会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、各国会計基準設定主体及びその他の会計基準に関連する諸問題に対する関心の高い組織による非公式ネットワークであり、元カナダ会計基準設定主体の議長であり元国際会計基準審議会(IASBメンバーであるトリシア・オマリー氏が議長を務めている。毎年、春秋の2回、会合が開催され、今回の参加者は、英国、ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、オーストリア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、スペイン、スイス、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、日本、韓国、香港、シンガポール、マレーシア、インド、インドネシア、ネパール、パキスタン、レバノン、イエメン、米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、スーダン、南アフリカの各基準設定主体等からの代表者に加えて欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)からの代表者及びその他の地域グ
ループの代表者、国際公会計基準審議会(IPSASB)からの代表者など総勢65名であった。IASBからはメアリー・トーカー理事、アラン・テシイラシニア・ディレクター他が参加した。
企業会計基準委員会(ASBJ)からは、関口常勤委員と紙谷ディレクターの2名が出席した。
No | 議題 | 担当 |
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2013年9月19日 | ||
1 | IASBワークプラン及びIFRS財団の最近の状況について | |
⑴プロジェクトの状況に関する議論 | IASB、カナダ | |
⑵IFRSの修正、解釈及び適用ガイダンスに関する課題 | ドイツ、IFASS議長 | |
2 | 時事的な問題 | |
⑴料金規制事業韓国 | 韓国 | |
⑵IFRS第11号「ジョイント・アレンジメント」適用上 の課題 |
イタリア | |
⑶統合報告 | IASB | |
3 | 概念フレームワーク | |
⑴プロジェクトに関する議論 | フランス、ドイツ、イタリア、英国、EFRAG | |
⑵慎重性 | FASB | |
⑶測定セクションに関する考察 | オーストラリア | |
4 | ベスト・プラクティス・ステートメントの最終化 | IASB、オーストラリア |
5 | 今後の計画 | IFASS議長 |
2013年9月20日 | ||
6 | IFRS第3号「企業結合」の適用後レビュー | IASB |
7 | メンバーによるプロジェクトの報告 | |
⑴財務報告における「事業モデル」の役割 | EFRAG、フランス、英国 | |
8 | IASBによる主要なアジェンダに関する近況報告 | IASB |
⑴リース | ||
⑵金融商品(減損及びヘッジ) | ||
⑶保険 | ||
9 | 地域グループからの報告 ⑴アジア・オセアニア基準設定主体グループ(AOSSG)
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各地域グループ |
10 | 時事的な問題 | |
⑴部分所有の連結子会社に関する開示 | オランダ、ユーメディオン社 | |
⑵割引率 | ドイツ | |
⑶損益計算書における例外項目の表示 | インド | |
11 | 前回会議の評価等 | IFASS議長 |
IASBのシニア・ディレクターから、IFRS財団のトラスティーの戦略及びガバナンス、IASBの作業計画について説明がなされた。
IASBの作業計画に関しては、収益認識、リース、保険、金融商品(ヘッジ会計、分類及び測定、減損)、料金規制事業、IFRS for SMEs、概念フレームワークなどの各プロジェクトの状況が説明された。
収益認識プロジェクトについてはリソース・グループが発足することが説明されたが、それに対してオーストラリアの代表者からは過去の金融商品プロジェクトにおける経験からの懸念が示された。
このセッションでは、まずドイツの会計基準設定主体(DRSC)からIFRSの修正に関する最近の状況について説明があった。DRSCの代表者は、IFRS解釈指針委員会の活動に関連し、非常に多くの細かい項目を取り扱っているが、アジェンダに取り上げることを却下する場合も多く、また、IASBに議論を移すことにより時間がかかっていると指摘した。
IFASS議長は、IFRS解釈指針委員会の有効性やアウトリーチのあり方、MOUによるコンバージェンスした基準の解釈のあり方などについて、IFASSメンバーの意見を求めた。
多くの参加者から、地域固有の課題に対して十分な対応が取られていないとの意見が示された。
韓国会計基準委員会(KASB)のスタッフは、料金規制資産の認識に関する調査を行っており、その説明を行った。
