ASBJ 企業会計基準委員会

第57回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第57回会議が、2006年5月23日から26日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回のIASB会議では、1.企業結合第2フェーズ、2.公正価値測定、3.国際会計基準(IAS)第37号(引当金)の改訂公開草案、4.保険会計、5.中小規模企業(SME)の会計基準、6.国際財務報告基準(IFRS)第1号(初度適用)の改訂、7.IAS第19号(従業員給付)のうち年金会計、8.IAS第24号(関連当事者の開示)及び9.国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況についての検討が行われた。このほか教育セッションでは、IFRICにおけるサービスコンセッションに関する検討内容に関する紹介が行われた。会議には理事14名全員が参加した。ここでは、5.、6.及び9.を除く議論の内容を紹介する。

1.企業結合第2フェーズ

今回は、認識と測定において認められている公正価値測定に対する3つの例外処理を新基準においても認めるべきかどうかが議論された。検討された項目は、1.売却予定資産、2.従業員給付制度及び3.オペレーティング・リースの3つである。

(1)売却予定資産

IFRS第3号(企業結合)の改訂公開草案では、企業結合において取得した時点で、IFRS第5号(売却予定非流動資産及び廃止事業)の売却予定非流動資産に該当するものに対しては、公正価値に代えて、売却費用控除後公正価値(公正価値-売却費用)で測定することが例外として認められている。今回は、1.この例外を最終基準でも認めるかどうか及び2.非流動資産を売却するという意思は取得企業の意思かそれとも被取得企業の意思かという2点が議論された。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 企業結合で取得した売却予定非流動資産は、公正価値で測定することとし、例外(売却費用控除後公正価値での測定)を削除する。これに伴い、IFRS第5号も改訂する。なお、売却費用控除後公正価値に代えて公正価値で測定するという取扱いは、FASBにおいても採用される予定である。
  2. 売却予定かどうかという判断は、取得企業の意思であり、被取得企業の意思ではない点を最終基準では明確にする。

(2)従業員給付制度

企業結合によって取得された被取得企業の退職後従業員給付に対しては、IAS第19号(従業員給付)第108項が適用され、取得企業は、被取得企業の従業員給付制度に関連する資産及び負債は、債務の現在価値から年金資産の公正価値を差引いた金額で測定することが例外として認められている。これを継続するかどうかが議論された。

議論の結果、この例外を最終基準でも認めることが暫定的に合意された。なお、第108項では、債務の現在価値の測定に当たり、未認識の数理計算上の差異(コリドールの範囲内にあるため認識が要求されない数理計算上の差異)や未認識の過去勤務債務がある場合には、これらを債務の現在価値の測定に含めることとしているが、この取扱いは変更しないこととされた。

(3)オペレーティング・リース

ここでは、1.被取得企業が借手である場合の取扱い、2.被取得企業が貸手である場合の取扱い及び3.市場条件及び市場条件以外のオペレーティング・リース契約に対する無形資産及び負債の認識について議論された。

1.被取得企業が借手である場合

取得企業は、オペレーティング・リースに関連する資産負債の純額を認識する。

2.被取得企業が貸手である場合

リース契約とリース対象物件とを分離して測定するのか一体として測定するのかが議論された。すなわち、リース契約とリース対象物件の価値とは分離することが可能かどうかという論点である。分離すべきという考え方では、リース物件の価値はリース契約がない場合の価値とし、それ以外をリース契約の価値として捉えようとする。一方、分離すべきでないという考え方では、両者は不即不離の関係にあり分離して捉えることはできないと考える。議論の結果、現実の物件評価がどのように行なわれているかを調査する必要があると判断され、スタッフに対してさらなる検討が指示された。

3.オペレーティング・リース契約に関連する無形資産及び負債の認識

オペレーティング・リース契約が市場条件に比べて有利な場合には無形資産を認識し、不利な場合には負債を認識することが公開草案では提案されている。議論の結果、この取扱いを最終基準でも採用することが暫定的に合意された。

一方、オペレーティング・リース契約が市場条件である場合においても、当該契約になんらかの価値があるため市場条件より有利な価値が付される場合がある。このような場合には、無形資産を認識し、企業結合において取得される他の無形資産と同様に会計処理することが暫定的に合意された。

