ASBJ 企業会計基準委員会

第69回会議

国際会計基準審議会(IASB)の第69回会議が、2007年6月19日から22日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. 概念フレームワーク、3. 財務諸表の表示(セグメントB)、4. 退職後給付(国際会計基準(IAS)第19号(従業員給付)の改訂)、5. リース、6. 米国会計基準との短期統合化(ジョイント・ベンチャー)、7. 公正価値でプットできる金融商品、9. 国際財務報告基準(IFRS)の年次改善(IAS第38号(無形資産)の広告宣伝費、IAS第16号(有形固定資産)の賃貸用資産の売却、IAS第1号(財務諸表の表示)におけるデリバティブの貸借対照表上での長期及び短期の表示区分、IAS第28号(関連会社投資)における関連会社投資の減損の会計処理、IAS第39号(金融商品:認識及び測定)のおけるヘッジ会計の終了・開始に伴うデリバティブの区分変更など全部で14項目)、9. IFRS第1号(初度適用)の改訂、10. 金融商品、11. 採掘産業、12. テクニカルプラン及び13. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況についての検討が行われた。このほか教育セッションでは、採掘産業が取り上げられた。
IASB会議には理事14名が参加した。本稿では、IASB会議の6. から13. を除く議論の内容を紹介する。

1. 企業結合(第2フェーズ)

今回は、最終基準のドラフト作成中に起こった4つの問題点について議論が行われた。これらは、1. 被取得企業が貸手である場合における市場条件に比べて有利又は不利なオペレーティング・リース契約の会計処理に関する暫定合意の見直し、2. IAS第27号(連結及び分離財務諸表)の損失負担に関する改訂の経過措置の追加、3. 株式報酬の置換えの会計処理、4. 補償資産及びこれに対応する負債の会計処理である。

(1)オペレーティング・リース契約が市場条件に比べて有利又は不利な場合における貸手の会計処理

1. 2007年2月の暫定合意

被取得企業が貸手であって、オペレーティング・リース契約が市場条件に比べて有利又は不利な場合に、取得者の会計処理には、次の2つの考え方がある。

  1. リース契約が市場条件と異なることに起因する価値とリース対象資産そのものの価値とを分離すべきという考え方(リース契約が市場条件に比べて有利な場合には無形資産を認識し、不利な場合には負債を認識する)。
  2. 両者は不即不離の関係にあり分離して捉えることはできないので分離すべきでないという考え方。

IASBは、2007年2月に後者の考え方を暫定的に採用した。すなわち、取得者は、被取得企業が貸手であるオペレーティング・リース契約に伴う資産を、取得日現在で存在しているリース条件を加味した公正価値で認識及び測定しなければならない。これは、投資不動産に随伴するリース契約の価値を反映して、投資不動産の価値を測定すべきというIAS第40号(投資不動産)の取扱いと整合的な考え方である。

2. 2007年4月の暫定合意

ところが、米国財務会計基準審議会(FASB)は、上記(a)の考え方を採用した。このように両者で結論が異なったため、両者の合同会議で議論が行われ、議論の結果、IASBは、米国会計基準とのコンバージェンスに配慮して、FASBの考え方を受入れることを暫定的に決定した。

3. 今回の暫定合意

今回、スタッフから、2007年4月の暫定合意をIAS第40号の公正価値モデルを採用する投資不動産に適用すると当初認識以降の公正価値による測定が複雑となるため、2007年2月の暫定合意に戻ることが提案された。IAS第40号では、投資不動産の公正価値には、現在のリースからの賃貸料収益を反映させることを求めており(第40項)、もし、当初認識時にオペレーティング・リースの対象である投資不動産をリース契約条件を反映しない公正価値で測定し、そして、リース契約が市場条件に比べて有利な場合にはその有利な部分を無形資産として認識し、不利な場合には不利な部分を負債として認識すると、当初認識以後のIAS第40号が求める公正価値測定との間の調整が必要となる。

