ASBJ 企業会計基準委員会

第34回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第34回会議が、2004年4月21日から23日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議は、第1日目がIASBのみの会議で、後の2日間は米国財務会計基準審議会(FASB)のボードメンバーとの合同会議であった。IASBの会議では、1. 企業結合(第2フェーズ)、2. IAS第39号の改訂(経過措置の取扱い)、3. 収益認識、4. リース、5. 中小規模企業の会計基準、6. 解釈指針(IFRIC第1号)について議論され、FASBとの合同会議では、7. 今後の検討課題、8. 企業結合(第2フェーズ)、9. 包括利益の報告、10. 収益認識、11. FASBとの短期統合化プロジェクト(IAS第38号の研究開発費、IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)及びIAS第12号(法人所得税))についての議論が行われた。IASB会議には理事13名(1名は欠員)が、FASBとの共同会議にはFASBから7名の理事が参加した。本稿ではこれらの議論のうち6. を除く議論の概要を紹介する。

IASB会議

1.企業結合(第2フェーズ)

今回の会議では、1. 企業結合における偶発負債の認識、2. 企業結合の会計処理に含まれるべき識別可能資産及び負債の決定及び3. IAS第27号(連結及び分離財務諸表)の改訂公開草案に関連する残された問題について議論が行われた。

(1) 企業結合における偶発負債の認識

2004年3月では、偶発負債の認識に関連して、偶発負債(条件付の義務)は、通常無条件の義務を随伴し、偶発負債自体は負債として認識されないものの、無条件の義務は負債として認識できるという点が議論された。今回は、前回議論した設例のうち無条件の義務を随伴しないケースについてさらに議論が行われた。ここでは、まず、2004年3月での議論をまとめた上で、今回の議論を紹介する。

1. 2004年3月での偶発負債を巡る議論

偶発負債は、次のように定義することが暫定的に合意されている。
「過去の事象から生じる条件付義務で、完全に企業の支配下にない、一つ以上の不確定の将来事象の発生又は不発生に基づいた、経済的便益を体現する資源の流出を要求するかもしれないもの。」

偶発負債とそれに随伴する無条件の義務の関係の分析するため多くの例が検討されたが、3つの例についてその概要を示すと下表のようになる。ここでのポイントは、偶発負債(条件付の義務)は、通常無条件の義務を随伴し、偶発負債自体は負債として認識されないものの、無条件の義務は負債として認識できるという点が明確にされたことである。

3つの設例 条件付の義務(偶発負債)(注1) 無条件の義務(注2)
製品保証 製品に欠陥が生じた場合に補修する義務 欠陥が生じた場合には、いつでも補修を行うという状態であり続ける義務(stand ready obligation)
訴訟(損害の補償を支払わなければならないという義務) 裁判所の判断に従って支払わなければならない損害の補償 裁判の結果を受入れなければならないという義務
遡及適用を伴う将来の法律の改訂によって生じる義務(注3) 遡及適用を伴う将来の法律の改訂によって生じる義務 N/A

(注1) 条件付の義務は偶発負債であり、貸借対照表では認識されない。
(注2) 無条件の義務は、現在の義務であり負債の定義を満たしている。
(注3) このような例として、欧州における廃自動車指令(end-of-life vehicle directive)がある。

自動車メーカーは、2002年7月以降製造された自動車又は、2002年7月以前に製造され2007年7月以降も使用されている自動車の廃棄費用の一部を負担しなければならないという指令が、2002年9月に発効している。なお、この設例では、条件付の義務は生じるが、これに随伴する無条件の義務はないと考えられている。

2. 今回の議論

今回は、企業結合によって取得企業が引き受ける偶発負債について議論が行われた。既に2004年3月に議論したように、偶発負債に随伴する無条件の義務は負債の定義を満たし、負債として認識されることになる。企業結合において引き受けられる偶発負債においても同様であり、随伴する無条件の義務は負債として認識される。しかし、上表の3番目の廃自動車指令の例のように、無条件の義務を随伴しない偶発負債の場合、企業結合時でどのように取扱うのかが、今回議論された。

論点を明確にするため、まず、製品保証の例を考えると、製品保証が企業にもたらす条件付の義務は、製品に欠陥が生じた場合に補修する義務である。しかし、そのような義務は、欠陥が生じた場合にはいつでも補修を行うという状態であり続ける条件の付されていない義務を伴っている。後者の義務は、製品の製造によって生じた現在の債務であり、その決済により(すなわち、製品に欠陥が生じ補修を行ったとき)経済的便益を含む資源が企業から流出する結果となるため、負債の定義(負債とは、過去の事象から発生した当該企業の現在の債務であり、これを決済することにより経済的便益を包含する資源が当該企業から流出する結果になると予想されるものをいう)を満たしていると考えることができ、流出の可能性が高く、かつ、弁済が行われる予定の金額が信頼をもって測定できる場合(負債の認識要件を満たした場合)には、この無条件の義務は負債として認識される。

このような考え方を欧州における廃自動車指令の例の場合に適用すると、自動車メーカーが自動車を製造した際に、遡及適用を伴う将来の法律の改訂によって企業に生じる廃棄費用の一部負担という義務は、条件付の義務(偶発負債)である。すなわち、廃自動車指令が2002年9月に発効した際に、2002年7月以前に製造され2007年7月以降も使用されている自動車の廃棄費用の一部を負担しなければならないという内容が含まれたため、遡及適用規定によって企業に負担が生じている。しかし、このような遡及適用によって生じるかもしれない義務は、常に、法律が改正され遡及適用される場合には自動車メーカーはいつでもこれを受け入れる状態であり続ける義務を伴っていると解釈することには無理がある。このため、IASBは、遡及適用を伴う将来の法律の改訂によって生じる義務は、偶発負債を生じさせるが、無条件の義務を随伴しないと考えることで暫定的に合意している。そしてこのような義務を「独立偶発負債(standalone contingent liabilities)」と呼んでいる。

