ASBJ 企業会計基準委員会

第52回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第52回会議が、2005年12月13日から16日の4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 概念フレームワーク、2. 保険会計(解約・更新オプション及び生命保険会計モデル)、3. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税及びジョイント・ベンチャー)、4. 公正価値測定、5. IAS第32号の改訂(公正価値でプットできる金融商品)、6. 中小規模企業(SME)の会計基準、7. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況(国際財務報告基準(IFRS)第2号(株式報酬制度)の範囲に関する解釈指針の承認)及び8. 検討議題のタイムテーブルの見直し(テクニカルプラン)についての検討が行われた。このほか教育セッションでは、保険会計に関連して有配当保険に関する会計専門家による説明が行われた。IASB会議には理事14名全員が参加した。本稿ではこれらの議論のうち、7. と8. を除く議論の概要を紹介する。

1.概念フレームワーク

今回は、1. 会計情報の質的特性間の関係に関する最後の論点である「費用対効果(costs and benefits)」、2. 財務諸表の構成要素に関して「資産の定義」及び3. 「報告企業」フェーズの検討概要について議論が行われた。現在概念フレームワークの見直しプロジェクトは、次の8つのフェーズに分けて進めることとされおり、「資産の定義」はフェーズB、「報告企業」はフェーズDのテーマである。なお、今回の議論でフェーズAの議論は終了したことになり、今後公開草案の作成が行なわれる。

プロジェクトの各フェーズ及び取扱うトピックス
A 目的及び質的特性
B 構成要素、認識及び測定属性
C 当初及びその後の測定
D 報告企業
E 表示及び開示(財務報告の境界を含む)
F 概念フレームワーク及び公正なる会計慣行のヒエラルキーのステータス
G 非営利セクターへの適用
H 概念フレームワーク全体

(1)質的特性間の関係(費用対効果)

今回は、質的特性間の関係に関する最後の論点である「費用対効果」について議論が行われた。議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1.  会計基準の効用は、そのためのコストを正当化しなければならないという要求(費用対効果)は、一般的制約条件であると捉えるべきであり、質的特性ではない。
  2.  統合されたフレームワークにおいて費用対効果に関してどのように記述するかについては、3つの代替案を検討した。その結果、「基準設定主体は、提案されている基準の費用対効果の性質及び数量に対する期待に関する情報を、作成者、利用者、及び他の関係者から求めなければならない。特に、効果に関する情報及び費用に関する情報は不十分であることが多いものの、基準設定主体は、会計基準の審議に際し、入手可能な情報を検討しなければならない。」といった文言をフレームワークに入れることとされた。
  3. フレームワークでは、費用対効果の検討に何が含まれ、何が含まれないかに関する記述を行なう。
  4. 費用対効果という制約は、中小規模企業ないしある特定タイプの企業に対して緩和する必要はない。ただし、効果がかかる費用を正当化するかどうかを考慮した帰結は、企業の種類によって異なることになるかもしれない。

(2) 資産の定義

財務諸表の構成要素の最初の検討項目として、「資産の定義」が取り上げられた。

1.検討すべき論点

資産の定義に関連する論点には次の10項目があるが、今回は、これらのうち、EL1、EL3、EL6からEL8までの5項目が議論された(残りの論点は今後検討される)。

 議論すべき論点
EL1 資産は権利又は資源(rights or resources)という言葉で定義するべきか?例えば、証券化は将来の便益に対する権利の売却だが、それらの権利は認識されない。
EL2 支配とは何を意味するか?例えば、保険の更新では相手が保険料を支払うがどうかを支配していないが、他者がそれにアクセスすることを制限できる。
EL3 支配されているものは何か-将来の経済的便益をもたらす資源/権利か、それとも将来の経済的便益そのものか?
EL4 上記の論点は、支配と強制(compel)の差異に関連するのか?例えば、貸付金は返済を強制することができるが、その他の資産では支払いは強制はできないが相手方が支払うことを選択した場合には、それらの支払いが行われる。
EL5 どのような将来の経済的便益が含まれるのか-資産の範囲の終焉はどこか?
EL6 (a) 支配は資産の定義に属するのか、それとも認識要件の一部であるべきか?
(b) 構成要素レベルでは資産を広く捉えること(それらは認識レベルでさらに絞り込まれることになる)が望ましいのか?
EL7 資産が企業によって「所有又は支配される」こととなる帰結をもたらす事象は何か?
EL8 会計上の資産は、経済的な資産と異なるのか?そうだとしたら、なぜか?
EL9 「待機」(“stand-ready”)資産はあり得るか(待機負債の反対概念である)?
EL10 自己創設のれんはなぜ認識されないのか?-これは、資産の定義に関係するのか、それとも認識規準に関係するのか?
2.資産の定義

