ASBJ 企業会計基準委員会

第37回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第37回会議が、2004年7月20日から22日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第32号(金融商品:開示及び表示)の改訂(公正価値でプットできる金融商品の取扱い)、3. 米国会計基準との短期統合(政府補助金及び負債の長短区分)、4. 収益認識、5. 公開草案第6号(採掘産業)のコメント分析、6. 中小規模企業の会計基準、7. ジョイント・ベンチャー及び8. 保険会計(第2フェーズ)について議論された。IASB会議には理事13名が参加した(トム・ジョーンズ氏は欠席)。本稿ではこれらの議論の概要を紹介する。

1.企業結合(第2フェーズ)

第2フェーズに関する主な議論は既に2004年6月の会議で終了しており、公開草案へ向けての作業が開始されているが、今回の会議では、第2フェーズでの暫定合意をまとめるとともに、共同プロジェクトを推進している米国財務会計基準審議会(FASB)の達した結論と相違のある項目の取扱いについての議論が行われた。具体的には、1. FASBと異なる結論となっている項目の検討、2. 企業結合に関する会計基準以外の会計基準がFASBとIASBとの間で異なっているために生じている差異の確認(第2フェーズでは取扱うことができない事項)及び3. 第2フェーズでこれまでに達した暫定合意の一覧表の提示とその内容に関する質疑が行われた。今回の会議では暫定合意の一覧表の議論に相当の時間が費やされたが、ここでは、1. で検討されたFASBとの差異の取扱いに関する暫定合意の内容について紹介する。

なお、議論の最後に、第2フェーズの公開草案に反対するかどうかに関してボードメンバーの意向が問われ、5名のボードメンバー(ガーネット氏、ウィッティントン氏、ブルンズ氏、ジェラード氏及び筆者)が反対する意向を示した。

今後、今回確認された暫定合意に基づき公開草案のドラフトの作成が行われる。公開草案ドラフトは、IFRS第3号を全面的に書き換え、さらに、FASBとも同一の内容になるようにすることが意図されているため、その完成には少なくとも年末までかかるものと予想される。

(1) 対価の超過支払いの取扱い

企業結合では、通常は公正価値による交換が行われるが、例外的に取得企業の純資産に対する持分の公正価値を超える対価が支払われることがあり、このような場合、この超過額の取扱いに関して、FASBとIASBの間に相違があるため、議論が行われた。FASBは、当該超過額をのれんの一部に含めるべきと考えており、IASBは、これを取得日の損益として認識することを提案している。議論の結果、FASBに再考を促すとともに、もしFASBが同意しない場合には、両者の差異を残したままとし、公開草案において、両者の考え方を示した上でコメントを求めることが暫定的に合意された。

(2) 支払対価が被取得企業の公正価値の最良の証拠であるという反証可能な前提

企業結合が行われた場合、取得された企業の公正価値を測定するために取得企業が支払った対価をどのように扱うかについて、IASBでは、次のように考えている。

  1. 100%の取得の場合には、取得企業が支払った対価が取得された企業の公正価値の最良の証拠(the best evidence)であるという反証可能な前提を置かなければならない。
  2. 100%以下の取得の場合では、支配プレミアムが信頼を持って測定できる場合には、これを除いた支払対価を用いて取得された企業の公正価値を推測しなければならない。しかし、支配プレミアムが信頼を持って測定できない場合には、評価技法を用いて取得された企業の公正価値を推測しなければならない。いずれの場合においても、目的は、市場参加者が、取得日において100%を取得する場合に支払うであろう公正価値を測定することである。
    一方、FASBでは、次のように取扱うこととしている。
  3. 100%の取得の場合には、取得企業が支払った対価は、通常取得された企業の公正価値に比べより明確である(normally more clearly evident)。したがって、反証がない限り、取得企業が支払った対価は、取得された企業の公正価値の決定に用いなければならない。
  4. 100%以下の取得の場合では、取得企業が支払った対価は、通常取得された企業の公正価値を測定する最良の基礎(normally provides the best basis)を提供する。したがって、反証がない限り、取得企業が支払った対価は、取得された企業の公正価値総額の決定に用いなければならない。もし、取得企業が支払った対価が最良の証拠を提供しない場合には、評価技法を用いて取得された企業の公正価値を推測しなければならない。いずれの場合においても、目的は、市場参加者が、取得日において100%を取得する場合に支払うであろう公正価値を測定することである。

両者の差異は、IASBでは、取得企業が支払った対価を企業の公正価値の最良の証拠としているのに対して、FASBでは、取得企業が支払った対価は「通常」最良の基礎を提供するとしている点である。特に、100%以下の取得の場合では、IASBは取得企業が支払った対価を重視しているのに対して、FASBでは、IASBほど取得企業が支払った対価を重視していない。このように両者には、それほど大きいとはいえないかも知れないものの差異が存在する。議論の結果、両者の差異を解消するため、FASBの文言を採用することが暫定的に合意された(この結果、反証可能な前提は置かれないこととなった)。

(3) 事業(ビジネス)の定義

2004年5月の会議で、IFRS第3号(企業結合)で次のように定義されている事業の定義を見直すことが暫定的に合意されている。

「事業とは、次の目的のために執行され管理される統合された一組の活動及び資産をいう。

  1. 投資家に対してリターンをもたらす、又は
  2. コストを低減する、又は契約者又は参加者に対して直接かつ比例的にその他の経済的便益を提供する

事業は、一般的に、インプット、インプットに対し適用されるプロセス、そして収益をもたらすために使用される結果としてのアウトプットにより構成される。移転された活動及び資産のグループがのれんを含む場合、そのグループは事業とみなされる。」
この定義に加えられた変更の内容は、次のとおりである。

  • 「一般に」という用語をIFRS第3号の事業の定義の第2文から削除する。
  • 「移転された活動及び資産のグループがのれんを含む場合、そのグループは事業とみなされる」という文言をIFRS第3号の事業の定義から削除し、適用ガイダンスに含める。

今回は、このような事業の定義の変更に伴う適用ガイダンスについての議論が行われた。すなわち、FASBが、定義の明確化を図るために適用ガイダンスの文言の改訂を考えており、IASBもこの改訂案を採用するかどうかが議論された。議論の結果、FASBと同様な内容の適用ガイダンスとすることが暫定的に合意された。
ここでは、今回合意された改訂案のうち3つを紹介する。

  1. 事業の構成要素
    事業の構成要素として、1. インプット、2. インプットに対し適用されるプロセス、そして3. 収益をもたらすために使用される結果としてのアウトプットの3つがあることが定義に含まれているが、適用ガイダンスでは、このうち、1. 及び2. は、事業となるための必須の構成要素であるが、3. は必須のものではないことを明確化する。このように変更するのは、創業後間もない企業で成果を生み出すためにある程度の期間が必要とされる企業を事業の定義に含めるためである。
  2. のれんを含む資産グループの取扱い
    IASBは、「移転された活動及び資産のグループがのれんを含む場合、そのグループは事業とみなされる」という考え方を採用しているが、当初FASBはこのような考え方を採用していなかった。その後のFASBにおける検討の結果、FASBは、IASBの考え方を採用するために適用ガイダンスを見直した。
  3. 事業かどうかの判定
    ある特定の資産又は活動が事業に該当するかどうかは、取得の意思のある取得者(willing acquirer)が事業として管理することができるかどうかに基づいて判定すべきで、売手が事業として営んでいたか、又は買手が事業としようとするかという当事者の意思にはよらないことを明確にする。

2.IAS第32号の改訂

2004年6月の会議において継続審議とされていた、償還日の公正価値の比で発行体に対する残余持分の償還を受けることができる金融商品を資本とするのか負債とするのかという表示の問題に関する議論が行われた(これにはパートナーシップの場合も含まれる)。これは、当初IAS第32号(金融商品:開示及び表示)の解釈の問題として、ある企業から国際会計基準解釈委員会(IFRIC)に提起された問題であった。しかし、提起された問題は、IAS第32号の改訂によってしか解決できないと判断された結果、IASBにおいて議論することとなったものである。今回の議論では、IAS第32号における定義を変更して、保有者が公正価値でプットできる金融商品に対して例外を設けて資本の部に表示できるようにするかどうかが議論された。議論の結果、賛否がほぼ同数であったため、今回は結論を出さず、例外を設けるために定義を変更する場合にはどのような条件を追加すべきかについてさらに継続して検討することとされた。この間の経緯を詳述すると次のとおりである。

1.問題の所在

IAS第32号では、保有者が持分金融商品を現金又はその他の金融資産と交換に発行体に買戻させる権利を有している場合は、金融負債に該当することとされている(第18項(b))。ところが、IAS第32号では、ここで問題となっている償還日の公正価値の比で発行体に対する残余持分の償還を受けることができる金融商品については十分な検討をしておらず、また、このようなケースに単純にIAS第32号を適用して金融負債として表示すると、結果としておかしな状況が生じる恐れがあるため、IAS第32号の改訂も含めて議論を行っているものである。現行IAS第32号の規定では、公正価値でプットできる金融商品は金融負債として会計処理されるため、その測定には、IAS第39号が適用される。IAS第39号では、金融負債の当初認識以降の測定は原則として償却原価によることとされている(第47項)。しかし、ここで問題となっている公正価値でプットできる金融商品に対して償却原価法を適用することは償還日が確定できない等の理由で困難と見られており、議論では、当該金融商品を公正価値で測定することが前提とされている。そのため、純資産と公正価値でプットできる金融商品の公正価値に大きな差異がある場合には、当初認識以降公正価値によって金融負債を測定することにより大きな損失が損益計算書で認識されるので(金融負債が大きくなればその分だけ損失が増大する)、貸借対照表上、純負債となるとともにマイナスの未処分利益剰余金が表示されるという事態が起こりうる。このような変則的な事態を回避するため、IAS第32号に例外を作り、公正価値でプットできる金融商品は、金融負債として表示しないこととする必要があるかどうかが議論の焦点である。