2.公正価値測定

IASBは、2005年9月にこのプロジェクトを開始しているが、今後FASBからの最終基準の公表(2006年第2四半期の予定)を待って、FASBの最終基準をIASBの公開草案とし、「コメントのお願い」の中で、IASBがFASBと異なる見解を持つ項目を明確にし、その点についてのコメントを求める予定としている。

今回は、次の点について議論が行なわれた。

  1. 公正価値測定の基礎となる原則の明確化及び公正価値の定義の見直し
  2. 改訂された3段階のヒエラルキー
  3. 会計単位、主要市場及び最も有利な市場
  4. 取引価格の当初認識時の公正価値としての推定
  5. ビッド・アースクトを用いる場合のガイダンス
  6. 取引費用及び輸送費用の取扱い

(1)公正価値測定の基礎となる原則の明確化及び公正価値の定義の見直し

1.公正価値測定の原則

次の原則を公正価値測定の基礎となる原則とすることが暫定的に合意された。

  1.  公正価値測定の目的は、測定日において市場参加者間の取引で、資産に対して受取るか又は負債に対して支払う価格を決定することである。
  2.  公正価値の定義及びその測定目的は、IFRSの求めるすべての公正価値測定に対して首尾一貫していなければならない。
  3.  公正価値測定は、測定される資産又は負債の属性に関する市場の見方を反映しなければならず、市場とは異なる報告企業の見方を含んではならない。
  4.  公正価値測定は、測定される資産又は負債の効用(utility)を考慮しなければならない。同様に、公正価値測定は、測定日における資産又は負債の所在地と状況を考慮しなければならない。
2.公正価値の定義の見直し

2005年12月にIASBが暫定的に合意した公正価値の定義(すなわち、当時のFASBの最終基準書案で採用されていたもの)は、「公正価値とは、資産・負債の参照市場における市場参加者間の現在取引で、資産の引渡しに対して受け取るか又は負債を引き渡すために支払われる価格である」というものであった。 今回これを改訂し、「公正価値とは、測定日において市場参加者間の取引で、資産に対して受取るか又は負債に対して支払う価格である」とすることが暫定的に合意された。今回の改訂は、1.「参照市場」という概念を導入しようとしたが、この概念が難解であることから、最終的にこの概念の導入をやめたこと及び2.「現在取引」という用語を「測定日において市場参加者間の取引で」に置き換えたことの2点である。これらは、本質的な改訂というより、より定義を分かりやすくするための改訂であり、出口価値を基本としている点については変更はない。

(2)公正価値測定のヒエラルキー

2004年6月に公表された公開草案では3段階のヒエラルキーとしていたが、その後2005年10月にはこれを5段階のヒエラルキーとするよう変更していた。しかし、最終基準案では再び次に示すような3段階のヒエラルキーとすることとしており、今回その内容が検討された。議論の結果、この内容は、公正価値測定の目的と整合的であり、現行のIFRSでIFRSごとに示されている公正価値測定のガイダンスに代えてこの3段階のヒエラルキーを採用することが暫定的に合意された。

  1. レベル1のインプットは、報告企業が、測定日にアクセスすることができる活発な市場における同一資産又は負債の建値を反映した観察可能なインプットである。
  2. レベル2のインプットは、測定日での活発な市場における同一資産又は負債の建値以外の観察可能なインプットである。
  3. レベル3のインプットは、観察できないインプット、例えば観察可能な情報によって裏付けることができない外挿法又は内挿法によってもたらされるインプットである。しかし、公正価値測定の目的(測定日において市場参加者間の取引で、資産に対して受取るか又は負債に対して支払う価格を決定すること)は同じである。したがって、観察可能でないインプットは、市場の期待と整合しない企業の内部情報を除くよう調整を行なわなければならない。また、観察可能でないインプットでは、観察可能でないインプットに内在する固有の不確実性を引き受けるために市場参加者が要求するであろうリスク・プレミアムを考慮しなければならない。

