IASB(国際会計基準審議会)の第51回会議が、2005年11月15日から18日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合(円卓会議の結果報告)、2. 業績報告、3. 連結及びSPE、4. 米国会計基準との短期統合化(借入費用の資産化、セグメント及び1株当たり利益)、5. 中小規模企業(SME)の会計基準、6. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況(国際会計基準(IAS)第29号(ハイパーインフレーション)とIAS第34号(中間財務諸表))及び7. テクニカル・コレクション案についての検討が行われた。このほか教育セッションでは、米国財務会計基準審議会(FASB)が進めている公正価値測定プロジェクトについてのFASBスタッフによる説明及び保険プロジェクトに関連して再保険の実態についての専門家による説明が行われた。IASB会議には理事13名が参加した(ブルンズ氏が欠席)。本稿ではこれらの議論のうち、6. を除く議論の概要を紹介する。
今回は、10月と11月に米国及び英国で開催された円卓会議の状況についてスタッフから報告が行われた。米国では30名、英国では30名の参加があり、いろいろな論点について議論が行われた。その概要は次の通りである。なお、公開草案に対するコメントは、10月末に締め切られ、約250通を受領したが、分析は終了していない。
2005年10月会議において、スタッフから、主として欧州の作成者から1計算書方式の包括利益計算書の導入に対する反対が強いことから、2計算書方式(包括利益計算書を2つに分割し、第一の計算書は、現在の損益計算書と同様最終尻を当期純利益とし、第二の計算書にその他の包括利益の変動を記載し、その末尾で包括利益を表示する方式)を選択肢として導入することが提案され、議論が行われた。しかし、10月会議では、結論を出すまでに至らなかったため、今回改めてこの問題が議論された。
議論の結果、多くのボードメンバーは、1計算書方式を支持するものの、作成者からの強い要望を受け、2計算書方式を選択肢として追加することに暫定的に合意した。この決定を受け、FASBに対して、今後のFASBの対応について検討を依頼することとされた。
今回は、連結範囲の決定に当たり、企業が行使した判断の開示をどのようにすべきかについて議論が行なわれた。すなわち、ある企業が他の企業を支配しているかどうかの決定に当たって、判断が行使された場合、どのような判断が行われたかについて開示を求めるための「開示原則」の開発に関する議論が行われた。
現在、本プロジェクトでは、支配力基準に基づく連結モデルを開発している。そこでは、ある企業が他の企業を支配していると判定できるための特徴を明確にしようとしているが、しかし、例えば、ある数値基準のようなものを導入して、それを超えるかどうかで支配の有無を判定するような「明確な規準」を示すことは考えられていない。そのため、このモデルの下では、支配しているかどうかの判定のために判断を行なう必要があり、同一状況下であっても企業の判断によっては異なる結論が導き出される可能性がある(特に、議決権の過半数といった法的な根拠がある状況ではない事実上の支配(de facto control)の判定の場合)。
スタッフからは、判断を行使して支配の有無を判定する場合には、2つの種類の開示が必要であるとの提案がなされた。1つは、投資家が連結の範囲を決めるために行なった決定の妥当性を判断するのに役立つ情報の開示であり、もう1つは、当該決定のインパクトを評価するための情報の開示である。また、これらの情報開示は、支配があると判定して、連結範囲に含めた場合の判断のみならず、判定の結果、連結範囲から除外した場合の判断についても開示することが考えられている。さらに、このような開示は、連結範囲に入れるべきかどうかの判定を行なった年度だけでなく、それ以降の年度においても毎期開示すべきであるとされている。 議論の結果、スタッフ提案について大筋で合意が成立したが、しかし、支配モデルの内容が検討中である現時点で開示に関して暫定的な決定を行なうことは時期尚早であるとされた。
今回は、1. 借入費用の資産化、2. セグメント開示基準の名称の変更及び3. 1株当たり利益の計算の3つについて議論が行われた。
2005年10月会議では、IAS第23号が認めている適格資産に係る借入費用を発生時に費用処理するという会計処理を削除し、適格資産に係る借入費用はすべて資産化することを求めることが暫定的に合意された。それと同時に、IAS第23号と米国財務会計基準書(SFAS)第34号(金利費用の資産化)との会計処理の統合化を図るためにそれぞれの基準に手を加えることが必要とされるその他の項目にどのようなものがあるかについて、更に検討することがスタッフに指示されていた。今回これを受けて、次のような項目が統合化の必要な項目としてスタッフから示された。これらについて議論を行なった結果、SFAS第34号の改訂が必要とされた事項については、FASBに対して、SFAS第34号の改訂を打診することとされた。
