ASBJ 企業会計基準委員会

第5回NSS会議報告

Ⅰ. はじめに

各国会計基準設定主体(NSS)会議は、以前は国際会計基準審議会(IASB)がその運営方針等を世界の主要会計基準設定主体(いわゆるリエゾン国若しくはリエゾン・ボディ(*1)と議論する場として機能していた。しかし、2005年9月以降、その役割はIASBが主催する世界会計基準設定主体会議(WSS会議、毎年9月開催)に移ったことから、リエゾン国等の各国会計基準設定主体の主催のもと、各主体が行っている研究プロジェクト、IASBのプロジェクト・作業計画に対するインプット及びサポートなどを議論する会議として、毎年春と秋の2回開催されているものである。

今回のNSS会議は、英国ASBのMackintosh議長が議長を務め、旧リエゾン国の内、米国財務会計基準審議会(FASB)を除く7カ国、欧州財務報告アドバイザリーグループ(EFRAG)、香港、台湾、レバノン、南アフリカの会計基準設定主体及びIASBが参加し、全13の会計基準設定主体による30名ほどの会議となった。日本からは、企業会計基準委員会(ASBJ)の西川郁生委員長、豊田俊一主任研究員、石原研究員の3名が出席した。

Ⅱ. NSS会議の模様

今回の議題と担当は以下のとおりである。

議題の内容 担当
3月27日(木)
1 今後の体制と目的(NSS) 英国ASB
2 IASBの作業計画 英国ASB
3 無形資産 オーストラリアAASB
4 退職給付制度 カナダAcSB
5 概念フレームワーク ASB・カナダAcSB
ニュージーランドFRSB
3月28日(金)
6 規制産業 カナダAcSB
7 測定 英国ASB
8 企業報告の複雑性 英国ASB
9 非連結情報 カナダAcSB
10 閉会

1.今後の体制と目的(英国ASB)

前回昨年9月のNSS会議の後に結成された、EFRAG、カナダAcSB、オーストラリアAASB、フランスCNC、ニュージーランドFRSB、イギリスASBの各議長によるサブグループでの議論を受けたペーパーをもとに、議論を行った。

(1) 役割及び目的(短期)
  • 会計上の問題点に関するリサーチを推進し、そのリサーチに関する意見を交換する。トピックはIASBのアジェンダ項目である必要はない。
  • IASBのアクティブなプロジェクトに対するインプット、及びサポートを行う。
  • リソースを有効に利用できる最も良い方法を特定・決定する。
  • 各国における現状に対し相互にアップデートを行う。
  • 各国の関係者から提起された懸念に関する情報を共有する。
  • IASBのワーク・プログラムを検討しコメントを提示する。
(2) 役割及び目的(長期)

2010年の国際会計基準委員会財団(IASCF)の定款レビューに向けて、NSS会議の長期的な役割及び目的について議論を行った。参加者の意見は、IASCFの定款の下での正式な役割よりも、現在のように、どのNSSも参加可能な非公式なグループとしての性質を維持するというものであった。

(3) メンバーシップ

現在のように、どのNSSも参加可能であるよう、メンバーシップは柔軟なものとすることで合意した。

(4) 会議の実施
  • 会議は年2回の開催とし、1回は毎年9月に行われるIASBのWSS会議の近くで行う。
  • 現在は非公開であるが、今後は公開する方向である。会議資料についても公開することを検討する。
  • NSS会議の後に、IASBに報告する。
(5) 議長

英国ASBのMackintosh議長が、引き続き議長となる。

2. IASBの作業計画

英国ASBのスタッフによるペーパー及びIASBの昨年12月現在の作業計画表をもとに議論が行われ、NSS会議の議長からIASBのTweedie議長あてに、議論の結果を書簡として提出することとなった。内容は以下のとおりである。

  • IASBとFASBの覚書(MOU)について、プロジェクトの進捗、及び米国SECの外国企業に差異調整表なしでの国際財務報告基準(IFRS)準拠の財務諸表による登録を認める決定や米国企業のIFRS利用に関する概念リリースの公表といった環境変化を踏まえた、MOUのレビューの必要性を推奨する。
  • IASBとFASBが共同で行っている概念フレームワークプロジェクトの重要性を強調し、プロジェクトを加速化させることを探求する。
  • (NSSによって考える優先度は異なるが)IASBが、財務報告の利用者に対する影響がより大きい項目に焦点を当て、可能な限り議題項目に優先順位をつけることを推奨する。
  • IASBが横断的論点を取り扱う方法を合理化するような提案を支持する。

