IASB(国際会計基準審議会)の第46回会議が、2005年5月16日から18日の3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回は、1. IFRS公開草案第7号(金融商品:開示)、2. 業績報告、3. IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)の改訂、4. 概念フレームワーク(質的特性1)、5. 中小規模企業(SME)の会計基準、6. 測定、7. 保険会計(第2フェーズ)及び8. 解釈指針案(IFRIC)の検討が行われた。IASB会議には理事14名全員が参加した。本稿ではこれらの議論の概要を紹介する。
金融商品に関する開示全般を取り扱う公開草案第7号(ED7)(金融商品:開示)の基準化に向けた議論が最終段階に達している。今回は、1. 保険契約に関する開示、2. 当初認識時に認識される損益の開示及び3. 今後の日程について議論が行われ、1. 及び2. について暫定的な合意が形成された(以下では1. 及び2. について記述する)。なお、本公開草案に関する最終的なIFRS(ただし、IFRS第4号の適用ガイダンスの改訂を除く)の公表は2005年7月が予定されている(下記(1)の末尾参照)。
一部のボードメンバーと欧州の保険会社のトップとの会合が行われ、これを受けて、ED7によって新たに設定されるIFRSの開示要求との整合性を図るためIFRS第4号(保険契約)をどのように改訂すべきかが議論された。その結果、保険会計の第2フェーズが終了するまで大きなシステム変更を伴う開示は求めるべきではない等を考慮して、次のように取扱うことが暫定的に合意された。
(a)ED7では、1. 期末現在におけるリスク変数の合理的に見込まれる変動が損益及び資本にどのように影響を与えるかを示す感応度分析、2. 用いた方法と仮定及び3. それらの前期からの変更の開示を求めている。さらに、これに加えて、リスク変数間の相関関係も加味したバリュー・アット・リスクのような感応度分析を行っている場合には、前述の感応度分析の開示に代えて、これを開示することができるとされている。今回、このオプションを拡張して、保険会社のキーとなる経営者が、文書化されたリスク管理又は投資方針に従って作成されたエンベッディド・バリューなどの技法を用いた感応度分析を業績の管理や評価に用いている場合には、当該感応度分析の開示を行なうことも認める。
(b)感応度分析の開示は、企業全体をカバーする分析であることが求められているが、異なる種類の金融商品に対しては、異なるタイプの感応度分析を用いることができるようにする。なお、この取扱いは、保険会社以外の企業にも適用する。
(c)流動性リスクの開示では、満期日別の分析の開示が求められている。しかし、保険会社の場合には、満期の明示されていない保険契約が存在することや、流動性リスクの管理は国又は企業別に行なわれており保険会社全体としての流動性リスク管理が行なわれていない等の理由で、満期日別分析に代えて、流動性リスクの源泉及び流動性リスクがどのように管理されているかとった定性的な分析を代替的開示として行なえる選択肢の導入が保険会社のトップから求められていたが、検討の結果、そのような選択肢の導入は行わないこととされた。
(d)IFRS第4号の適用ガイダンスに次の事項を追加する。
このほか、上記の暫定合意を踏まえて、これらを取り込みつつ、ED7の基準化を迅速に行なうために、今後どのように取り進めるべきかが議論され、2005年1月1日から始まる事業年度でED7に基づく開示を早期適用したいという企業の希望にできるだけ迅速に対応するため、次の通り取り進めることが暫定的に合意された。
(a)IFRS第4号の適用ガイダンスの改訂(上記(d))を切り離し、これを除く部分(すなわち、ED7の基準化とIFRS第4号の本体の改訂)を2005年7月に完成させる。
(b)IFRS第4号の適用ガイダンスの改訂(上記(d))は、年内を目処に完成させる。
IAS第39号の適用ガイダンスAG第76項(活発な市場がない場合における評価技法の適用に関するガイダンス)では、金融商品の当初認識時の公正価値の最良の証拠は、取引価格であるとしているものの、1. 他の観察可能な最近の市場取引と比較して公正価値が証拠付けられる場合と2. 観察可能な市場からのデータのみが変数となっている評価技法に基づいて公正価値が証拠付けられている場合には、取引価格以外を用いることができることが示唆されている。このため、取引価格以外を用いる場合には、金融資産又は金融負債の当初認識時に損益が生じることになる。
このような当初認識時に認識される損益に関連して次の開示を求めることが、2005年2月に暫定的に合意された。
