ASBJ 企業会計基準委員会

第42回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第42回会議が、2005年1月19日から21日の3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回は、1. IAS第39号の改訂(金融保証と信用保険に関する改訂公開草案)、2. IAS第39号の改訂(公正価値オプション)、3. IFRS公開草案第7号(金融商品:開示)、4. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税及びセグメント情報)、5. 概念フレームワーク、6. 中小規模企業の会計基準及び7. 保険会計(第2フェーズ)の検討が行われた。また、このほか教育セッションでは、保険会計の第2フェーズの議論に関連して、損害保険のクレーム発生からその処理までの実態についての損害保険関係者によるプレゼンテーションと、IAS第39号の改訂(外貨建内部取引のキャッシュ・フロー・ヘッジに関する改訂公開草案)の検討に関連して、オランダのフィリップス社のキャッシュ・マネジメントの実態についてのプレゼンテーションが行われた。IASB会議には理事14名が参加した。本稿ではIASB会議での議論の概要を紹介する。

1.IAS第39号の改訂(金融保証と信用保険に関する改訂公開草案)

(1) 経緯

金融保証契約(信用保険とも呼ばれる)は、「特定の債務者が、支払期日に負債金融商品の当初又は改訂後の条件に従った履行を行わないために契約者に生じた損失に対して保証人(契約の発行者)に特定の支払いを求める契約」と定義されている(公開草案における提案)。現行規定の下では、重要な保険リスクを移転する金融保証契約は、保険契約に該当し、IFRS第4号(保険契約)に従って会計処理されることとなっている。なお、ここで保険契約とは、「ある主体(保険会社)が、他の主体(保険契約者)に対して、もし特定の不確実な将来事象(被保険事象)が保険契約者に対して不利に働くときには、保険契約者に補償をすることに同意することによって、重要な保険リスクを引き受ける契約である。」と定義されている。

2004年7月に公表されたIAS第39号(認識及び測定)とIFRS第4号の改訂を目指す公開草案(金融保証契約及び信用保険)では、新たにIAS第39号に金融保証契約の定義(上述のとおり)を設けた上で、その定義に該当する信用保険は、保険契約に該当していてもIAS第39号の対象とした上で(すなわち、信用保険はIFRS第4号の対象外とする)、次のような測定を行うことを提案している。

  1. 当初認識時の測定は、公正価値で行う。
  2. 当初認識後の測定は、1. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)によって認識された金額、又は、2. 当初認識額からIAS第18号(収益)に基づいて認識された償却額累計を控除した額のいずれか高い方で行う。

(2) 今回の議論

1.コメントの分析

今回の会議では、この公開草案に対するコメントの分析が行われ、スタッフから示されたこの公開草案を取り下げるという提案が検討された。その結果、スタッフ提案を拒否し、後述する方向で基準化を図ることとされた。

コメントでは、次のような点が指摘されている。

  1. 保険契約に該当する信用保険であってもこれに対してIFRS第4号を適用せずIAS第39号を適用する場合には、事業費、有配当契約、リスクマージンといったものの取扱い、さらに再保険に出した場合の取扱いなどに関する規定をIAS第39号に追加する必要があるので、公開草案の内容で基準化すべきではない。
  2. 信用保険をIAS第39号に移行すると、保険契約に対する会計処理は、今後短期間のうちに3度(IFRS第4号の導入、信用保険に対する今回の改訂及び保険会計の第2フェーズの最終基準の導入)も変更されることになり、実務上の負担が大きくなる。
  3. IFRS第4号の負債適正性テスト(liability adequacy test)は、完全なものではないが、十分適切なものである。また、今回の改訂の結果が、現行の実務と大きく変わらないのであれば、わざわざ改訂を行う必要性に疑問がある。
  4. 信用リスクを対象とする金融保証契約と信用保険には本質的な違いがあり、その違いを反映すべきである。すなわち、金融保証契約については、公開草案に沿ってIAS第39号で規定を行うことは妥当だとしても、信用保険にはIFRS第4号を適用すべきである。
  5. IFRS第4号の負債適正性テストを適用すると信用保険に対して認識される負債の金額がIAS第37号で計算される負債額より小さくなる恐れがあり、負債適正性テストとしてIAS第37号による計算を強制すべきである。すなわち、現行IFRS第4号第15項及び第16項では、ある一定要件を満たした負債適正性テストを企業が自ら設定して、それを会計方針として採用していれば、当該会計方針に基づく負債適正性テストのみを行えばよいとされており(そのような会計方針がない場合にのみ最低限IAS第37号に基づいた金額が負債として認識することが求められている)、この規定の適用の結果認識される負債が、場合によってはIAS第37号に基づいて計算された負債額より小さくなる可能性がある。
2.暫定合意

このようなコメントを分析した結果、本公開草案を取り下げるというスタッフ提案とは異なり、次のような方向で基準化を図ることが暫定的に合意された。

金融保証契約及び信用保険に対して、次に示す(a)又は(b)の2つの方法のいずれかを選択適用することを認める。ただし、どの単位(例えば契約ごと)でこの選択を認めるかについては今後検討する(IAS第39号第22項(h)でローンコミットメントに対して適用されるとされている方法)。

