ASBJ 企業会計基準委員会

第56回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第56回会議が、2006年4月24日から26日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。また、27日及び28日にはFASB(米国財務会計基準審議会)との合同会議がクラウンプラザホテルで行われた。今回のIASB会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. 概念フレームワーク、3. 収益認識、4. 金融商品、6. 公正価値でプットできる金融商品、6. 保険会計についての検討が行われた。このほか教育セッションでは、連結及び特別目的会社(SPE)プロジェクトに関連するものとして変動持分事業体に関するFASB解釈指針(FIN)第46R号(変動持分事業体の連結―ARB第51号の解釈)の解説及び資本と負債の区分プロジェクトの現状の紹介が行われた。

FASBとの合同会議では、7. 金融商品、8. 収益認識、9. 企業結合第2フェーズ、10. 概念フレームワーク及び11. リースについて議論が行われた。

IASB会議には理事14名全員が参加した。また、合同会議には、FASBのボードメンバー7名を加え21名が参加した。本稿では、このうち、IASB会議の内容として1. 、2. 及び6. を、FASB会議報告として7. から11. (IASBで議論した3. 及び4. の内容も含む)の議論の内容を紹介する。

IASB会議

1.企業結合

  1. FASBとIASBは、原則に基づく基準作りを目指しており、2006年3月会議で暫定的に合意された下記の作業原則は、それを達成する手段として、公開草案などの背後にある考え方を明確にし、議論の枠組みを明らかにしようとしたものである。今後この作業原則に基づいて、コメントや円卓会議で示された懸念等を検討することになる。

    【基本的要求と定義】

    • 企業結合とは、取得企業が1つ又はそれ以上のビジネスの支配を取得する取引又は事象である。
    • 取得企業は、すべての企業結合において識別することができる。
    • 取得企業が被取得企業の支配を取得した日が企業結合の取得日である。
    • 企業結合は、取得法によって会計処理される。
    • 被取得企業の支配を獲得することによって、取得企業は、被取得企業に対する持分比率にかかわらず、被取得企業の資産、負債及び活動に対して責任及び説明責任を有する。

    【取得法を適用するための原則と前提】

    • 認識:企業結合では、取得企業は、取得したすべての資産及び引き受けたすべての負債を認識する。
    • 測定:企業結合では、取得企業は、取得した個々の資産及び引き受けた個々の負債を取得日の公正価値で測定する。取得企業が引渡した対価の企業結合日の公正価値が取得した持分の公正価値の最良の証拠であると推定する。
    • 開示:取得企業の財務諸表の利用者は、取得企業が認識した企業結合の性質及び財務的影響を評価できなければならない。
  2. 今後、2006年3月会議で暫定的に確認された、段階取得やのれんの会計処理、バーゲンパーチェス及び過払いの会計処理及び非支配持分の区分、表示及び開示の取扱いといった項目も含めて、上記作業原則に照らしてFASB及びIASBでそれらの内容が順次検討されることになる。

2.概念フレームワーク

今回は、1. 報告企業(フェーズD)、2. 資産及び負債の定義(フェーズB)、3. 負債と資本の区分(フェーズB)及び4. 測定(フェーズC)に関する議論が行われた。ここでは、1. から3. について触れる(4. については、FASBとの合同会議の説明を参照されたい)。

(1)報告企業

IASBやFASBのフレームワークの中では、「報告企業」についての記述はほとんどない。そこで、両者の統合されたフレームワークでは、この問題をフェーズDにおいて取り上げることとしている。

今回は、このフェーズの論点のうち、次の2つについて議論が行なわれた。

RE5:支配とは何を意味するか?支配を定義するのは概念レベルか基準レベルか?
RE8:現在支配しているが、将来支配を失う可能性があることは問題となるか(例えば、他の株主の保有が分散しているという理由のみで現在支配を有している場合)。もし、現在は支配していないが、(例えばオプションの行使により)将来支配を獲得できる場合はどうか?

