ASBJ 企業会計基準委員会

第67回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第67回会議が、2007年4月17日から19日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。また、23日及び24日にはFASB(米国財務会計基準審議会)との合同会議がロンドン市内のペインターズホールで行われた。今回のIASB会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. 概念フレームワーク、3. 金融商品(現行金融商品会計基準の置換)、4. 退職後給付(国際会計基準(IAS)第19号(従業員給付)の改訂)、5. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税及びジョイント・ベンチャー)、6. 廃止事業、7. 公正価値でプットできる金融商品及び8. 国際財務報告基準(IFRS)の年次改善についての検討が行われた。このほか教育セッションでは、国際会計基準(IAS)第37号(引当金)の改訂に関連して法律の専門家(General Counsel 100 Group)によって訴訟における不確実性にどのように対応しているか及びIASBの訴訟に関連する暫定合意を実務に適用する場合の困難さについての説明が行われた。

FASBとの合同会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. 概念フレームワーク、3. リース、4. 負債と資本の区分及び5. 無形資産について議論が行われた。IASB会議には理事14名が参加した。また、合同会議には、FASBのボードメンバー7名を加え21名が参加した。本稿では、IASB会議の6. から8. を除くすべて及びFASBとの合同会議のすべての議論の内容を紹介する。

IASB会議

1.企業結合(第2フェーズ)

現在2007年6月末での基準化を目指して最後の詰めの議論が行われている。今回は、1. 非支配持分の測定属性、2. IFRSと米国会計基準における公正価値測定の相違、3. 企業結合で取得された資産、負債及び持分金融商品の取得日での区分と指定の見直し、4. 発効日、5. 開示、6. 企業結合で引き受けられた保険契約及び7. 株式報酬の置換えの7項目が議論された。

(1) 非支配持分の測定属性

2007年3月会議では、非支配持分の測定属性は公正価値とするものの(全部のれん説)、公正価値による測定が「過度の費用又は努力(undue cost or effort)」を要求する場合には、識別可能純資産の公正価値で測定することを許容すること(購入のれん説)とされた(このような場合には、その旨及び非支配持分を公正価値で測定しない理由の開示が求められる)。しかし、その後、「過度の費用又は努力」はあまりにも曖昧としており首尾一貫した適用が担保できないとの指摘があり、今月改めてこの問題が議論された。

議論の結果、非支配持分を公正価値で測定することを主張するボードメンバーと識別可能純資産の公正価値の非支配持分相当額として測定することを主張するボードメンバーのいずれもが基準として成立するために必要な9票に達しなかったため、2つの会計処理を取引ごとに自由に選択できることとすることが暫定的に合意された。この問題は、その後FASBとの合同会議でも議論された。

(2) IFRSと米国会計基準とにおける公正価値測定の相違

2006年10月のFASBとの合同会議で、企業結合における測定属性について議論が行われた。これは、FASBとIASBとで、公正価値の定義が異なるためである。FASBでは、米国財務会計基準書第157号(公正価値測定)で規定する出口価値を公正価値の定義に採用しているが、IFRS第3号(企業結合)では、「取引の知識のある自発的な当事者間で、第三者取引条件で資産が交換され、又は負債が決済される価額」と定義されている。この定義の違いが、企業結合によって取得される資産又は引き受けられる負債の評価に影響を与えるかどうかを検討することがスタッフに要請されていた。

スタッフは、この目的を達成するため、評価の専門家からなるワーキンググループを組成し、ある仮定の企業結合取引を想定して、取得される資産又は引き受けられる負債の評価に当り、米国会計基準による場合とIFRSによる場合で差異があるかどうかの質問を行った。

その結果、ほとんどの場合、米国会計基準の場合でもIFRSの場合でも、公正価値を得るために、同じモデル、同じインプット及び同じ技法を用いているとの回答を得た。しかし、次のようなことを起因として差異が生じる可能性が指摘された。

  1. 米国会計基準では出口価値を用いているが、IFRSでは交換価値という用語を用いている(いつも差異が生じるとは限らないが、差異が生じる場合があり得る)
  2. 参照市場の相違(米国会計基準では、第一に主要市場を参照し、それがない場合にのみ最も有利な市場が参照されるが、IFRSでは、最も有利な市場が参照されるので差異が生じる場合があり得る)
  3. 最有効利用(highest and best use)概念は米国会計基準にはあるが、IFRSでは明示的に示されてはいない(実務上ほとんど差異はないと思われるが、首尾一貫した適用を担保するには同一用語が用いられるべき)
  4. 米国会計基準では、負債の測定に当り、第三者への移転(決済ではない)に際し未履行リスク(non-performance risk)は移転の前後で変わらないという前提が置かれている。ここでは、未履行リスク(債務が履行されないリスクで、負債が移転されるときにその価値に反映されるもの)が用いられているが、IFRSでは、信用リスク(credit risk)が用いられている(この用語の差による差異はほとんど重要性がないと思われる)

議論の結果、米国会計基準とIFRSにおいてほとんどの場合公正価値の定義は首尾一貫しており、また、あり得る差異も投資家の判断に影響するほどのものではないと判断されたため、IASBは、企業結合の測定属性は公正価値であり、その際には、IFRS第3号の公正価値概念を用いるべきことに暫定的に合意した。ここで指摘された差異は、今後IASBの公正価値測定プロジェクトで検討されることとなった。また、類似の概念を説明するのに用いられている用語が異なることに起因する差異については、それらの差異に関する議論を結論の背景又は適用ガイダンスで示すことが検討されることとなった。