  1. 次のような測定。
    • 当初認識時の測定は、公正価値で行う。
    • 当初認識後の測定は、1. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)によって認識された金額、又は、2. 当初認識額からIAS第18号(収益)に基づいて認識された償却額累計を控除した額のいずれか高い方で行う。
  2. IFRS第4号の負債適正性テスト(詳細は上記(e)参照)を適用するが、その結果認識される負債額は、IAS第37号に基づいて計算された負債額を下回ってはならないという方法による測定。この結果、この選択肢の下では、次のような処理となる。
    • 当初認識時の測定は、企業の設定した会計方針に基づいて行う。
    • 当初認識後の測定は、IFRS第4号第15項及び第16項に基づいた負債適正性テストに基づいて行うが、その結果認識される負債が、IAS第37号によって認識された金額を下回わる場合には、当該差額を即時に認識する。

この暫定合意は、公開草案の提案(IAS第39号の改訂)を維持しながらも、信用保険をIAS第39号に移すことに伴う問題の発生を避けるため、現行IFRS第4号の負債適正性テストの考え方も、これを強化した上で継続させようというものである。言い換えると、企業の選択によって金融保証契約と信用保険に対しえ、IAS第39号の会計処理又は一部改訂されたIFRS第4号の会計処理のいずれかを適用できるようにするものということができる。

2.IAS第39号の改訂(公正価値オプション)

(1)これまでの経緯

IAS第39号で認められている公正価値オプションは、金融資産又は金融負債を取得した時点で、取引ごとに、企業の選択によって公正価値による測定を行い、その公正価値の変動を損益計算書で認識するという選択肢である。2003年12月のIAS第39号の改訂に当たり、EC委員会等からの要望を受けて導入したものである。しかし、その後公正価値オプションはあまりに適用範囲が広いとの欧州中央銀行(ECB)やバーゼル銀行監督委員会等の指摘を受けて、2004年4月にその適用範囲を限定するための公開草案、IAS第39号の改訂(公正価値オプション)を公表した。これに寄せられた116通のコメントのうちの76%が改訂内容について反対の意向を示しており、反対は、規制当局を除く全業種のコメント提出者にわたっている。さらに、反対者のうち60%が現行の公正価値オプションに変更を加えるべきではないとコメントしている。このような結果にも拘らず、規制当局の懸念は払拭されず、適用範囲をさらに狭めることかが規制当局から求められている。このような状況を踏まえ、IASBは、2004年12月に公開草案での提案に代わる公正価値オプションに関する新たなアプローチを提案し、ホームページを通じるなどして意見を求めた。その結果の一部は、2004年12月のIASB会議で議論されたが、今回は、これに引続き、新たなアプローチに対して受取ったコメントの分析とそれに対する議論が行われた(今回の会議では、議論のみが行われ、暫定合意は形成されていない)。なお、この問題に関する円卓会議を2005年3月の第3週(14日から18日)のいずれかの日に開催することが合意された。

(2)新たなアプローチ

公正価値オプションに関する新しいアプローチでは、公正価値オプションの定義を次のように変更する(下記(b)が公正価値オプションに関する記述)。定義の変更の特徴は、公正価値オプションが会計方針の選択であるという点と公正価値オプションの使用がより望ましい会計方針となるような状態はどのような場合かについての原則を明らかにしようとしている点である。多くのボードメンバーが、今回の提案が改訂公開草案の提案より優れている旨を表明した。

「損益計算書を通して公正価値で測定する金融資産又は金融負債は、次の条件のいずれかを満たす金融資産又は金融負債である。

  1. トレーディング目的に分類されるもの(以下省略)。
  2. 当初認識時に企業によって損益計算書を通して公正価値で測定するものと指定されるもの。企業は、この指定を次の条件の1つ又はそれ以上を満たす金融資産又は金融負債(又は金融資産又は金融負債のグループ)のみに限らなければならない。
    1. 次の理由により、公正価値オプションの使用がより適切な情報をもたらすことになる場合
      • 指定を行わない場合には異なる基準で測定することになるため生ずるミスマッチが、当該指定によって解消される(以下「測定のミスマッチ」という)、又は
      • 企業の事業の性質が、金融資産又は金融負債のグループを損益計算書を通して公正価値で測定するものとして指定することによって利用者にとってより有用な情報を提供する(以下「企業活動の性質」という)。
    2. 損益計算書を通して公正価値で測定するものへ指定する方が、本基準書が要求する測定を適用する場合に比べてより簡易となる場合(以下「測定の簡素化」という)」

上記(b)(i)は、より適合性があり信頼できる情報を提供できるような会計方針を選択すべきであるというIAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)の考え方に沿ったものである。公正価値オプションの使用がより適切な情報をもたらすことになる場合は、上記に示した2つの理由に限定されている。また、上記(b)(ii)は、フレームワークが要求する費用対効果の考慮の規定に基づいたものである。

