ASBJ 企業会計基準委員会

第32回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第32回会議が、2004年2月18日から20日までの3日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合(第1フェーズ)、2. 企業結合(第2フェーズ)、3. IAS第39号(ポートフォリオ・ヘッジ)の改訂、4. IAS第39号(公正価値オプション)の改訂、5. 退職給付(年金会計)、6. 公開草案第4号(ED4)「非流動資産の処分と廃止事業の表示」、7. 収益認識、8. 連結及びSPE、9. 短期的な会計基準の統合(IAS第20号(政府補助金の会計処理及び政府援助の開示)の改訂)、10. 中小規模企業の会計基準、11. 保険会計(第1フェーズ)及び12. 解釈指針委員会(IFRIC)の活動報告についての議論が行われた。会議には理事14名が参加した。本稿ではこれらの議論のうち6. 、10. 及び12. を除く議論の概要を紹介する。

1.企業結合(第1フェーズ)

2004年1月会議では、改訂IAS第36号(資産の減損)における使用価値の算出に当たり、将来キャッシュ・フローを見積もる際には、資産の現状に基づいて予測を行わなければならないという点をより明確にすることが暫定的に合意された。具体的には、将来キャッシュ・フローに含めてはならないものとして、「当該資産に係る将来の追加・置換又は維持管理費用」が示されているが(改訂基準ドラフト第44項(b))、これが何を指すかについて議論が行われ、議論の結果、第44項(b)で記述されている「当該資産に係る将来の追加・置換又は維持管理費用」は、IAS第16号(有形固定資産)第14項で述べられている定期的な主要検査費用(costs of major inspection)を指すと考えるべきであり(主要検査費用は、認識規準を満たすと当該検査対象資産の簿価に追加され、従前の検査費用は、認識が中止され費用として認識される)、その点が明確になるように文言を修正することが暫定的に合意された。

今回修正後の文案を見たあるボードメンバーから、提案の文案では、禁止の範囲が広く解釈される恐れがあり、「資産の現状から期待される経済的便益の水準を維持するために必要とされる将来コスト」までもが将来キャッシュ・フローの見積もりに含めてはならないとされているように読めるとの指摘があった。これを受けて行った議論の結果、指摘のような読み方はIASBの意図するところではなく、このようなコストを将来キャッシュ・フローの見積もりに含めることを禁止していないことを明確にする必要があると判断され、スタッフに対して文案の見直しが指示された。

2.企業結合(第2フェーズ)

(1) 問題の所在

今回議論されたのは、企業結合において受入れた「識別不能・非貨幣性資産で物的な実体のないもの」を無形資産としてのれんから区分できるかどうかという点であった。

IASBは、2003年10月に「識別不能・非貨幣性資産で物的な実体のないもの」を含むと考えられる次のような3つの例を用いて検討を行い、企業は、これらから資産(無形資産)を認識すべきかそれとも偶発資産を認識すべきかが議論された。

  1. 裁判によって競争相手に対して法的要求を行っている企業(法的要求)
  2. 営業ライセンスの申請を行っている企業(ライセンスの申請)
  3. 従来取引関係のなかった顧客との間で重要な契約を締結する最終段階にある企業(未確定な顧客との契約)

IASBは、分析に当たり、これらの例に無条件要素と条件付要素が含まれるかどうかを分析し、無条件要素がある場合には資産(無形資産)を、条件付要素がある場合には偶発資産を認識する(偶発資産は資産に該当しないことから貸借対照表において認識されるものは生じない)という考え方を採用した。上記(a)の法的要求の例では、法的要求に含まれる要素として、「損害を裁判によって補償できる権利、ないし、法的要求を裁判所において検討してもらえるという権利」は、無条件の資産であり、これはIAS第38号(無形資産)に規定する無形資産として認識できるかもしれないと考えられた。このため、2003年10月には、この点についてさらに検討するようスタッフに指示が出されていた。今回議論されたのは、このような無条件要素を無形資産としてのれんから分離することができるかどうかという点であった。

なお、「無形資産は、物的な実体のない識別可能・非貨幣性資産である」と定義されており、具体的には、1. 識別可能であること(分離することができるか、契約又は他の法律上の権利から生じたもののいずれかを満たすこと)、2. 企業が当該資産を支配していること(当該資産から生じる経済的便益を入手できる力を持ち、他者がそれにアクセスすることを阻止できること)及び3. 経済的便益が存在していることという要件を満たす必要がある。さらに、無形資産が認識されるためには、認識規準(すなわち、将来の経済的便益が企業に流入することがたしかであり、かつ、当該資産のコストを信頼を持って測定できること)を満たす必要がある。

(2) 暫定合意

2003年10月での合意

2003年10月では、上記(a)及び(b)の例を取上げ、これらの例の中には、無条件(又は非偶発)要素と条件(又は偶発)要素が含まれていると判断した。すなわち、(a)の例の場合、「法的要求(legal claim)」は、それ自体は、損害に対する「潜在的な資産(possible asset)」、すなわち偶発資産でしかないが(企業の支配下にない裁判所の判決に依存しているから)、しかし、判決を受ける前に、損害を裁判によって補償できる権利、ないし、法的要求を裁判所において検討してもらえるという権利は、無条件の現在の権利として存在していると考えられ、無形資産の定義及び認識要件を満たせば、企業結合においてのれんから分離して無形資産として認識できるであろうと考えられた。ただ、条件要素が無条件要素の公正価値に影響を与えるため、実際に無形資産として認識することは困難だと判断された。