(3) 企業結合で取得された資産、負債及び持分金融商品の取得日での区分と指定の見直し

2006年2月会議では、企業結合を契機に引き継いだ被取得企業の資産、負債等の区分を再評価すべきかどうか、又はどのような場合に再評価ができるのかについてガイダンスを最終基準に含めることとし、どのようなものに対して再評価を認めるかについてスタッフに検討が指示されていた。検討すべき候補として挙げられていたのは次のとおりである。

  1. オペレーティング・リースとファイナンス・リースの区分
  2. 保険契約かどうかの判断
  3. 売却目的資産としての区分
  4. 組込みデリバティブのホスト契約から分離
  5. ヘッジ関係の指定
  6. 金融商品の保有目的区分(満期保有、売買目的、売却可能等の区分)

今回スタッフからは、どのような場合に再評価が認められるかといった個別的な対応ではなく、むしろ、取得企業が、企業結合を契機に引き継いだ資産、負債及び持分金融商品のすべてをその時点に存在している状況を勘案して区分及び指定を見直すべきであるとの原則を明確にすべきであるとの提案がなされた。ところが、FASBは、そのような原則を明示することに難色を示し、むしろ、引き継いだ資産、負債及び持分金融商品の認識及び測定に当っては、それらをカバーする他の米国会計基準を参照し、そのような基準がない時は、米国の現在の実務を肯定すべきと考えている。上記6つの候補のうち、組込みデリバティブのホスト契約から分離の取扱いについては、FASBでは取得日での見直しを許容しているが、IASBでは実務上見直している場合とそうでない場合があり、両者の違いの調整を図る必要があると指摘された。結局、この会議では結論を出さず、翌週のFASBとの会議で議論することとされた。

(4)発効日

改訂IFRS第3号及び改訂IAS第27号(連結及び分離財務諸表)を同時に適用開始することとし、2009年1月1日以降に開始する事業年度から発効させることが暫定的に合意された。なお、早期適用を行う際には、その事実の開示が求められる。

(5) 開示

基本的に公開草案で提案されている開示を引き継ぐことが暫定的に合意された。また、偶発事象に関する開示については、IFRS第3号第47項で、IAS第37号(引当金)の開示が参照されているが、これを基本的に引き継ぐことが暫定的に合意された。さらに次の開示も求めることが暫定的に合意された。

  1. 偶発負債が信頼を持って測定できない場合には、取得企業はその理由を開示し、さらに流出の可能性にかかわらずIAS第37号第86項による開示(財務上の影響の見積額、流出の金額及びタイミングに関する不確実性の指標及び補填の可能性)を求める。
  2. 概念フレームワークの資産の定義を満たす偶発資産が信頼を持って測定できない場合、取得企業はその理由を開示し、さらに経済価値の流入の可能性にかかわらずIAS第37号第89項による開示(偶発資産の性質及び、もし可能であれば、財務上の影響の見積額)を求める。
(6)保険契約 

企業結合で引き継がれた保険契約には、IFRS第4号(保険契約)を適用することとし、最終基準では、保険契約に関する記述をしないことが暫定的に合意された。

(7) 株式報酬の置換え

被取得企業の株式報酬制度を取得企業が新たなものと置き換えた場合の取扱いについては、適用ガイダンスのA102項からA109項に規定がある。今回議論されたのは、取得企業が、被取得企業の株式報酬制度を取得企業の株式報酬制度に置き換える義務を有している場合である。取扱いでは、取得企業の株式報酬制度のすべて又は一部を企業結合の対価にどのように含めるか、また、企業結合後の損益とする額をどのように計算するかといった取扱いである。次の取扱いが暫定的に合意された。

取得日に、取得企業は、1. 代替した取得企業の株式報酬制度の公正価値が2. 置き換えられた被取得企業の株式報酬制度の公正価値を超える金額(1. -2. )を企業結合後の損益として、取得企業の株式報酬制度の権利確定までの期間にわたって費用として認識する(将来の勤務費用とともに会計処理される)。

代替した取得企業の株式報酬制度の公正価値から上記(a)の超過額(1. -2. )を差引いた金額(3. )を企業結合の対価と企業結合後の損益に分けるための計算に当っては、権利確定までの期間又は被取得企業の原契約の権利確定期間のいずれか大きい方に対する既に労働サービスを提供した期間の比率を3. にかけて算出した金額を企業結合の対価とし、残りを企業結合後の損益とする。この区分の仕方は、IFRS第2号の対象となるすべての株式報酬制度に適用される(すなわち、株式報酬制度で株式報酬が資本として認識されるもののみならず、負債として認識されるものにもこの考え方が適用される)。

従業員の退職等による権利の喪失(forfeiture)の見積りを、企業結合の対価とされる権利未確定な株式報酬(労働サービスは適用済み)の公正価値の算定に当り考慮することを求めることとする。従業員の退職等による権利の喪失は、株式報酬の公正価値の見積りに含めないことが原則であるが、企業結合の対価とされる場合は例外となる。

企業結合の対価とされた株式報酬(従業員の退職等による権利の喪失の見積りを反映した後のもの)に起こる、企業結合後の従業員の退職等による権利の喪失は、企業結合による対価の額(購入価格)を事後的に変更させるべき事態ではないことが確認された。すなわち、企業結合後に起こった従業員の退職等による権利の喪失の見積りの変動は、それが起こった期の損益として会計処理することとなる。この考え方は、IFRS第2号の対象となるすべての株式報酬制度に適用される(すなわち、株式報酬制度で株式報酬が資本として認識されるもののみならず、負債として認識されるものにこの考え方が適用される)。

