IASB(国際会計基準審議会)の第44回会議が、2005年3月15日と17日の2日間ロンドンのIASB本部で開催された。今回は、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS(国際会計基準)第39号の改訂(金融保証と信用保険に関する改訂公開草案)、3. IAS第39号の改訂(公正価値オプション)、4. IAS第32号の改訂(公正価値でプットできる金融商品)、5. IFRS(国際財務報告基準)公開草案第7号(金融商品:開示)、6. 負債と資本の区分、7. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税、セグメント情報及び会計方針の変更の取扱い)、8. 中小規模企業(NPAEs)の会計基準及び9. 解釈指針案(IFRIC)の検討が行われた。また、このほか教育セッションでは、米国の金融商品に関する会計基準とIAS第39号との統合化を今後取り進める場合どのような差異項目があるのか、またそれらのうちどれを取上げるべきかに関しての議論が行われた。このほか、3月16日には、公正価値オプションに関する円卓会議が開催された。IASB会議には理事14名全員が参加した。本稿では会議での議論の概要を紹介する。
第2フェーズの公開草案に関する議論は殆ど終わっているが、今回は、公開草案の公開期間と発効日に関する議論が行われた。
IASCF(国際会計基準委員会財団)の公開草案の公表に関する取り決めでは、公開期間は通常90日とされている。また、IASBが公開草案を決定してから公表するまでに20営業日の間隔をあけることがリエゾン国との間で合意されている。これは、リエゾン国が公開草案の内容に関して自らのコメントを付してIASBの公開草案を自国で公表できるようにするために設けられているものである。したがって、これまでは、IASBが公開草案を決定してからコメントの締切日までの間隔は通常120日となっていた。今回、企業結合第2フェーズの内容が多岐にわたることから、公開期間を120日とすることが暫定的に合意された。それとともに、現在は、IASB活動の透明性を高めるために、最終公開草案に近い段階のもの(IASBの投票にかけられたドラフト)がウエッブサイトで公開されていることから、これまでリエゾン国に対して認めていた20営業日の間隔をあけないこととしてはどうかとの意見か大勢を占め、2005年4月に開催されるリエゾン国会議で、20営業日の間隔をあけないことについてリエゾン国の了解を求めることとされた。それが了解されれば、今後IASBが公開草案の内容を決定した段階で、直ちに公開草案が公表されることとなる。
最終基準の発効日を2007年1月1日とすることが暫定的に合意された。ただし、公開草案では、特定日を指定するのではなく、最終基準が公表されてから3~6ヶ月後を発効日とするという表現とすることが暫定的に合意された。
今回の会議では、1. 金融保証契約と信用保険の取扱いに関する新たな提案が示され、これについて議論が行われ(今回結論が出なかったが、2005年4月会議ではこのプロジェクトの中止を含めた最終決定を行うこととされた)、さらに2. その他の事項(グループ内保証を個別財務諸表で負債として認識すること、金融保証契約を公正価値オプションの対象とすること及び金融保証契約に関する開示)についての議論が行われた。
1.公開草案の提案
金融保証契約と信用保険の取扱いに関する議論が今月も引続き行われた。殆どの金融保証契約が保険契約の定義を満たすため、現行規定の下では、重要な保険リスクを移転する金融保証契約は、IFRS第4号(保険契約)に従って会計処理されることとなっている。このため、一般事業会社が金融保証契約の会計処理を行うには、保険契約に関するIFRS第4号を参照しなければならないという事態になっている。このような事態を避けるため、2004年7月に公表された公開草案(金融保証契約及び信用保険)では、新たにIAS第39号に金融保証契約の定義(「特定の債務者が、支払期日に負債金融商品の当初又は改訂後の条件に従った履行を行わないために契約者に生じた損失に対して保証人(契約の発行者)に特定の支払いを求める契約」)を設けた上で、その定義に該当する信用保険は、保険契約に該当していてもIAS第39号の対象とした上で(すなわち、信用保険はIFRS第4号の対象外とする)、次のような測定を行うことを提案している。これによって、金融保証契約の会計処理は、保険契約の形式を取っていてもIAS第39号で一律に規定しようというのが公開草案の狙いであった。
2.2005年1月会議の暫定合意
公開草案に対して寄せられたコメントを分析した結果、2005年1月会議において、IASBスタッフは本公開草案を取り下げるという提案を行ったが、IASBは、これを退け次のような方向で基準化を図ることに暫定的に合意した。
