ASBJ 企業会計基準委員会

2008年 世界会計基準設定主体(WSS)会議報告

Ⅰ.はじめに

国際会計基準審議会(IASB)は、2002年11月から、広く世界各国の会計基準設定主体とIASBとの意見交換のための「世界会計基準設定主体(WSS)会議」(World Standard Setters Meeting)が開催されている。今回のWSS会議は、2008年9月11日及び12日に、英国ロンドンにおいて開催され、日本からは、企業会計基準委員会(ASBJ)の西川郁生委員長、秋葉主席研究員、豊田主任研究員が出席した。なお、遠藤FASF常務理事及び新井ASBJ委員も一部のセッションを傍聴した。以下会議の概要を紹介する。

Ⅱ.WSS会議

1.概要

今回のWSS会議には、50数カ国から100名近くが集まり、2日間にわたって以下の議題にて行われた。

日時 議題の内容
9月11日 Tweedie議長のスピーチ
連結
  • テクニカル・アップデート(IASB)
  • 小グループに分かれての議論
  • 小グループからのフィードバック
IFRSの適用
  • IFRSの利用(IASB)
  • IFRSのコンテンツの配布方法(IASCF)
  • 米国の動向のアップデート(FASB)
  • IFRSに関するオーストラリアの経験
  • 各国からのコメント(インド、マレーシア、韓国、カナダ、東・中央・南アフリカ会計士連盟(ECSAFA)、イスラエル、日本、チリ)
IFRIC及び年次改善のアップデート
9月12日 IASBの今後の計画及び優先事項(IASB)
プライベート企業向けIFRS(案)の適用-南アフリカの経験
プライベート企業向けIFRSに関するテクニカル・アップデート(IASB)及び質疑応答
IFRSに関するテクニカル・アップデート(IASB)及び質疑応答
小グループに分かれての議論
  • 負債と資本の区分
  • 金融商品の財務報告における複雑性の低減
  • 財務諸表の表示
  • 収益認識

2.連結

 IASBスタッフから、連結プロジェクトで検討中のIAS第27号「連結及び個別財務諸表」及びSIC第12号「連結-特別目的事業体」を置き換える公開草案のスタッフ・ドラフトの内容について以下のような説明があった。その後、小グループに分かれての議論及びフィードバックが行われた。

  • 目的はストラクチャード・ファイナンス、インベストメント・ビークルを包含する一体的な支配ベースのモデルであり、IAS第27号「連結及び個別財務諸表」及びSIC第12号「連結-特別目的事業体」を置き換える。
  • IAS第27号及びSIC第12号は、根本的にはだめになっていないが、整合的に適用されていないという懸念がある。IAS第27号の支配モデルに対し、SIC第12号はリスク経済価値が強調されている。
  • サブプライム問題との関連では、タイミング、レピュテーションリスク、開示といった項目に焦点が当てられている。
  • 支配している企業を連結する。支配していないが「重要な関与」をしている企業については、重要な関与の性質及びリスクを開示する。
  • 支配の定義案は、「それらからの便益を受けるために、当該企業の個別の資産及び負債を利用又は管理することが可能な十分なパワーを現在保有している。」である。
  • 年内に公開草案の公表を予定している。

3. IFRSの適用

(1) IFRSの利用(IASB)及びIFRSのコンテンツの配布方法(IASCF)

 IASBスタッフから、理想としてはIFRSの利用(Use of IFRSs)は、すべての基準及びすべての解釈指針を採用することであるが、理想から変化してしまう要因として、地域での承認、IFRSを各国の基準として採用すること(法律として採用される場合もある。監査報告書上、各国基準として記載される。)、IFRSを修正して採用するといった点が挙げられた。また、各国によりIFRSを適用する企業、財務諸表(連結、単体)、強制か任意かにもバリエーションがあり、IFRSの翻訳、税務上の所得との関係、法律上の障壁、能力といった問題についても、事前に各国基準設定主体送付したアンケートの回答をもとに説明があった。

