IASB(国際会計基準審議会)の第59回会議が、2006年7月18日から21日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回のIASB会議では、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. 財務諸表の表示、3. 国際会計基準(IAS)第37号(引当金)の改訂公開草案、4. 概念フレームワーク、5. 収益認識、6. 連結範囲、7. 3つの新規プロジェクト(退職後給付、リース及び関連当事者取引開示)、8. 国際財務報告基準(IFRS)のマイナー修正、9. ジョイント・ベンチャー、10. セグメント、11. IFRS第2号(株式報酬制度)の一部改訂、12. 保険会計、13. 中小規模企業(SME)の会計基準及び14. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況についての検討が行われた。なお、教育セッションはなかった。会議には理事13名が参加した(2006年6月末で退任したウィティッントン氏の後任に決まったダンジョー氏は、2006年11月からの参加となる)。ここでは、1. から8. までの議論の内容を紹介する。
IASBでは、企業結合の公開草案に対するコメントの分析を行なっているが、今回は、1. 企業結合の構成要素の識別、2. リストラ費用の取扱い及び3. 企業結合の対価として発行された株式の価値を決定する日の特定(合意日又は交換日)の3つが議論された。
企業結合に伴って生じる取引や事象には、被取得企業との間で生じるもののほか、企業結合を完成させるために専門家から受ける法的サービスや評価サービス、従業員に対してその将来のサービスに対して支払う取引又は被取得企業のものでない資産の取得及び負債の引き受けといったものがある。今回は、公開草案で示されている、これらを識別し、会計処理するためのガイダンスに対する検討が行なわれた。
最終基準のガイダンスでは、次のような識別のための原則を明示することが暫定的に合意された。
取引又は事象が本質的に別個の取引であるがどうかを判定するためのガイダンスとして、次のようなものを追加することが暫定的に合意された。
取得企業は、取引又は事象が、被取得企業又は企業結合前のその所有者のためではなく、主として取得企業又は結合後企業の経済的便益のために行われた取引又は事象であるかどうかを判断するために、次の要素を顧慮しなければならない。
公開草案では、取得企業は、リストラ又は撤退活動に関連する負債については、リストラ又は撤退活動が取得日にIAS第37号の認識規準を満たした場合にのみ認識されなければならないとしている。そして、当該負債は、取得日の公正価値で測定されなければならないとされている。したがって、リストラ又は撤退活動に関連する費用で、これに該当しないものは、取得日の負債ではなく、企業結合後の活動又は結合後企業の取引として認識されることになる。
このような取扱いについては、取得企業が企業結合の対価を決定するに当たってリストラ費用は考慮される要素であり、リストラ費用を企業結合の一部として含めないことは、企業結合の経済実態を反映しない会計処理であるなどの反対意見が寄せられた。ここでは、リストラ費用は、企業結合に伴って避けることのできない費用であり、企業結合の対価の一部を構成すべきというものである。
このようなコメントを考慮して議論した結果、今回、IASBは、公開草案での提案を支持することを改めて確認した。
企業結合の対価として発行された株式の公正価値をいつの時点で測定するかについて議論が行なわれた。公開草案では、支配が獲得された日(取得日)の公正価値で測定することが求められている。これは、被取得企業から取得する資産及び引き受ける負債の公正価値が取得日の公正価値で測定されることと平仄を合わせたものである。
受領したコメントでは、合意日を支持する意見と取得日を支持する意見がほぼ半分に割れている。合意日を支持する意見では、被取得企業の資産・負債の公正価値と支払った対価の公正価値との間に関連があるのは合意日だけであり、取得日にはそのような関係は推定できないとか、合意日以降取得日までの取得企業の株価の変動は企業結合と関係のない要因によっても変動するため、このような変動を企業結合の会計処理から排除するようにすべきであるといった意見が寄せられた。
議論の結果、企業結合の対価として発行された株式の公正価値は、支配が獲得された日(取得日)の公正価値で測定すること(公開草案の提案)が改めて確認された。
