ASBJ 企業会計基準委員会

第40回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第40回会議が、2004年11月16日と17日の2日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回は、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の改訂(金融資産・金融負債に係る経過措置と当初認識に関する改訂公開草案)、3. IAS第19号(従業員給付)の改訂(改訂公開草案)、4. IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)の改訂、5. リース、6. 連結及びSPE、7. 解釈指針案(IFRIC)及び8. ジョイント・ベンチャーの検討が行われた。IASB会議には理事14名が参加した。本稿ではこれらの議論の概要を紹介する。

1.企業結合(第2フェーズ)

今回は、1. 第2フェーズのドラフト作成過程で生じてきた論点及び2. 複数の相互会社の企業結合又は所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合の改訂に関する経過措置の取扱いの2点が議論された。なお、これらの議論の中で、今後「少数株主持分(minority interest)」に代えて、「非支配持分(non-controlling interest)」という用語を用いることが合意された。

(1) 第2フェーズのドラフト作成過程で生じてきた論点

現在2005年第1四半期での公開草案の公表を目指して作業が進められているが、その過程で議論すべき論点として次の項目が指摘され、これについて議論が行われた。なお、同じ論点が米国財務会計基準審議会(FASB)においても2004年11月に議論されることとなっている。

1.企業結合の定義

FASBは、企業結合を「取得者が、一つ又はそれ以上の事業に対する支配を取得する取引又は事象」と定義しているが、IASBは、「独立した企業又は事業を統合して一つの報告企業にすること」と定義しており、両者間で定義に差異がある。FASBは、過去にIASBの定義を採用することを検討したが、支配概念を定義で明示し、これが企業結合のトリガーとなることを示す定義を採用することを選好した。議論の結果、IASBとしては、両者の定義を統合するため新たな定義をつくるべきと考えるが、FASBが賛成しない場合には、FASBの定義に統合することが暫定的に合意された。

2.取得企業の識別のための規準の統合化

IASBでは、「取得企業は、他の結合企業又は事業の支配を取得する結合企業である」と定義され、支配概念を核にして取得企業の識別のための規準が規定されているが、FASB(財務会計基準書第141号「企業結合」)では、IFRS第3号(企業結合)に類似した支配に関するガイダンスが示されていない。議論の結果、両者のガイダンスを統合すべきとされた。また、IFRS第3号に示されている支配に関するガイダンスは、IAS第27号(連結及び分離財務諸表)で支配について規定している箇所にまとめ、IFRS第3号では単にIAS第27号を参照するようにすべきであることが暫定的に合意された。

3.資産及び負債として認識するための条件としての信頼を持った測定

IFRS第3号では、取得した資産及び負債を認識するための条件として、信頼を持って測定ができることが求められているが、SFAS第141号では、信頼を持った測定は要求されていない(FASBは信頼を持った測定を導入しなかった)。これをどのように統合するかが議論され、企業結合で取得されるすべての資産及び負債に対してではなく、無形資産に対してのみ信頼を持った測定という要求を入れ、信頼を持った測定ができるときにのみ(無形資産が分離可能性又は契約その他の法律上の権利であるという識別規準を満たしていることを前提として)のれんから無形資産を分離することができるとすることが暫定的に合意された。このため、IAS第38号(無形資産)の中にある信頼を持った測定に関するガイダンスが公開草案に組み込まれることとなる。なお、無形資産以外の資産・負債には、認識の条件として信頼を持った測定を要求することはしないこととされた。

4.のれんの定義

IASBののれん定義では、のれんは、「個別に識別し、分離して認識することができない資産から生じる将来の経済的便益」と定義されている。一方、米国会計基準では、「取得された企業のコストが、取得した資産及び引き受けた負債に配分された金額の純額を超える金額」であると定義されている。IASBでは、のれんの特徴に基づいて定義されているが、FASBでは、測定の仕方を基にのれんの定義をしている。議論の結果、IASBの定義を採用する方向で調整することが合意された。

5.EITFの解釈の取込み

FASBは、財務会計基準書を成文化する際には直接関連のあるガイダンスはすべて当該基準書に取り込むことを方針としている。そのため、FASBは、企業結合に関連して公表されているEITF Issue95-8(パーチェス法を用いる企業結合において取得された企業の株主に支払われた偶発対価の会計処理)及びIssue04-1(企業結合の当事者間に企業結合以前に存在していた関係の会計処理)を企業結合の第2フェーズの公開草案に含めることを決定している。これに対してIASBがどのように対応するかが議論され、FASBと同様にこれらの内容を公開草案に取り込む方向でその内容を検討することが暫定的に合意された。

6.暫定的に当初認識された会計処理の遡及修正

IFRS第3号では、企業結合が行われた事業年度における当初認識時に暫定的に会計処理がなされた場合には、その後12ヶ月以内に確定させ差額の調整を行わなければならないとされている。この規定に基づいて修正が行われた場合には、比較財務諸表をあたかも当初認識時から確定ベースの数値で会計処理されていたかのように修正再表示しなければならないとされている。ところが、米国会計基準では、このような場合には、当該調整額は将来に向かって修正することとされており、IASBの取扱いと異なっている。議論の結果、IASBとしては現在のIFRS第3号の取扱いを堅持することとし、FASBに統合可能かどうか検討を依頼することが暫定的に合意された。FASBがIASBと同様の取扱いを決定すると米国の実務に大きな変更をもたらすことになる。

