ASBJ 企業会計基準委員会

第47回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第47回会議が、2005年6月22日及び23日の2日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回は、1. IAS(国際会計基準)第32号(金融商品(開示及び表示(外貨建転換社債の区分))、2. 業績報告、3. 概念フレームワーク(質的特性2)、4. 収益認識、5. IAS第21号(外国為替レート変動の影響(海外純投資としての取扱い))、6. 米国会計基準との短期統合化(セグメント情報及び法人所得税)、7. IFRS(国際財務報告基準)第6号(鉱物資源の探査と評価)によるIFRS第1号(IFRSの初度適用)の改訂(誤謬の訂正)、8. 経営者による説明(Management Commentary)、9. テクニカルコレクション及び10. 解釈指針(排出権に関するIFRIC3)の検討が行われた。IASB会議には理事14名全員が参加した。本稿ではこれらの議論の概要を紹介する。

1.IAS第32号(金融商品:外貨建転換社債の区分)

今回、外貨建転換社債に含まれる外貨建の転換権(売建てオプション)が金融商品の表示と開示に関するIAS第32号(金融商品:表示及び開示)の規定上、資本とみなされるかどうかに関する議論が行われた。本件は、IFRIC(国際財務報告基準解釈指針委員会)において当初取上げられたものであるが、IAS第32号の改訂を伴う可能性があるため、IASBの場で議論されることとされたものである。後述するようにIAS第32号の規定を改訂することが暫定的に合意された。
IAS第32号第22項では、企業が、ある固定額の現金又はその他の金融商品と交換にある固定数の自己の持分金融商品を引渡すことによって決済される契約は、持分金融商品であるとしている。一方、第24項では、変動する現金又はその他の金融商品と交換にある固定数の自己の持分金融商品を引渡すことによって決済される契約は、金融資産又は金融負債であるとしている。また、第29項では、企業は、金融商品を1. 金融負債と2. 自己の持分金融商品に転換できるオプションに分けて認識することを求めている。これらの結果、もし転換社債が当該企業の機能通貨で発行されている場合には、固定額の現金又はその他の金融商品と固定数の自己の持分金融商品との交換となるため、転換社債は負債部分と持分部分(固定数の持分金融商品に転換できる売建てコールオプション)に分けて認識されることとなる。

ところが、企業の機能通貨以外の通貨建て(外貨建て)で発行される転換社債の場合には、ある固定金額の外貨と交換にある固定数の自己の持分金融商品をオプション保有者に引き渡すことになる。したがって、この場合には、機能通貨で見た場合、「ある固定額の現金」に該当しないこととなり、第22項は適用されず、第24項に基づいてオプション部分も含めて外貨建転換社債全体が金融負債として処理されることになる。今回、このような現行IAS第32号の適用結果が妥当であるかどうかが議論された。
議論の結果、このような適用結果は妥当ではなく、このような事態が生じることを避けるため、第22項を、ある固定額が表示されている通貨のいかんに拘わらず、企業が、ある固定額の現金又はその他の金融商品と交換にある固定数の自己の持分金融商品を引渡すことによって決済される契約は、持分金融商品であると改訂することが暫定的に合意された。

2.業績報告(包括利益の報告)

2005年6月14日にニューヨークで第2回のワーキンググループ会議が開催されたが、今回は、そこでの議論の内容が紹介され、それに関連する議論が行なわれた(今回は、何の決定もなされていない)。

今回ワーキンググループでの議論として紹介された内容は、次の通りである。

(a)ワーキンググループメンバー8名による「当期利益」の必要性及びその意義についてのプレゼンテーションがあったこと及びその内容の紹介が行なわれた。プレゼンテーションに当たっては、次の4点の質問についての意見を発表者が表明することが期待されていた。

  1. 現在当期利益以外で表示されている項目(売却可能有価証券の未実現損益、為替換算調整勘定の変動損益、有形固定資産の再評価損益、最小年金負債の変動損益及びキャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ手段から生じた損益)がなぜ利用者にとって有用であるのか。
  2. 当期利益以外で表示されるべき取引又は事象を決定すべき規準としてどのようなものが用いられるべきか。
  3. 現在当期利益に含まれている項目で、当期利益以外で表示した方がより有用な情報を提供することとなるものはあるか。
  4. その他の包括利益から当期利益への再分類(リサイクリング)は、目的定業的な価値ある情報を提供するか。

会議では、「当期利益及び包括利益計算書(statement of earnings and comprehensive income)」では、中間の小計として当期利益が表示されているとしても末尾に当期利益が表示されない点に関する懸念が多くの発表者から表明された点及び当期利益と包括利益の双方を示す当期利益及び包括利益計算書は、妥協として有用であるという意見もあった点が報告された。

