ASBJ 企業会計基準委員会

第41回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第41回会議が、2004年12月15日から17日の3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回は、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の改訂(金融資産・金融負債に係る経過措置と当初認識に関する改訂公開草案)、3. IAS第39号の改訂(公正価値オプション)、4. 収益認識、5. IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)の改訂(解雇給付)、6. IFRS公開草案第7号(金融商品:開示)、7. 中小規模企業の会計基準及び8. 解釈指針案(IFRIC)の検討が行われた。また、このほか教育セッションでは、IAS第39号の改訂(金融保証と信用保険に関する改訂公開草案)及びIAS第39号の改訂(外貨建内部取引のキャッシュ・フロー・ヘッジに関する改訂公開草案)の2つについて議論が行われた。IASB会議には理事14名が参加した。本稿ではIASB会議での議論の概要を紹介する。

1.企業結合(第2フェーズ)

2004年11月のIASB会議では、第2フェーズのドラフト作成過程で生じてきた論点として次に示す6項目が議論され、IASBとしての暫定的な合意が形成されていた。IASB会議の後に同じ論点についてFASBにおいて議論が行われたが、今回その決定内容がIASBに伝えられ、両者の決定に差異があるものを中心に議論が行われた。なお、下記(f)は、企業結合に関連して公表されているEITF Issue95-8(パーチェス法を用いる企業結合において取得された企業の株主に支払われた偶発対価の会計処理)及びIssue04-1(企業結合の当事者間に企業結合以前に存在していた関係の会計処理)に関連するもので、FASBはこれらを企業結合の第2フェーズの公開草案に含めることを決定しているが、IASBも同様にこれらの内容を第2フェーズのドラフトに含めるべきかどうかについて判断するため、今回その内容が検討された。

  1. 企業結合の定義
  2. 取得企業の識別のための規準の統合化
  3. のれんの定義
  4. 資産及び負債として認識するための条件としての信頼を持った測定
  5. 暫定的に当初認識された会計処理の遡及修正
  6. EITFの解釈の取込み

(1) 企業結合の定義

FASBは、企業結合を「取得者が、一つ又はそれ以上の事業に対する支配を取得する取引又は事象」と定義しているが、IASBは、「独立した企業又は事業を統合して一つの報告企業にすること」と定義しており、両者間で定義に差異がある。IASBは、2004年11月の会議で、両者の定義を統合するため新たな定義をつくるべきと考えるが、FASBがこれに賛成しない場合には、FASBの定義を受け入れることを暫定的に決定していた。今回、FASBが自らの定義を採用することを改めて決定したことを受けて議論が行われ、その結果、IASBもFASBの定義を採用することが暫定的に合意された。

(2) 取得企業の識別のための規準の統合化

IASBでは、「取得企業は、他の結合企業又は事業の支配を取得する結合企業である」と定義され、支配概念を核にして取得企業の識別のための規準が規定されているが、財務会計基準書(SFAS)第141号「企業結合」では、IFRS第3号(企業結合)に類似した支配に関するガイダンスが示されていない。IASBは、2004年11月の会議で、IFRS第3号に示されている支配に関するガイダンスを中心に両者のガイダンスを統合すべきであると暫定的に決定し、FASBに検討を求めていた。FASBでの検討の結果、FASBは、IASBの提案を受入れ、IFRS第3号のガイダンスを大幅に取り入れたガイダンスを決定した。この提案内容を今回検討した結果、FASBの示したガイダンスを第2フェーズの公開草案に含めることが暫定的に合意された。

(3) のれんの定義

IASBののれんの定義では、のれんは、「個別に識別し、分離して認識することができない資産から生じる将来の経済的便益」と定義されている。一方、米国会計基準では、「取得された企業のコストが、取得した資産及び引き受けた負債に配分された金額の純額を超える金額」であると定義されており、両者には、IASBはのれんの特徴に基づいて定義をしているが、FASBでは測定の仕方を基にのれんの定義をしているという違いがある。FASBでの議論の結果、FASBは、若干の修正を行った上でIASBの定義を採用することに合意した。修正後の定義は、「個別に識別し、分離して認識することができしない資産から生じる将来の経済的便益」となる。これを受けて、IASBで議論した結果、この修正を受入れることが暫定的に合意された。