このようなケースが問題となるのは、企業結合に当たり、独立偶発負債の存在が買収価格に影響を与えることがあり、したがって、独立偶発負債が公正価値を有していると考えられる場合である。独立偶発負債は、無条件の義務を随伴しないため認識すべき負債が存在しないため、独立偶発負債が有する公正価値は、企業結合に伴って発生するのれんに含まれてしまうことになる。このような結論が妥当かどうかについて議論され、のれんと分離して負債を認識するための方法が検討された(詳細は省略)。
議論の結果、企業結合において識別可能な負債として認識すべきものは負債の定義を満たすもののみとすることが暫定的に合意された(すなわち、企業結合の場合にのみ例外を作り、独立偶発負債を負債として認識するという考え方は否定された)。したがって、独立偶発負債が公正価値を持つ場合には、のれんに含まれて認識されることになる。

(2) 企業結合の会計処理に含まれるべき識別可能資産及び負債の決定

1. 問題の所在

今回の議論では、企業結合の会計処理に含まれるべき識別可能資産及び負債にどのようなものが含まれるかについてFASBとIASBとの間に理解の相違があることが判明したため、両者のボードメンバーやスタッフから構成されるグループで調整のための検討が行われてきた。今回、同グループからこれらを統合的に捉える新たなアプローチが提示され、このアプローチをいくつかの事例に適用しその有効性について議論が行われた。

このアプローチは、企業結合の会計処理に含まれるべき識別可能資産及び負債を決定するための基本原則を決め、さらに、この基本原則を適用する際の判断基準を示し、これを用いることによって、企業結合の際に生じる資産及び負債を企業結合に含められるべき資産及び負債と、企業結合後の資産及び負債とに判別しようとするものである。このアプローチは、企業結合時に本来取得企業が負担すべき費用が企業結合時の負債として会計処理されてしまう可能性に対応するために考案されたものである。

2. 新たなアプローチ
新たなアプローチでは、基本原則として次の考え方を採用する。
「企業結合では、取得企業は、企業結合の一環として取得した資産(のれんを除く)及び引き受けた負債を取得日の公正価値で認識する。」

(注)この基本原則では、公正価値での測定を原則としているが、この原則の例外として、繰延税金、年金等の退職後給付負債(いずれも企業結合において公正価値で測定されない)がある。

この基本原則の下では、ある取引が被取得企業の受取った便益に関連していれば、当該取引から生じる負債は企業結合にとって必要なものであり、従って企業結合の会計処理に含まれるべき負債であると判定する。また、当該取引が取得企業又は結合企業の便益となるのであれば、当該取引から生じる負債は企業結合にとって必要なものではなく、当該負債は、企業結合の会計処理に含めるべき負債ではないと判断される(すなわち、当該負債は取得企業に企業結合後に生じた負債と考える)。

このようにこのアプローチでは、ある取引が被取得企業の便益となっているのかどうかによって企業結合の会計処理に含めるべき負債かどうかを判定しようとしている。そして、この判断を行う際に考慮すべき要素として次の4つの要素が示されている。これらを総合的に評価して、最終的な判断することになる。

  1. 債務発生事象(obligating event)のタイミング。IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)では、債務発生事象は、法的債務あるいは推定的債務を引き起こす事象で、債務を決済する以外に現実的な選択肢を持たないものと定義されている。例えば、企業結合交渉の前に発生した被取得企業の債務発生事象は、被取得企業に便益をもたらす取引である可能性が高く、企業結合の会計処理に含めるべき負債と判断できるが、企業結合の交渉中の債務発生事象は、企業結合後に取得企業が負担すべき費用を企業結合の会計処理に負債として含めている可能性がある。
  2.  取引により最も利益を得るのは誰か。例えば、従業員への報酬の支払い契約が過去の勤労への報酬であれば被取得企業が利益を受けていると考えられ、企業結合の会計処理に含めるべき負債と考えられる。しかし、当該報酬が将来(企業結合後)の従業員の勤労に対応するものである場合には、当該契約から生じる負債は、企業結合の会計処理から除外されるべき負債と考えられる(すなわち、取得企業の負債)。
  3.  取引を行う理由。
  4.  誰が取引を主導したか。被取得企業が主導した取引であれば、被取得企業が便益を得ていると考えることができ、そこから生じる負債は、企業結合の会計処理に含めるべき負債と考えられる。

3. 新アプローチの適用例

今回の議論で用いられた例示から2つを紹介する

事例 取得日で認識すべき資産又は負債か 企業結合の会計処理に含められるべき負債か
A社がB者の100%を取得。B社には企業結合以前に企業結合を契機として報酬を支払うという規定がある。
債務発生事象が何かについては、B社と従業員の契約という見方と企業結合という見方があるが、いずれの場合でも取得日で負債が存在することになる。

債務発生事象のタイミング、取引の受益者、取引の理由及び取引の主導者のいずれも当該負債が被取得企業のものであることを示している。
A社がB者の100%を取得。B社の株主が企業結合後の従業員の退職後給付を改善することを企業結合の条件としている。 ×
債務発生事象のタイミングが企業結合の交渉中であり、取得企業の負担すべき費用である可能性が高い。取引は被取得企業の株主が提案したものであるが、過去の勤労の対価かどうかは不明。退職後給付の改善によって利益を得るのは取得企業である可能性が高い。これらを勘案して、負債は取得企業のものであり、企業結合の会計処理に含めるべき負債ではないと判定できる。
(3)IAS第27号の改訂公開草案に関連する残された問題