今回スタッフから次の4つのアプローチについて検討した結果、(d)を採用すべきという提案がなされ、議論が行われた。

  1. 公正価値でプットできる金融商品を資本として表示できるようにIAS第32号に例外を設ける。
  2. 公正価値でプットできる金融商品を負債として表示するものの、これに対する測定に例外を設け、公正価値の変動を認識しないこととする。
  3. 公正価値でプットできる金融商品のみならず、一般的に保有者がプットできる金融商品は、プットオプションとホストとなる金融商品に区分して表示を行うこととする。
  4. この問題に対応しない(IAS第32号の改訂は行わない)。
2.議論と暫定合意

議論では、(c)はIAS第32号の根本的な見直しとなるため、今回の解決策としては適切でないとされ(むしろ、今後金融商品の会計基準全般を見直すプロジェクトで取扱うべきであるとされた)、(b)についても測定に対する例外規定の新設に対する支持は少なかった。(d)を支持する考え方は、この問題で指摘されている点はIAS第32号の問題点ではあるが、拙速にIAS第32号を改訂することによって、予期しない帰結をもたらす恐れがあり、短期的に解決することは適切でないというものである。例えば、株式譲渡に関する制限条項を有している中小規模企業では、その中で発行体に公正価値で譲渡できる条項が含まれている場合があり、このような場合までも対象範囲に含まれてしまうことになる可能性があり、また、ミューチュアルファンドでその投資者が純資産に対する持分比率で償還を求めることができる場合も同様に対象範囲に含まれてしまう可能性がある。

しかし、議論の過程で、スタッフ提案(今回はこの問題に対応しない)に対する賛否がほぼ同数であったため、(a)の方向で検討を進めた場合に、その適用対象が予期しない範囲まで拡大しないような条件を適切に特定できるかどうかについて、さらにスタッフに検討することが指示された。

3.米国基準との短期統合化(政府補助金と負債の長短区分)

米国会計基準との短期統合化プロジェクトの一環として、1. 政府補助金及び2. 負債の長短区分の2点について議論が行われた。IAS第20号(政府補助金の会計処理及び政府援助の開示)の改訂に関しては、その内容をIAS第41号(農業)の中にある政府補助金の会計処理に置き換えることが2004年2月に暫定的に合意されているが、その合意に基づき公開草案のドラフトの作成が続いている。今回は、その過程で出てきた解決すべき問題について議論が行われた。また、負債の長短区分については、IASBが暫定的に合意している長短区分の規準の一部についてFASBが同意しない決定を行ったので、その経緯が報告された。

(1) 政府補助金

1.経緯

IAS第20号については、その規定内容が概念フレームワークに抵触するという批判があり、IAS第20号の見直しの必要性は従来から強く認識されていた。例えば、政府補助金が補償しようとしている費用と対応させるため政府補助金を「繰延収益」として負債で認識する会計処理、有形固定資産の取得に対する政府補助金を取得原価から控除するする会計処理(圧縮記帳)、さらに非貨幣性資産を政府補助金として受領した場合には、名目価額(nominal amount)で計上できるなど多様な会計処理が認められている。しかし、今回のIAS第20号の改訂は、IFRICが公表した排出権に関する解釈指針の公開草案がきっかけとなって浮上した。

2004年2月のIASB会議では、IAS第20号を廃止すべきとの提案がなされたが、ただ単にIAS第20号を廃止し、政府補助金の会計処理をIAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)が定めるIFRSがない場合のヒエラルキーに委ねることは実務の混乱を招くとの判断から、IAS第41号で規定されている政府補助金に関する会計処理を拡大する形でIAS第20号を改訂することが暫定的に合意され、その合意に基づき作業が進められている。その過程で出てきた問題について今回議論が行われた。

なお、IAS第41号の政府補助金の会計処理は、見積販売時費用控除後の公正価値で測定される生物資産(biological assets)に対する政府補助金に関するもので、1. 条件の付されていない政府補助金は、その受領が確定した時点で収益として認識すること及び2. 条件が付されている場合には、条件が満たされた時点で収益として認識すること(政府補助金が時の経過によって一部を返還しないことを認めている場合には時間の経過とともに収益として認識する方法を含む)が規定されている。

2.議論された問題と暫定合意

今回議論され、暫定的に合意された問題は、次の3点である。

  1. IAS第41号が採用しているモデルと今後改訂が予定されているIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」で採用されている考え方との間の矛盾の取扱い。
    IAS第41号では、条件付政府補助金は、条件が満たされた時点で収益として認識することとされている。これは、条件が満たされるまでは、政府補助金を返却しなければならないかどうかに拘らず全額を負債として認識することを求めていることになる。
    一方、現在改訂を予定しているIAS第37号では、偶発負債(条件付の義務)に対する考え方を変更し、偶発負債は、通常、1. 無条件の義務と2. 条件付の義務という2つの要素に分解されるという考え方を採用し、条件付の義務は条件が充足されない限り負債として認識されないものの、無条件の義務は負債として認識できることになる。例えば、製品保証の場合には、製品に欠陥が生じた場合に補修する義務(条件付の義務)と欠陥が生じた場合にはいつでも補修を行うという状態であり続ける義務(無条件の義務)という2つの義務が内在しており、前者の義務は、製品に実際に欠陥が生じ負うべき金額が決定した場合に負債として認識されるが、後者の義務はそれ自体が負債の定義を満たすため、この部分は欠陥の発生を待たずに負債として認識されることになるとされている(すなわち、最大金額が認識されることはない)。
    このように両者の考え方には矛盾がある。しかし、この問題は、本プロジェクトで取扱うことができない問題であり、このような矛盾があることを結論の根拠で示すことが暫定的に合意された。
  2. IAS第41号モデルに追加すべき適用ガイダンス。
    1. 「条件付」政府補助金の定義の追加
      IAS第41号では、「条件付」政府補助金の会計処理についての規定はあるが、どのような場合が「条件付」に該当するか明確な規定がないため、新たに「条件付」の定義を設けることが暫定的に合意された。
      「条件付とは、現在その発生が起こりえないと考えられているものを除く特定の将来事象が発生するか又は発生しない場合に、政府が付与した資源を返却させることができる条項である。」
      この定義の中では、条件付であるためには、「現在その発生が起こりえないと考えられていないことが必要とされる」という制限が導入されている。これは、政府補助金の条件を満たさない可能性が殆どないにも拘らず、単に「条件が付されている」というだけで収益認識が遅れることがないようにするためのものである(すなわち、条件付というためには、取引の実質が伴っている必要があるとされている)。
    2. 政府補助金の認識時点
      政府補助金は、政府から補助金を受領することができる権利を得た時点で認識すること(条件が付されていなければ収益として認識し、条件が付されていれば、対応する負債が認識される)が暫定的に合意された。
    3. 政府補助金の資産又は負債としての認識
      政府補助金は、政府から補助金として資産を受領することができる権利を得た時点で資産として認識し、政府が返済条件を放棄した場合には、負債のマイナスとして認識することを適用ガイダンスで明確にすることが暫定的に合意された。
  3. その他の問題
    1. 政府補助金の定義の修正
      政府補助金の定義の中には、「政府補助金は、企業の営業活動に関連するある種の条件に過去又は将来準拠することを条件に、当該企業に対する資源の移転という形で行われる政府からの支援である。政府補助金からは、政府補助金の価値が合理的に把握できない形式のもの及び企業の通常取引と区別できない政府との取引は除外される。」という文言が入っている。上記(b)(i)で記述したように、政府補助金の会計処理の規準の1つとして「条件付」かどうかが用いられていることから、定義の中に、下線部分のような「条件」という文言があることは、誤解を招く恐れがあるとの懸念があり、この文言を削除することが暫定的に合意された。
    2. 政府補助金の認識時点における減損テストの実施
      政府補助金を受領した時点で、政府補助金の対象となった資産に対して減損テストを義務付けることが暫定的に合意された。
    3. 低金利又は金利ゼロの貸付金及び政府保証の取扱い(第35項の修正及び第37項の削除)
      政府補助金の定義では、合理的に価値を把握できない政府補助金を対象から除外しており、そのような例として政府からの低金利又は金利ゼロの貸付金を挙げている(第37項)。したがって、IAS第20号の下では、企業は、政府からこのような貸付金を受領した時点でその受領額を負債として認識することになる。この取扱いは、IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の取扱いと首尾一貫しないこととなる。IAS第39号では、負債は当初認識時点での公正価値で測定することとなっている。IAS第39号と矛盾しない会計処理は、低金利又は金利ゼロの貸付金を受領時点の公正価値で測定し、受領した対価との差額を政府補助金として認識する処理である。このような取扱いとするために、第37項を削除することが暫定的に合意された。
      また、これと同様に第35項では、政府による保証も合理的に価値を把握できない政府補助金とされているが、IAS第39号では、当初認識時点での公正価値で負債の測定を行うこととなっている。このため、第35項の政府保証に関する記述を削除することが暫定的に合意された。

(2) 負債の長短区分

2003年12月に改訂されたIAS第1号(財務諸表の表示)では、貸借対照表日以後財務諸表の公表が承認されるまでに借換えが行われた借入金(第63項)及び貸借対照表日で財務制限条項に違反しているもののその後財務諸表の公表が承認されるまでに貸手が支払いを求めないことに合意した借入金(第65項)は、流動区分に表示することが求められている。この要求を米国会計基準に導入するかどうかを検討していたFASBは、この点に関しては、概念的にはIASBの考え方に賛成するものの米国会計基準を変更せず、包括利益の報告プロジェクトにおいてこの問題を取扱うこととしたことが報告された(2004年6月16日のFASB会議での決定)。

FASBがこのような決定を行ったのは、次の理由による。

  1. 多くの非公開企業では、財務制限条項に違反したかどうかを四半期報告において適時に把握できる体制が整っていないとの指摘があったことを受け、費用対効果の観点から現時点では要求することは時期尚早であると判断されたこと。
  2. 負債の長短区分は、IFRSに基づく財務諸表を用いて米国市場で資金調達をしようとする企業にとって、米国会計基準とIFRSとの差異調整項目とされていないこと。
    なお、(a)に関連して、SMEプロジェクトにおいて、中小規模企業に関するこの問題をさらに分析することが暫定的に合意された。