今回の暫定合意

今回の会議では、もっぱら(c)の例(未確定な顧客との契約)が議論され、従来取引関係のなかった顧客との間で重要な契約を締結する最終段階にある企業を買収する場合に、偶発資産や無形資産が存在するかが検討された。
 議論の結果、未確定な顧客との契約は、偶発資産の定義を満たすであろうが(契約当事者が契約条件に合意するかどうかという不確定な将来事象に依存している)、このような契約には、企業結合時点でのれんと分離して認識すべき無条件の権利は存在しないという点が合意された。したがって、(c)で取上げられた「未確定な顧客との契約」の価値はのれんに含まれ、無形資産として分離することはできないと判断された。

3.IAS第39号の改訂(ポートフォリオ・ヘッジ)

今回の会議では、ポートフォリオ・ヘッジに対して具体的に判定や会計処理を行う際に問題となる次の4点について議論が行われた。ここでは、(a)から(c)の内容を紹介する。

  1. ヘッジの有効性の判定(有効性テスト)
  2. ヘッジ対象に生じたヘッジ損益の償却
  3. 経過措置
  4. その他の問題
     

今回の議論でポートフォリオ・ヘッジに関する議論は終了したため、議論の最後に、これまでの議論を踏まえた最終基準化に対するボードメンバーの賛否が問われ、全員が基準化に賛成した。今後2004年3月末までに最終基準が公表される予定である。

(1)ヘッジの有効性の判定(有効性テスト)

1.IAS第39号におけるヘッジの有効性の判定

IAS第39号(金融商品:認識及び測定)では、ヘッジ会計適格となるためには、次の2つの要件を満たすことが必要とされている。

  1.  期待有効性テスト(prospective effectiveness test):ヘッジ当初に、ヘッジ手段の公正価値又はキャッシュ・フローの変動が、ヘッジ対象のヘッジされたリスクから生じる公正価値又はキャッシュ・フローの変動を「ほとんど完全に相殺(almost fully offset)」すると予想されること。
  2.  事後有効性テスト(retrospective effectiveness test):事後にヘッジが非常に有効(highly effective)であったことが確認できること。ヘッジの実績が80%から125%の範囲内にあれば、非常に有効であったとされる。
     

金利リスクの公正価値ヘッジをポートフォリオ・ヘッジで行う場合には、早期返済リスクと金利リスクとは分離できないという考え方に基づいて、両者を含めたヘッジ対象の公正価値の変動を早期返済リスクを含まないヘッジ手段でヘッジすることが想定されている。このため、公開草案に対するコメントのなかでは、IAS第39号が求める有効性テストをポートフォリオ・ヘッジには適用できないとの指摘が寄せられている。

これを受けて、今回次の3点を中心に議論が行われた。

  1.  IAS第39号の有効性テストをポートフォリオ・ヘッジに適用すべきか。
  2.  ポートフォリオ・ヘッジにおいて有効性の判定をどのように考えるか。
  3.  ポートフォリオ・ヘッジのためにIAS第39号の有効性テストを変更したり明確にしたりする必要があるか。
2.暫定合意

議論の結果、次のような点が暫定的に合意された。

【ポートフォリオ・ヘッジの有効性判定】

(a)IAS第39号の有効性テストがポートフォリオ・ヘッジにも適用することとし、この点を明確にする。

【有効性判定期間及び時間枠の取扱い】

(b)ポートフォリオ・ヘッジでは、ヘッジ対象の金額の変動を反映するようにヘッジ手段の金額を定期的に修正することによってヘッジが行われている。このような場合のヘッジの有効性の判定は、このようなヘッジ手段を修正するまでの期間(これを「リバランス期間」と呼んでいる)を対象として行う。すなわち、次回にヘッジ手段の金額の変更を行うまでの期間においてヘッジが有効であれば、ヘッジ会計を適用することができる。リバランス期間は、企業のリスク管理方針によって決定される。

(c)ポートフォリオ・ヘッジの事後の有効性の判定に当たり、ポートフォリオの時間枠(time bucket)を合計して判断するのか、それとも個々の時間枠ごとに判定するのかについては、企業の会計方針としてどちらか(又は両者を組み合わせたもの)を選択することができることを明確にする。この方針は、ヘッジ開始時において文書化されるヘッジ関係・リスク管理方針の中で明確にすることが求められる。

【事前の有効性の判定】

(d)ヘッジ会計適用当初に行われる期待有効性テストにおける有効性の判定は、次に示すようなさまざまな方法で行えることを明確にする。

  • 過去におけるヘッジ手段の公正価値又はキャッシュ・フローの変動と、ヘッジ対象のヘッジされたリスクから生じる公正価値又はキャッシュ・フローの変動との比較。
  • ヘッジ手段の公正価値又はキャッシュ・フローと、ヘッジ対象のヘッジされたリスクから生じる公正価値又はキャッシュ・フローとの間の高い統計的相関関係の証明。

