ASBJ 企業会計基準委員会

2019年上期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、各法域の会計基準設定主体及び会計基準に関連する諸問題に対する関心の高いその他の組織による非公式のネットワークである。2016年秋から、ドイツの会計基準設定主体の元委員長であるクノール氏がIFASSの議長を務めている。IFASS会議は、毎年、春と秋の2回開催されており、今回は2019年3月28日及び29日の2日間、アルゼンチンのブエノスアイレス市内の会場で開催され、各法域の会計基準設定主体(約25 団体)からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループの代表者など約45名が参加した。国際会計基準審議会(IASB)からはスー・ロイド副議長ほかが参加した。

企業会計基準委員会(ASBJ)からは、小賀坂副委員長(2019年4月1日から委員長)及び川西副委員長(今回のIFASS会議の終了時よりIFASS議長)が出席した。

Ⅱ 今回の会議の概要

No 議題 担当
2019年3月28日
開会の挨拶 IFASS議長
1 非互恵的な移転 EFRAG
2 変動対価及び偶発対価 英国
3 非営利ワーキング・グループのテクニカル・アドバイザリー・グ
ループに関しての提案
非営利ワーキング・グループ
4 金融費用の表示─IAS第1号「財務諸表の表示」、IFRS第7号「金融商品:開示」、IAS第23号「借入コスト」 インド
5 業績測定報告に関してのフレームワーク カナダ
6 財務諸表における気候関連及びその他新出リスクと実務記述書第2号における重要性の影響 オーストラリア
7 (任意のセッション)インラインXBRLとブロックチェーン 台湾
8 (任意のセッション)中小企業向けIFRS:基準レビュー、子会社に対する免除 IASB
2019年3月29日
9 IFRS第17号「保険契約」パート1
検討中の修正事項に係るIASBの暫定的見解
IASB
10 IFRS第17号「保険契約」パート2
導入活動、考察及び経験
フランス
11 電子形式による財務報告 ドイツ
12 企業による公開報告についてのEUフレームワークに係るフィットネス・チェック:コンサルテーションの結果 オランダ
13 資本の特徴を有する金融商品:望ましいアプローチとIFRIC第2
号「協同組合に対する組合員の持分及び類似の金融商品」
ドイツ
14 IAS第36号「資産の減損」における減損テストモデルの改善 オーストラリア
閉会の挨拶 IFASS議長

1.非互恵的な移転

本セッションでは、EFRAGの代表者より、EFRAGが2018年11月に公表したディスカッション・ペーパー(以下「DP」という。)で取り上げた、交換において企業が同等の価値を受領(又は付与)することなく、価値を付与(又は受領)する取引である、非互恵的な移転についての論点が紹介された。当該非互恵的な移転については、IFRS基準にガイダンスが欠如していることについての懸念が強調され、DPにおいて、当該非互恵的な移転についての包括的な会計モデルを提案し、また、社会的便益への着目が、損益を一定期間にわたり認識することを正当化し得ることが説明された。本セッションは、グループ・ディスカッションの形式で実施された。

DPにおいて検討された取引の会計処理は、注目すべきものもあるとの意見や提案されている包括的なモデルは実務上の解決法を提供し得るとの意見も聞かれた。しかしながら、提案された非互恵的な移転の定義が明確でないことから、広い範囲の取引に適用される可能性を懸念するとの意見が聞かれるなど、多くのIFASS参加者は、包括的な会計モデルの有用性については、疑問があるとの意見を述べた。また、社会的便益への着目が、損益を一定期間にわたり認識することの概念的な基礎を提供することについて懸念があるとの意見も聞かれた。

    2.変動対価及び偶発対価

    本セッションでは、英国財務報告評議会(FRC)の代表者より、購入者が取引に要求される固定金額の他に、将来の事象に依存して変動する金額の追加対価を支払う又は支払う可能性を約束する変動及び偶発対価を含む取引について最善の財務報告を行うための原則を検討することを目的として、FRCの変動対価及び偶発対価に関するリサーチ・プロジェクトが紹介された。当該論点について様々な見解があること及びその背景を理解するため、グループ・ディスカッションの形式で下記を含むいくつかの例について議論された。

    出版社が作家との間で、作家の小説の独占出版権についての契約を締結した結果、出版社は直ちに固定額を支払う必要があり、また、特定の部数以上販売した場合には、当該超過部分について、追加の支払いが要求される例について議論された。当初認識される金額について、偶発対価を除く部分の金額で認識すべきであるとの意見や、交換された項目の公正価値を示す支払いが予想される金額の合計で認識すべきであるとの意見が聞かれた。また、認識した資産の償却をどのように行うべきかという論点も識別された。さらに、事後測定による負債の金額の変動を資産の金額の変動として認識するか、変動が認識される期間の収益又は費用として認識するかについても意見が分かれた。