4.収益認識

今回議論されたのは次の2点である(議題としては4項目が予定されていたが2項目のみが議論された)。今回の議論の目的は、報告企業が履行義務(performance obligation)を認識するに当たり、顧客の有する権利義務とミラーイメージの会計処理(顧客の視点による会計処理)を行うべきかどうかであった。スタッフからは、顧客の視点による会計処理は適切ではなく、顧客に対する企業の契約上の権利義務は、報告企業の視点によって会計処理することが適切であるとの提案を受け、議論の結果、スタッフ提案を支持するボードメンバーが多数を占めた。

  1. 契約上の履行義務の会計処理(顧客の視点と報告企業の視点による会計処理)の検討
  2. 概念モデルの長期工事契約への適用例の検討

なお、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)の中には、本プロジェクトで採用されている資産負債アプローチに基づく収益認識のためのルール作りに懸念(議論の前提が現実を踏まえていない、財貨・サービスの引渡し前に収益を認識することになるアプローチは企業実態を反映しないといったもの等)があり、現在の議論は時間と資源を浪費していると考えられることから本プロジェクトを中止すべきとの意見がある。今回の会議の議論の最後にこのようなASBJの見解と助言がIASBのボードメンバーに伝えられた(FASBのスタッフが電話で傍聴しているので、間接的にFASBにも伝達された)。

(1) 契約上の履行義務の会計処理(顧客の視点と報告企業の視点)

1.議論の前提

これまでの議論で、企業の履行義務を公正価値で測定するアプローチの適用に際しては、「法的解放金額(legal layoff amount)」(企業に残存するすべての債務を履行する法的な責任を引き受けてもらうために、測定日において第三者に支払われなければならない価格)で測定することが暫定的に合意されている。しかし、これに対して、履行義務は、顧客が企業に支払った対価(これを「顧客対価額(customer consideration amount)」という)であり、企業が履行義務を果たさなかった場合に顧客に返却しなければならない金額で測定すべきとの見解が一部のボードメンバーにあり、改めて、履行義務を測定する場合に「法的解放金額」によるべきか「顧客対価額」によるべきかを明確にするための議論が行われた。

2.論点

今回の議論は、次の設例に基づいて行われた。

【設例】
小売店Aは、メーカーから$250で購入したテレビを$300で販売している。これに加えて、$100の対価で、メーカーの保証期間1年に追加して2年の保証を提供している。過去の実績では、10台に1台の割合で故障が発生し、約$140の補修コストが生じる。外部の業者に保証契約を肩代りしてもらう場合には、テレビ1契約当たり$30を支払う必要がある。第1年度にテレビ10台について保証契約を締結し、契約と同時に対価1,000を受領した。小売店Aの保証は、第3、4年度から開始される。
この場合、小売店Aが保証契約に関して負っている履行義務を次の3つのシナリオの場合どのように認識すべきかが議論された。

  • シナリオ1: 小売店Aが自ら補修サービスを行う。
  • シナリオ2: 小売店Aが補修の義務を外部の補修業者に有償で法律上完全に譲渡する。
  • シナリオ3: 小売店Bがその顧客に提供した保証契約の補修義務(小売店Aの保証内容と同一)を小売店Aが法律上完全に引き受ける。

【分析】
まず指摘しなければならないのは、この設例は、契約当初に契約の対価が顧客から小売店Aに支払われるという例であることである。顧客からの対価の受取が義務の履行とともに行われる契約は、ここでは対象とされていない。この設例に基づいて、「顧客の視点」に立って会計処理を行うと次のようになる。なお、ここで「顧客の視点に立つ」とは、顧客に対する負債(顧客から受領した対価=顧客対価額)を用いて報告企業の履行義務の公正価値を測定しようというものである。

(a)シナリオ1(小売店Aが自ら補修サービスを行う)

第1年度 現金 1,000 保証負債 1,000
第2年度 (仕訳なし)
第3・4年度 保証負債 500 収益 500
保証費用  70 現金  70

(b)シナリオ2(小売店Aは第1年度に補修の義務を外部の補修業者に有償で譲渡する)

外部の補修業者への譲渡価額$300は、この時点での法的解放金額(小売店Aの履行債務を引き受けてもらうために第三者に支払われなければならない価格)である。

小売店Aの仕訳
第1年度 現金 1,000 保証負債 1,000
第1年度 保証負債 1,000 現金 300
収益 700
補修業者の仕訳
第1年度 現金 300 保証負債 1,000
保証引受損失 700
第3・4年度 保証負債 500 収益 500
保証費用  70 現金  70

(c)シナリオ3(小売店Aが第1年度に小売店Bの補修義務も引き受ける)

小売店Bから引き受ける補修義務の譲渡価額$300は、この時点での法的解放金額(小売店Bの履行債務を引き受けてもらうために小売店Aに支払われなければならない価格)である。

小売店Bの仕訳
第1年度 現金 1,000 保証負債 1,000
第1年度  保証負債 1,000 現金 300
収益 700
小売店Aの仕訳
第1年度 現金 1,000 保証負債 1,000
第1年度 現金 300 保証負債 1,000
保証引受損失 700
第3・4年度 保証負債 1,000 収益 1,000
保証費用  140 現金 140

上記シナリオにおいては、シナリオ2の小売店A及びシナリオ3の小売店Bは、保証契約の譲渡を行った日に(顧客に保証サービスを提供する前に)$700の収益(利得ではないかとの意見もある)を認識する。シナリオ2の補修業者とシナリオ3の小売店Aは、保証契約締結時に保証引受損失$700を認識することになる。

3.暫定合意

議論では、シナリオ2の補修業者とシナリオ3の小売店Aが、保証契約締結時に保証引受損失$700を認識することが問題とされ、保証契約を引き受けた時点で「顧客対価額」で履行義務を認識することは妥当ではないと暫定的に判断された。

また、シナリオ3では、小売店Aは、顧客に直接保証契約を販売する(対価として$1,000を受領する)とともに、同一内容の保証契約を小売店Bから$300で引き受けている。両者の保証内容は同一であるので、小売店Aの履行義務は、その取得の経緯に拘らず$300で測定すべき点が暫定的に合意された。

(2) 概念モデルの長期工事契約への適用例の検討

契約上の権利義務に適用しようとしている現在検討中の概念モデルを次に示す長期工事契約に適用した場合にどのような結果となるかについての議論が行われた。

【設例】
請負業者が大規模な事務所と工場の建物を建設する契約を締結した。契約金額は、100,000千ドルで、契約の締結と同時に全額が顧客から請負業者に支払われる。契約の締結のために請負業者は、2,000千ドルを支払っている。建設は、基礎工事、構造及び仕上げの3工程からなり、請負業者が自ら行う場合と下請けに出す場合の見積り費用は次のとおりである。

単位:千ドル 見積り費用
自社が行う場合 下請けに出す場合
基礎工事 12,000 18,000
構造 36,000 45,000
仕上げ 24,000 25,000
合計 72,000

88,000

これに基づいて、工程ごとの収益及び費用について、概念アプローチによる場合とIAS第11号(工事契約)の工事進行基準による場合とを比較したものが次の比較表である。

【分析】
概念アプローチでは、各工程では下請けに出した場合の金額(第三者に委託する場合の公正価値)が収益として認識されるとともに契約総額100,000千ドルから下請け金額の合計88,000千ドルを差し引いた金額12,000千ドルが、契約獲得時に収益として認識される(契約獲得活動に対応する収益の認識)。また、自社が契約を履行する場合の見積り費用がそのまま実績として発生したと仮定されているので、費用としては、「自社が行う場合」に記載されている見積り費用が認識される。この結果、各工程での利益率は、それぞれ23%、20%、4%となる。なお、下請けに出す場合の見積り費用(88,000千ドル)が契約金額を上回る場合には、契約獲得時の収益がマイナスとなるとともに赤字契約として契約獲得時に損失が認識される(例えば契約金額が80,000千ドルであれば、契約獲得時に収益のマイナス8,000千ドルが認識される)。

他方、工事進行基準では、収益合計を各工程で発生する原価により比例按分する処理が行われる。したがって、3つの工程での利益率は共通の28%となる。

概念アプローチで採用されている考え方は、市場で成立している公正価値をベンチマークとして、これと比較して企業が効率よく義務を履行したかどうか(公正価値に対してオーバーパフォームしたか、アンダーパフォームしたか)を把握しようとするアプローチであるといえる。

議論の結果、多くのボードメンバーは、概念アプローチの考え方を支持したが、契約獲得時に収益が認識されることに関する懸念を表明するボードメンバーもいた。特に、この設例のように契約時に対価が顧客から支払われるケースは現実のケースとは異なっており、対価が契約時に支払われないケースにおける場合にも契約獲得時に収益を認識することが可能かどうか今後さらに検討される予定である。

5.公開草案第6号(採掘産業)のコメント分析

2004年6月に引続き公開草案第6号(E6:採掘産業)に対するコメントの分析が行われた。受領したコメントは、54通であった。今回は、次の3点について議論が行われた。注目点は、探査・評価資産の減損に関連して、E6で導入を提案した「探査・評価資産のための現金生成単位」という考え方に多くの反対意見が寄せられたが、コメント提出者に誤解があるのではないかとの疑念から、改めてコメント提出者にその真意を尋ねることが合意されたことである。また、最終基準の公表は、2004年第4四半期が予定されている。

  1.  探査・評価資産(exploration and evaluation assets)の減損
  2.  発効日及び経過措置
  3.  今後の予定

(1)探査・評価資産の減損

探査・評価資産の減損については、1. 減損の兆候及び2. 資源探査・評価資産のための現金生成単位の取扱いの2点が議論された。

1.減損の兆候

探査・評価資産に対してIAS第36号(資産の減損)の規定を適用することについては異論はないものの、探査・評価資産については、その性質上回収可能額を決定するための情報の入手が十分行えないため、IAS第36号が適用されると殆ど即時に全額が減損として認識される可能性が非常に高い。そこで、減損テストを行うトリガーとなる兆候として通常とは異なるものを用いることが妥当とされ、次のような事実又は状況が生じた場合(これは例示列挙)とすることが暫定的に合意された。

