ASBJ 企業会計基準委員会

第48回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第48回会議が、2005年7月19日から21日の3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回は、1. 概念フレームワーク、2. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税)、3. 連結及びSPE(特別目的会社)、4. 金融商品ワーキンググループでの議論、5. 将来の議題、6. ヨーロッパにおけるIFRSに関するセミナー(ロードショウ)についての検討が行われた。このほか教育セッションでは、採掘産業に関するリサーチプロジェクトの現状の報告、中小規模企業(SME)の会計基準(英国における状況の紹介)及び保険会計(米国財務会計基準審議会(FASB)の保険プロジェクトの現状及び生命保険の概要に関する解説)の3つが取上げられた。IASB会議には理事14名全員が参加した。本稿ではこれらの議論の概要を紹介する。

1.概念フレームワーク

今回は、1. 受託責任(stewardship)及び会計責任(accountability)の意味と財務報告の目的との関係及び2. 会計情報の質的特性間の関係について議論が行われた。

(1)受託責任及び会計責任

2005年4月に初めて「財務報告の目的」を議論した際に、財務報告の目的は、利用者が経済的な意思決定を行う際に利用できる情報の提供(意思決定有用性)であるが、経営者の会計責任又は受託責任を評価することに資するための情報を提供するという目的は、この意思決定有用性目的の中に包含されるサブ概念と考えられるため、財務報告の目的から受託責任又は会計責任に関する記述を削除してもよいのではないかとの意見が出た。そこで、受託責任又は会計責任の意味を明確にし、受託責任又は会計責任を概念フレームワークの中で財務報告の目的として明示すべきかどうかについて検討することがスタッフに指示されていた。
今回、スタッフの検討結果が報告され、これに基づいて議論が行われた。議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 経営者の受託責任や会計責任を評価するための情報提供は、財務報告の目的として明示的に記載しない。
  2. 受託責任は、経営者が企業の資源の管理と保管に対して責任を持つのみならず、それを有効かつ利益が出るように活用する責任をも有していると定義する。
  3. 上記(b)の結果、統合化されたフレームワークにおいては、投資、与信及び類似の資源配分意思決定を行なうために有用な財務情報(財務報告の主要目的)は、経営者の受託責任の評価のためにも有用な財務情報を含んでいる点を明確にする。

(2)会計情報の質的特徴

これまでの質的特徴の議論では、「目的適合性(relevance)」、「表現の忠実性(faithful representation)」、「比較可能性(comparability)」、「理解可能性(understandability)」、「重要性(materiality)」などの個々の特性について議論してきた。今回は、これら質的特性間の相互関係についての議論が行われた。特に、意思決定有用性のある財務報告を構築するために、質的特性をどのように用いるべきかについて明確にする必要がある点が認識され、このような明確化を行うことがスタッフに指示された。
このような質的特性の間の関係を示すものとして、これまでは、質的特性の階層関係(ヒエラルキー)又はバーゲニング関係(質的特性間のトレードオフ)を示すことによって、どの質的特性が他の質的特性に優先するかといった関係や2つの質的特性のいずれかを優先させれば他の質的特性は犠牲にされるといった関係の明確化を図ってきた。しかし、このアプローチには、ある特定の問題に対して異なる質的特性が異なる取扱いを示している場合、両者の相違をどのように解決していくかについて明確な指針を示すことができないという批判があり、異なる質的特性をどのように適用するかをプロセスとして示すアプローチの方がよいのではないかという指摘がある。このような視点から、今回次の図表に示すようなチャートが示された。これは、まったく新たな試みであり、この図表を巡って、図表をどのように理解するか、さらに、相互関係の位置づけを改善すべきであるといったいろいろな議論が行われた。ここでは、議論の内容は紹介しないが、今回の議論を踏まえて、今後、スタッフは、この図表の改善を行なう予定である。また、FASBもこの図表を用いて議論する予定である。

図表: 基準設定及び意思決定に有用な財務報告構築への質的特性の利用

2.米国会計基準との短期統合化(法人所得税)

税効果会計を扱うSFAS第109号(法人所得税の会計処理)とIAS第12号(法人所得税)との間の統合化を図るための作業が継続されているが、今回は、1. 税務基準額(tax base)に関するガイダンス及び2. 特別控除(special reduction)の取扱いの2つについて議論が行われた。

