ASBJ 企業会計基準委員会

第39回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第39回会議及び米国財務会計基準審議会(FASB)との定期合同会議が、2004年10月18日から20日までの3日間にわたり米国コネチカット州ノーウォークのFASB本部で開催された。今回は、18日と19日の午前中にIASBの会議、19日の午後と20日にFASBとの合同会議が行われた。IASBの会議では、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第19号(従業員給付)の改訂(改訂公開草案の検討)、3. 米国会計基準との短期統合(法人所得税)、4. IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)の改訂、5. 中小規模企業の会計基準及び6. 解釈指針案(IFRIC)の検討が行われ、FASBとの合同会議では、7. 収益認識、8. 短期統合(法人所得税)及び9. 概念フレームワークについて議論された。また、口頭ではあるが、金融商品プロジェクトに関連して設置されたワーキンググループの第1回会合での議論の概要が報告された。さらに、合同会議の冒頭に、勅許財務アナリスト協会(CFA Institute)から「包括的ビジネス報告モデル(A comprehensive Business Reporting Model)」というテーマで、同協会が検討中の財務報告の新たなモデルに関するプレゼンテーションが行われた。IASB会議には理事14名が参加した(FASBとの合同会議にはFASBの7名のメンバーが参加した)。本稿ではこれらの議論の概要を紹介する。

IASB会議

1.企業結合(第2フェーズ)

今回は、1. 公正価値ヒエラルキーの米国会計基準との統合及び2. 所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合の2点が議論された。

(1) 公正価値のヒエラルキーの米国会計基準との統合

FASBは、公開草案「公正価値測定」(公正価値ED)を2004年6月23日に公表した。公正価値EDが提案する公正価値のヒエラルキーは、企業結合の第2フェーズにおいてこれまで議論してきた内容とは異なるものであったため(両者の差異については2004年9月会議の第38回会議報告を参照)その取扱いについて議論した結果、IASBは、2004年6月の会議において、会計基準の統合化を推進するため、FASBと同じ公正価値のヒエラルキーを企業結合の第2フェーズの公開草案(第2フェーズ公開草案)に限って提案することを暫定的に決定した。

今回は、この決定を受けて、第2フェーズ公開草案に限って採用すべき(公正価値EDで用いられている)定義や用語について議論が行われ、主として下記の内容が暫定的に合意された。

  1. 第2フェーズ公開草案では、公正価値EDの第4項で用いられている「公正価値は、知識があり、取引の意思のある非関連当事者間における現在の取引において資産又は負債が交換されるであろう価格である」という「公正価値」の定義を用いる。
  2. 第2フェーズ公開草案に、公正価値ED第5項で用いられている「取引の意思のある当事者(willing parties)」、「知識のある(knowledgeable)」及び「強制されないこと(in the absence of compulsion)」という用語に関するガイダンスを追加する。第5項では、次のような規定が置かれている。
    「公正価値測定の目的は、資産又は負債に係る実際取引がない場合に、測定対象となっている資産又は負債の交換価格を見積ることである。したがって、見積りは、取引の意思のある当事者間の現在の仮定取引(current hypothetical transaction)を参照して決定される。取引の意思のある当事者とは、非関連当事者である買手と売手を代表する市場参加者であると仮定され、(a)知識があり、資産又は負債及び取引に関連する要因に関して一般水準の理解があり、かつ、(b)同一市場で取引を行う意思及び能力があり、それを実行するだけの法的及び財務能力がある者とされる。公正価値は、強制(強要)のないことを前提とする。したがって、見積りの基礎を形成する金額は、強制された清算取引(forced liquidation transaction)や差押さえ物件の売却(distress sale)以外の取引で観察される価格である。すべての場合において、当該価格は、企業が当該取引に現在参入しようとする意図を考慮せずに見積られなければならない。」
  3. 第2フェーズ公開草案に「評価技法(valuation techniques)」(市場アプローチ、収益アプローチ及び費用アプローチの3つが示されている)に関するガイダンスを含める。
    公正価値ED第7項では、それぞれの評価技法が次のように紹介されている。
    • 市場アプローチは、同一、類似又はそうでなければ比較可能な資産又は負債(事業を含む)が含まれる実際の取引によって生み出される観察可能な価格及びその他の情報を必要とする。公正価値の見積りは、当該取引によって示される価値に基づく。
    • 収益アプローチは、将来の金額(例えば、キャッシュフローや稼得利益)を単一の現在金額(割引後)に転換する評価技法を使用する。公正価値の見積りは、このような将来の金額に関する市場の期待によって示される価値に基づく。用いられる評価技法には、現在価値法及び現在価値法を取り込んでいるブラック・ショールズ・モートン・モデルや格子モデルのようなオプション価格モデルを含んでいる。
    • 費用アプローチは、資産について用いられ、当該資産の現在の用益能力(service capacity)を取替えるのに必要な金額(現在再調達原価と呼ばれることがある)を考慮する。公正価値の見積りでは、陳腐化を調整した後の、同程度の能力(comparable utility)の代替資産を取得するのに必要な原価を考慮する。陳腐化には物理的減価、機能的陳腐化及び経済的陳腐化を含み、財務報告目的(取得原価の配分)又は(特定の耐用年数に基づく)税務目的の減価償却費よりも広い。
  4. 第2フェーズ公開草案に「活発な市場(active market)」に関する記述を含める。また、公正価値ED第11項には、多様な市場(取引市場、ディーラー市場、ブローカー市場及び相対市場)の特徴が示されているが、これと同様な記述も加える。
  5. 第2フェーズ公開草案に「市場インプット(market inputs)」(公正価値の測定に当たり市場参加者が用いる仮定や情報)に関する記述を含める。FASBのヒエラルキーでは、同一資産及び負債に係る活発な市場における建値を反映する市場の情報に最も高い優先度を与え、企業自身の内部的見積及び推定に基づく企業の情報に最も低い優先度を与えている。

