IASB(国際会計基準審議会)の第39回会議及び米国財務会計基準審議会(FASB)との定期合同会議が、2004年10月18日から20日までの3日間にわたり米国コネチカット州ノーウォークのFASB本部で開催された。今回は、18日と19日の午前中にIASBの会議、19日の午後と20日にFASBとの合同会議が行われた。IASBの会議では、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第19号(従業員給付)の改訂(改訂公開草案の検討)、3. 米国会計基準との短期統合(法人所得税)、4. IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)の改訂、5. 中小規模企業の会計基準及び6. 解釈指針案(IFRIC)の検討が行われ、FASBとの合同会議では、7. 収益認識、8. 短期統合(法人所得税)及び9. 概念フレームワークについて議論された。また、口頭ではあるが、金融商品プロジェクトに関連して設置されたワーキンググループの第1回会合での議論の概要が報告された。さらに、合同会議の冒頭に、勅許財務アナリスト協会(CFA Institute)から「包括的ビジネス報告モデル(A comprehensive Business Reporting Model)」というテーマで、同協会が検討中の財務報告の新たなモデルに関するプレゼンテーションが行われた。IASB会議には理事14名が参加した(FASBとの合同会議にはFASBの7名のメンバーが参加した)。本稿ではこれらの議論の概要を紹介する。
今回は、1. 公正価値ヒエラルキーの米国会計基準との統合及び2. 所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合の2点が議論された。
FASBは、公開草案「公正価値測定」(公正価値ED)を2004年6月23日に公表した。公正価値EDが提案する公正価値のヒエラルキーは、企業結合の第2フェーズにおいてこれまで議論してきた内容とは異なるものであったため(両者の差異については2004年9月会議の第38回会議報告を参照)その取扱いについて議論した結果、IASBは、2004年6月の会議において、会計基準の統合化を推進するため、FASBと同じ公正価値のヒエラルキーを企業結合の第2フェーズの公開草案(第2フェーズ公開草案)に限って提案することを暫定的に決定した。
今回は、この決定を受けて、第2フェーズ公開草案に限って採用すべき(公正価値EDで用いられている)定義や用語について議論が行われ、主として下記の内容が暫定的に合意された。
このほか、公正価値EDで採用されている公正価値のヒエラルキーと統合するために、次のような改訂を行うことについても暫定的に合意されている。
2004年6月のIASB会議で、次の2つの企業結合を第2フェーズの公開草案に含める方向で検討することが暫定的に合意され、このうち複数の相互会社の企業結合については、2004年9月会議で議論された。この際、複数の相互会社の企業結合にはパーチェス法を適用することが暫定的に合意されている。
今回は、残された問題である所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合について議論が行われた。 議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
2004年4月にIAS第19号(従業員給付)の改訂公開草案(数理計算上の差異、グループ年金制度及び開示)が公表されており、これに対しては、90通のコメントを受領している(コメントの締切期限は2004年7月31日であった)。2004年9月会議において受領したコメントの一部についての分析を検討したが、今回は、1. 改訂公開草案が提案した新たな開示に関するコメント分析、2. 前回会議で更なる検討が指示されたグループ制度及び3. 複数事業主制度の取扱いの変更について議論が行われた。
改訂公開草案では、次のような新たな開示の追加を提案している。
議論の結果、次の点を修正したうえで、改訂公開草案の内容で基準化を図ることが暫定的に合意された。
議論の結果、上記スタッフ提案が暫定的に合意された。なお、グループ制度による親会社とグループ内企業との取引は、IAS第24号(関連当事者に関する開示)に該当するため、これに準拠した開示が必要であるが、この点を強調する必要がある点が指摘され、最終基準案のドラフトの中でこの点を明確にすることがスタッフに指示された。