(2)複数の相互会社の企業結合及び契約のみで達成される企業結合に関する経過措置

1.論点

複数の相互会社の企業結合及び所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合の2つを2004年3月に完成したIFRS第3号(企業結合)の適用対象に含めるための公開草案(「IFRS第3号の改訂-特殊な形態の企業結合の会計処理の明確化」)が2004年4月に公開されたが、2004年9月のIASB会議において、この提案を取り下げ、現行規定通りこの2つの企業結合をIFRS第3号の適用対象外とすることが決定された。この結果、これら2つの企業結合を取扱うIFRSが存在しないことになり、今後これらの企業結合にはIAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)の第10項から第12項が適用されることになる。具体的には、経営者が、財務諸表の利用者の意思決定ニーズと整合し、財務諸表が経済実態を反映できるような信頼のある会計方針を自ら開発・適用することになる。

このような状況下で、現在検討中の第2フェーズでは、この2つの企業結合をその公開草案の対象に含めることとしている。すなわち、第2フェーズではこれら2つの企業結合には、パーチェス法が適用されることになる。このため、第2フェーズが発効する前にパーチェス法以外の方法によって2つの企業結合が会計処理されている場合には、パーチェス法以外の方法からパーチェス法へ移行するための経過措置を定める必要が生じている。

2.経過措置

このような問題意識で検討が行われた結果、将来に向かってパーチェス法を適用するという現在のIFRS第3号にあるのと同じような経過措置をこの2つの企業結合に対して設けることが暫定的に合意された。

2.IAS第39号の改訂
(金融資産・金融負債に係る経過措置と当初認識に関する改訂公開草案)

(1) 問題の所在

IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の改訂のための公開草案はいくつか公表されているが、ここで取扱われているのは、適用ガイダンスAG第76項の遡及適用に関連する改訂で、2004年7月に「IAS第39号の改訂(金融資産・金融負債に係る経過措置及び当初認識)」として公開された(コメントの締切期限は2004年10月8日であった)。AG第76項(活発な市場がない場合における評価技法の適用について記述している)では、金融商品の当初認識時の公正価値の最良の証拠は、取引価格であるとしているものの、他の観察可能な最近の市場取引と比較して公正価値が証拠付けられる場合と観察可能な市場からのデータのみが変数となっている評価技法に基づいて公正価値が証拠付けられている場合には、取引価格以外を用いることができることが示唆されている。このため、取引価格以外を用いる場合には、金融資産又は金融負債の当初認識時に損益が生じることになる。ここで取扱っている問題は、このようなケースにおいてAG第76項を初めて適用する場合に、どの時点までAG第76項の取扱いを遡及適用するかという点である。

AG第76項の規定は、米国会計基準との統合化のために導入されたものであるが、IAS第39号第104項では遡及可能な限り遡及適用しなければならないと規定しているため、2002年10月25日以降に発生した取引に対してのみ遡及適用を求めている米国会計基準との間で、遡及適用期間に差異が生じることになっている。これを回避するため、公開草案では、次のような提案を行っている。

  1. IAS第39号を改訂し、AG第76項に該当する金融商品(すなわち、当初認識時に損益が生じるような金融商品)に対して、次の選択を認める。
    1. 2002年10月25日以降に発生した取引に対してのみ遡及適用を行う。
    2. 現行IAS第39号第104項の規定どおり完全に遡及適用を行う。
  2. IAS第39号の適用ガイダンスの中で、AG第76項を適用した場合に、当初認識時に損益が生じないような金融商品の場合には、当初認識以後の測定において損益を認識してはならない。ただし、市場参加者が価格を設定する際に考慮するであろう要素(時の経過を含む)が、当初認識以後に変動した範囲で損益を認識しなければならない。(本来当初認識時に損益を認識しなければならないにも拘らず認識を行わずに、当初認識以後の測定において損益を認識するような操作を防ぐためのAG第76A項の新設)

上記公開草案に対するコメントでは、上記(a)(i)に関し、この取扱いは米国で上場している企業にとって意味があるものの、米国非上場企業にとっては意味のない遡及適用開始日であるという指摘があった。また、上記(b)に関しては、当初認識後に市場参加者が価格を設定する際に考慮するであろう要素(時の経過を含む)に変動があった範囲で損益を認識するという規定に、当初認識時の差異を定額法で償却する方法も含まれるのかを明確にすべきとの指摘があった。

(2)暫定合意

議論の結果、コメントでの指摘に対応するため、公開草案での提案を次のように変更することが合意され、再公開することなく基準化することが全員一致で合意された。

  1. 遡及適用に関する公開草案での2つの提案に加えて、「2004年1月1日以降に発生した取引に対して遡及適用を行うことができる」という第3の選択肢を追加する。
  2. AG第76A項の中にある「市場参加者が価格を設定する際に考慮するであろう要素(時の経過を含む)が、当初認識以後に変動した範囲で損益を認識しなければならない」という文言の適用に当たり、当初認識に取引価格とその時点で(すべてが観察可能な市場からのデータによっていない)評価技法によって計算された金額との差を定額法によって償却する方法が常に適切だとは限らないことを、結論の背景で明確にする。

