IASB(国際会計基準審議会)の第35回会議が、2004年5月18日から19日までの2日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第39号の改訂(予定内部取引のキャッシュ・フロー・ヘッジ)、3. IAS第39号の適用を巡る欧州銀行業界との議論、4. 収益認識、5. 連結及びSPE、6. 金融リスクの開示及び金融商品に関する開示のその他の修正、7. IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)、8. 中小規模企業の会計基準及び9. 解釈指針について議論された。IASB会議には理事14名が参加した。本稿ではこれらの議論のうち9. を除く議論の概要を紹介する。なお、会議の冒頭に、新たに理事に選任されたスウェーデン出身のJan Engstrom氏(産業界出身)が紹介された。
今回の会議では、1. 事業(ビジネス)の定義、2. パーチェス法の呼称の取得法への変更、3. 企業結合時ののれんの一時差異に対する取扱いの明確化(繰延税金資産の認識の明示的要求)及び4. 企業結合で取得したオペレーティング・リースの認識及び測定について議論が行われた。
今回事業の定義について議論が行われた。事業の定義が問題となったのは、1. 本プロジェクトは米国財務会計基準審議会(FASB)との共同プロジェクトであるため、できるだけ定義の統合を図る必要があること及び2. 企業が資産(又は資産と負債のポートフォリオ)を取得する場合、それが事業の取得なのかそれとも資産の集合体の取得であるかによって会計処理が異なるため、事業に該当する場合を特定する必要があるためである。
今回、具体的には次の点について議論が行われた。
議論の結果、事業の定義を変更するとともに、これに伴って定義の一部を適用ガイダンスに移すものの、FASBが提案しているような適用ガイダンスや設例は、IASBとしては取上げないことが暫定的に合意された。
IFRS第3号(企業結合)では、事業は次のように定義されている。
「事業とは、次の目的のために執行され管理される統合された一組の活動及び資産をいう。
事業は、一般的に、インプット、インプットに対し適用されるプロセス、そして収益をもたらすために使用される結果としてのアウトプットにより構成される。移転された活動及び資産のグループがのれんを含む場合、そのグループは事業とみなされる。」
企業が資産(又は資産と負債のポートフォリオ)を取得する場合の会計処理は、当該ポートフォリオが事業かどうかに依存する。事業に該当する場合には、企業が支配を取得したポートフォリオ全体をその公正価値で測定し、それから、取得した資産及び引き受けた負債を個々に取得日における公正価値により認識する(識別可能資産・負債の認識)。取得日におけるポートフォリオ全体の公正価値が、認識された識別可能資産・負債の公正価値の純額を超える場合には、当該差額はのれんとして区別して認識される。一方、企業が事業ではないポートフォリオを取得した場合、企業は、支払った対価を、識別可能な個々の資産・負債に対して、取得日におけるそれぞれの資産・負債の公正価値の比に基づいて按分しなければならない(第4項)。したがって、のれんは生じない。このように、会計処理に差異が生じるため、企業が取得した資産のポートフォリオが事業に該当するかどうかを明確にする必要がある。
このような議論の中で、IASBは、概念的には、企業が取得した資産のポートフォリオの会計処理は、事業に該当するかどうかにかかわらす同じでなければならないという点について暫定的に合意した。しかし、これは共同プロジェクトの範囲を変更することになるので、IASBは、FASBに対し、本プロジェクトの範囲を事業に該当しない資産ポートフォリオの取得の会計処理にも拡張すべきかどうかを検討するよう依頼することとした。
今回の改訂ではプロジェクトの範囲を拡張しないとの前提で、次のとおり定義を見直すことが暫定的に合意された。
(a)「一般に」という用語をIFRS第3号の事業の定義の第2文から削除する。 「一般に」という用語は、企業がいまだ収益を発生させるためのアウトプットを生む段階にない場合でも事業と呼ぶことができる余地を残すために用いられているが(すなわち、開発段階の企業も事業の定義に入れることを意図している)、IASBは、「一般に」という用語をこのまま残した場合には実務上、首尾一貫しない判断や適用が行われる可能性があるとの結論に至った。そこで、「一般的に」を削除するとともに、適用ガイダンスにおいて、企業が収益を発生させるためのアウトプットがない場合であっても事業に該当することがある点を明確にすることとした。
