ASSET-ASBJ

企業会計基準適用指針第28号税効果会計に係る会計基準の適用指針
目 的
- 1. 本適用指針は、企業会計審議会が1998年(平成10年)10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という。)を適用する際の指針を定めるものである。
適用指針
範 囲
- 2. 本適用指針は、税効果会計基準が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用する。
- 3. 次に示す企業会計基準、企業会計基準適用指針、実務対応報告及び実務指針において定められている税効果会計基準を適用する際の具体的な取扱いは、本適用指針における取扱いにかかわらず適用される。
- (1) 企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」に定められた四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表における税効果会計の適用に係る取扱い
- (2) 企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」に定められたその他の包括利益の内訳の開示に係る取扱い
- (3) 企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」に定められた株主資本等変動計算書における変動事由の表示に係る取扱い
- (4) 企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下「結合分離適用指針」という。)に定められた企業結合及び事業分離等に関連する税効果会計の適用に係る取扱い
- (5) 企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「回収可能性適用指針」という。)に定められた繰延税金資産の回収可能性に係る取扱い
- (6) 企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」に定められた中間連結財務諸表及び中間財務諸表における税効果会計の適用に係る取扱い
- (7) 実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」に定められたグループ通算制度を適用する場合の税効果会計の適用に係る取扱い
- (8) 移管指針第2号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」に定められた子会社持分に係るヘッジ取引に関する税効果会計の適用に係る取扱い
- (9) 移管指針第7号「持分法会計に関する実務指針」(以下「持分法実務指針」という。)に定められた持分法会計に関する税効果会計の適用に係る取扱い
用語の定義
- 4.本適用指針における用語の定義は、次のとおりとする。
- (1) 「納税主体」とは、納税申告書の作成主体をいい、通常は企業が納税主体となる。
- (2) 「法人税等」とは、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金をいう。
- (3) 「一時差異」とは、連結貸借対照表及び個別貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額をいう。
なお、一時差異及び税務上の繰越欠損金等を総称して「一時差異等」という。税務上の繰越欠損金等には、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法(昭和32年法律第26号)上の法人税額の特別控除等が含まれる。 - (4) 「財務諸表上の一時差異」とは、個別財務諸表において生じる一時差異のことをいい、将来減算一時差異又は将来加算一時差異に分類される。
- ① 「将来減算一時差異」とは、財務諸表上の一時差異のうち、当該一時差異が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を持つものをいう。
- ② 「将来加算一時差異」とは、財務諸表上の一時差異のうち、当該一時差異が解消する時にその期の課税所得を増額する効果を持つものをいう。
- (5) 「連結財務諸表固有の一時差異」とは、連結決算手続の結果として生じる一時差異のことをいい、課税所得計算には関係しない。当該一時差異は、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に分類される。
- ① 「連結財務諸表固有の将来減算一時差異」とは、連結財務諸表固有の一時差異のうち、連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を下回る(又は上回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が減額されることによって当該減額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つものをいう。
- ② 「連結財務諸表固有の将来加算一時差異」とは、連結財務諸表固有の一時差異のうち、連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を上回る(又は下回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が増額されることによって当該増額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つものをいう。
- なお、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)第10項(2-2)で定める場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるものとして同様の取扱いをすることとする。
- (6) 「課税所得」とは、法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額が損金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。
- (7) 「税務上の欠損金」とは、法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額が益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。
- (8) 「標準税率」とは、地方公共団体が課税する場合に地方税法(昭和25年法律第226号)で通常よるべきとされている税率をいう。
- (9) 「超過課税による税率」とは、標準税率を超える税率で、地方公共団体が課税することが地方税法で認められているものをいう。
- (10) 「制限税率」とは、地方公共団体が超過課税による税率で課税する場合においても超えることのできない税率で、地方税法に規定されているものをいう。
- (11) 「法定実効税率」とは、グループ通算制度を適用する場合を除き、次の算式によるものをいう([設例10])。
- 5. 本適用指針に、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「法人税等会計基準」という。)第4項に定義されている用語が使われている場合、当該用語の定義に従う。
会計処理
税効果会計の目的
- 6. 税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税等の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続であるとされている(税効果会計基準 第一)。
繰延税金資産及び繰延税金負債の計上
- 7. 繰延税金資産又は繰延税金負債は、一時差異等に係る税金の額から将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を控除して計上しなければならないとされている(税効果会計基準 第二 二 1)。
- 8. 繰延税金資産及び繰延税金負債は、次のとおり計上する。
- (1) 個別財務諸表における繰延税金資産は、将来の会計期間における将来減算一時差異の解消、税務上の繰越欠損金と課税所得(税務上の繰越欠損金控除前)との相殺及び繰越外国税額控除の余裕額の発生等に係る減額税金の見積額について、回収可能性適用指針に従って、その回収可能性を判断し計上する。
ただし、組織再編に伴い受け取った子会社株式又は関連会社株式(以下「子会社株式等」という。)(事業分離に伴い分離元企業が受け取った子会社株式等を除く(結合分離適用指針第108項)。)に係る将来減算一時差異のうち、当該株式の受取時に生じていたものについては、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思決定又は実施計画が存在する場合を除き、繰延税金資産を計上しない。 - (2) 個別財務諸表における繰延税金負債は、将来の会計期間における将来加算一時差異の解消に係る増額税金の見積額について、次の場合を除き、計上する。
- ① 企業が清算するまでに課税所得が生じないことが合理的に見込まれる場合
- ② 子会社株式等(事業分離に伴い分離元企業が受け取った子会社株式等を除く(結合分離適用指針第108項)。)に係る将来加算一時差異について、親会社又は投資会社(以下「親会社等」という。)がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合
- (3) 連結決算手続においては、連結財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負債として、連結財務諸表固有の一時差異が生じた納税主体ごとに、当該連結財務諸表固有の一時差異に係る税金の見積額を計上する。
連結財務諸表固有の将来減算一時差異(未実現利益の消去に係る将来減算一時差異を除く。)に係る繰延税金資産は、納税主体ごとに個別財務諸表における繰延税金資産(繰越外国税額控除に係る繰延税金資産を除く。)と合算し、回収可能性適用指針第9項に従って計上する。 - 9. 本適用指針第8項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上するときは、次の場合を除き、年度の期首における繰延税金資産の額と繰延税金負債の額の差額と期末における当該差額の増減額を、法人税等調整額を相手勘定として計上する。
- (1) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等(企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」第8項に定める評価・換算差額等をいう。以下同じ。)を直接純資産の部に計上する場合、当該評価差額等に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の差額について、年度の期首における当該差額と期末における当該差額の増減額を、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上する。
- (2) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等をその他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上する場合、当該評価差額等に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の差額について、年度の期首における当該差額と期末における当該差額の増減額を、その他の包括利益を相手勘定として計上する。
- (3) 連結財務諸表において、子会社に対する投資について、親会社の持分が変動することにより生じた差額(親会社持分相当額の変動額と売却価額又は取得価額の差額をいう。以下「親会社の持分変動による差額」という。)を直接資本剰余金に計上する場合、当該親会社の持分変動による差額に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債の差額について、年度の期首における当該差額と期末における当該差額の増減額を、資本剰余金を相手勘定として計上する。
- 10. 第9項に従って連結財務諸表固有の一時差異に対して法人税等調整額を計上する場合、当該連結財務諸表固有の一時差異が生じた子会社に非支配株主が存在するときには、親会社持分と非支配株主持分に配分する。
財務諸表上の一時差異等の取扱い
その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い
- 11. その他有価証券の評価差額に係る一時差異については、本適用指針第8項の定めにかかわらず、回収可能性適用指針第38項から第41項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上する(本適用指針第9項(1)参照)。
繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い
- 12. 繰延ヘッジ損益に係る一時差異については、回収可能性適用指針第46項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上する(本適用指針第9項(1)参照)。
土地再評価差額金に係る一時差異の取扱い
- 13. 「土地の再評価に関する法律」(平成10年法律第34号)に基づき事業用土地を再評価したことにより生じた差額(以下「土地再評価差額金」という。)に係る一時差異については、第8項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上する(第9項(1)参照)。
- 14. 第13項に従って計上した繰延税金資産又は繰延税金負債について、再評価を行った事業用土地の売却等により土地再評価差額金に係る一時差異が解消した場合、当該解消した一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、法人税等調整額を相手勘定として取り崩す。
租税特別措置法上の諸準備金等に係る将来加算一時差異の取扱い
- 15. 圧縮積立金、特別償却準備金、その他租税特別措置法上の諸準備金等(以下「諸準備金等」という。)の積立額(又は取崩額)に係る将来加算一時差異については、第8項(2)に従って繰延税金負債を計上する(又は取り崩す)。当該繰延税金負債については、法人税等調整額を相手勘定として計上する(又は取り崩す)(第9項参照)。諸準備金等の積立額(又は取崩額)は、当該繰延税金負債の計上額(又は取崩額)を控除した額となる([設例1]及び[設例2])。
連結会社間における資産(子会社株式等を除く。)の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い
- 16. 連結会社間における資産(子会社株式等を除く。第38項及び第142項において同じ。)の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法(昭和40年法律第34号)第61条の11(完全支配関係がある法人の間の取引の損益))、当該資産を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、第8項及び第9項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い
- 17. 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、第16項と同様に取り扱う([設例8])。
連結財務諸表固有の一時差異の取扱い
子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異の取扱い
- 18. 資本連結手続において、子会社の資産(又は負債)を時価評価し、評価減(又は評価増)が生じた場合、当該評価減(又は評価増)に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異について、第8項(3)に従って回収可能性を判断し繰延税金資産を計上する([設例3])。
- また、資本連結手続において、子会社の資産(又は負債)を時価評価し、評価増(又は評価減)が生じた場合、当該評価増(又は評価減)に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異について、繰延税金負債を計上する([設例3])。
- 19. 資本連結手続において、時価評価した子会社の資産(又は負債)を償却又は売却(又は決済)した場合、当該資産を償却した年度又は売却した年度(又は当該負債を決済した年度)に、資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異の解消に応じて繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、法人税等調整額を相手勘定として取り崩す。
個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上した場合の連結財務諸表における取扱い
- 20. 個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上し、当該評価損について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合であって、当該評価損に係る将来減算一時差異の全部又は一部に対して繰延税金資産が計上されているときは、資本連結手続に伴い生じた当該評価損の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して、当該繰延税金資産と同額の繰延税金負債を計上する。当該繰延税金負債については、個別財務諸表において計上した子会社株式の評価損に係る将来減算一時差異に対する繰延税金資産と相殺する。
- また、個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上し、当該評価損について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合であって、当該評価損に係る将来減算一時差異に対して繰延税金資産が計上されていないときは、資本連結手続に伴い生じた当該評価損の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上しない。
- 21. 個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上し、当該評価損について税務上の損金算入の要件を満たしている場合(過去に税務上の損金に算入された場合を含む。)、資本連結手続に伴い生じた当該評価損の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上しない。
子会社に対する投資に係る一時差異の取扱い
(子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異の取扱い)
