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実務対応報告第40号LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
目 的
- 1. 現在、2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革(以下「金利指標改革」という。)が進められている。そうした中、ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate。以下「LIBOR」という。)の公表が2021年12月末をもって恒久的に停止され、LIBORを参照している契約においては参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっている。LIBORは5つの主要な通貨について公表されており、LIBORを参照する取引は広範に行われているため、金利指標改革により多くの取引に影響が生じる可能性がある。
- 2. 当委員会は、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明らかにするために、本実務対応報告を公表する。
範 囲
- 3. 本実務対応報告は、金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品を適用範囲とする。また、こうした契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替に関する金融商品も適用範囲とする。
- なお、本実務対応報告公表後に、新たにLIBORを参照する契約を締結する場合、その金融商品も適用範囲に含まれる。
用語の定義
- 4. 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)における用語の定義を、本実務対応報告においても用いる。また、本実務対応報告において、次の用語を定義する。
- (1) 「契約条件の変更」とは、既存の契約の契約条件の内容を変更することをいう。
- (2) 「契約の切替」とは、既存の契約をその満了前に中途解約し、直ちに新たな契約を締結することをいう。
- (3) 「金利指標置換前」とは、(4)に定める金利指標置換時よりも前の期間をいう。
- (4) 「金利指標置換時」とは、金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORに関して、ヘッジ対象の金融商品及びヘッジ手段の金融商品の双方の契約において後継の金利指標を基礎とした計算が開始される時点(双方の契約において時点が異なる場合はいずれか遅い時点)をいう。ヘッジ対象又はヘッジ手段の金融商品のうちいずれかのみがLIBORを参照している場合は、そのいずれかにおいて後継の金利指標を基礎とした計算が開始される時点をいう。
- (5) 「金利指標置換後」とは、金利指標置換時よりも後の期間をいう。
会計処理
金利指標置換前の会計処理
ヘッジ対象又はヘッジ手段の契約の切替
- 5. 金融商品会計基準及び移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。また、金融商品会計基準及び金融商品実務指針を合わせて、以下「金融商品会計基準等」という。)では、ヘッジ手段が消滅したときには、ヘッジ会計の適用を中止し、その時点までの当該ヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べるとされている(金融商品会計基準第33項及び金融商品実務指針第180項)。
- また、ヘッジ対象が消滅したときには、ヘッジ会計の適用を終了し、繰り延べられているヘッジ手段に係る損益又は評価差額は当期の損益として処理しなければならないとされている(金融商品会計基準第34項及び金融商品実務指針第181項)。
- 第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用している場合、金利指標置換前においては、金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計の適用を継続することができる。
- なお、上述の取扱いは金利指標置換時及び金利指標置換後においても同様である。
ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)
(ヘッジ対象となり得る予定取引の判断基準)
- 6. 金融商品会計基準等では、ヘッジ会計において、ヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときは、ヘッジ会計を終了しなければならないとされている(金融商品会計基準第34項及び金融商品実務指針第181項)。
- 第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品がヘッジ対象である予定取引が実行されるかどうかを判断するにあたって、金利指標置換前においては、ヘッジ対象の金利指標が、金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる。
(ヘッジ有効性の評価)
- 7. 金融商品会計基準等では、ヘッジ開始時点で、ヘッジ対象のリスク及びこれらのリスクに対していかなるヘッジ手段を用いるかを明確化し、ヘッジ手段に関してその有効性を事前に予測しておくこと、及び相場変動又はキャッシュ・フロー変動の相殺の有効性を評価する方法等を正式な文書(以下「ヘッジ文書」という。)によって明確化することが要求されている(以下合わせて「事前テスト」という。金融商品会計基準第31項(1)及び金融商品実務指針第143項から第145項)。
- 事前テストに関して、第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとの仮定を置いて実施することができる。
- 8. 金融商品会計基準等では、ヘッジ取引時以降において、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される状態又はヘッジ対象のキャッシュ・フローが固定されその変動が回避される状態が引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効果を定期的に確認することにより、ヘッジ有効性の評価を行うことが要求されている(以下「事後テスト」という。金融商品会計基準第31項(2)及び金融商品実務指針第146項)。
- 事後テストに関して、第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、事後テストにおける有効性評価の結果、ヘッジ有効性が認められなかった場合であってもヘッジ会計の適用を継続することができる。
(包括ヘッジ)
- 9. 金融商品会計基準等では、リスク要因(金利リスク、為替リスク等)が共通しており、かつ、リスクに対する反応が同一グループ内の個々の資産又は負債との間でほぼ一様である場合には、企業内部の部門ごと又はその企業において、リスク(例えば、金利変動リスク)の共通する資産又は負債等をグルーピングしたうえで、ヘッジ対象を識別する方法(以下「包括ヘッジ」という。)が認められている(金融商品会計基準(注11)並びに金融商品実務指針第151項及び第152項)。
- 第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用する場合、金利指標置換前においては、個々の資産又は負債のリスクに対する反応とグループ全体のリスクに対する反応が、ほぼ一様であると認められなかった場合であっても、包括ヘッジを適用することができる。
時価ヘッジ
- 10. 第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として時価ヘッジを適用する場合、金利指標置換前においては、繰延ヘッジを適用する場合について定めた第7項から第9項の取扱いと同様の取扱いとすることができる。
- なお、金利指標置換時においては第13項、金利指標置換後においては第14項、第15項、第16項及び第18項の取扱いと同様の取扱いとすることができる。
金利スワップの特例処理等
(金利スワップの特例処理)
- 11. 金融商品会計基準等では、資産又は負債に係る金利の受払条件を変換することを目的として利用されている金利スワップが金利変換の対象となる資産又は負債とヘッジ会計の要件を充たしており、かつ、その想定元本、利息の受払条件及び契約期間が当該資産又は負債とほぼ同一である場合には、当該金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産又は負債に係る利息に加減して処理する特例処理(以下「金利スワップの特例処理」という。)が認められている(金融商品会計基準(注14))。
- また、金利スワップの特例処理が認められるためには、次の条件をすべて満たす必要があるとされている(金融商品実務指針第178項)。
- (1) 金利スワップの想定元本と貸借対照表上の対象資産又は負債の元本金額がほぼ一致していること