IASBのフレームワーク及びFASBのフレームワークにおいて、資産は、次のように定義されている。

【IASB】

「資産とは、過去の事象の結果として当該企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入することが期待される資源をいう。」

【FASB】

「資産とは、過去の取引又は事象の結果として、ある特定の事業体により取得又は支配されている発生の可能性の高い将来の経済的便益である。」
両者の定義には、1. 「将来の経済的便益」に言及している、2. 資産は企業に「支配されている」ものとして定義されている、さらに、3. 資産は「過去の(取引又は)事象」の結果だとされているといった共通点がある。しかし、1. IASBでは企業が支配する「資源」に焦点が当たっているのに対し、FASBでは企業が支配する「将来の経済的便益」に焦点を当てている、2. IASBでは「過去の事象」としているが、FASBでは「過去の取引又は事象」としている、さらに、3. IASBでは将来の経済的便益の流入が「期待される」としているが、FASBでは流入の発生の「可能性が高い」としているなど、相違点も存在している。
このようなことから、スタッフは、資産の一般的定義から出発して、上述した5つの論点に対する結論を含めて、次のような暫定的な定義を提案した。

「企業の資産とは、企業に経済的便益を生み出す能力を持つ現存する経済的資源に対する現在の権利又は他のアクセスである。」
この定義には、次のような特徴がある。

  1. 「過去の事象」は、将来の事象を定義から除外するために導入されたものと考えられるが、「現在の権利又は他のアクセス」の導入により「過去の事象」という用語を保持する必要はない。
  2.  「経済的資源」は希少なものを指しており、消費、生産、及び交換といった経済活動の対象となるものである。
  3.  「現在の権利又は他のアクセス」を有していれば、「支配」をしているかどうかを要件として入れる必要はない。
  4.  IASB及びFASBの定義では、経済的便益の流入の可能性が高い(又は期待される)ことが資産の定義の一部を構成しているが、これは、定義の必須の構成要素とすべきではなく、定義では、「経済的便益を生み出す能力」があれば十分であり、「経済的便益の流入の可能性」は、資産として認識すべきかどうかという認識の問題又は資産にいくらの金額を付すかといった測定の問題として検討すべきである。
  5.  企業(フレームワークでは非営利事業体も対象としている)にとって、「経済的便益を生み出す能力」は、有利なキャッシュ・フローを生み出す能力と同じである。また、経済的便益を生み出す能力は、「単独又は他の資産との組み合わせ」で運営されるかもしれない。
  6.  「他のアクセス」には、他者のアクセスを制限することが含まれる。 議論の結果、この定義を更に検討することとされた。特に、「他のアクセス」(これは証券化等への対応)がどのような内容を指すかなどについて更に内容を詰める必要性が指摘された。また、資産の定義は、認識との関連も深いことから、認識の議論の際にも検討されることとされた。

(3) 報告企業

IASBやFASBのフレームワークの中では、「報告企業」についての記述はほとんどない。そこで、両者の統合されたフレームワークでは、この問題をフェーズDにおいて取り上げることとしている。今回は、フェーズDでの議論の方向性に関してボードメンバーの意見を聴取するため、スタッフの予備的リサーチの結果が示され、議論が行われた。予備的リサーチでは、既に報告企業に関する記述を持つ、オーストラリア、英国の会計基準及びFASBがかつて行なった報告企業に関するプロジェクトの成果が検討対象とされた。

議論すべき論点
RE1 法律上の企業又は経済的単位は、いつ報告企業となるか(例えば、支店対企業、事業対企業)。2つの質問がある。企業とは何か及び報告企業とは何か?
RE2 集約対分解-このうち最も有用な情報はどちらか?例えば、いつ法律上の企業をいくつかの報告企業に分割するべきか?連結すべきなのはいつか?
RE3 連結財務諸表の目的は?なぜ、ある地域では親会社単体財務諸表が要求され、他の地域では連結財務諸表が要求され、また他の地域では双方が要求されているのか?
RE4 支配は連結の正しい基礎か?