  1.  企業が特定の地域の開発権を有している期限が、当期又は近い将来に到来するが、更新が予定されていない場合。
  2.  ある特定地域の鉱物資源の更なる探査又は評価が、予算化されていないか又は近い将来に計画されていない場合。
  3.  ある特定地域の鉱物資源の探査又は評価が、経済的に存続できるだけの資源量の発見に繋がっておらず、企業が当該地域での活動の継続を断念した場合。
  4.  開発は続けられるが、開発が成功するか又は売却するかによって探査・評価資産の簿価の回収ができないという十分な証拠がある場合。
2.資源探査・評価資産のための現金生成単位

E6では、「探査・評価資産のための現金生成単位」という新たな区分の導入を提案している。「探査・評価資産のための現金生成単位」は、探査・評価資産を含む継続的使用によってキャッシュ・フローを生み出す資産の最小の識別可能グループで、それに対して企業の直近の財務諸表で適用された会計方針に基づいて減損テストが行われるものと定義されている(ただし、セグメントを超えない単位)。このような特別の現金生成単位を導入した趣旨は、採掘活動のコストセンターレベルで減損テストを行うことを可能とするためであった。すなわち、IAS第36号の規定では、減損は、原則としてキャッシュ・フローを生み出す資産ごとにテストを行うこととされ、資産グループがキャッシュ・フローを生み出す場合には、現金生成単位でテストが行われる。この考え方を探査・評価資産に適用すると、例えば、原油の採掘の場合、油井単位でキャッシュ・フローが把握できることからその単位で減損テストが行われることを意味し、場合によっては非常に細かい単位で探査・評価資産に対して減損テストを行う必要が出てくる。そのような事態の発生を回避するため、「探査・評価資産のための現金生成単位」の導入が提案されていた。
このような提案に対しては、多くのコメントが導入の必要はないと反対しているが、IASBとしては、コメント提出者に誤解があるのではないかという疑念が払拭できないため、改めて、導入は不要としたコメント提出者等にその真意を尋ねることが合意された。さらに、その結果を受けて、2004年9月の会議でこの問題に結論を出すことが合意された。

(2)発効日及び経過措置

E6では、発効日を2005年1月1日からとしていたが、これを変更し、2006年1月1日からとすることが暫定的に合意された(早期適用が推奨される)。また、適用初年度には、過去の比較財務諸表において比較情報を提供しなくてよいという例外措置を導入することが暫定的に合意された。

(3)今後の予定

2004年9月の会議でE6に関する議論を終了し、最終基準を2004年第4四半期に公表することが予定されている。

6.中小規模企業の会計基準

2004年6月にディスカッション・ペーパー「中小規模企業の会計基準に対する予備的見解」が公表され、9月24日を期限としてコメントを求めている。その間を利用して、IFRSのSME版の検討が進められている。2004年6月会議では、IAS第1号(財務諸表の表示)、IAS第2号(棚卸資産)、IAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)、IAS第10号(後発事象)、IAS第19号(従業員給付)及びIAS第24号(利害関係の開示)のSME版が議論された。今回は、これに引続き、概念フレームワーク、IAS第16号(有形固定資産)、IAS第18号(収益)及びIAS第23号(借入費用)のSME版が議論された。

今回提示されたSME版のうち、概念フレームワークのSME版については、概念フレームワークのSME版を作ることによって、SME以外の企業に適用される概念フレームワークとSMEに適用される概念フレームワークは異なるものであると誤解される恐れもあることから、概念フレームワークのSME版を現時点で検討するのは適切ではないとの意見が多く出された。その結果、ディスカッション・ペーパーのコメントを待って概念フレームワークのSME版の検討を行うこととされ、議論は先送りされた。

前回及び今回の議論は、ディスカッション・ペーパーで提示された考え方をそれぞれのIFRSに適用することによって問題点を洗い出すために行われたものである(したがって、SME会計基準についてなんらの決定も行われていない)。
また、今後も、それぞれのIFRSのSME版の検討を2004年12月まで継続する予定で、ディスカッション・ペーパーに対するコメントの検討は、10月から行われる予定である。その後の予定は、コメントによるディスカッション・ペーパーの内容の見直しによって異なるが、2005年6月の公開草案の公表を目指している。

7. ジョイント・ベンチャー

1.経緯

ジョイント・ベンチャーに対する会計処理としては、IAS第31号(ジョイント・ベンチャーに対する持分)において持分法と比例連結の双方が認められている。ジョイント・ベンチャーに対する会計処理の見直しの必要性は、2002年10月に開催されたリエゾン国会議で認識され、オーストラリアの会計基準設定主体(AASB)にジョイント・ベンチャーに関する会計処理方法の検討・見直しが依頼された。

これを受けて、AASBは、2003年4月にリサーチ・プロジェクトの概要をまとめたペーパーをリエゾン国会議に提出された。このときに準備されたペーパーでは、ジョイント・ベンチャーの定義の再検討(ジョイント・ベンチャーと資産に対する非分割持分(undivided interest)との間の区分をどのように行うか等)及びジョイント・ベンチャーに対する会計処理として持分法及び比例連結のほか原価法や公正価値法の検討が行われた。その結果、公正価値法が最良と考えられるが、どこの会計基準設定主体でも採用されていない方法であり、持分法が現実的な選択肢であると提案されている。これを受けて、ジョイント・ベンチャーの会計処理に関するリサーチ・プロジェクトは、長期的なプロジェクトとして取り上げることが決定され、オーストラリア、中国・香港、マレーシア及びニュージーランドからなるプロジェクト・チームが組成された。

2004年4月に開催されたリエゾン国会議には、プロジェクト・チームから、リサーチ・プロジェクトの進め方に関する提案が提出された。この提案を受けて、このリサーチ・プロジェクトを2つに分け、1. 現行IAS第31号の2つの選択肢を1つに統合する短期プロジェクトと2. フィールドテストを含む長期的なプロジェクト(ジョイント・ベンチャーの構造、ジョイント・ベンチャーの実質と法形式との関係、定義、適切な会計処理方法及び開示等を検討対象とする)に分けることが決定された。

2.議論された問題と暫定合意

今回の議論では、プロジェクトを長短2つに分けることに対して、長期的なプロジェクトで取扱うジョイント・ベンチャーの特徴に関する議論を完成させずに(特にジョイント・ベンチャーと資産に対する非分割持分との間の区分をどのように行うかといった問題)短期プロジェクトに取り組むことができるのかといった点に疑問が提起された。そのため、今回の議論では、短期プロジェクトを取り進めることについて最終的な合意に達しなかった(ただ、もし短期プロジェクトを進めるのであれば、ジョイント・ベンチャーのプロジェクト・チームではなく、FASBとIASBとの統合化を進めているチームが担当すべきことについては暫定的に合意された)。

このような事情から、今後のとり進め方として、1. AASBに対して、長期プロジェクトを前倒して行えるかどうかスケジュールの見直しを依頼すること、さらに、2. スタッフに対して、短期プロジェクトで検討すべき項目の明確化及びそれらが短期的に解決できるかどうかについての検討を行うことが指示された。

8.保険会計(第2フェーズ)

第2フェーズについては、2003年1月以降議論が行われていない。2004年秋以降の本格的な第2フェーズの議論に向けて、今回は、ボードメンバーに対する教育的な目的で、従前に議論を行った、繰延法(Deferral and Matching method)と資産負債法(Asset and Liability method)による保険契約の会計処理の違いを比較した資料に基づく議論が行われた。今回は、2つの方法の相違を確認するための議論が行われたのみで、合意された事項はない。
また、資料の中には、第2フェーズで検討し解決すべき問題点として次のようなものがあることが記述されている。

1.第2フェーズで解決すべき問題点

  1. 会計処理のためのモデル。1. 全ての契約に対して単一のモデルを設定すべきか、異なったタイプの契約には異なったモデルを設定すべきか、及び2. 会計モデルは契約上の資産・負債を直接測定する方法、契約から生じる収益・費用を繰延対応させる方法、もしくはその2つの組み合わせによるべきかといった問題。
  2. 測定。1. 資産・負債法を採用する場合、公正価値、企業固有価値、またはいくつかの組み合わせを基礎とした測定を用いるべきか、2. 測定属性として公正価値を用いる場合、企業・消費者間測定(顧客対価額)又は企業間測定(法的解放金額)を用いるべきか、及び3. 測定に当たっては、契約に組み込まれたオプションや保証を考慮するべきかといった問題。
  3. 割引。貸借対照表において認識される金額の測定は、現在価値を基礎として行うべきかどうかという問題。
  4. 資産・負債の相互関連。測定モデルは契約から生じる負債の帳簿金額を決定するに際して、資産から生じる期待収益を取り込むべきかといった問題。
  5. リスク・サービス調整。会計モデルの中に、リスク(又はサービス)調整をどのように取り込むかといった問題。
  6. 負債の初期認識・測定から生じる損益。会計モデルにおいては、初期認識における正味損益の認識を禁止もしくは相当程度制限すべきかといった問題。
  7. IASB(国際会計基準審議会)の第37回会議が、2004年7月20日から22日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第32号(金融商品:開示及び表示)の改訂(公正価値でプットできる金融商品の取扱い)、3. 米国会計基準との短期統合(政府補助金及び負債の長短区分)、4. 収益認識、5. 公開草案第6号(採掘産業)のコメント分析、6. 中小規模企業の会計基準、7. ジョイント・ベンチャー及び8. 保険会計(第2フェーズ)について議論された。IASB会議には理事13名が参加した(トム・ジョーンズ氏は欠席)。本稿ではこれらの議論の概要を紹介する。

    1.企業結合(第2フェーズ)