IAS第27号(連結及び分離財務諸表)の改訂公開草案に関連する残された問題として、親会社の持分比率が変動した場合における、海外子会社に関連する為替換算調整勘定、海外事業体の投資に対するヘッジ会計に関連する損益及び海外子会社が保有する売却可能金融資産に関連する損益(いずれも海外子会社の資本の部で直接認識されている)の取扱いが議論された。なお、以下では議論を簡単にするため、これらをまとめて「為替換算調整勘定等」と呼ぶこととする。

ここでの論点は、次のような場合における為替換算調整勘定等の取扱いである。

  1.  海外子会社に対する持分比率が低下して支配を喪失する場合。
  2.  支配を喪失した後に当該残余投資部分が関連会社又はジョイント・ベンチャーとなった場合。
  3.  関連会社・ジョイント・ベンチャーへの投資の持分比率が低下するものの重要な影響又は共同支配が継続している場合。
  4.  関連会社・ジョイント・ベンチャーへの投資の持分比率が低下し、重要な影響又は共同支配を失った場合。

今後今回の決定に基づいて、第2フェーズのIFRSに伴う改訂としてIAS第21号(外国為替レート変動の影響)及びIAS第39号が改訂されることになる。

  1. 支配の喪失によるリサイクリング(損益計算書での認識)
    海外子会社や海外事業体への投資に関連して資本の部で直接認識されている為替換算調整勘定等のうち親会社に帰属する部分は、支配の喪失によって損益計算書で認識される(リサイクルされる)という従来の暫定的な合意は変更しないことが再度確認された。また、これに関連して、支配の喪失した場合にのみ為替換算調整勘定等を損益として認識することが暫定的に合意された。なお、ここでの支配の喪失には、保有持分の売却以外に希薄化による支配の喪失も含まれる。
  2. 支配喪失後に関連会社・ジョイント・ベンチャーとなる場合
    海外子会社に対する親会社の持分比率が低下し、支配を喪失することとなるものの、その後も関連会社又はジョイント・ベンチャーとして留まる場合に、海外子会社であったときの為替換算調整勘定等のうち親会社持分に帰属する部分の全額を損益計算書にリサイクルするのか、親会社持分に帰属する部分のうち売却した部分に対応する為替換算調整勘定等の金額のみを損益計算書にリサイクルするのかが議論された。議論の結果、為替換算調整勘定等の親会社持分に帰属する部分の全額を損益計算書にリサイクルすることが暫定的に合意された。これは、関連会社又はジョイント・ベンチャーとなる部分は、支配喪失時点の公正価値で測定されるため、新たな投資が行われたと見ることが適切と考えられたためである。
  3. 関連会社・ジョイント・ベンチャーへの投資の持分比率低下の場合の処理
    関連会社・ジョイント・ベンチャーへの投資の持分比率が低下するものの重要な影響又は共同支配が継続している場合には、低下した持分に対応する為替換算調整勘定等の金額のみを損益計算書にリサイクルすることが暫定的に合意された。
  4. 重要な影響又は共同支配の喪失によるリサイクリング(損益計算書での認識)
    関連会社・ジョイント・ベンチャーへの投資の持分比率が低下し、重要な影響又は共同支配を失った場合にも、海外子会社の支配の喪失と同様に、為替換算調整勘定等のうち投資会社の持分に帰属する部分の全額を損益計算書にリサイクルすることが暫定的に合意された。この取扱いは、重要な影響又は共同支配を失った後にまだ投資の一部が継続して保有されている場合であっても適用される。なお、これに関連して、重要な影響を失った場合のIAS第28号(関連会社に対する投資)の規定を改訂することも暫定的に合意された。すなわち、現行規定では、関連会社でなくなったときには、その時点の簿価を新たな投資の取得原価とみなすこととされているが(第19項)、これを、関連会社でなくなったときには、その時点の公正価値で残余の投資を測定するように変更するものである。

2.IAS第39号の改訂(経過措置の取扱い)

(1) 問題の所在

今回は、IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の適用ガイダンスAG第76項の遡及適用に関連して関係者から寄せられた懸念に対する対応について議論が行われた。

AG第76項では、金融商品の当初認識時の公正価値の最良の証拠は、取引価格であるとしている。ただし、他の観察可能な最近の市場取引と比較して公正価値が証拠付けられる場合と観察可能な市場からのデータのみが変数となっている評価技法に基づいて公正価値が証拠付けられる場合には、取引価格以外を用いることができる。したがって、取引価格以外を用いることができる場合には、当初認識時に損益が生じることになる。ここで取扱う問題は、このようなケースである。

IAS第39号第104項では、この取扱いを遡及適用することとしている。その結果、当初認識時に取引価格以外を用いる金融商品を有している金融機関においては、IAS第39号の適用に際して、当該金融商品の取引日まで遡って当初認識時に生じる損益を把握した上で、期首剰余金の修正を行わなければならないことになる。

さらに、AG第76項の規定は、米国会計基準との統合化のために導入されたものであるが、IAS第39号では遡及可能な限り遡及適用しなければならないのに対し、米国会計基準では、2002年10月25日以降に発生した取引に対してのみ遡及適用を求めており、遡及適用期間に米国会計基準との違いが生じてしまうこととなる。このため、IFRS採用企業が米国で資金調達しようとすると、この差異が米国会計基準との調整項目となってしまうことになる。また、このような調整対象となる金融商品の多くは、その存続期間が長いため、長期にわたる調整が必要になる。

(2)暫定合意

議論の結果、このような調整の必要性を回避するため、IAS第39号の遡及適用に関する規定を次のように改訂することが暫定的に合意され、その変更を公開草案として公開することが暫定的に合意された。

  1.  IAS第39号を改訂し、AG第76項に該当する金融商品(すなわち、当初認識時に損益が生じるような金融商品)に対して、次の選択を認める。
    1. 2002年10月25日以降に発生した取引に対してのみ遡及適用を行う。
    2. 現行IAS第39号第104項の規定どおり完全に遡及適用を行う。
  2. IAS第39号の適用ガイダンスの中で、AG第76項を適用した場合に、当初認識時に損益が生じないような金融商品の場合には、当初認識以後の測定において損益を認識してはならない(本来当初認識時に損益を認識しなければならないにも拘らず認識を行わずに、当初認識以後の測定において損益を認識するような操作を防ぐための規定)。

