IASB(国際会計基準審議会)の第31回会議が、2004年1月20日から23日までの4日間にわたりロンドンのIASB本部で開催された。今回の会議では、1. 企業結合(第1フェーズ)、2. IAS第39号(ポートフォリオ・ヘッジ)の改訂、3. 退職給付(年金会計)、4. 公開草案第4号(ED4)「非流動資産の処分と廃止事業の表示」、5. 収益認識、6. リース、7. 保険会計(第1フェーズ)及び8. 解釈指針委員会(IFRIC)の活動報告についての議論が行われた。会議には理事14名が参加した。本稿ではこれらの議論のうち5. 及び8. を除く議論の概要を紹介する。
今回は、企業結合(第1フェーズ)の最終基準ドラフトに対してボードメンバーから寄せられたコメントについて以下に示す議論が行われた。そして、これらの議論を終えた後、3つの最終基準(IFRS第3号(企業結合)、改訂IAS第36号(資産の減損)及び改訂IAS第38号(無形資産))に対してボードメンバーの意向が確認され、IFRS第3号に対しては2名、改訂IAS第36号に対しては3名及び改訂IAS第38号に対しては1名が、それぞれ反対する意向を示した。この結果、それぞれのIFRSは8名以上の賛成があれば最終基準となることから、企業結合第1フェーズの3つの基準案は、いずれも2004年3月末までに最終基準として公表される見通しとなった。
IFRS第3号に関しては、3つの点について議論が行われた。
現在の最終基準ドラフトでは、「本IFRSの目的は、企業が1つ以上の他の企業又は事業を結合する際の当該企業による財務報告を指定することにある。」とされているが、これでは抽象的すぎるので、企業結合における主要な原則を目的パラグラフに織り込むべきであるとの指摘があり、議論が行われた。
議論の結果、次のように改訂することが暫定的に合意された。
「本IFRSは、パーチェス法を適用してすべての企業結合を会計処理することを要求する。したがって、取得企業は、被取得企業の識別可能資産、負債及び偶発負債を取得日における公正価値で認識するが、それとともに、当初認識後は償却を行わず減損テストによって会計処理を行うのれんを認識する。」
現在の最終基準ドラフトでは、企業結合の当初の会計処理を、当該企業結合が行われた事業年度末までに暫定ベースでしか行えない場合(例えば、一部の資産や負債の公正価値の決定に時間がかかるような場合)には、取得企業は、企業結合日から12ヶ月以内に、取得日に遡及して暫定ベースの会計処理を修正しなければならないとされている。そのなかで、遡及修正に当たっては、遡及修正の結果生じる減価償却費の追加計上などの損益への影響は、当初の会計処理の修正が行われた事業年度の期首剰余金の修正として認識しなければならないとされている。これに対して、この取扱いは、IAS第8号(会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬)で規定する遡及修正の取扱い(表示されている比較財務諸表の最も早い事業年度の期首剰余金の修正として認識する)と矛盾するのではないかとの指摘があり、議論が行われた。
議論の結果、最終基準ドラフトの表現をより正確にするため、「企業結合の会計処理が完了する以前の比較財務諸表では、取得日において企業結合の会計処理が完了していたかのように表示する。」という表現に改めることが暫定的に合意された。
現在の最終基準ドラフトでは、企業が従来GAAPの下でのれんを資本から控除する会計処理を採用していた場合には、当該企業がのれんの属する事業の全部又は一部を売却した場合、又はのれんの属している現金生成単位が減損した場合に当該のれんを損益計算書で認識してはならないという規定が置かれている。これに対して、この会計処理を行うと、売却によって実際には存在しない利益が認識されることになり、また、減損の場合には、のれんに関する減損が過少に表示されることになるという指摘があり、議論が行われた。
議論の結果、最終基準ドラフトの取扱いには、指摘されたような問題点はあるものの、この取扱いは、IFRS第1号(IFRSの初度適用)において規定されている、「従前の会計基準においてのれんを資本からの控除として会計処理している場合には、開始貸借対照表においてのれんとして認識してはならない、また、売却や減損の際にのれんを損益計算書に振り替えてはならない」という取扱いと首尾一貫しているため、最終基準ドラフトの取扱いは変更しないこととされた。
