ASBJ 企業会計基準委員会

第36回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第36回会議が、2004年6月21日から23日までの3日間にわたりノルウェー・オスロ市のグランドホテルで開催された。今回の会議では、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第32号(金融商品:開示及び表示)の改訂、3. リース、4. 米国会計基準との短期統合(税効果会計)、5. 収益認識、6. 連結及びSPE、7. 公開草案第6号(採掘産業)のコメント分析、8. 負債と資本の区分(米国財務会計基準審議会(FASB)が検討しているアプローチの検討)、9. 中小規模企業の会計基準及び10. 解釈指針について議論された。IASB会議には理事13名が参加した(トム・ジョーンズ氏は欠席)。本稿ではこれらの議論のうち1. から6. までの議論の概要を紹介する。

1.企業結合(第2フェーズ) 

今回の会議では、第2フェーズのドラフトの作成中に生じた問題について前回に続いて議論が行われた。したがって、いずれの問題も極めて技術的な内容のものである。具体的には、1. 第2フェーズの適用に伴う経過措置(当初認識後の修正)、2. 第2フェーズの適用に関する経過措置(独立偶発負債)、3. 相互会社、4. 公正価値のヒエラルキーの変更、5. 適用ガイダンスの追加、6. バーゲンパーチェスの場合ののれんの減額及び7. 取得企業によって置換された被取得企業の株式報酬制度の取扱いの7点について議論が行われた。

(1) 第2フェーズの適用に伴う経過措置(当初認識後の修正)

1. 問題の所在

IFRS第3号(企業結合)では、企業結合の当初認識が完了した後に発生する修正は、原則として誤謬の修正に限定されている(第63項)。しかし、これには下記に示す2つの例外があり、これらに限り修正をすることができる。

  1. 企業結合時には発生の可能性が低いか又は信頼を持って測定できなかったため企業結合時の会計処理では費用として認識されていなかったが、企業結合後の将来事象に依存して決まる費用の調整(事後的に企業結合の会計処理が修正される)
  2. 企業結合時には独立して認識する規準を満たしていなかったが、企業結合後に実現したことにより繰延税金便益(deferred tax benefits)が認識されることとなった場合ののれんの簿価の修正(のれんが減額されるとともに繰延税金便益が認識される)

ところが、現在行われている企業結合の第2フェーズでは、将来事象に依存して決まる費用が企業結合後に発生した場合には、企業結合の当初の会計処理を修正することなく、発生時の費用とすることが暫定的に合意されている。さらに、企業結合後に実現する繰延税金便益についても、原則として発生時に収益として認識することが暫定的に合意されている。また、第2フェーズの会計処理は、将来に向かって適用することとされ、遡及適用は禁止される予定である。

このようにIFRS第3号と第2フェーズの会計基準において、同一の事象の取扱いに差異があり、また、第2フェーズは将来に向かって適用されることから、第2フェーズの会計基準が発効した後、それ以前に起こり現行のIFRS第3号が適用される企業結合から発生する将来事象に依存して決まる費用や繰延税金便益の取扱いをどうするかが問題となり、今回議論が行われた。

2. 暫定合意

議論の結果、それぞれの項目について、次のように取扱うことが暫定的に合意された。

  1. 第2フェーズの会計基準が発効する以前に起こった企業結合から発生する将来事象に依存して決まる費用の調整については、現行IFRS第3号の取扱いを継続して適用する(事後的に企業結合の会計処理が修正される)。
  2. 企業結合時には区分して認識する規準を満たしていなかったが、企業結合後に実現したことにより繰延税金便益が認識されることとなった場合には、原則としてのれんの簿価の修正を行わない(現行の取扱いの変更となる)。ただし、企業結合後12ヶ月以内に繰延税金便益が認識されることとなる場合には、反証可能な推定として、実現した繰延税金便益は、企業結合時に存在していた状況に関連するものとみなし、のれんの簿価の修正を行う。

このように将来事象に依存して決まる費用と繰延税金便益との間の取扱いを異なるものとしたのは、税効果の会計処理は、第2フェーズの対象範囲に含まれていないため、それ以外の企業結合に関連する費用の取扱いと同じにする必要がないこと及びFASBの取扱いと同様な取扱いとするためである。

(2) 第2フェーズの適用に関する経過措置(独立偶発負債)

1. 問題の所在

IFRS第3号では、企業結合に当たり、公正価値を信頼を持って測定できる場合には、被取得企業の偶発負債を区分して認識することを要求している。そして、当初認識後には、IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)によって認識された金額又は当初認識額のいずれか高い方で測定することとされている。

ところが、第2フェーズでは、偶発負債(条件付の義務)に対する考え方を変更し、偶発負債は、通常、1. 無条件の義務と2. 条件付の義務という2つの要素に分解されるという考え方を採用している。その結果、条件付の義務は条件が充足されない限り負債として認識されないものの、無条件の義務は負債として認識できることになる。例えば、製品保証の場合には、製品に欠陥が生じた場合に補修する義務(条件付の義務)と欠陥が生じた場合にはいつでも補修を行うという状態であり続ける義務(無条件の義務)という2つの義務が内在しており、前者の義務は、製品に実際に欠陥が生じ負うべき金額が決定した場合に負債として認識されるが、後者の義務はそれ自体が負債の定義を満たすため、この部分は欠陥の発生を待たずに負債として認識することになる。

