ASBJ 企業会計基準委員会

第43回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第43回会議が、2005年2月15日から17日の3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回は、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第39号の改訂(金融保証と信用保険に関する改訂公開草案)、3. IAS第39号の改訂(公正価値オプション)、4. IAS第39号の改訂(外貨建内部取引のキャッシュ・フロー・ヘッジに関する改訂公開草案)、5. IFRS公開草案第7号(金融商品:開示)、6. 概念フレームワーク、7. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税)、8. 中小規模企業(NPAEs)の会計基準、9. 経営者による説明(Management Commentary)及び10. 解釈指針案(IFRIC)の検討が行われた。また、このほか教育セッションでは、保険会計の第2フェーズの議論に関連して、日本の損害保険協会を含む損害保険関係者による3つのプレゼンテーションが行われた。特に、日本の損害保険協会からのプレゼンテーションは、IASC(国際会計基準委員会)当時に検討が開始されその後完成した原則書案(DSOP)の考え方を採用した場合に、実務上どのような諸点がIFRSの中で明確にされなければならないかという点に関したものであり、その内容がIASB関係者から高く評価された。IASB会議には理事13名が参加した(ブルンズ氏は欠席)。本稿ではIASB会議での議論の概要を紹介する。

1.企業結合(第2フェーズ)

第2フェーズでは、FASBとIASBは、共通の公開草案を公表することとしており、その作業を行っている。公開草案ドラフトでは、両者が統合化できなかった事項に限って、異なる内容とすることが合意されている。この前提で進められている公開草案ドラフトの作成過程で生じてきた両者の考え方の相違を調整(統合化)するための議論が続いているが、今回は、次の諸点について議論が行われた。

  1. 企業結合の結果実現可能となった取得企業に帰属する繰延税金便益(deferred tax benefits)の取扱い
  2. 開示項目の統合化
  3. 企業結合で取得した無形資産に関する測定の信頼性要件の削除(無形資産が独立した資産として認識されるためには信頼性を持って公正価値が測定されなければならないとされているが、その要件を削除する)
  4. EITFの解釈の公開草案への取込み
  5. 逆取得の適用ガイダンスの公開草案への取込み
  6. IAS第27号の改訂公開草案に対して指摘された論点の検討

(1) 取得企業に帰属する繰延税金便益の取扱い

この問題は、企業結合の結果、取得企業において実現可能となった(すなわち、企業結合以前は未認識であった)繰延税金資産は、企業結合の一部として会計処理すべきか、又は、企業結合とは別のものとして会計処理すべきかという問題である。これは、FASBとの短期統合化プロジェクトの1つである法人所得税の会計処理の統合化の議論の過程で提起された問題である。企業結合に関連する問題であることから企業結合プロジェクトで取扱うのが妥当と判断され、今回検討されたものである。

論点は2つあり、第1点目は未認識の繰延税金便益を認識するタイミングであり、第2点目は繰延税金便益を企業結合の一部として会計処理すべきかどうかである。

1.未認識の繰延税金便益の認識のタイミング

現行のIAS第12号では、取得(企業結合)日前であっても繰延税金便益を利用できることが確か(probable)となった時点で繰延税金資産を認識することができるが(第37項)、米国会計基準では取得日で認識することとされており、両者に差異がある。

議論の結果、米国会計基準との統合化のため、取得日で認識すること(IAS第12号の改訂)が暫定的に合意された。

2.企業結合の一部として認識すべきか

IAS第12号では、企業結合の結果、取得企業において実現可能となった繰延税金資産は、企業結合の一部として会計処理しないことが明示されている(第67項)。一方、米国会計基準では、企業結合の一部として会計処理することとされている。

議論の結果、企業結合の一部として会計処理しないという現行IAS第12号の取扱いを継続することが確認された。また、企業結合の結果、取得企業において実現可能となった繰延税金資産の金額の開示を求めることも暫定的に合意された。なお、IASBにおける議論の翌日に開催されたFASBの会議で、FASBもIASBと同様の会計処理を採用することを決定した。

(2) 開示項目の統合化

企業結合に関する開示項目で両者で取扱いが異なっている項目があるが、これらの中でさらに統合化できるものがないかどうかが今回議論され、次の項目についてFASBの取扱いとの統合化を図ることが暫定的に合意された(これ以外の項目で差異が解消しない項目もまだ残っている)。

1.取得日で資産・負債・偶発負債として認識された金額の要約貸借対照表形式による開示の強制

取得日で資産、負債又は偶発負債として認識された金額をどのように開示すべきかをIFRS第3号(企業結合)では特定していないが(第67項(f))、米国会計基準では、要約貸借対照表の形式で開示することを要求している。議論の結果、主要な資産及び負債の要約貸借対照表の形式での開示を求めることが暫定的に合意された。

2.被取得企業の主要な資産・負債の企業結合直前の簿価の開示

IFRS第3号では、被取得企業の主要な資産・負債の企業結合直前の簿価の開示を求めているが(第67項(f))、米国会計基準では、このような開示を求めていない。議論の結果、この開示のための負担が大きいことを認め、この開示を削除することが暫定的に合意された。

3.将来の最大支払金額の開示

FASBは、1. 取得企業が企業結合契約(対価が企業結合後のなんらかの指標により変動する契約)に基づいて将来支払わなければならない可能性のある最大金額の開示及び2. もし支払い金額に上限が設定されていない場合にはその事実の開示を求めることを決定している。議論の結果、IASBもこのような開示を要求することが暫定的に合意された。

4.処分予定事業に関する開示

IFRS第3号では、企業結合の結果処分することとなる事業の詳細を開示することが求められているが(第67項(e))、米国会計基準では、このような開示を求めていない。しかし、処分予定資産に関するIFRS第5号(処分のために保有される非流動資産と廃止事業)及び米国財務会計基準(SFAS)第144号(長期性資産の減損又は処分に関する会計処理)において同じ趣旨の開示要求が既に存在している。議論の結果、IFRS第5号の要求と重複するため、この開示を削除することが暫定的に合意された。

5.暫定的な測定が行われている資産・負債に関する開示

IFRS第3号では、企業結合が行われた事業年度における当初認識時に暫定的に会計処理がなされた場合には、その後12ヶ月以内に確定させ差額の調整を行わなければならないとされている。これに関連する開示として、1. 当初の会計処理が完了しない理由及び2. 当期に認識された測定期間における調整の性質と金額の開示は、両者で共通の開示要求である。しかし、米国会計基準では、これに加えて、測定期間が完了していない資産又は負債の開示を求めている。議論の結果、IASBも同様の開示を求めることが暫定的に合意された。