3.IAS第19号の改訂(改訂公開草案の検討)

今回は、前月に続き2004年4月に公表されたIAS第19号(従業員給付)の改訂公開草案(数理計算上の差異、グループ年金制度及び開示)の最終基準化に向けた議論が行われた。今回議論されたのは、最終基準ドラフトに対して寄せられたコメントのうち次の3点である。すなわち、1. 未認識の数理計算上の差異に関する開示の修正、2. グループ年金制度の取扱いの確認及び3. 資産の期待利回りの開示について議論が行われた。今回で議論が終了することから、最終基準案に対する賛否が問われ、1名(筆者)が反対の意を、また、もう1名(ライゼンリング氏)が反対することを考慮中である意を表明した(その後ライゼンリング氏は反対を表明した)。

(1)未認識の数理計算上の差異に関する開示の修正

最終基準では、損益計算書で未認識の数理計算上の差異の総額を開示することが求められているが、ここで開示を求めようとしているのは、今回新たに追加される数理計算上の差異の認識に関するオプションの採用によって認識収益費用計算書(statement of recognized income and expense)では認識されるものの損益計算書をバイパスして認識される数理計算上の差異を指している。現行の表現では、会計方針の変更の結果期首剰余金で修正される損益もここでの開示対象に含まれてしまうため、これを除外するように表現を変更することが合意された。

(2)グループ年金制度

2004年10月のIASB会議において、グループ企業は常にグループ年金制度全体の情報を入手できるという前提に立って、グループ企業がリスクを共有する確定給付建グループ制度は、個別(又は分離)財務諸表上次のように会計処理することが合意されている。

  1. 制度全体に適用される仮定に基づき、IAS第19号に準拠して当該制度の測定を行う。かつ、
  2. もし確定給付費用をグループ内で賦課するための契約又は策定されている会計方針がある場合には、確定給付費用はその契約又は会計方針に基づいてグループ内企業に配分する。又は、
  3. もしそのような契約又は会計方針がない場合には、当該制度の法律上のスポンサー雇用主であるグループ内企業に配分する。

この合意に対して、これは過重な要求であるとの意見があり議論が行われた。例えば、親会社が米国基準に基づき連結財務諸表を作成している場合に、IFRSが強制適用される国に所在する子会社では、グループ年金制度全体をIFRSに基づいて会計処理する場合の情報を親会社から入手できない可能性があり、また入手するには過重なコストがかかる可能性があるので、このような会計処理を緩和すべきことが指摘された。

議論では、退職後給付制度は、IAS第24号(関連当事者に関する開示)の関連当事者間取引に該当し、上述の例の場合にはグループ制度全体に対する開示が既に求められている点が改めて認識された。このようにIAS第24号の規定に準拠するためにはグループ制度全体の情報が既に入手されていなければならないことから、上述の会計処理及びこれに伴うグループ制度全体に関する開示を求めることは新たな負担の増加とはならないと判断された。このため、これまでの暫定合意を変更しないことが合意された。

(3)資産の期待利回りの開示

改訂公開草案では、年金資産に占める主要資産区分の比率及び当該主要資産区分ごとの期待利回りの開示を求めることが提案されていたが、最終基準では、主要資産区分ごとの期待利回りの開示を求めないことが2004年10月の会議で合意されている。これに対して、同じく開示が求められている「期待利回りを算定するために用いた基礎に関する記述情報の開示」を行うためには、いずれにしても主要資産区分ごとの期待利回りの計算が必要であり、開示を復活すべきではないかとの指摘があり、議論が行われた。

議論の結果、年金資産全体に対する期待利回りを算定するには、その構成要素である主要資産区分ごとの期待利回りの計算が不可欠であり、少なくとも全体の期待利回りを構成する主要な資産区分の期待利回りの算定に用いた基礎に関する記述情報の開示を任意の形で求めるべきであるとされ、そのような修正を行うことが合意された。

4.IAS第37号の改訂

2004年9月及び10月の会議でIAS第37号の改訂のための公開草案ドラフトの内容が検討されているが、今回は、改めて改訂範囲をどこまでとするのか及び今回の改訂は、IAS第37号の改訂とするのかそれとも新たなIFRSの設定とするのかについて議論が行われた。議題資料では、新たなIFRSとするために更に検討が必要とされる項目が分析され、また、それらを追加して議論することによるスケジュールの遅れなどに関する分析が示されていた。

議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 今回のIAS第37号の改訂の範囲は既に議論を行っている次の関連事項に限定する。
    • SFAS第146号(退出又は処分活動に関連するコストに関連する会計処理)のリストラ費用の認識規定との統合化を図るための改訂項目
    • 企業結合第2フェーズでの検討結果を反映するために必要とされる偶発負債及び偶発資産の見直しに関連する項目
  2. 今回の改訂は、上記(a)に示した項目に限定するため、新たなIFRSの設定とするのではなく、IAS第37号の改訂とする。

なお、IAS第37号の改訂の公開草案は、2005年第1四半期に企業結合第2フェーズの公開草案と同じタイミングで公表することが予定されている。

5.リース

本リサーチ・プロジェクトでは、英国財務会計基準審議会(ASB)が、従来ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに2分されていたリースの会計処理を、リースの貸手と借手がリース契約から生じる権利と義務を資産及び負債として認識するというアプローチ(これを「概念アプローチ」と呼んでいる)を採用して再構築することを目的とする検討を行っている。IASBは、ASBの検討過程で適宜その進捗状況の報告を受けると同時に助言を行っている。