これを受け、適用ガイダンスでは、アウトプットのない企業が事業に該当するかどうかを判断するにあたっては、以下の要素を検討しなければならないことを明示する。
なお、FASBは、上記以外にも適用ガイダンスを追加することを意図しているが、IASBは、これ以外の適用ガイダンスは提供しない予定である。
(b)「移転された活動及び資産のグループがのれんを含む場合、そのグループは事業とみなされる」という文言をIFRS第3号の事業の定義から削除し、適用ガイダンスに含める。 これは、事業の定義の中に推定規定を置くことは適切でないと判断されたための変更で、FASBも同趣旨の適用ガイダンスを含めることを検討するようFASBに依頼することが合意された。
これに関連して、もし本プロジェクトの範囲が事業に該当しない資産のポートフォリオの会計処理まで含むように拡張されない場合には、IFRS第3号第4項(資産のポートフォリオの取得が事業に該当しない場合には、支払った対価を識別可能な個々の資産・負債に対して、取得日におけるそれぞれの資産・負債の公正価値の比に基づいて按分することを要求)を改訂することが暫定的に合意された。改訂では、企業が事業に該当しない資産のポートフォリオを取得した場合、按分の対象となる資産には、IAS第38号(無形資産)で規定する無形資産の定義及び認識規準を満たす資産を含むことを明確にすることが意図されている。
今回、「パーチェス法(purchase method)」という名称を「取得法(acquisition method)」へ変更すべきかどうかが検討された。このような検討が行われたのは、FASBが「取得法」という用語を採用することを決めたことを受けたものである。 議論の結果、「取得法」は、適切な表現であることから、取得法へ変更することが暫定的に合意された。これは、取得法が、純資産や持分の買収以外の手段を通じて支配が獲得される企業結合にも適用できるより広い意味を持ち、さらにこれまでパーチェス法との関連で取得原価に基づく手続が採用されているが、これを変更し、公正価値に基づく手続に移行することが提案されていることとも整合するためである。
さらに、これに呼応してIFRS第3号のタイトルを変更すべきかどうかについて議論を行ったが、こちらについては、変更しないことが暫定的に合意された。それは、タイトルを企業結合より限定的にしてしまうと、企業結合の定義を満たしながら現時点ではIFRS第3号の範囲から除外されているいくつかの取引(ジョイント・ベンチャーの形成など)が本プロジェクトの対象範囲に含める検討ができなくなる恐れがあるからである。また、企業結合プロジェクトの第1フェーズにおいて、結合企業が他の結合企業の支配を獲得しないような企業結合(ジョイント・ベンチャーの形成を除く)の可能性を排除すべきでない点について合意しており、このような結合(「真の合併(true merger)」や「対等合併(mergers of equals)」と呼ばれる)について検討する可能性を残す必要がある点や企業結合プロジェクトの次フェーズにおいていくつかの企業結合に「フレッシュ・スタート法」の適用ができるかどうかを検討することを既にIASBが表明していることも変更しない理由として指摘された。
IAS第12号(法人所得税)は、企業結合の会計処理の一部として、(当初認識時において)のれんの税務上の簿価が会計上の簿価を上回ることにより生じる一時差異(将来減算一時差異)に対して、繰延税金資産を認識すべきかどうかについて明示していない。そのため、のれんに将来減算一時差異が生じる場合には、繰延税金資産の認識について規定する一般規定(第24項)が適用され、将来、将来減算一時差異を利用することが出来る課税所得が生じる可能性が高い範囲で、当該将来減算一時差異に対して繰延税金資産が認識されることになると理解されている。
今回、このような現行の理解をより明確にするため、企業結合時ののれんの当初認識時に、将来減算一時差異が生じる場合には、これに対して繰延税金資産を認識すべきことを明示すべきかどうかが議論された。この問題が議論されたのは、FASBが本プロジェクトの一環として、このような場合に、取得日において企業結合会計の一部として繰延税金資産を認識しなければならないことを明示することを決定したためである。
議論の結果、IAS第12号を改訂し、企業結合時に生じる将来減算一時差異(のれんの税務上の簿価が会計上の簿価を上回る金額)に対して税金資産を企業結合会計の一部として認識することを明示的に要求することが暫定的に合意された。