(e)期待有効性テストが求めている、ヘッジ手段の公正価値又はキャッシュ・フローの変動が、ヘッジ対象のヘッジされたリスクから生じる公正価値又はキャッシュ・フローの変動を「ほとんど完全に相殺する」ことが事前に予想されることという条件を緩和し、事後有効性テストと同様に「非常に有効(highly effective)」であると予想されること(すなわち、事前に有効性が80%から125%の範囲内であること)に変更する。具体的には、ある項目について意識的にエクスポージャーの100%未満のヘッジを行って、そのヘッジをエクスポージャーの100%のヘッジとして指定することはできないことを、最終基準において明確にする。すなわち、もし企業がある項目のエクスポージャーの85%をヘッジする方針である場合には、ヘッジ対象のエクスポージャーの変動の85%をヘッジ手段の公正価値又はキャッシュ・フローの変動と比較して、ヘッジの有効性が測定される。

【部分ヘッジと事後の有効性の判定】

(f)ヘッジ対象となる資産等の一部のみがヘッジ対象として指定されている場合の事後有効性テストでは、ヘッジ対象とされた一部分に関連する公正価値又はキャッシュ・フローの変動とヘッジ手段の公正価値又はキャッシュ・フローの変動とを比較することによって有効性が測定されることを明確にする。

(g)部分ヘッジを行なう場合、ヘッジ対象となるエクスポージャーは、ヘッジ対象となる資産・負債全体のエクスポージャーより小さな部分でなければならないことを明確にする。例えば、LIBOR(6%と仮定)より低い金利(4%と仮定)を持つ負債がある場合、これをLIBOR(6%)とマイナスの残余部分(マイナス2%)に分離して、LIBOR(6%)部分のみをヘッジ対象とすることはできない。しかし次のような場合には、契約金利を超える部分についてヘッジ対象とすることができることとする(例えば、固定利付債の発行の場合で、発行当初にはヘッジを行わなかったものの、それ以後LIBORが上昇した時点でヘッジを行った場合)。企業が、LIBORが4%の時に6%の固定利付債を100で発行し、その後LIBORが8%となった時点(そのときの公正価値は80)で、固定金利に含まれるLIBOR部分を8%でヘッジを行った場合には、このような部分ヘッジはヘッジ会計適格である。

(h)企業が、ヘッジ対象のエクスポージャー総額以下の部分であれば、当該部分がヘッジ対象の価格変動を相関関係がなくとも部分ヘッジの対象とすることができることを明確にする。例えば、銀行の当座貸越の場合でLIBORより高い金利が賦課されている場合には、貸越レートがLIBORと高い相関関係になくとも貸越レートに含まれるLIBOR部分をヘッジ対象とすることができる。

(2)ヘッジ対象に生じた損益の償却

1.検討されたテーマ

公開草案では、ポートフォリオ・ヘッジのヘッジ対象の公正価値の変動から生じた損益は、独立科目として資産又は負債として一本で表示するとともに、それらが関連する資産又は負債の認識の中止が行われた時には、貸借対照表から除去することとされている。ところが、公正価値ヘッジについて記述しているIAS第39号第92項では、償却原価で測定されるヘッジ対象の公正価値ヘッジが中止された場合には、公正価値ヘッジの結果ヘッジ対象の簿価に含まれている公正価値の変動は、満期までの間に「再計算された実効金利(a reclassified effective interest rate)」に基づいて償却しなければならないと規定されている。そこで、第92項をポートフォリオ・ヘッジに適用する際にどのように償却すべきかが今回議論された。

今回議論の対象として3つの例が取上げられ、それぞれの場合にどのような償却又は認識の中止が行われるのかが検討された。

  1. ヘッジ期間中にヘッジ対象に変動がなく、ポートフォリオ・ヘッジのヘッジ比率にも変動がない場合。
  2. ヘッジ期間中にポートフォリオの負債が増加したために、ヘッジ対象金額が引き下げられ、ヘッジ比率も変化したが、従来ヘッジ対象とされていた資産は認識の中止が行われず保有されている場合(すなわち、引き下げられたヘッジ対象金額部分については、公正価値ヘッジが中止された状況となっている)。
  3. ヘッジ期間中にヘッジ対象の資産の一部の認識の中止が行われたためにヘッジ対象が減少し、ヘッジ比率も変動した場合。
2.暫定合意

3つの例を議論した結果、IAS第39号第92項が求めている「再計算された実効金利」を用いて償却計算を行うことは、ポートフォリオ・ヘッジにおいては大変困難であるとの結論に達し、次の点が合意された。

  1. ポートフォリオ・ヘッジにおいては、独立科目として表示されているヘッジ対象に生じた損益は、実行可能である場合には、「再計算された実効金利」を用いて償却を行う。
  2. 「再計算された実効金利」を用いることが実行可能でない場合には、定額法を用いて償却を行う。

(3)経過措置

今回、金利リスクに対する公正価値ヘッジをポートフォリオのヘッジとして認める会計基準が基準かされた場合、従来の会計処理からどのように公正価値ヘッジに移行するかに関する経過措置が、次のように暫定的に合意された。

(a)従来IAS第39号に基づいてキャッシュ・フロー・ヘッジを行ってきた場合にどのように公正価値ヘッジへ移行するかについてのガイダンスを示すこととする。具体的には、IAS第39号第101項(d)の規定に基づいて、次のような会計処理が行われる。

