IASB(国際会計基準審議会)の第55回会議が、2006年3月28日から31日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. IAS第37号(引当金)の改訂公開草案、3. 概念フレームワーク、4. 財務諸表の表示(従来の業績報告)、5. 収益認識、6. 保険会計、7. 連結及び特別目的会社(SPE)、8. リース、9. 公正価値でプットできる金融商品、10. 米国会計基準との短期統合化(借入費用)、11. 中小規模企業(SME)の会計基準、12. ジョイント・ベンチャー、13. IFRS第1号(初度適用)の改訂、14. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況及び15. 検討議題のタイムテーブルの見直し(テクニカルプラン)についての検討が行われた。このうち、11. から15. を除く議論を紹介する。
今回は、次の点についての議論と合意の形成が行なわれた。
コメントでは、第2フェーズはIFRS第3号(企業結合)又は米国財務会計基準書(SAFA第141号(企業結合)のいずれかに統合するプロジェクトであるとの誤解を示すものがあり、第2フェーズの目的を明確化する必要があるため、本プロジェクトの基礎となる基本原則等を明確化することが提案され、次の点が暫定的に合意された。
【基本的要求と定義】
【取得法を適用するための原則と前提】
100%の取得でない場合及び段階取得において、のれんは、被取得企業の純資産総額が被取得企業の識別可能資産及び負債を超える金額として測定され(いわゆる「全部のれん」)、取得企業の取得割合に対応するのれんのみを認識するという考え方(いわゆる「購入のれん」)は採用しないことが改めて確認された。
段階取得の会計処理においては、支配の取得及び喪失を再測定すべき事象と見る考え方が改めて確認された。支配の取得時点では、それ以前に取得していた持分をその時点の公正価値で測定し、従前の簿価との差額は損益として認識される。また、支配の喪失時点でも、支配喪失後にも保有し続ける持分を公正価値で測定して、従前の簿価との差額を損益として認識し、それと同時に、売却持分に係る損益も認識される。
バーゲンパーチェスは、被取得企業の純資産に対する取得企業の持分が、当該持分の取得のために支払った対価の公正価値を超える場合に発生する。その場合には、当該超過額は、まずのれんをゼロまで減額し、それでも残額がある場合には、取得企業に帰属する利益として認識するという会計処理が公開草案で提案されているが、IASBがこの提案を支持することが改めて確認された。一方、過払いについては、過払いが起こっても、当該過払い額を取得日に信頼性を持って測定することは困難であるため、のれんに含めるという会計処理が公開草案で提案されている。この提案を支持することが改めて確認された。
支配取得後の非支配持分と支配持分との取引は、株主間の取引であり自己株式の会計処理を適用する(すなわち、この種の取引から損益は認識しない)という公開草案の提案が改めて確認された。また、株主間のこの種の取引に関する情報を提供するため、注記としてこの種の取引の状況を説明する表を追加するかどうかなどを検討することがスタッフに対して指示された。
今回は、受領したコメントの分析として、1. 本基準の適用範囲、2. 基準の名称の変更及び3. 本プロジェクトに追加すべき項目の検討が行われた。
本基準の適用範囲に関連して、公開草案は、他のIFRSが規定しているものを除くすべての負債を適用対象としており、IAS第18号(収益認識)で認識される「繰延収益」は改訂IAS第37号の範囲に含まれないこととなっているが、一部に誤解があるため、この趣旨をより明確にすることが暫定的に合意された。
本基準の名称は、「非金融負債」となっているが、「引当金」を用いないことに対しては、123通のコメントのうち39通(約3分の1)が反対しただけであった(賛成は48通、残り36通は無回答)。また、非金融負債という用語は誤解を招く恐れがあるとの指摘もあり、本基準の名称を「負債」とすることが暫定的に合意された。
受領したコメントでは、ガイダンスを追加すべき項目として、現在「偶発資産」とされているものでIAS第38号(無形資産)の無形資産として認識されるものの認識と測定や補填の権利の測定といった項目が指摘されていた。議論の結果、補填の権利の測定に関してのみガイダンスを追加することが暫定的に合意された。なお、公開草案で要求されている測定に関する規定の適用に当たってのガイダンスが必要かどうかは、将来測定の問題を検討する際に議論することとされた。
