ASBJ 企業会計基準委員会

第33回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第33回会議が、2004年3月17日から19日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合(第1フェーズ)、2. IAS第39号(ポートフォリオ・ヘッジ)の改訂、3. IAS第39号(公正価値オプション)の改訂、4. 包括利益の報告、5. 退職給付(年金会計)、6. 収益認識、7. 連結及びSPE、8. FASBとの短期統合化プロジェクト(処分のために保有される非流動資産と廃止事業、IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)及びIAS第12号(法人所得税))、9. 保険会計(第1フェーズ)、10. 中小規模企業の会計基準、11. 解釈指針(年金会計及び処分費用等の債務の変動)及び12. 今後の検討課題についての議論が行われた。会議には理事14名が参加した。本稿ではこれらの議論の概要を紹介する。

1.企業結合(第1フェーズ)

(1) 経緯

今回の会議では、第1フェーズに関連して今後直ちに公表される予定の新たな公開草案に関する議論が行われた。公開草案の対象とされるのは、1. 複数の相互会社の企業結合及び2. 所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合の取扱いである。これらの企業結合は、公開草案第3号(ED3)では、第1フェーズの適用対象外とされ、現行IAS第22号を継続して適用することとされていたが、この取扱いを適用すると次のような問題が生じるため、これら2つの企業結合を第1フェーズの範囲に含めることが、2003年12月のIASB会議で決定された。

  1. 2つの企業結合が「持分の結合」と判断された場合には、ED3では否定された持分プーリング法が適用されることになり、ED3における取扱いと矛盾する(ED3において、IASBは、持分プーリング法はパーチェス法より優れた情報を提供しないと結論付けている)。
  2. (b)2つの企業結合が「取得」と判断された場合に適用されるのは、現行IAS第22号に規定されているパーチェス法であるため、ED3とは異なるパーチェス法が適用されることとなる。

これら2つの企業結合の取扱いは、ED3では取り上げられていなかったものであり、再公開が必要となるので、次のようなステップを採用することが2003年12月に決定された。

  1. 第1フェーズのIFRS(第3号)は、ED3の提案のまま上記の2つの企業結合をIFRSの対象外とした上で、2004年3月末までに完成させる。
  2. それと同時に、この問題だけを取扱った限定的な公開草案を準備し、この公開草案で、完成したばかりの第1フェーズのIFRS(第3号)を改訂して、上記の2つの企業結合をIFRSの範囲に含めることとする。

さらに、これら2つの企業結合の会計処理では、企業結合の対価の測定が容易でないことに鑑み、被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債の公正価値累計額を企業結合のコストとみなし、取得企業にのれんは生じさせないという提案を行うことも暫定的に合意されていた。

(2) 検討された問題点

今回の会議では、新たな公開草案の対象となる2つの企業結合に関連した次の4点について議論が行われた。

  1. これらの企業結合では、企業結合の対価が信頼をもって測定できないため、被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債の公正価値累計額を企業結合のコストとみなして会計処理を行うこと(結果として取得企業にのれんが生じない会計処理)が想定されていたが、企業結合の対価一部が信頼をもって測定できる場合の会計処理。
  2. 企業結合に直接関連する費用の取扱い。
  3. 経過措置。
  4. 公開期間。

(3) 暫定合意

1.のれんを生じさせない会計処理の適用範囲

これら2つの企業結合の会計処理では、企業結合の対価(コスト)の測定が容易でないことを理由として、被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債の公正価値累計額を企業結合のコストとみなし、取得企業にのれんが生じない会計処理を許容することを提案することで暫定的に合意している。しかし、企業結合に当たり信頼をもって測定できる対価が交換される場合にどのような会計処理を行うかについても明確にする必要があることが認識され、このような場合の会計処理が次のように暫定的に合意された

なお、2つの企業結合のうち、所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合の場合には、企業結合にあたり対価が交換されないことから、公開草案では、このような企業結合と複数の相互会社の企業結合に分けて規定を行うこととされた。

  1. 複数の相互会社の企業結合の場合には、企業結合のコストは次の合計値とする。
    1. 被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債の正味公正価値
    2. 信頼をもって測定できる対価の交換日における公正価値
  2. 所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合の場合には、企業結合のコストは、被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債の正味公正価値とする。

したがって、(a)の場合には、授受された対価の公正価値((a)(ii))と同額がのれんとして認識される。このような処理が行われるのは、ここで扱う2つの企業結合では、企業結合のコストを信頼を持って測定できないため、簡便法として被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債の正味公正価値を用いている。もともと企業結合の対価が信頼をもって測定できないとされているところに、信頼をもって測定できる対価の交換が行われるのであれば、これを識別可能資産、負債及び偶発負債の正味公正価値に加えたものを企業結合による取得のコストと見ざるを得ないという判断がある。

2.企業結合に直接関連する費用の取扱い

ここで取り扱う2つの企業結合に直接関連する費用は、それらが発生した期の費用として認識することが暫定的に合意された。したがって、例えば、被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債の公正価値累計額が1,000であり、企業結合に関連する直接費用が50である場合、次のように会計処理される。これは、有形固定資産における直接費用の取扱い(資産化)とは異なる。

(借方)純資産  1,000/(貸方)資本 1,000
(借方)費用   50/(貸方)現金 50

3.経過措置

新たに公開される公開草案には、特別な経過措置を設けないこととされた。

4.公開期間

本来は90日が公開期間であるが、90日を採用すると最終基準となるのが2004年12月となるため、公開期間を60日とすることが暫定的に合意された。60日の場合には、2004年10月ころまでに完成できる見込みである。なお、公開草案の公表は4月中旬を予定している。

2.IAS第39号の改訂(ポートフォリオ・ヘッジ)

(1) 問題の所在

今回金利リスクのポートフォリオ・ヘッジ(公正価値ヘッジ)に関する最終基準の確定のための最後の議論が次の点について行われた。ポートフォリオ・ヘッジを巡っては、1. アンダーヘッジの場合にもヘッジの非有効部分を認識する及び2. コア預金がヘッジ対象に含まれないといったこれまでのIASBでの暫定的な結論に対して欧州の銀行から強い懸念が表明されており、今回も新たに提案された金利マージン・ヘッジという区分の新設が議論された。

  1. 期限前償還の予想が金利変動以外の要因で変化した場合には、ヘッジの非有効性は生じないとすべきかどうか。
  2. 金融資産及び金融負債の一部をヘッジ対象とすることができるためには、ヘッジ対象全体が有するリスクと同じリスクを有している必要があるかに関するガイダンスをさらに作る必要があるかどうか。
  3. 2004年2月の会議で、部分ヘッジを行なう場合、ヘッジ対象となるエクスポージャーは、ヘッジ対象となる資産・負債全体のエクスポージャーより小さな部分でなければならないことを明確にすることが暫定的に合意されたが、これを反映した文言のスタッフの解釈が妥当かどうか。
  4. キャッシュ・フロー・ヘッジが行われた場合の貸借対照表の資本の部の表示のガイダンスを追加するかどうか。
  5. 「金利マージン・ヘッジ」を新たなヘッジ会計の区分として認めるかどうか。
  6. ポートフォリオ・ヘッジの乱用を防止するための手当てをすべきかどうか。

今回の議論でポートフォリオ・ヘッジに関する議論は終了したため、議論の最後に、これまでの議論を踏まえた最終基準化に対するボードメンバーの賛否が問われ、1名が基準化に反対した(反対したのはスミス氏)。今後2004年3月末までに最終基準が公表される予定である。