6.暫定的な測定が行われている資産・負債に関する開示

FASBは、当期中及び貸借対照表日後財務諸表公表が承認されるまでの期間に発生した企業結合から生じたのれんの合計額及び税務上損金算入できるのれんの金額の開示を求めることとしているが、IASBでは、そのような開示を予定していないため、差異が生じている。議論の結果、このような開示をIASBも求めることが暫定的に合意された。

(3) 企業結合で取得した無形資産に関する測定の信頼性要件の削除

IFRS第3号第37項(c)では、取得企業が企業結合で被取得企業から取得した無形資産をのれんから区分して認識するためには、その公正価値が信頼性を持って測定できなければならないとしているが、SFAS第141号(企業結合)にはそのような規定がない。IASBは、IFRS第3号を基準化する際に、フィールドビジットなどでの指摘を受けて、契約で取り決められている権利や法的権利であっても常に無形資産の公正価値が信頼性を持って測定できるとは限らないという結論に至ったため、「信頼性を持って測定できる」という要件を導入することを決定した(IAS第38号(無形資産)第38項にはそのガイダンスが示されている)。

議論の結果、米国会計基準との統合化のため、測定の信頼性要件を削除することが暫定的に合意された。この結果、現行IFRS第3号第67項(h)(信頼性を持って公正価値が測定できない無形資産に関する記述及びその理由の説明)は不要になるため削除される。さらに、第2フェーズの公開草案において、この問題の取扱いについてのコメントを求めることが合意された。IAS第38号では、信頼性を持って測定できない無形資産の例として日本の製紙会社の水利権の例が示されているが(BC21)、公開草案では、回答者に対して、契約で取り決められている権利や法的権利であっても個別に売却、譲渡及び貸与ができなくかつ事業が稼ぎ出すキャッシュ・フローと密接に絡んでいるといった状況にはどのようなものがあるかについて具体的な例の提示を求める予定である。その後で、この問題は、FASBと共に再度議論されることが予定されている。

(4) EITFの解釈の公開草案への取込み

FASBは、EITF(発生問題専門委員会) Issue95-8(パーチェス法を用いる企業結合において取得された企業の株主に支払われた偶発対価の会計処理)及びIssue04-1(企業結合の当事者間に企業結合以前に存在していた関係の会計処理)を第2フェーズの公開草案に含めることを決定している。また、IASBも、2004年12月の会議でこれらを公開草案に取り入れることに基本的に合意している。

前者の解釈指針では、被取得企業の株主に対して企業結合後に支払われた変動対価(contingent consideration)を企業結合の一部と見るべきか企業結合後の費用と見るべきかについての判断規準が示されている。例えば、株主が企業結合後も取得企業の経営の重要な一員として雇用を継続している場合、当該従業員との雇用契約又は雇用契約に規定されている企業結合後に支払われる変動対価が雇用を中断した場合には支払われないものであれば、当該変動対価は企業結合後のサービスの提供に関連するものとみなされ、雇用を中断しても支払われるものであれば、企業結合の対価とみなされるという解釈が示されている。
一方、後者の解釈指針では、企業結合前から取得企業と被取得企業との間に存在する取引の例として5つのケースが示され、それぞれの場合にどのように会計処理すべきかについての指針が示されている。例えば、企業結合前に顧客と売主という関係に基づいた取引が存在している場合、(当該取引が企業結合と関係ないものであれば)当該取引は、企業結合によって内部取引となり、実質的に決済されたものとみなされ、決済損益が認識される。もし、取引に企業結合に関連する要素とそうでない要素が含まれている場合には、後者は実質的に決済されたものとみなされ決済損益が認識されるが、前者は企業結合の対価の一部として会計処理される。

今回議論されたのは、後者の例示の1つで、取得企業が、企業結合以前に契約によって被取得企業に付与した無形資産を、企業結合によって再取得する場合、当該無形資産を取得企業は、無形資産として認識することができるというものである。例えば、フランチャイズを展開する親会社が、これまである地域で独占的に店舗展開をできる権利を与えていたS社を企業結合により子会社とするという場合である。EITFの解釈では、このような場合でも親会社は、S社から再取得した無形資産(フランチャイズ権)を企業結合時に認識できるとしている。これに対して、一部のIASBボードメンバーから、この例では、企業結合の結果親会社とS社が一体となるため結果として自分自身と契約を締結して無形資産を認識することになり、この場合に無形資産を取得企業が認識するのは不適切であるとの見解が示され、この問題が議論された。EITFの解釈を支持する意見は、無形資産は企業結合前にS社で認識されており、企業結合では既にS社に存在している無形資産を親会社が受入れるだけであり、企業結合で受入れる他の資産となんら変わるところはないというものである。 議論の結果、11対3でEITFの解釈を支持する意見が多数を占め、公開草案は、この例示に関するEITFの解釈を包含することとされた。

(5) 逆取得の適用ガイダンスの公開草案への取込み

IFRS第3号には、逆取得(reverse acquisition)の場合の会計処理を示した強制力のある適用ガイダンス(B1からB15)及び強制力のない例示(例5)が示されている。これらを第2フェーズの公開草案に取り入れることがFASB及びIASBで暫定的に合意された。ただし、例5に対しては、法的子会社(取得企業)が非上場企業であることはいいとしても、法的親会社(被取得企業)は公開企業であることが多いので、設例をそのように変更すべきであるとの指摘があり、変更することとされた。また、このことは、「取得企業が企業結合に際して支払った対価が、取得日における被取得企業に対する取得企業の持分の公正価値を測定する最良の証拠である」という前提が覆されることは稀なことではないことを意味している(法的親会社である上場企業の株価の方が支払われた対価に比べてより客観性がある場合が多いと考えられる)。

(6) IAS第27号の改訂公開草案に対して指摘された論点の検討

企業結合の第2フェーズの公開草案と同時に公表される予定のIAS第27号(連結及び分離財務諸表)の改訂公開草案は、既にドラフトがボードメンバーに回付されている。今回、その過程で提起された問題点が議論された。ここでは、それらの議論のうち、1. 子会社に対する支配喪失に伴う売却損益の計算の明確化及び2. 資本の部で直接認識されている項目のうち非支配持分に相当する部分の損益計算書へのリサイクリングの2点を紹介する。

  1. 子会社に対する支配喪失に伴う売却損益の計算の明確化
    現在準備されているIAS第27号の改訂公開草案では、親会社が子会社に対する支配を喪失した場合の売却損益の計算方法が次のように示されている。
    「親会社の売却損益は、次の2つの差額として測定されなければならない。
    1. 受領した対価の公正価値及び支配喪失後も保有する旧子会社への投資の公正価値。
    2. 支配喪失直前の旧子会社の純資産の連結財務諸表上の簿価に対する親会社の持分。」

これに対して、FASBで準備されている企業結合の第2フェーズにおけるここで問題にされている部分に関する売却損益の測定は、次のようになっている。
「子会社に対する支配を喪失した場合には、損益は連結純利益に含まれなければならず、かつ、損益は次の差額として損益されなければならない。