  • 予定取引の結果取得されるものが金融資産又は金融負債である場合には、従来のキャッシュ・フロー・ヘッジで資本の部で認識されているヘッジ手段の損益をヘッジ対象である取引が発生するまで繰延べ、金融資産又は金融負債が損益に影響を与えるときに、ヘッジ手段の損益を資本の部から取り崩して損益として認識する。
  • 予定取引の結果取得されるものが非金融資産・金融負債である場合には、それらが損益に影響を与えるときに資本の部で認識されているヘッジ手段の損益を資本の部から取り崩して損益で認識するか、又は予定取引発生時にヘッジ手段の損益を新たに取得される非金融資産・金融負債の簿価に含める(ベーシス・アジャストメント)。
  • ヘッジ対象である取引が発生しないと判断される場合には、資本の部で認識されているヘッジ手段の損益を資本の部から取り崩して損益として認識する。

このような会計処理を行った上で、当該ポートフォリオに対して新たに将来に向かって公正価値ヘッジを適用する。

(b)金利リスクのポートフォリオのヘッジを遡及的に修正することは認めない。

(c)すべての時間枠に公正価値ヘッジが適用できない場合(例えば、従来ネットで資産であったある時間枠においてコア預金が増加したためにネットで負債となってしまった場合)に従来の公正価値ヘッジをどのように扱うのか、また、従来キャッシュ・フロー・ヘッジを適用してきた時間枠に対して公正価値ヘッジを適用する場合にどのように扱うのかに関するガイダンスは設けないこととする(現行IAS第39号にあるそれぞれの場合に対する規定を適用する)。

(d)2003年12月に公表された改訂IAS第39号とポートフォリオ・ヘッジに関する改訂とは、ワンセットと考え、両者は同時に適用する。

4.IAS第39号の改訂(公正価値オプション)

(1) 問題の所在

2003年12月に公表された改訂IAS第39号では、活発な市場での市場価格がなくかつ公正価値を信頼を持って測定できない持分金融商品への投資を除き、どのような金融資産・金融負債であっても、当初認識時の指定(それ以後指定を変更することはできない)により、損益計算書を通じて公正価値で測定する(売買目的有価証券と同じ処理)ことが選択できると規定されている(これを「公正価値オプション」と呼んでいる)。

ところが、ヨーロッパ中央銀行(ECB)から、公正価値オプションは、その適用範囲が広範であり、不適切に利用されるおそれがあるとの懸念が出されたことから、今回改めて、公正価値オプションの内容を見直すことが検討された。

議論の結果、公正価値オプションの取扱いを修正する公開草案を公表することが決定されたが、その公表は2004年3月又は4月になる予定で、最終的な基準化は2004年10月頃になると予想される。

なお、本件の議論に当たり、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)がこのような議論に対して抱いている次のような懸念がボードメンバーに伝えられた。

  • 公正価値オプションが不適切に利用される可能性に対する懸念はASBJからも再三表明しているが、ECBのような特定機関の強い圧力がなければ指摘を取上げないということは、IASBの国際機関としての役割に疑問を呈さざるをえない。
  • IASBは、国際的に統合された高品質の会計基準の設定を目指しているのであり、欧州連合における2005年からのIFRSの導入のために行われる妥協が国際基準に反映することには懸念を禁じえない(IASBは欧州のために会計基準を作っているわけではことが強く意識されるべきである)。

(2) 暫定合意

議論の結果、次のような内容に修正することで暫定的に合意し、これに基づいて公開草案が公表されることとなった(採決は、賛成11反対3)。

1.公正価値オプションが適用できる3つのケース

公正価値オプションが適用できるケースを次の3つに限定する。

  1. 組込みデリバティブを含んだ金融商品(組込みデリバティブは、原則としてホスト契約から分離して公正価値で測定しなければならないが、組込みデリバティブを含んだ金融商品全体に公正価値オプションを採用することによって分離する必要がなくなる)
  2. 公正価値で測定される金融資産の運用成績に契約上リンクして支払われる金融負債(保有金融資産は公正価値で測定されるが、関連する金融負債が償却原価で測定されることによるボラティリティを公正価値オプションの採用によって回避することができる)
  3. 公正価値の変動に対するエクスポージャーが互いにほぼ相殺される金融資産と金融負債(natural offset)(公正価値オプションの採用によって、公正価値ヘッジ会計を適用するための要件の充足状況を検討することなく実質的に公正価値ヘッジと同様な効果を得ることができる。また、IAS第39号では為替リスクを除きヘッジ手段としてデリバティブ以外の使用を認めていないが、公正価値オプションの採用によって非デリバティブ金融資産・金融負債を実質的にヘッジ手段として活用できる)

なお、公正価値オプションは、当初認識時に変更不能な1回限りの選択としてその採用が認められることになる点には変更はない。

2.公正価値オプションの適用できる場合の拡張(今後さらに検討)

上記3つのケース以外でも、投資信託やベンチャー・キャピタル等では、保有金融資産に対して公正価値オプションを適用したいとのニーズがあることから、貸付金及び売掛金以外の売却可能金融資産に対しても公正価値オプションを許容することが暫定的に合意された。しかし、これをどのように認めるかについては次のような2つの方法が考えられ、今後いずれを採用するかが検討される予定である。

  • 貸付金及び売掛金以外の売却可能金融資産に対して、当初認識時の指定に基づいて、金融資産ごとに公正価値オプションの採用を認める。
  • 改訂前のIAS第39号で認めていたように、企業の会計方針として、売却可能金融資産の公正価値の変動を損益として認識するか、資本の部で認識するかの選択を企業に委ねる。
3.公正価値オプションで利用できる公正価値の制限