これらの論点に関するスタッフの予備的見解について議論が行われた。

議論の結果、以下の点について暫定的に合意された。

  1. 本プロジェクトでは、報告企業(単独の報告企業及び連結ベースでの報告企業の双方)の境界線を明確にする。すべての企業が報告企業である必要はないので、企業と報告企業との間で区別が行われなければならない。企業の境界は、法的な境界に限定されるべきではなく、したがって、法的な企業だけでなく、単独の所有権(sole proprietorship)、パートナーシップ、信託、組合(association)及びグループ企業のような他のタイプの組織、協定、又は構造も含むことになる。言い換えれば、報告企業は、企業のより広いプールから引き出されたものとなる。報告企業概念は、利用者の情報ニーズに基づかなければならない。すなわち、利用者の情報ニーズは、どの企業(企業の組み合わせ)が報告企業として識別されるかを確立するための重要な決定要素とならなければならない。
  2. ある地域では親会社単体財務諸表が要求され、他の地域では連結財務諸表が要求され、また他の地域では双方が要求されているが、親会社単体は報告企業となり得るかどうかについて、更に検討を行なう。
  3. 報告企業が連結財務諸表を作成するに当たり、その境界を決めるために支配概念を用いることになるが、この支配は、企業に対する支配と資産に対する支配で異なるのか、ジョイント・ベンチャーに対する共同支配、さらに「重要な影響力」(関連会社の判定規準のひとつ)との関係はどのようになるかといった問題をさらに検討する必要がある。また、2つの企業が共通支配下にある場合、支配概念だけでは一方が他方を支配しているということができず、それ以外の要素を考慮する必要があるかもしれない。支配概念に関する議論を進めるに当たって、さらに検討しなければならない論点として次のものが示されている。
議論すべき論点
RE5 支配とは何を意味するか?支配を定義するのは概念レベルか基準レベルか?
RE6 企業に対する支配と資産に対する支配との間に相違があるか?どちらを連結の基礎とするべきか?
RE7 ジョイント・ベンチャー-共同支配概念、企業又は資産に対する共同支配とは?「重要な影響力」についてはどうか?-これは支配概念と適合するか?
RE8 現在支配しているが、将来支配を失う可能性があることは問題となるか(例えば、他の株主の保有が分散しているという理由のみで現在支配を有している場合)。もし、現在は支配していないが、(例えばオプションの行使により)将来支配を獲得できる場合はどうか?

なお、RE 3では、財務報告の目的と連結の基礎概念に関連して、親会社説と経済的単一体説に関する議論が行われる予定である。例えば、財務報告の目的は、現在の普通株主又はその他の利用者グループの観点ではなく、企業の観点を反映すべきであるという議論を受け入れるのであれば、連結財務諸表は、(親会社のような)グループ内の特定の企業の観点、又は(親会社の普通株主のような)利用者の特定のグループの観点ではなく、企業(すなわちグループ)の観点を反映しなければならないということとなる


いずれにしても、報告企業を取扱うフェーズDは、今後継続して検討が行なわれる。

2.保険会計(解約・更新オプション及び生命保険会計モデル)

今回の保険会計に関する議論は、1. 解約・更新オプション及び2. 生命保険会計モデルの選択という2つについて行なわれた。

(1) 解約・更新オプション

ここでの根本的問題は、保険会社が保険契約者の行動を支配できない(保険料の支払いを強制できない)場合に、保険契約者が支払う予定の保険料やそれに対応する保険金の支払いに対する期待を将来キャッシュ・フローの見積りに織り込んでよいかという点にある。今回は、次のような論点について資料が準備されていたが、時間の制約もあり、(a)から(c)のみが議論された。しかし、今回議論が行われたテーマについては、議論のみが行われ、暫定的な合意は形成されていない。