代替された株式報酬制度に関連する法人所得税は、IAS第12号(法人所得税)に基づいて処理することとし、スタッフがその影響について検討することとなった。
 

2. 概念フレームワーク

今回は、2006年7月に公表されたディスカッション・ペーパー「財務報告のための改善された概念フレームワークに関する予備的見解-財務報告の目的及び意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」に寄せられたコメントの分析結果を受けて、1. 第2章「意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」及び2. 概念フレームワークプロジェクト全般に関する論点についての議論が行われた。

(1)コメントを踏まえた質的特性に関する議論

ディスカッション・ペーパーの第2章「意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」に対して受領したコメントの分析に基づいた議論が行われた。

第2章では、質的特性として、適合性(relevance)、忠実な表現(faithful presentation)、比較可能性(comparability)及び理解可能性(understandability)の4つ(これを「必須な質的特性」という)が示され、これらに対する制約条件として重要性(materiality)と費用対効果(benefits and costs)を掲げ、さらにこれらの関係を整理している。

適合性は、さらに予測価値(predictive value)、確認価値(confirmatory value)及び適時性(timeliness)に分かれている。忠実な表現は、さらに検証可能性(verifiability)、中立性(neutrality)及び完全性(completeness)に分かれている。

検証可能性は、異なる知識を有する独立した観察者が概ねの合意に達することを意味し、それは、情報が表現したい経済事象を重大な誤謬及び偏向がなく表現していること(直接検証可能性)によるか、又は選択された認識又は測定方法が重大な誤謬及び偏向がなく適用されること(間接検証可能性)によって達成される。さらに、検証可能性は「方法の誤謬(errors of method)」と「適用の誤謬(errors of application)」という2つのサブ概念に分かれ、前者は、経済事象を忠実に表現することにならない認識方法又は測定方法を用いることをいい、後者は認識方法又は測定方法を間違って適用することをいう。

また、比較可能性には整合性(consistency)という概念も含み、比較可能性は、読者が2組の経済的事象の間の類似性及び相違を識別することができるという情報の特性であるとされ、整合性は、同一の会計方針及び手続を、同一企業内で各会計期間にわたり、又はある一つの期間において企業間で用いることをさしている。

今回議論の対象とされたのは、受領したコメントの分析結果を受けて、更に検討を要すると考えられた1. 忠実な表現、2. 理解可能性、3. 財務報告の制約条件及び4. 保守主義であった。
スタッフによる分析と提案を議論した結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 信頼性に代えて「忠実な表現」を用いるという提案が確認された。忠実な表現に関連して、多くのコメントが信頼性(情報が有用であるためには信頼し得るものでなければならず、情報は、重大な誤謬及び偏向がなく、表現しようとするもの又は合理的に表現されると期待されるものを忠実に表現しているとして、利用者が依存できる場合に信頼性という特質を有する)に代えて忠実な表現を用いることに懸念を示していた。しかし、コメント回答者が考えている信頼性の意味にはばらつきがあり、多様な回答者が多様に信頼性の意味を理解している。このことが信頼性という用語を忠実な表現に変更することの妥当性を示していると判断された。
  2. 検証可能性を忠実な表現(必須な質的特性)から分離し、新たに「補強的質的特性(enhancing qualitative characteristic)」として独立させる。中立性や適時性を欠いた情報は忠実な表現とはならないが、検証可能性を有していない情報であっても忠実な表現となり得ることから(経済事象を反映しているが検証可能でないということがある)、検証可能性を忠実な表現から独立させることとされた。
  3. 忠実な表現の記述を変更して、「忠実な表現は、元になっている事象の経済的実態を形式とは関わりなく表現することを求めるものであり、中立性及び適時性は必要であるが忠実な表現をするためには十分ではない。」ということをより明確にする。
  4. 必須な質的特性と補強的質的特性との違いを明確にする。質的特性は、必須な質的特性、補強的質的特性及び質的特性に対する制約条件の3つから構成されることになる。
  5. 理解可能性に関する議論を第1章「財務報告の目的」における財務報告の主たる利用者グループに関する記述とより関連させるように明確化を図る。これは、理解可能性の記述では、「ビジネス及び経済活動並びに財務報告に関する合理的な知識を有する利用者」という記述があるが、これと第1章(OB6)で示されている持分投資家、債権者などの主たる利用者グループとどのように関連しているか明確でないとのコメントに対応したものである。
  6. 保守主義は、中立性と矛盾するため忠実な表現の構成要素とはならないという点が改めて確認された。 このほか、適時性について、これを適合性の構成要素から分離し、補強的質的特性か質的特性の制約条件とするかを更に検討することがスタッフに指示された。
(2)概念フレームワーク全般に対する論点

ディスカッション・ペーパーに対するコメントには、プロジェクト全般に関連する2つの論点が含まれていた。1つは、概念フレームワークの非営利事業体(not-for-profit entity)への適用に関連するものであり、もう1つは、概念フレームワークの権威に関するものである。後者はFASB独自の問題であるので、ここでは、前者について紹介する。

非営利事業体への概念フレームワークの適用に関する問題は、営利事業体に対する概念フレームワークの適用に関する議論が終了した後にフェーズGとして取り上げることが、プロジェクトの開始時点で合意されているが、コメントでは、これを早めるべきだとの指摘があった。議論の結果、当初の予定通りとすることが改めて確認された。しかし、今後ディスカッション・ペーパーを作成する際には、できるだけ非営利事業体をも包含するような形の表現を用いることがスタッフに指示された。

