ASBJ 企業会計基準委員会

第65回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第65回会議が、2007年2月20日から22日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回のIASB会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. 財務諸表の表示(セグメントB)、3. 概念フレームワーク、4. 退職後給付(国際会計基準(IAS)第19号(従業員給付)の改訂)、5. 保険会計、6. 国際財務報告基準(IFRS)の年次改善(IAS第8号、第39号及び第41号の改訂)についての検討が行われた。教育セッションでは、米国財務会計基準審議会(FASB)が進めている資本と負債の区分プロジェクトの3つのアプローチについての解説と議論が行われた。会議には理事14名が参加した。本稿では、1. から5. の議論の内容を紹介する。

1.企業結合

今回は、1. 被取得企業がオペレーティング・リースの貸手である場合のリース資産の認識及び測定、2. 被取得企業の資産、負債等の区分の再評価、3. IAS第27号(連結及び分離財務諸表)改訂公開草案の検討、4. 企業結合の公開草案及びIAS第27号改訂公開草案に含まれる経過措置の取扱いの4項目が議論された。

(1)被取得企業がオペレーティング・リースの貸手である場合のリース資産の認識及び測定

1. これまでの経緯

オペレーティング・リースに関しては、公開草案では、次の取扱いが提案されている。

  1. 被取得企業が借手である場合には、取得企業は、オペレーティング・リースに関連する資産負債の純額を認識する。
  2. 被取得企業が貸手である場合には、リース対象資産及び負債を企業結合日の公正価値で認識・測定し(すなわち、純額で認識するのではない)、その後は、IAS第17号(リース)に従って会計処理する。
  3. 被取得企業が借手か貸手かにかかわらず、オペレーティング・リース契約が市場条件に比べて有利な場合には無形資産を認識し、不利な場合には負債を認識する。

この問題を議論した2006年5月会議では、次の点が暫定的に合意された。

  • 被取得企業が借手である場合には、取得企業は、オペレーティング・リースに関連する資産負債の純額を認識する(上記(a)の確認)。また、取得者は、オペレーティング・リース契約が市場条件に比べて有利な場合には無形資産を認識し、不利な場合には負債を認識する。
  • オペレーティング・リース契約が市場条件である場合(すなわち、オペレーティング・リース契約が市場条件に比べて有利でも不利でもない場合)でも、当該契約に関連する無形資産があるため契約条件とは別に価値が存在している場合がある。このような場合には、取得者は、無形資産を認識し、企業結合において取得される他の無形資産と同様に会計処理する。

しかし、被取得企業が貸手である場合には、上記(c)に関連しては、2つの考え方が対立している。すなわち、1. リース契約が市場条件と異なることに起因する価値とリース対象資産そのものの価値とを分離すべきという考え方と2. 両者を一体として捉えるべきである(分離すべきではない)という2つの考え方である。前者の考え方では、リース資産の価値はリース契約がない場合の価値とし、それ以外をリース契約の価値として捉えようとする。これは、公開草案で採用された考え方で、オペレーティング・リース契約が、その時点の市場条件に比べて有利な場合には無形資産を認識し、不利な場合には負債を認識するということになる。一方、分離すべきでないという後者の考え方では、両者は不即不離の関係にあり分離して捉えることはできないと考え、リース資産の測定にすべてを包含しようというものである。2006年5月の会議では、現実の物件評価がどのように行われているかを調査することがスタッフに指示されていた。

2. 今月の議論

今月は、被取得企業が貸手であるオペレーティング・リース契約における上記(c)の論点が議論された。すなわち、被取得企業が貸手である場合に、取得者は、1. リース契約が市場条件と異なることに起因する価値とリース対象資産そのものの価値とを分離すべきという考え方(リース契約が市場条件に比べて有利な場合には無形資産を認識し、不利な場合には負債を認識する)と2. 両者は不即不離の関係にあり分離して捉えることはできないので分離すべきでないという考え方のいずれを採用するかが議論された。

この問題は、現行のIFRS第3号(企業結合)では扱われていないが、IAS第40号(投資不動産)において類似の状況に対する取扱いが規定されている。IAS第40号では、投資不動産に随伴するリース契約の価値を反映して、投資不動産の価値を測定すべきという取扱いが明示されている。

