ASBJ 企業会計基準委員会

第66回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第66回会議が、2007年3月20日から22日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回のIASB会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. 財務諸表の表示(セグメントB)、3. 概念フレームワーク、4. 退職後給付(国際会計基準(IAS)第19号(従業員給付)の改訂)、5. 国際会計基準(IAS)第37号(引当金)の改訂、6. リース、7. 金融商品(現行金融商品会計基準の置換)、8. 1株当たり利益(IAS第33号の改訂)、9. 国際財務報告基準(IFRS)の年次改善(7項目の改訂)、10. テクニカルプラン及び11. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況についての検討が行われた。また、今回教育セッションはなかった。会議には理事14名が参加した。本稿では、1. から7. の議論の内容を紹介する。

1. 企業結合

今回は、1. 偶発対価(contingent consideration)の会計処理、2. 非支配持分の測定属性、3. バーゲン・パーチェス、4. 従業員集団(assembled workforce)の資産認識、5. 評価引当金に関する開示及び6. 一方的な取引による支配の喪失の場合の取扱いの6項目が議論された。

(1)偶発対価の会計処理

偶発対価とは、被取得企業が将来ある特定の目標を達成した場合に被取得企業の株主に対して取得者が追加の持分、現金又はその他の資産を支払うことを約束した場合の対価を指す。公開草案では、偶発対価を取得日の公正価値で認識・測定し、他のIFRSの規定に基づいて負債あるいは資本として分類することを提案している。当初認識の後は、資本に分類された偶発対価は再測定されず、負債に分類された偶発対価は、公正価値により再測定される(IAS第37号の対象となる偶発対価はIAS第37号による)。また、取得日の公正価値に関する情報がその日に入手できない場合には、測定期間中に修正を行うことが求められている。測定期間とは、取得日以後の期間で、その期間中に取得日に暫定的に決めた金額を修正できる期間をいう(最長で1年)。
今回の議論では、偶発対価に関して次の点が暫定的に合意された。

(a) 測定期間中に行う調整には、取得日において存在していた事実や状況に関する新たな情報のみを反映する。すなわち、もし取得日に知られていたなら取得日の偶発対価の測定に反映されたであろう事実や状況のみが反映される(取得日以降に発生した市場条件の変化は測定期間調整には含めない)。

(b) 認識と測定に関する公開草案での提案を再度確認した。

  • 偶発対価を取得日の公正価値で認識・測定する。
  • 偶発対価は他のIFRSの規定に基づいて負債あるいは資本として分類する。
  • 当初認識以後は次のように会計処理する。
    1. 資本に分類された偶発対価は再測定しない。
    2. 負債に分類された偶発対価は、公正価値により再測定する。ただし、IAS第37号の対象となる偶発対価はIAS第37号が規定する金額(期末に現在債務を決済する場合に支払わなければならない金額)で測定する。
    3. 測定期間調整に該当する場合を除き、負債として認識された偶発対価の変動は、他のIFRSに従い当期利益又はその他の包括利益(例えばキャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ手段)として認識する。

(c) 偶発対価に関して次の開示を求めることが再度確認した。

  • 取得日に認識された偶発対価の金額。
  • 取得契約において支払いを行う可能性がある将来支払額の範囲(割引を行わないベース)。支払額に上限がない場合にはその事実。
  • 偶発対価として認識された金額及び将来支払予想額の変動、及びそれらの変動の理由。
  • 偶発対価を測定するために用いられた評価技法。

(2) 非支配持分の測定属性

非支配持分の測定をどのように行うべきかという論点は、企業結合に伴うのれんの認識に関する購入のれん説(親会社部分のみを認識)と全部のれん説(親会社部分と非支配持分部分の合計を認識)の対立の解消のために議論されている。米国財務会計基準審議会(FASB)では、大多数が全部のれん説を支持しているが、IASBでは購入のれん説を支持するボードメンバーも多く議論が収斂していない。そこで、2006年10月からは、のれんの認識という論点から議論するのではなく、非支配持分の測定属性という観点から議論が行われている。

2006年12月には、非支配持分を公正価値で測定するという原則(すなわち全部のれん説の採用)を最終基準で明確にすることが暫定的に合意されたが、また、同時に、公正価値による測定という原則に例外を設けること(すなわち部分的に購入のれん説の採用を許容すること)も暫定的に合意された。それを受けて2007年1月にはどのような例外を設けるかについての議論が行われたが、合意には至らなかった。

