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実務対応報告第22号厚生年金基金に係る交付金の会計処理に関する当面の取扱い
目 的
- 平成10年6月16日に企業会計審議会から公表された「退職給付に係る会計基準」(以下「退職給付会計基準」という。)は、確定給付型の企業年金制度を前提とした会計処理を示しており、厚生年金基金制度についても、1つの退職給付制度とみなして、財政計算上の計算方法にかかわらず同一の会計処理が適用されている(「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「退職給付会計基準意見書」という。)三 3(1))。
- こうした中、「国民年金法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第104号)により、一定の場合に政府が厚生年金基金に対して交付金を支払うこととされた(Q1参照)ため、実務上の要請から、当該交付金に関する母体企業(事業主)の会計処理を早期に明らかにする必要が生じている。
- 当委員会における審議の中では、当該交付金に関する会計処理の検討にあたり、まず、厚生年金基金制度に対する退職給付会計基準の適用を見直すべきではないかという意見もあった(「(参考)検討にあたって」参照)。しかしながら、このような意見については、なお検討を要すると考えられることから、本実務対応報告では、議論の要点を示すに止め、現行の退職給付会計基準に則して当面必要と考えられる実務上の取扱いを示すこととした(Q2及びQ3参照)。
会計処理等
法改正と交付金の受取り
- Q1.

- A 「国民年金法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第104号)により、以下のような厚生年金基金関係の法改正がなされており、(2)については平成16年10月1日から、(1)及び(3)については平成17年4月1日から施行されている。
- (1) 免除保険料率の凍結解除(母体企業(事業主)から厚生年金基金への拠出金である免除保険料の料率につき、平成11年9月末以降、見直されていなかったが、直近の厚生年金本体の予定利率及び死亡率により見直す。)
- (2) 最低責任準備金の算定方法の変更(免除保険料率の凍結解除によっても、最低責任準備金の算定は過去法(いわゆるコロガシ計算)による。具体的には、免除保険料率の凍結開始時(平成11年9月末)の最低責任準備金に、その後の免除保険料、厚生年金本体の実績利回りによる運用収益及び政府(厚生年金本体)からの交付金等を加算し、代行給付等を減算する。)
- (3) 交付金の支払(一定の場合に厚生年金基金は、政府(厚生年金本体)から交付金を受け取る。)
- これらは、厚生年金基金の安定化や政府(厚生年金本体)との財政中立化、現行の取扱いとの連続性などの観点によるものとされている。
- 特に、(3)で示したように、今回の法改正によって厚生年金保険法附則第30条及び厚生年金基金令第60条の2が新たに設けられ、厚生年金基金は、一定の場合には、所定の申請を行うことにより、翌事業年度に政府(厚生年金本体)から以下の金額の交付金を受けることとなった。
- ① 厚生年金基金の事業年度の末日における最低責任準備金の額が過去期間代行給付現価(注1)の額の1/4以上1/2未満の場合、1/2を下回る差額の1/5
- ② 厚生年金基金の事業年度の末日における最低責任準備金の額が過去期間代行給付現価の額の1/4未満の場合、1/2を下回る差額
- (注1)「過去期間代行給付現価」とは、当該基金の加入員及び加入員であった者について、加入員であった期間に係る代行給付の予想額を、凍結解除後の代行保険料率の算定基礎と同じ死亡率及び予定利率によって算定した現価であり(厚生年金保険法第132条第2項及び附則第30条第2項)、その計算の基礎となる予定利率は、本実務対応報告の公表日現在、年3.2%とされている(厚生年金基金令第60条の2第4項)。
- なお、当該改正に伴い、厚生年金基金の財政計算上、厚生年金基金が負う債務は、上乗せ部分については数理債務(将来の給付現価から将来の標準掛金による収入現価を控除して算定される。)、代行部分については最低責任準備金となることが明らかになった。また、厚生年金基金の財政計算上、政府(厚生年金本体)からの交付金は、最低責任準備金を増加させることとなる。
交付金の会計処理
- Q2.