(3) 会計単位、主要市場及び最も有利な市場

FASBの最終基準案では「参照市場」という概念の導入をやめることとしているが、公正価値による測定を行なうべき対象である会計単位をどのように決定するか、また、複数市場がある場合にどの市場の建値を用いるかなど主要市場及び最も有利な市場という概念間の関係を明確にする必要があるため、議論が行なわれた。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 会計単位
    会計単位の決定は、公正価値による測定を行なうための重要な要素であるが、異なる資産・負債、さらに異なる取引で異なり、どのような状況においても首尾一貫して適用できるような原則はない。そのため、暫定的に、会計単位の問題を公正価値測定基準で用いることは適切ではなく、公正価値による測定を求める各IFRSにおいて会計単位を決定するガイダンスを設定することとすべきことが暫定的に合意された。
  2. 主要市場と最も有利な市場
    主要市場(principal market)とは、報告企業が資産を売却したり、負債を譲渡したりできる市場のうち、対象となる資産又は負債が最も活発に取引されている市場を指している。一方、最も有利な市場(most advantageous market)とは、報告企業が資産を売却したり、負債を譲渡したりできる市場のうち、資産に対して受領できる金額が最大となる価格又は負債に対してはそれを譲渡するための支払額が最小額となる価格を提供する市場を指している。

FASBでは、複数市場がある場合には、主要市場の価格を基に資産・負債の公正価値を測定すべきとし、主要市場がない場合には、最も有利な市場の価格を用いるべきであると結論付けている。議論の結果、FASBの考え方をIASBも採用することが暫定的に合意された。

(4) 取引価格の当初認識時の公正価値としての推定

入口価値と出口価値は、概念的には異なる概念である。しかし、当初認識時の測定に当たっては、実際の取引価格が出口価値としての公正価値を示すものとして推定することも可能である。しかし、実際の取引価格をいつも出口価値と等しいとして推定することにすると、入口価値と出口価値の相違が十分検討されることなく推定が行なわれる懸念がある。このため、報告企業は、取引の性質や特徴を十分考慮することなく取引価格を出口価値として推定することはできないという取扱いとすることが、暫定的に合意された。

(5) ビッド・アースクトを用いる場合のガイダンス

公正価値の測定にビッド・アースクトを用いる場合のガイダンスとしてFASBが検討している内容が議論された。そのガイダンスでは、次のことが示されている。

  1. 公正価値の測定にビッド・アースクトを用いる場合、両者のスプレッドの範囲内の価格を公正価値の測定に用いることができる。
  2. ビッド・アースクトを用いる場合の実務上の便法として、仲値又はその他の価格慣行を継続的に用いることを排除しない。
  3. 同一の商品の両建て(相殺)ポジションに対しては、同一の価格を用いてロング・ポジション及びショート・ポジションを測定しなければならない。

これらのうち、(a)及び(c)については暫定的に同意されたものの、(b)については、流動性が低い市場又は変動性が大きな市場において実務上の便法として仲値又はその他の価格慣行を用いることに懸念が表明された。特に、ビッド・アースクトのスプレッドが大きい場合に仲値を用いる場合には、実際には存在しない利益や損失を認識することに繋がる恐れがあることが指摘された。この論点について公開草案でコメントを求めることが暫定的に合意された。

(6) 取引費用及び輸送費用の取扱い

FASBの最終基準案では、取引費用は取引に関連する属性であり測定の対象とされた資産又は負債の構成要素ではないと判断されたことから、それを公正価値測定から除外することとされている。一方、資産又は負債の所在地及びその状況は、当該資産・負債の属性として公正価値測定の際に考慮すべきとされており、例えば、現物商品のように所在地が当該商品の属性である場合には、所在地から当該商品の主要市場又は最も有利な市場へアクセスするための輸送費用は公正価値の測定の際に考慮される取扱いとなっている。議論の結果、IASBはこの考え方に暫定的に合意した。この点を明確にするため、公開草案においてこれに関するコメントを求めることが暫定的に合意された。

3.IAS第37号の改訂

このプロジェクトでは公開草案に対して受領したコメントの分析が行なわれている。5月及び6月では、認識に関するコメントの分析が予定されている。今回は、1.負債の定義の解釈、2.現在の債務の存在が不確かな場合における負債の存在の決定及び3.待機債務の検討が行われた。

コメントは、5つの主要原則ごとに分類され、それらの一つ一つについて議論が行なわれることとされているが、今回議論されたのは、認識に関する次の原則に関連するものである。

原則2:
企業は、(a)負債の定義を満たし、かつ、(b)信頼可能な測定ができる場合、非金融負債を認識する。

原則2.1:
負債は無条件債務のみから発生する。

原則2.2:
無条件債務を内包するすべての負債は、概念フレームワークの蓋然性の認識規準を満たす。企業は、負債の測定の中で、非金融負債の決済に必要な経済的便益の金額やタイミングに関する不確実性を反映しなければならない。