今回は、2005年12月に続く「報告企業(reporting entity)」に関する2回目の議論が行なわれ、1. 「企業(entity)」とは何か及び2. 「親会社のみの企業(parent-only entity)」の2つが検討された。
報告企業は、広い概念とすべきで、すべての種類の企業が包含されるという点が2005年12月に暫定的に合意されている。今回は、企業とは何かが議論された。その結果、財務報告の目的上、企業は、法的企業(例えば、会社、信託及びパートナーシップ)に限定されるべきではなく、例えば、自然人や個人事業主(sole proprietorship)、さらに、ある状況下では、法的企業の支店やセグメントも含むべきである点が暫定的に合意された(ただし、資産及び負債の単なる集合体で、それらを管理する機能を持たないものは企業とはならない)。
2005年12月には、地域によって、親会社単体財務諸表のみが要求されたり、連結財務諸表のみが要求されたり、さらに双方が要求されるというように多様な状態となっていることを踏まえて、親会社単体が報告企業となり得るかについて更に検討を行なうこととされていた。今回の議論では、親会社の支配下にあるすべての資産及び負債を表現しない親会社単体は報告企業とはならないといった見解や、親会社単体及びグループ企業は、同一企業に対する異なる視点を示すものと理解すべきとの見解、更に両者は異なる企業と見るべきとの見解などが述べられた。いずれとも決められず、今後更に議論を続けることとなった。
今回は、本プロジェクトのセグメントBに関して、1. 範囲、2. 目的及び作業原則、3. プロジェクトの名称変更及び4. ディスカッション・ペーパー発行までの今後のスケジュールについて議論が行なわれた。
セグメントBの扱う範囲に関して次の点が改めて確認された。
目的及び作業原則として次のものが暫定的に合意された。
本プロジェクトの範囲及び目的に照らして、プロジェクトの名称を「業績報告」から「財務諸表の表示(financial statement presentation)」とすることが提案され、変更が暫定的に合意された。
セグメントBに関するディスカッション・ペーパーは、2007年第1四半期の公表を目指している。それまでの作業に当たり、次の点が暫定的に合意された。
今回は、2006年2月に続き、2つの収益認識方法である1. 消滅をベースとする方法(Extinguishment-based method, 以下、EBM)及び2. Performanceをベースとする方法(Performance-based method, 以下、PBM)が検討された。
EBMの下では、物品の引渡しやサービスを提供するという契約上の債務は、それらが法的に消滅した場合にのみ消滅し、それによって収益が認識される。顧客は、物品又はサービスを利用する又はそれらからの便益を受ける権利を取得したときにのみ、物品又はサービスを取得したということができる。EBMは、顧客の視点に立脚した考え方ということができる。一方、PBMの下では、製造過程は、顧客にとっての資産を創造又は増強するので、その過程が収益を生むと考えている。したがって、契約で求められている物品の製造が進捗する段階で収益が認識される。PBMは、売り手の視点に立った考え方ということができる。
収益認識のプロジェクトでは、契約によって発生する資産又は負債の変動に基づいて収益を認識するモデルが検討されているが、契約時収益(selling revenue)の認識を避けるため、資産又は負債を初めて認識する場合におけるそれらの金額の測定に当たっては、顧客との契約で取り決められた対価額を用いるモデルが採用されている。すなわち、顧客の視点に立ったモデルが採用されている。このため、この考え方と首尾一貫する収益認識の方法は、EBMということになる。その場合には、現在認められている工事進行基準はEBMの考え方と矛盾するとも考えられるので、EBMの下でも、物品やサービスの引渡し前に、顧客の同意などに基づいて収益を認識できないか、すなわち、EBMとPBMとを融合させることができないかについて検討するようスタッフに対して、更なる検討が指示された。
今回は、1. 有配当保険の権利、2. 将来キャッシュ・フローの見積り、3. リスク・マージン、4. 組込みデリバティブ、5. 割引率及び6. 認識と測定について議論が行なわれた。ここでは、1. から3. について触れる。
有配当保険に係る権利に関して、次のような点が暫定的に合意された。
