IASB(国際会計基準審議会)の第61回会議が、2006年10月16日から19日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。また、23日及び24日にはFASB(米国財務会計基準審議会)との合同会議が米国ノーウォークのFASB本部で行われた。今回のIASB会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. 財務諸表の表示、3. 概念フレームワーク、4. 収益認識、5. 国際会計基準(IAS)第37号(引当金)の改訂、6. 保険会計、7. セグメント、8. 中小規模企業(SME)の会計基準、9.無形資産、10. 関連当事者取引開示、11. IFRSの年次改善、12. IFRS第2号(株式報酬制度)の改訂、13. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)関連(サービス・コンセッション、IFRS第2号におけるグループ及び自己株式の付与の会計処理及びIAS第39号における部分ヘッジ会計)についての検討が行われた。このほか教育セッションでは、1. 退職後給付に関連してキャッシュ・バランス・プランを含む複合年金プラン及び2. 採掘産業に関するリサーチ・プロジェクトの経過報告が行われた。
FASBとの合同会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. 財務諸表の表示、3. 収益認識、4. 概念フレームワーク、5. 負債と資本の区分、6. 保険会計及び7. IASB・FASBの覚書(MOU)に基づくプロジェクトの現状について議論が行われた。
IASB会議には理事12名(エングストローム氏及びダンジョー氏は欠席)が参加した。また、合同会議には、FASBのボードメンバー7名を加え19名が参加した。本稿では、このうち、IASB会議の内容として1. 、5. 、7. 、9. 、11. 及び13. を、FASB会議報告として1. から4. (IASBで議論した2. 及び4. の内容も含む)の議論の内容を紹介する。
今回は、1. 従業員集団(assembled workforce)の資産認識、2. 再取得した権利及び企業結合前に存在していた関係の認識、3. 仕掛中の研究開発費の会計処理及び4. 企業結合後に会計処理を確定させるまでの測定期間の4項目が議論された。
公開草案では、被取得企業の従業員集団は無形資産として認識してはならないとされている(公開草案第40項)。今回この例外を継続するかどうかが議論され、暫定的に例外を削除し、従業員集団を無形資産として認識することが合意された。ここで、従業員集団とは、取得企業が企業結合後直ちに営業を継続することを可能とする従業員の集団であると定義される。取得企業が、被取得企業を買収した時点で、従業員を募集したり訓練したりすることなく営業を継続できる従業員の集団は、無形資産として認識できる価値を有していると判断された。
1. 再取得した権利
公開草案第41項では、取得企業が、企業結合以前に契約によって被取得企業に付与した無形資産を、企業結合によって再取得する場合、取得企業は、当該無形資産をのれんとは区分して無形資産として認識することを求めている。そして、再取得した権利に含まれる取引条件が、その時点の同一又は類似の取引に比べて有利又は不利な場合には、その時点で損益を認識すべきとしている。また、再取得した権利は、その後残存契約期間にわたって償却しなければならない。このような例には、フランチャイズを展開する親会社が、これまである地域で独占的に店舗展開をできる権利を与えていた独立企業を企業結合により子会社とするという場合がある。
今回、コメントを受けて、公開草案の取扱いを再検討したが、最終基準でも公開草案の提案を残すことが確認された。会計処理は次のようになる。
2. 企業結合前に存在していた関係
公開草案では、適用ガイダンス(A91及びA92)において企業結合前から取得企業と被取得企業との間に存在する取引、例えば、企業結合前に顧客と売主という関係に基づいて行なわれた取引は、企業結合と関係ないものの、企業結合によって内部取引となるので、実質的に決済されたものとみなし、決済損益を認識することとされている。受領したコメントでは、企業結合前から存在する取引を企業結合に関連する取引と区別することは困難であるため、このような取扱いに反対する意見があった。議論の結果、公開草案の提案をそのままとすることが再確認された。
