションを行う英国会計基準審議会のDavid Loweth氏による説明が行われた。
2011年以後のIASBのアジェンダについて、4つのグループに分かれて議論が行われた。いずれのグループにも共通した見解は、次のとおりである。
各グループにおけるコンセンサスは次のとおりである。
将来において、IASBに対する利用者からのインプットの重要性が強調された。現在は会計アナリストが基準設定プロセスに関与しているが、利用者の包括的な見解を得るためには、より多くのバイサイド及びセルサイドのアナリストの関与が必要である。また、IASB議長の独立性も必須であると考える。資金調達はIASBにとって常に問題となるが、基準のライセンス化や基準の利用に対して課金することなどが考えられる。会計基準と監査の基準は、一体性を確保するために一緒に検討されるべきではないか。2011年以後、鎮静期間を設けることに賛成であり、その間にIASBは、初度適用者、新興経済国及び金融危機において明らかになった課題に集中すべきである。また、概念フレームワークの優先度を高めるべきである。基準の適用の質が非常に重要になると考えており、国際的に一貫性のある適用を確実にすべきである。IASBは適用のフレームワーク開発を検討してもよいのではないか。
引き続き高品質な一組の会計基準に向けた努力を促し、2011年以後のアジェンダに関しては鎮静期間を提案する。この鎮静期間において、施行後レビューを行い、関係者との議論を通してIFRSの品質に関するフィードバックを得るべきである。また、この鎮静期間において、IASBは新たなプロジェクトをアジェンダに追加するプロセスを見直すべきである。戦略的に、IASBを強固なブランドにするため、IASBは強固な原則ベースの基準発行、概念フレームワークの完成及び開示フレームワーク・プロジェクトの追加に集中すべきである。また、新たな展開や追加の支援が必要な分野を発見するために、ギャップ分析を行うことも提案する。XBRLの開発及び利用によって、企業間及び国家間の整合性は強制されることになるが、基準における定義が問われることになり、適用に関するチェックともなるだろう。2011年以後にIASBが成功するには、市場の状況に対応することが必要であり、予算、人員及び資源を注意深く管理する必要がある。ひとつの方法は、基準開発の完了日が重ならないように調整し、プロジェクト選定のプロセスを見直すことである。
ブランドは活動の成果であり、それ自体が目的でもある。IASBは自身を企業のように考え、そのように運営すべきである。IASBは、中小企業向けIFRSと完全版IFRSとの間の関係を慎重に取り扱う必要がある――中小企業向けに関係者の関心が集中し、完全版IFRSに対する勢いが弱まるリスクもあり得る。IASBは、基準の意思決定有用性に引き続き注意を払うべきである。また、プロジェクト選定の過程を評価し、利害関係者の関与を求めるべきである。一貫性のある基準の解釈及び適用に関心がある。2011年以後、鎮静期間を設け、その間に基準の適用及び教育支援に集中すべきである。これはまた、適用の問題におけるIFRICの役割を拡大することにもなる。影響分析あるいは施行後レビューを行う場合、IASBは、適用の一貫性には文化的な側面が重要であることに留意する必要がある。IFRSは包括的な見方がされるべきと感じている。そのためには、基準における隙間を見つけるのと同様、概念フレームワーク及び開示フレームワークを開発し完成させることを支持する。発見された隙間については、各国の基準設定主体と連携しながら対処できる。これは、特定の地域におけるニーズ及び適用上の問題を発見するために他の基準設定主体との共同作業を主導するというより幅広い文脈で行われるべきである。IASBが一組のグローバルな基準という目標に到達するためには、関係者の最新のニーズに対応し、原則ベースの基準開発に努めることが絶対条件である。
2011年以後には鎮静期間を置き、新たな基準公表のペースを落とすべきである。新規プロジェクトは、2011年以後に到来する調整期間を考慮する必要があり、実務上の適用を常に検討しなければならない。基準適用の一貫性のため、原則ベースの会計基準という目標を達成するための手段として、施行後レビューを支持する。IFRSは包括的かつ完全であるべきであり、IASBは基準間の整合性も確保すべきである。概念フレームワーク及び開示フレームワークの開発を支持する。しかしながら、概念フレームワークの優先順位は高まっており、より多くのリソースが当該プロジェクトに投入されるべきである。開示フレームワークは、開示の質的特徴を開発すべきであり、IFRSにおける現行の開示の定めをレビューすべきである。IASBはまた、新規プロジェクトの追加及び現行プロジェクトのレビューに関する定款上のプロセスを見直すことを提案する。ブランディングに関して、IASBは他の利害関係者と一緒に将来を検討すべきである。
以上