セグメントBにおける議論は、2006年3月に開始された。初回では、セグメントBで取り扱う範囲、その目的及び作業原則及びディスカッション・ペーパー発行までのスケジュールが議論された。今回は、実質的な議論の第1回目として、次の2つの作業原則に関連する議論が行われた。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
原則1は、企業の財政状況の全体像を一体的(cohesive)に示すことが必要であるとしている。本原則の帰結として、一組の財務諸表は出来る限り相互補完的にすべきとされ、これは、次のようなことを意味すると解釈される。
原則5を受けて、貸借対照表、包括利益計算書及びキャッシュ・フロー計算書という3つの財務諸表に共通するカテゴリー区分について議論が行なわれた。財務諸表を大きく「事業(business)」と「資金調達(financing)」に分け、さらに「事業」は、「営業(operating)」と「資金運用(treasury)」とに細分する。そして、貸借対照表についてだけは、さらに、「営業」を「営業運転資本(operating working capital)」と「その他の営業資産及び負債(other operating assets and liabilities)」に区分することが議論され、ほぼこの区分が了承された。
これらを受けた3つの財務諸表の区分表示は、別図のとおりとなる。
貸借対照表 | 包括利益計算書 | キャッシュ・フロー計算書 |
---|---|---|
事業(Business)
|
Business income
|
Business cash flows
|
資金調達(Financing)
|
Financing expenses |
Financing cash flows
|
資金調達区分では、1. 資金調達の定義、2. 定義の表示への適用上の問題及び3. 所有者(株主)との取引の区分の3点が議論された。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
事業区分では、1. 資金運用区分の定義、2. 営業区分の「営業運転資本」と「その他の営業資産及び負債」への細分化、3. 貸借対照表上での表示、4. 包括利益計算書上での表示及び5. キャッシュ・フロー計算書上での表示の5点が議論された。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
(a) 貸借対照表上の資金運用区分に含まれる資金運用資産(treasury assets)は、「全ての金融資産」と定義する。しかし、表示目的のため、企業は営業資本資産として区分する金融資産(現金および現金同等物を除く)を資金運用カテゴリーから除外することができる。この場合、資金運用カテゴリーから除外する項目を決定する方針及びその理由を会計方針として開示する。また、現金及び現金同等物は、資金運用資産区分の独立項目として表示する。なお、当座貸越は現金及び現金同等物には含めず、資金調達負債とする。
(b) 貸借対照表上、事業区分はさらに資金運用区分と営業区分に分けられる。事業区分に含まれる資産及び負債のうち資金運用資産に該当しないもの(すなわち、営業資産及び負債)は、営業循環(プロセスに投入する資源やサービスの獲得から最終的な現金の実現までの平均期間)に基づき「営業運転資本」及び「その他の営業資産及び負債」に区分する。ここで用いられている用語は次のように定義される。
これらを反映した貸借対照表の新しい形式は次の通りである。
借方 (事業資産/負債) (Business Assets/Liabilities) |
貸方 (資金調達負債/資本) (Financing Liabilities /Equity) |
---|---|
営業(Operating assets and liabilities)
資金運用(Treasury assets) |
資金調達(Financing liabilities) 資本(Equity) |
ただ、この形式では、例えば営業資産と営業負債が純額で表示されるため、総資産や総負債といった情報が欠落する。また、1年以内に期日の到来する資産及び負債に関する情報(流動性に関する情報)も欠落する。そのため、これらの情報を注記で開示することを求める。
(c)「営業運転資本」と「その他の営業資産・負債」の区分は、貸借対照表上でのみ要求し、包括利益計算書及びキャッシュ・フ ロー計算書では、「資金運用」と「営業」の区分のみとする。
今回は、1. 「偶発負債(contingent liability)」という用語の削除、2. 負債としての認識が裁判の帰結に悪影響を及ぼす可能性及び3. 今後のスケジュールについて議論が行われた。