料金規制資産については、概念フレームワークの資産の定義を満たすかが問題とされてきた。現行の概念フレームワークは資産の定義を「過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう」としている。KASBスタッフは、この定義を分析した上で、料金規制資産の認識について以下の3つの見解があるとしている。
見解 | 観点 | 説明 |
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見解1 | コスト発生の観点 | ・企業は資源を支配しておらず、顧客を支配していない。 ・資産を認識する過去の事象は発生していない。 ・企業は、将来、顧客に料金レートを賦課する権利を有していない。 ・したがって、1年目に規制勘定は認識できない。 |
見解2 | コスト繰延べの観点 | ・過去の事象は、料金規制下でコストが発生したことである。 ・これにより、コストを回収する権利又は収益を得る権利が発生する。 |
見解3 | 収益認識の観点 | ・過去の事象は、1年目に販売したことである。 ・これにより、コストを回収する権利又は収益を得る権利が発生する。 |
KASBスタッフは、異なる種類の料金規制スキームが存在することから、目的適合性と忠実な表現の観点から、複数の認識モデルが必要であると結論付けている。
イタリアの会計基準設定主体(OIC)は、IFRS 第11号「ジョイント・アレンジメント」に関する適用上の課題を説明した。
IFRS第11号は、2013年1月1日以後開始する事業年度から適用されているが、実際に適用が開始されてからいくつかの課題が生じてきている。OICは、以下の3点を指摘している。
①共同事業の財務諸表
IFRS第11号は、共同支配事業者の財務諸表に認識すべき項目については明示しているが、共同支配事業の財務諸表については規定していない。ここで共同支配事業者の財務諸表に認識される資産又は負債については、共同支配事業の財務諸表において認識の中止を行うべきかという疑問が生じている。
②共同支配事業が保有している子会社投資の測定
この課題は、共同支配事業が子会社投資を保有している場合において、共同支配事業者の個別財務諸表で共同支配事業をどのように会計処理すべきかというものである。具体的には、⑴自らの子会社投資を認識するのか、⑵自らの子会社の資産、負債、収益及び費用を認識するのかのいずれとすべきかが不明確である。
③初度適用に関する課題
初度適用企業は、完全遡及を求められておらず、それまで比例連結していた資産及び負債の差額を持分法のみなし原価として測定しなければならない。しかし、比例連結していた資産がIFRS第11号への移行前に減損処理していた場合、減損の戻入れをIFRS第11号移行後に認識できるかが不明確である。
IASBのシニア・ディレクターから国際統合報告評議会(IIRC)の発足の経緯や構成について説明がなされた後、統合報告に関する議論が行われた。
IIRCの提唱する統合報告は、企業が、投資家を中心とするステークホルダーに対し、経営戦略、ガバナンス、業績及び見通しに関する情報を統合的に報告するものである。統合報告における基本原則及び開示要素は以下のように示されている。
基本原則 | 開示要素 |
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・戦略的焦点 ・情報の結合性 ・将来志向 ・反応性、ステークホルダーの包含性 ・簡潔性、信頼性、重要性 |
・組織概要とビジネスモデル ・経営コンテクスト(リスクと機会を含む) ・戦略目標と目標達成のための戦略 ・ガバナンスと報酬 ・業績 ・将来見通し |
統合報告は、環境報告書ではなく、また社会責任の報告書でもない。統合報告は環境に関する持続可能性から、企業のビジネスモデルの持続可能性及び投資家へのフォーカスに移ってきている。
統合報告がターゲットとしている利用者は、財務諸表の利用者と同質であり、財務諸表は常に統合報告の柱である。
IFRSと統合報告の関係としては、経営者による説明(management commentary)が挙げられる。IASBは2010年12月にIFRS実務ステートメント「経営者による説明」を公表している。この実務ステートメントにおいて、経営者による説明は、関連する財務諸表の文脈を含め、統合された情報を財務諸表利用者に提供しなければならないとしている。
IASBにおける概念フレームワークに関する審議の開始に伴い、EFRAG及びフランス、ドイツ、イタリア、英国の会計基準設定主体が共同で、欧州における概念フレームワークへの議論を喚起すると共に、IASBの概念フレームワークに欧州の関係者の意見を反映することを目的に「より良いフレームワークに向けて(Getting a Better Framework)」と銘打ったプロジェクトに取り組んでいる。
本IFASS会議では、これまでに公表された以下のBulletinについて説明がなされた。
①慎重性(Prudence)
