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実務対応報告第30号従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い
目 的
- 1. 本実務対応報告は、従業員又は従業員持株会(以下「従業員等」という。)に信託を通じて自社の株式を交付する取引について、当面、必要と考えられる実務上の取扱いを明らかにすることを目的とする1。
範 囲
- 2. 本実務対応報告は、第3項及び第4項の取引を対象とする。したがって、企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下「退職給付適用指針」という。)に定めのある退職給付信託や、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)等に定めのある実質的ディフィーザンスなどについては適用されない。
- 3. 従業員への福利厚生を目的として、従業員持株会に信託2を通じて自社の株式を交付する取引。これは、概ね以下から構成される。
- (1) 企業を委託者、当該企業の従業員持株会に加入する従業員(ただし、一定の要件を満たした者)を受益者3、信託会社を受託者とする信託契約を締結し、企業は金銭の信託を行う。当該信託契約は、受託者が信託にて企業の株式を取得し、企業の従業員持株会へ当該株式を売却することを目的とする。委託者である企業4は、信託の変更をする権限を有している5。
- (2) 受託者は、信託における金融機関等からの借入金により、信託にて企業の株式を取得する。この取得は、企業による募集株式の発行等の手続による新株の発行若しくは自己株式の処分又は信託における市場からの株式の取得により行われる。また、当該借入金の全額について、企業による債務保証が付され、企業は信託の財産から適正な保証料を受け取る。
- (3) 受託者は、信託契約に従い、信託にて保有する企業の株式を、時価により企業の従業員持株会へ売却する。
- (4) 受託者は、信託契約に従い、信託の決算を毎期行う。
- (5) 受託者は、信託期間中に、信託にて保有する株式の売却代金と配当金を原資として信託における金融機関等からの借入金及び借入利息を返済する。
- (6) 信託終了時に、信託において株式の売却や配当金の受取りなどにより資金に余剰が生じた場合にはその余剰金は従業員に分配され、企業に帰属することはない。これに対して、信託において資金に不足が生じた場合、企業は債務保証の履行等により不足額を負担する。
- 4. 従業員への福利厚生を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引。これは、概ね以下から構成される。
- (1) 企業を委託者、当該企業の一定の要件を満たした従業員を受益者、信託会社を受託者とする信託契約を締結し、企業は金銭の信託を行う。当該信託契約は、受託者が信託にて企業の株式を取得し、企業の従業員へ当該株式を交付することを目的とする。委託者である企業は、信託の変更をする権限を有している。
- (2) 受託者は、信託された金銭により、信託にて企業の株式を取得する。この取得は、企業による募集株式の発行等の手続による新株の発行若しくは自己株式の処分又は信託における市場からの株式の取得により行われる。
- (3) 企業は、あらかじめ定められた株式給付規程に基づき、受給権の算定の基礎となるポイントを、信託が保有する株式の範囲で従業員に割り当てる。
- (4) 割り当てられたポイントは、一定の要件を満たすことにより受給権として確定する。受託者は、信託契約に従い、確定した受給権に基づいて、信託にて保有する企業の株式を従業員に交付する。
- (5) 受託者は、信託契約に従い、信託の決算を毎期行う。
- (6) 信託終了時に、信託において配当金の受取りなどにより資金に余剰が生じた場合にはその余剰金は従業員に分配され、企業に帰属することはない。
会計処理
従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理
個別財務諸表における処理
総額法の適用
- 5. 対象となる信託が、以下の(1)及び(2)の要件をいずれも満たす場合には、企業は期末において総額法6を適用し、信託の財産を企業の個別財務諸表に計上する。
- (1) 委託者が信託の変更をする権限を有している場合
- (2) 企業に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであるとは認められない場合
- 6. 第3項の取引については、第3項に記載の条件に前項(1)の要件が含まれるが、前項(2)の要件についてもこれを満たすものとする。
自己株式処分差額の認識時点
- 7. 信託による企業の株式の取得が、企業による自己株式の処分により行われる場合、企業は、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)第5項に従い、信託からの対価の払込期日に自己株式の処分を認識する。
期末における総額法等の会計処理
- 8. 企業は、期末における総額法等の適用に際して、以下に留意する。
- (1) 信託に残存する自社の株式(信託から従業員持株会に交付していない株式)を、信託における帳簿価額(付随費用の金額を除く。)により株主資本において自己株式として計上する。信託における帳簿価額に含められていた付随費用は(2)の信託に関する諸費用に含める。
- (2) 信託から従業員持株会に売却された株式に係る売却差損益、信託が保有する株式に対する企業からの配当金及び信託に関する諸費用の純額が、正の値となる場合には負債に、負の値となる場合には資産に、それぞれ適当な科目を用いて計上する。
- (3) 信託の終了時に、信託において借入金の返済や信託に関する諸費用を支払うための資金が不足する場合、債務保証の履行により企業が不足額を負担することとなる。信託終了時に企業が信託の資金不足を負担する可能性がある場合には、企業会計原則注解(注18)に従い、負債性の引当金の計上の要否を判断する。
- (4) 自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、株式の種類ごとに算定する(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下「自己株式等会計基準」という。)第13項及び第48項)が、企業が保有する自己株式と信託が保有する自社の株式は法的な保有者が異なるため、連結財務諸表における親会社が保有する自己株式と連結子会社が保有する親会社株式と同様に、それらの帳簿価額を通算しない。
- (5) 企業が信託に支払った配当金等の企業と信託との間の取引は相殺消去を行わないものとする。
連結財務諸表における処理
子会社又は関連会社への該当の判定
- 9. 第3項の取引を実施する企業は、信託について子会社又は関連会社に該当するか否かの判定を要しない。なお、個別財務諸表における総額法の処理は、連結財務諸表作成上、そのまま引き継ぐものとする。
受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理
個別財務諸表における処理
総額法の適用
- 10. 対象となる信託が、第5項(1)及び(2)の要件をいずれも満たす場合には、企業は期末において総額法を適用し、信託の財産を企業の個別財務諸表に計上する。
第4項の取引については、第4項に記載の条件に第5項(1)の要件が含まれるが、第5項(2)の要件についてもこれを満たすものとする。
自己株式処分差額の認識時点
- 11. 第7項と同様に処理する。
従業員へのポイントの割当等に関する会計処理
- 12. 企業は、従業員に割り当てられたポイントに応じた株式数に、信託が自社の株式を取得したときの株価を乗じた金額を基礎として、費用及びこれに対応する引当金を計上する。信託による自社の株式の取得が複数回にわたって行われる場合には、従業員に割り当てられたポイントに関する費用及びこれに対応する引当金は、平均法又は先入先出法により算定する。
- 13. 信託から従業員に株式が交付される場合、企業はポイントの割当時に計上した引当金を取り崩す。引当金の取崩額は、信託が自社の株式を取得したときの株価に交付された株式数を乗じて算定する。信託による自社の株式の取得が複数回にわたって行われる場合には、引当金の取崩額は、平均法又は先入先出法により算定する。
期末における総額法の会計処理
- 14. 企業は、期末における総額法の適用に際して、以下に留意する。
- (1) 信託に残存する自社の株式(信託から従業員に交付していない株式)を、信託における帳簿価額(付随費用の金額を除く。)により株主資本において自己株式として計上する。信託における帳簿価額に含められていた付随費用は(2)の信託に関する諸費用に含めることとする。
- (2) 信託が保有する株式に対する企業からの配当金及び信託に関する諸費用の純額が、正の値となる場合には負債に、負の値となる場合には資産に、それぞれ適当な科目を用いて計上する。
- (3) 企業が保有する自己株式と信託が保有する自社の株式の帳簿価額の算定に関する取扱いについては、第8項(4)と同様に処理する。
- (4) 企業が信託に支払った配当金等の企業と信託との間の取引については、相殺消去を行わないものとする。
連結財務諸表における処理
子会社又は関連会社への該当の判定
- 15. 第4項の取引を実施する企業は、信託について子会社又は関連会社に該当するか否かの判定を要しない。なお、個別財務諸表における総額法の処理は、連結財務諸表作成上、そのまま引き継ぐものとする。
開示等
