ASBJ 企業会計基準委員会

第72回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第72回会議が、2007年10月16日から19日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。また、22日及び23日にはFASB(米国財務会計基準審議会)との合同会議が米国ノーウォークのFASB本部で行われた。今回のIASB会議では、1. 概念フレームワーク(財務報告の目的及び質的特性、並びに構成要素)、2. 財務諸表の表示、3. 公正価値測定、4. 国際会計基準(IAS)第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)の改訂、5. リース、6. 退職後給付(国際会計基準(IAS)第19号(従業員給付)の改訂)、7. IAS第24号(関連当事者の開示)の改訂、8. 金融商品、9. 公正価値でプットできる金融商品、10. IFRSの年次改善、11. XBRL、12. 国際財務報告基準解釈指針委員会の活動状況についての検討が行われた。教育セッションでは、公正価値測定に関連して企業評価の専門家から企業結合時の企業評価についての説明があった。

FASBとの合同会議では、1. 財務諸表の表示、2. 概念フレームワーク(財務諸表の構成要素)、3. 収益認識及び4. 財務諸表の表示プロジェクトのフィールドテストの結果のレビュー(これは非公開)について議論が行われた。このほか、教育セッションとして、認識の中止に関するスタッフのリサーチ・レポートのドラフトが議論された。

IASB会議には理事13名が参加した(欠員の理事が1名)。また、FASBとの合同会議には、FASBのボードメンバー7名を加え20名が参加した。本稿では、このうち、IASB会議の内容として1. から6. までを、FASBとの合同会議報告として1. から3. までと教育セッションの認識の中止に関するスタッフのリサーチ・レポートのドラフトに関する議論の内容を紹介する。

IASB会議

1. 概念フレームワーク

今回は、1. 新概念フレームワークと現行概念フレームワークの関係、2. 財務報告の目的(フェーズA)及び3. フェーズB(構成要素:資産の定義)の3点が議論された。

(1)新概念フレームワークと現行概念フレームワークの関係

フェーズAでは、すでに「財務報告の目的」及び「意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」に関するディスカッション・ペーパー(前者が第1章、後者が第2章となっている)が公表され、近いうちにこれらに関する公開草案の公表が予定されている。概念フレームワークプロジェクトでは、概念フレームワークの見直しをAからFまでの8つのフェーズに分けて順次行うこととしているが、8つのフェーズ全体の完成には今後長期間を要することから、それぞれのフェーズが完成するごとに、新概念フレームワークとして発効することが、これまでに合意されている。このような状況を前提として、今回、財務報告の目的及び質的特性が基準化され新概念フレームワークとなった場合、新概念フレームワークと改訂されていない現行概念フレームワークの他の部分とが共存することになるため、両者の関係をどのように整理すべきかが議論された。

論点には、1. 改訂された新概念フレームワークは、対応する現行概念フレームワークに置き換えられるべきか、また、2. もし置き換えられるとすると、改訂されていない他の部分との整合性をどのように図るべきかといったものがある。例えば、ディスカッション・ペーパーの第2章では、「信頼性(reliability)」を「表現の忠実性(faithful representation)」に代置することとしているが、「財務報告の目的」及び「質的特性」以外の見直しの行われていない現行概念フレームワークにおける「信頼性」という表現もこれらの改訂の帰結として「表現の忠実性」に置き換えるべきかどうかという問題がある。

議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 財務報告の目的及び質的特性に関する改訂予定の新概念フレームワークは、それが完成すれば、現行概念フレームワークの第9項から第46項までは廃止され、これらに置き換わるものとする。
  2. 新概念フレームワークは、当然の帰結として現行概念フレームワークの他の未改訂の部分を改訂するものではない。ただし、改訂が根本的なものである場合には、この限りではない(どのような改訂が根本的なものかについては、今後検討を行い決定する)。
  3. 概念フレームワークの改訂は、その帰結として当然にIFRSを改訂するものではない。これに関連して、新概念フレームワークによって廃止された旧概念フレームワークを参照しているIFRSにおいては、改訂の影響を何らかの形で開示するなどの対応が必要ではないかとの観点から、スタッフに対して追加ガイダンスの必要性について検討することが指示された。
  4. 概念フレームワークプロジェクトで順次改訂される8つのプロジェクトは、それぞれのフェーズが完成した時点で発効することとする。
  5. 完成した新概念フレームワークの発効時期に関しては、1. IASBに対しては、完成と同時に発効するものとするが、2. それ以外の利害関係者に対しては、その発効日を指定することとする。この発効日は、その完成日から最短でも1年後とする。利害関係者に対する発効日を明示するのは、IAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)において、ある会計事象を取り扱うIFRSがない場合には、概念フレームワークを参照することとされており、新概念フレームワークがいつから発効するかを明示しておく必要があるためである。
(2) 財務報告の目的(フェーズA)

2007年9月の議論では、一般目的外部財務報告の目的として、「現在及び潜在的な投資家及び債権者並びにその他の者が資本提供者として意思決定するために有益な報告企業に関する情報を提供すること」という提案がなされたが、この表現では、財務報告の対象者が資本提供者のみに限定されており、資本提供者以外の利用者(例えば、公的責任を持つ非上場の電力会社や金融機関などの財務報告の利用者)は財務報告の対象者に入らないという点を指摘する意見があった。

