ASBJ 企業会計基準委員会

第50回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第50回会議が、2005年10月18日から20日の3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回は、米国財務会計基準審議会(FASB)との合同会議を翌週(10月24日及び25日)に控えた会議であったため、議論は行われたが、暫定的に合意された事項は少なかった。なお、筆者は、オーストラリアで開催された「IFRS―地域方針フォーラム」(オーストラリアとニュージーランドの政府機関が主催し、アジアの11カ国の主として会計基準設定主体を招待して行われた会議)に出席したため、FASBとの合同会議には出席できなかった。そのため、本稿では、IASB会議の議論を中心に記述する。しかし、必要に応じて、FASBとの合同会議での合意事項についても簡単に触れることとする。今回の会議では、1. 概念フレームワーク、2. 収益認識、3. 連結及びSPE、4. 米国会計基準との短期統合化(借入費用の資産化)、5. 企業結合(2005年11月の円卓会議に向けての議論)、6. 業績報告、7. 金融商品(金融商品会計基準の将来の方向性及び公正価値の変動の区分表示)、8. 国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)の活動状況(国際会計基準(IAS)第19号(従業員給付)のアセット・シーリングと最低拠出要求制度との関連)及び9. テクニカル・コレクション案についての検討が行われた。このほか教育セッションでは、IFRICが公開草案を公表したサービス・コンセッションに関して受領したコメントによって指摘された問題点の概要説明及び保険プロジェクトに関連して生命保険契約における解約・更新に関する会計専門家による説明が行われた。IASB会議には理事14名全員が参加した。本稿ではこれらの議論のうち、1. から4. まで、及び6. と7. での議論の概要を紹介する。

1.概念フレームワーク

今回は、1. 7月から議論しているフローチャートに基づく会計情報の質的特性間の関係、2. 異なる企業(企業規模、上場・非上場及び株主が分散しているか特定者によって保有されているかといった企業の違い)によって意思決定情報の質的特性は異なるかどうか及び3. 財務報告の目的の公開草案作成についての議論が行われた。

(1)質的特性間の関係

今回も引き続きフローチャートに基づき、質的特性間の関係をより明確にするための議論が行われた。今回は、2005年9月の議論を踏まえて、さらに精緻化されたフローチャートが示された(別図表参照)。IASB会議では、翌週のFASBとの合同会議を控えて変更点に関する議論が行われたものの、合意の形成は行なわれなかった。スタッフからは、フローチャートを基礎にしたこれまでの議論を踏まえて、ディスカッション・ペーパー又は公開草案へ向けての原案作成にかかりたいという提案がなされている。また、現在議論しているフローチャートは、会計基準設定主体のためのものと位置づけ、財務諸表作成者のための質的特性間の関係については将来改めて議論の上作成することとされてた。

(2) 目的及び質的特性と企業のタイプとの関係

財務報告の目的及び質的特性を議論する中で、異なる企業(企業規模、上場・非上場及び株主が分散しているか特定者によって保有されているかといった違い)によって、財務報告の目的又は意思決定に有用な情報の質的特性に差異があるかどうかを確認する必要があるとの認識からこの点について検討することがスタッフに指示されていた。これを受けて、スタッフの検討結果が報告され、議論が行われた。 スタッフからの報告は、財務報告の目的又は意思決定に有用な財務報告の質的特性は、企業の規模(大企業か小企業か)、上場・非上場、及び株主が広く分散しているか、限られた株主によって保有されているかといった相違によって異なるものを適用する必要ないというものであった。IASB会議では、議論が行われただけであったが、FASBとの合同会議では、スタッフ提案が暫定的に合意された。なお、スタッフは、どのように質的特性を適用するかに関しては企業のタイプによって相違があるかもしれないという点を指摘している。

(3) 財務報告の目的の公開草案作成

財務報告の目的に関する部分については一応の議論が終わっている(2005年4月及び7月に議論された)ことから、この部分の公開草案ドラフトが提示され、これに関連して、ボードメンバーに対していくつかの問題が提起された。それらのうち、主なものを紹介する。なお、IASB会議では、議論が行われただけであったが、FASBとの合同会議では、スタッフに対して次のような点についてそれぞれ以下に示す指示が行われた。