金融保証契約及び信用保険に対して、次に示す(a)又は(b)の2つの方法のいずれかを選択適用することを認める。
(a)次のような測定。
(b)IFRS第4号の負債適正性テストを適用するが(すなわち、1. すべてのキャッシュ・フローを含んだキャッシュ・フローの予測を用い、2. テストの結果負債が不十分な場合その差額をすべて損益として認識するという要件を満たしていれば、企業が自ら設定し会計方針として採用している負債適正性テストを用いることができる)、その結果認識される負債額は、IAS第37号に基づいて計算された負債額を下回ってはならないという方法による測定。この結果、この選択肢の下では、次のような処理となる。
この暫定合意は、公開草案の提案(IAS第39号の改訂)を取り入れながらも、信用保険(保険契約)をIAS第39号に移すことに伴い保険契約に関する規定をIAS第39号にも取り入れなければならないという問題の発生を避けるため、現行IFRS第4号の負債適正性テストの考え方も、これを強化した上で継続させようというものである。言い換えると、企業の選択によって金融保証契約と信用保険に対して、IAS第39号の会計処理又はIFRS第4号の会計処理のいずれかを適用できるようにするものの、いずれを採用しても、認識される負債の最低額は、IAS第37号によって認識された金額を下回ることがないようにしようという取扱いである。
2005年3月会議では、1月での暫定合意とは異なる次のような提案がスタッフから示され、議論が行われた。
「公開草案の提案のように金融保証契約の定義に該当するものは、原則としてIAS第39号の範囲とするが、次のような性質を持つ金融保証契約については、IFRS第4号を適用する選択肢を導入する。
この提案は、1. 信用保険をIAS第39号に移すことに伴い保険契約に関する規定をIAS第39号にも取り入れなければならないという問題の発生を避けることができるとともに、2. 2005年1月の暫定合意にあるようなIFRS第4号の改訂を回避できる(暫定合意では、信用保険にのみ「IAS第37号に基づいて計算された負債額を下回ってはならない」という規定を導入することが提案されている)という利点があるとされた。
議論の結果、この提案でIFRS第4号の適用を認めるための規準が実務上明確に規定できないとの見解が多数を占めた。スタッフから提案されているこのプロジェクトを中止すべきという点について再度採決されたが、賛成6反対7(採決時1名欠席)となったため、何らかの改訂を行うこととされ、次のような新たなアプローチを探ることとされた。このアプローチについて、今後スタッフが詳細を検討し、2005年4月の会議でこの問題についての最終結論を出すことが合意された。
今回の会議では、1. 保険負債の測定に当たり、保険金を支払ったことに伴う代位権からのキャッシュ・フローの取扱い、2. グループ内の金融保証契約の個別財務諸表における取扱い及び3. IAS第39号が適用される金融保証契約を公正価値オプションの対象とするかどうか及び4. IAS第32号とIFRS第4号との間にある開示の差異をどのように取扱うかが議論された。
この問題は、2005年1月の暫定合意において、IFRS第4号を改訂して信用保険に関する負債に対しては、「IAS第37号に基づいて計算された負債額を下回ってはならない」という規定を導入することが提案されているために検討されていた問題である。すなわち、保険負債の負債適正性テストに当たっては、保険負債に関連するすべてのキャッシュ・フローを考慮に入れることを求めているが、その際に保険金の支払いに伴って取得した代位権から生じるキャッシュ・フローをどのように取扱うべきかを明確にする必要があり検討されていたものである。しかし、今回の議論で、信用保険に対してのみ「IAS第37号に基づいて計算された負債額を下回ってはならない」という規定を導入することを断念したため、この問題は検討の必要がなくなった。
金融保証契約は、当初認識時に公正価値で測定することが求められている。ところが、連結グループ内で、例えば親会社が子会社に対して金融保証をしているが、保証料を受取っていない場合、又は、受領しているとしても第三者間取引に比べてかなり低い金額となっている場合には、親会社の個別財務諸表において、負債がまったく認識されないか、又は過少に認識されるおそれがある。そこで、親会社の個別財務諸表においては、保証料の授受等にかかわらず金融保証契約に伴う負債を認識する必要があるされ、先月に引続き今回議論が行われた。議論の結果、このような金融保証契約に伴う負債を個別財務諸表で負債として認識すべきであり、例外を設けるべきではないということが暫定的に合意された。なお、米国会計基準では、FASB解釈指針第45号(他者の債務の間接的な保証を含む保証に関する保証人の会計処理及び開示要求)は、親子間及び共通支配下の企業間の金融保証契約に対しては適用されないため、この暫定合意の結果、両者の取扱いに差異が生じてしまうことになる。また、この問題は、個別財務諸表上の問題であり、連結財務諸表では問題とならない。なぜなら、連結財務諸表上では、子会社の有する(すなわち、保証の対象となっている)負債自体が認識されるため、金融保証契約に関連する負債を認識する必要はなく、連結財務諸表上相殺されるためである。