ここで議論されたのは、1. 偶発負債という用語が混乱を招く恐れがあること及び2. 偶発負債という用語の削除に伴ってこれに関連する注記情報が欠落するのではないかという指摘の2点であった。
公開草案では、現在の債務(潜在的債務ではない)のみが負債を生むとしている。そのため、公開草案では偶発負債という概念を削除することを提案している。IAS第37号における偶発負債の定義は次の通りである。
この定義から分かるように、偶発負債は、1. 潜在的債務(現在の債務の存在が不確実である場合に生じ、将来の事象によってのみ確認されるもの)及び2. 未認識の現在の債務(認識の要件を満たさない負債)という2つの概念を包含している。
受領したコメントでは、偶発負債はよく理解され、首尾一貫した適用がなされているので削除する必要がないという意見もあったが、多くの意見は、公開草案における次のような分析に賛成であった。偶発負債は、上述したように潜在的債務であるか又は未認識の現在の債務であるとされており、この定義自体が紛らわしいものとなっている。
現在の債務を偶発負債と呼ぶことは矛盾している。
たとえ、「偶発」という修飾語が付いているとしても、潜在的債務を負債として表現することは誤解を招く。概念フレームワークでは、現在の債務が存在していることが、負債の必須の特徴であるとしている。
また、偶発負債という用語は、IAS第37号と他のIFRSとの間で緊張を生み出す点が留意された。すなわち、他のIFRSで負債とされて認識されているものが、IAS第37号の下では、偶発負債とされ、認識されないということが起こる可能性があるということである。議論の結果、偶発負債という用語を削除するという考え方が再度確認された。
偶発負債を削除することに伴って、偶発負債に関する注記が欠落することになるのではないかと懸念するコメントが寄せられた。これに対しては、次のように理解された。
現行規定上偶発負債であるが、公開草案では負債である項目については、開示がなくならない(公開草案では、認識されているか未認識の負債についての現行のIAS第37号の開示規定を引き継いでいる)。
負債の定義を満たさない偶発負債(潜在的債務)は、ビジネスリスクであり、これらの開示は、本プロジェクトで扱うべきではなく、「経営者による討議と分析(MD&A)」に含められ、その影響はIAS第1号(財務諸表の表示)第116項に従って開示される。
ただ、スタッフからは、現在の債務の存在が不確かな場合(特に、判断の結果負債を認識しなかった場合)に、企業の判断に影響を与える要素についての開示を最終基準に含めるべきとの提案があった。この開示では、経営者に判断を行うことを求める項目の説明、項目が負債の定義を満たすことが明確でないため、負債が存在すると見なされない記述や項目と関連する不確実性の説明を求めることが提案された。議論の結果、このような開示は実務上実行が可能ではないことが予想されるため、実務が対応できる開示項目になるよう更なる検討がスタッフに指示された。
訴訟に関連して負債が認識された場合、裁判の帰結に悪影響を及ぼす可能性があるとのコメントを受けて、議論が行なわれた。
現行IAS第37号及び公開草案では、企業が他者と争っている場合に、それに関連する情報を開示することで不利になる恐れがあるという稀な場合には、開示を省略することができるという規定がある(その場合には、情報が開示されていないという事実とその理由とともに、争議の一般的性格の開示が求められる)。ただし、この適用免除の対象は、1. 認識された引当金の見積りの不確実性がある場合の開示と2. 信頼ある測定ができないために引当金が認識されなかった場合の開示に限定されている。コメントでは、この適用免除規定を1. 及び2. 以外にも拡大すべきとの指摘があった。
議論の結果、負債が認識されることが、裁判の帰結に悪影響を及ぼす可能性はほとんど限定的であるとされ、また、上述の適用免除をより一般化することは、情報の有用性を損なう恐れがあると判断されたことから、現行提案のままとすること(したがって、適用免除の拡大はしない)が暫定的に合意された。
円卓会議を次の日程で開催することとし、コメントを提出した関係者に招待状を出したことが報告された。
今回は、フェーズB(構成要素及び認識)に関連して、資産の定義についての検討が行なわれた。議論されたのは、1. 資産の定義及び2. それを具体的な資産に当てはめた分析例であった。議論の結果、いくつかの事項について追加の検討が指示されたものの、資産の定義が暫定的に合意された。
今回提示された資産の定義は次のとおりである。
資産は、企業が現在の権利又は他の特権的アクセスを有している現在の経済的資源である。企業の資産は、3つの必須の特徴を持つ。