ところが、その後、この決定に対して、適切なデュー・プロセスを経ない決定であると指摘するレターが送られてきたことから、今回、改めて、上記決定内容の確認のための議論が行われた。
議論の結果、次の点が改めて確認された。
2005年4月の会議で、現在の損益計算書に代えて、小計として当期利益を含み末尾を包括利益とする単一の計算書として「当期利益及び包括利益計算書(statement of earnings and comprehensive income)」を導入することが暫定的に合意された。これを受けて、「当期利益及び包括利益計算書」において1株当たり利益(EPS)及び1株当たり包括利益(CPS)をどのように表示すべきかについて議論が行われた。
今回議論された論点は、次の通りである。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
IAS第37号改訂のための公開草案ドラフトの内容の検討続いているが、今回は、ドラフトを各ボードメンバーが検討する過程で指摘された論点について議論が行われた。今回の論点は、1. 測定ガイダンスの追加の要否、2. 引当金の定義の要否、3. 偶発資産及び偶発負債に関する開示及び基準タイトルの変更の要否、4. 比較情報の開示、5. 経過措置、6. 赤字引当金及び7. 公開草案の様式の7点であった。このうち、1. から5. について紹介する。
今回の暫定合意の中では、IAS第37号のタイトルを「非金融負債(Non-financial Liabilities)」とした点(引当金という概念の削除)及び「偶発資産及び偶発負債」という概念を削除した点が特筆される。
ボードメンバーから現在検討している改訂(例えば、偶発負債を無条件債務と条件付債務に分け、前者は負債の定義を満たすため負債として認識する。その測定に当たっては、偶発事象が発生する確率を考慮する。)は、あまりにも理論的な改訂であり、実務上どのように対応すべきかに関して、十分なガイダンスが提供されていないとの指摘があり、議論が行われた。
議論の結果、概念的には大きな改訂であるが、IAS第37号に基づく実務にはそれほど大きな影響を及ぼさないと考えられたため、例示を拡充する形で測定のためのガイダンスを提供することが暫定的に合意された。
現行IAS第37号では、引当金は、「時期と金額が不確定な負債」と定義している。したがって、引当金は負債の一部ということになるが、負債と引当金の境界は明確ではない。そのため、金融負債ではなく、また、他のIFRSの対象となっている負債(例えば、IAS第11号(工事契約)、第17号(リース)及び第19号(従業員給付))でもないが、さらに引当金に該当しないものがあると主張することができる余地がある(もしそのような負債があるとすると、そのような負債を規定するIFRSは存在していないことになる)。IASBは、金融負債及び他のIFRSの対象となっている負債以外の負債は、すべてIAS第37号の対象とすべきだという結論に達し、それを達成するには、現在の引当金の定義では不十分であることを認識した。
議論の結果、「引当金」という概念をやめ、IAS第37号の適用対象を「他のIFRSの対象となっているものを除くすべての非金融負債」とすることが妥当だとの暫定的合意に達した。これに伴い、IAS第37号の「目的」も、「他のIFRSの対象となっているものを除くすべての非金融負債の認識、測定及び開示に関する原則を構築するものである」と改訂される予定である(これに伴うIAS第37号のタイトルの変更は後述する)。
今回、偶発資産及び偶発負債という概念をIAS第37号から削除することが暫定的に合意された。
現在のIAS第37号では、偶発負債(contingent liability)は、債務を決済するために必要とされる資源の流出の可能性が低いか、又は、債務の金額を十分な信頼性を持って測定できないため(すなわち、負債の認識規準を満たさないため)、認識されない潜在的な債務(possible obligation)又は現在の債務(present obligation)であると定義されている。したがって、偶発負債の決済によって資源が流出する可能性が高くならない限り、偶発負債を負債として認識することは認められておらず、注記による開示が求められているのみである。