このほか、公正価値EDで採用されている公正価値のヒエラルキーと統合するために、次のような改訂を行うことについても暫定的に合意されている。

  1. ヒエラルキーのレベル1において、市場への「合理的なアクセス(reasonable access)」という用語(IASBはこれを第2フェーズ公開草案で用いることとしていた)を「即時のアクセス(immediate access)」に置き換える。
  2. 企業が異なる価格を持つ複数の活発な市場に即時にアクセスできる場合には「最も有利な活発な市場における価格(prices in the most advantageous markets)」を用いるという考え方を、(金融資産及び負債だけではなく)すべての資産及び負債の公正価値のレベル1の測定に当たり適用する。
  3. 活発なディーラー市場では、すべての資産及び負債の公正価値の測定に当たり、資産は買呼値で、負債は売呼値を使用して見積る。
  4. 活発なディーラー市場における資産及び負債が相殺し合っているポジションの測定では、仲値を用いる。
  5. レベル3において、複数の評価技法を用いることによってより信頼性のある公正価値の測定が行えるが、すべての場合に複数の評価技法を用いることは要求しない。
(2)契約のみで達成される企業結合

2004年6月のIASB会議で、次の2つの企業結合を第2フェーズの公開草案に含める方向で検討することが暫定的に合意され、このうち複数の相互会社の企業結合については、2004年9月会議で議論された。この際、複数の相互会社の企業結合にはパーチェス法を適用することが暫定的に合意されている。

  • 複数の相互会社の企業結合
  • 所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合

今回は、残された問題である所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合について議論が行われた。 議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合にパーチェス法を適用する。
  2. 契約のみで達成される企業結合においてもほとんどすべての場合に取得者を特定することができると判断する。また、取得者を識別するためのガイダンスは示さない。
  3. 契約のみで達成される企業結合は交換取引ではなく、支配を取得するための対価を支払っていない。しかし、他の企業結合取引同様、この場合でも、取得者が認識すべき金額は、取得した事業の公正価値とする。
  4. 契約のみで達成される企業結合の取得者は、取得した事業を公正価値で認識するが、その際の貸方は資本として認識する。

2.IAS第19号の改訂(改訂公開草案の検討)

2004年4月にIAS第19号(従業員給付)の改訂公開草案(数理計算上の差異、グループ年金制度及び開示)が公表されており、これに対しては、90通のコメントを受領している(コメントの締切期限は2004年7月31日であった)。2004年9月会議において受領したコメントの一部についての分析を検討したが、今回は、1. 改訂公開草案が提案した新たな開示に関するコメント分析、2. 前回会議で更なる検討が指示されたグループ制度及び3. 複数事業主制度の取扱いの変更について議論が行われた。

(1)新たな開示の追加

改訂公開草案では、次のような新たな開示の追加を提案している。

  1. 給付建制度の資産負債の趨勢(5年間)及び給付建費用の構成要素の基礎となる仮定についての情報の開示。
  2. IAS第19号の開示を米国財務会計基準書(SFAS)第132号(年金及びその他の退職後給付に係わる雇用主の開示)の開示に近づけるための開示の追加。
    • 年金資産及び年金債務の期首から期末までの変動要因ごと(例えば、数理計算上の差異、拠出金、給付支払い等)の内訳の開示。
    • 認識収益費用計算書(statement of recognized income and expense)で認識された1. 数理計算上の差異の総額及び2. アセットシーリングの影響額の開示。
    • 損益計算書で認識された費用項目の内訳開示(現在勤務費用、金利、期待利回り及び数理計算上の差異等)に新たにアセットシーリングの影響を追加。
    • 年金資産に占める主要資産区分の比率及び当該主要資産区分ごとの期待利回りの開示。
    • 期待利回りを算定するために用いた基礎に関する記述情報の開示。
    • 医療費の趨勢率の1%の変動が、1. 退職後医療の当期純額の中の現在勤務費用と金利の合計額及び2. 医療費の退職後給付債務の累計額に及ぼす影響の開示。
    • 翌期に支払われると見込まれる拠出金額の開示。