議論の結果、取得者は、被取得企業が貸手であるオペレーティング・リース契約に伴う資産を、取得日現在で存在しているリース条件を加味した公正価値で認識及び測定しなければならないとすることが暫定的に合意された(分離しないという考え方が採用された)。この決定に至った主たる理由は、今後、公正価値測定プロジェクト及びリースプロジェクトにおいてこの問題が再度議論されるので、それまでの間は、IAS第40号から離脱するべきではないというものである。

(2)被取得企業の資産、負債等の区分の再評価

企業結合を契機に、被取得企業の資産、負債等の区分を再評価すべきかどうか、又はどのような場合に再評価ができるのかについてガイダンスを提供することを求めるコメントがIASBや国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)に寄せられている。企業結合を契機に見直される可能性のある区分には、オペレーティング・リースとファイナンス・リースの区分、保険契約とするかどうか、処分目的資産としての区分、組込みデリバティブをホスト契約から分離するかどうか、ヘッジ関係を継続するかどうか、金融商品の保有目的区分(満期保有、売買目的、売却可能等の区分)といったものがある。これらを企業結合を契機に再度見直すことを許容するかどうかが論点である。

議論の結果、ガイダンスを含めることとし、スタッフに対して、最終基準に含めることができるような区分の見直しに関する原則を開発することが指示された。

(3)IAS第27号改訂公開草案の検討

公開草案で提案しているIAS第27号に関連する次のような論点が議論された。

  1. 純利益やその他包括利益等の資本の部の構成要素を支配持分と非支配持分との間でどのように配分するかについてFASBの公開草案では、1. 原則として両者の相対的な持分に基づいて配分するが、2. 持分比率とは異なる配分を行う取決めがあればそれに従うというガイダンスが含まれている。しかし、IAS第27号の公開草案にはそのような規定は含まれていないので、このようなガイダンスを導入するかどうかが議論された。議論の結果、FASBの規定と同様なガイダンスを追加することが暫定的に合意された。
  2. 子会社に損失が生じた場合、これを非支配持分にどこまで配分するかについては、たとえ非支配持分が負の数値となっても(すなわち、非支配持分の投資額を超える損失部分も)、持分比率に基づいて配分するということが公開草案で提案されている。議論の結果、この取扱いが再確認された。
  3. 公開草案では、支配を取得した以後の親会社株主の持分の増加及び減少は、自己株式と見て、それらの変動からは損益を認識せず、資本の部に増減することとしている。このため、例えば、60%から30%に持分比率を減少させる場合、60%から51%まで減少させる取引と51%から30%まで減少させる取引に分割することによって、前者の取引からは損益を認識せず、後者の取引からのみ損益を認識するという形の利益操作が可能となる。これを避けるため、両者を1つの取引として取り扱うことが公開草案で提案されている(第30F項)。この提案内容をより原則を明確にした形のガイダンスに改訂することが暫定的に合意された。
  4. 持分比率が60%から40%に減少した場合のように、支配を失ったもののまだ持分を保有しているときには、支配を失った時点で残存保有株式をその時点の公正価値で再測定することとなっている。これと同様に、重要な影響が失われたとき(関連会社からはずれた場合)又は共同支配が失われたとき(ジョイント・ベンチャーからはずれた場合)にも、残存保有株式をその時点の公正価値で再測定することが公開草案でIAS第28号(関連会社投資)及びIAS第31号(ジョイント・ベンチャー)の改訂として提案されている。この取扱いについて議論され、公開草案の提案どおりとすることが改めて確認された。なお、これとは逆に、一般の投資から関連会社やジョイント・ベンチャーとなった場合にも投資の再測定を求めるかどうかに関する取扱いを明示すべきかについても議論されたが、これらは連結手続の問題であり、企業結合プロジェクトでは取り扱わないこととされた。

(4)経過措置の取扱い

企業結合の公開草案及びIAS第27号改訂公開草案で提案されている経過措置について議論された。

1. 企業結合の公開草案の経過措置

企業結合の公開草案では、改訂提案を発効日以降の企業結合取引に対して将来に向かって適用するという提案がなされているが、この経過措置を最終基準でも採用することが確認された。また、発効日前の企業結合取引に対して、改訂提案を任意に遡及適用することは禁止することも合意された。