3.収益認識

議論の内容は、FASBとの合同会議の中の「9.収益認識」を参照されたい。

4.リース

本プロジェクトでは、貸手と借手は、リース契約から生じる権利と義務を資産及び負債として認識するというアプローチが採用されている。今回の議論は、変動リース料に関連するもので、いつ変動する(偶発的な)キャッシュ・インフローとキャッシュ・アウトフローを現時点における資産及び負債として認識すべきか、すなわち、変動リース料のうちの変動部分は、資産及び負債の定義を満たすかどうかが議論の中心であった。具体的には、次のような3つの変動リース料の例が検討された。なお、ここでは、認識の問題に焦点を当てており、測定の問題は将来検討される予定である。

  1. 価格変動といった外部要因に基づいて変動するリース支払い
  2. 借手の利用量に基づいて変動するリース支払い
  3. 借手の財務業績又はその他の業績に基づいて変動するリース支払い
    以下においては、まず、貸手と借手において認識される資産及び負債とこれに対応する権利及び義務にどのようなものがあるかを見たうえで、上記3つの例についての議論を紹介する。
(1)本アプローチによって認識される資産及び負債

本アプローチでは、リース契約から生じる次のような権利と義務を貸手と借手が資産及び負債として認識することが前提となっている。

貸手 借手
資産 ・ 現金を受領する契約上の権利
・リース資産に対する残存権利
・ 使用権を含む資産(すなわち、リース契約で定める条件でリース資産を使用できる無条件の権利)
負債 ・リース契約の下の契約上の義務を含む負債 ・リース契約の下の契約上の義務を含む負債
(2)外部要因に基づいて変動するリース支払い

このタイプの変動リース契約は、消費者物価指数といった外部要因に連動してリース料が変動するというものである。例えば、店舗を10年間リースし、当初のリース料は460 CUであるが、その後のリース料は毎年見直され、消費者物価指数に従って値上げあるいは値下げされるという契約がこれに該当する。

議論の結果、このタイプの変動リース料については次の点が暫定的に合意された。

  1.  借手が支配できない要素によってリース料が変動する変動リース契約では、借手は、10年間リース料を支払わなければならない無条件の義務を負っているが、将来支払わなければならない金額が不確定な状態となっている。同様に貸手も10年間リース料を受取ることができる無条件の権利を有しているが、将来受取るべき金額が不確定な状態となっている。
  2.  上記のような場合には、借手は、将来の不確実性を勘案した期待値としての支払リース料を負債として認識し、同様に貸手は期待値としての受取リース料を資産として認識する。
(3) 借手の使用量に基づいて変動するリース支払い

このタイプの変動リース契約は、借手のリース資産の使用量に基づいてリース料が変動するというものである。例えば、3年間の自動車のリースで、年間のリース料は、10,000 CUに金額が固定されているが、追加条項として、借手は、60,000マイルを超えて使用する場合には、1マイルにつき1CUを別に支払うものとされているという契約がこれに該当する。

このタイプの変動リース料については、次のような2つの異なる考え方が検討されたが、合意には達していない。

  1.  固定リース料のほか追加使用量も含めて資産及び負債として認識すべきという考え方
  2.  変動リース料が、借手が支配できる要素(ここでは追加して使用するかどうかの決定)を条件としているので、固定リース料のみを資産及び負債として認識すべきという考え方

今後、貸手におけるリース料の認識は、収益認識プロジェクトとも関連するため、このプロジェクトとの関係を整理することとされた。

(4) 借手の財務業績又はその他の業績に基づいて変動するリース支払い

このタイプの変動リース契約は、借手の売上高や利益に基づいてリース料が変動するというものである。例えば、店舗の10年間のリース契約で、年間のリース料が、店舗売上高の7%か、400CUのどちらか高い方に設定されているという契約がこれに該当する。

このタイプの変動リース料については、次のような2つの異なる考え方が検討された。

  1.  負債があるという見方。将来の売上高の増加によって生じると見込まれる変動リース料部分を含めて負債を認識すべきであるという考え方である。
  2.  負債がないという見方。借手は店舗からの売上を支配していると考え、借手が支配できる要素からは負債は生じないと考える見方である。

議論の結果、「負債があるという見方」を採用することが暫定的に合意された。貸手は、売上高の7%が400CUを超えた場合に追加のリース料を受取ることができるという無条件の権利を有しており、また、借手もこれに対応する無条件の義務を有しているので、これを資産及び負債に反映するため期待値によって測定すべきであるというのがIASBの暫定的結論である。ただ、このような考え方が無形資産のライセンスといった類似取引においても妥当性があるかどうかといった点についてさらに検討する必要性が指摘された。

5.SME会計基準

今回は、SME会計基準に関するディスカッション・ペーパーのドラフトについて議論が行われた。このドラフトは、アドバイザリー・パネルのメンバーにも回覧され、そこから得られたコメントへの対応を中心に議論が行われた。議論の結果は、次の通りであるが、議論の最後にディスカッション・ペーパーの公表について採決され、賛成12反対1(ライゼンリング氏)で公表することが決定された。公表時期は、2004年5月又は6月の予定であり、公開期間は90日である。