  1. 長期保険契約と短期保険契約で固有の差異があるか。
    長期保険契約に保険契約者の解約オプションが付されているものと、短期保険契約に保険契約者の更新オプションが付されているものは、区別することが難しく、両者には、同じ会計処理が適用されるべきである。
  2.  保険会社は資産を認識できるか。
    保険契約の更新は、保険契約者のオプションであるため、更新に伴う将来の保険料の支払いを保険会社は強制することができない(保険契約者の行動を支配できない)。そのため、保険会社は、将来の更新による保険料を資産として認識することが難しい。ただ、これについては、顧客との関係を表象する無形資産が存在しており、これを資産として認識できるのではないかとの議論が交わされた。
  3.  保険契約を締結し保険料を受領した場合、保険会社は契約上の義務のみを有していることになるか、それとも、同時に契約上の権利も取得していると見るべきか。
    ここでの論点の1つは、資産が認識されるためには、権利は強制できるものでなければならないかどうかというものであった。もし、無形資産があると考えると、それは、強制力を持たないものであるとも考えられ、また、保険契約そのものから生じているものでもないとも考えられるといった議論が交わされた。
  4.  保険契約は、その構成要素に分解できると見るべきか、それともそれ以上に分解できない単位と見るべきか。
  5.  保険契約以外の契約に基づく企業の支配下にないキャッシュ・フローの取扱い。
  6.  保険契約者の行動を考慮しなければならないとする規準は、保険契約者の行動が保険負債を増加させるか、減少させるかに依存すべきか。

(2) 生命保険会計のモデル

生命保険会計のモデルとして、これまで保険ワーキンググループにおいて、次の4つのモデルが検討されてきた。今回、これら4つのモデルを2つ(現在価値アプローチ)に絞り込む提案がなされ、議論が行われた。

コストモデルアプローチ

(a) アプローチA:ロックインアプローチ(負債適正性テストを含む)
保険負債を将来キャッシュ・フローの現在価値として測定するが、その際に用いる仮定及び割引率は、契約当初のものが用いられる(負債適正性テストの場合を除いてそれらは変更されない)。新契約費は資産として認識され、合理的に償却される。また、契約当初に利益が認識されることはない。

(b) アプローチB:ロックインアプローチ(負債適正性テストと責準対応債券を含む)
アプローチAと基本的に同じアプローチだが、保険負債に対応する金融商品(債券のように固定金額の支払いを行なうもの)に対して償却原価法の適用を認めるアプローチ。このアプローチは、会計上のミスマッチの解消を目的とするが、結果的に経済的ミスマッチも測定に反映されないこととなる。

現在価値(current value)

(c) アプローチC:現在入口価値アプローチ
保険負債を将来キャッシュ・フローの現在価値として測定するが、その際に用いる仮定及び割引率は、直近のものが用いられる(仮定や割引率は、期末に新規の顧客に保険契約を販売する場合に適用されるものが用いられる)。新契約費は資産として認識されず、保険負債に含められる。また、契約当初に利益が認識されることはない。負債適正性テストは必要がない。

(d) アプローチD:現在出口価値アプローチ
保険負債を将来キャッシュ・フローの現在価値として測定するが、その際に用いる仮定及び割引率は、直近のものが用いられる(仮定や割引率は、期末に保険契約を第三者に売却する場合に適用されるものが用いられる)。新契約費は資産として認識されず、保険負債に含められる。また、契約当初に利益が認識されることになる。負債適正性テストは必要がない。

議論の結果、今後、現在価値アプローチ(アプローチCとD)に絞って検討を行なうことが暫定的に合意された。コストモデルアプローチでは、会計上のミスマッチの解消のために、経済的なミスマッチも表現できなくなることが懸念され、採用されなかった。

3.米国会計基準との短期統合化(法人所得税及びジョイント・ベンチャー)

今回短期統合化に関連して2つのテーマが検討された。

(1) 法人所得税

今回は、公開草案のドラフト作成作業中及び寄せられたコメントから出てきた問題点について議論された。論点は次の4つであった(後の2つは、コメントによるもの)。

  1.  会計上の簿価と異なる税務上の簿価を持つ資産・負債の取扱い
  2.  のれんの当初認識時に生じる繰延税金資産・負債の認識
  3. 税金の損益計算書及び資本への配分
  4. グループ内の資産の譲渡
1.会計上の簿価と異なる税務上の簿価を持つ資産・負債の取扱い