これに関連して、国際会計基準委員会財団(IASCF)のスタッフからは、コンテンツの配布方法として、採用(adoption)、翻訳、著作権、ライセンス及び販売に関するIASCFとしての方針についての説明があった。

(2) 米国の動向のアップデート

米国財務会計審議会(FASB)のHerz議長より、コンバージェンス及び米国でのIFRSの採用の動き、財務報告の改善に関する米国SECのアドバイザリー委員会(Pozen委員会)の報告書、信用危機の問題についての説明がなされた。

コンバージェンス及び米国でのIFRSの採用の動きでは、2007年11月にSECが、完全版IFRSを採用する外国企業に調整表なしでの登録を認め、2008年8月には、米国でのIFRSの採用に関するロードマップ案の提案を決定したこと(*1)、FASBではIASBとのMOUプロジェクトを継続することが説明された。

(3) IFRSに関するオーストラリアの経験

オーストラリアAASBのBoymal議長から、以下の説明がなされた。

  • 2002年にIFRS採用の決定を行い、2005年1月1日以降開始事業年度よりIFRSを初度適用した。
  • 会計基準は法律の一部であり、AASBは法律を策定する政府機関である。
  • IFRSのブランドに関連して、明示的かつ無条件のIFRSへの準拠を示すため、IFRSとオーストラリア基準のDual Reportingを採用している。
  • 初度適用は、教育の成果もありスムーズにいったが、開示は非常に増加し、銀行についてはIAS第39号についてコストがかかった。調和は採用とは異なる。
  • IASBとの協調として、すべてのIASBの公開草案を公表し、必要に応じ円卓会議を経て、すべての公開草案に回答している。スタッフについても利用できるようにし、予備的なリサーチを行っている。また、ニュージーランドとも共同で作業を行っている。
(4) 各国からのコメント

インド、マレーシア、韓国、カナダ、東・中央・南アフリカ会計士連盟(ECSAFA)、イスラエル、日本、チリの8つの設定主体からIFRSの適用等に関するコメントを行った。

西川ASBJ委員長からは、以下のコメントを行った。

  • これまで欧州の同等性評価対応もあり、IFRSとのコンバージェンスを最優先に取り組んできた。
  • 9月19日にプロジェクト計画表の更新版を公表し、IASBとFASBの覚書(MOU)に記載されているプロジェクトについて積極的に取り組む。
  • IFRSの採用に関して、米国SECのリリースの日本での反響は非常に大きい。私見では、米国SEC登録の日本企業にIFRSの適用を先行して認めるべきではないかと考える。
  • 日本は、1組の高品質な会計基準へのコンバージェンスという究極の目標を世界と共有している。

4. IFRIC及び年次改善のアップデート

 IASBスタッフからの、IFRICのプロセス、最近の活動状況、年次改善プロジェクトについて説明の後に、参加者との質疑応答が行われた。
 IFRICのプロセスでは、IFRICデュープロセス・ハンドブック、議題の設定、関係者とのコミュニケーション、適用に関する質問の解決(IFRICの議題としないことを説明、IFRICの解釈指針、既存の基準の改訂、IASBプロジェクトに含まれる、のいずれかの結果となる)が説明された。
 最近の活動状況では、IFRIC第15号「不動産の建設に関する契約」IFRIC第16号「在外営業活動体に対する純投資のヘッジ」IFRS第2号「株式報酬」及びIFRIC第11号「グループ及び自己株式取引」改訂公開草案「グループ企業による現金決済型の株式報酬取引」IFRIC公開草案D23号「非現金資産の株主への分配」IFRIC公開草案D24号「顧客負担」等についての説明がなされた。
 年次改善プロジェクトでは、目的、プロセス、8月に公表された公開草案の内容が説明された。

