ASBJ 企業会計基準委員会

第38回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第38回会議が、2004年9月21日から24日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合(IFRS第3号の改訂公開草案)、2. 企業結合(第2フェーズ)、3. IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の改訂(公正価値オプションの改訂公開草案)、4. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税)、5. 短期統合化(IAS第19号(従業員給付)の改訂公開草案)、6. 概念フレームワーク、7. IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)及びIAS第19号(解雇給付のみ)の改訂、8. 公開草案第6号(採掘産業)、9. 中小規模企業の会計基準、10. 株式報酬制度(米国財務会計基準審議会(FASB)の検討状況等)及び11. IASBの審議過程の強化に関するコメントレターの分析について議論された。また、今回から教育セッションが公開となり、そこでは、1. サービス・コンセッション、2. 法人所得税及び3. 保険会計が議論された。IASB会議には理事14名全員が参加した。本稿では教育セッションを除くIASB会議での議論の概要を紹介する。

1.企業結合(IFRS第3号の改訂公開草案)

(1) 改訂公開草案公表の経緯

以下の2つの企業結合を2004年3月に完成したIFRS第3号(企業結合)の適用対象に含めるための公開草案(「IFRS第3号の改訂-特殊な形態の企業結合の会計処理の明確化」)が2004年4月に公開されている。

  • 複数の相互会社の企業結合
  • 所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合

公開草案では、これらの企業結合ではその対価の測定が容易でないことに鑑み、会計処理として、被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債の公正価値累計額を企業結合のコストとみなし、取得企業には原則としてのれんは生じさせない(ただし、対価の授受があればその範囲でのれんが生じる)という会計処理(これを「修正パーチェス法」という)を提案している。

企業結合に関する公開草案第3号(ED3)が公開されたときには、これらの企業結合は、その適用対象外とされ、当時有効であったIAS第22号(企業結合)を継続して適用することとされていた。しかし、このような取扱いを行うと次のような問題が生じるため、これら2つの企業結合をIFRS第3号の適用対象範囲に含めることが、2003年12月のIASB会議で決定された。ただし、時間的な問題から、ED3はこれらの企業結合を適用対象範囲に含めないまま一旦IFRS第3号として完成させ、その後別途IFRS第3号の改訂公開草案を公表することとされていた。

  1. 2つの企業結合が「持分の結合」と判断された場合には、IFRS第3号では否定された持分プーリング法が適用されることになり、IFRS第3号における取扱いと矛盾する(IFRS第3号において、IASBは、持分プーリング法はパーチェス法より優れた情報を提供しないと結論付けている)。
  2. 2つの企業結合が「取得」と判断された場合に適用されるのは、旧IAS第22号(企業結合)に規定されているパーチェス法であるため、IFRS第3号とは異なるパーチェス法が適用されることとなる。

(2)今回の議論

1.コメントの分析

公開草案に対するコメントを75通受領したが、その多くが次に示す理由等により公開草案に反対していた。

  1. 企業結合の第2フェーズでこの2つの企業結合に関する取扱いを検討しており(後述2を参照)、そこでは、修正パーチェス法とは異なる会計処理が議論されている。第2フェーズが近い将来に基準化される見通しであることから、修正パーチェス法を短期間だけ適用する必要性に乏しい。
  2. 修正パーチェス法はパーチェス法とは異なる会計処理であり、これを採用することはIFRS第3号の規定の考え方と矛盾する。
2.公開草案の提案の取り下げ

コメントを検討した結果、企業結合の第2フェーズが近い将来基準化されることを勘案し、IASBは、公開草案の提案を取り下げ、現行規定通り2つの企業結合をIFRS第3号の適用対象外とすることを決定した。

この結果、旧IAS第22号が既に2004年3月に廃止されていることから、現行IFRSの中にはこれら2つの企業結合を取扱うIFRSが存在しないこととなる。そのため、IAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)の第10項から第12項が適用される。このような場合、IAS第8号では、経営者は、財務諸表の利用者の意思決定ニーズと整合し、財務諸表が経済実態を反映できるような信頼のある会計方針を開発・適用しなければならないとされている。具体的には、類似の事項を取扱う他のIFRSや解釈指針を参照したり、概念フレームワークにある定義や認識・測定についての考え方を検討したりしなければならない。さらに、IASBと類似する概念フレームワークを有する他の会計基準設定主体の会計基準等を参照することができる。

さらに、IAS第8号の適用に当たっては、既に廃止されている旧IAS第22号の適用ガイダンス等は参照することができないこと、また、これらの企業結合を範囲から除外しているが、IFRS第3号の適用ガイダンスは参照できることを明示することが合意された。

3. その他の論点

コメントの中には、この2つの企業結合において取得者とされた事業体に対してIAS第27号(連結及び分離財務諸表)の規定が適用されるかどうかを明確にすべきと言うものがあった。議論の結果、2つの企業結合において取得者とされた事業体は連結財務諸表を作成しなければならないことを明確にすることとされた。

2.企業結合(第2フェーズ)

今回、1. 相互会社の企業結合及び2. 公正価値ヒエラルキーの2点が議論された。

(1) 相互会社の企業結合

2004年6月のIASB会議で、次の2つの企業結合を第2フェーズの公開草案に含める方向で検討することが暫定的に合意されている。

  • 複数の相互会社の企業結合
  • 所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合

このような暫定合意が成立したのは、FASBが別途カナダの会計基準設定主体(AcSB)と相互会社間の企業結合に関するプロジェクトを進めており、FASBはそこでの成果を第2フェーズに含めるとしているため、FASBとの会計基準の統合化を図る観点からIASBもこの問題を取上げる必要があると判断されたためである。今回は、上記2つの企業結合のうち複数の相互会社の企業結合のみが議論された(残りは2004年10月会議で検討される予定)。