(2)期限前償還予想の金利変動以外の要因による変動と非有効性

論点は、期限前償還の予想が金利変動以外の要因(例えば、課税体系の変更)で変動した場合に、そのような変動を有効性の判定対象からはずすかどうかであり、2004年1月の会議では、有効性の判定からはずすことが暫定的に合意されていた。しかし、金利変動要因とそれ以外の要因を明確に分けることは困難であり、このような取扱いを示すことは、かえって混乱を招くという数名のボードメンバーからの指摘を受けて、改めて議論が行われた。

議論の結果、金利変動以外の要因で期限前償還が起こったことが明示できるときにのみ、当該要因による期限前償還の見積りの変動を有効性の判定から除くこととする(金利変動要因とそれ以外の要因とを明確に分けることができない場合には金利変動要因によるものとみなされる)ことが暫定的に合意された。

(3)部分ヘッジに関するガイダンス(ヘッジ対象の有するリスクと部分ヘッジの対象リスクとの関連性)

2004年2月の会議では、部分ヘッジに関連して、部分ヘッジでは、ヘッジ対象のエクスポージャー総額以下の部分であれば、当該部分がヘッジ対象の価格変動と相関関係がなくとも部分ヘッジの対象とすることができることが暫定的に合意され、この点を明確にすることとされた。例えば、銀行の当座貸越の場合で貸越レートとしてLIBORより高い金利が賦課されている場合には、貸越レートがLIBORと高い相関関係になくとも貸越レートに含まれるLIBOR部分をヘッジ対象とすることができることとされていた。

このような取扱いは、例えば、英ポンド建ての当座貸越を米国財務省証券に基づくデリバティブでヘッジすることも可能であるとも解釈することができ、対象範囲が広すぎるという点が4大会計事務所などから指摘され、改めて今回この取扱いの妥当性について議論が行われた。議論の結果、この取扱いには指摘のような問題点があるため、削除することが暫定的に合意された。

(4)部分ヘッジに関するガイダンス(ヘッジ対象エクスポージャーの制限)

2004年2月の会議では、部分ヘッジを行なう場合、ヘッジ対象となるエクスポージャーは、ヘッジ対象となる資産・負債全体のエクスポージャーより小さな部分でなければならないことを明確にすることが暫定的に合意されていた。これは、例えば、LIBOR(6%と仮定)より低い金利(4%と仮定)を持つ負債がある場合、これをLIBOR(6%)とマイナスの残余部分(マイナス2%)に分離して、LIBOR(6%)部分のみをヘッジ対象とすることはできないということを意味している。しかし、この決定に対しては、この取扱いは、もし負債の実効金利がLIBOR以下である場合には、この負債をLIBORに基づくデリバティブでヘッジすることは、ヘッジ会計の適用対象にならないと解釈できるとの指摘があり、このような誤解を避け、この点を明確にする必要があるため、今回議論が行われた。

2004年2月の暫定合意の趣旨は、既に述べたように、LIBOR(6%と仮定)より低い金利(4%と仮定)を持つ負債のキャッシュ・フローをLIBOR(6%)のキャッシュ・フローとマイナス2%のキャッシュ・フローの合計と見て、実際に支払う金利(4%)よりも多いLIBOR(6%)の仮想キャッシュ・フローをLIBOR(6%)に基づくデリバティブでヘッジする場合には、ヘッジ会計が適用できないと規定している。一方、この負債にかかる支払キャッシュ・フロー全体(4%の金利)をLIBOR(6%)に基づくデリバティブでヘッジしている場合には、それがヘッジ要件を満たせばヘッジ会計を適用することができる(支払キャッシュ・フロー全体とLIBORを基にするデリバティブとの間には相関がある)。したがって、「もし負債の実効金利がLIBOR以下である場合には、この負債をLIBORに基づくデリバティブでヘッジすることは、ヘッジ会計の適用対象にならない」ということにはならない。この点を明確にするための文言の修正を行うことがスタッフに指示された。

(5)キャッシュ・フロー・ヘッジに伴う資本の部の表示例

キャッシュ・フロー・ヘッジの場合には、ヘッジ手段に生じた損益は、資本の部で独立表示することが求められているが、金融機関からは、どのような表示が可能なのか例示を求める声があり、適用ガイダンスとして、現行IAS第1号(財務諸表の表示)の許容する表示のいくつかを例示することが暫定的に合意された(IAS第1号では多様な資本の部の表示が可能である)。そのような表示では、資本の部で表示されるキャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ手段の損益は、資本の部の一部であり、負債であるとか又は資本と負債の中間的なものであるという印象を与えてはならないことが明確化される。なお、この会議後2004年3月に公表された最終基準では、さらに検討すべき論点があるとの判断から、表示例は示されていない。

(6)金利マージン・ヘッジ

2004年3月のIASB会議直前の2004年3月16日に欧州の銀行関係者とIASBの一部ボードメンバーが行った会合において、銀行側からIAS第39号(金融商品:認識及び測定)に新たなヘッジ区分として、金利マージン・ヘッジを導入するよう提案を受けた。これに対応して、今回そのような新区分の導入の是非が議論された。金利マージン・ヘッジは、償却原価で測定される資産と負債のポートフォリオをヘッジ対象として指定するもので、発生主義で認識される金利マージンが金利変動によって変動する可能性をヘッジしようとするものである。例えば、固定(変動)金利建て資産が固定(変動)金利建て負債とマッチしていない部分について生じる金利変動のリスクをヘッジしようとするもので、ヘッジ手段の損益がヘッジ対象(金利マージン)の変動を低減させている限りヘッジは有効であるとみなす処理が行われる。また、ヘッジ手段に生じた損益は、資産又は負債として認識される(一種の繰延ヘッジ会計)。

このような公正価値ヘッジ及びキャッシュ・フロー・ヘッジに続く第3のヘッジ会計の導入の是非が検討されたが、次のような理由から金利マージン・ヘッジの導入は暫定的に否定された。

  1. ヘッジ対象には満期保有投資やコア預金といったIAS第39号がヘッジ対象として許容していない項目が含まれる。>
  2. ヘッジ手段に生じた損益(資産・負債の定義を満たさない)を資産又は負債として認識する繰延ヘッジ会計を含んでいる(IASBの概念フレームワークの下ではこの処理は認められない)。
  3. ヘッジ会計に第3の区分を導入するのであれば、公開草案として公表する必要があるが、時間的に間に合わない。

(7)ポートフォリオ・ヘッジの乱用の可能性

ポートフォリオ・ヘッジでは、非有効性の判定に当たり、1. 金利変動が予想償還日に与える影響を考慮すること及び2. 企業が自ら将来の金利を見積もり、見積もった金利による期限前償還の予想を行うことが要求されている。このため、ある時間枠において(金利低下により)予想を上回る償還が起こった場合には、企業の新たな見積りに基づき償還されていない資産を残っている期間に再配分する必要がある。あるボードメンバーから、最終決定しようとしているポートフォリオ・ヘッジでは、この際に企業の恣意性が働く余地があり、再配分の仕方如何では、非有効性の発生を操作できるとの指摘があり、この問題が議論された。

検討の結果、指摘されているような恣意性の介入の余地は、企業の見積りに基づく会計処理を行う以上不可避であり、企業の見積りが、企業が策定したリスク管理プロセスと目的に合致して行わなければならないという点を強調するガイダンスを追加することによってこのような事態に対応することが最良の選択であるとの暫定的な結論に達し、次のような内容を持つ新たなガイダンスを作成することがスタッフに指示された。