3. 無形資産

無形資産については、オーストラリアAASBが研究プロジェクトとして進めていたが、昨年の12月にIASB及びFASBは正式な議題として取り上げないことを決定した。

AASBでは、研究プロジェクトの成果として内部創設の無形資産の当初の会計処理に関するディスカッション・ペーパーをドラフトしているが、完成した際には、NSSに回覧してコメントを求めることを検討している。
今後のプロジェクトの進め方として、Tweedie IASB議長からは、Boymal AASB議長に対して、NSSにて引き続き研究プロジェクトを進めてほしいという書簡が出されている。AASBでは今後はプロジェクトに参加するものの、別のNSSにプロジェクトをリードしてもらいたいと考えている。

AASBのスタッフを著者としてディスカッション・ペーパーを公表することを視野に入れて、次回のNSS会議にAASBのペーパーを回覧することとなった。また、IFRS第3号「企業結合」の適用の経験についても次回の会議で議論されることとなった。
日本からは、ヨーロッパのIFRS採用企業での開発費の計上に関するリサーチを行っていることを紹介し、次回のNSS会議に提供することとなった。

4.年金会計 (カナダAcSB)

1987年に公表されたIAS第26号「退職給付制度の会計及び報告」は20年たっており、改善が必要であるという意見がある。また、IFRSを採用した地域でも、IAS第26号は採用していない場合がある。
議論の内容は以下のとおりである。

  • 公表からの20年間の年金制度や他の会計基準の進展の結果、IAS第26号はもはや適切な報告指針ではない。IAS第26号には選択肢が多く、代替的な会計処理をできるだけなくそうとするIASBの努力と整合しない。
  • NSSでは、IASBに正式なコミュニケーションをする前に、IAS第26号を廃止した場合の影響について検討する。なお、退職給付制度に影響する各地域特有の規制の下で、地域によって廃止の影響は異なるかもしれない。

IAS第26号を採用しているニュージーランドFRSBが、次回のNSS会議に自国及びIAS第26号を採用しているその他の国の経験、及びIAS第26号の廃止の影響に関するリサーチを提供することとなった。

5. 概念フレームワーク (カナダAcSB、ニュージーランド)

概念フレームワークの8つのフェーズ(*2)のうち、現在活動中である4つのフェーズ(*3)についてカナダAcSB及びニュージーランドFRSBからIASBのプロジェクトに参加しているスタッフによる説明及び会議参加者によるディスカッションが行われた。

(1) プロジェクトの全体

参加者から、以下のような意見が述べられた。

  • プロジェクトが長期にわたっていることに対する懸念。
  • 全体の完成を待たずに、完成したフェーズごとに、現行の概念フレームワークを改訂していくという暫定合意に対して、概念フレームワーク全体として整合性を検討することが必要であるという意見。逆に改善されたものはただちに反映させるべきであるという意見。
(2) フェーズA(目的及び質的特性)

2006年7月のディスカッション・ペーパー公表後、本年半ばの公開草案の公表予定に向けて現在再審議中である。
財務報告の目的については、財務報告の目的にStewardship/Accountability及び意思決定有用性の両方を含めるべきであるという強い要望があったことを受けて、再審議の結果以下のように暫定合意した。

「一般利用目的に資する外部財務報告の目的は、現在及び潜在的な投資家及び債権者が、資本提供者としての立場で行う意思決定に有用な報告企業に関する財務情報を提供することにある。」
質的特性については、以下のような位置づけが暫定合意されている。

質的特性の分類 含まれる特性・構成要素
必須な質的特性 目的適合性(relevance)(予測価値(predictive value)及び確認価値(confirmatory value)を含む)
表現の忠実性(faithful presentation)(中立性(neutrality)及び完全性(completeness)を含む。これに正確性又は無誤謬を加えるかどうかを検討中)
補強的質的特性 比較可能性(comparability)(整合性(consistency)を含む)
理解可能性(understandability)
検証可能性(verifiability)
適時性(timeliness)
質的特性に対する制約条件 重要性(materiality)
費用対効果(benefits and costs)

ASBJからの、従来のフレームワークでは目的適合性と信頼性の間でチェック・アンド・バランスの機能を担っていたが、信頼性を表現の忠実性に置き換えた後も当該機能が維持されているのかという質問に対して、スタッフから、目的適合性と表現の忠実性でチェック・アンド・バランスの機能を担っているのではなく、情報に質的特性を適用し、目的適合性があり表現の忠実性のある情報が、有用な情報であるという回答があった。

(3) フェーズB(構成要素及び認識)

2007年10月に、IASB及びFASBは、以下の資産の作業中の定義について暫定合意に達した。
「企業の「資産」は、強制力のある権利又はその他の手段を通して、企業がアクセスを持ち、又は他者のアクセスを制限できる現在の経済的資源である。」

2007年に到達した暫定的決定を反映して修正された、現在の作業中の負債の定義は、以下のとおりである。
「企業の「負債」とは、当該企業にとって強制力のある現在の経済的義務である。」