今回は、概念アプローチによって生じる資産及び負債が、現行のIFRSの中で取扱われている資産・負債の会計処理とどのように類似又は相違しているかについての分析が行われた。このような検討が行われたのは、もし、リース契約から生じる資産及び負債が、既に存在している資産及び負債と類似しているのであれば、これらについて新たな会計処理を作らず既存の会計処理を適用すればよく、相違している資産及び負債についてのみ新たに会計処理を考えればよいのではないかという発想によるものである。

今回議論された資産及び負債は次の通りである。

  1. 借手の有形固定資産を使用する契約上の権利を表象する資産
  2. 借手のリース料支払い義務を表象する負債
  3. 貸手のリース料を受領する契約上の権利を表象する資産
  4. 更新又は購入オプションを表象する借手の資産
  5. 貸手の資産に対する残余持分(residual property rights)を表象する資産

今回の議論は、貸手と借手がリース契約から生じる権利と義務を資産及び負債として認識することができると仮定した場合に、これらの権利・義務を表象する資産及び負債をどのよう測定及び表示することができるかという点に絞って議論が行われた。検討された内容のうち、(a)から(c)は、現行のIFRSの考え方を適用することによって会計処理ができると考えられるものであり、その可能性について議論された。一方、(d)及び(e)は、現行のIFRSでは適切に処理できないために新しい処理方法を考える必要のあるものとして、新たな考え方について議論が行われた。また、変動賃借料(contingent rentals)に対する考え方については、ASBとIASBとの間に考え方の差異があり、今後更に検討することが合意された。以下では、上記(a)から(e)についての議論の概要を紹介する。

(1) 借手の固定資産を使用する契約上の権利を表象する資産

借手の固定資産を使用する契約上の権利を表象する資産については、これを1. 無形資産と見る見方と2. 有形固定資産と見る見方がある。前者の考え方は、リース契約によって借手に譲渡された契約上の権利は、借手に将来の経済的便益の支配を与えるものであり、物理的な実体を持つものではないため、無形資産の定義を満たすと考えるものである。後者の考え方は、リース契約によって借手に譲渡された契約上の権利は、リースの対象となり借手が使用権を有している有形固定資産の性質(区分)を反映する方が財務諸表の表示としてより適切であると考えるものである。後者の考え方の下では、借手の有する権利は、無形資産を対象とするリースの場合には無形資産として、有形固定資産を対象とする場合には有形固定資産として財務諸表上表示され、それらに適用される測定原則に基づいて測定が行われる。ASBのスタッフは、後者の考え方を支持している。

(2) 借手のリース料支払い義務を表象する負債

借手が事前に契約で決められた固定リース料を支払う契約に関する負債についてあまり議論の余地がない。すなわち、固定金利付負債との類似性から金融負債としてIAS第39号に基づいて会計処理することになると考えられる。そこで、具体的に問題となるのは、変動又は条件付のリース料を支払う借手の債務を表象する負債の取扱いである。変動又は条件付のリース料支払いには、1. 貸手も借手もコントロールできない物価変動のような外的要因を条件としたリース料支払い、2. 借手が自分でコントロールできる使用(量)を条件としたリース料支払い及び3. 借手の利益又は収益を条件としたリース料支払いといった例が考えられる。このような負債に対しては、1. 引当金モデル(IAS第37号)と2. 金融負債モデル(IAS第39号)の2つの見方が考えられる。前者は、変動リース料を支払う負債を、不確実な金額を支払う無条件の契約上の義務(すなわち、特定の将来の事象が生じた場合にいつでもそれを反映した支払いを行うことを約束している待機義務)を反映するものと見る考え方である。そのような義務は、金融負債というよりは、引当金(IAS第37号では、引当金を不確定な時期と金額の債務と定義)に類似するものと考え、引当金の会計処理を適用することが妥当と考えられる。一方、後者は、借手が負っている義務は、貸手に現金を引き渡す契約上の義務である点を強調し、金融負債の定義に合致すると見る考え方である。したがって、この見方の下では、償却原価モデルが適用されることになる。

(3) 貸手のリース料を受領する契約上の権利を表象する資産

貸手のリース料を受領する契約上の権利を表象する資産については、リース料が固定の場合には、その権利は、固定金利付資産との類似性から金融資産としてIAS第39号に基づいて会計処理することになると考えられる。一方、リース料が借手の収益や利益によって変動する場合には、それを反映する権利を、1. 金融資産と見る、2. 無形資産と見る又は3. 独立して(分離して)表示せずにリース物件の所有権として表される資産に組み込まれているものと見るという3つの見方が考えられる。
変動リース料を受領する契約上の権利を表象する資産を金融資産と見る見方は、受領金額が確定していないとしても貸手が有するのは借手から金銭を受け取る契約上の権利であり、金融資産の定義を満たすと考える。この場合、金融資産は、将来のリース料の期待値に基づいて見積もられることになる。なお、金融資産と見るとしても、さらに、貸付金又は債権と見る見方と売却可能金融資産と見る見方に分かれる。