(1)税務基準額に関するガイダンス

1.税務基準額及び一時差異

2004年6月の会議において、税務基準額及び一時差異の定義が次のように暫定的に変更されている。

「税務基準額は測定属性(measurement attribute)である。過去の事象の結果として税務目的のために現行の税法を現在の資産、負債又は持分金融商品に適用して認識される金額である。このような資産、負債又は持分金融商品は、財務報告目的上は、認識されることもされないこともある。」

「一時差異は、資産又は負債の税務基準額と財務諸表上で報告された金額との差額であり、それらが回収又は決済された場合に税務上控除又は加算される金額となるものである。財務諸表で認識されているある事象は税務基準額を持たない。ある収益は課税を免除されており、ある費用は損金算入されない。税務上の帰結をもたらさない事象は一時差異を生み出さない。」

このときには、さらに、税務基準額を説明する設例をIAS第12号に適用ガイダンスとして追加することが合意されている。すなわち、税務基準額は各国の税法に依存して決定されるが、税務目的のための資産、負債又は持分金融商品(すなわち、税務貸借対照表)という考え方は分かりにくいので、これらは、税法を適用して税務貸借対照表で認識される会計処理のための金額であることをより明確にするために、税務基準額を説明する例示を含んだ適用ガイダンスを作成することが必要とされた。

2.ガイダンス

今回、税務基準額に関する次のようなガイダンスを追加することが暫定的に合意された。

  1. 税務貸借対照表をどのように作るかに関する適用ガイダンス。
  2. 使用するか売却するかによって利用可能な税額控除額が異なる場合における税務基準額に関するガイダンス(この取扱いに関する原則を基準本体に置き、例示を適用ガイダンスに置く)。
  3. 使用するか売却するかによって適用可能な税率が異なる場合おける税率に関するガイダンス(この取扱いに関する原則を基準本体に置き、例示を適用ガイダンスに置く)。
  4. 資産を個別に売却するか事業の一部として売却するかによって利用可能な税額控除額が異なる場合における税務基準額に関するガイダンス(この取扱いに関する原則を基準本体に置き、例示を適用ガイダンスに置く)。
  5. 繰延税金の計算手続に関するガイダンス。

ガイダンスとは別に、IAS第16号(有形固定資産)、第38号(無形資産)及び第40号(投資不動産)に対する改訂が予定されている。これは、IAS第12号の例外規定の廃止と関連している。IAS第12号では、企業結合ではなく、かつ、取得日に会計上の利益にも課税所得にも影響しない取引から生じる資産又は負債の当初認識時に生じる一時差異(当初取得時において会計上の簿価と税務上の簿価との間に生じる差異)に対しては、当初認識時に繰延税金資産・負債を認識することを認めていない(当初認識免除)。さらに、取得時以降においてもこの一時差異に対して繰延税金資産・負債の認識を認めていない。IASBとFASBは、2004年4月の共同会議で、このような例外規定を廃止することとした。すなわち、当初認識時に会計上の簿価と税務上の簿価との間に生じる差異(一時差異)に対して、繰延税金資産・負債を認識することを求めることを決定した。新たな考え方では、当初認識時には、資産の公正価値を会計上の簿価とし、繰延税金資産・負債は、当該公正価値(会計上の簿価)と税務上の簿価との差額に税率をかけたものとして認識する。さらに、1. 会計上の簿価と2. 繰延税金資産・負債の合計額と3. 実際の対価支払額との差額(1. +2. -3. )を購入割引引当金(繰延税金資産に対する評価勘定)として認識するという考え方を採用した(購入割引引当金は、関連する税務便益が実現する時点で損益計算書に振り替えられる)。このような決定の結果として、IAS第16号、第38号及び第40号の規定を改訂することが暫定的に決定された。

(2)特別控除

2005年3月のIASB会議で特別控除についての議論が行われたが、そこでの議論の結果、特定の国に存在する特別控除制度をそのままIAS第12号に導入することは適切ではないが、特別控除に関する一般的な原則をIAS第12号で示すことは妥当とされ、FASBにおいてもSFAS第109号を改訂して導入できるような一般的な原則を両者で開発することとされた。現行のSFAS第109号第231項及び第232項では、特別控除による税務便益の認識に関するガイダンスが含まれているが、特別控除に関する一般的な原則は示されておらず(例が示されているのみ)、その特徴は、特別控除の条件として将来の履行義務等を求めている点にある。