  1.  概念フレームワークで述べている財務報告の目的(投資家ための意思決定情報の提供)は、IFRSに基づく財務諸表の作成企業にもSMEにも等しく当てはまることを明確にする(両者の目的は異なるというコメントがあったことに対応)。
  2.  IFRSの適用企業の範囲をできるだけ広くするため、IFRSを適用すべき企業の範囲を拡大する。すなわち、各国において、資産総額、収益総額、従業員数、市場占有率等から経済的に重要な企業に対しては、SME会計基準ではなく、IFRSを適用することが妥当であることを明確化する。
  3.  SMEが、SME会計基準に代えてIFRSを適用する場合には、当該IFRSの規定すべてを適用すべきであり、1つのIFRSの中の任意の一部のみを適用し、残りはSME会計基準を適用するということは認めないこととする。
  4.  初めてSME会計基準を公表する際には、すべてのSME会計基準とその解釈指針を一括して公開するが、一旦SME会計基準が完成した後は、IFRSや解釈指針の公開草案を公表する際にその中にSME会計基準を包含することとする。

IASBとFASBの合同会議

6.今後の検討課題(優先順位)

ノーウォーク合意に基づいて、短期的な統合化、収益認識等のプロジェクトが進行しているが、今回、今後両者で取上げるべきプロジェクトについて次のような議論が行われた。

  1.  両者に共通の概念フレームワークを作るための共同プロジェクトに着手すべきかどうか。
  2.  それぞれのボードが検討しているテーマで共同又は同時に行うべきプロジェクトがあるかどうか。また、新たなテーマで共同又は同時に行うべきプロジェクトがあるかどうか。
(1) 共通概念フレームワークの構築

FASB及びIASBともに概念フレームワークを有しているが、その内容には大きな差があり、両者の共通の概念フレームワークの構築が必要かどうかが議論された。

議論の結果、共通概念フレームワークの構築へ向けて共同プロジェクトに着手することが合意された。プロジェクトの進め方としては、次の3つが提案されたが、ハイブリッドアプローチを支持するボードメンバーが多かった。

  1.  連続アプローチ:FASBが現在の概念基準書で採用しているように、概念フレームワークを包括的に見直しテーマごとにいくつかの連続した基準書を作るアプローチ。
  2.  追加アプローチ:現在取上げているプロジェクト(例えば、負債と資本の区分)で必要とされる範囲で概念フレームワークを見直し、それ以外の部分は見直さないというアプローチ。
  3.  ハイブリッドアプローチ:概念フレームワークを包括的に見直しはしないが、基準作りに際して頻繁に出てくる問題であるものの、各基準では扱えないような横断的性格を持った問題に絞って議論を行おうというアプローチ。このような例として、「probable」の解釈、負債の定義及び「会計単位(unit of account)」などがあげられる。

今後、次回2004年10月の共同会議までにより細かい計画案を準備することがスタッフに指示された。

(2) 現在の検討テーマで共同プロジェクトとすべきもの

現在FASB及びIASBが取上げているテーマのなかで共同プロジェクトとすべきものがあるかどうかが議論された。

議論の結果、まず、新たなプロジェクトの進め方として、「修正共同プロジェクトアプローチ」を一部のプロジェクトに採用することが合意された。修正共同プロジェクトアプローチは、FASBかIASBのどちらかが主たるプロジェクト推進母体となるものの、両者のスタッフが参加する1つのスタッフチーム(場合によっては両者以外の会計基準設定主体のスタッフも参加する)で作業を進めるもので、既にどちらかが先行して作業を進めているプロジェクトに適用される。当初ディスカッション・ペーパーを共同で公表し、その後コメントの分析を経て、最終的には、両者で同じ会計基準又はかなり類似した内容の会計基準を作成することを目指すというアプローチである。

次いで、現在FASBとIASBが検討中の1. 負債と資本の区分、2. 保険会計、3. 負債の消滅、4. 連結及びSPE及び5. 包括利益の報告の各プロジェクトを次のように取り扱うことが合意された。

  1.  修正共同プロジェクトアプローチを用いて次のプロジェクトを進めるかどうかを今後検討する。
    1. 負債と資本の区分プロジェクト(FASBが主となる)
    2. 保険会計(IASBが主となる)
  2.  IASBは、FASBが取上げている負債の消滅プロジェクトを共同プロジェクトとして取上げるかどうかを将来検討する。負債の消滅プロジェクトは、FASBが2003年に取上げたテーマで、SFAS第140号(金融資産の譲渡及びサービス業務並びに負債の消滅に関する会計処理―SFAS第125号の改訂)の中にある負債の消滅に関する規準の明確化を図るとともに、負債の認識の中止の考え方を履行義務の消滅にどのように適用するかを検討することによって収益認識プロジェクトでの議論を支援することが目的とされているプロジェクトである。
  3.  連結及びSPEについては、両者の会計基準を統合するべきである点については合意されたものの、当面は、それぞれが別々にプロジェクトを進めることとされた。ただし、もっと緊密にプロジェクトを進められるかどうかについて検討することがスタッフに指示された。

なお、包括利益の報告プロジェクトは、既にFASBとIASBチームで共同プロジェクトとして進めることが合意されているので、今回ここでは議論されなかった。

(3) 今後取上げるべき共同プロジェクトのテーマ

今後新たな共同プロジェクトとして取上げるべきものとして、1. 退職後給付、2. リース、3. 無形資産及び4. 金融商品を取上げることが合意された。

このうち、退職後給付プロジェクトについては、年金会計の包括的な見直しも視野に入れているため、ここでの議論では、負債の定義との関係も検討する必要がある(予測単位積立方式による年金債務の認識が負債の定義を満たすかどうか)。このため、概念フレームワークの見直しプロジェクトとの連携を図る必要がある。このような事情から、まず退職後給付プロジェクトで検討すべき問題点にどのようなものがあるかを調査するための事前リサーチから始めることが予定されている。

また、金融商品プロジェクトは、まず米国会計基準とIAS第32号及び第39号との間の差異について調査を行い、ついで両者の差異を減少させるためのプロジェクト又は現行基準の改善を図るプロジェクトを立ち上げることを予定している。