  1. ポートフォリオ・ヘッジの指定及び文書化では、ヘッジされる金額を識別するために用いられるすべての変数に対する企業の方針及び有効性を判定する方法を特定しなければならない)
  2. 上記の方針は、企業のリスク管理手続及び目的に準拠したものでなければならない。
  3. 方針の変更は恣意的に行ってはならない。変更は、市場条件やその他の要因の変動に基づいたものでなければならず、企業のリスク管理手続及び目的に基づき、これと首尾一貫したものでなければならない。

3.IAS第39号の改訂(公正価値オプション)

(1) 経緯

2003年12月に公表された改訂IAS第39号では、金融資産・金融負債を1. 公正価値で測定しその変動を損益計算書で認識する金融資産・金融負債、2. 満期保有投資、3. 貸付金及び債権及び4. 売却可能金融資産の4つに区分し、それぞれの保有目的に応じて異なる会計処理を適用することが規定されている。改訂IAS第39号では、従来の「売買目的金融資産・金融負債」という区分が拡張され、「公正価値で測定しその変動を損益計算書で認識する金融資産・金融負債」という区分に変更された。この新区分には、活発な市場での市場価格がなく、かつ、公正価値を信頼をもって測定できない持分金融商品への投資を除き、どのような金融資産・金融負債であっても、当初認識時の指定(それ以後指定を変更することはできない)により、損益計算書を通じて公正価値で測定することを選択した金融資産・金融負債が含まれることとなった(これを「公正価値オプション」と呼んでいる)。
ところが、ヨーロッパ中央銀行(ECB)から、公正価値オプションは、その適用範囲が広範であり、不適切に利用されるおそれがあるとの懸念が出されたことから、2004年2月のIASB会議で公正価値オプションが適用できる場合を制限する方向で見直しを行うことが暫定的に合意され、この改訂のみを対象とする公開草案を公表することが決定された。この決定を受けて、2004年4月中旬に公開草案を公表するための詰めの議論が今回行われた。なお、最終的な基準化は2004年10月頃になると予想される。また、今回の議論の最後にボードメンバーの賛否が問われ、公開草案の公表は賛成11反対3で可決された(反対したのは、ガーネット氏、ウイッティントン氏及び山田)。

(2) 2004年2月の暫定合意

2004年2月の議論では、次の内容について暫定的に合意している。

1.公正価値オプションが適用できる3つのケース

公正価値オプションが適用できるケースを次の3つに限定する。

  1. 組込みデリバティブを含んだ金融商品(組込みデリバティブは、原則としてホスト契約から分離して公正価値で測定しなければならないが、組込みデリバティブを含んだ金融商品全体に公正価値オプションを採用することによって分離する必要がなくなる)
  2. 公正価値で測定される金融資産の運用成績に契約上リンクして支払われる金融負債(保有金融資産は公正価値で測定されるが、関連する金融負債が償却原価で測定されることによるボラティリティを公正価値オプションの採用によって回避することができる)
  3. 公正価値の変動に対するエクスポージャーが互いにほぼ相殺される金融資産と金融負債(natural offset)(公正価値オプションの採用によって、公正価値ヘッジ会計を適用するための要件の充足状況を検討することなく実質的に公正価値ヘッジと同様な効果を得ることができる。また、IAS第39号では為替リスクを除きヘッジ手段としてデリバティブ以外の使用を認めていないが、公正価値オプションの採用によって非デリバティブ金融資産・金融負債を実質的にヘッジ手段として活用できる)

なお、公正価値オプションは、当初認識時に変更不能な1回限りの選択として(資産ごと)取引ごとに採用することができる。


2.公正価値オプションの適用できる場合の拡張(第4のカテゴリー)

上記3つのケース以外でも、投資信託やベンチャー・キャピタル等では、保有金融資産に対して公正価値オプションを適用したいとのニーズがあることから、貸付金及び売掛金以外の売却可能金融資産に対しても公正価値オプションを許容することが暫定的に合意された。しかし、これをどのように認めるかについては次のような2つの方法が考えられ、今後いずれを採用するかが検討される予定である。

  • 貸付金及び売掛金以外の売却可能金融資産に対して、当初認識時の指定に基づいて、金融資産ごとに公正価値オプションの採用を認める。
  • 改訂前のIAS第39号で認めていたように、企業の会計方針として、売却可能金融資産の公正価値の変動を損益として認識するか、資本の部で認識するかの選択を企業に委ねる。

3.公正価値オプションで利用できる公正価値の制限

公正価値オプションが採用できるのは、対象となる金融資産・金融負債の公正価値が検証可能な場合に限定する。この結果、公正価値オプションの際に用いられる公正価値は、それ以外の場合に用いられる公正価値より厳格に算出できる場合に限定されることとなった。また、ECBの要請を受ける形で、規制当局による規制を受けている業界(銀行や保険会社)では、企業のリスク管理方針及び目的と整合的な方法でIAS第39号が求める公正価値に関する規定を適用するに当たって、規制当局が何らかの監督を行い得る可能性について言及する文言を入れることがスタッフから提案されたが、その表現については、今後さらに検討することがスタッフに指示された。

(3) 2004年3月の議論及び暫定合意

2004年2月の議論を受けて、次の論点について議論が行われた。

  1. 公正価値オプションの第4のカテゴリーに貸付金及び債権を含めるかどうか。
  2. 第1のカテゴリーである組込みデリバティブを含んだ金融商品の対象は、組込みデリバティブの分離が要求されている金融商品のみにするか、分離が要求されていない組込みデリバティブを含む金融商品も含めるのか。
  3. 規制当局の監督に関する文言についての検討。
  4. 公開草案におけるコメントを求めるための質問内容の検討。
  5. 経過措置及び発効日。
  6. コメント期間。

ここでは、(d)を除く議論の内容を紹介する。

1.公正価値オプションの第4区分

投資信託やベンチャー・キャピタル等からの要望に応えるために第4の区分を設けることは暫定的に合意されていたが、それをどのような形で認めるかについては、合意に達していなかった。今回、貸付金及び債権以外の売却可能金融資産に対して、当初認識時の指定によって、取引ごとに公正価値オプションの採用を認めるという選択肢を導入することが暫定的に合意された。

2.対象となる組込みデリバティブ

公正価値オプションの対象となる金融商品は、IAS第39号でデリバティブを分離することが要求されている組込みデリバティブを含むものに限定せず、組込みデリバティブを含んだすべての金融商品とすることが暫定的に合意された。

3.規制当局による監督に関する文言

ECBの要請を受けて、規制当局による規制を受けている業界(銀行や保険会社)に関して、規制当局が何らかの監督を行い得る可能性について言及する文言を入れることが暫定的に合意されていたが、今回その文言が再度提示された。その文言では、規制当局が公正価値オプションの導入に関して何らかの権限を有するかのような表現は避け、現在規制当局が有している権限を一般論として記述するという形にすることが暫定的に合意された。今回合意された表現は、次のようのものである。
「銀行及び保険会社のような慎重な監督(prudential supervision)に服している企業については、慎重な監督者が、これらの規定の適用を、公正価値の定義及び彼らの監督の対象となっている関連するリスク管理のシステム及び方針と整合する方法で行うことを要求する権限を有しているかもしれないことを当審議会は留意している。」

4.経過措置及び発効日

今回の公開草案での提案内容は、2003年12月に公表された改訂IAS第39号の発効日から適用する。すなわち、2005年1月1日以後に開始する事業年度から発効するが、それ以前での早期適用も認める。提案する修正は、遡及的に適用しなければならない。今回の修正版が公表される前に改訂IAS第39号を採用する企業(すなわち、旧版の公正価値オプションを採用している企業)については、今回の提案による修正後の公正価値オプションは、その修正が公表された日以後に開始する会計年度から適用しなければならない。