このような状況を踏まえた今回の議論では、スタッフから、企業結合においては、のれんは残余として測定されるが、IFRSと米国基準の企業結合公開草案では、その他の資産や負債の測定に関してもいくつかの相違があるため、たとえ非支配持分が公正価値で測定されたとしてものれんとして認識される金額はIFRSと米国基準で異なる可能性があることなどを根拠として、非支配持分を識別可能純資産の公正価値で測定することを原則とすべきという提案(購入のれん説の採用)がなされた。これは、非支配持分の測定においてFASBの決定(全部のれん説の採用)と異なる提案である。

議論の結果、スタッフ提案とは異なり、非支配持分の測定属性は公正価値とするものの(全部のれん説)、公正価値による測定が過度の費用及び努力(undue cost and effort)を要求する場合には、識別可能純資産の公正価値で測定することを許容すること(購入のれん説)が支持された(このような場合には、その旨及び非支配持分を公正価値で測定しない理由の開示が求められる)。今後、この方向でスタッフが内容をまとめることになる。また、識別可能純資産の公正価値で測定する方法を採用しても、支配獲得後の会計処理には影響がないことが確認された。すなわち、支配獲得後の支配持分と非支配持分との間の取引は自己株式の取得などと同様資本取引と見て、その取引からはのれんは生じないこととなる。

(3)バーゲン・パーチェス

バーゲン・パーチェスとは、取得企業の持分の公正価値が取得の対価の公正価値を超える(すなわち割安に購入できた)取引で、稀にしか起こらないと想定されている。バーゲン・パーチェスの場合には、取得者は当該超過額を、認識されるであろうのれんの金額を減少させることによって処理し、生じたのれんがゼロになった以降は、減少しきれなかった残りの超過額を取得日の取得者の利益として認識することとされている。今回、非支配持分が存在する場合にこの会計処理を変更する必要があるかどうかが議論された。

議論の結果、バーゲン・パーチェスの存在により非支配持分の測定が変更されるべきではないとされ、次の方法が暫定的に合意された。1. 被取得企業の取得の対価として支払われた譲渡対価の取得日の公正価値に非支配持分の認識された簿価を加えた額と、2. 取得した識別可能純資産の認識された金額とを比較する。もし、1. >2. であれば、その超過額はのれんとして認識し、1. <2. であれば、その超過額は取得企業に帰属するバーゲン・パーチェス利益として認識する。

(4) 従業員集団

公開草案では、被取得企業の従業員集団は無形資産として認識してはならないとされている(公開草案第40項)。ここで、従業員集団とは、取得企業が企業結合後直ちに営業を継続することを可能とする従業員の集団であると定義される。IASBは、2006年10月に暫定的にこの例外を削除し、従業員集団を無形資産として認識することで合意した。取得企業が、被取得企業を買収した時点で、従業員を募集したり訓練したりすることなく営業を継続できる従業員の集団は、無形資産として認識できる価値を有していると判断されたためである。しかし、この結論は、従業員集団を無形資産として認識しないと暫定的に決定しているFASBと異なる結論であるため、今回改めて議論が行われた。議論の結果、従業員の集団は無形資産として認識するための要件の1つである分離可能性(のれんから資産として分離できる)を満たさないと判断され、無形資産として認識しないことが暫定的に合意された。

(5)評価引当金

公開草案では、企業結合で取得した債権は、その時点の公正価値で測定することとしている。これに対して、金融機関等から、取得した債権の当初の取得価額とそれに対する評価引当金を両建てすることを認めるべきだとの意見が寄せられた。これを議論した結果、IASBは公開草案での考え方を再確認したが、債権の回収可能性に関する情報(企業結合で取得した債権の発生当初からの歴史的パフォーマンス等)を示すことが投資家の意思決定に有用である点を踏まえて、債権の表示及び開示のあり方について、更に検討することをスタッフに指示していた。これを受けて、今回開示内容について議論が行われた。議論の結果、1. 企業結合で取得した主要な債権区分について公正価値、2. 契約総額、3. 取得日に見込まれた回収不能額などの開示を求めることが暫定的に合意された。

(6) 一方的な取引による支配の喪失の会計処理

企業が子会社の株式を自らの株主に移転するなどの一方的な取引によって子会社に対する支配を喪失する場合があり、このような場合を企業結合第2フェーズで取り上げるかが議論され、取り上げないことが暫定的に合意された。

