ASBJ 企業会計基準委員会

第68回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第68回会議が、2007年5月15日から18日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 概念フレームワーク、2. 財務諸表の表示(セグメントB)、3. 国際会計基準(IAS)第37号(引当金)の改訂、4. 退職後給付(IAS第19号(従業員給付)の改訂)、5. リース、6. 国際財務報告基準(IFRS)第2号(株式報酬制度)の改訂、7. 公正価値でプットできる金融商品、8. IFRSの年次改善(IAS第38号(無形資産)の広告宣伝費、IAS第20号(政府補助金)及び第29号(超インフレ経済下の財務報告)の用語のアップデート、IAS第28号(関連会社投資)の減損の処理、IAS第28号及び第31号(ジョイント・ベンチャー)に関連する開示の削除及びIAS第27号(連結財務諸表及び分離財務諸表)における売却予定子会社の分離財務諸表での測定)及び9. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況についての検討が行われた。今回は教育セッションはなかった。

IASB会議には理事13名が参加した(ジョーンズ氏は欠席、またライゼンリング氏も一部会議を欠席した)。本稿では、IASB会議の6. から9. を除く議論の内容を紹介する。

1. 概念フレームワーク

今回は、報告企業(フェーズD)に関する議論が行われた。論点は、1. グループ事業体の構成要素の決定(親会社とグループ事業体の関係)及び2. 親会社が作成する一般目的外部財務報告に含めるべき財務諸表の決定(個別財務諸表又は連結財務諸表のいずれが用いられるべきか)の2つである。これらは、これまでの議論で暫定的な合意が形成されていなかった部分であり、今回の議論を受けて、スタッフは、ディスカッション・ペーパー作成の準備に取りかかることとなった。

(1)グループ事業体の構成要素の決定

グループ事業体の構成要素を決定する規準としてどのようなものを選ぶかが議論された。検討されている考え方は、次の4つである。

  1. 支配企業モデル(controlling entity model):支配概念(企業の財務戦略などを決定できるパワー要素とその成果を享受できるベネフィット要素から構成される)を用いてグループ事業体に含まれる企業の範囲を決定する。すなわち、親会社(支配企業)とその支配下にある企業(子会社)がグループ事業体を構成する。
  2. 共通支配モデル(common control model):共通支配下にある企業のみがグループ事業体を構成する(親会社はグループ事業体には含まれない)。グループ事業体の財務諸表は、親会社を含まない結合財務諸表(combined financial statements)となる。
  3. リスクと経済価値モデル(risks and rewards model):ある企業が他の企業の持分を有している場合で、他の企業の活動がある企業の残余持分に影響する場合、他の企業をある企業のグループに含めるというモデル。この考え方は、価格決定力のある供給者を企業グループに含めてしまう可能性もあり、現実的ではない。
  4. 相乗的管理資産(synergistically managed asset):投資家や債権者などへのリターンを生むために相乗的に管理されている純資産をグループ事業体に含めようとするモデル。この考え方は、定義をどのようにするかによって、かなり広範な企業又は純資産を含める結果となり、実際に適用するには、さらなる検討が必要である。

議論の結果、支配企業モデルが一般目的外部財務報告に最も適しているという点で合意した。ただ、個人やその親族によって支配されている企業群(共通支配下の子会社)の実態を表示するには、支配している個人やその親族をグループ事業体に含まない共通支配モデルが適切な場合があることも認識された。そこで、概念フレームワークのレベルでは、基本として支配企業モデルを採用するものの、その範囲を広く規定し、個別の会計基準レベルで共通支配モデルの採用が可能とすることが暫定的に合意された。また、相乗的管理資産という考え方は採用しないものの、ディスカッション・ペーパーのなかで、この考え方について触れることも併せて暫定的に合意された。なお、FASBも同様な結論になったことがスタッフから報告された。

(2)グループ事業体の一般目的外部財務報告の対象となる財務諸表

親会社(報告企業)が作成する一般目的外部財務報告に含めるべき財務諸表として、親会社の個別財務諸表又は連結財務諸表のいずれか、又は両方が含められるべきかというのが、ここでの論点である。スタッフから提案された次の3つの考え方が検討された。