5.コメント期間

公開草案のコメント期間は90日とする。

4.包括利益の報告

(1) プロジェクトの変更

IASBは、2003年11月のIASB会議で、「サンセット・レビュー」(プロジェクト開始後2年経過してもディスカッション・ペーパーや公開草案の公表に至らないプロジェクトについては、その存続を含めてプロジェクトのあり方を検討するための見直しを行うという手続)という考え方に基づき、進行が遅れている本プロジェクトの取扱いを検討した。その結果、本プロジェクトは、その重要性に鑑み継続することとするものの、これまでの審議過程において、関係者との情報交換が不足していた等の反省を踏まえ、これまでに達した結論について、幅広く情報提供するとともに、関係者のコメントを求めるために、ディスカッション・ペーパーを公表することが暫定的に合意された。

しかし、これと並行して、2003年10月に開催されたFASBとの会議では、同じテーマについて独自にプロジェクトを進めているFASBをも含め、IASB、英国ASB(本プロジェクトの共同パートナー)及びFASBのスタッフによる合同ワーキング・グループを設置することが合意されていた。包括利益の報告という基本財務諸表の将来のあり方について、FASBとIASB・ASBとの間に大きな考え方の隔たり(例えば、FASBは包括利益計算書の中に「当期利益」を残すこととし、そのためのリサイクリングを存続させることとしているが、IASB・ASBでは、「当期利益」を廃止する方向性が打ち出されている)が生じることを避けるために、同グループには、今後どのように本プロジェクトを進行させるべきかについての提案を作成することが依頼されていた。

今回は、同グループが作成した新たなプロジェクト計画が検討された。FASB及びASBにおいても同様に検討が行われ、今後3者で、この提案を基に本プロジェクトの取り進め方が検討される予定である。
ここでは、今回の議論の概要を紹介する。

(2) 暫定合意

今回の会議では、FASB、ASB及びIASBのスタッフの合同ワーキング・グループから示されたプロジェクト計画が検討された。提案内容は、FASBとIASB・ASBが異なる包括利益計算書を有することになることを避けるため、本プロジェクトを3者の共同プロジェクトとし、プロジェクトを2つのフェーズに分けて取り進めるというものである。

  1. 第1フェーズ:主として財務諸表の様式(例えば、包括利益計算書の導入)、比較情報の開示要求期間及び財務諸表中の合計や小計の表示といった形式面での統一を図る。
  2. 第2フェーズ:包括利益計算書の具体的な様式(横に3欄を有する様式とするか従来の損益計算書のような1欄式とするか)や表示区分(計算書の末尾は包括利益とするものの、それまでの間を営業、財務及びその他といった区分にどのように分けるか)、さらに当期純利益(リサイクリング)を残すかどうかを検討する。

議論の結果、IASBとしては、この提案に基本的に賛成し、2004年4月に開催されるFASBとの会合やリエゾン国会議でこのプロジェクトの変更を議論することが暫定的に合意された。なお、プロジェクトを第1及び第2フェーズと区分することについては、前者は、包括利益の報告プロジェクトというより、財務諸表の様式の統一プロジェクトと位置づけた方がよいのではないかという意見が出され、独立したプロジェクトとする方向でさらに検討が行われることとなった。

5.退職給付(年金会計)

今回は、次の2点について議論が行われた。また、今回が公開草案を公表する前の最後の会議であるため、そのほかの細かい論点についても確認が行われた。

  1. 退職後給付費用を資産化する場合における資産化すべき退職後給付の範囲。
  2. 損益計算書外で認識される数理計算上の差異を報告する資本の部の変動計算書の名称の変更。

(1) 退職後給付の資産化の範囲

IAS第19号(従業員給付)の第61項及び第62項では、他のIFRSが退職後給付を棚卸資産や有形固定資産の取得原価に含める場合における資産化すべき退職後給付の範囲を定めている。このなかには、現在勤務費用、利息費用、制度資産の期待収益及び数理計算上の差異などが含まれている。今回、数理計算上の差異を損益計算書外で直接認識する選択肢が導入されることを受けて、資産化すべき費用の範囲を現在勤務費用のみに限定する改訂案がスタッフから提案され、議論された。議論の結果、資産化の範囲を退職後給付の一部のみに限定すべきでないとの理由から、スタッフ提案は否決され、退職後給付の資産化の範囲を変更しないことが暫定的に合意された。

(2) 認識収益費用計算書の名称

現在IAS第1号第96項で資本の部の変動計算書の作成を求めているが、その様式については、適用ガイダンスで、「資本の部の変動計算書(statement of changes in equity)」と「認識収益費用計算書(statement of recognized income and expense)」の例が示されている。今回、後者の名称を、認識されたすべての収益費用が含まれているという点を強調するため「総認識収益費用計算書(statement of total recognized income and expense)」と変更することが提案されたが、検討の結果、変更しないことが暫定的に合意された。

(3) その他の変更

公開草案において、次の点を明確にすることが暫定的に合意された。

  1. 数理計算上の差異を損益計算書外で即時認識するという取扱いは、新たな選択肢の追加であることを明確にし、すでに現行のIAS第19号においても損益計算書において数理計算上の差異を即時認識する方法が認められていることをはっきりさせること。
  2. 確定給付建制度において確定給付資産が認識される場合、当該資産の認識に関しては上限が設定されている。資産として認識できる剰余の額は、制度からの返還又は将来の拠出金減少という形で利用可能な経済的便益の現在価値を限度としている。数理計算上の差異を損益計算書外で認識するという選択肢を採用した場合には、この上限規定による影響も数理計算上の差異として、他の数理計算上の差異と同様損益計算書外で認識することが強制されることを明確にする。
  3. 年金制度の一般的な説明を求めている第121項を改訂して、これらの説明には、年金の測定のためのすべての条件を記述することを求めることとする。

6.収益認識

今回は、1. 収益の定義、2. 収益認識に関する諸原則案(収益認識原則及び測定原則)の明確化及び3. 収益認識プロジェクトの範囲に含めるべき義務の範囲という3点について議論が行われた。このうち1. は、IASBでのみ議論されたテーマである。

(1) 収益の定義

今回、「収益(revenue)」を「広義の収益(income)」と関連付けてどのように定義するかが議論された(注)。今回は、議論が行われたのみで暫定合意は形成されていないが、この問題をさらに検討するようスタッフに指示が出された。ここでは、議論の概要を紹介する。

(注)IASBの概念フレームワークでは、”income(ここでは「広義の収益」という)”は、”revenue(ここでは「収益」という)”と”gain(ここでは「利得」という)”との総称とされており、「利益」という意味ではない。

1.問題の所在

今回は、収益を広義の収益の一部として定義するための議論が行われた。現在のIASB概念フレームワークでは、広義の収益及び収益は次のように定義されている。

「広義の収益(income)とは、当該会計期間中の資産の流入若しくは増価又は負債の減少の形をとる経済的便益の増価であり、持分参加者からの拠出に関連するもの以外の持分の増加を生じさせるものをいう。」
「収益(revenue)は、企業の通常の活動の過程において発生し、売上、報酬、利息、配当、ロイヤルティー及び賃貸料を含むさまざまな名称で呼ばれている。」