議論の結果、次の点を修正したうえで、改訂公開草案の内容で基準化を図ることが暫定的に合意された。

  1. 上述の改訂公開草案で提案されている追加開示(b)のうち、「年金資産の主要資産区分ごとの期待利回りの開示」は求めないこととする。
  2. 改訂公開草案では提案していないが、損益計算書で認識されていない数理計算上の差異の累計額の開示を新たに求める。
(2)グループ制度
  1. 経緯
    この問題の論点は、連結グループ内の企業が参加するグループ給付建年金制度を、これらに参加する企業の個別(又は分離)財務諸表において複数事業主制度に関する規定(十分な情報を得られない場合には給付建制度を掛金建制度として会計処理できるという内容)を適用して掛金建制度として会計処理することを認めるかどうかである。2004年9月の会議では、この提案は複雑であり、また、連結グループ内企業では、通常給付建制度として会計処理するための情報(グループ制度全体に適用される前提条件やグループ内企業に配分するための情報)の入手が可能であるため、グループ制度の会計処理を複数事業主制度に関する規定を準用して決める必要はないとされ、グループ年金制度は、グループ全体の金額を合理的にグループ内企業に配分できる場合には、給付建制度として会計処理しなければならないという取扱いを行うことが暫定的に合意された。そして、合理的にグループ内企業に配分できる例や合理的な配分基準がない場合の例を明確にすることがスタッフに指示された。
  2. 今回の議論と暫定合意
    今回は、これを受けて、次のような提案がスタッフから示され、議論が行われた。
    グループ企業がリスクを共有する確定給付建グループ制度は、個別(又は分離)財務諸表上次のように会計処理することとする。
    1. 制度全体に適用される仮定に基づき、IAS第19号に準拠して当該制度の測定を行う。かつ、
    2. もし確定給付費用をグループ内で賦課するための契約又は策定されている会計方針がある場合には、確定給付費用はそれら契約又は会計方針に基づいてグループ内企業に配分する。又は、
    3. もしそのような契約又は会計方針がない場合には、当該制度の法律上のスポンサー雇用主であるグループ内企業に配分する。

議論の結果、上記スタッフ提案が暫定的に合意された。なお、グループ制度による親会社とグループ内企業との取引は、IAS第24号(関連当事者に関する開示)に該当するため、これに準拠した開示が必要であるが、この点を強調する必要がある点が指摘され、最終基準案のドラフトの中でこの点を明確にすることがスタッフに指示された。

(3)複数事業主制度
  1. 経緯
    解釈指針公開草案D6(複数事業主制度)では、1. ある年金制度が複数事業主制度(共通の支配下にない企業が拠出資産をプールし、かつ、当該資産を複数の企業の従業員の給付に使用するが、その掛金及び給付水準が関係する従業員を雇用する企業を識別することなく決定されるものをいう)に該当するのはいつか、2. 複数事業主制度への参加企業は確定給付建制度をどのように適用するか及び3. 確定給付建制度を適用するために十分な情報を得られない場合とはどのような場合かといった問題を扱っている。D6は2004年4月に公表され、6月末にコメントが締め切られたが、コメントの多くは、確定給付建制度を適用するために必要な制度全体に関する情報を入手することが不可能である点を指摘しており、これを受けて、スタッフは、国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)に対して、複数事業主制度に対しては掛金建制度の会計処理を適用するという提案を行い、これが検討された。IFRICでは、過半数がこの提案に賛成したものの解釈指針として成立するだけの賛成が得られなかったため、その状況をIASBに報告すると共に、IASBの意見を求めることが決定された。
  2. 今回の議論と暫定合意
    このようなIFRICの決定を受けて今回議論が行われた。議論では、IFRICの過半数が支持する複数事業主制度に対しては掛金建制度の会計処理を適用するという提案は、制度に参加する企業に対して掛金が何らかの方法で賦課されている以上、グループ制度に関連してIASBが暫定的合意した「もし確定給付費用をグループ内で賦課するための契約又は策定されている会計方針がある場合には、それら契約又は会計方針に基づいてグループ内企業に配分する」という取扱い(上記(2)参照)に反することになるという考え方が支持され、確定給付建制度として会計処理できるだけの十分な情報が得られる場合にはやはり給付建制度として会計処理を行い、そのような情報が十分得られない場合に限って掛金建制度として会計処理することが妥当だと判断された。なお、この判断は、IAS第19号の改訂ではなく、同号の考え方を明確にするという性格のものであり、そのように取扱うこととされた。

3.米国基準との短期統合化(法人所得税)

米国会計基準との短期統合化プロジェクトの一環として、税効果会計に関する会計基準(IAS第12号(法人所得税)と米国財務会計基準書(SFAS)第109号(法人所得税の会計処理))の統合化に関する議論が行われているが、今回は、バックワード・トレーシング(backwards tracing)を含む期間内税配分(intraperiod allocation)について議論が行われた。議論の目的は、まず期間内税配分を巡る両者間の相違を理解し、その上で、1. この分野についてIAS第12号より詳細な規定を有するSFAS第109号に合わせるためIAS第12号に追加のガイダンスを設けるべきかどうか、また、2. そのような決定をするためにはさらにどのような情報が必要か、というものであった。今回行われたのは、バックワード・トレーシングや期間内税配分の仕組みを理解するための議論のみで、暫定的に合意された事項はない。

(1)期間内税配分とバックワード・トレーシング

1.期間内税配分

期間内税配分とは、当期に発生した税金費用を当期利益の各段階に配分することをいい、SFAS第109号では次の各段階に税金費用を配分することを求めている(第35及び36項)。

  1. 継続事業からの損益
  2. 非継続事業からの損益
  3. 異常項目
  4. 資本の部に直接賦課される項目(会計方針の変更や誤謬による未処分利益剰余金の調整、為替換算調整勘定・売却可能有価証券の公正価値の変動額等)

また、「継続事業からの損益」に含められる税金費用は、1. 当期中の継続事業から生じる税引前損益に2. 次の4つの事項から生じる税効果を加減したものとされている(第35項)。