(1)負債の定義との関係

現行IAS第37号では、引当金は、1.過去の事象の結果として企業が現在の債務を有しており、2.当該債務の決済のために要求される経済的便益を具現する資源の流失が確かであり、かつ、3.当該債務の金額の信頼可能な見積りができる場合には、認識しなければならないとされている(第14項)。今回の公開草案では、この条件を変更し、上記原則2に示すように、1.負債の定義を満たし、かつ、2.信頼可能な測定ができる場合、非金融負債を認識するとされている。すなわち、現行基準の2番目の「蓋然性規準」といわれるものが削除されている。この蓋然性規準の削除は、新たな認識規準の中にある、「負債」の定義の解釈に抵触するのではないかとの指摘がコメントとして寄せられ、これが議論された。負債の定義では、「負債とは、過去の事象から生じる現在の債務で、その決済が経済的便益を具現する資源の企業からの流出をもたらすと期待される(expected to)もの」とされている(第49項(b))。この「期待される」という表現は、蓋然性規準を示していると考え、負債の定義の中に蓋然性規準が既に織り込まれていると考えれば、蓋然性の低い引当金を認識しなくてよいという現行規定の考え方が負債の定義の中に存在しており、引当金の定義から蓋然性規準を削除してもこの考え方は継続していると理解できるのではないかというのが論点である。

議論の結果、「期待される」という表現は、負債として認識されるためには、経済的便益を具現する資源の企業からの流出をもたらすある程度の確からしさを求めるものではなく(より一般的に将来に起こる事象は確定した事象ではないという程度の意味で用いられていると考えられる)、このことを明確にする必要があると判断された。また、これと関連するものとして、FASBの負債の定義の中で使われている「probable」との間に差異があるかどうかも議論され、上記の「期待される」という表現は、FASBの負債の定義における「probable」の解釈と異ならないことが同意された。FASBの負債の定義(概念基準書第6号第35項)では、「負債とは、過去の取引又は事象の結果として、将来他の企業に資産を譲渡又はサービスを提供する特定企業の現在の債務から生じる経済的便益の確からしい(probable)将来の犠牲である」とされている。ここでの「probable」は、会計用語としての「probable」ではなく、一般的な用語として用いられている。そのため、負債として認識するためにある特定の確からしさを求めるものではなく、上記IASBの負債の定義と首尾一貫した考え方であると理解された。

(2)現在の債務の存在が不確かな場合における負債の存在の決定

現行IAS第37号では、引当金として認識するには、「過去の事象の結果として企業が現在の債務を有している」ことが求められている(IASBの負債の定義でも同じ要求がある)。多くの場合、現在の債務の存在は明確であるが、しかし、ごく稀にその存在が不確かな場合がある。第15項では、そのような場合、「可能性が50%超(more likely than not)」で現在の債務が存在している可能性があれば、引当金として認識すべきとしている。しかし、この規定だけでは判断が難しい場合があり、現在の債務の存在が不確かな場合にその存在を決定するためのガイダンスを追加することが暫定的に合意された。いくつかの方法が検討されたが、最終的に、現在の債務の存在を示すいくつかの指標のリストを作成し、それらを参考に現在の債務の存在を判定するという形式を取ることが暫定的に合意され、スタッフに指標のリスト等の検討が指示された。

(3)待機債務

公開草案では、待機債務(stand ready obligation)という概念が新たに導入された。待機債務は、対象となるある一定期間のうちにある将来事象が発生又は発生しないことを条件に決済が行われる債務である。その特徴は、対象となる一定期間中は、将来事象が発生した場合(又は発生しない場合)には、いつでもそれに伴う決済を行うという待機状態の債務である点である。
公開草案に対するコメントでは、待機債務という概念が広すぎて、いわゆるビジネスリスクという負債以外のものと区別できないのではないかという指摘が寄せられた。待機債務という考え方は、保証債務や製品保証といった契約に基づく場合にはうまく機能するものの、訴訟の場合にも、訴訟を受けた時点で判決に従うという待機債務を有するという考え方に対しては疑念が示された。これを受けて、今回の議論では、待機債務の考え方を明確にするために、例を用いて議論が行われた。なお、訴訟に関する待機債務の取扱いについては、別途検討することとされ、今回は議論されなかった。

今回の議論では、待機債務は、あくまでも概念フレームワークの負債の定義を満たすものだけが負債として認識されるべきであり、負債の定義を満たさないものにまで拡大されるものではない点が改めて確認された。さらに、例を用いた検討では、例えば次のような例が検討された。