現行のIASBフレームワークにおける定義では、広義の収益となるためには「持分の増加」を生じることが必要とされている。「持分の増加」という要件が必要とされるのは、借入金による資産の増加などを広義の収益から排除する趣旨であるが、この定義では、獲得した対価が販売資産の原価以下である場合には、持分の増加がないので広義の収益に該当しなくなるのではないかという疑問が提起されている。

この問題を解決するためには、広義の収益の定義を次のいずれかの方向で変更する必要があると考えられ、今回(b)の修正により「持分の増加」に関する問題を克服できるものと考え、以下のような広義の収益の改訂案が議論された。

  1. 「持分の増加」の条件を外す。
  2. 定義を広げて、顧客への財貨・サービスの提供を伴う取引・事象が、資産又は負債に対する2つの変動を生じる場合には、それらを2つの構成要素に分けて、資産又は負債のそれぞれの変動を別々に表示するものと規定する。

「広義の収益(Income)とは、以下のものをいう。

  1. 取引又は事象から生じた(認識された)資産の増加又は負債の減少であり、これらに対応して顧客への財貨又はサービスの提供から生じた(認識された)資産の減少又は負債の増加も同時に生じるもの;及び
  2. 資産又は負債のその他の認識された変動により生じる持分の増加(株主の投資によるものを除く)。」
2.議論

議論の中では、次のような方向でさらに広義の収益及び収益の定義を検討することがスタッフに指示された。

  1. 現行のIASB概念フレームワークと首尾一貫した形で、広義の収益及び費用を持分の増加・減少として定義する(持分参加者からの拠出に関連するものを除く)。
  2. 経済的便益の流入を総額表示するか純額表示するかは、財務諸表の利用者にとって有用かどうかで判断するが、収益(revenue)については、総額表示を行う(したがって、対応する費用も総額表示される)(注)。
    (注)総額表示では、例えば、売上高1,000及び売上原価900の場合、損益計算書上で売上高1,000と売上原価900がそれぞれ明示されるが、純額表示の場合には、ネットの100のみが明示される。
  3. 総額表示すべきかどうかは、取引が「顧客」との取引かどうかによって判断する(上述の改訂定義案の(a)参照)。「顧客との取引」という概念は、厳密であるとはいえないため、この概念をより精緻化する(例えば、主たる事業といった考え方の採用も考えられる)。
  4. 「顧客」の定義は広くし、利息、配当、ロイヤルティー及び賃貸料という形で流入する経済的便益をも含むようにする。
  5. 顧客への財貨・サービスの提供を行う以前に行われる企業の活動によって資産が増加する場合にも収益を認識できるようにする。

(2) 収益認識の諸原則案(収益認識原則及び測定原則)の明確化)

FASBから提案された収益認識及び測定に関する諸原則案(draft principles)について、2004年2月のIASB会議で議論が行われた。その諸原則案は、1. 収益認識の目的、2. 基本的収益認識原則、3. 基本的測定原則、4. 認識原則(7つ)及び5. 測定原則(6つ)から成っている。今回は、この諸原則案に、次の4点に関連する追加適用ガイダンスが必要かどうかについて議論が行われた。

(a)契約が存在しているかどうかの判定に際して、契約に基づかないビジネス慣行(customary business practice)をどのように取扱うかに関するガイダンスが必要か。

(b)一般基準の中に「法的強制力(enforceability)」をどのように取り込むか。

(c)執行する価値のない権利・義務に関連する契約上の資産・負債をどのように認識するかに関するガイダンスが必要か。

(d)第7認識原則の削除

1.ビジネス慣行の取扱い

ビジネス慣行が文書化されていなくても契約の中に含まれるという点を明示するガイダンスを追加することが暫定的に合意された。その内容としては、法的強制力のある約束が締結された場合に契約が生じるのであり、ビジネス慣行の存在が文書化されていなければ顧客との間の契約は存在しないという反証可能な前提を置く必要はないというもので、これをIAS第18号(収益)の改訂版に含めることが暫定的に合意された。


2.法的強制力

資産及び負債が認識されるためには、契約は法的強制力のあるものでなければならないという点が暫定的に合意され、IAS第18号の改訂版の中に含める契約の定義に関するガイダンスでは、法的強制力が契約の必須の要素である点を明確にすることが暫定的に合意された。


3.契約の執行価値

IASBは、既にこれまでの議論の中で、資産・負債を認識するに当たって、その基となる権利・義務が執行するに価するかどうかは影響させないことに暫定的に合意している。このことをどのように収益認識及び測定に関する諸原則案に反映させるかが今回議論された。

議論の結果、執行価値(契約当事者の一方が契約違反をした際、相手方に契約の執行を要求することができるが、その要求を行うための費用がそれによって得られる便益を超えている場合、執行価値がないという)の有無は、資産・負債を認識すべきかどうかには影響しないが、その測定には影響することを明示するガイダンスを含めることが暫定的に合意された。

4.第7認識原則の削除

次の内容を持つ第7認識原則は、第6認識原則に包含されるとも考えられるため、一旦この原則を削除し、このプロジェクトの今後の展開を待って最終的な取扱いを決めることが暫定的に合意された(現在の諸原則は下表の通り)。

「契約完了時に、契約による資産の公正価値の最終的な増加又は契約による負債の公正価値の最終的な減少を反映するように、契約による収益を認識する。」

【収益認識の諸原則】

収益認識の目的
理念的には、すべての収益は、(a) 発生した会計期間に認識し、(b) 発生した日現在の公正価値で測定すべきである。
基本的収益認識原則 基本的測定原則
報告企業は、収益の発生と測定を十分な信頼性をもって判定できる場合には、収益をその発生した会計期間に認識し、発生した日現在の公正価値で測定する。 報告企業は、資産の増加又は負債の減少から生じる収益を、その増加又は減少の公正価値で測定する。
認識原則及びその内容 測定原則及びその内容
1 契約による収益(contractual revenues)は、顧客との契約が存在するようになる前には発生し得ない。 1 報告企業が資産の増加又は負債の減少から生じる収益を測定するのに用いる公正価値の見積りは、相対的に最も信頼性の高いものでなければならない。
2 報告企業は、顧客に対する請求権の増加が発生したものと判定でき、かつ当該増加の公正価値が十分な信頼性をもって測定できる時に、契約による収益を認識する。 2 公正価値ヒエラルキーのレベル3に合致する収益の公正価値の見積りは、市場アプローチ又はインカム・アプローチのように、市場からのインプットを最大にするような種々の評価技法により作成する。
3 報告企業は、顧客から自らへの請求権の減少が発生したものと判定でき、かつ当該減少の公正価値が十分な信頼性をもって測定できる時に、契約による収益を認識する。 3 報告企業の契約による資産の増加から生じる収益の公正価値は、信用リスク、貨幣の時間価値及び希薄化リスクの影響を反映する。(注)
4 契約による収益を生じさせる資産の増加又は負債の減少は、明文又は暗黙の約束から生じうる。 4 報告企業の収益の公正価値に関する信用リスクの影響を反映する測定値は、顧客が契約に違反した場合の回収の見込みも反映しなければならない。
5 契約による収益は、その日に獲得した契約による資産の公正価値が、同時に発生した契約による負債の公正価値を上回っており、かつ、その収益が十分な信頼性をもって測定できる場合には、契約の開始時に(at contract inception)認識する。 5 顧客に付与されている、明示的又は暗黙の、返品及び返金、値引、割戻、割引、クレジットその他類似の権利で、報告企業の契約による資産の減額又は契約による負債の増額によって収益を減少させるものは、公正価値で測定する。
6 契約の開始後においては、報告企業が契約による義務を履行した時に、契約による収益を認識する。その証拠となるのは、公正価値が十分な信頼性をもって算定できる、契約による負債の減少又は契約による資産の増加である。 6 特定の事象の発生又は非発生の場合における顧客の待機状態にある履行(stand-ready performance)に対する報告企業の権利に由来する、契約による資産の増加から生じる収益は、その特定の事象が発生する確率の評価を反映した公正価値で測定する。