- (2) 金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致していること
- (3) 対象となる資産又は負債の金利が変動金利である場合には、その基礎となっている金利指標が金利スワップで受払される変動金利の基礎となっている金利指標とほぼ一致していること
- (4) 金利スワップの金利改定のインターバル及び金利改定日がヘッジ対象の資産又は負債とほぼ一致していること
- (5) 金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であること(同一の固定金利及び変動金利の金利指標がスワップ期間を通して使用されていること)
- (6) 金利スワップに期限前解約オプション、支払金利のフロアー又は受取金利のキャップが存在する場合には、ヘッジ対象の資産又は負債に含まれた同等の条件を相殺するためのものであること
- 第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として金利スワップの特例処理を適用する場合、(3)から(5)で示した条件を満たしているかどうかの判断にあたって、金利指標置換前においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる。
(外貨建会計処理基準等における振当処理)
- 12. 企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」(以下「外貨建会計処理基準」という。)及び移管指針第2号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(以下「外貨建実務指針」という。また、外貨建会計処理基準及び外貨建実務指針を合わせて、以下「外貨建会計処理基準等」という。)では、外貨建金銭債権債務等と為替予約等(為替予約、通貨先物、通貨スワップ及び通貨オプション)との関係が、金融商品会計基準におけるヘッジ会計の要件を満たしている場合には、当該外貨建取引及び外貨建金銭債権債務等について、ヘッジ会計を適用することができるほか、当分の間、為替予約等により確定する決済時における円貨額により外貨建取引及び外貨建金銭債権債務等を換算し直物為替相場との差額を期間配分する方法(以下「振当処理」という。)によることができるとされている。ただし、振当処理が認められるのは、為替予約等によって円貨でのキャッシュ・フローが固定されているときに限られるとされている(外貨建会計処理基準一1、2(1)及び注解(注6)並びに外貨建実務指針第3項及び第5項)。
- 第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として振当処理を適用するに際し、金利指標置換前においては、円貨でのキャッシュ・フローが固定されているかどうかの判断にあたって、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる。
金利指標置換時の会計処理
ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)
- 13. 金利指標置換前において第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利指標置換時において、金融商品会計基準第31項(1)並びに金融商品実務指針第143項から第145項及び第150項に基づいて当初のヘッジ会計開始時にヘッジ文書で記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる。
金利指標置換後の会計処理
ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)
- 14. 金利指標置換前において第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、事後テストに関する第8項の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2024年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続することができる。また、同項の取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる。
- 15. 前項に従い2024年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続した場合、2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降に事後テストを実施するときは、金融商品実務指針第156項の定めに従い、原則としてヘッジ開始時を起点としてヘッジ対象及びヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計を比較する。ただし、継続適用を条件に、金利指標置換時(前項に従い再度金利指標を置き換えた場合は当該再置換時を含む。)を起点とすることを選択することができる。
- 16. 金利指標置換時以後において第14項の取扱いを適用せず、その結果、第8項の取扱いを適用せずに事後テストを実施する場合には、ヘッジ対象及びヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計について、継続適用を条件に、金利指標置換時を起点として比較することができる。
- 17. 金融商品会計基準等では、繰延ヘッジにおいてヘッジ会計を中止した場合は、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べるとされている(金融商品会計基準第33項及び金融商品実務指針第180項)。
- 金利指標改革とは関係なくヘッジ会計が中止となった場合で、第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象としている場合、当該ヘッジ対象の契約の切替が行われたときであっても、契約の切替後のヘッジ対象に係る損益が認識されるまで、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額を繰り延べる。
包括ヘッジ
- 18. 金利指標置換前において第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用していた場合、包括ヘッジに関する第9項の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで包括ヘッジの適用を継続することができる。また、同項の取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、包括ヘッジの適用を継続することができる。
金利スワップの特例処理等
- 19. 金利指標置換前において第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として金利スワップの特例処理を適用していた場合、金利スワップの特例処理に関する第11項の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで金利スワップの特例処理の適用を継続することができる。また、この特例的な取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、金利スワップの特例処理の適用を継続することができる。
- なお、金利指標置換後に金利スワップの特例処理に係る金融商品実務指針第178項の⑤以外の要件が満たされている場合には、2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も金利スワップの特例処理の適用を継続することができる。
- 19-2. 金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日までに到来していない場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更又は契約の切替が金利スワップの特例処理に係る金融商品実務指針第178項の⑤以外の要件を満たしているときは、2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理の適用を継続することができる。
- 19-3. 第19項及び第19-2項の取扱いは、振当処理にも同様に適用することができる。この場合、金利スワップの特例処理に関する第11項の取扱いを振当処理に関する第12項の取扱いと読み替えるものとする。また、金利スワップの特例処理に係る金融商品実務指針第178項の要件を振当処理に係る外貨建会計処理基準一1、2(1)及び注解(注6)並びに外貨建実務指針第3項及び第5項の要件と読み替えるものとする。
注記事項
- 20. 報告日時点において本実務対応報告を適用することを選択した企業は、本実務対応報告を適用しているヘッジ関係について、次の内容を注記する。