ところが、これまでのIAS第37号の改訂を巡る議論では、偶発負債は条件付債務(conditional obligation)であり、現在の債務(present obligation)ではないので、負債ではないと解釈する考え方を採用している。また、多くの場合、偶発負債は無条件の債務(unconditional obligation)を伴っており、この無条件の債務は負債の定義を満たすとされている。例えば、製品保証を行っている場合、保証期間中いつでも製品保証を行うという待機状態でいることは無条件の債務(現在の債務)を負っていることを意味し、実際に製品の欠陥が生じた場合にそれを補修するという債務は、製品の欠陥の発生を条件として生じる条件付債務であるとされる。このケースでは、保証期間中いつでも製品保証を行うという待機状態は、無条件の債務に該当し、負債として認識すべきものとされる。さらに、この無条件の債務を負債として認識する際に行われる測定では、将来製品に欠陥が生じる可能性が考慮される(すなわち、経済的便益が企業から流出するタイミングや金額が将来の不確定な事象の発生又は不発生を条件としている場合において、その偶発性を測定に当たり考慮する)。言い換えると、この考え方の下では、製品の欠陥の発生という偶発性は、無条件債務(負債)の測定の中で考慮されている。そのため、偶発資産及び偶発負債という用語を用いる必要がないため、今回、この概念は削除されることとなった。
IAS第37号から「引当金」及び「偶発資産及び偶発負債」という用語を削除することとしたため、タイトルを「非金融負債」とすることが暫定的に合意された。
現行IAS第37号では、第85項から第92項において、偶発資産(経済的便益の流入の可能性が高い場合には、偶発資産の内容、財務上の影響の見積額)や偶発負債(財務上の影響の見積額、経済的便益の流出の金額又は時期に関する不確実性の内容及び補填の可能性)に関する開示が求められている。
今回、「偶発資産及び偶発負債」という概念を削除することに伴って、上述の開示も削除されることが暫定的に合意された。ただし、今後は、「偶発資産及び偶発負債」が有していた条件付債権・債務は、無条件債権・債務が資産・負債の測定値に反映されて認識されることから、削除された開示内容は、認識された資産・負債の内容に関する注記の一部として実質的に今後も開示されることとなる。
現行IAS第37号第84項では、引当金の期首から期末までの変動の調整表の開示が求められているが、求められている開示は、当期に関するもののみで、前期の比較情報の開示は求められていない(適用免除)。今回、この免除規定を削除して、非金融負債の調整表(改訂後のIAS第37号では、引当金に代えて、非金融負債についての調整表の開示が求められる)については、比較情報の開示も求めることとされた。
もし今回の改訂内容に遡及修正を要求すると、後になっての判断(hindsight)に基づいて過去の見積りを行なうことを許容することになる。例えば、偶発負債の場合、これまで認識されていなかった無条件債務を負債として認識・測定することになるため、過去の時点での測定に当たり、無条件債務に伴う条件付債務の発生の可能性を遡及修正時点から評価しなければならなくなる。このため、改訂IAS第37号は、2007年1月1日以降最初に開始する事業年度から将来に向かって適用することが暫定的に合意された。したがって、比較財務諸表の遡及修正は必要がない。また、IFRSの初度適用企業にも同様な取扱いを求めることとされた。
今回は、概念フレームワークの本格的な議論の第2回目として、質的特性のうち、「目的適合性(relevance)」と「信頼性(reliability)」及びそれらに内包されるサブ特性に絞って議論が行われた。具体的には、次のような点について議論が行われ、合意が形成された。なお、これ以外の質的特性(理解可能性及び比較可能性)については次回議論が行われる予定である。
目的適合性は、最も重要な質的特性である。有用であるためには、情報は、利用者が過去及び現在の事象が将来の純キャッシュ・フローに与える影響を評価する際に役立つことによって(予測価値)、又は、従前の評価を確認又は修正する際に役立つことによって(確認価値)、利用者の経済的意思決定に当たり、差異をもたらすことができるものでなければならない。また、情報は利用者が必要とするときに入手可能でなければならない(適時性)。
すなわち、目的適合性は、予測価値(predictive value)、確認価値(confirmatory value)及び適時性(timeliness)という3つのサブ特性から構成される。なお、会計情報は、利用者が予測を行う際に利用するか、又は利用できる場合に予測価値を有しているとされる。