(4) 短期統合化プロジェクトのテーマ

短期統合化プロジェクトの新たなテーマとして、有形固定資産の会計処理、不動産の会計処理及びジョイント・ベンチャーの会計処理を新たに取上げる方向で、プロジェクトの内容を検討するようスタッフに指示が行われた。

(5) リサーチ・プロジェクトのテーマ

現在リエゾン国の会計基準設定主体を中心に検討されている1. 採掘産業、2. ジョイント・ベンチャー及び3. 投資に対する持分法の適用についても今後FASBとIASBのリサーチプロジェクトとしてスタッフが検討を始めることが合意された。

7.企業結合(第2フェーズ)

IASB会議で議論された内容とほぼ同じ内容について議論が行われたので、「1.企業結合(第2フェーズ)」を参照されたい。なお、海外子会社に関連して生じる為替換算調整勘定等の取扱いに関連して、支配を喪失した場合には、親会社の持分に帰属する為替換算調整勘定等を損益計算書にリサイクルするという取扱いを、関連会社やジョイント・ベンチャーの対して有していた重要な影響又は共同支配を喪失した場合にも拡大することをIASBが決定したことが報告され、FASBもこの内容を検討することとなった。

8.包括利益の報告

この問題の議論に当たっては、英国財務会計基準審議会(ASB)からも議長が参加した。2004年3月にFASB、ASB及びIASBのスタッフの合同ワーキング・グループから示されたプロジェクト計画がIASBで検討されたが、同様な検討がASB及びFASBでも行われ、それぞれの会計基準設定主体での議論をまとめた資料に基づいて、今後のこのプロジェクトの取り進め方について議論が行われた。

議論の結果、プロジェクトを次の2つのステップに分け、それぞれに示す項目を検討することが暫定的に合意された。

1. セグメントA

  1. 「継続事業からの当期利益(net income from continuing operations)」又は「当期利益(profit or loss)」を含む一計算書方式による包括利益計算書を要求すべきかどうか。
  2.  要求される主要財務諸表の特定。
  3.  要求される比較財務諸表及び関連する注記による開示において要求される年数。
  4.  キャッシュ・フロー計算書の表示には、直接法が要求されるべきかどうかの検討。

2. セグメントB

  1.  当期利益とその他包括利益の間でのリサイクリングという概念に価値があるかを検討する。価値があると判断された場合には、リサイクルすべき取引と事象の種類の根拠及びいつリサイクルすべきかを検討する。
  2.  それぞれの財務諸表で区分して情報を表示するための首尾一貫した原則を構築する。
  3.  それぞれの財務諸表で報告すべき合計及び小計を定義する(例えば、事業とか財務といった区分)。
    このプロジェクトの対象となる包括利益計算書は、すべての業種の包括利益計算書とすることとされた(金融機関等を除外すべきとの意見もあったが採用されなかった)。

このプロジェクトでは、FASB及びIASBに共通するプロジェクトチームを1つ編成し、上記2つのステップを同時に進行させる予定である。また、共同アドバイザリー・グループを編成することも合わせて合意された。

今後プロジェクトのスケジュールが検討されることになるが、セグメントAのディスカッション・ペーパーは、2005年第2四半期ころの公表を予定している。

9.収益認識

今回は、1. 収益と包括利益のその他の構成要素を区分することが有用かどうか、2. 容易に市場で販売可能な現物商品の生産時点で収益を認識すべきか、3. 第三者による下請け・外注によって履行された取引について収益を認識すべきか及び4. 非相互的移転を収益として認識すべきか(これに伴い定義を変更すべきか)という4点について議論が行われた。なお、本プロジェクトは、FASBが主導するIASBとの共同プロジェクトである。

(1) 収益と包括利益のその他の構成要素の区分の有用性

ここでは、現行のFASB、IASB等の概念フレームワークにおいて現在行われている包括利益(IASBの場合には広義の収益)を収益と利得に区分することが有用かどうかについての検討が行われた。

(注)FASBでは、”comprehensive income(包括利益)”を”revenue(収益)”と”gain(利得)”に分けているが、IASBの概念フレームワークでは、”income(広義の収益)”が”revenue(収益)”と”gain(利得)”に分けられており、”revenue(収益)”と”gain(利得)”をまとめる概念の用語が異なっている。

1. FASBとIASBにおける収益と利得の定義

収益と利得は、リエゾン国の概念フレームワークでも区分されている場合が多いが、FASBとIASBの場合は次のようになっている。

 FASBでの定義 IASBでの定義
広義の収益(income)とは、当該会計期間中の資産の流入若しくは増価又は負債の減少の形をとる経済的便益の増価であり、持分参加者からの拠出に関連するもの以外の持分の増加を生じさせるものをいう。
収益とは、財貨の引渡しもしくは製造、サービスの提供、又は企業の継続的で主要なもしくは中心的な営業活動を構成するその他の活動による、企業の資産の流入その他の増加もしくは負債の決済(又は両者の組合せ)をいう。 収益(revenue)は、企業の通常の活動の過程において発生し、売上、報酬、利息、配当、ロイヤルティー及び賃貸料を含むさまざまな名称で呼ばれている。
利得とは、企業の副次的又は付随的な取引および企業に影響を及ぼすその他のすべての取引その他の事象及び状況による持分(純資産)の増加のうち、収益又は出資者の投資によって生じる増加以外のものをいう。 利得は、収益の定義を満たすその他の項目を表し、企業の通常の活動の過程において発生するものと発生しないものとがある。利得は、経済的便益の増加額を表しており、その点では本質的に収益と相違はない。したがって、収益と利得とは、本フレームワークでは別個の要素を構成するものとしては考えていない。

