ASBJ 企業会計基準委員会

第49回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第49回会議が、2005年9月20日から22日の3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回は、1. 概念フレームワーク、2. 収益認識、3. 連結及びSPE、4. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税、1株当たり利益及びセグメント)、5. 新規議題(公正価値の測定及び排出権)、6. IAS第21号(外国為替レート変動の影響(外貨建の自社持分金融商品で決済される契約の資本と負債の区分の取扱い))、7. IAS第32号の改訂(公正価値でプットできる金融商品)、8. 金融商品(公正価値の変動の区分表示)及び9. 検討議題のタイムテーブルの見直しについての検討が行われた。このほか教育セッションでは、国際鑑定基準委員会による国際鑑定基準の説明が行なわれた。IASB会議には理事14名全員が参加した。本稿ではこれらの議論のうち、1. から5. までの概要を紹介する。

1.概念フレームワーク

今回は、1. 7月に引続きフローチャートに基づく会計情報の質的特性間の関係についての議論及び2. 今後の本プロジェクトで取扱う議題(「報告企業」及び「予測情報(prospective information)」というテーマ)の検討順位を繰り上げるかどうかについての議論が行われた。検討議題については、結果として、従来のとおりとすることとなったので、ここでは、会計情報の質的特性間の関係についてのみ報告する。

会計情報の質的特性である「目的適合性(relevance)」、「表現の忠実性(faithful representation)」、「比較可能性(comparability)」、「理解可能性(understandability)」、「重要性(materiality)」の相互関係についての議論が7月に引続き行われた。今回は、7月の議論を受けて改訂されたフローチャートが示され、これに基づき次のような議論が行われた。

  1. フローチャートの4番と5番に示されている目的適合性と表現の忠実性との間のトレードオフ関係がどのようになるのかが明確ではなく、さらにこの関係を明確にすべきである(常に目的適合性が表現の忠実性に優先することでよいか)。
  2. 重要性の位置づけが不明確であり、この点を更に検討すべきである(重要性は、質的特性の間の関係を示すものではあるが、質的特性そのものではない)
  3. フローチャート方式では、質的特性の階層関係(ヒエラルキー)がかえって不明確になる恐れがある。
  4. 会計基準設定主体と財務諸表作成者が同じフローチャートを用いることが適切でない場合が考えられ、会計基準設定主体が会計基準の作成のために用いるフローチャートを別に作る必要があるのではないかとの指摘があり、スタッフがこの点を検討することとなった。

図表: 基準設定及び意思決定に有用な財務報告構築への質的特性の利用 

2.収益認識

本プロジェクトでは、当初、収益を契約に伴って企業の純資産が増加した時点で認識しようとする考え方(資産・負債アプローチに基づくアプローチ)を採用することが検討されていた。このアプローチでは、契約に伴う履行義務を当該企業が卸売市場(business to business market)で入手できる公正価値(法的解放金額(legal layoff amount))で測定しようとするため、契約当初において、顧客との間で成立している販売価格(顧客対価額(customer consideration amount))と法的解放金額との差額を収益(これを「契約発生時収益(selling revenue)」という)として認識することが提案されていた。このアプローチに懸念を表明するボードメンバーも多く、2005年6月の会議では、「契約発生時収益」を認識しないアプローチを採用することが暫定的に合意された。すなわち、このアプローチでは、収益を契約に伴って企業の純資産が増加した時点で認識しようとする点では当初の資産・負債アプローチと同じであるものの、売り手が顧客に対して負っている履行義務を「履行価値(performance value)」(物品又はサービスが顧客に販売され得る金額)という新しい考え方で捉えようとする。ここでは、履行義務を「履行価値(顧客との契約金額)」で測定するため、契約当初において「契約発生時収益」が認識されることはない。今回は、この新たなアプローチについて、次に示すような更なる検討が行われた。なお、「履行価値」は、今回から「顧客ベース価値(customer-based value)」という用語に置き換えられている。