  1. FASBの財務会計概念書第1号には、財務報告の環境状況や財務情報の特性及び限界を扱っている部分があるが、この部分は有益と考えられるので、付録として公開草案に加えるべきかどうか。
    今回はそのような付録の作成は必要ないと判断された。
  2. ブラックレター・グレーレターの様式を使用するかどうか。
    国際財務報告基準(IFRS)で用いているように、重要な概念を強調するために、その部分を太字(ブラックレター)で示す様式を用いるかどうかが議論され、このような形で重要性を強調するのではなく、それとは異なる方法(例えば、文章の外側にヘッドラインを示す、又は、要約をつけるなど)を検討すべきことがスタッフに指示された。
  3. 財務諸表の目的とするか財務報告の目的とするか。
    概念フレームワークで扱う対象は、財務諸表のみならず、財務諸表以外で開示される情報(例えば、経営者の説明(Management Commentary))も包含するように拡大すべきという観点から表題を財務報告の目的とすることが暫定的に合意された。
  4. 概念フレームワーク見直しプロジェクトの最初の公表資料は、財務報告の目的と会計情報の質的特性となるが、これらは、ディスカッション・ペーパーとするのではなく、公開草案として公表することが合意された。

図表: 意思決定に有用な財務報告に対する基準設定への質的特性の利用

2.収益認識

今回は、1. 2005年9月会議で合意された合意事項を更に精緻化するための議論、2. 設例の検討及び3. 収益の定義の改訂についての議論が行われた。IASB会議では、議論が行われただけであったが、FASBとの合同会議では、いくつかの点について、暫定的な合意が形成されている。それらのうち、1. に関連する事項について紹介する。
FASBとの合同会議では、2005年9月会議で合意された事項を更に精緻化するための次のような議論が行われ、いくつかの点について合意が成立した。

(a)「履行義務(performance obligation)」の対象となる事象に、資産の使用権や代金の返還権といったもの(これらを総称して「その他の権利」としている)を加え、「履行義務とは、報告企業が顧客に対して有する法的に強制できる義務で、当該義務の下では、企業は商品、サービス又はその他の権利を提供する責務を負っている。」という定義とすることとされた。また、履行義務の消滅によって収益が生じるとともにそれに伴う費用が発生するが、両者はグロスで表示すべきことも合意された。

(b)複数の履行義務を内包する契約を構成要素(これを「会計単位(unit of account)という))に分離するための規準の改善が合意された。新たな規準では、「顧客にとっての効用(utility to a customer)」がある場には、それを1つの履行義務として分離することができると考え、「顧客にとっての効用」を次のように定義している。
「商品、サービス又はその他の権利は、次のいずれかの場合に、「顧客にとっての効用」を持っている。

  1. 売手が、商品、サービス又はその他の権利を分離又はオプションとして顧客の参照市場において売却できる場合、又は、顧客が商品、サービス又はその他の権利を参照市場において分離して再販売できる場合
  2. 商品、サービス又はその他の権利が、商品、サービス、その他の権利又は特定事象が発生した場合にはその他の対価を提供するよう待機状態でいることを報告企業に義務付けるような権利を顧客に与える場合」

(c)1つの契約に複数の履行義務(会計単位)が内在している場合には、顧客との契約額(これを「対顧客対価額」という)をそれらの会計単位に配賦する必要がある(そうすることによって、契約発生時収益の発生を防ぐことができる)。そのような配賦は、「顧客にとっての効用」を持つ商品、サービス又はその他の権利を単独で顧客に売却する場合の価格に基づいて行うこととされている。この配賦の基礎となる価格は、最も信頼できる証拠を参照して見積もることとされており、その際のヒエラルキーが、2005年9月のIASB会議において次のように合意されているが、今回、この内容が改めて確認された。さらに、スタッフに対して市場の証拠がない場合にどのように単独価格を見積もるかについて更に検討することが指示された。

  1. 活発な市場で当該企業自身が当該構成要素に対して賦課する直近の販売価格
  2. 活発な市場で他の企業(例えば競争者)が当該構成要素に対して賦課する直近の販売価格
  3. 活発でない市場で当該企業自身が当該構成要素に対して賦課する直近の販売価格
  4. 企業の内部の仮定やデータを反映したインプットに基づいて用いられる販売価格の見積り