議論では、相互会社が通常の企業とどのように異なるのかについてFASBとAcSBが検討した結果の検討が行われた。相互会社にはいわゆる株主が存在せずメンバーによって所有されている点や、企業結合に当たって金銭やその他の客観的に測定できる対価の交換が通常はないといった点で特徴があるものの、経済的実態としてメンバーのために経済的リターンを提供している等通常の企業と同様な特徴も有しており、IASBは、通常の企業と異なる企業結合の会計処理を必要とするだけの大きな差異は両者の間にないというFASB・AcSBの結論に暫定的に同意した。その結果、次の点が合意された。

  1. 複数の相互会社の企業結合にパーチェス法を適用する。
  2. 取得者を特定することが困難であるという相互会社の特徴は、異なる会計処理を正当化するだけの相違ではないと判断する。また、取得者を識別するためのガイダンスは示さない。
  3. 取得者は、被取得者の価値を決定するために、被取得者の公正価値を用いる。公正価値を測定するためのガイダンスを追加する。
  4. 被取得者のメンバーとしての持分を取得者のメンバーとしての持分と交換するような相互会社の企業結合の場合には、被取得者の公正価値を資本の増加として認識する。
  5. 企業結合で取得した貸付金、預金又は無形資産の会計処理に関するガイダンスは示さない。
  6. 取得したメンバー持分に対する会計方針の開示を求める。

(2) 公正価値のヒエラルキー

第2フェーズでは、企業結合によって取得した企業を公正価値で測定することを前提として議論が行われており、FASBとIASBは、既に第2フェーズの議論の中で首尾一貫した適用のために公正価値による測定のためのガイダンス(公正価値ヒエラルキー)に合意していた。ところが、FASBは、自身が別途進めている「公正価値測定」プロジェクトの成果として、これまで第2フェーズで議論してきた内容とは異なる公正価値のヒエラルキーを持つ公開草案「公正価値測定」(以下、「公正価値ED」という)を2004年6月23日に公表した(両者の差異については下表を参照)。FASBは、公正価値EDの内容を第2フェーズの公開草案にも用いることとしており、このような状況の変化を受けて議論を行った結果、IASBは、2004年6月の会議において、会計基準の統合化を推進するため、FASBと同じ公正価値のヒエラルキーを第2フェーズで持つべきであることに暫定的に合意した。また、公正価値EDと同じ内容の公開草案をIASBも公表すべきかどうかについては今後検討することも合意されていた。

【公正価値のヒエラルキー】

従来のFASBとIASBの合意 FASBの公正価値ED
レベル1 測定日又はその直近日の同一資産又は負債の市場取引の観察可能な価格を参照して公正価値の見積りを行う。 同一資産又は負債の活発な市場(直ちにアクセスできる市場)の建値を用いて公正価値を決定する。建値は調整しない。複数の市場があるときは、最も有利な市場取引価格を考慮する。ビッド及びアースクトがある市場では、長期資産にはビッド価格を、負債にはアースクト価格を用い、相殺ポジションには仲値を用いる。
レベル2 測定日又はその直近日の類似する資産又は負債の市場取引の観察可能な価格を調整して公正価値の見積りを行う。 類似する資産又は負債の活発な市場の建値に差異に見合う調整を行って公正価値を決定する。公正価値を測定しようとする資産又は負債と類似する資産又は負債との価格の差が客観的に決定できなければレベル2の測定を用いることはできない(その場合にはレベル3の測定が適用される)。
レベル3 その他の評価技法を用いて公正価値の見積りを行う。評価技法は、市場参加者が測定日現在で知ることができる事実又は情報に基づいて用いるであろう前提を織り込んだものでなければならない。そのような情報が入手できなければ、簡便法として、企業自身が設定した前提を用いることもできる。 これらの評価技法を適用するための情報が、過重な費用と労力なしに入手可能な場合には、(市場アプローチ、収益アプローチ及び費用アプローチと整合的な)複数の評価技法を用いて公正価値を見積もる。複数の評価技法を適用するための情報が得られない場合には、最良の交換価格を推定できる評価技法を用いなければならない。レベル3では、複数の評価技法の選択及び適用に関する判断を行わなければならない。

今回の会議では、1. FASBの公正価値EDをIASBも公開草案として公表する場合に検討しなければならない論点の分析及び2. FASBの公正価値EDをIASBも公開草案として公表して意見を求めるかどうかについて検討が行われた。

1.FASBの公正価値EDに関連する論点

公正価値EDは、公正価値のヒエラルキーを示しているが、その目的は、公正価値をどのように見積もるかに関するガイダンスを提供することにある(いつ資産・負債を公正価値で測定すべきかは取扱われていない)。スタッフの分析では、このような公正価値EDをIASBの公開草案としても公表する場合に、公正価値EDに含まれている項目でIASBが検討しなければならないものとして、次の点が挙げられている。

  1.  公開草案の範囲
  2. 「公正価値」の定義及びその中で用いられている用語の解説を含めるかどうか(公正価値EDの定義は、ほぼIASBの定義と合致するものの、「取引の意思のある当事者(willing parties)」、「知識のある(knowledgeable)」及び「関連のない当事者(unrelated parties)」といった用語の追加的説明がある)。
  3.  「会計単位(unit of account)」に関する記述を含めるかどうか。
  4.  「評価技法(valuation techniques)」(市場アプローチ、収益アプローチ及び費用アプローチの3つが示されている)に関する記述を含めるかどうか。
  5.  「活発な市場(active market)」に関する記述を含めるかどうか。
  6.  「市場インプット(market inputs)」(公正価値の測定に当たり市場参加者が用いる仮定や情報)に関する記述を含めるかどうか。
  7.  「評価の前提条件(valuation premise)」(評価対象の資産が他の資産に組み込まれているかどうかといった測定対象資産に関する追加情報で市場参加者が公正価値を測定する際に前提として用いる条件)に関する記述を含めるかどうか。
  8.  「現在価値技法(present value techniques)」に関する記述を含めるかどうか。
  9.  IASBの公開草案に含めるため、公正価値EDに含まれているガイダンスを更に検討する必要があるかどうか。

    後述するように、公正価値EDをIASBのEDとして公表することはやめ、第2フェーズの公開草案についてのみ公正価値EDの考え方を採用することが暫定的に合意されたため、上記の諸点を第2フェーズの公開草案にどのように反映させるかについてさらに検討することが合意された。
2.公正価値EDのIASBでの取扱い