しかし、偶発負債には、無条件の義務を随伴しないものがある。例えば、欧州における廃自動車指令(end-of-life vehicle directive)の例がある。自動車メーカーは、2002年7月以降製造された自動車又は、2002年7月以前に製造され2007年7月以降も使用されている自動車の廃棄費用の一部を負担しなければならないという指令が、2002年9月に発効している。遡及適用を伴う将来の法律の改訂によって企業に生じる廃棄費用の一部負担という義務は、自動車メーカーが自動車を製造した際に生じる条件付の義務(偶発負債)である。すなわち、廃自動車指令が2002年9月に発効した際に、2002年7月以前に製造され2007年7月以降も使用されている自動車の廃棄費用の一部を負担しなければならないという内容が含まれたため、遡及適用規定によって企業に負担が生じている。しかし、このような遡及適用によって生じるかもしれない義務は、常に、法律が改正され遡及適用される場合には自動車メーカーはいつでもこれを受け入れる状態であり続ける義務を伴っていると解釈することには無理がある。このため、IASBは、遡及適用を伴う将来の法律の改訂によって生じる義務は、偶発負債を生じさせるが、無条件の義務を随伴しないと考えることで暫定的に合意している。このような、偶発負債を生じさせるが、無条件の義務を随伴しない義務を「独立偶発負債(standalone contingent liabilities)」と呼んでいる。

このように、現行IFRS第3号と第2フェーズでは、偶発負債に関する取扱いが大きく変わっている。このため、IFRS第3号で企業結合に当たり負債として認識された偶発負債のなかには、新しい考え方の下では、無条件の義務とはされないもの(すなわち、条件付の義務)が含まれている可能性があり、このような負債は、第2フェーズの会計基準の下では負債として認識することはできなくなる。今回問題となったのは、IFRS第3号の下で認識されてしまった独立偶発負債(無条件の義務を随伴しない偶発負債)を第2フェーズの会計基準発効後も負債として認識し続けることを認めるかどうかであった。

2. 暫定合意

議論の結果、第2フェーズの会計基準の考え方を遡及適用し、現行IFRS第3号の下で負債として認識されている独立偶発負債は、第2フェーズの会計基準の発効後は、負債として認識しないこととすることが暫定的に合意された。したがって、独立偶発負債として認識されていた金額は、のれんに振り戻されることとなる(企業結合時点以降損益として認識されている部分があれば、期首の剰余金が修正される)。

(3) 相互会社

1. 問題の所在

2004年4月に「IFRS第3号の改訂-特殊な形態の企業結合の会計処理の明確化」という公開草案が公表されている。これは、以下の2つの企業結合を2004年3月に完成したIFRS第3号(企業結合)の適用対象とするための改訂である。

  1. 複数の相互会社の企業結合
  2. 所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合

公開草案では、企業結合の対価の測定が容易でない(通常対価の授受がない)ことに鑑み、これら2つの企業結合の会計処理として、被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債の公正価値累計額を企業結合のコストとみなし、取得企業にのれんは生じさせないという提案を行っている(ただし、対価の授受があればその範囲でのれんが生じる)。

今回、これとは別に、上記2つの企業結合に関する会計処理を第2フェーズの範囲として取扱うかどうかが議論された。このような議論が行われたのは、1. 第2フェーズでは、取得法(従来パーチェス法と呼ばれてきたが、これを改称することが暫定的に合意されている)による会計処理の適用の仕方についてより詳細な規定を作ることを目指しているが、上記2つの企業結合に対しても取得法を適用することが妥当ではないかという問題意識及び2. FASBが別途相互会社の企業結合について検討を行っており、FASBとの会計基準の統合化を図る必要があるという考え方が背景にあったためである。

2. 暫定合意

議論の結果、上記2つの企業結合を第2フェーズの公開草案に含める方向で検討することが暫定的に合意された。既に触れたように、FASBが別途カナダの会計基準設定主体と相互会社間の企業結合に関するプロジェクトを進めており、ここでの検討項目の中でIASBが検討していない項目を今後IASBも検討することが合意された。これによって、相互会社の取扱いについて、FASBと同じ内容を第2フェーズの公開草案に反映できることとなる。

(4) 公正価値のヒエラルキーの変更

第2フェーズでは、企業結合によって取得した企業を公正価値で測定することを前提として議論が行われており、FASBとIASBは、首尾一貫した適用のために公正価値による測定のためのガイダンスに合意していた。これまでに両者で合意していた公正価値のヒエラルキーは別表に示しているが、FASBは、別途進めている「公正価値測定」プロジェクトにおいて、これまでの合意内容とは異なる公正価値のヒエラルキーに合意した(このプロジェクトの成果は、2004年6月23日に公開草案「公正価値測定」として公表された)。このため、FASBは、第2フェーズの公開草案でもこの変更後の公正価値のヒエラルキーを用いることとしている。

このような状況の変化を受けて議論を行った結果、IASBの第2フェーズにおいても、会計基準の統合化のためFASBと同じ公正価値のヒエラルキーを持つべきであるとの暫定的な合意に達し、今後の会議において、FASBが新たに提案している公正価値のヒエラルキーの内容についてIASBも検討を行うことが合意された。また、将来IASBが同様な会計基準を設定することになる可能性を示唆した上で、FASBの公正価値測定に関する公開草案をIASBも公開草案として公表し、意見を求めることが暫定的に合意された。