3. 金融商品

このプロジェクトは、金融商品に関する現行の会計基準を全面公正価値の採用(公正価値モデル)によって置き換えるという長期的なプロジェクトであり、2008年1月までのデュー・プロセス文書の公表が目標とされているものである。また、デュー・プロセス文書では、できるだけIASBの予備的見解を示すこととなっている。

2007年3月の議論では、デュー・プロセス文書において、同文書の公表後長期的な目的である公正価値モデルをどのように達成していくのかという将来のアプローチを記述する必要があり、その方向性について、次の2つの提案が示され、議論が行われた。

  1. 公正価値モデルを実現するための公開草案を直ちに作成する。
  2. 公正価値モデルを採用する前に、1つ以上の中間段階をおいて徐々に公正価値モデルに向けて作業を進める。

上記(b)の議論では、どのような中間段階を設けるかに関する判断規準についても議論された。そのような規準には、公正価値による測定を求める金融商品の範囲を拡大することや複雑さを解消するといったものが挙げられた。例えば、満期保有債券や売却可能金融資産といった区分の削減が議論された。

今回は、究極の目標である公正価値モデルに直接進むのではなく、中間段階を経る場合、どのようにして基準の複雑性を解消できるかに関する記述をするのが妥当かについて議論が行われた。原則は公正価値での測定とし、例えば、あるキャッシュ・フローの特徴を持つ金融商品については、当初認識時に償却原価による測定を指定できるようにするといった例外の設定の仕方が議論された。また、ヘッジ会計を取り上げ、公正価値での測定を原則とすることによって、公正価値ヘッジを削除し、キャッシュ・フロー・ヘッジのみを例外として認めることとする場合に、現在のヘッジ会計の複雑さがいかに解消されるかが議論された。今回は、議論だけで、暫定合意はされていない。

4. 退職後給付(IAS第19号の改訂)

今回は、1. キャッシュ・バランス・プラン、2. 年金の縮小と清算に伴う損益の表示及び3. 縮小と負の過去勤務債務の取扱いの3つが議論された。

(1)キャッシュ・バランス・プラン

2007年2月に続きキャッシュ・バランス・プランに関する議論が行われた。このときの議論では、「固定した増加」の取扱いが論点となった。例えば、企業は毎年給与額の8%をファンドに拠出し、当該拠出額に対して毎年4%の固定レートでの利回りが退職時まで確定しているような年金の場合、「毎年4%の固定レートでの利回り」という部分を確定給付約定と見るのか、資産ベース約定と見るのかが議論された。議論の結果、このような固定した増加額があるような約定は、資産ベース約定と見ることが暫定的に合意された。これは、スタッフの提案とは異なるものであり、この暫定合意がどのような影響を与えるかについてさらにスタッフが検討することとなっていた。
今回は、これを受けて、スタッフから「固定した増加」を資産ベース約定と見ることの問題点が示され、議論が行われた。

1. 3つの給付約定

まず、この問題の前提となる退職後給付の3つの区分、すなわち、1. 確定拠出約定(defined contribution promise)、2. 資産ベース約定(asset-based promise)及び3. 確定給付約定(1. 及び2. 以外がこれに該当)(defined benefit promise)とその会計処理をまとめておく。

  1. 確定拠出約定は、分離されたファンドに一旦確定拠出額が支払われたら、当期及び(支払われた以降の)過去の期に関して、企業がなんらの債務を負わない約定をいう。これらに対しては、IAS第19号の確定拠出型年金の会計処理が適用される。
  2. 資産ベース約定は、当該約定の金額が資産又は指標(ただし、固定した増加を生む資産又は指標を除く)の変動に応じて変動する約定をいう。これらの約定は、公正価値で測定すべきと提案されている。
  3. それ以外の給付約定は、確定給付約定である。確定給付約定は、特定の固定した増加、サービス又は給与に従って変動する。これらに対しては、IAS第19号の確定給付型年金の会計処理が適用される。

2. 今回の議論

スタッフからは、資産ベース約定は、資産(又は指標)に応じて変動するもののみとし、固定した増加をもたらすものは、固定の給付額を提供するものと共に確定給付約定とすべきとの提案がなされた。これは、「固定した増加」を資産ベース約定に含めると、「固定した増加」と類似する「固定の給付額」との区別が難しくなるからで、資産ベース約定に該当する年金が多くなる可能性がある。このほか、預金のような性格を持つ給付(確定拠出と保証が組み合わされたもの)が確定拠出に該当しないため、確定給付とされることになる点が注目され、これらも含めて、3つの約定の定義を見直すことがスタッフに指示された。また、「資産ベース」という用語についても誤解を招くおそれがあるとして、その見直しが指示された。

(2)縮小と清算に伴う損益の表示

2007年3月の議論では、退職後給付債務及び年金資産に関連して当期に生じた変動はすべて包括利益として報告するが、その包括利益計算書での表示については予備的見解を表明しないこととするとし、さらに、当該変動を当期利益に含めるかどうかに関する3つの代替案をディスカッション・ペーパーに含めることに合意した(また、IASBが選好する方法は、すべての変動を当期利益で認識する方法であることを明示する)。

  1. すべての変動を当期利益で認識する。
  2. 財務費用をその他包括利益で認識する(勤務費用、割引率の変動によるものを除く確定給付債務にかかる数理計算上の差異を当期利益で認識し、利息費用、割引率の変動による確定給付債務にかかる数理計算上の差異及び年金資産のすべての変動はその他包括利益で認識する)。
  3. 再測定損益をその他包括利益で認識する(勤務費用、利息費用、割引率の変動によるものを除く確定給付債務にかかる数理計算上の差異、年金資産にかかる受取配当及び年金資産に生じた受取金利(公正価値に内在する直近の金利を用いて計算する)は当期利益に含め、割引率の変動及び年金資産の残りの変動はその他包括利益で認識する)。