企業結合の公開草案とIAS第27号改訂公開草案は同時に適用を開始すること、さらにこれらは事業年度の開始時点から適用することとし、事業年度の途中からの適用は認めないことも合意された。また、両基準を早期に適用することができることも合意された。

企業結合の公開草案では、企業結合基準の発効日前に認識されていた偶発負債は企業結合時点で再評価し、負債の定義を満たさない場合には、のれんに振り替えるという経過措置が置かれているが、これを継続するかどうかが議論された。議論の結果、この問題は、IAS第37号(引当金)で検討することが予定されていることもあり、最終の企業結合基準からこの経過措置を削除することが暫定的に合意された。

2. IAS第27号改訂基準の経過措置

IAS第27号改訂公開草案では、次を除き遡及適用することが提案されている(第43A項及び第43B項)。すなわち、下記の規定は、将来に向かって適用される。

  1. 支配取得後の子会社に対する持分の増加は、株主間の取引として扱い、当該取引から損益は認識しない、という第30A項の取扱いは遡及適用しない。したがって、改訂公開草案適用前に、支配取得後の子会社に対する持分の増加があった場合には、この取引から損益を認識することができる。
  2. 支配を喪失した以後も保有する持分については公正価値での再測定を行なうことを求めている第30C項及び第30D項の取扱いは遡及適用しない。したがって、当該投資は支配喪失前の簿価で引続き認識することができる。また、改訂公開草案適用前の支配の喪失を伴う取引から生じる損益は再計算してはならない。

これらのうち、上記(a)の取扱いが「支配取得後の子会社に対する持分の増加」のみに限定されていることについてコメントが寄せられ、「持分が減少する場合」にも同様の適用をすべきとの指摘があった。これを受けて議論した結果、上記(a)の経過措置は、改訂公開草案適用前の支配取得後の子会社に対する持分の減少(ただし、支配が継続していることが条件)にも適用することが暫定的に合意された。

2. 財務諸表の表示

今回は、セグメントBの中の流動性に関する情報開示について議論が行われた。具体的には、1. 流動性概念の明確化及び2. 開示すべき流動性に関する情報ついての検討が行なわれた。

(1)流動性概念(ソルベンシー)

流動性に関する情報では、新たに「ソルベンシー」という概念を入れ、これに伴い流動性に関する作業原則を改訂することが提案された。ソルベンシーは、外部からの負債を期日に支払うことができる能力という意味で使われており、現在の作業原則である「財務諸表は、利用者が企業の資産及び負債の流動性(現金に対する近さ又は現金に転換される期間)を評価することに役立つような方法で情報を表示しなければならない」に、ソルベンシーの概念を組み込むことが提案された。
議論の結果、ソルベンシーの概念を作業原則に含めるべきかどうかについてさらに検討することがスタッフに指示された。

(2)開示すべき流動性に関する情報

流動性に関して開示すべき情報については、2006年10月のFASBとの合同会議でも議論が行なわれ、長期資産・負債について満期に関する情報を提供するべきことが既に暫定的に合意されている。今回は、これらも含めた流動性に関して開示されるべき情報全般について議論が行なわれた。なお、議論の対象となっている長短区分は、契約上の満期又は予想される実現又は決済時期が1年以内のものを短期に区分することを規準とする長短区分であり、正常営業循環基準は採用されていない。
スタッフからは次のような提案がなされ、この提案の方向が概ね支持された。

  1. 流動性を管理する方針及びプロセスに関する質的情報を注記開示する。
  2. 契約上の満期のある長期の資産及び負債については、満期に関する詳細情報を注記開示する。
  3. 契約上の満期のある短期の資産及び負債については、1. 企業が1年より短い期間をベースにして資金需要を管理している場合には、最低限2つ以上の区分(例えば、6ヶ月以内と6ヶ月超1年以内)に分けた満期情報を注記開示し、2. 1年より短い期間をベースにして資金需要を管理していない場合には、財政状態計算書の本表上又は注記で満期情報を開示する。もし、財政状態計算書の本表上で当該情報を表示する場合には、すべての資産又は負債が短期又は長期に区分されなければならない。

上記(c)1. の場合には、満期情報は次のように満期を区分しなければならない。

  • 1. 契約上の満期又は2. 予想される資産又は負債の実現又は決済時期のいずれか短い方、又は
  • 企業の流動性管理活動と首尾一貫しているのであれば、1. 契約上の満期及び2. 予想される資産又は負債の実現又は決済時期の両方。さらに、1. と2. の間の重要な差異に関する説明。