これを受けて、財務報告の対象者を拡大すべきかどうかについてスタッフが再度検討を行い、その結果が今回議論された。スタッフからは、改めて、財務報告の目的は、資本提供者に対する報告企業に関する情報提供に限定すべきとの提案が示された。議論の結果、FASBが対象を資本提供者のみに限定する方向を支持していることから、財務報告の目的において、資本提供者以外の関係者を明示的に含めるかどうか、含める場合にはどのようにするかを更に検討することが改めてスタッフに指示された。

(3)フェーズB(資産の定義)

今回は、2007年7月に続き、資産の定義についての検討が行われ、ほぼ議論が煮詰まった状態になってきている。今回は、1. 改訂中の資産の定義を実際のケースに当てはめ、それが現行の定義より改善されているかどうかの分析結果が示され、さらに、2. 改訂中の資産の定義の検討が行われた。

資産の定義を実際のケースに当てはめる実例分析では、新たな定義が現在の定義を改善していることを明らかにするために、多くのタイプの資産に対して、新旧の定義を適用して、その差異を検討した結果が示された。この資料についての細かい検討は行われなかったが、分析では、新しい定義、IASB及びFASBの現行の定義の3つを比較し、それにスタッフのコメントが付されている。その中で、新しい資産の定義を満たすものとそうでないものの例が全部で24示されている。前者に該当するものとして、製品保証を受ける権利、貸付金の保証受、自己創設の顧客リスト、集合化された労働力(assembled workforce)、更新オプションのある保険契約などが挙げられ、後者の例として、空気、信託で保有されている現金、潜在的な顧客に対する将来の割引の申し出及びすでに成立しているビジネスの将来の販売の4つが挙げられている。

一方、資産の定義の検討では、現在検討中の次に示す資産の定義案に対して、更に精緻化するための検討が行われ、最終的に下記の点が暫定的に合意された(この問題は、さらにFASBとの合同会議でも議論されているので参照されたい)。

【これまで検討されてきた定義】

「資産は、企業が現在の権利又は他の特権的アクセスを有している現在の経済的資源である。」

【IASB及びFASBにおける資産の定義】

IASB:資産とは、過去の事象の結果として当該企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入することが期待される資源をいう。

FASB:資産とは、過去の取引又は事象の結果として、ある特定の事業体により取得又は支配されている、発生の可能性の高い将来の経済的便益である。

上記の定義に関して、今回合意された主要点は次の通りである。

  • FASBの資産の定義では、資産は、「発生の可能性の高い将来の経済的便益(probable economic benefits)」としているが、この表現を用いずに、「現在の経済的資源(present economic resources)」とする。
  • 資産の定義から発生の可能性に関する評価を含む表現を削除する。IASBの定義では、「経済的便益の流入が期待される資源」、FASBの定義では、「発生の可能性の高い将来の経済的便益」という表現が用いられているが、これを削除する。
  • 「過去の事象の結果」とか「過去の取引又は事象の結果」という表現を改め、「現在の」という表現でこれらを代置する。これにより、過去の取引又は事象が特定できなくても、現在存在する経済的資源は資産の定義を満たすことになる。
  • 新しい定義案に含まれている「他の特権的アクセス」という表現が分かりにくいという指摘を受け、今回、「他者を排除する他のアクセス」という表現が提案された。しかし、この表現に対しては異論も多く、「支配」という概念を用いずに、更に表現を見直すことがスタッフに指示された。

2. 財務諸表の表示

今回は、1. 財務諸表の表示に関する残された問題及び2. 作業原則の1つである一体性の原則の適用に関連する問題点の2つの論点が議論された。

(1)財務諸表の表示に関する残された問題

残された問題として、1. 財政状態計算書において長短区分による表示を求める場合及び2. 資本管理に関する情報の開示及び3. キャッシュ・フロー計算書における純額表示の許容についての検討が行われた

1. 財政状態計算書における長短区分による表示

財政状態計算書において、資産及び負債を長期及び短期に区分して表示すべき企業をどのように特定するかに関して、IASBとFASBとの間に見解の相違があるため議論が行われた。FASBは、金融機関(銀行、投資銀行及び保険会社など)に対しては、長短区分を求めないと暫定的に決定しているが、IAS第1号(財務諸表の表示)では、企業を特定するのではなく、流動性に基づく表示に信頼性があり、かつ、より適合的な場合には長短区分は求められないという形の規定を行っている。議論の結果、IASBの規定の仕方を採用する方が妥当だとされ、FASBに再考を促すこととされた。また、流動性に基づく表示(流動性配列法など)がより適切な企業の例示については、金融機関といった用語は使わず、こうした企業の活動内容に焦点を当てて記述する方向で当該表現を工夫することが暫定的に合意された。

