ASBJ 企業会計基準委員会

第60回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第60回会議が、2006年9月18日から22日までの5日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回のIASB会議では、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. 財務諸表の表示、3. 国際会計基準(IAS)第37号(引当金)の改訂公開草案、4. 概念フレームワーク(測定に関するディスカッション・ペーパー、報告企業及び資産の定義)、5. 公正価値測定、6. 関連当事者取引開示、7. 収益認識、8. セグメント、9. 金融商品(スタッフのデュー・プロセス文書)、10. 金融商品(認識の中止)、11. 保険会計、12. 中小規模企業(SME)の会計基準、13. テクニカルプランの見直し及び14. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況についての検討が行われた。なお、教育セッションにおいては、保険会計(北米、欧州及び日本の業界関係者からのプレゼンテーション)及び連結が取り上げられた。会議には理事13名が参加した。ここでは、1. から6. までの議論の内容を紹介する。

1.企業結合(第2フェーズ)

今回は、無形資産の認識及び測定に関するコメントレターの分析及びそれに伴う取り扱いの検討が行なわれた。

(1)無形資産に関する公開草案での変更点

現在のIFRS第3号(企業結合)では、無形資産を企業結合時にのれんから分離して認識するためには、1. 無形資産の定義(物的存在のない識別可能な非貨幣性資産)を満たすと共に2. その公正価値を信頼をもって測定できることが求められている。ところが改訂公開草案においては、米国財務会計基準書(SFAS)第141号(企業結合)における無形資産の取り扱いと合わせるため、識別可能な無形資産はいつでも信頼をもって測定できるという前提をおいて2. の要件を削除している(公開草案第40項)。また、この他、企業結合で取得した統合された労働力(assembled workforce)の無形資産としての認識を禁止している。

(2)暫定合意

今回は、公開草案における無形資産の認識及び測定の取扱いに関して、受領したコメントレターの分析を受けて議論が行なわれ、次のような暫定合意に達した。

  1. 受領したコメントでは、企業結合で取得される識別可能な無形資産はいつでも信頼をもって測定できるとみなすことに反対が多かった。しかし、議論の結果、「信頼ある測定」ができるためには活発な市場が存在している必要はなく、SFAS第157号(公正価値測定)で示されている3段階のヒエラルキー(レベル1は同一資産に対する活発な市場における建値、レベル2はレベル1に含まれる以外の観察可能な市場における同一又は類似資産の建値、レベル3は資産に関する観察できない情報に基づく価格)によって算出される公正価値は、信頼ある測定に当たると考えられるので、識別可能であれば信頼をもった測定が可能であり、のれんと分離して認識すべきであるとされた(公開草案の提案どおり)。
  2. 公開草案では、無形資産は企業結合時の公正価値で測定すべきとされている。これに対して米国財務会計基準審議会(FASB)のボードメンバーの一部が、企業固有価値(entity-specific value)の方が適しているという見解を有しているため、この点を明確にする議論が行なわれた。経営者は、企業結合ではなく単体として資産を取得する場合に、企業固有価値が市場価格より高い場合に企業固有価値で購入することはなく、また、企業固有価値が市場価格より低い場合に企業固有価値で購入することはできない。議論の結果、単体として資産を取得する場合の考え方は、企業結合の場合にも当てはまると考えられ、したがって企業結合時にはその交換価値(市場価格)で測定すべきであるとされた。
  3. 上記に関連して、取得後使用する意図のない無形資産をゼロで測定するという実務があることなどを考慮して、このようなケースや取得した無形資産の通常の経済的耐用年数より著しく短い期間の使用しか予定していないケースに関する当初及びそれ以後の測定に関するガイダンスを最終基準に含める。

2.財務諸表の表示(業績報告)

セグメントBにおける議論が続いているが、今回は、1. 資金調達負債(financing liabilities)と資金運用資産(treasury assets)の表示、2. 法人所得税の表示、3. 廃止事業の表示及び4. 区分表示に関する作業原則の改訂について議論が行われた。なお、純利益の表示やリサイクリングといった問題に関する議論は、2006年10月で議論されるため取り上げられなかった。それぞれの論点ごとの議論は次のとおりである。

