会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、各国会計基準設定主体およびその他の会計基準に関連する諸問題に対する関心の高い組織による非公式ネットワークであり、元カナダ会計基準審議会(AcSB)の議長であり元国際会計基準審議会(IASB)メンバーであるトリシア・オマリー氏が議長を務めている。毎年、春秋の2回、会合が開催され、今回の参加者は、英国、ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ノルウェー、スペイン、スイス、オーストラリア、ニュージーランド、中華人民共和国、台湾、日本、韓国、香港、シンガポール、インド、インドネシア、パキスタン、マレーシア、レバノン、米国、カナダ、メキシコ、シエラレオーネ、南アフリカ、シリアの各基準設定主体等からの代表者に加えてアラブ連盟の公認会計士協会、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)からの代表者およびその他の地域グループの代表者総勢68名であった。IFRS財団からはエグゼクティブ・ディレクターのヤエル・アルモグ氏、イアン・マッキントッシュIASB副議長、アラン・テキセイラIASBシニア・ディレクターが参加した。なお、インドネシアの参加は、今回が初めてである。
企業会計基準委員会(ASBJ)からは、西川委員長および加藤副委員長の2名が出席し、小賀坂主席研究員、井坂シニア・プロジェクト・マネージャーおよび関口専門研究員がオブザーバーとして参加した。
毎年秋のIFASS会合は、IASBが主催する世界会計基準設定主体(World Standard-Setters: WSS)会議と日程を合わせて開催されることが通例となっているが、WSS会議がIASB主催の会議であることに対して、IFASS会議は、各参加国等が自主的に会計全般に係るテクニカルなトピックについて発表を行い参加者により議論する点が特徴的である。以下、会議の概要を紹介する。
No | 議題 | 担当 |
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2012年10月22日 | ||
1 | IASBと基準設定主体および地域グループとの関係 | IFRS財団/IASB/フランス会計基準審議会(ANC)/各地域グループ |
2 | 時事的な問題(Topical Issues)(その1) | |
(1) 法人所得税 | 英国財務報告評議会(FRC) およびEFRAG |
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(2) 共通支配下の企業結合 | イタリア会計基準委員会(OIC) およびEFRAG |
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(3) 公的セクターの事業体結合 | 国際公会計基準審議会(IPSASB) | |
(4) 会計単位 | AcSB | |
3 | 開示に関する討議資料 | |
(1)「開示フレームワーク」討議資料 | EFRAG | |
(2)「開示フレームワーク」意見募集 | 米国財務会計基準審議会(FASB) | |
(3)「マネジメント・レポート」 | ドイツ会計基準委員会(DRSC) | |
(4)「より広範な開示の検討」 | FRC | |
4 | 今後の計画等 | IFASS議長 |
2012年10月23日 | ||
5 | (任意講座)測定 | AcSB |
6 | ASBワークプラン、アジェンダ協議およびIFRS財団の最近の状況について | IASB |
7 | 地域グループからの報告
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各地域グループ |
8 | 企業結合により取得した無形資産およびのれん | |
(1) 無形資産の当初会計処理 | オーストラリア会計基準審議会(AASB) | |
(2) のれんの減損 | OIC、ASBJ | |
9 | 排出権取引について | ANC |
10 | 時事的な問題(Topical Issues)(その2) | |
(1) 投資税額控除等の会計処理 | 南アフリカ(*1)(SAICA、FRSC) | |
(2) IAS第19号における割引率 | DRSC |
2012年3月にマレーシアで開催されたIFASS会議までは、ベストプラクティス文書の改訂というトピックとして、IASBが2006年に公表した「ベストプラクティス文書(Statement of Best Practice):IASBとその他の会計基準設定主体との協力関係」の改訂草案が、フランスANC議長を中心としたワーキング・グループ(フランス、英国、ドイツ、イタリア、日本)により提示され議論されていた。さらに当該改訂草案とは別に、IASB側から新たな検討文書として覚書(Memorandum of Understanding)の草案が提示され、以降、調整が図られてきた。IASB側の提案は、主に2011年のIFRS財団トラスティーによる「戦略レビュー」の結果をベストプラクティス文書の改訂に反映することを意図していた。