IAS第36号に関しては、3つの点について議論が行われた。
現在の改訂基準ドラフトでは、当初取得時ののれんの配賦が企業結合の行われた事業年度中に完了しない場合には、翌事業年度末までに配賦を完了することが求められている。一方、IFRS第3号最終基準ドラフトでは、企業結合の当初の会計処理が、当該企業結合が行われた事業年度末までに暫定ベースでしか行えない場合には、取得企業は、企業結合日から12ヶ月以内に、取得日に遡及して暫定ベースの会計処理を修正しなければならないとされている。このようにのれんの配賦を完了すべき期間と暫定ベースでの会計処理を確定すべき期間との間に時間的差異があるので、これを統一すべきではないかという指摘があり、議論が行われた。なお、米国財務会計基準審議会(FASB)は、企業結合第2フェーズで、企業結合の会計処理を12ヶ月以内に完了すべきとするIFRS第3号の規定を同一の内容に統一することに合意しているが、のれんの配賦期間については、米国財務会計基準第142号(のれん及びその他の無形資産)では、明示していない。
議論の結果、両者の時間的なずれは、暫定ベースの企業結合の会計処理の調整が完了しなければのれんの配賦を行えないためのものであり、両者の期間を統一する必要はないという点が暫定的に合意された。
現在の改訂基準ドラフト第44項(b)では、使用価値の算出に当たり、将来キャッシュ・フローを見積もる際には、資産の現状に基づいて予測を行わなければならないとされ、具体的に、将来キャッシュ・フローに含めてはならないものとして、「当該資産に係る将来の追加・置換又は維持管理費用」が列挙されている。一方、第44項を説明している第49項では、将来キャッシュ・フローの見積りには、「資産の日常的維持管理に必要な将来費用」を含むという記述がある。これに対して、両者の記述に矛盾があるのではないかという指摘があり、議論が行われた。
議論の結果、第44項(b)で記述されている「当該資産に係る将来の追加・置換又は維持管理費用」は、IAS第16号(有形固定資産)第14項で述べられている定期的な主要検査費用(costs of major inspection)を指すと考えるべきであり(主要検査費用は、認識規準を満たすと当該検査対象資産の簿価に追加され、従前の検査費用は、認識が中止され費用として認識される)、その点が明確になるように文言を修正することが暫定的に合意された。
のれんの減損テストをどのレベルで行うかについては、第80項(a)では、「のれんに関する情報が入手可能でかつ内部管理目的でモニターされている企業内の最小レベル」でなければならないとされている。一方、第80項を説明する第83項では、「減損テスト目的のためにのれんが配賦されている現金生成単位は、IAS第21号(外国為替レート変動の影響)に準拠して為替損益を測定する目的でのれんが配賦されるレベルとは一致するかもしれないし、しないかもしれない」とされている。第83項は、通常は、IAS第21号におけるレベルよりも大きなレベルでのれんの減損テストが行われることを示すものと解釈されている。しかし、第83項の規定は明確ではなく、IAS第21号におけるのれんの配賦レベルが第80項におけるのれんの減損テストに影響し、本来意図していたよりも小さなレベルで減損テストが行われることになる懸念があるとの指摘があり、議論が行われた。
議論の結果、若干の文言訂正を検討するものの、両者の関係は明確であるので、基本的に第80項及び第83項の文言の変更は行わないことが暫定的に合意された。
IAS第38号に関しては、2つの点について議論が行われた。
IAS第38号では、有限の耐用年数(definite useful life)を有する無形資産に対しては、原則として、耐用年数経過時点での残存価額をゼロとみなすこととされている。ところが、無形資産の耐用年数を経済的寿命(economic life)より短く設定し、耐用年数経過時点で当該無形資産の売却を予定している場合には、耐用年数経過時点での無形資産の残存価額はゼロではないと考えられるため、一律残存価額はゼロとみなす規定を見直す必要があるのではないかという点があるボードメンバーから指摘され、議論が行われた。