    第2フェーズに関する主な議論は既に2004年6月の会議で終了しており、公開草案へ向けての作業が開始されているが、今回の会議では、第2フェーズでの暫定合意をまとめるとともに、共同プロジェクトを推進している米国財務会計基準審議会(FASB)の達した結論と相違のある項目の取扱いについての議論が行われた。具体的には、1. FASBと異なる結論となっている項目の検討、2. 企業結合に関する会計基準以外の会計基準がFASBとIASBとの間で異なっているために生じている差異の確認(第2フェーズでは取扱うことができない事項)及び3. 第2フェーズでこれまでに達した暫定合意の一覧表の提示とその内容に関する質疑が行われた。今回の会議では暫定合意の一覧表の議論に相当の時間が費やされたが、ここでは、1. で検討されたFASBとの差異の取扱いに関する暫定合意の内容について紹介する。

    なお、議論の最後に、第2フェーズの公開草案に反対するかどうかに関してボードメンバーの意向が問われ、5名のボードメンバー(ガーネット氏、ウィッティントン氏、ブルンズ氏、ジェラード氏及び筆者)が反対する意向を示した。

    今後、今回確認された暫定合意に基づき公開草案のドラフトの作成が行われる。公開草案ドラフトは、IFRS第3号を全面的に書き換え、さらに、FASBとも同一の内容になるようにすることが意図されているため、その完成には少なくとも年末までかかるものと予想される。

    (1) 対価の超過支払いの取扱い

    企業結合では、通常は公正価値による交換が行われるが、例外的に取得企業の純資産に対する持分の公正価値を超える対価が支払われることがあり、このような場合、この超過額の取扱いに関して、FASBとIASBの間に相違があるため、議論が行われた。FASBは、当該超過額をのれんの一部に含めるべきと考えており、IASBは、これを取得日の損益として認識することを提案している。議論の結果、FASBに再考を促すとともに、もしFASBが同意しない場合には、両者の差異を残したままとし、公開草案において、両者の考え方を示した上でコメントを求めることが暫定的に合意された。

    (2) 支払対価が被取得企業の公正価値の最良の証拠であるという反証可能な前提

    企業結合が行われた場合、取得された企業の公正価値を測定するために取得企業が支払った対価をどのように扱うかについて、IASBでは、次のように考えている。

    1. 100%の取得の場合には、取得企業が支払った対価が取得された企業の公正価値の最良の証拠(the best evidence)であるという反証可能な前提を置かなければならない。
    2. 100%以下の取得の場合では、支配プレミアムが信頼を持って測定できる場合には、これを除いた支払対価を用いて取得された企業の公正価値を推測しなければならない。しかし、支配プレミアムが信頼を持って測定できない場合には、評価技法を用いて取得された企業の公正価値を推測しなければならない。いずれの場合においても、目的は、市場参加者が、取得日において100%を取得する場合に支払うであろう公正価値を測定することである。
      一方、FASBでは、次のように取扱うこととしている。
    3. 100%の取得の場合には、取得企業が支払った対価は、通常取得された企業の公正価値に比べより明確である(normally more clearly evident)。したがって、反証がない限り、取得企業が支払った対価は、取得された企業の公正価値の決定に用いなければならない。
    4. 100%以下の取得の場合では、取得企業が支払った対価は、通常取得された企業の公正価値を測定する最良の基礎(normally provides the best basis)を提供する。したがって、反証がない限り、取得企業が支払った対価は、取得された企業の公正価値総額の決定に用いなければならない。もし、取得企業が支払った対価が最良の証拠を提供しない場合には、評価技法を用いて取得された企業の公正価値を推測しなければならない。いずれの場合においても、目的は、市場参加者が、取得日において100%を取得する場合に支払うであろう公正価値を測定することである。

    両者の差異は、IASBでは、取得企業が支払った対価を企業の公正価値の最良の証拠としているのに対して、FASBでは、取得企業が支払った対価は「通常」最良の基礎を提供するとしている点である。特に、100%以下の取得の場合では、IASBは取得企業が支払った対価を重視しているのに対して、FASBでは、IASBほど取得企業が支払った対価を重視していない。このように両者には、それほど大きいとはいえないかも知れないものの差異が存在する。議論の結果、両者の差異を解消するため、FASBの文言を採用することが暫定的に合意された(この結果、反証可能な前提は置かれないこととなった)。

    (3) 事業(ビジネス)の定義

    2004年5月の会議で、IFRS第3号(企業結合)で次のように定義されている事業の定義を見直すことが暫定的に合意されている。

    「事業とは、次の目的のために執行され管理される統合された一組の活動及び資産をいう。

    1. 投資家に対してリターンをもたらす、又は
    2. コストを低減する、又は契約者又は参加者に対して直接かつ比例的にその他の経済的便益を提供する

    事業は、一般的に、インプット、インプットに対し適用されるプロセス、そして収益をもたらすために使用される結果としてのアウトプットにより構成される。移転された活動及び資産のグループがのれんを含む場合、そのグループは事業とみなされる。」
    この定義に加えられた変更の内容は、次のとおりである。

    • 「一般に」という用語をIFRS第3号の事業の定義の第2文から削除する。
    • 「移転された活動及び資産のグループがのれんを含む場合、そのグループは事業とみなされる」という文言をIFRS第3号の事業の定義から削除し、適用ガイダンスに含める。

    今回は、このような事業の定義の変更に伴う適用ガイダンスについての議論が行われた。すなわち、FASBが、定義の明確化を図るために適用ガイダンスの文言の改訂を考えており、IASBもこの改訂案を採用するかどうかが議論された。議論の結果、FASBと同様な内容の適用ガイダンスとすることが暫定的に合意された。
    ここでは、今回合意された改訂案のうち3つを紹介する。

    1. 事業の構成要素
      事業の構成要素として、1. インプット、2. インプットに対し適用されるプロセス、そして3. 収益をもたらすために使用される結果としてのアウトプットの3つがあることが定義に含まれているが、適用ガイダンスでは、このうち、1. 及び2. は、事業となるための必須の構成要素であるが、3. は必須のものではないことを明確化する。このように変更するのは、創業後間もない企業で成果を生み出すためにある程度の期間が必要とされる企業を事業の定義に含めるためである。
    2. のれんを含む資産グループの取扱い
      IASBは、「移転された活動及び資産のグループがのれんを含む場合、そのグループは事業とみなされる」という考え方を採用しているが、当初FASBはこのような考え方を採用していなかった。その後のFASBにおける検討の結果、FASBは、IASBの考え方を採用するために適用ガイダンスを見直した。
    3. 事業かどうかの判定
      ある特定の資産又は活動が事業に該当するかどうかは、取得の意思のある取得者(willing acquirer)が事業として管理することができるかどうかに基づいて判定すべきで、売手が事業として営んでいたか、又は買手が事業としようとするかという当事者の意思にはよらないことを明確にする。

    2.IAS第32号の改訂

    2004年6月の会議において継続審議とされていた、償還日の公正価値の比で発行体に対する残余持分の償還を受けることができる金融商品を資本とするのか負債とするのかという表示の問題に関する議論が行われた(これにはパートナーシップの場合も含まれる)。これは、当初IAS第32号(金融商品:開示及び表示)の解釈の問題として、ある企業から国際会計基準解釈委員会(IFRIC)に提起された問題であった。しかし、提起された問題は、IAS第32号の改訂によってしか解決できないと判断された結果、IASBにおいて議論することとなったものである。今回の議論では、IAS第32号における定義を変更して、保有者が公正価値でプットできる金融商品に対して例外を設けて資本の部に表示できるようにするかどうかが議論された。議論の結果、賛否がほぼ同数であったため、今回は結論を出さず、例外を設けるために定義を変更する場合にはどのような条件を追加すべきかについてさらに継続して検討することとされた。この間の経緯を詳述すると次のとおりである。

    1.問題の所在

    IAS第32号では、保有者が持分金融商品を現金又はその他の金融資産と交換に発行体に買戻させる権利を有している場合は、金融負債に該当することとされている(第18項(b))。ところが、IAS第32号では、ここで問題となっている償還日の公正価値の比で発行体に対する残余持分の償還を受けることができる金融商品については十分な検討をしておらず、また、このようなケースに単純にIAS第32号を適用して金融負債として表示すると、結果としておかしな状況が生じる恐れがあるため、IAS第32号の改訂も含めて議論を行っているものである。現行IAS第32号の規定では、公正価値でプットできる金融商品は金融負債として会計処理されるため、その測定には、IAS第39号が適用される。IAS第39号では、金融負債の当初認識以降の測定は原則として償却原価によることとされている(第47項)。しかし、ここで問題となっている公正価値でプットできる金融商品に対して償却原価法を適用することは償還日が確定できない等の理由で困難と見られており、議論では、当該金融商品を公正価値で測定することが前提とされている。そのため、純資産と公正価値でプットできる金融商品の公正価値に大きな差異がある場合には、当初認識以降公正価値によって金融負債を測定することにより大きな損失が損益計算書で認識されるので(金融負債が大きくなればその分だけ損失が増大する)、貸借対照表上、純負債となるとともにマイナスの未処分利益剰余金が表示されるという事態が起こりうる。このような変則的な事態を回避するため、IAS第32号に例外を作り、公正価値でプットできる金融商品は、金融負債として表示しないこととする必要があるかどうかが議論の焦点である。

    今回スタッフから次の4つのアプローチについて検討した結果、(d)を採用すべきという提案がなされ、議論が行われた。

    1. 公正価値でプットできる金融商品を資本として表示できるようにIAS第32号に例外を設ける。
    2. 公正価値でプットできる金融商品を負債として表示するものの、これに対する測定に例外を設け、公正価値の変動を認識しないこととする。
    3. 公正価値でプットできる金融商品のみならず、一般的に保有者がプットできる金融商品は、プットオプションとホストとなる金融商品に区分して表示を行うこととする。
    4. この問題に対応しない(IAS第32号の改訂は行わない)。
    2.議論と暫定合意