公開草案では、意図せずに、金融保証契約に対しては公正価値オプションが適用できないという取扱いとなっていた。コメントを受けて議論が行われた結果、金融保証契約を公正価値オプションの対象とすることが暫定的に合意された。
金融保証契約をIFRS第4号の適用対象とするかIAS第39号の適用対象(これに該当した場合にはIAS第32号(金融商品:開示及び表示)が定める開示が要求される)とするかによって開示項目に2つの差異が生じる。1つは、IFRS第4号で求められているクレーム・ディベロップメントの開示がIAS第32号では求められていない点であり、もう1つは、IAS第32号が求めている公正価値の開示がIFRS第4号では求められていない点である。
今回の議論において、最終的に、「従来から金融保証契約を保険契約として取扱い保険として会計処理を行ってきている場合には、公開草案でのアプローチ又はIFRS第4号の適用のいずれかを選択することを認める」という新たなアプローチを探ることとされたが、このアプローチが採用された場合、IAS第39号を適用した金融保証契約に対しては、IAS第32号の開示要求を適用し、IFRS第4号を適用した金融保証契約に対しては、IFRS第4号の開示要求を適用する(すなわち、適用されるIFRSによって開示内容が異なることを許容する)ことが暫定的に合意された。
IAS第39号で認められている公正価値オプションは、金融資産又は金融負債を取得した時点で、取引ごとに、企業の選択によって公正価値による測定を行い、その公正価値の変動を損益計算書で認識するという選択肢である。2003年12月のIAS第39号の改訂に当たり、EC委員会等からの要望を受けて導入したものである。しかし、その後公正価値オプションはあまりに適用範囲が広いとの欧州中央銀行(ECB)やバーゼル銀行監督委員会等の指摘を受けて、2004年4月にその適用範囲を限定するための公開草案、IAS第39号の改訂(公正価値オプション)を公表した。これに寄せられた116通のコメントのうちの76%が改訂内容について反対の意向を示しており、反対は、規制当局を除く全業種のコメント提出者にわたっている。さらに、反対者のうち60%が現行の公正価値オプションに変更を加えるべきではないとコメントしている。このような結果にも拘らず、規制当局の懸念は払拭されず、適用範囲をさらに狭めることかが規制当局から求められている。このような状況を踏まえ、IASBは、2004年12月に公開草案での提案に代わる公正価値オプションに関する新たなアプローチを提案し、ホームページを通じるなどして意見を求めた。新たなアプローチに対するコメントを受けて、更なる改訂案(以下「改訂新アプローチ」という)が2005年2月に提示され、この提案に基づいて2005年3月16日に円卓会議が開催された。ここでは、改訂新アプローチの内容及び円卓会議の概要について解説する。
改訂新アプローチは、公正価値オプションが適用できる場合を2004年12月に示された新しいアプローチよりも更に狭めたもので、公正価値オプションを次の3つの場合にのみ適用することを認めている。
なお、銀行や保険会社の監督当局の権限についての記述(「監督当局の権限には、公正価値の決定に対する規定の適用及び関連するリスク管理システム及び方針に対する監督を含む」という内容)は、基準本体からははずし結論の背景に移すこととされている。
今回の会議では、発効日と経過措置に関する議論が行われた。議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
円卓会議は、2005年3月16日にロンドンで開催された。会議は、銀行関係者、保険関係者及びその他に分けて3回行われた(1回2時間)。日本からは、生命保険協会及び日本公認会計士協会から関係者が参加した(日本公認会計士協会関係者は電話による参加)。参加者の多くが、改訂新アプローチに基づく公正価値オプションについて賛成である旨の意思を表示していた。しかし、参加した規制当局者からは、明確な意見は表明されなかった。
2004年6月及び7月に議論された問題で、企業の純資産の公正価値の比例持分でプットできる金融商品(現行IAS第32号では金融負債として会計処理される)を資本として表示することができないかどうかが議論されている。この問題は、当初IAS第32号の解釈の問題として、ニュージーランドのある企業から国際会計基準解釈委員会(IFRIC)に提起された問題であった。しかし、提起された問題は、IAS第32号の改訂によってしか解決できないと判断された結果、IASBにおいて議論することとなったものである。