今回の論点は、報告企業(単独の報告企業及び連結ベースでの報告企業の双方)の範囲を決めるために支配概念を用いることになるが、その「支配」は、概念レベルで規定するのかそれより下の基準レベルで規定するのか、また、支配とは何を意味するのかであった。

議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 支配は、概念レベルで定義する。
  2. 支配の定義には、パワー要素とベネフィット要素及び両者の関連を含める。
  3. パワー要素では、他の企業に対する支配企業の財務及び経営方針を指示する能力について触れる。また、支配は排他的なものであり共有されないものである点及び支配には事実上の(de facto)支配又は実質的(effective)支配を含む点を明確にする。
  4. ベネフィット要素では、特定のタイプの便益(例えば、投資に対する利回り)を指すのではなく、便益又は経済的便益全般を参照すべきである点を明確にする。また、支配の定義では、持株比率が50%超でなければならないといった便益の最低限のレベルを特定しない。
  5. 概念フレームワークでは、ある企業が他の企業に対して支配を持つかどうかを決定するためには、すべての事実及び状況の評価を行なう必要があることを説明する。言い換えると、すべての場合に適用できるような、ある企業が他の企業を支配していることを証明する単一の事実又は状況はなく、例えば、議決権の過半数の所有のようなひとつの特定の事実又は状況が、支配が存在する必要条件として取り扱われるべきではない。
(2)資産及び負債の定義

フェーズBに関連して、資産及び負債の定義についての検討が行なわれてきており、2006年2月会議では、資産及び負債を以下のとおり定義した上で、定義の一部を構成する説明文(amplifying text)において定義の意味を説明する体系をとることが暫定的に合意されていた(説明文は省略)。

  • 企業の資産とは、企業に対する経済的便益を生み出す能力がある資源に対する、企業の現在の権利又は他の現在の特権である。
  • 企業の負債とは、経済的便益の潜在的な流出又は他の潜在的な犠牲を強制する、一つ以上の他の企業に対する現在の債務である。

今回、資産及び負債の定義を更に簡易で対照的なものとし、定義の内容の説明をより説明文に移すことを前提とした5つの改善案が示され、これについて議論が行なわれた。

この議論は、FASBとの合同会議で暫定合意に達しているので、合意の内容は、FASBとの合同会議の項を参照されたい。

(3)負債と資本の区分

今回、財務諸表の構成要素に関する第3回目の議論として、負債と資本の区分に関する初めての議論が行われた。今回は、議論が行われたのみで、何も決定はされなかった。

1.  論点

今回次の論点が議論された。

EL25:負債と資本の区別はあるべきか。
EL27:負債と資本を相互にどのように区別するか(例えば、公正価値でプッタブルな株式)。
EL28:全ての構成要素(負債及び資本)は定義されるべきか。(もし、そうであるならば、両者の定義から外れるものはあるのか。)又は、ある構成要素は残余であるべきか。(もし、そうであれば、残余となるのはどちらか。)
EL31:企業自身の株式(又は他の持分金融商品)で決済が行われる場合、企業自身の持分金融商品の取引から損益は発生するとかんがえるか。

2. 4つの考え方

資本を負債から区別する規準は何かという点に関してはさまざまな見解が考えられる。この問題は、概念の基本的なレベルから検討する必要があるので、今回は、次のような4つの義務を負うことと引換えに、企業が現金を受け取る取引という簡単な例を検討して、負債と資本を区別する規準についての検討が行なわれた。

  1. 100の株式を発行する義務(受取人が受取る経済的利得は株価に連動しているため受取人の経済的ポジションは株主の経済的ポジションに類似しており、一方、株式の発行によって企業から経済的資源は流失しない)
  2. 1,000ドルに相当する株式を発行する義務(受取人が将来受取る価値は固定されており、所有者としてのリターンは得られない)
  3. 100の株式に相当する現金を支払う義務(企業が現金を渡さなければならない点は負債としての性格を示すが、受取人が受取る資産は株価に連動しているため株主の経済的ポジションに類似している)
  4. 1,000ドルを支払う義務(他者に現金という経済的資源を提供するので、負債とすることに異論は殆どない)