  1. 繰延税金資産の将来の実現に関する判断の変動に繋がる状況の変動
  2. 税法又は税率の変更
  3. 税務上のステータスの変更
  4. 株主に支払われた損金算入可能配当

なお、IAS第12号では、経常的活動から生じる損益に関連する税金費用は損益計算書上で区分表示することとされているが(第77項)、その具体的な方法は示されていない。

2.バックワード・トレーシング

バックワード・トレーシングとは、過去の期間に発生し報告された税引後の損益額(資本の部で認識されたもの)を当期に再測定するプロセスをいう。例えば、X1年に売却可能金融資産に100ドルの未実現利益が生じ、X1年の税率が40%である場合、X1年には60ドルが資本の部で認識される。100ドルの未実現利益が変わらないまま、X2年に税率が45%に変更された場合、バックワード・トレーシングの結果、当期に5ドルの変動が生じる。この変動額は、IAS第12号では資本の部で認識されるが、SFAS第109号では当期の変動は「継続事業からの損益」に含めて当期の税金費用の変動として認識される。このように両者には、バックワード・トレーシングの結果生じた変動額の取扱いに相違がある。このように、バックワード・トレーシングを巡る問題は、当期に生じた税金費用の期間内税配分に関する問題の一部を構成するものである。したがって、税金費用の期間内税配分という要求がなければバックワード・トレーシングの問題は生じない。

(2)今回の議論

1.スタッフによる検討結果の要約

今回、スタッフからは、SFAS第109号における税金費用の期間内税配分の特徴として、次の点が指摘された。

(a)増分アプローチ

SFAS第109号における税金費用の期間内税配分の焦点は、継続事業からの損益を示すことに当てられており、継続事業に含まれない項目から生じる税効果は、継続事業の損益から生じる税効果の計算では考慮されない。このように、継続事業以外の項目から生じる税効果を継続事業からの税効果に追加されるものと考える期間内税配分方法を「増分アプローチ(incremental approach)」と呼んでいる。この考え方の下では、当期の税金費用総額は、すべての課税所得に対する税効果(課税所得がどのような原因で生じたかを問わない)に評価引当金の当期の変動の影響を加減して算出される。そして、この当期の税金費用総額から継続事業の損益から生じる税効果を差引いた金額が、継続事業以外の項目から生じた増分効果(税効果)として認識される。増分効果は、継続事業以外の項目(非継続事業からの損益、異常項目及び資本の部に直接賦課される項目)に比例的に配分される。

【例1】A社の継続事業から生じる課税所得が500、異常項目から生じる課税所得がマイナス400の場合における税効果の計算は次の通り。なお、通常所得に対する税率は40%、異常項目に対する税率は30%と仮定する。

税引前損益 税金費用の配分  税引後損益 実効税率
継続事業の課税所得 500 200 300 40%
異常項目 -400 -160 -240 40%
合計 100 40 60

この例では、異常項目に対する税率は30%であるが、税金費用総額から継続事業の税効果を差引いて異常項目の税効果を算出するため、異常項目の実効税率は40%となっている。

(b)増分アプローチに対する例外

増分アプローチでは、継続事業の損益から生じる税効果の計算に当たり、継続事業に含まれない項目から生じる税効果は考慮しないこととされている。しかし、これに対する例外として、継続事業から損失が生じている場合の税効果の計算では、継続事業以外の項目から生じた税効果を考慮することが求められている。すなわち、税金費用総額は、継続事業からの損失を控除した後の継続事業以外の項目から生じる課税所得に対して、継続事業以外の項目に適用される税率が適用されて計算されることになる。そのため、継続事業から生じる課税所得とそれ以外の課税所得に対する税率が異なる場合には、これによる影響は大きなものとなる。

【例2】B社の継続事業から生じる課税所得がマイナス500、異常項目から生じる課税所得が900の場合における税効果の計算は次の通り。なお、通常所得に対する税率は40%、異常項目に対する税率は30%と仮定する。 

税引前損益 税金費用の配分  税引後損益 実効税率
継続事業の課税所得 -500 -150 -350 30%
異常項目 900 270 630 30%
合計 400 120 280

この設例の計算に対してスタッフの中には、上記のような解釈は適切ではなく、SFAS第109号の規定の適用は、次のように、継続事業の課税所得には通常所得に対する税率は40%を適用し、異常項目に対する税額は税金費用総額との差額として計算すべきものと理解すべきである(したがって、実効税率は混合レートの36%となる)という見解もあることが示されている。 

税引前損益 税金費用の配分  税引後損益 実効税率
継続事業の課税所得 -500 -200 -300 40%
異常項目 900 320 580 36%
合計 400 120 280

2.議論の概要

上述のスタッフによる資料を基に議論が行われ、期間内税配分に当たり、継続事業の課税所得に適用される税率と異常項目に適用される税率をどのように考えるかが議論された。議論の中では、例1について、異常項目に適用される税率を優先し、継続事業の課税所得に適用される税率を混合税率とすべきとの考え方も示された。その場合には、継続事業の課税所得に対する実効税率が混合税率の32%となる。 

税引前損益 税金費用の配分  税引後損益 実効税率
継続事業の課税所得 500 160 340 32%
異常項目 -400 -120 -280 30%
合計 100 40 60