2. 財務諸表の表示

今回は、1. 財政状態計算書における資産及び負債の表示、2. その他包括利益の表示及び3. 現金同等物概念の取扱いついての検討が行なわれた。

(1)財政状態計算書における資産及び負債の表示

作業原則の中に一体性の原則がある。これは、財政状態計算書、包括利益計算書及びキャッシュ・フロー計算書の3つの財務諸表の表示区分をできるだけ同じにしようという原則である。今回、この原則を勘定科目レベルで適用すべきかどうかが議論され、勘定科目レベルで適用された一体性の原則はよりきめ細かい情報を提供することになることから、そうすることが暫定的に合意された。勘定科目レベルで一体性原則を適用するために、期首から期末までの勘定科目の変動を変動要因別に分析する調整情報のあり方について議論が行われた。どの程度の詳細度を持った調整情報とすべきかについてはいろいろ議論がなされ、持続する性質を持つ要因及び測定に主観性が介入する要因を区分することを検討することが暫定的に合意された。このようなものの例として、米国財務会計基準書(SFAS)第157号(公正価値測定)で用いられている公正価値による測定に反復性のあるものを区分する例が挙げられる。また、多くのボードメンバーがキャッシュ・フロー計算書における営業区分の表示に当たり直接法の強制適用に難色を示していることから、直接法が採用されない場合には、包括利益計算書上の営業利益とキャッシュ・フロー計算書上の営業活動からのキャッシュ・フローとの間の差異調整表を財務諸表で表示することを引続き検討することが合意された。

(2)その他包括利益の表示

その他包括利益の表示に関連して、今回議論されたのは、1. 包括利益計算書上のOCI項目の表示モデルの検討、2. 包括利益計算書上のOCI項目の表示区分決定ガイダンスの要否、3. 長期的な目標の達成に向けたOCI項目の検討方法及び4. ディスカッション・ペーパーの構成の4項目であった。

1. OCI項目の表示モデル

現在直接資本の部で認識されているその他包括利益項目の変動(売却可能金融資産の公正価値の変動、為替換算調整勘定の変動、退職年金の数理計算上の差異の変動、有形固定資産に再評価モデルを適用した場合の再評価損益の変動及びキャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ手段の公正価値の変動で、ここでは「OCI項目の変動」と呼ぶ)を包括利益計算書上どのように表示するか(リサイクリングを認めるかどうか)が論点となっている。2006年10月のFASBとIASBの合同会議では、長期的には、独立したセクションとしてOCI項目を区分表示せず、さらに当期利益も表示しない包括利益計算書を目指すものの、短期的には、OCI項目を包括利益計算書上の独立したセクションとしてまとめて表示し、リサイクリングも認めることが暫定的に合意されている。これを受けて、2006年12月会議では、4つの短期的対応モデルが議論された。提示されたモデルは、OCI項目を独立したセクションとしない2つのモデル(A案及びB案)と独立したセクションとする2つのモデル(C案及びD案)に分かれている。

A案
OCI項目を独立したセクションとせず、事業セクション(さらに営業カテゴリー及び投資カテゴリーに細分される)又は財務セクション等該当するセクションに含めて表示し、同一セクション又はカテゴリー内でリサイクリングを行う。

B案
OCI項目を独立したセクションとせず、事業セクション(さらに営業カテゴリー及び投資カテゴリーに細分される)又は財務セクション等該当するセクションに含めて表示するが、それぞれのセクション又はカテゴリーの中でOCI項目をそれ以外とを区分して表示し、同一セクション又はカテゴリー内でリサイクリングを

C案
OCI項目を独立したセクションとして、事業セクションや財務セクションと同等のレベルで表示する。OCI項目は事業セクション(さらに営業カテゴリー及び投資カテゴリーに細分される)又は財務セクション等該当するセクションにさらに細分される。OCI項目は税引前で表示され、実現した時点で事業セクションや財務セクション等にリサイクルされる。

D案
OCI項目を独立したセクションとして、事業セクションや財務セクションと同等のレベルで表示する。OCI項目は事業セクション(さらに営業カテゴリー及び投資カテゴリーに細分される)又は財務セクション等該当するセクションにさらに細分される。OCI項目は税引後で表示され、実現した時点で事業セクションや財務セクション等にリサイクルされる。D案は、SFAS第130号の1計算書方式と同じモデルである。