このようなことから、議論の結果、2007年2月の暫定合意に戻ることが合意された。この結果、リース契約が市場条件と異なることに起因する価値とリース対象資産そのものの価値とは分離せずに、当初認識時の投資不動産の取得価額に含めることとされた。

これに関連して、投資不動産や有形固定資産に原価モデルを採用している場合で、リース期間(「リース契約が市場条件と異なることに起因する価値」はこの期間で償却される)とこれら資産の耐用年数が異なる場合、どのように会計処理をするかについても明確にすることとされ、IAS第16号第44項が改訂されることとなった。具体的には、投資不動産や有形固定資産の取得原価を1. 「リース契約が市場条件と異なることに起因する価値」と2. それ以外の部分に分け、前者はリース期間で減価償却をし、後者は投資不動産や有形固定資産の本来の耐用年数にわたって減価償却することを求めることとされた。

なお、今回のIASBの決定の結果、IASBでは「リース契約が市場条件と異なることに起因する価値」を投資不動産又は有形固定資産として表示するが、FASBでは、投資不動産又は有形固定資産とは分離して、無形資産又は負債として表示することになり、表示に関してのみIASBとFASBの取扱いが異なる結果となる。

(2)改訂IAS第27号の損失負担に関する経過措置の追加

改訂IAS第27号では、子会社に生じた損失は、非支配持分の金額がマイナスとなっても非支配持分に負担させるという改訂が行われている。現行規定では、非支配持分の負担は、特別の追加負担契約がない限り、非支配持分の負担は投資額までとされ(すなわち、非支配持分がゼロとなるまで)、それを超える損失は親会社が負担することとなっている。改訂IAS第27号公開草案は限定的な例外を除き遡及適用することとされているため、損失負担に関するこの改訂は。遡及適用を免除しなければ、過去の子会社の損失処理を遡って修正する必要が出てくる。このような事態を避けるため、損失負担に関する改訂案の取扱いを遡及適用の例外とする必要があるとの提案がスタッフからなされた。

議論の結果、この改訂に関しては遡及適用を求めない経過措置とすることが合意された。

なお、改訂IAS第27号公開草案では、上述の経過措置のほか、次の2つの経過措置が設けられている(第43B項)。これらは、すべて遡及適用せずに将来に向かって適用される。

  1. 支配取得後の子会社に対する持分の変動は、資本取引(equity transaction)として扱い、追加投資額とこれに対応する非支配持分の簿価との差額は資本の部で認識し、当該取引から損益は認識しない、という第30A項及び第30B項の取扱いは遡及適用しない。したがって、改訂公開草案適用前に、支配取得後の子会社に対する持分の増減があった場合に、追加の場合にのれんを認識し、減少の場合に損益を認識していた場合には、これを変更する必要はない。
  2. 支配を喪失した以後も保有する持分について、公正価値での再測定を行なうことを求めている第30E項から第30H項の取扱いは遡及適用しない。したがって、当該投資は支配喪失前の簿価で引続き認識することができる。また、改訂公開草案適用前の支配の喪失を伴う取引から生じる損益は再計算してはならない。

(3)株式報酬の置換えの会計処理

2007年4月の会議で、被取得企業の株式報酬制度を取得企業が新たなものと置き換える場合、企業結合の移転した対価の計算に含めるべきものは、取得企業が、被取得企業の株式報酬制度を取得企業の株式報酬制度に置き換える義務を有している場合に限定することが暫定的に合意されていた。ところが、基準化の最終段階で、義務を有する場合に限定することが適切かどうかについて、疑問が呈されたため、この問題が改めて議論された。議論の結果、取得企業が置き換える義務を有している場合に限定することが改めて確認された。なお、このような義務がない置換えは、企業結合後の取引として扱い、株式報酬制度の改訂の取扱いが適用される。

(4)補償資産及びこれに対応する負債の会計処理

2007年4月に、補償資産(indemnification asset)は、取得日及びその後の各期末において、対応する負債と同額で測定しなければならないことが暫定的に合意された。今回、資産の回収可能性をどのように扱うかについて議論が行われ、次の点が合意された。