IFRS第3号では、仕掛中の研究開発費がIAS第38号(無形資産)の定義を満たし、その公正価値が信頼を持って測定できるならば、のれんと区別して、無形資産として認識することを求めている。IASBの公開草案では、この点に関してあまりコメントはなかったものの、FASBの公開草案では、かなりな懸念が表明されていた。そこで、今回この問題が議論されたが、IASBは、公開草案どおりとすることを確認した。
IFRS第3号では、企業結合が行われた事業年度における当初認識時に暫定的に会計処理がなされた場合には、その後12ヶ月以内に確定させ、差額の調整を行わなければならないとされている。この規定に基づいて修正が行われた場合には、比較財務諸表をあたかも当初認識時から確定ベースの数値で会計処理していたかのように修正再表示しなければならないとされている。公開草案では、原稿IFRS第3号の取扱いと同じ提案をしているが、受領したコメントでは反対するものもあり、議論が行なわれた。議論の結果、公開草案の提案が再度確認された。
今回は、前回に続き公開草案の測定に関する規定の検討が行われた。公開草案第29項では、測定に関して、「企業は非金融負債を、貸借対照表日において現在の債務を決済するか、又は第三者に債務を譲渡するために合理的に支払うことが必要な金額により測定しなければならない。」としている。これは、新規に設定されたものではなく、現行のIAS第37号で規定されている「現時点決済概念(current settlement notion)」をより明確化したものである。しかし、公開草案のコメントでは、貸借対照表日に、1. 「現在の債務を決済する金額」と2. 「現在の債務を第三者に譲渡するために企業が支払う金額」という2つの概念が並存しているため、この2つは同じ金額を指しているために併記されているのか、それとも、両者は異なるものの企業が判断を行なって「合理的に支払う金額」を選択するという意味なのかが明確ではないとの指摘があった。この点を明確にするための議論が、今回行われた。
スタッフからは、「現在の債務を決済する(settle)金額」と「現在の債務を第三者に譲渡する(transfer)ために企業が支払う金額」とは同じ金額を指しており、2つの異なる金額を指しているのではないという分析結果を踏まえ、混乱を避けるため、後者の表現を削除することが提案された。しかし、「現在の債務を決済する金額」という表現は「現在の債務を第三者に譲渡するために企業が支払う金額」より広く、多様な意味に解釈されるおそれがあり、さらに、期末で決済する場合には、相手方が合理的な決済額以上を求めてくる可能性もある点が認識された。他方、「現在の債務を第三者に譲渡するために企業が支払う金額」を用いると、IAS第37号では、公正価値による測定を求めているのではないかと誤解されるおそれがあり(米国財務会計基準審議会第157号(公正価値測定)では、公正価値の定義の中で「負債の譲渡(transfer)」という表現を用いている)、これにも問題があるとされた。結局結論に達せず、「現時点決済概念」をより明確にする設例などを開発することがスタッフに指示された。
今回は、1. サービス・コンセッション、2. IFRS第2号におけるグループ及び自己株式の付与の会計処理及び3. IAS第39号における部分ヘッジ会計に関する議論が行われた。ここでは、1. と2. について触れる。
政府が行なう事業を民間に委託する場合の運営者側の会計処理を扱う解釈指針であるが、その実質は、サービス・コンセッションに対する新しい会計基準の設定といっていい内容である。運営者は、サービスを提供する施設(例えば、道路や橋梁)を自ら建設し、その後当該施設を用いて消費者に対するサービスの提供を行なう。その際、施設の建設費を政府から回収するか消費者から回収するかによって、金融資産モデル(政府に対する資産として認識する)と無形資産モデル(消費者から利用料を徴収できる権利の取得と考える)がそれぞれ適用される。公開草案に対するコメントを踏まえて、今回IFRICが承認した最終案が提示され、議論された。議論の結果、提案内容に異論はないものの、この解釈指針は実質的に新たな会計基準の設定ともいえるので、IASBが最終決断をする前に関係者の意見を聞く機会を設けることが決定された。ただ、この分野の会計基準に対するニーズが高いことから、公表が大きく遅れないように、公聴会はできるだけ早く、2006年11月にも開催することが決定された。
IFRS第2号に関する解釈指針では、1. 自己株式を含む株式報酬制度は株式で決済される制度として会計処理する、2. 親会社が子会社の従業員に親会社株式に関する権利を付与する場合は子会社では株式で決済される制度として会計処理する、そして、3. 子会社が親会社株式に関する権利を自らの従業員に付与する場合には子会社は現金決済制度として会計処理するという合意がIFRICにおいて形成されており、今回IASBに対して承認することが求められた。議論の結果、この内容が承認され、解釈指針として公表することが合意された。