議論の結果、もともと耐用年数経過時点での残存価額をゼロとみなすという規定は、無形資産の残存価額を簿価と同等かそれ以上であると企業が主張することによって、無形資産の減価償却を回避することを防ぐことを目的に導入されたものであり、指摘のような事態があるとしても、これを企業結合プロジェクトの文脈において見直すことは、プロジェクトの範囲を超えているとされ、見直しを行わないことが暫定的に合意された。
企業結合で取得された無形資産で、他の無形資産又は有形固定資産と一緒の時にのみ分離可能なもの(例えば、天然水の商標はそれが取れる泉と分離して売却できない)をのれんから分離すべきかどうかが議論された。結論として、もしこのような補完資産(complementary assets)を構成する個別の資産の公正価値を信頼を持って決定できない場合には、これらを1つの資産として分離することを要求するという取扱いが暫定的に合意された。これは、このような形で分離されなければ、このような補完資産はのれんの一部を構成することになり、その方が不適切であると判断されたためである。
今回の会議では、2003年12月に引続き、1. 相手先の要求があれば直ちに償還する負債(要求払預金など。以下、「コア預金」と呼ぶ。)を、相手先が支払要求を行える最短期間以外の期間においては、公正価値ヘッジ会計の対象とすることはできないとする公開草案の取扱い及び2. ヘッジ指定の仕方とヘッジの有効性の判定に関する問題の2つが議論された。
今回は、コア預金は相手先が支払要求を行える最短期間以外の期間では公正価値ヘッジ会計の対象とすることはできないとする公開草案の取扱いを変更する案がスタッフから提出され、その内容が検討された。議論の詳細は後述の通りであるが、コア預金に関連する問題は他のプロジェクトでの検討とも関連しており、現時点で急ぎ結論を出すべきではないという意見が多く、結果として、公開草案の提案を修正しないことが暫定的に合意された。
公開草案の提案に対しては、コア預金を金利リスクのポートフォリオ・ヘッジにおいては、最短期間以外の期間においてもヘッジ対象とすべきであり、そのためには、コア預金をその予想される満期に基づいてポートフォリオ・ヘッジの時間枠の中に含められるようにすべきという意見が寄せられていた。この主張は、次のような論点を含んでいる。
上述のような論点を検討した結果、1. コア預金は相手先が支払要求を行える最短期間以外の期間では公正価値ヘッジ会計の対象とすることはできないとする公開草案の取扱いを変更しないこと及び2. コア預金の公正価値は、(コア預金の支払いが要求できるようになる最初の日から測定日までの期間について割引を行った後の)相手の支払要求に基づいて支払わなければならない金額を下回らないというIAS第39号第49項は変更しないことが、暫定的に合意された。
今回は、次の点について議論が行われた。
純額ポジションをヘッジ対象として認めるようにすべきであるとのコメントを受けて議論が行われたが、ポートフォリオ・ヘッジにおいては、ある時間枠の純額ポジションをヘッジ対象として認めないという公開草案の立場を変更しないことが暫定的に合意された。
公開草案では、ヘッジ対象を個々の項目ではなく金額で指定できるとしているが、これに対しては、コメントを寄せた者全員が賛成を表明している。ところが、その金額の決定方法を最終基準では指定すべきではないとのコメントがあり、今回この点が議論された。ポートフォリオ・ヘッジに対しては、これまで、(a) 早期返済は、契約満期に基づくのではなく見込み返済期日に基づいて各時間枠に配分することとしているが、金利の変動によりこの早期返済の見込みを改訂する必要が生じた場合には非有効部分が発生すること、及び(b)ポートフォリオ・ヘッジでは、個々の項目をヘッジ指定したのとほぼ同様な結果となるように会計処理することの2点を基本原則として検討してきた。このような原則に立脚した場合、ヘッジ対象の金額指定に関する指針をまったく設けなければ、企業間の比較可能性が乏しくなるため最終基準ではヘッジ対象の金額の決定方法を指定することが暫定的に合意された。例えば、ヘッジ対象の指定方法を企業の自由に任せ最終基準で指定しなければ、早期償還はヘッジ対象外の部分から先に発生すると考える「bottom layer」方式(この方法では非有効部分は滅多に生じない)を採用する企業と、早期償還はヘッジ対象の部分から先に発生すると考える「top layer」方式(この方法では非有効部分は頻繁に生じる)を採用する企業との間では、比較が困難となる懸念がある。