現行IAS第12号(法人所得税)では、企業結合以外の取引で、かつ、取引時に会計上及び税務上の損益に影響を与えない資産・負債の当初認識時に繰延税金資産・負債を認識することを禁止している(第15項及び第24項)。これまでの議論では、企業結合以外で取得された資産に対して当初認識時に税務上の簿価が取得原価と異なる場合には、もし税務上の簿価が公正価値と同じだった場合にいくらの金額になるかを計算して会計上の簿価とすることが暫定的に合意されている。仮に、税務上の簿価がゼロで公正価値が100の無形資産の場合、税率を40%とすると、当初認識時に、167の無形資産と67の繰延税金負債が認識される。今回の会議では、この取扱いを企業結合取引にまで拡大することがスタッフから提案され、それが暫定的に合意された。

2.のれんの当初認識時に生じる繰延税金資産・負債の認識

IAS第12号第15項では、のれんに対して当初認識に繰延税金負債を認識することを禁止している。ところが、2005年6月に公開された企業結合に関するIFRS第3号(企業結合)の改訂公開草案では、のれんの当初認識時に繰延税金資産を認識することを許容しており、繰延税金負債の認識のみを禁止する必要があるのかが議論された。議論の結果、のれんの当初認識時に繰延税金資産・負債の双方の認識を求めることが暫定的に合意された。

3.税金の損益計算書及び資本への配分

これは、当初認識時に資本で認識された繰延税金に適用された税率がその後変動した場合、現行IAS第12号では、資本の変動として把握されるが、米国財務会計基準書(SFAS)第109号(法人所得税の会計処理)では、資本ではなく、損益計算書で認識される取扱いとなっていることに関係する論点である。IASBは、米国会計基準との統合化を図るため、IAS第12号を米国会計基準に合わせるように変更することに暫定的に合意している(すなわち、事後の税率変更の影響は損益計算書で認識される)。これに対する反対のコメントが寄せられたため、改めて議論されたが、暫定合意の変更は必要ないとされた。

4.グループ内の資産の譲渡

連結グループ内で行なわれた取引の対象となった資産が、期末に連結グループ内に留まっている場合、連結手続の一環として、内部利益の消去が行なわれる。これに対応する繰延税金負債の認識は、米国会計基準では、実際に支払われた税金が繰延べられる(IAS第12号ではこの点が明確ではない)。ところが、これまでの議論では、この取扱いを変更し、消去された内部利益(一時差異に該当する)に対して資産を保有する企業に適用される税率をかけて、繰延税金負債を認識することが暫定的に合意されている。これに対して寄せられたコメント(現行米国会計基準の取扱いを継続すべきというもの)を受けて、改めて議論されたが、従来の暫定合意を変更する必要はないことが確認された。

(2) ジョイント・ベンチャー

IAS第31号(ジョイント・ベンチャーに対する持分)及びAPB第18号(普通株式投資の会計処理としての持分法)では、ジョイント・ベンチャーの会計処理を定めているが両者には相違がある。その主たるものは、IAS第31号では、持分法と比例連結の2つの選択肢を認めているが、APB第18号では持分法のみとなっている点である。この差異を解消するための短期統合化プロジェクトを取り上げることは、2004年4月のIASB・FASBの合同会議で合意されているが、その検討が今回から始まった。

今回、スタッフから両基準の差異として次の事項が示され、それぞれについて議論が行われた。

  1. IAS第31号では、持分法と比例連結の2つの選択肢を認めている。
  2.  ジョイント・ベンチャーの定義(IAS第31号では、ジョイント・ベンチャーの形態として、1. 共同支配の営業、2. 共同支配の資産及び3. 共同支配の事業体の3つが区分されているが、APB第18号では法人形態のみを扱っている。しかし、発生問題タースクフォース(EITF)等の解釈により範囲は、非法人形態や共同支配の資産にも拡大されている。)
  3.  対象範囲に対する例外
  4.  会計方針の統一
  5.  報告日の相違
  6.  ジョイント・ベンチャーに対する持分を超える損失の取扱い
  7.  表示と開示要求
  8.  その他