今回は、期間内税配分とバックワード・トレーシングとの関係を理解し、期間内税配分の考え方について意見交換することのみが行われた。今後、更にこの問題を詰めることがスタッフに指示された。

4.IAS第37号の改訂

2004年9月会議でIAS第37号の改訂のための初めてのドラフトが検討されたが、今回は、その際に指摘された次の点、特に推定債務について集中して議論が行われた。これらのうち、(a)、(d)及び(e)の内容を紹介する。

  1. 推定債務
  2. 訴訟と見込まれる法改正の区別(訴訟を受けた段階で訴訟の結果を受入れるという無条件債務が生じるが、法改正の場合は改正が行われるまでは企業にどのような債務も生じないという差異がある。したがって、後者では無条件債務は生じない。)
  3. IFRIC第1号のIAS第37号への組み入れ(IFRIC第1号では、有形固定資産の将来の廃棄に伴う処理費用の引当金計上について触れているため、それをIAS第37号の改訂の際に組み込むべきとの意見があるが、これはむしろIAS第16号(有形固定資産)に関連するので、IAS第37号では取上げないこととされた。)
  4. 引当金の測定:将来の事象
  5. 引当金の再測定
  6. 補填金と引当金の相殺(保険契約等に基づき受領する補填金は独立した資産として認識し、引当金と相殺することはできないことを明確にする。)
(1)推定債務

推定債務は、1. 企業の過去の行動や公表した方針等によって企業がある特定の責任を引き受けることを取引相手方に示しており、かつ、2. その結果、取引相手方に対して、企業がその責任を果たすであろうという確かな期待(valid expectation)を抱かせるような企業の行動によって生じた義務であると定義されている(IAS第37号第10項)。

現在この定義(「取引相手方に企業がその責任を果たすであろうという確かな期待を抱かせる」)を改訂し、「取引相手方に企業が責任を果たすことに合理的に依存できるという確かな期待を抱かせる」という文言に変更しようとしている。これによって、推定債務が認識できるための条件を強化しており、推定債務の典型例であるリストラ引当金の認識時期をSFAS第146号(退出又は処分活動に関連するコストに関する会計処理)と合わせることが意図されている。しかし、この改訂を行っても、企業はいつでも前言を翻して債務を免れることができる可能性が残っており、これを防ぐためには、推定債務を法的に強制力のあるものに限定する必要があるのではないかという点が今回の中心論点である。

議論では、この問題の理解のため、収益認識プロジェクトで現在行われている議論が検討された。同プロジェクトでは、契約(contract)を「裁判所がその履行を強制できる約束(promises)のかたまり」と定義している。この概念は現行の実務よりも広く、文書になっているもののみならず暗黙の契約(implied contract)もその中に含まれている。例えば、小売業者が、書面にはしていないものの販売後60日以内であれば返品に応じるという慣行を有しており、それが一般に知られている場合、これは企業の過去の行動が顧客に対して暗黙の契約を提供していると解釈できる。したがって、ここでいう「暗黙の契約」は、推定債務と類似した考え方であるということができる。しかし、両者には差異があり、推定債務が収益認識プロジェクトの「契約」に該当するためには、契約上の義務であること、すなわち、法的に強制できるものであう必要がある。このため、取引相手先に企業の行う行動に合理的に依存できるという確かな期待を抱かせたとしても、それが契約上の義務でなければ、収益認識プロジェクトでいう「契約」には該当しないことになる。例えば、相手方が企業にとって失いたくない重要な顧客である場合等経済的な理由から企業がある行動をとらざるを得ない場合(経済的理由による強制力)や法律で強制されていないが汚染土壌を浄化しなければ企業の信用に傷がつくという理由による土壌浄化の履行といった場合は、契約上の義務は存在していないが推定債務には該当する。このように推定債務には、1. 法的強制力のあるものと2. そうではないが企業がその責務を果たすことを免れる裁量権をほとんど持たないか、まったく持たないというものが含まれている。もし、推定債務を法的な強制力を持つものに限定すれば、後者の推定債務は除外されることになるため現行のIAS第37号の考え方を大きく変更することになる。

議論の結果、推定債務を的強制力のある債務に限定するのではなく、経済的理由によって企業がその責務を果たすことを免れる裁量権をほとんど持たない債務も含むと理解することが暫定的に合意された(現行の考え方の確認)。ただし、後者の債務に該当するケースは限定的であることを公開草案では明確にすることとされた。

(2)引当金の測定(将来事象)

引当金の測定に当たり、将来事象をどのように考慮するかについて、IAS第37号には第48項から第50項に規定がある。そこでは、「債務の決済に必要となる金額に影響を与える将来の事象は、それらが起こるであろうという十分な客観的証拠がある場合には、引当金の金額に反映しなければならない」という規定が置かれている。この規定は、将来事象を引当金の測定に反映させるためには、「十分な客観的証拠」の存在が必要であることを要求しているが、この要求は、(観察可能な市場価格が存在しない場合において)待機債務(stand ready obligation)を条件付債務(conditional obligation)のキャッシュ・フローの期待値として測定しようとしている公開草案で採用が予定されているアプローチと矛盾するものとなっている。例えば、製品保証債務の場合、企業は請求の起こる可能性及びそのような請求に対して支払うキャッシュ・フローを考慮して負債を測定することとされている。このような見積りの対象を、発生することについて「十分な客観的証拠」がある場合のみに限定することは、期待キャッシュ・フロー・アプローチと矛盾する。期待キャッシュ・フロー・アプローチでは、客観的な証拠があるかどうかに関係なく、企業は、債務の決済に求められる金額に影響を与える将来の事象の発生の可能性を推定しなければならないとされているからである。