2. 資本管理に関する情報開示

IFRS第7号(金融商品:開示)において求められている資本管理に関する開示を財務諸表の表示プロジェクトの中でも求めることが暫定的に合意されているが、FASBでは、開示の対象とする資本を営業カテゴリーに含まれるものにまで拡大することが暫定的に合意されている。一方、IFRS第7号の開示は、資本又は金融負債に含まれている項目のうち、企業が資本と見なして管理している項目にどのようなものがあるかの開示を求めるもので、営業カテゴリーに含まれるものを対象としておらず(いわゆる運転資本という意味では理解されていない)、両者に差異があるため議論が行われた。議論の結果、資本管理に関する開示は、現行IFRS第7号の求める開示と同じものとすることが暫定的に合意された。

3. キャッシュ・フロー計算書の純額表示

これまでの議論では、キャッシュ・フロー計算書で表示する「キャッシュ」は、従来の現金及び現金同等物ではなく現金のみとすることが暫定的に合意されているが、現金同等物に関連するキャッシュ・フローを純額で表示するかどうかが今回議論された。議論の結果、純額表示を許容することとし、これに関する原則を明示するため、2006年9月のIASB会議で暫定合意されている純額表示に関する新たな一般原則に加えて、現行IAS第7号(キャッシュ・フロー計算書)の第24項に示されている純額表示に関する適用ガイダンスを引き続き維持することが暫定的に合意された。

(2)一体性の原則の適用

今回、財務諸表の表示にあたって、1つの取引は、財政状態計算書、包括利益計算書及びキャッシュ・フロー計算書の3表において同じ区分で表示を行うという一体性の原則に関連する問題が議論された。具体的には、1. 未払配当の区分と表示、2. 為替換算調整勘定の区分と表示及び3. バスケット取引の区分と表示の3つが議論された。

1. 未払配当の区分と表示

普通株式に対して支払われる配当は、現行実務上、未払配当の状態では、財政状態計算書上財務セクションにおいて負債として表示されている。このため、一体性の原則を適用すると、配当支払いによるキャッシュ・フローは、キャッシュ・フロー計算書上財務セクションに表示されることになる。現行実務では、配当の支払いは所有者としての株主との取引であるため、資本セクションで表示されている例も多い。このように未払配当の取扱いが明確ではないため、今回議論された。議論の結果、現行実務における未払配当に係る財政状態計算書の区分に合わせ、キャッシュ・フロー計算書においても配当の支払いは財務セクションで表示することが暫定的に合意された。

2. 為替換算調整勘定の区分と表示

為替換算調整勘定を包括利益計算書上でどのように表示すべきかが議論された。議論では、1. 連結子会社及び比例連結を行うジョイント・ベンチャーに関連する為替換算調整勘定と2. 持分法投資に関する為替換算調整勘定に分けて議論が行われた。議論の結果、連結子会社及び比例連結を行うジョイント・ベンチャーに関連する為替換算調整勘定については、包括利益計算書上に新たな区分として「為替換算調整勘定」セクションを設け、そこで一括して表示することが暫定的に合意された(したがって、事業セクションに区分されることはない)。ここに至るまでには、(a)連結子会社及び比例連結を行うジョイント・ベンチャーに関連する為替換算調整勘定を、連結子会社やジョイント・ベンチャーの資産及び負債が区分されているセクションやカテゴリーにそれぞれ分けて区分する方法及び(b)事業セクションの営業カテゴリーで一括して表示する方法も検討されたが、前者については個々の資産及び負債が属する区分に為替換算調整勘定を配分する費用とその効果が見合わないと判断された。また、後者は、一括して営業カテゴリーで示すため、営業カテゴリーの中にそれ以外のセクション又はカテゴリーに属する資産及び負債に係る為替換算調整勘定が含まれてしまうという問題点があることが認識された。これらを勘案した結果、一体性原則に反するものの、為替換算調整勘定を独立した新たなセクションとすることとされた。
一方、持分法投資に関する為替換算調整勘定については、持分法投資が区分されるカテゴリーに区分することが暫定的に合意された。これは、一体性の原則に対する例外は極力少なくすべきであるという考え方に基づくものである。

3. バスケット取引の区分と表示

バスケット取引とは、複数の資産、又は資産と負債の組合せから構成される1つの取引で、当該取引が複数のカテゴリーに区分されることになる取引を指している。バスケット取引によって生じる資産及び負債、収益及び費用などを複数の区分に分けるべきか、それとも配分せずに1つの区分に一括して表示するかどうかが議論された。
議論の結果、バスケット取引の結果は、それらを構成する資産又は負債が区分される複数の区分に分けて表示すべきことが暫定的に合意された。また、バスケット取引の各カテゴリーへの配分方法を検討することがスタッフに指示された。

3. 公正価値測定

公正価値測定に関するディスカッション・ペーパーは、2006年11月に公表され、2007年5月にコメントが締め切られたが、この間に136通のコメントを受領した。今回は、1. プロジェクトの目的の確認、2. コメントによって指摘された主要論点及び3. 今後の作業計画の3点が議論された。

(1)プロジェクトの目的

今回、次の2点が本プロジェクトの目的であることが確認された。

  1. 現在出口価値に基づく測定ベースに関する原則及び測定ガイダンスを開発すること。
  2. IFRSの各基準の測定ベースが出口価値であるかどうかを評価するために、基準ごとに求められている又は許容されている公正価値測定の内容の検討を完成させる。そして、もし測定ベースが出口価値でないと判断された場合には、どのような測定ベースが要求されているのか(例えば入口価値)、また、それに対して測定ガイダンスを開発する必要があるのかを個別に検討する。
(2) コメントレターの分析