議論の結果、上記差異のうち、今回短期統合化の対象として2点を取り上げることが暫定的に合意された。すなわち、1. (a)で示した、ジョイント・ベンチャーの会計処理としてIAS第31号が認めている2つの選択肢(持分法と比例連結)のうち比例連結を削除すること、及び2. ジョイント・ベンチャーの定義に関連して、ジョイント・ベンチャー企業(joint venture entity)と共同契約の下にある資産・負債に対する未分割持分(undivided interests)との関係について明確にすることを取り上げることが暫定的に合意された(IAS第31号の改訂)。なお、米国公認会計士協会参考意見書(SOP)78-9では、”undivided interests”は、「2つ以上の企業が共同で不動産を所有し、所有権はそれぞれの持分の範囲で個別に保有される所有契約」と述べられている。共同契約の下にある資産・負債に対する未分割持分に対する米国の会計処理は、IAS第31号の共同支配の資産又は共同支配の営業の会計処理と類似している。

4.公正価値測定(FVM)

今回は、1. 2005年11月の教育セッションでの議論等から見出された論点の紹介、2. FASBのFVM基準書公開草案における公正価値の定義とIFRSにおける定義との相違点及び3. IASBの公正価値測定に関する会計基準の適用範囲について議論が行われた。なお、本プロジェクトは、2005年9月に検討対象として取り上げられ、今後FASBからの最終基準の公表(2006年第一四半期の予定)を待って、2006年4月までにIASBの公開草案の公表を行なう予定である。

(1)検討すべき論点

  1. FASBのFVM基準書公開草案における公正価値の定義とIFRSの定義との比較
  2. IFRSにおける既存の規定における公正価値測定の要求とFVM基準書公開草案における公正価値の定義との基準別の比較(IFRSの公正価値測定の要求がFVM基準書公開草案の公正価値概念に適合するかどうか)
  3.  FVM基準書公開草案における参照市場、相対市場、最も有利な市場という概念とこれらの概念の相互関係の議論
  4.  市場へのアクセス能力は、公正価値測定のすべてのヒエラルキーにおいて公正価値を見積る場合に考慮されるべきか又はレベル1でのみ考慮されるべきかに関する議論
  5.  公正価値目的と関連するので、取引コストと輸送コストの原価算入に関する議論
  6.  既存の基準では、しばしば公正価値が信頼性をもって測定可能な場合に公正価値で測定することを求めている。「信頼性をもって」ということを、ヒエラルキーの中である特定のレベルとして定義すべきか。

今回は、上記のうち(a)及び(b)が議論された。残りは、2006年1月及び2月に議論される予定である。

(2)公正価値の定義

現在のIASBにおける公正価値の定義及びFASBのFVM基準書公開草案における公正価値の定義は次の通りである。

IASB:
「取引の知識がある自発的な当事者の間で、独立第三者間取引において、資産が交換され得るか、又は負債が決済され得る金額」

FASB:
「資産・負債の参照市場における市場参加者間の現在取引で、資産の引渡しに対して受け取るか又は負債を引き渡すために支払われる価格」

両者には、次のような差異がある。

  1. 出口価格の交換:FVM基準書公開草案の公正価値の定義は出口価格による交換という前提が置かれているのに対し、IFRSの定義は出口価格の交換であることを明確に記述していない。しかし、IFRSは、資産については買呼値、負債については売呼値を用いることに言及しており、出口価格の交換と整合している。公正価値を見積る場合において、出口価格による交換という概念は、公正価値とその他の測定属性(例えば、現在取替原価や使用価値)とを区別する重要な特徴である。したがって、出口価値を強調する方が適切と考えられる。
  2.  参照市場の概念:IFRSでは、公正価値の最善の証拠は市場価格である点を強調している。しかし、ある状況では、資産・負債は、複数の異なる市場において異なる価格で売却することができる。参照市場という概念は、企業を資産・負債を評価するための適切な市場に導くことを意味する。企業を適切な市場へ導くことによって、基準の適用における明確性と首尾一貫性が確保されることになる。したがって、参照市場を明確に強調する方が適切と考えられる。

議論の結果、参照市場概念については今後議論することとされているので、参照市場の議論を条件に、FASBのFVM基準書公開草案における公正価値の定義をIASBも採用することが暫定的に合意された。