IAS第23号 | SFAS第34号 | スタッフの提言 | ||
---|---|---|---|---|
資産化対費用化 | 2つの選択肢 | 資産化 | IAS第23号を改訂して資産化のみとする | |
借入費用の定義(借入費用に含まれる項目) | 為替差額 | 含まれる | 含まれない | 更に検討 |
付随費用の償却 | 含まれる | 明確に含まれていない | 更に検討 | |
公正価値ヘッジからの損益 | 含まれない | 含まれる | 更に検討 | |
適格資産の定義 | 期間が「相当長い」こと | 含まれる | 含まれない | IAS第23号を改訂 |
独立したプロジェクトとして製造されていること | 要求されない | 要求される | SFAS第34号を改訂 | |
持分法投資 | 含まれない | 含まれる | SFAS第34号を改訂 | |
利益獲得活動に使用される資産 | 要求されない | 要求される | SFAS第34号を改訂 | |
測定 | 稼得された収益との相殺 | ある場合には許容される | 限定された場合のみ許容される | 相殺を禁止するように両基準を改訂 |
資産化レートの決定 | 柔軟 | 柔軟 | 同一の用語を用いるように両基準を改訂 | |
資産化の開始 | 特定の借入 | 例外有り | 例外有り | 例外を削除するように両基準を改訂 |
資産化の一時停止 | 一時的な遅延 | 建設過程の必須な一部分である必要がある | 建設過程の必須な一部分である必要はない | SFAS第34号を改訂 |
開示 | 会計方針 | 要求される | 要求されない | IAS第23号を改訂(資産化のみが許容される会計方針となるため開示は不要) |
用いた資産化レート | 要求される | 要求されない | SFAS第34号を改訂 |
IAS第14号(セグメント情報)を廃止し、新たにSFAS第131号(企業のセグメント及び関連情報に関する開示)で採用されているマネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の開示基準を作る作業が続いている。今回は、公開草案ドラフトに対してボードメンバーから寄せられた2つのコメントについての議論が行われた。 第1点目の論点は、公開草案のタイトルであり、従来「セグメント」としてきたものを「オペレーティング・セグメント(Operating Segment)」と変更するかどうかであり、そのように変更することが合意された。これに伴い、改訂公開草案本文中の表現もすべて「オペレーティング・セグメント」と改訂されることとなった。
第2点目の論点は、基準本文の冒頭にある「目的」を「核となる原則」に変更するかどうかである。本基準の核となる原則を冒頭に示すこととし、これにふさわしい表題とする必要があることから変更することが合意された。
1株当たり利益情報に関するIAS第33号(1株当たり利益)の規定に合わせてSFAS第128号(1株当たり利益)を改訂する作業がFASBにおいて進んでおり、FASBは、SFAS第128号の改訂のための公開草案を2005年9月末に公表した。しかし、その中で、FASBは、オプションやワラントがある場合における希薄化後1株当たり利益の計算に用いられる「金庫株方式(treasury stock method)」に関してIAS第33号とは異なる方法を採用することを決め、それを公開草案の中で提案している。今回の会議では、このFASBの新提案の内容が議論された。なお、IAS第33号では、金庫株方式という用語は用いられていないが、オプションやワラントがある場合における希薄化後1株当たり利益の計算に用いられる方式は同じである。
論点は次の通りである。すなわち、FASBの公開草案では、オプションやワラントの行使によって受領される金額(assumed proceeds)の定義が変更され、権利行使や決済によって消滅する負債簿価を「受領される金額」に含めることが提案されている。例えば、従業員にオプションとして当期中に1,000株を企業が付与しており(行使価格CU100)、オプションは、従業員の選択により現金又は株式で決済される場合、IFRS第2号(株式報酬制度)の下では、負債は、オプションの負債要素の公正価値として認識される。期首の負債の公正価値をCU11,000、期末の公正価値をCU12,000であるとし、さらに、当該株式の当期中の平均市場価格がCU110であったとする。このような場合、現行基準及び新たな提案では、次のように計算が行われる。
【現行基準】
【新提案】
議論の結果、IASBもFASBと同様な改訂を行なうことを暫定的に決定した。