無形資産と見る見方は、変動リース料の受領権を表象する資産は、「有形としての実体のない識別可能な非貨幣資産」であるという無形資産の定義を満たし、更に、契約上の権利であるので識別可能性基準も満たすと考える。この見方では、有形資産の使用権を提供する代わりに入手する貸手の(借手の収益の一部の分配に参加する)権利は、実質的にロイヤリティーを受け取る権利と類似のものと見ることができ、無形資産として表示されることが妥当と考える。

第3の見方は、借手の収益の一部の分配に参加する権利を独立して表示しないという考え方である(ただし、借手の収益が基準値を超えれば、その確定した受領権は独立した金融資産として認識される)。この見方では、そのような権利は、リース物件の所有権を表す資産に組み込まれているものとして取り扱う。この取扱いは、主たる契約に密接に関連した組込みデリバティブの取扱いに類似している(ただし、このケースでは、金融資産ではなく非金融資産に組み込まれたデリバティブとなる)。

(4) 更新又は購入オプションを表象する借手の資産

更新又は購入オプションを表象する借手の資産を取扱うIFRSがないため、この資産については、本プロジェクトで新たな会計処理を検討する必要があるとされる分野である。更新又は購入オプションを表象する借手の資産は、リース物件の使用権とは異なり、リース対象資産の更なる使用権あるいは所有権という非金融資産を購入するオプションを示す資産であり、非金融資産の引渡しが必要であることからIAS第32号(金融商品:開示及び表示)の金融資産の定義を満たしていない。このため、非金融資産を対象とするオプションのための会計処理を新たに検討する必要がある。今回の資料では、再評価モデルと原価モデルの2つが検討された。

(5) 貸手の資産に対する残余持分を表象する資産

貸手の資産に対する残余持分(residual property rights)を表象する資産は、リースに特有なものである。その性質や目的を含む特徴は、有形固定資産、無形固定資産又はたな卸資産に関する会計基準でカバーされる他の非金融資産と基本的に異なると考えられる。この資産は、リース期間中に、1. 時の経過、2. 貸手が見積もる資産の売却処分又は将来の再リースから得られる見込金額に影響を与える市場条件の変化及び3. 一般物価のインフレーションによって変動する。また、資産に包含された将来経済便益(資産売却又は新規のリース契約から得られる潜在的な将来キャッシュ・フロー)に対しては、現行のリース契約が満了するまではアクセスができないという特徴がある。このような特徴を持つ貸手の資産に対する残余持分を表象する資産の事後測定のための潜在的なモデルとしては、1. 公正価値モデル、2. 取得原価モデル(金利を考慮しない方法)及び3. 取得価額モデル(金利を考慮する方法)の3つが考えられる。

公正価値モデルでは、すべての価値の変化を発生時に認識するため、信頼できる測定値が得られるならば、概念的には取得原価より好ましいが、公正価値モデルを要求することは現行の会計基準から大きく隔たることになる。
金利を考慮しない取得原価モデルでは、残余持分を表象する資産は、リース契約開始時の公正価値(取得時の帳簿価額)で測定されるが、減損会計が適用されるので、減損時には帳簿価額が切り下げられる。時の経過の影響を反映しない取得原価モデルは、貸手の財政状態及び経営成績を適切に示さないと考えられる。

金利を考慮する取得価額モデルでは、貸手に残る権利は、金融資産ではないが、貸手が残存価値の便益を受け取る時期が近づくにつれて資産の価値が増加するので、この点が残余持分を表象する資産の本質的な特徴と考えられ、これを反映するため時間価値要素(金利)が考慮される。時間価値の増加を認識することは、貸手の財政状態又は経営成績の正確な理解にとって不可欠なものと考えられている。

6.連結及びSPE

本プロジェクトでは、SPEの連結を含めた連結範囲を決定するための基準として支配概念を用いることとし、その支配概念の明確化を図ろうとしている。これまでのところ、支配概念は、次の3つの規準を共に満たすものとすることが暫定的に合意されており、3つの規準を満たした企業が連結されることになる。

  1. その企業の財務及び経営方針を直接指図する能力(パワー規準)
  2. 便益を入手する能力(ベネフィット規準)
  3. 便益(ベネフィット)を増大させるために力(パワー)を用いる能力

なお、3つの規準は、パワー規準、ベネフィット規準そして便益を増大させる力という順序で判定を行う。

今回は、1. 今後のプロジェクトの進行(SPEを除くこれまでの議論をIAS第27号に反映するための公開草案の公表の是非)、2. 受託者(ファンド・マネージャー)が被投資会社に対してファンドからの投資に加えて自らも投資を行っている場合(二重の役割を担っている場合)の取扱い及び3. 潜在的議決権を支配の判定に含めることの是非(資産に対するオプションと企業に対するオプションとの間の不整合)という3点について議論が行われた。第1点については、IAS第27号の改訂のための公開草案を2005年中に公開することが暫定的に合意された。また、第2点については、受託者がファンドを通して有している投資先企業への投資も合算して連結範囲を判定することが暫定的に合意された。第3点については、更にこの問題を具体例を用いて検討するため資料を準備するようスタッフに指示が出された。

(1)今後のプロジェクトの進行について

本プロジェクトでは、SPEの連結を含めた連結範囲を決定するための基準として支配概念を採用することを決め、その支配概念を明確にするための議論を行っているが、現時点では、IAS第27号及び解釈指針(SIC)第12号に代置される連結範囲に関する単一のIFRSの公開草案を2006年第2四半期に公表する予定となっている。