米国会計基準との短期統合化プロジェクトの一環として、税効果会計に関する会計基準(IAS第12号(法人所得税)と米国財務会計基準書(SFAS)第109号(法人所得税の会計処理))の統合化に関する議論が行われているが、今回は、バックワード・トレーシング(backwards tracing)を含む期間内税配分(intraperiod allocation)について議論が行われた。議論の目的は、まず期間内税配分を巡る両者間の相違を理解し、その上で、1. この分野についてIAS第12号より詳細な規定を有するSFAS第109号に合わせるためIAS第12号に追加のガイダンスを設けるべきかどうか、また、2. そのような決定をするためにはさらにどのような情報が必要か、というものであった。今回行われたのは、バックワード・トレーシングや期間内税配分の仕組みを理解するための議論のみで、暫定的に合意された事項はない。
1.期間内税配分
期間内税配分とは、当期に発生した税金費用を当期利益の各段階に配分することをいい、SFAS第109号では次の各段階に税金費用を配分することを求めている(第35及び36項)。
また、「継続事業からの損益」に含められる税金費用は、1. 当期中の継続事業から生じる税引前損益に2. 次の4つの事項から生じる税効果を加減したものとされている(第35項)。
なお、IAS第12号では、経常的活動から生じる損益に関連する税金費用は損益計算書上で区分表示することとされているが(第77項)、その具体的な方法は示されていない。
2.バックワード・トレーシング
バックワード・トレーシングとは、過去の期間に発生し報告された税引後の損益額(資本の部で認識されたもの)を当期に再測定するプロセスをいう。例えば、X1年に売却可能金融資産に100ドルの未実現利益が生じ、X1年の税率が40%である場合、X1年には60ドルが資本の部で認識される。100ドルの未実現利益が変わらないまま、X2年に税率が45%に変更された場合、バックワード・トレーシングの結果、当期に5ドルの変動が生じる。この変動額は、IAS第12号では資本の部で認識されるが、SFAS第109号では当期の変動は「継続事業からの損益」に含めて当期の税金費用の変動として認識される。このように両者には、バックワード・トレーシングの結果生じた変動額の取扱いに相違がある。このように、バックワード・トレーシングを巡る問題は、当期に生じた税金費用の期間内税配分に関する問題の一部を構成するものである。したがって、税金費用の期間内税配分という要求がなければバックワード・トレーシングの問題は生じない。
1.スタッフによる検討結果の要約
今回、スタッフからは、SFAS第109号における税金費用の期間内税配分の特徴として、次の点が指摘された。
(a)増分アプローチ
SFAS第109号における税金費用の期間内税配分の焦点は、継続事業からの損益を示すことに当てられており、継続事業に含まれない項目から生じる税効果は、継続事業の損益から生じる税効果の計算では考慮されない。このように、継続事業以外の項目から生じる税効果を継続事業からの税効果に追加されるものと考える期間内税配分方法を「増分アプローチ(incremental approach)」と呼んでいる。この考え方の下では、当期の税金費用総額は、すべての課税所得に対する税効果(課税所得がどのような原因で生じたかを問わない)に評価引当金の当期の変動の影響を加減して算出される。そして、この当期の税金費用総額から継続事業の損益から生じる税効果を差引いた金額が、継続事業以外の項目から生じた増分効果(税効果)として認識される。増分効果は、継続事業以外の項目(非継続事業からの損益、異常項目及び資本の部に直接賦課される項目)に比例的に配分される。
【例1】A社の継続事業から生じる課税所得が500、異常項目から生じる課税所得がマイナス400の場合における税効果の計算は次の通り。なお、通常所得に対する税率は40%、異常項目に対する税率は30%と仮定する。
税引前損益 | 税金費用の配分 | 税引後損益 | 実効税率 | |
---|---|---|---|---|
継続事業の課税所得 | 500 | 200 | 300 | 40% |
異常項目 | -400 | -160 | -240 | 40% |
合計 | 100 | 40 | 60 |
この例では、異常項目に対する税率は30%であるが、税金費用総額から継続事業の税効果を差引いて異常項目の税効果を算出するため、異常項目の実効税率は40%となっている。
(b)増分アプローチに対する例外
増分アプローチでは、継続事業の損益から生じる税効果の計算に当たり、継続事業に含まれない項目から生じる税効果は考慮しないこととされている。しかし、これに対する例外として、継続事業から損失が生じている場合の税効果の計算では、継続事業以外の項目から生じた税効果を考慮することが求められている。すなわち、税金費用総額は、継続事業からの損失を控除した後の継続事業以外の項目から生じる課税所得に対して、継続事業以外の項目に適用される税率が適用されて計算されることになる。そのため、継続事業から生じる課税所得とそれ以外の課税所得に対する税率が異なる場合には、これによる影響は大きなものとなる。