- (1) ヘッジ会計の方法(繰延ヘッジか時価ヘッジか)並びに金利スワップの特例処理及び振当処理を採用している場合にはその旨
- (2) ヘッジ手段である金融商品の種類
- (3) ヘッジ対象である金融商品の種類
- (4) ヘッジ取引の種類(相場変動を相殺するものか、キャッシュ・フローを固定するものか)
- また、本実務対応報告を一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を注記する。
- ただし、連結財務諸表において上述の内容を注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない。
- 21. 前項の注記は、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで行うものとする。
適用時期等
- 22. 2020年に公表された本実務対応報告(以下「2020年実務対応報告」という。)は、公表日以後適用することができる。ただし、公表日より前にヘッジ会計の中止又は終了が行われたヘッジ関係には、第17項を除き適用することができない。
- 22-2. 2022年に改正された本実務対応報告(以下「2022年改正実務対応報告」という。)は、公表日以後適用することができる。
- 23. 本実務対応報告を適用するにあたっては、ヘッジ関係ごとにその適用を選択することができる。
議 決
- 24. 2020年実務対応報告は、第442回企業会計基準委員会に出席した委員14名全員の賛成により承認された。
- 24-2. 2022年改正実務対応報告は、第475回企業会計基準委員会に出席した委員13名全員の賛成により承認された。
結論の背景
経 緯
2020年実務対応報告
- 25. FSBは、2014年7月に、「主要な金利指標の改革(Reforming Major Interest Rate Benchmarks)」と題する報告書を公表し、次の点について提言を行った。
- (1) LIBOR、欧州銀行間取引金利(EURIBOR)、全銀協TIBOR(TIBOR)といった既存の金利指標である銀行間金利(IBORs)の信頼性と頑健性の向上、及び銀行の信用リスク等を反映しないリスク・フリー・レートの特定
- (2) それぞれの金利指標を、金融商品や取引の性質を踏まえて利用していくことが望ましい旨
- 26. 前項のFSBの提言に基づき、各通貨でIBORsの改廃やリスク・フリー・レートの開発といった金利指標改革が進められている。そうした中で、LIBORの公表が2021年12月末をもって恒久的に停止され、後継の金利指標への置換を余儀なくされることが見込まれている。そこでは、デリバティブ取引と、貸付金、借入金、債券といったデリバティブ取引以外の金融商品とで異なる金利指標に置き換えられる可能性もある。LIBORは5つの主要な通貨について公表されており、LIBORを参照する取引は広範に行われているため、金利指標改革により多くの取引に影響が生じる可能性が高い。
- 27. 金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業自身の意思決定に基づくものではなく、企業からみると不可避的に生じる事象である。このような不可避的に生じる事象に対して、そうした事態を想定して開発されていない会計基準を当てはめた場合、当該会計基準の開発時には想定されていなかった結果が生じる可能性がある。こうした会計処理に基づく財務情報が提供されることは、財務諸表作成者が行った取引の実態を適切に表さず、結果として、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられる。
- 特にヘッジ会計の適用については、金利指標改革の影響のみに起因して、現行の金融商品会計基準等の定めに従い、その適用を中止又は終了し、損益を認識することに対する懸念が多く聞かれたため、適切な適用範囲を定めたうえでヘッジ会計の適用に関する特例的な取扱いを定めることが必要であると考えられ、2020年実務対応報告を公表することとした。
- 28. なお、本実務対応報告は、公表時点において公表停止が見込まれているLIBORを対象としているが、今後、LIBOR以外の金利指標でも、金利指標改革に伴い公表停止が見込まれる場合には、当該金利指標を参照している金融商品の取扱いについても、本実務対応報告を参考にすることが考えられる。
2022年改正実務対応報告
- 28-2. 2020年実務対応報告の公表時には、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定であるとしていた。
- 28-3. 2021年3月に、英国金融行為規制機構(英国FCA)は、LIBORの運営機関であるICE Benchmark Administrationが2020年11月に公表した市中協議における提案に基づき、LIBORの公表停止時期を確定するアナウンスメントを正式に行った。その中で、米ドル建LIBORの翌日物、1か月物、3か月物、6か月物及び12か月物については、2021年12月末ではなく、2023年6月末をもって公表停止されることとされた。また、2021年9月に、英国FCAは、代替金利指標への移行が真に困難な既存契約(タフレガシー)へのセーフティネットとして、従来の日本円建LIBOR及び英国ポンド建LIBORの一部のターム物について、市場データを用いて算出する疑似的なLIBOR(シンセティックLIBOR)を構築するための権限を行使することを公表した。
- 当委員会では、これらの状況及び2020年実務対応報告の公表以後に当委員会に寄せられた意見を受けて、金利指標置換後の取扱いの再確認について2021年10月より審議を開始し、2021年12月に実務対応報告公開草案第62号(実務対応報告第40号の改正案)「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(案)」(以下「2021年公開草案」という。)を公表して広く意見を求めた。
- 2022年改正実務対応報告は、2021年公開草案に寄せられた意見を踏まえて検討をしたうえで公表するに至ったものである。
範 囲
2020年実務対応報告
- 29. 第27項に示したように、金利指標改革に起因するLIBORの置換に直接関係のある部分に特例的な取扱いを定めることが必要であると考えられる一方、金利指標改革に起因するLIBORの置換とは直接関係のない部分にまで特例的な取扱いを認めることは、本実務対応報告の趣旨を逸脱し、財務諸表の有用性を損ねるものと考えられる。そのため、本実務対応報告の適用範囲を、LIBORを参照している金融商品のうち、企業が金利指標改革に起因して参照する金利指標をLIBORから置き換える場合に、「その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更」(以下「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」という。)のみが行われる金融商品に限定することとした。また、こうした契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替に関する金融商品も適用範囲に含まれることとした(第3項参照)。
- なお、LIBORを参照する契約を締結するニーズが引き続き一定程度あるとの意見が聞かれているため、第3項の適用範囲については、LIBORを参照している既存の契約か、本実務対応報告公表後に締結する、LIBORを参照する新たな契約かは問わないこととした(第3項参照)。
- また、ここでの「契約条件の変更」とは、既存の契約の契約条件の内容を変更することを意味している(第4項(1)参照)。金利指標置換前において、本実務対応報告公表後に実行された取引においても、ヘッジ有効性の評価に関する特例的な取扱いを定めることとしたため、当初から、ある時点で契約条件の内容が変更され、LIBORから他の金利指標を参照することとなる条項を有する契約を締結する場合も「契約条件の変更」と同様に取り扱うことが考えられる。
- 30. ここで、契約条件の変更又は契約の切替の内容が、契約が参照する金利指標をLIBORから他の金利指標へ置き換えることに加えて、例えば、次のような変更である場合には「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当すると考えられる。
- (1) LIBORと後継の金利指標の差分を調整するためのスプレッド調整
- (2) 金利指標の置換に伴う更改期間、日数計算、支払日、時価の算定方法等の変更(例えば、デリバティブ取引に関して、前決めの金利から後決めの金利への変更)
- なお、(1)については、特にデリバティブ取引では契約条件の変更又は契約の切替に際して現金等が授受される実務が行われることが予想されることから、LIBORと後継の金利指標の金利水準の差分に伴うスプレッド調整と金利水準の差分を補填するための現金の授受も含めて判断することが考えられる。