- 16. 第3項又は第4項の取引を行っている場合、各期の連結財務諸表及び個別財務諸表において、以下を注記する。なお、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記の内容が同一となる場合には、個別財務諸表の注記は、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる。
- (1) 取引の概要
- (2) 第8項(1)又は第14項(1)において計上された自己株式について、純資産の部に自己株式として表示している旨、帳簿価額及び株式数
- (3) 第3項の取引において、総額法の適用により計上された借入金の帳簿価額
- 17. 第8項(1)又は第14項(1)において計上された自己株式については、1株当たり当期純利益の算定上、期中平均株式数の計算において控除する自己株式に含める。また、1株当たり純資産額の算定上、期末発行済株式総数から控除する自己株式に含める。
- なお、1株当たり情報に関する注記を記載する場合には、第8項(1)又は第14項(1)において計上された自己株式を、控除する自己株式に含めている旨並びに期末及び期中平均の自己株式の数を注記する。
- 18. 第3項又は第4項の取引を行っており、かつ、連結株主資本等変動計算書又は個別株主資本等変動計算書の注記事項として自己株式の種類及び株式数に関する事項、並びに配当に関する事項を記載する場合(企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」第9項(1)②及び④並びに(2))には、当該事項に併せて以下を注記する。
- (1) 当期首及び当期末の自己株式数に含まれる信託が保有する自社の株式数
- (2) 当期に増加又は減少した自己株式数に含まれる信託が取得又は売却、交付した自社の株式数
- (3) 配当金の総額に含まれる信託が保有する自社の株式に対する配当金額
適用時期等
- 19. 平成25年公表の本実務対応報告は、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。ただし、平成25年公表の本実務対応報告公表後最初に終了する事業年度の期首又は四半期会計期間の期首から適用することができる。
- 20. なお、平成25年公表の本実務対応報告の適用初年度の期首(平成25年公表の本実務対応報告公表後最初に終了する四半期会計期間の期首から適用した場合は当該四半期会計期間の期首)より前に締結された信託契約に係る会計処理については、本実務対応報告の方法によらず、従来採用していた方法を継続することができる。この場合、各期の連結財務諸表及び個別財務諸表において、以下を注記する。なお、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記の内容が同一となる場合には、個別財務諸表の注記は、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる。
- (1) 取引の概要
- (2) 当該取引について、従来採用していた方法により会計処理を行っている旨
- (3) 信託が保有する自社の株式に関する以下の事項
- ① 信託における帳簿価額
- ② 当該自社の株式を株主資本において自己株式として計上しているか否か。
- ③ 期末株式数及び期中平均株式数
- ④ ③の株式数を1株当たり情報の算出上、控除する自己株式に含めているか否か。
- 20-2. 平成27年改正の本実務対応報告は、公表日以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。
議 決
- 21. 平成25年公表の本実務対応報告は、第278回企業会計基準委員会に出席した委員14名全員の賛成により承認された。
- 21-2. 平成27年改正の本実務対応報告は、第308回企業会計基準委員会に出席した委員13名全員の賛成により承認された。
結論の背景
経 緯
- 22. 平成20年11月の第166回企業会計基準委員会において、基準諮問会議より、従業員持株会に信託等を通じて自社の株式を交付する取引に係る会計処理の検討を求める提言がなされた。これを踏まえ、当委員会より平成21年2月に公表した「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点の整理」(以下「連結論点整理」という。)において、「新たな自社株式保有スキーム」に関して必要と思われる取扱いについて整理している。
- 23. その後、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引等が行われるようになったことに伴い会計処理にばらつきがみられるようになり、平成24年11月の第255回企業会計基準委員会において、基準諮問会議より、当該取引に関する会計処理及び開示を新規の審議テーマとして採り上げることの提言がなされた。これを踏まえ、当委員会では、当該取引に関する会計処理及び開示の審議を行い、平成25年7月2日に公開草案を公表して広く意見を求めた。平成25年公表の本実務対応報告は公開草案に対して一般から寄せられた意見を踏まえてさらに検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。
- 24. 本実務対応報告では、現状行われている実務を踏まえたうえで、当面の取扱いを示している。
- 24-2. 平成27年改正の本実務対応報告では、平成26年3月26日に単体開示の簡素化を図るため、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成26年内閣府令第19号)が施行され、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「財務諸表等規則」という。)等が改正されたことに伴い、個別財務諸表における1株当たり情報に関する注記及び自己株式に関する注記の取扱い(第17項及び第18項参照)を明らかにした。
範 囲
- 25. 本実務対応報告は、「従業員への福利厚生を目的として、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引(第3項)」と「従業員への福利厚生を目的として、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引(第4項)」を対象としているが、取引の内容がここに記載された内容と大きく異ならない取引について本実務対応報告の対象となるかどうかの判断に混乱が生じることを避けるため、第3項及び第4項において、「概ね以下から構成される。」という表現を用いている。
- 26. 平成25年公表の本実務対応報告の公開草案に寄せられたコメントの中には、役員に信託を通じて自社の株式を交付する取引や従業員等に信託を通じて親会社の株式を交付する取引など第3項及び第4項の取引以外の取引についても取扱いを示すべきとの意見があった。しかしながら、本実務対応報告は、第23項に記載しているとおり現状における実務のばらつきを縮小することの要請から開発したものであるため、現在行われている典型的な取引を対象としており、公開草案において提案した本実務対応報告の対象範囲を第3項及び第4項の取引以外の取引にまで広げることは行わないこととした。なお、本実務対応報告で取扱っていない取引については、内容に応じて、本実務対応報告を参考にすることが考えられる。また、今後の実務の状況により、必要に応じて、別途の対応を図ることも考えられる。
会計処理
従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理
個別財務諸表における処理
総額法の適用
- 27. 当委員会が平成21年に公表した連結論点整理の脚注10なお書きでは、いわゆる他益信託のうち、受益者が信託行為に定められた要件を満たすまで受益権を有しない場合は、受益者の定めのない信託(いわゆる目的信託)と類似しているため、目的信託に関する実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」の考え方を踏まえれば、委託者が信託の変更をする権限を有しており、委託者である当該企業に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであるとは認められない場合には、会計上、委託者である当該企業の財産として処理することが適当であると考えられるとしている。
- 28. 本実務対応報告では、現行の実務において、連結論点整理の脚注10なお書きに示された考え方に基づき判断している例が多いことを踏まえ、第5項において連結論点整理に記載された内容を踏襲している。
- 29. なお、第3項で特定された「従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引」については、信託の借入金に企業が債務保証を行っていることから、第5項(2)の要件を満たすものとした。
自己株式処分差額の認識時点
- 30. 自己株式処分差額の認識時点については、「企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識する方法」と「信託から従業員持株会へ株式を売却した時点で、企業において処分差額を認識する方法」の2つの方法が検討された。
- 31. 「企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識する方法」を採用する場合、信託への自己株式の処分により当該株式について会社法上の自己株式の規制を受けなくなることと親和的である。一方、「信託から従業員持株会へ株式を売却した時点で、企業において処分差額を認識する方法」を採用する場合、企業と信託との間の取引は認識されないため、総額法により信託財産を企業において計上する処理となじみやすい。
- 32. このように、検討された2つの方法にはそれぞれ一定の根拠があると考えられるが、検討の結果、自己株式処分差額の認識時点については、以下の理由により、企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識することとした。