  1. 単一の契約は、異なる時点で解放される複数の履行義務から構成される。そして、それぞれの履行義務が解放された時点で収益が認識される。例えば、製品保証の付された販売契約の場合、製品の引渡しによって製品に係る収益が認識され、製品保証については履行義務から解放されるのに従って、保証期間にわたって収益が認識される。
  2. 単一の契約は、顧客の立場から複数の履行義務に分解されるが、履行義務に分解するときの規準は、「顧客にとっての効用(utility to a customer)」があるかどうかである。「顧客にとっての効用」は、履行義務の対象となっている成果物(製品、サービス又は利用権等)が、顧客が決めた目的に適合するか又はある目的のために役立つものであることを意味している。「顧客にとっての効用」を持っている履行義務の単位で1つの契約を細分することになる。
  3. 今後「顧客にとっての効用」を識別するための規準を作成していくことになる。そのようなものとして、今回は、1. 構成要素が売り手によって独立して売却できるか、又は、顧客が受取った構成要素を更に売却できるかどうか、及び、2. 売り手が製品やサービス等を提供することに対して無条件の待機状態にあるかどうかといったものが議論された。今後更にこの問題を議論する予定である。
  4. 1つの契約に内包される複数の履行義務は、当該契約の契約総額(顧客対価額)を配分することによって測定される。この配分は、「顧客ベース価値(customer-based value)」に基づいて行なわれる。「顧客ベース価値」は、「顧客にとっての効用」を持つ成果物(製品、サービス又は利用権等)を単独で顧客に売却する場合の価格をいう。「顧客ベース価値」と「顧客対価額」との差額は、当該契約を構成する各履行義務に比例的に配分することになる(そうすることで、「契約発生時収益」が生じることを回避することができる)。
  5. 他のIFRSが無条件待機債務及びそれによる負債に対して公正価値による測定を求めている場合には、「顧客ベース価値」と「顧客対価額」との差額は、公正価値で測定する履行義務には配分せず、公正価値で測定されない履行義務に比例的には配分される(したがって、「契約発生時収益」が認識されない)。
  6. 「顧客ベース価値」は、最も信頼のできる入手可能な証拠に基づいて測定されなければならないが、その際のヒエラルキーは、次のようなものが考えられている。
    1. 活発な市場で当該企業自身が当該構成要素に対して賦課する直近の販売価格
    2. 活発な市場で他の企業(例えば競争者)が当該構成要素に対して賦課する直近の販売価格
    3. 活発でない市場で当該企業自身が当該構成要素に対して賦課する直近の販売価格
    4. 企業の内部の仮定やデータを反映したインプットに基づいて用いられる販売価格の見積り

3.連結及びSPE

今回は、1. 資産に対する支配と企業に対する支配、2. 潜在的議決権を保有している場合の潜在的議決権に係る会計処理及び3. 本プロジェクトの今後の予定の3点について議論された。ここでは、2. にある潜在的議決権を保有している場合の潜在的議決権に係る会計処理に絞って議論の内容を紹介する。ここで議論されたのは、潜在的議決権によって他の企業を支配している場合、潜在的議決権に対して損益がどのように帰属させられるのかという問題である。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 潜在的議決権は、支配を有しているかどうかの決定には重要であるが、子会社の損益の配分や会計処理は、現在の保有持分比率(すなわち、潜在的議決権を考慮しないベース)で行なう(潜在的議決権が権利行使されたことを仮定して、その権利行使後の比率を用いて配分することはしない)。
  2. オプションの対象となっている子会社の株式は、権利行使が行なわれるまでは非支配持分として認識する。
  3. 連結するかどうか及び支配を取得する投資の取得価格は、支配を獲得した時点で確定する。したがって、保有オプションは、権利行使を行なっていなくても、支配した時点でその価値は固定されると考え、それ以後の公正価値の変動は反映されない。
  4. オプションの権利行使が行なわれた時点で、その対象となっている株式は、非支配持分から支配持分に振替える。
  5. オプションがアウトオブザマネーであっても、オプションが権利行使可能であれば、その期間中の損益は、連結財務諸表に反映される。