  1. 一般目的外部財務報告として、親会社の個別財務諸表と連結財務諸表の2つを含めるという考え方(個別財務諸表及び連結財務諸表それぞれが意思決定に有用な情報を提供すると考える)。
  2. 一般目的外部財務報告として、親会社の個別財務諸表又は連結財務諸表のいずれか1つのみを含めるという考え方(親会社の個別財務諸表又は連結財務諸表のいずれを含めるかは、個別の基準レベルで判断する)。
  3. 一般目的外部財務報告として、連結財務諸表のみを含めるという考え方(親会社の個別財務諸表は、不完全で、親会社の資産、負債などを忠実に表現していないとして、一般目的外部財務報告としては認められないと考える)。

議論の結果、一般目的外部財務報告に含めるべき財務諸表として連結財務諸表が必須のものであることには異論がなかった。しかし、親会社の個別財務諸表については、意思決定に有用な情報を提供する場合がある点は認めるものの、常に一般目的外部財務報告の一部に含めるべきかどうかについては、合意が得られなかった。

スタッフから、FASBは、一般目的外部財務報告として、連結財務諸表のみを含めるという考え方を採用することとしたとの報告があった。また、FASBは、親会社の個別財務諸表が意思決定に有用な情報を提供する場合があり、一般目的外部財務報告に追加の情報を提供することになる点は認めているとも報告された。

2. 財務諸表の表示

今回は、1. 流動性情報の表示及び2. 多角的企業(diversified entities)に関連する区分表示の問題(セグメント情報を含む)ついての検討が行なわれた。

(1)流動性情報の表示

1. 流動性の作業原則の見直し

今回の議論では、企業の資産及び負債に関する流動性についての作業原則の見直しが行われ、次のように改訂された。

「財務諸表は、利用者が、期日が到来したときに財務的コミットメントを企業が履行し、ビジネスの機会に投資することができるかどうかに関する評価を行うことを支援するような方法で情報の表示を行わなければならない。企業の財務的コミットメントを履行する能力は、現存する資産をキャッシュ・インフローを生むために利用する能力及び資本を調達できる能力を含むが、これに限られない。企業の財務的コミットメントには、営業、ファイナンシング及び株主に関連するものを含む。」

2. 流動性の表示

IAS第1号(財務諸表の表示)第51項では、流動性に基づく表示(いわゆる流動性配列法や固定性配列法など)が信頼性を持ちより適合性のある情報を提供する場合を除き、財政状態計算書上資産及び負債を流動及び非流動に分けて表示することを求めている。また、流動性に基づく表示が信頼性を持ちより適合性のある情報を提供する場合の例として金融機関が挙げられている(第54項)。なお、本プロジェクトでは、流動及び非流動の区分は1年基準とすることが暫定的に合意されている。

今回、流動性に基づく表示を行っている場合には、短期の契約上の資産及び負債に関する満期情報の開示を求めることが暫定的に合意された。その際の開示の詳細度(例えば、要求払い、1カ月以内、1カ月超3カ月以内、3カ月超1年以内といった区分)は、企業が判断しなければならない。

このほか、すべての企業に対して、長期の契約上の資産及び負債に関する満期情報の開示を求めることが暫定的に合意された。この情報は、割引を行わないベースで作成され、財政状態計算書の残高との調整を示すことが求められる。

この結果、一般企業の場合には、財政状態計算書に短期・長期(従来の流動・非流動)のサブ・カテゴリーを表示した上で、長期の契約上の資産及び負債について満期情報が注記開示されることとなる。

3. 自己資本(capital)の管理に関する開示

IAS第1号第124項Aでは、利用者が、企業の自己資本管理に関する目的、方針及びプロセスに関する情報を開示することを求めている。そして、これを達成するために具体的に次の事項を開示することを求めている(第124項B)。今回、これと同じ開示を引き続き求めることが暫定的に合意された。

  1. 自己資本を管理する目的、方針及びプロセスに関する定性的情報(企業がどのようなものを自己資本として管理しているか、規制当局等外部から課された自己資本規制上の要求の性質及び当該要求をどのように企業の資本管理方針に反映しているか、及び自己資本管理目的をどのように充足させているか)
  2. 企業が自己資本として管理しているものに関する定量的データの要約
  3. 上記(a)及び(b)について前期と比較した当期の変動
  4. 外部から課された自己資本規制の当期の遵守状況
  5. 外部から課された自己資本規制を当期に遵守できなかった場合には、その帰結

(2)多角的企業の区分表示

金融業と製造業のように異なるビジネスを1つの連結グループで行っている企業の連結財務諸表において、異なるビジネスをどのように区分表示することが適切かというのがここでの論点である。今後公表される予定のディスカッション・ペーパーにおいて、多角的企業の場合にどのように表示を行うかに関する記述をすることを決定したため、議論が行われている。