現行IAS第32号の規定では、公正価値でプットできる金融商品は金融負債として会計処理されるため、その測定には、IAS第39号が適用される。IAS第39号では、金融負債の当初認識以降の測定は原則として償却原価によることとされている(第47項)。しかし、ここで問題となっている公正価値でプットできる金融商品に対して償却原価法を適用することは償還日が確定できない等の理由で困難と見られており、議論では、当該金融商品を公正価値で測定することが前提とされている。そのため、純資産と公正価値でプットできる金融商品の公正価値に大きな差異がある場合には、当初認識以降公正価値によって金融負債を測定することにより大きな損失が損益計算書で認識されるので(金融負債が大きくなればその分だけ損失が増大する)、貸借対照表上、純負債となるとともにマイナスの未処分利益剰余金が表示されるという事態が起こりうる。このような変則的な事態を回避するため、IAS第32号に例外を作り、公正価値でプットできる金融商品は、金融負債として表示しないこととする必要があるかどうかが議論の焦点である。
2004年7月の会議では、公正価値でプットできる金融商品を資本として表示できるようにIAS第32号に例外を設けるという方向で検討を続けることが暫定的に合意され、スタッフに対してさらなる検討が指示されていた。
この問題は、ニュージーランドの財務報告基準審議会(Financial Reporting Standards Board)のスタッフによって検討が行われ、今回、IAS第32号に例外を設けるための金融負債の定義の変更案が提示された。その提案では、残余持分を示す金融商品であること、最劣後の請求権であることなど7つの条件を満たした場合には、そのような金融商品を資本として表示することができるという金融負債の定義の改訂が示されている。
議論の結果、この問題は、現実に困難に直面している企業があることから緊急を要することは理解できるものの、公正価値でプットできる少数株主持分、存続期間が限定されている事業体、さらに、公正価値でプットできるパートナーシップといった類似の問題をも検討範囲に含め、より一般化した解決策を検討すべきであるとの暫定的合意に達した。また、負債と資本の区分プロジェクトとも連携して議論すべきとされた。検討対象範囲を拡大した上で、引続きニュージーランドの会計基準設定主体がこの問題に取り組む予定である。
金融商品に関する開示全般を取り扱う公開草案第7号(ED7)(金融商品:開示)に対して受領したコメントで指摘された論点について順次議論が行われているが、今回はその最終回で、1. 市場リスクの感応度分析、2. 適用ガイダンス、3. 公正価値オプションの開示、4. 保険契約に関する開示、5. 経過措置及び6. その他の開示の6点について議論が行われ、暫定的な合意が形成された。ここでは、6. を除く議論の概要を紹介する。なお、今回で実質的な議論が終了し、今後最終基準案を詰める作業が開始される。最終IFRSの公表は2005年6月が予定されている。
今回の会議では、次の点が暫定的に合意された。
(a)ED7第43項では、報告日現在におけるそれぞれの市場リスクに対する感応度分析では、合理的に可能な変動(reasonably possible changes)の損益計算書(公正価値の変動が資本で認識されている場合には資本)への影響を示すことが求められている。ここでいう「合理的に可能な変動」についてのより詳細な内容を基準で示すかどうかが議論され、そのような内容を記述しないことが暫定的に合意された。
ただし、次の点をより明確にすることとされた。
(b)前年の感応度分析を行うために用いた仮定や方法を変更した場合には、変更理由の開示を求めることが暫定的に合意された。
(c)開示を集約する場合のガイダンスを追加することが暫定的に合意された。
(d)感応度分析の準備に用いる方法に関するガイダンスは提供しないこととするが、その理由を結論の背景で明示する。
(e)リスクをモニターしていないか詳細なリスク情報を取締役会に報告していない作成者に対する追加ガイダンスは提供しない。
(f)感応度分析がどのようなものとなるかを示す簡単な例を非強制ガイダンスの中で示す。
ED7の適用ガイダンスに対するコメントでは、より多くのガイダンス及びより詳細なガイダンスを求めるコメントが多かった。これを受けて検討を行った結果、次の点が暫定的に合意された。
現在別途検討中の公正価値オプションに関する開示に関連して、次の点が暫定的に合意された。
ED7の結果新たに設定されるIFRSの開示要求と整合性を保つためIFRS第4号(保険契約)を改訂すべきかどうかが議論された。その結果、次の点が暫定的に合意された。