    1. 支配の喪失に繋がる取引からの対価と支配喪失後も保有する旧子会社への投資の公正価値の合計額。
    2. 支配喪失時における旧子会社の純資産に対する親会社の持分(その中には旧子会社のその他包括利益に対する持分割合も含む)。」
      議論の結果、両者は、基本的に同じ内容を若干異なる方法で記述しているものと考えられるが、IAS第27号の改訂公開草案では、旧子会社の純資産に含まれていた累計損益(すなわち、その他包括利益)をリサイクリングすることが明確に示されていないので、これをFASBと同じように明確に記述することが暫定的に合意された。また、これに加え、FASBでは要求されていないが、リサイクルされた損益を注記等で開示することも暫定的に合意された。

  1. 資本の部で直接認識されている項目のうち非支配持分に相当する部分の損益計算書へのリサイクリング
    現在準備されているIAS第27号の改訂公開草案では、親会社が子会社に対する支配を喪失した時点で、当該投資の性質は大きく変わると考えているので、これに対応して、親会社が子会社に対する支配を喪失した時点で、これまでの投資に関連する取扱いを精算するという考え方が採用されている。すなわち、支配喪失時点で、資本の部で直接認識されている為替換算調整勘定や売却可能金融資産の評価損益は、精算されることになり、売却処理と共に親会社持分(支配持分)に関連するものは、損益計算書にリサイクルされる。ここで問題とされているのは、支配喪失時点で、資本の部で直接認識されている項目のうち、支配持分相当額のみならず非支配持分に相当する部分をも損益計算書へリサイクルする必要があるかどうかという点である。例えば、旧子会社(親会社持分は70%と仮定)が100の売却可能金融資産の評価益を資本の部で直接認識している場合、親会社の支配喪失(例えば、40%を売却して持分比率を30%に引き下げる場合)によって連結損益計算書にリサイクルされるのは70のみであり、30は連結損益計算書では認識されないのが、現行の取扱いである。なお、この例では、支配喪失後も30%の株式保有があるが、既に触れたように支配喪失によって投資の性質が変わると考えているので、この時点で、評価益全体の精算が行われ、30%の株式保有に対応する部分も含めた70がリサイクルされる。
    今回、あるボードメンバーから、IAS第27号では、親会社説をやめて経済的単一体説を採用したのであるから、資本の部で直接認識されている100のすべてが連結損益計算書へリサイクルされる(すなわち、非支配持分に対応する30もリサイクルする)のが論理的な帰結となるのではないかとの指摘があったため、議論が行われた。
    議論の結果、そのような考え方は採用せず、従来の会計処理(親会社持分相当額のみのリサイクル)を踏襲することが暫定的に合意された。

2.IAS第39号の改訂(金融保証と信用保険に関する改訂公開草案)

(1) 経緯

金融保証契約(信用保険とも呼ばれる)は、「特定の債務者が、支払期日に負債金融商品の当初又は改訂後の条件に従った履行を行わないために契約者に生じた損失に対して保証人(契約の発行者)に特定の支払いを求める契約」と定義されている(公開草案における提案)。現行規定の下では、重要な保険リスクを移転する金融保証契約は、保険契約に該当し、IFRS第4号(保険契約)に従って会計処理されることとなっている。殆どの金融保証契約が保険契約の定義を満たすことから、現行規定では、金融保証契約の会計処理を参照するためには、一般事業会社も保険契約に関するIFRS第4号を参照しなければならないという事態になっている。なお、ここで保険契約とは、「ある主体(保険会社)が、他の主体(保険契約者)に対して、もし特定の不確実な将来事象(被保険事象)が保険契約者に対して不利に働くときには、保険契約者に補償をすることに同意することによって、重要な保険リスクを引き受ける契約である。」と定義されている。

このような事態を避けるため、2004年7月に公表された公開草案(金融保証契約及び信用保険)では、新たにIAS第39号に金融保証契約の定義(上述の定義参照)を設けた上で、その定義に該当する信用保険は、保険契約に該当していてもIAS第39号の対象とした上で(すなわち、信用保険はIFRS第4号の対象外とする)、次のような測定を行うことを提案している。これによって、金融保証契約の会計処理は、保険契約の形式を取っていてもIAS第39号で一律に規定しようといのが公開草案の狙いであった。

  1. 当初認識時の測定は、公正価値で行う。
  2. 当初認識後の測定は、1. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)によって認識された金額、又は、2. 当初認識額からIAS第18号(収益)に基づいて認識された償却額累計を控除した額のいずれか高い方で行う。

(2) 2005年1月会議の暫定合意

公開草案に対して寄せられたコメントを分析した結果、2005年1月会議において、IASBスタッフは本公開草案を取り下げるという提案を行ったが、IASBは、これを退け次のような方向で基準化を図ることに暫定的に合意した。 金融保証契約及び信用保険に対して、次に示す(a)又は(b)の2つの方法のいずれかを選択適用することを認める。

  1. 次のような測定。
    • 当初認識時の測定は、公正価値で行う。
    • 当初認識後の測定は、1. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)によって認識された金額、又は、2. 当初認識額からIAS第18号(収益)に基づいて認識された償却額累計を控除した額のいずれか高い方で行う。
  2. IFRS第4号の負債適正性テストを適用するが(すなわち、1. すべてのキャッシュ・フローを含んだキャッシュ・フローの予測を用い、2. テストの結果負債が不十分な場合その差額をすべて損益として認識するという要件を満たしていれば、企業が自ら設定し会計方針として採用している負債適正性テストを用いることができる)、その結果認識される負債額は、IAS第37号に基づいて計算された負債額を下回ってはならないという方法による測定。この結果、この選択肢の下では、次のような処理となる。
    • 当初認識時の測定は、企業の設定した会計方針に基づいて行う。
    • 当初認識後の測定は、IFRS第4号第15項及び第16項に基づいた負債適正性テストに基づいて行うが、その結果認識される負債が、IAS第37号によって認識された金額を下回わる場合には、当該差額を即時に認識する。

この暫定合意は、公開草案の提案(IAS第39号の改訂)を取り入れながらも、信用保険(保険契約)をIAS第39号に移すことに伴い保険契約に関する規定をIAS第39号にも取り入れなければならないという問題の発生を避けるため、現行IFRS第4号の負債適正性テストの考え方も、これを強化した上で継続させようというものである。言い換えると、企業の選択によって金融保証契約と信用保険に対して、IAS第39号の会計処理又はIFRS第4号の会計処理のいずれかを適用できるようにするものの、いずれを採用しても、認識される負債の最低額は、IAS第37号によって認識された金額を下回ることがないようにしようという取扱いであるといえる。