FASBの公正価値EDをIASBも公開草案として公表するかどうかについて議論された。当初、公正価値EDにIFRSへの影響をまとめた記述を追加してIASBの公開草案として公表することが考えられていたが、IAS第39号における公正価値のヒエラルキーと内容が異なっていることや、IASBの公開草案として公開するために検討しなければならない上述の論点があること等から、IASBが公表するためにはさらに多くの時間が必要だと判断された。また、FASBのコメントが2004年9月7日に締め切られた後にIASBが同じ内容について公開草案を公表することに意義があるかといった疑念が提起された。このような点を勘案して、IASBとしては、当面公正価値EDを自らの公開草案としては公表しないことが暫定的に合意された。ただし、FASBとIASBは、企業結合の第2フェーズの公開草案では、同一の内容の公正価値による測定のためのガイダンス(公正価値ヒエラルキー)を公開することとしているため、第2フェーズの公開草案に限っては、公正価値EDと同じ内容の公正価値ヒエラルキーを公開草案に含めることが暫定的に合意された(IAS第39号等に公正価値ヒエラルキーを適用するかどうかについては将来検討することとなった)。

3.IAS第39号の改訂(公正価値オプション)

現行IAS第39号の公正価値オプションは、企業の任意の選択で、取引ごとに公正価値による測定を選択できるというものである。これに対して、欧州中央銀行を始めとする規制当局から、現行の公正価値オプションは適用範囲が広く乱用の恐れがあり、また全面公正価値会計へ繋がる危険があるとの懸念が示され、公正価値オプションが適用できる範囲をより限定的にするための改訂を行うことが決定され、2004年4月にその改訂のための公開草案が公表された(コメントの締切りは2004年7月21日)。

今回は、この公開草案に対するコメントの分析を見た上で、今後の対応のあり方について議論が行われた(暫定的に合意された事項はない)。

(1)改訂公開草案の概要

改訂公開草案は、次のような内容となっている。

  1.  公正価値オプションの適用可能な金融資産又は金融負債の種類の限定(以下の5つの特定のカテゴリーに限定)
    • 組込デリバティブを含んだ金融資産又は金融負債
    • 契約により、そのキャッシュ・フローが、公正価値で測定される金融資産の運用成績に連動する金融負債
    • 金融資産又は金融負債の公正価値の変動が、他の金融資産又は金融負債(デリバティブを含む)の公正価値の変動によってほとんど相殺される場合
    • 貸付金及び売掛金以外の金融資産
    • 他の基準書が、損益計算書を通じて公正価値で測定するものとして指定することを許容又は要求している項目
  2.  「検証可能な公正価値」概念の導入
    • 公正価値が検証可能な金融資産又は金融負債にのみ公正価値オプションを適用する(公正価値の検証可能性は、公正価値オプションを使用する場合にのみ要求される)。
    • 金融資産又は金融負債の公正価値が検証可能とされるのは、IAS第39号を適用して計算される合理的な公正価値の見積りがあまり大きく変動しない(見積りの範囲の変動性が低い)場合である。

この検証可能性は、「信頼性をもって測定できる」というレベル(売買目的保有、デリバティブ及び売却可能金融資産に分類される項目に適用されるレベル)よりも厳しいレベルとして位置づけられている。

(2)今回の議論

改訂公開草案に対しては、115通のコメントが寄せられたが、そのうちの76%が改訂内容について反対の意向を示していた。反対は、規制当局を除く全業種のコメント提出者にわたっており、さらに、反対者のうち60%が現行の公正価値オプションに変更を加えるべきではないとコメントしていた。

このような事態を受けて、今回、今後のあり方のさまざまな可能性について議論が行われた。議論では、現行の公正価値オプションに変更を加えるべきではないとのコメントが多かったことから、改訂公開草案そのものを取り下げることも議論された。しかし、これでは、規制当局からの懸念に対応していないとの指摘もあった。また、規制当局の懸念をより明確に理解するため、作成者と規制当局が共に参加する公聴会を開催する可能性についても議論された。いずれにしても、多くのコメントが改訂内容に反対であったため、さらに今後の対応を検討することとされ、暫定的な合意は形成されていない。

4.米国基準との短期統合化(税効果会計)

米国会計基準との短期統合化プロジェクトの一環として、税効果会計に関する会計基準(IAS第12号(法人所得税)と米国財務会計基準書第109号(法人所得税の会計処理))の統合化に関する議論が行われているが、今回は、1. プロジェクトの進捗状況の報告と検討及び2. 税務上の便益(tax benefits)を認識するための信頼性の程度について議論が行われた。

(1)プロジェクトの進捗状況の報告

IASBのこのプロジェクトの担当者が近く交代するため、短期統合化の対象となっている項目すべてを網羅し、現時点での議論の進捗状況をまとめた一覧表が提示され、これを基に質疑が行われた。今回は、現状を理解するための議論が行われただけで、特に決定された事項はなかった。

(2)税務上の便益の認識のための信頼性の程度

ここでは、FASBが、2004年7月に、SFAS第109号の解釈として、税務上の便益の当初認識に関する規準の明確化を図るためのFASB解釈指針(Interpretation)を公表することを決定したことを受けて、その目的等が紹介された。解釈指針公表の目的は、当初認識のための一時差異(税務上の便益)の信頼度に関する規準を示すことにある。すなわち、一時差異(税務上の便益)を認識するためには、税務上の便益が実現する可能性がどの程度でなければならないかを明確にしようというのがここでの目的である。現在のSFAS第109号には、一旦認識された一時差異のその後の測定に関する規定はあるが、当初認識のための規準は明確にされていない。FASBでは、税務上の便益が認識されるためには、「可能性が高い(probable)」というレベルでなければならないという信頼性のレベルを要求することが考えられている。