これ以外の場合には、流動性に関する情報は、1. 契約上の満期又は2. 予想される資産又は負債の実現又は決済時期のいずれか短い方に基づかなければならない。

さらに、スタッフに対して、IFRS第7号(金融商品:開示)で金融商品に求められている開示との関係より分かるように提案を改善することが指示された。

3. 概念フレームワーク

今回は、フェーズB(構成要素)に関連して、1. 負債と資本の区分及び2. フェーズAのコメント分析の2点が議論された。

(1) 負債と資本の定義

負債と資本を区別すべきか、もし区別するとした場合、現在の2つの区分で十分かといった問題が、財務諸表の構成要素に関する問題の一環として2006年11月に議論された。

そこでは、2つの代替案を検討することが暫定的に合意された。1つのアプローチは、負債と資本を区分する明確な規準を作ることは難しいとの理解から、両者を区分せず、両者を含む概念として、例えば、「請求(claims)」という1つの構成要素としてはどうかというアプローチである(これを「単一構成要素アプローチ(single element approach)」という)。もう1つのアプローチは、貸方側を負債及び資本の2つの要素以外の要素も含めた3つ以上に区分しようというアプローチである。例えば、純粋な負債、純粋な資本及びその中間の構成要素(例えば、「dequity」)の3つに分けることが考えられる。そして、スタッフには、単一構成要素アプローチに重点を置いて2つの代替案を更に研究することが指示された。

今回は、単一構成要素アプローチに関する議論が行われた。そもそもこのような単一構成要素が検討されるのは、負債と資本を明確に区分することが困難になりつつあるという現状認識がある。最近負債と資本の境界があいまいな金融商品(例えば、永久債と永久優先株式は将来金利又は配当が増加することによって償還が予想されることから経済的実態は変わらないといえる)が増えており、それらを負債と資本に明確に区分する規準を見出すことが困難になりつつある。また、債権者も株主も企業の資源(すなわち資産)に対する請求権を持っているという意味では共通した側面があるため、この側面から両者を統合する概念を創出できる可能性がある。このようなことから、暫定的に統合する概念として「請求(claims)」という用語を用いて、新しい統合された構成要素を創出する可能性が議論されている。このアプローチでは、貸借対照表は、資産(借方)と請求(貸方)から構成されることになる。

また、このアプローチを採用すると、現行の概念フレームワークの他の部分や会計基準に多大な影響を及ぼすことが予想される。例えば、現在資産及び負債の増減が収益又は費用を生じさせるという形で把握されている収益又は費用の認識及び測定方法は根本的に見直さなければならなくなると予想される。このような広範な影響は、FASBとIASBの概念フレームワークの共通化を目指す限定的な本プロジェクトの趣旨に反するという意見もある。しかし、一方で、複雑な金融商品などによってもたらされた諸問題を解決する可能性のある有望な単一構成要素アプローチをここで捨ててしまえば、将来にわたって財務報告の質を高める可能性を喪失してしまうとの意見もある。このため、今回議決が7対7に分かれた。今後、負債と資本の区分を取り扱う会計基準レベルのプロジェクトへの影響の検討をも含んだFASBの動向も参考として、単一構成要素アプローチをさらに検討するかどうかを判断することとされた。

(2)フェーズAのコメント分析

フェーズAでは、2006年7月に、2章(第1章「財務報告の目的」及び第2章「意思決定有用性のある財務報告情報の質的特性」)からなるディスカッション・ペーパーが公表され、コメント募集期間が11月3日に終了した。FASBとIASBは179通のコメントを受領した。第1章では、例えば、財務報告は投資及び信用供与の判断を行なうために有用な情報を提供すべきことを目的とすべきとされ、受託責任(stewardship)を独立の目的としないこととしている(受託責任は、意思決定に有用な情報に含まれる概念とされた)。第2章では、質的情報として、適合性(relevance)、忠実な表現(faithful presentation)、比較可能性(comparability)及び理解可能性(understandability)の4つに分け、これらに対する制約条件として重要性(materiality)と費用対効果(benefits and costs)を掲げて、これらの関係を整理している。