また、第50項では、「制定される可能性がある新法の影響は、法律がほぼ確実に制定されるという十分な客観的証拠が存在するときには、現存の債務の測定にあたって考慮される」という規定が置かれている。まだ法律が実質的に発効していないにもかかわらず、単に「法律がほぼ確実に制定されるという十分な客観的証拠が存在する」という事実だけに基づいて「現在の債務」を認識することは論理的に矛盾しているので、この文言を「制定される可能性がある新法の影響は、法律がほぼ確実に実質的に制定されるという十分な客観的証拠が存在するときには、現存の債務の測定にあたって考慮される」という形に修正することが提案されている。

議論の結果、期待キャッシュ・フロー・アプローチと矛盾する第48項と第49項を削除し、さらに第50項も上述の提案どおり修正することが暫定的に合意された。

(3)引当金の再測定

引当金を毎期末に再測定すべきかどうかが明確でないため、これを明確にする必要があるかどうかが議論された。

議論の結果、1. 引当金は、当初認識時及びその後の期において、期末において現在の債務を決済又は譲渡するために合理的に必要な金額で測定すること及び2. その測定に当たっては、測定時点現在の割引率を用いることを明確にするため、IAS第37号を改訂することが暫定的に合意された。

5.中小規模企業の会計基準

2004年6月にディスカッション・ペーパー「中小規模企業の会計基準に対する予備的見解」が公表され、9月24日にコメント期限を迎えた。期限までに受領した約100通のコメントのうちの41通について、質問ごとに行われた分析資料を基に議論が行われた。今回は、分析に基づき議論が行われたのみで、特に決定された事項はない。なお、少数のボードメンバーからなるワーキンググループを組織して、コメントの分析を行うとともに、今後のSME版のあり方について議論を深めることが合意された。

6.解釈指針

国際財務会計基準解釈指針委員会(IFRIC)が議題としているテーマ最近の検討状況の説明に続いて、1. SIC12号(特別目的会社の連結)の改訂、2. D1(排出権)及び3. D3(契約がリースを含むかどうかの決定)が議論され、いずれも解釈指針として承認することが決定された。

(1)SIC第12号の改訂

改訂は2つの要素からなっている。1つは、SIC12号では、退職後給付制度と株式報酬制度(equity compensation plans)はIAS第19号の対象となっているため、その対象外とされていることに関連する。提案されているのは、SIC12号の範囲除外から株式報酬制度(equity compensation plans)を除外することである(すなわち、株式報酬制度はSIC12号の適用対象となる)。その理由は次の通りである。2005年1月から適用されるIFRS第2号(株式報酬制度)では、従業員株式オプション制度や従業員株式購入制度等が所有する自己株式に対してもIAS第32号(金融商品:表示および開示)の自己株式の規定が適用されるようにするため、IAS第32号を改訂することとしている。一方、IFRS第2号は、IAS第19号を改訂して、その規定から株式報酬制度(equity compensation plans)を除くこととしている。この結果、SIC12号の範囲除外を残したままにしておくと、株式報酬制度(equity compensation plans)を扱うIFRSがどこにもないことになり、その一部に含まれる従業員給付信託(employee benefit trust)等が保有する自己株式は、これら信託を支配する事業体の連結から除外されることになる恐れがある。そうなると、同一の事業体の支配下にある同じ自己株式でありながら適用される会計処理が異なることになってしまう。そこで、SIC12号の範囲除外を削除することによって、信託を支配する事業体は、従業員給付信託等を連結するとともに、これらが保有する自己株式に対してIAS第32号を適用しなければならないようにすることが妥当と判断されたため、今回、改訂を行うことが提案されている。

もう1つの改訂は、「その他の長期従業員給付制度(other long-term employee benefit plans)」の取扱いである。これは現在SIC12号の範囲に含まれている。しかし、これに対しては、現在IAS第19号が、退職後給付制度と同じ会計処理をすることを要求している。そこで、その他の長期従業員給付制度にIAS第19号が適用されることをはっきりさせるため、その他の長期従業員給付制度をSIC12号の範囲除外とすることが提案されている。

議論の結果、このような改訂をすることが全員の賛成で承認された(すでにIFRICは承認している)。

(2)D1(排出権)の承認

D1は、2005年から欧州で開始される排出権に関する「キャップ・アンド・トレード」取引に対する会計処理を明確にしようという解釈指針案である。取扱いの基本構造は次の通りである。

  1. 付与される排出権は、無形資産として受領した時点の公正価値で認識する(IAS第38号(無形資産)が適用される。そして、その後の会計処理には、IAS第38号に基づいて、原価モデルと公正価値モデル(活発な市場がある場合にのみ適用可能)のいずれかが適用される。
  2. 受領した排出権の公正価値と企業の支払額との差額は政府補助金として会計処理される(IAS第20号(政府補助金)が適用される)。すなわち、政府補助金は当初は繰延収益として負債に計上され、その後遵守期間にわたって償却される。
  3. 公害物質を排出したことによって生じる排出権を引き渡さなければならない義務を負債として認識する(IAS第37号が適用される)。すなわち、期末において決済する必要のある排出権の現在の価値(排出権の数量×市場価格)で負債が認識される。