IAS第12号にも税務上の便益の当初認識に関する規定がないため、FASBが解釈指針を決定すると、米国会計基準との間に差異が生じる可能性がある。このような状況を考慮した結果、税務上の便益の当初認識に関する問題も法人所得税の短期統合化プロジェクトの対象に含めることが妥当だと判断され、そうすることが暫定的に合意された。

5.短期統合化(IAS第19号の改訂公開草案)

2004年4月にIAS第19号の改訂公開草案(数理計算上の差異、グループ年金制度及び開示)が公表されているが、今回は、受領した90通のコメントの分析とこれに対する議論が行われた(コメントの締切期限は2004年7月31日であった)。

(1)改訂公開草案の概要

改訂公開草案では、次の3つの改訂が提案されているが、今回はこのうち始めの2点についてのみ議論が行われた(開示については今後議論を行う)。

  1.  数理計算上の差異に関する新たな会計処理の選択肢の追加。
    • 新たな選択肢として、数理計算上の差異を発生時に即時認識するものの当該損益は、資本の部で直接認識するとい方法を追加すること。この選択肢を採用した場合には、すべての確定給付型年金にこの方法が適用される。資本の部で直接認識された数理計算上の差異は、未処分利益剰余金に含められる。また、このように認識された数理計算上の差異は、それ以後実現した段階で、改めて損益として認識することは認めない(リサイクリングの禁止)。
  2.  複数事業主制度に関する規定(十分な情報を得られない場合には給付建制度を掛金建制度として会計処理できる)の一定の条件を満たす連結グループ内の特定企業の個別(又は分離)財務諸表への拡張。
  3.  新たな開示の追加。
    • 給付建制度の資産負債の趨勢(5年間)及び給付建費用の構成要素の基礎となる仮定についての情報の開示。
    • IAS第19号の開示をSFAS第132号(年金及びその他の退職後給付に係わる雇用主の開示)の開示に近づけるための開示の追加。

上記(a)は、英国のように数理計算上の差異の処理について損益計算書を経由しないで即時認識するという会計基準を持っている国が、IFRSを強制適用されることによって数理計算上の差異の即時認識を禁止されることがないようにするための措置と位置づけられている。

(2)今回の議論

1.数理計算上の差異

数理計算上の差異に関する改訂提案の内容については、ほぼ提案どおりとすることが暫定的に合意された。具体的には、次の点が合意された。

  1. 数理計算上の差異を発生時に即時認識するものの当該損益は、資本の部で直接認識するという新たな選択肢を追加すること。この選択肢を用いる場合には、IAS第1号(財務諸表の表示)の付録で示されている「認識収益費用計算書(statement of recognized income and expense)」を用いることを強制する。
  2.  認識収益費用計算書で一旦認識された数理計算上の差異は、それ以後の決算期において損益として認識することを禁止する(リサイクリングの禁止)。
  3.  認識収益費用計算書で認識された数理計算上の差異は、直接未処分利益剰余金で認識することとし、資本の部の独立項目として認識することは認めない。
  4.  この選択肢を採用した場合、この即時に認識された数理計算上の差異をアセットシーリングの計算においても数理計算上の差異として取扱う。

なお、コメントの中には、損益を経由しない数理計算上の差異の資本の部での認識は、包括利益の報告プロジェクトにおける議論を先取りするものではないかとの懸念を表明するものがあったが、今回の改訂の意図は、英国のような国が、IFRSの強制適用によってこれまで認められてきた数理計算上の差異の即時認識を禁止されることがないようにするための措置であり、その点を結論の背景においてより明確にするようスタッフに指示が出された。

2.グループ年金制度

複数事業主制度に関する規定(十分な情報を得られない場合には給付建制度を掛金建制度として会計処理できる)を一定の条件を満たす連結グループ内の特定企業の個別(又は分離)財務諸表へ拡張することが提案されている。今回の議論では、この提案は複雑であり、また、連結グループ内では、通常給付建制度として会計処理するための情報(グループ制度全体に適用される前提条件やグループ内企業に配分するための情報)の入手は可能であるため、グループ制度の会計処理を複数事業主制度に関する規定を準用して決める必要はないとの意見が多数を占めた。議論の結果、グループ年金制度は、グループ全体の金額を合理的にグループ内企業に配分できる場合には、給付建制度として会計処理しなければならないというように変更することが暫定的に合意された。また、合理的にグループ内企業に配分できる例や合理的な配分基準がない場合の例を明確にすることがスタッフに指示された。

6.概念フレームワーク

2004年4月に開催されたIASBとFASBの合同会議において、両者の概念フレームワークを統合・改善し、共通の概念フレームワークを開発する合同プロジェクトを立ち上げることが合意されているが、今回は、10月に開催される両者の合同会議に先立って、現在スタッフが作成中のプロジェクト計画案について議論が行われた。今回は、このプロジェクトのあり方について議論が交わされただけであり、特に合意された事項はない。
今回議論されたテーマを簡単に紹介すると次の通りである。

  1. 概念フレームワークの見直しに対するアプローチとしては、複合アプローチ(hybrid approach)を採用することが既に合意されている。複合アプローチでは、両者の概念フレームワークのすべてを再検討するのではなく、今後両者の会計基準の統合化を進める上で短期に成果のでる可能性の高い項目、すなわち複数のプロジェクトに影響を与えるような横断的な論点に焦点を当てて検討を行い、その共通化を図ることが意図されている。
  2. プロジェクトの進行に当たっては、まず両者のフレームワークの差異分析を行い、そこから統合を行う必要のある問題点を抽出し、その上で、取上げるべき検討項目とその優先度を決定することが予定されている。スタッフからは、優先度の高いものとして、財務報告の目的、構成要素、認識及び測定といった分野を取上げることが提案されている。
  3. 共通化されるフレームワークをどのような体裁の文書としてまとめるかについては、包括的な単一文書とするか内容ごとに複数の文書とするか、また、現在の両フレームワークにはその詳細度において大きな差異があり、最終的にどの程度の詳細度とするかという論点がある。スタッフからは、前者については、包括的な単一文書とする提案が行われる予定である。
  4. そのほかの論点として次のようなものがある。
    • 成果物をディスカッション・ペーパーとするのか公開草案とするのか。
    • 作業を2つに分けるかどうか(まず現状ベースで両者のフレームワークを統合し、次いでその改善を行うか、両者を同時に進行させるか)。
    • 成果物の公表は、全体ができた段階で一括して公表するか完成した部分から逐次公表するか。
    • 他の会計基準設定主体が持つ概念フレームワークの検討をどのように行うか。