(b)セグメントAに関してIASBが4月に行なった暫定合意の内容(下記3点を含んだ公開草案を2005年中にも公開すること)の説明が行なわれたことが報告された。

  1. 「1組の財務諸表(期首貸借対照表、期末貸借対照表、当期利益及び包括利益計算書、資本変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書)」の定義の明確化
  2. 「当期利益及び包括利益計算書」の導入
  3. 比較財務諸表の表示年数の明確化(最低限2年間の1組の財務諸表)

会議では、セグメントAについて、公開草案ではなく、ディスカッション・ペーパーを公表すべきとの意見がワーキンググループで出たことが報告された。

(c)当期利益及び包括利益計算書における分解区分(categorization)をどのようにすべきかについて議論された内容(下記1. から6. )が報告された。

  1. 「ファイナンシング」という区分は必要か。
  2. 「ファイナンシング」以外の分解区分(例えば、営業区分)をどのようにすべきか。
  3. 業績に理解・将来の予想等のためにどのようなモデルが有用か(モデルとして、a.非例外・例外、b.経常・非経常、c.実現・未実現、d.営業・非営業及びe.現金発生主義・市場価値・見積価値の5つが提示されている)。
  4. 分類規準を考えるに当たり考慮すべき他の特性があるか。
  5. 上記モデルを「その他包括利益」にも適用できるか。
  6. 当期利益及び包括利益計算書、キャッシュ・フロー計算書及び貸借対照表の間で同じ分解区分を用いることが有用か。

ワーキンググループでは、「ファイナンシング」区分を設けることを支持する意見が多かった点、モデルについては、「b.経常・非経常及」び「e.現金発生主義・市場価値・見積価値」という2つのモデルに対する支持が多かった点が報告された。

(d)これらの報告を受けて、IASBでは次のような議論が行われた。

  1. セグメントAについて、公開草案ではなく、ディスカッション・ペーパーを公表すべきかどうか。
  2. セグメントBでは、ディスカッション・ペーパーの公表のほか、フィールドビジットを行なう必要があるかどうか。

3.概念フレームワーク(質的特性2)

今回は、概念フレームワークの本格的な議論の第3回目として、質的特性のうち、先月議論した「目的適合性(relevance)」及び「信頼性(reliability)」以外について議論が行われた。具体的には、「比較可能性(comparability)」、「理解可能性(understandability)」、「重要性(materiality)」及びその他の質的特性の候補となる概念について議論が行われた。今回の議論の結果、下記に示す点について暫定的に合意された。なお、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)が討議資料として公表している「財務会計の概念フレームワーク」の中で示されている「内的整合性(internal consistency)」が今回議論されたが、スタッフの誤解もあり、最終的には、質的特性として取上げられることはなかった。また、質的特性に関しては、次回会合において、質的特性間の関係について議論を行う予定である。

(1)比較可能性

  1. 比較可能性は、利用者が経済事象間の類似点と相違点とを識別するために必要とされる特性であり、1. 企業の財政状態及び業績の趨勢を明らかにするため、同一企業内の各期を通じて財務諸表が比較できること及び2. 他の企業との比較において企業の財政状態、業績及びその変動を評価するために、異なる企業間の財務諸表が比較できることを意味している。議論の結果、比較可能性は意思決定に有用な情報の重要な特性であり、統合された概念フレームワークにおいて質的特性として含めるべきであるとされた。比較可能性は、目的適合性及び表現の忠実性のように情報そのものの特性を示すものではなく、情報間の関係を示す特性として位置付けられる。そのため、目的適合性及び表現の忠実性は、比較可能性及び後述する整合性と比較して優位であるべきであるという点についても合意された。
  2. FASBの概念基準書以外では、比較可能性と整合性(consistency)を区別していないが、統合された概念フレームワークでは両者を区別すべきである点が合意された。整合性は、単一企業内の会計期間の間及び複数企業間の1会計期間内において会計方法を首尾一貫して適用することを指している。整合性は、比較可能性と同様情報そのものの特性を示すものではなく、情報間の関係を示す特性として位置付けられる。
  3. 比較可能性又は整合性は、より目的適合性がある情報又は経済事象をより忠実に表現する情報の報告を妨げるものであってはならない点が合意された。すなわち、比較可能性又は整合性は、より目的適合的又はより忠実に経済事象を表現する会計処理方法への変更を阻害する要因となってはならず、もし新しい会計処理方法への変更によって比較可能性又は整合性が失われる場合には、開示によってそれを埋め合わせることができるとされた。