  1. 補償資産は、回収可能な範囲で認識しなければならない。
  2. 当初認識以後の測定は、取得日の会計処理と同じとすべき。すなわち、補償資産は、対応する負債の測定に用いられた仮定と同じものを用いて引き続き認識・測定されなければならない。

2. 概念フレームワーク

今回は、2006年7月に公表されたディスカッション・ペーパー「財務報告のための改善された概念フレームワークに関する予備的見解-財務報告の目的及び意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」に対して受領したコメントを受けた議論が行われた。具体的には、1. 第1章「財務報告の目的」及び2. 第2章「意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」のうち適時性に関する論点についての議論が行われた。

(1)「財務報告の目的」に関する議論

「財務報告の目的」に関連して次の5つの論点が議論された。なお、第1章の大きな論点である「受託責任(stewardship)」については将来議論が行われる。

1. 「財務報告の目的」か「財務諸表の目的」か

ディスカッション・ペーパーでは、「財務報告」とは何かが定義されないまま、財務諸表よりも広い範囲の企業外部に対する報告情報を指すといった理解で用いられている。受領したコメントでは、多数が「財務報告の目的」とすることに賛成していたが、IASBが財務報告を明確に定義するまで、財務諸表の目的に絞って議論をすべきではないかとの意見も寄せられ、この論点が改めて議論された(ディスカッション・ペーパー公表前にこの点の議論は行われている)。議論の結果、現時点で財務諸表に絞る必要はなく、概念フレームワークの議論としては、「財務報告の目的」を維持すべきとされた。

2. 「財務報告」の範囲を明確にすべき

当初の計画では、フェーズE「表示及び開示(財務報告の境界を含む)」において財務報告の範囲を検討する予定であるが、コメントでは、財務報告の範囲に関する論点を現時点で取り上げるべきという指摘があった。議論の結果、今後公表する公開草案では、財務報告が何を意味するかに関する記述を含めるものの、財務報告の範囲に関する議論は予定どおりフェーズEにおいて行うこととされた。

3. 所有主理論及び企業体理論

コメントでは、IASBは、第1章において、企業体理論(entity perspective)が所有主理論(proprietary perspective)に勝るということを十分検討しないまま決定しているのではないかという指摘があった。第1章では、一般目的外部財務報告の報告対象となるのは、企業であり、企業に持分を持つ所有主などではないということを示すことが意図されているだけであり、企業体理論及び所有主理論について論じているかのような印象を避けるべきであることが確認され、企業体理論及び所有主理論に関する議論は、フェーズD(報告企業)において議論することが確認された。

4. 主要な利用者グループ

一般目的外部財務報告の主要な利用者グループにどのような関係者が該当するかについては、さまざまなコメントが寄せられた。特に、財務諸表の利用者からは、現在の投資家(株主)に限定すべきとの意見が寄せられた。これを受けて議論が行われ、主要利用者グループとしては、現在及び潜在的投資家及び債権者とすることが確認された。

5. 政府及び規制当局

コメントの中には、政府及び規制当局を一般目的外部財務報告の潜在的利用者としているディスカッション・ペーパーの考え方に反対するものがあり、議論が行われた。議論の結果、政府及び規制当局は、直接必要な情報を企業から入手できるものの、比較を行うなどの必要性から一般目的外部財務報告を利用しており、潜在的な利用者として位置付けることが確認された。

(2)適時性の取扱い

ディスカッション・ペーパーの第2章「意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」
の質的特性の議論の中で、適合性(relevance)の構成要素とされる予測価値(predictive value)、確認価値(confirmatory value)及び適時性(timeliness)のうち、適時性の扱いが、残された問題として今回議論された。