- 22. 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異については、原則として、連結決算手続上、繰延税金資産を計上しない。ただし、次のいずれも満たす場合、繰延税金資産を計上する。
- (1) 当該将来減算一時差異が、次のいずれかの場合により解消される可能性が高い。
- ① 予測可能な将来の期間に、子会社に対する投資の売却等(他の子会社への売却の場合を含む。ただし、税務上の要件を満たし課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)を除く。)を行う意思決定又は実施計画が存在する場合
- ② 個別財務諸表において計上した子会社株式の評価損について、予測可能な将来の期間に、税務上の損金に算入される場合
- (2) 第8項(3)に従って当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産に回収可能性があると判断される。
(子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異の取扱い)
- 23. 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異のうち、第24項に定めた解消事由以外により解消されるものについては、次の(1)及び(2)のいずれも満たす場合を除き、将来の会計期間において追加で納付が見込まれる税金の額を繰延税金負債として計上する([設例4-2])。
- (1) 親会社が子会社に対する投資の売却等を当該親会社自身で決めることができる。
- (2) 次の①又は②のいずれかを満たす。
- ① 予測可能な将来の期間に、子会社に対する投資の売却等(他の子会社への売却の場合を含む。)を行う意思がない場合
- ② 予測可能な将来の期間に、子会社に対する投資の売却等を行う意思があるが、当該子会社に対する投資の売却等に伴い生じる売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)
- 24. 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異のうち、子会社の留保利益(親会社の投資後に増加した子会社の利益剰余金をいう。このうち親会社持分相当額に限る。以下同じ。)に係るもので、親会社が当該留保利益を配当金として受け取ることにより解消されるものについては、次のいずれかに該当する場合、将来の会計期間において追加で納付が見込まれる税金の額を繰延税金負債として計上する。
- (1) 親会社が国内子会社の留保利益を配当金として受け取るときに、当該配当金の一部又は全部が税務上の益金に算入される場合
- (2) 親会社が在外子会社の留保利益を配当金として受け取るときに、次のいずれか又はその両方が見込まれる場合([設例5])
- ① 当該配当金の一部又は全部が税務上の益金に算入される。
- ② 当該配当金に対する外国源泉所得税について、税務上の損金に算入されないことにより追加で納付する税金が生じる。
- 一方で、親会社が当該子会社の利益を配当しない方針を採用している場合又は子会社の利益を配当しない方針について他の株主等との間に合意がある場合等、将来の会計期間において追加で納付する税金が見込まれない可能性が高いときは、繰延税金負債を計上しない。
- 25. 本適用指針第24項(2)①における親会社が在外子会社の留保利益を配当金として受け取るときに税務上の益金に算入されることにより追加で納付が見込まれる税金の額を算定する場合、当該在外子会社の外貨表示財務諸表に示された留保利益を基に、当該子会社の決算日(子会社の決算日が連結決算日と異なる場合で、かつ、当該子会社が連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行う場合(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下「連結会計基準」という。)第16項)は、当該連結決算日)における為替相場を用いて算定する。
- 26. 第24項(2)②における外国源泉所得税の額について追加で納付が見込まれる税額を算定する場合、配当金を支払った在外子会社の所在地国の法令(又は我が国と当該所在地国で租税条約等が締結されている場合には法令及び当該租税条約等)に規定されている税率を用いて計算する。また、当該法令が改正される場合(又は当該租税条約等が締結される若しくは改正される場合)、第44項に準じて、当該外国源泉所得税の額を計算する。
(子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の各項目の取扱い)
- 27. 第22項から第24項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する場合、当該繰延税金資産又は繰延税金負債は、次の場合を除き、法人税等調整額を相手勘定として計上する。
- (1) 次の子会社又は関連会社(以下「子会社等」という。)に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債については、その他の包括利益を相手勘定として計上する(第9項(2)参照)。
- ① 親会社等の投資後に子会社等が計上したその他有価証券評価差額金に係る連結財務諸表固有の一時差異
- ② 親会社等の投資後に子会社等が計上した繰延ヘッジ損益に係る連結財務諸表固有の一時差異
- ③ 親会社等の投資後に子会社等が計上した退職給付に係る負債又は退職給付に係る資産に関する連結財務諸表固有の一時差異
- ④ 為替換算調整勘定に係る連結財務諸表固有の一時差異
- (2) 次の子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債については、資本剰余金を相手勘定として計上する(第9項(3)参照)。
- ① 子会社に対する投資について追加取得に伴い生じた親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異([設例4-3])
- ② 子会社に対する投資について当該子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異
子会社に対する投資を一部売却した場合の取扱い
(子会社に対する投資の一部売却後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合における親会社の持分変動による差額に対応する法人税等相当額についての売却時の取扱い)
- 28. 子会社に対する投資を一部売却した後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合、連結財務諸表上、当該売却に伴い生じた親会社の持分変動による差額に対応する法人税等に相当する額(子会社への投資に係る税効果の調整を含む。)(以下「法人税等相当額」という。)については、売却時に、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目を相手勘定として資本剰余金から控除する([設例4-1])。
- 資本剰余金から控除する法人税等相当額は、売却元の課税所得や税金の納付額にかかわらず、原則として、親会社の持分変動による差額に法定実効税率を乗じて計算する。
(子会社に対する投資を一部売却したことにより親会社と子会社の支配関係が継続していない場合における残存する投資に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債についての売却時の取扱い)
- 29. 子会社に対する投資の一部売却により当該被投資会社が子会社等に該当しなくなった場合、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとされている(連結会計基準第29項なお書き)。
- この場合、本適用指針第27項に従って法人税等調整額を相手勘定として計上した当該子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債のうち、当該売却に伴い投資の帳簿価額を修正したことにより解消した一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を、利益剰余金を相手勘定として取り崩す。
子会社に対する投資を売却した時の親会社の持分変動による差額に対する法人税等及び税効果についての取扱い
(親会社の持分変動による差額に対して繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合の子会社に対する投資を売却した時の取扱い)
- 30. 子会社に対する投資の追加取得や子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、第27項(2)に従って資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合、当該子会社に対する投資を売却した時に当該売却により解消した一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、資本剰余金を相手勘定として取り崩す([設例4-3])。
(親会社の持分変動による差額が生じている場合に子会社に対する投資を売却した時の法人税等についての取扱い)
- 31. 子会社に対する投資の追加取得や子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会社の持分変動による差額を資本剰余金としている場合、当該子会社に対する投資を売却した時に、当該資本剰余金に対応する法人税等相当額について、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目を相手勘定として資本剰余金から控除する([設例4-4])。
債権と債務の相殺消去に伴い修正される貸倒引当金に係る一時差異の取扱い
- 32. 個別財務諸表において連結会社に対する債権に貸倒引当金を計上し、当該貸倒引当金繰入額について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合であって、当該貸倒引当金繰入額に係る将来減算一時差異の全部又は一部に対して繰延税金資産が計上されているときは、連結決算手続上、債権と債務の相殺消去に伴い当該貸倒引当金が修正されたことにより生じた当該貸倒引当金に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して、当該繰延税金資産と同額の繰延税金負債を計上する。当該繰延税金負債については、個別財務諸表において計上した貸倒引当金繰入額に係る将来減算一時差異に対する繰延税金資産と相殺する([設例6])。
- また、個別財務諸表において連結会社に対する債権に貸倒引当金を計上し、当該貸倒引当金繰入額について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合であって、当該貸倒引当金繰入額に係る将来減算一時差異に対して繰延税金資産が計上されていないときは、連結決算手続上、債権と債務の相殺消去に伴い当該貸倒引当金が修正されたことにより生じた当該貸倒引当金に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上しない。
- 33. 個別財務諸表において連結会社に対する債権に貸倒引当金を計上し、当該貸倒引当金繰入額について税務上の損金算入の要件を満たしている場合(過去に税務上の損金に算入された場合を含む。)、連結決算手続上、債権と債務の相殺消去に伴い当該貸倒引当金が修正されたことにより生じた当該貸倒引当金に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して、原則として、繰延税金負債を計上する。この場合、債権者側の連結会社に適用される法定実効税率を用いて計算する。ただし、債務者である連結会社の業績が悪化している等、将来において当該将来加算一時差異に係る税金を納付する見込みが極めて低いときは、当該連結財務諸表固有の将来加算一時差異に係る繰延税金負債を計上しない。
未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い
- 34. 未実現利益の消去に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異については、売却元の連結会社において売却年度に納付した当該未実現利益に係る税金の額を繰延税金資産として計上する。計上した繰延税金資産については、当該未実現利益の実現に応じて取り崩す([設例7-1])。
- また、未実現損失の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異については、売却元の連結会社において売却年度に軽減された当該未実現損失に係る税金の額を繰延税金負債として計上する。計上した繰延税金負債については、当該未実現損失の実現に応じて取り崩す。
- 35. 未実現利益の消去に係る繰延税金資産を計上するにあたっては、回収可能性適用指針第6項の定めを適用せず、その回収可能性を判断しない。また、繰延税金資産の計上対象となる当該未実現利益の消去に係る将来減算一時差異の額については、売却元の連結会社の売却年度における課税所得の額を上限とする([設例7-2])。
- 36. 未実現損失の消去に係る繰延税金負債を計上するにあたって、繰延税金負債の計上対象となる当該未実現損失の消去に係る将来加算一時差異の額については、売却元の連結会社の売却年度における当該未実現損失に係る税務上の損金を算入する前の課税所得の額を上限とする。
- 37. 子会社の決算日が連結決算日と異なることから生じる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致について必要な整理を行い、未実現損益が消去された場合、当該未実現損益の消去に係る繰延税金資産又は繰延税金負債については第34項から第36項に従って計上する。
連結会社間における資産(子会社株式等を除く。)の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い
- 38. 連結会社間における資産の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)であって、当該資産を売却した企業の個別財務諸表において、第16項に従って当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該売却損益が消去されたことに伴い生じた当該売却損益の消去に係る連結財務諸表固有の一時差異に対して、個別財務諸表において計上した繰延税金資産又は繰延税金負債と同額の繰延税金負債又は繰延税金資産を計上する。当該繰延税金負債又は繰延税金資産については、個別財務諸表において計上した当該売却損益に係る一時差異に対する繰延税金資産又は繰延税金負債と相殺する。
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い
- 39. 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)であって、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、第17項に従って当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩し、購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法第61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる([設例8])。
- また、当該子会社株式等の売却に伴い、追加的に又は新たに生じる一時差異については、第22項又は第23項に従って処理する。
子会社等が保有する親会社株式等を当該親会社等に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い
- 40. 連結子会社が保有する親会社株式を当該親会社に売却した場合(親会社が連結子会社から自己株式を取得した場合)に当該子会社に生じる売却損益に対応する法人税等のうち親会社持分相当額は、自己株式等会計適用指針第16項に準じて、資本剰余金から控除する([設例9])。
- 41. 持分法の適用対象となっている子会社等が保有する親会社の株式又は投資会社の株式(以下「親会社株式等」という。)を当該親会社等に売却した場合についても、第40項と同様に処理する。
退職給付に係る負債又は退職給付に係る資産に関する一時差異の取扱い
- 42. 連結財務諸表における退職給付に係る負債に関する繰延税金資産又は退職給付に係る資産に関する繰延税金負債については、個別財務諸表における退職給付引当金に係る将来減算一時差異に関する繰延税金資産の額又は前払年金費用に係る将来加算一時差異に関する繰延税金負債の額に、連結修正項目である未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(以下合わせて「未認識項目」という。)の会計処理により生じる将来減算一時差異に係る繰延税金資産の額又は将来加算一時差異に係る繰延税金負債の額を合算し、当該合算額について次のとおり処理する。
- (1) 当該合算により純額で繰延税金資産が生じる場合、当該合算額について回収可能性適用指針第43項及び第45項に従って回収可能性を判断し、未認識項目の一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債について、その他の包括利益を相手勘定として計上する(回収可能性適用指針第10項(1))(本適用指針第9項(2)参照)。
- (2) 当該合算により純額で繰延税金負債が生じる場合、未認識項目の一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債について、その他の包括利益を相手勘定として計上する(本適用指針第9項(2)参照)。
子会社株式等の取得に伴い認識したのれん又は負ののれんに係る繰延税金負債又は繰延税金資産の取扱い
- 43. 子会社株式等の取得に伴い、資本連結手続上、認識したのれん又は負ののれんについて、繰延税金負債又は繰延税金資産を計上しない。
繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法及び税率
繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法
- 44. 繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法(以下、法人税等の納付税額の計算方法が規定されている我が国の法律を総称して「税法」という。)に規定されている方法に基づき第8項に定める将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算する。なお、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう。
- ただし、税法に規定されている納付税額の計算方法のうち、税率については、第45項から第49項に従う。
繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率
- 45. 税効果会計基準では、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算するものとされている(税効果会計基準 第二 二 2)。
- 46. 法人税、地方法人税及び特別法人事業税(基準法人所得割)について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等(法人税、地方法人税及び特別法人事業税(基準法人所得割)の税率が規定されている税法をいう。以下同じ。)に規定されている税率による。
- 47. 住民税(法人税割)及び事業税(所得割)(以下合わせて「住民税等」という。)について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している地方税法等(住民税等の税率が規定されている税法をいう。以下同じ。)に基づく税率による。
- 48. 第47項における決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率とは、次の税率をいう。
- (1) 当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立していない場合(地方税法等を改正するための法案が国会に提出されていない場合を含む。)
決算日において国会で成立している地方税法等を受けた条例に規定されている税率(標準税率又は超過課税による税率) - (2) 当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合
- ① 改正された地方税法等(以下「改正地方税法等」という。)を受けて改正された条例(以下「改正条例」という。)が決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立している場合
決算日において成立している条例に規定されている税率(標準税率又は超過課税による税率)
なお、決算日において成立している条例とは、決算日以前に成立した条例を改正するための条例を反映した後の条例をいう。 - ② 改正地方税法等を受けた改正条例が決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立していない場合
- ア 決算日において成立している条例に標準税率で課税することが規定されているとき
改正地方税法等に規定されている標準税率 - イ 決算日において成立している条例に超過課税による税率で課税することが規定されているとき
改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える差分を考慮する税率 - 49. 第48項(2)②イに定める差分を考慮する税率を算定するにあたっては、例えば、次の方法がある([設例11])。
- (1) 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える数値を加えて算定する。なお、この結果として得られた税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする。
- (2) 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率における改正直前の地方税法等の標準税率に対する割合を乗じて算定する。なお、この結果として得られた税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする。
子会社の決算日が連結決算日と異なる場合の税法又は税率の取扱い
- 50. 連結財務諸表を作成するにあたって、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合で、かつ、当該子会社が連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行う場合(連結会計基準第16項)、当該子会社の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法又は税率は、本適用指針第44項から第49項の「決算日」を「連結決算日」と読み替えた税法又は税率によるものとする。
- また、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行う場合(連結会計基準(注4))、当該子会社の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法又は税率は、本適用指針第44項から第49項の「決算日」を「子会社の決算日」と読み替えた税法又は税率によるものとする。
繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法が改正された場合の取扱い
- 51. 繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法の改正に伴い税率が変更されたこと等により繰延税金資産及び繰延税金負債の額が修正された場合、次の場合を除き、当該修正差額を当該税率が変更された年度において、法人税等調整額を相手勘定として計上する。
- (1) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等を直接純資産の部に計上する場合、当該評価差額等に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の差額について、税率が変更されたことによる修正差額を当該税率が変更された年度において純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上する。
- (2) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等をその他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上する場合、当該評価差額等に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の差額について、税率が変更されたことによる修正差額を当該税率が変更された年度においてその他の包括利益を相手勘定として計上する。
- (3) 連結財務諸表において、子会社に対する投資について親会社の持分変動による差額を直接資本剰余金に計上する場合、当該親会社の持分変動による差額に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債の差額について、税率が変更されたことによる修正差額を当該税率が変更された年度において資本剰余金を相手勘定として計上する。
- 52. 子会社の資産及び負債の時価評価により生じた評価差額に係る一時差異について、子会社において税率が変更されたことによる繰延税金資産及び繰延税金負債の修正差額は、当該税率が変更された連結会計年度において、法人税等調整額を相手勘定として計上する。
- 53. 繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法の改正に伴い税率以外の納付税額の計算方法が変更されたことにより、繰延税金資産及び繰延税金負債の額が修正された場合、第51項及び第52項の定めと同様に処理する。
(税法が改正された場合の一時差異の取扱い)
- 54. 税法が改正されたことにより土地再評価差額金に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額が修正された場合、当該修正差額は第51項(1)又は(2)に従って当該税法が改正された年度において、純資産の部の評価・換算差額等(土地再評価差額金)又はその他の包括利益を相手勘定として計上する。
- 55. 税法が改正されたことにより諸準備金等に係る繰延税金負債の額が修正された場合、当該修正差額は当該税法が改正された年度において、法人税等調整額を相手勘定として処理するとともに、同額の諸準備金等を計上する(又は取り崩す)([設例1]及び[設例2])。
- 56. 未実現損益の消去に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額については、税法の改正に伴い税率等が変更されても修正しない。
遡及適用及び修正再表示により繰延税金資産又は繰延税金負債を変更する場合の取扱い
遡及適用により繰延税金資産又は繰延税金負債を変更する場合の取扱い
- 57. 会計方針の変更により遡及適用した連結会計年度及び事業年度の連結財務諸表及び個別財務諸表(以下「遡及適用した年度の比較情報」という。)において、資産又は負債の額が変更される場合であって、当該変更に伴い一時差異が生じるときは、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を遡及適用した年度の比較情報に反映させる。
- 58. 子会社等が会計方針を変更し当該会社の留保利益が変更されることにより、遡及適用した年度の比較情報において子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の額が変更される場合で、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しているときは、当該一時差異の額の変更に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を遡及適用した年度の比較情報に反映させる。
- 59. 遡及適用に伴い、将来の利益の額が変更されることに対応して、繰延税金資産の回収可能性の判断における将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額が変更される場合、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「企業会計基準第24号」という。)第17項(会計上の見積りの変更に関する原則的な取扱い)に従って会計方針の変更を行った年度以降において、変更後の将来の一時差異等加減算前課税所得を前提として、繰延税金資産の回収可能性を判断する。また、遡及適用により過年度において回収可能性適用指針第15項から第32項に従って判断した企業の分類を見直す場合、当該見直しに伴う影響は、会計方針の変更を行った年度の財務諸表に反映させる([設例12-1])。
修正再表示により繰延税金資産又は繰延税金負債を変更する場合の取扱い
- 60. 過去の誤謬により修正再表示した連結会計年度及び事業年度の連結財務諸表及び個別財務諸表(以下「修正再表示した年度の比較情報」という。)において、資産又は負債の額が変更される場合、当該変更に伴い一時差異が生じるときは、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を修正再表示した年度の比較情報に反映させる。
- 61. 子会社等において過去の誤謬により当該会社の留保利益が変更され修正再表示が行われた場合で、かつ、当該修正再表示した年度の比較情報において子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の額が変更される場合、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しているときは、当該一時差異の額の変更に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を修正再表示した年度の比較情報に反映させる。
- 62. 修正再表示した年度の比較情報における将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額や過年度において回収可能性適用指針第15項から第32項に従って判断した企業の分類を見直す場合、当該見直しに伴う影響は、当該修正再表示した年度の比較情報に反映させる([設例12-2])。
開 示
表 示
- 63. 土地再評価差額金に係る繰延税金資産又は繰延税金負債は、他の繰延税金資産又は繰延税金負債とは区別して、貸借対照表の投資その他の資産又は固定負債の区分に、再評価に係る繰延税金資産など又は再評価に係る繰延税金負債など、その内容を示す科目をもって表示する。
注記事項
- 64. 第45項から第52項による税率を用いて決算を行い、かつ、決算日後に当該税率の変更を伴う法律が成立した場合、税効果会計基準 第四 4.に従って、その内容及び影響を注記する。
適用時期等
- 65. 2018年に公表した本適用指針(以下「2018年適用指針」という。)の適用時期等に関する取扱いは、次のとおりとする。
- (1) 2018年(平成30年)4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。
- (2) 2018年適用指針の適用初年度において、第8項(2)及び第24項を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。
- 65-2. 2022年に改正した本適用指針(以下「2022年改正適用指針」という。)の適用時期等に関する取扱いは、次のとおりとする。
- (1) 2024年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用する。ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用することができる。
- (2) 2022年改正適用指針の適用初年度において、2022年改正適用指針を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する。
ただし、2022年改正適用指針のうち、子会社に対する投資を売却した時の親会社の持分変動による差額に対する法人税等及び税効果(第9項(3)、第30項、第31項及び第51項(3)参照)の改正については、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を期首の資本剰余金に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができる。 - 65-3. 2024年に改正した本適用指針(以下「2024年改正適用指針」という。)の適用時期等は、2024年に改正された自己株式等会計適用指針(以下「2024年改正自己株式等会計適用指針」という。)と同様とする。
- 65-4. 2025年に改正した本適用指針(以下「2025年改正適用指針」という。)の適用時期は、2025年に改正された法人税等会計基準(以下「2025年改正法人税等会計基準」という。)の適用時期と同様とする。
- 2025年改正法人税等会計基準第20-4項ただし書きを適用する場合、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の中間連結財務諸表及び中間個別財務諸表並びに四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表については、2025年改正適用指針を適用しない。
- 65-5. 2025年改正適用指針の適用初年度において、2025年改正適用指針を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する。
- ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の資本剰余金、利益剰余金及び評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができる。この場合、2025年改正法人税等会計基準第20-5項ただし書きについても適用する必要がある。
- 66. 2018年適用指針の適用により、企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(以下「税率適用指針」という。)は廃止する。
- 67. 当委員会は、日本公認会計士協会に、次の実務指針等の改廃を検討することを依頼する。
- (1) 会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「連結税効果実務指針」という。)
- (2) 会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「個別税効果実務指針」という。)
- (3) 会計制度委員会「税効果会計に関するQ&A」(以下「税効果Q&A」という。)
- (4) 会計制度委員会「土地再評価差額金の会計処理に関するQ&A」
議 決
- 68. 2018年適用指針は、第378回企業会計基準委員会に出席した委員14名全員の賛成により承認された。
- 68-2. 2022年改正適用指針は、第489回企業会計基準委員会に出席した委員14名全員の賛成により承認された。
- 68-3. 2024年改正適用指針は、第522回企業会計基準委員会に出席した委員12名全員の賛成により承認された。
- 68-4. 2025年改正適用指針は、第542回企業会計基準委員会に出席した委員13名全員の賛成により承認された。
結論の背景
経 緯
- 69. 2013年(平成25年)12月に開催された第277回企業会計基準委員会において、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議より、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針(会計に関する部分)について当委員会で審議を行うことが提言された。この提言を受けて、当委員会は、税効果会計専門委員会を設置して、2014年(平成26年)2月から審議を開始した。
- 70. 審議を進めていく中で、日本公認会計士協会 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」に対する問題意識が特に強く聞かれたことから、2015年(平成27年)12月に回収可能性適用指針を先行して公表した。また、税効果会計に適用する税率の取扱いについては実務上の課題があるため、先行して対応を図るべきとの意見が聞かれたことから、2016年(平成28年)3月に税率適用指針を公表した。
- 71. 2018年適用指針は、連結税効果実務指針及び個別税効果実務指針を改正するものであり、主にこれらの実務指針のうち繰延税金資産の回収可能性に関する定め以外の税効果会計に関する定めについて、基本的にその内容を2018年適用指針に踏襲した上で、必要と考えられる次の会計処理について見直しを行い、2017年(平成29年)6月に企業会計基準適用指針公開草案第58号「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」を公表して広く意見を求めた。2018年適用指針は、公開草案に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。2018年適用指針では、次の会計処理以外の定めについては、表現の見直しを行っているが、実質的な内容の変更は意図していない。