(2)理解可能性

  1. 理解可能性は意思決定に有用な情報の必須の特性であり、統合された概念フレームワークにおいて質的特性として含めるべきである。
  2. 情報の理解可能性は、集約(aggregation) 、 区分(classification)、特徴づけ(characterization)、及び表示(presentation)を明確かつ簡明に行うことによって高められる点も合意された。
  3. 報告された情報が十分に理解可能であるかどうかは、誰がそれを利用するかに依存する。一般目的の外部報告情報は、ビジネス、経済活動及び会計に対して合理的な知識を有しかつ合理的な努力して情報を研究する意思を持つ財務諸表利用者にとって理解可能なものでなければならない。
  4. 目的適合的な情報は、ある利用者にとって過度に複雑又は難解という理由で除外すべきではない。

(3)重要性

  1. 重要性は、IASBのフレームワークでは、目的適合性との関連で説明されているが、FASBのフレームワークでは、信頼性(前回の会議で、「信頼性」に代えて「表現の忠実性」を用いることとされた)との関係でも説明されている。両者の統合された概念フレームワークの下では、重要性は、目的適合性に加え、表現の忠実性にも関連する独立した項目として位置付けることが合意された。
  2. しかし、重要性は、目的適合性及び表現の忠実性といった情報そのものの特性を示すものではなく(したがって、意思決定に有用な情報であるための質的特性であるというより)、情報が、企業に関連する利用者の決定に影響を与えるのに十分な程度に重要であるかを決定するスクリーンもしくはフィルターとして位置付けられるべきであるとされた。

(4)その他の質的特性の候補

  1. 上記以外の質的特性の候補として、情報が高い品質を持つための属性として現在広く使われている「透明性(transparency)」が検討されたが、透明性を構成すると考えられる性格(目的適合性、表現の忠実性、完全性及び簡明性)等はすでに他の質的特性の中に含まれているため、透明性そのものを新たな質的特性としては、取上げないこととされた。
  2. そのほか、信憑性(credibility)、高い品質(high quality)及び内的整合性が検討されたが、いずれも新たな質的特性としては、採用されなかった。特に、内的整合性は、日本の討議資料において提唱された考え方であるが、日本での考え方と異なる文脈で理解され、新たな質的特性として提案されていた。ASBJからの指摘によって、その誤解が解消されると共に、新たな質的特性としては採用されないこととされた。日本の概念フレームワーク案では、新たな会計基準を設定する際に、当該基準が生み出す情報の有用性は、当該基準が既存の会計制度と整合的であれば、既存の制度が生み出す情報と同程度の有用性を新基準が生み出す情報に対しても推定し得る、という基準設定の文脈で内的整合性が質的特性として捉えられている。しかし、今回のスタッフからの提案では、企業の提供する情報が内的に整合的であるべきことを求める規準として理解されていた。すなわち、企業に対して複数の会計方針からの選択を認めている会計基準が多数存在する場合、企業が選択する会計方針は、相互に整合していなければならないという意味で理解されていた。
  3. 両者の統合された概念フレームワークでは、コストとベネフィットに関する議論、特に米国概念書第2号で示されているような、財務情報の開示を求める際に考慮すべきコストの類型(例えば、情報提供者のコストとして、情報収集及び処理に要するコスト、監査コスト、情報を受け手に伝達するのに要するコスト等が、情報利用者のコストとして、情報作成者が利用者に負担させるコスト及び情報分析・解釈に要するコスト等が示されている)や会計基準設定主体が特定コストをどのように考慮すべきかに関する情報を含むべきであるとされた。
  4. 両者の統合された概念フレームワークでは、何が合理的なコストとみなされるべきであるかに関するよりよい基礎を確立するため、財務諸表作成者及び監査人の能力に関する前提について記述を行なうべきであるとされた。

4.収益認識

本プロジェクトについての議論は、2004年12月の議論以降行われていなかった。それは、米国財務会計基準審議会(FASB)において、このプロジェクトの将来の方向性についてボードメンバー間の意見が一致しないことが明らかになり、今後の方向性にいて改めて議論を行なっていたためである。FASBでは、2005年5月に今後のプロジェクトの方向性に関する10の代替案を検討し、最終的に、3つの代替案の中から1つの代替案(下記の代替案2)を選択した(詳細は後述)。これを受けて、今回の会議では、IASBのボードメンバーに対して、FASBが検討した代替案に対する意見が求められた。結論として、FASBと同一の代替案(代替案2)に基づいて、今後議論を進めていくことが暫定的に合意された。