今回の議論では、異なるビジネスを内包している企業では、IFRS第8号(事業セグメント)において規定されている「報告セグメント(reporting segment)」(事業を行う単位である営業セグメント又はその集合で、ある一定の数値規準を満たしたもの。この単位でセグメント情報が開示される)のレベルで表示区分規準(例えば、資産及び負債を財政状態計算書で営業セクションと財務セクションに区分するための会計方針)を適用することが暫定的に合意された。例えば、金融業と製造業という2つの報告セグメントがある場合には、それぞれで区分規準が適用され、前者の場合には、現金を営業カテゴリーに含めるが、後者の場合には財務カテゴリーに含めるということができることになる。このように類似の性格を持つ資産及び負債を異なるカテゴリーに区分している場合には、主要財務諸表(財政状態計算書、包括利益計算書及びキャッシュ・フロー計算書)において、営業カテゴリー及び財務カテゴリーについて報告セグメントのレベルで分けて開示を行うことが暫定的に合意された。なお、このような扱いを多角的企業だけでなくすべての企業にも適用するかどうかについて、今後議論されることになっている。

3. IAS第37号の改訂

今回は、これまでの議論を受けて、1. 概念フレームワークとの関連で、現在債務の存在が不確定な場合と待機債務(stand ready obligation)との識別及び2. 推定債務(constructive obligation)概念の明確化という2点について議論が行われた。なお、これらの問題は、IAS第37号のみに限定されるだけでなく、現在進行している概念フレームワークの負債の定義の議論とも関連性を持っている。

 (1)現在債務の存在が不確定な場合と待機債務との識別

今回は、下記に示す設例に基づいて、現在債務の存在が不確定な場合と待機債務とはどのように異なるのかについて議論が行われた。

【例】

  • 消費者が汚染されたハンバーガーを購入した場合、売主が購入した消費者それぞれに対して100,000ポンドの補償金を支払うことを法律で義務付けている地域において、ある企業(売主)がハンバーガーを販売している。
  • 200X年12月31日(貸借対照表日)現在、売主は、消費者に対し、ハンバーガーを1個販売した。
  • 過去の経験値は、売主が販売したハンバーガーは100万個に1個の割合で汚染されていることを示している。それ以外に入手可能な情報はない。
1.  現在債務の存在が不確定なケース

この設例は、売主にとって、現在債務の存在が不確実な場合を示しているのか、それとも待機債務がある場合を示しているのかが議論された。

議論の結果、この設例は、現在債務の存在が不確定な場合に当たるということが暫定的に合意された。

IAS第37号の改訂公開草案では、次のように記述しており、債務の発生が不確定な将来事象の発生又は不発生に依存している条件付債務を履行するために待機している状態は、無条件の債務を負っている状態(この無条件債務を「待機債務」と呼んでいる)であるとしている(第22項)。

「ある場合には、負債を決済するために要求される金額が1つ又はそれ以上の不確定な将来事象の発生又は不発生に依存している(条件となっている)としても、企業は負債を有している。そのような場合には、企業は、過去の事象の結果として、無条件債務及び条件付債務という2つの債務を負っている。」

この記述では、待機債務は、不確定な将来事象の発生又は不発生に依存している条件付債務を常に伴っているという特徴があることを示している。この判定規準を上記設例の場合に当てはめると、設例では、待機債務であるための条件となる不確定な将来事象は存在していない。すなわち、貸借対照表日現在で1個のハンバーガーを売ったという過去の事象があるだけであり、そのハンバーガーが汚染されていたかどうかは、将来事象の発生又は不発生によって決定されるものではない。言い換えると、汚染されているかどうかは、期末時点に存在しているはずの事象であり、その事実が期末現在では判明していないという状態であるにすぎない(汚染されていると判明すれば、補償金を支払わなければならないが、それが期末時点では不確定な状態である)。この状態は、将来事象の発生・不発生とは異なる事象である。

2. 現在債務が存在するか否か

上述のように、この設例は、現在債務の存在が不確定なケースであることが暫定的に合意されたが、それでは、ハンバーガーを1個販売した結果として貸借対照表日現在で債務が存在していると考えるか、それとも存在していないと考えるかどうかが、次に検討すべき問題とされ、議論が行われた。債務が存在していないという考え方では、入手可能な情報(過去の経験から発生の確率は低く、また、貸借対照表日現在で反証がない限り正常に販売したとみるべき)は、企業が汚染されたハンバーガーを販売したことを示していないので、債務が存在していると見るべきではないと考える。一方、債務が存在しているという考え方では、汚染されたハンバーガーを販売した場合には補償金を支払わなければならないという法律の下で事業を行っている以上、補償金を支払う約束をしているとみるべきだと考える。汚染の可能性が低いから債務が存在しないと考えるのは、論理的でないと主張する。