今回は、確定給付約定の清算及び縮小に関連して発生する利得又は損失を上記3つの代替案の中にどのように含めるべきかが議論された。議論の結果、次の点について暫定的に合意された。

  • 清算及び縮小に伴って発生する利得又は損失は、清算又は縮小が発生したときに認識する。すべての変動を包括利益で認識する。
  • 縮小によって生じる利得又は損失は、勤務費用に対する調整と考え、勤務費用として取り扱う。したがって、上記3つの代替案いずれにおいても当期利益で表示する。
  • 清算によって生じる利得又は損失は、確定給付債務を決済するために必要とされる対価とIAS第19号に従って認識されている測定額との差額であり、勤務費用ではない。むしろ、財政上の仮定の変動と考えられ、上記(a)では当期利益に含められるが、(b)及び(c)では、その他包括利益で表示する。
(3)縮小と負の過去勤務債務の取扱い

確定給付年金で、給付を減額するような制度改定を縮小として会計処理するのか、それとも負の過去勤務債務として会計処理するのかが議論された。この問題は、国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)に寄せられた論点であるが、現行IAS第19号では、過去勤務債務は、正となることも(給付が導入される又は改善される場合)負となることも(現存の給付が減額される場合)あり得るとしている。また、縮小は、企業が現在の従業員による将来の勤務の重要な要素がもはや給付に適格とはならず、又は減額された給付のみに適格であるように確定給付制度の条件を改訂した場合に発生するとしている。このため、給付を減額する制度改定は、縮小又は負の過去勤務債務のいずれとも解釈できる余地があり、IFRICからは解釈ではなく、IAS第19号を改訂することによって取扱いを明確にすることが提案され、今回議論が行われた。スタッフからは、この問題を取り上げること及び負の過去勤務債務の概念を削除し、給付の減額はすべて縮小として会計処理することが提案された。

議論の結果、この問題を取り上げて検討することとし、IFRSの年次改善又は本プロジェクトで改訂を図ることが暫定的に合意された。また、縮小とするか負の過去勤務債務とするかについては、更に検討することがスタッフに指示された。

5. 米国会計基準との短期統合化

今回は、短期統合化項目のうち、1. 法人所得税及び2. ジョイント・ベンチャーについて議論が行なわれた。

(1)法人所得税

今回は、2005年12月にIASBが検討を行ない暫定合意に達した事項をFASBが2007年2月に検討を行ったことを受けて、再度IASBで次の2点の議論が行われた。

  1. のれんの当初認識時に生じる繰延税金資産・負債の認識
  2. 会計上の簿価と異なる税務上の簿価を持つ資産・負債の取扱い

1. のれんの当初認識時に生じる繰延税金資産・負債の認識

IAS第12号第15項では、のれんに対して当初認識に繰延税金負債を認識することを禁止している。ところが、2005年6月に公開された企業結合に関するIFRS第3号(企業結合)の改訂公開草案では、のれんの当初認識時に繰延税金資産を認識することを許容しているが、繰延税金負債の認識は禁止したままであった。そこで、2005年12月にIASBでは繰延税金負債の認識のみを禁止する必要があるのかが議論され、その結果、のれんの当初認識時に繰延税金資産・負債の双方の認識を求めることが暫定的に合意されていた。ところが、FASBは、のれんに対して繰延税金負債の認識をしないという一時差異アプローチの例外を継続することを決定した。これを受けて、今回議論した結果、IASBは、米国会計基準とのコンバージェンスを図るため、前回の決定を覆し、FASBと同様、のれんの当初認識時に繰延税金負債の認識を禁止するという例外を継続することに暫定的に合意した。

2. 会計上の簿価と異なる税務上の簿価を持つ資産・負債の取扱い

現行IAS第12号(法人所得税)では、企業結合以外の取引で、かつ、取引時に会計上及び税務上の損益に影響を与えない資産・負債の当初認識時に繰延税金資産・負債を認識することを禁止している(第15項及び第24項)。しかし、SFAS第109号(法人所得税の会計処理)では、このような例外を設けていない。そこでコンバージェンスを図るため、2005年12月の議論では、企業結合以外で取得された資産に対して当初認識時に税務上の簿価が取得原価と異なる場合には、もし税務上の簿価が公正価値と同じだった場合にいくらの金額になるかを計算して会計上の簿価とするという取扱いを企業結合取引にまで拡大することが暫定的に合意されている。

これまでのところで暫定的に合意されている繰延税金資産・負債及びこれに関連する購入割引引当金の計算方式は次のとおりである。

資産の公正価値を会計上の簿価とし、繰延税金資産・負債を当該公正価値(会計上の簿価)と税務上の簿価との差額に税率をかけたものとして認識する。対価支払額と会計上の簿価及び繰延税金資産・負債の差額として生じる差額を購入割引引当金(繰延税金資産に対する評価勘定)として認識する。購入割引引当金は、関連する税務便益が実現する時点で損益計算書に振り替える。
例えば、資産を支払対価700で取得し、その税務上の簿価が1,100、また公正価値が500と仮定し、適用税率を40%とすると、次のような仕訳が行われる。


(Dr)資産 500 /(Cr)購入割引引当金 40
(Dr)繰延税金資産 240 /(Cr)現金 700
(注1)繰延税金資産:(1,100-500)x40%=-240(借方となる)
(注2)購入割引引当金:700-(500+240)=-40(貸方となる)