(1)FASBの検討した代替案

FASBでは、2005年5月の会議において、7名のボードメンバーが、スタッフが提案した10の代替案に対してそれぞれの支持する代替案について投票を行った。10の代替案は、収益認識に関する包括的な会計基準の設定を継続するという案(代替案1から3)とそのような会計基準の設定を行なわず、現行の180余りもある産業別の収益認識会計基準を体系化したり、リサーチ・レポートとしてこれまでの成果をまとめるという案(代替案4から10)に大別される(代替案1から3については下表参照)。その結果、ボードメンバーが第1順位で支持する代替案は、代替案1(3名)、代替案2(2名)及び代替案7(収益認識のための基準を作るのではなく、資産・負債アプローチや公正価値アプローチの内容を解説し、代表的な取引にそれらを適用したケーススタディを示すリサーチ・レポートを公表すべきという選択肢)(1名)となった。第2順位で支持する代替案も含めて、代替案2を支持するボードメンバーが6名(代替案1を支持するボードメンバー全員が代替案2を第2順位で支持)となり、FASBは、今後代替案2に基づいて収益認識基準を作成していくことに合意した。

下表に示す3つの代替案の概要は次のとおりである。代替案1は、これまで本プロジェクトで進めてきたアプローチで、収益を契約に伴って企業の純資産が増加した時点で認識しようとする考え方である(資産・負債アプローチに基づくアプローチ)。このアプローチでは、契約に伴う履行義務を当該企業が卸売市場(business to business market)で入手できる公正価値(法的解放金額)で測定しようとするため、契約当初において収益(これを「契約発生時収益(selling revenue)」という)を認識することを許容するアプローチである。これに対して、代替案2は、収益を契約に伴って企業の純資産が増加した時点で認識しようとする点では代替案1と同じであるものの(資産・負債アプローチに基づくアプローチ)、履行義務を「履行価値(performance value)」(物品又はサービスが顧客に販売され得る金額)という新しい考え方で捉えようとする。このアプローチでは、履行義務を「履行価値(顧客との契約金額)」で測定するため、代替案1とは異なり、契約当初において「契約発生時収益」が認識されることはない。代替案3は、概念基準書第5号に示されている「実現・稼得」規準を用いて収益を認識しようというアプローチである。

新収益認識基準をFASBが作成することを目指すモデル
代替案 1(*1
現在まで開発されてきた概念モデル
代替案 2 代替案3
認識基礎 顧客との契約に関連する純資産の増加 顧客との契約に関連する純資産の増加 稼得され、かつ実現した又は実現可能な収益
履行義務に関する測定属性 公正価値 = 法的解放金額 履行価値= 物品又はサービスが顧客に販売され得る金額 = 配分された対価 履行価値に類似する= 配分された対価
再測定されるか? Yes? *2 No No
収益認識時期
  • 純資産が増加する場合、契約当初で契約発生時収益
  • 公正価値の変動時
  • 履行義務の消滅時
  • 履行義務の消滅時
  • 稼得及び実現時
実務上の影響 契約を構成する異なる構成要素の収益性が強調される
契約を獲得し、義務を履行する企業行動の効率性は、市場との比較で測定される
契約を構成する異なる構成要素の収益性が強調される*3
収益性は、顧客から受領する対価と企業自身の原価との比較によって測定される
適用の仕方によっては、代替案2に類似し得る

(2)IASBでの議論

FASBが本プロジェクトの継続を決定したことを受けて、今回の会議では、10の代替案に対するボードメンバーの意見表明及びそれ関連する議論が行われた。

ボードメンバーが第1順位で支持する代替案は、代替案1(8名)、代替案2(4名)、代替案3(1名)及び代替案4(収益認識のための包括的な基準を作るのではなく、現行の180を超える業界別の収益認識の不足している部分を補い、また、相互に矛盾する規定間の整合性を図ろうという選択肢)(1名)であった。第2順位で支持する代替案も含めて、全員が代替案2を支持した。この結果、FASBと同様、今後代替案2に基づいて収益認識基準を作成していくことが暫定的に合意された。なお、今後の代替案2の検討に当たっては、活発な市場が存在する場合に限って、履行義務を公正価値(法的解放金額)で測定する(すなわち、契約発生時収益が認識される)というアプローチ(これを「代替案2a」と呼んでいる)も検討される予定である。

5.IAS第21号(在外事業体への海外純投資)