これに加えて、新たな適用ガイダンス案(IFRSの一部となるもの)も示され、その中ではより詳しいガイダンスが示されている。

(3)今回の議論の概要

新たな公正価値オプションの提案に対して30通のコメントが寄せられた。今回は、その分析結果が報告され、これに基づいて議論が行われた。

寄せられたコメントは、次のようなものであった。

(a)全般的なコメント
  • 保険会社からのコメントのすべてが、新アプローチは厳格すぎ、適切と思う場面で使うことができない点を指摘している。
  • 銀行規制当局は、新アプローチは依然として十分限定的でないとの懸念を表明していた。しかし、証券規制当局者は、測定の簡素化は拡大解釈される恐れがあるという懸念を持っているものの、それ以外の場合については、新アプローチの方向性に賛成している。
(b)「測定のミスマッチ」に対するコメント
  • ここでいう「測定のミスマッチ」は、測定尺度が異なることによるミスマッチ(会計上のミスマッチ)の解消を指しているが、経済的なミスマッチと誤解するコメントが多かった。
  • ミスマッチの解消(eliminate)という用語は、強すぎる表現である。例えば、IFRS第4号第24項に従って保険負債を直近の市場金利を用いて測定している場合、それに対応する売却可能金融資産又は償却原価で測定される金融資産に対して公正価値オプションを適用すると、ミスマッチは軽減されるものの解消されることにはならず、このような場合に公正価値オプションを使えなくなる恐れがあるとのコメントがあった。
(c)「企業活動の性質」に対するコメント
  • 「企業活動の性質」は、実務で首尾一貫して利用できるほど十分に厳密な概念ではなく拡大解釈される恐れがあるとのコメントがあった。
  • これに対して、保険会社からは、保険会社が有する金融商品のほとんどすべてに公正価値オプションが適用できるように広く解釈できるようにしてほしいとのコメントが寄せられた。
(d)「測定の簡素化」に対するコメント
  • 「測定の簡素化」は、拡大解釈される恐れがあるとこコメントがあった。売却可能金融資産の会計処理や償却原価法の会計処理より、公正価値オプションの法が簡単な会計処理と解釈される恐れがあるとの指摘があった。
  • 乱用を防ぐため、この規準は組込みデリバティブにのみ適用すべきであるとのコメントがあった。すなわち、IAS第39号では、一定の条件を満たす組込みデリバティブは、原則としてホスト契約から分離しなければならないとされており、分離ができない場合にのみ契約全体を公正価値で測定することが求められている。公正価値オプションの使用は、分離が可能な場合であっても契約全体を公正価値で測定できるようにするためだけに限定すべきという提案である。
(e)規制当局の権限に関する言及に対するコメント
  • 新アプローチでは、公正価値オプションの定義の中に、「銀行及び保険会社のような慎重な監督(prudential supervision)に服している企業については、慎重な監督者の権限は、公正価値の決定のための要求の適用及び関連するリスク管理のシステム及び方針の適用に対する監督を包含しているかもしれない。」という文言が含まれている。
  • この文言に対してコメントを寄せた15通のうち13通は、このような文言を会計基準の中に含めるべきではないとコメントした。また、6通は、このような文言は監督者に会計基準を覆すことを許容するものだと誤解される恐れがあると指摘した。

既に触れたように、今回は、分析結果を基に議論が行われただけで、暫定的な合意に至った事項はない。ただし、2005年3月における円卓会議の開催は合意された。なお、このほか、議論の中では、ECBを始めとする規制当局との交渉が、公開の場で行われていないことに対する懸念が表明された。また、公正価値オプションの導入によって金融機関の利益の変動性が高まるなどといった規制当局の懸念の真意をより理解するために、教育セッションに規制当局者を招待してはどうかとの意見も出された。

3.公開草案第7号(金融商品:開示)

2004年7月に金融商品に関する開示全般を取り扱う公開草案第7号(ED7)(金融商品:開示)が公表され、10月22日にコメント期間が終了し、105通のコメントを受領した。2004年12月に行われたコメントの分析の結果、今後下記論点について順次検討を行うことが合意されたが、今回は、このうち(a)、(b)及び(d)の3点について議論が行われ、暫定的な合意が形成された。なお、本公開草案に関する最終的なIFRSの公表は2005年第2四半期が予定されている。

  1. ED7第17項で求められている金融資産の評価のために設定されている評価性引当金の期中変動の金融資産の種類ごとの開示の要否。
  2. 担保その他の信用補完の公正価値の開示要求に関連して、担保の公正価値の開示の要否。
  3. 感応度分析の開示要求に関連して、感応度分析の開示を免除する規定の導入の是非(すべての企業に対して感応度分析の開示を求めない)。
  4. 自己資本に関する開示(管理方針、自己資本とみなすもの、目標自己資本、外部から要求されている自己資本比率等)要求に関連して、自己資本に関する開示全般の妥当性の再検討。
  5. IFRS第4号の規定する保険契約に対してもED7での変更と同様の変更を行い、開示を要求することの妥当性の検討。
  6. 適用ガイダンスの追加及び例示の追加の要否。

