©公益財団法人 財務会計基準機構最終更新日:2026/03/04
実務対応報告第19号繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い
1 目 的
- 将来の期間に影響する特定の費用は、次期以後の期間に配分して処理するため、経過的に繰延資産として、資産の部に記載することができる(企業会計原則第三 一 D及び同注解(注15))とされている。また、繰延資産として計上することができる項目は旧商法施行規則において列挙され、その具体的な会計処理についても、実務上、同規則に従って取り扱われてきた。
- こうした中、平成18年5月1日に施行された会社計算規則(以下「計算規則」という。)では、繰延資産として計上することができる項目(繰延資産に属する項目)については、繰延資産として計上することが適当であると認められるものと規定されている(計算規則第74条第3項第5号)だけである。また、その償却方法についても、償却すべき資産については、事業年度の末日において、相当の償却をしなければならない(計算規則第5条第2項)とされているだけで、具体的な償却方法や償却期間の定めはない。この点について、計算規則では、その用語の解釈及び規定の適用に関しては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない(計算規則第3条)とされている。
- 本実務対応報告では、計算規則におけるこれらの規定への対応として、これまで行われてきた会計処理を踏まえ、当面必要と考えられる実務上の取扱いを明らかにすることとした。
- また、平成21年12月の企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「企業会計基準第24号」という。)の公表により、企業会計基準第24号における表現等に合わせるための所要の改正を行った。
- なお、当委員会では、国際会計基準審議会(IASB)との間で会計基準のコンバージェンスに向けた共同プロジェクトを進めており、新株発行費(株式交付費)の会計処理を検討項目として取り上げている。このため、国際的な会計基準の動向を踏まえて、今後、新株発行費(株式交付費)を含む繰延資産の会計処理の見直しを行う可能性がある。
- 平成18年公表の実務対応報告(以下「平成18年実務対応報告」という。)は、第110回企業会計基準委員会に出席した委員13名全員の賛成により承認された。
- 平成22年改正の実務対応報告(以下「平成22年改正実務対応報告」という。)は、第195回企業会計基準委員会に出席した委員10名全員の賛成により承認された。
2 繰延資産の会計処理の見直しに関する考え方
- 当委員会では、これまで行われてきた繰延資産の会計処理を踏まえ、以下の考え方に基づき、必要な範囲内で見直しを行うこととした。
- (1) 繰延資産の考え方については、企業会計原則注解(注15)に示されている考え方(すでに代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用)を踏襲する。
- (2) 検討対象とする繰延資産の項目は、原則として、旧商法施行規則で限定列挙されていた項目(ただし、会社法において廃止された建設利息を除く。)とする。これは、「繰延資産の部に計上した額」が剰余金の分配可能額から控除される(計算規則第158条第1号)ことなどを考慮したものである。
この結果、本実務対応報告では、以下の項目を繰延資産として取り扱っている。
① 株式交付費
② 社債発行費等(新株予約権の発行に係る費用を含む。)
③ 創立費
④ 開業費
⑤ 開発費 - なお、これまで繰延資産とされていた社債発行差金に相当する額については、平成18年8月11日に公表された企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)において会計処理(社債金額から直接控除する方法)を定めており、本実務対応報告では、経過措置に関する事項を除き、取り扱わない。
- (3) これまでの繰延資産の会計処理、特に繰延資産の償却期間については、それを変更すべき合理的な理由がない限り、これまでの取扱いを踏襲する。
3 会計処理
- (1) 株式交付費の会計処理
- 株式交付費(新株の発行又は自己株式の処分に係る費用)は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理する。ただし、企業規模の拡大のためにする資金調達などの財務活動(組織再編の対価として株式を交付する場合を含む。)に係る株式交付費については、繰延資産に計上することができる。この場合には、株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければならない。