【公正価値のヒエラルキー】

従来のFASBとIASBの合意 FASBの公開草案の提案
レベル1 測定日又はその直近日の同一資産又は負債の市場取引の観察可能な価格を参照して公正価値の見積りを行う。 同一資産又は負債の活発な市場(直ちにアクセスできる市場)の建値を用いて公正価値を決定する。建値は調整しない。複数の市場があるときは、最も有利な市場取引価格を考慮する。ビッド及びアースクトがある市場では、長期資産にはビッド価格を、負債にはアースクト価格を用い、相殺ポジションには仲値を用いる。
レベル2 測定日又はその直近日の類似する資産又は負債の市場取引の観察可能な価格を調整して公正価値の見積りを行う。 類似する資産又は負債の活発な市場の建値に差異に見合う調整を行って公正価値を決定する。公正価値を測定しようとする資産又は負債と類似する資産又は負債との価格の差が客観的に決定できなければレベル2の測定を用いることはできない(その場合にはレベル3の測定が適用される)。
レベル3 その他の評価技法を用いて公正価値の見積りを行う。評価技法は、市場参加者が測定日現在で知ることができる事実又は情報に基づいて用いるであろう前提を織り込んだものでなければならない。そのような情報が入手できなければ、簡便法として、企業自身が設定した前提を用いることもできる。 これらの評価技法を適用するための情報が、過重な費用と労力なしに入手可能な場合には、(市場アプローチ、収益アプローチ及び費用アプローチと整合的な)複数の評価技法を用いて公正価値を見積もる。複数の評価技法を適用するための情報が得られない場合には、最良の交換価格を推定できる評価技法を用いなければならない。レベル3では、複数の評価技法の選択及び適用に関する判断を行わなければならない。

(5) 適用ガイダンスの追加

FASBは、第2フェーズの公開草案の中に、被取得企業の公正価値を測定する際に、対価の交換が行われない場合や交換した対価が被取得企業の公正価値を適切に示さない場合には、評価技法を用いて公正価値を決定すべきであるという適用ガイダンスを追加することを決定している。そして、その具体的な方法として市場アプローチ(比較可能な企業の公開市場で取引されている価格又は企業結合の条件が公開されている比較可能な企業を含む取引に基づいて公正価値を推定する)と収益アプローチ(将来キャッシュ・フロー又は収益に関連する評価属性の価値を見積もって公正価値を推定する)についての説明を加えている。この決定を受けて、IASBもこのようなガイダンスを第2フェーズの公開草案に追加すべきかどうかが議論され、ガイダンスを追加することが暫定的に合意された。

(6) バーゲンパーチェスの場合ののれんの減額

企業結合が等価の交換ではなく行われる場合において、取得した企業の公正価値が支払った対価の公正価値を超える場合(バーゲンパーチェス)、当該超過額をのれん総額から控除すべきかどうかが議論された。第2フェーズでは、のれんの認識に当たり全部のれん方式を採用することを決定しており、企業結合では、少数株主持分に相当するのれんも認識されることとなっている。バーゲンパーチェスは、取得企業と被取得企業の株主との間の交渉によって起こるため、その結果として生じる超過額をのれん総額から控除すべきか、又は、親会社持分に相当するのれんのみから控除すべきかが議論された。

議論の結果、バーゲンパーチェスによる超過額をのれん総額から控除し、それでも控除しきれなかった場合には、収益として認識するという取扱いをすることが暫定的に合意された(仮にのれんのうち親会社持分相当額のみを減額する方法を採用すると、少数株主持分相当額ののれんが残ったまま収益が認識される場合が生じることが懸念された)。これは、FASBと同じ見解である。

(7) 取得企業によって置換された被取得企業の株式報酬制度の取扱い

企業結合の結果、被取得企業が有していた株式報酬制度が取得企業の制度と置き換えられた場合の取扱いについて、FASBが議論を行い暫定的な合意に達したため、今回IASBにおいても議論が行われた。IFRS第2号(株式報酬制度)では、企業結合に関連するこの問題は取扱われていないため、この問題は第2フェーズの公開草案で取扱われる。ここでの論点は、置換によって生じる費用を企業結合のコストの一部として認識するか、結合後の企業の費用と見るか(又は両者に配分するか)である。