経過措置に関して、次の点が暫定的に合意された。
今回は、現在FASBが進めている負債と資本の区分プロジェクトで完成間近のマイルストーン・ドラフトが提示され、これに基づいてFASBの現在までの議論の成果がIASBに対して説明された。このドラフトは、今後2005年5月にもFASBから公表される予定である。また、2004年4月に開催されたIASBとFASBの合同会議で、将来IASBもこのプロジェクトを自らのプロジェクトとして取上げることが合意されている。
負債と資本の区分プロジェクトは、資本としての性質を有するすべての金融商品の会計処理と報告を取り扱う包括的な会計基準を作成すること目的としている。このプロジェクトは、1990年にディスカッション・メモランダム「負債金融商品及び持分金融商品の間の識別及び双方の性質を持つ金融商品の会計処理(Distinguishing between Liability and Equity Instruments and Accounting for Instruments with Characteristics of Both)」が公表されたことに始まる。休止期間を経て、1997年に再開され、その第1フェーズの成果として、2003年5月にSFAS第150号(負債及び資本双方の性質を有する特定の金融商品の会計処理)が公表されている。その後、2003年第4四半期から第2フェーズが開始されている。
第2フェーズは、次のような目的を持っている。
第2フェーズで検討すべき論点は次の3つに分けられており、そのうち今回のドラフトは(a)の部分をカバーしている。
マイルストーン・ドラフトでは、単一の構成要素からなる金融商品を区分するための原則として所有・決済アプローチ(ownership/settlement approach)を採用している。FASBは、区分のための方法をいくつか検討してきたが、それらのよい特徴を取り込んだアプローチとして決済概念と所有関係を組み合わせたアプローチが最適と判断した。FASBは、このアプローチによって、アプローチの適用結果が首尾一貫し、利用者にとってよりよい情報価値を提供できると考えている。また、この考え方に基づき複数の構成要素からなる金融商品の分析を行うことが予定されている。
所有・決済アプローチに基づく単一の構成要素からなる金融商品の区分は別表のとおりとなる。
金融商品が、直接所有金融商品か間接所有金融商品か? | 金融商品が決済義務を持っているか? | ||
Yes:究極の決済において直接所有金融商品の引渡しが要求されない | Yes:究極の決済において直接所有金融商品の引渡しが要求される | No | |
No | 負債又は資産 | 負債又は資産 | 資本 |
Yes:間接所有金融商品 | 負債又は資産 | 資本 | 資本 |
Yes:直接所有金融商品 | 資本 | 資本 | 資本 |
ここでは、マイルストーン・ドラフトの中で採用されている基本用語について説明する。また、ドラフトでは、単一構成要素の金融商品の区分を考える上で、金融商品を1. 永久金融商品、2. 直接所有金融商品及び3. 間接所有金融商品の3つに分けている。
引渡し又は(清算による企業の純資産の配分以外の)対価の受取りによる報告企業の義務又は権利の消滅を指す。権利不行使によるオプションの失効は決済に含まれない(失効時に対価の授受がないため)。対価は、形式のいかんを問わない支払い又は履行を意味している。また、自社株式又はその他の金融商品による引渡し又は受領は、ここでは決済とみなされる。
一方の当事者が決済を行う義務であり他の当事者に決済を受ける権利(条件付権利を含む)を与えるもの。企業の清算時においてのみ所有者に対して発行体の純資産に対する権利を与える金融商品は、決済義務を有していることにはならない。
金融商品の条件に従って要求される又は要求することができる連続した決済の最終段階を指す。
決済時における相手方のポジションの公正価値を指す。
永久金融商品は、契約上の決済義務を有しておらず、所有者に対しては、清算時に純資産に対する比例的権利を与えている。したがって、永久金融商品は資本に区分される。
直接所有金融商品の発行体は、これを資本の部に区分する。直接所有金融商品は、次の2つの特徴を持つ。
直接所有金融商品は、永久金融商品であることもあり、そうでないこともある(すなわち、決済義務があっても直接所有金融商品となりうる)。例えば、ある種の強制償還普通株式は、直接所有金融商品であるが契約上の決済義務を有しているので永久金融商品ではない。
間接所有金融商品は、次の3つの特徴を持つ。FASBは、この3つの特徴を持つ間接所有金融商品は、企業の所有者と類似の関係を構築すると考えている。