しかし、これまでのIASBでの議論を通じて、SPEを除く一般事業会社に支配概念を適用するために必要とされる論点の審議はほぼ終了している。そこで、今後SPEの議論に更に歳月をかけてすべての審議を完成させるよりは、これまでの議論を通じて明確化してきた一般事業会社に関連する支配概念のガイダンスだけでもIAS第27号に反映させることが財務報告の質の向上に繋がるとの判断から、上記の予定を変更してIAS第27号のみの改訂を早急に行うべきことがスタッフから提案された。

議論の結果、スタッフの提案を採用することが暫定的に合意された。IAS第27号の改訂のための公開草案は、2005年中には公開できる見通しである。

(2)受託者であると同時に自分自身が投資を行っている場合

この問題は、2004年6月のIASB会議で議論され、次のような暫定合意に達している。すなわち、被投資会社に投資するファンドの受託者(ファンド・マネージャー)としての保有と受託者自らの直接投資とがある場合(ファンド・マネージャーが二重の役割を担っている場合)には、反証可能な前提として、両者を合計した上で、全体の保有に対してパワー規準を満たすかどうかの判定を行うこととされた。原則として合算して判断するが、しかし、企業が、合計して判断することが適切ではないという証拠を示すことができれば、合計せずにパワー規準の判定を行うことができるという取扱いである。しかし、この時点では、反証可能な例をはっきりさせることができず、反証ができる場合として具体的にどのような状況が考えられるかについて、更に検討することがスタッフに指示された。

今回、このような指示を受けてスタッフが行った調査では、反証可能な場合を判定するための明確な規準や具体例を識別することができなかったことが報告された。これを受けて行った議論の結果、2004年6月の暫定合意を変更し、合意内容から「反証可能な前提」を削除することが合意された。すなわち、受託者が二重の役割を担っている場合には、被投資会社に投資する受託者としての保有と受託者自らの直接投資を合計した上で、全体の保有に対してパワー規準を満たすかどうかの判断を行うことを要求するという取扱いが暫定的に合意された。

(3) 潜在的議決権を支配の判定に含めることの是非(資産に対するオプションと企業に対するオプションとの間の不整合)

1.経緯

企業が潜在的な議決権(オプションや転換権)を保有する場合、これをパワー規準の判定に含めるべきかどうかについて過去に議論が行われ、次のような潜在的議決権はパワー規準の判定に当たり考慮すべきであることが暫定的に合意されている。

  1. 現在行使可能な潜在的議決権(例えば、時の経過や将来の事象の発生に依拠しないもの)
  2. 行使に何ら障害のない潜在的議決権(規制当局の承認といった条件の付されているものはこれに該当しない)
  3. 当該オプションが経済的実質を有するものであること(行使価格が意図的に高めに設定され、予見可能な状況では行使できないような場合は、これに該当しない)

上記のような潜在的議決権をパワー規準の判定に当たり考慮する結果、例えば、A社がX社の議決権の過半数を有するが、同時にB社もX社の潜在的議決権を有し(B社の保有する潜在的議決権は現時点で行使可能)、その権利行使によってB社は過半数の議決権を得ることができる場合には、現在過半数を所有しているA社ではなく、潜在的議決権を有するB社がパワー規準を満たしていると判断されることになる。

2.論点

本プロジェクトでは、連結範囲を企業が資産に対して有している支配力が及ぶ範囲として規定しようとしている。したがって、直接間接を問わず、ある企業がその支配下にある資産を連結財務諸表で表示することが最終的な目的となっている。ただし、ある企業が株式の保有を通じて他の企業が有している資産を間接的に支配している場合には、当該他の企業に対する支配をもって当該他の企業が有する資産に対する支配の代用として利用することとしている(IASBスタッフはこのことを「近道(short cut)」と表現している)。ところが、潜在的議決権をパワー規準の判定に当たり考慮する取扱いを導入した結果、「企業に対する支配」を「資産に対する支配」の代用として利用しようとするアプローチに矛盾が生じる結果となっている。

例えば、A社がB社の所有する土地を取得できるオプションを有している場合(シナリオ1)とA社が土地を所有しているB社の株式の過半数を取得できるオプションを有している場合(シナリオ2)を考えてみる。前者の場合は、A社が資産に対するオプションの権利行使をするまでA社が土地を自らの資産として認識することはない。しかし、後者の場合では、潜在的議決権(株式に対するオプション)を支配の判定に当たり考慮するので、B社(そしてその所有する土地)はA社の連結財務諸表で認識されることになる。このように、潜在的議決権をパワー規準の判定に当たり考慮する結果、前者の場合将来A社が権利行使をして土地を取得することを前提とすると、「資産に対するオプション」の場合と「企業に対するオプション」との場合で、資産を連結財務諸表で認識するタイミングに差異が生じることになる。