(1)資金調達負債と資金運用資産

資金調達負債と資金運用資産に関連して次の議論が行われた。

1. 資金運用資産の表示

財務諸表における表示の仕方については、対象となる項目の性質に基づいて表示する考え方と企業の中で果たしている機能に基づいて表示する考え方の2つがある。前者に従えば、資金運用資産と資金調達負債は、資産(営業区分)と負債に別々に表示することになる。しかし、機能に基づく分類(すなわち経営者の視点)を採用すれば、企業の財務部といったセクションで資金運用資産も資金調達負債も一元的に管理されている場合には、両者を資金調達負債という1つの区分にまとめることになる。今回の議論では、2006年7月の議論とは異なり(そのときには資金運用資産を営業区分にすることとされていた)、機能に基づく区分を採用し、資金運用資産を資金調達負債の区分に移して1つの区分で表示することとし、その区分の中では両者を両建てで表示することが暫定的に合意された。

2. 資金運用資産と資金調達負債の定義

資金調達負債と資金運用資産をどのように定義するかについて議論が行なわれ、これらを企業にとっての役立ち(すなわち機能)に基づいて定義することが暫定的に合意された。

3. 戦略投資

2006年7月の議論では、資金運用資産の定義には「全ての金融資産」を含むとしていたため、貸借対照表上での表示に当たっては、これらのうち、子会社や関連会社などに対する投資は除外し、営業(operating)に移すことができるようにすべきだとの議論が出た。これを受けて、どのような資産を資金運用資産から除外すべきかが議論された。スタッフからは、そのような除外項目をまとめる概念として戦略投資(strategic investments)という考え方が提案されたが、支持が得られなかった。なんからの金融資産を資金運用資産から除外すべきという点は暫定的に合意されたものの、その内容についてはさらに検討されることとされた。

(2)法人所得税

法人所得税をどのように表示するかについて議論が行われ、結論として、法人所得税は、事業(business)及び資金調達と同列な1区分として表示することが暫定的に合意された(この取扱いは、包括利益計算書及びキャッシュ・フロー計算書の双方に適用される)。法人所得税の表示関しては、課税の基となる取引と一体と見る見方とそれとは別のものとする見方の2つの考え方が検討されたが、後者の考え方を採用することとされた。また、その他包括利益や廃止事業に係る損益に関連する税効果は、それらから直接控除せず(したがって、これらは税引前で表示される)、法人所得税の中にまとめて表示することが暫定的に合意された。

(3)廃止事業

廃止事業の定義については、IFRS第5号(処分のために保有される非流動資産と廃止事業)とSFAS第144号(長期性資産の減損又は処分に関する会計処理)との間に差異がある。SFAS第144号では、他の資産グループと独立したキャッシュ・フローを生むことができる独立した資産グループを廃止事業とすることができるが、IFRS第5号では最低限独立した主要な事業ライン又は営業地域である必要があり、前者の方が後者よりは小さな単位まで廃止事業とすることができるようになっている。これは、IFRS第5号設定時に、米国会計基準より大きな単位にすべきとのコメントを受けて規定を作ったために生じているものである。これを統一する方向で検討することが暫定的に合意された。
また、廃止事業は、法人所得税と同様、独立した項目として各財務諸表で表示することが暫定的に合意された。この他、現在のIFRS第5号の開示要求のうち、キャッシュ・フロー計算書において、営業、投資及び資金調達に分けて廃止事業に係るキャッシュ・フローを開示すべきとの要求は削除することが暫定的に合意された。