なお、この取扱いを転換金融商品(convertible instruments)にも拡張するかどうかが議論された。転換金融商品は、資本となる部分及び負債となる部分から構成され、IFRSの下では、資本部分は資本として区分表示されることとなっている(米国会計基準では両者とも負債として表示)。そのため、転換金融商品の転換によって、負債部分が消滅し資本が増えることとなる。この処理は、オプションやワラントの権利行使の場合と変わらないため、IASBは、転換金融商品に対しても「金庫株方式」の適用を拡張することが暫定的に合意された。ただし、この拡張を転換社債(convertible debt)のみに限定するか、転換金融商品全般に拡大するかについては、更に検討することとされた。また、FASBは、転換金融商品に対しては、「金庫株方式」の適用を拡張しないこととしているが、この決定をFASBが再検討することが期待されている。
これまで、SMEワーキンググループや認識及び測定における簡素化のアンケート、さらに2005年10月における円卓会議において、認識及び測定の関する規定の簡素化に対する意見を聴取してきたが、今回、これらを受けて、簡素化を検討すべき項目及び簡素化案がスタッフから提示され、議論が行われた。今回議論された項目及び暫定的な合意は次のとおりである。今回すべての項目についての議論が終了しなかったので、引き続き来月も同様な議論が行われる予定である。
IFRS | 検討項目 | 対応 |
---|---|---|
IAS2 | 棚卸資産の原価測定 | 特に簡素化の必要はない。 |
IAS11 IAS18 |
工事進行基準の工事契約及びサービス収益への適用 | 特に簡素化の必要はない。 |
IAS2 | 繰延税金資産の認識 | SME財務諸表の利用者は短期的な支払能力の評価に興味があるため、支払税金のみを捉える方法と開示を組み合わせるなどの簡素化が必要との指摘あり。簡素化案の検討を行う。 |
IAS17 | リース | すべてのリースをオペレーティング・リースとする簡素化は考えないが、次の方法の可能性を検討する。
|
IAS19 | 給付建年金及びその他の退職後給付負債 | 給付建年金に対して掛金建年金の会計処理を適用するような簡素化は行わないが、次のような簡素化を検討する。 a.数理計算の頻度の簡素化 |
IAS27 | 子会社の連結 | 連結財務諸表作成を免除するような簡素化は行わない。 |
IAS28 IAS31 |
関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する持分法の適用等 | 関連会社に対する投資には、持分法又は公正価値測定(公正価値の変動は損益計算書で認識)を適用する。ジョイント・ベンチャーに対しては、IAS第31号が認める方法(持分法又は比例連結)を適用する。 |
IAS36 | のれんと無形資産の減損 | のれんや耐用年数を決められない無形資産に対して減価償却を認めるような簡素化は行わない。減損の兆候がある時点で減損計算を行う方法を検討する。また、毎期末の減損計算は求めない。 |
IAS36 | その他の減損 | 上記以外のすべての非金融資産の減損については、次のような減損の兆候がある場合に減損を認識する方法を検討する。
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現在のIASBのデュー・プロセスでは、IASBがIFRSを改訂しようとする場合、独立した大きなプロジェクトとして検討するか、それとも、IFRSのある項目に限定した比較的小さなプロジェクトとして検討するか以外に方法がなく、このため、IFRSの規定の文言の一部がIASBの意図を適切に反映しないことが判明した場合に、その部分だけを改訂することが適切にできなくなっている。これを解決するため、通常のIFRSの新設・改訂のための手続とは異なる改訂プロセスを導入して、IFRSの誤謬等(これを総称して「テクニカル・コレクション」と呼ぶ)を改訂できるようにすることが検討されてきた。
今回の会議では、1. テクニカル・コレクションに該当するかどうかを判断することが困難な場合がある点及び2. 現行のIASBのIFRS設定のための手続の中に緊急の改訂の場合には、通常90日の公開期間を短縮して30日の公開期間による基準の改訂が行える規定がある点を踏まえて、テクニカル・コレクションという概念の導入及びそれに対する新たなプロセスを設ける必要があるかどうかが議論された。議論の結果、現行のIASBのIFRS設定のための手続を活用することで、IFRSの誤謬等の改訂を行えることから、テクニカル・コレクションという概念の導入及びそれに対する新たなプロセスを設けることは断念された。
以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)
本会議の報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より議論の概要を入手し掲載したものである。