(4) 資産及び負債として認識するための条件としての信頼性のある測定

IFRS第3号では、取得した資産及び負債を認識するための条件として、公正価値の信頼性のある測定ができることが求められているが、FASBは信頼性のある測定という考え方を導入しなかったため、SFAS第141号では、信頼性のある測定は要求されていない。2004年11月の会議では、企業結合で取得されるすべての資産及び負債に対してではなく、無形資産に対してのみ信頼性のある測定という条件を求めることが暫定的に合意されていた。これを受けてFASBが検討を行った結果、FASBは、信頼性のある測定は要求しないことを決定した。このため、両者の差異は残ったまま公開草案を公表することとなる。公開草案では、なぜ差異が生じるかについて説明するとともに、信頼性のある測定に対するコメントを求める方向で検討することとされた。

(5)暫定的に当初認識された会計処理の遡及修正

IFRS第3号では、企業結合が行われた事業年度における当初認識時に暫定的に会計処理がなされた場合には、その後12ヶ月以内に確定させ差額の調整を行わなければならないとされている。この規定に基づいて修正が行われた場合には、比較財務諸表をあたかも当初認識時から確定ベースの数値で会計処理していたかのように修正再表示しなければならないとされている(米国会計基準では、当該調整額は将来に向かって修正することとされている)。FASBでの議論の結果、FASBはIASBの取扱いを受け入れ、IASBと同様に比較財務諸表の修正再表示を求めることで合意したことが報告された。

(6) EITFの解釈の検討

FASBが、EITF Issue95-8(パーチェス法を用いる企業結合において取得された企業の株主に支払われた偶発対価の会計処理)及びIssue04-1(企業結合の当事者間に企業結合以前に存在していた関係の会計処理)を企業結合の第2フェーズの公開草案に含めることを決定したことを受けて、今回、これらの内容を公開草案に取り込む方向でその内容についての検討が行われた。前者の解釈指針では、被取得企業の株主に対して企業結合後に支払われた変動対価(contingent consideration)を企業結合の一部と見るべきか企業結合後の費用と見るべきかについての判断規準が示されている。例えば、株主が企業結合後も取得企業の経営の重要な一員として雇用を継続している場合、当該従業員との雇用契約又は雇用契約に規定されている企業結合後に支払われる変動対価が、雇用を中断した場合には支払われないものであれば、当該変動対価は企業結合後のサービスの提供に関連するものとみなされ、雇用を中断しても支払われるものであれば、企業結合の対価とみなされるという解釈が示されている。

また、後者の解釈指針では、企業結合前から取得企業と被取得企業との間に存在する取引の例として5つのケースが示され、それぞれの場合にどのように会計処理すべきかについての指針が示されている。例えば、企業結合前に顧客と売主という関係に基づいた取引が存在している場合、(当該取引が企業結合と関係ないものであれば)当該取引は、企業結合によって内部取引となり、実質的に決済されたものとみなされ、決済損益が認識される。もし、取引に企業結合に関連する要素とそうでない要素が含まれている場合には、後者は実質的に決済されたものとみなされ決済損益が認識されるが、前者は企業結合の対価の一部として会計処理される。

議論の結果、いくつかの項目についてさらに検討を必要とするものの、基本的にこれらの解釈指針の内容を第2フェーズの公開草案に含めることが暫定的に合意された。

2.IAS第39号の改訂(金融資産・金融負債に係る経過措置と当初認識に関する改訂公開草案)

(1)議論と合意

2004年11月の会議において金融資産・金融負債に係る経過措置と当初認識に関する改訂公開草案の議論は終了していたが、その後基準を完成させる過程で出てきた次の点について議論が行われた(その後、この議論を反映した最終基準が2004年12月17日に公表された)。