【例】A社は建設業を営んでおり、同国には、職場での健康及び安全を確保することを求める法律がある。同法では、同法の規定に違反したことによって起こった建設現場での傷害に対する医療費の支払いを企業に義務付けている。A社は、自社の現場の足場に不具合のあることを承知しており、これが、同法に違反する事態となっている。期末時点でも同様な状態が続いているが、これによる傷害は報告されていない。この場合、A社は負債を認識すべきか。

この例に対しては、1.法律に違反した時点で、違反に起因する傷害による医療費負担の支払い義務を有しているので、期末で負債を認識すべきという意見と2.期末で違反状態にあるものの、傷害が起こっていないので負債を認識すべきではないという意見(傷害が起こって初めて医療費の支払い義務が生じるとする意見)があり、これらについて議論が行なわれた(ボードメンバーの意見はほぼ2分された)。

このように今回は議論が行われたのみで、これを参考にスタッフが今後公開草案の問題に対する提案を行うこととされた。

4.保険会計

今回は、1.ユニバーサル・ライフ契約、2.ユニット・リンク及びインデックス・リンク支払い、3.保険負債の信用特性、4.再保険、5.残存物及び請求権代位、6.企業結合及びポートフォリオ移転及び7.FASBの保険プロジェクトの現状について議論が行われた。ここでは、7.を除く内容を紹介する。

(1) ユニバーサル・ライフ契約

ユニバーサル・ライフ契約は、「初回保険料払込後、一定の最低限度や最高限度の範囲内で、いつでもいくらでも保険料の払い込みが可能である終身生命保険の一種である。この契約は、伝統的な終身保険よりも死亡保障をより簡単に増減額できる。死亡保障を増額する場合には、保険会社は、一般的に、健康状態が引き続き良好である旨の証明書の提出を求める。」といった特徴を持つ生命保険である。ユニバーサル・ライフ契約の保険負債の測定に当たり、保険者は将来キャッシュ・フローを参照することをスタッフは提案していたが、ユニバーサル・ライフ契約の特徴や将来キャッシュ・フローの見積りの仕方に関してさらに詳細な説明が必要と判断され、スタッフに更なる検討が指示された。

(2) ユニット・リンク及びインデックス・リンク支払い

ある種の保険契約では、保険契約者に対する給付は、契約上、内部又は外部の投資ファンド(すなわち、保険者又は第三者によって保有され、また、投資信託と同様の方法で運営される指定された資産プール)におけるユニットの価格によって決定される。また、給付がある種の指標(インデックス)に連動して決定されるインデックス・リンク契約もある。そのような契約の会計処理について議論が行なわれた。

ユニット・リンク契約において、資産プールから生じるキャッシュ・フローをすべて最終的に保険契約者に支払うこととされているならば(サービス提供のためにファンドに対して保険者によって課される手数料を除く)、その負債のユニット・リンク部分の簿価は、当該資産の簿価と同額にするべきであるが、ユニット・リンク・ファンドの資産が公正価値で認識・測定されていなければ、測定ベースの差異に基づく損益が生じるなど複雑な問題が生じる。このような例には次のものがある。

  1. 未認識資産(例えば、金庫株)
  2. 公正価値で測定されない資産(例えば、償却原価で引継がれる金融資産および原価モデルを用いて測定される投資不動産)
  3. 当期純利益の外側で再測定される資産(売却可能金融資産)

今回この取扱いについて議論が行われ、このような差異を除くことが望まれるが、そうすることが他のIFRSとの間での不整合を生じることになる恐れがある点が指摘された。例えば、ユニット・リンク・ファンドが当該ユニット・リンク契約を発行している保険会社の株式を保有している場合、これは金庫株となり、資産としては認識できないこととなる。スタッフからは、金庫株を保険負債から控除する提案がなされたが、これでは、保険負債が保険契約者に対して負っている負債額を示さないこととなる。また、金庫株を資産として認識すると、自己株式を資本から控除することとしている他のIFRSと矛盾することとなる。上記3つの例は複雑な論点を含むため、今回は明確な意思決定はされず、スタッフに対してさらに適切な方法がないか検討することが指示された。

(3) 保険負債の信用特性

保険負債の信用特性がその測定にどのような影響を及ぼすかが議論された。まず第一に、負債の現在出口価値は、概念的にはその負債の信用特性を改善も悪化もさせない移転価格となる点が確認された。これは、次の理由により、負債の現在出口価値は、その信用状態が当該負債の信用特性と同等の相手への移転価格を必然的に反映しなければならないからである。