(3)公正価値測定会計基準の対象範囲

今回、スタッフは、IFRSの中で、公正価値による測定を求めているすべてのIFRSについて、公正価値による測定目的に適合するかどうかについて検討を行なった結果を提示した。これらを検討した結果、公正価値による測定を求めているすべての基準は、本プロジェクトの検討対象とすべきことが暫定的に合意された。

5.IAS第32号の改訂(公正価値でプットできる金融商品)

このプロジェクトでは、現在金融負債とされている次の4つの場合について、IAS第32号(金融商品:表示及び開示)の資本と負債の区分を改訂することが検討されている。今回は、下記4つの取扱いが議論され、後述する暫定合意に達したので、これらに基づいて公開草案を準備することがスタッフに指示された。

  1. 企業の純資産の比例持分の公正価値でプットできる金融商品(プッタブル金融商品)
  2. 清算が確実なときに、企業の清算時に保有者に純資産の比例持分の支払い求める権利を与える金融商品(存続年数が限定されている企業に影響する)
  3. 清算が保有者のオプションに依存しているときに、企業の清算時に保有者に純資産の比例持分の支払い求める権利を与える金融商品(パートナーシップに影響する)
  4. 非支配持分が公正価値でプットできるか、又は清算時に払い戻されるもの(清算が確実な場合又は清算が保有者のオプションに依存しているときのいずれの場合でも)であるときの連結財務諸表上の非支配持分の表示

(1)公正価値でプットできる金融商品

2005年9月会議では、公正価値で企業にプットできる金融商品が資本として区分されるためには、次のような条件を満たしている必要があることが暫定的に合意されていたが、これが今回改めて確認された。

  1.  金融商品が、金融商品の保有者に、企業に対して当該金融商品を企業の純資産の比例持分の公正価値で買戻し又は償還することを要求できる権利を付与しており、持分金融商品の定義を満たしている。
  2.  企業が清算される場合には、当該金融商品が、保有者に企業の純資産の比例持分に対する権利を付与する。
  3.  企業の純資産の比例持分に対する金融商品の権利は、清算以前又は清算時において制限されたり、保証されていない。
  4.  金融商品は、企業の純資産に対する請求権としては最劣後の区分である。
  5.  金融商品は、発行時にその時点の公正価値で発行される。
  6.  最劣後の区分に属する金融商品は、すべて公正価値でプットできる金融商品である。

これに加えて、次の点が今回暫定的に合意された。

  • 公正価値の決定に当たって、パートナーシップや非公開企業のような企業の場合、IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の適用ガイダンスAG69項からAG82項にある方法(活発な市場がある場合には建値、そうでない場合評価技法等を用いる)によって公正価値を測定することが困難な場合がある。このような場合には、計算式を用いて公正価値を測定することを認める。
  • 資本に区分される企業にプットできる金融商品を対象とするワラントは、資本とせず、金融負債とする。

(2)企業の清算時に保有者に純資産の比例持分の支払い求める権利を与える金融商品

IAS第32号第25項では、偶発条項付金融商品で、1. 清算の時にのみ現金又はその他の金融資産による決済ができ、かつ、2. 清算が発行者及び保有者の支配しない偶発事象の結果としておこる場合には、資本とすることができる取扱いが示されている。そのため、上記(ii)及び(iii)で示した存続年数が予め決められている企業やパートナーシップの場合には、清算が発行者又は保有者の支配下にあるため金融負債として処理しなければならない。

議論の結果、これらの金融商品(企業の清算時に保有者に純資産の比例持分の支払い求める権利を与える金融商品)は、いつでも純資産の比例持分の公正価値で買戻し又は償還することができるプッタブル金融商品とその性質は変わらないため、プッタブル金融商品と同様に資本に区分することが妥当だとされ、これらを資本として区分できるように金融負債の定義を変更することが暫定的に合意された。なお、存続年数が予め決められている企業の場合、清算時に保有者に純資産の比例持分の支払い求める権利を与える金融商品は、当該企業の最劣後の金融商品でなければならない。また、存続年数には制限を設けない(存続年数の長短で区別する理由がないため)。このほか、パートナーシップの場合には、清算を請求できる保有者のオプションは、すべての金融商品に平等に付与されていなければならないこととされた。さらに、これら金融商品を対象とするワラントの取扱いについても議論されたが、ワラントに関しては、修正を行わないことが暫定的に合意された。この結果、これら金融商品を対象とするワラントは、資本に区分されることとなる。この取扱いは、プッタブル金融商品を対象とするワラント(金融負債に区分)とは異なることとなる。