(d)2005年9月のIASB会議において、履行義務は、顧客との契約額(対顧客対価額)で測定すべきであるという原則に対して、他のIFRSで公正価値による測定が求められている負債(例えば、金融負債)に対しては、例外を設けることが合意されていた。しかし、無条件待機債務に対しては、IASBは現在改訂提案中のIAS第37号改訂公開草案(非金融負債)との関係で、公正価値での測定を容認することとしていた(この見解を採用すると、一つの契約に無条件待機債務しか含まれていない場合には、対顧客対価額と公正価値との差額が契約発生時収益として認識される場合があることになる)。一方、FASBは、すべての履行義務は、対顧客対価額で測定すべきとしており、無条件待機債務の測定を巡って両者の見解が相違していた。今回の合同会議では、この違いを今調整するのではなく、双方の見解を収益認識の公開草案で示して、コメントを求めるようにすることが暫定的に合意された。また、これに若干関連するが、これまでの議論の中で、1つの契約に複数の履行義務が含まれている場合で、それらのうちに活発な市場価格がある履行義務がある場合には、活発な市場において成立する価格(公正価値)がある履行義務に対しては、対顧客対価額を配賦するのではなく、当該公正価値で測定を行うこととし、その結果として契約発生時収益を認識してもよいのではないかという代替案が提示されている。今回、このような方向の議論は、対顧客対価額を配賦するモデルの検討が終了した後に検討することが合意された。

3.連結及びSPE

今回は、1. IAS第27号(連結及び分離財務諸表)における支配力基準の解釈、2. オートパイロット(自動操縦)に設定された特別目的会社(SPE)の連結の判定における支配基準と便益基準の検討及び3. 潜在的議決権を保有しているため連結対象となる場合の連結子会社の損益の配分の3点について議論が行われた。

(1)IAS第27号の支配力基準の解釈

IAS第27号の支配力基準をめぐって、IAS第27号は、過半数の持株比率の子会社のみの連結を要求しており、持株比率が50%未満の場合には連結対象となることはないという誤った解釈が一部の大手会計事務所から示されており、これによって、持株比率が50%未満の場合の支配の判定に当たってIAS第27号の適用が混乱した状態にある。そのため、極めて異例なことではあるが、今回の会議で、持株比率が50%未満の場合であっても、それ以外の株主が小さな持分に分散されている場合には、当該50%未満の所有者による事実上の支配が行われていると考えられる場合があり、そのような場合には連結対象とすべきことを改めて確認し、それをIASBのウエッブサイト及びインサイトで公表することによって、実務上の解釈の混乱を解消することが決議された。

(2)オートパイロット―SPEの連結の判定における支配基準と便益基準の検討

SPEを含む連結の範囲の決定のための統一的な判定規準を作るための議論が行われているが、今回は、SPEのオートパイロットという特徴をどのように理解するかが取り上げられた。具体的には、SIC(解釈指針)第12号でSPEの連結に当たり適用されているリスク・リウォードモデル(risk and reward model)とIAS第27号が採用している支配モデル(control model)との間に対立があることが議論された。

ここでいうオートパイロットとは、ある事業体の営業又は財務方針がすでに設立時に決定されており、投資家が当該方針を変更する能力を有していない仕組みを指している。また、これまでの連結範囲をめぐる議論では、支配を有しているためには、次の3つの能力を有している必要があるとされている。

  1. 支配力規準(事業体の営業又は財務方針を指示できる能力)
  2. 便益規準(事業体の生み出す便益にアクセスできる能力)
  3. 当該便益を増大、維持又は防御するために支配力を行使できる能力
  1. IAS第27号の支配モデル
    支配モデルの観点からオートパイロットという仕組みを見ると、2つの解釈ができる点が議論された。第一の見方は、SIC第12号の見方で、オートパイロットという仕組みを作り上げること自体が、支配が存在していた証拠だと見るものである。この場合には、オートパイロットを作り上げた事業体が(SPEの営業又は財務方針を指示できる能力を制限することができたという点から)支配を有しており、当該SPEを連結すべきということになる。しかし、この考え方では、すでにオートパイロットとして設立された後に持分を取得した場合には当該購入者はSPEに対する支配を有していないことになり、難点があることが指摘された。第二の見方は、オートパイロットが機能するということ、すなわち、日常的に営業方針又は財務方針を決定しなくてもSPEが機能することは、オートパイロットである事業体の連結を判断するに当たっては、支配力規準を考慮する必要がないことを示唆しているという見方である。この考え方では、便益規準に重点をおいて連結の範囲を決定していくことになる。今回の議論では、第二の見方に基づいて更に検討を行うことがスタッフに指示された。
  2. SIC第12号のリスク・リウォードモデル SIC第12号では、さらに、事業体がSPEを支配していることを示す状況として、大半の便益を得ることができる権利を有しており、したがってそれに伴うリスクにさらされている場合が例示されている(いわゆるリスク・リウォードモデルの考え方が導入されている)。この考え方と、50%未満でも支配は達成できるという最近のIASBの考え方には、ずれがある。すなわち、IASBは、支配力規準を重視した考え方を導入しようとしており、50%未満の持株比率でも支配が達成できると考えるので、支配に伴う便益がいつも大半の便益となることにはならない。このため、最近のIASBの考え方とSIC第12号のリスク・リウォードモデルとの間の考え方のずれを調整するために更に検討を行う必要があることが認識された。