(注)希薄化リスクとは、返品、値引、割戻等により、実際の受取額が契約額に満たない可能性をいう。

(3) 収益認識プロジェクトの範囲に含めるべき義務

収益認識プロジェクトの範囲に含めるべき義務にどのようなものがあるかが議論された。議論の結果、次のような義務を収益認識プロジェクトの範囲に含めることが暫定的に合意された。

  1.  法的な強制力のある義務のみを本プロジェクトの範囲に含める。
  2. 範囲に含められるべき義務には、法的な強制力があれば、契約上の義務のみならず、推定債務(constructive obligation)や衡平法上の債務(equitable obligation)も含まれる。
  3.  反証がない限り、顧客に対する約束には法的強制力があるものとみなす。

7.連結及びSPE

今回は、2004年2月の議論に引続き、支配の存在を示唆する指標間の関係をどのように捉えるかについて、具体的な例を用いて検討が行われた。このような検討を通じて、潜在的議決権やStrawmen(事実上の代理人)の存在を含んだ支配の判定のためのヒエラルキーを明確にすることが今回の狙いであった。

なお、本プロジェクトでは、SPEの連結を含めた連結範囲を決定するための基準として支配概念を用いることとし、その支配概念の明確化を図ろうとしている。これまでのところ、支配概念は、次の3つの規準を共に満たすものとすることが暫定的に合意されており、3つの規準を満たした企業が連結されることになる。

  1.  その企業の財務及び経営方針を直接指図する能力(パワー規準)
  2.  便益を入手する能力(ベネフィット規準)
  3.  便益(ベネフィット)を増大させるために力(パワー)を用いる能力

なお、3つの規準は、パワー規準、ベネフィット規準そして便益を増大させる力という順序で判定を行う。また、支配の定義においては、支配を獲得する方法についての制限は設けないこととされている。
ここでは、設例に基づいて論点及び暫定合意の内容を紹介する。

1.過半数に満たない議決権の保有者が意思決定を支配している場合

過半数の議決権の保有者が会計方針の決定を支配していない場合において、過半数に満たない議決権しか保有しないものの被投資企業の戦略的営業及び財務方針を決定できる現在の能力を有している企業は、パワー規準を満たしている。このような例としては、残余の株式保有が多数の株主に分散しているため、比較的大きな比率の議決権を保有する少数株主が、被投資企業の戦略的営業及び財務方針の決定を支配できるという事態をあげることができる。ただし、過半数を保有する株主が積極的に権利を行使しないため戦略的営業及び財務方針を決定できている場合は、当該過半数所有株主がいつでも権利行使ができるため、当該少数株主はパワー規準を満たさない。

2.過半数の議決権の保有者が現在意思決定を支配していない場合

過半数を保有する株主は、積極的に権利を行使する意思がないため現在戦略的営業及び財務方針の決定を支配していないとしても、いつでもそのような方針決定を支配できる能力があるため、パワー規準を満たしている。

3.潜在的議決権の権利行使によって現在の過半数議決権保有者の議決権が変動する場合

潜在的議決権の保有者の権利行使によって、現在過半数を所有している株主の議決権が変動する。このような場合、次のように判断することが暫定的に合意された。

  1.  A社は、X社の議決権の過半数を有するが、同時にB社も潜在的議決権を有する。B社の保有する潜在的議決権は現時点で転換可能であり、かつ転換することがB社にとって有利な状況にある。B社が転換を行えば、A社に代ってX社の過半数の議決権を有することになる場合には、B社がパワー規準を満たしている。
  2.  C社は、Y社の議決権の過半数(51%)を有するが、同時にD社も潜在的議決権を有する。D社の保有する潜在的議決権は現時点で転換可能であり、かつ転換することがD社にとって有利な状況にある。D社が転換を行えば、C社の保有するY社の議決権は過半数を下回る(40%)ものの、一方でD社も転換により過半数の議決権を有することにはならない(21%)場合には、もしC社、D社以外の株主が結束して議決権を行使する可能性はないと仮定すれば、C社がパワー規準を満たし得る。

8.FASBとの短期統合化プロジェクト

現在FASBとの間で進められている短期統合化プロジェクトには、1. 処分のために保有される非流動資産と廃止事業、2. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)及び3. IAS第12号(法人所得税))がある。これらをめぐる今回の議論の内容を紹介する。

(1) 処分のために保有される非流動資産と廃止事業

公開草案第4号(ED4)として公表された「非流動資産の処分と廃止事業の表示」は、2004年3月末までの基準化を目指して作業中であるが、今回投票用のドラフトの検討過程で生じた次のような問題について議論が行われた。すなわち、これまでの議論で、IAS第27号(連結及び分離財務諸表)を改訂して、取得後直ちに処分する目的で取得される子会社(売却予定子会社)であっても連結範囲からの除外をしないことに暫定的に合意しているが、注記で開示すべき項目にはこのような子会社に関連する数値を含める必要がないと規定している。売却予定子会社を連結範囲から除外しない趣旨は、そのような子会社であっても他の連結子会社と同様に取扱うということであり、注記においてだけ例外を設けることは、本来の趣旨に反するのではないかとの指摘があり、今回この点に限って議論が行われた。

注記の対象から除外されている項目には次のようなものがある。

  1.  損益計算書でまとめて表示される廃止事業にかかる損益を、収益、費用、税引前利益等に分けた情報の開示。
  2.  廃止事業に係る正味キャッシュ・フローを営業、投資及び財務活動に関する情報の注記又は財務諸表上での開示。
  3.  売却目的で保有される資産及び負債の主要カテゴリーごとの情報の開示。売却予定非流動資産及び売却目的で保有される処分グループの資産を他の資産と分離して表示することが求められており、また、売却目的で保有される処分グループの負債についても同様の表示が求められている。さらに、売却目的で保有されるこのような資産及び負債については、その主要カテゴリーごとの情報を貸借対照表上又は注記で開示することが求められている。しかし、処分グループが売却目的で新規に取得された子会社である場合には、この開示は求められていない。

議論の結果、1. 売却予定子会社は連結範囲に含めるが、2. 上記の注記開示項目からは上害することが暫定的に合意された。

(2) IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)

これまで企業結合での議論を通じて、偶発資産(条件付の権利)に随伴する無条件の権利の取扱いについて議論をしてきたが、そこで展開される考え方を偶発負債に適用した場合にどのような論理構成となるかを明確にするための議論が行われた。ここでは、2004年2月に議論された偶発資産に関する議論(「識別不能・非貨幣性資産で物的な実体のないもの」を無形資産としてのれんから区分できるかどうか)をまとめた上で、偶発負債に関連する今回の議論の内容を紹介する。

1.偶発資産に関連する議論

偶発資産は、次のように定義することが暫定的に合意されている。

「過去の事象から生じる条件付の権利で、完全に企業の支配下にない、一つ以上の不確定の将来事象の発生又は不発生に基づいた、将来のキャッシュフロー(又は他の経済的便益)の流入を生じさせる可能性のあるもの。」

これまでの議論では、このような偶発資産の定義を満たす可能性のある3つの例を取上げて検討を行い、これらでは、条件付の権利は無条件の権利を随伴するという点について暫定的に合意されている。