今回のIFASS会議では、フランス等によるベストプラクティス文書の改訂草案としての「各国基準設定主体とIASB:グローバルな会計基準設定のための力の結集(*2)」に加えて、IASB側からは、より正式な関係を求める「IASBの基準設定プロセスにおける各国基準設定主体との関係の正式化(*3)」(2012年10月17日ドラフト提案)の内容が、アルモグ氏およびマッキントッシュ氏から説明された。
IASB側の文書の背景としては、現在、米国財務会計基準審議会(FASB)、ASBJ、およびEFRAGとIASB間にはそれぞれMoUに基づく1対1の関係がある。一方で、IFRSを適用する国や法域が拡大するにつれて、IASBとの1対1(bilateral)ではなくより多くの各国基準設定主体等と多国間(multilateral)の正式な関係を構築することが、より効果的かつ効率的にグローバルな課題に取り組むことができるとの考えがある。このようなIASBの方向性は、ハンス・フーガーホースト議長のスピーチや、2012年に改訂案が公表された「IFRS財団デュープロセス・ハンドブック」においても、IASBと各基準設定主体との緊密な協力関係の重要性が強調されていることからも明らかである。
IASB側の文書は、主要なテクニカルな問題についてIASBにフィードバックと助言を行う、「会計基準フォーラム(Accounting Standards Forum)」の設立を提案している。
今回のIFASS会議では、初日の午前中の約3時間余りが、このトピックに関する議論に割かれていた。参加者からは、既存の他のアドバイザリー・グループとの役割分担に関する明確化や、主にメンバーシップに関する質問がなされていた。誰がこのフォーラムのメンバーとなるかの関心は非常に高く、IASB側が提案する12名の枠を拡大し16名の枠とすべきとする意見や、再任があるとはいえ2年毎のメンバーシップ見直しは短いため任期を3年間とすべきであるという意見、メンバー要件の明確化およびメンバー選定プロセスに関する透明性を強く要求する意見が聞かれた。
日本からは、当該フォーラム設立を支持すること、このフォーラムで質の高い議論ができるかどうかを最も重視すべきであることが発言された。
なお、IFASS会議終了後の2012年11月1日付で、IFRS財団より、コメント募集「会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)設置の提案」(コメント締切:2012年12月17日)が公表され、広く一般からのコメントを募ることとなっている。当該コメント募集と、IFASS会議で提示されたIASB側の文書の表現は、例えば提案されている会議体の名称がIFASS会議では会計基準フォーラムであったものが、11月1日付のコメント募集では、会計基準アドバイザリー・フォーラムと異なるものの骨子は概ね同様である。
EFRAGが英国FRC(旧:ASB)とともに2011年12月に公表した討議資料「法人所得税の財務報告の改善」に対するコメントは、2012年6月29日であった。今回は、当該討議資料に対するコメント29件の分析結果が以下のとおり発表された。
上記、EFRAGの発表に対してIFASS会議の参加者からは、法人所得税については、IASBとFASBがMoUを締結した頃とは状況が変わっており、プロジェクトの優先度が低下しているのではないか、との意見があった。これについては、IFASS議長から、確かにプロジェクト開始の契機は、国際財務報告基準(IFRS)と米国基準の差異を解消することが目的であったが、もし、このプロジェクトによりIFRSを改善することができるなら継続する理由になるだろうとのコメントがあった。
2011年10月にEFRAGが公表した討議資料「共通支配下における企業結合の会計処理」に対するコメント・レターの概要がOICから説明された。現行のIFRS第3号「企業結合」は、共通支配下の企業間の企業結合を適用範囲から除外しているため、実務上の会計処理に多様性があることが指摘されてきたことから、EFRAGは、OICおよびANCとともに、当該プロジェクトを進めてきた。討議資料では、譲受企業の連結財務諸表における当初認識と測定を取り扱っており、IFRS第3号の取り扱いを、共通支配下の企業結合に対して、①常に類推適用できる、②類推適用することは適切ではない(簿価引継、又は、フレッシュ・スタート法を適用する)、③類推適用できる場合がある、という3つの見解をそれぞれの根拠とともに示している。
この討議資料に対しては、28通のコメント・レターが提出された。コメント・レターの主な内容は以下のとおりである。
上記に加えて、共通支配下の企業結合には多様なパターンがあるため、単一ではなく複数の会計処理が必要であると多くのコメント回答者が説明したという。
このような討議資料へのコメントを受けて、EFRAGおよびOICは、共通支配下の企業結合の定義を明確化した上で、実際の事例を収集し11月には討議資料に対するコメント要約と対応案を記載したフィードバック文書を公表する予定であるとしている。また、現在EFRAG、OIC、スペインの会計および会計監査機関(ICAC)、DRSCにより進行中の「個別財務諸表(Separate Financial Statements)」プロジェクトにおいて、利用者のニーズを把握した上で、共通支配下の企業結合の個別財務諸表における会計処理を検討することとなっていることが説明された。