- (1) 自己株式等会計適用指針の第5項において、自己株式の処分に関する会計処理について「募集株式の発行等の手続による自己株式の処分については、対価の払込期日(会社法第209条)に認識する。」と定められている。これは、自己株式等会計基準が、自己株式の処分を株主との間の資本取引であり資本の払込の性格を有すると位置づけた上で、会社法上、募集株式の発行等の手続による自己株式の処分の効力が生じるのが払込期日とされている取扱いとの整合性を踏まえた会計処理としたものである。企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識する方法はこの自己株式等会計基準及び自己株式等会計適用指針の考え方と親和性が高い。
- (2) 本実務対応報告は従業員を受益者とする他益信託を対象としており企業と当該信託を同一の存在とみなすことは必ずしも適切ではないと考えられる点と、企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識することは整合的である。
- なお、企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識することと、期末において総額法により信託に残存する自社の株式を企業において計上することとは整合しないとの意見が聞かれるが、これは、総額法の適用により信託における借入金を企業に取り込むべき等の考え方と上記の自己株式等会計適用指針の考え方との双方を満たすことにより生じた結果である。
期末における総額法等の会計処理
- 33. 企業における信託に対する総額法の適用において、信託財産に含まれる自社の株式の計上の方法としては、主に「資産として計上する方法」と「株主資本から控除する方法」の2つの方法が考えられる。
- 34. 「資産として計上する方法」は、自己株式を信託に対して処分したとする会計処理となじみやすいが、以下の点を考えると採用が難しいと考えられる。
- (1) 自己株式を株主資本から控除すると定めている自己株式等会計基準の定めに適合しない可能性がある。
- (2) 資産として計上する場合、有価証券として金融商品会計基準の適用対象となる可能性があり、その場合、減損損失が計上されることもあり得る。自社の株式の株価の変動を損益に反映する処理は、通常は適切ではないと考えられる。
- 35. こうした検討を踏まえ、信託財産に含まれる自社の株式については、自己株式等会計基準の定めに従い、総額法の適用に際して株主資本から控除することとした。なお、自己株式等会計基準では自己株式の取得に関する付随費用は、損益に計上することとされていることを踏まえ、信託における帳簿価額から付随費用の金額を除いた額を株主資本から控除することとし、当該付随費用は信託に関する諸費用に含めることとした。
- 36. また、信託における損益は最終的に従業員に帰属するため、総額法の適用において、将来精算されることになる仮勘定として資産又は負債に計上されることになる。
- 37. 平成25年公表の本実務対応報告の公開草案に寄せられたコメントの中には、総額法の適用において、企業と信託の間で発生した取引等を相殺して表示すべきか否かについて定めを設けるべきという意見があった。これについては、本実務対応報告において必ずしも会社と信託を一体と捉えている訳ではないことを踏まえ、企業が信託に支払った配当金等の企業と信託との間の取引は相殺消去を行わないものとした。
連結財務諸表における処理
子会社又は関連会社への該当の判定
- 38. 本実務対応報告では、総額法により信託財産が企業の個別財務諸表において計上される結果、実質的に信託財産がすべて連結財務諸表に反映済みであるという点を考慮し、信託について子会社又は関連会社に該当するか否かの判定を要しないこととした。
受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理
個別財務諸表における処理
総額法の適用
- 39. 「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」においても、「従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引」と同様の理由で、連結論点整理の脚注10なお書きに示された考え方を踏襲している。
- 40. なお、第4項で特定された「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」について、「信託財産の経済的効果の帰属」を信託財産の運用成績の帰属と考えると、当初の資金拠出後に委託者である企業に信託財産の運用成績は帰属しないため、第5項(2)の要件を満たさないとの意見がある。
- 41. しかしながら、企業への労働サービスの提供の対価として従業員に信託財産である自社の株式が交付されることを考えると、企業に追加的に労働サービスが提供され、当該サービスを企業が消費することにより、信託財産の経済的効果が企業に帰属する側面もあると考えられることから、第4項で特定された「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」についても当該要件を満たすものとしている。
自己株式処分差額の認識時点
- 42. 「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」における自己株式処分差額の認識時点については、「従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引」における処理との整合性を考慮し、「企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識する方法」を採ることとした。
- 43. これについて、「従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引」では信託による資金調達が金融機関等からの借入により行われるのに対し、「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」では企業からの資金の拠出により行われることから、信託に対する自己株式の処分が経済的実態として行われているかどうかについて従業員持株会の取引と異なる判断の余地があり、必ずしも両者の整合性を取る必要はないとする意見もある。
- 44. しかしながら、これらの取引は、いずれも企業と同一の存在とはみなせない他益信託を利用すること及び自己株式の処分が法的に有効であることを前提としていることから、異なる考え方を採ることは適当ではないと考え、「従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引」との整合性を考慮した取扱いとしている。
従業員へのポイントの割当等に関する会計処理
- 45. 「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」は、将来自社の株式を従業員に交付することを約束する点で、ストック・オプションに類似した性質がある。ただし、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」という。)では、自社の株式を財貨又はサービスの対価として交付する取引の会計処理を定めているが、超長期にわたる従業員サービスの対価として自社の株式を交付する場合が想定されているか否かは必ずしも明らかではないという意見がある。
- また、同基準では、従業員等に付与する報酬の額が何らかの形で自社の株式の市場価格に連動するものであっても、自社株式オプションや自社の株式を用いない限り適用対象とはならないとしている。したがって、「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」は、他益信託が自社の株式を交付していても、それは企業と同一の存在とはみなせず、企業はその自社の株式の価額に相当する資金を拠出しているにすぎないため、同基準が直接は適用されないという意見もある。
- 46. また、「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」において退職時に自社の株式が交付される場合、ポイント制度を採用する退職給付制度と類似した性質もあり、こうした制度の取扱いについては、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び退職給付適用指針の退職給付見込額の期間帰属方法の定めにおいて考え方が示されている。しかしながら、ポイントの行使により自社の株式を含む現物が交付される場合については、同基準及び同指針では取扱いが定められていないため、これらの基準等は、直接は適用されないものと考えられる。
- 47. 上記を踏まえ、各従業員へのポイントの割当の会計処理について、費用配分のあり方の観点から、「信託への資金拠出時の株価を基礎とする方法」、「ポイント割当時の株価を基礎とし、その後の株価変動は反映しない方法」及び「ポイント割当時の株価を基礎とし、給付確定まで毎期の株価変動を反映する方法」の3つの方法の検討を行った。
以下の検討の結果、割り当てられたポイントの費用の測定においては、「信託への資金拠出時の株価を基礎とする方法」を用いることが適当であると考えられた。 - 48. 「信託への資金拠出時の株価を基礎とする方法」を支持する意見は、以下のとおりである。
- (1) 当該取引の自社の株式を用いたインセンティブ・プランとしての性質を踏まえた場合、取引の性質としてストック・オプションと類似性があると考えられるため、ストック・オプション会計基準と同様に、取引開始後の自社の株式の株価を反映しない処理とすべきである。