(1)自己資本に関する開示

ED7第46項から第48項において、自己資本(capital)に関する開示項目が規定されている。
特に第47項では、次のような開示内容が具体的に示されている。

  1. 自己資本を管理する目的、方針及びプロセスに関する質的情報(企業がどのようなものを自己資本と見ているか、規制当局等外部から課された自己資本規制をどのように企業の資本管理方針に反映しているか及び自己資本管理目的をどのように充足させているか)
  2. 企業が自己資本とみなすものについての量的データの要約及び経営者が設定した自己資本の目標
  3. 上記(a)及び(b)について当期に発生した重要な変更
  4. 経営者が設定した自己資本の目標又は外部から課された自己資本規制の当期の遵守状況
  5. 経営者が設定した自己資本の目標又は外部から課された自己資本規制を当期に遵守できなかった場合には、その帰結

受領したコメントでは、上記開示項目のいくつかについて多くの回答者が反対であった。このような分析を検討した結果、暫定的に次の点が合意された。

  • 上記(a)の項目の開示は求めることとする。すなわち、1. 企業がどのようなものを自己資本と見ているかの開示を求めるとともに、2. 自己資本を管理する目的、方針及びプロセスに関する質的情報の開示も求めることとする。また、ここで開示を求めている自己資本(capital)は、必ずしも資本(equity)と同じである必要がない点を明確にする。
  • 「経営者が設定した自己資本の目標」に関連する開示は求めないこととする。具体的には、上記(b)の開示項目のうち「経営者が設定した自己資本の目標」の開示、上記(d)の開示項目のうち「経営者が設定した自己資本の目標の遵守状況」の開示及び上記(e)の開示項目のうち「経営者が設定した自己資本の目標を遵守できなかった場合のその帰結」の開示は削除する。
  • 上記の開示項目には、「外部から課された自己資本規制」の数値そのもの開示は含まれていない。コメントでは、このような開示を求める意見もあったが、ED7の提案どおり、数値そのものの開示は求めないこととする。
  • 「外部から課された自己資本規制」の数値そのもの開示は求めないものの、ED7の提案どおり、外部から課された自己資本規制の当期の遵守状況の開示(上記(d))及び自己資本規制を当期に遵守できなかった場合におけるその帰結の開示(上記(e))は求めることとする。

このほか、自己資本に関する開示は、外部から自己資本規制を課された企業のみならずすべての企業に対して求められるものであるので、金融商品に関する会計基準でその開示を求めるのではなく、財務諸表全般に関する規定を定めるIAS第1号(財務諸表の表示)において取扱うことが妥当と判断され、IAS第1号を改訂して上記のような開示を織り込むことが暫定的に合意された。

(2)担保の公正価値に関する開示等

ED7第39項では、金融商品から生じるリスクの性質とその程度に関する開示の一環として、信用リスクに関する量的開示に関する規定が置かれており、金融商品の種類ごとに次の情報の開示が求められている。

  1. 貸借対照表日現在の最大信用リスク・エクスポージャーを示す金額(担保の公正価値又はその他の信用補完を考慮しないもの)
  2. 上記の金額に関連して入手されている担保又は信用補完に関する記述、及び、もし実行不能でない限り、その公正価値
  3. 支払期日が過ぎていないか又は減損していない信用リスクを有する金融資産の信用の質に関する情報

上記(b)では、もし実行不能でなければ担保又は信用補完の公正価値の開示が求められている。この開示に関して、多くのコメントが、費用対効果の観点から反対していた。これを受けて、スタッフからは、原則としてこの開示を継続するものの、公正価値の入手が不可能な場合には、その旨を開示するという改訂提案が示された。

議論の結果、担保又は信用補完の公正価値の開示は求めないことが暫定的に合意された。なお、上記(a)の「その他の信用補完」に、ネッティング・アグリーメントが含まれることを明示することが合わせて合意された。

(3)評価引当金に関する開示

ED7第17項では、金融商品が企業の財政状態や経営成績に与える影響を投資家が理解するために必要とされる情報の開示の一環として、金融資産の簿価が信用損失により減損している場合で、金融資産を直接減額するのではなく、評価引当金方式(間接法)によって減額している場合には、金融資産の種類ごとに当期中の評価引当金の変動を開示することを求めている。これに関するコメントでは、1. 評価引当金方式を採用した場合のみならず、直接金融資産の簿価を減額した場合にも当期中の変動の開示を求めるべきである、及び、2. ここで求める変動の開示に関して、期首から期末までの変動内容をどのような項目で開示すべきかといったより詳細な規定を追加すべきであるといったものがあった(変動内容に関する詳細な規定は追加しない)。

議論の結果、公開草案での提案どおり、評価引当金方式を採用している場合に限って、当期中の評価引当金の変動の開示を求めることが確認された。

4.米国会計基準との短期統合化

(1)法人所得税

税効果会計を扱うSFAS第109号(法人所得税の会計処理)とIAS第12号(法人所得税)との間の統合化を図るための作業が継続されているが、今回は、次の4点についての議論が行われた。これらのうち最初の3つは、既にIASBが暫定合意に達しており、その後これをFASBが検討した結果を受けて、改めて、議論されたものである。