今回、これに加えて、E案として、OCI項目を含む包括利益計算書全体を長期と短期(短期に実現する項目と長期性資産負債から生じる項目)に分けて表示する案が提示された。

E案
OCI項目を独立したセクションとせず、事業セクション(さらに営業カテゴリー及び投資カテゴリーに細分される)又は財務セクション等該当するセクションに含めて表示する。事業セクション(さらに営業カテゴリー及び投資カテゴリーに細分される)及び財務セクションを長期項目と短期項目に区分して表示するが、OCI項目はリサイクリングしない。また、法人所得税も長期項目と短期項目にかかるものに区分する。長期項目には、有形固定資産の売却損益、年金債務にかかる金利費用、有形固定資産の再評価損益、売却可能金融資産の未実現損益などが該当する。

今回5つの案が検討されたが、ボードメンバーの選好は分散したままであった。このため、ディスカッション・ペーパーでは、OCI項目を独立したセクションとして表示する案を含む複数の代替案を提示することが暫定的に合意された。

2. OCI項目の表示区分ガイダンス

売却可能金融資産の公正価値(及びその変動)などのOCI項目を事業セクション(さらに営業カテゴリー及び投資カテゴリーに細分される)又は財務セクション等にどのように区分表示するかについてのガイダンスを新たに作成すべきかどうかが検討され、為替換算調整勘定を除き、そのようなガイダンスを作成しないことが暫定的に合意された。この結果、包括利益計算書におけるOCI項目の表示区分は、それらOCI項目を生じさせる資産及び負債の財政状態計算書における表示区分を用いることとなる。例えば、財政状態計算書上投資カテゴリーに区分される売却可能金融資産の公正価値の変動は、包括利益計算書上の投資カテゴリーで表示されることになる。なお、為替換算調整勘定の包括利益計算書上での表示については、連結子会社及び比例連結の対象となるジョイント・ベンチャーに関連する為替換算調整勘定は営業カテゴリーに、持分法投資に関連する為替換算調整勘定は当該投資が財政状態計算書上で表示されている区分で表示することが暫定的に合意された。

3. 長期的な目標達成のためのOCI項目の検討方法

最終的には、OCI項目を他の損益と同じように包括利益計算書上で表示することが長期的な目標とされているが、これを達成するためにOCI項目の取扱いを変更する必要がある。そのために、OCI項目を規定している各IFRSを本プロジェクトでまとめて改訂するのか、それともそれ以外の方法で改訂するのかについて議論された。議論の結果、OCI項目を規定している各IFRSを個別に取り上げてその中にあるOCI項目に関する規定を改訂するという方法を採用することが暫定的に合意された。したがって、本プロジェクトでOCI項目に関する取扱いをまとめて改訂することはしない。

4. ディスカッション・ペーパーの構成

OCI項目に関する取扱いは、長期的にはOCI項目に対する特別の取扱いを削除することを目標とするものの、短期的には、リサイクリングを含むOCI項目に対する特別な取扱いを設ける方針である。このため、今後公表されるディスカッション・ペーパーにおいてOCI項目に関する記述を短期的取扱いのみに絞るのか、長期的目標にどのように言及するかが議論された。議論の結果、短期的取扱いに重点を置くものの、長期的目標をどのように達成するかに関する作業計画についても言及するという方針が暫定的に合意された。

(4)現金同等物概念の削除

今回、現金同等物をどのように定義するかについての困難さなどから、現金同等物という概念を削除することがスタッフから提案され、議論が行われた。議論の結果、現金同等物を削除することとし、キャッシュ・フロー計算書は、現金の変動を示す計算書とすることが暫定的に合意された。これに関連して、現在現金同等物とされている項目の受払いを純額ベースで表示することを許容すべきかどうかについて検討するようスタッフに指示が行われた。

3. 概念フレームワーク

今回は、測定(フェーズB及びC)に関連して、1. 円卓会議での議論のまとめの検討及び2. 今後の取り進め方の2点が議論された。

まず、はじめに、2007年1月及び2月に行われた円卓会議の論点ごとにまとめた報告書がスタッフから提示され、その内容に関する簡単な議論が行われた。この報告書は、今後参加者に配布されると共にIASBのホームページでも公開されることになる。