(4)区分表示に関する作業原則の改訂

財務諸表における勘定科目の区分表示に関する作業原則(原則7)をより明確にするため、「財務諸表では、もし区分表示が将来キャッシュ・フローの予測に関する情報の有用性を高めるのであれば、勘定科目の内訳を区分する方法で情報を表示しなければならない。」というように改訂することが暫定的に合意された。なお、このような区分表示のための明確な数値基準などは設けないこととされた。また、包括利益計算書における区分表示に当たっては、機能(売上原価、販売管理費といった区分)によって区分することとし、企業の事業を理解するために重要な項目については、性質(原材料費、人件費といった区分)による区分表示を注記又は包括利益計算書上において補足情報として開示することが暫定的に合意された。また、資産及び負債、収益及び費用を貸借対照表及び包括利益計算書上で表示するに当たっては、グロス表示を原則とし、グロス表示が追加情報をもたらさない場合にのみネット表示を認めるという原則も暫定的に合意された。

(5)その他

作業原則のうち、同一企業の過去の期間との比較可能性(原則2)及び企業間の比較可能性(原則3)を確保すべきという2つの作業原則は、財務報告の質的特性に含まれているので削除することが暫定的に合意された。

3.IAS第37号の改訂

今回は、公開草案の測定に関する規定の検討が行われた。公開草案では、測定に関して、「企業は非金融負債を、貸借対照表日において現在の債務を決済するか、又は第三者に債務を譲渡するために合理的に支払うことが必要な金額により測定する」という原則を置いている。これは、新規に設定されたものではなく、現行のIAS第37号で規定されている「現時点決済概念(current settlement notion)」をより明確化したものである。公開草案では、IAS第37号を根本的に見直すのではなく、測定原則を明確化することのみを目指した改訂提案を行っている。しかし、多くのコメンテーターが新たな概念の導入だとの誤解をしており、それを受けて、今回議論されたのは、1. 提案されている測定原則の修正の範囲、2. 現在のIAS第37号の測定原則の再検討、3. 提案された測定原則は負債にかかわる有用な情報を提供するかどうか及び4. 測定原則について更なるガイダンスが必要かどうかという点である。

(1)修正の範囲

現行IAS第37号では、引当金として認識される金額は期末において現在の債務を決済するために要求される支出の「最善の見積り(best estimate)」でなければならないとしている(第36項)。ここで「最善の見積り」は、「貸借対照表日の債務を決済するため、又は貸借対照表日に債務を第三者に譲渡するために、企業が合理的に支払う金額」とされており(第37項)、「現時点決済概念」が採用されている。公開草案では、現在の規定の趣旨を明確にするため、「最善の見積り」を削除し、これに代えてIAS第37号が用いている「貸借対照表日において、現在の債務を決済するため、又は現在の債務を第三者に譲渡するために、企業が合理的に支払う金額」で負債を測定しなければならないという表現を踏襲している。それにもかかわらず、コメントでは、新たな測定原則が導入されたと誤解されていた。特に、公開草案では「究極決済概念(ultimate settlement notion)」、すなわち、最終決済額を負債の測定値とする考え方が採用されているとの誤解も広く存在していた。また、IAS第37号第39項及び第40項では、多数の項目から構成される債務の場合には期待値(expected value)が、単一債務の場合には最頻値(most likely outcome)が「最善の見積り」であるとの記述があり、これを公開草案では期待値のみとしていることも誤解を招いている。
このようなコメントにどのように対応するかについて議論した結果、1. 公開草案での提案のとおり、本プロジェクトは現行基準の考え方を明確にするものであり、2. したがって、現時点決済概念が測定原則であること(究極決済概念ではない)が確認された(その測定では期待値のみが用いられる)。

(2)その他の明確化

この他、測定に関連して、次の点が議論され、暫定的に合意された。

1. 2つの現時点決済概念

現時点決済概念では、「貸借対照表日において、現在の債務を決済するため、又は現在の債務を第三者に譲渡するために、企業が合理的に支払う金額」で負債を測定しなければならないとされているが、ここには、1. 貸借対照表日に現在の債務を決済する金額と2. 貸借対照表日に現在の債務を第三者に譲渡するために企業が支払う金額という2つの概念が並存している。この2つは同じ金額を指しているために併記されているのか、それとも、両者は異なるものの、企業が判断を行なって「合理的に支払う金額」を選択するという意味なのかが明確ではない。この点を明確にするため、今後検討することとされた。