- 株式交付費とは、株式募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・株券等の印刷費、変更登記の登録免許税、その他株式の交付等のために直接支出した費用をいう。
- なお、繰延資産に該当する株式交付費は、繰延資産の性格から、企業規模の拡大のためにする資金調達などの財務活動に係る費用を前提としているため、株式の分割や株式無償割当てなどに係る費用は、繰延資産には該当せず、支出時に費用として処理することになる。また、この場合には、これらの費用を販売費及び一般管理費に計上することができる。
- (会計処理の考え方)
- 現行の国際的な会計基準では、株式交付費は、資本取引に付随する費用として、資本から直接控除することとされている。当委員会においては、国際的な会計基準との整合性の観点から、当該方法についても検討した。しかしながら、以下の理由により、当面、これまでの会計処理を踏襲し、株式交付費は費用として処理(繰延資産に計上し償却する処理を含む。)することとした。
① 株式交付費は株主との資本取引に伴って発生するものであるが、その対価は株主に支払われるものではないこと
② 株式交付費は社債発行費と同様、資金調達を行うために要する支出額であり、財務費用としての性格が強いと考えられること
③ 資金調達の方法は会社の意思決定によるものであり、その結果として発生する費用もこれに依存することになる。したがって、資金調達に要する費用を会社の業績に反映させることが投資家に有用な情報を提供することになると考えられること - また、本実務対応報告では、新株の発行と自己株式の処分に係る費用を合わせて株式交付費とし、自己株式の処分に係る費用についても繰延資産に計上できることとした。自己株式の処分に係る費用は、旧商法施行規則において限定列挙されていた新株発行費には該当しないため、これまで繰延資産として会計処理することはできないと解されてきた。しかしながら、会社法においては、新株の発行と自己株式の処分の募集手続は募集株式の発行等として同一の手続によることとされ、また、株式の交付を伴う資金調達などの財務活動に要する費用としての性格は同じであることから、新株の発行に係る費用の会計処理と整合的に取り扱うことが適当と考えられる。
- なお、繰延資産に計上した株式交付費(新株発行費)の償却については、旧商法施行規則において毎決算期に均等額以上の償却をしなければならないとされてきたため、これまでは年数を基準として償却することが一般的であったと考えられる。しかしながら、会社法ではそのような制約はないこと、また、今後、上場会社においては四半期報告が求められることから、繰延資産の計上月にかかわらず、一律に年数を基準として償却を行うことは適当ではないと考えられる。この考え方は、他の繰延資産の償却についても同様である。
- (2) 社債発行費等の会計処理
- 社債発行費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理する。ただし、社債発行費を繰延資産に計上することができる。この場合には、社債の償還までの期間にわたり利息法により償却をしなければならない。なお、償却方法については、継続適用を条件として、定額法を採用することができる。
- 社債発行費とは、社債募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・社債券等の印刷費、社債の登記の登録免許税その他社債発行のため直接支出した費用をいう。
- また、新株予約権の発行に係る費用についても、資金調達などの財務活動(組織再編の対価として新株予約権を交付する場合を含む。)に係るものについては、社債発行費と同様に繰延資産として会計処理することができる。この場合には、新株予約権の発行のときから、3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければならない。ただし、新株予約権が社債に付されている場合で、当該新株予約権付社債を一括法により処理するときは、当該新株予約権付社債の発行に係る費用は、社債発行費として処理する。
- (会計処理の考え方)
- 本実務対応報告では、社債発行費を支出時に費用として処理しない場合には、これまでと同様、繰延資産に計上することとした。
- また、社債発行費の償却方法については、旧商法施行規則により、これまで3年以内の期間で均等額以上の償却が求められてきた。しかし、社債発行者にとっては、社債利息やこれまでの社債発行差金に相当する額のみならず、社債発行費も含めて資金調達費と考えることができること、また、国際的な会計基準における償却方法との整合性を考慮すると、社債発行費は、社債の償還までの期間にわたり、利息法(又は継続適用を条件として定額法)により償却することが合理的と考えられる。