- (1) 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを連結財務諸表における子会社等に対する投資に関連する一時差異の取扱いに平仄を合わせた(第8項(2)②及び第94項から第97項参照)。
- (2) 子会社の利益のうち投資時に留保しているものに関する繰延税金負債の取扱いを削除した(第24項、第113項及び第114項参照)。
- 72. なお、開示(表示及び注記事項)に関連する定めについては、2018年適用指針の公表に併せて企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」を公表している。
- 73. また、税率適用指針については、その内容を本適用指針に統合し、廃止することとしている(第66項参照)。
- 73-2. 当委員会では、2018年2月に2018年適用指針等を公表し、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針の当委員会への移管を完了した。当該審議の過程では、税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果については、2018年適用指針等の公表後に改めて検討を行うこととしていた。審議の結果、両論点について、2022年改正適用指針において所要の改正を行っている。
- 73-3. 2024年改正適用指針においては、2024年改正自己株式等会計適用指針において令和5年度税制改正を契機に子会社株式を配当する場合の会計処理に関する改正を行ったことを受け、所要の改正を行っている。
- 73-4. 2025年改正適用指針では、2024年年次改善プロジェクトにおいて法人税等会計基準における特別法人事業税の取扱いの明確化を行うための改正を行ったことを受け、所要の改正を行っている。
用語の定義
- 74. 本適用指針では、必要と考えられる用語の定義を定めるにあたって、税効果会計基準における定義をそのまま引き継ぐか又は連結税効果実務指針、個別税効果実務指針若しくは税率適用指針等における記載を踏襲している(第4項参照)。
- 74-2. 2025年改正適用指針では、2025年改正法人税等会計基準において特別法人事業税(基準法人所得割)について事業税(所得割)と同様の取扱いが要求されることを明確化したことに伴い、法定実効税率の算式に特別法人事業税率が含まれることを明確化することとした(本適用指針第4項(11)参照)。
財務諸表上の一時差異等
- 75. 財務諸表上の一時差異(第4項(4)参照)は、個別財務諸表において次のような場合に生じるとされている(税効果会計基準 第二 一 2 (1))。
- (1) 収益又は費用の帰属年度が税務上の益金又は損金の算入時期と相違する場合
- (2) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等が直接純資産の部に計上され、かつ、課税所得計算に含まれていない場合
- 76. 一時差異等には、税務上の繰越欠損金のほか、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除等が含まれる(第4項(3)参照)。これは、個別税効果実務指針において次のとおり記載されていたものである。
- (1) 「税務上の繰越欠損金は一時差異ではないが、一時差異と同様の税効果を有する。つまり、税務上の繰越欠損金は、その発生年度の翌期以降で繰越期限切れとなるまでの期間(以下「繰越期間」という。)に課税所得が生じた場合には、課税所得を減額することができる。その結果、課税所得が生じた年度の法人税等として納付すべき額は、税務上の繰越欠損金が存在しない場合に比べて軽減されるため、一時差異に準ずるものとして取り扱う。」
- (2) 「税務上の繰越外国税額控除が発生した場合(控除対象となる外国法人税等の額が外国税額控除限度額を超える場合)には、翌期以降の繰越可能な期間に発生する外国税額控除余裕額(控除対象となる外国法人税等の額があるときはその金額を外国税額控除限度額から控除後)を限度として税額を控除することが認められることから、繰越外国税額控除についても一時差異に準ずるものとする。」
- 77. 一方で、次の項目のように、税引前当期純利益の計算においては収益又は費用として計上されるが、課税所得計算においては永久に税務上の益金又は損金に算入されないものは、将来において、課税所得を増額又は減額させる効果を有さないため、一時差異等には該当しない。
- (1) 会計上、収益として計上された受取配当金のうち、課税所得計算において永久に税務上の益金に算入されないもの
- (2) 会計上、費用として計上された交際費のうち、課税所得計算において永久に税務上の損金に算入されないもの
- 78. 第77項に関連し、役員賞与に係る引当金について、会計上、費用処理された役員賞与のうち将来にわたって税務上の損金に算入されないものも、一時差異等には該当しない。これは、税効果Q&Aでは、役員賞与に係る引当金の取扱いについて、次のとおり記載されていたものである。
- (1) 「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理されることとされ、当事業年度の職務に係る役員賞与を期末後に開催される株主総会の決議事項とする場合には、当該支給は株主総会の決議が前提となるので、当該決議事項とする額又はその見込額(当事業年度の職務に係る額に限る。)は、原則として、引当金に計上することとされています(企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」第3項及び第13項)。」
- (2) 「税務上、役員給与のうち損金に算入される額は、一定の要件を満たしたものに限られていますので(法人税法第34条から第36条まで)、会計上、費用処理された役員賞与のうち将来にわたって損金算入されないものは、将来減算一時差異に該当しないので、税効果会計の対象とはなりません。」
- 79. 第78項に記載した税効果Q&Aでの取扱いのように、財務諸表上の一時差異は、将来減算一時差異又は将来加算一時差異のいずれかに分類されると整理されていたと考えられる。このため、当該事項を第4項(4)に記載した。
- 80. 審議の過程では、完全支配関係(法人税法第2条第12号の7の6)にある国内の子会社株式の評価損のように、当該子会社株式を売却したときには税務上の損金に算入されるが、当該子会社を清算したときには税務上の損金に算入されないこととされているものについて、当該子会社株式を将来売却するか、当該子会社を清算するか等が判明していないときに、一時差異(将来減算一時差異)として取り扱うか否かが明確ではないとの意見が聞かれた。
- 81. これについては、当該子会社株式を将来売却するか、当該子会社を清算するか等が判明していない場合であっても、個別貸借対照表に計上されている資産の額と課税所得計算上の資産の額との差額は、当該差額が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を有する可能性があることから、第4項(4)①に定める一時差異が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を持つものに含め、一時差異(将来減算一時差異)に該当するものと整理することとした。
- 82. 新株予約権については、一時差異等には該当しないものとして取り扱う。この取扱いは、企業会計基準適用指針第8号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(以下「純資産の部適用指針」という。)において、「新株予約権は、失効時に課税所得を増額する効果をもつ課税所得計算上の負債に該当するため、税効果会計の対象になるという考え方もあるが、権利行使の有無が確定するまでの間は、その性格が確定しないことから、貸借対照表に計上されている負債に該当しないのみならず、税効果会計の適用において、課税所得計算上の負債にも該当しないと考えられる。このため、本適用指針では、新株予約権については、税効果会計の対象としないものとしている。」と整理されていたものである。
- 83. 企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」に従って計上したストック・オプションに係る費用は、税効果Q&Aに記載されていたように、次のとおり取り扱う。
- (1) 「いわゆる税制適格ストック・オプション(租税特別措置法第29条の2)については、従業員等の個人において給与所得等が非課税となり、法人において当該役務提供に係る費用の額が損金に算入されませんので(法人税法第54条第2項)、将来減算一時差異に該当せず、税効果会計の対象とはなりません。」
- (2) 「いわゆる税制非適格ストック・オプションについては、従業員等の個人が給与所得等として課税されるときは、給与等課税事由が生じた日(権利行使日)に、法人において、当該役務提供に係る費用の額が損金に算入されますので(法人税法第54条第1項)、ストック・オプションの付与時において将来減算一時差異に該当し、税効果会計の対象となります。」
将来減算一時差異
- 84. 将来減算一時差異(第4項(4)①参照)の例示として次のものが挙げられる([設例1])。
- (1) 会計上、費用として計上された棚卸資産の評価損のうち、税務上の損金として認められないもの
- (2) 未払事業税
- (3) 貸倒引当金の損金算入限度超過額
- (4) 賞与引当金
- (5) 退職給付引当金
- (6) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差損
- (7) 連結会社間における資産の売却に伴い生じた売却損を税務上繰り延べる場合(法人税法第61条の11)の当該売却損
- (8) 連結子会社間で寄附金の授受を行い、親会社が当該寄附金を受領した子会社の株式の簿価を税務上増額修正する場合(法人税法施行令第9条第1項第7号)の当該簿価修正額
将来加算一時差異
- 85. 将来加算一時差異(第4項(4)②参照)の例示として次のものが挙げられる([設例1])。
- (1) 積立金方式による租税特別措置法上の諸準備金
- (2) 税務上の特別償却により生じた個別貸借対照表上の資産の額と課税所得計算上の資産の額の差額
- (3) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差益
- (4) 連結会社間における資産の売却に伴い生じた売却益を税務上繰り延べる場合(法人税法第61条の11)の当該売却益
- (5) 連結子会社間で寄附金の授受を行い、親会社が当該寄附金を支出した子会社の株式の簿価を税務上減額修正する場合(法人税法施行令第9条第1項第7号)の当該簿価修正額
連結財務諸表固有の一時差異
- 86. 連結財務諸表固有の一時差異(第4項(5)参照)の例示として次のものが挙げられる。
- (1) 連結決算手続において、親会社及び子会社が採用する会計方針を統一した場合に、連結貸借対照表上の資産の額及び負債の額と個別貸借対照表上の当該資産の額及び負債の額に差異が生じているときの当該差額
- (2) 資本連結手続において、子会社の資産及び負債を時価評価した場合に生じた評価差額
- (3) 子会社の資本(子会社の純資産の部における株主資本及び評価・換算差額等(子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額を考慮した額))に対する親会社持分相当額及びのれんの未償却額の合計額(以下「投資の連結貸借対照表上の価額」という。)と親会社の個別貸借対照表上の投資簿価(課税所得計算上の子会社株式の価額をいう。以下同じ。)との差額
- (4) 連結会社間の取引から生じる未実現損益の消去額
- (5) 連結会社間の債権と債務の相殺消去による貸倒引当金の修正額
- 87. 非支配株主持分は、連結財務諸表固有の一時差異に該当しない。この取扱いは、純資産の部適用指針において、非支配株主持分について、「連結貸借対照表に計上されている負債でも課税所得計算上の負債でもないため、税効果会計の対象とはならないものと考えられる。」とされていたものである。
会計処理
税効果会計の目的
税効果会計の方法
- 88. 税効果会計基準では、税効果会計の方法として資産負債法によることとされ、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に差異が生じている場合において、法人税等の額を適切に期間配分することが定められている(第6項参照)。
- 89. 税効果会計の方法には、資産負債法のほかに繰延法がある。
- (1) 資産負債法
資産負債法とは、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額との間に差異が生じており、当該差異が解消する時にその期の課税所得を減額又は増額する効果を有する場合に、当該差異(一時差異)が生じた年度にそれに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する方法である。
したがって、資産負債法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、一時差異の解消見込年度に適用される税率である。 - (2) 繰延法
繰延法とは、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に当該差異による税金の納付額又は軽減額を当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である。
したがって、繰延法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率である。 - 90. 資産負債法における一時差異と繰延法における期間差異の範囲はほぼ一致するが、有価証券等の資産又は負債の評価替えにより直接純資産の部に計上された評価差額は、一時差異ではあるが期間差異ではない。なお、期間差異に該当する項目は、すべて一時差異に含まれる。
税効果会計の対象となる税金
- 91. 本適用指針は、税効果会計の対象となる税金について、「利益に関連する金額を課税標準とする税金」とする税効果会計基準の取扱いを引き継いでいる(第4項(2)及び第6項参照)。
- したがって、例えば、収入金額その他利益以外のものを課税標準とする事業税(付加価値割及び資本割)及び住民税の均等割は、税効果会計の計算に含まれる税金ではない。また、特定同族会社に適用される留保金課税は、各事業年度の留保金額が一定の額を超える場合に追加して課される税金(法人税法第67条)であるため、税効果会計の計算には含まれない。
繰延税金資産及び繰延税金負債の計上
- 92. 本適用指針では、「繰延税金資産又は繰延税金負債として計上すべき金額は、将来の会計期間における一時差異の解消又は税務上の繰越欠損金の課税所得との相殺及び繰越外国税額控除の余裕額の発生に係る減額税金又は増額税金の見積額である。」とする個別税効果実務指針の定めの内容に基づき、第8項(1)及び(2)を定めている。
- 93. また、繰延税金負債の計上に関して、税効果会計基準では支払が見込まれない税金の額を控除することとされている点について(第7項参照)、個別税効果実務指針では、「支払が見込まれない」場合を「事業休止等により、会社が清算するまでに明らかに将来加算一時差異を上回る損失が発生し、課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合に限られる。」とされている内容についても、基本的に踏襲している。
- ただし、個別税効果実務指針においては、「支払が見込まれない場合」として「事業休止等」が例示されていたが、税金の支払が見込まれない場合は必ずしも事業休止に限られないため、当該表現については踏襲していない(第8項(2)①参照)。
連結財務諸表及び個別財務諸表における子会社等に対する投資に関連する一時差異の取扱い
(連結財務諸表及び個別財務諸表における子会社等に対する投資に関連する一時差異の取扱いの整合性)
- 94. 連結税効果実務指針では、連結財務諸表における子会社に対する投資に係る将来加算一時差異について、原則として、繰延税金負債を計上するが、「親会社がその投資の売却を親会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却を行う意思がない場合には、当該将来加算一時差異に対して」、繰延税金負債を計上しないこととされていた。一方で、個別税効果実務指針では、個別財務諸表における子会社株式に係る将来加算一時差異について、第93項に記載した「支払が見込まれない場合」と「組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る一時差異」のうち一定の要件を満たす場合を除き、一律に繰延税金負債を計上することとされていた。
- 95. この点について、連結財務諸表における子会社に対する投資に係る将来加算一時差異(留保利益に係るものが配当により解消される場合を除く。)と、個別財務諸表における子会社株式に係る将来加算一時差異は、いずれも投資の売却又は子会社の清算により解消される点で共通していることから、これらの取扱いについて整合性を図るべきとの意見が聞かれた。
- 96. 審議の結果、個別財務諸表における子会社株式に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせる記載に見直すこととした。
- また、関連会社に対する投資に関連する繰延税金負債についても、連結税効果実務指針において「本報告の示した方法に準じて処理するものとする。」とされていたこと、及び関連会社株式は子会社株式と同様に一般的に事業投資としての性格を有することから、子会社に対する投資に関連する繰延税金負債の取扱いに合わせることとした。なお、関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異のうち留保利益に係るものが配当により解消される場合の取扱いについては、持分法実務指針に具体的に定められているため、当該定めに従って処理することとなる。
- 具体的には、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異について、親会社等がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合、当該将来加算一時差異に係る繰延税金負債を計上しない定めを設けることとした(第8項(2)②参照)。
- 97. この定めを設けたことにより、個別税効果実務指針に記載されていた組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い(第98項参照)は、子会社株式等に関する将来加算一時差異の取扱い(第8項(2)②参照)に含まれることから、第8項(2)②の定め以外に特別な定めを設けないこととした。
- 一方で、組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来減算一時差異の取扱い(第98項参照)は、従来と変わらないことから、第8項(1)に当該取扱いに関する定めを設けることとした。
(組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る一時差異の取扱い)