議論の結果、次の取扱いが暫定的に合意された。

  1. 取得企業が被取得企業の有する株式報酬制度を置き換える義務を有する場合には、置換された株式報酬制度は企業結合に関連するものとみなす。すなわち、置換義務を有する被取得企業の株式報酬制度は、第2フェーズの会計基準の対象範囲に含まれ、企業結合の会計処理の一環として会計処理される(置換の義務がない場合には、企業結合後に導入された株式報酬制度とみなし、IFRS第2号が適用される)。
  2. 置換された株式報酬制度には、「修正付与日法(modified grant date method)」を用いることとし(すなわち、IFRS第2号を適用する)、企業結合で用いられる「公正価値測定モデル」は用いない(企業結合では、持分金融商品は企業結合日の公正価値で測定され、それ以後再測定されないこととされているが、置換された株式報酬制度にはこの考え方を適用しない)。
  3. 企業結合日において、置換された株式報酬制度の公正価値が被取得企業の株式報酬制度の公正価値を上回る場合には、当該超過額は、取得企業の企業結合後の費用として会計処理する。
  4. 置換された株式報酬制度の費用を企業結合の費用と企業結合後の費用とに按分する考え方の主なものには次のようなものがある。
    1. 被取得企業の株式報酬制度において権利が確定していなかった場合には、1. 置換された株式報酬制度の公正価値が被取得企業の株式報酬制度の公正価値を上回る超過額及び2. 被取得企業の株式報酬制度の企業結合日の公正価値のうち権利が確定していない者に対応する未認識部分(権利確定までに3年を要する株式報酬制度で、企業結合日の公正価値が35、企業結合日までに1年しか経過していないときには、35×2÷3が未認識部分となる)の合計額が、企業結合後の費用として認識される。
    2. 権利が確定している被取得企業の株式報酬制度を権利が確定している取得企業の株式報酬制度と置換する場合には、後者の公正価値が前者の公正価値を超える部分は企業結合後の費用として認識される。
    3. 権利が確定している被取得企業の株式報酬制度を権利が確定していない取得企業の株式報酬制度と置換する場合には、企業結合日の公正価値を、前者において権利確定までに必要とされていた年数(仮に4年とする)と後者において権利確定までに必要とされる年数(仮に3年とする)の合計期間にわたって按分する。したがって、企業結合後の費用となるのは、企業結合日の公正価値の7分の3である。
  5. 置換後に株式報酬制度に変動(例えば、サービス条件又は業績条件を満たせなかったために失効する)が起こった場合でも、企業結合の費用として認識した金額の修正は行わない。すなわち、事後の変動によって企業結合後の費用は生じない。

2.IAS第32号の改訂

IAS第32号(金融商品:開示及び表示)に関連して、1. 公正価値でプット(償還を求めることが)できる金融商品を金融負債として表示することの妥当性(資本として表示すべきか)及び2. 資本と負債要素を持ち、かつ、複数の組込みデリバティブを有する金融商品(期限前償還条項付転換社債)に求められている開示の一部を削除すべきかどうかが議論された。前者については、さらに検討することとされ、後者については開示の一部を削除することが暫定的に合意された。

(1) 公正価値でプットできる金融商品

今回議論されたのは、償還日の公正価値の比で発行体に対する残余持分の償還を受けることができる株式を資本とするのか負債とするのかという表示の問題である(これにはパートナーシップの場合も含まれる)。IAS第32号では、保有者が持分金融商品を現金又はその他の金融資産と交換に発行体に買戻させる権利を有している場合には、金融負債とすることとされている。しかし、IAS第32号では、償還日の公正価値の比で発行体に対する残余持分の償還を受けることができる株式については十分な検討をしておらず、また、このようなケースに単純にIAS第32号を適用すると、公正価値でプットできる金融商品は金融負債として会計処理されるため、純資産と公正価値でプットできる金融商品の公正価値に大きな差異がある場合には、変則的な事態が生じる恐れがある。すなわち、公正価値でプットできる金融商品を負債として処理すると、その後公正価値によって負債を測定することにより大きな損失が損益計算書で認識されるので、貸借対照表上、純負債となるとともにマイナスの未処分利益剰余金が表示されるという事態が起こりうる。このような変則的な事態を回避するため、IAS第32号に例外を作り、公正価値でプットできる金融商品は、金融負債として表示しないこととする必要があるかどうかが議論された。

今回の議論では結論に至らず、スタッフに対して次の3つのアプローチについてさらに検討することが指示された。

  1. 公正価値でプットできる金融商品を資本として表示できるようにIAS第32号に例外を設ける。
  2. 公正価値でプットできる金融商品を負債として表示するものの、これらに対する測定を変え、公正価値の変動を認識しないこととする。
  3. 公正価値でプットできる金融商品のみならず、一般的に保有者がプットできる金融商品は、プットオプションとホストとなる金融商品に区分して表示を行うこととする。

(2) 開示要求の一部削除

現在IASBでは、金融リスクの開示に関する公開草案(この公開草案には、IAS第32号の開示に関する部分が移管される予定)を準備中であるが、その過程で、IAS第32号第94項(d)で求めている開示のうち負債要素の実効金利の開示を削除すべきとの提案がスタッフから寄せられ、検討が行われた。検討の結果、スタッフの提案どおり、この開示規定は削除されることとなった。

IAS第32号第94項(d)では、企業が、資本と負債要素を持ち、かつ、その価値が相互に依存しあっている複数の組込みデリバティブを有する金融商品(例えば、期限前償還条項付転換社債)を保有している場合には、1. そのような特徴の開示及び2. 負債要素(区分表示される組込みデリバティブを除く)について実効金利の開示が求められている。このうち、実効金利の開示は、費用対効果の観点から開示を削除してよいのではないかとの指摘を受けて検討が行われたものである。この暫定的な合意は、金融リスクの開示に関する公開草案に反映される予定である。

3.リース

本プロジェクトでは、リースの貸手と借手がリース契約から生じる権利と義務を資産及び負債として認識するというアプローチを採用して検討が行われている。今回は、借手が認識した資産及び負債が、リース期間の経過とともにどのように会計処理され、損益計算書において表示されるかについて英国財務会計基準審議会(ASB)が用意した次に示す5つの設例を用いて議論が行われた。

  1. 典型的なリース(利用権の対価として固定リース料の支払いが行われるリース)
  2. 価格変動といった外部要因に基づいて変動するリース
  3. 借手の利用量に基づいて変動するリース
  4. 借手の財務業績又はその他の業績に基づいて変動するリース>
  5. 更新オプションの付いたリース