上記、発表に対してIFASS会議の参加者からは、次のようなコメントがあった。IASBが当該プロジェクトを取り上げることを歓迎するという意見、多様な実務があるといっても何らかの共通するアプローチが見いだせないのかという意見、当該プロジェクトで取り扱う範囲の見直しが必要ではないか、という意見があった。OICからは、当該プロジェクトはIASBを支援することを意図しているという説明があり、EFRAGからは、IFRS第3号の適用範囲の除外を(共通支配下の)企業結合にだけ認めることに対する疑問があるとの発言があった。当該プロジェクトの範囲に関する議論について、ある参加者からは、このような議論は、新設されるフォーラムやIFASSからIASBへのインプットとして、IASBが取り上げるべきアジェンダを議論する際の貴重な情報となるだろうという意見もあった。
IPSASBは、2012年6月に意見募集「公的セクターの結合(Consultation Paper – “Public Sector Combinations”)」を公表し、コメント締切は2012年10月31日となっている。今回のIFASS会議では、当該意見募集の内容説明が以下のとおりされた。
上記、IPSASBの説明に対して、参加者からは、当該意見募集が連結財務諸表と個別財務諸表の両方を対象としていることの確認を求める発言、概念的には公的セクター以外の企業結合と差異はないはずであるが、意思決定を政府が行う点で、公的セクターは政府の一部分であり共通支配下とそれ以外を区別しないで統一的なアプローチがとれるのではないか、という意見があった。
また、ある参加者からは、当該参加者の法域には同様の基準があるという発言があり、公的セクターの結合の検討においては、①営利企業の企業結合と公的セクターの結合の差分は何か? 公正価値には差はないはず。 ②公的セクターにおける持分(equity)の定義は何か? 営利企業の持分とどのように異なるのか? これら2つの疑問に回答しなければならないとした。
また、IPSASBの提案に複数の測定アプローチが存在することに対する懸念を表明する意見もあり、引き続き次回のIFASS会議で意見募集へのコメント分析結果について検討することとなった。
AcSBは、会計単位(Unit of Account)に関するリサーチのIFASSにおけるプロジェクト・チーム・リーダーである。当該プロジェクトは、IASBとFASBの概念フレームワーク・プロジェクトにおける「構成要素と認識」と「測定」の各フェーズに関連が深いことから、両審議会に有益なインプットを提供することを目的として開始された経緯がある。しかし、両審議会による共同プロジェクトであった概念フレームワークについて、今後は、IASBおよびFASBがそれぞれ独自に取り組む方針が打ち出されており、AcSBが主体的にインプットを提供する相手先が不明瞭な状況となっている。IFASS内で、会計単位に関するプロジェクト・チームが組成されており日本もそのメンバーであるとはいえ、昨年来、実質的には当該プロジェクトに大きな進捗はなく、2012年3月のマレーシアでの会議においても、今後の進め方の大方針についてあらためてトップダウンかボトムアップか、の確認がされた状況である。このような背景に基づき、今回のIFASS会議では、AcSBから、今後の会計単位プロジェクトの進め方について、継続要否の問いかけがあった。
IFASS会議の参加者からは、たとえ概念フレームワークがIASBとFASBそれぞれの単独プロジェクトとなったとしても、「会計単位」の議論は重要であり、継続すべきであるという意見が大半であった。日本からは、ワーキング・グループを活用したボトムアップ・アプローチに焦点を当てることにより、IASBの概念フレームワーク・プロジェクトに資するのではないかという発言がされた。IASBからは、会計単位は非常に有用なプロジェクトであり、開示フレームワーク同様、継続を強く望む旨の発言があった。 一方、具体的なアプローチについては、ボトムアップ・アプローチでは10年以上の時間を要するかもしれないので、トップダウンで会計単位の原則を確立してはどうかという意見や、演繹法でも帰納法でも、また、財務報告の目的から開始しても、報告企業の視点からでも将来キャッシュ・フローの視点から開始してもよいだろうが、いずれにしても概念フレームワークの認識と測定と会計単位の関連性を保つことが重要であるという意見もあった。
最後にIFASS議長が、基準間で会計単位が異なる理由は何か? そのような分析ができれば新基準の開発において非常に参考になるため、是非、プロジェクトを継続してほしいと締めくくった。
EFRAGは、ANCおよびFRCとともに、過去数年間にわたり、財務諸表の注記の開示の性質とその有用性について議論してきた。今般、有用な情報のみを開示すると同時に、利用者にとっての情報の目的適合性を向上し議論をさらに深めることを目的として、2012年7月に討議資料「財務諸表注記の開示フレームワークに向けて(Towards a Disclosure Framework for the Notes)」を公表した。コメント締切は、2012年12月31日である。