スタッフの検討の結果、特別控除に関する一般的な原則を見出すことができなかったため、特別控除に関する規定をIAS第12号に取り入れることは妥当ではない(特別控除については触れない)という提案がスタッフから示された。これを基に議論が行われたが、スタッフに対して、更に次のような検討を行なうことが指示された。

  1. 特別控除に対する取扱いと「不確実な税務上のポジション(uncertain tax position)」に関する取扱いとの間に首尾一貫した取扱いを行なうべき類似性があるかどうかを検討すること。不確実な税務上のポジションとは、税務上の便益を財務諸表上で便益又は税金費用からの控除として認識するものの、このような税務上の便益の認識が税務当局によって否定される可能性があり、税務上の取扱いが確定していない状況を指している。
  2. IAS第20号(国庫補助金)をIAS第41号(農業)で示されている国庫補助金に関する規定を基に改訂することとされているが、ここで採用されているアプローチが、特別控除に適用することができるかどうかを検討すること。IAS第41号では、何の条件も付されていない国庫補助金は、その受領が確定した時点で収益として認識し、条件が付された国庫補助金は、その条件が満たされた時点で収益として認識しなければならないと規定している。

3.連結及びSPE

(1)2004年11月の決定

IASBでは、この問題は、2004年11月に議論されたが、スタッフの交代もありそれ以後議論が行われていなかった。2004年11月の会議では、SPEの連結を含めた連結範囲を決定するための基準として支配概念を採用し、IAS第27号及び解釈指針(SIC)第12号に代置される連結範囲に関する単一のIFRSの公開草案を2006年第2四半期に公表するという従来の方針を変更し、それまでの議論を通じて明確化してきたSPEを除く一般事業会社に関連する支配概念のガイダンスだけでもIAS第27号に反映させることが財務報告の質の向上に繋がるとの判断から、IAS第27号のみの改訂を早急に行うべきことが決定された(公開草案は2005年中の公開が予定されていた)。

(2)今回の議論

今回は、スタッフがこれまでの議論の要点、今後さらに検討すべきと判断した論点及び今後の検討スケジュールについて議論が行われた。今回は、議論が行われたが、IASBとしての暫定的意思決定は行なわれなかった。