(4) フェーズC(測定)

過去の入口価格、修正過去金額、過去の出口価格、現在入口価格、現在出口価格、現在の均衡価格、使用価値、将来入口価格、将来出口価格といった測定基礎の候補を、質的特性によるテストを含め、どのように評価するかを現在検討している。

なお、参加者から、単一の測定属性のみを適用する可能性について懸念する意見が述べられたが、スタッフからは、状況により異なる測定属性を利用し得るという回答があった。

(5) フェーズD(報告企業)

フェーズDには、以下の議論が含まれている。

  • 報告企業の定義
  • 一般目的の財務報告に、連結財務諸表と親会社単体財務諸表が含まれるか
  • グループ企業の構成と支配概念
  • 支配概念の定義

これに関連して、連結財務諸表での企業主体アプローチ及び親会社アプローチについても議論されており、本年半ばのフェーズAの公開草案、フェーズDのディスカッション・ペーパーの公表と合わせて、別個の文書として公表される予定である。

なおASBJからは、親会社株主はグループ全体に対する持分を持つが、少数株主は特定の子会社に対する持分を持つだけと性質が異なっており、投資家等による企業価値の評価に役立つような、企業の財務状況の開示という財務報告の目的に照らして、親会社説を財務報告の基本的な考えとするべきであるという意見を述べた。

6.規制産業(カナダAcSB)

規制産業に関しては、各国の会計基準により(例:米国SFAS第71号)、将来において規制当局が承認する料金の値上げ(値下げ)を反映する規制資産(規制負債)を認識することで、規制の影響について会計処理が可能な規定が定められているが、これがIFRSにおいても認められるかどうかが論点となっている。

今回の会議では昨年3月、9月のNSS会議に引き続き、カナダAcSBによって規制産業に関わる論点が紹介されたが、合わせて昨年9月以降のアップデートが行われた。

(1) アップデートの概要
  • 昨年7月、カナダAcSBはIASBに対し、規制産業の議論に対しIASB/IFRICのサポートを求めた。これに対し10月にO’Malley IFRICコーディネーターから、Cherry AcSB議長に以下の旨の書簡が送付されている(*4)。
    • 2005年のIFRICでのアジェンダに取り上げないという決定は、規制資産及び負債の認識を妨げるものではない。それは、認識を検討する際にフレームワークを含む現行基準を適用することを要求しており、SFAS第71号の規定を自動的に適用することを認めていない。
  • 昨年の10月の欧州委員会でのラウンドテーブルにおいて、規制産業の負債について議論が行われ、Garnett IFRIC議長宛に、書簡が送付されている。
(2) 規制産業に関する論点

規制産業に関する論点として、以下の3点が議論された。

  • 論点1:財務報告目的のために当局の料金設定行動を認識することは、1つの事象の会計処理か、又は2つか。2つであるならば、2番目の事象から生じる資産をどのように測定するべきか。
  • 論点2:料金規制がフレームワークの定義及び認識規準を満たす資産をときには生み出すことが可能であることを前提に、当該資産の性質は何か、どのIFRSが適用されるか。
  • 論点3:料金規制がフレームワークの定義及び認識規準を満たす負債をときには生み出すことが可能であることを前提に、当該資産の性質は何か、どのIFRSが適用されるか。

7. 測定

英国ASBのスタッフから、以下の内容を含む資産の測定に対する概念フレームワークに対する論点をまとめたペーパーが提示された。

  • 基本的前提-企業にとっての資産の最も目的適合的な測定は、企業にとって実行可能な機会から選択された、資産の最も有利な利用(most profitable use)を反映するものである。
  • 資産がほとんど完全な市場で取引されている場合-市場価値は企業が実行可能な最も有利な利用を反映し、財務報告の基礎として提供するべきである。
  • 市場がない場合
    • 企業の事業に使用するために資産が保有されている場合には、最も有利な利用は一般的資産を保有し、サービス・ポテンシャルとして利用することである。その場合、企業にとっての資産の価値は、現在再調達原価(current replacement cost)に等しくなる。しかしながら、再調達原価が使用されている場合、より低い価値の利用を要求するものである減損の検討が条件となる。
    • 資産が、企業の事業上のニーズにより余剰となる場合、出口価値(売却価格)が評価の基礎として用いられるべきである。
    • 出口価格は、代替的な利用として最も有利な機会が資産の売却である場合に用いられるべきである。
  • 剥奪価値(deprival value)(所有者にとっての価値)
    • 剥奪価値の考えは、所有者が実行可能なもっとも有利な機会という単一の原則に基づいている。
    • 財務諸表のセットの中での入口及び出口価値の選択的使用は、最も目的適合的な測定基礎の使用を認め、単一測定基礎によって毀損した目的適合性に優先されることとなる。
  • 米国SFAS第157号との比較
    • SFAS第157号の「報告企業がアクセスする最も有利な市場」は、本ペーパーの「企業にとって実行可能な機会から選択された、資産の最も有利な利用」と整合的である。
    • 一般的な財務報告に、経済的機会が劣る参加者により支払われることとなる価格を参照することにより資産の測定を行うことを要求することは、適切ではないこととなる。
    • 仮想的な市場参加者の概念よりも、報告企業の経済的機会を参照した概念のほうが望ましいこととなる。