  • 法定税率(enacted tax rate)又は実質的法定税率(substantively enacted tax rate)のいずれを適用すべき税率とすべきか。
  • 未分配税率又は分配税率のいずれを使用して税効果を認識すべきか。
  • 未分配税率・分配税率の使用と子会社の未分配利益に関連する税効果との関連をどのように理解するか。
  • IAS第12号に追加すべきSFAS第109号のガイダンス等にどのようなものがあるか。
1.法定税率又は実質的法定税率

IAS第12号第47項では、繰延税金資産及び繰延税金負債は、資産が実現するか負債が決済される期に適用されると予想される、貸借対照表日現在で立法化されている法定税率又は実質的に立法化されている法定税率を用いて計算しなければならないとされている(第46項では、当期納付税金についても同様に貸借対照表日現在の法定又は実質的法定税率を用いることを要求している)。一方、SFAS第109号第8項cでは、立法化されている法定税率を用いて計算しなければならないとされており、実質的法定税率の使用も認めるIAS第12号との間に差異が生じている。IASBは、現行IAS第12号の規定を維持することを決め、「実質的法定」とはその立法化がほぼ確実(virtually certain)な場合であることを明確にすることを考えている。FASBは、「立法化されている」とは、儀式的なプロセスを除き、法律として成立するために必要な手続はすべて終了していることであると理解しており、これを明確にする予定である。この考え方の下では、米国大統領が法律の成立に関する拒否権を有している場合には、大統領の署名が終了しなければ、「立法化されている」ことにはならない。

今回の議論では、両者の差異を解消するための4つの提案がスタッフから示され議論されたが、「実質的に法定(立法化)されている」を、立法化するために必要なプロセスが法律の内容がもう変わることがない段階まで進んだ段階と解釈することが暫定的に合意された。その上で、このような考え方をFASBが受入れることができるかどうかを改めてFASBに尋ねることとされた。実質的な解釈が同意できれば、両者の差異を統合することができる可能性が高い。

2.未分配税率又は分配税率の使用

企業が稼得した留保利益に対して適用される税率が、株主に配当を行うかどうかで異なる国がある。このような場合において、企業が一時差異に対して繰延税金資産又は負債を認識する際に、配当を行う場合に適用される税率(ここでは「分配税率」という)と配当を行わない場合に適用される税率(ここでは「未分配税率」という)のどちらを用いるかがここでの論点である。用いる税率に関して、IAS第12号とSFAS第109号との間に取扱いに差異がある。
IAS第12号では、未分配税率を用いることとされている(第52A項)。ただし、留保利益を配分しなければならないという義務が生じた場合には、その部分に関連する繰延税金負債は分配税率を用いて計算される。
一方、米国では、SFAS第109号は、この問題について明確な規定を置いていないが、EITF(発生問題専門委員会)の解釈指針や米国公認会計士協会・米国証券取引委員会(SEC)の取扱いでは、次のような会計処理となっている。

  • 未分配税率が分配税率より高い場合には未分配税率を用いる(ただし、配当を行い税率差の控除を申告した期において、その差額を損益計算書上で法人所得税からの控除として表示する)。
  • 未分配税率が分配税率より低い場合には米国公認会計士協会は分配税率の使用を示唆しているが、SECはいずれの税率の使用も認める方針である。

このような現行の取扱いに対して、FASBは、未分配税率が分配税率より高いか否かにかかわらず、すべての場合において分配税率を用いることを暫定的に決定している。ところが、IASBは、今回の議論で、現行規定どおり未分配税率を用いることを改めて確認している。このように両者の見解に差異があることから、2005年4月の両者の合同会議でこの問題が改めて議論される予定である。

3.未分配税率・分配税率の使用と子会社の未分配利益に関連する税効果との関連

この問題は、親会社の連結財務諸表上において、子会社が繰延税金資産又は負債の認識の際に用いた税率をそのまま用いるかどうかという問題である。現行のIAS第12号では、子会社に適用される税率と連結財務諸表で適用される税率の取扱いを区別していない。したがって、子会社の繰延税金資産又は負債の認識の際に適用された税率がそのまま連結財務諸表上でも適用される。ある一定の要件を満たす在外子会社及びジョイント・ベンチャーの未分配利益を除き(注)、子会社の未分配利益に対しては、子会社レベルで未分配税率を用いて繰延税金負債が認識されるとともに、連結財務諸表上も未分配税率を用いて税効果が認識される。ただ、子会社が連結グループ内に配当を行う際に追加的に生じる一時差異がある場合には、この部分に関する繰延税金が連結ベースで追加的に認識される。また、子会社が外部に配当を行うことに伴って生じる税金があれば、それも認識する必要がある。ただし、そのような税金が認識されるのは、配当をしなければならないという債務を負った時点であり、それ以前において外部への分配に伴う税金を認識してはならない。 一方、IASB会議の直前に開催されたFASBの会議において、FASBは、子会社の個別財務諸表で用いられる税率と連結財務諸表で当該子会社に適用される税率とは相互に整合的であるべきであるという結論に達したことが報告された。この結論は、すべての一時差異に対して分配税率を用いるというFASBの採用した税効果の認識に関する原則に対する例外を認めたことを意味する。すなわち、子会社の未分配利益が親会社にとって永久的な投資の性格を有する場合には親会社の連結財務諸表で当該未分配利益に対して税効果を認識しないという例外があるため、子会社が個別財務諸表で未分配利益に対して適用している未分配税率が、結果として連結財務諸表でも適用されることとなる。このため、すべての一時差異に対して分配税率を用いるというFASBの認識原則に対する例外が生じることになっている。