次いで、円卓会議でのコメントを受けた今後のプロジェクトの進め方に対する改訂提案がスタッフから提示され、議論が行われた。測定フェーズは、1. 第1段階:測定属性の定義及び特性(property)の検討(2007年半ばまで)、2. 第2段階:測定属性の質的特性を用いた評価(2009年始めまで)及び3. 第3段階:概念的な結論及び実務上の適用(2010年半ばまで)という3つの段階に分けて検討を行うというのが当初案である。

今回、次に示すスケジュールの改訂が提案され、暫定的に合意された。

  1. 第2及び第3段階では、円卓会議は開催しない(既に今回の円卓会議でこれらの段階に対しても十分なコメントを受領した)。
  2. 第1段階の最後にこの段階で両ボードが達した結論をまとめた文書(予備的見解のようなものでコメントを求めない)を公表することとしていたが、当初予定したものよりもさらに簡単な文書(マイルストーンサマリー)とし、両ボードが合意した測定属性を簡単にまとめたものを公表することとする(第2段階の議論に必要な範囲の情報を伝えるという目的からいうと、予備的見解のようなものである必要はない)。この文書は、2007年7月の公表を目指す。
  3. 第2段階の最後に予備的見解、第3段階の最後に公開草案の公表を当初予定していたが、第2段階の最後には、簡単な文書(マイルストーンサマリー)を公表することとし、第3段階の最後に予備的見解と公開草案を公表することとする。第2段階のマイルストーンサマリーの公表は2007年12月を目指す。

4. 退職後給付(IAS第19号の改訂)

すべての数理計算上の差異及びすべての権利未確定の過去勤務費用は、その発生時に即時に認識すべきことが暫定的に合意されたことを受けて、2007年2月に続き、これらの内容に関する議論が行われた。
議論の結果、ディスカッション・ペーパーでは、この問題を次のように扱うことが暫定的に合意された。

  1. 退職後給付債務及び年金資産に関連して当期に生じた変動は、すべて包括利益として報告するが、その包括利益計算書での表示については予備的見解を表明しない。
  2. 次の3つの代替案をディスカッション・ペーパーで示すが、IASBが選好する方法は、すべての変動を当期利益で認識することであることを説明する。
    1. すべての変動を当期利益で認識する。
    2. 財務費用をその他包括利益で認識する(勤務費用、割引率の変動によるものを除く確定給付債務にかかる数理計算上の差異を当期利益で認識し、利息費用、割引率の変動による確定給付債務にかかる数理計算上の差異及び年金資産のすべての変動はその他包括利益で認識する)。
    3. 再測定損益をその他包括利益で認識する(勤務費用、利息費用、割引率の変動によるものを除く確定給付債務にかかる数理計算上の差異、年金資産にかかる受取配当及び年金資産に生じた受取金利(公正価値に内在する直近の金利を用いて計算する)は当期利益に含め、割引率の変動及び年金資産の残りの変動はその他包括利益で認識する)。

5. IAS第37号の改訂

今回は、円卓会議で受け取ったコメントの分析の結果検討を要すると考えられている1. 負債とビジネスリスクをどのように識別するか及び2. 待機債務(stand ready obligation)とは何かという2点にについて議論が行われた。なお、これらの問題は、IAS第37号のみに限定されるだけでなく、現在進行している概念フレームワークの負債の定義の議論とも関連性を持っている。

(1)負債とビジネスリスクの識別

負債とビジネスリスクを識別する鍵となる概念は何かについて議論が行われた。問題点を明確にするため、3つの例(その詳細は省略)が示され、これに基づいて、ビジネスリスクに曝されている企業がいつそしてなぜ現在の債務を持つに至り、負債の定義を満たすようになるかについて議論が行われた。

議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. ビジネスリスクが負債となるためには、現在債務(present obligation)が存在していなければならない。
  2. 現在債務は、1. 企業がある特定の方法で行動することに対して取消不能の約束をしており、かつ、2. 外部の当事者が当該企業に対して当該特定方法で行動することを要求することができる強制力のある権利を有している場合に、存在している。
  3. 上記(b)の帰結として次のことがいえる。
    • 取消不能な行動又は事象それ自体だけでは現在債務は生じない。外部の当事者が企業に対して特定方法で行動することを要求することができる強制力のある権利を作り出す仕組みが必要である。
    • 法律又は規制それ自体だけでは現在債務は生じない。取消不能な行動又は事象も必要である。しかし、法律又は規制は、外部の当事者が企業に対して特定方法で行動することを要求することができる強制力のある権利を作り出す仕組みの例である。
    • 外部の当事者が企業に対して特定方法で行動することを要求することができる強制力のある権利を作り出す仕組みのある国であっても、取消可能な(拘束性のない)行動又は事象は、現在債務を生じさせない。
    • 外部の当事者が企業に対して特定方法で行動することを要求することができる強制力のある権利を作り出す仕組みのある国であっても、将来の取消不能な行動又は事象を計画しているだけでは、現在債務を生じさせない。