慎重性については、概念としては広く知れ渡っているが、すべての人が同じ程度の「警戒(caution)」をしているわけではないため、様々な見解が生じている。これらの様々な見解は、概念フレームワークの改訂作業において、認識、測定、表示、開示に関する決定を行う上で役に立つものであり、慎重性の役割について明示的に検討すべきであるとしている。
②財務情報の信頼性(Reliability of Financial Information)
「信頼性」は、2010年の概念フレーム改訂によって「忠実な表現」に置き換えられたが、そのことにより何も変わっていないのか、失われたものがあるかについて議論されている。Bulletinは、2010年の概念フレーム改訂によって変化が生じており、いまや信頼性は開示の問題とされているが、目的適合性と同等に重要なものであるため開示では補えず、基本的な質的特性として戻すべきとしている。
③不確実性(Uncertainty)
ここでは、認識規準に蓋然性規準が必要か論じている。不確実性は測定の問題であるという見解と不確実性は測定だけの問題ではないという2つの見解があるが、Bulletinでは結論に至っていない。
④概念フレームワークの役割(The Role of a Conceptual Framework)
ここでは、概念フレームワークがIASBに果たす役割、作成者に果たす役割、網羅性、概念フレームワークの変更がもたらす結果などについて論じている。概念フレームワークの変更がもたらす結果については、安定したプラットフォームの観点から現行のIFRS を早急に見直すことは望ましくないが、概念フレームワークの変更を各基準にいつどのように組み込むべきかについて適時に評価するプロセスが必要であり、その評価結果を文書化すべきであるとしている。
本IFASS会議から小グループに分かれて議論を行うブレークアウト・セッションが採用され、この慎重性に関する議論もブレークアウト・セッション方式により実施された。このセッションでは、米国財務会計基準審議会(FASB)から「慎重性」に関する問題提起がなされ、その後、2グループに分かれて議論を行い、その結果を発表する形で進められた。
参加したグループでは、まず慎重性は会計基準設定主体が適用するものか、作成者が適用するものか議論された。多くの参加者は、会計基準設定主体が慎重性を適用することを支持した。その上で、慎重性はすべての会計基準において適用すべきものであるか、基準によって適用すべきものか議論された。仮にすべての会計基準において適用すべきものであれば基本的な質的特性として位置付けるべきであり、基準によって適用すべきものであれば補強的な質的特性として位置付けるべきということが話し合われ、多くの参加者は後者を支持した。
豪州会計基準委員会(AASB)議長のKevin Stevensonは、概念フレームワークに関する議論に貢献する目的で、測定に関する見解を説明した。
測定の概念は、測定される経済事象を忠実に表現する最も目的適合的な情報を提供する測定基礎を識別しなければならないとしており、そのためには、意義のあるように加減され比較されなければならず、(個別的に、また集合的に)経済的な重要性が理解されなければならないとされている。そのように考えた場合、異なる測定基礎が測定値を加算しても意義のある合計値にはならない。
また、どの測定基礎を選んだかによって、特定の富の概念が示唆されるとしている。すなわち、①償却された歴史的な原価は「投資された資本の未消費相当」を意味し、②現在の出口価格は「売却により得られる現在の現金同等物」を意味し、③現在の出口価格は「事業上の能力」を意味すると説明された。
上記の考察を受けて、混合属性モデルではなく単一属性モデルを採用すべきであり、また、損益は企業の富の変化を示すべきと説明された。
単一属性モデルの採用については、参加者からは多くの支持を受けていなかった。
本IFASS会議では、IASBから「各国基準設定主体とIASB:グローバルな会計基準設定のための力の結集(National Standard-Setters and The IASB : Joining Forces For Global Accounting Standard-Setting)」の改訂案、IFASS議長からIFASS Charter案、AASBから「基準設定主体のモデル(A Model for National Standard-Setters)」の改訂案が示され、これに関する議論が行われた。
しかし、フランスの代表者から議論の進め方に関する抗議があったため、実質的な議論は進まず、今回提示された改訂案にフランスANCによるコメントを付したものをメールにて回付し、収集された意見とともに次回のIFASS会議で検討することとなった。
IFASS議長から今後の計画について説明があった。次回のIFASS会議は2014年3月にインドで開催されることが確認された。また、2014年秋のIFASS会議については、会議後の調整の結果、9月にロンドンで開催されることとされた。
IASBは、新たな会計基準又は会計基準の主要な改正を公表した場合、当該基準が国際的に適用されてから2年経過した後(基準公表から、約3年経過した後)、基準適用後のレビューを実施することとされている。