スタッフからは、受領したコメントについて、24の質問の1つ1つについての暫定的な分析結果及び主要論点の提示があった。ここでは、分析の詳細には立ち入らないが、プレスリリース全般に対するコメントの分析のいくつかを紹介する。今回は議論が行われたのみで、暫定合意された事項はない。

  • 財務諸表の利用者からのコメントが少なかった。
  • ディスカッション・ペーパーは、どのように公正価値を計算するかのみを扱っており、既に公正価値による測定を求めているIFRSが前提とされている。したがって、新たに公正価値による測定を求める範囲を拡大することは意図されていない。このように、公正価値による測定を行うべきかどうかは対象外となっているものの、公正価値測定それ自体の是非に関するコメントも寄せられ、多くのコメントが金融商品の公正価値による測定は支持していたが、非金融資産及び金融負債の公正価値測定には否定的であった。
  • ほとんどの回答者は、本プロジェクトの必要性に同意していた。公正価値の測定の仕方に関する単一の基準の作成は、IFRSの質の向上になり、更に、米国会計基準とのコンバージェンスの推進に役立つとしていた。また、公正価値の測定において、米国会計基準とIFRSとの間に差異があれば、これを投資家に説明するのが難しいとの指摘もあった。
  • 米国財務会計基準書(SFAS)第157号(公正価値測定)が公表されて間もないことから、IASBがFASBと異なる見解を有するに到った場合に、FASBがSFAS第157号の改訂に消極的になるのではないか、また、その結果として、IASBは米国会計基準を採用せざるを得ないのではないかという懸念も表明されていた。
(3) 今後の作業計画

暫定的なコメント分析を基に、今後の作業計画が示された。これによると、今後ほとんど毎月のペースで議論を行い、公開草案の公表は、2009年第3四半期が予定されている。また、計画案の中には、東京合意に基づき、企業会計基準委員会(ASBJ)からのインプットが今後適宜に行われることに対する期待が特記されている。

4. IAS第37号(負債、偶発負債及び偶発資産)の改訂

今回は、現在債務の存在が不確実な場合にどのように負債を認識するかに関する議論が行われた。具体的には、1. ハンバーガーの販売業者の例及び2. 病院における死亡の例の2つを用いて現在債務が存在しているかどうかをどのように判断したらいいかについて検討が行われた。

【例】

  • 消費者が汚染されたハンバーガーを購入した場合、売主が購入した消費者それぞれに対して100,000ポンドの補償金を支払うことを法律で義務付けている地域において、ある企業(売主)がハンバーガーを販売している。
  • 200X年12月31日(報告日)現在、売主は、消費者に対し、ハンバーガーを1個販売した。
  • 過去の経験値は、売主が販売したハンバーガーは100万個に1個の割合で汚染されていることを示している。それ以外に入手可能な情報はない。
    この例の場合、売主が報告日時点で現在債務を有しているかどうかに関しては、次の3つの考え方が検討された。見解Aの下では、売主は、汚染されたハンバーガーを販売したことを示す証拠が入手できた時点でのみ負債を認識する。一方、見解Bでは、販売契約によって(この例は、販売契約時がハンバーガーの引渡時と等しくなるが、両者が異なることがあり得る)負債を認識する。見解Cでは、売主は、ハンバーガーを販売する都度、汚染の有無にかかわらず、負債を認識する(測定に当たっては、ハンバーガーが汚染される可能性が考慮される)。IASBの多くのボードメンバーは、暫定的に、見解Bは妥当ではないとして退け、見解Cよりは見解Aの方がより妥当だという考え方をしていると思われる。すなわち、ハンバーガーを販売しただけでは負債を認識するには十分ではなく、ハンバーガーが汚染されているという証拠が必要となる。多くのハンバーガーが販売された場合には、過去の汚染の経験率は、そのような証拠を提供すると考えることができる。この設例では、1個のハンバーガーの販売を仮定しているので、見解Aの下で負債を認識するには、汚染を示す何らかの証拠が必要である。

    (見解A)債務を生じさせる事象は、汚染されたハンバーガーの提供である。当該事象が起こったかどうかは定かではない。したがって、報告日において、債務が生じているかどうかは不確実である。

    (見解B)補償を支払わなければならない義務は、販売契約によって生じる履行債務(良質なハンバーガーを提供するか、あるいは賠償金を払う)である。当該債務は、契約の開始によって生じるが、売主が(良質なハンバーガーを提供することによって)債務を履行したかどうかは不確かである。したがって、報告日において、債務が引き続き存在しているかどうかは不確実である。

    (見解C)現在債務を生じさせる事象は、汚染されている可能性があるハンバーガーの提供である。ハンバーガーを提供したならば、企業は、仮にハンバーガーが汚染されていたならば賠償金を支払わなければならないという債務を含む不可避的なすべての結果を受け入れなければならない。現在債務が存在することは確かであるが、その結果のみが不確実である。

 