    議論では、(c)はIAS第32号の根本的な見直しとなるため、今回の解決策としては適切でないとされ(むしろ、今後金融商品の会計基準全般を見直すプロジェクトで取扱うべきであるとされた)、(b)についても測定に対する例外規定の新設に対する支持は少なかった。(d)を支持する考え方は、この問題で指摘されている点はIAS第32号の問題点ではあるが、拙速にIAS第32号を改訂することによって、予期しない帰結をもたらす恐れがあり、短期的に解決することは適切でないというものである。例えば、株式譲渡に関する制限条項を有している中小規模企業では、その中で発行体に公正価値で譲渡できる条項が含まれている場合があり、このような場合までも対象範囲に含まれてしまうことになる可能性があり、また、ミューチュアルファンドでその投資者が純資産に対する持分比率で償還を求めることができる場合も同様に対象範囲に含まれてしまう可能性がある。

    しかし、議論の過程で、スタッフ提案(今回はこの問題に対応しない)に対する賛否がほぼ同数であったため、(a)の方向で検討を進めた場合に、その適用対象が予期しない範囲まで拡大しないような条件を適切に特定できるかどうかについて、さらにスタッフに検討することが指示された。

    3.米国基準との短期統合化(政府補助金と負債の長短区分)

    米国会計基準との短期統合化プロジェクトの一環として、1. 政府補助金及び2. 負債の長短区分の2点について議論が行われた。IAS第20号(政府補助金の会計処理及び政府援助の開示)の改訂に関しては、その内容をIAS第41号(農業)の中にある政府補助金の会計処理に置き換えることが2004年2月に暫定的に合意されているが、その合意に基づき公開草案のドラフトの作成が続いている。今回は、その過程で出てきた解決すべき問題について議論が行われた。また、負債の長短区分については、IASBが暫定的に合意している長短区分の規準の一部についてFASBが同意しない決定を行ったので、その経緯が報告された。

    (1) 政府補助金

    1.経緯

    IAS第20号については、その規定内容が概念フレームワークに抵触するという批判があり、IAS第20号の見直しの必要性は従来から強く認識されていた。例えば、政府補助金が補償しようとしている費用と対応させるため政府補助金を「繰延収益」として負債で認識する会計処理、有形固定資産の取得に対する政府補助金を取得原価から控除するする会計処理(圧縮記帳)、さらに非貨幣性資産を政府補助金として受領した場合には、名目価額(nominal amount)で計上できるなど多様な会計処理が認められている。しかし、今回のIAS第20号の改訂は、IFRICが公表した排出権に関する解釈指針の公開草案がきっかけとなって浮上した。

    2004年2月のIASB会議では、IAS第20号を廃止すべきとの提案がなされたが、ただ単にIAS第20号を廃止し、政府補助金の会計処理をIAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)が定めるIFRSがない場合のヒエラルキーに委ねることは実務の混乱を招くとの判断から、IAS第41号で規定されている政府補助金に関する会計処理を拡大する形でIAS第20号を改訂することが暫定的に合意され、その合意に基づき作業が進められている。その過程で出てきた問題について今回議論が行われた。

    なお、IAS第41号の政府補助金の会計処理は、見積販売時費用控除後の公正価値で測定される生物資産(biological assets)に対する政府補助金に関するもので、1. 条件の付されていない政府補助金は、その受領が確定した時点で収益として認識すること及び2. 条件が付されている場合には、条件が満たされた時点で収益として認識すること(政府補助金が時の経過によって一部を返還しないことを認めている場合には時間の経過とともに収益として認識する方法を含む)が規定されている。

    2.議論された問題と暫定合意

    今回議論され、暫定的に合意された問題は、次の3点である。

    1. IAS第41号が採用しているモデルと今後改訂が予定されているIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」で採用されている考え方との間の矛盾の取扱い。
      IAS第41号では、条件付政府補助金は、条件が満たされた時点で収益として認識することとされている。これは、条件が満たされるまでは、政府補助金を返却しなければならないかどうかに拘らず全額を負債として認識することを求めていることになる。
      一方、現在改訂を予定しているIAS第37号では、偶発負債(条件付の義務)に対する考え方を変更し、偶発負債は、通常、1. 無条件の義務と2. 条件付の義務という2つの要素に分解されるという考え方を採用し、条件付の義務は条件が充足されない限り負債として認識されないものの、無条件の義務は負債として認識できることになる。例えば、製品保証の場合には、製品に欠陥が生じた場合に補修する義務(条件付の義務)と欠陥が生じた場合にはいつでも補修を行うという状態であり続ける義務(無条件の義務)という2つの義務が内在しており、前者の義務は、製品に実際に欠陥が生じ負うべき金額が決定した場合に負債として認識されるが、後者の義務はそれ自体が負債の定義を満たすため、この部分は欠陥の発生を待たずに負債として認識されることになるとされている(すなわち、最大金額が認識されることはない)。
      このように両者の考え方には矛盾がある。しかし、この問題は、本プロジェクトで取扱うことができない問題であり、このような矛盾があることを結論の根拠で示すことが暫定的に合意された。
    2. IAS第41号モデルに追加すべき適用ガイダンス。
      1. 「条件付」政府補助金の定義の追加
        IAS第41号では、「条件付」政府補助金の会計処理についての規定はあるが、どのような場合が「条件付」に該当するか明確な規定がないため、新たに「条件付」の定義を設けることが暫定的に合意された。
        「条件付とは、現在その発生が起こりえないと考えられているものを除く特定の将来事象が発生するか又は発生しない場合に、政府が付与した資源を返却させることができる条項である。」
        この定義の中では、条件付であるためには、「現在その発生が起こりえないと考えられていないことが必要とされる」という制限が導入されている。これは、政府補助金の条件を満たさない可能性が殆どないにも拘らず、単に「条件が付されている」というだけで収益認識が遅れることがないようにするためのものである(すなわち、条件付というためには、取引の実質が伴っている必要があるとされている)。
      2. 政府補助金の認識時点
        政府補助金は、政府から補助金を受領することができる権利を得た時点で認識すること(条件が付されていなければ収益として認識し、条件が付されていれば、対応する負債が認識される)が暫定的に合意された。
      3. 政府補助金の資産又は負債としての認識
        政府補助金は、政府から補助金として資産を受領することができる権利を得た時点で資産として認識し、政府が返済条件を放棄した場合には、負債のマイナスとして認識することを適用ガイダンスで明確にすることが暫定的に合意された。
    3. その他の問題
      1. 政府補助金の定義の修正
        政府補助金の定義の中には、「政府補助金は、企業の営業活動に関連するある種の条件に過去又は将来準拠することを条件に、当該企業に対する資源の移転という形で行われる政府からの支援である。政府補助金からは、政府補助金の価値が合理的に把握できない形式のもの及び企業の通常取引と区別できない政府との取引は除外される。」という文言が入っている。上記(b)(i)で記述したように、政府補助金の会計処理の規準の1つとして「条件付」かどうかが用いられていることから、定義の中に、下線部分のような「条件」という文言があることは、誤解を招く恐れがあるとの懸念があり、この文言を削除することが暫定的に合意された。
      2. 政府補助金の認識時点における減損テストの実施
        政府補助金を受領した時点で、政府補助金の対象となった資産に対して減損テストを義務付けることが暫定的に合意された。
      3. 低金利又は金利ゼロの貸付金及び政府保証の取扱い(第35項の修正及び第37項の削除)
        政府補助金の定義では、合理的に価値を把握できない政府補助金を対象から除外しており、そのような例として政府からの低金利又は金利ゼロの貸付金を挙げている(第37項)。したがって、IAS第20号の下では、企業は、政府からこのような貸付金を受領した時点でその受領額を負債として認識することになる。この取扱いは、IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の取扱いと首尾一貫しないこととなる。IAS第39号では、負債は当初認識時点での公正価値で測定することとなっている。IAS第39号と矛盾しない会計処理は、低金利又は金利ゼロの貸付金を受領時点の公正価値で測定し、受領した対価との差額を政府補助金として認識する処理である。このような取扱いとするために、第37項を削除することが暫定的に合意された。
        また、これと同様に第35項では、政府による保証も合理的に価値を把握できない政府補助金とされているが、IAS第39号では、当初認識時点での公正価値で負債の測定を行うこととなっている。このため、第35項の政府保証に関する記述を削除することが暫定的に合意された。

    (2) 負債の長短区分

    2003年12月に改訂されたIAS第1号(財務諸表の表示)では、貸借対照表日以後財務諸表の公表が承認されるまでに借換えが行われた借入金(第63項)及び貸借対照表日で財務制限条項に違反しているもののその後財務諸表の公表が承認されるまでに貸手が支払いを求めないことに合意した借入金(第65項)は、流動区分に表示することが求められている。この要求を米国会計基準に導入するかどうかを検討していたFASBは、この点に関しては、概念的にはIASBの考え方に賛成するものの米国会計基準を変更せず、包括利益の報告プロジェクトにおいてこの問題を取扱うこととしたことが報告された(2004年6月16日のFASB会議での決定)。

    FASBがこのような決定を行ったのは、次の理由による。

    1. 多くの非公開企業では、財務制限条項に違反したかどうかを四半期報告において適時に把握できる体制が整っていないとの指摘があったことを受け、費用対効果の観点から現時点では要求することは時期尚早であると判断されたこと。
    2. 負債の長短区分は、IFRSに基づく財務諸表を用いて米国市場で資金調達をしようとする企業にとって、米国会計基準とIFRSとの差異調整項目とされていないこと。
      なお、(a)に関連して、SMEプロジェクトにおいて、中小規模企業に関するこの問題をさらに分析することが暫定的に合意された。

    4.収益認識

    今回議論されたのは次の2点である(議題としては4項目が予定されていたが2項目のみが議論された)。今回の議論の目的は、報告企業が履行義務(performance obligation)を認識するに当たり、顧客の有する権利義務とミラーイメージの会計処理(顧客の視点による会計処理)を行うべきかどうかであった。スタッフからは、顧客の視点による会計処理は適切ではなく、顧客に対する企業の契約上の権利義務は、報告企業の視点によって会計処理することが適切であるとの提案を受け、議論の結果、スタッフ提案を支持するボードメンバーが多数を占めた。