- 98. 結合分離適用指針第115項及び第123項では、株式交換又は株式移転が取得と判定された場合、株式交換完全親会社又は株式移転設立完全親会社が取得した子会社株式(株式交換完全子会社の株式又は株式移転完全子会社の株式)に係る一時差異(取得のときから生じていた一時差異に限る。)に関する税効果は、予測可能な将来の期間に、当該子会社株式を売却する予定があるとき等を除き、認識しない取扱いが示されている。
- 個別税効果実務指針では、当該取扱いとの整合性から、例えば、次の取引について結合当事企業又は結合当事企業の株主は、組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る一時差異(当該株式の受取時に生じていたものに限る。)に関する繰延税金資産又は繰延税金負債は計上しないこととなるとされていた。本適用指針では、この取扱いを踏襲している。
- (1) 取得と判定された合併等において、取得企業が被取得企業から受け入れた子会社株式等に係る一時差異
- (2) 共通支配下の取引において、株式交換完全親会社又は株式移転設立完全親会社が受け取った子会社株式に係る一時差異
- (3) 共通支配下の取引として行われる分割型会社分割において、分割会社の親会社等が受け取った子会社株式等(新設会社(又は承継会社)の株式)に係る一時差異
- ただし、当該一時差異について、個別税効果実務指針では「当該株式の受取時に発生していたもので、かつ、受取時に会計上の損益及び課税所得(又は税務上の繰越欠損金)に影響を与えないものについては税効果を認識しない。」とされていたが、このうち、「受取時に会計上の損益及び課税所得(又は税務上の繰越欠損金)に影響を与えないもの」との記載については、結合分離適用指針第115項及び第123項の定めに当該記載がないこととの整合性を図るため、本適用指針では削除することとした。
- 99. なお、事業分離が行われた場合、分離元企業にとって分離先企業に移転された事業に対する投資が継続しているとみるときは、結合分離適用指針第108項(2)により、事業分離日において移転する繰延税金資産及び繰延税金負債の額を、分離先企業の株式の取得原価に含めずに、分離先企業の株式等に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債として計上することとされているため、当該定めによることとなる。
財務諸表上の一時差異等の取扱い
連結会社間における資産の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い
- 100. 第16項又は第17項に従って連結会社間における資産の売却に伴い生じた売却損益に係る一時差異について繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する場合、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は、当該資産を売却した企業において当該一時差異の解消が見込まれる期における法定実効税率に基づき計算する。
連結財務諸表固有の一時差異の取扱い
子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異の取扱い
- 101. 資本連結手続において、子会社の資産及び負債は、支配獲得日の時価をもって評価され、その評価差額(個別財務諸表において資本又は損益に計上されたものを除く。)は資本として処理されることとなる。当該評価差額は親会社の投資と子会社の資本との相殺消去及び非支配株主持分への振替により全額消去されるが、評価対象となった子会社の資産及び負債の連結貸借対照表上の価額と個別貸借対照表上の価額との間に差異が生じる。
- 当該差異は連結財務諸表固有の一時差異に該当し、第18項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上し、第19項に従って計上した繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩すこととなる。
個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上した場合の連結財務諸表における取扱い
- 102. 親会社の個別財務諸表において子会社株式の評価損が計上される場合、当該評価損が資本連結手続によって消去されることにより、当該評価損の消去に伴う連結財務諸表固有の将来加算一時差異が生じる。この将来加算一時差異については、子会社株式の評価損に係る税務上の取扱いにより、第20項又は第21項に従って処理することとなる。
- この取扱いにより、子会社株式の評価損について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合、連結決算手続において生じた当該評価損の消去に伴う将来加算一時差異に対して計上される繰延税金負債の額は、個別貸借対照表において計上された繰延税金資産の額と一致し、連結財務諸表上、子会社に対する投資について一時差異が生じていないことと同様になる。
子会社に対する投資に係る一時差異の取扱い
(子会社に対する投資に係る一時差異)
- 103. 子会社に対し投資を行った時は、通常、親会社の個別貸借対照表上の投資簿価と当該投資の連結貸借対照表上の価額とは一致し(当該子会社株式の取得原価に含まれる取得関連費用を除く。)、連結財務諸表上、子会社に対する投資に係る一時差異は生じない。
- 104. しかし、投資後に子会社が計上した損益、為替換算調整勘定、のれんの償却等により、子会社に対する投資の連結貸借対照表上の価額が変動する。その結果、親会社の個別貸借対照表上の投資簿価と当該投資の連結貸借対照表上の価額の間に差額が生じる。当該差額は、次の場合に親会社において納付する税金を増額又は減額する効果を有する。
- (1) 子会社が親会社に配当を実施する場合
- (2) 親会社が保有する投資を第三者に売却する又は保有する投資に対して個別財務諸表上の評価損を計上することにより、税務上の損金に算入される場合
- このように将来の会計期間に親会社において納付する税金を増額又は減額する効果を有する場合、親会社の個別貸借対照表上の投資簿価と子会社に対する投資の連結貸借対照表上の価額との差額は連結財務諸表固有の一時差異に該当する。
(子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異)
- 105. 子会社に対する投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を下回る場合、連結財務諸表固有の将来減算一時差異が生じることとなる。当該将来減算一時差異については、第22項に従って処理する。
- 105-2. 2022年改正適用指針では、連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)であって、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、第17項に従って当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩すように見直しを行った(第39項及び第143-2項参照)。
- これにあわせて、税務上の要件を満たし課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合に該当する子会社株式の売却について、予測可能な将来の期間に当該子会社に対する投資の売却を行う意思決定又は実施計画が存在しても、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異に対し繰延税金資産を計上しないこととした。そのため、第22項(1)①の子会社に対する投資の売却等から、税務上の要件を満たし課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合を除いている。
(子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異)
- 106. 子会社に対する投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を上回る場合、連結財務諸表固有の将来加算一時差異が生じることとなる。当該将来加算一時差異については、第23項又は第24項に従って処理する。
- 106-2. 2022年改正適用指針では、第105-2項と同様の考え方により、税務上の要件を満たし課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合に該当する子会社株式の売却について、予測可能な将来の期間に当該子会社に対する投資の売却を行う意思があるとしても、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対し繰延税金負債を計上しないこととした。そのため、第23項(2)に、予測可能な将来の期間に、子会社に対する投資の売却等を行う意思があるが、当該子会社に対する投資の売却等に伴い生じる売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合を追加している。
子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の各項目の取扱い
(子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の例示)
- 107. 本適用指針第22項から第27項における子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の例示として、次のものが挙げられる。
- (1) 子会社株式の取得原価に含まれる取得関連費用に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異
子会社株式の取得原価に含まれる取得関連費用に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異は、個別財務諸表において、子会社株式の取得原価を企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)及び移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」に従って算定し、当該取得原価に取得関連費用が含まれていた場合、連結決算手続上、発生した連結会計年度の費用として処理することにより(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下「企業結合会計基準」という。)第26項)、子会社に対する投資の連結貸借対照表上の価額と親会社の個別貸借対照表上の投資簿価との間に生じる差異である。 - (2) 段階取得に係る損益に関する連結財務諸表固有の一時差異
段階取得に係る損益に関する連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異は、子会社株式の取得が複数の取引により達成された場合(段階取得)において、子会社に対する投資の連結貸借対照表上の価額と親会社の個別貸借対照表上の投資簿価が一致しないことにより生じる差異(連結会計基準第62項及び企業結合会計基準第25項)である。 - (3) のれんの償却額又は負ののれんの利益計上額に係る連結財務諸表固有の一時差異
- ① のれんの償却額に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異は、子会社に対する投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を下回ることによる差異であり、主に親会社による投資の売却によって解消する。当該将来減算一時差異は、例えば、親会社が投資をすべて売却した場合、売却直前の個別貸借対照表上の子会社株式の投資簿価が連結貸借対照表上の子会社に対する投資の価額より大きくなるため、個別損益計算書上の子会社株式の売却益(損)が小さく(大きく)なり、納付する税金を減額させる効果を有する。
したがって、稀ではあるが、のれんの償却年度において予測可能な将来の期間に当該投資の売却を行う意思決定が行われた場合(本適用指針第22項(1)①参照)、のれんの償却額に係る一時差異に関する繰延税金資産を本適用指針第22項(2)の要件を満たすときに計上する。 - ② 負ののれんの利益計上額に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異は、子会社に対する投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を上回ることによる差異である。当該将来加算一時差異は、例えば、将来において親会社が当該投資を第三者にすべて売却することにより納付する税金を増額させる効果を有する。
したがって、負ののれんの利益計上額に係る繰延税金負債については本適用指針第23項に従って処理する。
(留保利益に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異の取扱い)
- 108. 留保利益に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異については、通常、親会社は子会社の留保利益を配当金として受け取ることにより解消されることから、原則として、当該将来加算一時差異に係る繰延税金負債を計上することとなる。このため、親会社が当該子会社の利益を配当しない方針を採っているなど、将来の会計期間において追加で納付する税金が見込まれない可能性が高い場合を除き、繰延税金負債を計上することとなる(第24項参照)。
- 109. また、第24項における将来の会計期間において追加で納付が見込まれる税金の額には、例えば次のものが挙げられる。
- (1) 親会社が配当金を受け取ったときに納付が見込まれる税金の額(当該配当金のうち税務上の益金に算入される部分に、親会社における法定実効税率を乗じた額)
- (2) 在外子会社から受け取る配当金の額に対して課される外国源泉所得税の額
- 110. 在外子会社から配当金を受け取る場合、親会社は在外子会社の所在地国の法令(又は我が国と当該所在地国で租税条約等が締結されているときには法令や当該租税条約等)に基づき、所在地国の税務当局に当該配当金に係る外国源泉所得税を納付することとされている。したがって、所在地国の法令(又は租税条約等)に外国源泉所得税の税率が規定されており、当該法令が改正される場合(又は当該租税条約等が締結される場合若しくは改正される場合)、第44項に準じて、当該外国源泉所得税の額を計算することとした(第26項参照)。
- 111. 留保利益に係る連結財務諸表固有の一時差異については、税効果Q&Aに記載されていた次の事項に留意することが考えられる。
- (1) 「内国法人が外国子会社から受け取る配当等の全部又は一部が外国子会社の本店所在地国の法令において損金算入することとされている場合は、受け取る配当等の額について、親会社の個別財務諸表における税負担額から、子会社の個別財務諸表において損金算入され親会社の税負担額が軽減されると見積もられる税額を控除した額を、連結財務諸表上、繰延税金負債として計上することになるものと考えられます。」
- (2) 「外国税額控除についても、源泉徴収税額のような直接納付外国税額のうち外国税額控除限度額を超過する納付額を、期中において仮払税金等として資産計上している場合には、期末決算においては、その科目から「法人税、住民税及び事業税」に振替計上し、改めて繰延税金資産の計上の可否を検討することになります。このため、繰越外国税額控除については、在外支店の所得が合理的に見込まれるなど、国外源泉所得を稼得する可能性が高いことにより、翌期以降に外国税額控除余裕額が生じることが確実に見込まれるときに、繰越外国税額控除の実現が見込まれる額を繰延税金資産として計上することに留意が必要です。」
- 112. 子会社が損失を計上し、過去に計上した留保利益を減少させた場合、前期までに計上した繰延税金負債のうち当該減少に対応する部分を修正する必要がある。
(投資時における子会社の留保利益の取扱い)
- 113. 連結税効果実務指針では、投資時における子会社の留保利益の取扱いについて、次の内容が定められていた。
- (1) 「子会社の利益のうち投資時に留保しているものについても、将来配当の可能性がある場合で、配当受領時に親会社において受取配当金に係る追加の税金負担が生ずると見込まれるときには、親会社は投資時に税効果を認識し、繰延税金負債を計上することができる。(中略)なお、税効果の認識に当たって、個別財務諸表上の繰延税金負債の相手科目は子会社投資原価であり、資本連結手続を通じてのれん又は負ののれんに影響を与えることになる。また、その後の税率の変更に伴う繰延税金負債の増減や子会社からの配当受領又は損失計上に伴う繰延税金負債の取崩しは、子会社投資原価若しくはのれん又は負ののれんを修正するのではなく、法人税等調整額に計上する。」
- (2) 「投資時まで留保していた子会社の利益が後日親会社に配当送金されると、投資の連結貸借対照表上の価額は配当金額(源泉徴収税額控除前)だけ減額されるが、個別財務諸表及び税務上は受取配当金として処理されるため、投資の連結貸借対照表上の価額と個別貸借対照表上の投資簿価との間に新たに将来減算一時差異が生じることに留意する必要がある。この将来減算一時差異は、第32項に従って資産計上の要件を満たす場合に限り、親会社において繰延税金資産を計上する。」
- 114. しかしながら、本適用指針は、次の理由で第113項に記載した連結税効果実務指針の内容を踏襲していない(本適用指針第24項参照)。
- (1) 本適用指針第113項に記載した内容のうち、個別財務諸表における子会社株式の取得原価についての記載は、当該事項が定められている金融商品会計基準第17項、企業結合会計基準第23項、連結会計基準第23項(1)等の定めと必ずしも整合しない。
- (2) 実務において本適用指針第113項に記載した会計処理を適用している事例は稀であると考えられる。
(負の値である場合の留保利益に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異の取扱い)
- 115. 子会社の留保利益が負の値である場合、当該留保利益に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異は、投資後に子会社が損失を計上し、投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を下回ることにより生じる。当該将来減算一時差異については、第22項に従って処理する。稀ではあるが、第22項(1)の要件を満たす場合、子会社の損失の発生は、親会社にとって、予測可能な将来の期間に納付する税金を減額させる効果を有することとなる。
- 例えば、子会社の資産の状態が著しく悪化し、税務上の要件を満たす場合、子会社株式の評価損について、一定の金額を限度として税務上の損金に算入することができる。親会社にとっては、当該子会社株式の評価損について税務上の損金に算入することができる要件を満たすことが確実に見込まれる場合、将来において納付する税金を減額させる効果を有するため、負の値である子会社の留保利益のうち、税務上の損金に算入される可能性が高い金額に係る繰延税金資産を、第22項(2)の要件を満たすときに計上する。この繰延税金資産は、親会社に適用される法定実効税率により計上する。
