ASBJ 企業会計基準委員会

第62回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第62回会議が、2006年11月16日から17日までの2日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回のIASB会議では、1. 概念フレームワーク、2. 金融商品(現行金融商品会計基準の置換)、3. 退職後給付(国際会計基準(IAS)第19号(従業員給付)の改訂)、4. 米国会計基準との短期統合化(借入費用及びジョイント・ベンチャー)、5. IFRSの年次改善、6. サービス・コンセッション及び7. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況についての検討が行われた。今回教育セッションはなかった。会議には理事14名が参加した(ダンジョウ氏は初めての出席)。本稿では、7. を除く議論の内容を紹介する。

1.概念フレームワーク

今回は、フェーズB(構成要素)に関連して、1. 資産の定義及び2. 負債と資本の区分の2点が議論された。

(1)資産の定義

資産の定義については2006年4月から議論が続けられて来ているが、今回、これまでの議論を踏まえた定義及びその補足説明の最終案がスタッフから提示された。議論では、いくつかの修正が提案され、これらを反映した案をスタッフが作成することが指示された。また、今後基準諮問会議(SAC)をはじめとする関係者からもこの定義についての意見を聴取することが合意された。

提示された資産の定義及びその補足説明は、下記のとおりである。なお、この定義及びその補足説明には、更に36パラグラフからなる「追加説明文(amplifying text)」が付随することとなっているが、今後関係者から意見を聴取するに当たって定義の趣旨をより分かりやすくするため、補足説明(下記(a)から(c))の中にできるだけ重要な説明を入れるよう配慮されている。今後意見聴取が終了した時点で、場合によっては補足説明の一部が「追加説明文」に移されることも考えられる。
「資産は、企業が現在の権利又は他の特権的アクセス(present right or other privileged access)を有している現在の経済的資源(present economic resource)である。

  1. 「現在の(present)」は、1. 経済的資源及び2. 経済的資源に対する権利又は他の特権的アクセスの双方が貸借対照表日において存在していることを意味する。
  2. 経済的資源は正の経済価値を持つものである。それは、稀少なものであり、かつ、生産又は交換といった経済活動を遂行するために用いられる能力のあるものである。経済的資源は、単独又は他の経済的資源と共に、直接又は間接に、キャッシュ・イン・フローの生成又はキャッシュ・アウト・フローの減少に貢献することができる。経済的資源は、キャッシュを支払う、物品を引渡す又はサービスを提供するという約束のように、他者が企業に対して行なう無条件の契約上の約束(non-conditional contractual promises)を含む。サービスの提供には、履行を行なうために待機状態にあること又は通常なら企業が行うことができる活動に携わることを禁止することを含む。
  3. 権利又は他の特権的アクセスは、企業が、現在の経済的資源を直接又は間接的に利用できるようにし、かつ、他者による利用を排除又は制限できるようにする。権利は、法的に強制できるもの又は(例えば、職業団体によって設定される)それと同等の手段によって強制できるものである。他の特権的アクセスは、強制できるものではないが、機密又は他のアクセスに対する障壁等によって保護されているものである。

(2) 負債と資本の定義

負債と資本の区分に関する概念フレームワークでの検討論点として、次の2つが取り上げられている。

EL25:負債と資本を区別すべきか。
EL26:2つの区分のみで十分か。負債、資本及び「dequity」としてはどうか。

このような検討が行なわれるのは、両者の区分を巡っては、法的形式を重視する会社法などの要求と実質を優先する会計基準の考え方の間に乖離が生じる場合があり、また、多様な金融商品の出現によって両者を明確に区分することが難しいものが生じているという事情がある。

この問題を議論するに当たって、負債と資本の区分を取り扱う会計基準レベルのプロジェクトが既に存在しているのに、概念フレームワークにおいて、同様のテーマを取り上げることに意味があるのかという点が問題となった。議論の結果、財務諸表の構成要素としての負債及び資本の概念レベルでの定義がなければ、これらに基づく他の構成要素を定義することはできないという理解から、会計基準レベルとは異なる視点から、負債と資本の区分を概念レベルで検討する価値があることが合意された。