このような不整合をどのように解釈するかについて今回議論が行われた。

3.議論と暫定合意

この問題については、両者の認識のタイミングに不整合があるという考え方と不整合はないという考え方の2つがあるとして、それらが今回検討された。

第1の見方は、「経済的便益」をどのように解釈するかの相違によって不整合が生じていると考える見方である。すなわち、「資産に対する支配」においては、資産に対する支配が存在するためには、将来の便益を獲得するための企業の能力が、過去の事象の結果として、現時点で存在しておりかつ行使可能でなければならないという要件を満たさなければならない。したがって、土地に対するオプションの場合には、オプションとしての価値は認識できても、土地そのものの便益を入手していないので、土地としては認識できない。一方、「企業に対する支配」では、その企業の財務及び経営方針を直接指図する能力(パワー規準)と便益を入手する能力(ベネフィット規準)が支配を有しているためには必要であるが、ベネフィット規準は、実際に便益を得ている必要はなく、便益を得ることができる能力があればそれを満たすと考えることができる。したがって、「資産に対する支配」では、便益を入手できる場合を「企業に対する支配」よりは限定的に考えているということができる。

第2の見方は、両者の認識のタイミングに不整合はないと見る見方である。すなわち、資産に対するオプション(「資産に対する支配」)から生じる権利の性質と資産を保有する企業に対するオプション(「企業に対する支配」)から生じる権利の性質にはそもそも相違があり、権利の性質の相違に基づく相違は、不整合ではないという考え方である。

今回は、議論が行われたのみでどのような決定も行われていない。スタッフに対しては、「企業に対する支配」の会計処理に関連して、企業が潜在的議決権を取得して支配を獲得したとき及びその後潜在的議決権の権利行使を行った場合にどのような会計処理が行われるかについて、更に具体例を用いて検討することが指示された。

【シナリオ1】土地に対するオプション      【シナリオ2】株式に対するオプション

7.解釈指針

国際財務会計基準解釈指針委員会(IFRIC)が議題としているテーマの最近の検討状況の説明に続いて、1. D4(廃棄、回復及び環境復旧ファンドから生じる持分に対する権利)、2. D8(共同組合におけるメンバーの出資)及び3. IAS第1号(財務諸表の表示)(損益計算書における費用の性質又は機能による表示)が議論された。D4及びD8は解釈指針として承認することが決定された。

(1) D4(廃棄、回復及び環境復旧ファンドから生じる持分に対する権利)

この解釈指針案は、1. 原子力発電所や車、更に鉱山の原状回復といった資産の廃棄や回復及び環境復旧のために設定されるファンドに対する拠出者の持分をどのように会計処理するか及び2. ファンドに参加している他の拠出者が倒産した場合等に当該拠出者が負っている追加拠出義務をどのように会計処理するかという問題を扱っている。ただし、ファンドに対する残余持分(すべての廃棄費用が支出された後にファンドから配分を受ける権利)については、持分金融商品である可能性が高いので(したがって、IAS第39号の対象)、この解釈指針案では取扱っていない。解釈指針案では、拠出者がファンドに対する支配、共通支配又は重要な影響を有している場合には、それぞれIAS第27号、IAS第28号(関連会社に対する投資)、IAS第31号(ジョイント・ベンチャーに対する持分)及び解釈指針(SIC)第12号に基づいて会計処理すべきこと、また、支配、共通支配又は重要な影響を有していない場合には、IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)の返還(reimbursement)の規定に基づいて会計処理すべきことが示されている。また、ファンドへの追加拠出義務は、ファンドに対する持分とは別個の負債として認識しなければならないとされている。また、廃棄費用等引当金として認識された費用の返還を受ける権利は、IAS第39号の対象から除外されてD4の対象となることから、IAS第39号からこれらを除外するための改訂も提案されている。これらの内容については、既にIFRICは、2004年9月の会合でD4の内容を承認している。

議論の結果、発効日を2006年1月1日からに変更(早期適用を推奨している)した上で全員一致でその内容が承認された。

(2) D8(共同組合におけるメンバーの出資)の承認

D8は、IAS第32号の対象となる協同組合等に対するメンバーの出資(金融商品)の会計処理に関する解釈指針案である。協同組合等への出資には、議決権や配当への参加権があるため持分金融商品としての性格を持つものの、メンバーが現金又はその他の金融商品による償還を請求できる権利を有しているものがある。このようなメンバーの出資を持分金融商品又は金融負債のいずれとして会計処理するのかが、ここで取扱われている問題である。解釈案では、メンバーが現金又はその他の金融商品による償還を請求できる権利を有しているというだけでは金融負債とするには不十分であり、金融商品の条件を勘案して判断しなければならないとしている。その取扱いの概要は次の通りである。

  1. メンバーが現金又はその他の金融商品による償還を請求できる権利を有していなければ、当該出資は持分金融商品に区分される。
  2. 企業がメンバーからの償還請求を無条件に拒否できる権利を有していれば、当該出資は持分金融商品に区分される。
  3. 法律や当局の規制又は定款等によって償還が禁止されているならば、当該出資は持分金融商品に区分される。
  4. 法律や当局の規制又は定款等によってある条件に合致した場合(例えばある一定の流動性が確保された場合)にのみ償還が禁止されているならば、当該出資は持分金融商品には区分されない(金融負債となる)。

この内容については、IFRICが既に承認しており、今回、IASBもD8を解釈指針として公表することを承認した。

(3) IAS第1号(損益計算書における費用の性質又は機能による表示)