被取得企業が保有しているオペレーティング・リースを企業結合に当たりどのように会計処理するかがここでの問題である。企業結合における会計処理の基本原則は、取得企業は、企業結合によって取得又は引き受けた資産・負債を取得時の公正価値で認識しなければならないというものである。これを企業結合で取得したオペレーティング・リースから生じた資産及び負債にも適用して、企業結合時に資産・負債を公正価値で認識すべきかどうかがここでの問題である。
IASBでは、1. 基本原則に例外を設けないという案と2. 例外を設け、オペレーティング・リースについては、企業結合時においてもIAS第17号(リース)を適用すべきという案が検討された。議論の結果、例外を設けることとし、企業結合において取得したリースについては、オペレーティング・リースとするかファイナンス・リースとするかどうかの分類は、取引開始時における被取得企業の分類に従うことが暫定的に合意された。また、企業結合後の会計処理は、IAS第17号に従うことになる。
なお、これとは別に、被取得企業のリース契約が有利又は不利な状況にある場合には、企業結合時における公正価値により資産又は負債が認識される。当該資産又は負債は、リースごとに資産・負債の純額により表示しなければならない。
IAS第39号では、外部の第三者との取引に対してのみヘッジ会計が適用できる。これに対する例外として、内部取引で生じる外貨建の貨幣性項目で、それから生じる換算損益が連結財務諸表上相殺されないものを、ヘッジ対象とすることが認められている。例えば、親会社が米国の子会社に米ドル建の債権を有している場合、親会社の米ドル債権は期末レートで換算され換算損益が生じるが、米国子会社の親会社向け米ドル建債務は、当該子会社の米ドル建財務諸表の報告通貨への換算の一環として期末レートで親会社の報告通貨(円)に換算されるが、この換算によって換算損益は生じない。このため、親会社の米ドル建債権から生じる換算損益は、連結財務諸表上相殺されない。このような内部取引によって生じる債権をヘッジ対象とすることがIAS第39号では許容されている(第80項)。
現行IAS第39号では、将来発生する予定内部取引から生じる債権をヘッジ対象としてこの債権から生じるキャッシュ・フローの変動をヘッジするためにキャッシュ・フロー・ヘッジを適用することは認められていない。2003年12月の改訂前のIAS第39号では、IGC137-14において、このような内部取引である予定取引をキャッシュ・フロー・ヘッジの対象とすることが認められていたが、その改訂に当たり、この取扱いには合理性がないとして削除された。なぜなら、予定内部取引は、取引が実際に起こるまで内部債権債務が生じないため、「内部取引で生じる外貨建の貨幣性項目から生じる換算損益が連結財務諸表上相殺されない」という事態が起こらない(そのため第80項には該当しない)からである。ところが、2003年12月の改訂後、1. 予定内部取引に対するキャッシュ・フロー・ヘッジは旧IAS第39号で認められており、既に実務として浸透している、2. 予定内部取引に対するキャッシュ・フロー・ヘッジを認める米国会計基準と差異が生じることになる、といった理由から旧IAS第39号での取扱いを復活すべきであるとの要望が多数IASBに寄せられた。
検討の結果、旧IAS第39号が認めていた外貨建内部取引をヘッジ対象とすることは上述した理由により認められないが、代わりに「取引が発生する可能性が非常に高い予定外部取引」を連結財務諸表上においてヘッジ対象とするのであれば妥当と判断され、この内容を明確にするための適用ガイダンス(IFRSの一部)を追加することが暫定的に合意された。すなわち、グループ内の内部取引のさらに先にある究極的な外部との外貨建取引(親会社の報告通貨と異なる通貨建)がほぼ確実に発生すると見込めるならば、この外貨建外部取引は、連結財務諸表においては、親会社の報告通貨と異なる通貨建ての第三者との予定取引であり、キャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ対象として適格であると判断された。例えば、親会社(報告通貨円)が米国の子会社に米ドル建の製品販売取引を将来行う予定であり、当該米国子会社がさらに当該製品を外部の顧客に米国通貨建てで販売する予定である場合、親子間の内部取引ではなく、究極の外国通貨建外部取引をヘッジ対象(予定取引)として、これに対して、キャッシュ・フロー・ヘッジを認めようとする取扱いである。