概念レベルでの検討に当たっては、2つの代替案を検討することが暫定的に合意された。1つのアプローチは、負債と資本を区分する明確な規準を作ることは難しいとの理解から、両者を区分せず、両者を含む概念として、例えば、「請求(claims)」という1つの構成要素としてはどうかというものである(これを「単一構成要素アプローチ(single element approach)」という)。このアプローチでは、貸借対照表は、資産と請求とから構成されることになる。

もう1つのアプローチは、貸方側を負債及び資本の2つの要素以外の要素も含めた3つ以上に区分しようというアプローチである。例えば、純粋な負債、純粋な資本及びその中間の構成要素(例えば、「dequity」)の3つに分けることが考えられる。
議論の結果、スタッフには、単一構成要素アプローチに重点を置いて2つの代替案を更に研究することが指示された。なお、米国財務会計基準審議会(FASB)でも同様な決定が行なわれている。 

2.金融商品

このプロジェクトは、金融商品に関する現行の会計基準を全面公正価値の採用によって置き換えるという長期的なプロジェクトであり、2006年2月にIASBとFASBが公表した覚書(Memorandum of Understanding、以下「MOU」という)に基づいて、2008年までにデュー・プロセス文書の公表が目標とされているものである。
今回は、認識と測定に関して、1. 公正価値による測定の信頼性、2. 認識のための会計単位(unit of account)、3. 当初測定、4. 測定単位(unit of measurement)、5. 公正価値の変動による未実現損益の認識及び6. 特殊なオプションを含む金融商品の測定について議論された。

(1)公正価値による測定の信頼性

すべての金融商品の公正価値が十分な信頼をもって測定できるかどうかについて議論が行われた。議論の結果、非上場の株式等公正価値の測定が難しいものがあるとしても、デュー・プロセス文書の対象となる金融商品では、公正価値を信頼をもって測定できるという点が暫定的に合意された。

(2)認識のための会計単位

金融商品を認識する際に、どのような単位で認識するか(会計単位)が議論された。検討されたのは、1. 金融商品の一部分を区分して認識する、2. 個別の金融商品全体を認識する及び3. 複数の金融商品を「リンク(複合金融商品)アプローチ」によって1つの資産又は負債として認識するという3つの代替案であった。議論の結果、原則として、個別の金融商品を会計単位とするのが最も適切であるものの、「リンク(複合金融商品)アプローチ」が要求される状況もあることが暫定的に合意された。

(3)当初測定

金融商品の当初認識時にどのように測定するかについても議論された。測定の代替案としては、1. 市場出口価値、2. 取引価格及び3. 市場入口価値が検討された(多くの場合、当初認識時には取引価格は市場入口価値と一致する)。議論の結果、公正価値測定を巡っては別途プロジェクトが進行しており、この結果を待つ意味で、デュー・プロセス文書では、いずれが良いかに関する予備的見解は表明しないことが暫定的に合意された。

(4)測定単位

測定単位とは、認識された資産又は負債が測定のためにまとめられる単位をいう。検討された測定単位は、1. 個別の金融商品及び2. 金融商品のポートフォリオであった。議論の結果、測定目的上個別の金融商品レベル(測定単位は個別の金融商品)で公正価値を測定することとすべきであることが暫定的に合意された。しかし、そのような測定目的が、類似の金融商品をポートフォリオとしてまとめ、そのポートフォリオを構成する個別の金融商品の公正価値の総額を測定することを目的とするのであれば、類似の金融商品をまとめたポートフォリオを測定単位することも認められるべきであることも合意された。