【例】

  • 病院で視覚障害を矯正するための特殊な手術が行われる。最近行われた手術において患者が死亡した。
  • このように、患者が死亡することは稀である。仮にこの死亡が病院スタッフの過失によるものだとすれば、病院は患者の親族に対し、賠償をしなければならない。患者の死因の調査はまだ始まっていない。仮に病院スタッフの過失があったことが明らかになれば、病院は100万ユーロの賠償金を支払わなければならない。
  • 入手可能な証拠は、日常の手術における患者の死亡は、70%の確率で病院の過失によって起こったものであることを示している。仮に病院側に過失が認められた場合には、病院は100万ユーロの賠償金を支払う。
    見解Aに従えば、70%の確率で病院の過失が見込まれることから、負債が認識されることになる。その測定の際には、70%という過失が起こり得る確率が反映される。見解Cに従えば、手術を行った時点で負債を認識することとなる。測定の際に、70%という確率が反映されるのは、見解Cと同じである。
    また、負債が存在しているかどうかを判断する際に、蓋然性規準(例えば50%超)を設けるかどうかが検討され、そのような蓋然性規準を導入しないことが暫定的に決定された。これは、現在債務が存在しているかどうかの決定は、入手可能な情報をすべて勘案した総合的判断に基づいて行われるべきだという考え方に基づくものである。

5. リース

今回は、1. リース契約に付随する借手のその他の義務の会計処理及び2. 変動リース料の借手の会計処理の2点が議論された。

(1)リース契約に付随するその他の義務の会計処理

借手に追加的な義務が生じる次の(a)から(c)に示すリース契約の条項について、1. これらの義務は負債の定義を満たすか(満たす場合にはいつ負債が生じるか)、2. 負債に対応する借方の勘定科目は何か、3. 負債の測定をどのように行うか及び4. 借手の負債は、貸手の資産となるかという論点について議論が行われた。

  1. リース資産を返還するために引き受けなければならない費用に関する義務
  2. リース資産をある特定の状態で返還する義務
  3. リース資産を維持する義務

議論の結果、上記(a)の義務については、リース契約の当初において借手に生じる負債である点が暫定的に合意された。それ以外の論点(上記2. から4. )については議論が行われたが、合意には至っていない。それ以外の追加義務(上記(b)及び(c))についても議論が行われたが、合意には至っていない。

(2)変動リース料の借手の会計処理

ここでは、変動リース料は、リースの開始以後に起こった時間の経過以外の要素の変動の結果として生じた支払リース料の増加又は減少であると定義されている。このため、支払リース料は変動するが、事前にその変動が固定されているもの(例えば、5年の解約不能リースで、1年目の支払いはゼロ、2年目はCU2,000、3年目はCU3,000というように各年の支払額が決まっているもの)は対象外である。

今回は、次の3つの変動リース料についての議論が行われた。

  1. カテゴリーⅠ:価格(市場リースレート)の変動又は指標に基づく変動要因による支払リース料
  2. カテゴリーⅡ:リース資産から借手が受ける財務又は営業業績に基づく変動要因による支払リース料
  3. カテゴリーⅢ:借手のリース資産の使用に基づく変動要因による支払リース料

議論の結果、カテゴリーⅠの変動リース料支払条項を含むリース契約に関連する借手の負債は、固定のリース料支払義務と変動要因による追加のリース料支払義務の2つの要素から構成されていることが暫定的に合意された。今回の議論は、結論を求めるものというより、ボードメンバーの理解のための教育といった色彩が強く、暫定合意に至った事項は限られている。

6. 退職後給付(IAS第19号の改訂)

今回は、キャッシュ・バランス・プランに関連して、1. 給付約定の分類及び2. 支払及び支払待機段階における給付の測定の2つの論点が議論された。これらは、2007年9月に議論されたが、更なる検討がスタッフに指示されていた事項である。

(1)給付約定の分類時点

給付約定を確定リターン約定と確定給付約定のいずれかに分類して負債の測定を行うのは累積段階だけとすべきということについては、2007年9月の議論でおおよその合意が得られていたが、従業員が長生きすることによって給付額が増加する長生きリスク(longevity risk)を給付約定の分類に当たって考慮するかどうかについては議論が分かれていた。すなわち、確定リターン約定であっても、支払段階で長生きリスクがある場合には、確定リターン約定とせず確定給付約定と考えるべきであるという意見をどのように整理すべきかについてスタッフに更なる検討が指示されていた。スタッフからは、この問題のいくつかの例を示した上で、長生きリスクは給付約定を決定する要因とすべきではなく、むしろ、退職後給付債務の測定にあたって考慮すべきであるとの提案がなされた。

議論の結果、給付約定の分類は、累積段階だけに注目して決定すべきであり、長生きリスクは分類に影響させないことが、暫定的に合意された。また、支払段階で雇用者が長生きリスクを引き受けている場合、このリスクは、退職後給付負債の測定に当たって考慮すべきことが合わせて合意された。なお、給付約定の累積段階、支払待機(据置期間)及び支払段階は次のように定義されている。

  1. 将来の給付と交換に従業員がサービスを提供する累積段階(accumulation phase)。この段階は、雇用の終了で終わる。
  2. 支払待機(据置)段階(deferment phase)は、従業員が雇用を終了してから給付の支払いが開始されるまでの期間である。
  3. 支払段階(payment phase)は、雇用者の負債が従業員への支払いによって決済される期間である。