(3)潜在的議決権を保有しているため連結対象となる場合の連結子会社の損益の配分

潜在的議決権は、支配を有しているかどうかの決定には重要であるが、子会社の損益の配分は、現在の保有持分比率(潜在的議決権を顧慮しないベース)で行うことが、すでに2005年9月の会議で合意されているが、これに基づき、今回は、具体的にいくつかのケースを取り上げ、それらの場合にどのように会計処理されるかを示した具体例が示された。今回示された例示を充実させるため、さらにいくつかの例示を追加すること及びそれらの会計処理に内在する取扱原則を明確にすることがスタッフに指示された。

4.米国会計基準との短期統合化(借入費用)

2004年4月に開催されたIASBとFASBとの共同会議で既に借入費用の会計処理(IAS第23号)に関する短期統合化プロジェクトを開始することが決定されているが、今回初めての議論が行われた。IAS第23号では、借入費用を発生時に費用として認識する方法のほか、適格資産(意図した使用又は販売が可能となるまでにかなりの期間を必要とする資産)の取得、建設又は生産に直接配賦できる借入費用を資産の一部として資産化することが「認められる代替処理」として認められている。一方、米国財務会計基準書(SFAS)第34号(金利費用の資産化)では、適格資産の取得期間に関連する金利費用については、資産化することが強制されている(発生時の費用認識は認められない)。このような両者の違いを統合化しようというのが本プロジェクトの目的である。

議論の結果、IAS第23号が認めている適格資産に係る借入費用を発生時に費用処理するという会計処理を削除し、適格資産に係る借入費用はすべて資産化することを求めることが暫定的に合意された。その上で、今回、IAS第23号とSFAS第34号との会計処理の統合化を図るためにそれぞれの基準に手を加えることが必要とされる項目にどのようなものがあるかについて、更に検討することが指示された。

5.業績報告

このプロジェクトは、セグメントA及びBの2つに分けて進められている。このうち、セグメントAでは、次のような内容を含んだ公開草案を2005年中に公表するスケジュールで作業が進められている。

  • 「1組の財務諸表(期首貸借対照表、期末貸借対照表、当期利益及び包括利益計算書、資本変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書)」の定義の明確化
  • 「当期利益及び包括利益計算書」の導入
  • 比較財務諸表の表示年数の明確化(最低限2年間の1組の財務諸表)

今回の会議では、公開草案を確定するに当たって結論を出すべき事項として次の点についてIASBの意見が求められ、それぞれに対して下記のような合意に達した。

(a)「包括利益」の名称変更
包括利益には、認識された資産及び負債の変動のみが反映され、信頼ある測定ができないなどの理由で認識されない資産・負債の変動は反映されないことになるので、包括利益は、「包括的」ではなく用語として不適切であるなどの指摘がある。これを受けて、包括利益に代えて、「認識収益及び費用(recognised income and expense)」という用語を用いることが合意された。なお、この用語は、その使用を強制されるわけではなく、企業はこれ以外の用語を用いることも認められる。

(b)主要財務諸表の名称の変更
それぞれの財務諸表の名称を次のように変更することが合意された。なお、この名称は、その使用を強制されるわけではなく、企業の判断でこれ以外の名称を用いることができる。

  • 財政状態計算書(statement of financial position:従来は貸借対照表)
  • 資本変動計算書(statement of changes in equity)
  • 認識収益及び費用計算書(statement of recognised income and expense:従来は包括利益計算書)
  • キャッシュ・フロー計算書(statement of cash flows:従来はcash flow statement)

(c)「当期純利益」に該当する英語の変更
これまでの本プロジェクトの議論では、当期純利益を示す用語として「net income」を用いてきたが、現行IAS第1号(財務諸表の表示)で用いられている「profit or loss」を用いることが合意された。