この改訂内容は、新しい取扱いの追加であるため、公開草案を公表することとなった(2004年6月に公表する予定)。なお、改訂案の発効日は2006年1月1日以降開始事業年度とし、早期適用を認める予定である。
IASBとヨーロッパの銀行協会(FBE)は、それぞれの代表者により継続的に議論を行っているが、その直近の会議おける議論の状況について次のような報告が行われた。
今回議論されたのは、企業が顧客に対して有する履行債務(performance obligation)が公正価値により測定される場合に、その公正価値をどのように決定するかという点であった。
今回の議論を紹介する前に明確にしておくべき論点がある。それは、履行義務は、1. 企業が自ら履行する場合にかかると予想される費用で認識されるべきか、又は、2. 履行義務の公正価値で測定されるべきかという問題がある。現在進行中の収益認識の議論では、履行義務はその公正価値で測定することが妥当だとの前提で議論が行われている。履行義務はその公正価値で測定することが妥当だとされる理由が、今回の議論のための資料の付録として取上げられているので、その内容を紹介する。
【設例】
電化製品の小売をしている企業Aが、メーカーから$250で仕入れたテレビを$300で顧客に販売した。企業Aは、メーカーの1年間の保証に加えて2年間の製品保証を$100で販売している。製品保証については、企業Aは、自ら保証を履行する方法又は信頼できる第三者に法的に履行義務を譲渡する方法のいずれかを採用できる。過去の経験では、販売したテレビの10台に1台の割合で追加の2年間に保証事故が生じる。製品の補修には、1台当たり$140の修理費がかかる。信頼できる第三者に法的に履行義務を譲渡する場合には、契約するテレビ1台当たり$30で譲渡ができる。企業Aは、当期中に追加の製品保証付で10台を販売した。
【問題点】
企業Aがテレビ10台を販売した直後の貸借対照表で負債として認識すべき履行義務額は、1. その公正価値$300($30×10)か、それとも2. 企業Aが見積もる費用$140のいずれか。
【議論】
この設例を用いて、履行義務は、1. 企業が自ら履行する場合にかかると予想される費用で認識されるべきか、又は、2. 履行義務の公正価値で測定されるべきかという問題について、次の点から検討を加え、結論として、履行義務は、その公正価値で認識すべきとされている。
ここでの議論では、「法的解放金額(legal layoff amount)」と「顧客対価額(customer consideration amount)」という用語が用いられている。「法的解放金額」は、履行義務を企業間取引(business-to-business)で移転する場合の価格を示し、「顧客対価額」は、顧客から受領した対価を示している。
今回の議論では、企業の顧客に対する履行債務の公正価値を算定するにあたっては、顧客との契約を分析し、当該契約に含まれているすべての債務を識別しなければならない点に合意した。履行義務の公正価値の決定方法について今回検討されたのは次の2つであった。
議論の結果、概念上は、公正価値を(a)により測定されなければならない点について暫定的に合意した。しかし、この概念を適用する上でさまざまな問題があり、スタッフに対し、信頼をもって公正価値を測定することの困難さや費用対効果など公正価値概念を適用する上での潜在的な制約について検討をすること、さらに実務上利用可能な代替案を考えるよう指示が行われた。さらに、この検討にあたっては公正価値の尺度が信頼性を欠いている場合も検討しなければならないこととされた。
本プロジェクトでは、SPEの連結を含めた連結範囲を決定するための基準として支配概念を用いることとし、その支配概念の明確化を図ろうとしている。これまでのところ、支配概念は、次の3つの規準を共に満たすものとすることが暫定的に合意されており、3つの規準を満たした企業が連結されることになる。
なお、3つの規準は、パワー規準、ベネフィット規準そして便益を増大させる力という順序で判定を行う。また、支配の定義においては、支配を獲得する方法についての制限は設けないこととされている。
今回議論の対象となったのは、「受託者(fiduciary)」と支配概念の問題である。2003年9月の会議において、受託者の義務は、委託者のベネフィットとなるようにパワーを行使する義務があることから、上述した第3のテストを満たさないため、受託者は、支配規準を満たさず、したがって、受託者が支配を有することはないことが暫定的に合意されていた。今回は、この問題に関連する次の2点についてより詳しい議論が行われた。議論の目的はスタッフに対し今後の検討の方向性を示すことに主眼があり、意思決定は行われなかった。