例示を通じた検討の結果、重要な点は、ビジネスリスクから待機債務を識別することであることが明らかになり、この点を明確にするための設例を開発することがスタッフに指示された。

(2) 待機債務

IAS第37号の改訂公開草案では、待機債務を次のように記述している(第22項)。

「ある場合には、負債を決済するために要求される金額が1つ又はそれ以上の不確定な将来事象の発生又は不発生に依存している(条件となっている)としても、企業は負債を有している。そのような場合には、企業は、過去の事象の結果として、無条件債務及び条件付債務という2つの債務を負っている。」このような負債を「待機債務」と呼んでいる。なぜなら、企業は、もし不確定な将来事象が起こった場合(起こらなかった場合)に条件付債務を履行するために待機しているという無条件の債務を有しているからである。今回は、1. 待機債務概念の明確化、2. 待機債務概念を契約のない状況でも適用できるかどうか及び3. 「待機債務」という用語を今後も用いるべきかどうかについて議論が行われた。

1. 待機債務概念の明確化

IASBは、既に待機債務が概念フレームワークの負債の定義を満たすと確認しているが、今回は、これについて更に分析を行っている。その結果、待機債務という概念は、外部の当事者が、企業に対して、将来、特定方法で行動することを要求することができる強制力のある権利を有しているが、当該外部当事者が権利行使を行うことができる状況が生じないかもしれないし、又は、当該外部当事者が権利を行使しないことを選択するかもしれない、という状況における現在債務を説明している、という点が明確にされている。

2. 契約のない状況と待機債務概念

円卓会議では、多くの参加者が、待機債務概念を契約がある場合に適用することに賛成であったが、契約がない場合にまで待機債務概念を用いることには懸念が表明されていた。IASBは、契約は、外部の当事者が企業に対して特定方法で行動することを要求することができる強制力のある権利を作り出す法的仕組みでしかなく、仕組みの形式(すなわち契約)によって待機債務が存在しているかどうかが影響されるべきではないと考え、待機債務概念は、契約がある場合のみならず契約がない状況でも適用できると暫定的に確認した。

3. 「待機債務」という用語の使用

円卓会議では、待機債務という用語を用いずに現在債務が存在する場合を説明すべきとのコメントがあった。待機債務という用語はある局面では混乱を招くおそれがあるものの、待機債務という用語で表現しようとする事態を端的に表現できる用語があることは有用であるとの判断から、IASBは、待機債務という用語を用いることを暫定的に決定した。しかし、他の適切な用語があるかどうかをさらに検討することがスタッフに指示された。

6. リース

IAS第17号(リース)を根本的に見直すためのプロジェクトで、当面2008年にディスカッション・ペーパーを公表することを目指すプロジェクトである(FASBとの共同プロジェクト)。IAS第17号は1982年9月に公表されて以降25年近くも基本的な会計処理方法が見直されていない。また、SFAS第13号(リースの会計処理)も1976年11月に公表されており30年間基本的な会計処理方法が見直されていない。このため、抜本的な見直しが必須であるとの関係者からの指摘を受ける形で、今回見直しが行われることとなった。基準改訂の方向性は、現行リース会計におけるファイナンス・リース及びオペレーティング・リースという区分を廃止し、リース契約によって生じる資産及び負債、特に、リース対象物件に対する「使用権」に焦点を当てて、当該使用権の会計処理としてリースの会計処理を整理するというものである。また、本プロジェクトでは、ワーキンググループ(日本からの参加はない)が組成されており、第1回会合が2007年2月に開催されている。

今回は、1. 単純な取消不能リース契約の例を用いて、リース契約によって借手及び貸手に生じる権利及び義務が、概念フレームワークの資産及び負債の定義を満たすかどうかが議論され、次いで、2. さまざまなリース会計モデルの分析が行なわれた。