今回議論されたその他のプロジェクトのいくつかについて、その内容を簡単に紹介する。
今回セグメントに関する最終基準のドラフトで指摘された問題についての議論が行なわれ、基準化に必要な議論がすべて終了した。今後、最終基準に対する投票に移り、2006年末までには、IFRS第8号(営業セグメント)として公表される予定である。
今回は、SME会計基準の公開草案ドラフトに対する議論が行なわれた。公開草案は、1. コメントのお願い、2. 基準本体、3. 財務諸表の例示及び開示チェックリスト及び4. 結論の背景からなる。これらの内容を巡って議論が行なわれ、議論の最後に、この内容で公開草案を公表することに対するボードメンバーの暫定的な意見(正式な投票ではない)が問われ、11対2で公開草案ドラフトの内容が支持された。
これは、IASBとFASBとの間で締結された覚書(MOU)に掲げられているリサーチ・プロジェクトで、オーストラリアの会計基準設定主体(AASB)によって進められている。MOUの目的を達成するため、2007年末までにプロジェクトの目的と範囲を決定する必要がある。今回、プロジェクトの取進め案が提示され、議論の結果、1. 自己創設無形資産の取得当初の会計処理及び2. 無形資産すべての当初認識後の会計処理を扱うプロジェクトとすることとし、その範囲及びタイミングに関する決定を2007年12月に行なうために必要な検討資料を完成させることが当面の目標とされ、その作成がAASBのスタッフに依頼された。なお、このプロジェクトでは、単独で購入される無形資産や企業結合で取得される無形資産の当初認識時の会計処理及びのれんの当初認識時及び当初認識後の会計処理は扱わない。このほか、2007年1月には、AASBが現在準備中の、企業結合で取得された無形資産の当初認識時に適用される会計処理の原則を、同様な自己創設の無形資産に適用する場合の技術的可能性に関する資料を検討することが予定されている。
緊急を要さず重要性の低いIFRSの改訂(IFRS間の不整合の解消又はIFRSの中の不明確な文言の明確化)を年に1回公開草案にまとめて公表する手続が2006年7月に合意された。これを受けて、今年の改訂テーマとして、1. 現在対象外とされている「建設中の投資不動産」をIAS第40号(投資不動産)の対象に含める改訂及び2. オペレーティング・リースに関連する変動賃借料(contingent rents)を定額法以外の方法、すなわち発生ないし稼得に合わせて認識する方法を認めるようにするためのIAS第17号(リース)の改訂の2つが提案され、その内容が暫定的に合意された。今後、90日間を公開期間とし、公開期間終了日から12ヶ月後に発効するこれらに関する公開草案が公表されることになる。
今回は、1. 測定属性及び2. 非支配持分及びのれんの2つについて議論された。
企業結合で取得した資産及び引き受けた負債を公正価値で測定することは公開草案から明らかであるが、FASBがSFAS第157号(公正価値測定)を2006年9月に公表したことから、企業結合の最終基準で公正価値による測定を求めるということは、FASBの場合はSFAS第157号に従った公正価値による測定を意味する。しかし、IASBの公正価値測定プロジェクトでは、SFAS第157号の公表を受けて、これをベースにしてディスカッション・ペーパーを2006年末までに公表することとしている。このため、現時点では、今後ディスカッション・ペーパーを基にIASBが作成する自らの公正価値測定IFRSがSFAS第157号の公正価値測定と同じ内容となるかどうかは判然としない。言い換えると、現時点で企業結合会計基準で公正価値による測定を規定したとしても、FASBとIASBで同じ内容となるかどうかが明確ではない。このため、両者の企業結合会計基準を実質的に同じ内容とするために何かよい方法がないかどうかが議論された。
議論の結果、IASBとFASBは、それぞれが現在持っている公正価値の定義に従うほかないということが暫定的に合意された。すなわち、IASBは、IFRS第3号(企業結合)で定義されている公正価値(取引の知識のある自発的な当事者間で、独立第三者間取引条件により、資産が交換され又は負債が引き受けられる価額)を用いることとされた。このため、IASBが公正価値測定プロジェクトを完成させるまでは(最終的な基準化は2009年の予定)、定義の趣旨はほぼ同じといえるかもしれないものの、企業結合会計基準で用いられる公正価値の定義がIASBとFASBで異なることとなる。IASBは、公正価値測定プロジェクトが完成した段階で、それに合わせて企業結合会計基準における公正価値の定義を見直すことを予定している。今後、IFRS第3号の公正価値の定義とSFAS第157号の公正価値の定義の間に重要な差異があるかどうかがスタッフによって検討される予定である。