今回のIFASS会議では、当該討議資料の概要説明があった。
FASBは、前述のEFRAG、ANCおよびFRCのスタッフとともに開示に関するフレームワークの検討を重ねてきたが、FASB自身のデュープロセスに従う必要性から、単独で、2012年7月、意見募集「開示フレームワーク(Disclosure Framework)」を公表した(コメント締切は当初2012年11月16日、その後2012年11月30日に延期)。当該意見募集では、以下の項目についてのコメントを求めている。
FASBによる開示フレームワークに関する意見募集の説明では、EFRAGとの類似点は、いずれも不必要な開示を削除することにより有効性を改善すること、財務諸表の注記における開示に範囲を限定していること、潜在的な改善とそのアプローチについて、次の3項目、①基準設定主体が要求事項を設定する際の意思決定、②各報告企業による適切な開示の選択、③開示の構成と様式、を検討している点にあるとしている。
FASBは、米国の証券取引委員会(SEC)と調整を図りつつ、現行の米国基準で要求されている開示項目にXBRLを加えて、ボトムアップ・アプローチで開示フレームワークを検討したが、EFRAGとの差異は、どのようにその目的を達成するか(how to carry-out)にあるとしている。FASBの焦点は、開示の有効性にあり、重要な情報がそれほど重要でもない情報の中に埋もれることなく確実に利用者に対してコミュニケーションされることであり、そのため、開示の順番等を含む様式も検討が必要であると考えたという。また、米国内では既に2回の円卓会議を開催し主に学術関係者からの意見を収集したという。
上記、EFRAGおよびFASBからの説明に関して、参加者からは次のような意見があった。
開示において重要性は最も難しい問題であり、財務諸表の認識・測定における重要性と開示の重要性の差異が何であるかを分析することが必要であるという意見、また、キャッシュ・フローについて、FASBは、報告企業全体のキャッシュ・フローが重要であると説明の中で発言したが、報告企業全体ではなく、収益や無形資産に関するキャッシュ・フロー情報も重要であるという意見があった。FASBは、5つくらいの領域を定めて、それぞれの領域について開示の目的を設定する方法も有り得ると発言した。
何を開示すべきかを報告企業の判断にゆだねるという柔軟性重視の開示フレームワークの提案には、本当に利用者が必要とする情報が開示されないリスクが伴うのではないか、という質問に対して、FASBは、確かに柔軟性の導入はチャレンジだ、と返答した。
EFRAGおよびFASBの双方の開示フレームワークについて、参加者からは、プロジェクトのタイミングが重要であるという発言があり、IFASS議長は、それに対して、IASBの概念フレームワーク開発のタイミングとの関連性を懸念しての意見と思われるが、今回のIFASS会議で取り扱われているトピックには、例えば会計単位など、開示フレームワーク以外にもIASBのワークプランに関連のあるトピックが複数あるためタイミングは確かに重要であると発言した。
日本からは、現在、それぞれの開示フレームワークに対してコメント・レターを提出する考えであること、FASBの開示フレームワークにおけるベースライン・アセスメントは、今までの会計基準の歴史とは異なる発想であり、柔軟な開示の導入については、比較可能性が損なわれる懸念があるとの意見が説明された。
また、開示の対象を誰にするか(利用者は誰か)によって、必要な開示項目が異なるという意見もあった。これには、財務諸表の利用者にも売りサイドと買いサイド、またそれ以外の利用者で全く視点が異なり、これらの異なる利用者に共通の開示項目をすべて要求するなら開示が増えるだけであるという意見もあった。いずれにしても、財務報告のプロセスと重要性の決定には判断がつきものであり、報告企業に共通の開示項目を要求するのか、あるいは、個別に開示項目を設定するのか、利用者に知ってもらいたい情報を網羅的に開示するのか、あるいは、最低限の情報の開示を要求するのか、等々、様々な考え方があるという意見もあった。
FASBは、さまざまな批判的な考え方を聞きつつも、現在の問題点を解消することが最大の目的であると締めくくり、当該セッションが終了した。
DRSCからは、ドイツ基準GAS 第20号 「グループ・マネジメント・レポート」に関する説明があった。当該基準は、ドイツの会社法で必須とすることが否決されたため、任意で適用されることになったという前置きに引き続き、具体的な内容が以下のとおり説明された。
上記、ドイツにおけるマネジメント・レポートの概要について、参加者からの特段の意見はなかった。