- A 退職給付会計基準意見書 三 3(1)なお書きの①では、厚生年金基金制度についても、1つの退職給付制度とみなして、財政計算上の計算方法にかかわらず同一の会計処理を適用するものとされている。したがって、母体企業(事業主)は、代行部分も含め全体として退職給付債務及び退職給付費用の計算を行うこととなる。
- この際、Q1で示したような法改正によって、厚生年金基金が政府(厚生年金本体)から受け取ることとなった交付金は、交付される都度、退職給付費用から控除することになる。これは、母体企業(事業主)以外からの拠出がある場合の処理として、従業員からの拠出部分と同様に考えられること、当該交付により年金資産を増加させることとなるが、年金資産の運用により生じる収益ではないため、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異である数理計算上の差異には該当しないと考えられることなどによる(注2)。
- (注2)交付金を受け取る手続としては、当該基金の3月期決算に係る財務状況をその翌事業年度の9月頃までに行われる代議員会で承認し、2月までに当該基金が交付申請を行い、3月末までには交付されることとなると見込まれている。ここで、年金資産として適格な資産とは、退職給付の支払に充当できる資産である(企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」第17項)ため、厚生年金基金が政府(厚生年金本体)から受け取ることとなった交付金は、交付申請を行い政府から承認の通知を受けた段階で処理することとなる。
交付金の開示
- Q3.

- A 企業の採用する退職給付制度及び退職給付債務等の内容については、注記することとされており、これには退職給付費用の内訳も含まれている(退職給付会計基準 六)。Q2で示したように、厚生年金基金が政府(厚生年金本体)から受け取ることとなった交付金は、交付される都度、退職給付費用から控除することになるため、退職給付費用の内訳のその他(退職給付会計基準 六 2(2)⑥。この点については、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第8条の13第1項第3号も参照のこと。)として、当該交付金の額を記載することとなる。
適用時期
- 本実務対応報告は、現行の退職給付会計基準に則して、当面必要と考えられる実務上の取扱いを示すものであり、公表日以後適用する。
議 決
- 本実務対応報告は、第115回企業会計基準委員会に出席した委員12名のうち11名の賛成により承認された。
- なお、本実務対応報告の公表に反対する委員1名から、次の意見が出されている。
- 「平成16年法改正の趣旨及び経済的実態からすれば、会計上も、厚生年金基金制度における代行部分の債務を最低責任準備金とする取扱いに変更するべきであり、本実務対応報告のように、従前同様、当該代行部分についても発生給付評価方式による退職給付債務(PBO)とすることは、母体企業(事業主)の財政状態を適正に示していないと考える。
- また、代行部分の債務を最低責任準備金とすることに反対する意見の中には、将来受け取る交付金は年金資産の会計問題(したがって、受け取る時期と金額が明確ではない交付金は、交付の都度、処理される。)であり、交付金現価を資産計上できないと考えているものがあるが、これだけでも限定的に資産計上する方が結果的に適切である。
- さらに、本実務対応報告では、追加論点もあることから議論の要点を示すに止め、今後検討するものとしているが、時期が明示されず、適当ではないと考える。」
(参考)検討にあたって
- 本実務対応報告の審議の中では、厚生年金基金に関する交付金の会計処理を検討するにあたり、次のように、厚生年金基金制度に対する退職給付会計基準の適用を見直すべきではないかという意見があった(なお、平成24年5月に企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」が公表され、以下に示された意見中の内容及び用語の一部が変更されている。)。
- (1) 退職給付会計基準の対象外とすべきであるという意見
