©公益財団法人 財務会計基準機構最終更新日:2026/03/04
実務対応報告第34号債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い
目 的
- 1. 本実務対応報告は、退職給付債務、勤務費用及び利息費用(以下合わせて「退職給付債務等」という。)の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合の割引率に関する当面の取扱いを示すことを目的とする。
会計処理
- 2. 退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法による。
適用時期
- 3. 本実務対応報告は、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度まで適用する。
議 決
- 4. 本実務対応報告は、第357回企業会計基準委員会に出席した委員13名全員の賛成により承認された。
結論の背景
経 緯
- 5. 平成28年1月29日に、日本銀行は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定した。これを受けて、同年2月16日から、金融機関が保有する日本銀行当座預金のうち一定の部分に0.1%のマイナス金利が適用されており、残存期間が短期の国公債(以下「国債等」という。)のみならず、長期の国債等についてもマイナスの利回りが見受けられる。
- 6. これに関連して、当委員会は、平成28年3月に開催された第331回企業会計基準委員会において、退職給付債務の計算における割引率に関して議論を行い、当該議論の内容を周知するため、同月に議事概要を公表した。
- 7. また、平成28年7月に開催された第340回企業会計基準委員会において、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議より、マイナス金利に係る種々の会計上の論点への対応について、必要に応じて適時に対応を図ることの依頼を受けた。
- これらを踏まえ、当委員会では、本実務対応報告において、必要と考えられる当面の取扱いを示すこととし、平成29年1月に実務対応報告公開草案第51号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)」を公表して広く意見を求めた。本実務対応報告は、公開草案に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。
会計処理
- 8. 企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(以下「退職給付会計基準」という。)では、退職給付債務等の計算において割引率を用いることとされている(退職給付会計基準第16項、第17項及び第21項)。この割引率に関して、退職給付会計基準第20項では、「退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定する。」とした上で、「割引率の基礎とする安全性の高い債券の利回りとは、期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回りをいう。」(退職給付会計基準(注6))とされている。
- 9. また、企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下「退職給付適用指針」という。)第24項では、「退職給付債務等の計算(第14項から第16項参照)における割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定する(会計基準第20項)が、この安全性の高い債券の利回りには、期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回りが含まれる(会計基準(注6))。優良社債には、例えば、複数の格付機関による直近の格付けがダブルA格相当以上を得ている社債等が含まれる。」とされている。
- 10. ここで、平成20年公表の企業会計基準第19号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その3)」において、一定期間の債券の利回りの変動を考慮して割引率を決定することができるとする取扱いを削除して、期末における市場利回りを基礎として決定される割引率を用いることとしている。この定めを退職給付会計基準(注6)における「期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回り」に形式的に当てはめると、プラスの利回りもマイナスの利回りもそのまま利用することになると考えられる。
- しかしながら、現行の退職給付会計基準の基準開発において、債券の利回りがマイナスとなることは想定していなかったと考えられるため、退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、利回りの下限としてゼロを利用するか、マイナスの利回りをそのまま利用するかについては一義的には決まらず、いずれの方法を用いることが適切かが論点となる。
- 11. この論点を検討するにあたって、退職給付適用指針第95項では「退職給付債務(及び退職給付費用)の計算に用いる割引率は、貸借対照表日現在の退職給付債務を求めるために用いるものであるから、金銭的時間価値のみを反映させるべきであり、したがって、信用リスクフリーレートに近い「期末における安全性の高い債券の利回り」を用いる」とされており、また、金銭的時間価値のみが反映された信用リスクフリーレートとは、一般的に、信用リスクが存在しない状態で時の経過に応じて価値が増えるレートを反映するものであると考えられる。この信用リスクフリーレートについて、マイナス金利の状況下においてどのように考えるべきかについて整理が必要となる。
- この点、信用リスクが存在しない状態においても、将来の価値が現在の価値よりも低くなると市場が評価していることに鑑み、金銭的時間価値は時の経過に応じて減少するものとして、信用リスクフリーレートはマイナスになり得るとの意見が聞かれる一方で、現金を保有することによって現在の価値を維持することができることから、金銭的時間価値は時の経過に応じて減少することはないものとして、信用リスクフリーレートの下限はゼロになるとの意見が聞かれる。
- 12. また、退職給付会計基準第22項では「年金資産の額は、期末における時価(公正な評価額をいう。ただし、金融商品については、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第6項)とする。)により計算する。」とされており、時価は市場の評価を反映することから、将来の価値が現在の価値よりも低くなると市場が評価し、年金資産の評価にマイナス金利の影響が反映されるときは、退職給付債務の評価にもマイナス金利の影響を反映させて、年金資産の評価と退職給付債務の評価を整合させるべきであるとの意見が聞かれる。
- 一方、退職給付に係る負債は、退職給付債務から年金資産の額を控除した額(退職給付会計基準第13項)とするが、これは表示上、相殺しているに過ぎないため、年金資産の評価と退職給付債務の評価を整合させる必要はないとの意見が聞かれる。
- 13. さらに、現行の退職給付会計基準における退職給付債務の計算は、合理的に見込まれる退職給付の変動要因(予想される昇給等)を考慮して退職給付見込額を見積った上で(退職給付会計基準第18項)、信用リスクフリーレートに近いと考えられる、期末における安全性の高い債券の利回りで割り引く(退職給付会計基準第16項及び第20項)ことから、時価を求めるものではないと考えられるが、退職給付債務の算定において、企業固有の見積りをどのように反映すべきか、すなわち、現時点における負債の金額は将来の見積り支払総額を超えることはないとの意見をどのように考えるかが論点となる。
- 14. マイナス金利の経済的な性質が必ずしも明確ではない中、第11項から第13項に記載したとおり、マイナス金利の状況下において様々な論点があり、これらをどのように考えるかにより、割引率の基礎とする債券の利回りについて、下限としてゼロを利用するか、マイナスの利回りをそのまま利用するかの結論が変わり得るものと考えられる。
本実務対応報告における取扱い
- 15. 割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合の割引率に関する取扱いの検討にあたって、第11項から第13項に記載したような論点について解決を図るには、国際的な動向を踏まえることも有用と考えられるが、主に金融商品を中心とした欧州における議論では、現時点において統一的な見解は定まっていない。
- 一方で、退職給付債務等の計算は、一般的に財務諸表に与える影響が大きく、本論点については早急に取扱いを示すべきであるとの実務上の要請が聞かれる。
- 16. これらの状況及び現時点の国債等の各残存期間におけるマイナスの利回りの幅が大きくはないことを踏まえ、本実務対応報告では、第2項に定める当面の取扱いを明らかにすることとした。
適用時期
- 17. 本実務対応報告は、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれも認めることを当面の取扱いとして定めたものであり、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度までに限って適用することとした(第3項参照)。なお、平成30年3月31日以後に終了する事業年度の取扱いに関しては、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法によることを定めたガイダンスの公表に向けて、引き続き検討を行う。当該検討の進捗状況によっては、本実務対応報告における取扱いを平成30年3月31日以後に終了する事業年度も継続することを検討する。
- 以 上
注
- 1 当該会計基準は、その内容を退職給付会計基準に引き継いだ上で平成24年に廃止されている(退職給付会計基準第40項及び第65項)。