これらの例を基に、リース資産は定額償却を行い、リース負債については、償却、時間の経過に伴う金利費用(割引効果の振戻し)及び市場の金利やリース料支払予定額の変動に伴うリース負債の再評価といった要素をどのように損益計算書で表示するかが検討された。

(1) 採用されるモデル

今回の設例で用いられたモデルは、利用権を示すリース資産は取得原価で測定し(取得時は、その時点の公正価値=支払った対価で認識し、その後は取得原価から減価償却費及び減損を差引いた金額を簿価とする)、リース負債は期末の公正価値で測定するというものである。すなわち、当初認識時点では、資産及び負債ともにその時点の公正価値で測定するが、それ以後の測定は、資産と負債で異なるモデルが採用されている。このモデルに対して、現行のIFRSと整合的なモデルについても検討すべきとの指摘があり、リース資産についてはIAS第16号(有形固定資産)又は第38号(無形資産)、リース負債についてはIAS第37号(引当金)又は第39号(金融商品)を基にした測定ベースを持つモデルを検討することの必要性が示唆された。

(2) 借手の利用量又は収益に基づいて変動するリース契約

借手の利用量に基づいてリース料が変動するリース契約においては、1. 最低利用量を資産及び負債として認識する方法と2. 予想利用量を資産及び負債として認識する方法が検討された。後者の方法を支持するボードメンバーが多かったが、後者の方法による場合、その後予想利用量が変動した場合にどのように会計処理すべきかについても議論された。予想利用量が変動した場合には、支払うべきリース負債の見直しが行われるが、その相手勘定としては、1. 直ちに損益として認識する処理と2. リース資産に加減する処理の2つがあることが議論された。

借手の収益等財務指標の変動に基づいてリース料が変動するリース契約においては、1. 予想される収益に基づいて見積もられる負債を認識する方法と2. そのような偶発性のある負債は認識しない方法が検討された。前者の方法による場合、その後の見積りの変動に伴う負債の変動は、負債の簿価に反映されるが、その相手勘定としては、1. 直ちに損益として認識する処理と2. リース資産に加減する処理の2つがあることが議論された。

(3) 更新オプションの会計処理

更新オプションの付いたリース契約の場合、提案されているモデルでは、リース資産及びリース負債には、リースの更新オプションの価値を含め、もし、その価値が大きい場合には、リース資産と区分して表示することが提案されている。さらに、更新オプションは、期末に見直され、その価値の変動はその時点で認識される。また、更新が行われた場合には、その時点の更新オプションの価値は、更新後の利用権の価値に引き継がれる。また、更新オプションは、減損テストの対象となり、更新前に価値が減損した場合には、減額される。ただし、更新オプションは、それを独立して測定することが困難であり、その点を基準化に当たって考慮すべきことが留意された。

4.米国基準との短期統合化(税効果会計)

今回議論されたのは、税効果会計に関する会計基準の統合化に当たって、米国会計基準(米国財務会計基準書第109号)とIAS第12号(法人所得税)の間で定義に差異がある「税務基準額(tax base)」について、両者の差異を明確化するとともに、その分析を受けて、どのように両者の統合化を図るかであった。今回の議論の結果、原則としてIAS第12号を米国会計基準に合わせるための改訂を行うことが暫定的に合意された。

(1) 米国会計基準とIAS第12号の税務基準額の差異

米国会計基準及びIAS第12号において同じ「税務基準額」という用語が用いられているが、両者には次のような差異がある。

  1. 米国会計基準では、資産及び負債の税務基準額は、その後の課税所得の計算上当該金額が控除されるかどうかに拘わらず、税務上当該資産及び負債に割当てられた金額を指している。したがって、貸借対照表上の資産又は負債の簿価と税務基準額の差額が常に一時差異とはならない(すなわち、両者の差額が貸借対照表上の資産又は負債の回収・決済によって解消した場合に損金算入又は益金算入される場合に限り、一時差異とされる)。
  2. IAS第12号では、資産及び負債の税務基準額は、原則として税務上控除又は課税される金額を指しており、資産をどのように回収するかという経営者の意図が資産の税務基準額に影響を与える。また、資産として貸借対照表上に計上されている金額が、税務上控除できなければ、当該資産の税務基準額はゼロとみなされている。そのため一時差異が生じることとなるが、しかし、これに対しては、取引日に会計上の利益にも課税所得にも影響を与えない取引に対しては、繰延税金資産・負債を認識しないという例外的取扱いが規定されている。また、IAS第12号の下では、一時差異は、貸借対照表上の資産又は負債の簿価と税務基準額との差額と定義され、一時差異は、必ず将来加算一時差異か又は将来減算一時差異のいずれかに分類されるという体系となっている(米国会計基準では、貸借対照表上の資産又は負債の簿価と税務基準額との差額には、一時差異とならないものも含まれるので、この取扱いが両者で異なっている)。このため、資産の簿価の回収時に経済的便益が課税されない差異(永久差異)については、税務基準額を簿価と同じと見るという規定が置かれ、税務基準額と簿価の差額が生じないようにするとともに、税務基準額と簿価の差額は必ず一時差異となるという関係が維持されるようにされている。
  3. このように米国会計基準とIAS第12号には一時差異の考え方が異なっている、このため、例えば、有形固定資産を使用し続ける場合には、減価償却費は税務上控除されないが、売却や処分を行うときには損金算入されるという場合には、IAS第12号の下では、経営者の意図によって税務基準額が生じたり生じなかったりすることになる。すなわち、経営者が売却や処分を行う意図を持っている場合にのみ将来加算一時差異が生じるが、経営者の意図は変わることがあり、意図の変更により会計処理が大きく変わることがある。一方、米国会計基準では、税務基準額は資産の取得原価とみなされるので、一時差異は生じない。