2つの考え方について議論が行われたものの、どちらのを採用するかについての合意は得られなかった。

(2)推定債務概念の明確化

IAS第37号の改訂公開草案では、推定債務を次のように定義している(第22項)。

「推定的債務とは、次のような時に、企業の過去の行動から発生する現在債務をいう。

  1. 確立されている過去の実務慣行、公表されている方針又は十分に特定された最近の文書によって、企業が外部者に対してある特定の責務を受諾することを表明しており;かつ
  2. その結果として、企業が、外部者に対して、当該企業がこれらの責務を果たすであろうことに合理的に依拠できるという有効な期待を惹起している。」

改訂公開草案では、推定債務の定義を変更し、「合理的に依拠できる」という文言を入れることによって、推定債務が広く解釈されて負債の定義を満たさないものまで包含することを避けることができるよう、その範囲をより厳格にしようとしている。しかし、受領したコメントでは、この点が必ずしも成功していないとの指摘があった。また、最近取り上げられているビジネスリスクと負債を識別するための規準は何かという論点では、現在債務の存在が両者を区分するという議論が行われている。すなわち、現在債務を有しているものが負債であり、それがないものがビジネスリスクであるとしている。

このような状況を前提にして、今回、推定債務が債務となるためには何が必要かという議論が行われた。ここで債務とは、外部の当事者が当該企業に対して特定の方法で行動することを要求する権利を有しているため、当該企業が避けることができないものと考えられている。

今回は、推定債務を厳格化する作業のためには相当な検討をこれから行う必要があるため、スタッフからは、検討すべき方向性を示すことがIASBに求められた。

議論の結果、次の3つの可能性を今後検討することが指示された。

  1. (a) 推定債務として認識できるものを、裁判所が強制できる債務に限定する。
  2. (b) 推定債務として認識できるものを、1. 裁判所が強制できる債務及び2. 「同等の手段によって」強制できる債務に限定し、「同等の手段によって」の意味を検討する。
  3. (c) 上記(b)と同じ範囲とするが、「同等の手段によって」の意味の説明に改訂公開草案第15項を用いる。

なお、改訂公開草案第15項は次のとおりである。

「法的強制力がない場合、当該企業が決済を回避することがほとんどできない現在債務があるかどうかの決定に当たっては、特に注意することが必要である。推定的債務の場合、これは以下のようなケースに限られる。

  1. (a) 企業が相手方に対して、特定の責務を引き受けることを示していること;
  2. (b) 相手方が、企業がこれらの責務を遂行するであろうことについて、合理的に期待できること;
  3. (c) 相手方が、企業の債務の履行から便益を得るか、または不履行から損害を被るかのいずれかであること。」

4. 退職後給付(IAS第19号の改訂)

今回は、1. 縮小と負の過去勤務債務の取扱い、2. 給付約定の定義の見直し及び3. 保証付固定利回り約定と給与関連約定との比較の3つが議論された。

(1) 縮小と負の過去勤務債務の取扱い

2007年4月に続き、確定給付建年金で、給付を減額するような制度改定を縮小として会計処理するのか、それとも負の過去勤務債務として会計処理するのかが議論された。この問題は、国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)に寄せられた論点であり、現行IAS第19号では、過去勤務費用は、正となることも(給付が導入される又は改善される場合)負となることも(現存の給付が減額される場合)あり得る(第7項)。また、縮小は、企業が現在の従業員による将来の勤務の重要な要素がもはや給付に適格とはならず、又は減額された給付のみに適格であるように確定給付制度の条件を改訂した場合に発生するとしている(第111項)。このため、給付を減額する制度改定は、縮小又は負の過去勤務費用のいずれとも解釈できる余地があり、IFRICからは解釈ではなく、IAS第19号を改訂することによって取扱いを明確にすることが提案され、議論が行われている。今回スタッフからは、IAS第19号第98項(e)において、将来の勤務に対する給付の減額となるような制度改定は過去勤務費用には含まれない(これは縮小に該当する)とされていること、及び上述の第111項の規定を踏まえて、次の提案がなされた。