この定義が作業原則として暫定的に合意されたが、1. 経済的資源と権利の関係に関するより明確な説明、1. 流入キャッシュ・フローの生成や流出キャッシュ・フローの低減の可能性がゼロでない場合には経済的資源があることを明確にすること、及び3. 新定義が現行のものに比べてどのような改善となるかを示すことなどがスタッフに指示された。
資産の定義を具体的な資産に当てはめ、上記(a)から(c)をどのように満たしているかを分析した資料がスタッフから提示され、議論が行われた。対象となった資産には、現金、債権、有形固定資産、不動産の自由保有権、ローンの保証受け、のれんなどがある。今回の議論で指摘されたコメントが今後これに反映されることになる。
収益認識プロジェクトでは、これまで企業が契約によって引き受けている履行義務をどのように解釈するかを中心に議論が行なわれてきた。履行義務(負債)から解放された時点で企業は収益を認識することとなるので、履行義務からいつ解放されるのか及び履行義務をいくらの金額で測定するのかが重要となる。履行義務をどのように測定するかについては、「法的解放金額(legal layoff amount)」と「顧客対価額(customer consideration amount)」という2つの考え方があるが、IASB・FASBは、販売契約時点で「契約時点における収益(Selling Revenue)」を認識しない考え方である「顧客対価額」に基づく履行義務の認識・測定を志向している。2つの考え方は次の通りである。
これまでの議論では、「顧客対価額」に基づく履行義務の認識・測定を行なう方向であるが、それに伴う収益認識方法として、1. 消滅をベースとする方法(Extinguishment-based method, 以下、EBM)及び2. Performanceをベースとする方法(Performance-based method, 以下、PBM)の2つが検討されてきた。EBMは顧客への物品引渡しまたはサービス提供を契機として収益を認識する方法であり、PBMは物品の引渡しが行なわれていなくとも、契約で求められている物品の製造が進捗するにつれて収益を認識する方法である。しかし、いずれの方法でも現実の取引を適切に捉えることが難しいため、2006年4月のIASB・FASB合同会議では、収益を認識するには、「顧客による承認(customer acceptance)」が非常に重要であり、顧客による承認は、企業が対価に対する無条件の権利を取得したことを意味し、逆に顧客は、無条件の債務を引き受けたと考えられるので、その時点で、それまでの間に売手が提供したサービスは、収益として認識されるというモデルを用いて、今後の検討を行なうこととされた。この考え方は、EBMとPBMの中間に位置する考え方である。
今回は、2006年4月の議論を受けて、次の4つの場合についての議論が行なわれた。
顧客による承認により、企業は対価に対する無条件の権利を取得し、顧客は無条件の債務を引き受けるので、その時点で、それまでの間に売手が提供したサービスが収益として認識されることになるが、無条件の権利の取得及び義務の引受けが起こるのは、1. 個別の契約において顧客の承認が明示されている場合と2. 一般の契約法によってそのような承認が成立する場合の2つがあり、いずれによるかによって、収益の認識時期が変わる可能性がある。会議では、4つのケースを基に収益の認識時点についての議論が行われ、別表に示す収益の認識時点が暫定的に合意された。なお、ここで扱われているモデルは、契約違反の場合、個別契約や契約法によってどのような救済策が求められるかによってケース分けをしたものである。
4つのケース | 収益の認識の時期に関する暫定合意 |
---|---|
ケース1 契約には顧客の承認を求める条項はないが、契約違反の場合でも契約で定められた特定行為の履行(specific performance)が求められるケース |
企業が顧客のために生産を行なうと同時に収益を認識する。顧客は、生産と同時に黙示的に企業の履行を承認したとみなす。これは、契約違反の場合であっても、企業に特定行為の履行義務があるためである。 |
ケース2 契約には顧客の承認を求める条項はないが、契約違反の場合、売手のそれまでにかかった費用とプロフィット・マージンを顧客が支払い、それと交換に仕掛品の所有権を顧客が取得するケース |
企業の収益認識は、ケース1の場合と同様。 |
ケース3 契約には顧客の承認を求める条項はないが、契約違反の場合、売手が物品を転売して回収された金額と契約額との差額を顧客が補填するケース |
企業の収益認識は、ケース1の場合と同様。 但し、顧客への所有権の移転が引渡し時である契約の場合には、所有権の移転が行なわれるまで収益は認識されない。 |