公正価値オプションが採用できるのは、対象となる金融資産・金融負債の公正価値が検証可能な場合に限定することが、暫定的に合意された。また、ECBの要請を受ける形で、規制当局による規制を受けている業界(銀行や保険会社)では、企業のリスク管理方針及び目的と整合的な方法でIAS第39号が求める公正価値に関する規定を適用するに当たって、規制当局が何らかの監督を行い得る可能性について言及する文言を入れることがスタッフから提案されたが、その表現については、今後さらに検討することがスタッフに指示された。

5.退職給付(年金会計)

今回は、次の5点について議論が行われた。

  1. 連結グループ内企業の個別財務諸表におけるグループ確定給付制度の取扱い。
  2. 損益計算書外で認識される数理計算上の差異を、資本の部の変動計算書の独立項目として認識するかどうか。
  3. 数理計算上の差異を即時認識する場合、確定給付資産又は負債に相当する資本の部の額は独立して表示すべきかどうか。
  4. 数理計算上の差異を損益計算書外で認識する場合、資産計上額の上限(asset ceiling)に関連する調整額をどのように取り扱うか。
  5. IASBが以前提案していた感応度情報を短期的改訂の内容に含めるかどうか。

今回で議論が終了したので、議論の最後に、上記の内容を含むIAS第19号(従業員給付)の改訂公開草案の公表に対するボードメンバーの意向が確認され、2名が反対を表明する予定であること及び1名が数理計算上の差異の表示に関する最終文案によっては反対を表明する予定であることを述べた。公開草案は今回の議論を踏まえた内容を反映した上で、2004年3月末までには公表される予定である。

(1)連結グループ内企業の個別財務諸表におけるグループ確定給付制度の取扱い 

IAS第27号(連結及び分離財務諸表)において、連結財務諸表を作成する必要がないための規準(1. 100%所有されている子会社である場合、2. 発行する債券や持分金融商品が公開市場で取引されていない場合、3. 公開市場での資金調達を予定していない場合、又は4. 親会社がIFRSに基づく連結を作成している場合)を満たしている企業は、グループ確定給付制度を複数事業主制度として取扱うことができるように、IAS第19号の複数事業主制度の定義を修正することが暫定的に合意された。したがって、この要件を満たさないグループ確定給付制度に参加しているグループ内企業は、確定給付制度としての会計処理を行わなければならない。

(2)数理計算上の差異の資本の部での表示

既に数理計算上の差異を損益計算書の外で認識(資本直入)するという選択肢を採用することが暫定的に合意されているが、このような数理計算上の差異は、資本の部の独立項目としては認識しないことが暫定的に合意された。したがって、直接認識された数理計算上の差異は、未処分利益剰余金(retained earnings)に含めて表示される。もし、資本の部の独立項目として表示するといつ未処分利益剰余金にリサイクルするかといった問題が生じることになり、リサイクリングの必要がない未処分利益剰余金に含めることが妥当とされた(これは英国の会計基準とも合致する)。

(3)確定給付資産又は負債に相当する資本の部の額は独立して表示

損益計算書以外で認識(資本の部)される確定給付資産又は負債に相当する資本の部の額は独立して表示しないことが暫定的に合意された(これは英国の会計基準と同じ取扱い)。

(4)資産計上額の上限に関連する調整額の取扱い

確定給付建制度において確定給付資産が認識される場合、当該資産の認識に関しては上限が設定されている。資産として認識できる剰余の額は、制度からの返還又は将来の拠出金減少という形で利用可能な経済的便益の現在価値を限度としている。この上限規定による影響を、1. 数理計算上の差異として扱って損益計算書の外で認識するか、あるいは2. 損益計算書に計上すべき調整額として認識するかがここでの問題であるが、議論の結果、数理計算上の差異を損益計算書外で認識することに合わせて、資産の上限による影響も損益計算書外で認識することが暫定的に合意された。

(5)感応度情報の取扱い 

2003年12月に公表された米国財務会計基準審議会(FASB)の改訂財務会計基準書(SFAS)第132号(年金及び他の退職後給付に関する事業主の開示)において新たに追加された開示を、米国GAAPとの統合化の観点からどの程度改訂IAS第19号の開示事項として追加するかについて、2004年1月のIASB会議で検討されたが、そのときには検討されなかったものに、IASBが2003年5月の会議で開示を決定した「主要な仮定に係る感応度情報の開示」がある。感応度の開示は、SFAS第132号では、医療費の趨勢率のみについて要求(第5項m)されており、IASBの要求は、SFAS第132号を超えるため、「主要な仮定に係る感応度情報の開示」が改めて議論された。議論の結果、SFAS第132号と同様に医療費の趨勢率についてのみ感応度の開示を求めることが暫定的に合意された。

6.収益認識

今回は、1. 今後の作業計画、2. 収益認識に関する諸原則案及び3. 「条件付」という用語の使用という3点について議論が行われた。なお、本プロジェクトは、米国財務会計基準審議会(FASB)が主導するIASBとの共同プロジェクトである。