(3) 連結財務諸表上の非支配持分の取扱い

現在非支配持分として連結財務諸表上資本の部に表示されているものの取扱いはここでの対象外である。ここで議論されているのは、上記(i)から(iii)までの金融商品、すなわち、プッタブル金融商品、存続年数が予め決められている企業及びパートナーシップである。これらを連結財務諸表上どのように表示するかについて議論が行われた。

議論の結果、これら金融商品は、子会社の単体財務諸表では、資本として区分するための要件を満たせば資本として表示できることが暫定的に合意された。また、これらの連結財務諸表上での取扱いについては、これらは、連結グループという観点からは、最劣後とならないと見る立場に立って、金融負債とすることが暫定的に合意された。この立場は、連結グループには、支配持分と非支配持分という2つの最劣後の持分が存在しており、非支配持分は連結グループの純資産の一部を構成する子会社の純資産(連結グループの純資産の構成要素)に対してのみ請求権を有していると見る。そうすると、連結グループには、企業の純資産の比例持分の公正価値でプットできる金融商品(非支配持分)とそのような請求権を持たない金融商品(親会社の株主の持分=支配持分)の2つが存在することになり、プッタブル金融商品は最劣後の金融商品とはならなくなる。そのため、資本に区分するための要件を満たさないこととなるため、プッタブル金融商品は、連結財務諸表上は金融負債として表示されることになる。

6.SMEの会計基準

2005年11月に引続き、認識及び測定に関して簡素化を検討すべき項目及び簡素化案に関する議論が行われた。今回議論された項目及び暫定的な合意は次のとおりである。

IFRS 検討項目 対応
IAS37 引当金 さらにスタッフが検討を行なうが、基本的には簡素化の必要はない。
IAS38 開発費の資産認識 特に簡素化の必要はない。
IAS39 金融商品:実効金利 スタッフからは、実効金利法に代えて定額法償却を採用する提案がなされたが、簡素化の必要はないとされた。
IAS39 金融商品:公正価値測定 金融資産を市場価格のあるものとそれ以外の2つに分けて、公正価値測定の簡素化を図ることが暫定的に合意され、スタッフにその検討が指示された。
IAS16,
IAS38
再評価モデル 再評価モデルの採用をSMEに認めるが、その場合には、IAS第16号及び第38号を参照することとし、SME基準自体には再評価モデルを組み入れない。
IAS16 構成要素の減価償却 SME基準では、IAS第16号を参照しないが、構成要素ごとの減価償却に関する規定をSME基準の中に組み入れる。
IAS16 残存価値及び耐用年数の毎期末での見直し 特に簡素化の必要はない。
IAS40 再測定の頻度 a.原価モデル(減価償却を行なう)と公正価値モデルを維持する。
b.公正価値モデルでは、毎期公正価値による再測定を求めるが、その方法を指定しないことによって簡素化を図る。
IAS40 IAS第16号の再評価モデルの選択適用 原価モデルにおいて、IAS第16号の再評価モデル(これは、IAS第40号の公正価値モデルとは異なる)を採用することを選択肢として認めることが検討されたが、このオプションは否定された。したがって、IAS第40号が許容している原価モデルか公正価値モデルかの選択しか認められない。
IAS7 キャッシュ・フロー計算書 SMEに対してもキャッシュ・フロー計算書を財務諸表の1つとして作成することを求める(簡素化の必要はない)。
IFRS1 IFRSの初度適用 SMEの個別基準の内容を詰めてからここでの取扱いを決定する。
IFRS3 パーチェス法の適用 取得した資産・負債や無形資産の測定を公正価値で行なうことに対する簡素化の必要はない。
IFRS5 売却予定の非流動資産 特に簡素化の必要はない。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

本会議の報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より議論の概要を入手し掲載したものである。