今回の議論では、情報は、適合していなくとも適時に提供されることがあることなどを踏まえ、適時性は、適合性のみに関連するのではなく、他の要素、例えば忠実な表現(faithful presentation)にも関連すると考えるべきである点が指摘された。情報に含まれる不確実性が解消されるときまで待つことによって忠実な表現が改善されるような場合は、適時性が忠実な表現の局面で作用をしていると考えることができる点が留意された。これらを勘案して、適時性は、より広く他の構成要素の機能を補強するととらえるべきとされ、「補強的質的特性(enhancing qualitative characteristic)」に含めるべきことが暫定的に合意された。

この結果、質的特性は、次のように分類される。

質的特性の分類 含まれる特性・構成要素
必須な質的特性
  • 適合性(relevance)(予測価値(predictive value)及び
    確認価値(confirmatory value)を含む)
  • 忠実な表現(faithful presentation)(中立性(neutrality)及び
    完全性(completeness)を含む)
補強的質的特性
  • 比較可能性(comparability)(整合性(consistency)を含む)
  • 理解可能性(understandability)
  • 検証可能性(verifiability)
  • 適時性(timeliness)
質的特性に対する制約条件
  • 重要性(materiality)
  • 費用対効果(benefits and costs)

3. 財務諸表の表示

今回は、1. 資産及び負債の変動原因に関する情報の表示及び開示並びに2. バスケット取引(basket transaction)に関連する表示の問題ついての検討が行なわれた。

(1)資産及び負債の変動原因に関する情報の開示

資産及び負債の変動原因に関する情報をどのように開示するかについての議論が行われた。

1. 資産及び負債の変動の分解表示の規準

スタッフから、資産及び負債の変動、特に収益及び費用として認識された変動を、経営者の判断によって予測価値を持つものと予測価値を持たないものに分け、さらにそれぞれを公正価値の変動と公正価値の変動以外の変動に分けて表示することが提案された。この提案では、収益及び費用として認識された資産及び負債の変動は、1. 予測価値を持つ変動(公正価値の変動)、2. 予測価値を持つ変動(公正価値の変動以外の変動)、3. 予測価値を持たない変動(公正価値の変動)及び4. 予測価値を持たない変動(公正価値の変動以外の変動)の4つに分解して表示することになる。

議論の結果、スタッフ提案とは異なり、経営者の判断に依存せずに、資産及び負債の変動を評価調整(valuation adjustment)かどうかで分けるべきであることが暫定的に合意された。評価調整は、資産又は負債をその取得後現在価値(current value)に評価替えすることによって生じるものである(なお、現在価値には公正価値を含む)。評価調整によって提供される情報は、それ以外の情報とは異なる情報を投資家に与える点を根拠としてこの分解表示が有用だと判断された。したがって、資産負債の変動は、少なくとも、現金、評価調整、その他の資産及び負債の変動に分解されることとなる。

なお、このうち評価調整に関連しては、IASBは、ある事業では、評価調整は、他の資産及び負債の変動に近い性格をもつ可能性があるため、分解表示の調整表を作成するにあたって、会計方針として、企業がそのような評価調整をその他の資産及び負債の変動と同じ様に区分することを許容すべきであると結論付けた。例えば、たな卸資産の評価損は、評価調整とするより、他の売上原価項目と同じように扱う方がより有用であると経営者が考える可能性がある。

2. 資産及び負債の変動情報の開示方法

資産及び負債の変動を投資家が理解するのに役立つ方法で提供するにはどのような開示方法がよいかについて、スタッフから次の3つの方法が提案された。なお、ここでの開示は、いずれの代替案も財務諸表の本体上で表示するのではなく、注記で開示することが前提となっている。

代替案A
財政状態計算書の調整情報としての提示(期首から期末までの資産及び負債の変動を、キャッシュ・フローの変動、包括利益の変動、収益・費用ではない変動などに分けて表示)

代替案B
包括利益計算書の数値を現金、評価調整及びそれ以外の資産及び負債の変動に分けて提示

代替案C
キャッシュ・フロー計算書と包括利益計算書との調整情報として提示(両者の数値の差異を、キャッシュ・フローを伴わないが収益・費用に影響するもの(これはさらに評価調整とそれ以外に分かれる)及び収益・費用に影響しないキャッシュ・フローなどに分けて表示)