のれんの認識を巡って、購入のれん(親会社部分のみ)を認識すべきという見解と全部のれん(親会社部分と非支配持分部分の合計)を認識すべきという見解がIASBの中では拮抗している(FASBでは、大多数が全部のれんを支持している)。このような状況のため、のれんの認識をどのようにすべきかという論点から議論していても進展が望めないことから、今回、非支配持分の測定属性という観点から議論することにより、のれんを巡る議論を収束させることを意図した提案がスタッフから示された。例えば、非支配持分の測定属性として公正価値を用いるのであれば、非支配持分の公正価値には、非支配持分に帰属するのれんが含まれることになるため、結果として全部のれん方式が採用されることになる。もし、非支配持分の測定属性は識別可能純資産の比例的持分であるとすると非支配持分に対応するのれんはふくまれないことになり購入のれん方式が採用されることとなる。今回、合意を形成するまでには至らず、このようなアプローチを更に検討することがスタッフに指示された。
今回は、1. 財務セクションと投資カテゴリーの区分、2. 長短区分の表示、3. 測定に関する表示と開示及び4. その他の包括利益及び当期利益の表示の4点が議論された。
今回の会議では、当初事業セクションに表示することとされていた財務資産(financing assets)を財務(financing)セクションに含めることが合意された。財務セクションは、主として、企業の事業活動に用いる資金をどのように調達しているかといった財務活動を表示するセクションであり、財務資産・負債には、現金及び現金同等物等金融資産及び金融負債のうち経営者が財務(資金調達)活動の一部と考えているものが含まれる。財務負債及び財務資産から生じる損益は、包括利益計算書上区分して表示される。
投資カテゴリーは、金融資産又は金融負債で財務セクションに含まれず、さらに企業の主要事業活動とも異なるものが含まれる。それらには、売却可能金融資産や持分法適用会社への投資などが入るものと考えられる。これらに関連する損益は、包括利益計算書上区分して表示される。
資産負債を営業カテゴリー、投資カテゴリー及び財務セクションにどのような方針で区分するかは、会計方針として開示することを求めることとし、これらの変更は会計方針の変更として、過年度の財務諸表に遡及して修正再表示を求めることとする予定である。これらに関するガイダンスを作成することがスタッフに指示された。
この他、年金に関する表示もこのプロジェクトで取り扱うこととし、現行規定(ネットで表示する)を基に、年金負債(又は資産)は貸借対照表上は純額で1つの勘定科目(営業カテゴリーになるものと想定される)で表示し、包括利益計算書でも1つの勘定科目で陣額で表示されることが考えられている(キャッシュ・フロー計算書でも同じ)。
流動性に関する情報開示については、営業循環基準とするか1年基準にするかについて考え方が分かれていた(IASBは前者をFASBは後者を選好)。最終的に、1. 契約上の満期又は2. 予想される実現又は決済時期が1年以内のものを短期に区分することを規準とする長短区分を採用することとされ、この長短区分に基づいて、貸借対照表の各セクション又はカテゴリーを区分することが暫定的に合意された。ただし、営業循環が1年を超える企業については、その期間を財務諸表の注記で開示することを奨励することも併せて合意された。また、契約上の満期が長期である資産及び負債については、満期に関する情報を注記で開示することを要求することとされた。さらに、資産及び負債のそれぞれごとに、短期の合計、長期の合計及びその総額(すなわち、総資産又は総負債)の情報を注記で開示することを求めることも暫定的に合意された。さらに、繰延税金資産負債の長短区分は、現行の米国会計基準に合わせて、それらの基となる資産負債の長短区分によって決めることも合意された。
測定に関して次のような点が暫定的に合意された。
今回、現在直接資本の部で認識されているその他の包括利益項目の変動(売却可能金融資産の公正価値の変動、為替換算調整勘定の変動、退職年金の数理計算上の差異の変動、有形固定資産に再評価モデルを適用した場合の再評価損益の変動及びキャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ手段の公正価値の変動で、ここでは「OCI項目の変動」と呼ぶ)を包括利益計算書上どのように表示するかが議論された。