(3) 今回の議論

今回の会議では、1. 保険負債の測定に当たり、保険金を支払ったことに伴う代位権からのキャッシュ・フローの取扱い、2. グループ内の金融保証契約の個別財務諸表における取扱い及び3. 2005年1月会議の暫定合意の見直しの必要性(スタッフは、未だこの公開草案を取り下げるべきと考えている)の3点が議論された。今回は、いずれについても結論は出ていない。

1.代位権からのキャッシュ・フローの取扱い

保険負債の負債適正性テストに当たり、IFRS第4号は、保険負債に関連するすべてのキャッシュ・フローを考慮に入れることを求めている。今回問題となったのは、保険金の支払いに伴って取得した代位権から生じるキャッシュ・フローを保険負債の評価に当たり考慮すべきかどうかである。

スタッフからは、代位権から生じるキャッシュ・フローの取扱いをIAS第37号で規定する「補填(reimbursements)」の規定を適用して処理すべきことを提案している。すなわち、当該キャッシュ・フローは、そのキャッシュ・フローがほぼ確実(virtually certain)になった場合にのみ保険負債の評価に当たり考慮すべきという会計処理である。

議論では、取得した代位権から生じるキャッシュ・フローは、補填に該当する事象と見るべきではなく、代位権を取得した時点でそのキャッシュ・フローを保険負債の評価に当たり考慮しても良いのではないかとの指摘もあり、さらにスタッフが検討することとなった。

2.グループ内の金融保証契約の個別財務諸表上の取扱い

金融保証契約は、当初認識時に公正価値で測定することが求められている。ところが、連結グループ内で、例えば親会社が子会社に対して金融保証をしているが、保証料を受取っていない場合、又は、受領しているとしても第三者間取引に比べてかなり低い金額となっている場合には、親会社の個別財務諸表において、負債がまったく認識されないか、又は過少に認識されるおそれがある。このような金融保証契約に伴う負債は、連結財務諸表上では相殺されるが、これは、子会社の有する(すなわち、保証の対象となっている)負債自体が連結財務諸表上で認識されるため、親会社の金融保証契約に伴う負債は認識する必要がないためである。しかし、親会社の個別財務諸表においては、保証料の授受等にかかわらず金融保証契約に伴う負債を認識する必要があるというのが、今回のスタッフからの提案である。

一方、米国会計基準では、FASB解釈指針第45号(他者の債務の間接的な保証を含む保証に関する保証人の会計処理及び開示要求)は、親子間及び共通支配下の企業間の金融保証契約に対しては適用されない。このため、もしスタッフ提案どおりの取扱いをIASBが決めると両者間に差異が生じてしまうことになる。

議論では、両者の取扱いを統合するには、米国会計基準と同様、IASBにおいても親子間及び共通支配下の企業間の金融保証契約は、基準の対象からはずすべきだとの意見も出たが、そのような例外処理の根拠が明確でない等との反論もあり、今後さらにこの問題を検討することがスタッフに指示された。

3.2005年1月の暫定合意の見直しの必要性

2005年1月会議の暫定合意は、特に保険会社にとっては、現行のIFRS第4号の負債適正テストに下限を設けるという限定された改善でしかない。すなわち、金融保証契約に関連する保険負債の認識の場合に限って(他の保険負債の認識にはこのような下限を設定されない)、認識される負債の最低額は、IAS第37号によって認識された金額を下回わってはならないという規定の導入ということになる。スタッフは、このような改訂は、限定的な改善効果しかなく、あえてプロジェクトを進める必要がないと考えている。スタッフは、将来保険会計の第2フェーズが完成すると、保険会社は、これから5年程度の間に、IFRS第4号、今回の改訂さらに第2フェーズの会計基準というように3度も改訂を繰り返さなければならなくなり、これは保険会社にとって大変な負担と考えている。

このような点を議論した結果、プロジェクトを中断するという提案は6名の賛成しか得られず(採決時には11人のボードメンバーしか在席していなかった)、暫定合意の線でプロジェクトを継続することが確認された。

3.IAS第39号の改訂(公正価値オプション)

(1)これまでの経緯

IAS第39号で認められている公正価値オプションは、金融資産又は金融負債を取得した時点で、取引ごとに、企業の選択によって公正価値による測定を行い、その公正価値の変動を損益計算書で認識するという選択肢である。2003年12月のIAS第39号の改訂に当たり、EC委員会等からの要望を受けて導入したものである。しかし、その後公正価値オプションはあまりに適用範囲が広いとの欧州中央銀行(ECB)やバーゼル銀行監督委員会等の指摘を受けて、2004年4月にその適用範囲を限定するための公開草案、IAS第39号の改訂(公正価値オプション)を公表した。これに寄せられた116通のコメントのうちの76%が改訂内容について反対の意向を示しており、反対は、規制当局を除く全業種のコメント提出者にわたっている。さらに、反対者のうち60%が現行の公正価値オプションに変更を加えるべきではないとコメントしている。このような結果にも拘らず、規制当局の懸念は払拭されず、適用範囲をさらに狭めることかが規制当局から求められている。このような状況を踏まえ、IASBは、2004年12月に公開草案での提案に代わる公正価値オプションに関する新たなアプローチを提案し、ホームページを通じるなどして意見を求めた。新たなアプローチに対するコメントを受けて、更なる改訂案(以下「改訂新アプローチ」という)が今回提示され、この提案に基づいて2005年3月16日に開催される円卓会議で議論することが、今回合意された。ここでは、改訂新アプローチの内容及び円卓会議の概要について解説する。

(2)改訂新アプローチ

改訂新アプローチは、2004年12月に示された新しいアプローチに主として次のような改訂を施したものである(なお、改訂前の新アプローチの下での定義部分の記述は後述する)。

  1. 第1の条件である「測定のミスマッチ」の解消という条件は基本的に維持するものの、これらがいわゆる会計上のミスマッチ(測定のミスマッチ及び損益の認識のミスマッチ)を対象とするものである点を明確にする。また、会計上のミスマッチの発生する状況に関する記述情報の開示を求める。
  2. 第2の条件である「企業の事業の性質が、公正価値オプションの利用によってより有用な情報を提供する」がかなり広範囲なものであるため、これに代えて、「金融資産・金融負債のグループが、文書化されたリスク管理又は投資方針に準拠して管理され、そのパフォーマンスが公正価値に基づいて評価され、かつ、企業の鍵となる経営者に内部的に報告されている情報の基礎となっていること」という条件に変更する。また、公正価値オプションの採用が、企業の文書化されたリスク管理又は投資方針とどのように整合しているかに関する記述情報の開示を求める。
  3. 第3の条件である公正価値オプションの採用がより簡易な会計処理となるという「測定の簡素化」条件を更に狭め、組込みデリバティブを内包する複合金融商品に対してのみ適用するものとする。すなわち、現行規定では、組込みデリバティブはホスト契約から分離することが原則とされ、分離して測定することが不可能な場合にのみ複合金融商品全体を公正価値で測定することが求められているが、これを改訂し、組込みデリバティブはホスト契約から分離することができる場合であっても、複合金融商品全体を公正価値で測定することができることとする。
  4. 銀行や保険会社の監督当局の権限についての記述(「監督当局の権限には、公正価値の決定に対する規定の適用及び関連するリスク管理システム及び方針に対する監督を含む」という内容)は、基準本体からははずし結論の背景に移す。