議論の結果、代替案Cが最もよいと暫定的に合意された。なお、今後公表されるディスカッション・ペーパーでは、上記3つの代替案を示し、さらに、IASBは代替案Cを選好していることを示すことも暫定的に合意された。

(2)バスケット取引の表示

バスケット取引とは、現在検討している財務諸表での表示区分(営業セクションや財務セクション)のいくつかに分類される複数の資産又は資産と負債の組合せに関連する1つの取引を指している。このような取引をどのように財務諸表で表示するかが論点であるが、今回は、問題点の説明及びそれに関連する意見交換が行われたのみで、将来改めて議論することになる。

3. 退職後給付(IAS第19号の改訂)

今回は、キャッシュ・バランス・プランに関連して、1. 確定リターン約定における給付の各期間への割付、2. 確定給付約定における給付の割付、3. 拠出金要件に関連する負債の測定、及び4. インフレーションの取扱い及び5. 確定リターン約定の費用の分解及び表示の5つの論点が議論された。多様な形態をとるキャッシュ・バランス・プランといわれる退職後給付制度を確定拠出約定、確定給付約定及び確定リターン約定の3つの約定に分解し、それぞれに対応する会計処理を適用することで、キャッシュ・バランス・プラン全体としての会計処理をしようとしている。

(1)確定リターン約定における給付の各期間への割付

確定リターン約定は、1. 拠出金要件(contribution requirement)及び2. それら拠出金に対する約定リターン(promised return)から構成される。拠出金要件は、雇用者に特定の実際又は名目上の拠出金を実際又は名目上のファンドに支払うことを義務付ける。雇用者によるこれら特定の拠出金の支払いは、負っている義務のうちの拠出金部分の義務を消滅させる。約定リターンは、雇用者に拠出金に対する確定リターンを提供することを義務付ける。約定リターンは、資産又は指標の変動にリンクする。

今回議論されたのは、確定リターン約定における給付の各期間への割付の問題である。現行IAS第19号(従業員給付)では、確定給付制度の下で約定された給付の対価として従業員が勤務を提供したときには、企業は当該制度に基づく債務を有するという考え方を採用しており、給付の権利が確定(vested)していなくても、負債を認識している。確定リターン約定の会計処理を考えるに当たっても、この考え方が適用されている。

議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 確定リターン約定の拠出金要素の下での給付は、例え給付算定式が後年度で著しく高い水準の拠出金を定めているとしても、給付算定式に従って勤務期間に割り付ける。
  2. 約定リターン要素の公正価値によって生み出される給付は、関連する拠出金が割り付けられる期間に認識される。

(2)確定給付約定における給付の割付

確定リターン約定の給付の割付では、給付計算式が後年度に高い負担を求めるとしてもそれに修正を加えないこととしているが、現行IAS第19号の確定給付約定では、給付算定式が将来年度に著しく高い水準の給付を割り付けることになる場合には、給付は定額法で将来の期間に割り付けることを求めている。IFRICが、D9「拠出金又は名目的拠出金に対するリターンが約定された従業員給付制度」を検討した際に、IFRICは、給付算定式が、著しく高い水準の給付を後の年度に割り付けているか否かを判断する際に、期待される給与の増加を考慮すべきと結論付けた。受領したコメントでは、この結論は、実務の大きな変革を伴うものだとの指摘があった。この問題の検討は、現行IAS第19号確定給付約定の定義にキャッシュ・バランス・プランが含まれることから、本プロジェクトの進展と関連を持っている。今回、キャッシュ・バランス・プランの定義が明確化してきたことから、スタッフからは、IFRICがD9を完成させるようIASBがIFRICに勧告することが提案された。議論の結果、IASBは、現時点でこの問題を議論することは時期尚早と暫定的に判断した。