7.IAS第37号及びIAS第19号(解雇給付)の改訂

IASBは、FASBと短期統合化プロジェクトや企業結合プロジェクトを進めているが、これらの検討が契機となって、下記に示すようにIAS第37号やIAS第19号の一部の改訂が必要となり、そのための議論が行われてきた。

  1. 短期統合化プロジェクト。リストラ費用の認識規定に関連して、IAS第37号と米国財務会計基準第146号(退出又は処分活動に関連するコストに関連する会計処理)の統合化が検討されている。また、1回限りの解雇給付に関連する規定の改訂は、IAS第19号の中の解雇給付についての改訂を伴うこととなる。
  2. 企業結合プロジェクト(第2フェーズ)。企業結合の第2フェーズにおいて、偶発資産及び偶発債務の定義の変更が予定されている。

今回は、2004年8月にボードメンバーに対して示されたIAS第37号及び第19号の改訂原案に対するコメントを受けて、公開草案の作成に当たり更に検討が必要と思われる事項についての議論が行われた。なお、2004年5月のIASB会議では、この公開草案の公表は、企業結合の第2フェーズの公開草案(IFRS第3号の改訂のための公開草案)の公表と同時に行うことが暫定的に合意されていたが、その後企業結合の第2フェーズの公開草案の準備が遅れていることもあり、公表時期は流動的である(スタッフからは、短期統合化の成果を示すために2004年末までに公表すべきとの提案があったが、明確な意思決定はなされなかった)。

(1)IAS第37号の改訂を巡る議論と暫定合意

ボードメンバーからのコメントを受けて今回議論されたのは、1. 「引当金」の定義、2. 引当金の認識規準のうちの「確実性規準(probability criterion)」の削除及び3. 保証等である。ここでは、1. 及び2. についての議論を紹介する。

1.引当金の定義

引当金は、「タイミング又は金額が不確実な負債である」と定義されている。この定義に従うと、引当金と引当金以外の負債(例えば買掛金)とを区別する規準は、「不確実性」ということになるが、これだけでは不十分であり、有効に両者を区別できないというのが論点である。

偶発負債を例にしてこの論点を説明する。現在のIAS第37号では、偶発負債(contingent liability)は、債務を決済するために必要とされる資源の流出の可能性が低いか、又は、債務の金額を十分な信頼性を持って測定できないため(すなわち、負債の認識規準を満たさないため)、認識されない潜在的な債務(possible obligation)又は現在の債務(present obligation)であると定義されている。したがって、偶発負債の決済によって資源が流出する可能性が高くない限り、偶発負債を負債として認識することは認められておらず、注記による開示が求められているのみである。

ところが、短期統合化プロジェクトでのこれまでの偶発負債を巡るIASBの議論では、偶発負債は条件付債務(conditional obligation)であり、現在の債務(present obligation)ではないので、負債ではないと定義することとしている。また、多くの場合においては、偶発負債は無条件の債務(unconditional obligation)を伴っており、この無条件の債務は引当金の定義を満たすとされている。例えば、製品保証を行っている場合、保証期間中いつでも製品保証を行うという待機状態でいることは無条件の債務(現在の債務)を負っていることを意味し、実際に製品の欠陥が生じた場合にそれを補修するという債務は、製品の欠陥の発生を条件として生じる条件付債務であるとされる。このケースでは、保証期間中いつでも製品保証を行うという待機状態は、無条件の債務に該当し、引当金として認識すべきものとされる。一方、実際に製品に欠陥が生じるまでは、条件付債務は引当金としては認識されない。この場合、引当金として認識するかどうかの判定に当たって「不確実性」は有効に機能していない。無条件の債務(すなわち待機状態でいること)は、すでにタイミングも金額も確定していると考えられる。むしろ、不確実性は、条件付債務に起因するキャッシュ・フローに存在している。少なくとも、無条件の債務は引当金に該当するとみなしてしまうと、この段階で「引当金はタイミング又は金額が不確実な負債である」という定義と矛盾する可能性がある。これが論点である。

この問題の解決方法としては、引当金という用語自体を廃止することも考えられる。これまでの偶発負債を巡るIASBの議論において引当金を廃止することも議論されたが、そのような改訂は、現在の見直しプロジェクトの範囲を超える重要な決定であるとして、引当金の廃止はしないことが暫定的に合意されている。このように、この問題は、プロジェクト全体の構成にも影響しかねない要素をもっており、さらに検討することとされた。

2.引当金の認識規準(確実性規準)の廃止

現行IAS第37号第14項(b)では、引当金の認識規準の1つとして、「当該債務を決済するために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高い」(確実性規準)という条件が付されている。この条件は、引当金として認識される場合には、すでに満たされているので、この規準は不要であるというのが、廃止を主張する論点である。

既に1. で示した製品保証の例を用いると、保証期間中いつでも製品保証を行うという待機状態(これは無条件債務であり引当金として認識されることになる)は、そのような状態でいること自体がサービスの提供(すなわち企業の資源の流出)であり、無条件債務を引当金として認識するということそのものが、「企業の資源が流失する可能性が高い」という認識規準を満たしていると考えられる。このように、無条件債務を引当金と認識するという考え方を採用する以上、確実性規準は常に満たされている。議論の結果、このような理解に基づき、確実性規準を廃止することが暫定的に合意された。

(2)IAS第19号の改訂(解雇給付)を巡る議論と暫定合意

SFAS第146号とIFRSとの統合化の一環として、IAS第19号の解雇給付の規定をSFAS第146号が規定する1回限りの解雇給付(「その実質において、継続している給付制度又は個別の繰延払契約ではない給付契約で、その給付契約の条件に基づいて、強制解雇される現在の従業員に提供される解雇給付」と定義される)に関する規定に基づいて改訂しようとするのがIAS第19号の改訂の目的である。