(2) 米国会計基準とIAS第12号の差異を解消するための改訂

上述のような分析の結果を受けて議論した結果、税務基準額についての両者の差異をなくすため、IAS第12号に次のような改訂を行うことが暫定的に合意された。

  1. 税務基準額の定義を次のように変更する。
    「税務基準額は測定属性(measurement attribute)であり、過去の事象の結果として税務目的のために現行の税法を現在の資産、負債又は持分金融商品に適用して認識される金額である。このような資産、負債又は持分金融商品は、財務報告目的上は、認識されることもされないこともある。」
  2. 税務基準額は各国の税法に依存して決定されるが、税務目的のための資産、負債又は持分金融商品(すなわち、税務貸借対照表)という考え方は分かりにくいので、これらは、税法を適用して税務貸借対照表で認識される会計処理のための金額であることをより明確にするために、税務基準額を説明する例示を含んだ適用ガイダンスを作成する。特に、企業が会計処理のために適用する会計方針によって税務貸借対照表で認識される税務基準額が異なることを明示する。例えば、現金主義を採用する企業と発生主義を採用する企業では、これらの会計方針に対応する税務基準額は異なるものとなる。
  3. 一時差異の定義を次のように変更する。すなわち、現行IAS第12号が採用しているような貸借対照表上の資産又は負債の簿価と税務基準額との差額をすべて一時差異と定義するのではなく、両者の差額のうち税務上益金算入又は損金算入されるもののみを一時差異とするように定義を変更する。
    「一時差異は、資産又は負債の税務基準額と財務諸表上で報告された金額との差額であり、それらが回収又は決済された場合に税務上控除又は加算される金額となるものである。税務上の帰結をもたらさない事象で財務諸表に認識されているもの(いわゆる永久差異)は一時差異を生み出さない。」
  4. 上記(a)から(c)までの暫定的な合意を受けて、更に次の点についても改訂を行う。
    1. IAS第12号第7項を改訂し、資産の簿価の回収時に経済的便益が課税されない差異(永久差異)については、税務基準額を簿価と同じと見るという規定を削除する。
    2. IAS第12号第52(b)項を改訂し、企業がどのように資産の簿価を回収するか(負債を決済するか)という経営者の意図が税務基準額に影響するという規定を削除する。
    3. 税務基準額を説明する設例を適用ガイダンスに追加する。

5.収益認識

今回議論されたのは、次の3点である。2004年5月の会議では、企業が顧客に対して有する履行債務(performance obligation)の測定に用いる公正価値として「法的解放金額(legal layoff amount)」(企業に残存するすべての債務を履行する法的な責任を引き受けてもらうために、測定日において第三者に支払われなければならない価格)を採用することが暫定的に合意されているが、これを実際に適用する場合の問題点を検討することが今回の目的であった。

  1. 企業の履行義務を法的解放金額で測定する場合の例を検討し、その意義を明確化する。
  2. 履行義務を公正価値によって測定する場合に求められる信頼性の程度はどのようなものであるべきかを明確にする。
  3. 設例による暫定合意の有効性の検証

(1) 法的解放金額の解釈

1. 議論の前提

今回の議論の前提として、各期末における企業の履行義務は、企業が自ら履行するかどうかにかかわらず、その公正価値で測定することが妥当であるという暫定合意があることを指摘しておきたい。そのため、「企業に残存するすべての債務を履行する法的な責任を引き受けてもらうために、測定日において第三者に支払われなければならない価格」である「法的解放金額」が期末の履行義務の公正価値として妥当であると考えられている。また、信頼できる第三者に法的に履行義務を譲渡する場合の公正価値は、たとえ一部の要素を現在の価格をベースとして見積らなければならないとしても現在観察可能な金額であり、企業が自ら履行義務を果たす場合に見積もる費用の方が公正価値より信頼できるとはいい難いと考えられている。

2. 論点

これまでの議論の中では、公正価値は、企業が合理的にアクセスできる市場において最も有利な価格であるとされ、具体的には、企業が合理的にアクセスできる企業間取引(business-to-business)市場で、履行義務を法的に引き受けてもらうために、第三者に支払われなければならない価格であると考えてきた。すなわち、どの市場で成立する価格を用いるべきかを中心に議論されてきており、2つの異なる企業間取引市場がある場合にどちらの価格を用いるかなどといった点が議論されてきた。
しかし、今回の会議では、異なる価格が存在していることは、異なる市場があることを示すのではなく、取引される財貨・サービスの内容が異なっているために、異なる価格が存在するのではないかという観点からの分析が示され、これについて議論が行われた。例えば、消費財の小売価格と卸売価格の差異は、消費者が近隣に存在する小売店で多くの商品を見て選択ができるという利便性(サービス)を提供するためのコスト(輸送費、店舗の賃借料及び店員の給与など)が小売価格に反映されているためと解釈することができると分析されている(ただし、このサービスは、顧客の側からは独立のサービスとしては意識されておらず、商品と別個には売買されない)。このように、提供される財貨・サービスの内容に差異があれば、そのサービス等の差異に応じて、期末時点で引き受けてもらうべき履行義務が異なるため、第三者に支払わなければならない価格にも差異が生じると考えるべきではないかというのが今回の分析で示された考え方である。以下、この考え方を設例を用いて説明する。