今回は、コメントを質問のテーマごとに集計した結果の分析が示された。例えば、第1章では、上述した受託責任は投資家や債権者が投資や与信のための意思決定を行うために有用な情報を提供するという財務報告の目的に含まれるとするディスカッション・ペーパーの見解には反対が多いという分析結果が示された。また、第2章では、従来用いられていた「信頼性(reliability)」という用語は、あまりに多様に解釈されているため、これに代えて「忠実な表現」を用いることとしている点について、「忠実な表現」は「信頼性」より狭い概念であり十分ではなく、混乱を招くことになるといったコメントが寄せられているという分析結果が示された。今後4月及び6月に更に詳しい議論を行う予定で、2007年第3四半期に公開草案の公表を目指している。

4. 退職後給付(IAS第19号の改訂)

このプロジェクトは、2006年7月に新規に追加されたIAS第19号(従業員給付)の年金会計を見直すための2つのフェーズからなるプロジェクトの第1フェーズである。第1フェーズは、現行の年金会計を大幅に改善することを目的として、4年程度での完成を目指しIASB単独で行なわれている。次に示すような内容を取り上げ、最初の文書としてディスカッション・ペーパーの公表を目指している。

  1. 年金に関連する費用や資産及び負債の表示と開示(財務諸表の表示プロジェクトとは分離して検討する)
  2. 確定拠出型及び確定給付型契約の定義及びキャッシュ・バランス・プランの会計処理
  3. 平準化(未認識)及び遅延認識の仕組みの廃止に向けた検討
  4. 年金の清算と縮小の取扱い

今回は、1. キャッシュ・バランス・プラン及び類似のプランの定義及び2. ディスカッション・ペーパーのドラフトが議論された。

(1) キャッシュ・バランス・プラン及び類似のプランの定義

2006年12月にキャッシュ・バランス・プランに関する初めての議論が行われたが、今回はこれに引続き、退職後給付を次の3つに分けた上で、それらをどのように会計処理するかについて多くの例示を利用して議論が行われた。なお、今回から企業が従業員に対して有している退職後給付を総称する用語として「給付約定(benefit promises)」が用いられている。
スタッフの提案では、給付約定を1. 確定拠出約定(defined contribution promise)、2. 資産ベース約定(asset-based promise)及び3. 確定給付約定(1. 及び2. 以外がこれに該当)(defined benefit promise)の3つに分けて定義し、それぞれに適用すべき会計処理を示している。そして、企業が従業員に対して労働の対価として負っている給付約定(退職後給付プラン)がある場合には、当該給付約定を上記3つの要素に分解し、それぞれを会計処理することを提案している。

1. 3つの給付約定

スタッフは、退職後給付は次の3つの約定からなり、それぞれ下記の方法で会計処理することを提案した。

  1. 確定拠出約定は、分離されたファンドに一旦確定拠出額が支払われたら、当期及び(支払われた以降の)過去の期に関して、企業がなんらの債務を負わない約定をいう。これらに対しては、IAS第19号の確定拠出型年金の会計処理が適用される。
  2. 資産ベース約定は、当該約定の金額が資産又は指標(ただし、固定した増加を生む資産又は指標を除く)の変動に応じて変動する約定をいう。これらの約定は、公正価値で測定される。
  3. それ以外の給付約定は、確定給付約定である。確定給付約定は、特定の固定した増加、サービス又は給与に従って変動する。これらに対しては、IAS第19号の確定給付型年金の会計処理が適用される。

上記定義の妥当性に関しては、「固定した増加」の取扱いが論点となった。例えば、企業は毎年給与額の8%をファンドに拠出し、当該拠出額に対して毎年4%の固定レートでの利回りが退職従業員まで確定しているような年金の場合、「毎年4%の固定レートでの利回り」という部分を確定給付約定と見るのか、資産ベース約定と見るのかが議論された。議論の結果、このような固定した増加額があるような約定は、資産ベース約定と見ることが暫定的に合意された。これは、スタッフの提案とは異なるものであり、この暫定合意がどのような影響を与えるかについてさらにスタッフが検討することとなった。

また、上記3つの要素を含む退職後給付(給付約定)がある場合、3つの要素をどのように分離するかが議論された。結論として、まず確定拠出約定の部分を分離し、次いで資産ベース約定を分離、そして残りを確定給付約定とするという分離のヒエラルキーが暫定的に合意された。なお、確定拠出約定及び確定給付約定には、IAS第19号の対応する会計処理が適用され、資産ベース約定は公正価値で測定される。