1.これまでの経緯

2002年12月に行われた会議では、IAS第19号の解雇給付の規定を次のように改訂することが暫定的に決定された。

  • 強制解雇給付は、従業員に通知することによって認識される。
  • 強制解雇給付を受け取るために、追加のサービス提供が必要であれば、これらの給付は、将来のサービス提供期間にわたって認識する。
  • 任意の解雇給付は、従業員が解雇を受け入れた時点で認識する。

また、2003年2月に行われた会議では、SFAS第146号の考え方を1回限りの解雇給付に限らずすべての解雇給付に適用することが暫定的に決定された。

米国では、SFAS第146号は、1回限りの解雇給付のみを対象とした会計処理のみを取り扱っている。すなわち、解雇給付を受領する権利を取得するためになんらかのサービスを提供する必要のない場合には、通知日の公正価値で解雇給付の負債を認識・測定し、権利を取得するためにある一定の将来期間にわたってサービスを提供する必要がある場合には、負債額の測定は、解雇日現在の負債の公正価値に基づいて通知日において行い、この測定額をサービスが提供される期間にわたって認識するという取扱いを示しているのみである(第10、11項)。このため、SFAS第146号が取扱う以外の解雇給付については、SFAS第88号(確定拠出型年金の清算・縮小及び解雇給付の雇用者側の会計処理)及びSFAS第112号(退職後給付の雇用者側の会計処理)が適用される。このように米国では、解雇給付すべてに対してSFAS第146号が適用されるわけではない(概要については下表参照)。それにも拘らず、IASBがSFAS第146号の考え方をすべての解雇給付に適用しようとしたのは、SFAS第146号の考え方の方がSFAS第88号やSFAS第112号よりも進んだ考え方になっており、合理的と判断されたためである。FASBでは、SFAS第88号やSFAS第112号を改訂する予定がないため、この暫定合意により、改訂後のIAS第19号と米国会計基準との間には統合ができない差異が生じることになる。

【解雇給付に関する現行米国会計基準】

解雇給付の種類 基準 認識 測定
解雇によって発生する給付(累積又は権利確定しないもの) 第112号 負債が発生していることが確かであって、信頼を持って測定できるときには負債を認識 ガイダンスは少ない(割引計算は許容されるが、強制されない)
解雇によって発生する給付(累積又は権利確定するもの) 第112号 従業員が給付を受ける権利が確かなものになりかつ金額が信頼を持って測定できる場合には、すでに提供されたサービスに対して負債を認識 ガイダンスは少ない(割引計算は許容されるが、強制されない)
年金が特定する事象によって発生する契約上の解雇給付 第88号 従業員が給付を受ける権利が確かになりかつ金額が信頼を持って測定できる場合には、負債を認識 将来支払額の現在価値
1回限りの解雇給付(直ちに権利が確定するもの) 第146号 給付に関して従業員に通知したときに負債を認識 通知日の負債の公正価値
1回限りの解雇給付(権利が確定するためにサービスの提供が必要なもの) 第146号 通知日から解雇日までの期間にわたって負債を認識 解雇日の負債の公正価値
2.今回の議論と暫定合意

今回は、1. 解雇給付の定義の改訂及び2. すべての解雇給付を公正価値で測定することの是非(2003年2月の暫定合意の妥当性)が議論された。

  1.  解雇給付の定義
    IAS第19号の解雇給付は任意解雇及び強制解雇の双方を含んでいるが、これをSFAS第146号の1回限りの解雇給付の規定(公正価値による測定)を基に統合化しようというのが、今回の改訂の趣旨である。しかし、同時にSFAS第88号の特別解雇給付(special termination benefits)の定義とも共通性を持たせる必要があり、さらに早期退職制度(これは制度として組み込まれている従業員の早期退職を奨励する仕組みであり、解雇給付には該当せず、退職後給付として会計処理される)が解雇給付に含まれないことを明確にする必要があることから、次のような定義の改訂が示され、これが暫定的に了承された(取消線は今回削除された部分であり、下線は今回追加された部分)。
    「解雇給付とは、次のいずれかの結果として従業員の雇用の終結に関連して支払うべき従業員給付をいう。それは次のいずれかであろう。
    (a)強制解雇、通常の退職日前に従業員の雇用を終了するという企業の決定の結果として提供される;又は
    (b)任意解雇、短期間に限って当該給付を見返りに自発的退職を受入れるという従業員の決定の見返りに申し入れられる。
  2. 解雇給付の公正価値測定
    2003年2月に行われた会議では、SFAS第146号の考え方(公正価値による測定)をすべての解雇給付に適用することが暫定的に決定され、この結果、改訂後のIAS第19号と米国会計基準との間には統合ができない差異が生じることとなっていた。このような差異を生じさせることが妥当かを含め、すべての解雇給付を公正価値で測定することの妥当性を改めて検討することがスタッフに指示された。

8.公開草案第6号(採掘産業)

今回は、2004年7月に引続き公開草案第6号(ED6:採掘産業)の中の「探査・評価資産(exploration and evaluation assets)の減損」について議論が行われた。

(1)これまでの経緯

ED6では、「探査・評価資産のための現金生成単位」(探査・評価資産を含む継続的使用によってキャッシュ・フローを生み出す資産の最小の識別可能グループで、それに対して企業の直近の財務諸表で適用された会計方針に基づいて減損テストが行われるものであり、セグメントを超えない単位)という新たな区分の導入を提案しているが、寄せられた多くのコメントは、その導入に反対していた。このような特別の現金生成単位を導入した趣旨は、採掘活動のコストセンターレベルで減損テストを行うことを可能とするためであった。すなわち、IAS第36号の規定では、減損は、原則としてキャッシュ・フローを生み出す資産ごとに減損テストを行うこととされ、資産のグループ(現金生成単位)がキャッシュ・フローを生み出す場合には、最小の現金生成単位で減損テストを行うことが要求されている。このため、「探査・評価資産のための現金生成単位」というある程度大きな現金生成単位の集合体レベルで減損を行う仕組みを導入しなければ、場合によっては非常に細かい単位で探査・評価資産に対して減損テストが強制される懸念があり、それを回避するため「探査・評価資産のための現金生成単位」の導入が提案されていた。IASBとしては、コメント提出者に誤解があるのではないかという疑念が払拭できないため、改めて、導入は不要としたコメント提出者等にその真意を尋ねることとされていた(2004年7月の決定)。