  1. 過去勤務に帰属する給付が削減された場合は、負の過去勤務費用とする。
  2. 将来勤務に対する給付の減額となるような制度改定があった場合には、縮小とする。

議論の結果、スタッフ提案が暫定的に合意された。また、この改訂は、IFRSの年次改善プロジェクトの一環として行うことも併せて暫定的に合意された。

(2)給付約定の定義の見直し

キャッシュ・バランス・プランに関する議論が引き続き行われた。

2007年4月の議論では、スタッフからは、資産ベース約定は、資産(又は指標)に応じて変動するもののみとし、固定した増加をもたらすものは、固定の給付額を提供するものと共に確定給付約定とすべきとの提案がなされた。しかし、今回は、この提案とは異なり、現在給与に基づいて算定される給付約定(現在給与約定(current salary promises)及び通算平均給与約定(career average promises))は、現在給与に基づいているため給与リスクがなく、これを確定リターン約定(従来の「資産ベース約定」という名称を改定した)に含めるという提案がなされ、暫定的に合意された。

1. 3つの給付約定の定義

このような考え方の変更を受けて、3つの約定の定義が次のように暫定的に合意された。

3つの約定 定義
確定拠出約定
(defined contribution promise)
確定拠出約定は、雇用者に分離されたファンドに特定の拠出金の支払いを義務付ける。雇用者によるこれらの支払いは、その義務を消滅させる。これらの約定は、IAS第19号の確定拠出型制度の規定によって会計処理される。
確定リターン約定
(defined return promise)
確定リターン約定は、1. 拠出金要件(contribution requirement)及び2. それら拠出金に対する約定リターン(promised return)から構成される。拠出金要件は、雇用者に特定の実際又は名目上の拠出金を実際又は名目上のファンドに支払うことを義務付ける。雇用者によるこれら特定の拠出金の支払いは、負っている義務のうちの拠出金部分の義務を消滅させる。約定リターンは、雇用者に拠出金に対する確定リターンを提供することを義務付ける。確定リターンは、資産又は指標の変動にリンクする。
確定給付約定
(defined benefit promise)
それ以外の約定は、確定給付約定である。特に、確定給付約定は、サービス又は給与に従って変動するか、又はその支払過程において雇用者に対する人口統計上のリスクを含んでいる。これら約定に対する負債は、IAS第19号の確定給付建制度の規定によって会計処理される。
2. 定義を巡る論点

(a) 確定拠出約定

IAS第19号では、拠出金に係る約定リターンが制度資産の実際のリターンに等しい場合だけは、確定拠出約定として扱い、拠出金のファンドへの支払いをもって債務の消滅と認識している。しかし、退職時の給付約定が制度資産の実際のリターンと異なるリターンで計算された場合には、確定拠出約定として取り扱われることはなく、類似した制度に異なる会計処理が適用されることになってしまう。しかし、今回検討している第1フェーズでは、このような根本的な問題は取り扱わないこととしている。

(b)確定リターン約定

拠出金要件に係る負債は、制度が拠出型か非拠出型かを問わず、未払拠出金の累計額で測定する(この負債は公正価値では測定されない)。一方、拠出金に対する約定リターンに係る負債は、制度で保証されたリターン(現在又は過去の勤務に関して支払うべき所定の拠出金に関してすでに生じている約定リターンに、現在又は過去の勤務に関して支払うべき所定の拠出金に関する保証された将来のリターンの合計)の公正価値から当該負債を充足するために利用可能な制度資産を控除した額に相当する金額として測定する。

(c) 確定給付約定

確定給付約定では、雇用者の責任は給付の支払いとも関連しており、長生きリスク(longevity risk)が重要な影響を及ぼす。権利が確定した確定給付約定は、その後分割支払いされる場合には、受給者の長生きによって支払額が増大するリスクを内包している。このように、その影響は、確定給付債務の発生過程よりも支払過程において顕著であり、それが確定給付制度を他の制度と区別する特徴であると考えられたため、定義の中に長生きリスク(これをより一般化して「人口統計上のリスク」としている)に関する記述が加えられている。

(d)3つの約定の定義の必要性

多様な形態をとるキャッシュ・バランス・プランといわれる退職後給付制度を上述の3つの約定に分解し、それぞれに対応する会計処理を適用することで、会計処理しようとしている。このため、これらの3つの約定を的確に定義することが重要となっている。

(3)保証付固定利回り約定と給与関連約定

ここでは、1. 保証された固定利回りがある給付約定を確定リターン約定と見るか、確定給付約定と見るか、及び2. 給与に関連する約定のうち、ある特定のものを確定リターン約定とし、その他の給与関連約定を確定給付約定と区分すべきかどうかの2点が検討された。