1.これまでの合意事項の要約

これまでの議論の結果、IASBが合意に達している点を要約すると、次のとおりである。

  1. 連結手続の根拠となる一般原則
    次のような原則を採用する。
    • 連結は、企業グループを単一の経済事業体のように報告することであり、究極の目的は企業が支配しているすべての資産を認識することである。
    • 連結は支配概念(企業が支配する資産を識別するための代理手段として他の企業に対する支配を用いる)に基づくべきである。
    • SPEを含む首尾一貫した支配判定規準及び単一の包括的IFRSが開発されるべきである。
    • ある企業1つのだけが他の企業を支配することができる(支配は一方的なものであり、他と共有できないものである)。
    • 業種が異なる又は測定モデルが異なるといった理由による連結の除外はなくすべきである。
    • 非支配持分は連結された企業グループに対する持分の出資者である(資本の部は、支配持分と非支配持分から構成される)。
  2. 支配の定義
    企業の支配は、企業から生み出される便益にアクセスし、その便益の金額を増加・維持又は守るために、企業の戦略的財務及び経営方針を指図する能力であるという定義にIASBは合意しており、潜在的な支配者は、他の企業を支配するために、次の3つの能力テストを満たさなければならない。なお、これらの関係を示すためにフローチャートを示すことが意図されていたが、スタッフからは、フローチャートがチェックリストとして誤用される恐れがあることを理由にフローチャートを用いるべきではないとの提案がなされている(結論は出ていない)。
    • 企業の戦略的財務及び経営方針を指図する能力(「パワー規準」)
    • 企業から生み出される便益へアクセスできる能力(「ベネフィット規準」)
    • これらの便益の金額を増加・維持又は守るために上記の能力(パワー)を利用できる能力
  3. 支配を評価するにあたっての、オプション、潜在的及び有効でない(ineffective)議決権の役割
    議決権の過半数を保有していない企業がパワー規準を満たすケース。
    • 通常に行使される過半数の議決権の保有者は当該企業の支配者である。
    • 企業の財務及び経営方針を決定しうる第三者が不在である場合に限り、50%以下の議決権保有者が企業を支配する場合もある(例えば、保有議決権数が大きい少数株主が財務及び経営方針を左右している場合には、残りの議決権が分散し、組織化されていなければパワー規準を満たすことができる。しかし、残りの議決権が、積極的に議決権を行使しない過半数保有株主によって保有されている場合は除く。)
    • 将来支配力を喪失するかもしれないという潜在的可能性が、現在の支配力を減少させることはない。
    • 少数株主が支配者となる場合を示す要因のリストを含めることとする。
    未行使であるが現在行使可能なオプションや転換証券などの潜在的議決権を考慮することがパワー規準の判断において目的適合的であるとされている。
    • 企業の戦略的財務及び経営方針を指図することができる金融商品を入手できる権利を保有者に与える未行使であるが現在行使可能なオプションや転換証券は、当該保有企業がパワー規準を満たしているかどうかの評価において考慮すべきである。
    • 潜在的議決権を実際に行使するか否かが保有者にとって経済的に有利かどうかは、パワー規準を満たすかどうかを評価する際には関係がない。
    • 潜在的議決権の行使が有利かどうかをパワー規準の判定に当たって考慮しない考え方は、IAS第39号における一部の金融商品の会計処理と矛盾するという考えがある。すなわち、譲受人が保有するプット・オプションがディープ・アウト・オブ・ザ・マネーの状態、又は譲渡人の保有するコール・オプションがディープ・アウト・オブ・ザ・マネーの状態で金融資産の譲渡が行われた場合には、譲渡人は当該金融資産の認識の中止を行うことができるとされている。これは、譲渡人が実質的にすべてのリスク及び経済的便益を譲渡しているからであるが、ここでは、潜在的議決権の行使が有利かどうかが譲渡が行なわれたかどうかの判定に当たって考慮されている(この問題は2005年9月に更に検討される予定)。
  4. 潜在的議決権を保有している場合の会計処理
    IASBは、潜在的議決権によって他の企業を支配している場合、どのように会計処理すべきかについて検討するようスタッフに指示をしており、今後この問題が検討される。更に、企業結合において潜在的議決権に対して利益や損失がどのように帰属させられるのかについても検討することが予定されている。
  5. 企業に対するオプションと資産に対するオプションの間の不整合
    潜在的議決権を支配力の評価の際に考慮するという決定の帰結として、資産の認識のタイミングが、資産に対するオプションを保有している場合と資産を保有している企業に対するオプションを保有する場合とで異なることになるという問題がある。例えば、ある企業Aが企業Bの有する土地に対して行使可能なコール・オプションを保有している場合には、当該オプションが行使されるまでは企業Aは土地を認識できない。しかし、企業Aが企業Bの議決権総数の100%以上に相当する行使可能なコール・オプションを有している場合には、潜在的議決権を考慮すると企業Aは企業Bを支配していることになり、企業Bは連結され、その結果、企業Aは企業Bの保有する土地をオプションの権利行使前に認識することになる。このような資産の認識のタイミングの違いの存在を矛盾があるものと考えるか、そうではないと考えるかに関して2005年9月に検討が行われる予定である。
  6. 受託者への支配概念の適用
    IASBは、ファンドマネージャーが、受託財産の管理者と自己の資産の運用者という2つの役割をしている場合、両方の立場での投資を合算して、支配があるかどうかを評価することを求めることを決定している。IASBが一旦否定している合算することを「反証可能な推定」とすべきかどうかを含めて、この問題は、更に検討される予定である。
  7. 拒否権
    少数株主や債権者のような利害関係者は、意思決定を拒否する権利や特定の事柄について事前合意権限をもっている場合があり、拒否権は、相手の行動を制止することに限定されているが、次の場合には、拒否権により支配が否定されることがある。
    • 営業戦略、財務戦略に関する拒否権
    • 通常業務の意思決定に関連する拒否権で、組織の基本的な変更(事業単位の売却や重要資産の取得など)に限定されないもの
    今後、拒否権がいつ支配を覆すことになるかに関するガイダンス又は原則を明確化する必要があるかどうかを検討する。
  8. 事実上の代理人
    自分自身の直接保有する権利だけでは企業に対する力(パワー)を持っていない潜在的な支配者でも、他の関係者の持分に対して指図することによって、パワーを持つことがあり得る。この場合、他の関係者は、潜在的な支配者の「代理人」として機能している。例えば、少数株主自身はある企業の議決権の40%しか保有していないが、少数株主と親密な業務上の関係を持っている投資銀行が12%の議決権を持っている場合には、少数株主は、投資銀行の議決権が常に自己の議決権と同じ行動をするため、支配を有しているということができる。潜在的な支配者がパワー規準を満たすかどうかを評価するにあたり、潜在的な支配者の代理人と考えられる反証可能な仮定の例示を公開草案に盛り込むことが検討されている。
  9. 一時的な支配
    企業の支配が一時的であるという事実それ自体は、支配されている資産に影響を与えるものではなく、支配が継続している間は、支配されている資産は、資産として認識されるべきである。しかし、一時支配の理由が、貸借対照表の表示上異なる区分を資産に対して要求する場合がある。例えば、ある企業が他の企業の持分を取得するが、その持分を売戻す義務がある場合には、取得した企業の資産を連結することは適切ではないかもしれない。売戻し義務は、取得企業が支配している資産は、被取得企業への純投資であり、被取得企業の純資産ではないことを意味していると考えられるからである。
  10. SPEと投資会社の会計処理を範囲に含める包括的なIFRSを開発するためにこれまでの合意を利用できるかどうか
    本プロジェクトでの重要な点は、これまで一般事業会社に対して検討されてきた支配概念がSPEに対しても適用できるかどうかである。資産に対する支配は、当該資産から生じる将来の経済的便益をどのように実現させるかを決定できることを意味し、それをSPEに当てはめると、SPEの活動方針を決定できる者がSPEを支配しているということになる。このように考えると、SPEの活動方針決定後に参加する者は、当該資産から生じる将来の経済的便益をどのように実現させるかを決定できないため、SPEを支配できないこととなる。このようなことをも考慮しながら、SPEに対して、支配概念で適切に連結範囲が決定できるかどうかについて今後更に検討することが予定されている。
2.今後の検討課題とスケジュール