    他の例として、採掘会社が、特定の鉱物を生産する鉱山のみが重要な資産である会社を取得する契約を締結し、契約時に固定額を支払い、取得後12か月間の生産量に応じて、追加の支払いが要求される場合について議論された。採掘会社は、固定額の支払いと将来の利益に関連した追加支払いに係る2つの資産又は負債を取得する取引であると考え、負債の認識は採掘会社にとって、実務上不可避かどうかにより判断され、採掘会社にとって、実務上不可避と判断される場合に負債を認識する必要があり、事後測定における負債の変動分については、採掘の状況を反映して償却する必要があるとの意見が聞かれた。一方で、これは単一の資産又は負債を取得する取引であり、事後測定による負債の変動は、費用として処理すべきであるとの意見が聞かれた。

    3.IAS第36号「資産の減損」における減損テストモデルの改善

    本セッションでは、オーストラリア会計基準審議会(Australian Accounting Standards Board;AASB)の代表者より、AASBのリサーチ・レポートである「IAS第36号に対する視点:基準設定活動の提案(Perspectives on IAS36 : A Case for Standard Setting Activity)」が説明され、主に、IASBの「のれん及び減損」プロジェクトで現在識別されている的を絞った改善よりも、さらに広い範囲でIAS第36号を改善することの是非について議論がなされた。

    全般的に、IFASSメンバーは、IAS第36号の包括的な見直しよりも的を絞った改善を支持した。IAS第36号の的を絞った改善項目で一定の支持を得た主な項目は、以下のとおりである。

    ①将来のリストラクチャリング及び資産の拡張に関する使用価値(VIU)の既存の制限を除去し、減損テストモデルにおいてこの       ようなキャッシュ・フローを含めることが合理的である場合に関するガイダンスとの置き換え

    ②減損モデルにおける処分コスト控除後の公正価値(FVLCD)の使用について、将来の財務報告期間内に処分されることが予想さ     れる資産に関するものとして維持(その他の複数のIFASSメンバーは、現在の要求事項を維持することを支持)

    ③税引後割引率の使用を許容

    ④キャッシュ・フロー・モデルにおいて市場に基づいた仮定(コモディティ価格や外国為替レートのフォワード・カーブ等)の使     用を明確に許容

    企業の業績が評価される方法、及び内部的に意思決定がされる方法との関係を強固にするように、何が資金生成単位(CGU)又はCGUグループを構成するかについてガイダンスの見直しの是非については、シールディング(のれんの減損回避)を避けるために実行可能な範囲で最小の単位とするとの意見や現在のガイダンスは適当である等の意見が聞かれた。

    4.財務諸表における気候関連及びその他の新出リスクと実務記述書第2号における重要性の影響

    本セッションでは、オーストラリアにおける気候関連リスクに係る情報についての投資家の要望が高まっていることから、AASBの代表者より、AASBとオーストラリア監査保証審議会(Auditing and Assurance Standards Board;AUASB)とで共同して公表した、気候関連及びその他の新出リスクに関する情報を財務諸表上において開示する際の、IFRS実務記述書第2号「重要性の判断の行使」の適用方法が紹介され、IFASS参加者の見解が共有された。

    オーストラリアのように気候関連リスクに係る情報の投資家のニーズの高まりが把握されている法域は、他のIFASSメンバーにおいて、多くないことが観察され、いくつかの法域の年次財務諸表において、気候関連リスクを開示している場合はあっても、経営者による説明等、非財務情報に含まれているとの意見が聞かれた。企業に重要な影響をもたらす気候変動リスクとは合理的に予想し得ない情報まで、開示を要求することについて懸念があるとの意見や当該情報を非財務情報として報告することを支持するとの意見が聞かれた。しかしながら、IFASSメンバーは、気候関連リスクが企業に与える影響や当該影響が重要かどうかをどのように判断するかを検討する必要性を共有していた。

      5.職務の引継ぎ

      IFASS議長のクノール氏は今回のIFASS会議の終了をもって、任期満了となる。次期IFASS議長の川西氏は、2020年3月又は4月のIFASS会議が、米国財務会計基準審議会(FASB)のホストによりワシントンにおいて開催される予定であることを説明し、今後のIFASS会議のために、IFASS参加者に考えやアイデアを共有することを推奨した。

      Ⅲ.おわりに

      次回のIFASS会議は、2019年10月にロンドンでの開催が予定されている。