前述のEFRAGおよびFASBの開示フレームワークの提案事項は、財務諸表の注記における開示に限定した検討であった。FRCは、討議資料「より広範な開示の検討-開示フレームワークへの道筋(Thinking about Disclosures in a Broader Context – A road map for a disclosure framework)」を2012年10月15日に公表し、年次報告書に含まれる情報全体の開示について検討している。その中で、①開示フレームワークは、財務報告全体の開示を検討しなければならないこと、②来るべきECの非財務情報と統合報告に関する提言等、将来の開示に関する様々な考え方の発展の結果から生じる断片的な開示に関するアプローチの数々をまとめること、③開示についての他の提案に影響を与え得るフレームワークを提供すること、そして、④IASBが開示フレームワーク・プロジェクトに着手する前に影響を与えること、の4項目を目的としていると述べている。
このうち、④については、IASBがとるべきアクション・ポイントとして以下を提言している。
● 財務報告の境界線を定義付ける
「財務報告」の3つの要素として、①マネジメント・コメンタリー、②コーポレート・ガバナンス、③財務諸表、をFRCの討議資料では識別している。現在のIASBの概念フレームワークは、「財務報告」を対象としていながら、その定義はない。FRCは、例えば、リスクと不確実性に関する情報を、前述の3つの要素のどの項目として開示すべきであるかの検討を行っている。同時に、リスクに係る全ての情報を分散させないで、一所にまとめて開示することを望む利用者の存在も認知しており、そのような報告の仕方がリスク報告書としてドイツで導入されていたり、英国の多くの銀行でも採用されている、としている。
● 情報をどこに開示すべきかどうかを設定する要件を開発する
例えば、非財務情報とすべきか、あるいは財務諸表の一部とすべきか、等の判断規準を開発することが考えられる。
● 開示の明確な目的を開発する
FRCの討議資料では、開示の目的を財務報告の目的と一致するもの、すなわち、利用者に有用な情報を提供すること、とした上で、財務報告の目的に合致しない情報は財務報告に含むべきではないとしている。年次報告書では、プルーデンシャル規制当局の要請によるCO2排出に関する開示や、EUの提案による採掘業における国別報告が検討されている。これらの開示は、財務報告の目的を満たさないため、年次報告書以外で公表されることがより適切かもしれない開示の一例であるとする意見もある、としている。
これら3項目の他にも、IASBが取り得るステップとして追加7項目が、また、すべての規制当局のアクション・ポイントとして2項目が提示されているが、ここではその詳細を割愛する。
また、FRCの討議資料の副題が開示フレームワークへの道筋となっていることから、次の4ステップの道筋でもって開示を検討することが提案されている。
このうち、ステップ3における相対性(proportionality)とは、報告企業をある判断規準に基づき区別し、開示すべき項目を差別化することを意味する。その判断規準には、①公的説明責任の有無により区別する方法、②企業の規模により区別する方法、③業種別に区別する方法、④企業グループの位置づけにより区別する方法(例:連結ベースで開示されていれば個別財務諸表での開示を不要とする考え方など)があるとされている。
また、ステップ3における重要性については、FRCの討議資料では、開示における重要性を3つのレベルに分けて検討することや、重要性の高低を5つの用語(*4)で表現することが提言されている。
上記、FRCの説明に対して参加者からは以下の意見があった。
FRCの開示は、印刷された年次財務報告書を念頭にしているようだが、実際にはXBRL形式や、企業のウェブサイト上に掲載される情報もある。広い範囲の財務報告には、決算数値の速報を伝えるプレスリリース等も含まれる。開示の検討対象範囲を拡大することにより、会計基準設定主体が関与できる範疇を超えてしまうのではないか、財務諸表の注記以外の開示には、規制当局がコントロールする項目も多い。
日本からは、FRCの討議資料では、財務情報と非財務情報の境界線の明確化への言及があり、興味深いとの発言があった。
上記のとおり、今回のIFASS会議では、EFRAG、FASB、DRSCおよびFRCから4つの開示に関する発表があったが、共通項は、リスクに関する開示の在り方であり、報告企業固有のリスクもあればシステム的なリスクもあり、これらの点を明らかにしなければならないという意見、また、財務諸表本表外で開示する情報には将来の予測に基づく情報もあり、これらすべてを取り扱うことは必要だが困難、との感想もあり、開示に関する何らかの取り組みが引き続き必要であるという共通の認識を確認し、当該セッションを終えた。
このセッションでは、2012年3月マレーシアで開催されたIFASS会議の内容等に対するアンケート結果の報告や、2013年秋以降のIFASS会議開催地等に関する意見交換がされた。
また、IFRS解釈指針委員会からは、各基準設定主体に向けて発信されるアウトリーチ依頼のあり方についての質問があり、各参加者は、IFRS解釈指針委員会の担当者に、今後のアウトリーチの手法に関する意見や提案事項を後日メールで伝達することが確認された。