(1)問題の所在

IAS第21号第15項では、在外事業体に対して有している貨幣性項目の債権(売掛金を除く長期性の債権又は貸付金)でその決済が予見可能な将来に予定されていないか又は起こりそうにない場合、それは実質的に「在外事業体への純投資」であり、第32項及び第33項に従って会計処理すべきと規定している。第32項では、報告企業の在外事業体への純投資を構成する貨幣性項目から生じる為替差額は、連結財務諸表上では、在外事業体を処分するまで、資本の部の構成要素として認識しなければならないとされている。また、第33項では、そのような取扱いができる貨幣性項目は、報告企業の機能通貨建て又は海外事業体の機能通貨建てでなければならないと限定されており、したがって、報告企業又は海外事業体の機能通貨以外の通貨建てmp貨幣性項目から生じる為替差額は、連結財務諸表上、損益計算書で認識しなければならないとされている。

今回議論された問題点は、次の2点である。

  1.  第33項において「在外事業体への純投資」とみなされる貨幣性項目を、報告企業又は海外事業体の機能通貨建てのものに限定する必要があるか。言い換えると、報告企業又は海外事業体の機能通貨以外の通貨建ての貨幣性項目であっても、その決済が予定されていないか又は起こりそうにない場合、それは実質的に「在外事業体への純投資」であるということができるかどうか。
  2.  貨幣性項目を「在外事業体への純投資」と見る取扱いは、報告企業と在外事業体との間の取引に限定されるべきか。言い換えると、連結財務諸表に含まれる報告企業(親会社)以外の企業と在外事業体との間の貨幣性項目も「在外事業体への純投資」と見ることができるかどうか。

(2)議論と暫定合意

議論の結果、第33項で、「在外事業体への純投資」とみなされる貨幣性項目を報告企業又は海外事業体の機能通貨建てのものに限定する必要はなく、報告企業又は海外事業体の機能通貨以外の通貨建ての貨幣性項目から生じる為替差額に対しても、連結財務諸表上、資本の部の構成要素として認識するという取扱いを適用すべきであると暫定的に合意された。また、第2の論点である「在外事業体への純投資」とみなされる貨幣性項目は、報告企業と在外事業体との間の取引に限定されるべきかどうかについては、貨幣性項目の決済が予見可能な将来に予定されていないか又は起こりそうにない場合に該当する限り、連結財務諸表に含まれる報告企業以外の企業(例えば子会社)と在外事業体との間の貨幣性項目も「在外事業体への純投資」と見なしてよいとすることが暫定的に合意された。

これら暫定合意を受けて、具体的に次のようにIAS第21号を改訂することが合意された。

  1.  第33項の末尾の2文を削除する。その上で、第15項の要件を満たせば、報告企業又は海外事業体の機能通貨以外の通貨建ての貨幣性項目も、「在外事業体への純投資」とみなすことができるという文言を挿入する。
  2. 第15項を改訂し、連結財務諸表に含まれる報告企業以外の企業と在外事業体との間の貨幣性項目も「在外事業体への純投資」となり得ることを明確にする。

6.米国会計基準との短期統合化(セグメント情報及び法人所得税)

今回は、2つの短期統合化プロジェクトについて議論が行われた。

(1)セグメント情報

IASBは、2005年1月の会議で、IAS第14号(セグメント情報)を米国会計基準に合わせるためのプロジェクトを短期統合化プロジェクトの1つとして取上げることに合意した。統合化は、米国財務会計基準書(SFAS)第131号(企業のセグメント及び関連情報に関する開示)で採用されているマネジメント・アプローチに基づいて、IAS第14号を改訂する方向で行うことが合意された。なお、その際、FASB及びカナダ会計基準審議会(AcSB)が公表している類似するセグメントを集約することに関するガイダンスを取り入れる必要があるかどうかを検討することがスタッフに指示されていた。

今回は、これを受けて、類似するセグメントを集約する際の類似性の判定に関するカナダのガイダンスを検討した結果、スタッフからは、当該ガイダンスを改訂IAS第14号に取り入れる必要はないとの提案が示された。また、FASBが、カナダと同様に複数のセグメントが類似しているかどうかをどのように判定かに関するFASBスタッフポジション(FSP)を準備していたが、その内容では、類似性を判定する規準として不十分であるため、公表しない決定を行なったことが報告された。
議論の結果、スタッフの提案を受け、類似するセグメントを集約する際の類似性の判定に関するガイダンスは改訂IAS第14号に取り入れないことが暫定的に合意された。

また、公開草案の対するコメントを求める質問の中に、SFAS第131号の採用するマネジメント・アプローチからは離れるものの、ある特定項目については測定方法を特定するような要求をすべきかどうか、また、セグメント情報では与えられない特定金額の開示を要求をすべきかどうかに関する質問を加えるべきかどうかを検討することがスタッフに指示された。