(a.)公開草案の提案(比例方式)の再確認
コメントの多数(62%)が、金利変動により早期返済の見積りが変化した場合、オーバーヘッジになるとき(早期返済の予想が従来の予想よりも早まったとき)にのみ非有効部分が発生し、アンダーヘッジになるときには非有効部分は発生しないものとすべきだと主張していたためこの問題が改めて議論された。
このような主張の主なものは、次の通りである。
上記(a)のコメントは、ある期間枠の中にヘッジ対象であるデリバティブをカバーする十分な資産があるかどうかという観点に基づいているが、これは、予めヘッジ対象とヘッジ手段の大きさ(金額)を指定し、それらが公正価値の変動に応じて変動した差額を損益計算書で認識することによってヘッジの効果を把握しようとする公正価値ヘッジの考え方を反映したものではなく、公正価値ヘッジ会計の文脈においては適切な考え方でないとIASBは判断した。 また、上記(b)のコメントは、ある期間枠の中に含まれる早期返済可能資産には、予想返済期日が用いられ、これによって早期返済オプションが金利変動によって変動するように工夫されている点が見落とされている。すなわち、早期返済オプション自体をヘッジするヘッジ手段がないため、早期返済オプションを分離せずに早期返済付ローンの契約返済日ではなく予想返済日を用いることによって、金利変動に伴う早期返済オプションの権利行使の変動をヘッジ対象資産の残高の増減として把握するという形で、早期返済オプションをヘッジ対象の中に組み込んでいる。このため、早期返済オプションを含めた時間枠内の資産全体が、ヘッジ手段と相関するようにされているのであり、早期返済オプションのみを取り出すことは適切ではなく、したがって、このコメントは採用できないと考えられた。このような判断から、オーバーヘッジかアンダーヘッジかにかかわらず、金利変動によって早期返済の見積りが変化した場合には、非有効部分が生じるような指定方法(すなわち、「比例(percentage)」方式)を要求すべきであるという点が暫定的に合意された。
(b.)早期返済オプションの分離の許容
公開草案は、早期返済リスクと金利リスクとは分離できないという考え方に基づいていた。これは、以下のような理由によるものである。
しかし、このような公開草案のスタンスに対しては、一部の最先端の金融機関では早期返済リスクと金利リスクを区分して管理しているとの指摘があった。それを受けて検討が行われ、早期返済リスクと金利リスクを区分して測定している金融機関に対してまで、「比例方式」を強制すべきではなく、むしろ、早期返済リスクと金利リスクを信頼を持って区分できる金融機関には、両者を区分してヘッジの非有効性を判定することを認めるようにすべきであるということが暫定的に合意された。この結果、1. 早期返済リスクと金利リスクを信頼を持って区分できる場合には、両者を区分してヘッジの有効性を判定することを認め、2. それを行っていないときには「比例方式」を用いて有効性の判定を行うことを要求するという取扱いとなる。
金利変動以外の要因で早期返済の見積りが変化した場合、ヘッジの非有効部分は生じるのかというコメントがあり、これに対応して議論が行われた。議論の結果、金利リスクのポートフォリオ・ヘッジでは、企業は金利変動のみから生じる資産・負債の公正価値変動をヘッジしているのであり、他の変数の変動による公正価値変動はヘッジしていないので、金利変動以外の要因で早期返済の見積りが変化した場合には非有効部分は生じない旨を明確にすべきであるという方向性については合意されたが、その文言については、別途スタッフが検討を行い、ボードメンバーに提示することとされた。
今回は、2つの点について議論が行われた。第1点は、2003年12月に公表された米国財務会計基準審議会(FASB)の改訂財務会計基準書(SFAS)第132号(年金及び他の退職後給付に関する事業主の開示)において新たに追加された開示があるが、米国GAAPとの統合化のために、これらのうちからIAS第19号(従業員給付)の開示事項として追加するものがあるかどうかというものである。第2点は、2003年12月の会議で、新たな選択肢として、数理計算上の差異をその発生時に資本の部で直接認識する会計処理を認める(現行の選択肢に対する追加)こととされたが、資本の部で直接認識する会計処理とは、資本の部の独立科目とすることなのか、未処分利益剰余金に含めることなのかというものである。