- 31. 一方、契約条件の変更又は契約の切替の内容に、例えば、次のものが含まれるのであれば、当該契約条件の変更又は契約の切替は、「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」には該当せず、本実務対応報告の適用範囲外になると考えられる。
- (1) 想定元本の変更
- (2) 満期日の変更
- (3) 貸出の仕組みの変更(例えば、証書貸付から当座貸越への変更)
- (4) 取引相手の信用リスクのスプレッドの変更
- (5) 財務的な困難がある借手への譲歩
- (6) 取引相手の変更
- なお、これらの変更と同時に、前項に例を示した契約条件の変更又は契約の切替が行われる場合には、「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」には該当しないと考えられる。
- 公開草案に寄せられた意見の中では、「(4)取引相手の信用リスクのスプレッドの変更」に関連して、現行の実務ではヘッジ会計の継続に影響を与えないケースもあることから、これらの信用リスクのスプレッドの変更と金利指標改革に起因する金利指標の置換が同時に行われた場合に、現行の実務に影響を及ぼすのではないかとの懸念が聞かれた。この点、信用リスクのスプレッドの変更は、基本的に「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当しないと考えられるため、本実務対応報告を適用することは適切ではないものと考えられる。なお、スプレッドの変更がなされた場合、それがLIBORと後継の金利指標の差分を調整するためのスプレッド調整であるのか、信用リスクのスプレッドの変更であるのかの判断が難しいことも想定されるが、当該判断においては経済効果が概ね同等となることを意図したものであるか否かを定性的に分析することを想定しており、一律に定量的な分析を求めるものではない。また、本実務対応報告は、信用リスクのスプレッドの変更に関する現行のヘッジ会計の継続に関する実務に影響を及ぼすことは想定していない。
- また、「(6)取引相手の変更」について、店頭デリバティブ取引の取引相手を中央清算機関に変更する場合には、「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」も含まれ得るため、一律に本実務対応報告の適用対象外とすべきではないとの意見も聞かれた。この点、公開草案に寄せられた意見のとおり、店頭デリバティブ取引における中央清算機関の利用が、「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当すると判断される場合もあり得ると考えられるため、その場合には、必ずしも本実務対応報告の適用外となるわけではないと考えられる。
- 32. 「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」とは、必ずしも金利リスクのみにさらされている金融商品の契約条件の変更又は契約の切替を想定したものではなく、例えば固定金利と変動金利を交換する通貨スワップ(以下「金利通貨スワップ」という。)のように商品性として為替リスクも包含する金融商品の契約条件の変更又は契約の切替も想定している。このような場合であっても、当該金融商品に関する契約について、「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」が行われた場合には、本実務対応報告の適用範囲に含まれることとなる。
- 33. 本実務対応報告の適用範囲に含まれない金融商品については、従来どおり、金融商品会計基準等及び外貨建会計処理基準等に従って会計処理を行うことになる。
2022年改正実務対応報告
- 33-2. 金利指標置換後の取扱いについて再度確認する過程では、シンセティックLIBOR(第28-3項参照)の本実務対応報告上の取扱いを明確化すべきであるとの意見が聞かれた。
- 33-3. シンセティックLIBORは、ターム物リスク・フリー・レート(日本円建LIBORであれば東京ターム物リスク・フリー・レート)に、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)によるLIBORから代替金利指標への置換に係る所定のスプレッド調整を加味したレートとして算出することとされている。そのため、シンセティックLIBORは、既存のLIBORと同様に「LIBOR」の名称を用いて公表されるものの、公表が停止されるLIBORとは実質的に異なるものであると考えられる。
- 33-4. シンセティックLIBORへの移行は通常は金利指標の置換に該当すると考えられるが、当該金利指標の置換が第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれるかどうかの判断に関しては、本実務対応報告では「経済効果が概ね同等となることを意図した契約条件の変更」に該当するかどうかの判断の指標が例示されており(第30項参照)、その他の金利指標の置換と同様に当該指標に従って判断することとなる。したがって、シンセティックLIBORについてのみ取扱いを明確化することは行わないこととした。
会計処理
- 34. 金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業からみると不可避的に生じる事象であり、ヘッジ会計を定める金融商品会計基準等の開発時には、特に次のような事態は想定されていなかったものと考えられる。
- (1) 金利指標改革に起因してヘッジ対象又はヘッジ手段の金利指標を置き換える際の形態が異なる(契約条件の変更又は契約の切替)。
- (2) 金利指標改革に起因してヘッジ対象又はヘッジ手段の金利指標の置換が必要であるものの、後継の金利指標等が判明していない、又は、関連する市場の今後の動向が不明である。
- (3) 金利指標改革に起因してヘッジ対象及びヘッジ手段の金利指標の置換が必要であるものの、ヘッジ対象とヘッジ手段で置換のタイミングが異なる。
- このような事態を想定して開発されていない金融商品会計基準等に基づいてヘッジ会計を終了又は中止した場合、取引の実態を適切に表さず、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられるため、特例的な取扱いを定めることとした。
- なお、本実務対応報告では、「金利指標置換時」を「金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORに関して、ヘッジ対象の金融商品及びヘッジ手段の金融商品の双方の契約において後継の金利指標を基礎とした計算が開始される時点」と定め(第4項(4)参照)、これを基準に前後計3つの期間に分けて特例的な取扱いを定めている。これは、金利指標置換時及びその前後で必要とされる特例的な取扱いが異なると考えられるためである(なお、「ヘッジ対象又はヘッジ手段の契約の切替」(第5項参照)については、金利指標置換前、金利指標置換時及び金利指標置換後のいずれにも関連するものの、便宜的に金利指標置換前に区分している。)。
金利指標置換前の会計処理
ヘッジ対象又はヘッジ手段の契約の切替
- 35. 金融商品会計基準等では、ヘッジ手段が消滅したときにはヘッジ会計の適用を中止し、また、ヘッジ対象が消滅したときにはヘッジ会計の適用を終了することとされている(第5項参照)。
- ここで、既存のヘッジ関係について、ヘッジ対象又はヘッジ手段が参照する金利指標を置き換える形態として、次のものが考えられる。
- (1) ヘッジ対象又はヘッジ手段の既存の契約の条件の内容を変更することにより参照する金利指標を置き換える(契約条件の変更)。
- (2) ヘッジ対象又はヘッジ手段の既存の契約をその満了前に中途解約し、直ちに新たな契約を締結することにより参照する金利指標を置き換える(契約の切替)。
- 36. 金融商品会計基準等では契約条件の変更時の取扱いに関して定めがなく、前項に示した契約の切替を行った場合、法的には既存の契約を終了し新たな契約を締結することとなるため、ヘッジ会計の適用を終了又は中止することになると考えられる。
- ここで、金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業の意思に基づくものではなく、不可避的に生じる事象であり、契約の切替によりヘッジ対象又はヘッジ手段が参照するLIBORを置き換える場合に、ヘッジ会計の適用を終了又は中止し損益を認識することは、会計基準の開発時には想定されていなかった結果となり、取引の実態を適切に表さず、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらないものと考えられる。また、LIBORの置換の形態のみによってヘッジ会計の適用に違いが生じることは、望ましくないと考えられる(第34項(1)参照)。
- したがって、本実務対応報告では、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用している場合、金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとした(第5項参照)。
ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)
(ヘッジ対象となり得る予定取引の判断基準)
- 37. 金融商品会計基準等では、「予定取引とは、未履行の確定契約に係る取引及び契約は成立していないが、取引予定時期、取引予定物件、取引予定量、取引予定価格等の主要な取引条件が合理的に予測可能であり、かつ、それが実行される可能性が極めて高い取引をいう。」とされている(金融商品会計基準(注12))。
- また、ヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときは、ヘッジ会計を終了しなければならないとされている(第6項参照)。
- 38. ヘッジ対象がLIBORを参照している場合、企業が予定取引の取引条件の予測可能性及びその実行可能性を判断することは困難であり、ヘッジ会計を終了させる必要性が生じる可能性があるものと考えられる。こうした状況は、金融商品会計基準等の開発時には想定されていなかったものである(第34項(2)参照)。
- したがって、適用範囲に含まれる金融商品がヘッジ対象である予定取引が実行されるかどうかを判断するにあたって、金利指標置換前においては、ヘッジ対象の金利指標が、金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができるとした(第6項参照)。
(ヘッジ有効性の評価)
- 39. 金融商品会計基準等では、ヘッジ会計を適用するためには、事前テスト及び事後テストが要求されている(第7項及び第8項参照)。また、ヘッジ有効性の評価方法については、「企業は、ヘッジ開始時点で相場変動又はキャッシュ・フロー変動の相殺の有効性を評価する方法を明確にしなければならない。」(金融商品実務指針第143項(2))とされており、例えば、「ヘッジ有効性の判定は、原則としてヘッジ開始時から有効性判定時点までの期間において、ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とを比較し、両者の変動額等を基礎にして判断する。両者の変動額の比率がおおむね80%から125%までの範囲内にあれば、ヘッジ対象とヘッジ手段との間に高い相関関係があると認められる。」等とされている(金融商品実務指針第155項から第159項)。
- 40. 事前テストに関しては、後継の金利指標が未だ判明していない、又は、関連する市場で活発な取引が行われていないなどの理由から、後継の金利指標に基づく事前テストが困難となる可能性があると考えられる。これは企業にとって不可避的に生じる事象によるものであり、このことのみをもってヘッジ会計の有効性の要件を満たさないとしてヘッジ会計の適用を認めないことは、会計基準の開発時には想定されていなかった結果となり、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらないと考えられる(第34項(2)参照)。
- そのため、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとの仮定を置いて実施することができるとした(第7項参照)。
- なお、金融商品実務指針では、有効性の事前予測の方法としては、「比率分析の手法のほか、回帰分析の利用も考えられる。」(金融商品実務指針第314項)とされている。後継の金利指標について観測されるデータが不足し、このような分析が困難となる可能性があると考えられるが、この場合、例えば、既存の金利指標と後継の金利指標との間の置換時のスプレッド差等を勘案したうえで、既存の金利指標もデータとして利用するなどが考えられる。
- 41. 次に、事後テストに関して、既存のヘッジ関係について、ヘッジ対象又はヘッジ手段が参照する金利指標の置換前において、金利指標改革に起因するLIBORの置換に関する見込みが将来キャッシュ・フローの見積りに影響し、ヘッジ対象及びヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フローの変動額の累計の比率にも影響することが考えられる。この場合、将来キャッシュ・フローの変化の要因を、金利指標改革に起因する要因とそれ以外の要因に分解したうえで、有効性の判定を行うことが考えられるが、そうした分解は一般に実務上困難であると考えられる。
- ここで、これらは同様に会計基準の開発時には想定されていなかった結果となり、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない場合が生じる可能性がある。
- そのため、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、ヘッジ有効性が認められない場合であってもヘッジ会計の適用を継続することができるとした(第8項参照)。
- 例えば、ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とを比較し、両者の変動額等を基礎にして判断する方法(第39項参照)によりヘッジ有効性を評価している場合には、当該比率が80%から125%の範囲外となった場合であっても、ヘッジ会計の適用を継続することができる。
- なお、ヘッジに高い有効性があるとみなされる場合には金融商品実務指針第156項による有効性の判定を省略することができるとされている(金融商品実務指針第158項)。金利指標置換前において、金融商品実務指針第158項に基づき高い有効性があるとみなされるかどうかを判断するにあたっては、事前テストと同様にヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとの仮定を置いて実施することにより(本実務対応報告第7項参照)、金融商品実務指針第156項による有効性の判定を省略することが可能であると考えられる。
(包括ヘッジ)
- 42. 金融商品会計基準等では、次の双方を満たす場合には、企業内部の部門ごと又はその企業において、包括ヘッジが認められている(第9項参照)。
- (1) リスク要因(金利リスク、為替リスク等)が共通していること
- (2) リスクに対する反応が同一グループ内の個々の資産又は負債との間でほぼ一様であること
- また、個々の資産又は負債の時価の変動割合又はキャッシュ・フローの変動割合が、ポートフォリオ全体の変動割合に対して、上下10%を目安にその範囲内にある場合には、個々の資産又は負債はリスクに対する反応がほぼ一様であるものとして取り扱うとされている(金融商品実務指針第152項)。
- 43. 金利指標改革の結果、ヘッジ対象に指定されているグループ内に存在している個々の資産又は負債の金利指標が置き換えられる場合、置換のタイミングが異なることにより、次のような状況で前項(2)の条件を満たさなくなることが考えられる。
- (1) グループ内のすべての資産又は負債の金利指標の置換前において、将来のいずれかの時点でグループ内の個々の資産又は負債の金利指標が置き換わる可能性が現在の時価に織り込まれる。
- (2) グループ内の一部の資産又は負債の金利指標のみが置き換わる。
- (3) グループ内のすべての資産又は負債の金利指標が置き換わった結果、同一グループ内の資産又は負債の後継の金利指標が異なることが確定する。
- 44. 企業にとって不可避的に発生した事象である金利指標改革に起因する要因のみにより包括ヘッジが適用できなくなると、リスクの共通する資産又は負債をグルーピングしてヘッジしているという経済実態が反映されず、有用な財務情報の提供を妨げる可能性がある。
- したがって、適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用する場合、個々の資産又は負債のリスクに対する反応とグループ全体のリスクに対する反応がほぼ一様であると認められなかった場合であっても、包括ヘッジを適用することができるとした(第9項参照)。
- 例えば、個々の資産又は負債の時価の変動割合又はキャッシュ・フローの変動割合が、ポートフォリオ全体の変動割合に対して上下10%の範囲内にあるかどうかにより、個々の資産又は負債はリスクに対する反応がほぼ一様であるかどうかを判断している場合には(第42項参照)、個々の資産又は負債の時価の変動割合又はキャッシュ・フローの変動割合が、ポートフォリオ全体の変動割合に対して上下10%の範囲外となった場合であっても、包括ヘッジの適用を継続することができる。
金利スワップの特例処理等
(金利スワップの特例処理)
- 45. 金融商品会計基準では、金利スワップの特例処理が認められており、その具体的な条件が金融商品実務指針に定められている(本実務対応報告第11項参照)。
- 46. 金利指標改革は、金利スワップの特例処理について、特に第11項(3)から(5)の条件に次のように影響する可能性がある。
- (1) ヘッジ対象及びヘッジ手段の金利指標の置換前であるが、決算日以降に金利スワップの金利指標が置き換わることが想定され、第11項(5)の条件を満たさなくなる。
- (2) ヘッジ対象又はヘッジ手段の金利指標のいずれかが変更され、一時的に第11項(3)から(5)の条件を満たさなくなる。