  • 債権者は、債務者がその債務を信用状態がより低い第三者に移転することは通常、認めない。
  • 信用状態がより高い譲受人は、より高い利率での金利の支払いが暗に要求されるような金額では債務を引き受けない(5%で借入可能な場合に、なぜ6%を支払うのか)。

これを前提に、次の点が暫定的に合意された。

  1. 保険負債の当初測定には、信用特性を反映しなければならない。もし、信用特性が測定に重要な影響を与えるときには、保険会社はその影響を開示しなければならない。通常、借手はその債務を当初、受け取った現金の額で測定する。例えば、発行者Aが1,000 CUの債務で、1年償還、満期時に6%の利息を支払うものを発行したとする。発行者Aは通常はその債務を当初、受け取った金額(1,000 CU)で測定する。これは、契約上のキャッシュフロー(1,060)を負債の信用特性を反映した利率(6%)で割り引いたものと同じである。発行者Aが代わりに契約上のキャッシュフロー(1,060 CU)をリスクフリーレート(例えば5%)で割り引く場合には、1,010 CUの負債と10 CUの損失を当初認識することになる。すなわち、債務の当初測定から債務の信用特性を除く場合には、リスクフリーレートと契約上のレートとの間の差異による損失が当初に発生することになる。
  2. 保険負債の当初認識後の測定においては、信用特性の変化の影響を反映すべきである。また、保険会社は信用特性の影響の変化を開示しなければならない。信用特性の変動が他の要素の変動(金利の変動)と関連していることを前提に、信用特性の変動をどのように計算するかについてスタッフは今後検討を行なう。
    当初認識後の測定において信用特性の変化の影響を反映すべきであると合意されたのは、次の理由による。
    1. 同質の契約上のキャッシュアウトフローが要求されるが、企業の信用状態が異なっていた時期に発生した2つの負債を持つ企業を考える。測定において信用状態の影響による変化が無視される場合には、これら負債の経済的な影響が同質であったとしても、企業は異なる金額で負債を測定することとなる。
    2. 測定モデルが当初に負債の信用特性を含むが、事後においてそれらを無視するとした場合には、その測定モデルには一貫性がないこととなる。
  3. 第三者によって保証されている又は実質的にその他のすべての負債より上位にある保険負債の現在出口価値は一般的に、企業の信用度の変化に影響を受けることはない。

(4)再保険

今回次のようなモデルを採用することが暫定的に合意された。

  1. 受再保険の測定属性は現在出口価値であるべきである。
  2. 再保険資産に関する測定属性は現在出口価値であるべきである。
  3. 原(元受)契約に含まれるリスクは、再保険資産の測定値を増額する形で一般的にリスク調整が行なわれる。当該調整額は、対応する原契約に含まれるリスク調整と同額となる。
  4. 再保険資産の帳簿価額は、債務不履行や争議(dispute)から生じる損失の期待現在価値(確率による加重値)を減額させるとともに、債務不履行や争議が期待値(期待ロス・モデル)を超えるリスクを負担する代償(対価)として市場参加者が要求するマージンをさらに減額すべきである。
  5. 保険契約の測定属性として現在出口価値を利用するという暫定的結論を前提とすると、保険者が再保険を購入する時点での利得又は損失の認識を制限するための特定の規制は必要がない。
  6. 出再者は、まだ発行されていない契約に関する再保険を入手する契約上の権利を(もしあれば)現在出口価値で認識すべきである(再保険契約と原契約が同一期間をカバーしていない場合があり、出再者は、将来発行する原契約を出再する権利を有する場合がある)。実務上、当該現在出口価値は多くの場合重要でないかもしれない。

(5) 残存物及び請求権代位

残存物及び請求権代位に関連して次の点が暫定的に合意された。

  1. 保険負債は、保険者がクレームを支払った場合に取得する契約上の残存物及び請求権代位の権利の影響を控除して測定されるべきである。
  2. 保険者がクレームを支払い残存物及び請求権代位の権利を取得した場合には、保険会社は別途資産を認識する。保険会社は、当該資産を当初現在出口価値で測定しなければならない。

残存物及び請求権代位の権利の当初認識後の測定については、IAS第37号の改訂プロジェクトにおいて補填(reimbursement)の権利の会計処理についての議論が終了するまで決定しないことが暫定的に合意された。