2012年6月に公表されたリサーチ文書「営利企業の財務報告に関する測定フレームワークに向けて(”Towards a Measurement Framework for Financial Reporting by Profit-Oriented Entities”)」は、AcSBの要請によりカナダ勅許会計士協会(CICA)より公表されたものであり、IASBおよびFASBが概念フレームワーク・プロジェクトを進める上でのインプットの提供を目的としていた。今回のIFASS会議では、著者であるアレックス・ミルバーン博士による内容説明に引き続き質疑応答に時間が割かれた。当該リサーチ文書の主な内容は以下のとおりである。
上記、リサーチ文書の内容に関するミルバーン博士の説明に引き続き、活発な質疑応答が展開された。なお、当該セッションは、任意参加となっており、財務報告における「測定」のあり方に対する関心の高い参加者が多かったことからか、当該リサーチ文書の分析が経済的事象の一側面しかとらえていないという批判的な意見も聞かれた。また、リサーチ文書の現在の概念フレームワークとの関係が明確ではないこと、実務上の適用可能性や原価計算との関係について疑問を呈する意見もあった。
日本からは、リサーチ文書における、「投資およびファイナンス資産・負債では差がなく、一方、オペレーティングでは差がある」という意味の明確化を質問したところ、投資およびファイナンスには付加価値プロセスはなく、よって出口価格と入口価格は同じである一方、オペレーティングには付加価値プロセスがあり、価格が異なるという説明がミルバーン博士よりされた。IFRS第13号は、出口価格を採用しているが、もし同業他社に売却するなら、出口価格と入口価格は同一になるだろう、と同博士は説明している。
他の参加者からは、リサーチ文書は、利用者の意思決定に過度に焦点を当てており、意図的にその他の会計を範囲外としたのか、という質問があった。ミルバーン博士は、そのような意図はないと回答し、詳細は、同博士のブログにおけるスチュワードシップ等に関する見解を参照してほしいということであった。
マッキントッシュIASB副議長より、現在のIASBワークプラン(2012年10月19日版)を元に、各プロジェクトの進捗の説明があった。また、直近のIFRS財団トラスティー会議での議論の紹介として、SECによる意思決定がないこと、新メンバーの任命(トラスティー3名、デュープロセス監視委員会(DPOC)交代)、IFRS財団の3カ年予算案について、等々の議論があったことが説明された。
日本からは、IASBのワークプランに関連して、IFRS第9号の適用日について、様々な項目が異なる適用日となる結果、複数のバージョンのIFRS第9号が適用される懸念について質問したところ、その状況についてはIASB側も認知しているとの回答があった。
また、例えば収益プロジェクトについて、両審議会での審議終了後、最終基準化に6カ月を要することへの参加者からの疑問については、FASBから、ボードメンバーによる投票のための最終基準草案を少なくとも2回は回付する必要があり、それだけで平均して最低4カ月かかることが説明された。
ある参加者は、IASBの各プロジェクトの取り組み状況に関連して、IAS第19号における割引率の見直しが欧州のユーロ圏では特に緊急性を要する案件であると主張したが、別の参加者からは、割引率は、概念フレームワークの「測定」において、包括的に取り扱われるべきであるとの意見もあった。
AOSSGからは、議長国であるオーストラリアから、AOSSGの概略および最近の活動内容として、AOSSGメンバー国におけるIFRS適用状況、ネパールに新たに設置するIFRSに関するテクニカルな知識と経験の情報共有を目的としたセンター(IFRS Centre for Excellence)、26カ国目の新メンバーが加わること、11月にネパールで年次総会が開催されること等が説明された。また、2012年11月に東京に開設されるIFRS財団のアジア・オセアニア・オフィスに対する期待も表明された。
EFRAGからは、現在、取り組み中の自発的プロジェクトの紹介に引き続き、次回のIFASS会議では、EFRAGから財務報告におけるビジネスモデルの役割に関する討議資料(2013年第1四半期中に公表を予定)を紹介する予定であることが説明された。当該討議資料は、概念フレームワークにおける測定と表示についての有用なインプットを提供することが期待されるとしている。
また、IASBの概念フレームワーク・プロジェクトに対しては、EFRAGとして積極的に貢献する意思表明がされた。
2011年6月に設立されたGLASSからは、最近の活動報告として、IASBの年次改善公開草案およびIFRS財団デュープロセス・ハンドブック公開草案に対するコメント・レターの提出等について説明された。
アフリカ地域においては、主に南アフリカ勅許会計士協会が中心となり、PAFAが2011年5月に設立されている。現在、加盟国は34カ国、メンバーは39となっている。
PAFAの代表による、この1年間の活動報告に引き続き、質疑応答となり、ある参加者は、PAFAが会計基準設定主体ではないことに対して懸念があると発言した。この発言は、IFASS会議冒頭で議論のあった、IASBが新たに設置することを検討しているフォーラムにおけるメンバーの割り当てにも影響があるとして、基準設定主体以外がフォーラムメンバーになることへの反対をほのめかしていると受け取れた。