- なお、計算規則において、払込みを受けた金額が債務額と異なる社債については、事業年度の末日における適正な価格を付すことができるとされた(計算規則第6条第2項第2号)ことから、これを契機に、これまで繰延資産として取り扱われてきた社債発行差金に相当する額は、国際的な会計基準と同様、社債金額から直接控除することとされた(金融商品会計基準第26項)。
- (3) 創立費の会計処理
- 創立費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理する。ただし、創立費を繰延資産に計上することができる。この場合には、会社の成立のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければならない。
- 創立費とは、会社の負担に帰すべき設立費用、例えば、定款及び諸規則作成のための費用、株式募集その他のための広告費、目論見書・株券等の印刷費、創立事務所の賃借料、設立事務に使用する使用人の給料、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、創立総会に関する費用その他会社設立事務に関する必要な費用、発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額並びに設立登記の登録免許税等をいう。
- (会計処理の考え方)
- 会社法では、創立費を資本金又は資本準備金から減額することが可能とされた(計算規則第43条第1項第3号)。しかしながら、創立費は、株主との間の資本取引によって発生するものではないことから、本実務対応報告では、創立費を支出時に費用として処理(支出時に費用として処理しない場合には、これまでと同様、繰延資産に計上)することとした。
- (4) 開業費の会計処理
- 開業費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理する。ただし、開業費を繰延資産に計上することができる。この場合には、開業のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければならない。なお、「開業のとき」には、その営業の一部を開業したときも含むものとする。また、開業費を販売費及び一般管理費として処理することができる。
- 開業費とは、土地、建物等の賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利子、使用人の給料、保険料、電気・ガス・水道料等で、会社成立後営業開始時までに支出した開業準備のための費用をいう。
- (会計処理の考え方)
- 本実務対応報告では、開業費を支出時に費用として処理しない場合には、これまでと同様、繰延資産に計上することとした。
- 開業準備活動は通常の営業活動ではないため、開業準備のために要した費用は原則として、営業外費用として処理することとした。ただし、当該費用は、営業活動と密接であること及び実務の便宜を考慮して、販売費及び一般管理費(支出時に費用として処理する場合のほか、繰延資産に計上した場合の償却額を含む。)として処理することができることとした。
- また、開業費の範囲については、開業までに支出した一切の費用を含むものとする考え方もあるが、開業準備のために直接支出したとは認められない費用については、その効果が将来にわたって発現することが明確ではないものが含まれている可能性がある。このため、開業費は、開業準備のために直接支出したものに限ることが適当である。
- (5) 開発費の会計処理
- 開発費は、原則として、支出時に費用(売上原価又は販売費及び一般管理費)として処理する。ただし、開発費を繰延資産に計上することができる。この場合には、支出のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければならない。
- 開発費とは、新技術又は新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓等のために支出した費用、生産能率の向上又は生産計画の変更等により、設備の大規模な配置替えを行った場合等の費用をいう。ただし、経常費の性格をもつものは開発費には含まれない。
- なお、「研究開発費等に係る会計基準」の対象となる研究開発費については、発生時に費用として処理しなければならないことに留意する必要がある。
- (会計処理の考え方)
- 本実務対応報告では、開発費を支出時に費用として処理しない場合には、これまでと同様、繰延資産に計上することとした。
- 開発費の効果の及ぶ期間の判断にあたり、支出の原因となった新技術や資源の利用可能期間が限られている場合には、その期間内(ただし、最長で5年以内)に償却しなければならない点に留意する必要がある。
- (6) 支出の効果が期待されなくなった繰延資産の会計処理
- 支出の効果が期待されなくなった繰延資産は、その未償却残高を一時に償却しなければならない。