【設例】
ある消費者が家具店でソファーを購入したが、店に好みの色の現物がなく、他から取り寄せて4週間以内に配送してもらうという約束で、£2,025(£2,000+送料£25)を前金で支払った。家具店が通常の仕入先から購入する場合には、£1,100で購入できる(この場合には、仕入先から3週間以内に配送を受けられるので、4週間以内に消費者に配送することが可能)。他の小売店からは£1,700で購入できる(この場合には消費者に直ちに届けることが可能)。家具店からの発送には£25かかる。また、家具店には履行保証の義務があり、それについて保険をかけるには£20かかる。こうした手配を代理店に行わせるには£100かかる。この場合、家具店のこれらの義務の公正価値をどのように測定するか。

【分析】
この場合に、履行義務の公正価値の測定値として用いられる可能性のあるものとして5つが考えられる。

  1. £2,025(消費者に売却した価格£2,000+送料£25)
  2. £1,145(通常仕入先からの購入価格£1,100+送料£25+保険料£20)
  3. £1,245(通常仕入先からの購入価格£1,100+送料£25+保険料£20+代理店手数料£100)
  4. £1,745(他の小売店からの購入価格£1,700+送料£25+保険料£20)
  5. £1,845(他の小売店からの購入価格£1,700+送料£25+保険料£20+代理店手数料£100)

上記のような価格差は、消費者に提供される財貨・サービスの内容の相違に起因するものと分析できる。今回の分析では、£1,245が履行義務の公正価値として測定されるべき金額とされている。それは、当該消費者は4週間以内の配送に合意しており、家具店は、通常の仕入先から購入して配送することができるので、購入価格は£1,100が妥当と考えられ、代理店手数料は、消費者が求める商品を手配し配送するまでにかかる「契約管理活動」に対する対価であるためであり、これを含めることも妥当と考えられるためである(送料及び保険料は配送に伴って必然的に発生する費用である)。£2,025は、この価格の中に、消費者に店頭で商品を引渡すためのコストも含まれているため、すでに来店し好みの商品がなかった消費者に対して既に提供してしまっているサービスが含まれているため、妥当なものとは考えられていない。また、£1,745や£1,845は、他の小売店から購入し直ちに当該消費者に届ける場合(4週間待てないという消費者の場合)であれば妥当性を持つが、4週間待つことに当該消費者が同意している以上、不要なサービスが含まれた価格ということになる。このように、当該消費者との契約本体価格£2,000には、既に家具店が提供済のサービスが含まれているので、期末時点で家具店がある特定の消費者に対して負っている履行義務の公正価値は、この本体価格に含まれているサービスのうち家具店がまだ当該消費者に提供していないサービスのみを対象として測定する必要があるというのがここでの考え方である。

なお、この設例の場合、受領した前受金£2,025と履行義務の公正価値£1,245との差額£800は、契約時点で収益(revenue)として認識されることとなる。

3. 暫定合意

多くのボードメンバーは、履行義務の公正価値である法的解放金額を上述のような財貨・サービスの提供義務の価値として測定することに暫定的に合意した。

(2) 公正価値による測定に求められる信頼性

履行義務の公正価値として法的解放金額を用いることが暫定的に合意されているが、顧客に対する履行債務の公正価値を算定するに当たっては、顧客との契約を分析し、当該契約に含まれているすべての債務を識別したうえで、企業に残存している債務を履行する法的な責任を引き受けてもらうために、測定日において第三者に支払われなければならない価格を見積もらなければならない。既に上述の家具店の設例で見たように、法的解放金額を算出するには、多くの見積り要素が介入する。

このような公正価値の測定に当たって求められる信頼性は、他の財務諸表項目に求められる信頼性の程度と同じであるべきかどうかが議論された。

議論の結果、求められる信頼性は、他の財務諸表項目(特に、費用や損益)に影響を及ぼす見積りに求められる信頼性と同じ程度であるべきということが暫定的に合意された。

(3) 履行義務の公正価値測定の設例による検証

履行義務を公正価値(法的解放金額)で測定することについては、暫定的に合意されているが、これらを実際のケースに適用する場合にどのような問題があるかを検討するために、15の設例を用いて議論が行われた。

今回の議論では、公正価値の見積りに当たり、公正価値を直接検証できる場合(直接検証可能測定値)と間接的にしかしか検証できない場合に分けて設例が示されている。

交換取引において観察可能な価格を参照して直接に検証できる公正価値の見積りとしては、1. 報告企業が参加者である実際の取引を基礎とする場合、2. 報告企業が参加していないが実際に起こった取引を基礎とする場合及び3. 実際に起こってはいないが報告企業に提案された取引を基礎とする場合に分けて、見積り方法が示されている。一方、評価技法を用いて公正価値が測定されるため、間接的にしか検証できない公正価値の見積りとしては、「小売価格から利益マージンを控除」する方式と「原価に粗利益をマークアップ」する方式が示されている。今回は、議論が行われたのみで、特に合意した事項はない。

