ASBJ 企業会計基準委員会

第54回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第54回会議が、2006年2月21日から24日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合第2フェーズ、2. IAS第37号(引当金)の改訂公開草案、3. 概念フレームワーク、4. 収益認識、5. 公正価値でプットできる金融商品、6. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税及び政府補助金)、7. 中小規模企業(SME)の会計基準、8. 保険会計及び9. 公正価値測定プロジェクト(最近の状況の口頭報告)についての検討が行われた。このうち、7. 及び9. を除く議論を紹介する。

1.企業結合

今回は、コメント分析の第1回目として、1. ジョイント・ベンチャーの会計処理を対象に追加すべきかとうか及び2. 企業結合の定義を拡大すべきかどうかについて議論が行なわれた。

第2フェーズ公開草案では、ジョイント・ベンチャーの会計処理を対象から除外している。これは、第2フェーズの目的は、パーチェス法(取得法)の適用に関するガイダンスの開発にあり、ジョイント・ベンチャーの形成に関する会計処理は、将来のフェーズで検討する対象に含まれている。そのため、今回は、これを取り上げないことが暫定的に合意された。

コメントでは、企業結合の定義が狭すぎ、対等合併(true merger)といったIASBが本基準で取り扱おうとしている取引や事象が適切に定義されていないとの指摘があった。これを受けて、1. 企業結合の定義を拡張した上で、取得法を適用することが不適切な取引(ジョイント・ベンチャーの形成や共通支配下の企業結合など)を除外する、2. 企業結合の定義(取得企業が他の事業の支配を取得するもの)の中に対等合併や逆さ合併などが含まれるという記述を加える及び3. 公開草案の定義はそのままにした上で、ガイダンスにおいて対等合併などが含まれることを明確にするという3つの選択肢が検討された。しかし、定義を変更することは限られた時間を考慮すると困難であることから、定義を変更せずにガイダンスを追加する方向で更に検討することがスタッフに指示された。

2.IAS第37号の改訂

本プロジェクトの目的は、次の点であることが確認された。

  1. 現行基準で「偶発資産」及び「偶発負債」と記述されているいくつかの項目について分析を行うこと。
  2. リストラクチャリングに関連するコストに関する会計処理の適用指針を、より新しく、より概念的に優れたSFAS第146号「撤退又は処分活動に関連するコストに関する会計処理」にコンバージすること。

改訂公開草案で取り上げている偶発資産、偶発負債及びリストラ関連コストに関する認識及び測定の原則は、企業結合プロジェクトだけに関係するものではないため、このプロジェクトを企業結合プロジェクトと切り離し、独立したプロジェクトとして位置づけを見直すことが合意された。

受領した123通のコメントの項目別の分析及びそれに基づく項目ごとの今後の検討内容が議論され、暫定的に合意された。また、今後これらの項目を検討するスケジュールも合意された。

2006年11月に円卓会議を開催することが暫定的に合意された。

3.概念フレームワーク

財務諸表の構成要素の議論が継続しており、今回は、資産及び負債の定義が議論された。

スタッフからは、(a)のような資産の定義が提案されたが、(b)に示すような変更が暫定的に合意された。

(a) 企業の資産とは、

  • 企業に保有される現金、
  • 現金に対する企業の現在の権利、
  • 企業に対する経済的便益を、直接的に又は間接的に生み出す能力がある資源に対する企業の現在の権利又は他の現在の特権である。

(b) 上記(a)に対して、次の改訂を行なうことが暫定的に合意された。

  • 上記(a)の1. 及び2. は、3. の資産の定義を満たすことから、独立して列記する必要はない。
  • 定義から「直接的に又は間接的に」を除き、「資産が直接的に又は間接的に便益を生む」ということの意味を定義に対する説明の記述で明確にする。
  • 「資源に対する企業の現在の権利又は他の現在の特権」のうち「特権」という記述を「特権的アクセス」とすることとし、「資源」とは、経済的優位性という形式を取り得ることを定義に対する説明の記述で明確にする。

スタッフからは、(a)のような負債の定義が提案されたが、(b)に示すような点が暫定的に合意された。今回は、負債の定義に関する初めての議論であり、今後継続して議論が行われる。

(a)企業の負債とは、経済的便益の潜在的な流出又は他の犠牲を強制する、他の企業に対する現在の債務である。

(b)上記(a)に関連して、次の点が合意された。「過去の事象」に明示的に言及する必要はない。

  • 負債の定義は、従来同様直接資産を参照して定義する。
  • 負債は、現在の義務であり、将来の犠牲は含まれない。
  • キャッシュ・イン・フローをあきらめること又は譲ることは、負債となり得る。
  • 他の企業に対する義務のみが負債となり得る。
  • 「(決済を)回避することが企業の意思でほとんど又はまったくできない(little or no discretion)」という概念は、「強制(compulsion)」という概念で置き換える。
  • 法的又はそれと同等に潜在的なキャッシュ・アウト・フロー又はその他の潜在的犠牲を強制する場合には、衡平法上又は推定の債務は、負債となり得る。
  • 蓋然性(probability)又はその他の可能性という概念(other notions of likelihood)は、定義に含まれる必要はない(認識規準又は測定の問題である)。