このペーパーをもとに以下のような議論が行われた。

  • 資産の測定属性は、資産を使用又は処分することに関する経営者の意図にしたがって選択すべきという意見と、それに反対し、市場価格が最も有利な使用を反映するのでそれを用いるべきという意見があった。
  • 市場がオーバーシュートしているときは、市場価格の使用は目的適合性及び信頼性が毀損した情報を提供するという意見と、将来のキャッシュ・フローの価値に関する市場参加者のコンセンサスを反映するので、市場価格は常にもっともよい尺度であるという意見があった。
  • 資産の測定にこれまで取得原価が使われてきたのは、利用者が企業価値を評価するに際して、過去に行われた投資のリターンを用いるからであるという意見と、利用者は資産の現在価値(current value)のリターンに関心がある可能性がより高いという意見があった。

このような議論は、IASBの概念フレームワークプロジェクトの測定フェーズでの、今後のディスカッション・ペーパー公表に向けた審議に対して、有用なものと考えられる。

8. 企業報告の複雑性

本プロジェクトは、英国ASBの上部団体であるFRCが行っているものであり、米国SECのPozen委員会でも同様の議論が行われている。

今回の会議では、以下の点が議論された。

  • 情報の量と複雑性を分けるべきかどうか。
  • 情報の量と報告の形式の関係。(電子的な報告に切り替えた際に量が増加した事例)
  • 情報の量と複雑性の源泉の分析の必要性。実際には、会計基準のみならず、上場規則、金融機関等の健全性規制、市場の規律や実務といった要因がある。
  • 原則主義の基準が、量は増えるが情報価値がほとんどない定型的な開示を増やすという懸念がある。

9. 非連結情報

カナダAcSBのUser Advisory Councilの、一般目的の財務諸表から連結グループの企業に関する非連結財務情報が入手できないことに対する重大な懸念を受けて提起された問題である。現行のIFRSでは、子会社の資金に対するグループのアクセス制限といった親子関係を利用者が理解するのに必ずしも十分な情報を提供していないのではないかというのが、論点である。AcSBのスタッフからは、IASBの連結プロジェクトに、Condensed Consolidating Financial Statements、親会社と子会社の資金調達の区分、ヒエラルキーを含む重要な子会社一覧といった内容の開示を追加する提案を含む書簡を送付している。

非連結情報に関しては、法律で親会社単体財務諸表が求められる等、地域によって状況が異なるため、参加者の経験に基づく非連結情報の必要性に対する見識が求められた。議論の結果、本プロジェクトを進めることには価値があり、IASBの連結及び概念フレームワーク(報告企業)のプロジェクト・チームと連携して、AcSBがさらなるリサーチを進め、次回のNSS会議でリサーチを提供することが合意された。

10.閉会

次回の会議は本年9月にパリで、次々回の会議は来年春に南アフリカでの開催が予定されている。

次回の会議での議題の候補は以下のとおりである。

議題の内容 担当
IASBの作業計画(毎回議論する項目) 英国ASB
無形資産 オーストラリアAASB・ASBJ
退職給付制度 ニュージーランドFRSB
概念フレームワーク(毎回議論する項目) IASB-FASBプロジェクト・チーム
非連結情報 カナダAcSB
法人所得税 英国ASB

また、IFRS第2号「株式報酬」についても、次々回以降の会議の議題候補とすることとされた。

以上


  1. 日本、米国、英国、カナダ、ドイツ、フランス、オーストラリア及びニュージーランドの8か国を指す。2004年からは、これにEFRAGが加わっている。
  2. フェーズA(目的及び質的特性)、フェーズB(構成要素及び認識)、フェーズC(測定)、フェーズD(報告企業)、フェーズE(表示及び開示)、フェーズF(GAAPヒエラルキーにおけるフレームワークの目的と地位)、フェーズG(非営利セクターへの適用可能性)、フェーズH(その他の論点)
  3. フェーズA(目的及び質的特性)、フェーズB(構成要素及び認識)、フェーズC(測定)、フェーズD(報告企業)
  4. 本年5月IFRIC会議において、規制負債に対するアジェンダ要請に対するプロジェクト計画が議題となっている。