これに対して南アフリカの代表は、法的な役割と責任範囲とは無関係に何らかの形で会計基準設定プロセスに関与していることが重要であると主張した。また、別のアフリカ代表は、大陸レベルでの基準設定力という点では劣るかもしれないが、PAFAは、アフリカとしての知識を結集していると反論した。いずれにしても、ある参加者の要請により、PAFAは、次回の会議において、域内各国のIFRSの適用状況を説明することとなった。
AASBは、企業結合によって取得された無形資産の当初会計処理についての調査を実施した。オーストラリアは、2004年ごろから無形資産の会計処理について取り組んでおり、今回、企業結合時に取得された無形資産の当初会計処理について、作成者(有効回答数:105)および利用者(有効回答数:23)に対する質問票形式の調査結果をまとめたものである。なお、質問票への回答者は、広く北米、欧州、アジア、オーストラリア、アフリカに分散しており、また、作成者の産業別分布も多岐にわたっている。
この調査の結果、以下の結論が示されている。
作成者の過半は、IFRS第3号「企業結合」を支持しているが、取得した無形資産を常に認識規準を満たすと仮定するIFRS第3号の規定、企業固有ではない測定、実務上の多様性についての懸念を表明する回答があった。一方、利用者は、開示される情報の十分性に関する懸念や、自己創設無形資産の認識との比較可能性欠如に対する懸念、基準の適用と執行に関する懸念、が指摘された。IFRS第3号に対する懸念はあるものの、致命的な欠陥があるとは結論されず、次のステップとして、この結果をIASBによるIFRS第3号の適用後レビューの計画に活用することを意図していることが説明された。
OICは、前回のIFASS会議に引き続き、現行のIFRS第3号におけるのれんの事後測定の取扱について、IASBによる適用後レビューの対象とすることを主張している。2004年改正前のIFRS第3号で要求されていた20年以内ののれんの償却に代わり、改正後のIFRS第3号では、償却が廃止され、減損テストの実施が要求されているが、イタリアでは、償却の廃止と減損テストの導入がうまく機能していないとして反対する意見があるという。今般、このような状況がイタリアのみの特殊な状況であるか、あるいはある程度一般的な事象かを質問書により調査することが試みられた。
ASBJからは、日本の質問票による調査結果が説明された。イタリアと日本の発表が終了後、質疑応答となった。質問書に対する回答がイタリアと日本で異なる点について、IFASS議長から質問があり、イタリアは、法域特有の考え方があるかもしれないと発言した。
日本は、補足説明として、円卓会議の参加企業のうち、IFRSを適用している企業は1社でありその他の企業は日本基準により財務諸表を作成しているものの、IFRS適用に向けた検討を開始しておりIFRSの要求事項を熟知していることが説明された。また、日本においても見解は分かれているものの、日本基準における減損テスト実施頻度との比較から、IFRSにおける減損テストに対する負担感が強いことが説明された。これに対して、減損の兆候を示す指標に合致するからといって、必ずしも減損をすることにはならないのではないか、という指摘があり、次回の春のIFASS会議で最終結果報告を発表するのか?とIFASS議長から質問された。それに対して、日本は、そのように希望する、と答え、合わせて、有効な測定方法のあり方を探りたい、アカデミック・リサーチを含めて、皆さんからの示唆をいただきたいと発言した。
一方、イタリアは、次のステップとして、フィードバック文書の公表を予定しているという発言があった。
IFASS議長が、のれんに関するアカデミック・リサーチの情報有無を参加者に問いかけたところ、ある参加者からは、IFRS第3号における取得対価に関する会計事務所のガイダンスではのれんの数値に注意を払うような記載があり、何らかの参考になるかもしれないとの情報があった。
最後に、IFASS議長が、減損テストについては、大企業が専門家を雇いモデルを構築していることに対して、中小企業は減損テストの実施に困難を感じていることは万国共通であるため、減損テストのあり方を再検討する必要があるかもしれない、と締めくくった。
EU圏では、2013年から2020年にかけて、徐々に排出権の無償割当枠が消滅し、オークション方式が主流となる見込みである。そこで、ANCからは、排出権取引におけるオークション方式に係る会計処理の提案があった。このANC提案では、企業のビジネスモデルを、①生産ビジネスモデル、②トレーディング・ビジネスモデルのいずれかに分類し、それぞれについて以下の会計処理とすることを提案している。例えば、排出権の購入が、自らの生産に際してのCO2排出に伴う法令順守が目的であれば①、売買からの利益獲得を目的としている場合は②となる。
上記のANCの提案に対して、参加者からは次のような発言があった。
ある国の参加者からは、同国では、排出権をたな卸資産ではなく無形資産としてIAS第38号を適用し公正価値評価をしていること、また、財政状態計算書上、資産(たな卸資産)と負債を純額表示するANCの提案とは異なり、同国では両建てする点で、類似点もあれば相違点もある、と発言した。