  1. 2004年11月の会議において、AG第76A項の中にある「市場参加者が価格を設定する際に考慮するであろう要素(時の経過を含む)が、当初認識以後に変動した範囲で損益を認識しなければならない」という文言の適用に当たり、当初認識に取引価格とその時点で(すべてが観察可能な市場からのデータによっていない)評価技法によって計算された金額との差を定額法によって償却する方法が常に適切だとは限らないことを、結論の背景で明確にすることが合意されていた。その後、定額法について一切触れるべきではないとの指摘があり、改めて、定額法への言及の是非について議論が行われた。結論として、従前の取扱いどおりとすることが改めて確認された。
  2. 2004年11月の会議において、IAS第39号第107A項を改訂し、AG第76項に該当する場合には、新たに「2004年1月1日以降に発生した取引に対して遡及適用を行うことができる」という選択肢が追加された。この結果、AG第76項は、1. 第104項の規定どおり完全に遡及適用する、2. 2002年10月25日以降に発生した取引に対してのみ遡及適用する及び3. 2004年1月1日以降に発生した取引に対して遡及適用するという3つの適用開始日を持つことになっている。ところが、AG第76項と関連するAG第76A項に関しては、第108A項において2005年1月1日以降に開始する事業年度からの適用が規定されているのみで、AG第76項の適用開始日との間に乖離がある。この点が指摘され検討が行われた結果、今回AG第76A項にもAG第76項と同じ遡及適用を認めることが合意された(これにより第108A項は削除される)。
  3. 上記(b)で示すように、今回AG第76項及びAG第76A項に関して、3つの遡及適用方法を選択肢として認めることとしたが、その理由を結論の背景でより明確にすべきとの指摘があり、BC第222項(u)(i)を改訂することが合意された。

(2)これまでの経緯

本公開草案は、適用ガイダンスAG第76項(活発な市場がない場合における評価技法の適用に関するガイダンス)の遡及適用に関連する改訂である。AG第76項では、金融商品の当初認識時の公正価値の最良の証拠は、取引価格であるとしているものの、他の観察可能な最近の市場取引と比較して公正価値が証拠付けられる場合と観察可能な市場からのデータのみが変数となっている評価技法に基づいて公正価値が証拠付けられている場合には、取引価格以外を用いることができることが示唆されている。このため、取引価格以外を用いる場合には、金融資産又は金融負債の当初認識時に損益が生じることになるが、本公開草案で取扱われているのは、AG第76項を初めて適用する場合に、どの時点までAG第76項の取扱いを遡及適用するかという点である。AG第76項の規定は、米国会計基準との統合化のために導入されたものであるが、IAS第39号第104項では遡及可能な限り遡及適用しなければならないと規定しているため、2002年10月25日以降に発生した取引に対してのみ遡及適用を求めている米国会計基準との間で、遡及適用期間に差異が生じる状況となっていた。

3.IAS第39号の改訂(公正価値オプション)

(1)今回の議論の概要

IAS第39号の改訂(公正価値オプション)に対しては、115通のコメントが寄せられたが、そのうちの76%が改訂内容について反対の意向を示していた。反対は、規制当局を除く全業種のコメント提出者にわたっており、さらに、反対者のうち60%が現行の公正価値オプションに変更を加えるべきではないとコメントしていた。

しかし、本公開草案は、そもそも公正価値オプションの選択に制限を設けていない現行規定に対する規制当局の懸念に対応するために公表されたものであり、現行IAS第39号に戻ることはできないとの判断から、2004年9月以降規制当局などの関係者が受入れることのできる解決策を探る努力が行われてきた。

今回は、1. 上記の結果として、公正価値オプションは会計方針として企業が選択できることとし、さらに、公正価値オプションが適用できる場合を限定するという形の新しいアプローチが示されこれについて議論が行われ、次いで、2. 規制当局が公正価値オプションに対する懸念として表明している事項を取り上げ、これらについて議論が行われた(今回は議論が行われただけで合意された事項はいない)。

新しいアプローチの提案では、公開草案において公正価値オプションが適用できるケースを5つに限定していたのに対し、公正価値オプションが適用できる場合はどのような場合かについての原則を示そうとしている点に新機軸がある。この提案は、最終のものではなく、これを基に関係者の意見を聞き、さらに内容を詰めるためのたたき台としての意味を持っている。また、関係者の意見を聴取するための公聴会を2005年2月に開催する方向で調整が進められている。

(2)新たなアプローチ

新しいアプローチでは、公正価値オプションの定義を次のように変更する(下記(b)が公正価値オプションに関する記述)。定義の変更の特徴は、公正価値オプションが会計方針の選択であるという点と公正価値オプションの使用がより望ましい会計方針となるような状態はどのような場合かについての原則を明らかにしようとしている点である。多くのボードメンバーが、今回の提案が改訂公開草案の提案より優れている旨を表明した。