    1. 契約上の履行義務の会計処理(顧客の視点と報告企業の視点による会計処理)の検討
    2. 概念モデルの長期工事契約への適用例の検討

    なお、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)の中には、本プロジェクトで採用されている資産負債アプローチに基づく収益認識のためのルール作りに懸念(議論の前提が現実を踏まえていない、財貨・サービスの引渡し前に収益を認識することになるアプローチは企業実態を反映しないといったもの等)があり、現在の議論は時間と資源を浪費していると考えられることから本プロジェクトを中止すべきとの意見がある。今回の会議の議論の最後にこのようなASBJの見解と助言がIASBのボードメンバーに伝えられた(FASBのスタッフが電話で傍聴しているので、間接的にFASBにも伝達された)。

    (1) 契約上の履行義務の会計処理(顧客の視点と報告企業の視点)

    1.議論の前提

    これまでの議論で、企業の履行義務を公正価値で測定するアプローチの適用に際しては、「法的解放金額(legal layoff amount)」(企業に残存するすべての債務を履行する法的な責任を引き受けてもらうために、測定日において第三者に支払われなければならない価格)で測定することが暫定的に合意されている。しかし、これに対して、履行義務は、顧客が企業に支払った対価(これを「顧客対価額(customer consideration amount)」という)であり、企業が履行義務を果たさなかった場合に顧客に返却しなければならない金額で測定すべきとの見解が一部のボードメンバーにあり、改めて、履行義務を測定する場合に「法的解放金額」によるべきか「顧客対価額」によるべきかを明確にするための議論が行われた。

    2.論点

    今回の議論は、次の設例に基づいて行われた。

    【設例】
    小売店Aは、メーカーから$250で購入したテレビを$300で販売している。これに加えて、$100の対価で、メーカーの保証期間1年に追加して2年の保証を提供している。過去の実績では、10台に1台の割合で故障が発生し、約$140の補修コストが生じる。外部の業者に保証契約を肩代りしてもらう場合には、テレビ1契約当たり$30を支払う必要がある。第1年度にテレビ10台について保証契約を締結し、契約と同時に対価1,000を受領した。小売店Aの保証は、第3、4年度から開始される。
    この場合、小売店Aが保証契約に関して負っている履行義務を次の3つのシナリオの場合どのように認識すべきかが議論された。

    • シナリオ1: 小売店Aが自ら補修サービスを行う。
    • シナリオ2: 小売店Aが補修の義務を外部の補修業者に有償で法律上完全に譲渡する。
    • シナリオ3: 小売店Bがその顧客に提供した保証契約の補修義務(小売店Aの保証内容と同一)を小売店Aが法律上完全に引き受ける。

    【分析】
    まず指摘しなければならないのは、この設例は、契約当初に契約の対価が顧客から小売店Aに支払われるという例であることである。顧客からの対価の受取が義務の履行とともに行われる契約は、ここでは対象とされていない。この設例に基づいて、「顧客の視点」に立って会計処理を行うと次のようになる。なお、ここで「顧客の視点に立つ」とは、顧客に対する負債(顧客から受領した対価=顧客対価額)を用いて報告企業の履行義務の公正価値を測定しようというものである。

    (a)シナリオ1(小売店Aが自ら補修サービスを行う)

    第1年度 現金 1,000 保証負債 1,000
    第2年度 (仕訳なし)
    第3・4年度 保証負債 500 収益 500
    保証費用  70 現金  70

    (b)シナリオ2(小売店Aは第1年度に補修の義務を外部の補修業者に有償で譲渡する)

    外部の補修業者への譲渡価額$300は、この時点での法的解放金額(小売店Aの履行債務を引き受けてもらうために第三者に支払われなければならない価格)である。

    小売店Aの仕訳
    第1年度 現金 1,000 保証負債 1,000
    第1年度 保証負債 1,000 現金 300
    収益 700
    補修業者の仕訳
    第1年度 現金 300 保証負債 1,000
    保証引受損失 700
    第3・4年度 保証負債 500 収益 500
    保証費用  70 現金  70

    (c)シナリオ3(小売店Aが第1年度に小売店Bの補修義務も引き受ける)

    小売店Bから引き受ける補修義務の譲渡価額$300は、この時点での法的解放金額(小売店Bの履行債務を引き受けてもらうために小売店Aに支払われなければならない価格)である。

    小売店Bの仕訳
    第1年度 現金 1,000 保証負債 1,000
    第1年度  保証負債 1,000 現金 300
    収益 700
    小売店Aの仕訳
    第1年度 現金 1,000 保証負債 1,000
    第1年度 現金 300 保証負債 1,000
    保証引受損失 700
    第3・4年度 保証負債 1,000 収益 1,000
    保証費用  140 現金 140

    上記シナリオにおいては、シナリオ2の小売店A及びシナリオ3の小売店Bは、保証契約の譲渡を行った日に(顧客に保証サービスを提供する前に)$700の収益(利得ではないかとの意見もある)を認識する。シナリオ2の補修業者とシナリオ3の小売店Aは、保証契約締結時に保証引受損失$700を認識することになる。

    3.暫定合意

    議論では、シナリオ2の補修業者とシナリオ3の小売店Aが、保証契約締結時に保証引受損失$700を認識することが問題とされ、保証契約を引き受けた時点で「顧客対価額」で履行義務を認識することは妥当ではないと暫定的に判断された。

    また、シナリオ3では、小売店Aは、顧客に直接保証契約を販売する(対価として$1,000を受領する)とともに、同一内容の保証契約を小売店Bから$300で引き受けている。両者の保証内容は同一であるので、小売店Aの履行義務は、その取得の経緯に拘らず$300で測定すべき点が暫定的に合意された。

    (2) 概念モデルの長期工事契約への適用例の検討

    契約上の権利義務に適用しようとしている現在検討中の概念モデルを次に示す長期工事契約に適用した場合にどのような結果となるかについての議論が行われた。

    【設例】
    請負業者が大規模な事務所と工場の建物を建設する契約を締結した。契約金額は、100,000千ドルで、契約の締結と同時に全額が顧客から請負業者に支払われる。契約の締結のために請負業者は、2,000千ドルを支払っている。建設は、基礎工事、構造及び仕上げの3工程からなり、請負業者が自ら行う場合と下請けに出す場合の見積り費用は次のとおりである。

    単位:千ドル 見積り費用
    自社が行う場合 下請けに出す場合
    基礎工事 12,000 18,000
    構造 36,000 45,000
    仕上げ 24,000 25,000
    合計 72,000

    88,000

    これに基づいて、工程ごとの収益及び費用について、概念アプローチによる場合とIAS第11号(工事契約)の工事進行基準による場合とを比較したものが次の比較表である。

    【分析】
    概念アプローチでは、各工程では下請けに出した場合の金額(第三者に委託する場合の公正価値)が収益として認識されるとともに契約総額100,000千ドルから下請け金額の合計88,000千ドルを差し引いた金額12,000千ドルが、契約獲得時に収益として認識される(契約獲得活動に対応する収益の認識)。また、自社が契約を履行する場合の見積り費用がそのまま実績として発生したと仮定されているので、費用としては、「自社が行う場合」に記載されている見積り費用が認識される。この結果、各工程での利益率は、それぞれ23%、20%、4%となる。なお、下請けに出す場合の見積り費用(88,000千ドル)が契約金額を上回る場合には、契約獲得時の収益がマイナスとなるとともに赤字契約として契約獲得時に損失が認識される(例えば契約金額が80,000千ドルであれば、契約獲得時に収益のマイナス8,000千ドルが認識される)。

    他方、工事進行基準では、収益合計を各工程で発生する原価により比例按分する処理が行われる。したがって、3つの工程での利益率は共通の28%となる。

    概念アプローチで採用されている考え方は、市場で成立している公正価値をベンチマークとして、これと比較して企業が効率よく義務を履行したかどうか(公正価値に対してオーバーパフォームしたか、アンダーパフォームしたか)を把握しようとするアプローチであるといえる。

    議論の結果、多くのボードメンバーは、概念アプローチの考え方を支持したが、契約獲得時に収益が認識されることに関する懸念を表明するボードメンバーもいた。特に、この設例のように契約時に対価が顧客から支払われるケースは現実のケースとは異なっており、対価が契約時に支払われないケースにおける場合にも契約獲得時に収益を認識することが可能かどうか今後さらに検討される予定である。

    5.公開草案第6号(採掘産業)のコメント分析

    2004年6月に引続き公開草案第6号(E6:採掘産業)に対するコメントの分析が行われた。受領したコメントは、54通であった。今回は、次の3点について議論が行われた。注目点は、探査・評価資産の減損に関連して、E6で導入を提案した「探査・評価資産のための現金生成単位」という考え方に多くの反対意見が寄せられたが、コメント提出者に誤解があるのではないかとの疑念から、改めてコメント提出者にその真意を尋ねることが合意されたことである。また、最終基準の公表は、2004年第4四半期が予定されている。

    1.  探査・評価資産(exploration and evaluation assets)の減損
    2.  発効日及び経過措置
    3.  今後の予定

    (1)探査・評価資産の減損

    探査・評価資産の減損については、1. 減損の兆候及び2. 資源探査・評価資産のための現金生成単位の取扱いの2点が議論された。

    1.減損の兆候

    探査・評価資産に対してIAS第36号(資産の減損)の規定を適用することについては異論はないものの、探査・評価資産については、その性質上回収可能額を決定するための情報の入手が十分行えないため、IAS第36号が適用されると殆ど即時に全額が減損として認識される可能性が非常に高い。そこで、減損テストを行うトリガーとなる兆候として通常とは異なるものを用いることが妥当とされ、次のような事実又は状況が生じた場合(これは例示列挙)とすることが暫定的に合意された。

    1.  企業が特定の地域の開発権を有している期限が、当期又は近い将来に到来するが、更新が予定されていない場合。
    2.  ある特定地域の鉱物資源の更なる探査又は評価が、予算化されていないか又は近い将来に計画されていない場合。
    3.  ある特定地域の鉱物資源の探査又は評価が、経済的に存続できるだけの資源量の発見に繋がっておらず、企業が当該地域での活動の継続を断念した場合。
    4.  開発は続けられるが、開発が成功するか又は売却するかによって探査・評価資産の簿価の回収ができないという十分な証拠がある場合。
    2.資源探査・評価資産のための現金生成単位