(注)在外子会社及びジョイント・ベンチャーの当面回収される見込みのない未分配利益等(将来加算一時差異に対する税効果)の認識に関しては例外規定が置かれており、この部分に対しては、一時差異の解消時期をコンとロールすることができ、かつ、予測可能な範囲で一時差異が解消しない可能性が高い場合には、親会社の連結財務諸表上で税効果を認識しないという規定がある(第39項)。IASBは、2003年7月の会議で一旦このような例外規定を削除することを決定したが、2004年10月に行われたFASBとIASBの合同会議において改めて議論され、理論的には例外を削除すべきであるが実務上の煩雑さを回避するという実務への配慮から現行の例外規定を今後も存続させることが暫定的に合意されている。

4.追加開示事項等

上記のほか、今回の会議では、SFAS第109号との統合化を進めるため次の点が暫定的に合意された。なお、この短期統合化プロジェクトでは、今回取上げた項目については同じ文言を用いた公開草案を同時期に公表することを目指しているが、IAS第12号全体を根本的に再構成・見直すということは意図していない。

  1. 累進税率が適用される場合の取扱い(どのように平均をとるか等)について検討する。
  2. 企業結合の結果実現可能となった取得企業に帰属する(利益となる)税効果の会計処理は、企業結合の第2フェーズで取上げて検討する。
  3. SFAS第109号にはIAS第12号よりも多くのガイダンスが含まれている。より両者の基準の統合化を図るため、それらをIAS第12号に含めるかどうかを検討する。

(2)セグメント情報

今回、IAS第14号(セグメント情報)を米国会計基準に合わせるためのプロジェクトを短期統合化プロジェクトの1つとして取上げることが合意された。現状、両者の会計基準には後述するような大きな相違点があるが、これを解消するため、今後、米国財務会計基準書(SFAS)第131号(企業のセグメント及び関連情報に関する開示)で採用されているマネジメント・アプローチに基づいて、IAS第14号を改訂する方向性が合意された。まだボードメンバーの最終的な合意は形成されていないが、マネジメント・アプローチの採用に伴いIAS第14号の内容が大幅に変更されるため、IAS第14号を新IFRSで置き換える方向で検討することになると思われる。なお、現在のIAS第14号では、公開企業にのみセグメント情報の開示を求めているが、このような範囲が適切かどうかも検討される予定である。
両者の主要な相違点は次の通り。

  1. セグメントの識別
    IAS第14号では、事業別セグメント又は地域別セグメントを企業の構成要素として区別することを求めている(リスクとリターンの違う事業を区別する)。また、セグメントは、外部からの収益が過半を占めていなければならないとされている。しかし、SFAS第131号では、企業の最高業務意思決定者(chief operating decision maker)が定期的に検討する事業セグメントによる報告を求めており、収益が内部売上だけであってもセグメントとして区別できる。
  2. セグメント情報の測定
    IAS第14号では、連結財務諸表に適用されるのと同じ会計方針がセグメント情報にも適用されなければならないが(トップダウン・アプローチ)、SFAS第131号では、そのような首尾一貫性は求められていない(ボトムアップ・アプローチ)。
  3. 開示
    IAS第14号では、基本的報告様式と補足的セグメント情報の開示が求められるが、SFAS第131号では、補足的セグメント情報の開示は求められない。IAS第14号では、基本的報告様式において、セグメント別収益、セグメント別費用、セグメント別損益、セグメント別資産、セグメント別負債、資本的支出及び減価償却費等の情報開示が求められている。SFAS第131号では、最高業務意思決定者が利用しているセグメントについて、セグメント別損益やセグメント別資産の開示が求められるが、セグメント別損益は、売上総利益、営業損益又は税引後損益など、企業によってその内容が異なる。さらに、セグメント別損益に外部顧客からの収益、利息収益、利息費用又は減価償却費などが含まれていれば、それらの開示が求められている。セグメント別資産についても、持分法適用会社への投資などの開示が求められている。

5.概念フレームワーク

2004年4月に開催されたIASBとFASBの合同会議において、両者の概念フレームワークを統合・改善し、共通の概念フレームワークを開発する合同プロジェクトを立ち上げることが原則として合意されている。これを受け、2004年10月の両者の合同会議で、概念フレームワークの統合化を正式に両者の共同プロジェクトとして取り上げることが決定された。10月会議では、プロジェクト推進のための計画案が議論されたが、当面の施策として概念フレームワークの統合・改善の必要性について関係者に正確に理解してもらう必要があるとの認識から、2種類のコミュニケーション・ドキュメントを公表することが合意された。
第1の文書は、概念フレームワークがどうして基準設定に当たり有用なのか、どうして両基準設定主体が共通した概念フレームワークを必要とするのか、どうして概念フレームワークの改善が必要とされるのかといった点を明確にし、会計基準の設定に概念フレームワークを用いない国々を含む関係者に本プロジェクトの重要性を認識してもらうことを目的とするものである。第2の文書は、日常的に会計基準の設定に関係しないものの会計基準に関心を寄せている関係者(例えば企業の経営者)に本プロジェクトの重要性を理解してもらうことを目的とするものである。