(1) 今後の作業計画 

今回FASBの今後の作業計画として、本プロジェクトを2つの分けた上で、第1フェーズの公開草案を2004年第4四半期に公表するというスケジュールが提案された。第1フェーズでは、収益認識に関する会計基準が拠り所とする原則、原則を適用するためのガイダンス、原則を採用した理由及びある種の取引にガイダンスをどのように適用するかに関する一般化された例示を示すこととし、収益認識に関する一般基準の作成を目指すことが提案されている。また、第1フェーズでは、概念基準書の改訂も同時に提案することが計画されている。第2フェーズでは、現在米国に存在する収益認識に関する180以上の会計基準と置き換えられるより特定されたガイダンスの作成を目指すこととされている(単一の適用ガイダンスか又はある期間にわたって公表される連続した適用ガイダンスのいずれか)。

FASBが2つのフェーズに分けるのは、収益認識に関する新たな考え方についての理解を求め、さらにこれに関する教育を行う必要があり、そのためには時間をかける必要がると判断されたためである。さらに、収益認識に関する一般原則をまず確定させた上で膨大な現行米国GAAPを見直す作業を行う方が効率的であるというのももう1つの理由である。

このようなFASBの提案を受けて議論が行われたが、IASBの場合には、FASBとは異なり、公開草案というよりディスカッション・ペーパーといった形で収益認識原則についてのコメントを求め、その後にIASBの概念フレームワークの見直し及びIAS第18号(収益)の改訂を行うべきである

という考え方を支持するボードメンバーが多数であった。なお、ディスカッション・ペーパーの公表時期はFASBと合わせるのが理想ではあるが、必ずしも同じである必要はないとの意見もあった。

(2) 収益認識の諸原則案(目的・基本原則・原則) 

今回FASBから提案された収益認識及び測定に関する諸原則案(draft principles)は、1. 収益認識の目的、2. 基本的収益認識原則、3. 基本的測定原則、4. 認識原則(7つ)及び5. 測定原則(6つ)から成っており、それらは以下のとおりである。FASBは、諸原則を概念フレームワークにおける収益の概念的定義と今後作成される予定の高次元の適用ガイダンスとを繋ぐものと位置付けており、IASBにおいても、同様にIASBの概念フレームワークとIAS第18号とを繋ぐものとする方向性に対して異論は出なかった。しかし、今回は議論が行われただけで、これらの提案に関して暫定的に合意されたものはない。

収益認識の目的
理念的には、すべての収益は、(a) 発生した会計期間に認識し、(b) 発生した日現在の公正価値で測定すべきである。
基本的収益認識原則 基本的測定原則
報告企業は、収益の発生と測定を十分な信頼性をもって判定できる場合には、収益をその発生した会計期間に認識し、発生した日現在の公正価値で測定する。 報告企業は、資産の増加又は負債の減少から生じる収益を、その増加又は減少の公正価値で測定する。
認識原則及びその内容 測定原則及びその内容

1

契約による収益(contractual revenues)は、顧客との契約が存在するようになる前には発生し得ない。 1 報告企業が資産の増加又は負債の減少から生じる収益を測定するのに用いる公正価値の見積りは、相対的に最も信頼性の高いものでなければならない。

2

報告企業は、顧客に対する請求権の増加が発生したものと判定でき、かつ当該増加の公正価値が十分な信頼性をもって測定できる時に、契約による収益を認識する。 2 公正価値ヒエラルキーのレベル3に合致する収益の公正価値の見積りは、市場アプローチ又はインカム・アプローチのように、市場からのインプットを最大にするような種々の評価技法により作成する。
3 報告企業は、顧客から自らへの請求権の減少が発生したものと判定でき、かつ当該減少の公正価値が十分な信頼性をもって測定できる時に、契約による収益を認識する。 3 報告企業の契約による資産の増加から生じる収益の公正価値は、信用リスク、貨幣の時間価値及び希薄化リスクの影響を反映する。(注)
4 契約による収益を生じさせる資産の増加又は負債の減少は、明文又は暗黙の約束から生じうる。 4 報告企業の収益の公正価値に関する信用リスクの影響を反映する測定値は、顧客が契約に違反した場合の回収の見込みも反映しなければならない。
5 契約による収益は、その日に獲得した契約による資産の公正価値が、同時に発生した契約による負債の公正価値を上回っており、かつ、その収益が十分な信頼性をもって測定できる場合には、契約の開始時に(at contact inception)認識する。 5 顧客に付与されている、明示的又は暗黙の、返品及び返金、値引、割戻、割引、クレジットその他類似の権利で、報告企業の契約による資産の減額又は契約による負債の増額によって収益を減少させるものは、公正価値で測定する。
6 契約の開始後においては、報告企業が契約による義務を履行した時に、契約による収益を認識する。その証拠となるのは、公正価値が十分な信頼性をもって算定できる、契約による負債の減少又は契約による資産の増加である。 6 特定の事象の発生又は非発生の場合における顧客の待機状態にある履行(stand-ready performance)に対する報告企業の権利に由来する、契約による資産の増加から生じる収益は、その特定の事象が発生する確率の評価を反映した公正価値で測定する。
7 契約完了時に、契約による資産の公正価値の最終的な増加又は契約による負債の公正価値の最終的な減少を反映するように、契約による収益を認識する。