「損益計算書を通して公正価値で測定する金融資産又は金融負債は、次の条件のいずれかを満たす金融資産又は金融負債である。

  1. トレーディング目的に分類されるもの(以下省略)。
  2. 当初認識時に企業によって損益計算書を通して公正価値で測定するものと指定されるもの。企業は、この指定を次の条件の1つ又はそれ以上を満たす金融資産又は金融負債(又は金融資産又は金融負債のグループ)のみに限らなければならない。
    1. 次の理由により、公正価値オプションの使用がより適切な情報をもたらすことになる場合
      • 指定を行わない場合には異なる基準で測定することになるため生ずるミスマッチが、当該指定によって解消される、又は
      • 企業の事業の性質が、金融資産又は金融負債のグループを損益計算書を通して公正価値で測定するものとして指定することによって利用者にとってより有用な情報を提供する。
    2. 損益計算書を通して公正価値で測定するものへ指定する方が、本基準書が要求する測定を適用する場合に比べてより簡易となる場合」

上記(b)(i)は、より適合性があり信頼できる情報を提供できるような会計方針を選択すべきであるというIAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)の考え方に沿ったものである。公正価値オプションの使用がより適切な情報をもたらすことになる場合は、上記に示した2つの理由に限定されている。また、上記(b)(ii)は、フレームワークが要求する費用対効果の考慮の規定に基づいたものである。

これに加えて、新たな適用ガイダンス案(IFRSの一部となるもの)も示され、その中ではより詳しいガイダンスが示されている。

(3)改訂公開草案との比較

改訂公開草案は、次のような内容となっている。今回のスタッフの新たなアプローチ提案では、下記(a)のような特定の5つのカテゴリーを限定的に示すのではなく、公正価値オプション適用のための原則を示す内容に改められ、公正価値オプションが適用されるべき状況が明らかにされている。また、下記 (b)で導入が提案されていた「検証可能な公正価値」という概念は、信頼のある公正価値との違いが明確でないとの指摘を受けて撤回された。

  1. 公正価値オプションの適用可能な金融資産又は金融負債の種類の限定(以下の5つの特定のカテゴリーに限定)
    • 組込デリバティブを含んだ金融資産又は金融負債
    • 契約により、そのキャッシュ・フローが、公正価値で測定される金融資産の運用成績に連動する金融負債
    • 金融資産又は金融負債の公正価値の変動が、他の金融資産又は金融負債(デリバティブを含む)の公正価値の変動によってほとんど相殺される場合
    • 貸付金及び売掛金以外の金融資産
    • 他の基準書が、損益計算書を通じて公正価値で測定するものとして指定することを許容又は要求している項目
  2. 「検証可能な公正価値」概念の導入
    • 公正価値が検証可能な金融資産又は金融負債にのみ公正価値オプションを適用する(公正価値の検証可能性は、公正価値オプションを使用する場合にのみ要求される)。
    • 金融資産又は金融負債の公正価値が検証可能とされるのは、IAS第39号を適用して計算される合理的な公正価値の見積りがあまり大きく変動しない(見積りの範囲の変動性が低い)場合である。

(4)規制当局の懸念の検討

今回の議論では、スタッフ提案の内容の細かい検討よりも規制当局が指摘しているいくつかの項目を取り上げて、それらに対してどのように対応するかを中心に議論が行われた。

  1. リスク管理システムに準拠した公正価値オプションの許容
    今回の新アプローチに代えて、各企業が有しているスク管理システムに準拠して公正価値オプションの適用を認めるという方向(規制当局が望んでいる方向)で基準化ができないかという点が議論されたが、リスク管理システムは企業によって区々であり、この方向での基準化を支持する意見はなかった。
  2. 金融負債の公正価値への自分自身の信用リスクの反映
    金融負債の公正価値の測定に当たって、自分自身の信用リスクを除外すべきであるとの指摘が規制当局から寄せられているが、この点については、多くのボードメンバーが既に議論済みであり、この時点で検討する新たな論点はないという意見であった。
  3. 検証可能な公正価値概念の導入
    信頼性のある測定との関係で、改訂公開草案で導入しようとした「検証可能性(verifiability)」は、むしろ混乱を招いたというスタッフの分析が支持され、公正価値オプションの適用範囲を限定的にするための手段として、検証可能性を導入するという考え方に対する賛成意見はなかった。
  4. 規制当局の権限に対する言及
    IFRSの中で、規制当局の権限に対して言及することが適切かどうかについては、多くのコメントが否定的な意見であった。現在の文言は、規制当局が現在有している権限を記述しているだけであり、IFRSの適用との関係で、例えば、規制当局に特定の会計処理の採用を強制する権限があるといったことを示唆するものではない点が改めて確認され、改訂公開草案の文言を維持することが合意された。