【例2】B社の継続事業から生じる課税所得がマイナス500、異常項目から生じる課税所得が900の場合における税効果の計算は次の通り。なお、通常所得に対する税率は40%、異常項目に対する税率は30%と仮定する。
税引前損益 | 税金費用の配分 | 税引後損益 | 実効税率 | |
---|---|---|---|---|
継続事業の課税所得 | -500 | -150 | -350 | 30% |
異常項目 | 900 | 270 | 630 | 30% |
合計 | 400 | 120 | 280 |
この設例の計算に対してスタッフの中には、上記のような解釈は適切ではなく、SFAS第109号の規定の適用は、次のように、継続事業の課税所得には通常所得に対する税率は40%を適用し、異常項目に対する税額は税金費用総額との差額として計算すべきものと理解すべきである(したがって、実効税率は混合レートの36%となる)という見解もあることが示されている。
税引前損益 | 税金費用の配分 | 税引後損益 | 実効税率 | |
---|---|---|---|---|
継続事業の課税所得 | -500 | -200 | -300 | 40% |
異常項目 | 900 | 320 | 580 | 36% |
合計 | 400 | 120 | 280 |
2.議論の概要
上述のスタッフによる資料を基に議論が行われ、期間内税配分に当たり、継続事業の課税所得に適用される税率と異常項目に適用される税率をどのように考えるかが議論された。議論の中では、例1について、異常項目に適用される税率を優先し、継続事業の課税所得に適用される税率を混合税率とすべきとの考え方も示された。その場合には、継続事業の課税所得に対する実効税率が混合税率の32%となる。
税引前損益 | 税金費用の配分 | 税引後損益 | 実効税率 | |
---|---|---|---|---|
継続事業の課税所得 | 500 | 160 | 340 | 32% |
異常項目 | -400 | -120 | -280 | 30% |
合計 | 100 | 40 | 60 |
今回は、期間内税配分とバックワード・トレーシングとの関係を理解し、期間内税配分の考え方について意見交換することのみが行われた。今後、更にこの問題を詰めることがスタッフに指示された。
2004年9月会議でIAS第37号の改訂のための初めてのドラフトが検討されたが、今回は、その際に指摘された次の点、特に推定債務について集中して議論が行われた。これらのうち、(a)、(d)及び(e)の内容を紹介する。
推定債務は、1. 企業の過去の行動や公表した方針等によって企業がある特定の責任を引き受けることを取引相手方に示しており、かつ、2. その結果、取引相手方に対して、企業がその責任を果たすであろうという確かな期待(valid expectation)を抱かせるような企業の行動によって生じた義務であると定義されている(IAS第37号第10項)。
現在この定義(「取引相手方に企業がその責任を果たすであろうという確かな期待を抱かせる」)を改訂し、「取引相手方に企業が責任を果たすことに合理的に依存できるという確かな期待を抱かせる」という文言に変更しようとしている。これによって、推定債務が認識できるための条件を強化しており、推定債務の典型例であるリストラ引当金の認識時期をSFAS第146号(退出又は処分活動に関連するコストに関する会計処理)と合わせることが意図されている。しかし、この改訂を行っても、企業はいつでも前言を翻して債務を免れることができる可能性が残っており、これを防ぐためには、推定債務を法的に強制力のあるものに限定する必要があるのではないかという点が今回の中心論点である。
議論では、この問題の理解のため、収益認識プロジェクトで現在行われている議論が検討された。同プロジェクトでは、契約(contract)を「裁判所がその履行を強制できる約束(promises)のかたまり」と定義している。この概念は現行の実務よりも広く、文書になっているもののみならず暗黙の契約(implied contract)もその中に含まれている。例えば、小売業者が、書面にはしていないものの販売後60日以内であれば返品に応じるという慣行を有しており、それが一般に知られている場合、これは企業の過去の行動が顧客に対して暗黙の契約を提供していると解釈できる。したがって、ここでいう「暗黙の契約」は、推定債務と類似した考え方であるということができる。しかし、両者には差異があり、推定債務が収益認識プロジェクトの「契約」に該当するためには、契約上の義務であること、すなわち、法的に強制できるものであう必要がある。このため、取引相手先に企業の行う行動に合理的に依存できるという確かな期待を抱かせたとしても、それが契約上の義務でなければ、収益認識プロジェクトでいう「契約」には該当しないことになる。例えば、相手方が企業にとって失いたくない重要な顧客である場合等経済的な理由から企業がある行動をとらざるを得ない場合(経済的理由による強制力)や法律で強制されていないが汚染土壌を浄化しなければ企業の信用に傷がつくという理由による土壌浄化の履行といった場合は、契約上の義務は存在していないが推定債務には該当する。このように推定債務には、1. 法的強制力のあるものと2. そうではないが企業がその責務を果たすことを免れる裁量権をほとんど持たないか、まったく持たないというものが含まれている。もし、推定債務を法的な強制力を持つものに限定すれば、後者の推定債務は除外されることになるため現行のIAS第37号の考え方を大きく変更することになる。