- 47. 金利指標改革に起因して、前項に示した内容で金利スワップの特例処理の条件(第11項参照)を満たさなくなった場合、金利スワップの特例処理の適用は認められなくなる。しかしながら、金利指標改革に起因する契約条件の変更又は契約の切替のみを原因として、金利スワップの受払条件の変更が想定されること、又は、ヘッジ対象及びヘッジ手段の金利指標が一時的に異なることをもって、金利スワップの特例処理の要件を満たさないとしてこれを認めないことは、有用な財務情報の提供につながらないと考えられる(第34項(2)及び(3)参照)。
- そのため、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として金利スワップの特例処理を適用する場合、第11項(3)から(5)で示した条件を満たしているかどうかの判断において、金利指標置換前においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなして判断することができるとした(第11項参照)。
- なお、第11項(2)の条件については、当初契約時に金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致しているかどうかの判断を行うことが想定されていると考えられるため、例えば金利スワップの契約の切替が発生した場合には、金利スワップの新たな契約期間とヘッジ対象の満期が一致しないことが考えられるものの、金利スワップとヘッジ対象の残存期間が同一であれば、当該条件を満たすとみなすことができると考えられる。
(外貨建会計処理基準等における振当処理)
- 48. 外貨建会計処理基準等では、外貨建金銭債権債務等と為替予約等との関係が、金融商品会計基準におけるヘッジ会計の要件を満たしている場合には、当該外貨建取引及び外貨建金銭債権債務等について、当分の間、振当処理ができるとされている。ただし、振当処理が認められるのは、為替予約等によって円貨でのキャッシュ・フローが固定されているときに限られるとされている(第12項参照)。
- 49. 振当処理において金利指標改革の影響が生じる可能性がある典型的な取引としては、例えば、ヘッジ対象であるドルLIBOR支払いの外貨建金銭債務について、ドルLIBOR金利の受取りと円固定金利の支払いの金利通貨スワップを用いて外貨の変動金利を円貨の固定金利に固定する取引が想定される。この場合、ヘッジ対象である外貨建金銭債務の変動金利とヘッジ手段である金利通貨スワップの変動金利が、金利指標改革により異なる変動金利に置き換わり、円貨でのキャッシュ・フローが固定されない可能性がある。
- 50. 振当処理は、為替予約等を外貨建金銭債権債務等に付すことにより円貨でのキャッシュ・フローが固定されることから、ヘッジ会計におけるキャッシュ・フロー・ヘッジに相当するとして認められているものである(企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準の改訂に関する意見書」二2及び外貨建実務指針第5項)。したがって、本来、キャッシュ・フローが固定されないのであれば、振当処理は認められないと考えられる。
- しかしながら、前項に示したような事例においては、金利指標改革に起因するLIBORの置換のみを原因として、金利指標置換前に一時的に振当処理の要件を満たさないことを理由に振当処理を認めなかった場合、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらないと考えられる(第34項(2)及び(3)参照)。
- したがって、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として振当処理を適用するに際し、金利指標置換前においては、円貨でのキャッシュ・フローが固定されているかどうかを判断するにあたって、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなして判断できることとした(第12項参照)。
金利指標置換時の会計処理
ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)
- 51. 金融商品会計基準等においては、ヘッジ取引時にヘッジ文書でヘッジ取引日、識別したヘッジ対象とリスクの種類、選択したヘッジ手段等について明確にすることが求められている(金融商品会計基準第31項(1)並びに金融商品実務指針第143項から第145項及び第150項)。金利指標置換時には、ヘッジ文書のこれらの内容に変更が生じることになるが、このような変更があった場合の取扱いは既存の会計基準に必ずしも明確に定められていないと考えられる。そのため、ヘッジ文書のこれらの内容に変更が生じた場合、ヘッジ会計を中止すべきか否かについて議論が生じる可能性もあると考えられる。
- 52. 金利指標置換前においては、単に一時的な金利指標の置換のタイミングの違いのみによってヘッジ会計を中止することは、有用な財務情報の提供につながらないと考えられるため特例的な取扱いを設けている。
- 金利指標を置き換えた場合、金利指標置換時にヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更することになると考えられるが、このようなヘッジ文書の変更のみでヘッジ会計の中止とした場合、金利指標置換前と同様に有用な財務情報の提供につながらないと考えられる。
- したがって、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利指標置換時において、当初のヘッジ会計開始時にヘッジ文書に記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとした(第13項参照)。
金利指標置換後の会計処理
ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)
(2020年実務対応報告)
- 53. 金利指標置換後においては、置き換えた後の金利指標に基づいてヘッジ有効性の評価や会計処理を行うことが、ヘッジ会計の趣旨に適った会計処理であり、この点を強調した場合には、特例的な取扱いを定めることは、有用な財務情報を提供する観点からは望ましいとはいえない可能性がある。
- ここで、日本円におけるLIBORの後継の金利指標として、貸付金又は借入金(ヘッジ対象)について「ターム物リスク・フリー・レート」を選好する意見が聞かれているが、日本円に関する「ターム物リスク・フリー・レート」は、LIBORの公表停止が見込まれる2021年12月末までに関連する市場で活発な取引が行われるか不明であるため、LIBOR公表停止時までに利用可能な金利指標(無担保コール・オーバーナイト物金利(TONA:Tokyo Overnight Average rate)やTIBORが候補となる。)にLIBORからいったん置換を行ったのち、最終的に「ターム物リスク・フリー・レート」に移行する可能性や、経済的なヘッジ行動もこれに合わせる可能性があるとの意見も聞かれるなど、金利指標置換後の金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多い。
- LIBORが公表されている日本円以外の主要通貨についても、リスク・フリー・レートが特定され、ターム物リスク・フリー・レートの構築が進められているが、その進捗状況は通貨ごとに異なる状況にあるため、国際的な活動を行う企業にとっては、さらに不確実な状況に直面している。
- よって、適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、事後テストに関する第8項の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計の適用を継続することができるとした。これは、LIBORの公表停止が予定されている2021年12月末から概ね1年間を想定したものである。また、当該取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとした(第14項参照)。なお、本実務対応報告公表時には上述のように金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、本実務対応報告の公表から約1年後に、当該取扱いについて再度確認する予定である。
- また、公開草案に寄せられた意見の中には、2023年4月以降の事後テストについて、どの時点から有効性判定すべきかについて明確にすべきであるとの意見が聞かれた。この点、金融商品会計基準等では、ヘッジ有効性の判定は、原則としてヘッジ開始時から有効性判定時までの期間において実施するとされており(金融商品実務指針第156項)、2023年4月以降は、当該方法に基づくことが原則的な考え方となる。一方で、後継の金利指標のみに基づいて事後テストを実施することが適切であるとの考え方も想定されることから、継続適用を条件に、金利指標置換時(再度金利指標を置き換えた場合は当該再置換時を含む。)を起点に事後テストを実施することも認めることとした(第15項参照)。