(為替換算調整勘定に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い)
- 116. 第27項(1)④に定める為替換算調整勘定に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱いについては、連結税効果実務指針に示されていた次の内容を踏襲している。
- (1) 「在外子会社等の財務諸表の換算において発生する為替換算調整勘定により、子会社等への投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を下回ることがある。この差額は将来減算一時差異である。」
- (2) 「在外子会社等の財務諸表の換算において発生する為替換算調整勘定により、子会社等への投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を上回ることがある。この差額は将来加算一時差異である。」
- (3) 「為替換算調整勘定に対する税効果は、主に投資会社が株式を売却することによって実現するものであるため、第30項の要件に従い、子会社等の株式の売却の意思が明確な場合に税効果を認識し、それ以外の場合には認識しないものとする。」
- (4) 「税効果を認識する場合には、連結貸借対照表の純資産の部に計上される為替換算調整勘定は、それに対応して認識された繰延税金資産又は繰延税金負債に見合う額を加減して計上する。」
- (5) 「為替換算調整勘定は、発生時に連結上損益計上されていないが、当該為替換算調整勘定の実現額は、子会社等の株式の売却時に個別決算上の売却損益に含めて計上される(親会社と子会社の支配関係が継続している場合を除く。)ことになる」([設例5])
子会社に対する投資を一部売却した場合の取扱い
(子会社に対する投資を一部売却した後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合における親会社の持分変動による差額に対応する法人税等相当額についての売却時の取扱い)
- 117. 子会社に対する投資を一部売却した後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合、連結財務諸表上、当該売却に伴い生じた親会社の持分変動による差額は、資本剰余金として計上し、関連する法人税等相当額は、資本剰余金から控除することとされている(連結会計基準第29項及び(注9)(2))。
- このため、子会社に対する投資を一部売却した場合、売却に伴い生じた親会社の持分変動による差額に対応する法人税等相当額について、連結財務諸表上、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目を相手勘定として資本剰余金から控除することとした(本適用指針第28項参照)。
- 118. なお、資本剰余金から控除する法人税等相当額は、売却元の課税所得の額や税金の納付額にかかわらず、原則として、売却に伴い生じた親会社の持分変動による差額に法定実効税率を乗じて計算する。ただし、税金の納付が生じていない場合に資本剰余金から控除する額をゼロとするなど他の合理的な計算方法によることを妨げるものではない。
(子会社に対する投資を一部売却したことにより親会社と子会社の支配関係が継続していない場合における残存する投資の額に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債についての売却時の取扱い)
- 119. 子会社に対する投資を一部売却したことにより当該被投資会社が子会社等に該当しなくなった場合、利益剰余金に計上されていた当該被投資会社の留保利益(又は負の値である場合の留保利益)の親会社持分相当額とのれんの償却累計額又は負ののれんの利益計上額との合計額(差引額)のうち、残存する当該被投資会社に対する投資に相当する部分は連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に、連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)等その内容を示す適当な名称をもって計上するとされている(移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(以下「資本連結実務指針」という。)第46項)。
- 120. 第119項の処理に伴い当該投資の帳簿価額への修正により解消した一時差異について第27項に従って計上した繰延税金資産又は繰延税金負債は、売却時に取り崩し、当該取崩額を法人税等調整額に計上するのではなく、利益剰余金から直接控除する(第29項参照)。
子会社に対する投資を売却した時の親会社の持分変動による差額に対する法人税等及び税効果についての取扱い
(親会社の持分変動による差額に対して繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合の子会社に対する投資を売却した時の取扱い)
- 121. 連結会計基準第28項では、子会社に対する投資の追加取得に伴う親会社の持分変動による差額は、資本剰余金として計上するとされている。親会社の持分変動による差額は、連結財務諸表固有の一時差異に該当し、本適用指針第27項(2)①に従って当該親会社の持分変動による差額に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する場合、資本剰余金を相手勘定として計上する。
- なお、追加取得を行った子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異は、上記の資本剰余金に関連する部分の他、当該子会社の留保利益など利益剰余金に関連する部分を含むこととなる。
- 122. 連結会計基準第30項では、親会社と子会社の支配関係が継続している場合、子会社の時価発行増資等に伴う親会社の持分変動による差額は、資本剰余金として計上するとされている。親会社の持分変動による差額は、連結財務諸表固有の一時差異に該当し、本適用指針第27項(2)②に従って当該親会社の持分変動による差額に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する場合、資本剰余金を相手勘定として計上する。
- なお、時価発行増資等を行った子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異は、上記の資本剰余金に関連する部分の他、当該子会社の留保利益など利益剰余金に関連する部分を含むこととなる。
- 123. 2018年適用指針では、第121項及び第122項に記載した親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合、資本剰余金を相手勘定としている一方で、子会社に対する投資の売却時に当該親会社の持分変動による差額に係る一時差異が解消することにより繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩すときは、対応する額を法人税等調整額に計上することとしていた。
- この会計処理は、連結税効果実務指針の「連結財務諸表上、追加取得や子会社の時価発行増資等により生じた資本剰余金の額について、法人税等調整額に相当する額を控除した後の額で計上し、売却時に繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩額を法人税等調整額に計上することにより、適切な額を税金費用として計上するためである。」という考えを踏襲したものである。
- 123-2. 2022年に改正された法人税等会計基準(以下「2022年改正法人税等会計基準」という。)では、企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引のうち、損益に反映されないものに対して課される当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等について、純資産の部の株主資本の区分に計上することとした(2022年改正法人税等会計基準第5項(1)及び第5-2項(1))が、これに伴って、前項の会計処理を見直すか否かが論点となった。
- 前項の会計処理は、法人税、住民税及び事業税等を原則として損益に計上することとしていたことを前提として定められたものと考えられる。しかしながら、上記のような法人税、住民税及び事業税等について、純資産の部の株主資本の区分に計上することを定めたことにより、前項の会計処理を求める必要性は乏しくなったものと考えられる。そのため、2022年改正適用指針では、前項の場合における繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しは、資本剰余金を相手勘定として行うこととした(本適用指針第30項参照)。
(親会社の持分変動による差額が生じている場合に子会社に対する投資を売却した時の法人税等についての取扱い)
- 124. 2018年適用指針では、追加取得や子会社の時価発行増資等に伴い親会社の持分変動による差額が生じている子会社に対する投資について、当該子会社に対する投資の売却の意思決定とその売却時期が同一の事業年度となったことなどにより、資本剰余金を相手勘定として当該親会社の持分変動による差額に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していなかった場合、資本剰余金の額が、売却前に繰延税金資産又は繰延税金負債を計上した場合と同じ結果になるように、当該子会社に対する投資を売却した時に、資本剰余金とした親会社の持分変動による差額に対応する法人税等調整額に相当する額を、資本剰余金から控除することとしていた。
- 2022年改正法人税等会計基準では、上記のような、持分変動による差額に対する法人税、住民税及び事業税等を、純資産の部の株主資本の区分に計上することとしたことから(2022年改正法人税等会計基準第5項(1)及び第5-2項(1))、2022年改正適用指針では、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していたか否かにかかわらず、親会社の持分変動による差額に対応する法人税等相当額について、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目を相手勘定として資本剰余金から控除することとした(本適用指針第31項参照)。
保有する完全子会社株式を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合の取扱い
- 124-2. 2024年に改正された資本連結実務指針では、保有する完全子会社株式を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合の会計処理について、連結財務諸表においても現物配当に係る損益を計上しないこととした(資本連結実務指針第46-3項、第46-4項、第66-8項及び第66-9項)。このため、当該取引について本適用指針第4項の定義に従って検討した場合、連結決算手続の結果として生じる一時差異のうち、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引において解消する部分が解消する時に連結財務諸表における利益が減額又は増額されないことから、連結財務諸表固有の一時差異は生じているものの連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異の定義に直接的には該当しないと考えられる。しかしながら、税制非適格の場合に連結財務諸表上の税金等調整前当期純利益と税金費用との対応関係を図ることを考えた場合、当該一時差異についても本適用指針が定める連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に係る定め(本適用指針第18項から第27項参照)を適用するのが適切と考えられることから、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異の定義に準ずるものとして同様の取扱いをすることとした(本適用指針第4項(5)なお書き参照)。
- 124-3. この場合、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引に関して、本適用指針第8項(3)の定めに従って、税金の見積額を繰延税金資産及び繰延税金負債として計上することになる。ここで、いわゆるパーシャルスピンオフ税制において税制適格となる場合には子会社株式の配当時に税金は発生しない一方、いわゆるパーシャルスピンオフ税制において税制非適格となる場合には時価で配当されたとして取り扱われることから税額に影響を与える。このため、税制適格となる場合には将来の税金の見積額はゼロとなる一方、税制非適格となる場合には配当により解消する連結財務諸表固有の一時差異に係る税金の額が税金の見積額となる。
- 124-4. 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異に係る繰延税金資産又は子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に係る繰延税金負債を計上する場合について、本適用指針第22項及び第23項において定められている。これらの定めで用いられている「子会社に対する投資の売却等」の「等」には子会社株式の配当が含まれていると考えられるため、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引に関してもこれらの定めに基づいて繰延税金資産又は繰延税金負債の計上時期を判断することとなる。
- なお、本適用指針第24項は、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異のうち、子会社の留保利益について親会社が当該留保利益を配当金として受け取ることにより解消されるものを取り扱っており、株式配当の実施会社がその株主に対して子会社株式を配当する自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引とは取り扱っている局面が異なることに留意する必要がある。
- 124-5. 2024年改正適用指針の審議の過程において、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引において当期税金が生じる場合、法人税等会計基準第5項に従い当該取引に係る法人税、住民税及び事業税等を損益に計上すべきか否かについて検討を行った。この点、自己株式等会計適用指針第10項の柱書に基づき、配当の効力発生日における配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額を損益に計上し、当該損益が課税対象となる場合には、損益計算書において当該損益に対応する税金を計上した上で、株主資本等変動計算書において配当財産の時価をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する。これに対して、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引では、適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額するため損益を計上しないが、まず損益計算書において配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額及び当該差額に係る税金に関する会計処理を行い、この会計処理を踏まえて、株主資本等変動計算書において配当財産の価額をもって配当の会計処理を行うという考え方は自己株式等会計適用指針第10項の柱書の場合と同じであるべきと考えられる。また、配当によるその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額処理に対して課税されるものではない。これらを踏まえると、当該取引に係る法人税、住民税及び事業税等は損益に計上すると考えられる。
債権と債務の相殺消去に伴い修正される貸倒引当金に係る一時差異の取扱い
- 125. 第32項及び第33項に定める債権と債務の相殺消去に伴い修正される貸倒引当金に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱いについては、連結税効果実務指針に示されていた次の考えに基づいている。
- (1) 「連結手続において、連結会社相互間の債権債務の相殺消去が行われ、相殺された債権に対応する貸倒引当金が減額修正される。その結果、減額修正される貸倒引当金が税務上損金として認められたものである場合、個別貸借対照表上の貸倒引当金と税務上の貸倒引当金との間に差異はないが、連結貸借対照表上の貸倒引当金は税務上の貸倒引当金より小さくなり、将来加算一時差異が生ずる。」
- (2) 「本報告では、この将来加算一時差異に対して連結手続上、原則として繰延税金負債を計上することとしたが、債務者である連結子会社の業績悪化に伴い、債権者が個別財務諸表上で貸倒引当金を計上し、税務上損金算入した場合には、当該将来加算一時差異につき税効果を認識しないことになる。すなわち、税務上の損金算入が認められる貸倒引当金が、債権債務の相殺消去に伴い減額修正されても、将来加算一時差異に係る税金は将来においてその支払が見込まれないと考えられるからである。」
- (3) 「減額修正される貸倒引当金が税務上損金として認められず所得に加算されている場合には、個別貸借対照表上の貸倒引当金は税務上の貸倒引当金より大きくなるため、個別財務諸表上、将来減算一時差異が発生する。しかし、連結手続上、貸倒引当金の減額修正が行われると、連結貸借対照表上の貸倒引当金は当該修正額だけ小さくなり、結果として税務上の貸倒引当金に一致し、個別財務諸表上で発生した将来減算一時差異は消滅することになる。」
未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い
(未実現損益の消去に係る一時差異)
- 126. 連結会社間の取引に伴い生じた未実現損益について、連結決算手続上、当該未実現損益は連結会計基準第36項に従って消去されるが、売却元の連結会社において、売却年度に資産に係る売却益(又は資産に係る売却損)に対して課税され、当該会社の個別財務諸表上、当該税金の納付額(又は当該税金の軽減額)が法人税等に計上されていることとなる。
- 一方で、連結財務諸表において、当該未実現損益が実現した時には、売却元の連結会社において、当該資産に係る売却益(又は資産に係る売却損)に対して課税されないこととなる。
- 127. また、連結決算手続上、未実現損益が消去されると、売却された資産の連結貸借対照表上の額と購入側の連結会社における個別貸借対照表上の当該資産の額との間に一時差異が生じる。
- 128. このように、未実現損益の消去に係る一時差異については、個別財務諸表において未実現損益(資産に係る売却損益)が発生した連結会社と、一時差異の対象となった資産を保有している連結会社が相違しており、この点で他の一時差異とは性質が異なる。