これまでのIASBの合意事項は1. に示したとおりであるが、これら合意事項のうち、今後本プロジェクトを取り進めていく上でスタッフが重要と考えている点、さらに検討を要する点及び今後のスケジュールについても議論が行われた。

本プロジェクトは、第1フェーズとして、これまでの議論を通じて明確になってきたSPEを除く一般事業会社に関連する支配概念のガイダンスだけをIAS第27号の改訂として、先行させて改訂することが合意されているが、その改訂のタイミングは、当該支配概念を中心とするモデルが、SPEにも適用可能であるかどうかを見極めた上で行うことが肝要であることが了解された。そのため、SPEに支配概念が適用できるかどうかの検討が今後さらに行われる。

また、現在検討中の支配概念を基礎とするモデルは、かつてFASBがこれを用いて基準化を検討したが拒否したものであり、本プロジェクトの方向が米国会計基準との統合化とは異なる方向を向いている点がスタッフから指摘され、今後FASBとの統合化の過程でこのモデルが生き残るかどうかについて疑問が呈された。これに対しては、SECが支配概念を中心とするモデルを米国会計基準よりは優れたものと見ているという見解がトゥイーディー議長から示された。
IAS第27号の改訂のスケジュールについては、2005年9月以降の議論を見なければ明確なことはいえない状況である点が確認された。

4.金融商品ワーキンググループでの議論

今回は、直前の7月15日に開催されたワーキンググループでの議論の内容が報告され、これに基づいて、議論が行われた(本件に関して、なんらの意思決定も行われてはいない)。
報告された内容は、1. 2005年4月に行われたIASB・FASB合同会議での決定事項の概要、2. 公正価値の変動の損益計算書での表示をめぐる議論及び3. 公正価値モデルにおける金利の決定方法についての3点であった。

(1)IASB・FASB合同会議での合意事項の報告

1.ワーキンググループへの報告内容

2005年4月に行われた合同会議では、金融商品に関する会計基準の短期的及び中長期的な統合化のため、どのような方向で統合化を進めていくべきかについて議論した結果、今後次の2つの代替案の可能性を検討していくことが暫定的に合意された点が報告された。IASBとFASBの多くのボード・メンバーが、公正価値を用いた単一の測定属性モデル(下記(a)の代替案)の方が、混合測定属性モデルに比べて、財務報告を改善し、金融商品会計基準を大幅に簡素化することになるという見解を表明したが、近い将来そのような基準を作ることができるかどうかに関しては意見が分かれた点も報告された。