2. 現時点決済概念が有用な情報を提供するかどうか

現時点決済概念で測定される負債金額は、実際に決済される金額とは異なるため、期末における負債の測定の「信頼性」を、実際の決済額といかに一致するかという観点から判断しようとする見方の人々からは、現時点決済概念を用いて測定することは適切ではないとの指摘がある。また、現時点決済概念を用いて測定する場合の主観性は、究極決済概念を用いる場合と変わらないという指摘もある。このような見解に対して、現時点決済概念を用いることによってより有用な情報が提供できるとIASBが考えている根拠を結論の背景で記述することが暫定的に合意された。

3. 適用ガイダンスの充実

現時点決済概念に基づく測定原則をどのように適用するかに関する適用ガイダンスを最終基準に追加することが暫定的に合意された。

4.概念フレームワーク

今回は、1. カナダの会計基準設定主体が公表した当初認識時の測定に関するディスカッション・ペーパー、2. IASBとFASBで進めている概念フレームワークの見直しに関する検討項目の1つである報告企業(これを「フェーズD」と呼んでいる)及び3. オプションと資産の定義との関連及びオプションと他の企業に対する支配との関連といった点が検討された。報告企業については、今回で議論が終了したので、スタッフがディスカッション・ペーパーの準備に入ることとなった。ここでは、2. 及び3. について報告する。

(1)報告企業

今回は、次に示すように報告企業を巡る論点全体が議論され、一応の議論を終了した。今後は、スタッフがフェーズDのディスカッション・ペーパーを作成する準備を行なうことになる。
報告企業を巡る論点としてプロジェクトの当初から下表に示す8項目が挙げられており、それらは、次の3点にまとめることができる。

  1. 個別報告企業を巡る論点(RE1及びRE2)。
  2. グループ報告企業を巡る論点(RE3からRE5)。
  3. 報告企業を決定する支配概念を巡る論点(RE6からRE8)。
議論すべき論点
RE1 法律上の企業又は経済的単位は、いつ報告企業となるか(例えば、支店対企業、事業対企業)。2つの質問がある。企業とは何か及び報告企業とは何か?
RE2 集約対分解-このうち最も有用な情報はどちらか?例えば、いつ法律上の企業をいくつかの報告企業に分割するべきか?連結すべきなのはいつか?
RE3 連結財務諸表の目的は?なぜ、ある地域では親会社単体財務諸表が要求され、他の地域では連結財務諸表が要求され、また他の地域では双方が要求されているのか?
RE4 支配は連結の正しい基礎か?
RE5 支配とは何を意味するか?支配を定義するのは概念レベルか基準レベルか?
RE6 企業に対する支配と資産に対する支配との間に相違があるか?どちらを連結の基礎とするべきか?
RE7 ジョイント・ベンチャー-共同支配概念、企業又は資産に対する共同支配とは?「重要な影響力」についてはどうか?-これは支配概念と適合するか?
RE8 現在支配しているが、将来支配を失う可能性があることは問題となるか(例えば、他の株主の保有が分散しているという理由のみで現在支配を有している場合)。もし、現在は支配していないが、(例えばオプションの行使により)将来支配を獲得できる場合はどうか?
1. 個別報告企業を巡る論点

ここでの論点は、既に過去にIASB会議で議論され、暫定合意に達している(2005年12月及び2006年3月)。すなわち、1. 報告企業のフェーズでは、一般目的の外部財務報告を作成すべき報告企業を定義することはせず、自らの選択により又は法律によって一般目的の外部財務報告を作成する企業が報告企業であると考えることとする。また、2. 財務報告目的上の企業を構成するものは法的企業に限定すべきではないものとする。報告企業は、経済的利益の制限された領域として幅広く記述されるかもしれず、報告企業には、会社、信託、パートナーシップ、組合(association)、自然人、個人事業主、及びある状況では支店又はセグメントが含まれる。今回の議論では、上記の諸点が改めて確認された。