また、別の国の参加者は、財政状態計算書上の純額表示について疑問であると発言した。さらに、ビジネスモデルで切り分けてIAS第2号を適用し、取得原価(低価法)で測定する根拠もわからない、と発言した。他の国の参加者からは、売却コスト・アプローチ(cost to sell approach)には、何がIAS第37号におけるコストかの解釈が異なるという意見、IAS第20号「「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」を検討しないのか、という発言もあった。
これらのANCの提案に対する参加者の疑問について、IFASS議長は、各国によって会計処理が異なるのは、排出権のスキーム自体が異なるからではないか、と参加者に問いかけた上で、次回のIFASS会議までに、スキーム自体に多様性があるのかどうか、各自が改めて検討し意見を持ち寄ることを提案し当該セッションを終了した。
ある種の投資税額控除等の会計処理を、IAS第12号「法人所得税」に基づき会計処理をするのか、あるいは、IAS第20号「政府補助金の会計処理および政府援助の開示」に従って会計処理をするのか、という疑問が南アフリカから提起された。投資税額控除(Investment Tax Credits;ITCs)は、IFRSでは定義されていないが、IAS第12号およびIAS第20号の適用範囲外となっており、実務上の問題点が生じているという。
南アフリカの資料では、投資税額控除という用語が広義に使用されており、いわゆる所得控除や政府補助金の形態をとる場合、または、その他、様々な形態のタックス・インセンティブを含むとされている。また、ITCsは、IAS第12号の適用除外となっているものの、投資税額控除から生じる一時差異についての会計処理はIAS第12号で取り扱うこととなっている。一方、IAS第12号の第15項と第24項には、繰延税金資産・負債の当初認識の例外規定があり、果たしてこれらの規定がITCsに適用されるのかどうかという疑問もある。そこで、南アフリカは、現行実務の多様性を改善するために、ITCsの定義の明確化とITCsの会計処理のガイダンスの提供を提案している。
上記、南アフリカの説明に続いて、参加者からは以下の発言があった。
参加者の国にも同様の税額控除があり、IASBスタッフと話し合ったことがある。2009年に公表されたIAS第12号を改訂する公開草案には、税額控除に関する規定が含まれていた。しかし、当該公開草案は、その後最終化されないこととなり現在に至っている。
IFASS議長が、参加者に、税額控除の仕組みがない国はあるか、と問いかけたところ誰も挙手しなかった。ということは、IFASS会議の参加者全員に何らかの関係があるトピックなので、次回のIFASS会議までに南アフリカに情報を提供することが提案された。
IAS第19号「従業員給付」において、退職後給付債務の割引に使用する率は、報告期間の末日における「優良社債の市場利回り」を参照して決定しなければならない、とされている。IAS第19号では、優良社債が格付けAAの社債とは明記されていないが、SECスタッフによる1993年の解釈により、優良社債とは格付けがAAの社債を意図するとの解釈が英国基準に取り込まれ、IFRSにおいても、実務においてもAAの社債の利回りを参照して割引率が決定されてきた。
しかし、昨今の経済危機に際して、格付けがAAの企業および社債銘柄が欧州ユーロ圏では激減している。社債の格付けに際しては、「ソブリンシーリング」といわれる現象が生じており、本社が設置された国の信用格付けを当該企業の格付けが上回ることはない状況となっている。同時に、退職給付債務の割引期間に対応した十分に長期(10年超)のユーロ建て格付けAAの社債の取引高が極端に低下しており、一取引の利回り全体への影響が甚大となっている。このような状況下においては、もはやAAの社債の利回りを参照することにより適切な退職給付債務が算定できないとして、DRSCは、IAS第19号における「優良社債」を格付けがAAAやA、さらにBBBに拡大することを提案している。但し、これらの社債の利回りを参照する際には、AAの社債利回りとの信用スプレッド差を調整した上で利用することを提案している。
DRSCは、その他の関連する懸念として、以下をあげている。
この提案に対して、IFASS会議の参加者からは、概念フレームワークの測定の項で、割引率についてなんらかのベースを定めなければならないが、今は、そのベースがない状況であるため、まずは、割引率のあり方を概念フレームワークのプロジェクトの中で明確にすることが重要であるという意見があった。欧州では緊急性の高い案件であるため、引き続きドイツが中心となり検討することとなった。
今回のIFASS会議は、テクニカルなトピックとしては、開示フレームワーク関連の議論が複数の基準設定主体から提示された他、前回からの継続案件が多く、新たな検討項目は比較的少なかった。
次回は、2013年4月にブラジルで開催予定となっており、暫定的なアジェンダは以下のとおりである。