(注)希薄化リスクとは、返品、値引、割戻等により、実際の受取額が契約額に満たない可能性をいう。

(3) 「条件付」という用語の使用

収益認識プロジェクトでは、conditional rights and obligationsという用語を使用しているが、米国財務会計基準書第150号(負債と資本の性格を有するある種の金融商品の会計処理)では、contingentという用語を使用していることとの関係について、両者が同じ意味を持つのかどうかについて、FASBの一部のボードメンバーから懸念を示す意見があり、スタッフが検討を行った資料に基づいて議論が行われた。スタッフからは、検討の結果両者はほぼ同義と考えられるが、法律上の文献ではconditionalの語を使用していることから、収益認識プロジェクトでは引き続きconditionalを使用すべきだという提案が行われた。IASBでの検討でもこの考え方に特に異論はなかった。

7.連結及びSPE

今回は、1. 潜在的議決権と支配規準の関係及び2. Strawmen(事実上の代理人)の取扱いの2点について議論が行われた。

本プロジェクトでは、SPEの連結を含めた連結範囲を決定するための基準として支配概念を用いることとし、その支配概念の明確化を図ろうとしている。これまでのところ、支配概念は、次の3つの基準を共に満たすものとすることが暫定的に合意されており、3つの規準を満たした企業が連結されることになる。

  1. その企業の財務及び経営方針を直接指図する能力(パワー規準)
  2. 便益を入手する能力(ベネフィット規準)
  3. 便益(ベネフィット)を増大させるために力(パワー)を用いる能力

なお、3つの規準は、パワー規準、ベネフィット規準そして便益を増大させる力という順序で判定を行う。また、支配の定義においては、支配を獲得する方法についての制限は設けないこととされている。

(1)潜在的議決権と支配規準 

企業が潜在的な議決権(オプションや転換権)を保有する場合、これを支配規準の判定に含めるべきかどうかについて議論が行われた。スタッフからは、次のような潜在的議決権を支配規準の判定に当たり考慮すべきという提案が行われた。

  1. 現在行使可能な潜在的議決権(例えば、時の経過や将来の事象の発生に依拠しないもの)
  2. 行使に何ら障害のない潜在的議決権(規制当局の承認といった条件の付されているものはこれに該当しない)
  3. 当該オプションが経済的実質を有するものであること(行使価格が意図的に高めに設定され、予見可能な状況では行使できないような場合は、これに該当しない)

今回の議論では、これらの潜在的議決権は、現在支配を有しているかどうか(すなわち、投資先の戦略的な営業上及び財務上の政策を実際に決定することが可能かどうか)の判定に当たり考慮すべきものである点については、原則的な了解に達した。しかし、今回の議論では、どのような場合に潜在的議決権を考慮すべきかを特定するまでには至っていない。

(2)Strawmen(事実上の代理人) 

「Strawmen(事実上の代理人)」とは、ある投資者の代理人として実質的に機能する第三者を指している(わが国の子会社等の判定に当たって考慮される「出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者」及び「自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者」のうち多くの場合がStrawmenに含まれると考えられる)。2003年9月にIASBは、投資者が支配規準を満たしているかどうかの判定に当たり、Strawmenの保有持分を考慮するという点についてすでに暫定的に合意している。

今回は、Strawmenにどのようなものが該当するかが検討され、次のようなものが該当するという点が暫定的に合意された。

  1. 投資者の関連当事者
  2. 被投資企業に対する持分を、投資者からの寄付又は融資として受取った企業
  3. 投資者の事前の承認なしには、被投資企業に対する持分を売却、譲渡又は担保に差し入れることができないという契約を交わしている企業
  4. 投資者からの金融支援なしには営業資金を賄えない企業
  5. 投資者の従業員
  6. 投資者と(専門的サービスの提供者と重要な顧客との関係のような)緊密な営業関係のある企業
  7. 投資者と同じ取締役(Directors)を有する企業

これらのうち、「投資者の従業員」及び「投資者と緊密な営業関係のある企業」の場合については、前者では従業員全員である必要はなく(ある一定役職以上に限定する)、また、後者では通常の顧客関係は除外すべきといった論点があり、今後さらに検討することとされている。

また、支配規準の判定当たり、Strawmenの保有する持分をどのように取扱うのかに関して、1. Strawmenの保有する持分は支配規準の判定に当たり投資者の持分に加えるという反証可能な前提を置くか、2. 単に考慮するだけとするかが検討された。前者の場合、反証を挙げない限りStrawmenの保有する持分は必ず投資者の持分に加えられて支配規準の判定が行われる。後者の場合では、Strawmenの保有する持分が投資者の代理人として実質的に機能しているという証拠がある場合に限って投資者の持分に加えられて判断が行われる。議論の結果、前者の考え方を採用することが暫定的に合意された。

8.短期的な会計基準の統合(IAS第20号の改訂)

IAS第20号(政府補助金の会計処理及び政府援助の開示)の改訂は、国際会計基準解釈委員会(IFRIC)が公表した排出権に関する解釈指針の公開草案がきっかけとなって浮上してきている問題である。もともとIAS第20号に対しては、政府補助金が補償しようとしている費用と対応させるため政府補助金を「繰延収益」として負債で認識することが概念フレームワークに抵触するのではないかとの批判があり、さらに、有形固定資産の取得に対する政府補助金を取得原価から控除するする方法(圧縮記帳)や非貨幣性資産を政府補助金として受領した場合には、名目価額(nominal amount)で計上できるなど多様な方法が認められており、この点についても批判があり、IAS第20号の見直し必要性は従来から強く認識されてきていた。