(3)拠出金要件に関連する負債の測定

2007年5月の議論では、確定リターン約定を構成する2つの要素のうち、約定リターン部分は、保証されたリターンの公正価値から、その負債を充足するのに利用可能な年金資産を控除した額として測定することとされたが、もう1つの構成要素である拠出金については、未払いの拠出金額で測定することとされた。しかし、このときの議論では、拠出金の拠出までに時間的ずれが生じる場合があることから、時間的価値を考慮する必要がある点が指摘された。今回、スタッフから、拠出金要件部分の測定にあたり、時間的価値を考慮することを含めて、確定リターン約定における拠出金要件と約定リターンの両方に関する負債を、公正価値により測定することが提案された。

議論の結果、このスタッフ提案が暫定的に合意された。特に、拠出のない年金では、時間的価値を考慮しなければ、負債が過大になる点が留意された。また、上記の暫定合意は、確定リターン約定に限定され、確定拠出約定の拠出金に関する事業主の負債は、引き続き、未払いの拠出金の合計額で測定することが確認された。これは、確定拠出約定では、拠出金に関連する給付の割り付けられる期間と拠出金の支払いまでの間に重要な期間のずれがないためである。

(4)インフレーションの取扱い

従業員の勤務期間中におけるインフレーションにリンクする給付の取扱いが議論された。スタッフからは、インフレのうち、賃金インフレにリンクする約定リターンのある給付約定は確定給付に分類し、消費者物価指数などにリンクする約定リターンは確定リターンに分類するという提案がなされた。議論の結果、インフレを賃金インフレとそれ以外に区分すること自体が困難であること及びインフレを2つに分けて会計処理を違えることに理論的正当性がないことから、このように区分するのではなく、指数にリンクするすべてを確定リターン約定として会計処理することが暫定的に合意された。

(5)確定リターン約定に係る費用の分解表示

確定リターン約定に関する負債の変動はどのように分解され、さらに損益計算書で表示されるべきかが議論された。議論の結果、負債の変動は、1. 勤務費用(当期の拠出金に関する負債の当初認識額に当該拠出金に係る約定リターンの当初の公正価値を加えたもの)と2. 公正価値測定による損益(負債の事後的な再測定によって生じるもの)に分けることが暫定的に合意された。また、確定リターン約定に係る負債の変動及び当該負債に充てられる資産の価値の変動は、すべて当期利益に含めて表示されるべきことが暫定的に合意された。

5. リース

今回は、1. 単純なリース契約における借手の負債(義務)の当初認識時及びその後の測定、2. 借手の資産(権利)の当初認識時及びその後の測定及び3. リース契約による資産及び負債の認識の3点が議論された。なお、今回の議論では、当初認識時の取引費用の取扱いは議論されていない(今後議論される予定)。

(1)貸手に対する借手の負債の測定

1. 当初認識時の測定

貸手に対する借手の支払義務に係る負債の当初測定のための2つのアプローチがスタッフから提案され、議論が行われた。

  1. 実務上可能なら、リース上の計算利子率、それが明確でなければ、借手の追加借入利子率を使って将来予想キャッシュ・フローを割り引くことによって計算された現在価値による測定
  2. 公正価値による測定

議論の結果、貸手に対する借手の支払義務は、IAS第39号(金融商品:認識及び測定)で規定する金融負債に該当し、他の金融負債と別に扱う概念的な理由もないことから、金融負債に適用される当初認識時の会計処理、すなわち、公正価値で測定することが暫定的に合意された。