このような改訂は、監督当局などから批判されていた新アプローチの第2(「企業活動の性質」)及び第3(「測定の簡素化」)の条件は依然として十分限定的でないとの懸念に対応したものである。また、保険会社からは、新アプローチは厳格すぎ、適切と思う場面で使うことができないという指摘を受けていたことに対応して、保険会社が柔軟に対応できるような例示が適用ガイダンス(IFRSの一部となるもの)の中で示されている。

なお、参考までに新アプローチで提案されていた定義の変更を次に示しておく。

「損益計算書を通して公正価値で測定する金融資産又は金融負債は、次の条件のいずれかを満たす金融資産又は金融負債である。

  1. トレーディング目的に分類されるもの(以下省略)。
  2. 当初認識時に企業によって損益計算書を通して公正価値で測定するものと指定されるもの。企業は、この指定を次の条件の1つ又はそれ以上を満たす金融資産又は金融負債(又は金融資産又は金融負債のグループ)のみに限らなければならない。
    1. 次の理由により、公正価値オプションの使用がより適切な情報をもたらすことになる場合
      • 指定を行わない場合には異なる基準で測定することになるため生ずるミスマッチが、当該指定によって解消される(ここでは「測定のミスマッチ」という)、又は
      • 企業の事業の性質が、金融資産又は金融負債のグループを損益計算書を通して公正価値で測定するものとして指定することによって利用者にとってより有用な情報を提供する(ここでは「企業活動の性質」という)。
    2. 損益計算書を通して公正価値で測定するものへ指定する方が、本基準書が要求する測定を適用する場合に比べてより簡易となる場合(ここでは「測定の簡素化」という)」

(3)円卓会議

円卓会議は、2005年3月16日にロンドンで開催することが決定された(会議は公開される)。会議は、銀行関係者、保険関係者及びその他に分けて3回行われる予定となっている(1回2時間)。日本からは、生命保険協会及び日本公認会計士協会から関係者が参加する予定である。

4.IAS第39号の改訂(外貨建内部取引のキャッシュ・フロー・ヘッジに関する改訂公開草案)

今回は、2004年7月に公表されたIAS第39号の改訂(外貨建内部取引のキャッシュ・フロー・ヘッジに関する改訂公開草案)に寄せられたコメントの分析結果の報告及びそれらを踏まえた新たなこの問題に対する提案がスタッフから提示された。議論の結果、公開草案とは異なるスタッフからの提案に基づいて基準化を図ることが暫定的に合意された。

(1)経緯

1.内部取引から生じる外貨建貨幣性項目の連結財務諸表上の取扱い

IAS第39号では、外部の第三者との取引に対してのみヘッジ会計が適用できる。これに対する例外として、内部取引で生じる外貨建の貨幣性項目で、それから生じる換算損益が連結財務諸表上相殺されないものを、ヘッジ対象とすることが認められている。例えば、親会社が米国の子会社に米ドル建の債権を有している場合、親会社の米ドル債権は期末レートで換算され換算損益が生じるが、米国子会社の親会社向け米ドル建債務は、期末レートで親会社の表示通貨(円)に換算されるが、この換算によって換算損益は生じない。このため、親会社の米ドル建債権から生じる換算損益は、連結財務諸表上相殺されない。このような債権をヘッジ対象とすることがIAS第39号では許容されている。

2.将来発生する外貨建内部取引の連結財務諸表上の取扱い

しかし、現行IAS第39号では、将来発生する予定の外貨建内部取引をヘッジ対象としてこの取引から生じるキャッシュ・フローの変動をヘッジするためにキャッシュ・フロー・ヘッジを適用することは認められていない。2003年12月の改訂前のIAS第39号では、IGC137-14において、このような予定取引をキャッシュ・フロー・ヘッジの対象とすることが認められていたが、改訂に当たり、この取扱いには合理性がないとして削除された。なぜなら、予定取引は、取引が実際に起こるまで内部債権債務が生じないため、「内部取引で生じる外貨建の貨幣性項目から生じる換算損益が連結財務諸表上相殺されない」という事態が起こらないからである。

3.公開草案での提案(予定外貨建取引をヘッジ対象と見るアプローチ)

2003年12月の改訂後、旧IAS第39号での取扱いを復活すべきであるとの要望が寄せられ、これを検討した結果、旧IAS第39号が認めていた外貨建内部取引をヘッジ対象とすることはできないが、代わりに「取引が発生する可能性が非常に高い予定外部取引」をヘッジ対象として許容するのであれば妥当と判断され、この内容を明確にするための適用ガイダンス(IFRSの一部)の追加を行う公開草案を公表することとなった。これが、2004年7月に公表されたIAS第39号の改訂(外貨建内部取引のキャッシュ・フロー・ヘッジに関する改訂公開草案)である。

当該公開草案では、グループ内の内部取引のさらに先にある究極的な外貨建(親会社の表示通貨と異なる通貨建)の外部取引がほぼ確実に発生すると見込めるならば、この外貨建外部取引をヘッジ対象とするキャッシュ・フロー・ヘッジを認めようとするものである。例えば、親会社(表示通貨円)が米国の子会社に米ドル建の製品販売取引を将来行う予定であり、当該米国子会社がさらに当該製品を外部の顧客に米国通貨建てで販売する予定である場合、親子間の内部取引ではなく、究極の米国通貨建外部取引をヘッジ対象として、これに対して、キャッシュ・フロー・ヘッジを認めようとする取扱いである。

(2)コメントの分析

公開草案に対するコメントは2004年10月に締め切られたが、58通のコメントを受領した。公開草案での提案(グループ内の内部取引のさらに先にある究極的な外貨建(親会社の表示通貨と異なる通貨建)の外部取引がほぼ確実に発生すると見込めるならば、この外貨建外部取引をヘッジ対象とするキャッシュ・フロー・ヘッジを認めるというもの)に対して、賛否が完全に分かれた(賛成28、反対28、不明2)。また、コメントでは、次のような点が指摘された。