(2)法人所得税

税効果会計を扱うSFAS第109号(法人所得税の会計処理)とIAS第12号(法人所得税)との間の統合化を図るための作業が継続されているが、今回は、1. 開示に関する両者の差異の統合化及び2. 不確実な税務上のポジションに関する会計処理の2つについて議論が行われた。

1.開示内容の統合化

今回は、SFAS第109号とIAS第12号の間にある開示に関する差異を一つ一つ取り上げて、その取扱いが検討された。例えば、IAS第12号で開示が求められていないがSFAS第109号では開示が求められている項目がある場合には、SFAS第109号と合わせるため、新たな開示を追加するかどうかがIASBで検討された。ここでは、検討された内容の記述は省略するが、この検討を通じて、両者の開示内容はかなりの部分で一致することになった。

2.不確実な税務上のポジション

FASBでは、税務当局の取扱いがはっきりしていない「不確実な税務上のポジション(uncertain tax position)」に関するFASBスタッフによる解釈(interpretation)を示すべく、ドラフトを作成中である。今回、そのドラフトについて議論が行われた。
SFAS第109号では、税務上の便益を財務諸表上で便益又は税金費用として認識するために、満たすべき信頼度に関する条件が示されていないため、不確実な税務上のポジションを巡る実務の取扱いは多様なものとなっている。例えば、税務上のすべてのポジションを一旦認識し、そのポジションが有する不確実性を引当金又は税務負債として認識する方法やあらかじめ定めた一定の内部基準に基づいて、それを超える場合には財務諸表上で認識するといった方法が採用されている。このドラフトは、そのような実務の統一を目指し、不確実な税務上のポジションに対する取扱いを明確にするために公表されるものである。その取扱いの概要は次のとおりである。

  1.  税務上のポジション(税額控除等)は、税務当局による調査によっても維持できるほどかなり確実な(米国基準でいうprobable、IFRSでいうhighly probable)場合にのみ当初認識される。
  2.  認識規準を満たした場合には、「最良の見積り(best estimate)」によって測定しなければならない。
  3. 「かなり確実であるという規準」を満たさなくなった既に認識されている税務上のポジションから生じる便益は、税務当局による調査によって維持できる確率が50%を下回った事業年度において、認識の中止を行わなければならない。

このようなアプローチは、IASBが2005年6月に公表したIAS第37号の改訂公開草案で採用しようとしているアプローチとは異なるため、多くのボードメンバーが懸念を表明した。IAS第37号の改訂公開草案では、非金融負債の認識に当たって、その発生がかなり確実であることを要求していない(負債の定義を満たせば認識される)。また、測定に当たっても、「最良の見積り」という考え方を採用していない(期待値が用いられている)。IAS第12号では、税務負債の認識に当たって、IAS第37号と同じ考え方を採用していないため、IAS第37号の改訂公開草案が直接不確実な事務上のポジションに適用されることはないものの、この問題をIASBにおいても検討することがスタッフに指示された。

7.IFRS第6号によるIFRS第1号の改訂(誤謬の改訂)

(1)改訂内容の合意

この問題は、オーストラリアの会計基準設定主体からの指摘を受けて、IFRS第1号の中のIFRS第6号に関連する規定がIASBの意図を的確に反映しない表現となっていることが明確になったため、これを緊急に改訂する必要があるというものである。2005年4月のIASB会議でその内容が議論され、同月にIFRS第1号を改訂する公開草案がIASBのホームページに掲載された。改訂の内容が限定的であるため、公開期間は2005年7月3日までとされ、20通のコメントを受領した。ほとんどのコメントが公開草案の改訂内容を支持しており、今回の会議では、全員一致で、公開草案の提案どおりIFRS第1号を改訂することが合意された。なお、今回決定された改訂内容は、2005年6月30日付で公表されている。

(2) 改訂の経緯及びIFRS第1号に含まれている誤謬

IFRS第6号は、2004年12月に公表され、2006年1月1日から発効することとなっている。IFRS第6号では、IFRSを初めて適用する企業に対するIFRS第6号の規定の取扱いを定めるため、IFRS第1号を改訂して新たに第36B項を追加する改訂を行っている。第36B項では、IFRS全体を2006年1月1日前に初めて適用し、同時にIFRS第6号を発効日前に早期適用する企業は、IFRS財務諸表と同時に公表される比較財務諸表においてIFRS第6号が求める開示を行う必要はないという内容となっている。しかし、IASBの意図は、単に開示のみならず、IFRS第6号が求める認識と測定に関しても比較財務諸表では適用除外とするというものであり、現行第36B項はこれを適切に反映する文言となっていない。IASBは、2005年4月の会議でこの事実を認め、現行第36B項を改訂することを決定した。既に2005年1月からIFRSを採用している企業があること及びその誤謬の内容が明確であることから、IASBは、改訂基準を2005年6月末までに公表することを目指して、2005年4月に公開草案をホームページを通じて公表した。