    E6では、「探査・評価資産のための現金生成単位」という新たな区分の導入を提案している。「探査・評価資産のための現金生成単位」は、探査・評価資産を含む継続的使用によってキャッシュ・フローを生み出す資産の最小の識別可能グループで、それに対して企業の直近の財務諸表で適用された会計方針に基づいて減損テストが行われるものと定義されている(ただし、セグメントを超えない単位)。このような特別の現金生成単位を導入した趣旨は、採掘活動のコストセンターレベルで減損テストを行うことを可能とするためであった。すなわち、IAS第36号の規定では、減損は、原則としてキャッシュ・フローを生み出す資産ごとにテストを行うこととされ、資産グループがキャッシュ・フローを生み出す場合には、現金生成単位でテストが行われる。この考え方を探査・評価資産に適用すると、例えば、原油の採掘の場合、油井単位でキャッシュ・フローが把握できることからその単位で減損テストが行われることを意味し、場合によっては非常に細かい単位で探査・評価資産に対して減損テストを行う必要が出てくる。そのような事態の発生を回避するため、「探査・評価資産のための現金生成単位」の導入が提案されていた。
    このような提案に対しては、多くのコメントが導入の必要はないと反対しているが、IASBとしては、コメント提出者に誤解があるのではないかという疑念が払拭できないため、改めて、導入は不要としたコメント提出者等にその真意を尋ねることが合意された。さらに、その結果を受けて、2004年9月の会議でこの問題に結論を出すことが合意された。

    (2)発効日及び経過措置

    E6では、発効日を2005年1月1日からとしていたが、これを変更し、2006年1月1日からとすることが暫定的に合意された(早期適用が推奨される)。また、適用初年度には、過去の比較財務諸表において比較情報を提供しなくてよいという例外措置を導入することが暫定的に合意された。

    (3)今後の予定

    2004年9月の会議でE6に関する議論を終了し、最終基準を2004年第4四半期に公表することが予定されている。

    6.中小規模企業の会計基準

    2004年6月にディスカッション・ペーパー「中小規模企業の会計基準に対する予備的見解」が公表され、9月24日を期限としてコメントを求めている。その間を利用して、IFRSのSME版の検討が進められている。2004年6月会議では、IAS第1号(財務諸表の表示)、IAS第2号(棚卸資産)、IAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)、IAS第10号(後発事象)、IAS第19号(従業員給付)及びIAS第24号(利害関係の開示)のSME版が議論された。今回は、これに引続き、概念フレームワーク、IAS第16号(有形固定資産)、IAS第18号(収益)及びIAS第23号(借入費用)のSME版が議論された。

    今回提示されたSME版のうち、概念フレームワークのSME版については、概念フレームワークのSME版を作ることによって、SME以外の企業に適用される概念フレームワークとSMEに適用される概念フレームワークは異なるものであると誤解される恐れもあることから、概念フレームワークのSME版を現時点で検討するのは適切ではないとの意見が多く出された。その結果、ディスカッション・ペーパーのコメントを待って概念フレームワークのSME版の検討を行うこととされ、議論は先送りされた。

    前回及び今回の議論は、ディスカッション・ペーパーで提示された考え方をそれぞれのIFRSに適用することによって問題点を洗い出すために行われたものである(したがって、SME会計基準についてなんらの決定も行われていない)。
    また、今後も、それぞれのIFRSのSME版の検討を2004年12月まで継続する予定で、ディスカッション・ペーパーに対するコメントの検討は、10月から行われる予定である。その後の予定は、コメントによるディスカッション・ペーパーの内容の見直しによって異なるが、2005年6月の公開草案の公表を目指している。

    7. ジョイント・ベンチャー

    1.経緯

    ジョイント・ベンチャーに対する会計処理としては、IAS第31号(ジョイント・ベンチャーに対する持分)において持分法と比例連結の双方が認められている。ジョイント・ベンチャーに対する会計処理の見直しの必要性は、2002年10月に開催されたリエゾン国会議で認識され、オーストラリアの会計基準設定主体(AASB)にジョイント・ベンチャーに関する会計処理方法の検討・見直しが依頼された。

    これを受けて、AASBは、2003年4月にリサーチ・プロジェクトの概要をまとめたペーパーをリエゾン国会議に提出された。このときに準備されたペーパーでは、ジョイント・ベンチャーの定義の再検討(ジョイント・ベンチャーと資産に対する非分割持分(undivided interest)との間の区分をどのように行うか等)及びジョイント・ベンチャーに対する会計処理として持分法及び比例連結のほか原価法や公正価値法の検討が行われた。その結果、公正価値法が最良と考えられるが、どこの会計基準設定主体でも採用されていない方法であり、持分法が現実的な選択肢であると提案されている。これを受けて、ジョイント・ベンチャーの会計処理に関するリサーチ・プロジェクトは、長期的なプロジェクトとして取り上げることが決定され、オーストラリア、中国・香港、マレーシア及びニュージーランドからなるプロジェクト・チームが組成された。

    2004年4月に開催されたリエゾン国会議には、プロジェクト・チームから、リサーチ・プロジェクトの進め方に関する提案が提出された。この提案を受けて、このリサーチ・プロジェクトを2つに分け、1. 現行IAS第31号の2つの選択肢を1つに統合する短期プロジェクトと2. フィールドテストを含む長期的なプロジェクト(ジョイント・ベンチャーの構造、ジョイント・ベンチャーの実質と法形式との関係、定義、適切な会計処理方法及び開示等を検討対象とする)に分けることが決定された。

    2.議論された問題と暫定合意

    今回の議論では、プロジェクトを長短2つに分けることに対して、長期的なプロジェクトで取扱うジョイント・ベンチャーの特徴に関する議論を完成させずに(特にジョイント・ベンチャーと資産に対する非分割持分との間の区分をどのように行うかといった問題)短期プロジェクトに取り組むことができるのかといった点に疑問が提起された。そのため、今回の議論では、短期プロジェクトを取り進めることについて最終的な合意に達しなかった(ただ、もし短期プロジェクトを進めるのであれば、ジョイント・ベンチャーのプロジェクト・チームではなく、FASBとIASBとの統合化を進めているチームが担当すべきことについては暫定的に合意された)。

    このような事情から、今後のとり進め方として、1. AASBに対して、長期プロジェクトを前倒して行えるかどうかスケジュールの見直しを依頼すること、さらに、2. スタッフに対して、短期プロジェクトで検討すべき項目の明確化及びそれらが短期的に解決できるかどうかについての検討を行うことが指示された。

    8.保険会計(第2フェーズ)

    第2フェーズについては、2003年1月以降議論が行われていない。2004年秋以降の本格的な第2フェーズの議論に向けて、今回は、ボードメンバーに対する教育的な目的で、従前に議論を行った、繰延法(Deferral and Matching method)と資産負債法(Asset and Liability method)による保険契約の会計処理の違いを比較した資料に基づく議論が行われた。今回は、2つの方法の相違を確認するための議論が行われたのみで、合意された事項はない。
    また、資料の中には、第2フェーズで検討し解決すべき問題点として次のようなものがあることが記述されている。

    1.第2フェーズで解決すべき問題点

    1. 会計処理のためのモデル。1. 全ての契約に対して単一のモデルを設定すべきか、異なったタイプの契約には異なったモデルを設定すべきか、及び2. 会計モデルは契約上の資産・負債を直接測定する方法、契約から生じる収益・費用を繰延対応させる方法、もしくはその2つの組み合わせによるべきかといった問題。
    2. 測定。1. 資産・負債法を採用する場合、公正価値、企業固有価値、またはいくつかの組み合わせを基礎とした測定を用いるべきか、2. 測定属性として公正価値を用いる場合、企業・消費者間測定(顧客対価額)又は企業間測定(法的解放金額)を用いるべきか、及び3. 測定に当たっては、契約に組み込まれたオプションや保証を考慮するべきかといった問題。
    3. 割引。貸借対照表において認識される金額の測定は、現在価値を基礎として行うべきかどうかという問題。
    4. 資産・負債の相互関連。測定モデルは契約から生じる負債の帳簿金額を決定するに際して、資産から生じる期待収益を取り込むべきかといった問題。
    5. リスク・サービス調整。会計モデルの中に、リスク(又はサービス)調整をどのように取り込むかといった問題。
    6. 負債の初期認識・測定から生じる損益。会計モデルにおいては、初期認識における正味損益の認識を禁止もしくは相当程度制限すべきかといった問題。
    7. 保険契約者の行動。会計モデルは、保険契約の更新もしくは解約の結果を反映したキャッシュ・インフロー及びキャッシュ・アウトフローの期待を取り込むべきかといった問題。
    8. 新契約費。会計モデルは、新契約獲得に際して発生した費用を資産として計上し、償却していくべきか、発生時に費用として認識するかといった問題。
    9. アンバンドリング。測定モデルは、保険契約の構成要素をそれぞれに分離し、それぞれを別々に測定するべきかといった問題。
    10. 有配当契約。有配当契約保有者に対する保険会社の負債は、どのように認識・測定すべきかといった問題。
    11. 信用格付け。測定には企業の信用格付けの影響を考慮すべきかどうかといった問題。

    2.繰延法等を採用した場合の追加論点

    上記の問題のほとんどは、資産・負債法又は繰延法の会計モデルに関するものであるが、もし何らかの計算式に基づいたモデル又は繰延法モデルを適用する場合には、さらに次の2つの追加の問題が生じる。

    1. 属性モデル(Attribution model)。会計モデルがどのように保険契約でカバーされる個別保証期間に収益・費用を帰属させるかという問題。
    2. 見積りの変更。会計モデルはどのように金利の変更及び将来キャッシュ・フローの見積りの変更を取り扱うのか、当期に実現した金額と過去に見積もった金額との間の差異に対しては異なったアプローチを用いるべきなのかといった問題。

    以上
    (国際会計基準審議会理事 山田辰己)