2. グループ報告企業を巡る論点

ここでは、1. 親会社(parent entity)とグループ事業体(group entity)との関係をどのように捉えるか及び2. どのような企業がグループ事業体に含まれるべきかという2点が議論され、暫定合意に達した。
前者は、なぜある地域では親会社単体財務諸表が要求され、他の地域では連結財務諸表が要求され、また他の地域では双方が要求されているのか、これをどのように整理したらよいのかという論点である。今回は、整理に当たり、3つの考え方(詳細には触れない)を検討し、最終的に、一般目的の外部財務報告上、グループ事業体は、親会社とは異なる事業体であるという考え方を採用することが暫定的に合意された。この考え方では、例えば、親会社とその子会社からなるグループの場合、一般目的の外部財務報告上、親会社、グループ事業体(親会社及び子会社)及び子会社の3つが報告企業となり得ることになる。そして、それら3つの報告企業における資産及び負債をどのように表示するかという問題は、個別の会計基準レベルで決定されるべきとされた。
後者は、グループ事業体にどのような企業が含まれるべきかを決定する規準としてどのような考え方を採用すべきかという論点である。3つの考え方が検討された。それらは、1. 支配企業モデル(ある企業及び当該企業の支配下にあるすべての企業をグループ事業体に含めるべきとの考え方)、2. 共通支配モデル(ある企業の共通支配下にある企業をグループ事業体に含めるべきとの考え方)及び3. リスク・便益モデル(2つの企業がある場合、第2の企業の活動が第1の企業の残余持分を持つ株主の富に影響を与えるときには第2の企業をグループ事業体に含めるべきとの考え方)である。議論の結果、支配企業モデルを採用することが暫定的に合意された。これに関連して、次の2点が確認された。

  1. グループ事業体の一部も一般目的の外部財務報告の報告企業となることができる。例えば、グループ内の中間親会社がその支配下の子会社を含んだ一般目的の外部財務報告を作ることがあり得る。グループ事業体の一部を構成するものとしてどのような組合せがあるかについては、会計基準レベルで規定が置かれる(概念レベルではこの点は明確にしない)。
  2. 支配モデルでは、支配の存在が判断規準となるので、例えば2つの企業があり、どちらかが他方を支配していない場合にこれらを結合したグループ財務報告を作成しても、それはIFRSに準拠した一般目的の外部財務報告とはならないことになる。
3. 報告企業を決定する支配概念を巡る論点

支配概念に関連した論点及びそれに対する今回の暫定合意(これまでに形成された暫定合意を含む)は、次のとおりである。

関連論点 暫定合意
一時的支配 支配の存在は、すべての現在の事実及び状況を勘案して評価する。したがって、支配概念は、支配は存在しているが一時的であるかもしれない状況を除外しない。
事実上の(de facto)支配又は実質的(effective)支配 支配概念は、企業が他の企業の財務及び事業方針を指示するための十分な議決権又は他の法的権利を持つという状況に限定されるべきではなく、経済的に類似した状況を含む広範な概念であるべきである。議決権の過半数の所有のようなひとつの特定の事実又は状況が、支配が存在する必要条件として取り扱われるべきではない。
支配は共有しない 支配は排他的なものであり他者と共有されないものである
共同支配(joint control) 支配とは、「ひとつの」企業(複数の企業ではなく)が他の企業に対して支配を持つことを意味しているので、2者以上が共同で支配するジョイント・ベンチャーの共同支配は支配に該当しない
重要な影響力 重要な影響力は支配とは異なる概念であり、支配関係として記述してはならない。

(2)オプションの検討(資産の定義及び報告企業との関連)