- (2) 企業の負担は信託に資金を拠出した時点で確定しているため、当該費用総額を予定される交付株式数で配分することが適切である。
- (3) 自己株式の処分を、「企業から信託へ自社の株式を処分した時点で処分差額を認識する方法」とすることと整合的である。
- 49. 一方、当該方法を支持しないとする意見は、以下のとおりである。
- (1) 当該取引において従業員からの労働サービスの提供を期待して自社の株式が交付されると考えると、労働サービスと自社の株式の等価交換が行われると考えるのが適当であり、交換時点の株式の時価を基礎として労働サービスの価値、すなわち費用の金額を測定しないのは合理的でないと考えられる。
- (2) ポイントの割当が長期間にわたる場合、引当金の残高は相当以前の株価を基礎とした金額となる。将来の費用負担の見積りの結果であるべき金額が、株式の従業員への給付時の株価となっていないことは適切ではない。
- 50. 「ポイント割当時の株価を基礎とし、その後の株価変動は反映しない方法」を支持する意見は、以下のとおりである。
- 当該取引において従業員からの労働サービスの提供を期待して自社の株式が交付されると考えると、労働サービスと自社の株式の等価交換が行われると考えるのが適当であり、一般に、労働サービスの価値は直接的に測定することが困難であるため、これと交換に交付される株式の時価を基礎として労働サービスの価値、すなわち費用の金額を測定することが合理的であると考えられる。
- 51. 一方、当該方法を支持しないとする意見は、以下のとおりである。
- (1) 企業の負担は信託に資金を拠出した時点で確定しているため、ポイント割当の都度、費用額を算定し直すことは適切ではない。
- (2) 「企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識する方法」を採る場合、信託から従業員への株式の交付時に、信託による株式の取得価額とそれまでの引当金計上額との精算による損益を計上することとなるが、その損益の性質を意味づけることが難しい。
- 52. 「ポイント割当時の株価を基礎とし、給付確定まで毎期の株価変動を反映する方法」を支持する意見は、以下のとおりである。
- ポイントの割当に対する引当金について、企業の将来の負担に関する最善の見積りを行うものと考えるならば、各期末の株価を基礎として引当金の評価替えを行い、最終的な費用計上額は株式の従業員への交付時の株価を基礎とすべきである。
- 53. 一方、当該方法を支持しないとする意見は、以下のとおりである。
- (1) 企業の負担は信託に資金を拠出した時点で確定しているため、ポイント割当の都度、費用額を算定し直すことは適切ではない。
- (2) 「企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識する方法」を採る場合、信託から従業員への株式の交付時に、信託による株式の取得価額とそれまでの引当金計上額との精算による損益を計上することとなるが、その損益の性質を意味づけることが難しい。
- (3) 株価の変動に伴う引当金の洗替えの結果、ポイントの割当に関する費用が負の値となる可能性がある。
- (4) 本取引で交付されるのは自社の株式であり、自社の株式の株価の変動は企業の資産及び負債の変動をもたらさないため、引当金の評価替えを行うことになじまない。
- 54. また、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引には、受給権の確定に関して、退職時に交付される株式数が確定するもの(便宜的に「退職時給付型」という。)と、在職中の一定の時期に交付される株式数が確定するもの(便宜的に「在職時給付型」という。)がある。これらについては、以下のように異なる性質があると考えられることから、その性質の違いにより会計処理を区別する必要性についても検討された。
- (1) 一般に、長期のスキームとなる退職時給付型では、一定程度追加信託が生じる可能性があると考えられるが、比較的短期の在職時給付型では追加信託は想定されておらず、当初の資金拠出で交付が行われる可能性が高いと考えられる。
- (2) 比較的短期の自社株式を用いたインセンティブ・プランという意味で、在職時給付型はストック・オプションとの類似性が高いと考えられる。
- ただし、退職時給付型か在職時給付型かによって異なる会計処理を適用することは取引の実態に必ずしも合わないことから、会計処理の区別の必要性については、企業による追加負担の可能性に着目して検討された。
- 55. 上記の検討の結果、企業による追加負担の可能性が比較的低いスキームについては、ストック・オプションとの類似性から、「信託への資金拠出時の株価を基礎とする方法」が適当であるとの結論に至った。
- 56. 他方、企業による追加負担の可能性が比較的低くないスキームについては、「信託への資金拠出時の株価を基礎とする方法」と「ポイント割当時の株価を基礎とし、その後の株価変動は反映しない方法」を中心に検討が行われたが、以下の理由で企業による追加負担の可能性が比較的低いスキームと同様に「信託への資金拠出時の株価を基礎とする方法」が適当であると考えられた。
- (1) 企業会計では一般的に労働サービスの価値を従業員の業績により直接測定することは困難であり、対価の額で測定することとしている。本実務対応報告が対象としている取引においては、各期における従業員の業績と当該期間の株価の連動性は必ずしも明らかではない。
- (2) 企業による追加負担の可能性をスキームごとに客観的に判断することが容易ではない。
- (3) 信託から従業員への自社の株式の交付時において、信託による株式の取得価額とそれまでの引当金計上額との精算による損益を意味づけることが難しい。
- (4) 追加負担の可能性が比較的低くないスキームについては追加的な資金拠出額を合理的に算定することが困難な場合が多いと想定されるが、そのような場合であっても、確定した都度、費用となる金額を確定し配分していく方法が一般に認められると考えられる。
- 57. なお、実務的には、信託への資金拠出と信託による株式の取得はほぼ同じ時期に行われることが多いものの、以下のような点を考慮し、最終的には、信託による株式取得時の株価を基礎として費用を算定することとした。
- (1) 信託への資金拠出時の株価で引当金を計上しても、引当金の取崩しは信託による株式の取得原価を基礎に行われるため処理が煩雑となる。
- (2) 企業からの配当金を原資として信託による株式の取得が行われる場合、資金拠出時の株価が存在せず、費用を算定するための基礎となる株価を別途定める必要が生じる。
- 58. 第12項では信託による企業の株式の取得が複数回にわたって行われる場合の取扱いを定めており、拠出された資金を用いて信託が段階的に企業の株式を取得していく場合や、企業による追加的な資金拠出又は配当金を原資として信託による企業の株式の追加取得が行われる場合が想定される。
- 59. また、平成25年公表の本実務対応報告の公開草案に寄せられたコメントの中には、信託が保有する株式に対する企業からの配当金を原資として、信託にて企業の株式を取得する場合の具体的な処理について明示することを求めるものがあった。この点については、「株式取得時は企業からの拠出金により取得した株式と同様に処理し、信託終了時に第14項(2)により計上される負債を精算する方法」、「信託における配当金の受取りなどにより生じた余剰金で取得した株式の金額を、当該期のポイントに関する費用から控除する方法」及び「信託における配当金の受取りなどにより生じた余剰金で取得した株式について、ポイントに関する費用を算定するための基礎となる株価を零と考える方法」が検討された。
- 「株式取得時は企業からの拠出金により取得した株式と同様に処理し、信託終了時に第14項(2)により計上される負債を精算する方法」は信託による株式の取得の原資(企業から拠出された資金を原資とするか企業からの配当金を原資とするか)は、信託期間中における従業員へのポイントの割当に関する費用に影響を与えず、第14項(2)により計上される負債は信託終了時に減少するという考え方に基づくものである。
- 「信託における配当金の受取りなどにより生じた余剰金で取得した株式の金額を、当該期のポイントに関する費用から控除する方法」及び「信託における配当金の受取りなどにより生じた余剰金で取得した株式について、ポイントに関する費用を算定するための基礎となる株価を零と考える方法」は、信託における配当金の受取りなどにより生じた余剰金により株式を取得することは、最終的に従業員に帰属する信託の余剰金を減少させることになるため、第14項(2)により将来精算される仮勘定として計上される負債も減少するとの考え方に基づくものである。
- これらの方法は、それぞれ一定の根拠があると考えられるが、検討の結果、当該取引は頻繁に発生するものではなく、金額的重要性も低いことが想定されるため、本実務対応報告においては具体的な処理について明示しないこととした。
連結財務諸表における処理
子会社又は関連会社への該当の判定
- 60. 第38項と同様の理由で、総額法により信託財産が企業の個別財務諸表において計上される結果、子会社又は関連会社に該当するか否かの判定を要しないこととした。
開示等
- 61. 第3項の取引における信託の借入金は、信託が保有する株式の価格が下落しない場合には、当該株式の売却資金で返済がなされるため一定の返済原資が確保されていること及び借入金利息を企業が負担しないことから、通常の借入金等の債務とは性格が異なるため、各期において信託の借入金の帳簿価額の注記を求めることとした。
- 62. 1株当たり情報の算定にあたっては、総額法により純資産の部から控除する信託保有の自社の株式の取扱いが論点になり、「通常の自己株式と同様に発行済株式総数からの控除対象とする方法」と「発行済株式総数からの控除対象としない方法」の2つの方法が検討された。