議論の結果、推定債務を的強制力のある債務に限定するのではなく、経済的理由によって企業がその責務を果たすことを免れる裁量権をほとんど持たない債務も含むと理解することが暫定的に合意された(現行の考え方の確認)。ただし、後者の債務に該当するケースは限定的であることを公開草案では明確にすることとされた。
引当金の測定に当たり、将来事象をどのように考慮するかについて、IAS第37号には第48項から第50項に規定がある。そこでは、「債務の決済に必要となる金額に影響を与える将来の事象は、それらが起こるであろうという十分な客観的証拠がある場合には、引当金の金額に反映しなければならない」という規定が置かれている。この規定は、将来事象を引当金の測定に反映させるためには、「十分な客観的証拠」の存在が必要であることを要求しているが、この要求は、(観察可能な市場価格が存在しない場合において)待機債務(stand ready obligation)を条件付債務(conditional obligation)のキャッシュ・フローの期待値として測定しようとしている公開草案で採用が予定されているアプローチと矛盾するものとなっている。例えば、製品保証債務の場合、企業は請求の起こる可能性及びそのような請求に対して支払うキャッシュ・フローを考慮して負債を測定することとされている。このような見積りの対象を、発生することについて「十分な客観的証拠」がある場合のみに限定することは、期待キャッシュ・フロー・アプローチと矛盾する。期待キャッシュ・フロー・アプローチでは、客観的な証拠があるかどうかに関係なく、企業は、債務の決済に求められる金額に影響を与える将来の事象の発生の可能性を推定しなければならないとされているからである。
また、第50項では、「制定される可能性がある新法の影響は、法律がほぼ確実に制定されるという十分な客観的証拠が存在するときには、現存の債務の測定にあたって考慮される」という規定が置かれている。まだ法律が実質的に発効していないにもかかわらず、単に「法律がほぼ確実に制定されるという十分な客観的証拠が存在する」という事実だけに基づいて「現在の債務」を認識することは論理的に矛盾しているので、この文言を「制定される可能性がある新法の影響は、法律がほぼ確実に実質的に制定されるという十分な客観的証拠が存在するときには、現存の債務の測定にあたって考慮される」という形に修正することが提案されている。
議論の結果、期待キャッシュ・フロー・アプローチと矛盾する第48項と第49項を削除し、さらに第50項も上述の提案どおり修正することが暫定的に合意された。
引当金を毎期末に再測定すべきかどうかが明確でないため、これを明確にする必要があるかどうかが議論された。
議論の結果、1. 引当金は、当初認識時及びその後の期において、期末において現在の債務を決済又は譲渡するために合理的に必要な金額で測定すること及び2. その測定に当たっては、測定時点現在の割引率を用いることを明確にするため、IAS第37号を改訂することが暫定的に合意された。
2004年6月にディスカッション・ペーパー「中小規模企業の会計基準に対する予備的見解」が公表され、9月24日にコメント期限を迎えた。期限までに受領した約100通のコメントのうちの41通について、質問ごとに行われた分析資料を基に議論が行われた。今回は、分析に基づき議論が行われたのみで、特に決定された事項はない。なお、少数のボードメンバーからなるワーキンググループを組織して、コメントの分析を行うとともに、今後のSME版のあり方について議論を深めることが合意された。
国際財務会計基準解釈指針委員会(IFRIC)が議題としているテーマ最近の検討状況の説明に続いて、1. SIC12号(特別目的会社の連結)の改訂、2. D1(排出権)及び3. D3(契約がリースを含むかどうかの決定)が議論され、いずれも解釈指針として承認することが決定された。