上記4つのケースのうち、どれを資本とするのかについては、スタッフから次の4つの考え方が提示された。

A案:
企業の経済的資源を犠牲にする義務であるかどうかが資本と負債を分ける規準であると考える。そのため、c)とd)が負債であり、a)とb)が資本である。前の2つは現金の支払いが生じるが、後の2つは株式の発行である。これはFASB概念基準書第6号及び現状のIASBのフレームワーク、さらに現在検討している負債の定義と整合的である。

B案:
所有者としてのリターンとリスクをもたらすかどうかが資本と負債を分ける規準であると考える。そのため、b)とd)が負債であり、a)とc)が資本である。前の2つは犠牲となるが発行される経済的資源の価値が固定されているが、後の2つは経済的資源の価値が株価に連動して変動する。

C案:
経済的資源を犠牲にする義務であるか(あれば負債)、又は所有者のリターンとリスクと異なるリターンとリスクをもたらすか(異なるリターンとリスクをもたらせば負債)という2つの規準のいずれかに該当するかどうかが資本と負債を分ける規準であると考える。そのため、b)、c)、d)が負債であり、a)だけが資本である。なぜなら、c)とd)は現金の支払いが生じ、b)とd)は、固定された価値相当の経済的資源の犠牲又は発行が求められるが、a)は経済的資源の犠牲は生じず、単に株価によって価値が変動するものを発行するだけであるからである。これはFASBとIASBによる最近の会計基準の決定事項に整合的である。

D案:
経済的資源を犠牲にする義務であるか、又は所有者のリターンとリスク又は権利と異なるリターンとリスク又は権利をもたらすかどうかという2つの規準のいずれかに該当するかどうかが資本と負債を分ける規準であると考える。この結果、a)、b)、c)、d)の全てが負債である。なぜなら、4つの義務は全て所有者のリターンとリスク又は権利を付与するものではなく、c)とd)は経済的資源の犠牲が生じるためである。

これらのいずれが適切かについてのボードメンバーの見解は多様である。採決はされなかったが、C案に対する支持が比較的多かった。

3.保険会計

今回は、1. 保険負債の測定属性、2. 会計単位、3. アンバンドリング及び4. プロフィット・マージンについて議論が行われた。

(1)保険負債の測定属性

議論では、2つの現在価値アプローチのうち、現在出口価値アプローチを採用することが僅差(賛成7反対6棄権1)で支持された。

1. 現在価値アプローチ
これまでの議論では、保険負債の測定属性として、現在価値アプローチといわれる現在時点での見積りをベースとした測定属性を選択することが暫定的に合意されてきた。理論上、現在価値アプローチの目的は、現在の市場価格で保険負債を測定することであるが、実務上、このような価格は一般的に観察できないので、市場価格は次のような要素を用いて見積もられなければならないとされている。

  1. 将来キャッシュ・フローに関わる現在のバイアスのない発生確率によって加重平均された見積り。
  2. 見積り将来キャッシュ・フローを貨幣の時間的価値の分だけ調整するための現在市場割引率。
  3. 市場参加者が要求する代償を反映したマージン(主にリスクを引き受けるためのものであるが、恐らく他の要素も含まれるであろう)。

2. 現在入口価値と現在出口価値
現在価値アプローチには、現在入口価値を用いる考え方と現在出口価値を用いる考え方の2つのアプローチがある。2つのアプローチにおける違いは、上記(c)の要素の見積りにのみ表われる。言い換えると、両者のアプローチにおいて、(a)と(b)の要素の見積りに差異は生じない。

現在入口価値を用いる考え方では、保険負債の市場価格が観察可能なのは契約締結時1度きりであるため、保険者と保険契約者がお互いに契約の受け容れ可能価格について合意した契約締結時の実際の保険料に課されたマージンで上記(c)の要素を計算する。したがって、契約締結時に損益は発生しない。具体的には、リスク1単位当たりの価格を固定する。また、契約締結時に負債十分性テストが行なわれる。契約締結時以降においては、将来キャッシュ・フローと割引率は毎期見直されるが、マージンは見直されない。そのため、毎期末にも負債十分性テストが必要となる。
一方、現在出口価値を用いる考え方では、マージンは、現時点で保険契約を第三者に譲渡する場合の価値を用いるため、マージンもそのようなベースで見積もられる。したがって、契約締結時であっても損益が認識される可能性がある。また、毎期末にマージンの見積りが行なわれる。