これらの意見の中には、厚生年金基金制度における代行部分を退職給付会計基準の対象外とすべきであるという意見があった。これは、今回の法改正により、もはや代行部分に係る数理上のリスク(死亡率等の変化による負担の不確実性)はなく、したがって、実質的に母体企業(事業主)の代行部分に係る退職給付債務は存在しなくなったと考えられることによる。すなわち、厚生年金基金の代行部分の給付責任(支給責任)は引き続き当該基金にあるものの、一定の場合に政府(厚生年金本体)から交付金を受け取ることが示され、また、最低責任準備金の算定方法が過去法(いわゆるコロガシ計算)によることが恒久化されたため、当該基金にはその財源を調達する責任はなく、代行部分の給付については免除保険料(及びその運用収益)と政府(厚生年金本体)からの交付金によって行われることによる。この意見は、厚生年金基金制度を、1つの私的な年金制度ではなく、私的な年金制度と実質的な公的年金制度の2つの年金制度から構成されるとみる見方と考えられる。この意見の場合には、代行部分に係る債務を、もはや厚生年金基金やその母体企業(事業主)の退職給付債務とは異なる債務とみるため、退職給付会計基準の対象外として、代行部分に係る債務とこれに対応する年金資産をそれぞれ母体企業(事業主)の負債及び資産として計上することや、あるいは、代行部分に係る債務の額を年金資産と退職給付債務のいずれからも控除して取り扱うことが考えられる。
しかしながら、今回の法改正によっても、厚生年金基金の代行部分の給付を政府(厚生年金本体)が行うわけではなく、給付責任は従来どおり当該基金にある。また、厚生年金基金の実績運用利回りが厚生年金本体の実績運用利回りを下回った場合には当該基金がその負担を負う(上回った場合には当該基金がその利益を享受する。)という代行部分に係る運用リスク(資産運用収益の変化による負担の不確実性)を有している。すなわち、退職給付会計基準意見書 三 3(1)なお書きの①で示されたような実態の一部(1つの運営主体によって、資産が一体として運用され一括して給付が行われており、区分計算することが難しいこと)は、これまでと同様であり、この点を重視した意見によった場合には、厚生年金基金制度を、会計上、1つの年金制度ではなく、2つの年金制度から構成されるとみる見方に変えるような再検討には至らない。
また、厚生年金基金制度における代行部分を退職給付会計基準の対象外とすべきであるという意見に関連する見方として、厚生年金基金制度は1つの私的な年金制度であるものの、代行部分に係る債務は、今回の法改正により、もはや退職給付債務とはいえず、むしろ政府(厚生年金本体)からの借入金(最低責任準備金で評価)と考え、会計上、同額を年金資産から控除すべきとする見方がある。このような見方は、最低責任準備金の算定方法が過去法(いわゆるコロガシ計算)によることが恒久化されたことから、代行部分に関する債務は、国から資金を預かり、返還する義務を負うという性格を有することとなったと考えられることによる。
このような見方に対しては、前述したように、今回の法改正でも厚生年金基金の代行部分の給付は従来どおり当該基金が行い、法改正によって代行給付を確実に行えるように厚生年金基金が政府(厚生年金本体)から一定の交付金を受け取ることとされたものであり、代行部分に係る債務を政府(厚生年金本体)からの借入金と考えるほどの大きな変化があったとはいえないのではないかという意見がある。この意見の中には、特に、法令によって借入金が認められていない厚生年金基金において、代行部分に係る債務を借入金と考え、資産運用規模の拡大を図る目的の負債とみることは、取引を擬制しすぎる見方となるのではないかという指摘もある。 - (2) 代行部分の債務は最低責任準備金とすべきであるという意見
厚生年金基金の代行部分を退職給付会計基準の対象と考える場合であっても、今回の法改正によって、代行部分について母体企業(事業主)が最低責任準備金を超えて負担することは実質的になくなったため、これまでの考え方を見直し、代行部分の債務は最低責任準備金とすべきであるという意見があった。これは、今回の法改正が、免除保険料率の凍結解除に際し、最低責任準備金の算定方法を今後も過去法(いわゆるコロガシ計算)とするとともに、給付現価の増大に伴う不足額(過去期間代行給付現価と最低責任準備金との差額)について財源手当しようとするものであり、代行部分に係る運用リスクはあるものの数理上のリスクはなくなったため、企業が将来に資金負担する可能性のある金額を基礎として負債を算定することが適切であると考えられることによる。この意見は、常に当該不足額について財源手当を行うこととすると巨額の資金が政府(厚生年金本体)から厚生年金基金に動き双方の資産運用に影響を与えるため、法令上は法改正時点ですべての不足額を交付金として受け取ることとはされなかったに過ぎないと考えるものである。この意見には、当該交付金について、交付される都度、退職給付費用から控除することは、適正な期間損益計算を妨げることになるというものも含まれる。