- 63. 「通常の自己株式と同様に発行済株式総数からの控除対象とする方法」は、総額法により期末に信託財産(自社の株式)を企業の個別財務諸表に計上することとの整合性を考慮するもので、「発行済株式総数からの控除対象としない方法」は、信託が保有する株式が通常の自己株式と異なり自益権や共益権を有することから、同列に取り扱うべきでないとする考え方を考慮するものである。
- 64. 検討の結果、総額法により当該株式を純資産の部から控除する会計処理との整合性を考慮し、「通常の自己株式と同様に発行済株式総数からの控除対象とする方法」によることとした。
- 65. また、信託の保有する株式は通常の自己株式と異なる性質を有することから、信託が保有する株式を控除対象とする自己株式に含めている旨を注記するとともに、これを控除しないとした場合の1株当たり情報を算定することができるように、自己株式に含めた信託の保有する期末の株式数、帳簿価額及び1株当たり当期純利益の算定上、控除する自己株式に含めた信託の保有する株式の期中平均株式数を注記することとした。
- 65-2. 前項に関連し、平成26年3月に改正された財務諸表等規則において、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、1株当たり当期純損益金額及び潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額に関する注記並びに自己株式に関する注記を記載することを要しない(財務諸表等規則第95条の5の2第3項、第95条の5の3第4項及び第107条第2項)とされたことから、個別財務諸表における1株当たり情報に関する注記及び自己株式に関する注記の取扱い(第17項及び第18項参照)について開示の要否が明確でないという意見が聞かれた。
- この財務諸表等規則の改正を踏まえ、1株当たり情報に関する注記及び自己株式に関する注記が個別財務諸表において開示されない中で、第17項に定めた注記及び第18項に定めた注記のみの開示を求める趣旨ではないことを明らかにするため、平成27年改正の本実務対応報告では、1株当たり情報に関する注記を記載する場合には第17項に定めた注記を、連結株主資本等変動計算書又は個別株主資本等変動計算書の注記事項として自己株式の種類及び株式数に関する事項、並びに配当に関する事項を記載する場合には第18項に定めた注記を記載することとした。
- 66. 信託の保有する株式は、本実務対応報告においては1株当たり情報の算定上、控除対象の自己株式に含めることとしたが、当該株式は将来従業員等への交付に伴い1株当たり情報の算定の分母に含められることになることから、潜在株式に該当するか否かが論点となる。この点について、企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」では、ワラントや転換証券あるいはストック・オプションといった、保有者が普通株式を取得できる権利若しくは普通株式への転換請求権又はこれに準ずる権利が付された証券又は契約を主に潜在株式として想定していることから、本実務対応報告においては当該株式を潜在株式として取り扱わないこととした。
- 67. なお、平成25年公表の本実務対応報告の公開草案に対して寄せられたコメントの中には、本実務対応報告に定めている取引の概要の注記に関して、注記が必要とされる項目を列挙すべきとの意見があった。この点については、検討の結果、本実務対応報告の対象とする取引には多様なスキームが想定されることから、一律に詳細な注記事項を定めることは適切ではないと考えられ、注記が必要とされる項目の列挙は行わないこととした。
- 68. また、平成25年公表の本実務対応報告の公開草案に対して寄せられたコメントの中には、本実務対応報告が対象とする信託が、企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」(以下「関連当事者会計基準」という。)で定める関連当事者に該当するかどうか、又は関連当事者との取引に関する開示が必要となるのかどうかについて、明確化を求める意見があった。この点については、本実務対応報告が対象とする信託は子会社又は関連会社に該当しないことを前提とすると、関連当事者会計基準第5項(3)①から⑪のいずれにも該当しないこと、及び、同基準第25項に記載されているように包括的な規定としての「その他の関連当事者」を設けなかった趣旨を踏まえると、関連当事者には該当しないものと考えられる。
- 69. さらに、平成25年公表の本実務対応報告の公開草案に対して寄せられたコメントの中には、関連当事者と本実務対応報告が対象とする信託との取引が、関連当事者会計基準第10項に定める開示対象となる関連当事者との取引に該当するかどうかについて、明確化を求める意見があった。この点については、本実務対応報告が対象とする取引は期末に総額法を適用することとしているが、必ずしも会社と信託を一体と捉えている訳ではない(第32項参照)。したがって、関連当事者と信託との取引は、関連当事者と会社との取引ではなく、関連当事者との取引に該当しないものと考えられる。
適用時期等
- 70. 平成25年公表の本実務対応報告は、適用にあたって一定の周知期間が必要と考えられるため、公表後一定の期間を経過した後に開始する事業年度の期首から適用することとした。しかしながら、平成25年公表の本実務対応報告が公表された時点から新たな定めに従った会計処理の採用を求める要請がある可能性を考慮し、公表後最初に終了する事業年度の期首又は四半期会計期間の期首からの適用を認めることとした。
- 71. また、本件を当委員会において検討することとなった背景には、実務上生じている会計処理のばらつきをなくすことへの期待がある。本実務対応報告に定めた方法で、平成25年公表の本実務対応報告適用前に実施された会計処理を遡及的に修正することが、企業間の比較可能性の向上に資すると考えられる。
- 72. しかしながら、本実務対応報告の範囲となる取引は一定期間にわたり継続する取引であり、取引の開始から数年経過している企業も多数あるという点などを考慮すると、平成25年公表の本実務対応報告適用前に実施された会計処理に遡及適用を求めることについては、実務上の困難を伴う可能性が高いと考えられる。
一方で、企業によっては新たな定めが公表されることにより、従前の処理を見直し比較可能性を図る要請もあると考えられる。 - 73. これらの点を踏まえ、平成25年公表の本実務対応報告は、既存の取引について、同報告が定める新たな会計方針の適用を行わないことができる旨の経過的な取扱いを定めることとした。
ただし、その場合においても、当該取引が自己株式に関連するものであり、1株当たり情報に対する影響があることを考慮し、一定の注記を求めることとした。
設 例
- 以下の設例は、本実務対応報告で示された内容について理解を深めるためのものであり、仮定として示された前提条件の記載内容は、経済環境や各企業の実情等に応じて異なることに留意する必要がある。また、設例で示している勘定科目は会計処理を行うための例示であり、最終的な表示は実態に応じて各企業で判断することになる。なお、設例については、いずれも税効果会計を考慮していない。
設例
- [設例1] 従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引(債務保証の履行が生じない場合)
- 1. 前提条件
- (1) 他益信託の設定時(X1年4月)
・A社(決算期3月末)は、委託者として、一定の要件を満たした企業の従業員を受益者、信託銀行を受託者とする信託契約(決算期3月末)に基づき、金銭10の他益信託の設定を行う(当該金銭は、信託の設定及び運営の諸費用に用いられる。)。A社は、信託の変更をする権限を有しているものとする。 - (2) 信託における借入時(X1年4月)
・受託者は、信託にて、他の金融機関から250の借入(信託は年間利息10を期末に支払う。)を行い、A社はその全額に対し債務保証を行う(信託はA社に年間保証料2を期首に支払う。)。 - (3) A社から信託への自己株式の処分時(X1年4月)
・A社は、信託に対し時価250で、募集株式の発行等の手続による自己株式100株(帳簿価額200)の処分を行い、金銭250を受け取る7。 - (4) 信託におけるA社株式の売却時(X1年4月からX2年3月)
・受託者は、信託を通じてA社株式60株をA社従業員持株会に対して時価180で売却する。 - (5) A社の決算時(X2年3月)
・A社の決算において、信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。なお、信託においては当期に諸費用6、支払利息10及び支払保証料2((2)参照)が生じている。 - (6) 信託におけるA社株式の売却時(X2年4月からX3年3月)
・受託者は、信託を通じてA社株式40株をA社従業員持株会に対して時価120で売却した。
・信託は期首にA社へ保証料2を支払っている。 - (7) A社の配当支払時(X2年6月)
・A社は発行済株式1株当たり1の配当を支払う。配当を受け取る権利はX2年3月末で確定し、信託はX2年3月末時点で保有する株式40株に対して配当を受け取る。なお、便宜的に、ここでは信託が保有する株式に対する配当のみを会計処理上考慮する。 - (8) 信託における借入金の返済時(X3年3月)
・受託者は、金融機関に信託の借入250を返済する。 - (9) A社の決算時(X3年3月)
・A社の決算において、信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。なお、信託においては当期に諸費用6、支払利息10及び支払保証料2((6)参照)が生じている。
・信託期間はX3年3月末で終了し、従業員に残余財産の分配が行われる。 - 2. 会計処理