(6) 企業結合及びポートフォリオ移転

IFRS第4号では、企業結合及びポートフォリオ移転で取得した保険契約で公正価値で測定されるものに対して拡張表示(取得した保険契約を1.保険契約に対して保険会社の会計方針に従って測定された負債と2.公正価値全体から1.を除いた金額に相当する無形資産の2つに分けて表示する方法)を認めている。今回の議論では、保険プロジェクトの第2フェーズの完成時点で現在出口価値と公正価値との間に重要な差異が残るようであれば、拡張表示を残す必要があるかもしれない点が認識された(もし重要な差異がなくなれば拡張表示は維持する必要はない)。

ポートフォリオ移転で保険契約のポートフォリオを取得した場合には、ポートフォリオの現在出口価値は、支払った対価及び受領したその他の資産(投資又は顧客関係の無形資産など)の公正価値と等しくなることが多い。もし、保険契約のポートフォリオの現在出口価値と支払対価との間に差異がある場合には、取得された顧客関係の無形資産が当該差異から控除され、それでも残る差異は損益として認識される。

5.IAS第19号(年金会計)

今回新たなテーマとして、IAS第19号のうち年金会計の見直しを行うことを取り上げるべきかどうかについて議論された。議論の結果、今後議題として取り上げた場合の検討スケジュールについてさらに検討することがスタッフに指示された。今後これらの内容を検討し、基準諮問会議(SAC)に諮ることとなる。 今回の議論は、年金会計をどのように取り進めるかに関して、ボードメンバーの意見を聴取することに主眼が置かれた。議論は、次に示す2つの案を基に行われた。

  1. ターゲットアプローチ:これは、全面的な年金会計の見直しをするのではなく、年金会計の改善を目指して、問題点が明確でまた比較的短期間に解決ができるような特定の問題のみを取り上げようというアプローチである。そのようなものとして、キャッシュバランスプラン、回廊アプローチの廃止、数理計算上の差異を含む当期発生損益の即時認識及び決済・縮小に関するガイダンスの追加などが考えられる。
  2. FASBと歩調をあわせるアプローチ:FASBは、現在2段階で年金会計の見直しを図っている。第1フェーズでは、オフバランスとなっている数理計算上の差異や回廊アプローチのオンバランス化を図ろうとしており、第2フェーズでは、年金会計の包括的な見直しを予定している。第1フェーズは2006年中の完成を、第2フェーズは2014年の完成を予定している。年金会計の統合化を視野に入れ、FASBと歩調を合わせてプロジェクトを進めるべきとのアプローチである。

議論では、年金会計の包括的な改善を2014年までとするのは遅すぎるとの観点から、FASBと歩調を合わせるアプローチよりもターゲットアプローチに対する支持が多かった。特に、オフバランスとなっている年金負債をオンバランス化することは短期的(4年程度のうち)に改善を図るべきとの意見があり、これらを踏まえて、2010年ぐらいを目処とする包括的な見直し及び短期的な改善という2段階の作業計画を考えるようスタッフに指示が出された。

6.IAS第24号(関連当事者の開示)

日本及び中国との統合化プロジェクトの中で、IAS第24号の規定内容に対して次のような指摘を受けて来ている。

  1. 2003年12月に改訂される以前のIAS第24号では、政府と政府が過半数を所有する企業は関連当事者に該当しないという例外規定を有していたが、2003年12月の改訂時に例外規定が削除された。その結果、中国ではほとんどの企業で発行済株式の過半数を政府又は地方自治体が保有しているため、これらの企業がすべて関連当事者になり、それらを開示するための費用がかかること及びそのような開示に意義があるかといった問題点が中国の会計基準設定主体から指摘されている。
  2. 現行IAS第24号では、関連当事者の範囲がかなり広く定義されており、例えば、親会社の関連会社同士の取引であっても関連当事者の開示の対象となっている。このような取引については、その情報の入手に費用がかかる上に、その情報の網羅性をどのように担保するかといった問題があり、開示対象をより限定的なものとする必要があるとASBJから指摘されている。

このような指摘を受けて、IAS第24号の見直しがスタッフから提案された。議論の結果、今後の検討内容及びスケジュールについてさらに検討し、議題として取り上げるための準備を行なうことがスタッフに指示された。今後これらの内容を検討し、基準諮問会議(SAC)に諮ることとなる。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。