議論の結果、第1点に関しては、米国GAAPの開示に合わせるための改訂をIAS第19号の改訂公開草案の中に含めることが暫定的に合意された。また、第2点に関しては、次回の会議にこの問題に関する取扱いを明確にするための提案を行うようスタッフに指示が行われた。以下、第1点に関連する議論を紹介する。
改訂SFAS第132号での開示項目のうち、IAS第19号の改訂公開草案で取り上げることとしたものは、下表の通りである。
改訂SFAS第132号での開示項目 | IAS第19号の現状と対応 |
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年金負債及び年金資産の期首から期末までの異動表を年金負債及び年金資産それぞれについて開示 | 貸借対照表で認識された資産又は負債の純額の期中変動を示した調整表の開示が求められている(未認識金額についての開示は要求されていない)。これを米国GAAPに合わせるよう修正する。 |
年金資産に含まれる主要な資産の区分ごとの内訳を年金資産の公正価値合計に対する比率として開示 | 米国GAAPとの統合化のため、主要な資産の区分ごとの内訳の開示を求めることを既に決定していたが、これを金額ではなく比率で開示することとする。 |
資産の期待長期利回りを決定するために用いられたベースについての記述 | 主要資産区分ごとの期待長期利回りの開示を求めることを既に決定しているが、これに加えて、米国GAAPの記述開示も求めることとする。 |
事業主が見積もる翌事業年度の年金資産への拠出金の支払予定額の開示 | IAS第19号にはない開示なので、開示を求めることとする。 |
年金債務の会計処理に当たり反映されている推定債務(定期的に給付を増加させてきたといった過去の慣行又は実績)の開示 | IAS第19号にはない開示なので、開示を求めることとする。 |
なお、改訂SFAS第132号では要求されているものの、IAS第19号の改訂公開草案では取り上げないとされた開示項目は次の通りであり、これについては、公開草案においてこの取扱いの是非についてコメントを求めることとされた。
2004年2月のIASB会議でこのプロジェクトの残された問題を議論し、実質的な議論を終了する予定であり、その後、公開草案のドラフトを作成する作業に着手することとなる。
今回の会議では、公開草案第4号「非流動資産の処分と廃止事業」(ED4)でコメントを求めた項目に関する議論が行われた。検討された項目は、次のとおりである。なお、本プロジェクトの最終基準の公表は2004年3月末を予定している。
ここでは、これらのうち4. 及び6. を除く項目について紹介する。
ED4では、再評価が適用されている資産について、次のような取扱いを提案していた。
このような提案に対するコメントを受けて議論を行った結果、ED4の提案を次のように変更することが暫定的に合意された。
ED4では、売却する目的で取得された子会社を連結範囲から除外することを認めるIAS第27号(連結及び分離財務諸表)の規定を削除することを提案していたが、これに対するコメントは賛否が分かれた。議論の結果、ED4の提案を維持することが暫定的に合意された。
ED4では、売却目的で保有される非流動資産及び処分グループ内の資産・負債の表示に関して、資産と負債でそれぞれ1つの勘定科目を用いて両建て表示することを提案していた。多くのコメントがこの提案に賛成しており、暫定的にこの提案を維持することが再確認された。また、処分損益や減損損失をどのように表示するかを本IFRSで特定すべきかどうかが議論されたが、別途検討している包括利益の報告プロジェクトで検討すべきものとされた。
ED4では、廃止事業を損益計算書で2つの方法で表示することを認めていた。
コメントの多くは、(b)の方法を支持していおり、また、別途進められている包括利益の報告プロジェクトでも(b)の方法が選好されていたが、同プロジェクトが遅れている現状を勘案して、ED4における2つの選択肢を維持することが暫定的に再確認された。なお、廃止事業をセグメント情報においても開示すべきがどうかが検討され、可能であれば、セグメントレベルで廃止事業の開示を求めることとされた。