(5)公正価値の変動による未実現損益の認識

当初認識以後金融商品を公正価値で再測定することによって生じる未実現損益をどのように認識するかが議論された。そのような未実現損益が包括利益を構成することに異論はないものの、当期利益に含めて表示すべきか、それとも、いわゆるその他の包括利益として表示すべきかが論点である。さらに、キャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ手段に生じた公正価値の変動(未実現損益)はどのように扱うべきかについても議論された。議論の結果、デュー・プロセス文書の対象となる金融商品の再測定によって生じるすべての未実現損益は、原則として当期利益に含めて表示することが暫定的に合意された。なお、ヘッジ会計(キャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ手段に生じた公正価値の変動の取扱い)については、将来議論することとされており、それによってこの暫定合意が見直される可能性がある。

(6)特殊なオプションを含む金融商品の測定

クレジットカード契約に代表されるような、ある種のオプションが組み込まれた金融商品の測定について議論が行なわれた。このような金融商品では、当該金融商品のキャッシュ・フローは、契約の相手方がオプションを行使するかどうかに依存しており、しかも、当該オプションの契約相手方による権利行使がオプションの売手である企業にとって有利となる。このような場合に、オプションの売手である企業は、そのような有利なキャッシュ・フローを測定に当たり考慮すべきかどうかがここでの論点である。

クレジットカード契約では、カード保有者がクレジットカードを使用することは、カード保有者がカード会社に対して有しているオプションを行使したことを意味する。しかも、カードの利便性等の理由から、カード保有者は、当該オプションがアウトオブザマネーの状況(カード会社から借入をするよりも銀行から同額を借入れた方が有利である状況)であってもカードを利用する(権利行使を行なう)。この結果、カードの利用によって、オプションの売手であるカード発行会社に有利なキャッシュ・フローが生じることになる。言い換えると、オプションの売手は当該オプションに対して資産を認識することができるかというのが論点である。

カード会社が、自分の有するクレジットカード契約のポートフォリオを第三者に売却する事例を見ると、アウトオブザマネーの場合でもカード保有者が権利行使することによってカード会社に生じる便益を考慮した譲渡価格が設定されていることから、このような取引に参加する関係者は、カード会社が売建オプションに関連する資産を有していると考えているようである。このような契約から生じる企業が便益を得られる可能性を現在の契約から生じる権利と見るか、それとも現在の顧客との関係から生じる無形資産と見るかについては、今後検討する予定である。  

3.退職後給付(IAS第19号の改訂)

これは、2006年7月に新規に追加されたプロジェクトで、IAS第19号(従業員給付)の年金会計を見直すための2つのフェーズからなるプロジェクトの第1フェーズである。第1フェーズは、現行の年金会計を大幅に改善することを目的として、IASB単独で行なわれる。第1フェーズでは、最初の文書としてディスカッション・ペーパーの公表を目指して、次に示すような4年程度で完成できる内容を取り上げる。

  1. 年金に関連する費用や資産及び負債の表示と開示(財務諸表の表示プロジェクトとは分離して検討する)
  2. 確定拠出型及び確定給付型契約の定義及びキャッシュ・バランス・プランの会計処理
  3. 平準化(未認識)及び遅延認識の仕組みの廃止に向けた検討
  4. 年金の清算と縮小の取扱い

今回は、確定給付型契約の1. 数理計算上の差異及び過去勤務費用の認識の要否及び2. 包括利益計算書における表示の2点が議論された。

(1)数理計算上の差異及び過去勤務費用の認識の要否

数理計算上の差異は、IAS第19号では、コリドールと呼ばれるある一定限度内のものは認識しないことができ(未認識処理)、更に、当該限度額を超えるため認識しなければならないものは、見積平均残存勤務期間に渡って認識することができるとされている(遅延認識処理)。また、過去勤務費用についても、年金の改定により直ちに従業員が権利を取得するものは当該改定期の費用とするものの、従業員の権利取得までに一定の勤務サービスの提供が求められるものについては、当該期間に渡って費用認識することが求められている。