  1. 金融商品会計基準の根本的な見直しを行う。この代替案の下では、金融商品のすべてを公正価値で測定する(全面公正価値測定)方向での検討が行われる。
  2. 包括的な測定フレームワーク(ただし全面公正価値測定ではない)を持つモデルを用いることによって、金融商品の測定に関する混合測定属性モデルの改善を図る。

また、金融商品に関する現行のIFRS及び米国会計基準を手直しして統合化を図ることは、その努力に比べて得られる成果(財務報告の改善の程度)が低いと判断され、今後は、IAS第39号の改訂を目指すのではなく、公正価値で測定される金融商品に絞って、これに関連する未解決の問題等次に示す2点に絞って議論を行うことが暫定的に合意されている点も報告された。

  1. 公正価値で測定されている金融商品に関連する次の2つの未解決な問題についての分析を行う。
    • 公正価値の変動の損益計算書での表示(公正価値で測定しその変動を損益計算書で認識する金融商品に係る金利、為替レートの変動等をどのように表示するか)
    • 金融商品の範囲と測定に関する問題(金融商品とそれに類似する契約との区分及び当該区分が異なる会計処理を適用することの適切性を担保しているかどうかの検討)
  2. 金融資産の認識の中止に関するリサーチプロジェクトを開始する。
    さらに、ワーキンググループでは、IASBが期待しているワーキンググループの役割は、最終的にIAS第39号に代わる改善され簡素化された金融商品会計基準の開発のためにIASBを支援することであり、現行IAS第39号を短期的に改訂することではないことが強調された(IAS第39号が短期的に改訂されるとすれば、それは、IAS第39号に代わる新たな会計基準の設定に向けての議論の副産物としてであり、IAS第39号の短期的改訂自体が目的となることはない)。
2.ワーキンググループでの議論

ワーキンググループでは、次のような意見があったことが報告された。

  • 多くの事業において、全面公正価値会計モデルの目的適合性は証明されていない。
  • 公正価値による測定の信頼性こそが、全面公正価値会計に移行する前に明確にされなければならない実務上の問題である。
  • 全面公正価値会計モデルは、金融商品の会計処理に関連する複雑さを必ずしも減少させるとは限らない(キャッシュ・フロー・ヘッジ会計や認識の中止については、基準を作らなければならない)。
  • 全面公正価値会計モデルへの移行が短期又は中期的に起こりえないこと、並びにIAS第39号に対する短期的な変更及び改善であっても、これを全面公正価値モデルの検討と結びつけることができることを考え合わせると、IASBは、IAS第39号を修正又は改善することに取り組むべきである。

(2)公正価値の変動の損益計算書での表示

ワーキンググループでは、公正価値の変動の損益計算書での表示のあり方を巡って議論が行われた。この問題は、公正価値モデルのみならずIAS第39号のような混合属性モデルにも当てはまる問題である。メンバーからは、次のような意見が表明された。

  • 財務諸表の作成者の負担を増加させるとしても、原因別(例えば、為替レートの変動や金利の変動による公正価値の変動)の分解表示は、利用者に有用な情報を提供するので、このような表示を求めるべきである。
  • 測定の信頼性又は経営者が事業をどのように見ているかに基づく分解表示が公正価値収益の表示の有用な基礎となるべきである。
  • 売買目的金融商品又は金融商品の種類に基づく損益の分解表示は、トレーディング活動のダイナミックさからいって不必要又は有用ではなく、それ故、そのような情報は急激に陳腐化する。

(3)公正価値モデルにおける金利の決定方法

公正価値モデルにおいて金利を区分して表示することについては、次のような意見が表明された。

  • 公正価値で測定される金融商品にとって、金利は実質的に意味を有しているのかどうか疑念がある。むしろ、「時の経過に伴う公正価値の変動」と呼称した方がよいのではないか。
  • 経営者が満期まで保有しようとしている場合又は資産ポートフォリオが償却原価で管理されている場合には、金利の表示は重要な役割を果たす。
  • 金利支払いは、金融商品に関する契約上の権利及び義務の一部を示しているので、そのような開示は重要である。