(1)支払待機及び支払段階での給付約定の測定

支払待機(据置)及び支払段階での負債の測定に当たって、累積段階の負債の測定と整合性を取るべきかどうかに関しては、次の2つの考え方がある。

  1. 支払待機(据置)及び支払段階での負債の測定は、累積段階の負債の測定と整合性を取る必要がないと考え、前者の負債の測定は、累積段階でどのような負債の測定が行われていても、IAS第19号の予測単位積増方式を用いるという考え方。この場合には、累積段階で確定リターン約定として測定された負債に関しては、累積段階から支払待機(据置)段階に移行し測定属性が変更される時点(例えば、確定リターン約定から予測単位積増方式への変更)で損益が生じる可能性がある。
  2. 支払待機(据置)及び支払段階での負債の測定は、累積段階の負債の測定と整合性を取るべきと考え、支払待機(据置)及び支払段階での負債の測定は、累積段階に適用されていた測定属性を継続するという考え方。この場合には、支払待機(据置)及び支払段階では、同一の支払義務を持つ給付約定が、累積段階での分類が異なることを起因として、異なった負債金額で測定されることになるという問題が生じることになる。

2つの考え方には、それぞれ一長一短があり、ここでの論点は、支払待機及び支払段階での類似債務との測定の首尾一貫性を維持するために途中で会計処理方法を変更することによる損益の発生を甘受するか(上記(a))、それとも、そのような損益の発生を回避するために、支払待機及び支払段階での類似債務の測定における首尾一貫性をあきらめるか(上記(b))という選択の問題だといえる。

議論の結果、測定方法の変更に伴う損益の発生を回避する上記(b)の方法を選択することが暫定的に合意された。

IASBとFASBの合同会議

1. 財務諸表の表示

今回は、1. 今後公表予定のディスカッション・ペーパーの内容及びその形式及び2. ディスカッション・ペーパーに含まれる項目で今後検討を要する事項の内容について議論が行われた。

(1)ディスカッション・ペーパーの内容及び形式

2008年の前半に公表予定のドキュメントの内容及び形式について、スタッフから、ドキュメントは、基準案の提示というような形ではなく、ディスカッション・ペーパーの形式とし、多くの代替案についての議論も含めたものとすることが提案された。また、可能な限り、FASBとIASBの選好する方法を明らかにする(両者の選好が違っている場合にはその理由も付して)ことも提案された。

議論の結果、スタッフ提案が原則として承認された。

ディスカッション・ペーパーは、おおよそ次のようなものとなる。

  1. はじめに(目的、範囲)
  2. 予備的見解(予備的モデルがどのように機能するかの概観、適用ガイダンス、長期目標)
  3. 包括的例示(非金融機関、金融機関)
  4. 検討されなかった論点(1株当たり利益)
  5. 検討された文献
  6. 関連する学術文献のまとめ
  7. 財務諸表の歴史 
  8. 背景と経緯
  9. フェーズAの決定
  10. モデル基準案(もし、ここでの提案が基準化された場合どのような内容になるかを示すものでディスカッション・ペーパーとは別に公表される予定)
(2) 今後の検討事項

2007年11月から2008年2月にかけて検討すべき事項の一覧が示され、その内容が議論された。このような項目には、1. 各財務諸表における小計・合計、2. 包括利益計算書(その他の包括利益(OCI)項目の表示及び法人所得税の配分)、3. キャッシュ・フロー計算書(直接法及び間接法)及び4. 追加のセグメント開示などがある。議論の結果、これらの事項が暫定的に承認された。

2. 概念フレームワーク

今回は、1. 財務報告の目的及び質的特性(フェーズA)の公開草案の公開日数及び2. 資産の定義(フェーズB)について議論が行われた。

(1)フェーズAの公開草案の公開期間

2007年中に公表予定の「財務報告の目的」及び「意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」(フェーズA)に関する公開草案の公開期間を120日とすることが合意された。

(2) 資産の定義(フェーズB)

2007年10月にIASBとFASBは、それぞれに資産の定義についての議論を行ったが、ここでの議論を反映した資産の定義の改訂案がスタッフから提示され、共同で議論が行われた。

議論の結果、次のような定義が暫定的に合意された。

「企業の資産は、強制力のある権利又はその他の手段を通して、企業がアクセスを持ち、又は他者のアクセスを制限できる現在の経済的資源である。」

また、定義に付随する説明文では、「経済的資源」、「強制力のある権利」及び「その他の手段」について記述することが予定されている。

3. 収益認識

2006年10月に議論して以来初めてこの問題が公開の場で議論された。下記の経緯に示すように、この1年間限られたボードアドバイザーによって2つのモデルが開発されてきたが、今回は、これら2つのモデルの概要がスタッフから説明され、質疑応答が行われた。今回は合意に達した事項はない。