4.米国会計基準との短期統合化

今回は、法人所得税、1株当たり利益及びセグメント情報の3点について議論が行われた。このうち、法人所得税及びセグメント情報についての議論を紹介する。

(1)法人所得税

今回の会議では、1. 2005年7月の会議で、「特別控除(special reduction)」に対する取扱いと「不確実な税務上のポジション(uncertain tax position)」に関する取扱いとの間に首尾一貫した取扱いを行なうべき類似性があるかどうかを検討することが、スタッフに指示されており、その分析結果が議論された。また、2. 不確実性に関する開示及び3. 繰延税金資産を認識する際に将来の回収可能性を控除する方法についても議論が行われた。なお、不確実な税務上のポジションとは、税務上の便益を財務諸表上で便益又は税金費用からの控除として認識するものの、このような税務上の便益の認識が税務当局によって否定される可能性があり、税務上の取扱いが確定していない状況を指している。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 申告した税務上のポジションに関する不確実性は、追加の税金を支払う待機負債(stand ready liability)生じさせると見る。
  2. 待機負債の認識に当たっては、確からしいもの(発生の可能性が50%超)のみを認識するという敷居を設けないこととする。
  3. カレントタックスの場合、不確実性は、金額が不確定という形で現われ、これに係る待機負債は、期待値を用いて測定する(これは、現在公開草案として公開されているIAS第37号の改訂提案の内容を先取りするものである)。IAS第37号が規定する最も起こる可能性が高い金額(決済価値)による測定はここでは採用しない。
  4. 繰延税金の場合、不確実性は、繰延税金の金額及び適用される税率の2つ形で現われる。待機負債は、金額及び適用税率の双方の不確実性を反映した期待値を用いて測定する。税率は、期末現在において実質的に効力を持っている税率が用いられる。所得のレベル(累進税率に影響)及び所得のタイプ(適用する税率に影響)については、調整を行えるが、それ以外の要素を予想に織り込むことは認めない。
  5. IAS第37号の改訂公開草案では、IAS第12号(法人所得税)を改訂し、税額に対する不確実性に関する開示を求めることとしている(不確実性の記述及び認識されている税額及びタイミングに関する予想される財務上の影響)。これらの開示は、引き続き求めていく。
  6. 繰延税金資産の回収可能性をどのように反映するかについては、1. 積極的アプローチ(affirmative approach)と減損アプローチ(impairment approach)の2つがある。前者は、将来の税務便益が実現できることが確からしい(起こる確率が50%超)範囲で繰延税金資産を認識するというアプローチで、IAS第12号が採用している。後者は、すべての将来減算一時差異に対して一律に繰延税金資産を認識し、繰延税金資産が実現しない可能性が50%超の場合に評価引当金を設定するというアプローチで、SFAS第109号(法人所得税の会計処理)が採用している。今回、両者のアプローチの統一を図るため、SFAS第109号の減損アプローチを採用する。

なお、(c)から(e)の3点は、米国会計基準の特別控除に関する解釈指針案と異なることになるので、この問題を2005年10月のFASBとの合同会議で議論することとされた。

(2)セグメント情報

IASBは、2005年1月の会議で、IAS第14号(セグメント情報)を米国会計基準に合わせるためのプロジェクトを短期統合化プロジェクトの1つとして取上げることに合意した。そして、統合化は、米国財務会計基準書(SFAS)第131号(企業のセグメント及び関連情報に関する開示)で採用されているマネジメント・アプローチに基づいて、IAS第14号を改訂する方向で行うこととされた。

今回は、2005年7月にボードメンバーに提示された改訂公開草案ドラフトに対して寄せられたコメントから全体で議論すべきとされた問題についての議論が行われた。また、改訂ドラフトに対して日本の企業会計基準委員会(ASBJ)から寄せられたコメントについても議論が行われた。なお、改訂公開草案ドラフトは、短期的に統合化を実現するため、SFAS第131号の文言をそのまま利用し、これにIFRSとするために必要な修正を加えるという形で準備されている。
議論の結果、次のような点が暫定的に合意された。

  1. セグメント情報開示の目的のパラグラフの表現を見直す。
  2. 本IFRSの対象範囲には、次の事業体を含むこととする。
    • 公開市場で証券を発行するために証券委員会に財務諸表を登録しているか、登録する予定の事業体
    • 広範な外部者を対象に忠実義務を負って資産を保有する事業体(銀行、保険会社、証券会社、年金ファンド、ミューチュアルファンド及び投資銀行等)
  3. 改訂公開草案ドラフトの結論の背景には、SFAS第131号の結論の背景を付録として添付することとする。

改訂公開草案ドラフトに対しては、ASBJから次のような点について問題提起があり、30分以上の時間をかけてその内容が検討された。

  1. セグメント情報開示で、独自の指標を採用する場合には、財務諸表利用者に誤解を与えないように説明を追加する工夫が必要である。
  2. マネジメント・アプローチによって開示されるセグメント別収益・損益は、公正な会計基準に基づく損益計算書と首尾一貫性を大きく欠く場合があり、例えば、セグメント情報の売上高と損益計算書の外部売上高が大きく異なる場合には、セグメント別に損益計算書ベースの外部売上高の情報を追加開示させる必要がある。
  3. マネジメント・アプローチでは、資産に関する情報が、最高経営意思決定者が用いるセグメント情報に含まれていない場合には、開示されないことになる。収益性を評価するために、資産情報を必ず開示するようにする必要がある。
  4. 最高経営意思決定者が用いるセグメント情報に複数ある場合に、最もセグメント数の少ないセグメント情報が開示される恐れがある。
  5. 開示セグメント決定に関する集約規準に関するガイダンスを示す必要がある。
  6. マネジメント・アプローチでは、内部報告をそのまま外部報告として開示するため、機密保持の観点から企業が不利益を被る恐れがあり、そのような場合、開示を回避できるような配慮が必要である。