5.将来の検討議題

通常毎年7月にIASBが取上げている検討議題のレビューをすることになっているが、今回は、新たな議題に関する決定は行なわれなかった。今回は、プロジェクトやIASBのスタッフの現状、更に2005年4月に行われた米国証券取引委員会(SEC)と欧州委員会(EC)との会談の意義・影響について議論が行われた。議論の結果、今後取上げる可能性の高い次の2つのテーマについて、プロジェクトの内容や取り進め方について、スタッフに検討するよう指示が出された。今後その内容を見て、正式な議題とするかどうかが決定されることになる。

  1. 公正価値測定に関するガイダンス(FASBが2004年6月に公開草案を公表し、公正価値をどのように測定するかに関する計算技法等について基準化を目指しているが、IASBはこの内容との統合化を目指している)。
  2. 排出権の会計処理に関連するIAS第38号(無形資産)又は第39号(金融商品:認識及び測定)の改訂(2005年6月にIASBは、排出権に関する解釈指針IFRIC3を廃止し、排出権取引の実態をより適切に会計処理するため、IAS第38号又は第39号の改訂を前提とした検討をすることを決定した)。

なお、これとは別に、米国会計基準との短期統合化プロジェクトが従来から取り進められているが(従来からの対象プロジェクトはaからd)、このプロジェクトに新たなテーマとして、次のeからiが加えられている(これらは、既に開始されている短期統合化プロジェクトに対する追加であるため、改めて議題選定のための決定をすることは不要と判断されている)。新規に取上げられたテーマは、今後SECが2009年を目処に、IFRSに基づく財務諸表を米国資本市場で差異調整表を求めずに受入れるために、米国会計基準とIFRSとの間の統合化が必要と考えられているものである。

  1. IAS第12号(法人所得税:税効果会計)(FASB)
  2. IAS第20号(政府補助金)(IASB)
  3. IAS第37号(引当金)(IASB)
  4. IAS第14号(セグメント報告)(IASB)
  5. IAS第31号(ジョイント・ベンチャー及び持分法)(IASB)
  6. IAS第23号(借入費用)(IASB)
  7. IAS第36号(資産の減損)及びSFAS第144号(FASB)
  8. IAS第40号(投資不動産)(FASB)
  9. IAS第38号(研究開発費)(FASB)

6.ヨーロッパにおけるIFRSに関するセミナー(ロードショウ)

IASBは、2005年1月からヨーロッパ連合(EU)の上場企業の連結財務諸表においてIFRSが採用されるようになったことを受け、2005年6月以降10月までの間に欧州の18カ国で「ロードショウ」と称して、関係者との対話を始めた。セミナーでは、FASBを中心とした各国会計基準設定主体との間での会計基準統合化の現状の説明、IASB活動に関する意見交換及びこれまでのIASBの活動の成果についての説明といったことがテーマとして取上げられている。各セミナーには、数名のボードメンバーとスタッフが参加し、各国の会計基準設定主体が中心となって主要関係団体からの参加を募っている。

今回の会議では、これまでに行なった14カ国のセミナーでの反応について暫定的な報告が行われた。その中からいくつかを紹介する。

  1. IFRS採用のメリットとしては、各国の会計基準より優れた情報を提供できること、IFRSは複雑な取引に対応できる複雑さを有していること及び開示が充実していることが挙げられた。
  2. 懸念としては、IFRSの変更のペースが速く、また、多くのIFRSが短期間のうちに変更されすぎている点、IFRSの内容が複雑で理解が困難な点(例えば、公正価値をどのように決定するかに関する透明性の欠如は関係者の不信や懸念を生んでいるとの指摘があった)、内部管理報告と外部報告との間のリンクが十分考慮されていない点(内部管理の視点が外部報告の要求とマッチせず、経営者が説明に苦慮する)、IASBやIFRIC(国際財務報告基準解釈指針委員会)の活動を支援するIASBスタッフの数が足りない点などが指摘された。
  3. デュー・プロセスについては、プロジェクトの早い段階で利害関係者からのインプットを入手できるようにすべき点(フィールド・テストの早い段階での実施)、ディスカッション・ペーパーを公表する段階は重要でありスキップすべきではない点及びコメント・レターにより注意を払う必要がある点などが指摘された。
  4. このほか、IASBが現在進めているFASBとの間の会計基準の統合化(原則より規則に重点を置いた会計基準になるのではないか、米国会計基準の考え方が主になってしまうのではないかといった懸念)、概念フレームワーク、業績報告、金融商品、企業結合及びSMEの会計基準などの個別プロジェクトについても賛否を含めいろいろな意見があった。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)