- (7) 繰延資産に係る会計処理方法の継続性
- ① 基本的な考え方
同一の繰延資産項目については、その性質は一般的に同質のものと考えられるため、繰延資産に適用する会計処理方法は、原則として、同一の方法によらなければならない。 - ② 同一の繰延資産項目に関する継続性の取扱い
ア 同一の繰延資産項目についての会計処理が前事業年度にも行われている場合において、当事業年度の会計処理方法が前事業年度の会計処理方法と異なるときは、原則として、会計方針の変更として取り扱うものとする。
ただし、支出内容に著しい変化がある場合には新たな会計事実の発生とみて、直近の会計処理方法とは異なる会計処理方法を選択することができる。この場合、直近の会計処理とは異なる会計処理方法を選択した旨、引き続き同一の会計処理方法を採用したと仮定した場合と比較したときの影響額及び会計方針の変更として取り扱わなかった理由(新たな会計事実の発生として判断した理由)を追加情報として注記する。
イ 前事業年度において同一の繰延資産項目がないため、会計処理が前事業年度において行われていない場合には、会計方針の変更として取り扱わないこととする。
4 適用時期等
- (1) 適用時期
- ① 平成18年実務対応報告公表日以後に終了する事業年度及び中間会計期間から平成18年実務対応報告を適用する。ただし、会社法施行日(平成18年5月1日)以後平成18年実務対応報告公表日前に終了した事業年度及び中間会計期間から平成18年実務対応報告を適用することができる。
- ② 平成22年改正実務対応報告の適用時期は、企業会計基準第24号と同様とする。
- (2) 経過措置
- ① 平成18年実務対応報告を適用する事業年度の直前の事業年度(以下「適用直前事業年度」という。)の貸借対照表に計上されていた社債発行差金を除く繰延資産の償却に関する会計処理(当該繰延資産の償却額の損益計算書の計上区分に関する事項を除く。)については、適用直前事業年度の会計処理を継続して適用する。
- ② 適用直前事業年度の貸借対照表に新株発行費が計上されている場合には、当該新株発行費の償却が終了するまでの間、新株発行費の科目をもって表示することができる。ただし、平成18年実務対応報告の適用後に、新株の発行又は自己株式の処分に係る費用を株式交付費として繰延資産に計上する場合は、新株発行費として繰延資産に計上している額を株式交付費に振り替える。
- ③ 適用直前事業年度の貸借対照表に社債発行差金が計上されている場合には、以下のように取扱うものとする。
ア 当該社債発行差金の償却に関する会計処理は、適用直前事業年度の会計処理を継続して適用する。ただし、当該社債発行差金の償却額は、社債利息に含めて表示する。
イ 当該社債発行差金は、社債から控除して表示する。
- (3) 平成18年実務対応報告の適用に伴う会計処理及び表示の変更の取扱い
- 平成18年実務対応報告の適用により、適用直前事業年度に行われていた繰延資産の会計処理及び表示を変更することとなった場合には、3(7)②アの考え方に基づき、原則として、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。なお、この際、以下の点に留意する必要がある。
- ① 平成18年実務対応報告適用初年度において、自己株式の処分に係る費用を株式交付費として繰延資産に計上する場合で、適用直前事業年度においても自己株式の処分を行っているときは、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。
- ② 平成18年実務対応報告適用初年度において、適用直前事業年度の貸借対照表に計上していた繰延資産と同一項目の繰延資産を計上する場合で、年数を基準とした償却方法から、月数等を基準とした償却方法に変更したときは、原則として、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。
- 以 上
注
- 1 「会社法制の現代化に関する要綱」(平成17年2月9日 法制審議会総会決定)第2部 第6 1(注3)において、建設利息を規定している旧商法第291条は削除すると記載されている。
- 2 会社法上、繰延資産の項目は限定されていないが、本実務対応報告では、これまで限定列挙と解されていた繰延資産の項目を増やす検討は行っていない。したがって、上記5項目の繰延資産は、結果として、限定列挙となる。なお、いわゆる法人税法上の繰延資産は、本実務対応報告における繰延資産には該当しないことになる。
また、本実務対応報告では、繰延資産の考え方は企業会計原則に示されている考え方を踏襲しているものの、繰延資産の具体的な項目は、会社法などに対応するため、企業会計原則とは異なるものがある。繰延資産の具体的な項目については、本実務対応報告の取扱いが企業会計原則の定めに優先することになる。