4.収益認識

今回は、完全に未履行の収益契約(wholly executory revenue contracts)及び収益の認識のための方法についての検討が行なわれた。

収益認識に関しては、契約に基づく資産又は負債の変動に基づいて収益を認識するモデルに基づいて検討が行なわれている。このモデルでは、測定に当たっては、顧客からとの間の対価額を配分することとされている。

法的救済(legal remedies)の相違によって、完全に未履行の収益契約から生じる資産・負債の会計単位を決定するモデルが検討され、暫定的にこれを採用することが合意された。すなわち、対象が代替可能(そして、契約違反の法的救済が金銭的な損害賠償)である完全に未履行の契約の会計単位は契約全体であるとされ、したがって、完全な未履行の収益契約から生じる契約上の権利と義務は純額で計上される(通常は、純額はゼロとなる)。一方、対象が代替不能(そして、契約違反の法的救済が特定の行為の実行である)である完全に未履行の契約の会計単位は、契約にある無条件の契約上の権利・義務から生じる個別の資産・負債であるべきであるとされ、したがって、契約上の権利と義務は、総額で計上される。

収益認識の方法として、1. 消滅をベースとする方法(Extinguishment-based method, 以下、EBM)及び2. Performanceをベースとする方法(Performance-based method, 以下、PBM)が検討された。EBMの下では、契約上の債務の消滅が物品の引渡しである場合には、引渡し時点で収益が認識される。一方、PBMの下では、契約で求められている物品の製造が進捗する段階で収益が認識される。いくつかの例示が示されたが、スタッフに対して、さらなる事例の検討が指示された。

5.公正価値でプットできる金融商品

このプロジェクトでは、現在金融負債とされている1. 企業の純資産の比例持分の公正価値でプットできる金融商品(プッタブル金融商品)及び2. 企業の清算時に保有者に純資産の比例持分の支払い求める権利を与える金融商品(存続年数が限定されている企業やパートナーシップの場合)について、IAS第32号(金融商品:表示及び開示)の資本と負債の区分を改訂して資本とすることが検討されている。

上記2つの金融商品が資本とされるためには、1. 当該金融商品は、企業の純資産に対する請求権としては最劣後の区分であること及び2. 最劣後の区分に属する金融商品は、すべて公正価値でプットできる金融商品であることなどいくつかの条件を満たすことが求められている。今回は、これら金融商品の開示の問題が検討され、次の点が暫定的に合意された。

存続年数が限定されている企業では、存続期間が限定されている旨を開示する。

上記2つの金融商品について、負債から資本に(又は資本から負債に)振替えられた場合、振替えられた金額、タイミング及びその理由を開示する。

資本として区分されているプッタブル金融商品については、次の開示を行なう。

  1. 量的データの要約
  2. 当該金融商品を再購入又は償還する義務を管理するための企業の目的、会計方針及びプロセス(前期からの変更を含む)
  3. 簿価と比較できるような方法による当該区分の金融商品の公正価値
  4. 公正価値の決定方法

6.米国会計基準との短期統合化(法人所得税及び政府補助金)

IAS第12号(法人所得税)の改訂の検討では、

  1. 今回の改訂が費用と比べて効果があるかについてのスタッフの分析を検討し、今回の改訂の効果が費用を上回るという結論に達した。
  2. 改訂基準の経過措置に関する議論と暫定合意が成立した。

IAS第20号(政府補助金)の改訂に関しては、IAS第20号をIAS第41号(農業)に含まれている政府補助金の規定で置き換えることが暫定的に合意されていた。しかし、今回、1. IAS第41号のモデルでも、条件付政府補助金の会計処理が概念フレームワークと抵触する恐れがあること及び2. 条件付政府補助金については、IAS第37号の今後の検討を待ってから本プロジェクトの議論をした方がよいと考えられることから、本プロジェクトの議論を先送りすることが暫定的に合意された。また、これに伴い、排出権取引に関連する検討も延期されることが暫定的に合意された。

7.保険会計

今回は、1. 保険契約者の行動に影響される契約キャッシュ・フロー、2. 新契約費、3. 負債適正性テスト、4. 当初認識時の利益認識及び5. 損保の責任準備金の測定属性について議論が行なわれた。

現在までの議論では、責任準備金及び支払備金に関して次のような方向で議論が行なわれている。

  1. 損保の責任準備金:未経過保険料アプローチと将来法
  2. 損保の支払備金と生保の負債:将来法(現在入口価値又は現在出口価値)

保険契約者の行動に影響される契約キャッシュ・フローの問題については、保険契約者が保障を受けるために将来保険料を支払うということに関連する顧客との関係から生じる資産を認識することができるのではないかとの議論が多数を占め、顧客関係を他の権利義務と区分して認識すべきかどうかについて更に検討することがスタッフに指示された。

損保の責任準備金の測定属性に関しては、将来法を採用することが暫定的に合意された。ただし、現在入口価値又は現在出口価値のいずれにするかについては議論されなかった。また、実務上は、将来法に対する合理的な近似値を用いることができる点が指摘され、未経過保険料アプローチがこれに相当する場合があることも考えられるため、近似値の利用に関するガイダンスを検討することとされた。このほか、損保の責任準備金の割引率は、直近の金利を用いることが暫定的に合意された。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

本会議の報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より議論の概要を入手し掲載したものである。