両ボードメンバーの議論の結果の理解については、若干混乱があるが、今回は、長期的な取扱いと短期的な取扱いに分けて暫定的な決定が行なわれた。長期的には、別掲の包括利益計算書のように、OCI項目を区分表示せず、さらに当期利益も表示しない包括利益計算書とすることが暫定的に合意された。このモデルの下では、OCI項目は、それらが属する営業カテゴリー、投資カテゴリー及び財務セクションの中で表示され、実現した時点で再度包括利益計算書において改めて認識されることはない。例えば、売却可能金融資産に含まれる株式の場合、株価変動による未実現保有損益の変動は、「投資資産」で表示され、その後株式を売却して現金化した時点では、過去に包括利益計算書で認識された未実現損益が再度認識されることはない(リサイクリングされない)。
一方、長期的な決定は余りに革新的であるので、短期的(どれくらいが短期は明確ではない)には、現行の米国会計基準の下での包括利益計算書(又はIASBの第1フェーズでの包括利益計算書の提案)のように、OCI項目を包括利益計算書上の独立したセクションとしてまとめて(多分包括利益の直前に)表示し、実現した段階でリサイクリングすることを認める方向である。ただし、その場合でも当期利益は表示しないという暫定的な決定が行われていて、その決定の意味をどのように理解するかが明確ではない。例えば、「法人所得税」は、OCI項目に関連する税効果や廃止事業に係る税効果もそこに含めることとしており(したがって、OCI項目や廃止事業は税引前で表示される)、法人所得税の後に小計を設けても、厳密には、現在の当期利益と一致しないが、「当期利益は表示しない」という決定は、法人所得税に含まれるOCI項目関連の税効果の調整をしないが、法人所得税の後に何らかの小計を設けることは禁止していないと解釈すべきか、それとも、そもそも法人所得税の後に小計を設けること自体を禁止する決定なのかがはっきりしない。このように、今回の暫定合意には不明確な点があり、今後これらの点を明確にする必要がある。
財政状況表(貸借対照表) |
事業(Business)
廃止事業(Discontinued operations) |
財務(Financing)
法人所得税(Income taxes) |
包括利益計算書
事業収益(Business Income)
営業収益(Operating Income)
投資収益(Investing Income)
事業収益合計(Total Business Income)
財務費用(Financing Expenses)
財務費用(Financing Expenses)
財務収益(Financing Income)
財務費用純額(Net Financing Expenses)
廃止事業合計(Total Discontinued Operations)
法人所得税合計(Total Income Taxes)
包括利益合計(Total Comprehensive Income)
本プロジェクトでは、資産・負債の変動によって収益を定義する考え方をベースに2002年6月からこれまで議論を続けてきている。契約の締結によって企業は履行義務(負債)を負うことになり、その履行義務の消滅によって収益が認識されることになる。企業が契約によって引き受けている履行義務は、「法的解放金額(legal layoff amount)」と「顧客対価額(customer consideration amount)」という2つの考え方で捉えることができ、IASB・FASBは当初「法的解放金額」に基づく履行義務の認識・測定を志向していた。しかし、「法的解放金額(企業に残存するすべての債務を履行する法的な責任を引き受けてもらうために、測定日において第三者に支払われなければならない価格)」を用いて企業の履行義務を測定すると、顧客との契約額(例えば100)とその契約時点における法的解放金額(顧客に引き渡すべき商品を卸売市場から80で調達できると仮定)に差異がある場合には、契約当初において(すなわち、契約対象の物品・役務の引渡しが行われる前に)収益(20)が認識されることになる(これを「契約時点における収益(Selling Revenue)」という)。この「契約時点での収益」の認識を避けるため、「顧客対価額(履行義務は、顧客が企業に支払った対価であり、企業が履行義務を果たさなかった場合に顧客に返却しなければならない金額)」を履行義務として認識・測定するモデルを用いて検討することとされ、これに基づいて議論が行われてきた。