議論の結果、D1の承認が賛成10、反対2(スミス氏及びガーネット氏)及び棄権2(ライゼンリング氏及びウィティッントン氏)で決定された(すでにIFRICは承認している)。なお、排出権に対して公正価値モデルを適用した場合に、評価増となる場合には、当該評価益は損益計算書ではなく、資本の部で直接認識することとなっているため、排出権を引き渡す義務の負債認識との間にミスマッチが生じる。このような事態の発生を避けるため、今後IAS第38号の見直しを行うことがIFRICから進言されている。

(3)D3(契約に含まれるリース)

D3は、契約の中にリースとして会計処理すべき部分があるかどうかを決定するための指針案を示すものである。D3では、1. 契約がリースを含むかどうかをどのように決定するか(契約の履行が特定の資産に依存し、当該契約が当該資産の利用権を付与するものである場合)、2. その判定をいつ行うか(契約当初及びある一定の事態が生じたとき)及び3. リースが含まれている場合、どのようにしてリース料をその他の支払いから区分するか(IAS第17号(リース)を適用して決定し、区分できないときはあるみなしを行う)という3点を明確にしている。

議論の結果、D3は全員の賛成で承認された(すでにIFRICは承認している)。

IASBとFASBの合同会議

7. 収益認識

今回の議論の目的は、FASBの公正価値EDにおける公正価値の測定に関する考え方が収益認識に当たってどのように適用されるかを、2004年6月会議で用いた設例を使って検討することであった。

なお、今回の議論の冒頭に本プロジェクトのあり方についてあるボードメンバーから疑問が呈され、これをきっかけにプロジェクト全般についてさまざまな議論が行われた。その中には、本プロジェクトが採用する資産負債アプローチによる包括的収益認識基準の作成という基本的なあり方に対する疑問の呈示やこれまでの検討がキャッシュを取引当初に受領するケースのみを取扱い未履行契約の問題を取扱っていない等の指摘があった。また、この中でボブ・ハーツFASB議長は、FASBのボードメンバーの意見も3対3に分かれている(議長自身は立場を明確にしていない)旨の発言もあった。疑問を呈する意見が数名のボードメンバーから提起されたものの、全体としては、資産負債アプローチに基づくモデルの検討を継続することを否定するほどのものではなかった。

本プロジェクトのあり方を巡る議論の後、今回の本題である公正価値EDにおける公正価値概念、特にレベル3における公正価値を算出するために用いる市場のインプットとしてどのようなものを許容するかについて議論が行われた。レベル3における公正価値は、同一資産・負債を取引する活発な市場における観察可能な建値や類似資産・負債についての活発な市場における建値がない場合に、複数の評価技法を用いることによって見積もられる。また、複数の評価技法を適用するための情報が得られない場合には、最良の交換価格を推定できる評価技法(それには企業の内部データの使用も含まれる)を用いなければならないとされている。議論は、取上げた設例に関連してスタッフが用意した質問に対してボードメンバーの意見を求めるという形で行われた。

議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 反証がなければ、(活発な市場がない場合には)実際の取引価格が公正価値と整合していると推定すべきである。
  2. 反証がないことを立証するため、複数の評価技法((市場アプローチ、収益アプローチ及び費用アプローチ)をすべて検討することは要求されるべきではない。
  3. 企業が外注した履行義務の公正価値を見積もる場合には、当該企業が外注先に提供する信用補強(外注先よりも当該企業の信用格付けが高い場合)を考慮する。
  4. 実際の取引価格ではなく、企業に提示された段階の交換取引の価格を公正価値の見積りに用いることができる。
  5. 履行義務の公正価値は、ボリュームディスカウントに関する情報が入手可能であれば、それを反映した最も有利な価格を参照して測定しなければならない(ボリュームディスカウントは、企業がその履行義務のすべてを外注したならば得たかもしれない金額として計算される)。
  6. 企業固有の情報をかなり含んだ(履行義務の)公正価値であっても公正価値測定の目的と整合的である場合がある。

8.米国基準との短期統合化(法人所得税)

税効果会計を扱うSFAS第109号(法人所得税の会計処理)とIAS第12号(法人所得税)との間の統合化を図るための作業が継続されているが、今回は、在外子会社及びジョイント・ベンチャーの当面配当等によって回収される見込みのない未分配利益に対する税効果の認識に関する例外規定が議論された。

現在進行している税効果会計に関連する統合化では、すべての一時差異に対して繰延税金資産又は負債を認識するという原則を貫くため、現在認められている例外(繰延税金資産又は負債を認識しない処理)をなくことを目的に検討が行われている。
今回スタッフから、在外子会社等の未分配利益に生じる一時差異に対して繰延税金資産又は負債を認識する場合どのような計算を行わなければならないかといった調査をした結果、各国の税務上の取扱いが非常に複雑である等の理由から、税効果の認識のためには多大なコストを必要とするため、基本的に現在の例外処理を継続することを前提とする3つの提案が示された(現行の例外処理を継続する案、外国税額控除等の規定が複雑な国についてのみ例外処理を認める案及び在外子会社等が配当支払いの際に求められる源泉徴収に関する部分についてのみ税効果を認識する案)。また、議論に先立ち、米国の税額控除制度の概要について外部の専門家から説明を受けた。