8.経営者による説明(Management Commentary)

IASBでは、2002年10月に経営者による討議と分析(MD&A)とも呼ばれる経営者による業績に関する説明文書(このプロジェクトでは、これを「経営者による説明(以下「MC」という)」と呼称することとしている)の標準化を図ろうとするリサーチ・プロジェクトの開始を決定し、カナダ、ドイツ、ニュージーランド及び英国の会計基準設定主体の代表者から構成されるプロジェクトチームにより検討が進められている。

プロジェクトチームは、2005年2月にこれまでの成果をまとめたディスカッション・ペーパー案(以下「DP案」という)をIASBに提示し、その内容及び取扱いについてIASBの意見を求めた。そして、今回、そこでの議論を反映した改訂DP案がプロジェクトチームから提示された。今回、IASBに対しては、1. 改訂DP案がMCを巡る問題を適切に識別・議論しているか及び2. IASBが今後このテーマを正式議題として取上げる際に必要な情報を入手できるように「コメントのお願い」で適切な質問がなされているか、について意見が求められた。

DP案では、「MCとは、企業の財務報告の一部として財務諸表に付随し、当該企業の将来の発展性、業績及び状態に影響を与える可能性のある主要な趨勢及び要素とともに、財務諸表の対象となる期間中における当該企業の事業の発展、業績及び状態の基にある主要な趨勢及び要素を説明する。」と定義されている。

議論では、MCの位置付けがなお明確ではない、また、DP案の中で開示の実例を示すことが適切かといったといった意見もあり、更に検討することがプロジェクトチームに要請された。しかし、全般的な意見として、DP案の内容で公開することが妥当であるとされた(賛成10反対3棄権1)。また、DPの公開期間は、公開を通じてDPの内容を理解してもらうことを考慮して6ヶ月間とすることが合意された。

9.テクニカルコレクション

現在のIASBのデュー・プロセスでは、IASBがIFRSを改訂しようとする場合、独立した大きなプロジェクトとして検討するか、それとも、IFRSのある項目に限定した比較的小さなプロジェクトとして検討するか(例えば、2005年6月に公表されたIAS第39号の公正価値オプションの改訂)以外に方法がない。このため、IFRSの規定の文言の一部がIASBの意図を適切に反映しないことが判明した場合に、その部分だけを改訂することが適切にできなくなっている。最近生じたそのような例としては、IFRS第6号によって追加されたIFRS第1号のパラグラフの一部がIASBの意図を適切に反映していなかったというものがある(上記7参照)。IFRS第6号は早期適用できるため、初めてIFRSを適用しようとする企業に影響が及ぶため、この改訂は緊急を要するものと判断され、短期間の公開を行った後、IFRS第1号の改訂を公表した。具体的には、2005年4月に30日の公開期間で改訂内容を公開し、2005年6月のIASB会議で改訂内容を確定させ、6月30日でその内容を公表した。このようなIFRSの誤謬等の改訂を総称して「テクニカルコレクション」と呼んでいる。

今回議論の結果、ほぼ合意された内容は次のようなものである。

  1.  テクニカルコレクションの対象となる事象は、1. 「緊急(time-sensitive)」テクニカルコレクション及び2. それ以外のテクニカルコレクションの2つに区分する。
  2.  緊急テクニカルコレクションと判断された事項は、1. それが判明した時点で速やかに対応案を作成し、2. それを次回のIASB会議で議論して改訂内容を承認し、3. IASBのウエッブサイト及び「アップデート」において内容を公開する(公開期間は30日)。4. コメント受領後IASB会議でコメント内容を分析した上で、改訂内容を確定する(当該改訂は、原則として遡及適用する)。
  3.  それ以外のテクニカルコレクションと判断された事項は、1. それが判明した時点で速やかに対応案を作成し(IFRICが審議過程で発見した場合には、IFRICが対応案を作成する)、2. IASB会議で議論して改訂内容を承認し、3. IASBのウエッブサイト及び「アップデート」において新設される新たなコラムでその内容を公開する。4. これらのテクニカルコレクションの対象とされた事象及びそれに対する対応案をまとめて毎年3月に「オムニバステクニカルコレクション」公開草案として公開する(公開期間は60日)。5. コメント受領後IASB会議でコメント内容を分析した上で、毎年7月のIASB会議で改訂内容を確定し、6. 毎年9月に改訂内容を公表する(改訂内容は翌年1月から適用される)。
  4.  テクニカルコレクションに関連する公開草案は、通常のIFRSの新設・改訂のための公開草案と区別するため、異なる名称とする(例えば、テクニカルコレクション(TC)第1号といったものが考えられる)。