改訂は2つの要素からなっている。1つは、SIC12号では、退職後給付制度と株式報酬制度(equity compensation plans)はIAS第19号の対象となっているため、その対象外とされていることに関連する。提案されているのは、SIC12号の範囲除外から株式報酬制度(equity compensation plans)を除外することである(すなわち、株式報酬制度はSIC12号の適用対象となる)。その理由は次の通りである。2005年1月から適用されるIFRS第2号(株式報酬制度)では、従業員株式オプション制度や従業員株式購入制度等が所有する自己株式に対してもIAS第32号(金融商品:表示および開示)の自己株式の規定が適用されるようにするため、IAS第32号を改訂することとしている。一方、IFRS第2号は、IAS第19号を改訂して、その規定から株式報酬制度(equity compensation plans)を除くこととしている。この結果、SIC12号の範囲除外を残したままにしておくと、株式報酬制度(equity compensation plans)を扱うIFRSがどこにもないことになり、その一部に含まれる従業員給付信託(employee benefit trust)等が保有する自己株式は、これら信託を支配する事業体の連結から除外されることになる恐れがある。そうなると、同一の事業体の支配下にある同じ自己株式でありながら適用される会計処理が異なることになってしまう。そこで、SIC12号の範囲除外を削除することによって、信託を支配する事業体は、従業員給付信託等を連結するとともに、これらが保有する自己株式に対してIAS第32号を適用しなければならないようにすることが妥当と判断されたため、今回、改訂を行うことが提案されている。
もう1つの改訂は、「その他の長期従業員給付制度(other long-term employee benefit plans)」の取扱いである。これは現在SIC12号の範囲に含まれている。しかし、これに対しては、現在IAS第19号が、退職後給付制度と同じ会計処理をすることを要求している。そこで、その他の長期従業員給付制度にIAS第19号が適用されることをはっきりさせるため、その他の長期従業員給付制度をSIC12号の範囲除外とすることが提案されている。
議論の結果、このような改訂をすることが全員の賛成で承認された(すでにIFRICは承認している)。
D1は、2005年から欧州で開始される排出権に関する「キャップ・アンド・トレード」取引に対する会計処理を明確にしようという解釈指針案である。取扱いの基本構造は次の通りである。
議論の結果、D1の承認が賛成10、反対2(スミス氏及びガーネット氏)及び棄権2(ライゼンリング氏及びウィティッントン氏)で決定された(すでにIFRICは承認している)。なお、排出権に対して公正価値モデルを適用した場合に、評価増となる場合には、当該評価益は損益計算書ではなく、資本の部で直接認識することとなっているため、排出権を引き渡す義務の負債認識との間にミスマッチが生じる。このような事態の発生を避けるため、今後IAS第38号の見直しを行うことがIFRICから進言されている。
D3は、契約の中にリースとして会計処理すべき部分があるかどうかを決定するための指針案を示すものである。D3では、1. 契約がリースを含むかどうかをどのように決定するか(契約の履行が特定の資産に依存し、当該契約が当該資産の利用権を付与するものである場合)、2. その判定をいつ行うか(契約当初及びある一定の事態が生じたとき)及び3. リースが含まれている場合、どのようにしてリース料をその他の支払いから区分するか(IAS第17号(リース)を適用して決定し、区分できないときはあるみなしを行う)という3点を明確にしている。
議論の結果、D3は全員の賛成で承認された(すでにIFRICは承認している)。
今回の議論の目的は、FASBの公正価値EDにおける公正価値の測定に関する考え方が収益認識に当たってどのように適用されるかを、2004年6月会議で用いた設例を使って検討することであった。
なお、今回の議論の冒頭に本プロジェクトのあり方についてあるボードメンバーから疑問が呈され、これをきっかけにプロジェクト全般についてさまざまな議論が行われた。その中には、本プロジェクトが採用する資産負債アプローチによる包括的収益認識基準の作成という基本的なあり方に対する疑問の呈示やこれまでの検討がキャッシュを取引当初に受領するケースのみを取扱い未履行契約の問題を取扱っていない等の指摘があった。また、この中でボブ・ハーツFASB議長は、FASBのボードメンバーの意見も3対3に分かれている(議長自身は立場を明確にしていない)旨の発言もあった。疑問を呈する意見が数名のボードメンバーから提起されたものの、全体としては、資産負債アプローチに基づくモデルの検討を継続することを否定するほどのものではなかった。
本プロジェクトのあり方を巡る議論の後、今回の本題である公正価値EDにおける公正価値概念、特にレベル3における公正価値を算出するために用いる市場のインプットとしてどのようなものを許容するかについて議論が行われた。レベル3における公正価値は、同一資産・負債を取引する活発な市場における観察可能な建値や類似資産・負債についての活発な市場における建値がない場合に、複数の評価技法を用いることによって見積もられる。また、複数の評価技法を適用するための情報が得られない場合には、最良の交換価格を推定できる評価技法(それには企業の内部データの使用も含まれる)を用いなければならないとされている。議論は、取上げた設例に関連してスタッフが用意した質問に対してボードメンバーの意見を求めるという形で行われた。