今回、公正価値オプションの導入によって企業(銀行)の利益の変動性が高まるなどといった規制当局の懸念について議論を行ったが、規制当局の懸念の真意が今ひとつ明確でないという意見が多く、規制当局の懸念をより明確に理解するため、作成者と規制当局が共に参加する公聴会を2005年2月に開催する方向で検討することが暫定的に合意された。ただし、今度の公聴会は、金融商品に関して2003年3月に実施したものとは異なり、IASBから意見陳述者を指名する方式が考えられている。

4.収益認識

2004年10月にIASB会議の後で、IASBのボードメンバーから収益認識プロジェクトに対する意見を聞くための会議が開催された。そこでは、次に示す8項目の質問に対するボードメンバーの個人的見解について意見聴取が行われた。また、FASBのボードメンバーに対しても別途同様な質問が行われた。今回は、その結果を集約・分析した資料が示され、これに基づいて議論が行われた。

質問1:
契約発生時点(contract generation)で生じる純資産の増加が収益を生じさせることに賛成するか。もしこの考えに賛成する場合、(契約発生時点で)生じた収益を認識しないことがあるとすればそれはどのような場合と考えるか。

質問2:
収益認識プロジェクトにおいて、収益認識という文脈で、何が履行義務の公正価値の信頼ある見積りであるかについての基準レベルのガイダンスを開発すべきか。

質問3:
(契約発生時点で)純資産の増加が生じる際に残差として測定される純資産の増加(selling revenue)を認識する目的上、履行義務の公正価値の信頼ある見積りを構成するものは何か。

質問4:
質問3で履行義務の信頼性の水準が満足されないが、純資産の増加(selling revenue)の一部が直接測定できる場合(例えば、独立したブローカーへの販売手数料を参照する方法により)、(契約発生時点で)その部分のselling revenueを認識するか。

質問5:
もし、質問3で、履行義務の公正価値による測定の信頼性の水準が満足されず、(かつ、selling revenueが契約発生時点で認識されない場合)、個別の履行義務を測定するために、簡便法、あるいは代替手段(fallback)としてどのような測定属性を使用するか。

質問6:
もし、質問3で、履行義務の公正価値による測定の信頼性の水準が満足されず、(かつ、selling revenueが契約発生時点で認識されない場合)、契約発生時点で貸方(利益)をどのように認識するか。

質問7:
もし、残差を契約発生時点で繰延債務(deferred credit)として認識するならば、それをその後どのように損益計算書で認識するか。

質問8:
契約発生時点で借方差額(損失)となる場合、どのように認識・測定するか。

IASB(14名)及びFASB(7名)のボードメンバーからの意見聴取の結果、契約時に発生する純資産の増加を収益として認識するかどうかに関するボードメンバーの見解は、次のようであった。

FASB IASB
見解1を概ね支持 4 9
見解1に条件付賛成(見解2は不支持) 2
見解2を概ね支持 3 3
合計 7 14

ここで、見解1とは、契約時に発生する純資産の増加は、当該増加が信頼性を持って測定できる場合に、契約時に収益として認識してもよいとする見解であり、見解2とは、契約時に発生する「純資産の増加」については、契約時に収益を認識してはならないとする見解である。

議論では、次の3点についてボードメンバーの意見が求められた。

  1. 信頼性ある測定ができる場合、契約発生時に生じる純資産の増加が認識すべき収益を生むかどうか。
  2. 収益認識に関する会計基準は、契約発生時の純資産の増加を測定するための特別の信頼性の水準(special reliability threshold)を含むべきか。
  3. 収益認識に関する会計基準が特別の信頼性の水準を要求するものであり、かつ、その水準が満たされない場合、契約発生時の純資産の増加はどのようにして認識・測定されるべきか。また、当該増加はいつ損益計算書で収益として認識されるべきか。

