ASBJ 企業会計基準委員会

IASB、保険契約の会計処理の向上に向けての提案に関して一般との協議を開始

IASBプレスリリース 2007年5月3日

国際会計基準審議会(IASB)は本日、ディスカッション・ペーパーとして保険契約の会計に関する予備的見解を公表し、一般との協議を開始した。

今回の発表は、IASBが保険業界及びその他関係者の代表者で構成される保険ワーキング・グループを設立することにより、2004年に開始された協議が最終段階にきていることを示すものである。一般との協議は、6ヶ月間にわたり行われ、IASBが2008年末に公表予定の公開草案への最終的な提案の策定を支援することとなる。一般との協議の期間をさらに設けた上で、IASBは新しい基準書を2010年に公表する予定である。

 本日の公表を受けて、ウォーレン・マグレガーIASB理事は、次のように述べている。

「長い間にわたり、保険者の財務諸表の利用者は、保険会計が「ブラック・ボックス」であり、保険の会計基準は国によって大きく異なると不満をもらしてきた。現行の基準であるIFRS第4号「保険契約」の開示規定は、会計のこの分野に焦点を当てるものであるが、IFRS第4号は暫定的な基準であり、保険契約に関して多岐にわたる会計実務を容認している。こうした実務の多くが、保険者の財務諸表の理解を困難にしており、他の業種で用いられる実務とは異なるものにしている。本ディスカッション・ペーパーは、IFRS第4号から開始した作業をどのように完成させるべきかについての、IASBの最初の見解を示しており、IASBが到達した予備的な結論について広く一般との協議を求めるものである。
審議会を代表して、審議会が見解をまとめるにあたり、保険ワーキング・グループのメンバーの皆様に、時間と専門的知識を提供していただいたことに感謝申し上げる。」 

eIFRS購読者は本日からディスカッション・ペーパー「保険契約に関する予備的見解」を入手することができる。eIFRSの購読希望者は、www.iasb.orgのオンライン・ショップを見るか、又は下記に問い合わせていただきたい。

IASCF Publication Department,
30 Cannon Street, London EC4M 6XH, United Kingdom.
Tel: +44 (0)20 7332 2730,
Fax: +44 (0)20 7332 2749,
Email: publications@iasb.org
Web: www.iasb.org

ディスカッション・ペーパーの印刷版(2冊セットでISBN 978-1-905590-35-3)は、IASCF出版部から£16.00でまもなく購入可能となる予定である。
5月14日以降、本ディスカッション・ペーパーの本文は、IASBウェブサイトから無料で入手可能になる。

お問い合せ先 

Mark Byatt, Director of Corporate Communications, IASB,
Telephone: +44 (0)20 7246 6472,
Email: mbyatt@iasb.org

専門的な問い合せ先

Warren McGregor, IASB member
Telephone:+44 (0)20 7246 6410,
Email: wmcgregor@iasb.org

Patricia O’Malley, IASB member
Telephone:+44 (0)20 7246 6410,
Email: tomalley@iasb.orgtomalley@iasb.org

Wayne Upton, Director of Research, IASB,
Telephone:+44 (0)20 7246 6449,
Email: wupton@iasb.org

Peter Clark, Senior Project Manager, IASB,
Telephone:+44 (0)20 7246 6451,
Email:pclark@iasb.org

編集者担当者への注釈

背景情報

本ペーパーでは、保険者は次の3つのビルディング・ブロック(基礎的要素)を使用して保険負債を測定すべきであると提案している。

  • 契約上のキャッシュ・フローの、明示的で、バイアスのない、市場と整合的で、確率で加重された現在の見積り
  • 貨幣の時間価値に関して、将来キャッシュ・フローの見積りを調整する現在の市場における割引率
  • 市場参加者がリスク負担(リスク・マージン)に対して、また、もし必要であればその他のサービス(サービス・マージン)に対して要求する明示的でバイアスのないマージンの見積り

IASBの見解では、こうした3つのビルディング・ブロック(基礎的要素)を用いての測定は、保険者の財務諸表の利用者に次のようないくつかの便益を提供することになる。

  • 既存の保険契約から生じる将来キャッシュ・フローの金額、タイミング及び不確実性に関する目的適合性のある情報
  • キャッシュ・フロー及びマージンの明示的かつより確実な見積り
  • 見積りの変更に対する首尾一貫したアプローチ
  • すべての種類の保険(及び再保険)契約に対する、適切かつ首尾一貫したアプローチ。これにより
    • 原則が定まっていない区分及び恣意性の介入した新しい規則に頼ることなく、(マルチ・イヤー、マルチ・ライン又はストップ・ロス契約のような)より複雑な契約に対処し、新たに発生する問題点を解決するための一貫したフレームワークが提供される。
    • 組込デリバティブ、金融再保険及び既存の契約の条件変更に関する恣意性の介入した規則の必要性が限定的になる。
  • 非金融負債及び金融負債の測定にあたり将来キャッシュ・フローの現在の見積りを要求する、その他の国際財務報告基準(IFRSs)との整合性
  • 保険負債と関連資産の間の経済的ミスマッチがより明確に報告され、会計上のミスマッチが減少する。
  • 入手可能な範囲での観察可能な現在の市場価格との整合性。保険負債を測定する際に用いられるすべての入力数値を裏付ける市場価格は入手可能ではないが、そのような価格は財務諸表の利用者にとって理解可能性があり信憑性のあるベンチマークとなる。

