IASB(国際会計基準審議会)の第65回会議が、2007年2月20日から22日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回のIASB会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. 財務諸表の表示(セグメントB)、3. 概念フレームワーク、4. 退職後給付(国際会計基準(IAS)第19号(従業員給付)の改訂)、5. 保険会計、6. 国際財務報告基準(IFRS)の年次改善(IAS第8号、第39号及び第41号の改訂)についての検討が行われた。教育セッションでは、米国財務会計基準審議会(FASB)が進めている資本と負債の区分プロジェクトの3つのアプローチについての解説と議論が行われた。会議には理事14名が参加した。本稿では、1. から5. の議論の内容を紹介する。
今回は、1. 被取得企業がオペレーティング・リースの貸手である場合のリース資産の認識及び測定、2. 被取得企業の資産、負債等の区分の再評価、3. IAS第27号(連結及び分離財務諸表)改訂公開草案の検討、4. 企業結合の公開草案及びIAS第27号改訂公開草案に含まれる経過措置の取扱いの4項目が議論された。
オペレーティング・リースに関しては、公開草案では、次の取扱いが提案されている。
この問題を議論した2006年5月会議では、次の点が暫定的に合意された。
しかし、被取得企業が貸手である場合には、上記(c)に関連しては、2つの考え方が対立している。すなわち、1. リース契約が市場条件と異なることに起因する価値とリース対象資産そのものの価値とを分離すべきという考え方と2. 両者を一体として捉えるべきである(分離すべきではない)という2つの考え方である。前者の考え方では、リース資産の価値はリース契約がない場合の価値とし、それ以外をリース契約の価値として捉えようとする。これは、公開草案で採用された考え方で、オペレーティング・リース契約が、その時点の市場条件に比べて有利な場合には無形資産を認識し、不利な場合には負債を認識するということになる。一方、分離すべきでないという後者の考え方では、両者は不即不離の関係にあり分離して捉えることはできないと考え、リース資産の測定にすべてを包含しようというものである。2006年5月の会議では、現実の物件評価がどのように行われているかを調査することがスタッフに指示されていた。
今月は、被取得企業が貸手であるオペレーティング・リース契約における上記(c)の論点が議論された。すなわち、被取得企業が貸手である場合に、取得者は、1. リース契約が市場条件と異なることに起因する価値とリース対象資産そのものの価値とを分離すべきという考え方(リース契約が市場条件に比べて有利な場合には無形資産を認識し、不利な場合には負債を認識する)と2. 両者は不即不離の関係にあり分離して捉えることはできないので分離すべきでないという考え方のいずれを採用するかが議論された。
この問題は、現行のIFRS第3号(企業結合)では扱われていないが、IAS第40号(投資不動産)において類似の状況に対する取扱いが規定されている。IAS第40号では、投資不動産に随伴するリース契約の価値を反映して、投資不動産の価値を測定すべきという取扱いが明示されている。
議論の結果、取得者は、被取得企業が貸手であるオペレーティング・リース契約に伴う資産を、取得日現在で存在しているリース条件を加味した公正価値で認識及び測定しなければならないとすることが暫定的に合意された(分離しないという考え方が採用された)。この決定に至った主たる理由は、今後、公正価値測定プロジェクト及びリースプロジェクトにおいてこの問題が再度議論されるので、それまでの間は、IAS第40号から離脱するべきではないというものである。
企業結合を契機に、被取得企業の資産、負債等の区分を再評価すべきかどうか、又はどのような場合に再評価ができるのかについてガイダンスを提供することを求めるコメントがIASBや国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)に寄せられている。企業結合を契機に見直される可能性のある区分には、オペレーティング・リースとファイナンス・リースの区分、保険契約とするかどうか、処分目的資産としての区分、組込みデリバティブをホスト契約から分離するかどうか、ヘッジ関係を継続するかどうか、金融商品の保有目的区分(満期保有、売買目的、売却可能等の区分)といったものがある。これらを企業結合を契機に再度見直すことを許容するかどうかが論点である。
議論の結果、ガイダンスを含めることとし、スタッフに対して、最終基準に含めることができるような区分の見直しに関する原則を開発することが指示された。