今回このような未認識処理や遅延認識処理等の会計処理の妥当性について議論が行われ、議論の結果、すべての数理計算上の差異及びすべての権利未確定の過去勤務費用は、その発生時に即時に認識すべきことが暫定的に合意された。

(2)包括利益計算書における表示

数理計算上の差異及び過去勤務費用は即時に認識すべきとの暫定合意を受け、これらの費用を包括利益計算書上でどのように表示すべきかについて議論が行われた。

議論の結果、包括利益計算書での表示は、別途進められている財務諸表の表示プロジェクトと重複するが、同プロジェクトの進展には時間がかかることから、年金会計見直しの第1フェーズに関連する項目の財務諸表での表示については、このプロジェクトで検討することが暫定的に合意された。その上で、数理計算上の差異及び過去勤務費用を含むすべての年金関係費用は、包括利益計算書上、当期利益に含めて表示することが暫定的に合意された。ただ、数理計算上の差異及び過去勤務費用を発生時にすべて当期利益で認識することには多くの関係者が時期尚早という判断をする可能性があることから、ディスカッション・ペーパーでは、年金関係費用の一部を当期利益で認識しない処理を含む代替案も含めて提示することが暫定的に合意された。

4.米国会計基準との短期統合化

今回は、短期統合化項目のうち、1. 借入費用及び2. ジョイント・ベンチャーについて議論が行なわれた。

(1)借入費用

本プロジェクトでは、IAS第23号(借入費用)において適格資産に対して認められている2つの処理(資産処理と費用処理)のうち費用処理を削除する方向での検討が行われている。今回は、受領したコメントに関する暫定的な分析を受けて、予備的議論が行なわれた。議論では、本プロジェクトは、対応する米国会計基準との完全なコンバージェンスではなく、借入費用の費用処理という限定された取扱いについてのみのコンバージェンスを目指しており、プロジェクトとしての優先度は低く、プロジェクトを廃止してはどうかとの意見が出された。本プロジェクトは、FASBとの間のMOUで取り上げられている項目であることから、廃止するべきではないとの意見が多数を占め、本プロジェクトを進行させることが決定された。今後は、2006年12月に、より詳細なコメントの分析結果を議論する予定である。

(2)ジョイント・ベンチャー

本プロジェクトでは、IAS第31号(ジョイント・ベンチャー)において共同支配の事業体の会計処理として認められている2つの処理(比例連結及び持分法)のうち比例連結を削除することを基本的な方向として検討が行われている。現在検討されているのは、ジョイント・ベンチャーへの投資が直接投資か間接投資かに基づいて、直接投資の場合には、その対象となっている資産や負債をそれぞれに適用されるべきIFRSを適用して認識測定し、間接投資の場合には、間接投資に持分法を適用するというモデルである(便宜上このモデルを「直接投資間接投資モデル」と呼ぶ)。

IAS第31号では、ジョイント・ベンチャーの形態を1. 共同支配の営業(jointly controlled operations)、2. 共同支配の資産(jointly controlled assets)及び3. 共同支配の事業体(jointly controlled entities)の3つに分けて規定している。共同支配の営業の場合には、投資企業(venturer)は、自己が支配する資産及び自己が引受けた負債を自己の財務諸表で認識することとされている。共同支配の資産の場合には、投資企業は共同支配資産に対する自己の持分相当額及び自己が引受けた負債を自己の財務諸表で認識することとされている。共同支配の事業体においては、比例連結を原則的処理とした上で、持分法の適用も認めている。
今回は、比例連結を削除すると共に直接投資間接投資モデルを採用する方向でIAS第31号を改訂した場合、これによって影響を受ける可能性のある業界(財務諸表の作成者)とスタッフが接触した結果が報告された。ヒアリングの対象業種は、採掘産業、不動産、医薬品及び保険等であった。意見聴取の結果、1. 直接投資間接投資モデルは、共同支配の営業及び共同支配の資産では現在のIAS第31号とほぼ同じ結果をもたらすこと及び2. 共同支配の事業体に対して直接投資を行っており、かつ、現在IAS第31号の下で比例連結を採用している投資企業では、直接投資間接投資モデルの導入は比例連結とほぼ変わらない結果となることが報告された。議論の結果、共同支配の事業体への投資に対して直接投資間接投資モデルを適用することが改めて確認され、この方向で公開草案を準備することがスタッフに指示された。