今回の会議では、第1の文書のドラフトが提示され、その内容について議論された。詳細については触れないが、第1の文書のドラフトの構成は次の通りである。

  1. どうして会計基準設定主体は概念フレームワークを必要とするか。
  2. 現在のFASBの概念ステートメントとIASBのフレームワーク
    1. 目的(経済的意思決定有用性、キャッシュ・フロー予測の評価への有用性等)
    2. 質的特徴(理解可能性、適合性、信頼性及び比較可能性等、基礎となる前提(発生主義と継続企業))
    3. 財務諸表の構成要素及びその定義
    4. 財務諸表における認識
    5. 測定
    6. 報告企業と他の企業に対する支配
    7. 表示と開示
  3. 明日の改善されたフレームワーク
  4. 結論

なお、今後の本プロジェクトの検討スケジュールについては、2005年2月の会議で検討される予定である。

6.中小規模企業の会計基準

今回は、2004年12月に口頭で報告が行われた今後の中小規模企業の会計基準(以下「SME基準」という)プロジェクトの取り進め方に関する基本方針について、改めて書面の形で報告され、これについて議論が行われた。この報告は、少人数のボードメンバーからなる検討チームの検討結果である。また、今後のプロジェクトの検討スケジュールについても議論が行われた。

(1)プロジェクトの取り進め方針
  1. SME基準へのコミットメント
    IASBのボードメンバーの中にはSME基準を作ろうという本プロジェクトに懐疑的な見解もあるが、2004年6月に公表したディスカッション・ペーパー「中小規模企業の会計基準に対する予備的見解」に対するコメントの分析から、SME基準に対する需要が強いことが確認され、改めてIASBがSME基準の設定に積極的に取り組むことが必要である。
  2. SME基準の適用対象
    SME基準は、公的責任のない企業(non-publicly accountable entity)を適用対象とする。また、SME基準を採用しようとする会計基準設定主体が適用対象を柔軟に設定できるようにすることを目的に、IASBが適用対象を限定することを極力避ける。
  3. SME基準は極力簡素化したものとする(適用対象に関するガイダンスは示さない)
    SME基準が適用されるべき対象に関する詳細なガイダンスは示さず、会計基準設定主体の裁量に任せることとする。しかし、SME基準を適用することが不適切な企業の範囲はSME基準の中で示すこととし、また、そのようなSME基準を採用する企業は、IFRSに準拠していると宣言できないことを明確にする。
  4. 認識と測定に関する簡素化の容認
    これまでの議論では、表示と開示については、利用者のニーズ及び費用対効果を反映してIFRSと異なる取扱いを認めることとするものの、認識と測定については、原則としてIFRSと異なることを認めないという方針で議論が行われてきた。これを改め、認識と測定についてもIFRSと異なる処理を認める。ただし、そのような簡素化は、概念フレームワークと首尾一貫したものでなければならず、また、利用者のニーズ及び費用対効果という2つの要素を満たした場合のみとする。
  5. SME基準に規定がない場合の取扱い
    認識及び測定に関する規定が、IFRSには存在するものの、SME基準には規定がないときには、IFRSの本則を必ず参照して会計処理を決めることを最優先とする(規定がない場合のヒエラルキーを示すIAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)に相当するSME基準の規定の中でこの点を明確にする)。
  6. SME基準の採用とIFRSの任意適用の関係
    SMEがSME基準を適用する際には、SME基準すべてを一括して適用すべきであり、一部の会計処理についてSME基準に代えてIFRSを適用するというIFRSの部分的任意適用は認めないこととする(SME基準に規定があるにもかかわらず、任意にIFRSの規定を適用することは禁止する)。すなわち、企業には、IFRSの規定をすべて適用するか、又はSME基準を適用するかの二者択一しか認めないこととする。
  7. SME基準への準拠の明示
    SME基準を採用している場合には、財務諸表の注記及び監査報告書(監査を受けている場合)において、IFRSが適用されていないことを読者がわかるように記述する。
  8. SME基準の体系
    SME基準は、IFRSのような会計処理の対象となる項目別に規定を定めるのではなく、貸借対照表及び損益計算書の項目ごとに規定を編集する。すなわち、売掛金、有形固定資産又は無形資産といった項目の順に規定を編集する。ただし、関連するIFRSを参照できるようにIFRSとの関連を明示する。
  9. アドバイザリー・グループの拡大
    現在組織されているアドバイザリー・グループの構成を見直し、作成者やアナリストに加えて利用者をメンバーに加える。
(2)今後の予定

SME基準に関する基本方針の変更を受け、アドバイザリー・グループの拡大を図り、SME基準に基づく財務諸表の作成者及び利用者の参加する円卓会議を開催することが予定されている。さらに、アドバイザリー・グループの会合も2005年第一又は第二四半期に開催し、メンバーの意見を聴取することが予定されている。