公開草案で提案しているIAS第27号に関連する次のような論点が議論された。
企業結合の公開草案及びIAS第27号改訂公開草案で提案されている経過措置について議論された。
企業結合の公開草案では、改訂提案を発効日以降の企業結合取引に対して将来に向かって適用するという提案がなされているが、この経過措置を最終基準でも採用することが確認された。また、発効日前の企業結合取引に対して、改訂提案を任意に遡及適用することは禁止することも合意された。
企業結合の公開草案とIAS第27号改訂公開草案は同時に適用を開始すること、さらにこれらは事業年度の開始時点から適用することとし、事業年度の途中からの適用は認めないことも合意された。また、両基準を早期に適用することができることも合意された。
企業結合の公開草案では、企業結合基準の発効日前に認識されていた偶発負債は企業結合時点で再評価し、負債の定義を満たさない場合には、のれんに振り替えるという経過措置が置かれているが、これを継続するかどうかが議論された。議論の結果、この問題は、IAS第37号(引当金)で検討することが予定されていることもあり、最終の企業結合基準からこの経過措置を削除することが暫定的に合意された。
IAS第27号改訂公開草案では、次を除き遡及適用することが提案されている(第43A項及び第43B項)。すなわち、下記の規定は、将来に向かって適用される。
これらのうち、上記(a)の取扱いが「支配取得後の子会社に対する持分の増加」のみに限定されていることについてコメントが寄せられ、「持分が減少する場合」にも同様の適用をすべきとの指摘があった。これを受けて議論した結果、上記(a)の経過措置は、改訂公開草案適用前の支配取得後の子会社に対する持分の減少(ただし、支配が継続していることが条件)にも適用することが暫定的に合意された。
今回は、セグメントBの中の流動性に関する情報開示について議論が行われた。具体的には、1. 流動性概念の明確化及び2. 開示すべき流動性に関する情報ついての検討が行なわれた。
流動性に関する情報では、新たに「ソルベンシー」という概念を入れ、これに伴い流動性に関する作業原則を改訂することが提案された。ソルベンシーは、外部からの負債を期日に支払うことができる能力という意味で使われており、現在の作業原則である「財務諸表は、利用者が企業の資産及び負債の流動性(現金に対する近さ又は現金に転換される期間)を評価することに役立つような方法で情報を表示しなければならない」に、ソルベンシーの概念を組み込むことが提案された。
議論の結果、ソルベンシーの概念を作業原則に含めるべきかどうかについてさらに検討することがスタッフに指示された。
流動性に関して開示すべき情報については、2006年10月のFASBとの合同会議でも議論が行なわれ、長期資産・負債について満期に関する情報を提供するべきことが既に暫定的に合意されている。今回は、これらも含めた流動性に関して開示されるべき情報全般について議論が行なわれた。なお、議論の対象となっている長短区分は、契約上の満期又は予想される実現又は決済時期が1年以内のものを短期に区分することを規準とする長短区分であり、正常営業循環基準は採用されていない。
スタッフからは次のような提案がなされ、この提案の方向が概ね支持された。
上記(c)1. の場合には、満期情報は次のように満期を区分しなければならない。
これ以外の場合には、流動性に関する情報は、1. 契約上の満期又は2. 予想される資産又は負債の実現又は決済時期のいずれか短い方に基づかなければならない。
さらに、スタッフに対して、IFRS第7号(金融商品:開示)で金融商品に求められている開示との関係より分かるように提案を改善することが指示された。
今回は、フェーズB(構成要素)に関連して、1. 負債と資本の区分及び2. フェーズAのコメント分析の2点が議論された。
負債と資本を区別すべきか、もし区別するとした場合、現在の2つの区分で十分かといった問題が、財務諸表の構成要素に関する問題の一環として2006年11月に議論された。
そこでは、2つの代替案を検討することが暫定的に合意された。1つのアプローチは、負債と資本を区分する明確な規準を作ることは難しいとの理解から、両者を区分せず、両者を含む概念として、例えば、「請求(claims)」という1つの構成要素としてはどうかというアプローチである(これを「単一構成要素アプローチ(single element approach)」という)。もう1つのアプローチは、貸方側を負債及び資本の2つの要素以外の要素も含めた3つ以上に区分しようというアプローチである。例えば、純粋な負債、純粋な資本及びその中間の構成要素(例えば、「dequity」)の3つに分けることが考えられる。そして、スタッフには、単一構成要素アプローチに重点を置いて2つの代替案を更に研究することが指示された。