5.IFRSの年次改善

緊急を要さず重要性の低いIFRSの改訂(IFRS間の不整合の解消又はIFRSの中の不明確な文言の明確化)を年に1回公開草案にまとめて公表する手続が2006年7月に合意された。これを受けて、順次改訂テーマが取り上げられている。今回は、1. IFRSへの準拠性に関する追加開示、2. 財務費用の表示及び3. 転換型金融商品の負債要素の長短区分の3つが議論された。

(1)IFRSへの準拠性に関する追加開示

IAS第1号「財務諸表の表示」では、IFRSの規定をすべて適用していない財務諸表で「IFRSに準拠している」という表現を用いることを禁止している。しかし、IFRSの採用の拡大に伴い、IFRSのすべてを採用していない国が「○○国が採用しているIFRSに準拠している」という表現を使うケースが増加している。このような表現は、どの程度のIFRSが採用されていないかが明示されていないため、投資者の誤解を招く恐れがある。しかも、今後ともIFRSを一部採用する国の拡大をIASBとして防ぐことが難しい状況にある。

このような状況を前提として、「○○国が採用しているIFRSに準拠している」と表現した場合には、同国で採用されている会計基準とIFRSとの差異の内容を財務諸表に注記を求めるようIAS第1号を改訂することが今回提案された。議論では、このような改訂事態がIFRSの部分採用を助長するといった懸念やどの程度の差異に対して開示を求めるかで議論がわかれ、改めて今後議論することとされた。

(2)財務費用の表示

財務費用の損益計算書における表示を巡って、IAS第1号とIFRS第7号(金融商品:開示)との間にある矛盾の解消が提案された。IAS第1号(第32項及び第81項)では、財務収益と財務費用の内訳を示さずに損益計算書上財務費用として純額で表示することを禁止している(原則は、財務収益と財務表の総額表示)。ところが、IFRS第7号(IG13)では、金利収益総額と金利費用総額は、財務費用の構成要素であると記述している。これは、金利収益総額と金利費用総額を純額で財務費用として表示することを認めることを意味していることになり、総額表示を原則とするIAS第1号と矛盾する。このため、IFRS第7号IG13を削除して矛盾を解消することが暫定的に合意された。

(3)転換型金融商品の負債要素の長短区分

転換型金融商品の負債要素の長短区分を決定するに当たって、現在のIAS第1号第60項(d)は、負債の「決済」を少なくとも12ヶ月以上繰延べることができる無条件の権利を企業が有していない限り、流動区分とすることを要求している。概念フレームワーク(第62項)では、債務(obligations)の「決済」には、「債務の資本への転換」も含まれると記述されている。転換型金融商品では、資本に転換できる転換権を資本として、それ以外の負債要素を負債として認識することが求められている。そして、転換権の行使はいつでもできることとなっている。概念フレームワークの「決済」という意味をIAS第1号第60項(d)にそのまま適用すると、転換型金融商品の負債要素は、いつでも転換権の行使により資本に転換できるため、すべて流動区分で表示する必要がある。転換権の行使による資本への転換はキャッシュ・フローを伴わないため、キャッシュの流出を反映するという意味での流動性を示すという観点からは転換型金融商品の実態を反映しないことになることから、IAS第1号第60項(d)の「決済」という記述を「債務の決済のために現金又はその他の資産を引渡すこと」に置き換える改訂がIFRICから提案された。すなわち、長短区分に当たって、持分金融商品による決済を判断規準からはずすための改訂である。この結果、転換型金融商品の負債要素で、その債務の決済のために現金又はその他の資産を引渡すことを少なくとも12ヶ月以上繰延べることができる無条件の権利を企業が有していない限り、当該負債要素は流動区分とすることになる。議論の結果、IAS第1号第60項(d)をスタッフの提案どおり改訂することが暫定的に合意された。