- 54. さらに、公開草案に寄せられたコメントの中では、ヘッジ手段が消滅した場合など、金利指標改革とは無関係にヘッジ会計が中止となった場合に、金融商品会計基準等に従えば、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額はヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べるとされているが、ヘッジ対象が参照する金利指標がLIBORから他の金利指標に置き換えられる場合、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、2023年3月31日以降も繰り延べられるのかどうかを明らかにすべきとの意見が聞かれた。
- この点、第5項では、第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品について契約の切替が行われた場合であっても、ヘッジ会計の適用を継続することができることとしている。したがって、同様の考え方により、既にヘッジ会計が中止されている場合に、第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品であるヘッジ対象の契約の切替が行われたときは、ヘッジ会計の終了とはせず、引き続きヘッジ手段に係る損益又は評価差額を繰り延べることとした(第17項参照)。
- なお、「契約条件の変更」が行われた場合の取扱いは、第36項に記載のとおり、金融商品会計基準等に定めがなく、実務が定着していると考えられるため、本実務対応報告においては特段の定めを設けないこととした。
- 55. 金利指標置換時以後においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段のいずれも金利指標の置換が完了していることから、事後テストに関する特例的な取扱いを適用しないことを選択する企業も想定される。このような場合、それまでのヘッジ会計の適用を中止又は終了させずに継続するのであれば、事後テストの方法は、金融商品実務指針第156項に従い、原則として、ヘッジ開始時から有効性判定時までの期間における有効性判定を行うこととなる。しかしながら、金利指標置換時以後、特例的な取扱いを適用しない企業が、後継の金利指標のみに基づいて事後テストを実施することが適切であると判断する可能性があることから、継続適用を条件に、金利指標置換時を起点に事後テストを実施することもできることとした(第16項参照)。
- 56. さらに、審議においては、本実務対応報告公表後に、LIBOR以外の金利指標間(例えばリスク・フリー・レートとTIBOR)で新規に開始するヘッジ関係についても、当該金利指標が暫定的な金利指標となる可能性があるという理由から、第14項及び第19項の金利指標置換後の定めと同様の特例的な取扱いを認めるべきではないかとの意見も聞かれた。
- この点、本実務対応報告公表後に新たに締結する契約については、ヘッジ関係が有効との期待は、実際に有効性評価を行わない限り確認することができない。金利指標置換後の取扱いについては、第53項に記載のとおり、本来、置き換えた後の金利指標に基づきヘッジ有効性の評価等を行うことが望ましい中で、このようなケースについてまで、事後テストの結果にかかわらずヘッジ会計の適用を継続することを幅広く認めると、ヘッジの効果を会計に反映させるというヘッジ会計の意義を逸脱してしまう可能性があるため、本実務対応報告の対象とはしないこととした。
(2022年改正実務対応報告)
- 56-2. 第28-3項に記載したとおり、米ドル建LIBORの一部のターム物について、公表停止時期が2023年6月末に延期された。これにより、2020年実務対応報告における金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が米ドル建LIBORの公表停止時期より先に終了することとなった。
- 56-3. 金利指標置換後の取扱いについて再度確認する過程では、米ドル建LIBORを参照する契約の規模が日本円建LIBORに匹敵するものであることや、米ドル建LIBORから後継金利への移行に関する困難性が存在すること、さらに、金利スワップの特例処理などの適用について問題が生じる可能性があることなどが見出された。そのため、金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を一定程度延長すべきとの意見が聞かれた。
- 56-4. 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間について、2020年実務対応報告の開発の過程では、金利指標置換後においては、置換後の金利指標に基づいてヘッジ有効性の評価や会計処理を行うことが、ヘッジ会計の趣旨に適った会計処理であり、特例的な取扱いを定めることは、有用な財務情報を提供する観点としては望ましいとはいえない可能性があるとされていた。これを考慮すると、米ドル建LIBORについてのみ2020年実務対応報告における金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を1年延長し、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長することが考えられた。
- 56-5. しかし、米ドル以外の通貨建てのLIBORに関する不確実性が完全になくなったということでもなく、また、適用期間を延長しても濫用のおそれがないと考えられた。そのため、金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間について米ドル建LIBORとそれ以外の通貨建てのLIBORを分けることなく、一律に2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長することとした。
- 56-6. 審議の過程では、2022年改正実務対応報告の公表から約1年後に金利指標置換後の取扱いについて再度確認を行う予定とするかどうかについて検討を行った。
- これについては、2022年改正実務対応報告の公表時点で、米ドル以外の通貨建てのLIBORに関する不確実性が完全になくなったということでもなく、将来さらなる対応が必要となる可能性があるため、1年後に限定せず、将来必要な場合には改めて確認を行うこととした。
包括ヘッジ
(2020年実務対応報告)
- 57. 包括ヘッジに関する第9項の定めについても、第53項に記載したとおり、貸付金や借入金についての後継の金利指標に関して、金利指標置換後の金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多い。
- したがって、第3項に示した本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用していた場合、包括ヘッジに関する第9項の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度まで包括ヘッジの適用を継続することができるとした。また、同項の取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、包括ヘッジの適用を継続することができるとした(第18項参照)。
(2022年改正実務対応報告)
- 57-2. 2022年改正実務対応報告では、包括ヘッジに関する金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長することとした。
金利スワップの特例処理等
(2020年実務対応報告)
- 58. 金利スワップの特例処理についても、状況はヘッジ会計の原則的処理方法と同様であるが(第53項参照)、次の理由により、金利スワップの特例処理の方が影響はより大きいものと考えられる。
- (1) ヘッジ手段とヘッジ対象の金利指標がほぼ一致することが求められており、両者で金利指標が異なった場合、金利スワップの特例処理が認められなくなること
- (2) 事業会社を中心に幅広く利用されており、原則的処理方法に移行するためには、新たに金利スワップの時価評価の体制を構築する必要性が生じること
- したがって、金利スワップの特例処理についても、ヘッジ会計の原則的処理方法と同様の取扱いを定めることとした(第19項参照)。同様に、振当処理についても、ヘッジ会計の原則的処理方法と同様の取扱いを定めることとした(第19項参照)。
(2022年改正実務対応報告)
- 58-2. 2022年改正実務対応報告では、金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長することとした。
- 58-3. 金利指標置換後の取扱いについて再度確認する過程では、金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理について定めた第19項について、趣旨を明確化すべきという意見が聞かれた。