今回は、単一構成要素アプローチに関する議論が行われた。そもそもこのような単一構成要素が検討されるのは、負債と資本を明確に区分することが困難になりつつあるという現状認識がある。最近負債と資本の境界があいまいな金融商品(例えば、永久債と永久優先株式は将来金利又は配当が増加することによって償還が予想されることから経済的実態は変わらないといえる)が増えており、それらを負債と資本に明確に区分する規準を見出すことが困難になりつつある。また、債権者も株主も企業の資源(すなわち資産)に対する請求権を持っているという意味では共通した側面があるため、この側面から両者を統合する概念を創出できる可能性がある。このようなことから、暫定的に統合する概念として「請求(claims)」という用語を用いて、新しい統合された構成要素を創出する可能性が議論されている。このアプローチでは、貸借対照表は、資産(借方)と請求(貸方)から構成されることになる。
また、このアプローチを採用すると、現行の概念フレームワークの他の部分や会計基準に多大な影響を及ぼすことが予想される。例えば、現在資産及び負債の増減が収益又は費用を生じさせるという形で把握されている収益又は費用の認識及び測定方法は根本的に見直さなければならなくなると予想される。このような広範な影響は、FASBとIASBの概念フレームワークの共通化を目指す限定的な本プロジェクトの趣旨に反するという意見もある。しかし、一方で、複雑な金融商品などによってもたらされた諸問題を解決する可能性のある有望な単一構成要素アプローチをここで捨ててしまえば、将来にわたって財務報告の質を高める可能性を喪失してしまうとの意見もある。このため、今回議決が7対7に分かれた。今後、負債と資本の区分を取り扱う会計基準レベルのプロジェクトへの影響の検討をも含んだFASBの動向も参考として、単一構成要素アプローチをさらに検討するかどうかを判断することとされた。
フェーズAでは、2006年7月に、2章(第1章「財務報告の目的」及び第2章「意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」)からなるディスカッション・ペーパーが公表され、コメント募集期間が11月3日に終了した。FASBとIASBは179通のコメントを受領した。第1章では、例えば、財務報告は投資及び信用供与の判断を行なうために有用な情報を提供すべきことを目的とすべきとされ、受託責任(stewardship)を独立の目的としないこととしている(受託責任は、意思決定に有用な情報に含まれる概念とされた)。第2章では、質的情報として、適合性(relevance)、忠実な表現(faithful presentation)、比較可能性(comparability)及び理解可能性(understandability)の4つに分け、これらに対する制約条件として重要性(materiality)と費用対効果(benefits and costs)を掲げて、これらの関係を整理している。
今回は、コメントを質問のテーマごとに集計した結果の分析が示された。例えば、第1章では、上述した受託責任は投資家や債権者が投資や与信のための意思決定を行うために有用な情報を提供するという財務報告の目的に含まれるとするディスカッション・ペーパーの見解には反対が多いという分析結果が示された。また、第2章では、従来用いられていた「信頼性(reliability)」という用語は、あまりに多様に解釈されているため、これに代えて「忠実な表現」を用いることとしている点について、「忠実な表現」は「信頼性」より狭い概念であり十分ではなく、混乱を招くことになるといったコメントが寄せられているという分析結果が示された。今後4月及び6月に更に詳しい議論を行う予定で、2007年第3四半期に公開草案の公表を目指している。
このプロジェクトは、2006年7月に新規に追加されたIAS第19号(従業員給付)の年金会計を見直すための2つのフェーズからなるプロジェクトの第1フェーズである。第1フェーズは、現行の年金会計を大幅に改善することを目的として、4年程度での完成を目指しIASB単独で行なわれている。次に示すような内容を取り上げ、最初の文書としてディスカッション・ペーパーの公表を目指している。
今回は、1. キャッシュ・バランス・プラン及び類似のプランの定義及び2. ディスカッション・ペーパーのドラフトが議論された。