2003年11月に続いてリースに関する議論が行われたが、今回の議論の中心は、1. リース契約において借り手が解約・更新オプションを有している場合の当初認識(当初認識時点及びそれ以後の測定は扱っていない)及び2. 借り手の意思で変動する偶発要素(変動賃借)に関するものであった。
このプロジェクトでは、暫定的に、リース契約に基づく契約上の権利及び義務から発生する資産・負債を認識するというアプローチが採用されている。そこでは、ファイナンス・リースに関してのみ資産・負債を認識する現行の取扱いを改め、リース契約によってリース契約期間中においてリース対象物件を利用できるという利用権と関連する将来の経済的便益に対する支配の移転が行われたことに着目して、この将来の経済的な便益に関する権利の移転に基づいて、契約上の権利・義務から発生する資産・負債を認識しようとしている。今回は、議論が行われただけであり、暫定的な決定は何もなされていない。以下、議論の概要を紹介する。
10年のリース契約において、借り手が3年経過後にリース契約を解約できるオプションがついている場合を例にして、解約・更新オプションについての議論が行われた。解約オプション付のリース契約では、リース契約が当初の予定より早期に終了した場合、貸し手は、3年間のリース期間中の減価償却費の回収と3年経過後の残存価額の回収の不確実性の補償を確保する必要があり、さらに解約オプション自体の対価を求めるので、通常解約オプションはかなり高額に設定される。解約オプション付リース契約のリース料の設定形態には、次のようなもの又はそれらの組合せがある。
今回検討された設例(いずれもリース期間10年で、3年経過時点での解約オプションが付されたリース契約)は、上記を反映した次のようなものであった。
設例A | 借り手が更新日に市場賃借料で更新できるオプションを保有している場合 |
設例B | 借り手がリース開始時点で決められていた賃借料で更新できるオプションを保有する場合 |
設例C | 借り手が解約オプションを保有している場合(解約金の支払いがある場合) |
設例D | 借り手が最低賃借期間終了後の解約オプションを保有している場合(解約金の支払いがない場合) |
設例E | 借り手がリース開始時点であらかじめ決められ、かつ、予想される市場賃借料以下で更新できるオプションを保有する場合(「バーゲン」更新オプション) |
今回の議論では、リース期間10年で3年経過時点での解約オプションが付されたリース契約は、次のように表現ができるが、両者の権利と義務は同じであるため、会計処理も同じでなければならないという点が明確にされた。
ここで検討された設例は、次のようなものである。
借り手は、年間10,000CUの賃借料で自動車の3年リース契約を締結し、さらに60,000マイルを超える1マイルごとに1CUを追加で支払う。超過マイルの料金は自動車の追加的な減耗を適切に反映した補償額である。
この設例では、借り手及び貸し手に次のような契約上の権利・義務が生じる。
【借り手】
【貸し手】
このような変動賃借条件のついたリース契約に対して、契約当初にどのような資産・負債を認識すべきかについて、今回2つの考え方が検討された。
この考え方では、無条件の権利と義務から生ずる資産・負債のみを認識することになるので、借り手では、次のような資産・負債が認識される。
一方、貸し手では、次のような資産・負債が認識される。
この考え方は、リース契約から生ずる資産・負債は、借り手が現時点で約束している最低賃借料(30,000CU)と変動リース支払額の期待価値を反映すべきとするもので、借り手のリース負債及び貸し手のリース資産には、借り手の将来の自動車の使用見込みの期待値の現在価値を反映することとなる。例えば、借り手が75,000マイル走行すると期待されるなら、リース期間当初に資産・負債それぞれにさらに15,000CUを追加認識することとなる。この結果、無条件の権利義務のみを資産・負債として認識する考え方(30,000CU)に比べ、この考え方では、15,000CU多い45,000CUが資産・負債として認識される。
今回は、2003年12月の議論に引き続き、公開草案第5号「保険契約」(ED5)を最終基準とするための最後の議論が行われた。議論されたのは、次のような項目であった。これらのうち、主な議論の内容を紹介する。