ただ、今回の議論で、テクニカルコレクションとされる内容なのか、それともIFRICが解釈を行なうことで対応すべき内容なのかを判断する規準が明確でない点が指摘され、スタッフがこの点を更に検討することとされた。

10.解釈指針(排出権)

今回の会議では、排出権に関する解釈指針であるIFRIC3(排出権)を廃止し、IAS第38号(無形資産)又はIAS第39号(金融商品:認識及び測定)を改訂して、排出権に関する新たな取扱いを検討することが決定された。ここでは、この問題を巡る経緯について解説する。

(1)IFRIC3に対する懸念

IFRIC3は、キャップアンドトレードといわれる排出権の取引に関する解釈指針として、2004年12月に公表され、2005年3月1日から発効している。ところが、EFRAG(欧州財務報告アドバイザリー・グループ)から、その内容について懸念が表明され、IFRIC3をEUは承認しないようにとの勧告が2005年5月に出された。また、これとは別に、IASBは、欧州委員会(EC)からは、発効日を延期するようにとの要請を受けていた。

EFRAG等から表明されている懸念は、次の2つの測定のミスマッチの存在である。これらによって、損益が変動してしまうという不満足な帰結をもたらすことが指摘されている。

  1.  政府等から付与されるアローワンス(資産)はIAS第38号の原価モデルに従って取得原価で測定されるが、アローワンスを引渡さなければならない義務(負債)はIAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)に従って現在価値で測定しなければならない。このように資産と負債の間に「測定のミスマッチ」が存在する。
  2.  アローワンス(資産)はIAS第38号の再評価モデルに従う場合、当初認識以後再評価額で測定されるが、再評価額の変動額は、資本の部で直接認識することが求められている。一方、アローワンスを引渡さなければならない義務(負債)はIAS第37号に従って現在価値で測定され、その変動は、損益計算書で認識される。このように、資産の価値の変動と負債の価値の変動が認識される場所が、資本の部と損益計算書に分かれてしまうという「報告のミスマッチ」が存在する。

上記2つに加え、アローワンス(資産)は政府等から付与された時点で全額が認識されるが、アローワンスを引渡さなければならない義務(負債)は、その義務の発生と共に事業年度にわたって認識される。アローワンス(資産)を政府等から付与されたことによって生じる政府補助金は、IAS第20号(政府補助金)に従って存続期間にわたって償却されるが、この償却額がアローワンスを引渡さなければならない義務(負債)が事業年度にわたって認識される金額と一致するとは限らない。このような認識時点の「タイミングのミスマッチ」も問題となり得る。また、現在別途進行中のIAS第20号の見直しでは、条件の課されている政府補助金はその条件が満たされるまで負債として認識するが、条件の課されていない(無条件)政府補助金はその受領時に損益として認識する方向で検討が行われている。もし政府等からのアローワンスの付与が無条件政府補助金に該当する場合には、アローワンスに係る利益の認識時点とアローワンスを引渡さなければならない負債の認識時点との間にミスマッチが生じる。

(2)IFRIC3の廃止

IASBが2004年12月にIFRIC3を承認したときには、2005年からキャップアンドトレード市場が開設され、取引が活発に行なわれることが予想されたため、排出権に関する問題をIFRS自体の改訂も視野に入れて包括的に検討するのではなく、現行IFRSを排出権取引に適用するためにどのようにしたらよいかという視点での解釈を模索した。したがって、IFRIC3は、現行IFRSの枠組みを前提とした解釈である。IASBは、IFRIC3は、現存のIFRSの解釈としては妥当であることを今回改めて確認したが、キャップアンドトレード市場が当初予想されたよりもゆっくりとしたペースで整備されつつあり、更に、EFRAG等からの懸念が表明されていることもあり、今回、排出権取引の実態をより適切に会計処理するため、IAS第38号や第39号の改訂を前提とした検討をすべきであるという点で一致した。このような結論に至ったため、IASBは、現行IFRIC3を直ちに廃止することとした。したがって、この問題の検討は、今後、IFRICではなく、IASB自身が行なうこととなる。


  1. 代替案2には、活発な市場が存在する場合に限って、履行義務を公正価値で測定するというアプローチを採用するアプローチ(これを「代替案2a」と呼んでいる)を含む。
  2. まだ決定されていない。しかし、当初測定を公正価値で行うという考え方を論理的に拡張すると、事後測定も公正価値で行われるということになる。
  3. 契約を獲得する活動は、独立した構成要素として識別されない。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)