他方、当該意見に対しては、少なくとも退職給付会計基準意見書で示されたような代行部分に係る運用リスクはこれまでと同様であり、今回の法改正によっても会計上は、一定の場合に厚生年金基金が政府(厚生年金本体)から一定の交付金を受け取ることとされたものとみて、退職給付会計基準の設定時から基本的な前提を変える制度改革があったものとまではいえないのではないかという意見がある。この意見は、母体企業(事業主)にとって基金が受け取る交付金は年金資産の会計問題であり(したがって、受け取る時期と金額が明確ではない交付金は、交付の都度、処理される。)、一方、代行部分を含む給付については退職給付債務の会計問題であるため、それぞれ別々に会計処理し、年金資産と退職給付債務は退職給付引当金として表示上のみ純額とされているとみる見方を踏まえたものと考えられる。
代行部分の債務は最低責任準備金とすべきであるという意見に関連しては、今回の法改正に伴い、厚生年金基金の財政計算上、厚生年金基金が負う代行部分の債務については最低責任準備金となることが明らかになったことを受けて、これまでの考え方を見直さない場合には、最低責任準備金を上回る金額だけ退職給付債務が過大になるのではないかという指摘がある。このような意見には、厚生年金基金という独特の制度においては、他の会計処理との関連よりも、今回の法改正の趣旨を反映させることを優先すべきではないかというものもある。さらに、今後、金利や資産運用環境の変化などによっては、発生給付評価方式に基づく退職給付債務が最低責任準備金を下回ることもあり得るという指摘もある。
しかしながら、これらの点に関しては、もともと退職給付会計基準では、例えば、退職一時金制度における要支給額など、退職給付に係る債務を支払予定額や決済価額(又はその現在価値)とするものではなく、退職給付のうち発生基準に基づき当期までに費用として計上された結果の残高を退職給付債務としているため、会計上、過大計上や過小計上となるとはいえないという意見もある。この意見は、退職給付会計基準では、未認識の過去勤務債務及び数理計算上の差異等は貸借対照表に計上しないこととしており、企業が負担することとなる金額を直接的に負債計上するわけではないという考え方に基づくものと思われる。
さらに、負債が過大に計上されているのではないかという指摘に対しては、今回の法改正による母体企業(事業主)の負担の変化によっても、法的な退職給付に係る債務は引き続き厚生年金基金にあり、代行返上のように債務が消滅した場合と同じ処理は適用できず、また、これは、①契約上の義務を履行したとき、②契約上の義務が消滅したとき、又は③契約上の第一次債務者の地位から免責されたときを除き、金融負債の消滅を認識していないことと同様であるという意見もある。
仮に貸借対照表上、支払予定額や決済価額を反映させるように代行部分の債務を最低責任準備金とした場合には、これまでの退職給付債務からの変更をどのように処理するか(例えば、残高の差額は一時的な損益となるかどうか、一時的な損益となるとしても関連して損益計上する未認識項目をどのように把握するかなど)について、前述したような貸借対照表に計上しないこととしている未認識の過去勤務債務及び数理計算上の差異等の取扱い(例えば、貸借対照表に計上することとするか、その場合における相手項目の処理はどうするかなど)とも併せ、検討すべき論点は少なくないという意見もある。 - これらの意見については、確定給付型の企業年金制度を前提とした会計処理を示している退職給付会計基準において、何をもって確定給付型と捉えるかなど国際的にも議論されつつある事項も含まれており、また、厚生年金基金制度が通常の確定給付型の企業年金制度と異なる特殊な制度といっても、退職給付会計基準の中で例外的に対応することの便益と他の会計処理への影響との比較衡量など、なお検討を要すると考えられることから、本実務対応報告では、議論の要点を示すに止め、現行の退職給付会計基準に則して当面必要と考えられる実務上の取扱いを示すこととした。
- なお、上述した議論については、将来の退職給付制度の見直しや退職給付会計に関する国際的な議論の進展を踏まえ、今後、検討するものとする。
- 以 上