3. 現在価値アプローチの利点

これまでの議論の中で現在価値アプローチが優れていると判断された理由は次のとおりである。

  1. 現存の保険契約から生じる将来キャッシュ・フローの金額、タイミング及び不確実性に関する有用な情報を提供する。
  2. キャッシュ・フローの見積りの変動のすべてに対して一つの取扱いを提供する。
  3. 新しく生じた問題を解決するのがより容易な原則に基づいたフレームワークを提供する。
  4. 非金融負債(IAS第37号)及び金融負債(IAS第39号)の測定において将来キャッシュ・フローの現在の見積りを求めている他のIFRSとの首尾一貫性を提供する。
  5. マージンが明示され、かつ、当期中に保険会社がリスクから解放されたマージンの範囲を示すことができる。
  6. 保険負債と現在価値で測定された対応資産の間の経済的ミスマッチをより明確に識別できる。

4. 暫定合意

今回の議論の結果、現在出口価値アプローチを採用することが僅差(賛成7反対6棄権1)で暫定的に合意された。今回暫定的に合意された現在出口価値アプローチは次のとおりである。

  1. 保険負債の測定上の属性は、当初認識時及びその後の測定において現在出口価値であるべきである。現在出口価値は、仮に、残存する契約上の権利・義務のすべて(他の権利・義務により、受領・支払すべき額は除かれる)を他の企業に直ちに移転するとした場合に、保険者が当該企業に、今日、支払わなければならないと見込まれる金額として定義されるべきである。
  2. 保険者は、保険契約の締結時にネットの利益(すなわち、新契約費と相殺後)あるいはネットの損失を認識することを妨げられるべきではない。しかし、もし保険者が契約締結時に明らかに大きな利益又は損失を識別した場合には、誤謬又は脱漏がないかどうか注意深く確認する必要がある。
  3. 現時点で現在出口価値が公正価値と同義であると結論付けるのは時期尚早である。この問題は、公正価値測定プロジェクトの進展を待って将来検討される問題である。

2006年2月のIASB会議で顧客関係の資産及びそれに対応する負債が認識できることが暫定的に合意されている。これは、生命保険契約では、保険会社が保険契約者に対して保険料の支払いを強制することができないため、保険会社の責任準備金の計算に当たり、そのような保険会社に強制力がない(保険会社が支配していない)将来の保険契約者による保険料の支払いを考慮することが概念フレームワークの資産の定義に照らして妥当かどうかが議論された際に新たに創造された考え方である。すなわち、保険会社が将来保険料を支配していないとしても、保険契約者が保障を受けることを求めて将来保険料を支払うという顧客との関係が存在すると想定できるので、それに対応する資産及び負債を認識できるというものである。この顧客との関係から生じる保険負債に対しても上述の現在出口価値の考え方が等しく適用されるべきである点についても、暫定的に合意された。

(2)会計単位

会計単位は、保険契約の会計処理を考える単位である。この単位をどの範囲とするかで、マージンとして測定される金額が異なることとなる。類似のリスクにさらされている保険契約の群団を1つの会計単位と見るならば、ポートフォリオ内の分散効果だけがマージンの測定に反映される。異なるリスクにさらされている複数の群団を1つの会計単位に含めるならば、異なるリスク間の分散効果がマージンの測定に反映される。さらに、保険契約と保険会社が有する保険契約以外に関する資産及び負債との分散を考慮することも可能性としては考えられる。また、これとは異なるが、現在出口価値を用いるので、どのようなポートフォリオを有する譲受人に保険契約が譲渡されると考えるかによって現在出口価値が異なることになる。