  1. IAS第21号(外国為替レート変動の影響)と公開草案との関係に矛盾がある
    公開草案では、表示通貨(presentation currency)と異なる通貨建の外部取引をキャッシュ・フロー・ヘッジの対象とすることが提案されているが、為替リスクが生じるのは、外貨建取引を行う企業の機能通貨(functional currency)と異なる通貨建の外部取引が行われたときであり、表示通貨と取引通貨との相違に起因する差異は、経済的リスク(又は取引関連リスク)ではない。
  2. 企業のリスク管理実務を反映していない
    多くのコメントが、公開草案の提案は、企業の為替リスク管理の実務を反映していないと指摘している。特に、内部取引に代えて外部取引をヘッジ対象とみなすことは、ヘッジ手段を保有する企業とヘッジ対象を有する企業が異なることを意味するが、このような取扱いは実態を反映していない。
  3. 「内部取引で生じる外貨建の貨幣性項目」と「ほぼ確実に行われる外貨建予定内部取引」との取扱いに不均衡が生じている
    公開草案の提案は、「内部取引で生じる外貨建の貨幣性項目」で、それから生じる換算損益が連結財務諸表上相殺されないものをヘッジ対象とすることを認めているIAS第39号第80項の取扱いと矛盾しているとの指摘があった。また、「ほぼ確実に行われる外貨建予定内部取引」の結果として「内部取引で生じる外貨建の貨幣性項目」が生じることが通常であるので、もし後者にヘッジ会計が認められるのであれば、前者にもヘッジ会計が認められるべきであると指摘があった。
  4. 米国会計基準との差異
    米国会計基準の下では、外貨建予定内部取引に対して連結財務諸表上ヘッジ会計を適用することができることとなっており、同様な取扱いをIFRSでも認めるべきとの指摘があった。

(3)スタッフ提案と暫定合意

このような指摘を受けて検討した結果、スタッフから、旧IAS第39号で認められていたのとほぼ同じ取扱いとなるような取扱いが提案され、議論の結果、この考え方を採用することが暫定的に合意された。

スタッフ提案は、次の要件を満たした場合、連結財務諸表上で予定取引の外貨建キャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ対象として内部取引を指定することができるようにIAS第39号を改訂するというものである。

  1. 取引の発生がかなり高く、かつ、それ以外のヘッジ会計適用のためのすべての規準(ただし、取引相手先が外部でなければならないという要件を除く)を満たしていること、かつ、
  2. ヘッジ対象である外貨建取引が、当該取引を行う企業の機能通貨以外の通貨建てであり、したがって、連結損益に影響を与えるものであること。

また、ヘッジ手段に生じた損益で資本の部で直接認識されているものに対しては、ヘッジ対象の損益が連結損益に影響を与えるときに連結損益に振り戻すことを要求すること(リサイクリング)が合わせて合意された。

このような取扱いが採用される背景には、IAS第21号では、取引当事企業の機能通貨と異なる通貨によって行われる取引には、(それが予定取引であっても)為替リスクがあると考えている点が挙げられる。したがって、機能通貨以外の通貨建ての取引は、為替リスクを有しているため、為替リスクのヘッジ対象として適格である。また、このため、取引を行う企業の機能通貨と同じ通貨建ての取引(予定取引を含む)は、為替リスクのヘッジ対象とはなり得ない。さらに、外貨建内部予定取引は、内部取引で生じる外貨建の貨幣性項目の場合とは異なり、外貨建内部予定取引が行われるまでは、連結損益に影響を与えるような損益がヘッジ対象からは生じない。したがって、一見すると内部取引で生じる外貨建の貨幣性項目と同一に取扱うことができないように見える。しかし、それにも拘らずキャッシュ・フロー・ヘッジとして適格と考えられるのは、既に触れたように、IAS第21号では、機能通貨以外の通貨建ての取引は、予定内部取引であっても為替リスクを有していると考えているためである。

このほか、発効日を2006年1月1日からとし、早期適用を奨励することや、経過措置についても暫定的に合意された。

5.公開草案第7号(金融商品:開示)

金融商品に関する開示全般を取り扱う公開草案第7号(ED7)(金融商品:開示)に対して受領したコメントで指摘された論点について順次議論が行われているが、今回は、1. 保険契約に関する開示、2. 自分自身の信用リスクの変動の開示、3. 当初認識時に認識される損益の開示及び4. その他の開示の4点について議論が行われ、暫定的な合意が形成された。ここでは、4. を除く議論の概要を紹介する。なお、本公開草案に関する最終的なIFRSの公表は2005年第2四半期が予定されている。

(1)保険契約に関する開示

ED7の結果新たに設定されるIFRSの開示要求と整合性を保つためIFRS第4号(保険契約)を改訂すべきかどうかが議論された。その結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 新IFRSに対応してIFRS第4号を改訂するが、IFRS第4号が現在の企業の実務を基本的に認めるという暫定的な性格を持っていることから、暫定的な取扱いに対応した修正を行った上で、新IFRSとの整合性を図るものとする。
  2. 保険リスクに対してのみの特例として、量的な感応度分析の開示を行うかどうかに関する次の選択肢を導入する。なお、下記の選択肢は、保険契約プロジェクトの第2フェーズでは削除される一時的な解決策と位置づける。
    • 現行のIFRS第4号で求められている質的感応度分析(変数の合理的に見込まれる変動が損益及び資本に与える影響、感応度分析に用いた方法と仮定及びそれらの前期からの変更)の開示。
    • 感応度に関する量的情報、及び、それらの金額、タイミング及び保険会社の将来のキャッシュ・フローの不確実性に重要な影響を与える保険契約の条件に関する情報の開示。

(2)自分自身の信用リスクの変動に関する開示

ED7第11項(a)では、金融負債に公正価値オプションを適用した場合には、「ベンチマーク金利の変動以外に帰属する公正価値の変更額」を開示することを求めている。これは、IAS第32号(金融商品:表示及び開示)で要求されていた開示項目であり、自分自身の信用リスクの変動額の開示を意図したものであるが、「ベンチマーク金利の変動以外」がすべて信用リスクに帰属するというみなしが適切でない場合があることを指摘するコメントが寄せられた。これを受けて検討した結果、次のような変更を行うことが暫定的に合意された。

  1. ED7第11項(a)を変更し、次の取扱いとする。
    • 信用リスクの変動に帰属する金融商品の公正価値の変動額の開示を求める。
    • 信用リスクの変動に帰属する金融商品の公正価値の変動額が信頼性を持って測定できない場合には、その代替値として、ED7第11項(a)で提案している「ベンチマーク金利の変動以外に帰属する公正価値の変更額」を用いることを求める。
  2. ED7第11項(a)で提案している「ベンチマーク金利の変動以外に帰属する公正価値の変更額」という表現を「市場リスクの変動以外に帰属する公正価値の変更額」と変更する。その上で、「市場リスク」には、ベンチマーク金利、現物商品価格、為替レート又は、価格又はレートの指標、さらに、ユニットリンク的な特徴を持つ契約の場合には内部又は外部の投資ファンドのパフォーマンスが含まれることを明確にするガイダンスを設ける。
  3. 次の事項を提供する。
    • IAS第1号(財務諸表の表示)第15項(c)では、IFRSの要求に準拠しても、利用者がある取引やその他の事象及び企業の財政状態や業績に対する条件の影響を理解するのに十分でない場合には、追加の開示を求めていることに注意を喚起する。
    • ED7第11項(a)による数値が自分自身の信用リスクの変動に帰属する変動の代替値として適切でないときには、企業は、そのような結論に至った理由及び企業が適切と考える要素の影響について開示するというガイダンスを示す。
  4. 自分自身の信用リスクの開示に関してIAS第32号の結論の背景に収録されているパラグラフ(この問題をめぐる論点を整理している)をED7の結論の背景に含めることとする。