6.サービス・コンセッション

このプロジェクトは、IFRICがIASBの要請を受けて、政府が行なう事業を民間に委託する場合の運営者側の会計処理を扱う解釈指針として検討していたものである。解釈指針では、サービス・コンセッション契約に基づき、運営者は、サービスを提供する施設(例えば、道路や橋梁)を自ら建設し、その後当該施設を用いて消費者に対するサービスの提供を行なうが、その後、施設の建設費を政府から回収するか消費者から回収するかによって、金融資産モデル(政府に対する資産として認識する)と無形資産モデル(消費者から利用料を徴収できる権利の取得と考える)のいずれかを適用することとされている。

2006年10月にIASBが議論した結果は、提案内容に異論はないものの、この解釈指針は実質的に新たな会計基準の設定ともいえるので、IASBが最終決断をする前に関係者の意見を聞く機会を設けることが決定され、公聴会が2006年11月13日に開催された。

公聴会では、1. 無形資産モデルを用いた場合の無形資産の償却方法が限定的でありすぎる点及び2. 譲与者(grantor)が提供する保証の取扱いが不明瞭である点が指摘され、これに関して今回議論が行なわれた。議論の結果、下記2点についての改訂をIFRICに推奨することが合意され、この改訂をIFRICが承認することを条件に、サービス・コンセッションの解釈指針が承認された。したがって、今後IFRICにおいてIASBからの勧告が承認されれば、最終の解釈指針として公表される。なお、この解釈指針は、2008年1月1日からの発効が予定されている。

(1) 無形資産の償却方法

サービス・コンセッションの解釈指針の結論の背景では、無形資産モデルを用いた場合の無形資産の償却方法に関して、IAS第38号(無形資産)第98項があることが強調されている。第98項では、その存在が有期であると考えられる無形資産の償却に当たっては、定額法以外の方法を用いることが正当化される場合は極めて稀である点が強調されており、定額法以外を用いることがほぼ禁止されている。これに対して、公聴会では、例えば道路の予想される利用量に基づいた無形資産の償却が最も実態を反映する場合があることが指摘され、第98項の規定に対して疑問が提起された。第98項は、無形資産の償却に当たって、当初の償却を著しく低い金額に押さえるような償却方法が採用されることがないよう、乱用防止の意図で導入された規定である。議論の結果、乱用防止のために厳しい規定を置いておくことは合理性を欠き、さらに、同様の規定を持つIAS第16号(有形固定資産)とも均衡が取れていないので、IFRSの年次改善において、第98項を見直すことが暫定的に合意された。これを受けて、IFRICに対して、第98項の見直しを前提に、定額法以外の償却方法であっても合理的であれば採用できるよう文言修正することを勧告することが合意された。

(2) 譲与者が提供する保証の取扱い

金融資産モデルと無形資産モデルの適用を分ける規準は、運営者が建設した施設の代金の回収に関して、譲与者(政府)が運営者に対してどの程度の無条件の権利(保証)を付与しているかどうかにかかっている。公聴会では、譲与者による保証には、建設代金の回収保証のほか、日常的な運営に限定する保証もある点が指摘された。すなわち、解釈指針では、後者に限定した保証の提供が行なわれているケースが、前者の保証と明確に区別して記述されていないというものであった。言い換えると、建設代金の回収保証のみが2つのモデルのいずれを適用するかの判断基準で使用されるべきであり、日常的な運営に限定する保証は判断基準に含まれないことを明確にすべきという指摘であった。議論の結果、IASBとしては、解釈指針は譲与者による建設代金の回収保証に焦点を絞っており指摘のような不明瞭さはないと考えるものの、IFRICに対してこの点を明確にする文言の見直しを行うことを推奨することが合意された。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。