6.連結及びSPE

本プロジェクトでは、SPEの連結を含めた連結範囲を決定するための基準として支配概念を用いることとし、その支配概念の明確化を図ろうとしている。これまでのところ、支配概念は、次の3つの規準を共に満たすものとすることが暫定的に合意されており、3つの規準を満たした企業が連結されることになる。

  1. その企業の財務及び経営方針を直接指図する能力(パワー規準)
  2. 便益を入手する能力(ベネフィット規準)
  3. 便益(ベネフィット)を増大させるために力(パワー)を用いる能力

なお、3つの規準は、パワー規準、ベネフィット規準そして便益を増大させる力という順序で判定を行う。また、支配の定義においては、支配を獲得する方法についての制限は設けないこととされている。

今回は、次の2点について議論が行われた。

  1. 2004年5月の会議では、信託における受託者(Fiduciary)と支配との関係について議論が行われ、受託義務の性質上、受託者の義務は、委託者のベネフィットとなるようにパワーを行使することであることから、受託者のパワーの行使には制限があるため、上述した第3のテストを満たさず(すなわち、受託者は支配規準を満たさない)、したがって、受託者が支配を有することはないことが暫定的に合意されていた。しかし、支配規準を満たさない場合を適切に定義することは難しいとの懸念があり、前回、スタッフに対して、「受託者の性質」及び「受託者の有する義務」についてさらに検討を行うことが指示されており、今回それを受けたスタッフの分析資料を基に議論が行われた。
  2. 前回に引続き、受託者が、受託している投資先に対して受託者本人(Principal)という立場でも別途投資を行っている場合、すなわち、受託者としてのみ行動していない場合において、受託者は支配規準を満たすかどうかが検討された。

(1)受託者としてのみ行動している場合

一般的に理解されている受託関係(fiduciary relationship)は、受託者(trustee)と受益者(beneficiary)の関係である。そこには「信託(trust)」という要素が含まれている。受託者の義務は、委託者のベネフィットとなるようにパワーを行使することであることから、受託者のパワーの行使には制限があり、この点が第三者のために業務を行う企業と受託者との決定的な違いである。この制限のため、支配を判断する規準の第3のテストを満たさない。

しかし、「受託義務」を広く解釈しすぎると、意図せずして「受託義務」があると判断されてしまう可能性がある。そのようなものの例として、少数株主に対する支配株主の「義務」が取上げられている。この例では、90%の議決権を有する明白な支配株主は、少数株主に対し「受託」に相当する義務を負っていると考えることもできるとしている。例えば、子会社から支配株主又は親会社に対する、支配株主にとって有利な条件での取引については、多くの国で支配株主の権利濫用を防止するため、(少数株主に対する)受託義務を課すような規制を設け、利害関係のない取締役や少数株主の承認があった場合のみ取引が認められるという制限が設けられていることがある。しかし、一般に、そのような受託義務は単に少数株主の利益を保護するものであり、支配株主の支配を制限することを目的とするものではないと考えられ、このような場合に支配株主が支配を有していないと判断することは妥当ではない。

議論の結果、企業が支配テストを満たさない場合を次のような場合に限定する方向でさらに検討を行うことがスタッフに指示された。

  1. 財務及び経営方針を直接指図するパワーが受託者に移転されたとしても、第三者のためにのみ当該パワーを用いることが契約又は法律によって受託者に要請されている場合。このような場合には、受託者は、自らの便益のために行動することが禁止されている。
  2. 自らが支配する資産から便益を受ける企業の能力が制限されている場合。このような場合には、支配する資産をあたかも自らのものであるかのように扱うことができず、企業が受取る便益に対する権利は、必ず自らが利害を代理している第三者と当該企業によって合意されたものでなければならないという制限が課されている。
  3. 企業が支配する資産から受ける便益は、提供したサービスに対する手数料に限定されている場合。

(2)受託者と同時に自分自身が投資を行っている場合

受託者が、受託している投資先に対して受託者本人(Principal)という立場で別途投資を行っている場合、受託者は支配規準を満たすかどうかが検討された。すなわち、被投資会社に投資するファンドのファンド・マネージャーとしての役割を持つと同時に、受託者自らも同じ被投資会社に直接投資している場合が検討された。このような場合に、支配規準に該当するかどうかを判定するための3つのアプローチが提案され検討された。

  1. 代替案1
    被投資会社に投資するファンドのファンド・マネージャーとしての保有と受託者自らの直接投資を合計した上で、全体の保有に対して支配規準を満たすかどうかの検討を行う。
  2. 代替案2
    反証可能な前提として、被投資会社に投資するファンドのファンド・マネージャーとしての保有と受託者自らの直接投資を合計した上で、全体の保有に対して支配規準を満たすかどうかの検討を行う。すなわち、合計して判断することが適切ではない場合には、合計せずに支配規準の判定を行うことができる。
  3. 代替案3
    被投資会社に投資するファンドのファンド・マネージャーとしての保有と受託者自らの直接投資を別々に分けて考え、受託者自らの直接投資についてのみ、支配規準を満たすかどうかの検討を行う。

議論の結果、代替案2のアプローチを採用することが暫定的に合意され、今後どのような場合に反証ができるかについて更に検討することがスタッフに指示された。さらに、もし反証可能な場合を特定することができず代替案2が採用できない場合には、代替案1を選好すべきという意見が多数を占めた。

以上

(国際会計基準審議会理事 山田辰己)