3つの設例 条件付の権利(偶発資産) 無条件の権利
裁判によって競争相手に対して法的要求を行っている企業(法的要求) 裁判所の判断によって受取る損害の補償(潜在的な資産) 損害を裁判によって補償できる権利、ないし、法的要求を裁判所において検討してもらえるという権利
営業ライセンスの申請を行っている企業(ライセンスの申請) 営業ライセンスの取得 営業ライセンスの申請に参加できる権利
従来取引関係のなかった顧客との間で重要な契約を締結する最終段階にある企業(未確定な顧客との契約) 重要な契約の締結(契約当事者が契約条件に合意するかどうかという不確定な将来事象に依存している) 締結される契約関係によってもたらされる経済価値に対する権利

(注1) 条件付の権利は偶発資産であり、貸借対照表においては認識されない。
(注2) 無条件の権利は、資産として認識される場合もある。無形資産となるためには、1. 識別可能であること(分離することができるか、契約又は他の法律上の権利から生じたもののいずれかを満たすこと)、2. 企業が当該資産を支配していること(当該資産から生じる経済的便益を入手できる力を持ち、他者がそれにアクセスすることを阻止できること)及び3. 経済的便益が存在していることという要件を満たす必要がある。さらに、無形資産として認識されるためには、認識規準(将来の経済的便益が企業に流入することがたしかであり、かつ、当該資産のコストを信頼を持って測定できること)を満たす必要がある。

2.偶発負債に関連する議論

偶発負債は、次のように定義することが暫定的に合意されている。

「過去の事象から生じる条件付義務で、完全に企業の支配下にない、一つ以上の不確定の将来事象の発生又は不発生に基づいた、経済的便益を体現する資源の流出を要求するかもしれないもの。」

ここでは、偶発資産に関して紹介した上記の議論が偶発負債にも適用できるかどうかが検討された。多くの例が検討されたが、ここでは、下表に示した3つの例についての議論を紹介する。

3つの設例 条件付の義務(偶発負債) 無条件の義務
製品保証 製品に欠陥が生じた場合に補修する義務 欠陥が生じた場合には、いつでも補修を行うという状態であり続ける義務(stand ready obligation)
訴訟(損害の補償を支払わなければならないという義務) 裁判所の判断に従って支払わなければならない損害の補償 裁判の結果を受入れなければならないという義務
遡及適用を伴う将来の法律の改訂によって生じる義務(注3) 遡及適用を伴う将来の法律の改訂によって生じる義務 N/A

(注1) 条件付の義務は偶発負債であり、貸借対照表では認識されない。
(注2) 無条件の義務は、現在の義務であり負債の定義を満たしている。
(注3) このような例として、欧州における廃自動車指令(end-of-life vehicle directive)がある。自動車メーカーは、2002年7月以降製造された自動車又は、2002年7月以前に製造され2007年7月以降も使用されている自動車の廃棄費用の一部を負担しなければならないという指令が、2002年9月に発効している。なお、子会社の設例では、条件付の義務は生じるが、これに随伴する無条件の義務はないと考えられている。

このような分析を通じて、企業結合の第2フェーズの議論をきっかけとして先行している偶発資産及びそれに随伴する無条件の権利の無形資産又はのれんとしての認識に関する議論と偶発負債の議論との関係の明確化が図られている。偶発負債に関しては、さらに分析を続ける予定である。

(3) IAS第12号(法人所得税)

1.問題の所在

IAS第12号(法人所得税)では、企業結合ではなく、かつ、取得日に会計上の利益にも課税所得にも影響しない取引から生じる資産又は負債の当初認識時に生じする一時差異(当初取得時において会計上の簿価と税務上の簿価との間に生じる差異)に対しては、当初認識時に繰延税金資産・負債を認識することを認めていない(当初認識免除)。さらに、取得時以降においてもこの一時差異に対して繰延税金資産・負債の認識を認めていない。一方、米国財務会計基準書(SFAS)第109号(法人所得税の会計処理)でもこの点は明確ではなく、緊急問題タースクフォース(EITF)がこの問題について見解を示している(EITF Issue 98-11)。それによると、単一の資産の取得の場合で会計上の簿価と税務上の簿価が異なる場合には、連立方程式を用いて、支払対価を当該資産と繰延税金資産又は負債に配賦しなければならないとされている。

IASBは、2003年4月に当初認識時に生じる一時差異の取扱いについて米国会計基準との統合化を図ることを暫定的に決定し、この問題に取り組むこととした。しかし、EITFの見解をそのまま適用すると負債の定義を満たさない繰延項目が貸借対照表の貸方に計上されることになるため(下記見解B例2参照)、この点が論点となっている。なお、FASBは、EITFの見解を変更する可能性を示唆しており、FASBとIASBのスタッフが連携しながらこの問題の解決に当たっている。

2.検討された3つの代替案と暫定合意

当初認識時に生じる一時差異の会計処理に関して、3つの代替案が検討された。

  1.  見解A:繰延税金資産・負債を対価支払額と税務上の簿価との差額に税率をかけたものとして認識し、結果として生じる繰延税金便益・費用を即時に損益計算書で認識するという考え方。
  2. 見解B:連立方程式を用いて、対価支払額を資産と繰延税金資産・負債に配賦するという考え方(EITFの考え方)。
  3.  見解C:連立方程式を用いて、対価支払額を資産と繰延税金資産・負債に配賦するが、当該資産の簿価を超える繰延税金便益は、即時に損益計算書で認識するという考え方。

上記3つの考え方に従った当初認識時の会計処理を2つの例を用いて説明すると次の通りである。例1は、支払対価より税務上の簿価の方が小さい場合で、例えば、海外からの輸入を抑制する目的で税務上の簿価が低く抑えられている例である。例2は、その逆の場合で、例えば、輸入促進のため税務上の損金算入額を大きくしている例である。

適用税率40% 見解A 見解B 見解C
例1
支払対価:100
税務上の簿価: 80
(Dr)資産 100
(Cr)現金 100
(Dr)税金費用 8
(Cr)繰延税金負債 8
(Dr)資産 113.33
(Cr)繰延税金負債 13.33
(Cr)現金 100
(Dr)資産 113.33
(Cr)繰延税金負債13.33
(Cr)現金 100
例2
支払対価: 50
税務上の簿価:200
(Dr)資産 50
(Cr)現金 50
(Dr)繰延税金資産60
(Cr)税金便益(P/L)60
(Dr)資産 0
(Dr)繰延税金資産 80
(Cr)現金 50
(Cr)繰延項目(B/S) 30
(Dr)資産 0
(Dr)繰延税金資産 80
(Cr)現金 50
(Cr)税金便益(P/L) 30

【計算の根拠と解説】

1.見解A:

例1:繰延税金負債=(100-80)x40%=8
例2:繰延税金負債=(200-50)x40%=60

2.見解B:

例1:
次の連立方程式を解く。なお、CPP:現金購入価格、FBB:資産の最終簿価、DTA:繰延税金資産、DTL:繰延税金負債、TB:税務上の簿価
税務上の簿価<CPPの場合
CPP=FBB – (FBB – TB) x Tax rate
DTL=( FBB – TB) x Tax rate
 100=FBB-0.4FBB+80×0.4
 FBB=(100-80×0.4)/0.6=113.33
 DTL=(113.33-80)x04=13.33
例2:
税務上の簿価>CPPの場合
CPP=FBB – (FBB – TB) x Tax rate
DTA=(TB – FBB) x Tax rate
 50=FBB-(FBB-200)x0.4
 FBB=(50-200×0.4)/0.6=-50(資産はマイナスとはならないので簿価0)
 DTA=(200-0)x0.4=80