1. 保証された固定利回り約定

雇用者が、退職時の給付約定として、例えば、拠出金と当該拠出金に対する年3%の保証された固定利回りを付加した額に相当する一時金を支払うような場合、利回りが保証されており、これは確定リターン約定の定義を満たす。そのため、保証された固定利回りがある給付約定は確定リターン約定に分類することが暫定的に合意された。

2.給与関連約定の区分

現在給与及び全期間通算の平均給与をベースとする給付約定は、現在給与に基づいて給付額が決定されるため給与変動リスクがなく、その給付は、給与以外の要因(資産又は指標)の変動によっていると考えられるため、確定リターン給付約定に分類することが暫定的に合意された。

また、これ以外の給与に関連する約定は、過去に稼得された給付が将来の給与の増加により影響され、現在給与条件のみによって決定されないため、確定給付に分類することが暫定的に合意された。すなわち、現在給与及び全期間通算の平均給与をベースとする給付約定のみが確定リターン約定に区分される。
この決定の結果、現在IAS第19号の下で確定給付建てとされている全期間通算の平均給与制度のいくつかは、確定リターン約定とされることになる。このことによって、どのような実務上の問題が生じるかについては、ディスカッション・ペーパーで問いかけることとされた。

5.リース

今回は、契約を更新又は中途解約できる権利を借手に与えるリース契約に関する議論が行われた。今回の議論は、教育的なもので、暫定合意は形成されていない。

議論では、1. 借手が更新又は解約のオプション権を持つ単純なリース契約の例、2. オプションを行使するかどうかに影響を与える要因、3. 更新権が生み出す権利及び義務は、解約権が生み出す権利及び義務と同じかどうか及び4. 借手の更新権に含まれる権利及び義務の分析、さらに、5. 借手に更新権や解約権があるリースの会計処理のための4つの代替案の検討といったことが行われた。ここでは、4. 及び5. について記述する。

(1)借手の更新オプションが生み出す権利義務

借手が、リース契約を更新できる権利を有する場合借手にどのような権利義務が生じているかを分析すると次のとおりとなる(ここでは、借手のみについて記述)。

権利の内容 支配 過去の事象 将来の
経済的便益
資産か?
第1のリース期間に機械を使用できる無条件の権利 リース期間に渡って機械を使用できる法的強制力のある権利 リース契約への署名及び機械の引渡し YES YES
第2のリース期間の使用を要求できる無条件の権利 第2の期間の機械の使用を要求できる法的強制力のある権利 リース契約への署名及び機械の引渡し YES YES
第2のリース期間機械を使用できる条件付権利 借手が第2の期間機械を使用できる権利を支配 過去の事象はない。権利は、オプションの行使という条件付 YES NO

 

義務の内容 現在債務 過去の事象 経済的便益の
流出
負債か?
第1のリース期間に渡って特定の支払いを行う義務 リース契約によって創出された法的強制力のある義務 機械の引渡し YES(現金支払い) YES
第1のリース期間末に機械を返却する条件付義務 オプションが権利不行使のまま消滅するという条件付きなので現在の義務はない 機械の引渡し NO(リース契約終了後借手は経済的便益に対する権利がない) NO
第2のリース期間に特定の支払いを行う義務 オプションの行使が条件なので現在の義務はない 過去の事象はない 借手がリースの更新オプションを行使しなければ経済的便益の流出は回避できる NO
第2のリース期間末に機械を返却する条件付義務 オプションの行使が条件なので現在の義務はない 過去の事象はない NO NO

(2)借手に更新権や解約権があるリースの会計処理

借手に更新権や解約権があるリースの会計処理のための次の4つの代替案が示され、これらの利点及び問題点が議論された。なお、この議論では、解約権のあるリースと更新権のあるリースとは、自由に交換できることが前提となっている。

  1. 借手は、オプションが行使されるまで使用権を持ち、そして、オプションがリースを更新する。
  2. 借手は、潜在的な更新期間も含めてリース期間中使用権を有し、オプションがリースを解約する。
  3. 借手は、リース期間又はオプションの行使日まで使用権を有する。認識された資産及び負債は、最も可能性の高いリース期間を基に認識される。オプションは、区分して認識されない。
  4. 借手は、リースの2つの可能性のある帰結の加重平均価値に基づいて測定される使用権を取得する。オプションは、区分して認識されない。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己

*本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。