(1)リース契約によって生じる権利及び義務

単純な取消不能の機械のリース契約の例を用いて、リース契約によって借手及び貸手に生じる権利及び義務が、現行の概念フレームワークの資産及び負債の定義を満たすかどうかが検討された。検討結果は次の通りである。また、このほか、概念フレームワークの見直しプロジェクトで現在検討されている資産及び負債の定義を用いてリース契約による権利及び義務が新しい資産及び負債の定義を満たすかどうかの検討も行なわれ、この場合も現行概念フレームワークの場合と変わらないという結果となっている。

1. 借手
権利の内容 支配 過去の事象 将来の
経済的便益
資産か?
リース期間に渡って機械を使用できる権利 リース契約によって創出された法的強制力のある権利 リース契約への署名及び機械の引渡し YES YES

 

権利の内容 支配 過去の事象 将来の
経済的便益
資産か?
リース期間に渡って特定の支払いを行う義務 リース契約によって創出された法的強制力のある義務 機械の引渡し YES(現金支払い) YES
リース期間末に機械を返却する義務 リース契約によって創出された法的強制力のある義務 機械の引渡し NO(リース契約終了後借手は経済的便益に対する権利がない) NO

機械の所有権は借手にないため、借手は物的機械に対しては保管者の立場にあり、「リース期間末に機械を返却する義務」は、借手の負債とはならない。

2. 貸手
権利の内容 支配 過去の事象 将来の
経済的便益
資産か?
リース期間に渡って支払いを受ける権利 リース契約によって創出された法的強制力のある権利 リース契約への署名及び機械の引渡し YES(現金受取り) YES
リース期間末に機械の返却を受ける権利 法的強制力のある権利 リース契約への署名及び機械の引渡し NO NO
リース期間終了後に機械の使用によって受け取ることができる経済的便益に対する権利 支配は機械の原始取得又は機械に対する契約上の権利によって生じる 機械に対する権利の原始取得 YES YES

機械の所有権は貸手にあり、物的機械の返却を受けても経済的便益が増えることはなく、「リース期間末に機械を受領する権利」は、貸手の資産とはならない。

「リース期間終了後に機械の使用によって受け取ることができる経済的便益に対する権利」は、本来リース契約と無関係であるが、すべての権利をリストアップするためだけに記載している。

権利の内容 支配 過去の事象 将来の
経済的便益
資産か?
リース期間に渡って機械の使用を許容する義務 リース契約によって創出された法的強制力のある義務 リース契約への署名 将来の経済的便益の流出はない NO

貸手が機械の引渡しを終えると「リース期間に渡って機械の使用を許容する義務」によって経済的便益の流出は起こらないため、負債とはならない。

 (2)リース会計モデルの検討

スタッフが準備したペーパーに基づき、1. 使用権アプローチ、2. 資産全体モデル、3. 未履行契約モデル及び4. 現在の会計基準で用いられているモデルの分析が行なわれ(各モデルの詳細に関する記述は省略)、IASBは、使用権アプローチのみが、上記(1)の例による分析で把握された権利及び義務を識別できるモデルであると暫定的に結論付けた。したがって、今後使用権アプローチによって権利及び義務の認識及び測定の検討が行われる。

7. 金融商品

このプロジェクトは、金融商品に関する現行の会計基準を全面公正価値の採用(公正価値モデル)によって置き換えるという長期的なプロジェクトであり、2006年2月にIASBとFASBが公表した覚書(Memorandum of Understanding、以下「MOU」という)に基づいて、2008年1月までのデュー・プロセス文書の公表が目標とされているものである。また、デュー・プロセス文書では、できるだけIASBの予備的見解を示すこととなっており、そのための議論が進められている。

今回は、デュー・プロセス文書において、同文書の公表後長期的な目的である公正価値モデルをどのように達成していくのかという将来のアプローチを記述する必要があり、その方向性について議論が行われた。スタッフからは、次の2つの提案が示されたが、議論が行われたのみで、暫定合意は形成されていない。

公正価値モデルを実現するための公開草案を直ちに作成する。

公正価値モデルを採用する前に、1つ以上の中間段階をおいて徐々に公正価値モデルに向けて作業を進める。 上記(b)の議論では、どのような中間段階を設けるかに関する判断規準についても議論された。そのような規準には、公正価値による測定を求める金融商品の範囲を拡大することや複雑さを解消するといったものが挙げられた。例えば、満期保有債券や売却可能金融資産といった区分の削減が議論された。 

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

*本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。