(3)当初認識時に認識される損益に関する開示

IAS第39号の適用ガイダンスAG第76項(活発な市場がない場合における評価技法の適用に関するガイダンス)では、金融商品の当初認識時の公正価値の最良の証拠は、取引価格であるとしているものの、1. 他の観察可能な最近の市場取引と比較して公正価値が証拠付けられる場合と2. 観察可能な市場からのデータのみが変数となっている評価技法に基づいて公正価値が証拠付けられている場合には、取引価格以外を用いることができることが示唆されている。このため、取引価格以外を用いる場合には、金融資産又は金融負債の当初認識時に損益が生じることになる。

このような当初認識時に認識される損益に関連して次の開示を求めることが暫定的に合意された。

  1. 当初認識時に認識される差額(当初認識時における取引価格と取引価格以外の価値との差額)。
  2. 当該差額の当期中の変動の調整表。
  3. 当該差額をどのようの損益に認識していくかに関する企業の会計方針。

6.概念フレームワーク

2004年4月に開催されたIASBとFASBの合同会議において、両者の概念フレームワークを統合・改善し、共通の概念フレームワークを開発する合同プロジェクトを立ち上げることが原則として合意されている。これを受け、2004年10月の両者の合同会議で、概念フレームワークの統合化を正式に両者の共同プロジェクトとして取り上げることが決定された。2005年1月会議では、概念フレームワークの統合・改善の必要性について記述したコミュニケーション・ドキュメント(概念フレームワークがどうして基準設定に当たり有用なのか、どうして両基準設定主体が共通した概念フレームワークを必要とするのか、どうして概念フレームワークの改善が必要とされるのかといった点を明確にする文書)の内容について議論が行われた。これに引続き、今月は、本プロジェクトの作業計画案がスタッフから提示され、これについて議論が行われた。また、作業計画に関連して、ワーキング・グループを組織することが合意された。

(1)作業計画

スタッフからは、2010年に全体が完成することを目標とした下表に示す作業計画が示された。議論の結果、基本的にこのようなフェーズ分け及びスケジュールで取り進めることが暫定的に合意された。ただし、次の点を改訂することも合意された。

  1. 報告企業(フェーズD)は、目的や構成要素の議論とも関連することから、議論への着手を早める。
  2. 測定に関しては、現在カナダの会計基準設定主体で、当初測定及び一部の当初認識後の測定(減損など)についてのリサーチ作業が行われており、その成果がまもなく公表される予定であることから、その研究成果をできるだけ測定に関する議論で活用する。
  3. 提案では、まずディスカッション・ペーパー(DP)を公表することとされているが、検討内容が大幅な内容変更ではなく、現行フレームワークの精緻化又は明確化を意図するフェーズの場合には、DPを省略し公開草案(ED)から開始することも考える。
トピックス 2005 2006 2007 2008 2009 2010

A

目的・質的特性 討議・DP ED 基準
B 構成要素・認識・測定Ⅰ 討議 DP ED 基準
C 測定Ⅱ 討議 DP ED 基準
D 報告企業 討議 DP ED 基準
E 表示・開示 討議 DP ED 基準
F 目的・ステータス 討議 DP ED 基準
G 非営利企業への適用 討議 DP ED 基準
H フレームワーク全体 討議 DP? ED? 基準

(注)測定Ⅰでは、測定属性(measurement objectives)の定義のみを取扱い(例えば、公正価値の定義)、測定Ⅱでは、それ以外の測定に関する問題が取扱われる。

(2)ワーキング・グループの組成

6年にも及ぶ長期プロジェクトの遂行に際してワーキング・グループを組織する必要があるかどうか、又組織するならどのような体制が適切かについて議論が行われた。

議論の結果、2つのタイプのワーキング・グループを組織することが暫定的に合意された。1つは、プロジェクト全体の進捗状況やフレームワークの相互間の関連等について戦略的に検討を行うワーキング・グループであり、もう1つのタイプは、必要に応じてある特定のテーマについてスタッフを支援する目的で臨時に設置されるワーキング・グループである。後者は、よりインフォーマルなものとし、機動的に専門家の意見を聴取できるようにしようとするものである。

7.米国会計基準との短期統合化(法人所得税)

税効果会計を扱うSFAS第109号(法人所得税の会計処理)とIAS第12号(法人所得税)との間の統合化を図るための作業が継続されているが、今回は、1. 2005年1月会議で議論された「法定税率(enacted tax rate)又は実質的法定税率(substantively enacted tax rate)のいずれを適用すべき税率とすべきか」という問題に関連する議論及び2. 近日中に公表される予定のFASB職員意見書(FASB Staff Position)の内容(不確実な税務上のポジション)に関する報告が行われた。

1.法定税率又は実質的法定税率

2005年1月会議では、IAS第12号第47項における「繰延税金資産及び繰延税金負債は、資産が実現するか負債が決済される期に適用されると予想される、貸借対照表日現在で立法化されている法定税率又は実質的に立法化されている法定税率を用いて計算しなければならない」という規定の中の「実質的に立法化されている」を、立法化するために必要なプロセスが法律の内容がもう変わることがない段階まで進んだ段階と解釈することが暫定的に合意された。その上で、このような考え方をFASBが受入れることができるかどうかを改めてFASBに尋ねることとされた。

今回は、FASBに検討を依頼する前に、「実質的に立法化されている」状態とは、主要国においてどのような状況を指すのかを具体的に明確にした方が良いとの判断から、スタッフが会計事務所等を通じてまとめた主要国における「実質的に立法化されている」状態の分析結果についての検討が行われた。例えば、日本の場合には、国会において議案が承認された時点であり、総理大臣や財務大臣には議案に対する拒否権がないためその署名の終了を待つ必要はないとされている。主要国における「実質的に立法化されている」状態に関する分析は、公開草案に含めて公表される予定で、これによって、それ以外の国において「実質的に立法化されている」状態を判定する際の参考に供することが意図されている。今回の分析結果を踏まえて、このような判定の仕方をFASBが受入れることができるかどうかの検討をFASBに依頼することとなった。