なお、今回でほぼ議論が終了したので、会議の最後にボードメンバーに対して最終基準に対する賛否が問われ、5名が反対の意思表明を行うことを明確にした。また、1名が反対を表明するかどうか思案中であることを表明した。最終基準は、2004年3月までに公表される予定である。
ED5に対するコメントの多くは、ED5の提案では、保険会社の資産の測定ベース(IAS第39号による)と負債の測定ベース(原則として取得原価)が一致しなくなるので(ミスマッチ)、IASBがこの問題を検討するように求めていたため、議論が行われている。今回は、2004年1月に行われた欧州の主要保険会社のトップとの会合をも踏まえて、この問題に関するさまざまな選択肢について議論が行われた。その結果、次のように取扱うことが暫定的に合意された。
保険会社からのコメントの中に次のようなものがあった。保険会社の中には、ユニットリンク型保険契約及びユニットリンク型投資契約に係る負債は公正価値で評価するものの、その他の保険契約に係る負債は償却原価で評価している会社がある。このような会社では、ミスマッチを回避するため、ユニットリンク型の契約に対応した投資不動産を公正価値で評価し、その他の契約に対応した投資不動産は償却原価で評価している。ところが、IAS第40号(投資不動産)では、企業がすべての投資不動産に対して公正価値モデル若しくは原価モデルのいずれかを選択することを要求しているので、ユニットリンク型契約に対応した投資不動産のみを公正価値で測定し、その他の投資不動産は償却原価で測定することは認められない。IAS第40号を改訂し、このような選択肢を導入することは可能か。
このようなコメントを受けて検討を行った結果、次のようにIAS第40号を改訂することが暫定的に合意された。 企業が公正価値モデル若しくは原価モデルを選択する際に、2つの別個な選択肢を認めるようにする。すなわち、1. 契約(保険契約でも金融商品でもよい)を裏付ける投資不動産と2. その他の投資不動産のそれぞれごとに、公正価値モデル若しくは原価モデルを採用できるようにするというものである。したがって、契約を裏付ける投資不動産には公正価値モデルを採用するがその他の投資不動産には原価モデルを採用することができるし、その逆に、リンク型契約に係る投資不動産に対して原価モデルをその他の投資不動産に対しては公正価値モデルを選択するということも可能となる(現実に後者の選択が行われることは想定されないが、規定を簡素化するため、後者の選択肢も排除しない規定となる予定)。1. でいう「契約を裏付ける投資不動産」を有する契約とは、投資不動産を含んだ資産の公正価値若しくはその資産からのリターンに直接連動したリターンを支払う契約を指している。ただし、もしある投資不動産のすべてが上記のような契約に対応していない場合(すなわち、投資不動産の一部しか「契約を裏付ける投資不動産」に該当しない場合)には、当該投資不動産の一部に原価モデルを適用し、残りに公正価値モデルを適用することはできないものとする。
なお、このような選択肢を導入することに伴って、投資不動産が公正価値モデル及び原価モデルという2つのカテゴリー間で移動することが考えられるが、このような場合には、その取扱いは以下のとおりとすることも暫定的に合意された。
自社利用不動産が投資不動産と同様に公正価値で測定されるユニットリンク型契約等に含まれている場合がある。自社利用不動産に適用されるIAS第16号(有形固定資産)では、認められる代替的処理として、自社利用不動産を公正価値で評価することを選択できるが、この場合には、公正価値の変動は、損益計算書で認識するのではなく、再評価剰余金として認識しなければならない。このため、認められる代替的処理を採用した場合においても、公正価値の変動を損益計算書で認識することを求めるコメントが寄せられていた。