- 58-4. 2020年実務対応報告第19項は、金利指標置換前の取扱いを定めた第11項及び第12項の取扱いを適用していたかどうかにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを2023年3月31日以前に終了する事業年度まで適用することができるとしていた。ここで、第11項の問題意識は、金利指標改革に起因する契約条件の変更又は契約の切替のみを原因として、金利スワップの受払条件の変更が想定されること又はヘッジ対象及びヘッジ手段の金利指標が一時的に異なることをもって、金利スワップの特例処理の要件を満たさないとしてこれを認めないことは、有用な財務情報の提供につながらないという点にあった。また、第12項の問題意識は、金利指標改革に起因するLIBORの置換のみを原因として、金利指標置換前に一時的に振当処理の要件を満たさないことを理由に振当処理を認めなかった場合、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらないという点にあった(第47項及び第50項参照)。
- 58-5. また、2020年実務対応報告第19項の定めは、金利スワップの特例処理等について、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)に関する金利指標置換後の会計処理の定めと同様の効果を意図したものであった(第58項参照)。この定めは、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)について、金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期限が到来した後にもヘッジ会計の適用を継続することが可能となることを意図したものであった(第53項最終段落参照)。
- 58-6. さらに、金利指標改革に起因した金利指標の置換が行われたとしても、金利指標置換時以後の期間について金融商品実務指針第178項の⑤以外の金利スワップの特例処理に関する要件を満たすような金利指標の置換が本実務対応報告で定める金利指標置換後の会計処理の適用期間内になされる場合には、当初契約時に想定していたヘッジの効果の維持が見込まれる。これについて、2020年実務対応報告第19項(2022年改正実務対応報告では第19項及び第19-3項)では特例的な取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、金利スワップの特例処理又は振当処理の適用を継続することができるとしていた。この取扱いにより、金利指標の置換に起因して一時的に金融商品実務指針第178項の③から⑤の要件が満たされなくなったとしても、2023年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も金利スワップの特例処理の適用を継続するためには、改めて金利指標の置換を行うことで金融商品実務指針第178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件が満たされるような金利指標の置換が行われることが想定されていた。
- 58-7. 第58-2項から前項までの考え方は、2020年実務対応報告について新たな解釈を示すものではない。しかし、本実務対応報告の定めに関して多様な解釈が生じることで、実務に意図しない影響を及ぼすことが考えられるため、2020年実務対応報告の開発時の考え方を2022年改正実務対応報告で明確化することとした。
- 58-8. 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長されても、米ドル建LIBORの一部のターム物の公表停止時期が2023年6月末とされたことに伴い、金利指標置換前において金利スワップの特例処理の要件を満たしていた取引に関して、金利指標改革に起因した金利指標の置換がなされ、かつ、当該金利指標置換時以後において金融商品実務指針第178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしている場合であっても、金利指標置換時が第19項の適用期間より後であるという理由で金利スワップの特例処理等が適用できなくなる場合が想定された。これについて、当該金利指標の置換が第19項の適用期間より後であるという理由のみにより機械的に金利スワップの特例処理が継続できないとすることは、第58-4項と同様に有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられた。
- 58-9. そのため、金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度までに到来していない場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更又は契約の切替が金融商品実務指針第178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしているときには、2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理を継続することができるものとした。また、適用にあたって一定の歯止めを設ける観点から、契約条件の変更又は契約の切替が第19項の適用期間内に行われることを求めることとした。
- 58-10. 振当処理についても2020年実務対応報告と同じく、金利スワップの特例処理と同様に適用することができるものとした(第19-3項参照)。
注記事項
- 59. 現状、重要な会計方針の1つとしてヘッジ会計の方法に関する注記が行われていることを踏まえ、報告日時点において本実務対応報告を適用している企業は、本実務対応報告を適用しているヘッジ関係の内容(ヘッジ会計の方法、ヘッジ手段、ヘッジ対象及びヘッジ取引の種類)を注記することとした(第20項参照)。
- なお、公開草案公表後の審議の過程で、当該注記を行うにあたって、ヘッジ手段やヘッジ対象の残高等の定量的な情報の開示を必要とするかどうかについて明確化を行うべきとの意見が聞かれたため、これらの定量的な情報の開示に対する財務諸表作成者の追加のコストと当該開示による便益を比較し、定量的な情報の開示は求めないことを明確にした。
- また、本実務対応報告の適用はヘッジ関係ごとに選択できるため(第23項参照)、一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を記載することとした(第20項参照)。
- 60. 本取扱いは、金融商品会計基準第40-2項の注記事項に関する定めに関連するものであり、同様に連結財務諸表において同じ内容の注記をしている場合には、個別財務諸表において記載することを要しないこととした(本実務対応報告第20項参照)。
- 61. なお、LIBORの公表停止までに契約条件の変更又は契約の切替が完了しないリスクに関する注記(LIBORを参照している契約の残存する残高や金利指標移行の進捗状況等)を求めることも検討したが、本実務対応報告は、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する取扱いを明らかにするものであり、LIBORの公表停止そのもののリスクを取り扱うものではないため、このような注記は求めないこととした。
- また、本実務対応報告を適用していなければ発生していた損益に対する潜在的な影響額の注記を求めることについても検討したが、次のような困難が予想されることから、注記を求めることは適切でないと考えられるため、注記は求めないこととした。
- (1) ヘッジ有効性の評価の結果について、金利指標改革の影響によるものとそれ以外の要因を区別することは困難であり、金利指標改革のみによる純粋な損益の影響額を算定することはできない。
- (2) 特に金利スワップの特例処理を採用している場合や高い有効性があるとして有効性評価を省略している場合、本実務対応報告を適用しても有効性評価を行うことは想定していないため、損益の影響額を把握するためには、追加の事務手続が必要となり、企業のコスト負担が大きい。
適用時期等
- 62. 本実務対応報告で定める特例的な取扱いは、金利指標の置換に関する実務への配慮から、可能な限り速やかに行われることが望ましいと考えられたため、公表日以後適用できることとした。ただし、本実務対応報告公表前に既にヘッジ会計の中止又は終了が行われたヘッジ関係については、そのニーズと会計処理の複雑さを勘案し、第17項を除き適用することができないこととした(第22項参照)。
- 63. 本実務対応報告の適用にあたっては、金利指標改革を機にリスク管理上で後継の金利指標を基礎に管理するよう変更することから、会計上でもヘッジ会計の適用を終了することを望む企業もあるとの意見や、ヘッジ会計を適用しているものの、その取引に重要性がなく、特例的な取扱いに対するニーズのない企業も存在し得るとの意見が聞かれている。
- これらの意見を踏まえ、金利指標改革により企業が受ける影響やその対応は、企業ごとに様々であることが考えられることから、本実務対応報告の適用は、企業が選択することができることとした。また、金利指標の置換は契約ごと、ヘッジ関係ごとに発生することから、その選択についてもヘッジ関係ごとに選択できることとした(第23項参照)。
- 以 上