この計算の結果、差額として繰延項目30が生じる。見解Bでは、これを負債として貸借対照表上で認識する(すなわち、負債の定義に合致しない項目を負債として認識することになる)。

3.見解C:

例1:計算については見解Bと同様。
例2:計算については見解Bと同様であるが、差額30を繰延項目として認識するのではなく、損益として損益計算書で認識する点が異なる。

3.暫定合意

議論の結果、見解Cが暫定的に採用された。しかし、この暫定合意がもたらす税務上の簿価の定義などへの影響についてさらに検討を行うことがスタッフに指示された。2004年4月のFASBとの共同会議でも検討される予定である。

9.保険会計(第1フェーズ)

今回は、2004年2月に引続き、金融保証の取扱いの変更に関する公開草案に関連して、発効日と経過措置について議論が行われた。公開草案では、特定の債務者が負債金融商品の当初又は修正された条項の下における弁済期限までに支払えなかったことによって契約者(受益者)に損失が生じた場合に、契約者への弁済のために発行者(保険会社)に特定の支払いを求める金融保証契約は、保険契約の定義に該当するものの、保険契約に関するIFRSの対象外とし、これらについては次のような測定を求めることが予定されている。

  • 当初認識時の測定は、公正価値で行う。
  • 当初認識後の測定は、1. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)によって認識された金額、又は2. 当初認識額からIAS第18号(収益)に基づいて認識された償却額累計を控除した額のいずれか高い方で行う。

今回の議論では、発効日と経過措置について次の点が暫定的に合意された。

  1.  発効日は、2006年1月1日以降開始する会計年度とする。ただし、早期適用を推奨する。
  2.  公開草案の規定は遡及適用する。
    上記の内容を含んだ公開草案は、2004年4月に公開される予定である。

10.その他

(1) 中小規模企業の会計基準(SME会計基準)

本プロジェクトでは、SME会計基準に関するディスカッション・ペーパーを2004年第2四半期に公表する予定で議論を行っている。今回は、ディスカッション・ペーパーのドラフトが示され、これについての議論が行われた。ディスカッション・ペーパーでは、IASBの予備的見解(preliminary views)を示すと同時にこれらを含むディスカッション・ペーパーの内容に関する質問が設けられる。さらに、いくつかのIFRSを用いてSME会計基準がどのようなものとなるかについての例が示される予定である。SME会計基準では、認識と測定に関する規定は、IFRSと同一として、表示及び開示においては利用者のニーズを反映して簡素化を図る予定にしている。また、SME会計基準の適用対象となる中小規模企業はこの基準では定義せず、これを導入しようとする各国が独自に範囲を設定できるようにしている。さらに、SME会計基準が扱っていない事項や簡素化を図った事項について、本則であるIFRSの規定を適用することは妨げないようにする予定である。

(2) 解釈指針

1.現存の処分費用等の債務の変動

有形固定資産(例えば、原子力施設)の取得原価に含まれている将来の処分費用等の債務が、将来の支出額の見積額や支出のタイミングの変動又は割引率の変動によって、当初認識時以降に変動した場合にどのような会計処理を行うべきかに関する解釈指針案が議論された。原則として、そのような変動は、発生した会計年度の損益として認識するというのが提案内容である。

議論の結果、この解釈指針の範囲から鉱業権(mineral right)等を除外することやIFRSの初度採用企業に対しては遡及適用ではない簡素化された経過措置を講ずることなどを条件にこの提案をIFRS第1号とすることが合意された。

2.拠出金又は想定拠出金に最低保証の付された従業員給付制度の取扱い

この解釈指針は、拠出金又は想定拠出金に最低保証の付された従業員給付制度を対象としたものである。最低保証のついた従業員給付制度は、固定部分と変動部分から構成される確定給付型年金制度として会計処理することが提案されている。固定部分は、将来の資産利回りに関する仮定を置くことなく見積もることができる部分(保証部分)とされ、変動部分は、そのような将来の資産利回りに関する仮定を置いて見積りを行わなければならない部分とされる。年金債務は、固定部分と変動部分のいずれか高い金額として認識されるが、その計算に当たっては、IAS第19号(従業員給付)の規定が適用される。今回議論となったのは、実際に拠出が行われないが、最低保証の計算等が想定拠出金を基にして行われる場合である。想定拠出金をあたかも実際に拠出された拠出金と同じように考えて、想定拠出金に対する期待利回りと数理計算上の差異を計算し、特に後者についてはコリドール(未認識)や遅延認識が適用されるが、これがIAS第19号の解釈として妥当かどうかが議論された。議論の結果、そのような解釈は妥当であると判断され、この解釈指針案を公開することが合意された。

(3) 今後のIASBの検討議題の優先順位

2004年4月に予定されているリエゾン国会議の議題の1つとされる今後のIASBの検討議題に関する資料が議論された。当該資料は、既にリエゾン国に送付され、各国での検討が行われているものである。今回は、当該資料の中で述べられている内容に関する質疑が行われたのみであるが、検討されたのは、限られた人材等の配分、概念フレームワークの見直し、共同プロジェクト、FASBとの短期統合化プロジェクト及び今後の検討テーマの候補等に関するスタッフからの提案であった。

(4) 追記

2004年3月31日付けで下表の最後の4つ欄に示すIFRSが公表され、IASBは、2005年1月以降適用されるべき1組のIFRSをほぼ完成させた。

【2003年6月以降2004年3月までに公表されたIFRS】

IFRS 新設・改訂基準 公表日
IFRS1 IFRSの初度適用 2003年6月
IAS32 金融商品:開示及び表示 2003年12月
IAS39 金融商品:認識及び測定(ポートフォリオ・ヘッジを除く) 2003年12月
既存IASの改善(14のIASの改訂・廃止) 2003年12月
IFRS2 株式報酬制度 2004年2月
IFRS3 企業結合、同時にIAS第36号(資産の減損)及びIAS第38号(無形資産)も改訂 2004年3月
IFRS4 保険契約(第1フェーズ) 2004年3月
IFRS5 処分のために保有される非流動資産と廃止事業 2004年3月
IAS39 金利リスクのポートフォリオ・ヘッジに対する公正価値ヘッジ(IAS第39号の部分改訂) 2004年3月

今後、2004年3月までに完成させることができなかった下記3項目について、2004年4月に公開草案を公表し、2004年11月頃を目処にIFRSとして基準化することが予定されている。

  1. 特殊な形態の企業結合の会計処理の明確化(これら2つの企業結合を2004年3月に完成したIFRS第3号(企業結合)の適用対象とするための改訂)。
    i.複数の相互会社の企業結合
    ii.所有権の取得ではなく企業間の契約のみで達成される企業結合
  2. IAS第39号の公正価値オプション(企業の任意の選択で、取引ごとに公正価値による測定を選択できる選択肢)が適用できる範囲をより限定的にするための改訂(適用範囲が広く乱用の恐れがあり、また全面公正価値会計へ繋がる危険があるとの欧州中央銀行からの懸念に対応するための改訂)。
  3. IFRS第4号(保険契約)を改訂し、保険契約に該当する金融保証契約(企業の採用する会計方針で会計処理することが認められている)に対しても改訂IAS第39号が定める次の会計処理を適用するように変更を行う。
    1. 当初認識時の測定は、公正価値で行う。
    2. 当初認識後の測定は、1. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)によって認識された金額、又は2. 当初認識額からIAS第18号(収益)に基づいて認識された償却額累計を控除した額のいずれか高い方で行う。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)