ケース4 個別の契約において顧客の承認が明示的に要求されている場合(契約違反の場合それ以外の救済策はないと仮定) |
顧客が承認した時点で収益を認識する。 |
今回新たに1. 退職後給付、2. リース及び3. 関連当事者取引開示(IAS第24号(関連当事者取引開示)の3つのプロジェクトを取り上げることが承認された。これらのうち、退職後給付及びリースでは、今後ワーキンググループの設置に向けた手続が行なわれる予定である。
IAS第19号(従業員給付)の年金会計を見直すための2つのフェーズからなるプロジェクトで、最終的には、年金会計の根本的見直し図る包括的長期プロジェクトである。第1フェーズでは、現行の年金会計を大幅に改善することを目的に4年程度で完成できる内容を取り上げる。第2フェーズでは、別途FASBが行なっている年金会計の包括的見直しプロジェクトとの連携を図り、FASBの会計基準と統合した内容となるような見直しを行う(詳細は、第1フェーズの終了時点で詰めることとなる)。
第1フェーズは、2010年までに完成させる予定で、次の4項目が検討対象とされる。このフェーズは、IASB単独で行なわれる。
IAS第17号(リース)を根本的に見直すためのプロジェクトで、当面2008年にディスカッション・ペーパーを公表することを目指すプロジェクトである。現行リース会計におけるファイナンス・リース及びオペレーティング・リースという区分を改め、リース対象物件に対する「使用権」に焦点を当てて、当該使用権の会計処理としてリースの会計処理を整理しようというプロジェクトである。FASBとの共同プロジェクトとして進められる。
日本及び中国との統合化プロジェクトの中でIAS第24号の規定に示された指摘を受けて開始される限定的な見直しプロジェクトである。2006年末までに公開草案を公表し、2007年後半での改訂を目指すものである。改訂のポイントは次の通りである。
今回は、1. 連結の範囲を決定する支配の考え方を「企業に対する支配」ではなく、「企業の資産及び負債に対する支配」として捉えるべきであるという考え方の変更及び2. 指標を用いて支配が存在しているかどうかの評価を行なうアプローチの検討が行なわれた。
連結財務諸表が示すべき情報の目的は、子会社が保有している資産及び負債を間接的に支配している場合も含めて、企業が支配している資産及び負債をあたかも自分自身の資産及び負債であるように示すことであるが、これまでは、企業に対する支配を通じてこのことが達成できると考えてきた。支配は、「企業から流入する便益にアクセスし、それらの便益の量を増加、維持又は保護するために、企業の戦略的な財務及び営業の方針を指示する能力である」とされ、支配は次の3つのテストによってその存在が確認されるとされている。
今回、スタッフからは、支配をこのように「企業に対する支配」として捉えるのではなく、「企業の資産及び負債に対する支配」として捉える方がよいのではないかとの提案が示された。「企業の資産及び負債に対する支配」では、「企業が支配持分を持っているというのは、資産と負債からの便益へのアクセス及びその便益の量を増加、維持又は保護する能力を当該企業に与えるような、他の企業の資産と負債に対する排他的な権利を持っているときである」と考えている。
企業が他の企業を支配しているかどうかの評価に当たり、議決権のみを用いるアプローチなどがあるが、議決権の過半数を所有していなくても支配が達成できる場合があることを勘案して、そのような場合には、いくつかの要因を総合的に検討して支配の存在を評価するアプローチを採用すべきとの提案があり、暫定的に合意された。このアプローチでは、1つの要因だけでは支配の存在を示すには十分ではない場合でも。他の要因との総合的な評価で支配が存在しているかどうかの判断を行なうことになる。
緊急を要さず重要性の低いIFRSの改訂をどのようにするかについて議論が行われ、毎年行なうそのような改訂のためのプロセスが合意された。これを「年次改善プロセス(annual improvements process)」と呼ぶ。
この手続の対象となるのは基準間の不整合又はIFRSの中の不明確な文言の明確化で、IFRICやその他の関係者からの指摘を受けて、年に1回改善事項を1つの公開草案にまとめて公表し、IFRSの改善を図ることとなる。公開期間は90日とし、公開期間終了日から12ヶ月後に発効する。第1回目は、2006年10月に公表し、2007年4月に改訂を確定し、2008年1月1日から開始する事業年度からの発効を予定している。
以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)
本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。