2. 当初認識以降の測定

貸手に対する借手の支払義務に係る負債の当初認識以降の測定のための3つのアプローチがスタッフから提案され、議論が行われた。

  1. 公正価値による測定
  2. 実効金利法による償却原価による測定
  3. リース契約当初に公正価値オプションを選択できる権利のついた、実効金利法による償却原価による測定
    議論の結果、上記(c)が暫定的に選択された。この方法が妥当と判断されたのは、次の理由による。
    • このアプローチは、現行IAS第39号及び米国会計基準の下で類似の金融負債の当初認識以後の測定に用いられている方法と整合的であり、財務報告の比較可能性を増加させる。
    • このアプローチは、借手にとって、公正価値による測定を求めるよりコストがかからない。特に、現在の市場レートを評価するには、借手の負債がリース物件で保証されている度合いを確かめることを伴うためよりコストがかかる。
    • このアプローチは、借手に、割引率の変化によってもたらされる重要な利益のボラティリティを報告することを要求しない(これは、財務諸表の表示のプロジェクトで開発される新しい報告枠組みが決まるまでの間の効果)。
    • このアプローチは、借手が、負債を公正価値で測定することが、より透明な報告をもたらすか、又は資本コストを下げると信じている場合に、公正価値による測定の選択を認めている。

(2)貸手に対する借手の資産の測定

借手の資産(権利)の当初認識時及び当初認識以降の測定のための3つのアプローチがスタッフから提案され、議論が行われた。

(a)代替案A:無形資産アプローチ
借手の保有する使用権は、企業結合以外で取得された無形資産の性格と同様であると考えられ、したがって、当初認識時の測定及び当初認識以降の測定は、企業結合以外で取得した無形資産の会計に関する現行のIAS第38号(無形資産)と整合させるべきであるというアプローチ。

(b)代替案B:リース物件の性格アプローチ
借手の保有する使用権は、リース契約によって使用することができるリース物件の性格と同様であると考え、したがって、有形固定資産のリースは、企業結合以外で取得した有形固定資産の会計に関する現行のIAS第16号(有形固定資産)と整合するように、当初認識時の測定及び当初認識以降の測定を行うべきであるというアプローチ。また、無形資産のリースについても同様にIAS第38号と整合するように当初認識時の測定及び当初認識以降の測定を行うこととなる。

(c)代替案C:セパレート・アカウンティングモデル・アプローチ
(a) 借手の保有する使用権は、無形資産の性格とも、リース物件の性格とも異なると考えられるか、又は、(b)他の測定アプローチを採用することで意思決定により有用な情報をもたらす結果となり、増加便益が増加コストを上回ることになる場合がある。これらいずれのケースでも、借手の保有する使用権の当初認識時の測定及び当初認識以降の測定のために、セパレート・アカウンティングモデルを開発すべきである。この測定アプローチでは、公正価値を使うことが多くなる。

議論の結果、IASBは、上記(b)の方法を選好した。この方法によっても、リース資産を自己の資産と区分して表示することができる。

(3)リース契約による資産及び負債の認識

単純なリース契約に関する資産と負債の当初認識がいつ行われるべきか、そして、それら資産と負債とは何であるかについて議論が行われた。

リース契約による資産及び負債の認識時点としては、契約締結時及びリース資産の受渡日の2つが考えられる。スタッフからは、リース資産の受渡日にリース契約に関する資産と負債の当初認識を行うことが提案された。これは、現行リース会計基準では、契約締結時には、次のような理由で資産及び負債が認識されないことを反映している。

  1. リース資産と負債が同額で相殺されるものである
  2. 未履行契約は認識されないという一般原則がある
  3. リース契約が債務不履行に陥った場合の法的な救済は、一般的に金銭的損害の支払いであり、そのような契約は、全体として一つの契約と見て純額で資産又は負債が認識される
  4. リース契約はリース資産を引き渡す先渡契約(非金融商品の通常の売買契約)であり、このような契約は現行IAS第39号第5項では、金融商品会計基準の対象外とされている(すなわち、デリバティブとして会計処理しない)。

議論では、契約締結時からリース資産の受渡までの間に時間的なずれが大きく、その先渡期間に価値の変動が発生し、認識すべき資産及び負債の測定に影響を与える場合があることが認識され、このような場合に、契約締結からリース資産の受渡日の間に生じる権利及び義務についてさらに検討すべきことがスタッフに指示された。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

*本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。