将来キャッシュ・フローの見積りをどのように行なうかに関するガイダンスをディスカッション・ペーパーに付録として収録することが予定されている。そのガイダンスの初めてのドラフトが提示され、その内容について議論が行なわれ、いくつかの改善点が指摘された(詳細は省略)。
リスク・マージンに関する議論では、リスク・マージンの目的について議論が行われ、リスク・マージンの目的は、将来のキャッシュ・フローに関する不確実性についての情報を利用者の意思決定のために提供することにあるという点について暫定的に合意された。リスク・マージンの目的については、予想外の自体が生じた場合のショック・アブソーバーであるといった見方や保険会社の支払能力を強化するものであるという見方もあるが、これらは採用されなかった。また、リスク・マージンを見積もるための特定の手法をディスカッション・ペーパーで記述しないことについても暫定的に合意された。代わりに、リスク・マージンの設定目的に沿う手法の特徴について説明する予定である。
今回は、1. 本プロジェクトと概念フレームワークプロジェクトにおける「報告企業」の作業との重複の調整、2. 本プロジェクトと企業結合第2フェーズの発効日を同時にする必要性及び3. 今後のプロジェクトの方向性について議論が行なわれた。
本プロジェクトと概念フレームワークプロジェクトとの関係では、本プロジェクトでは、支配概念に基づいて連結の範囲を決定するアプローチを採用しているが、概念フレームワークプロジェクトにおいても、報告企業を決定する際に、支配概念を用いようとしており、両者に重複がある。しかし、本プロジェクトが先行するため、本プロジェクトで支配概念の基準レベルでの検討を行ない、両者が緊密に連携して、概念レベルでの検討と将来矛盾のないようにすることが合意された。
本プロジェクトと企業結合第2フェーズでは、同じくIAS第27号(連結及び分離財務諸表)の改訂を予定している。短期間にIAS第27号を2度改訂しないためには、両者の発効日(2009年1月を予定)を同じにする必要性がスタッフから指摘された。議論の結果、企業結合第2フェーズの基準化が遅れなないという条件付で両者の発効日を同じにすることが了解された。
本プロジェクトで、SPEをも包含する支配概念に基づいた包括的なIFRSを作成するため、当面はSPEの問題に取り組む方向性が示され、その方向性が支持された。
IASBでは、IAS第17号(リース)を見直すための新たなプロジェクトを議題として取り上げることを前提に、当該プロジェクトの方向性やディスカッション・ペーパーで扱うべき内容についての議論が行なわれた(今回は何の決定もなされていない)。これまで、リースについては、英国の会計基準審議会(ASB)がリサーチプロジェクトとして検討をしてきており、それをベースにプロジェクトを開始することが提案された。なお、本プロジェクトは、FASBと共同で進める方向で調整が行なわれる予定である。また、アドバイザリー・グループも組織される予定である。
今後は、2006年6月に基準諮問会議(SAC)に諮った上で正式にプロジェクトが開始される予定である。
公正価値でプットできる(プッタブル)金融商品に関するプロジェクトでは、非上場株式がプッタブル金融商品に該当する場合には、計算技法を用いて公正価値を決定することを認めることとしていた。そこで、当該企業の純資産の簿価の比例的持分を純資産の公正価値の比例的持分の概数として用いることができるためには、簿価と公正価値が大きく乖離していないことが条件となることを適用ガイダンスで示すことが合意された。また、プッタブル金融商品に転換することができるオプションの付いた転換社債の転換により発行される普通株式の発行価格(オプションの公正価値と社債部分の公正価値の合計額)の取扱いに関する適用ガイダンスを作成することが合意された。
米国会計基準との短期統合化プロジェクトで取り上げられているIAS第23号(借入費用)の適用範囲からIAS第41号(農業)で規定されている当初認識時に公正価値から販売費を差引いた価格で測定される生物資産を除くことが暫定的に合意された。これは、生物資産が公正価値から販売費を差引いた価格で測定されている場合には、適格資産に該当して借入費用の原価算入をしても、借入費用は公正価値に含まれないため、結局当該原価算入期に費用となってしまうからである。
以上
本会議の報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より議論の概要を入手し掲載したものである。