スタッフからは、類似のリスクにさらされていて単一のポートフォリオとして一緒に管理されている契約によるポートフォリオの中の分散を反映すべきであること、当該保険者のその他の保険契約のポートフォリオやその他の資産および負債との分散を反映すべきではないことが提案されたが、今回は議論が行われたのみであった。

(3)アンバンドリング

ここでは、保険契約の中からその中に含まれる個別の要素を分離して、個々にそれらを測定すべきかどうかが議論された。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 認識と測定のために預金要素及びサービス要素をアンバンドリングすることは要求されるべきでない(自由裁量による配分が行なわれる恐れがあり、また、複雑なシステムが必要となるため、アンバンドリングによりより忠実な財務諸表の表示になるとは思われない)。アンバンドリングを禁止すべきかどうかについてはさらに検討する。なお、保険料を、収益又は預り金として認識すべきかどうかについては2006年5月に議論することが予定されている。
  2. 保険者は、保険者が分離勘定(投資信託に類似したもの)の資産から生じるすべてのキャッシュ・フローを分離勘定の契約者に対して支払う契約上の義務を有していなければ、分離勘定の資産とこれに対応する保険契約者の支払義務を認識すべきである。一方、保険者は、その義務(債務)がIAS第39号のパス・スルー契約に関する規定(第19項及び第20項)に合致するならば、関連する資産と負債を相殺できるという取扱いをすべきである。今後、パス・スルー契約の扱いが保険会社の倒産の場合にどのようになるかについて、さらに検討することがスタッフに指示された。
(4)プロフィット・マージン

これまでの議論で、保険負債の測定にはマージンを組み込むべきであると暫定的に合意されているが、今回このマージンにどのようなマージンを組み込むべきかについて議論が行なわれた。議論の結果、将来キャッシュ・フローに関連した不確実性を引き受けること(リスクを引き受けるサービス)に対する代償であるリスク・マージンに加えて、市場参加者がリスクを負担することのサービス以外のサービスを提供するために要求するであろうマージン(プロフィット・マージン)も組み込むべきであることが暫定的に合意された。

IASBとFASBの合同会議

4.金融商品

今回は、2006年2月27日にIASBとFASBが公表した、今後2008年までに両者の会計基準をより一層統合化するための覚書(Memorandum of Understanding、以下「MOU」という)における目標を達成するため、どのようにプロジェクトを進めていくかが議論された。MOUでは、金融商品に関するプロジェクトは、現行の金融商品会計基準を全面公正価値の採用によって置き換えるというプロジェクトと認識の中止プロジェクトに分けて記載されている。前者については、デュー・プロセス文書の公表が、後者においてはスタッフのリサーチ結果に関するデュー・プロセス書類の公表が予定されている。スタッフからは、MOUの要求を満たすために公表する文書に含めるべき項目のリストが示され、これについて議論が行なわれた。議論の結果、デュー・プロセス文書で取り上げるべき論点を示した資料を作成するようスタッフに指示が出された。なお、デュー・プロセス文書に、IASBとFASBの暫定的な見解を含めるのか、また、基準開発の日程を示すのかについても今後議論される予定である。

5.収益認識

本プロジェクトでは、これまで収益認識方法として、1. 消滅をベースとする方法(Extinguishment-based method, 以下、EBM)及び2. Performanceをベースとする方法(Performance-based method, 以下、PBM)の2つが検討されてきた。しかし、いずれの方法でも現実の取引を適切に捉えることが難しいため、今回は、これら2つを含む5つの代替案が提示され、今後採用されるべきモデルについて議論が行なわれた。

(1)5つの代替案

今回提示された5つの代替案は次のとおりである。

  1. EBM(顧客への物品引渡しまたはサービス提供を契機として収益を認識する方法)
  2. EBMだが長期契約だけは例外とする方法(長期契約だけはEBMの例外として発生主義による収益認識を認める方法)
  3. 顧客便益法(customer benefit method)(顧客が便益を受領した時点で履行が行われたと見て、履行が行なわれた時点で収益を認識する方法)
  4. PBMだが適用上の便法の使用を認める方法(便法として、短期契約ではEBMによる収益認識、長期契約では顧客の承認を条件に収益を認識することを認める方法)
  5. PBM(物品の引渡しが行なわれていなくとも、契約で求められている物品の製造が進捗するにつれて収益を認識する方法)
(2)暫定合意