議論の結果、上記(a)については、契約発生時に生じる純資産の増加が認識すべき収益を生むと考えるボードメンバーが多数を占めた。また、上記(b)についても、一般の損益の認識規準と異なる特別の信頼性の水準の設定はすべきでないと考えるボードメンバーが多数を占めた(したがって、上記(c)は該当しない)。

5.IAS第37号の改訂(解雇給付)

(1)問題の所在と暫定合意の概要

IAS第37号における引当金(特にリストラ引当金)の見直しに関連して、解雇給付に関するSFAS第146号(退出又は処分活動に関連する費用の会計処理)とIAS第19号(従業員給付)との間の統合化を図るための作業が続けられている。その目的は、IAS第19号の解雇給付に関する規定をSFAS第146号が規定する1回限りの解雇給付(「その実質において、継続している給付制度又は個別の繰延払契約ではない給付契約で、その給付契約の条件に基づいて、強制解雇される現在の従業員に提供される解雇給付」と定義される)に関する規定に基づいて改訂しようというものである。

米国では、1回限りの解雇給付に対しては、SFAS第146号が公正価値による測定を要求しているが、SFAS第146号が取扱う以外の解雇給付については、SFAS第88号(確定拠出型年金の清算・縮小及び解雇給付の雇用者側の会計処理)及びSFAS第112号(退職後給付の雇用者側の会計処理)が適用され、SFAS第146号が取扱う以外の解雇給付には公正価値による測定は求められていない。この結果、もしIAS第19号を改訂して、SFAS第146号の考え方(公正価値による測定)をすべての解雇給付に適用することにすると(2003年2月会議で暫定的にこうすることが決定されていた)、IAS第19号と米国会計基準との間には統合ができない差異が生じることになってしまう。このため、2004年9月のIASB会議では、このような差異を生じさせることが妥当かを含め、すべての解雇給付を公正価値で測定することの妥当性を改めて検討することがスタッフに指示されていた。

今回は、これを受けたスタッフの解雇給付の測定に関する検討結果が提示され、議論が行われた。議論の結果、IAS第19号が規定するすべての解雇給付を公正価値で測定するという改訂を断念し、解雇給付の測定に関する規定を定めているIAS第19号第139項に次の改訂を加えた上で、この規定を維持することが暫定的に合意された。IAS第19号第139項では、解雇給付の測定について「貸借対照表日後12ヶ月後以降に解雇給付の期日が到来する場合には、当該給付は第78項中で明示した割引率を使用して割引かなければならない。」と規定されている。これに加える改訂は次の通りである。

  1. 退職後給付制度によって提供される解雇給付で、貸借対照表日後12ヶ月後以降に期日が到来する場合には、退職後給付制度の会計処理(認識及び測定)が適用されることを明確にする(現在の解雇給付の定義では、退職後給付制度によって提供される解雇給付に退職後給付制度の会計処理が適用されないこととなっているので、これを改訂する)。
  2. 解雇給付が退職後給付制度によって提供される場合には、当初認識時には、解雇給付を提供することによって増加した給付の価値のみを解雇給付に係る負債及び費用として認識するという点を明確にする。

このような暫定合意の結果、解雇給付の測定に関して、当初目的とされていたSFAS第146号の会計処理との統合化は図られないこととなるものの、SFAS第146号が取扱う以外の解雇給付の会計処理とは概ね整合的となる。 なお、解雇給付の認識に関しては、IAS第19号の解雇給付の規定を次のように改訂することが2002年12月に暫定的に合意されているが、この内容については、変更はない。

  • 強制解雇給付は、従業員に通知することによって認識される。
  • 強制解雇給付を受け取るために追加のサービス提供が必要であれば(これを「stay bonus」と呼んでいる)、これらの給付は、将来のサービス提供期間にわたって認識する。
  • 任意の解雇給付は、従業員が解雇を受け入れた時点で認識する。