(d)資本金及び繰越剰余金以外の剰余金の合計額の財政状態計算書又は資本変動計算書上での表示
その他の包括利益(例えば、為替換算調整勘定、キャッシュ・フロー・ヘッジに関連するヘッジ手段の損益の繰延額及び売却可能金融資産の公正価値の変動額)の合計額は、財政状態計算書又は資本変動計算書上で表示しても情報価値が少ないと考えられるので、そのような表示を求めないこととされた。

(e)その他の包括利益の税効果額の開示
その他の包括利益を構成する各項目に対応する税効果額(例えば、売却可能金融資産の評価損益に係る税効果額)の開示は、その他の包括利益合計額に対する税効果額を一括表示するのではなく、各項目ごとに税効果額を開示するようにする。

(f)発効日、経過措置及び公開期間
発効日は、2007年1月1日以降開始する事業年度とし、早期適用を奨励する。また、経過措置は設けない。公開草案の公開期間は、120日とする。

なお、今回、スタッフから、主として欧州の作成者から1計算書方式の包括利益計算書の導入に対する反対が強いことから、2計算書方式(包括利益計算書を2つに分割し、第一の計算書は、現在の損益計算書と同様最終尻を当期純利益とし、第二の計算書にその他の包括利益の変動を記載し、その末尾で包括利益を表示する方式)を選択肢として導入することが提案され、議論が行われた。IASB会議では結論を出さず、FASBとの合同会議で結論を出すことが予定されていたが、合同会議へのIASB理事の出席が少なかったため(3名が欠席した)、結論を出すことは、2005年11月会議に繰り越された。

6.金融商品

今回は、金融商品に関する会計基準を改善するための長期的な方向性及び公正価値の変動の内訳をどのように表示すべきかの2点について議論が行われた。IASB会議では、議論が行われただけであったが、FASBとの合同会議では、いくつかの点が決定されている。

(1)長期的な金融商品会計基準の方向性

今後、現行の金融商品会計基準の改訂を考えるに当たって、金融商品会計基準の長期的なあり方を踏まえておく必要があるとの認識に基づいて、2005年4月のFASBとの合同会議で初めてこの問題が議論された。その時点では次の2つの方向性を探ることが暫定的に合意されていたが、今回、スタッフから、金融商品会計基準の統合化を図るための究極の目的は、金融商品の全面公正価値測定であることを明確にするよう要請を受けて議論が行われた。

  1. 金融商品会計基準の根本的な見直しを行う。この代替案の下では、金融商品のすべてを公正価値で測定する(全面公正価値測定)方向での検討を行なう。
  2. 包括的な測定フレームワーク(ただし全面公正価値測定ではない)を持つモデルを用いることによって、金融商品の測定に関する混合測定属性モデルの改善を図る。

今回のIASB会議では、金融商品という表面上の形体に基づいて会計処理を決めるべきではなく、それらの保有目的に基づいて会計処理を行なうべきであるとの意見も出たが、(採決は行われなかったものの)多くのボードメンバーが全面公正価値測定を支持しているように見受けられた。ただし、全面公正価値測定は究極の目的であり、それを採用するには、解決しなければならない多くの問題があることから、全面公正価値測定の方向性を打ち出しても、このことが直ちに公正価値測定を全面的に採用することにはならないというのがボードメンバーの共通認識である。 IASB・FASBの合同会議では、金融商品会計基準の改善のために次の3点が暫定的に合意された。

  1. 長期的な会計基準の目的は、すべての金融商品を公正価値で測定することである(全面公正価値測定)。
  2. ヘッジ会計の簡素化を図る(ヘッジ会計の縮小又は廃止)。
  3. 認識の中止に関する会計処理の統合化を図る。

また、金融商品会計基準改善の目的や全面公正価値測定を目指す理由などを記述した文書を作成し、それぞれのウエッブサイトで公表することがスタッフに指示された。

(2)公正価値の変動の内訳表示

公正価値で測定される金融商品の公正価値の変動を損益計算書でどのように表示するか(金利、為替レートといった公正価値の変動要因に区分して表示するかどうか)を検討することは、2005年4月の両者の合同会議で決定され、それを受けて、2005年9月に議論が行われている。

IASB会議では、この問題について簡単に議論が行われただけであったが、FASBとの合同会議では、金融商品の種類ごとに公正価値の変動合計や現金の授受に関する開示を求めるとともに、公正価値の変動要因に区分する際にどのように判断したかについても開示を求めることが暫定的に合意された。

以上

本会議の報告は、会議に出席された国際会計基準審議会理事である山田辰己氏より議論の概要を入手し掲載したものである。