信頼性は、IASBの場合、さらに、表現の忠実性(faithful representation)、実質優先(substance over form)、中立性(neutrality)、慎重性(prudence)及び完全性(completeness)の5つのサブ特性から構成されている。FASBの場合には、表現の忠実性(representational faithfulness)、実証可能性(verifiability)及び中立性(neutrality)の3つのサブ特性から構成されている。信頼性に関する議論は、次の通りであった。
本プロジェクトでは、2005年10月に開催予定の円卓会議(主として認識及び測定の簡素化のあり方について議論する)で議論する論点を明確にするための質問状を2005年4月に公表し、コメントを求めている。これと並行する形で、SMEの一般目的財務諸表の表示(presentation)及び開示(disclosure)に関する質問状を作成することが意図されており、今回、これに関連する議論が行われた。議論されたのは、1. SMEの定義を構成する3つの鍵となる概念の明確化及び2. SMEの一般目的財務諸表を構成する財務諸表の内容であった。なお、中小規模企業に対して、「NPAE(Non-Publicly Accountable Entities)」という用語を一時期用いていたが、今後は人口に膾炙している「SME」を用いることとなった。
本プロジェクトでは、SMEは、1. 公的説明責任(public accountability)がなく、かつ、2. 外部の利用者のために一般目的財務諸表を公表する企業と定義されている。今回、この定義を構成する、公的説明責任、外部の利用者及び一般目的財務諸表の3つがどのような内容を有しているかが議論された。
IASBは、企業が公的説明責任を有している場合とは、次のような場合を指すことに暫定的に合意しているが、この点が改めて確認された。
IASBの概念フレームワーク第9項では、「財務諸表の利用者には、現在の及び潜在的な投資者、従業員、貸付者、仕入先及びその他の取引業者、得意先、政府及び監督官庁並びに一般大衆が含まれる。利用者は、情報に対する各自の異なる要求のいくつかを満足させるために財務諸表を利用する。」とされている。IASBは、SMEの外部利用者を定義する際に、この定義を適用することができることを確認した。また、SMEという文脈では、外部利用者には、通常、企業の経営管理に携わっていない所有者、現在の及び潜在的な債権者(貸付者や仕入先)及び格付機関が含まれる。
IAS第1号(財務諸表の表示)の第3項では、「一般目的財務諸表とは、自己の特別に必要な情報ニーズに合わせた報告書を要求する立場にない利用者たちの要望を満たすための財務諸表である」とされているが、IASBは、この規定がSMEの文脈においても適切であることを確認した。
IASBでは、一般目的財務諸表の表示及び開示に関する質問状を作成する予定であるが、そこで質問すべき項目について議論が行われた。IAS第1号第4項では、完全な1組の財務諸表(a complete set of financial statements)は次の諸表から構成されるとされている。
今回一般目的財務諸表に関連して、次の論点が議論されたが、合意は形成されていない。
IASBの依頼に基づいて、概念フレームワークの中で最も検討が遅れているといわれている「測定」のうち「当初認識時の測定」に関する研究がカナダ企業会計基準審議会(AcSB)よってリサーチ・プロジェクトとして行われている。その研究の成果が「財務会計の測定基礎:当初認識時の測定」としてまとまり、これをディスカッション・ペーパー(DP)として、IASBのロゴを付して公表する段階に来ている。今回は、DPとして公表することをIASBとして認めるかどうかが議論された。議論では、次の点が検討された。
DPでは、当初認識時の測定に用いることのできる測定属性として、1. 取得原価、2. 再調達原価、3. 再生産原価、4. 正味実現可能価額、5. 使用価値及び6. 公正価値等を検討した結果、公正価値を最も適切な測定属性とし、公正価値の算定のためのヒエラルキーについても言及している。
議論の結果、次の点をDPで明確にすることを条件に、今回提示された内容でDPとして公表することが支持された。
保険会計に関しては、2004年9月にワーキンググループが組織され、その後4回にわたる会合において、損害保険契約及び生命保険契約ごとに論点の整理が行われてきている。また、IASB会議の一環として行なわれている教育セッションにおいても、保険会計の論点について、関係者からのプレゼンテーションを受けること等が行われてきた。このような一連の動きを受けて、今回、損害保険契約に適用すべき会計モデルに関する議論が行われた。
今回議論された論点は次の通りであるが、もっとも重要な点は、損害保険契約に対してどのアプローチを適用するかで、後述するように4つのアプローチが提案され、そのうち2つについて、今後検討することが暫定的に合意された。