(2)今回の変更の理由

2003年2月のIASB会議において、IAS第19号が規定するすべての解雇給付に対して、1回限りの解雇給付について規定しているSFAS第146号の要求に従って公正価値で測定すること求めることが暫定的に合意されていたが、今回このような改訂を断念し、解雇給付の測定に関する規定を定めているIAS第19号第139項に若干の改訂を加えた上で、この規定を維持することが暫定的に合意された。そのような決定がなされたのは、次の理由による。

  1. 退職後給付制度によって提供される解雇給付に公正価値測定を求めても実務上の対応ができない。
    退職後給付制度の一部として解雇給付が支給される場合に、もし解雇給付部分にのみ公正価値による測定が要求されると、解雇給付部分のみを分離して会計処理しなければならなくなる(それ以外の退職後給付には、その制度によって確定給付型又は確定拠出型などの会計処理が要求される)。また、当初認識以降の会計処理においても、解雇給付部分を分離して会計処理する必要が出て来るが、そのような処理は実務上不可能である。したがって、退職後給付制度によって提供される解雇給付に公正価値による測定を求めても、実務的に対応できない。
  2. 強制解雇給付を受け取るために追加のサービス提供が必要とされるstay bonusは、将来のサービス提供期間にわたって認識することとされているが、stay bonusに公正価値測定を求めることは、権利が確定するまでに追加のサービス提供が必要とされる類似の他の給付の会計処理と矛盾する結果をもたらす。
    SFAS第146号がstay bonusに適用しようとしている会計処理は、「修正公正価値測定日アプローチ(modified fair value measurement date approach)」といわれる方法である。この方法の下では、例えば、企業が2005年1月1日に、2005年12月31日に工場を閉鎖することを通知し、2005年12月31日まで勤務する従業員には、2006年6月30日に10,000CUの解雇給付を支払うことを約束した場合、2005年1月1日において、2005年12月31日現在の負債の公正価値を測定して、これを2005年12月31日までの12ヶ月間に配賦することが求められる。ここで、2005年12月31日現在の負債の公正価値は、2006年6月30日に見込まれるキャッシュ・アウト・フローをリスクフリー金利で割引いて計算される。この方法の特徴は、割引が求められる期間は、2005年12月31日から2006年6月30日までの期間のみで、サービス提供期間には割引は適用されない。ところが、IAS第19号の退職後給付の会計処理では、サービス提供期間でも割引が求められており、もし解雇給付を公正価値で測定することを求めると両者に差異が生じることになる。

6.公開草案第7号(金融商品:開示)

2004年7月に金融商品に関する開示全般を取り扱う公開草案第7号(ED7)(金融商品:開示)が公表され、10月22日にコメント期間が終了し、105通のコメントを受領した。今回は、コメントを求めた10項目(特定の質問は9項目)についての次に示すような分析が示された。これに基づいて、公開草案での提案を見直すかどうかについてのスタッフ提案が議論された。

質問項目 賛成 反対

一部に
賛成

不明確等

1 金融資産・金融負債の区分ごとの開示・評価引当金の情報・区分ごとの損益計算書での金額の開示・手数料収入・費用 55 4 19 27
2 担保その他の信用補完の公正価値の開示 31 51 23
3 感応度分析の開示 36 48 21
4 自己資本開示(管理方針、自己資本とみなすもの、目標自己資本、外部から要求されている自己資本比率等) 10 85 10
5 発効日(2007年1月1日、早期適用可) 64 8 33
6 経過措置(初度適用企業のみに対する比較情報開示の免除) 48 23 34
7 開示事項を財務諸表の注記とすることの是非 39 53 13
8 IFRS第4号(保険契約)に対してもED7での変更と同様の変更を要求することの是非

40

33 32
9 適用ガイダンスの十分性 38 44 23
10 FASBの「公正価値の測定」に比べ、ED7の公正価値に関する要求は妥当か 63 2 40

分析結果を受けて、スタッフからは次の点について今後見直しのための検討を行うことが提案され、その内容が暫定的に合意された。今後下記論点について順次検討が行われる予定である。最終的なIFRSの公表は2005年第2四半期が予定されている。