2. 収益と利得の区分の有用性

各基準設定主体のフレームワークでは、収益と利得の区分を有用なものと認めており、区分を禁止すべきだと主張しているものはない。IASBは、この区分によって提供される予測価値を強調しており、FASBは、この区分が予測価値とフィードバック価値の両方を提供するとしている。収益と利得の区分は、純資産がどのように、またどのような原因で増加したのかを説明するのに役立っている。例えば、純資産の変動が、性格の異なった別々の源泉から生じていることを示したり、そのような源泉が経常的なものなのか非経常的なものなのかを区別したりするのに役立っている。

しかし、スタッフは、収益と利得の区分はそれほど明確でない場合があり、また、場合によっては、項目の性格の相違を反映した収益や利得以外の区分が有用と考えられる場合がある点を指摘している。

3. 暫定合意

議論の結果、包括利益(IASBでは広義の収益)を収益と利得に区分することは、投資家に有用な情報を提供するという点、現在の収益と利得との間の境界が明確でない場合がある点、また収益及び利得以外の区分を用いることがより有用な場合があることが暫定的に合意された。

(2) 容易に市場で販売可能な現物商品の生産時点での収益認識

ここでは、1. 容易に販売可能な現物商品(貴金属等の鉱物や農産物)の製造によって生じる資産の増加は、包括利益の構成要素(収益又は利得)を生じさせるか、また、2. そうである場合、その構成要素は収益と利得のいずれかに区分されるか、それともこれらとは異なる種類の包括利益かとすべきかという論点が検討された。

1. 製造による資産の価値の増加は包括利益を生じさせるか

スタッフの分析では、製造による資産の価値の増加は、FASBの概念フレームワークでは包括利益を生じ得る。一方、IASBの概念フレームワークでは明記されていないが、排除されてはおらず、認識規準を満たせば認識され得ると考えられる。

しかし、容易に販売可能な現物商品(貴金属等の鉱物、生物資産及び農産物)の製造以外の製造活動による資産の価値の増加は、資産の増加が本当に発生しているかどうかに関して不確実性がある等の理由でほとんどの場合、認識規準を満たさない。一方、スタッフの分析では、貴金属等の鉱物、生物資産及び農産物のような容易に販売可能な現物商品では、物的に増加が確認でき、また、容易に販売可能な市場の存在はその資産が信頼性をもって測定できることを示しているので、これらの価値の増加は、包括利益を生じさせているということができる(すなわち、収益、利得又はそれ以外の包括利益が認識できる)としている。

2. 製造による資産の価値の増加は収益か利得かそれとも第3の区分か

スタッフの分析では、例えば、農業生産者が行う生物資産の生産に関連する活動は、FASBの概念フレームワークでは収益を構成すると考えられる。しかし、容易に販売可能な現物商品の製造については、収益や利得以外の包括利益の区分(例えば、製造収益(production income))が適切ではないかと提案している。

議論の結果、貴金属等の鉱物、生物資産及び農産物のような容易に販売可能な現物商品の製造による資産の価値の増加は、包括利益を生むことについては暫定的に合意された。

(3) 第三者による下請・外注による履行は収益認識を妨げるか

ここでは、第三者への下請(subcontracting)・外注(outsourcing)契約等により、自ら履行をせず第三者に履行を委託する場合に収益を認識すべきかどうかが検討された。

スタッフからは、次のような提案がなされた。

  1. 報告企業の下請・外注の範囲に関する情報は、投資家や債権者にとって有用と考えられるので、損益計算書本体に表示すべきである(収益を表示する際に、当初の契約高から法的な義務移転を行った契約高を差引いて収益を表示するなど)。
  2. 法的な義務移転を伴う下請契約は、報告企業の収益を生じないものとする(FASBでは既に合意済み)。また、SFAS第140号の負債の認識の中止の規定と首尾一貫させるため、法的な義務移転を伴わない下請契約は、報告企業に収益を生じるものとする。
  3. 外注契約は収益に関連するというより費用認識関連する問題であるが、外注費用の科目を設ける等により、損益計算書に外注契約に関する情報を示すべきである。

議論の結果、上記 (b)については、スタッフ提案を受入れることが暫定的に合意された。しかし、(a)及び(c)については、損益計算書上で下請契約に関する収益を区分したり、外注契約に関する費用科目を区分したりすることは要求されるべきではないとされた。

(4) 非相互的移転を収益として認識すべきか

ここでは、他の企業から報告企業への非相互的移転(nonreciprocal transfer)を、収益の定義に含めるべきか、包括利益の他の構成要素に含めるべきか、さらに収益として認識する立場を採用した場合の収益の定義への影響について検討が行われた。

議論の結果、非相互的移転によって受取ったものは収益として認識すべきであり、損益計算書上で独立した勘定科目として表示すべきであると暫定的に合意された。

10.短期的な会計基準の統合

FASBとの短期統合化プロジェクトでは、1. IAS第12号(法人所得税)、2. IAS第38号(無形資産)の研究開発費及び3. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)の3つについて議論が行われた。ここでは、1. と2. の議論を紹介する。

(1)IAS第12号(法人所得税)

1.問題の所在とこれまでの経緯

IAS第12号(法人所得税)では、企業結合ではなく、かつ、取得日に会計上の利益にも課税所得にも影響しない取引から生じる資産又は負債の当初認識時に生じる一時差異(当初取得時において会計上の簿価と税務上の簿価との間に生じる差異)に対しては、当初認識時に繰延税金資産・負債を認識することを認めていない(当初認識免除)。さらに、取得時以降においてもこの一時差異に対して繰延税金資産・負債の認識を認めていない。一方、SFAS第109号(法人所得税の会計処理)でもこの点は明確ではなく、緊急問題タースクフォース(EITF)がこの問題について見解を示している(EITF Issue 98-11)。それによると、単一の資産の取得の場合で会計上の簿価と税務上の簿価が異なる場合には、連立方程式を用いて、支払対価を当該資産と繰延税金資産又は負債に配賦しなければならないとされている。