報告企業は、1. 間接所有金融商品が、報告企業の直接所有金融商品による決済又は究極的決済を要求するものである場合には、当該間接所有金融商品(例えば、物理的な直接所有金融商品又は純額株式決済のできる売建てコールオプション又は買建てプットオプション)を資本に区分し、2. それ以外の場合には、当該間接所有金融商品(例えば、純額現金決済売建てコールオプション又は買建てプットオプション)を資産又は負債に区分する。
また、代替的決済手段(例えば、報告企業の直接所有金融商品の授受で決済することも他の対価の授受で決済することもできる場合)が認められている間接所有金融商品は、資本として区分することはできない。ただし、代替的決済手段の不確実性がなくなった時点(決済手段が確定した時点)で区分を見直すことができる。
直接所有金融商品又は間接所有金融商品による決済を求めない金融商品は、資産又は負債として区分する。例えば、報告企業の直接所有金融商品(自社株式)の売建てプットオプション(負債)や買建てコールオプションは、相手方のペイオフが直接所有金融商品の公正価値の変動と逆になるので、間接所有金融商品とはならず、その他の金融商品(資産又は負債として区分)となる。
ここでは、具体的な金融商品を取上げ、所有・決済アプローチによる負債と資本の区分の例を示す(現行の米国会計基準及びIASの取扱いとの比較も示す)。
金融商品の種類 | 所有・決済アプローチ | 米国会計基準及びIAS | 理由 |
---|---|---|---|
普通株式 | 資本 | 資本 | 永久金融商品(及び直接所有金融商品でもある) |
永久優先株式(固定配当) | 資本 | 資本 | 永久金融商品 |
支払手形(現金又は変動する株式による決済) | 負債 | 負債 | 究極の決済が直接所有金融商品以外かつ支払手形は所有に関する金融商品ではない。 |
最劣後持分(公正価値に基づき資産による強制償還) | 資本 | 負債 | 直接所有金融商品かつ決済義務 |
最劣後持分(簿価に基づき資産による強制償還、清算時に純資産に対する請求権有り) | 資本 | 負債 | 直接所有金融商品かつ決済義務 |
物理的引渡しによって決済される売建てコールオプション | 資本 | 資本 | 直接所有金融商品で決済される間接所有金融商品 |
純額株式決済売建てコールオプション | 資本 | 米国:資本 IAS:負債 |
直接所有金融商品で決済される間接所有金融商品 |
純額現金決済売建てコールオプション | 負債 | 負債 | 現金で決済される間接所有金融商品 |
売建てプットオプション(物理的引渡し、純額現金、純額株式による決済のいずれでも) | 負債 | 負債 | 決済義務かつ間接所有金融商品ではない |
買建てコールオプション(物理的引渡し、純額現金、純額株式による決済のいずれでも) | 資産 | 米国:資本控除(物理的引渡し又は純額株式決済) 資産(純額現金決済) IAS:資本控除(物理的引渡し) 資産(純額現金、純額株式決済) |
決済義務かつ間接所有金融商品ではない |
2005年1月会議において、米国財務会計基準書(SFAS)第109号(法人所得税の会計処理)とIAS第12号(法人所得税)との間の統合化を図るための作業の一環として、SFAS第109号に含まれているがIAS第12号にはない多くのガイダンスをIAS第12号に含めるかどうかを検討することが合意されていた。これを受けて、今回、次の事項について両者の統合化のための検討が行われた。
SFAS第109号第16項には、「会計期間中に行われた企業結合によって取得された繰延税金資産及び負債に関連して、繰延税金費用又は便益として損益計算書で認識されるのは、企業結合後の繰延税金資産又は負債の変動である」という規定があるが、IAS第12号にはそのような規定はない。このため、IAS第12号にそのような規定を追加するかどうかが議論された。議論の結果、SFAS第109号の規定は当然のことであり、これ以外の会計処理は考えられないことから、敢えてIAS第12号にそのような規定を追加する必要はないとされた。
SFAS第109号第17項には、次に示すような繰延税金を決定するための計算過程に関する記述が存在するが、IAS第12号にはそのような記述が存在しない。議論の結果、強制力のある適用ガイダンス(application guidance)としてSFAS第109号と同様な規定を導入することが暫定的に合意された。なお、評価引当金については、将来議論する予定であるため、今回は議論されていない。