今回、次の4つのアプローチが示され、スタッフからは、アプローチC及びDについて今後研究をすべきとの提案が行なわれた。議論の結果、この方向で今後議論することが暫定的に合意された。
既に触れたように、スタッフの提案に基づき、今後アプローチC及びDに基づいて損害保険契約の会計処理が検討されることとなったが、アプローチC及びDの特徴は、次の通りである。
今回の会議では、公開草案D10(ある特定市場への参加によって生じる負債-廃棄電気電子器具)及びD11(従業員株式購入プランへの拠出)について議論が行われた。
D10は、2004年11月に公開草案が公表され、その後のコメントの検討を経て、今回最終解釈指針として公表することに対するIASBの了承が求められた。
この公開草案は、IAS第37号の解釈に関連するもので、欧州連合(EU)で廃棄電気電子器具に関する指令が制定され、これに伴って2005年8月13日以前に一般家庭向けに販売された電気電子器具(これを「HHE」という)の廃棄物管理費用を「測定期間」と呼ばれるEU各国が定める一定期間に市場に参加している製造業者にその市場占有率等の一定の仕組みに基づいて負担させようというものである。EU各国は、そのような負担制度を構築することが義務付けられている。D10の解釈案は、HHEの廃棄物管理費用に対するIAS第37号第14項(a)に基づく債務発生事象(obligating event)は、測定期間に市場に参加することであり、製造業者等がHHEを販売又は製造することによっては、HHEの廃棄物管理費用に対する負債は生じないという考え方に基づいて解釈が示されている。
議論では、EUという特定地域の特定の法律の施行に対応して解釈指針を公表することが妥当かといった根本的な問題が提起されたが、すでにある特定地域の問題に関して過去にも解釈指針が公表されており、そのことを理由に解釈指針の公表が中止されるべきではないと判断された。また、この解釈指針で取扱われた内容は、最終的には、IAS第37号の改訂を通じて、基準本体の中に反映されるべきであるという点でも一致した。
議論の結果、次の点を修正したうえで最終解釈指針として公表することが承認された。
D11は、2004年12月に公開草案が公表され、その後のコメントの検討を経て、IFRIC(国際財務報告基準解釈指針委員会)で検討が行われているが、その過程で、IFRS第2号(株式報酬制度)の規定の不備が明確になり、IASBは、IFRICの解釈を確認すると共に、IFRS第2号の改訂を含めた基準の明確化を行なうこととした。
D11は、英国等で普及している「従業員株式購入プラン(ESPP)」に対する拠出の会計処理に関する解釈指針案である。ESPPでは、従業員が一定期間(3年、5年及び7年等)にわたって拠出を行い、期間の終了時点で、当該拠出金を用いて、当該期間の開始時点の株式の市場価格の20%引きの価格である一定数の株式を購入するかを従業員が決定できるという仕組みである。従業員は、期間中いつでも拠出を中止することができ、また、期間が終了するまで拠出をしても株式を購入する義務はなく、返金を受けることができる。
ESPPを巡る解釈の焦点は、従業員が拠出を中止する行為を1. 「権利の喪失(forfeiture)」と見るか、2. 「解約(cancellations)」と見るか、又は、3. オプションの権利不行使と見るかという問題である。権利の喪失と見ると、それ以前に費用として認識されていた株式報酬に係る費用をその時点で振戻して利益として認識する会計処理が適用される。また、解約と見ると、従業員が労働サービスを提供することが予定されていた期間のうち残存している期間に配分される予定であった費用が、解約時点で一括して認識されることになる。さらに、オプションの権利不行使と見ると、この行為は株式報酬の会計処理に影響する事象ではないため、何の会計処理も行なわれないこととなる。IFRICは、このような解釈案を検討した結果、解約と見る立場を採用してD11を公開した。
コメントを受けての検討過程において、次の2点を巡ってIFRICは検討を進めることができなくなり、今回IFRICからIASBに対して見解を示すよう依頼があり、検討が行われた。
これらについて議論が行われた結果、IASBは、従業員がESPPに拠出を続けることは権利確定条件と見るべきではないと判断し、従業員の拠出の中止は、従業員からの解約として会計処理すべきであるとの暫定合意さに達した。また、これに伴い、IFRS第2号を下記の通り改訂することも暫定的に合意された。
以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)