上記代替案の議論の結果、収益を認識するには、顧客による承認(customer acceptance)が非常に重要であり、顧客による承認は、企業が対価に対する無条件の権利を取得したことを意味し、逆に顧客は、無条件の債務を引き受けたと考えられると結論付けた。企業の権利は、顧客との契約条件又は契約を規定する法律によって生じると考えられる。この考え方は、EBMとPBMの中間に位置する考え方であり、今後この考え方に従って収益認識に関する検討を行なうことがスタッフに指示された。

6.企業結合第2フェーズ

今回は、1. 取得費用の取扱い、2. 非支配持分に関する表示と開示及び3. 公正価値測定ガイダンスとの関係について議論が行なわれた。

(1)取得費用の取扱い

公開草案では、取得費用を企業結合で取得した資産の取得原価に算入せずに、発生時点の費用として処理することを求めている。これは、現行の会計実務からの変更であり、多くの反対のコメントが寄せられた。このため、今回合同会議で検討された。
反対のコメントの多くは、いわゆるコスト累積モデルの方が公正価値による取得資産及び引受負債の測定よりも優れているという考え方によるものであった。

スタッフからは、コメントを分析した結果、次の理由から取得費用を発生時の費用とする公開草案の提案を引続き採用すべきとの提案があり、IASBは11名の賛成、FASBは全員の賛成により、スタッフ提案が暫定的に支持された。

  1. 取得費用は企業結合で取得した資産又は引き受けた負債には該当しないものであり、むしろ、被取得企業とは別の相手から受取ったサービスの対価の支払いである。
  2. 公正価値には取得費用が含まれない。
  3. 「企業結合では、取得企業は、取得した個々の資産及び引き受けた個々の負債を取得日の公正価値で測定する」という取得法適用の原則と合致しない。
  4. 公開草案で提案されている取得費用の開示により企業結合における投資総額が把握できる。
(2)非支配持分に関する表示と開示

FASBとIASBの公開草案の中に非支配持分の表示と開示に関する差異が存在しており、これらの差異を残したままとするか調整するかが議論され、結果として、次のとおり差異を取り除くことが暫定的に合意された。

  1. FASBは、IASBの提案内容とあわせるため、資本の部の変動表上又は注記において、資本の部の合計及び親会社の株主に帰属する分に関して、期首から期末までの変動内容の開示(調整表)を求めることとした(FASBは、非支配持分についてのみ調整表の開示を要求していた)。
  2. IASBは、FASBの提案内容とあわせるため、注記において、非支配持分との取引が支配持分に帰属する資本に与える影響について別表にして示すことを求めることとした。
  3. IASBは、FASBの提案内容とあわせるため、注記において、子会社の支配を喪失したために、支配喪失後も保有する株式に生じる再評価損益の開示に加えて、勘定科目も開示することを追加で求めることとした。

なお、このほか、非支配持分がある場合には、支配持分に帰属する1. 継続事業からの利益、2. 廃止事業及び3. 資本の部で直接認識された損益項目を注記か又は財務諸表上で開示することを求めることが改めて確認された。

(3)公正価値測定ガイダンス

別途進行している公正価値測定プロジェクトから公表される公正価値測定ガイダンスが、企業結合プロジェクトにおける公正価値による測定に関する取扱い又は前提にどのような影響を与えるかに関するスタッフの分析結果について議論が行なわれた。今回は、問題の所在を明確にするための議論が行なわれたのみであり、今後さらに検討を行なうこととなる。

7.概念フレームワーク

合同会議では、1. 資産及び負債の定義、2. 測定フェーズ(フェーズC)作業計画及び3. 財務報告の目的及び質的特性(フェーズA)の公開資料の取扱いについて議論が行なわれた。