IAS第1号では、損益計算書の本体又は注記において、費用の性質(nature)又は企業内での機能(function)のいずれかに基づく分析を記載しなければならないとしている(第88項)。ところが、実務では、機能による表示を行いながら一部の「異常」費用については性質による表示を行うといった混合型の開示が見られる。例えば、たな卸資産の評価損、解雇給付又は有形固定資産の減損等の金額が異常であるとか、頻繁に起こらない等の理由からこれらを「営業損益」から除外することがしばしば行われている。IFRICでは、このような実務を防止するための解釈指針を公表するためのプロジェクトを開始するかどうかが検討されている。その議論の過程で、IFRICは、このような実務が行われるのは、第88項が求める性質又は機能による分類がすべての費用に適用されるかどうかが明確でないこと、また、第89項では、第88項で求める開示を損益計算書の本体で行うことが「推奨」されているだけであり強制されていないことに原因があると判断した。そして、このような点を明確にすることは、IFRSの改訂を伴うので、IFRICの役割ではなく、IASBが直接取扱うべきだと考えた。そこで、IASBの意向を確認するため、今回この問題が、IASBにおいて議論された。

議論の結果、IASBでは、IAS第1号の結論の背景(BC13)において、この点が既に明確に指摘されていることから、これを基にIFRICが解釈指針を公表することが妥当であると判断した。なお、BC13では、営業項目を営業損益以外の場所で表示することは誤解を招き比較可能性を損なうことや、異常性や頻度さらにキャッシュ・フローを伴わない損益であるとの理由で営業損益から除外することは不適切であると述べている。

また、どのような費用が営業損益等の特定の区分に分類されるかは、包括利益の報告プロジェクトで取扱うことが妥当である点についても合意された。

8.ジョイント・ベンチャー

1.経緯

ジョイント・ベンチャーに対する会計処理として、IAS第31号(ジョイント・ベンチャーに対する持分)では、持分法と比例連結の双方が認められている。このようなジョイント・ベンチャーに対する会計処理を1つに絞るための見直しの必要性が2002年10月に開催されたリエゾン国会議で認識され、オーストラリアの会計基準設定主体(AASB)にジョイント・ベンチャーに関する会計処理方法の検討・見直しが依頼された。

これを受けて、AASBは、2003年4月にリサーチ・プロジェクトの概要をまとめたペーパーをリエゾン国会議に提出した。このときに準備されたペーパーでは、ジョイント・ベンチャーの定義の再検討(ジョイント・ベンチャーと資産に対する非分割持分(undivided interest)との間の区分をどのように行うか等)及びジョイント・ベンチャーに対する会計処理として持分法及び比例連結のほか原価法や公正価値法の検討が行われた。その結果、公正価値法が最良と考えられるが、どこの会計基準設定主体でも採用されていない方法であり、持分法が現実的な選択肢であると提案されている。この報告を受けて、ジョイント・ベンチャーの会計処理に関するリサーチ・プロジェクトは、長期的なプロジェクトとして取り上げることが決定され、2004年2月にオーストラリア、中国・香港、マレーシア及びニュージーランドからなるプロジェクト・チームが組成された。

2004年4月に開催されたリエゾン国会議には、プロジェクト・チームから、リサーチ・プロジェクトの進め方に関する提案が提出され、このリサーチ・プロジェクトを2つに分け、1. 現行IAS第31号の2つの選択肢を1つに統合する短期プロジェクトと2. フィールドテストを含む長期的なプロジェクト(ジョイント・ベンチャーの構造、ジョイント・ベンチャーの実質と法形式との関係、定義、適切な会計処理方法及び開示等を検討対象とする)として進めることが決定された。

その後2004年7月のIASB会議では、長期的なプロジェクトで取扱うジョイント・ベンチャーの特徴に関する議論を完成させずに(特にジョイント・ベンチャーと資産に対する非分割持分との間の区分をどのように行うかといった問題)短期プロジェクトに取り組むことができるのかといった点に疑問が提起され、スタッフに対して、短期プロジェクトで検討すべき項目の明確化及びそれらが短期的に解決できるかどうかについての検討を行うことが指示された。

2.今回議論された問題と暫定合意

今回は、上述の指示に従ってスタッフがまとめた「1. 短期プロジェクトで検討すべき項目」及び「2. それらが短期的に解決できるかどうか」についての分析が検討された。

スタッフからは、短期プロジェクトで検討すべき最低限の項目として次のような内容が報告された。また、スタッフからは、これらを検討するには時間が必要であり、短期又は中期にこれらを解決することはできないであろうとの報告を受けた。

(a) 次を含む共同支配企業に対する持分の性質。

3.共同支配企業に対する持分と他の共同契約形態に対する持分(例えば資産又は資産グループに対する非分割持分)との本質的な差異

4.共同支配企業の実質と形式との間の矛盾の可能性及び(もしあれば)法的形式が契約の実質に与える影響

(b) 持分法と比例連結のいずれが共同支配企業に対する持分の経済的実質をより忠実に表現するのか。

(c) IFRSにおける共同支配企業(jointly controlled entity)という概念と米国会計基準におけるコーポレート・ジョイント・ベンチャー(corporate joint venture)という概念の間の差異。

今回の議論では、プロジェクトの進め方についてなんらの合意も形成されなかったが、スタッフに対して、リサーチ・プロジェクトでの議論の進捗状況を把握することが指示された。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)