  1. 質問1に関して、ED7第17項で求められている評価性引当金の期中の変動の金融資産の種類ごとの開示。
  2. 質問2に関して、担保に関する公正価値の開示。
  3. 質問3に関して、感応度分析の開示に対する免除規定の導入の是非(すべての企業に対して感応度分析の開示を求めない)。
  4. 質問4に関して、自己資本に関する開示全般。
  5. 質問7に関して、保険会計の第2フェーズの進捗状況も勘案しながら、ED7とIFRS第4号との関連。
  6. 質問8に関して、適用ガイダンスの追加及び例示の追加。

7.中小規模企業の会計基準

中小規模企業の会計基準(以下「SME版」という)プロジェクトでは、2004年6月にディスカッション・ペーパー「中小規模企業の会計基準に対する予備的見解」を公表しコメントを求めていたが、9月24日にそのコメント期限が終了し、この間に117通のコメントを受領した。今回はその分析とそれに関する議論及びこのプロジェクトの今後の進め方に関して検討をしていた少数のボードメンバーからなる検討チームからの提案について議論が行われた。ここでは、検討チームの提案とそれを受けたIASBでの議論の概要を紹介する。

これまでSME版をどのような形式で作成し、また、IFRSからSME版に取り込むべき内容はどのようなものであるべきかというSME版のあり方に関する議論が行われてきたが、その方向性について明確な合意が得られないまま、IFRSの中から原則としてすべてのブラック・レター(重要原則)を取り入れる形で準備された13のSME版について議論を重ねてきた。そこで、今後の議論をより効率的に進めるために少人数のボードメンバーからなる検討チームが編成され、そこでまとめられた提案が議論された。

検討チームからの提案及びそれに対する議論の結果は次の通りである。

(1)SME版へのコミットメント

IASBのボードメンバーの中にはSME版を作ろうという本プロジェクトに懐疑的な見解もあるが、改めてIASBがSME版の設定に積極的に取り組むことが確認された。

(2)SME版は極力簡素化したものとする

SME版では、適用対象を巡って、公的責任のある企業にはSME版を適用しないこととするなど適用対象を限定する議論が進められていたが、SME版を採用しようとする会計基準設定主体が適用対象を柔軟に設定できるようにすることを目的に、IASBが適用対象を限定することを極力避けることが合意された。

(3)認識と測定に関する差異の存在を認める

これまでの議論では、表示と開示については、利用者のニーズを反映してIFRSと異なる取扱いを認めることとするものの、認識と測定については、原則としてIFRSと異なることを認めないという方針で議論が行われてきた。これを改め、認識と測定についても利用者のニーズを反映してIFRSと異なる処理を柔軟に認めることが合意された。

(4)SME版の採用とIFRSの任意適用の関係

SMEが、SME版を適用する際には、SME版をすべて適用すべきであり、一部の会計処理についてSME版に代えてIFRSを適用するというIFRSの一部の任意適用は認めないこととすること(SME版に規定があるにもかかわらず、任意にIFRSの規定を適用することは禁止する)、すなわち、企業には、IFRSの規定をすべて適用するか、又はSME版を適用するかの二者択一しか認めないこととすることが合意された。

(5)SME版に規定がない場合の取扱い

SME版に規定がないときには、IFRSの本則を必ず参照して会計処理を決めることとすることが合意された。

(6)SME版の体系

SME版は、IFRSのような会計処理の対象となる項目別に規定を定めるのではなく、貸借対照表の項目ごとに規定を編集すること、すなわち、売掛金、有形固定資産又は無形資産といった項目を中心にこれらに適用される規定をまとめるという形式を採用することが合意された。

(7)アドバイザリー・グループの拡大

現在組織されているアドバイザリー・グループにさらに作成者や利用者を加え、メンバーを拡大するとともに、アドバイザリー・グループからより多くの提案を受けられるようにすること。

8.解釈指針

今回の会議では、国際財務会計基準解釈指針委員会(IFRIC)が議題としているテーマの最近の検討状況の説明のみが行われた。説明では、これまでにIFRIC第2号、第3号(排出権)、第4号(契約に含まれるリース)が公表されたこと及びIFRIC第3号を検討したEUのEFRAGにおいて反対を表明するメンバーが多かったことが報告された。また、この他、1. サービス・コンセッション、2. 財務諸表の表示(損益計算書上での表示)など最近のIFRICにおける検討状況の報告が行われた。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)