(1)これまでの経緯

本プロジェクトは、IASBとFASBの共同プロジェクトで、2002年6月から議論を続けてきている。その目的は、収益認識のための単一の首尾一貫した資産・負債モデルの開発である。そのようなモデルの下では、資産・負債の変動によって収益が認識されることになり、実現及び利益稼得過程(an earning process)の完成によって収益を認識するという考え方は採用されない。販売契約の締結によって企業は履行義務(負債)を負うが、その履行義務の消滅によって収益が認識されることになる。企業が契約によって引き受ける履行義務は、「法的解放金額(legal layoff amount)」と「顧客対価額(customer consideration amount)」という2つの考え方で捉えることができる。この2つの考え方を基に収益認識のための首尾一貫した単一モデルの開発が目指されてきた。

「法的解放金額」モデルは、「法的解放金額(企業に残存するすべての債務を履行する法的な責任を引き受けてもらうために、測定日において第三者に支払われなければならない価格)」を用いて企業の履行義務を測定するモデルである。このモデルでは、顧客との契約額(例えば100)とその契約時点における法的解放金額(顧客に引き渡すべき商品を卸売市場から80で調達できると仮定)に差異がある場合には、契約当初において(すなわち、契約対象の物品・役務の引渡しが行われる前に)収益(20)が認識されることになる(これを「契約時収益(Selling Revenue)」という)。このモデルは、今回のアジェンダペーパーでは、「測定モデル(Measurement model)」と呼ばれている。

「顧客対価額」モデルは、「顧客対価額(販売契約によって顧客との間で合意された販売価格)」を用いて企業の履行義務を測定するモデルである。このモデルでは、履行義務は、契約によって顧客との間で合意された金額とされ、契約が履行された場合には、この金額が収益に振り替えられるため、「契約時収益」は生じないこととなる。このモデルは、今回のアジェンダペーパーでは、「配分モデル(allocation model)」と呼ばれている。

ところが、2006年10月までの議論では、これら2つの考え方をベースに1つの首尾一貫した収益認識モデルをまとめようとしていたが、「法的解放金額」モデル及び「顧客対価額」モデルは、基本的な考え方が異なっており、また、それぞれに固有の利点と問題点があるため、これらをまとめた単一モデルの開発は、時間的にも内容的にも大きな進展が望めない状況となっていた。そこで、2006年10月のIASB・FASB合同会議において、1. 「顧客対価額」に基づく履行義務の認識・測定を行なうモデルと2. 「法的解放金額」基づく履行義務の認識・測定を行なうモデルを並行して検討し、ディスカッション・ペーパーではこの2つの考え方を示し、広くコメントを求めるべきであるという提案がなされ、これが承認された。この結果、それぞれのモデルを支持するIASB及びFASBのボードメンバー3名ずつから構成される2つの検討グループを組織し、そこで、それぞれのモデルを検討することとなった。

今回、これら2つのグループで開発された2つのモデルの内容が両ボードに示され、議論が行われた。

(2)2つのモデルの概要

「測定モデル(法的解放金額モデル)」と「配分モデル(顧客対価額モデル)」の特徴を示すと次のようになる。

1. 測定モデル(法的解放金額モデル)

  • 収益は、1. 契約によって生じる特定の資産又は負債の認識及び2. 特定資産の増加及び特定負債の減少によって生じる(どれくらいの履行が当期に行われたかという評価によって収益を認識するのではない)。
  • ここでいう特定資産又は特定負債は、強制力のある契約から直接生じ、残存している未履行の権利又は未履行の義務を表している。未履行の権利が未履行の義務を上回っている時には契約は資産となり、その逆の場合には、契約は負債となる。
  • 権利又は義務は、直近の出口価値で測定される。
  • 収益は、次の2つの場合に認識される。
  • 契約の取得時に、特定資産が特定負債を上回る場合(顧客に対する請求(対価)額が履行義務の価値を上回る場合)
  • 契約の取得後、契約に基づく履行義務を物品サービスの提供により実行する場合(履行義務を履行した場合)
  • 収益として認識される金額は、契約に基づく特定資産の出口価値の増加、又は特定負債の出口価値の減少として計算される。

2. 配分モデル(顧客対価額モデル)

  • 収益は、特定資産の増加及び特定負債の減少によって生じる(どれくらいの履行が当期の行れたかという評価によって収益を認識するのではない)。
  • ここでいう特定資産又は特定負債は、強制力のある契約から直接生じ、残存している未履行の権利又は未履行の義務を表している。履行の権利が未履行の義務を上回っている時には契約は資産となり、その逆の場合には、契約は負債となる。
  • 契約取得時には、特定資産は、顧客との間で合意した金額で測定される。次いで、当該金額は、契約を構成するそれぞれの履行義務に配分される(それぞれの履行義務の対象である物品サービスの販売価格に基づいて配分される)。顧客対価額をその構成要素である個々の履行義務に配分するため、それぞれの履行義務に配分された金額の合計値は常に顧客対価額と一致し、契約時収益は生じない。なお、契約取得後、当該契約が赤字契約となる場合には、見込まれる損失が費用として認識される。
  • 契約を構成するそれぞれの履行義務が果たされた時点で収益が認識される。

4. 資産と負債の認識の中止

このプロジェクトは、FASBとの間で2006年2月に締結されたMOUプロジェクトの1つであり、2008年までに認識の中止に関するドキュメントの公表が目標とされている。具体的には、スタッフ名によるリサーチ・レポートの公表が予定されている。