- (1) 他益信託の設定時(X1年4月)

- 信託設定された金銭10は、信託の設定及び運営の諸費用に用いられるため、ここでは信託口として処理している。
- (2) 信託における借入時(X1年4月)
- 信託から保証料2を受け取る(信託における借入及び利息支払いに関する仕訳はなし。)。

- (3) A社から信託への自己株式の処分時(X1年4月)
- 募集株式の発行等の手続による自己株式の処分による自己株式処分差額は、その他資本剰余金を増減させる(自己株式等会計基準第9項及び第10項)。

- (4) 信託におけるA社株式の売却時(X1年4月からX2年3月)
- (仕訳なし)
- (5) A社の決算時(X2年3月)

- (*1)信託にて取得したA社株式100株(取得価額250)のうち、当期に180で売却された60株の取得価額は150(=60株×250/100株)であるため売却益は30、また、未売却40株の残高は100(=40株×250/100株)となる。
- 信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。

- 信託設定時に信託口とした10を信託元本と相殺する。

- 信託の損益(A社株式売却損益を含む。)は、従業員に帰属するため、信託口に振り替える。

- 信託におけるA社株式は、A社において自己株式に振り替え、純資産の部における株主資本の控除項目とする(自己株式等会計基準第7項)。


- (6) 信託におけるA社株式の売却時(X2年4月からX3年3月)
- 信託から保証料2を受け取る(信託における株式売却に関する仕訳はなし。)。

- (7) A社の配当支払時(X2年6月)
- 信託が保有する株式に対する配当金の支払いを認識する。

- (8) 信託における借入金の返済時(X3年3月)
- (仕訳なし)
- (9) A社の決算時(X3年3月)

- (*2) 信託に残った財産(現金預金64)は、従業員に配分される。
- (*3) 信託にて取得したA社株式100株(取得価額250)のうち、当期に120で売却された40株の取得価額は100(=40株×250/100株)であるため、売却益は20となる。
- (*4) 前期の信託における利益12についての未払分である。
- 信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。
- (前期分の資産及び負債の計上の振戻し)

- (当期分の計上)

- 信託設定時に信託口とした10を信託元本と相殺する。

- 信託の損益(A社株式売却損益を含む。)は、従業員に帰属するため、振替を行う。なお、従業員に帰属する財産は既に信託側で分配済みであるため、残余財産の分配と相殺する。これと併せて、信託への拠出額の費用処理(便宜的に福利厚生費を用いている。)を行っている。ここでは信託終了時に信託への拠出額の費用処理を行っているが、信託期間にわたって按分することも考えられる。