- 129. すなわち、売却元の連結会社の個別財務諸表においては、未実現損益の発生年度に当該未実現損益(資産に係る売却損益)に対して課税されており、将来において未実現損益の消去に係る税金を減額又は増額させる効果は有さないこととなる。同様に、購入側の連結会社においては、個別貸借対照表上に計上されている購入した資産の額と課税所得計算上の資産の額とは原則として一致しており、一時差異は生じていない。
- しかしながら、連結決算手続上、消去された未実現損益は、連結財務諸表固有の一時差異に該当するため、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上することとなる。
(未実現損益の消去に係る一時差異の会計処理)
- 130. 連結税効果実務指針では、連結決算手続上、消去された未実現損益に関する一時差異については、未実現損益が発生した連結会社と一時差異の対象となった資産を保有する連結会社が異なるという特殊性を考慮し、かつ、従来からの実務慣行を勘案し、売却元の連結会社における税金の納付額又は軽減額を繰延税金資産又は繰延税金負債として計上し、当該未実現損益の実現に対応させて取り崩すこととされていた。
- この売却元の連結会社における税金の納付額又は軽減額は確定した金額であるため、繰延税金資産又は繰延税金負債の額は、売却元の連結会社における未実現損益(資産に係る売却損益)の額に対して売却年度の課税所得計算に適用される税率に基づく法定実効税率を用いて計算した税金の額である。
- また、未実現損益の消去に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債は、土地、建物等であって、その未実現損益の実現が長期間にわたることになっても計上するものとされていた。
- 131. このように、未実現損益の消去に係る税効果会計については、資産負債法(第89項(1)参照)の例外として繰延法(第89項(2)参照)が採用されている。
- 審議の過程では、国際財務報告基準(IFRS)では資産負債法が採用されており、また、米国会計基準においても棚卸資産以外の資産の未実現損益の消去に係る税効果会計については資産負債法が採用されることから、連結税効果実務指針における繰延法の取扱いについて国際的な会計基準と整合性を図り、資産負債法に変更すべきとの意見が聞かれた。
- 132. この意見に関し、まず、繰延法と資産負債法の論拠については、次のとおりと考えられる。
- 繰延法については、未実現利益を消去する時に当該利益に対して納付した税金相当額を繰延税金資産として計上し税金費用を消去することにより、実際に税金を納付した時点において利益と税金費用が対応する点で一定の論拠があると考えられる。
- 一方、資産負債法についても、未実現利益が実現した時に当該利益に対して納付すると仮定した場合の税金相当額を税金費用として計上することにより、実際に資産が売却された時点において利益と税金費用が対応する点で一定の論拠があると考えられる。
- 133. 次に、繰延法も資産負債法も一定の論拠があることを前提に、未実現損益の消去に係る税効果会計について資産負債法に変更するかどうかについて審議を行ったが、当該審議の過程で、次の意見が聞かれた。
- (1) 資産負債法に変更する場合、連結決算手続上、購入側の企業で繰延税金資産の回収可能性を検討する必要が生じることにより、企業によっては多大なコストが生じる可能性がある。
例えば、ある企業集団において、ある地域を統括する連結子会社が当該連結子会社グループにおける連結財務諸表を作成し親会社に報告している場合、まず当該連結財務諸表の作成においては、当該連結子会社グループ内の連結子会社間の取引から生じた未実現利益に係る繰延税金資産の回収可能性を、購入側の企業における将来の課税所得の見積額により判断し計上することとなる。
その後、当該企業集団の連結財務諸表の作成においては、地域を統括する連結子会社グループ内の連結子会社と当該連結子会社グループ外の連結子会社の間の取引から生じた未実現利益に係る繰延税金資産の回収可能性を購入側の企業において判断する必要があるが、この判断にあたって、当該未実現利益に、当該連結子会社グループにおいて消去された未実現利益も考慮する必要が生じることとなる。
このように、企業によっては決算財務報告プロセスが複雑になり、当該プロセス及びシステムを変更することによって、多大なコストが生じる可能性がある。 - (2) 米国会計基準のように棚卸資産以外の資産の未実現損益の消去に係る税効果会計についてのみ資産負債法に変更することも考えられるが、その場合、未実現損益の消去に係る一時差異をシステムで管理しているときは、棚卸資産か棚卸資産以外の資産かによりシステム上の計算テーブルが異なることとなり、実務が煩雑となる。また、棚卸資産か棚卸資産以外の資産かにより未実現損益の消去に係る税効果会計に関する会計処理を変えることは理論的な根拠が乏しい。
- (3) 一般に、棚卸資産に係る未実現損益は短期に実現することや、連結会社間で棚卸資産以外の資産を取引している頻度は、棚卸資産に比べて高くはないと考えられることを勘案すると、我が国の会計基準において繰延法を採用することにより、国際的な会計基準との比較可能性を必ずしも損なうことにはならないと考えられる。
- (4) 未実現損益の消去に係る一時差異に関する繰延税金資産について、国内企業においては回収可能性適用指針に基づき、スケジューリングの可否や企業の分類によって当該繰延税金資産の計上額が決定されることを踏まえると、結果としてIFRSに基づく計上額と異なる可能性があるため、必ずしも両者を整合させる必要はないと考えられる。
- 134. 他方、公開草案に寄せられたコメントでは、未実現損益の消去に係る税効果会計について繰延法を採用すると、例えば、IFRSを任意適用して連結財務諸表を作成している企業(親会社)の企業集団内に我が国の会計基準に基づき連結財務諸表を作成している子会社が存在する場合、未実現損益の税効果会計について、子会社の連結財務諸表上は繰延法により処理したものを、親会社の連結財務諸表上でIFRSの定めに従い資産負債法により処理する場合があるため、実務上の負担を考慮し、資産負債法の選択適用を認めるべきとの意見や、同様の理由により資産負債法へ変更すべきとの意見があった。
- 135. この点、比較可能性の観点から、一定の使い分けを行わない限りは選択適用を認めることは適切ではないと考えられる。また、第134項のような事例が生じるケースは限定的であると考えられるため、第133項の意見を踏まえると、繰延法から資産負債法へ変更するには至らないと考えられる。
- 136. したがって、未実現損益の消去に係る税効果会計については、繰延法の採用を継続することとした(第34項参照)。
(未実現損益の消去に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率)
- 137. 未実現損益の消去に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、繰延法が採用されるため、未実現損益が発生した売却元の連結会社に適用された税率による。
- 138. このため、次のとおり取り扱う。
- (1) 未実現損益の消去に係る一時差異は、購入側の連結会社の保有する資産に関連しているが、当該連結会社における税効果の計算には影響させない。
- (2) 売却元の連結会社に適用されている税率が変更されても、売却元の連結会社において売却年度に未実現損益(資産に係る売却損益)に対して課税されているため、当該税率の変更に伴う繰延税金負債又は繰延税金資産の額の見直しは行わない。
(未実現損益の消去に係る一時差異の上限)
- 139. 本適用指針では、第35項及び第36項において、未実現損益の消去に係る一時差異は、必ずしも連結決算手続上の未実現損益の消去額によるのではなく、売却元の連結会社における売却年度の課税所得の額(未実現損益に関連する一時差異の解消額を除く。)を上限とする制限を設定している連結税効果実務指針の取扱いを踏襲している。
- 連結税効果実務指針においては、この制限について、次の2つの金額の合計額又は差引額を限度としなければならないという考えに基づいているとされている。
- (1) 売却元における税金の納付額又は軽減額
- (2) 未実現損益に関連する一時差異の解消に係る税効果
- 140. 第139項(1)について、売却元の連結会社における税金の納付額又は軽減額の計算にあたって、売却元の連結会社での未実現損益に係る税務上の益金又は損金の算入は、課税所得(税務上の繰越欠損金控除後)計算上、最後に行われたと仮定している。
- 141. 第139項(2)について、未実現損益の消去に関連する一時差異の解消に係る税効果とは、例えば、売却元の連結会社で過年度において、会計上、棚卸資産の評価損として計上されるが、税務上の損金に算入されなかったことにより生じた将来減算一時差異が、当該棚卸資産を連結会社に売却することにより解消される場合を想定している。
- この場合、売却元の連結会社の個別財務諸表上、当該棚卸資産の売却年度に当該将来減算一時差異が解消されることから、これに係る繰延税金資産が法人税等調整額を相手勘定として取り崩される。この取崩額は、棚卸資産の売却に伴う未実現損益に係る税金の納付額又は軽減額に加減され、その結果得られた税金の合計額又は差引額が未実現損益の消去に対して計上すべき繰延税金資産又は繰延税金負債となる。
連結会社間における資産(子会社株式等を除く。)の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い
- 142. 連結会社間における資産の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合、繰り延べられた当該売却損益は売却元の連結会社の財務諸表上の一時差異に該当する。連結決算手続上、当該売却損益は消去されることから、売却元の連結会社の財務諸表上の一時差異(子会社株式等の売却に伴い生じた一時差異(第39項参照)を除く。)に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上している場合、当該売却損益の消去に係る連結財務諸表固有の一時差異に対して、個別財務諸表において計上した繰延税金資産又は繰延税金負債と同額の繰延税金負債又は繰延税金資産を計上する。これらの繰延税金資産又は繰延税金負債は相殺されるため、結果として、連結財務諸表において当該売却損益に関連する繰延税金資産又は繰延税金負債は計上しないこととなる(第38項参照)。
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い
- 143. 2018年適用指針では、連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の取扱いについては、連結税効果実務指針に示されていた次の考えを踏襲し、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、第17項に従って当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しないこととしていた。
- (1) 「企業集団内における完全支配関係にある国内会社間において、投資を売却することにより、売手側の個別貸借対照表上、完全支配関係にある国内会社間における資産の移転による譲渡損益の繰延べに係る税務上の調整資産又は負債として、将来減算一時差異又は将来加算一時差異(個別税効果実務指針第8項及び第10項参照)が生じ、これに係る繰延税金資産又は繰延税金負債が認識されている場合には、投資に係る一時差異とは性格が異なるものであるため、連結財務諸表上においても、個別財務諸表上において認識された繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されることになる。」
- (2) 「企業集団内の会社が企業集団内の他の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式。以下、同じ。)を売却した場合、通常の資産の取引等から生じる未実現損益に係る一時差異と同様に処理するのではなく、子会社への投資に係る一時差異の全部又は一部が解消し、追加的に又は新たに発生する一時差異については、子会社への投資に係る税効果(第30項参照)に従い会計処理する(第30-2項参照)。これは、企業集団内における投資の売却の結果、個別貸借対照表上の投資簿価が購入側の取得原価(税務上の簿価)に置き換わることにより、投資の連結貸借対照表上の簿価との差額である、連結財務諸表上の一時差異の全部又は一部が解消するためである。」
- 143-2. 2018年適用指針等の審議の過程で、税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させることが税効果会計の目的とされている中で、前項の取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないとの意見が聞かれたことから、2018年適用指針等の公表後に当該取扱いについての検討を行うこととした。
- 審議の結果、連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の取扱いについては、前項(1)に記載のとおり、当該売却損益に係る一時差異が投資に係る一時差異とは性格が異なるものであるため、連結財務諸表上においても、個別財務諸表上において認識された繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されることになるところ、当該売却に係る連結財務諸表上の税引前当期純利益と税金費用との対応関係の改善を図る観点から、連結決算手続上、売却損益を消去するとともに、当該売却損益に係る一時差異に対する繰延税金資産又は繰延税金負債についても取り崩すように見直しを行うこととした。
- 具体的には、2022年改正適用指針では、連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合であって、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩し、購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れることとした(第39項参照)。
- また、審議の過程では、個別財務諸表における取扱いについても見直すことが考えられるのではないかとの意見が聞かれた。しかしながら、次の理由から、個別財務諸表における取扱いについては見直しを行わないこととした。
- (1) 当該子会社株式等の売却により将来加算一時差異が生じているにもかかわらず繰延税金負債を計上しない取扱いは、一部の場合を除き、一律に繰延税金負債を計上する本適用指針の取扱い(第8項(2)参照)に対する例外的な取扱いとなるため、その適用範囲は限定することが考えられる。
- (2) 個別財務諸表においては、連結財務諸表とは異なり、売却損益が消去されないことから、税金費用を計上しないこととした場合には税引前当期純利益と税金費用との対応関係が図られないこととなると考えられる。
子会社等が保有する親会社株式等を当該親会社等に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い
- 144. 連結子会社における親会社株式の売却損益(内部取引によるものを除いた親会社持分相当額)の会計処理は、親会社における自己株式処分差額と同様にその他資本剰余金を加減することとされている(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第16項)。この会計処理に関連し、自己株式等会計適用指針第16項では、連結子会社における親会社株式の売却損益及び持分法の適用対象となっている子会社等における親会社株式等の売却損益は、関連する法人税、住民税及び事業税を控除後のものとするとされている。
- 連結子会社が保有する親会社株式を当該親会社に売却した場合、この自己株式等会計適用指針第16項に準じるとしている(本適用指針第40項参照)。
子会社株式等の取得に伴い認識したのれん又は負ののれんに係る繰延税金負債又は繰延税金資産の取扱い
- 145. 第43項に定める子会社株式等の取得に伴い認識したのれん又は負ののれんに係る繰延税金負債又は繰延税金資産の取扱いについては、連結税効果実務指針に示されていた次の考えを踏襲している。
- (1) 「のれん又は負ののれんについては税務上の資産又は負債の計上もその償却額の損金又は益金算入も認められておらず、また、子会社における個別貸借対照表上の簿価は存在しないから一時差異が生ずる」
- (2) 「のれん又は負ののれんが投資額と子会社の資産及び負債の時価評価の純額の親会社持分額との差額であるため、のれん又は負ののれんに対して子会社が税効果を認識すれば、のれん又は負ののれんが変動し、それに対してまた税効果を認識するという循環が生じてしまう。例えば、子会社において資産の部に計上されたのれんである将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上すると、親会社持分額が減少するため、のれんが増加する。さらに、その増加額に対してまた繰延税金負債が計上され、それがのれんの増額となるため、両勘定との間に際限のない循環が生ずる結果となる。したがって、本報告においてはのれん又は負ののれんに対して税効果を認識しない立場をとった。」
繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法及び税率
繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法
- 146. 税率適用指針を公表する過程では、税率に限らず、どの時点の税法に基づき繰延税金資産及び繰延税金負債を計算するかを明確にすべきとの意見が寄せられた。
- この点、税率は、納付税額を計算する要素の1つとして税法により規定されているため、どの時点の税法を税効果会計に適用するかについて、税率と他の納付税額を計算する要素は同様の取扱いとすることが適切であると考えられる。
- また、これまで税制の改正に伴い税率以外の納付税額を計算する要素が改正された場合、実務上、繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、税率と同様に決算日において国会で成立している税法に規定されている納付税額の計算方法に基づき計算されていたと考えられる。
- 147. これらを踏まえ、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算にあたっては、決算日において国会で成立している税法に規定されている納付税額の計算方法に基づくことを明記することとした(第44項参照)。
繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率
(法人税、地方法人税及び特別法人事業税に関する税率)