2.不確実な税務上のポジション

企業がある税務上のメリットを得ることを前提にして税務申告をしたものの、税務当局がそのような税務上のメリットの活用に疑問を呈している場合、この事態をどのように扱うかに関して米国では企業の会計処理実務に多くの多様性がある。このような多様性を問題視したSEC(米国証券取引委員会)からの依頼を受けて、FASBは実務の多様性を排除するため、FASB職員意見書の公表を行う予定である。今回、そのような事情及びFASB職員意見書で取扱う内容について、FASBスタッフから説明が行われた。IASBとしては、その内容に特段の問題はないと判断し、FASB職員意見書と同じ内容をIAS第12号の改訂公開草案に含めることが暫定的に合意された。

8.中小規模企業(NPAEs)の会計基準

今回は、1. ワーキング・グループの拡大、2. プロジェクトの作業計画及び3. プロジェクト名の変更の3点について議論が行われた。特に、第3点に関しては、今後中小規模企業を「NPAEs(Non-Publicly Accountable Entities)」と呼称することが決定された。

(1)ワーキング・グループの拡大

現在発展途上国の会計基準設定主体や中小規模企業の会計基準(以下「NPAEs基準」という)を有する会計基準設定主体の関係者から構成されているアドバイザリー・グループを拡大し、中小規模企業の財務諸表の作成者及び利用者にも参加してもらうことが提案され、合意された。なお、アドバイザリー・グループは、金融商品、保険契約及び包括利益の報告プロジェクトに設けられたワーキング・グループとの統一を図るため、ワーキング・グループとすることが合意された。新たなメンバーの人選は今後速やかに行われる予定である。

(2)今後の作業計画

今回、公開草案を2006年3月に公表し、2007年に最終基準の公表を目指す作業計画が示され、その内容が合意された(下表参照)。当面は、2005年9月に開催する円卓会議に向けて、質問表の作成及びその回答の分析が作業の中心となる予定である。認識と測定に関して、NPAEs基準では、IFRSより簡略化された取扱いを認める方向で検討することが暫定的に合意されているが、円卓会議は、この点に絞って、どのような会計処理について簡素化を図るべきか、IFRSに規定があるもののNPAEsの通常の活動で遭遇することが殆どないものにどのようなものがあるか等について議論される予定である。円卓会議の議論をより効率的にするために、認識及び測定の簡素化に関する質問表を作成し、これを2004年6月に公表したディスカッション・ペーパー「中小規模企業の会計基準に対する予備的見解」に対してコメントを寄せた回答者に送付し、意見を求めることが合意された。

時期 主な内容
2005年3月IASB会議 円卓会議の参加者への質問事項の決定
2005年3月 質問表の送付(ディスカッション・ペーパーへの回答者宛)
2005年5月 質問表の締切り
2005年9月 円卓会議の開催(主として認識及び測定の簡素化のあり方について議論する)
2006年3月 公開草案の公表(120日の公開期間)
2007年 最終基準の完成

(3)名称変更

これまでIASBでは、本プロジェクトの対象とする中小規模企業をどのような範囲とすべきかについて何度も議論してきたが、明確な合意に達していなかった。論点は、近い将来に上場企業となるような比較的規模の大きな中小規模企業を対象とするのか、家内工業的な小規模な中小規模企業までも対象とするのかという点である。今回、財務諸表を外部の利用者に提供している比較的規模の大きな中小規模企業を対象とすることが暫定的に合意され、新IFRSが対象とする企業の呼称をNPAEsとすることが合意された。なお、ここで、外部利用者とは、当該企業の事業に直接参加しない株主、現在又は将来の債権者及び信用格付機関といったものを指している。

9.経営者による説明

これは、経営者による討議と分析(MD&A)とも呼ばれる経営者による業績に関する説明文書(アニュアル・レポートに掲載される)の標準化を図ろうとするリサーチ・プロジェクトである。2002年10月にプロジェクトが開始され、カナダ、ドイツ、ニュージーランド及び英国の各国会計基準設定主体の代表者から構成されるプロジェクトチームにより検討が進められてきていた。本プロジェクトでは、当初、MD&Aという用語を用いていたが、これは米国、カナダで用いられている用語であり、英国では、”Operating and Financial Review”、ドイツでは、”Management Reporting”という用語が用いられていることから、新たに「経営者による説明(Management Commentary)(以下「MC」という)」という用語が用いられている。今回の会議では、プロジェクトチームがこれまでの成果をまとめたディスカッション・ペーパー(以下「DP」という)が提示され、その内容及び取扱いについて議論が行われた。

DPでは、「MCとは、企業の財務報告の一部として財務諸表に付随し、当該企業の将来の発展性、業績及び状態に影響を与える可能性のある主要な趨勢及び要素とともに、財務諸表の対象となる期間中における当該企業の事業の発展性、業績及び状態の基にある主要な趨勢及び要素を説明する。」と定義されている。
DPでは、MCの目的、原則及び質的特性の明確化を図ると共に、理想的には、MCの作成基準をIASBが作成すべきだと提案している。また、MCの作成を、少なくとも、公的に取引される持分証券及び負債証券を有するか、又は公開市場で持分証券又は負債証券を発行する過程にあるすべての企業に要求すべきであると提案している。さらに、MCの作成基準に付随する強制力のない適用指針も作成されるべきであると提案している。

MCをIASBの検討議題として取上げるかどうかに関しては、ボードメンバー間においても意見の相違があったが、DPを公表して意見を求めることは暫定的に合意された。なお、DPには、プロジェクトチームの予備的見解は示されるが、IASBとしての見解は表明しないこととされた。

10.解釈指針

今回の会議では、国際財務会計基準解釈指針委員会(IFRIC)が議題としているテーマの最近の検討状況の説明が行われた。特に、1. サービス・コンセッションに関連する3つの公開草案(D12、D13及びD14)及び2. 組込デリバティブを分離すべきかどうかの判定を当初認識後も行うべきかどうかに関する公開草案が近日中にボードメンバーの承認を求める手続に入ることが説明された。

この他、EU内にEU独自の問題に関する解釈指針を公表できる組織を作るべきかどうかに関する会合が2月17日午前中に開催されたことが報告された。その会議には、EUの規制当局(CESR-fin)、欧州会計士連盟(FEE)、EFRAG、大手会計事務所及びIASBの代表が参加し、EUにおけるIFRSの導入に伴って生じるIFRSの解釈、適用ガイダンス及び教育といったさまざまな問題が話し合われた。特に、EU各国の独自の社会環境や法律体系を背景に生じるIFRSの解釈の需要に対して、それらの多くがIFRICが取上げるべきほどの普遍性を持たない場合に、どのように対応すべきかが大きな論点であった。今回の会議は、このような問題を話し合う第1回目のものであり、今後も議論を継続することが合意されている。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)