今回オプションの取扱いに関して、1. 資産の定義との関連及び2. 支配の存在との関連の2つの局面で議論が行なわれた。

1. 資産の定義との関連

資産の定義の議論に関連して、企業がある資産(オプションの対象物)に対するオプションを保有している場合、企業が保有している資産とは何かが議論された。議論の結果、企業がオプションの保有によって認識すべき資産は、オプションの相手方に対する契約上の約束(権利行使された場合にはオプションの対象となっている資産を引渡すという約束)に対する現在の権利である(したがって、オプションの対象となっている資産に対する権利を有しているわけではない)と暫定的に合意された。
2. 企業に対する支配の存在との関連
他の企業を支配し得るだけのオプションの保有と現時点における当該他の企業への支配との関係が議論された。議論の結果、現時点では他の企業(S社)に対する支配を有するほど十分な株式を保有していないが、行使されたならば他の企業(S社)に対する支配を得ることができるだけのオプションを保有しているという状況だけでは、当該オプションを保有する企業(P社)が当該他の企業(S社)に対する現在の支配を有しているというには不十分であるという点が暫定的に合意された。しかし、その他の事実や状況を勘案すれば、オプションの保有が、保有企業(P社)による他の企業(S社)に対する現在の支配を有していると判断できる状況があり得ることも留意された。

5.公正価値測定

FASBからSFAS第157号(公正価値測定)が公表されたことを受け、今回の議論では、IASBのディスカッション・ペーパー公表へ向けての最終的な議論が行なわれた。議論された論点及び暫定合意は次のとおりである。今回で議論がほぼ終了したため、スタッフに対してディスカッション・ペーパーの準備に入ることが指示された。ディスカッション・ペーパーは、2006年末までに公表される予定である(公開期間は120日)。

(1)不履行リスク

SFAS第157号では、負債の公正価値には「不履行リスク(non-performance risk)」を反映すべきとされている。不履行リスクは、信用リスクを包含するもののそれよりも広い概念であるといえる。これに対して、現行IFRSでは、この用語を用いておらず、類似するものとして、IAS第39号(金融商品:認識及び測定)において、信用の質(credit quality)を反映するよう求めている。しかも、IFRSでは、金融負債に限って信用の質を反映させることを求めているのみである。SFAS第157号の規定を受け入れることは、不履行リスクをすべての負債の公正価値測定に反映することであり、現行IFRSの取扱いの変更となる。特に、非金融負債の公正価値測定に対しても不履行リスクを反映させることになる。
議論の結果、金融負債と非金融負債の公正価値測定の目的に概念的な差異はないと考えられ、非金融負債を含む負債の公正価値測定には不履行リスクを反映すべきという点が暫定的に合意された。

(2) 出口価値としての公正価値

SFAS第157号では、公正価値を出口価値として定義している。すなわち、公正価値は、「測定日における市場参加者間の通常の取引で、資産の売却によって受取る価格又は負債を譲渡するために支払う価格」としている。しかし、IFRSで公正価値での測定が求められているすべての場合に、出口価値を公正価値として用いることが適切かどうかについてIASBのボードメンバーの中に異論がある。例えば、企業結合において取得企業が受け入れる資産又は引き受ける負債を公正価値で測定する場合に出口価値より入口価値の方が適切という意見がある)。これを受けて、ディスカッション・ペーパーの「コメントのお願い」の中で、IASBは出口価値が適切かどうかについて基準ごと検討を行なっていない旨及びその検討を公開草案が準備されるまでに行なうことを明確にすることが暫定的に合意された。また、「公正価値」という用語は出口価値のみならず入口価値も含んでいるという一部ボードメンバーの見解を示した上で、このような解釈に対するコメントを求めることも合意された。

(3) 主要市場と最も有利な市場

SFAS第157号では、複数市場がある場合には、主要市場(principal market)の価格を基に資産・負債の公正価値を測定すべきとし、主要市場がない場合には、最も有利な市場(most advantageous market)の価格を用いるべきであるとしている。既にIASBもFASBの考え方を採用することに暫定的に合意している。ここで、主要市場とは、報告企業が資産を売却したり、負債を譲渡したりできる市場のうち、対象となる資産又は負債が最も活発に取引されている市場をいい、最も有利な市場とは、報告企業が資産を売却したり、負債を譲渡したりできる市場のうち、資産に対して受領できる金額が最大となる価格又は負債に対してはそれを譲渡するための支払額が最小額となる価格を提供する市場を指している。
SFAS第157号の考え方は、複数市場が存在する場合には、金融商品の公正価値として最も有利な活発な市場(most advantageous active market)を用いることを求めているIAS第39号や生物資産や農業製品に最も適切な市場(most relevant market)の利用を求めているIAS第41号(農業)とは異なっている。そのため、この点を「コメントのお願い」に記述し、コメントを求めることが暫定的に合意された。