今回の会議では、上述の決定内容をどのように解釈するかについて議論が行われた。すなわち、上記の決定では、繰延税金資産又は負債は、資産の公正価値とその税務上の簿価(tax base)との差額に税率をかけて算出される。また、資産の公正価値と支払対価の差額は購入割引引当金又はプレミアム引当金として取り扱われるが、この際の公正価値は何かが議論された。具体的には、資産の公正価値を算出するに当って、1. 市場参加者の全員が税額控除を全額受けらなくとも、全額税額控除できるという前提で計算するのか、2. 市場参加者が税額控除できると考える金額のみを税額控除できるという前提で計算するのかという点が議論された。例えば、無形資産に対する税額控除の限度額が100の国において、ライセンスを150で取得した場合、市場参加者は100の税額控除しかできないので、この国における公正価値は150である。しかし、税額控除に100という限度のない国で同一のライセンスが200の場合、全額税額控除できるという前提で考えると公正価値は200となる。

議論の結果、市場参加者が税額控除できると考える金額のみを税額控除できるという前提で計算するという取扱い(2. の考え方)を行うことが暫定的に合意された。

(2)ジョイント・ベンチャー

本プロジェクトでは、IAS第31号(ジョイント・ベンチャー)において共同支配の事業体の会計処理として認められている2つの処理(比例連結及び持分法)のうち比例連結を削除することを目指している。当初検討されていたのは、ジョイント・ベンチャーへの投資が直接投資か間接投資かに基づいて、直接投資の場合には、その対象となっている資産や負債をそれぞれに適用されるべきIFRSを適用して認識測定し、間接投資の場合には、間接投資に持分法を適用するというモデルである(便宜上このモデルを「直接投資間接投資モデル」と呼ぶ)。

IAS第31号では、ジョイント・ベンチャーの形態を1. 共同支配の営業(jointly controlled operations)、2. 共同支配の資産(jointly controlled assets)及び3. 共同支配の事業体(jointly controlled entities)の3つに分けて規定している。共同支配の営業の場合には、投資企業(venturer)は、自己が支配する資産及び自己が引き受けた負債を自己の財務諸表で認識することとされている。共同支配の資産の場合には、投資企業は共同支配資産に対する自己の持分相当額及び自己が引き受けた負債を自己の財務諸表で認識することとされている。共同支配の事業体においては、比例連結を原則的処理とした上で、持分法の適用も認めている。
今回は、公開草案のドラフトが提示され、1. これに含まれる設例の検討及び2. ドラフトが採用しているアプローチが適切かどうかについて議論が行われた。

1. 設例の検討

スタッフは、IAS第31号を改訂した場合に影響を受ける可能性のある業界(採掘産業、不動産、医薬品及び保険等)からヒアリングを行ったが、そこでの結果を踏まえて8つの設例(記述は省略)が示され、それらでスタッフが展開している分析が妥当かどうかについて議論が行われた。議論の結果、基本的にその内容が妥当とされ、これらを公開草案に含めることが暫定的に合意された。

2. ドラフトが採用しているアプローチの検討

本プロジェクトでは、IAS第31号全体の見直しは意図しておらず、共同支配の事業体の会計処理として認められている比例連結の削除が目的とされている。しかし、公開草案を準備するに当っては、IAS第31号全体の整合性を取る必要から、体裁の大幅な改訂が予定されている。例えば、次のような改訂が予定されている。

  1. 法的契約形態によって会計処理を規定するのではなく、契約上の権利義務に焦点を当てて会計処理を決めようとしているので、「共同支配の事業体」は、特別な会計処理を必要とする形態とは扱わない。それに代えて、事業活動の成果に対して持分を持ち、共同支配をしている場合のみを「ジョイント・ベンチャー」と呼ぶこととする。
  2. IAS第31号全体を包含する概念をジョイント・ベンチャーから、「共同契約(joint arrangement)」に変え、タイトルも同様に変更する。そして、共同契約を特徴付けるのは、共同支配(joint control)ではなく、「共有された意思決定(shared decision making)」とする。
  3. 共同支配という概念は、ジョイント・ベンチャーに限って使用することとし、その結果、共同支配の営業は「共同営業(joint operations)」、共同支配の資産は「共同資産(joint assets)」と名称を変更する(名称から「共同支配」を削除する)。また、共同支配の事業体は「ジョイント・ベンチャー(joint ventures)」と改称する。この結果、共同営業、共同資産及びジョイント・ベンチャーの3つを特徴付けるのは、「共有された意思決定」ということになる(「共同支配」は、「共有された意思決定」のは中に包含される)。さらに、「venturer」は、ジョイント・ベンチャーの参加者のみを指すこととし、その他の場合の参加者は、単に「party」と呼ぶ。
  4. 当初スタッフは、直接投資間接投資モデルを採用する方向で検討を進めてきたが、これに基づく整合的な整理が困難なことから、これを断念している。また、フローチャートによって、本基準に該当する場合をどのように特定するかを示すこととしている。

議論の結果、この方向で公開草案を準備することがスタッフに指示された。 

IASBとFASBの合同会議

1.企業結合(第2フェーズ)

今回は、基準化に際して最後に残っている問題が議論された。検討されたのは、1. オペレーティング・リース契約が市場条件に比べて有利又は不利な場合における貸手の会計処理、2. 企業結合における長期資産の売却目的保有資産としての区分、3. 補償資産及びこれに対応する負債の会計処理、4. 取得日以外の日の発効日としての指定、5. 企業結合で取得された資産、負債及び持分金融商品の取得日での区分と指定の見直し、6. 非支配持分の測定属性及び7. 費用対効果分析であった。これらの議論の後、IASB及びFASBそれぞれのボードメンバーに対して、最終的な基準に対する賛否の表明が求められた。IASBでは、IFRS第3号の改訂案に対しては11対3で、また、IAS第27号の改訂案に対しては9対5で、いずれの改訂案も基準化することが支持された。FASBは、全体を1つとして賛否が問われ、6対1で改訂案を基準化することが支持された。これを踏まえて、スタッフには、最終基準案の作成に着手することが指示された。