議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
税効果会計を扱うSFAS第109号(法人所得税の会計処理)とIAS第12号(法人所得税)との間の統合化を図るための作業が継続されているが、今回は、在外子会社及びジョイント・ベンチャーの当面配当等によって回収される見込みのない未分配利益に対する税効果の認識に関する例外規定が議論された。
現在進行している税効果会計に関連する統合化では、すべての一時差異に対して繰延税金資産又は負債を認識するという原則を貫くため、現在認められている例外(繰延税金資産又は負債を認識しない処理)をなくことを目的に検討が行われている。
今回スタッフから、在外子会社等の未分配利益に生じる一時差異に対して繰延税金資産又は負債を認識する場合どのような計算を行わなければならないかといった調査をした結果、各国の税務上の取扱いが非常に複雑である等の理由から、税効果の認識のためには多大なコストを必要とするため、基本的に現在の例外処理を継続することを前提とする3つの提案が示された(現行の例外処理を継続する案、外国税額控除等の規定が複雑な国についてのみ例外処理を認める案及び在外子会社等が配当支払いの際に求められる源泉徴収に関する部分についてのみ税効果を認識する案)。また、議論に先立ち、米国の税額控除制度の概要について外部の専門家から説明を受けた。
議論の結果、在外子会社及びジョイント・ベンチャーの当面配当等によって回収される見込みのない未分配利益に対して税効果を認識しないという現行の例外規定を存続させることが暫定的に合意された。ただし、スタッフに対して、在外子会社及びジョイント・ベンチャーの未分配利益を巡る開示に改善すべき点がないかどうかを検討することが指示された。このほか、現行SFAS第109号とIAS第12号との統合化を図るため、IAS第12号の規定をSFAS第109号等の規定に合わせることが併せて合意された。この結果、IAS第12号では、税効果を認識する対象から除外されている海外支店と海外関係会社の未分配利益に対しては、今後税効果を認識しなければならなくなる。
2004年4月に開催されたIASBとFASBの合同会議において、両者の概念フレームワークを統合・改善し、共通の概念フレームワークを開発する合同プロジェクトを立ち上げることが合意されているが、今回は、そのためのプロジェクト計画案が示され、これについて議論が行われた。概念フレームワークの見直しに対するアプローチとしては、複合アプローチ(hybrid approach)を採用することが既に合意されている。複合アプローチでは、両者の概念フレームワークのすべてを再検討するのではなく、今後両者の会計基準の統合化を進める上で短期に成果の出る可能性の高い項目、すなわち複数の会計基準に影響を与えるような横断的な論点に焦点を当てて検討を行い、その共通化を図ることが意図されている。 今回議論され合意が得られた項目は次の通りである。
勅許財務アナリスト協会(CFA Institute)は、2004年に従来のAIMR(Association for Investment Management and Research:投資管理調査協会)から現在の名称に変更を行っている米国のアナリストの協会である。同協会は、1993年に「1990年代及びそれ以降の財務報告(Financial Reporting in the 1990s and Beyond)」という報告書をまとめているが、その後の財務会計をめぐる環境の変化を受けて、現在「包括的ビジネス報告モデル(A comprehensive Business Reporting Model)」という報告書を準備中で、その概要についてのプレゼンテーションが行われた。
報告の中心は、現在の損益計算書に代えて、新たな包括的ビジネス報告モデルを提唱していることで、そこでは、次の5欄からなる新たな包括利益計算書が提案されている。
提案では、上記bからdまでが当期の業績を示す包括利益計算書とされ、この5欄を横に一覧できる形にした報告書モデルが示されている。また、包括利益報告書は、縦に「営業」と「財務」に2分することが提案されており、「投資」という区分は廃止されている(投資欄を乱用する事例があるため、この区分は廃止することとしたとの説明があった)。なお、この包括利益計算書当期利益は用いないことが前提とされている(リサイクリングは認めない)。このようなプレゼンテーションを基に質疑が行われた。
以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)