今回、スタッフが再度コメント提出者に確認した結果、やはり「探査・評価資産のための現金生成単位」は不要であることが判明した点が報告された。また、新たな提案として、のれんの減損テストと同じ考え方を探査・評価資産に適用することが提案された。すなわち、経営者が探査・評価資産を管理する最低単位(セグメントを超えない単位)で減損テストを行うことを認めるという取扱いである。

(2)今回の議論と暫定合意

議論の結果、この新提案は、ED6で提案された「探査・評価資産のための現金生成単位」とほぼ同じ効果を生むと考えられ、現行IFRSの中でベストの代替案であると判断されたことから、「探査・評価資産のための現金生成単位」という提案を取り下げると同時に新提案(経営者が探査・評価資産を管理する最低単位で減損テストを行う)を採用することが暫定的に合意された。なお、この暫定合意は、再公開の必要はないと判断された(ED6の考え方に対する根本的な変更となっていないと判断された)。
今回で基準化のための議論がほぼ終了したので、議論の最後に、最終基準化に対する賛否が問われ、4名(ガーネット、ライゼンリング、マグレガー及びスミスの各氏)が反対する意向を示した。彼らの主たる反対理由は、探査・評価資産の認識及び測定の会計方針の選択に当たりIAS第8号の規定の一部(探査・評価資産に対するIFRSがない場合に類似又は概念フレームワークを参照すべきことを規定している第11項及び他の会計基準設定主体の直近の会計基準を参照している第12項)の適用を免除している点に対するものである。最終基準を2004年第4四半期に公表することが予定されている。

9.中小規模企業の会計基準

2004年6月にディスカッション・ペーパー「中小規模企業の会計基準に対する予備的見解」が公表され、9月24日を期限としてコメントを求めている。その間を利用して、各IFRSを基に作成されたSME版の検討が2004年6月及び7月と進められている。

(1)今回の論点

今回も13のSME版が準備されたが、今回はこれらの検討を行わず、これに代えて、SME版をどのような形式で作成し、また、IFRSからSME版に取り込むべき内容はどのようなものであるべきかというSME版のあり方に関する議論が行われた。
これまで検討されてきた13のSME版で採用されてきた方針は、次のようなものである。

  • 原則としてすべてのブラック・レター(重要原則)を取り入れる。
  • ブラック・レターとなっていなくても重要原則と思われるもの及びSMEにとって有益と思われるものは取り入れる。
  • 認識及び測定に関する規定は原則として変更しない。
  • IFRSが認める会計方針の選択はSME版でも認めるが、最も簡単なもののみを示し、それ以外の選択肢についてはIFRSを参照する文言を挿入する。
  • 表示及び開示についてもあまり変更をしない。
  • 各SME版の冒頭に対応するIFRSを参照すべき文言を挿入する。

このような方針に基づき作成されたSME版は、対応するIFRSに比べてそれほど分量が縮小しないため、今回新たに、スタッフから次のような提案があった。

  • SME版では、より高次元の重要原則及び重要なガイダンスのみを取り入れる。
  • 対応するIFRSを参照するような文言を挿入する。
  • IASC財団の教育部門が、SME版の公表と同時に、SME版では除外されたIFRSの中の文言や設例等から抽出しSME用に編集された教育出版物を刊行する。

このようなアプローチを採用することにより、SME版を非常に縮刷されたものとすることができるというのがスタッフの提案理由である。今回新たな提案に基づく例示がIAS第29号(超インフレ経済下の財務報告)と第41号(農業)について示された。前者ではIAS第29号で41パラグラフだったものが4パラグラフに、後者ではIAS第41号で59パラグラフであったものが4パラグラフに縮小されている。

(2)今回の議論

このような提案を基に意見交換が行われたが、2004年6月に公表したディスカッション・ペーパーのコメントの分析も終了しない段階でSME版のあり方に関する議論をするのは、時期尚早であると判断され、スタッフに対して、2004年10月にも簡単なコメント分析を提出するよう指示がなされた。このほか、SME版の検討を通して、IFRSそのものの規定について改訂や削除が必要とされるものも発見され、これらについては本プロジェクトの範囲を超えるため本プロジェクトでは取扱わないものの、そのような事項のリストを作成することがスタッフに対して指示された。

10. 株式報酬制度

今回は、1. 現在株式報酬制度の会計基準を作成中のFASBの現状報告及び2. 企業結合において純資産の一部として財貨を取得する取引の取扱い(IFRS第2号(株式報酬制度)及びIFRS第3号との関係の明確化)の2点が取上げられた。

(1)FASBの現状報告

FASBは、2004年3月に株式報酬制度に関する公開草案を公表し、現在その作成作業中である。今回は、FASBが13,000通のコメントを受領したこと及びコメントの中には検討していない論点はほとんどなかったことが報告された。このほか、1. 段階的権利確定(graded vesting)、2. 株式報酬制度に絡む税務上の便益の計算及び3. 従業員株式購入制度においてIFRS第2号とFASBの考え方に差異があることが報告された。さらに、今後の両者の差異の解消アプローチとしては、FASBでの株式報酬制度に関する会計基準が完成した後に解消に向けた検討をすることが合意されているが、当面そのような検討が行える状況ではないことが報告された。すなわち、IFRS第2号は、1. 従業員に対する株式報酬と2. 財貨・サービスと交換に交付される株式報酬をその対象範囲に含めているが、FASBの公開草案は従業員に対する株式報酬の会計処理に対象を限定しており、財貨・サービスと交換に交付される株式報酬の会計処理は今回の議論の対象となっていない。このため、財貨・サービスと交換に交付される株式報酬の会計処理について当面検討する予定がないFASBの現状を考えると、IFRS第2号とFASBの会計基準との差異の解消のための検討は、暫くは行われない公算が強いことが説明された。