本ペーパーでは、

  • 3つのビルディング・ブロック(基礎的要素)を用いての測定に対する説明的で簡潔な名称として、「現在出口価値」を提案している。
  • 現在出口価値を、「保険者が、残存する契約上の権利及び義務を、財務報告日において直ちに別の当事者に移転するために支払うであろう金額」と定義している。現在出口価値による測定は、保険者が保険負債を第三者に移転することができる、移転するつもりである、又は移転する必要があると示唆することを意図するものではない。確かに、ほとんどの場合、保険者は保険負債を第三者に移転することはできないし、そうすることを望むものでもない。むしろ、本測定方針を特定する目的は、財務諸表の利用者が経済的意思決定を行うことに役立つ有用な情報を提供することにある。さらに、「現在出口価値」は、保険者が保険契約者との間でその債務を決済することを意図していないと示唆することを意図するものでもない。保険契約者との最終的な決済は、第三者が当該負債を引き受けるにあたり請求するであろう価格に関する重要な考慮事項であることは明確であろう。

本ペーパーは、保険契約者の行動、有配当契約及び保険負債の変動の報告など、他にもいくつかのトピックを取扱っている。
本ペーパーに対するコメントは、文書にて2007年11月16日まで募集されている。IASBは、一般のコメントを募集するために公開草案を策定する前に、回答をレビューし、予備的見解を修正又は確認する。IASBは公開草案を策定するにあたり、経済的意思決定の根拠として、保険者の財務諸表の利用者が、合理的なコストによる財務諸表の作成が可能で、目的適合性及び信頼性を有した情報を受け取ることの必要性について特に留意する。

米国財務会計基準審議会は、本ディスカッション・ペーパーを包含したコメントの募集を発行することを計画しており、保険契約の会計に関する包括的な基準を策定するためのIASBとの共同プロジェクトを、アジェンダに追加すべきか否かを判断する際に、受け取ったコメントを利用すると述べている。

保険ワーキング・グループの構成

メンバー

Phil Arthur, Partner, Ernst & Young, カナダ
Norbert Barth, Associate Director, Senior Analyst, Equity Research, DZ Bank AG, ドイツ
Steven Bensinger, Chief Financial Officer, American International Group, 米国
Philip Broadley, Chief Financial Officer, Prudential, 英国
Richard Carbone, Chief Financial Officer, Prudential Financial, 米国
Tony Coleman, Chief Risk Officer and Chief Actuary, Insurance Australia Group, オーストラリア
Denis Duverne, Chief Financial Officer, Axa, フランス
Sam Gutterman, Chair of Insurance Accounting Committee,
International Actuarial Association, 国際/米国
Rob Jones, Managing Director, Standard & Poors, 英国
Patrick O’Sullivan, Chief Growth Officer, Zurich Financial Services, スイス
Hitesh Patel, Partner, KPMG, United Kingdom英国?
Helmut Perlet, Chief Financial Officer, Allianz, ドイツ
Jorg Schneider, Chief Financial Officer, Munich Re, ドイツ
Jerry de St Paer, former Chief Financial Officer, XL Capital, バミューダ
Joseph Streppel, Chief Financial Officer, Aegon, オランダ
Mark Swallow, Chief Accounting Officer, Swiss Re, スイス
David Wheat, Chief Financial Officer, ING US Financial Services, 米国
山口裕之、株式会社損害保険ジャパン、日本
吉村雅明、住友生命保険相互会社、日本
Alan Zimmerman, US Director of Research, Fox-Pitt, Kelton, 米国

オブザーバー

バーゼル銀行監督委員会
欧州財務報告アドバイザリー・グループ(EFRAG)
保険監督者国際機構(IAIS)
証券監督者国際機構 (IOSCO)

その他の参加者

オーストラリア会計基準審議会スタッフ
米国財務報告基準審議会スタッフ

IASBについて

国際会計基準審議会(IASB)は、ロンドンに本拠を置き、2001年に活動を開始した。同審議会は、IASC財団の評議員会によって集められる拠出金で運営されている。この拠出金は、世界中の主要会計事務所、民間金融機関及び事業会社、中央銀行及び開発銀行、ならびにその他の国際的専門団体からのものである。 現在の14人の審議会メンバー(うち12人は常勤)は、9か国から選ばれ、幅広い職務上の経歴を有している。IASBは、公共の利益のため、一般目的の財務諸表において透明で比較可能な情報を要求する、高品質かつ世界的な会計基準の単一のセットを開発することを公約している。この目的を追求するため、IASBは、全世界の会計基準の収斂を達成するために各国の会計基準設定主体と協力している。 


「ディスカッション・ペーパー「保険契約に関する予備的見解」(Part1、Part2)」の日本語訳は以下よりダウンロードしてください。なお、本資料はPDFファイルのみでの提供でございますのであらかじめご了承ください。