2006年12月にキャッシュ・バランス・プランに関する初めての議論が行われたが、今回はこれに引続き、退職後給付を次の3つに分けた上で、それらをどのように会計処理するかについて多くの例示を利用して議論が行われた。なお、今回から企業が従業員に対して有している退職後給付を総称する用語として「給付約定(benefit promises)」が用いられている。
スタッフの提案では、給付約定を1. 確定拠出約定(defined contribution promise)、2. 資産ベース約定(asset-based promise)及び3. 確定給付約定(1. 及び2. 以外がこれに該当)(defined benefit promise)の3つに分けて定義し、それぞれに適用すべき会計処理を示している。そして、企業が従業員に対して労働の対価として負っている給付約定(退職後給付プラン)がある場合には、当該給付約定を上記3つの要素に分解し、それぞれを会計処理することを提案している。
スタッフは、退職後給付は次の3つの約定からなり、それぞれ下記の方法で会計処理することを提案した。
上記定義の妥当性に関しては、「固定した増加」の取扱いが論点となった。例えば、企業は毎年給与額の8%をファンドに拠出し、当該拠出額に対して毎年4%の固定レートでの利回りが退職従業員まで確定しているような年金の場合、「毎年4%の固定レートでの利回り」という部分を確定給付約定と見るのか、資産ベース約定と見るのかが議論された。議論の結果、このような固定した増加額があるような約定は、資産ベース約定と見ることが暫定的に合意された。これは、スタッフの提案とは異なるものであり、この暫定合意がどのような影響を与えるかについてさらにスタッフが検討することとなった。
また、上記3つの要素を含む退職後給付(給付約定)がある場合、3つの要素をどのように分離するかが議論された。結論として、まず確定拠出約定の部分を分離し、次いで資産ベース約定を分離、そして残りを確定給付約定とするという分離のヒエラルキーが暫定的に合意された。なお、確定拠出約定及び確定給付約定には、IAS第19号の対応する会計処理が適用され、資産ベース約定は公正価値で測定される。
ある退職後給付(給付約定)が、分離の仕方によっては上記3つの約定にいろいろに分離し得る場合、企業の任意な分離の仕方に任せるのではなく、一定の順序で分離する必要があることから、スタッフから、分離のためのヒエラルキーが提案された。スタッフ提案では、まず、確定給付約定部分を分離し、次いで、確定拠出約定又は資産ベース約定部分を分離することになる。このような確定給付約定を重視するスタッフ提案が、暫定的に合意された。
例えば、企業は毎年給与額の8%をファンドに拠出し、当該拠出額の利回りは実際利回りとするが、年3.25%の最低保証が付いているような年金の場合、次のように解釈することが可能である。(a)当該年金を全体として資産ベース約定と見る、(b) 年3.25%の固定額を持つ確定給付約定と、もし年3.25%以上となる場合には確定拠出約定として扱うというオプション(保証)のある年金と見る及び(c)確定拠出約定で年3.25%の保証が付いている年金と見る。このようないくつかの解釈ができる場合、暫定合意されたヒエラルキーでは、まず確定給付約定を分離することを優先させるという取扱いが適用され、上記の場合、(b)の解釈が採用されることになると考えられる。
2006年11月にすべての数理計算上の差異及びすべての権利未確定の過去勤務費用は、その発生時に即時に認識すべきことが暫定的に合意されたことを受けて、これらを反映したディスカッション・ペーパーのドラフトが提示され、これについて議論が行われた。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
今回は、1. アンバンドリング及び2. ディスカッション・ペーパーのプレバロットドラフトに対するコメントについての議論が行われた。ここではアンバンドリングに関する議論のみを紹介する。なお、ディスカッション・ペーパーは、2007年3月に公表される予定である(コメント期間は180日の予定)。
保険契約の中に預金の要素が含まれている場合、当該預金要素を保険要素から区分することをアンバンドリングと呼んでいる。この問題については、2006年9月に、両者の要素に相互関連性がなければアンバンドルしなければならないということに暫定的に合意した。ところが、その後、相互依存関係がなくアンバンドルしなければならない例を見つけられなかったため、スタッフから、この暫定合意を改訂し、アンバンドルを要求も禁止もしないということにしたい旨の提案があり、議論が行われた。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)
*本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。