(2) 企業結合において純資産の一部として財貨を取得する取引の取扱い

IFRS第2号は、IFRS第3号が適用される企業結合取引(企業結合において純資産の一部として財貨を取得する取引)をその適用範囲から除外している。ところが、IFRS第3号は、共通支配下の企業間の企業結合はその適用範囲から除外している。このようにIFRS第3号から除外されている企業結合取引があるため、このようなIFRS第3号から除外された企業結合取引には、IFRS第2号が適用されると解釈できる余地があるとの指摘がIFRIC(国際財務報告基準解釈指針委員会)からあった。IFRS第3号から除外され現在簿価での引継ぎが認められている共通支配下の企業間の企業結合にもしIFRS第2号が適用されると、公正価値による測定が適用される結果となり、現状の会計処理を大きく変更することとなる。このような解釈はIASBの意図するところではないと推定されるものの、その通りかどうかを確認することが求められた。IASBは、そのような解釈はIFRS第2号の意図ではないことを確認した。

11.IASBの審議過程の強化に対するコメントレターの分析

IASC財団のトラスティーズは、定款の規定によって5年ごとにIASC財団組織の見直しを行うことを義務付けられており、現在その見直し作業中である。ここで取上げられているIASBがIFRSを決定するまでに行うべき手続については、定款に規定があり、これを拡充する形で「IFRSの趣意書」の中に「デュー・プロセス」として規定が示されている。トラスティーズは、IASBのデュー・プロセスを監視する権限を有しており、組織の見直しの一環としてデュー・プロセスの見直しを行うこととしている。一方、IASB自身もこれまでの3年間の実績を踏まえて、デュー・プロセスの改善の必要性を感じており、2004年3月に独自にその改善提案を作成し、これに対するコメントを求めるコンサルテーション・ペーパーを公表した(コメントの締切りは6月25日)。今回は、コンサルテーション・ペーパーに対するコメントの分析が行われ、さらに、デュー・プロセスの改善について暫定的な合意がなされた。

(1)現行のデュー・プロセスの概要

IASBが基準書等の決定までに行うべき手続は、既に述べたように「IFRSの趣意書」のなかで示されており、デュー・プロセスは、1. IFRSの設定と2. 解釈指針の設定の2つに分けて定められている。

1.IFRS設定のためのデュー・プロセス

以下のプロセスが規定されているが、これらのすべてを行う必要はない(下線部分は定款で定められた手続)。

  1. スタッフは、取上げる事項に関するすべての問題点の特定及びレビューを行い、それらに対する「概念フレームワーク」の適用について検討を行う。
  2. 各国の会計規制及び実務を調査し、各国の会計基準設定主体との意見交換を行う。
  3. IASBの議題として取上げることについてSAC(基準諮問会議)の助言を求める。
  4. 当該プロジェクトに関する助言を求めるためのアドバイザリー・グループを組織する。
  5. パブリックコメントを求めて討議資料を公表する。
  6. 公開草案を公表する(反対意見を含み、8名以上の賛成を必要とする)。
  7. 公開草案には結論の背景を含む。
  8. 討議資料及び公開草案に対するコメントを検討する。
  9. 公聴会及びフィールド・テストの必要性について検討する。
  10. 8名以上の賛成による基準書の承認を行う(反対意見を含む)。
  11. IASBが採用したデュー・プロセスや受領したコメントをどのように取扱ったかに関する説明を含む結論の背景を公表する。
2.解釈指針設定のためのデュー・プロセス

以下のプロセスが規定されているが、これらのすべてを行う必要はない(下線部分は定款で定められた手続)。

  1. スタッフは、取上げる事項に関するすべての問題点の特定及びレビューを行い、それらに対する「概念フレームワーク」の適用について検討を行う。
  2. 各国の会計規制及び実務を調査し、会計基準の解釈権限を持つ組織を含む各国の会計基準設定主体との意見交換を行う。
  3. 提案に3名以上のIFRICメンバーが反対しない場合には、パブリックコメントを求めて解釈指針案を公表する。
  4. 受領したコメントを検討する。
  5. 3名以上のIFRICメンバーが反対しない場合には、解釈指針を承認する。
  6. IASBの8名以上の賛成によってIASBが解釈指針を承認する。

(2)今回の議論と暫定合意

コンサルテーション・ペーパーに対しては、50通のコメントが寄せられ、その多くがIASBが提案した改善内容に賛成であった。また、コメント提出者からは、1. すべてのボード・ペーパーの公開、2. IFRSの決定直前の最終段階にあるドラフトの公表、3. コメント期間の延長、4. 新たなIFRSが及ぼす経済的影響の分析の実施及び5. 議題の決定プロセスのより一層の透明化等の新たな提案も寄せられた。

これらを検討した結果、IASBは次のような改善を行うことで暫定的に合意した。

  1. オブザーバー・ノートを引続きウエッブサイト上で公開すると共に、それらとボード・ペーパーのパラグラフの参照ができるようにする。
  2. すべての公開会議をウエッブサイト又は電話等を通じて傍聴できるようにする。
  3. IFRSの決定直前の最終段階にあるドラフトを公表する。
  4. デュー・プロセスをコンサルテーション・ペーパーでの提案内容に沿って強化すると共に、特定のプロジェクトを遂行する際にデュー・プロセスで選択可能な手続とされている手続を省略した場合には、その理由を説明する(これは「準拠もしくは説明(comply or explain)」アプローチと呼ばれている)。
  5. 適切と判断されたときにはフィールド・テストを行う。
  6. 関係者から情報を入手するための方法であるフィールド・ビジット、フィールド・テスト及びその他の手続を明確に区別する。
  7. プロジェクトの内容の複雑さ及び取扱う問題の取引への影響を勘案してコメント期間を変動させる。
  8. 新たな議題を加えるプロセスを明確化する。

 

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)