- [設例2] 従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引(債務保証の履行が生じる場合)
- 1. 前提条件
- (1)から(5)までは、設例1と同じ。
- (6) 信託におけるA社株式の売却時(X2年4月からX3年3月)
・受託者は、信託を通じてA社株式40株をA社従業員持株会に対して時価40で売却した。
・信託は期首にA社へ保証料2を支払っている。 - (7) A社の配当支払時(X2年6月)
・A社は発行済株式1株当たり1の配当を支払う。配当を受け取る権利はX2年3月末で確定し、信託はX2年3月末時点で保有する株式40株に対して配当を受け取る。なお、便宜的に、ここでは信託が保有する株式に対する配当のみを会計処理上考慮する。 - (8) 信託における借入金の返済時(X3年3月)
・受託者は、金融機関に信託の借入250を返済するが、不足額16についてA社が債務保証の履行により支払う。 - (9) A社の決算時(X3年3月)
・A社の決算において、信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。なお、信託においては当期に諸費用6、支払利息10及び支払保証料2((6)参照)が生じている。
・信託期間はX3年3月末で終了し、従業員に残余財産の分配が行われる。本設例では、分配される残余財産はない。 - 2. 会計処理
- (1)から(5)までは、設例1と同じ。
- (6) 信託におけるA社株式の売却時(X2年4月からX3年3月)
- 信託から保証料2を受け取る(信託による株式売却に関する仕訳はなし。)。

- 信託における取得価額より低い価格で売却したことなどにより、信託の終了時に信託における借入金の返済原資の不足が見込まれる場合には、引当金の認識の要否の検討が必要となると考えられる。ここでは、便宜的に引当金を認識していない。
- (7) A社の配当支払時(X2年6月)
- 信託が保有する株式に対する配当金の支払いを認識する。

- (8) 信託における借入金の返済時(X3年3月)

- 受託者により借入金の返済が行われても、A社において会計処理は生じない。
- 保証履行部分については、費用として処理する。
- (9) A社の決算時(X3年3月)

- (*1) 信託にて取得したA社株式100株(取得価額250)のうち、当期に40で売却された40株の取得価額は100(=40株×250/100株)であるため、売却損は60となる。
- (*2) 前期の信託における利益12についての未払分である。
- 信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。
- (前期分の資産及び負債の計上の振戻し)

- (当期分の計上)

- 信託設定時に信託口とした10を信託元本と相殺する。

- 信託の損益(A社株式売却損益を含む。)は、従業員に帰属するため、振替を行う。これと併せて、信託への拠出額の費用処理(便宜的に福利厚生費を用いている。)を行っている。ここでは信託終了時に信託への拠出額の費用処理を行っているが、信託期間にわたって按分することも考えられる。


- [設例3] 受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引(信託が市場から株式を取得するケース)
- 1. 前提条件
- (1) 他益信託の設定時(X1年4月)
・A社(決算期3月末)は、委託者として、一定の要件を満たした当該企業の従業員を受益者、信託銀行を受託者とする信託契約(決算期3月末)に基づき、金銭260の他益信託の設定を行う(当該金銭は、交付される株式の取得、信託の設定及び運営の諸費用に用いられる。)。A社は、信託の変更をする権限を有しているものとする。
・A社は株式給付規程を設定する。規程に基づき、従業員は受給権確定時に1ポイント当たり1株のA社株式を受け取ることができるものとする。 - (2) 信託によるA社株式の市場からの購入時(X1年4月)
・受託者は信託を通じて、時価250(1株当たり2.5)で、A社株式100株を市場から取得する。なお、株式の取得時における付随費用は考慮していない。 - (3) A社による従業員へのポイント割当時(X1年9月)
・A社は、あらかじめ定めた株式給付規程に基づき、従業員に60ポイントの株式給付に関する権利を割り当てる。なお、このポイントの割当に関する費用はX2年3月期の会計期間全体で負担するものとする。 - (4) 信託による従業員への自社の株式の交付時(X1年9月からX2年3月)
・受託者は、受給権の確定により、従業員に信託から40株の株式を交付する。 - (5) A社の決算時(X2年3月)
・A社の決算において、信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。なお、信託においては当期に諸費用6が生じている。 - (6) A社の配当支払時(X2年6月)
・A社は発行済株式1株当たり1の配当を支払う。配当を受け取る権利はX2年3月末で確定し、信託はX2年3月末時点で保有する株式60株に対して配当を受け取る。なお、便宜的に、ここでは信託が保有する株式に対する配当のみを会計処理上考慮する。 - (7) A社による従業員へのポイント割当時(X2年9月)
・A社は、従業員に40ポイントの株式給付に関する権利を割り当てる。なお、このポイントの割当に関する費用はX3年3月期の会計期間全体で負担するものとする。 - (8) 信託による従業員への自社の株式の交付時(X2年4月からX3年3月)
・受託者は、受給権の確定により、従業員に信託から60株の株式を交付する。 - (9) A社の決算時(X3年3月)
・信託において当期に諸費用4が生じている。
・信託期間はX3年3月末で終了し、従業員に残余財産の分配が行われる。 - 2. 会計処理

- (1) 他益信託の設定時(X1年4月)

- 信託設定された金銭は、交付される株式の取得、信託の設定及び運営の諸費用に用いられるため、ここでは信託口として処理している。
- (2) 信託によるA社株式の市場からの購入時(X1年4月)
- (仕訳なし)
- (3) A社による従業員へのポイント割当時(X1年9月)
- ポイントの割当に関する費用は、便宜的に福利厚生費を用いている。

- (*1) 2.5/1株(信託による株式取得時の株価)×60株=150
- (4) 信託による従業員への自社の株式の交付時(X1年9月からX2年3月)
- (仕訳なし)
- 株式の交付に伴う引当金の取崩処理は、期末に一括して行うものとする。
- (5) A社の決算時(X2年3月)

- 信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。

- 金銭の信託の元本は、A社で信託口として処理されているため、これを相殺する。

- 信託の損益は、従業員に帰属するため、諸費用を資産に振り替える。便宜的に信託口を使用している。

- A社においてポイントの割当に関する費用計上はすでに行われているため、信託におけるA社株式交付費用を取り消し、A社株式に振り戻す。

- 信託から従業員に対して株式の交付が行われた部分について引当金の取崩しを行う。

- (*2) 2.5/1株(信託による株式取得時の株価)×40株=100
- 信託におけるA社株式は、A社において自己株式に振り替え、純資産の部における株主資本の控除項目とする(自己株式等会計基準第7項)。


- (6) A社の配当支払時(X2年6月)
- 信託が保有する株式に対する配当金の支払いを認識する。

- (7) A社による従業員へのポイント割当時(X2年9月)

- (*3) 2.5/1株(信託による株式取得時の株価)×40株=100
- (8) 信託による従業員への自社の株式の交付時(X2年4月からX3年3月)
- (仕訳なし)
- 株式の交付に伴う引当金の取崩処理は、期末に一括して行うものとする。
- (9) A社の決算時(X3年3月)

- (*4)信託終了時に信託が保有していた現金預金は、従業員に分配されたものとしている。
- 信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。
- (前期分の資産及び負債の計上の振戻し)

- (当期分の計上)

- 金銭の信託の元本は、A社で信託口として処理されているため、これを相殺する。

- 信託の損益は、従業員に帰属するため、振替を行う。これと併せて、信託への拠出額の費用処理(便宜的に福利厚生費を用いている。)を行う。ここでは信託終了時に信託への拠出額の費用処理を行っているが、信託期間にわたって按分することも考えられる。