(4) 当初認識時の利益認識

SFAS第157号では、当初認識時の公正価値測定も出口価値によることとしているため、当初認識時の取引価格(入口価値)と出口価値が異なる場合には、当初認識時に損益を認識することを認めている。これは、金融商品について、当初認識時の最良の証拠は取引価格であるとしているIAS第39号とは異なる取扱いである。この差異の取扱いについて議論が行なわれ、この違いを「コメントのお願い」の中で示し、コメントを求めることが暫定的に合意された。なお、この論点に対するIASBの予備的見解は示さないこととされた。

(5) その他の論点

1. レベル3の公正価値

観察できるデータを用いないレベル3の公正価値は、公正価値と呼ぶべきではないとの指摘を受け、その点についてコメントを求めるかどうかが議論された。議論の結果、測定の信頼性の問題は基準レベルで判断すべきであり(さらに、どのような公正価値測定が行なわれたかは開示される)、公正価値の定義とは関係しないので、この論点についてのコメントは求めないこととされた。

2. ブロッケージファクタ

SFAS第157号では、活発な市場で取引されているレベル1の金融商品の場合には、市場価格をそのまま用い、大量保有によるプレミアム又はディスカウントを反映してはならないとしている。これに対して、レベル2及び3においても同様な取扱いをすべきとの指摘があり議論が行なわれた。議論の結果、IAS第39号でも活発な市場で取引されている場合にのみブロッケージファクターを考慮しないとしているため、両者に差異はなく、この論点についてのコメントは求めないこととされた(ただし、IAS第39号の文言の明確化を図ることがスタッフに指示された)。

6.関連当事者間取引の開示

日本及び中国との統合化プロジェクトの中でIAS第24号(関連当事者間取引開示)の規定に示された指摘を受けて2006年7月に議題として取り上げることが決定された限定的な見直しプロジェクトである。改訂のポイントは2点で、1. 政府と政府が過半数を所有する企業(SOE)は関連当事者に該当するが、これらSOEのうち一部に対して関連当事者間取引の開示を免除することの検討及び2. 現行の開示対象は関連当事者間の取引すべてとなっており、開示対象がかなり広く定義されているが、この開示対象となる関連当事者間取引の範囲を狭めることの検討である。

(1)SOEの開示免除

SOEは関連当事者に該当するが、これらのうち(例えば、中央政府の)共通支配下にあるSOE間の取引は開示対象から除外することがスタッフから提案され、暫定的に合意された(したがって、中央政府とSOEとの間の取引は開示対象として残る)。このような開示免除は、開示要求を満たすためのコストがそれによってもたらされる便益を越えると考えられるからである。しかし、共通支配下にあるSOE間の取引であっても開示対象とすることが適当なものがあり、次の指標を満たすような取引(下記指標は例示列挙)は、関連当事者間取引として開示すべきことが暫定的に合意された。

  1. 当該SOEにある特定の方法で行動することを政府が強制している事実の存在。

  2. SOE間における市場レートと異なるレートによる取引の存在。
  3. SOE間でボードメンバーが共通している場合。
  4. 共有されている資源の利用。
  5. 経済的に重要な取引。
    さらに、上記の指標をも検討した結果開示すべき共通支配下のSOE間取引がない場合には、企業に対してそのような取引の存在を了知していない旨の開示を行うこともあわせて暫定的に合意された。
(2)関連当事者間取引の開示対象の限定

現行のIAS第24号の規定では、関連当事者間の取引はすべて開示対象となると読める規定になっている。しかし、IAS第24号は、例えば、関連会社間の取引をすべて開示することを予定しているわけではなく、この点が規定上あいまいとなっている。企業会計基準委員会(ASBJ)からの指摘を受けて、開示対象は、報告企業とその関連当事者との間の取引に限ることを明確にするための文言修正を行うことが暫定的に合意された。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。