SFAS第109号第231項及び第232項には、特別税額控除による税務便益の認識に関するガイダンスが含まれている。このような特別税額控除に関する規定をIAS第12号に導入するかどうかが議論された。議論の結果、特定の国に存在する特別税額控除制度をIAS第12号に導入することは適切ではないが、特別税額控除に関する一般的な原則をIAS第12号で示すことは妥当とされ、そのような原則の導入が暫定的に合意された。現行のSFAS第109号では、特別税額控除に関する一般的な原則は示されておらず(例が示されているのみ)、その重要な特徴は、将来の履行義務又はその他の規準を有している点にある。そこで、今後、FASBにおいてもSFAS第109号を改訂して導入できるような一般的な原則を両者で開発することとされた。
SFAS第109号第19項には、最低税率による課税制度がある場合に関するガイダンスが存在するが、IAS第12号にはそのようなガイダンスが明示されていない。議論の結果、通常税率による課税のほか、課税最低税率による課税がある場合におけるガイダンスを追加することが暫定的に合意された。
SFAS第109号第28項では、企業の課税上の身分の変動(課税法人と非課税法人との間の変動)によって繰延税金資産又は負債が変動する影響は、当該期の営業活動からの利益に含めるという取扱いが示されている。一方、IAS第12号に関する解釈指針SIC第25号(企業又はその株主の課税上の身分の変動)では、企業又はその株主の課税上の身分の変動による当期税金及び繰延税金への影響を取扱っている(SFAS第109号は、繰延税金への影響のみを取扱っている)。SIC第25号では、繰延税金資産又は負債に関しては、身分の変動が直接資本で認識されている取引や事象に関連する金額に影響を及ぼす場合を除き、身分の変動による繰延税金資産又は負債に対する影響は、当該期の損益計算書として認識しなければならないとしている。
議論の結果、企業の課税上の身分の変動による当期税金及び繰延税金への影響については、次のように取扱うことが暫定的に合意された。また、SIC第25号の取扱いをIAS第12号の本体に取り込むことも暫定的に合意された。
SFAS第109号第41項では、ある特定国の評価引当金は、当該国の繰延税金資産の流動・非流動区分に比例して按分することが決められているが、この問題は、IAS第12号に評価引当金を導入するかどうかに関連するため、今回は議論されなかった。
SFAS第109号及びIAS第12号には、繰延税金資産の実現可能性を測定するためのガイダンスが置かれているが、これらはほぼ整合的な内容となっている。今回このガイダンスを独立した「繰延税金資産の実現可能性の測定」という項目を設けてまとめることが暫定的に合意された。なお、両者のガイダンスには1つだけ相違がある。それは、繰延税金資産を実現させるためのタックス・プランニング戦略を実現するために多額の費用(significant expenses)がかかる場合又は戦略が実行された場合に生じる多額の損失(significant losses)(損失に関連して生じる税務上の便益との純額)を評価引当金に含めるべきであるというSFAS第109号の取扱いである。IAS第12号にはこれに対応する規定がなく、議論の結果、同様の取扱いを繰延税金資産の測定に当たって考慮すべきというガイダンスを導入することが暫定的に合意された。
SFAS第109号第40項には、連結納税の参加しているグループ内企業が個別財務諸表を作成する際に当期税金及び繰延税金をどのように配分するかに関するガイダンスが置かれているが、IAS第12号にはそのようなガイダンスはない。議論の結果、IAS第12号にSFAS第109号と同様なガイダンスを導入することが暫定的に合意された。SFAS第109号では、特定の配分方法を指定しておらず、組織的で、合理的かつSFAS第109号のより広範な原則と首尾一貫していればよいとされている。また、適切でない配分方法の例として次のようなものが示されている。
2005年1月にIAS第14号(セグメント情報)をSFAS第131号(企業のセグメント及び関連情報に関する開示)に合わせるための短期統合化プロジェクトを取上げることが合意された。その結果、米国会計基準で採用されているマネジメント・アプローチに基づいて、IAS第14号を改訂することとなる。これを受けて、今回は次の事項について議論が行われた。
1.FASB及びカナダにおけるセグメント情報に関する基準公表後の状況
SFAS第131号においては、複数のセグメントを集約して表示することがこの基準書の目的と首尾一貫し、セグメントが類似の経済的特徴を有し、さらにある一定の要素(製品やサービスの性質、生産過程の性質など)について類似性を有していれば、これらを集約して表示することができるとされている。その際の判断に関するFASB職員意見書(FASB staff position)のドラフトが現在準備されている。また、カナダでは、この問題に対する取扱いが示されている。マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の開示に関する米国やカナダの経験を踏まえて、SFAS第131号との統合化を図る際に、複数のセグメントを集約して表示するためのガイダンスをIFRSの中に含めることが必要であるとのスタッフの提案が示され、この方向性が暫定的に合意された。今後、FASBにおけるFASB職員意見書のとりまとめ状況を見守り、もしカナダでの取扱いと異なる場合には、さらに取扱いの内容を検討することとされた。