一般的に理解されている受託関係(fiduciary relationship)は、受託者(trustee)と受益者(beneficiary)の関係である。そこには「信託(trust)」という要素が含まれている。マネージャーや代理人に意思決定権が委任され、極端な場合には財務及び経営方針を直接指図する能力(パワー)が実質的に移転されている場合がある。受託者でもある企業が、意思決定権限を委任されている場合もある。第三者のために業務を行う企業と受託者との決定的な違いは、受託者としての義務の結果として受託者に課された制限にある。たとえ財務及び経営方針を直接指図する能力が受託者に移転されたとしても、受託者は、自らのためにベネフィットを増大させる目的で財務及び経営方針を直接指図する能力を用いることはできない。受託者の意思決定は、受託者が信託関係を有する相手先(委託者)の利益になるように、支配している資産を使用又は投資するように行わなければならず、受託者がその立場でのみ行動している場合には、他企業の戦略的な営業上及び財務上の政策を決定できる場合であっても支配の定義を満たさない。今回この点が明確にされた。また、受託者を他の企業と区別することは困難であり、受託者の概念が適切に適用されることを確実にするために細心の注意を払う必要がある点が留意された。スタッフに対し、受託者が他の企業とどのように異なり、その違いが基準で使えるものかどうかを検討するよう指示が行われた。
受託者が、受託している投資先に対して受託者本人(Principal)という立場で別途投資を行っている場合、受託者は支配規準を満たすかどうかが検討される。すなわち、被投資会社に投資するファンドのファンド・マネージャーとしての役割を持つと同時に、受託者自らも同じ被投資会社に直接投資している場合が検討された。支配規準に該当するかどうかを判定するための2つのアプローチが検討された。第1のアプローチは、被投資会社に投資するファンドのファンド・マネージャーとしての保有と受託者自らの直接投資を別々に分けて考えるというアプローチであり、この場合には、受託者自らの直接投資についてのみ、支配規準を満たすかどうかの検討が行われる。第2のアプローチでは、被投資会社に投資するファンドのファンド・マネージャーとしての保有と受託者自らの直接投資を合計した上で、全体の保有に対して支配規準を満たすかどうかの検討が行われる。スタッフからは、理論的には第1のアプローチを採用すべきであるが、乱用(ファンドと直接投資に分散することによって連結はずしが可能となる)を防ぐという観点からは、第2のアプローチの方が適切であるとの提案がなされている。
これを今回議論された設例で示すと次のようになる。
【設例】
企業Aは、ファンドに関してパワーを有している。ファンドは、投資先Bの普通株式の40%を保有している。ファンドの持分は、投資先Bに対してパワーを有するには不十分である。企業Aは、実績に連動した業務報酬を受け取っている。企業A自身も投資先Bに直接に普通株式の12%を保有している。投資家として、企業Aは、投資先Bの戦略遂行、財務方針の決定に参加する権利があるが、そのような政策決定を支配することはできない。企業Aは、投資家として、投資先Bから直接にベネフィットを受け取る。直接の投資家とファンド・マネージャーを組み合せることで、企業Bは、投資先Bの意思決定を支配することができる。
これを2つのアプローチに基づいて整理すると次のようになる。
【第1のアプローチ】
投資先Bに対する企業Aのポジションは、2つの部分に分解されて検討される。
直接の投資家としての立場 (12%の保有) |
i. パワー規準を満たさない。 ii. ベネフィット規準を充足する。 iii. パワーを有していないため、自己のベネフィット水準に影響を及ぼすようにパワーを行使することはできない。 |
---|---|
ファンド・マネージャーとしての立場 (40%の保有) |
iv. パワー規準を満たさない(企業Aはファンドに対するパワーを有しているものの、ファンドに対する持分は、投資先Bに対するパワーを有するには不十分である) v. ベネフィット規準を充足する。 vi. パワーを有していないため、自己のベネフィット水準に影響させるようにパワーを用いることはできず、受託義務によりその影響力を用いることが制限されている。 |