5. IASBの今後の計画及び優先事項

IASBから、8月14日に公表された作業計画について、新基準及び主要プロジェクトを中心に説明があり、参加者との質疑応答が行われた。

6. プライベート企業向けIFRS(案)の適用-南アフリカの経験

南アフリカ勅許会計士協会のスタッフから、2007年2月に公表された中小企業(SME)向けIFRS公開草案が、南アフリカ会計基準及びIFRSとともに、2007年8月から南アフリカでは中小企業に対する会計基準として適用することが認められたこと、南アフリカ勅許会計士協会の適用にあたっての計画、実務上の適用の問題点、個別の論点、2008年8月に行われた中小企業に対するサーベイが説明された。

個別の論点では、公正価値、企業結合、のれん、無形資産、リース、有形固定資産、繰延税金、連結財務諸表、開示の負担に関する作成者からのコメントが紹介された。

7. プライベート企業向けIFRSに関するテクニカル・アップデート及び質疑応答

IASBより、プライベート企業向けIFRSを開発する意義、 2007年2月の公開草案の公表後現在までの再検討の概要、フィールドテストの結果、及び年内に最終基準を公表する予定であること、「3.IFRSの利用」で用いられたアンケートのプライベート企業に関する回答の概要が説明された後、参加者との質疑応答が行われた。

再検討の概要としては、中小企業からプライベート企業向けIFRSに名称を変更した点、完全版IFRSへの参照をやめ単独の文書とする点、想定する企業の規模及び範囲、個別項目として、法人所得税、連結、のれん及び無形資産の償却、公正価値、年金、株式報酬、減損、リース、政府補助金、負債と資本の区分、さらなる開示の簡素化について説明があった。

8. IFRSに関するテクニカル・アップデート及び質疑応答

IASBより、IASBが進めているプロジェクトの概要が紹介された。説明がなされたプロジェクトは、概念フレームワーク、財務諸表の表示、リース、退職後給付、保険契約、排出権取引、金融商品(現行基準の置換え、認識の中止、資本の特徴を有する金融商品(負債と資本の区分))、収益認識、負債(IAS第37号改訂)、公正価値測定、共通支配下取引、ジョイント・アレンジメント、法人所得税、採掘産業、経営者による説明であった。説明ののち、参加者との質疑応答が行われた。

9. 小グループに分かれての議論

以下の4つのテーマに関して、午前と午後の2回(金融商品の財務報告における複雑性の低減については午前の1回のみ)、小グループに分かれて議論が行われた。

(1) 負債と資本の区分

ディスカッション・ペーパー「資本の特徴を有する金融商品*2)についてIASBとFASBのボードメンバーから説明があり、議論が行われた。

(2) 金融商品の財務報告における複雑性の低減

ディスカッション・ペーパー「金融商品の財務報告における複雑性の低減」*3)についてIASBのボードメンバーから説明があり、議論が行われた。

(3) 財務諸表の表示

公表予定のディスカッション・ペーパー(*4)の内容について、一体性原則、財務諸表の構造、直接法によるキャッシュ・フロー計算書、調整表といった項目について、IASBのボードメンバー及びスタッフから説明があり、議論が行われた。

(4)収益認識

公表予定のディスカッション・ペーパーの内容について、資産・負債モデル、アンバンドリング、認識規準としての履行義務の充足、履行義務の測定(顧客対価額モデル)、複数要素取引、履行義務の再測定といった項目について、IASBのボードメンバー及びスタッフから説明があり、議論が行われた。

以上


  1. 11月14日に、SECから正式にロードマップ案が公表された
  2. 当該ディスカッション・ペーパーに対するASBJのコメントは、ASBJウェブサイト「国際対応 > IASB及びFASBに対する委員会のコメント」を参照いただきたい。
  3. 当該ディスカッション・ペーパーに対するASBJのコメントは、ASBJウェブサイト「国際対応 > IASB及びFASBに対する委員会のコメント」を参照いただきたい。
  4. 10月16日にディスカッション・ペーパー「財務諸表の表示に関する予備的見解」が公表された。