2.セグメント情報の開示を求める企業の範囲
IAS第14号は、持分証券又は負債証券を上場している企業又は上場を準備中の企業に対してのみ適用される。米国やカナダにおいてもほぼ同様な企業に対してのみセグメント情報の開示が求められている。オーストラリアを除く他のリエゾン国においてもほぼ同様な状況である。今回、スタッフから上場企業以外に対してもセグメント情報の開示を拡大すべきとの提案が示されたが、議論の結果、当面現行の適用範囲は変えないこととすることが暫定的に合意された。しかし、この問題は、NPAE会計基準の検討とも関連することから、そこでの議論の進展を見ながら、将来再度検討することとされた。
3.資本的支出を定義する文言
IAS第14号第57項では、各報告セグメントについて1期間以上使用すると予想されるセグメント別資産(有形固定資産と無形資産)の当該期間における取得額の総額の開示が求められているが、資本的支出に関する明確な定義がない。そこで、資本的支出を定義するため、SFAS第131号及びカナダの定義が検討された。検討の結果、資本的支出をより包括的に定義するSFAS第131号の資本的支出の定義を用いることが暫定的に合意された。SFAS第131号では、資本的支出は、「金融商品、繰延税金資産、退職後給付資産及び保険契約を除く非流動資産」とされている。
4.中間財務諸表に含まれるセグメント情報の開示を規定するIFRS
中間財務諸表に含まれるセグメント情報の開示をどこで規定するかが議論された。候補としては、1. 本プロジェクトで作成される新IFRSで規定する考え方と2. IAS第34号(中間財務諸表)で規定する考え方の2つが検討された。検討の結果、IAS第34号に中間財務諸表に含まれるセグメント情報に関する規定を置くことがよいと暫定的に合意された。
現在FASBでは、IAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)との統合化のため議論が進んでいる。この検討の過程で、FASBがIAS第8号と異なる内容の決定を行ったため、この問題についてFASBから急遽説明を受けた。
FASBの決定は、会計方針の変更による影響を1. 直接的影響及びそれに伴う税効果と2. 間接的影響及びそれに伴う税効果の2つに分け、前者は遡及修正するものの、後者はそれが発生した期の損益計算書で認識するというものである。例えば、売上高の認識基準を変更した場合、当該変更に伴う売上高の修正は直接的影響であり、遡及修正することとなる。しかし、これに関連して生じるプロフィットシェアリングやロイヤルティの金額の変動は間接的影響とされる。
IAS第8号の会計方針の変更では、そのような区分を行っていない。したがって、FASBの決定が必ずしもIAS第8号と矛盾しているとはいえないため、今後FASBの基準案を検討し、その内容を吟味することとされた。
今回は、2005年2月に合意された作業計画に基づき、関係者に発送する予定の質問状の内容についての議論が行われ、その内容が暫定的に合意された。この質問状は、2005年9月に開催予定の円卓会議(主として認識及び測定の簡素化のあり方について議論する)で議論する論点を明確にするためのもので、予定では、2005年3月末までに発送し、5月末を締切りとすることとなっている。発送先は、2004年6月に公表したディスカッション・ペーパー「中小規模企業の会計基準に対する予備的見解」に対するコメント提出者、基準諮問会議(SAC)のメンバー及びアドバイザリー・グループのメンバーの予定である。さらに、質問状をホームページにも掲載し、広く意見を募ることも暫定的に合意された。
認識と測定に関して、NPAE(Non-Publicly Accountable Entities)基準では、IFRSより簡略化された取扱いを認める方向で検討することが暫定的に合意されているが、円卓会議では、この点に絞って、1. どのような会計処理について簡素化を図るべきか、及び2. IFRSに規定があるもののNPAEの通常の活動で遭遇することが殆どないものにどのようなものがあるかについて議論される予定である。これに対応して、今回議論された質問状のドラフトでは、次の2点の質問が示されている。
今回の会議では、IFRIC第6号(IAS第29号「超インフレ経済下の財務報告」に準拠した修正再表示IAS第39号の適用について)の最終案が議論され、その内容が承認された。
以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)