ここでは、7. を除く議論を紹介する。

(1)オペレーティング・リース契約が市場条件に比べて有利又は不利な場合における貸手の会計処理

被取得企業が貸手であって、オペレーティング・リース契約が市場条件に比べて有利又は不利な場合に、取得者の会計処理には、1. リース契約が市場条件と異なることに起因する価値とリース対象資産そのものの価値とを分離すべきという考え方(リース契約が市場条件に比べて有利な場合には無形資産を認識し、不利な場合には負債を認識する)と2. 両者は不即不離の関係にあり分離して捉えることはできないので分離すべきでないという2つの考え方がある。IASBは、2007年2月に後者の考え方を暫定的に採用した。すなわち、取得者は、被取得企業が貸手であるオペレーティング・リース契約に伴う資産を、取得日現在で存在しているリース条件を加味した公正価値で認識及び測定しなければならない。これは、投資不動産に随伴するリース契約の価値を反映して、投資不動産の価値を測定すべきというIAS第40号(投資不動産)の取扱いと整合的な考え方である。一方、FASBは、前者(1. )の考え方を採用した。このように両者で結論が異なったため、今回合同会議で議論が行われた。

議論の結果、IASBは、米国会計基準とのコンバージェンスに配慮して、FASBの考え方を受入れることを暫定的に決定した。したがって、取得者は、オペレーティング・リースの対象資産は、その契約条件を考慮することなく、公正価値で測定し、リース契約が市場条件に比べて有利な場合にはその有利な部分を無形資産として認識し、不利な場合には不利な部分を負債として認識することとなる。

(2) 長期資産の売却目的保有資産としての区分

SFAS第144号(長期性資産の減損又は処分に関する会計処理)第32項では、新規に取得した長期資産が、取得日において、1年以内に処分予定という条件のみを満たし、それ以外の条件を取得日後短期間(通常3ヶ月)のうちに満たすことがほぼ確実である場合には、売却目的保有に区分しなければならないと規定している。IFRS第5号(売却目的で保有する非流動資産及び廃止事業)第11項でも同様な規定がおかれている。ところが、FASBは、公開草案のコメント受領後の検討過程でSFAS第144号第32項の削除を決めた。一方、IASBはIFRS第5号の変更は行わなかったため、両者の取扱いが異なっている。今回の議論で、FASBは、コンバージェンスのために、SFAS第144号第32項の削除を取りやめ、元に戻すことを暫定的に決定した。

(3) 補償資産及びこれに対応する負債の会計処理

補償資産(indemnification asset)を取得日に公正価値で測定する一方で対応する負債を公正価値とは異なるベースで測定することによって矛盾が生じるという指摘があり、この問題が議論された。例えば、税債務に不確実性がある場合、取得者は、被取得者に対して、そのような不確実性に対する補償を要求することがある(税債務の支払いが予想を超えた場合に、被取得者がその補償を行う)。このような補償資産と税債務は相殺できないため、別々に測定しなければならず(補償資産は公正価値で、税債務はIAS第12号によって測定)、両者の測定額が異なる場合が生じる可能性がある。

議論の結果、この矛盾を解消するため、補償資産は、取得日及びその後の各期末において、対応する負債と同額で測定しなければならないことが暫定的に合意された。

(4) 取得日以外の日の発効日としての指定

SFAS第141号(企業結合)第48項では、実務上の便宜のため、企業結合の開始日と完了日の間の決算期末を発効日とすることを許容している。議論の結果、最終基準では、このような取扱いを認めないことが暫定的に合意された。

(5) 企業結合で取得された資産、負債及び持分金融商品の取得日での区分と指定の見直し

合同会議直前の2007年4月のIASB会議では、企業結合を契機に引き継いだ被取得企業の資産、負債等の区分の見直し(再評価)について、どのような場合に再評価が認められるかといった個別的な対応ではなく、むしろ、取得企業が、企業結合を契機に引き継いだ資産、負債及び持分金融商品のすべてをその時点に存在している状況を勘案してその区分及び指定を見直すべきであるという原則を明確にすべきであるとの考え方が支持された。ところが、FASBは、そのような原則を明示することに難色を示し、むしろ、引き継いだ資産、負債及び持分金融商品の認識及び測定に当っては、それらをカバーする他の米国会計基準を参照し、そのような基準がない時は、米国の現在の実務を肯定すべきと考えている。このため、議論が行われ、FASBは、上述の原則を明記することに暫定的に合意した。これに加えて、両者は、オペレーティング・リースとファイナンス・リースの区分と保険契約かどうかの判断については、例外を設けることとし、これらは、契約当初に存在していた条件で区分を行うことが暫定的に合意された(取得日には見直さない)。また、組込みデリバティブのホスト契約からの分離についての判断を取得日でできるかどうかについては、米国会計基準では取得日で再評価されているが、IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の下では実務上は再評価することもしないことも許容されていると思われる。今回、組込みデリバティブに例外を設けなかったことから、組込みデリバティブは、取得日にその時点に存在している状況を勘案して区分及び指定を行うこととなる。