議論の結果、在外子会社及びジョイント・ベンチャーの当面配当等によって回収される見込みのない未分配利益に対して税効果を認識しないという現行の例外規定を存続させることが暫定的に合意された。ただし、スタッフに対して、在外子会社及びジョイント・ベンチャーの未分配利益を巡る開示に改善すべき点がないかどうかを検討することが指示された。このほか、現行SFAS第109号とIAS第12号との統合化を図るため、IAS第12号の規定をSFAS第109号等の規定に合わせることが併せて合意された。この結果、IAS第12号では、税効果を認識する対象から除外されている海外支店と海外関係会社の未分配利益に対しては、今後税効果を認識しなければならなくなる。

9.概念フレームワーク

2004年4月に開催されたIASBとFASBの合同会議において、両者の概念フレームワークを統合・改善し、共通の概念フレームワークを開発する合同プロジェクトを立ち上げることが合意されているが、今回は、そのためのプロジェクト計画案が示され、これについて議論が行われた。概念フレームワークの見直しに対するアプローチとしては、複合アプローチ(hybrid approach)を採用することが既に合意されている。複合アプローチでは、両者の概念フレームワークのすべてを再検討するのではなく、今後両者の会計基準の統合化を進める上で短期に成果の出る可能性の高い項目、すなわち複数の会計基準に影響を与えるような横断的な論点に焦点を当てて検討を行い、その共通化を図ることが意図されている。 今回議論され合意が得られた項目は次の通りである。

  1. 概念フレームワークの見直しを正式に両者の共同プロジェクトとして取り上げることが合意された。
  2. 本プロジェクトにおける概念フレームワークが検討対象とすべき企業の範囲を、プライベート・ビジネスセクターに限定するのか、パブリック・ビジネスセクター及びプライベート・ノンプロフィトセクターも含めるのかについて議論が行われた。結論として、プライベート・ビジネスセクターを中心に議論を行うものの、そこでの検討成果が得られた段階で、それがプライベート・ノンプロフィトセクターに適用できるかどうかを検討するというアプローチが合意された。
  3. プロジェクトの進行に当たって優先度の高いものとして、財務報告の目的、質的特徴、構成要素及び認識を取上げることが合意された。
  4. プロジェクトの作業は、いくつかの段階に分けて行うこととし、第1フェーズでは、両者のフレームワークの統合を目指すものの、同時にそれらの内容の改善をも行うことが合意された。当面は、財務報告の目的、質的特徴、構成要素、認識及び測定の分野を取上げる。また、第1フェーズでの統合及び改善の進展に伴って、短期的に成果の得られやすい各会計基準に横断的に存在する問題点(例えば、probableという言葉の意味をかなり確率の高いものと定義するFASBと50%超と定義するIASBとの考え方)を優先的に検討することが合意された。
  5. 公表する文書は、単一文書とし、その冒頭に要約を付すと同時に、結論の背景も加えることとすることが合意された。
  6. 本プロジェクトのスタートに当たり、概念フレームワークの見直しの必要性について関係者に正確に理解してもらう必要があるとの認識から、2種類のコミュニケーション・ドキュメントを公表することが合意された。第1の文書は、概念フレームワークがどうして基準設定に当たり有用なのか、どうして両基準設定主体が共通した概念フレームワークを必要とするのか、どうして概念フレームワークの改善が必要とされるのかといった点を明確にし、会計基準の設定に概念フレームワークを用いない国々を含む関係者に本プロジェクトの重要性を認識してもらうことを目的とするものである。第2の文書は、日常的に会計基準の設定に関係しないものの会計基準に関心を寄せている関係者(例えば企業の経営者)に本プロジェクトの重要性を理解してもらうことを目的とするものである。これらのドラフトを12月までに準備することが合意された。

10.CFA Institutionによるプレゼンテーション

勅許財務アナリスト協会(CFA Institute)は、2004年に従来のAIMR(Association for Investment Management and Research:投資管理調査協会)から現在の名称に変更を行っている米国のアナリストの協会である。同協会は、1993年に「1990年代及びそれ以降の財務報告(Financial Reporting in the 1990s and Beyond)」という報告書をまとめているが、その後の財務会計をめぐる環境の変化を受けて、現在「包括的ビジネス報告モデル(A comprehensive Business Reporting Model)」という報告書を準備中で、その概要についてのプレゼンテーションが行われた。

報告の中心は、現在の損益計算書に代えて、新たな包括的ビジネス報告モデルを提唱していることで、そこでは、次の5欄からなる新たな包括利益計算書が提案されている。

  1. 前期末の貸借対照表
  2. 当期の直接法によるキャッシュ・フロー計算書
  3. 当期の非現金発生主義損益の変動
  4. 当期の公正価値の変動
  5. 当期末の貸借対照表

提案では、上記bからdまでが当期の業績を示す包括利益計算書とされ、この5欄を横に一覧できる形にした報告書モデルが示されている。また、包括利益報告書は、縦に「営業」と「財務」に2分することが提案されており、「投資」という区分は廃止されている(投資欄を乱用する事例があるため、この区分は廃止することとしたとの説明があった)。なお、この包括利益計算書当期利益は用いないことが前提とされている(リサイクリングは認めない)。このようなプレゼンテーションを基に質疑が行われた。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)