今回は、スタッフが準備中のリサーチ・レポートの一部が教育セッションとして紹介され、議論が行われた。具体的には、金融資産の認識の中止のみが取り上げられた。ここでは、リサーチ・レポートのドラフトの概要を紹介する。
なお、認識の中止に関連してリサーチ・レポートでは、認識の中止とリンク・プレゼンテーションの2つが取り上げられている。一方、認識の中止に類似するものとして、金融資産と金融負債の「相殺」(認識された金額を相殺する法的権利を有していて、かつ、純額で決済するか、資産の回収と負債の決済を同時に行う意図を有している場合に、両者の純額を貸借対照表上で表示しなければならない)という概念があるが、これはここでは扱われていない。

(a)リサーチ・レポートの目的

リサーチ・レポートは、まず、公正価値で測定されている金融資産の認識の中止に関する「原則」を明確にする。そのために、現行の資産の定義から出発し、資産の定義を満たさないものは資産として認識しないという原則に基づいて、認識の中止に関する議論を整理している。そして、最終的には、認識の中止に関する原則を金融負債や公正価値以外で測定されている金融資産にも拡大して、認識の中止の問題全般を扱うこととしている。

(b)資産の定義

後述のように、資産の定義を満たさなくなった時点で認識の中止を行うことを考えているので、資産の定義の理解が重要である。資産の定義を構成する3つの要素(経済的資源、支配及び企業に流入する経済的便益)と認識の中止との関係では、次の点が前提とされている。

  • 経済的資源は、キャッシュ・イン・フローを生んだり、キャッシュ・アウト・フローを減少させたりすることができる「契約上の約束(contractual promise)」である。
  • 契約上の約束の履行を要求できる力(支配力)を企業に与えるのは、契約に含まれる権利である。
  • 契約上の約束に対する契約上の権利を有していることにより将来の経済的便益を受領できるが、経済的便益を受領する方法は、金融資産の認識の中止に影響を及ぼさない。

(c)認識の中止に関する原則

リサーチ・レポートで採用されている認識の中止の原則は、「企業は、金融資産を生じさせている契約上の権利(又はその一部)が存在しなくなったときに金融資産の認識の中止を行わなければならない」というものである。

(d)対称性

上記(c)に示した認識の中止に関する原則(金融資産を生じさせている契約上の権利が存在しなくなった時点で認識の中止を行う)を用いることによって、1. 金融資産の当初認識と認識の中止を契約上の権利の存在の有無に基づいて対称的に取り扱うことができ、また、2. 金融資産と金融負債の認識の中止を対称的に取り扱うことができる(金融負債は、契約上の義務が消滅したとき又は企業の義務が存在しなくなったときに認識の中止を行う)。

(e)認識の中止原則の適用(認識の中止となる場合)

企業が有する契約上の権利が存在しなくなれば、企業が当該金融資産に対する権利を再取得する権利又は義務があるかどうかにかかわらず、金融資産の認識の中止が行われる。また、同様に金融資産の価値の変動に基づく経済的便益を授受する権利又は義務があるかどうかにかかわらず、企業が有する契約上の権利が存在しなくなれば、金融資産の認識の中止が行われる。

(f)認識の中止原則の適用(認識の継続となる場合)

企業が契約上の権利を有していれば、次のような企業の約束が存在していても、企業は金融資産の認識を継続する。

  • 当該金融資産を売却しない又は当該金融資産を特定の方法でのみ使用するという企業の約束
  • 企業が当該金融資産から回収した現金を直ちに第三の企業に引き渡すという企業の約束
  • 当該金融資産から生み出される現金を回収して利用できるという権利を第三の企業に付与するという企業の約束
  • 非連結の特別目的企業に対する企業の約束

(g)リンク・プレゼンテーションの原則

リンク・プレゼンテーションのための原則は、「報告日に、企業が、金融資産の経済的便益を認識されている現在債務の決済に利用する無条件の約束を有している場合には、企業は、リンク・プレゼンテーションを適用しなければならない」というものである。ここで、「無条件の約束(unconditional promise)」とは、債務の保有者が、金融資産によって生み出される経済的便益に対する権利を有するためにどんな事象の生成も必要としない状況を言う。

リンク・プレゼンテーションは、「資産からの経済的便益の流入と負債の決済」に関連する情報を提供するための表示メカニズムで、資産によって決済される予定の負債の効果を資産から負債を控除する形式で表示することによって示そうとするものである。この表示は、財政状態計算書、包括利益計算書及びキャッシュ・フロー計算書において行われる。

(h)リンク・プレゼンテーションの必要性

リンク・プレゼンテーションという概念を導入して、認識の中止とリンク・プレゼンテーションとを分離することによって、認識の中止を純化することが意図されている。すなわち、認識の中止を資産の定義に基づいた概念(資産の定義を満たさなくなった時点で認識の中止を行う)として簡素化できる。これにより、認識及び認識の中止は資産に対する権利の有無のみに注目して判断することができることになり、リンク・プレゼンテーションでは資産から企業に流入すると期待される経済的便益の流入方法に注目することができるようになる。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

*本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。