このほか、所在地別セグメントの開示に当たっては、有形固定資産や無形資産のみならず、流動資産も含んだ総資産を開示するようにしてはどうかという点もASBJから指摘されている。

議論の結果、(a)については、一般的な開示の留意点として既に規定があり、そこでカバーされているので、敢えて規定を設ける必要はないとされ、(b)、(c)及び(f) は、マネジメント・アプローチに対する修正提案であるが、このような例外を設けることには合意が得られなかった(マネジメント・アプローチは修正すべきでないとの意見が多数を占めた)。また、(d)や(f)の懸念に対しては、米国での導入時にも同様の議論があったものの、その後の経験からこのような懸念に対応する必要はないという意見が多数を占めた。(e)のガイダンスについては、FASB及びカナダ会計基準審議会(AcSB)が公表している集約規準の例も参考として検討したが、有効性のある集約規準を示すことは難しいため、ガイダンスを示すことは既にIASBとして断念している。所在地別セグメントの開示に当たり総資産を開示するようにしてはどうかという点については、改訂公開草案ドラフトのコメントを求める際に、そのような考え方の是非を問うことを検討することとされた。

5.新規プロジェクト

今回新たに、公正価値測定及び排出権取引の2つのプロジェクトを取り上げることが決定された。

(1)公正価値測定

このプロジェクトは、公正価値をどのように算出するかに関する会計基準を作ろうというものであり、企業がどのような資産及び負債に対して公正価値を測定属性として用いるべきかどうかは取扱わない。したがって、現行IFRSの中で、公正価値による測定が求められている場合、そこで用いるべき公正価値は、このプロジェクトによって作られるIFRSによって算出されることになる。米国財務会計基準審議会(FASB)では、2004年6月にこの問題に関する公開草案を公表しており、2005年末までには最終基準が公表される予定である。
今回の議論では、1. FASBとの統合化の推進が必要なこと、2. IFRSの中で求められている公正価値による測定や開示に当たり公正価値の計算方法を統一的に明確にすることが必要なこと及び3. 企業結合第2フェーズの最終基準とできるだけ同じ時期に本プロジェクトの最終基準が公表される必要があること等から、次のアプローチを採用することが暫定的に合意された。 。

  1. IASBは、FASBの最終基準をそのまま用いて公開草案として公表し、コメントを求めることとする。ただし、この公開草案によって修正されるIFRSの一覧表を公開草案の付録として収録する。また、FASBの最終基準の文言は修正せずに公表し、IASBがFASBの結論と違う見解を持っている場合には、「コメント募集」の中でこれを示し、コメントを求めることとする。
  2. IASBは、公開草案の公開までに、FASBの最終基準の内容を検討し、「コメントの募集」に含めるべき見解をまとめることとする。その後、コメントを受けてFASBの最終基準を吟味し、必要に応じて修正を加える等してIASBとしての最終基準を作成する。
  3. コメントで要請があれば、必要に応じて適用ガイダンスを作成する

(2)排出権取引

排出権取引については、2005年からキャップアンドトレード市場が開設され、取引が活発に行なわれることが予想されたため、IASBは、2004年12月に、現行IFRSを前提とした解釈として、IFRIC3を承認・公表した(このときは、排出権に関する問題をIFRS自体の改訂も視野に入れて包括的に検討するのではなく、現行IFRSを排出権取引に適用するためにどのようにしたらよいかという視点での解釈を行なった)。しかし、IASBは、IFRIC3は、現存のIFRSの解釈としては妥当であることを認めながらも、キャップアンドトレード市場が当初予想されたよりもゆっくりとしたペースで整備されつつあり、更に、EFRAG等からの懸念が表明されていることもあり、2005年6月に、排出権取引の実態をより適切に会計処理するため、IAS第38号や第39号の改訂を前提とした検討をすべきであるという点で一致し、現行IFRIC3を廃止することとした。

このような経緯を経て、今回排出権取引に関する会計処理を取扱う新たなプロジェクトを取り上げることが合意された。新たなプロジェクトでは、排出権取引を適切に会計処理するため、現行のIFRSをどのように改訂したらよいかという観点から検討を行うこととされており、排出権取引を対象とした新たなIFRSの設定を目指すものではない。なお、本プロジェクトでの検討は、別途進めているIAS第20号(政府補助金)の改訂(短期統合化)プロジェクトと密接に関連するため、まず、はじめに、政府から公正価値より低い価格で付与された排出権に関する問題を取扱うことが暫定的に合意された。このようにIAS第20号の改訂公開草案の作成を優先し、これが終了した後に、排出権に関する残りの部分が検討される予定である。


以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)