ところが、「顧客対価額」を用いた議論では、いつ履行義務が消滅して収益を認識すべきかという収益認識の時点の決定に関していくつかの考え方が対立しており、そのためこのモデルに基づく基準の開発が遅れている。その原因として、顧客対価額モデルは、単一の契約をそれを構成するいくつかの要素に分解する際に公正価値に基づく配分をしないため、配分方法を検討する必要があることが挙げられている。また、公正価値をベースとする法的解放金額モデルでは、複数の構成要素を公正価値で測定するため、このモデルの方が適切ではないかという考え方がある。そこで、2006年10月のIASB・FASB合同会議において、1. 「顧客対価額」に基づく履行義務の認識・測定を行なうモデルと2. 「法的解放金額」基づく履行義務の認識・測定を行なうモデルを平行して検討し、この2つの考え方をディスカッション・ペーパーの中で示し、広くコメントを求めるべきであるという提案がなされ、これが承認された。この結果、今後それぞれのモデルを支持するIASB及びFASBのボードメンバー3名ずつから構成される2つの検討グループを組織し、そこで、それぞれのモデルを検討することとなる。
合同会議では、1. 概念フレームワークの基準化の手続、2. 現在の各フェーズの現状と今後の予定及び3. 測定フェーズ(フェーズC)の第一段階としての測定ベースについて議論が行なわれた。ここでは、1. 及び3. について触れる。
プロジェクトは、2005年1月から8つのフェーズに分けて行なわれているが、その完了までには5年以上の年月が必要と見込まれているため、それぞれのフェーズごとにディスカッション・ペーパー及び公開草案を公表することとしている(現在フェーズAのディスカッション・ペーパーが公表されている)。今回、このようにして部分的に完成する各フェーズをいつ発効させるかが議論された。議論の結果、プロジェクト全体の完成を待って発効することにはせず、それぞれのフェーズが完成するごとにその部分を発効させることが合意された。この結果、各フェーズが完成する都度、当該部分は会計基準作成の指針として有効になる。
プロジェクトの各フェーズ及び取扱うトピックス | |
A | 目的及び質的特性 |
B |
構成要素及び認識 |
C | 測定 |
D | 報告企業 |
E | 表示及び開示(財務報告の境界を含む) |
F | 概念フレームワーク及び公正なる会計慣行のヒエラルキーのステータス |
G | 非営利セクターへの適用 |
H | 概念フレームワーク全体 |
測定フェーズは、次の3つの段階に分け、最終的には、2010年の完成を目指すことが既に合意されている。
今回は、(a)に関して、現在資産及び負債の測定で用いられているさまざまな測定ベースの分析が行なわれた。検討されたものの中には、例えば、価値(value)及び価格(price)の峻別がある。これらの用語は、会計基準の中でさまざまに用いられているが、このプロジェクトでは、価値は、他の物品及びサービスの値打ち(worth)との関連で個人にとってのある物品及びサービスの値打ちを貨幣で評価したもの、すなわち、個人にとっての当該物品の効用に基づくもの(したがって価値は主観的である)という経済学的な解釈を前提に、現在会計基準で用いられている価値という用語の妥当性を検討しようとしている。例えば、この考え方による分析では、投資価値(investment value)又は使用価値(value in use)は、この意味の価値の用例であるが、現在価値(current value)又は公正価値(fair value)はこの意味の用例である場合もそうでない場合もあり得る。また、帳簿価値(book value)、入口価値(entry value)及び出口価値(exit value)は、経済学的な意味をまったく持っていない用例となる。価格は、物品又はサービスを購入するために交換によって犠牲にされる貨幣額であるとされ(したがって、価格は客観的である)、取引が行なわれるまで価格には該当しないと考えることができる。このように考えると、建値(quoted price)は価格ではなく価値であり、見積価格(estimated prices)も取引された価格ではないという意味で、価格には該当しない。このような視点から、現在会計基準の中でさまざまに用いられている測定ベースを分析することが今回行われた(これ以上の詳細についての記述は省略)。今後この分析資料を基に円卓会議2007年1月及び2月に開催することが予定されている。
以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)
本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。