(1)資産及び負債の定義

財務諸表の構成要素に関する議論において、これまでの議論を踏まえて資産及び負債に関する作業を今後行なうための定義として、次の内容が合意された。

資産の定義:資産とは、企業の現在の経済的資源であり、その特徴は次のとおりである。

  1. (資産を裏付ける)経済的資源があること。
  2. 企業が経済的資源に対する権利又は他の特権的アクセスを有していること。
  3. 貸借対照表日において権利又は他の特権的アクセスが存在していること。

負債の定義:負債とは、企業の現在の経済的債務であり、その特徴は次のとおりである。

  1. 企業が、ある方法により行動又は履行すること(又は行動したり履行したりしないこと)を義務付けられていること。
  2. 貸借対照表日において債務が存在していること。
  3. 義務は経済的なものであること、すなわち、経済的資源を他者に提供するか、又は、そうするために待機しているという企業の義務であること。

FASBとIASBは、この提案に賛成し、スタッフに対して、資産及び負債の定義、特徴そして説明文を更に精緻化するよう指示した。

(2)測定フェーズ(フェーズC)の作業計画

今回の議論では、測定フェーズに関する次のようなスタッフ提案が検討された。

  1. (a)測定のフェーズを単一のフェーズとして取り進めるよう従来の計画を変更すること。
  2. (b)単一の測定フェーズを3つの段階に分け、それぞれの段階でデュー・プロセス文書を公表すると共に円卓会議等による意見聴取を行なうこと。
  1. 単一の測定フェーズへの変更
    従来の案では、測定は、フェーズBにおいて測定属性の定義のみを取り扱い(例えば、公正価値の定義)、フェーズCにおいてそれ以外の測定に関する問題を取り扱う(もし測定技法をフレームワークの中に含める場合には、測定技法の議論はフェーズCに含める。)こととされていた。測定に関する問題を2つのフェーズに分けることにより、首尾一貫した測定に関する議論が難しくなること等の理由により、測定に関する検討を1つのフェーズでまとめて行なうことが提案された。
  2. 3段階による単一フェーズの推進
    新しい測定フェーズは、次の3つの段階に分け、最終的には、2010年の完成を目指すスケジュールが提案された。
    1. マイルストーンI:測定属性の定義及び特性(Property)の記述(2007年半ばまで)
    2. マイルストーンII:測定属性の質的特性を用いた評価(2009年始めまで)
    3. マイルストーンIII:概念的な結論及び実務上の適用(2010年半ばまで)
    計画では、それぞれのマイルストーンの中で、デュー・プロセス文書の公表及び円卓会議等を開催することが提案されている。
  3. 暫定合意
    議論の結果、上記提案が暫定的に合意された。
(3)財務報告の目的及び質的特性(フェーズA)に関する公開文書

2006年第2四半期にも公表予定の「財務報告の目的及び質的特性」(フェーズA)に関する最初の公開文書として、当初公開草案での公開が予定されていたが、合同会議直前のIASB会議において、IASBがディスカッション・ペーパーとして公開することを決定したのを受け、合同会議ではFASBが当初の予定通り公開草案とするか、IASBに合わせてディスカッション・ペーパーとするかが議論された。議論の結果、FASBもIASBに合わせてディスカッション・ペーパーとして公表することに合意し、その中で予備的見解を示すこととなった。なお、公開期間は120日が予定されている。

8.リース

2006年4月の会議でIASBは、IAS第17号(リース)を見直すための新たなプロジェクトを議題として取り上げることを前提に、当該プロジェクトの方向性やディスカッション・ペーパーで扱うべき内容についての議論を行なった。今回の合同会議では、FASBがこのプロジェクトをIASBとの共同プロジェクトとすることに合意した。そして、スタッフに対しては、検討議題及び作業計画の内容を詰めることが指示された。今後IASBでは、2006年6月に基準諮問会議(SAC)に諮った上で正式にプロジェクトとして開始する予定である。

以上

本会議報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より、議論の概要を入手し、掲載したものである。