7.保険会計

2004年7月に保険会計が議論されたが、それ以降は、教育セッションでの議論のみが行われていた。その間、新たに組織された保険ワーキング・グループが、2004年9月、11月及び2005年1月に開催されている。今回の会議では、保険ワーキング・グループでの議論の概要の説明に加えて、1. 第2フェーズでの議論の論点と基本方針、2. 他のプロジェクトとの関連及び3. 今後のスケジュール等について議論が行われた。

(1)今後の議論の論点と基本方針

第2フェーズでの今後の議論では、これまでにIASCが公表した資料やIASBでの議論は参考にするものの、それに拘束されることなく、新たな視点で議論を行うことが了承された。その際に、IASBが唯一制約を受けるのは、概念フレームワーク及びIASBの既存基準により設定された一般原則のみであることが確認された(現在の各国又は業界の実務は参考とされることがあるが、これらに拘束されない)。

既に2004年7月会議でも提示されていたが、第2フェーズで解決すべき論点は次のとおりである。

第2フェーズで解決すべき論点
  1. 会計処理のためのモデル。1. 全ての契約に対して単一のモデルを設定すべきか、異なったタイプの契約には異なったモデルを設定すべきか、及び、2. 会計モデルは契約上の資産・負債を直接測定する方法、契約から生じる収益・費用を繰延対応させる方法、もしくはその2つの組み合わせによるべきかといった問題。
  2. 測定。1. 資産・負債法を採用する場合、公正価値、企業固有価値、またはいくつかの組み合わせを基礎とした測定を用いるべきか、2. 測定属性として公正価値を用いる場合、企業・消費者間測定(顧客対価額)又は企業間測定(法的解放金額)を用いるべきか、及び、3. 測定に当たっては、契約に組み込まれたオプションや保証を考慮するべきかといった問題。
  3. 割引。貸借対照表において認識される金額の測定は、現在価値を基礎として行うべきかどうかという問題。
  4. 資産・負債の相互関連。測定モデルは契約から生じる負債の帳簿金額を決定するに際して、資産から生じる期待収益を取り込むべきかといった問題。
  5. リスク・サービス調整。会計モデルの中に、リスク(又はサービス)調整をどのように取り込むかといった問題。
  6. 負債の初期認識・測定から生じる損益。会計モデルにおいては、初期認識における正味損益の認識を禁止もしくは相当程度制限すべきかといった問題。
  7. 保険契約者の行動。会計モデルは、保険契約の更新もしくは解約の結果を反映したキャッシュ・インフロー及びキャッシュ・アウトフローの期待を取り込むべきかといった問題。
  8. 新契約費。会計モデルは、新契約獲得に際して発生した費用を資産として計上し、償却していくべきか、発生時に費用として認識するかといった問題。
  9. アンバンドリング。測定モデルは、保険契約の構成要素をそれぞれに分離し、それぞれを別々に測定するべきかといった問題。
  10. 有配当契約。有配当契約保有者に対する保険会社の負債は、どのように認識・測定すべきかといった問題。
  11. 信用格付け。測定には企業の信用格付けの影響を考慮すべきかどうかといった問題。
繰延法等を採用した場合の追加論点

上記の問題のほとんどは、資産・負債法又は繰延法の会計モデルに関するものであるが、もし何らかの計算式に基づいたモデル又は繰延法モデルを適用する場合には、さらに次の2つの追加論点が生じる。

  1. 属性モデル(Attribution model)。会計モデルがどのように保険契約でカバーされる個別保証期間に収益・費用を帰属させるかという問題。
  2. 見積りの変更。会計モデルはどのように金利の変更及び将来キャッシュ・フローの見積りの変更を取り扱うのか、当期に実現した金額と過去に見積もった金額との間の差異に対しては異なったアプローチを用いるべきなのかといった問題。

(2)他のプロジェクトとの関連

本プロジェクトは、概念フレームワークは勿論のこと、収益認識、金融商品、IAS第37号及び負債と資本の区分等のプロジェクトと関連を持っている。今後、これらと平行して本プロジェクトが進行することになり、本プロジェクトでの議論が、これらのプロジェクトの議論にいろいろな形で影響を及ぼすことが予想される(その逆もあり得る)。しかし、これらプロジェクトには完成までに相当な時間を要するプロジェクトもあるため、本プロジェクトの議論は、必ずしもこれらのプロジェクトの結論を待つことなく取り進めることが確認された。

(3)今後のスケジュール

本プロジェクトの最初の成果は、ディスカッション・ペーパーとなる予定で、その中には、IASBの予備的見解(preliminary view)が盛り込まれる予定である。ディスカッション・ペーパーは、2005年末以前に公表されることはない。また、FASBも保険会計の議論に参加する意向を示しており(本プロジェクトはFASBとの共同プロジェクトとして位置づけられている)、ディスカッション・ペーパーのコメント分析が終了したころからFASBが議論に参加することが期待されている。

公開草案の公表は、ディスカッション・ペーパーの公表から少なくとも18ヵ月後以降となる。また、最終基準の公表には、最低でもさらに12ヶ月が必要と見込まれている。したがって、どんなに早くとも最終基準の公表は、2008年となることが見込まれる。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)