議論の結果、認められる代替的処理により自社利用不動産を公正価値で再測定する場合に生じる公正価値の変動を損益計算書で認識するようなIAS第16号の改訂は行わないことが暫定的に合意された。ただし、保険負債の公正価値の変動が自社利用不動産を含んだ資産に連動しているならば(特に保険契約者への支払いと自社利用不動産の帳簿価額若しくは当該不動産からのリターンとの間に契約上の連動が存在する場合には)、シャドウ・アカウンティングの考え方を適用できる可能性があることが確認された。すなわち、シャドウ・アカウンティングでは、自社利用不動産の公正価値の変動が資本の部で認識されることから、当該不動産が含まれるユニットリンク型契約等の負債の公正価値の変動を、損益計算書で認識するのではなく、資本の部で直接認識することによって両者の認識のずれ(一方は資本の部で認識され、他方は損益計算書で認識される)を解消できることになる。このように、シャドウ・アカウンティングの考え方を採用することができれば、自社利用不動産に例外を設ける必要がないことになるので、シャドウ・アカウンティングの考え方をこのような局面で採用できることを最終基準の中で示すこととされた。
ED5では、自由裁量権(discretionary participation features)を定義し、保険契約及び金融商品に含まれる自由裁量権について、それぞれ第24項及び第25項に規定を置いているが、定義のさらなる明確化や規定内容の改善を求めるコメントが寄せられたことから今回議論が行われた。自由裁量権の定義並びに第24項及び第25項の規定は次の通りである。
(a)自由裁量権の定義
投資家又は保険契約者が、最低保証支払い(guaranteed minimum payments)に対する補足として追加の支払いを受ける契約上の権利で、次の性格を持つもの。
(b)ED5第24項の規定(保険契約に含まれる自由裁量権)
保険契約の中には、支払に対する裁量権を保険会社が有する配当部分と、裁量の余地のない固定支払部分とを有するものがある。このような契約の発行者は、
(c)ED5第25項の規定(金融商品に含まれる自由裁量権)
第24項の要件は、保険契約ではなく、かつ、支払いに対する裁量権を保険会社が有する配当部分と支払いに対する裁量の余地のない固定支払部分の両方を含む金融商品の発行者に対しても適用される。さらに、発行者は、IAS第39号が固定支払部分に適用された場合に測定される金額以上の負債を認識しなければならない。発行者は、負債全体の報告金額が明らかに高いのであれば、固定支払部分についてIAS第39号に基づく測定を行う必要はない。
議論の結果、次のような点が暫定的に合意された。
受領したコメントを分析した結果、若干の修正を加えた上で、基本的にED5における提案をそのまま最終基準でも踏襲することが暫定的に合意された。
組込みデリバティブに関連して、次の2点について議論が行われた。
ED5第11項では、1. 保険契約からの現在時点での将来キャッシュ・フローの見積りを用いて各期末の負債額を算出し、2. 保険負債の簿価(関連する繰延契約獲得費用と無形資産を控除したもの)がこれを下回っている場合には、不足分を直ちに損益として認識するという会計方針を保険会社が採用していれば、当該会計方針に従った現行の会計処理を認めることとしている。もし、これに該当しない場合には、第12項が定める方法(IAS第37号を基礎とした方法)に基づいて負債妥当性テストを行わなければならないとされている。
将来キャッシュ・フローの見積りに当たってどのようなキャッシュ・フローを含めるべきかがここでの問題であるが、クレーム・ハンドリング・チャージや組込みオプション・保証等すべての契約上のキャッシュ・フローを含めるべきことが暫定的に合意された。しかし、次の点については、これを明確にすることは時期尚早であると判断された。
主契約(保険契約)と組込みデリバティブの相互依存関係について議論が行われ、両者が密接に関連しているため、組込みデリバティブを分離して測定できない場合には、組込みデリバティブは主契約と密接に関連しているとみなすべきであることが暫定的に合意された。また、これに伴って、適用ガイダンスの中の例示の表現が改訂される。
開示に関しては、2003年11月の会議で2006年からの公正価値の開示要求を削除することが決定しているが、これに加えて、次の2点について議論が行われた。
IFRSを既に適用している企業及び初度適用企業の双方に対して、最終基準は、2005年1月1日以降開始する事業年度から適用される、また、早期適用が奨励される。経過措置に関して、今回次の点が暫定的に合意された。
以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)