2. 給付約定の分離のヒエラルキー

ある退職後給付(給付約定)が、分離の仕方によっては上記3つの約定にいろいろに分離し得る場合、企業の任意な分離の仕方に任せるのではなく、一定の順序で分離する必要があることから、スタッフから、分離のためのヒエラルキーが提案された。スタッフ提案では、まず、確定給付約定部分を分離し、次いで、確定拠出約定又は資産ベース約定部分を分離することになる。このような確定給付約定を重視するスタッフ提案が、暫定的に合意された。
例えば、企業は毎年給与額の8%をファンドに拠出し、当該拠出額の利回りは実際利回りとするが、年3.25%の最低保証が付いているような年金の場合、次のように解釈することが可能である。(a)当該年金を全体として資産ベース約定と見る、(b) 年3.25%の固定額を持つ確定給付約定と、もし年3.25%以上となる場合には確定拠出約定として扱うというオプション(保証)のある年金と見る及び(c)確定拠出約定で年3.25%の保証が付いている年金と見る。このようないくつかの解釈ができる場合、暫定合意されたヒエラルキーでは、まず確定給付約定を分離することを優先させるという取扱いが適用され、上記の場合、(b)の解釈が採用されることになると考えられる。

(2)ディスカッション・ペーパー・ドラフト

2006年11月にすべての数理計算上の差異及びすべての権利未確定の過去勤務費用は、その発生時に即時に認識すべきことが暫定的に合意されたことを受けて、これらを反映したディスカッション・ペーパーのドラフトが提示され、これについて議論が行われた。

議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. ディスカッション・ペーパーでは、年金費用の表示に関する事項も取り扱うが、そこでは、現行IAS第1号(財務諸表の表示)の規定を前提に提案を行うこととし、現在検討中の「財務諸表の表示」プロジェクトでの議論は考慮しない。
  2. 退職後給付債務及び年金資産に関連して当期に生じた変動は、すべて包括利益として報告する。しかし、ディスカッション・ペーパーでは、IASBが選好する方法は、すべての変動を当期利益で認識することであることを説明する。さらに、次の2つの代替案を提示することにする。
    • 勤務費用及び割引率の変動によるものを除く確定給付債務にかかる数理計算上の差異は当期利益に含める。利息費用、割引率の変動及び年金資産のすべての変動は当期利益以外で認識する。
    • 勤務費用、利息費用、割引率の変動によるものを除く確定給付債務にかかる数理計算上の差異、年金資産にかかる受取配当及び年金資産に生じた受取金利(公正価値に内在する直近の金利を用いて計算する)は当期利益に含める。割引率の変動及び年金資産の残りの変動は当期利益以外で認識する。

5. 保険会計

今回は、1. アンバンドリング及び2. ディスカッション・ペーパーのプレバロットドラフトに対するコメントについての議論が行われた。ここではアンバンドリングに関する議論のみを紹介する。なお、ディスカッション・ペーパーは、2007年3月に公表される予定である(コメント期間は180日の予定)。

保険契約の中に預金の要素が含まれている場合、当該預金要素を保険要素から区分することをアンバンドリングと呼んでいる。この問題については、2006年9月に、両者の要素に相互関連性がなければアンバンドルしなければならないということに暫定的に合意した。ところが、その後、相互依存関係がなくアンバンドルしなければならない例を見つけられなかったため、スタッフから、この暫定合意を改訂し、アンバンドルを要求も禁止もしないということにしたい旨の提案があり、議論が行われた。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 両要素が相互に関連していて、分解するとした場合には、恣意的にしか両要素の測定ができないような場合には、保険契約の会計基準が契約全体に適用されなければならない。
  2. 両要素に相互関連性がなければ、保険契約の会計基準を保険要素に、IAS第39号(金融商品:認識及び測定)を預金要素に適用しなければならない。
  3. 両要素が相互に関連していても恣意的以外のベースで分けて測定できる場合には、IAS第39号を預金要素に適用する。契約全体を保険契約の会計基準で測定し、保険要素は、契約全体の測定値から預金要素の測定値を差引いて測定する。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

*本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。