(6) 非支配持分の測定属性

この問題では、IASBとFASBは同一の取扱いに統合することができなかった。すなわち、FASBは、非支配持分は公正価値で測定すること(全部のれん説)に決定したが、IASBは、非支配持分を公正価値で測定する方法(全部のれん説)と識別可能純資産の公正価値の非支配持分相当額で測定する方法(購入のれん説)を取引ごとに選択することを認めることを決定した。このように、この部分では、コンバージェンスが達成できなかったものの、それ以外の多くの分野ではコンバージェンスが達成でき、全体としては、企業結合会計基準の改善が図られたという点で両者は合意した。

2. 概念フレームワーク

今回は、1. 測定(フェーズC)に関連して、測定属性の定義及び特性(property)の見直し及び2. 概念フレームワークプロジェクトの進め方について議論が行われた。

(1)測定フェーズ

測定フェーズは、3つの段階に分けて行われることとなっており、今回議論されたのは、第1段階の議論で、特に、円卓会議での指摘を受けて、測定属性の候補を見直している。なお、第2段階は、第1段階で特定された測定属性の候補を質的特性を用いて評価する段階で、第3段階は、概念的な結論及び実務上の適用問題について議論を行う段階である。
今回、従来の測定属性候補を縮小する方向で見直しが行われ、9つの測定属性の候補に絞られた。

  1. 過去入口価格(past entry price)
  2. 修正過去入口価格(modified past entry amount)
  3. 過去出口価格(past exit price)
  4. 現在入口価格(current entry price)
  5. 現在出口価格(current exit price)
  6. 現在均衡価格(current equilibrium price)
  7. 使用価値(value in use)
  8. 将来入口価格(future entry price)
  9. 将来出口価格(future exit price)

今回の議論では、上記の測定属性候補について概ねの合意が得られたので、今後スタッフは、第1段階のまとめとして測定属性の概要を記した簡単な文書(マイルストーンサマリー)を公表する予定である。

(2) 今後のプロジェクトの進め方

現在進めている4つのプロジェクト(財務報告の目的、質的特性、測定及び報告企業)の現状報告があり、これに続いて、今後のあり方について議論され、次の点がスタッフに指示された。なお、現在本プロジェクトは、次のフェーズに分けて進めることとされている。

プロジェクトの各フェーズ及び取扱うトピックス
A 目的及び質的特性
B 構成要素及び認識
C 測定
D 報告企業
E 表示及び開示(財務報告の境界を含む)
F 概念フレームワーク及び公正なる会計慣行のヒエラルキーのステータス
G 非営利セクターへの適用
H 概念フレームワーク全体
  1. 当初の予定通り、最初の4つのプロジェクトの推進及び完成を優先する。
  2.  作業の重複を避けるため、基準レベルのプロジェクトとの連携をより緊密にする。本プロジェクトのボードアドバイザーを活用して、基準レベルのプロジェクトを支援し、より効率的に作業が行えるようにする。

3. リース

今回は、リース・プロジェクトの範囲をどのようにするかについて2つの代替案が検討された。

第1のアプローチは、本プロジェクトでの検討範囲を現行のリース会計基準(IASBの場合、解釈指針第4号(契約がリースを含んでいるかどうかの決定)によってIAS第17号(リース)に取り込まれたものも含む)の範囲に限定しようというものであり、第2のアプローチは、契約が他者の資産の使用権を与えるような契約全般に及ぶ根本的な見直しを行うというものである。

議論の結果、まず当初は、現行のリース会計基準の範囲を基に新たなリースのモデルを開発し、その後(モデルが開発された後)、予備的見解(ディスカッション・ペーパー)が公開される前に、FASBとIASBは、プロジェクトの範囲を使用権を付与するリース以外の契約にも拡張するかどうかを決定するという手順とすることが暫定的に合意された。

4. 負債と資本の区分

このプロジェクトは、FASBが先行して検討を進めており、2007年末にも予備的見解が公表される見通しである。その公表後、IASBは、FASBの予備的見解を自らのディスカッション・ペーパーとして公表し、それ以後、両者は共同してプロジェクトを進めることが予定されている(いわゆる「修正アプローチ」が採用されている)。

これとは別に、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)のPAAinE(Proactive Accounting Activities in Europe)のタースクフォースとドイツ会計基準審議会が共同で負債と資本を区分するためのプロジェクトを進めており、今回その代表によるモデルの説明が行われた。そのモデルは、「損失吸収アプローチ(Loss absorption model)」という考え方を採用しており、企業の立場から見て、「損失を吸収する資本(loss-absorption capital)」を資本(equity)とし、それ以外を負債として区分しようとするものである。意見交換が行われただけで、意思決定は行われなかった。

5. 無形資産

2006年2月のFASBとIASBの覚書(MOU)では、本プロジェクトは、2007年末までにプロジェクトの範囲とタイミングを決定しなければならないこととなっている。今回は、このプロジェクトを担当するオーストラリアの会計基準設定主体の担当者からプロジェクトの提案があり、その内容について議論された(既に、2006年10月及び2007年1月にその内容の議論をしているが、その議論を反映したものが今回議論された)。

プロジェクトの範囲として次の点が暫定的に合意された。

  1. 企業結合で取得されたものを除く識別可能な無形資産(自己創設識別可能無形資産も含む)の当初認識を範囲に含める。
  2. すべての識別可能無形資産の当初認識後の会計処理を範囲に含める。
  3. のれんの当初認識及び当初認識後の会計処理は範囲から除外する。

IASBの日程に限って触れておくと、今後は、2007年6月に基準諮問会議(SAC)にドラフトを諮り、次いで、2007年10月にトラスティーズに説明し、再び、11月にはSACに説明を行う。その上で、12月に正式に議題とすることを決定する予定である。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

*本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。