- A社においてポイントの割当に関する費用計上はすでに行われているため、信託におけるA社株式交付費用を取り消し、A社株式に振り戻す。

- 信託から従業員に対して株式の交付が行われた部分について引当金の取崩しを行う。

- (*5) 50(前期末の引当残高)+100(X2年9月の費用引当額)=150
- 前期のA社株式の交付を、当期における前期の決算処理の振戻しによりいったん取り消しているが、既に確定しているものであるため、再度計上する。


- [設例4] 受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引(信託が企業の自己株式を取得するケース)
- 1. 前提条件
- (1) 他益信託の設定時(X1年4月)
・A社(決算期3月末)は、委託者として、一定の要件を満たした当該企業の従業員を受益者、信託銀行を受託者とする信託契約(決算期3月末)に基づき、金銭260の他益信託の設定を行う(当該金銭は、交付される株式の取得、信託の設定及び運営の諸費用に用いられる。)。A社は、信託の変更をする権限を有しているものとする。
・A社は株式給付規程を設定する。規程に基づき、従業員は受給権確定時に1ポイント当たり1株のA社株式を受け取ることができるものとする。 - (2) A社から信託への自己株式の処分時(X1年4月)
・A社は当該信託に対し時価250で、募集株式の発行等の手続による自己株式100株(帳簿価額200)の処分を行い、金銭250を受け取る。 - (3) A社による従業員へのポイント割当時(X1年9月)
・A社は、あらかじめ定めた株式給付規程に基づき、従業員に60ポイントの株式給付に関する権利を割り当てる。なお、このポイントの割当に関する費用はX2年3月期の会計期間全体で負担するものとする。 - (4) 信託による従業員への自社の株式の交付時(X1年9月からX2年3月)
・受託者は、受給権の確定により、従業員に信託から40株の株式を交付する。 - (5) A社の決算時(X2年3月)
・A社の決算において、信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。なお、信託においては当期に諸費用6が生じている。 - (6) A社の配当支払時(X2年6月)
・A社は発行済株式1株当たり1の配当を支払う。配当を受け取る権利はX2年3月末で確定し、信託はX2年3月末時点で保有する株式60株に対して配当を受け取る。なお、便宜的に、ここでは信託が保有する株式に対する配当のみを会計処理上考慮する。 - (7) A社による従業員へのポイント割当時(X2年9月)
・A社は、従業員に40ポイントの株式給付に関する権利を割り当てる。なお、このポイントの割当に関する費用はX3年3月期の会計期間全体で負担するものとする。 - (8) 信託による従業員への自社の株式の交付時(X2年4月からX3年3月)
・受託者は、受給権の確定により、従業員に信託から60株の株式を交付する。 - (9) A社の決算時(X3年3月)
・信託において当期に諸費用4が生じている。
・信託期間はX3年3月末で終了し、従業員に残余財産の分配が行われる。 - 2. 会計処理

- (1) 他益信託の設定時(X1年4月)

- 信託設定された金銭は、給付される株式の取得、信託の設定及び運営の諸費用に用いられるため、ここでは信託口として処理している。
- (2) A社から信託への自己株式の処分時(X1年4月)
- 募集株式の発行等の手続による自己株式の処分による自己株式処分差額は、その他資本剰余金を増減させる(自己株式等会計基準第9項及び第10項)。

- (3) A社による従業員へのポイント割当時(X1年9月)
- ポイントに関する費用は、便宜的に福利厚生費を用いている。

- (*1) 2.5/1株(信託による株式取得時の株価)×60株=150
- (4) 信託による従業員への自社の株式の交付時(X1年9月からX2年3月)
- (仕訳なし)
- 株式の交付に伴う引当金の取崩処理は、期末に一括して行うものとする。
- (5) A社の決算時(X2年3月)

- 信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。

- 金銭の信託の元本は、A社で信託口として処理されているため、これを相殺する。

- 信託の損益は、従業員に帰属するため、諸費用を資産に振り替える。便宜的に信託口を使用している。

- A社においてポイントの割当に関する費用計上はすでに行われているため、信託におけるA社株式交付費用を取り消し、A社株式に振り戻す。

- 信託から従業員に対して株式の交付が行われた部分について引当金の取崩しを行う。

- (*2) 2.5/1株(信託による株式取得時の株価)×40株=100
- 信託におけるA社株式は、A社において自己株式に振り替え、純資産の部における株主資本の控除項目とする(自己株式等会計基準第7項)。


- (6) A社の配当支払時(X2年6月)
- 信託が保有する株式に対する配当金の支払いを認識する。

- (7) A社による従業員へのポイント割当時(X2年9月)

- (*3) 2.5/1株(信託による株式取得時の株価)×40株=100
- (8) 信託による従業員への自社の株式の交付時(X2年4月からX3年3月)
- (仕訳なし)
- 株式の交付に伴う引当金の取崩処理は、期末に一括して行うものとする。
- (9) A社の決算時(X3年3月)

- (*4)信託終了時に信託が保有していた現金預金は、従業員に分配されたものとしている。
- 信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。
- (前期分の資産及び負債の計上の振戻し)

- (当期分の計上)

- 金銭の信託の元本は、A社で信託口として処理されているため、これを相殺する。

- 信託の損益は、従業員に帰属するため、振替を行う。これと併せて、信託への拠出額の費用処理(便宜的に福利厚生費を用いている。)を行う。ここでは信託終了時に信託への拠出額の費用処理を行っているが、信託期間にわたって按分することも考えられる。

- A社においてポイントの割当に関する費用計上はすでに行われているため、信託におけるA社株式交付費用を取り消し、A社株式に振り戻す。

- 信託から従業員に対して株式の交付が行われた部分について引当金の取崩しを行う。

- (*5) 50(前期末の引当残高)+100(X2年9月の費用引当額)=150
- 前期のA社株式の交付を、当期における前期の決算処理の振戻しによりいったん取り消しているが、既に確定しているものであるため、再度計上する。


- 以 上
注
- 1 本実務対応報告は、当該取引に関する法律的な解釈を示すことを目的とするものではなく、当該取引が、法的に有効であることを前提としている。
- 2 本実務対応報告の本文における「信託」は、第3項及び第4項の取引において用いられる信託をいう(以下同じ。)。
- 3 本実務対応報告では、従業員が、信託行為に定められた要件を満たすまで受益権を有しない他益信託として設定され、受益者が現に存しない間は、受益者のために権利を行使する信託管理人を選任する(信託法第123条第1項)取引を想定している(第4項においても同じ。)。
- 4 以下、本実務対応報告では、第3項及び第4項の取引における委託者である企業を「企業」といい、受益者である従業員を「従業員」という。
- 5 「委託者である企業は、信託の変更をする権限を有している」には、委託者である企業が信託管理人及び受託者の同意を得た場合に、本信託契約を変更することができる場合を含む(第4項においても同じ。)。
- 6 一般的に、総額法は、信託の資産及び負債を企業の資産及び負債として貸借対照表に計上し、信託の損益を企業の損益として損益計算書に計上することを意味する。ただし、本実務対応報告では、信託における損益が最終的に従業員に帰属する点を考慮し、第8項及び第14項における会計処理を定めている。
- 7 本例では、A社の保有する自己株式を信託に拠出するケースを前提としているが、受託者が信託を通じて市場からA社株式を購入するケースもある。