IASBは、2003年4月に当初認識時に生じる一時差異の取扱いについて米国会計基準との統合化を図ることを暫定的に決定し、この問題に取り組むこととした。そして、2004年3月の会議で、連立方程式を用いて取得資産の「最終簿価」を計算する3つの方式のうち、見解1を採用することを暫定的に決定した。

しかし、その後FASBにおいて、取得資産の「最終簿価」を計算する際に連立方程式に代えて当該資産の公正価値を用いる2つの方式が検討されたことを受けて、今回の会議では、5つの選択肢が議論された。そして、最終的には、見解5を採用することが暫定的に合意された。

2.検討された5つの代替案と暫定合意

当初認識時に生じる一時差異の会計処理に関して、連立方程式を用いる3つの代替案(見解1から3)に加え、取得資産の「最終簿価」として当該資産の公正価値を用いる2つの代替案(見解4及び5)が検討された。

  1. 見解1:連立方程式を用いて、対価支払額を資産と繰延税金資産・負債に配賦するが、当該資産の簿価を超える繰延税金便益は、即時に損益計算書で認識するという考え方。2004年3月では見解Cとされていたもの。
  2. 見解2:連立方程式を用いて、対価支払額を資産と繰延税金資産・負債に配賦するという考え方(EITFの考え方)。果として生じる繰延税金便益・費用を繰延負債として負債で認識する。2004年3月では見解Bとされていたもの。
  3. 見解3:繰延税金資産・負債を対価支払額と税務上の簿価との差額に税率をかけたものとして認識し、結果として生じる差額を購入割引引当金(繰延税金資産に対する評価勘定)として認識するという考え方。2004年3月では見解Aとされていたもの。
  4. 見解4:資産の公正価値を会計上の簿価とし、繰延税金資産・負債を当該公正価値(会計上の簿価)と税務上の簿価との差額に税率をかけたものとして認識する。対価支払額と会計上の簿価及び繰延税金資産・負債の差額として生じる差額を即時に損益計算書で認識するという考え方。
  5. 見解5:資産の公正価値を会計上の簿価とし、繰延税金資産・負債を当該公正価値(会計上の簿価)と税務上の簿価との差額に税率をかけたものとして認識する。対価支払額と会計上の簿価及び繰延税金資産・負債の差額として生じる差額を購入割引引当金(繰延税金資産に対する評価勘定)として認識するという考え方。購入割引引当金は、関連する税務便益が実現する時点で損益計算書に振り替えられる。

上記5つの考え方のうち見解1、4及び5に従った当初認識時の会計処理の例を示すと次の通りである。見解4では、対価支払額と会計上の簿価及び繰延税金資産・負債の差額として生じる差額(40)を即時に損益計算書で利益として認識しているが、見解5では、差額を購入割引引当金(繰延税金資産に対する評価勘定)として認識している点が異なっている。

適用税率40% 見解1 見解4 見解5
支払対価:700
税務上の簿価:1,100
公正価値:500
(Dr)資産 433
(Cr)現金 700
(Dr)繰延税金資産 267
(Dr)資産 500
(Dr)繰延税金資産 240
(Cr)現金 700
(Cr)税金便益(P/L) 40
(Dr)資産 500
(Dr)繰延税金資産 240
(Dr)購入割引引当金-40
(Cr)現金 700

【計算の根拠と解説】

  1. 見解1:
    次の連立方程式を解く。なお、CPP:現金購入価格、FBB:資産の最終簿価、DTA:繰延税金資産、TB:税務上の簿価
    CPP=FBB – (FBB – TB) x Tax rate
    DTA=(TB – FBB) x Tax rate
    700=FBB-(FBB-1,100)x0.4
    FBB=(700-1,100×0.4)/0.6=433
    DTA=(1,100-433)x0.4=267

  2. 見解4:
    DTA=(TB – FBB) x Tax rate=(1,100-500) x0.4=240
    税金便益(P/L)=(500+240)-700=40

  3. 見解5:
    計算については見解4と同様。

3.暫定合意

議論の結果、2004年3月でのIASBの暫定合意(上記の例では見解1に相当する)を覆し、見解5が暫定的に採用された。取得した資産をその公正価値で認識することが、連立方程式によって資産の取得原価を測定する見解1(見解1では、公正価値500と異なる433が取得原価となる)より妥当と考えられた。また、対価支払額と会計上の簿価及び繰延税金資産・負債の差額として生じる差額(500+240-700=40)は、繰延税金資産の現在価値と将来価値との差額と理解して繰延税金資産に対する評価勘定という処理が行われる。

(2)研究開発費

2003年10月のIASBとFASBの合同会議で短期統合化プロジェクトの一環として、FASBにおいて研究開発費の会計処理を取上げ、統合が可能かどうかを検討する作業が行われてきた。今回FASBのスタッフから、研究開発費を含む無形資産全般について米国会計基準とIFRSとの比較を行い、その結果、研究開発費を取上げることは短期統合化の目的と合致しないとの結論に達した旨の報告を受けた。すなわち、研究開発費の統合化を図るためには、無形資産全般にわたる米国会計基準とIFRSとの差異の統合を図る必要があり、短期的に解決できる問題ではないという分析であった。 この報告を受けて議論を行った結果、分析のとおりこの問題の解決には無形資産全般の包括的見直しが必要である点については理解されたものの、研究開発費を巡る米国会計基準とIFRSの差異は、米国でIFRSに基づく財務諸表を利用するときの大きな調整項目となっており、差異を縮小するための何らかの方法を探るべきであるとされた。そこで、例えば、SFAS第86号(販売、リースその他の方法で市場に出されるコンュータ・ソフトウェアの原価の会計処理)における資産化の規準をIAS第38号の自己創設無形資産の規定の適用の際に用いることができないかといった点についてさらに検討するようスタッフに指示が出された。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)