【第2のアプローチ】
投資先Bに対する企業Aの投資全体(52%)をまとめて検討する。この場合の支配の評価は、以下のとおりである。
本プロジェクトは、2003年7月のIASB会議以来暫く中断されていたが、EUにおいて2005年1月から適用されるIFRSの設定が2004年3月で一段落したこと及び本プロジェクトの結果求められる金融リスクの開示等を2005年から適用したいという関係者からの要望を受けて、本プロジェクトが再開された。既に2003年7月時点で金融活動アドバイザリー委員会(FAAC)から提案された公開草案のドラフトの検討を一応終えていたことから、今回は、これまでの暫定合意の内容を確認した上で、公開草案の公開に関する議論が行われた。議論の最後に、今回提示された公開草案ドラフトに対する賛否が問われたが、反対する意向を示したボードメンバーはいなかった。
ここでは、これまでの暫定合意の内容に触れた上で、今回議論された論点を紹介する。
これまでの暫定合意は、次の3点に要約することができる。
今回の議論の結果、次の点が暫定的に合意された。
IASBは、これまでIAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)の改訂を行うための議論を行ってきた。今回は、IAS第37号の改訂に関する公開草案を作成するに当たり、これまでに積み重ねられてきた暫定合意の内容を再度確認することが行われた。全員が合意内容に賛成したので、今後公開草案が準備されることとなる。なお、この公開草案の公表は、企業結合の第2フェーズの公開草案(IFRS第3号の改訂のための公開草案)の公表と同時に行うことが暫定的に合意された。
IAS第37号の改訂は、次の2つのプロジェクトでの検討の際にその必要性が認識されたものである。
これまでに合意に達した内容は、次のようなものから構成されている。
さらに、公開草案を作成するに際して以下の内容も含めるようスタッフに指示が出された。
SME会計基準に関するディスカッション・ペーパーのドラフトについての議論は、2004年4月の会議で一応の議論が終了し、ドラフトの公表のための手続が取られていたが、その過程で検討すべき項目がでてきたため、それに限って議論が行われた。
論点は、2004年4月会議において、「SMEが、SME会計基準に代えてIFRSを適用する場合には、当該IFRSの規定すべてを適用すべきであり、1つのIFRSの中の任意の一部のみを適用し、当該IFRSの残りの部分の取扱いにはSME会計基準を適用するということは認めないこととする。」と暫定的に決定したことに関連する。あるボードメンバーが、この暫定合意は、1つのIFRSの中にある多数の会計処理の一つ一つについてSMEが任意にIFRSの規定によるかSME会計基準によるかの選択を行うことを禁止するものはであるが、しかし、これは、一つの会計処理についてIFRSの本則規定を選択した場合には、それ以外のすべての会計処理についてもIFRSの本則規定によらなければならないと解釈すべきではないという問題を提起した。この取扱いは、次のような場合、適切でない結果を招来する。例えば、IAS第39号において償却原価法を採用している場合で、そのプレミアム又はディスカウントの償却にSME会計基準では定額法償却が規定されていると仮定する。この場合に、SMEが、定額法ではなく、IAS第39号の本則規定である実効金利法を採用した場合、この選択によって、当該SMEは、金融商品の認識と測定については、SME会計基準が適用できなくなり、IAS第39号の本則をすべて適用しなければならないということになる。
このような指摘を受けて、今回の会議では、企業があるIFRSの特定の会計処理について、IFRSの本則の会計処理を採用した場合、同IFRSに含まれる当該会計処理と関連性のない他の認識及び測定規準についてもIFRS本則の規定を採用することが強制されるべきかどうかが議論された。議論の結果、IFRSの本則の規定を任意に採用する場合には、当該IFRSを全面適用しなければならないという要求をするというこれまでの暫定合意が再確認された。しかし、この論点については、ディスカッション・ペーパーの「コメントのお願い」において、この取扱いが適切であるかどうかについて質問を追加し、コメントを求めることが合意された。なお、ディスカッション・ペーパーの公表は、2004年6月下旬が予定されている。
以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)