IASBは、IFRS第3号「企業結合」に関連する会計基準を2008年に改正しており、基準適用後レビューの定めに基づき、2013年7月より基準適用後のレビューを開始している。基準適用後のレビューは、次の2つの段階を踏んで実施することとされている。
⑴検討すべき事項に関する暫定的な識別及び評価を行うとともに、「情報の要請(Request for Information)」によって公開協 議を行う。
⑵「情報の要請」へのコメント等を踏まえ、発見事項と今後行う措置を検討する。
IASBは、2013年7月の会議において、IFRS第3号等に関する基準適用後のレビューについて、2008年の改正(第2フェーズ)で
対象とした分野に加え、2004年の改正(第1フェーズ)で対象とした分野についても適用後レビューの対象とすることが暫定的に決定されている。今回の会議では、検討すべき事項に関する暫定的な識別及び評価を行うことを目的として、IASBスタッフからプロジェクトの説明がされた後、意見交換が行われた。意見交換では、レビューにおいて特に焦点を当てるべき分野について参加者から様々な発言がされた。
IFRSでは、IFRS第9号「金融商品」等において、「事業モデル」の概念が使用されているが、この考え方について概念フレームワークレベルで整理がされていない。この点について、2013年6月にEFRAGからBulletin「より良いフレームワークを目指して─事業モデルの役割」(コメント期限:2013年9月30日)が公表されており、今回の会議ではEFRAG関係者からBulletinの内容について次のような説明がされた。
参加者からは、次のような見解が示された。
IASBによる主要なアジェンダに関して、小グループに分かれて議論を行うブレークアウト・セッションが採用され、リース、金融商品(減損及びヘッジ)、保険のプロジェクトについて議論がされた。
参加した金融商品のセッションでは、IASBスタッフから、信用減損プロジェクトに関連して直近のIASB会議における審議の模様や今後のプロジェクトの進め方について説明がされたほか、マクロヘッジ活動の会計に関するプロジェクトに関してIASBにおける主な検討事項について説明がされた上で、参加者との間で質疑応答が行われた。参加者からは、信用減損プロジェクトに関する直近の論点について質問がされたほか、マクロヘッジ活動の会計に関するプロジェクトについては、実務サイドからパイプライン取引の取扱いを含めて多くの疑問が示されている等のコメントがされた。
地域グループから、主に次のような説明がされた。
オランダに拠点を置くコーポレートガバナンスの促進をする等を目的とする団体であるEumedianから、持分の一部が所有されている連結子会社について全部連結をする方法は、財務諸表利用者が企業の価値、レバレッジ、流動性を評価する際に重要な不確実性をもたらすため、次のような措置を講じることが必要という提言がされた。
参加者からは、Eumedianの主張の趣旨について質問がされた他、一部の者から当該主張について理解する見解が示された。
IAS第19号「従業員給付」第83項では、退職後給付債務の割引に使用する率は、報告期日の末日時点の優良社債(high quality corporatebonds)の市場利回りを参照して決定しなければならないとされている。この点、実務では、多くの場合において外部格付けがAA以上であれば優良社債に該当するとされていたが、金融危機の影響等で、長期の満期を有する社債が少なくなってしまっている。このため、ドイツの会計基準設定主体(DRSC)から、優良社債をどのように識別すべきかについてIFRS解釈指針委員会に照会がされており、同委員会ではこれまで数回の議論が行われている。
今回の会議では、DRSCから、IFRS解釈指針委員会における議論の模様が紹介された上で、参加者の間で議論が行われた。参加者からは、次のような見解が示された。
IAS第1号「財務諸表の表示」では、「企業は、収益又は費用のいかなる項目も、異常項目として純損益及びその他の包括利益を表示する計算書又は注記のいずれにも表示してはならない。」(87項)とされている。しかし、IFRSを適用する会社の中には、一時的な項目について「例外的な(exceptional)項目」として除外した上で、「調整後の営業利益」等を表示する実務がある。
上記に関して、インドの会計基準設定主体(ICAI)から、インドでは会社法及び上場規則では「例外的な項目」を報告することが要求されているが、特段の定義がされていない旨が紹介された上で、「例外的な項目」を識別するために、IAS第1号において「調整後の営業利益」等を定義すべきではないかという問題提起がされた。これについて、参加者からは、次のような見解が示された。
IFASS会議運営の向上を目的として、前回会議において、参加者に対するアンケート調査が実施されており、当該評価結果が報告された。議長からは、アンケート調査結果を踏まえ、会議の日程調整のあり方、資料の提出期限等に関する提案がされ、参加者も概ねこれに同意した。