このような経緯を経て、今回、スタッフからはIAS第20号を廃止すべきとの提案がなされ、議論が行われた。議論の結果、ただ単にIAS第20号を廃止し、政府補助金の会計処理をIAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)が定めるIFRSがない場合のヒエラルキーに委ねることは実務の混乱を招くとの判断から、IAS第41号(農業)で規定されている政府補助金に関する会計処理を基に、IAS第20号を改訂することが暫定的に合意された。

改訂IAS第20号の中に取り込もうとしているIAS第41号の政府補助金の会計処理は、見積販売時費用控除後の公正価値で測定される生物資産(biological assets)に対する政府補助金に関するもので、1. 条件の付されていない政府補助金は、その受領が確定した時点で収益として認識すること及び2. 条件が付されている場合には、条件が満たされた時点で収益として認識すること(政府補助金が時の経過によって一部を返還しないことを認めている場合には時間の経過とともに収益として認識する方法を含む)が規定されている。

9.保険会計(第1フェーズ)

基準案作りの過程で検討すべき論点が出てきたため、当初予定されていなかった保険会計プロジェクトについての議論が行われた。問題となったのは金融保証の取扱いで、2004年1月の会議で暫定的に合意された事項は、公開草案(ED5)の内容を大きく変更しており、デュー・プロセスに違反しているのではないかとの指摘が寄せられため、2004年1月の暫定合意をどのように扱うべきかが議論された。議論では、2004年1月の暫定合意は適切である点が再確認されたが、その合意については再公開を行う必要があると判断された。このため、2004年3月までに確定させる保険IFRSは、ED5の提案内容に戻して基準化するが、新たに2004年1月の暫定合意の内容を反映した改訂案を公開することが決定された。

(1)問題の所在

1.ED5号の提案

ED5第4項(e)では、金融資産・金融負債及び非金融資産・非金融負債の譲渡者が、その譲渡に関連して相手方に与えた金融保証契約は、保険IFRSの対象範囲外とし、これらに対してはIAS第39号を適用しなければならないと規定している。したがって、保険契約の定義を満たすこれ以外の金融保証契約は、保険IFRSの対象となるが、ED5では、保険契約に該当する金融保証契約の会計処理については触れられていない。そのため、保険契約に該当する金融保証契約の会計処理は、他の保険契約と同様企業の会計方針に委ねられることとなっていた。

(注)ここで保険契約とは、もし特定の不確実な将来事象(被保険事象)が保険契約者又はその他の受益者に対して不利に働くときには、保険契約者又はその他の受益者に補償をすることに同意することによって、ある主体(保険会社)が、他の主体(保険契約者)から重要な保険リスクを引き受ける契約であると定義されている。

2.改訂IAS第39号の規定

ところが、2003年12月に改訂されたIAS第39号では、特定の債務者が負債金融商品の当初又は修正された条項の下における弁済期限までに支払えなかったことによって契約者(受益者)に損失が生じた場合に、契約者への弁済のために発行者(保険会社)に特定の支払いを求める金融保証契約(すなわち、保険契約に該当する金融保証契約)は、改訂IAS第39号の対象範囲外であるとした上で、非常に奇異なことではあるが、この対象外とされた金融保証契約の測定について改訂IAS第39号の中に次のような測定に関する規定が置かれている。

  • 当初認識時の測定は、公正価値で行う。
  • 当初認識後の測定は、1. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)によって認識された金額、又は2. 当初認識額からIAS第18号(収益)に基づいて認識された償却額累計を控除した額のいずれか高い方で行う。
     

なお、保険契約に該当しない金融保証契約(特定の金利や金融商品価格の変動に連動して支払いが行われる金融保証契約)には、改訂IAS第39号の規定が適用される。


3.2004年1月会議の議論

IASBは、金融保証は様々な法的形態をとり得る(金融保証、信用状、クレジットデフォルト契約、保険契約など)が、会計処理は法的形態によるべきではないと合意していたため、2004年1月のIASB会議では、改訂IAS第39号で規定されている上述の取扱いを保険IFRSに反映することが暫定的に合意された。すなわち、ED5では、保険契約に該当する金融保証契約に対する会計処理は、保険契約に該当するためIAS第8号のヒエラルキーは適用されず、企業の決定する会計方針に委ねられることになっていたが、2004年1月の暫定合意では、これとは異なり、改訂IAS第39号に記述のある会計処理を保険契約に該当する金融保証契約に強制適用することが暫定的に合意されたのである。

(2)2004年2月会議での論点と暫定合意

今回の会議では、IASBが2004年1月会議で到達した保険契約に該当する金融保証契約の会計処理に関する暫定合意は、改訂IAS第39号での取扱いを反映するものであるとしても、保険契約に関するED5の取扱いを大きく変更するものであるため、このような意思決定は再公開すべきではないかという点が議論された。

議論の結果、2004年1月の暫定合意の内容は適切であるが、この合意がED5の取扱いを大きく変更するものであるとの指摘はその通りであり、この論点に関する再公開が必要であるとの合意に達した。しかし、一方で、2004年3月末までに保険IFRSを完成させる必要があるため、取りあえず、ED5の提案内容に基づいて保険IFRSを完成させるものの、この完成した保険IFRSの改訂という形で、2004年1月会議での暫定合意の内容を反映するための改訂案の公開を行うことが暫定的に合意された。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)