- 148. 税効果会計基準及び同注解では、「繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算するものとする。」(税効果会計基準 第二 二 2)と定められており、当該税率の変更があった場合の取扱いについて「法人税等について税率の変更があった場合には、過年度に計上された繰延税金資産及び繰延税金負債を新たな税率に基づき再計算するものとする。」(税効果会計基準 注解(注6))とされている。
- この具体的な取扱いとして、2016年(平成28年)3月に改正される前の個別税効果実務指針では、税効果会計に適用する税率は、決算日において公布されている税法に規定されている税率によることとされていた。
- 149. この公布日を基準とする取扱いについては、3月末日を決算日とする企業において、当事業年度に税法を改正するための法律が当該決算日前までに国会で成立していても、官報による公布が当該決算日間際までなされないことが多く、決算手続や業績予測等の実務的な対応に困難を伴うなどの意見が聞かれた。このため、実務を安定的に行うことができるようにする観点から、2016年(平成28年)3月に公表した税率適用指針では、法人税及び地方法人税について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率によることとした(第46項参照)。
- 150. なお、税率適用指針においては、地方法人特別税についても言及されていたが、平成28年度税制改正において、地方法人特別税等に関する暫定措置法が廃止されることが規定されたため(地方税法等の一部を改正する等の法律(平成28年法律第13号)第9条)、本適用指針においては、地方法人特別税に関する取扱いを踏襲していない。
- 150-2. 2025年改正適用指針では、特別法人事業税が2019年3月27日に成立した「特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律」(平成31年法律第4号)(以下「特別法人事業税等法」という。)の規定に基づく国税であるため、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率に関する定めに関して、特別法人事業税(基準法人所得割)について法人税及び地方法人税と同様の取扱いが行われることを明確化することとした(本適用指針第46項参照)。
(住民税等に関する税率)
- 151. 税率適用指針を公表する審議の過程では、当事業年度において地方税法等を改正するための法律が決算日以前に成立し、かつ、当該法律を含む改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立していない場合の取扱いを明確にすべきとの意見が聞かれた。このため、税率適用指針では、当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合の取扱いを明らかにした。本適用指針ではこの取扱いを踏襲している(第48項(2)①参照)。
- 152. 一方で、改正地方税法等が決算日以前に国会で成立し、かつ、当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立していない場合、仮に当該決算日において成立している条例に規定されている税率(標準税率又は超過課税による税率)によるとすれば、改正直前の地方税法等に規定されていた標準税率及び制限税率に基づいて決定された税率を用いることとなる。この場合、毎年度の税制改正において、通常、法人税法等を改正するための法律及び地方税法等を改正するための法律が同日に成立していることを踏まえると、当該税制改正の内容の一部しか繰延税金資産及び繰延税金負債の額に反映されず、結果として税制改正の趣旨が反映されない可能性がある。
- このため、税率適用指針では、決算日において成立している条例に標準税率で課税することが規定されている場合、税制改正の趣旨を反映させる観点から、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる住民税等の税率は、改正地方税法等に規定されている標準税率によることとした。
- また、税率適用指針では、決算日において成立している条例に超過課税による税率で課税することが規定されている場合、従来から行われている実務を踏まえ、改正地方税法等に規定されている標準税率に、当該決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える差分を考慮する税率によることとした。本適用指針ではこれらの取扱いを踏襲している(第48項(2)②参照)。
- 153. 税率適用指針では、本適用指針第48項(2)②イに定める差分を考慮する税率を算定する方法として、本適用指針第49項において2つの方法を示しているが、税制改正の趣旨等を勘案して、他の合理的な方法があれば当該方法により算定することを妨げるものではないため、「例えば」としていた。本適用指針は、この取扱いを踏襲している。
更正等による追徴又は還付に伴い繰延税金資産又は繰延税金負債に影響が生じる場合の取扱い
- 154. 個別税効果実務指針では、更正等による追徴又は還付に伴い繰延税金資産又は繰延税金負債に影響が生じる場合、当該影響額は、法人税等の追徴税額及び還付税額を損益計算書に計上した年度の法人税等調整額に含めて処理するとされていた。本適用指針では、この取扱いを踏襲している。ただし、本適用指針第9項(1)から(3)の繰延税金資産又は繰延税金負債に影響が生じる場合は、同項と同様の区分を相手勘定として計上することとなる。
遡及適用及び修正再表示により繰延税金資産又は繰延税金負債を変更する場合の取扱い
遡及適用により繰延税金資産又は繰延税金負債を変更する場合の取扱い
- 155. 税効果Q&Aでは、繰延税金資産の回収可能性の判断は、企業会計基準第24号に定める会計上の見積りに該当する事項として取り扱い、過去の財務諸表の作成時において入手可能な情報に基づき最善の見積りを行った場合、過去に遡って処理せず、その影響を当事業年度以降の財務諸表において認識する企業会計基準第24号第17項及び第55項の定めを参照していた。
- 156. 過去の財務諸表の作成時において、回収可能性適用指針第15項から第32項に従って要件に基づき企業を分類し、当該分類に応じて回収が見込まれる繰延税金資産を計上した場合、当該繰延税金資産は、当該財務諸表の作成時において最善の見積りを行い計上されたものである。
- したがって、会計方針の変更に伴い、新たな会計方針を過年度に遡及適用した結果、当該過年度において回収可能性適用指針第15項から第32項に従って判断した分類が変更される可能性がある場合でも、過年度において繰延税金資産の回収が見込まれるとした判断には影響させず、企業会計基準第24号第17項に従って将来にわたりその影響を反映させることが適切であり、会計方針の変更を行った年度の損益に反映することになると考えられる(本適用指針第57項から第59項参照)。
開 示
決算日後に税率が変更された場合の取扱い
- 157. 税効果会計基準では、「決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響」を注記するとされており(税効果会計基準 第四 4)、決算日後に税率が変更された場合、当該変更された税率により計算した繰延税金資産及び繰延税金負債の額を当該決算日における財務諸表に反映しないこととされている。
- 税率適用指針を公表する審議の過程では、税効果会計に適用する税率は繰延税金資産及び繰延税金負債の見積りの一部であると考えられることから、決算日後に税率の変更を伴う法律又は条例が成立した場合には財務諸表を修正すべき後発事象(以下「修正後発事象」という。)として取り扱い、改正された税法又は改正条例に規定された税率により計算した繰延税金資産及び繰延税金負債を当該決算日における財務諸表に反映することが情報としてより有用であるとの意見が聞かれた。
- この点、仮に決算日後の税率の変更を修正後発事象として取り扱う場合、決算発表日や監査報告書日等の直前に税率の変更を伴う法律又は条例が成立するときには実務上の手続が煩雑となり、例えば2月末日を決算日とする企業においては、実務を安定的に行うことが難しくなるものと考えられる。
- また、例えば、上場株式の減損において用いられる株価や固定資産の減損会計において使用価値を算定する際に用いられる割引率のように、既存の会計基準では見積計算に用いる情報は期末日現在のものが用いられ、期末日後の変更は必ずしも財務諸表に反映されていない。
- なお、IFRSにおいても、決算日後の税率の変更は、当該変更された税率により計算した繰延税金資産及び繰延税金負債の額を当該決算日における財務諸表に反映しないことを前提としているものと考えられる。
- 158. 第157項を踏まえ、決算日後に税率が変更された場合、当該変更された税率により計算した繰延税金資産及び繰延税金負債の額を当該決算日における財務諸表に反映しない従来の取扱いを踏襲した結果、第45項から第52項による税率を用いて決算を行い、かつ、決算日後に当該税率の変更を伴う法律が成立した場合、税効果会計基準に従って、その内容及び影響を注記することとした(第64項参照)。
- なお、改正地方税法等が決算日以前に成立し、かつ、決算日後に当該改正地方税法等を受けた改正条例が成立し超過課税による税率が変更された場合であっても、第48項(2)②イ及び第49項に定める差分を考慮する税率を用いて繰延税金資産及び繰延税金負債が計算されていることを踏まえると、通常、その影響は質的及び金額的な重要性が乏しいと考えられる。そのため、第64項では、決算日後に税率の変更を伴う条例が成立した場合は含めないこととしている。
適用時期等
- 159. 2018年適用指針において見直しを行った会計処理は、第8項(2)及び第24項の定めであり、これら以外の定めについては表現の見直しを行っているが、実質的な内容の変更は意図していない(第71項参照)。このため、第8項(2)及び第24項を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととした(第65項(2)参照)。
- 160. 2018年適用指針において見直した個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い(本適用指針第8項(2)②参照)については、連結財務諸表においては金額的な影響が生じないため、経営管理の対応に多くの時間を要しないと考えられ、また特段のシステム対応の必要性は低く長期の準備期間を必要としないと考えられる。
- また、本適用指針第114項に記載しているとおり、従来、連結税効果実務指針で定められていた子会社の利益のうち投資時に留保しているものに対して繰延税金負債を計上する取扱いを適用している事例は稀であると考えられるため、本適用指針第24項の定めを適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる事例は稀であると考えられる。
- これらに加え、本適用指針は連結税効果実務指針、個別税効果実務指針等の従来の取扱いを基本的に踏襲するものであり、財務諸表利用者、財務諸表作成者及び監査人に対する長期の周知期間は要しないと考えられること、及び回収可能性適用指針が公表される過程において、回収可能性適用指針が適用された時期(2016年(平成28年)4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用)とあまり離れず2018年適用指針等を適用すべきとの意見が強く聞かれていた経緯を踏まえ、2018年(平成30年)4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとした。
- なお、適用初年度における連結会計年度又は事業年度の会計処理の首尾一貫性を保持する観点から、早期適用を認めていない。
- 161. 2018年適用指針の適用にあたって、経過的な取扱いを定めるか否かについて検討を行ったが、2018年適用指針において見直した個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いについては、連結財務諸表における子会社等に対する投資に係る将来加算一時差異との整合性の観点から変更されたものであることから、過去の連結財務諸表において子会社株式等の売却等の意思について一定の判断がなされていると考えられるため、経過的な取扱いを定めないこととした。
- 162. 2022年改正適用指針では、法人税等の計上区分(その他の包括利益に対する課税)とグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の論点を取り扱っているが、このうち法人税等の計上区分(その他の包括利益に対する課税)に関して、2022年改正法人税等会計基準では、一定の周知期間又は準備期間が必要となることから、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとし、また、早期適用への一定のニーズがあると考えられることから、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの早期適用を認めることとしている(2022年改正法人税等会計基準第20-2項)。
- そのため、2022年改正適用指針の適用時期については、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果も含めて、2022年改正法人税等会計基準と同様とした(本適用指針第65-2項(1)参照)。
- 163. 2022年改正適用指針において改正した取扱いは、いずれも、企業会計基準第24号第6項(1)の会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当し、原則として、過去の期間のすべてに遡及適用する(本適用指針第65-2項(2)参照)こととなるが、以下の2つの論点については、対象となる取引等が異なり、遡及適用に関連する状況が異なると考えられることから、それぞれの定めについて経過的な取扱いを定めるか否かの検討を行った。
- (1) 子会社に対する投資を売却した時の親会社の持分変動による差額に対する法人税等及び税効果(本適用指針第9項(3)、第30項、第31項及び第51項(3)参照)の改正については、法人税等の計上区分(その他の包括利益に対する課税)に関する改正であり、2022年改正法人税等会計基準と同様の経過措置を設けることとした(本適用指針第65-2項(2)ただし書き参照)。
- (2) 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱いの見直しに関連する改正(本適用指針第22項、第23項及び第39項参照)は、適用される取引について、売却元企業の税務申告書において譲渡損益調整勘定等として記載されているため、遡及適用が必要となる過去の期間における対象取引の把握は可能であると考えられる。また、その会計処理については、購入側の企業における再売却等についての意思の有無により判断することになるが、この点についても、過去の連結財務諸表における子会社等に対する投資に係る一時差異への税効果会計の適用において、当該意思について一定の判断がなされていたと考えられる。したがって、過去の期間への遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられることから、2022年改正適用指針の適用においては、特段の経過的な取扱いを定めないこととした。
- 164. 2025年の本適用指針の改正は、2025年の法人税等会計基準の改正に伴うものであるため、2025年改正法人税等会計基準の適用時期と同様とした(本適用指針第65-4項参照)。
- 165. 2025年改正適用指針を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合であって、2025年改正適用指針が定める新たな会計方針の遡及適用を求めたとき、過年度に計上された繰延税金資産及び繰延税金負債を変更後の法定実効税率を用いて再計算するための一定の負荷が生じる可能性があると考えられる。この点、2025年の本適用指針の改正による影響を受ける企業の数は限定的と考えられることを考慮し、経過的な取扱いとして、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の資本剰余金、利益剰余金及び評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができることとした。この場合、2025年の本適用指針の改正は、2025年の法人税等会計基準の改正に伴うものであるため、2025年改正法人税等会計基準第20-5項ただし書きについて併せて適用することとした(本適用指針第65-5項参照)。
設 例
- 次の設例は、税効果会計基準及び本適用指針で示された内容についての理解を深めるために参考として示されたものであり、仮定として示された前提条件の記載内容は、経済環境や各企業の実情等に応じて異なることに留意する必要がある。
設例
- [設例1] 繰延税金資産及び繰延税金負債の計算
- 1. 前提条件
- (1) A社の決算日は、3月31日である。
- (2) A社では、X0年3月期以前に納税申告書における調整項目はないものと仮定する。
- (3) A社のX1年3月期及びX2年3月期の課税所得の見積額は、次のとおりである。
- (4) A社は、X1年3月31日に未払事業税を444計上する。また、X2年3月31日に未払事業税を405計上する。
- (5) A社は、回収可能性適用指針第17項に定める(分類1)に該当する企業であり、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。
- (6) 法定実効税率は、X0年3月期及びX1年3月期については30%であった。なお、X2年3月期において税法を改正するための法律が国会で成立し、X2年4月1日以後開始する事業年度の法定実効税率は25%となった。
- 2. 会計処理
- (1) 貸倒引当金
- ① 貸倒引当金に関する前提条件
A社は、売掛金につき、貸倒見積高に基づき算定した貸倒引当金を控除している。当該貸倒引当金の計上額のうち税務上の損金算入限度超過額(貸倒引当金繰入限度超過額)は、X1年3月期に1,000、X2年3月期に500生じている(貸倒引当金繰入限度超過額の累計額は、X1年3月期は1,000、X2年3月期は1,500である。)。X3年3月期において当該貸倒引当金は、その全額について、税務上の損金に算入される要件(法人税法第52条)を満たすものとする。 - ② 繰延税金資産の計上
A社のX1年3月期における貸倒引当金の計上額と課税所得計算上の資産(控除項目)の金額との間には1,000の差額(貸倒引当金繰入限度超過額)がある。また、X2年3月期においては、1,500の差額がある。当該貸倒引当金繰入限度超過額は、貸倒引当金が税務上の損金に算入される事業年度の課税所得を減額する効果を有するため、将来減算一時差異に該当する。したがって、A社は、X1年3月期において、貸倒引当金繰入限度超過額に係る将来減算一時差異1,000について繰延税金資産を計上する。
同様に、X2年3月期においては、貸倒引当金繰入限度超過額に係る将来減算一時差異1,500について繰延税金資産を計上する。 - ③ 会計処理
- (2) 賞与引当金
- ① 賞与引当金に関する前提条件
A社は、X1年3月期に賞与引当金を400計上し、X2年3月期に同額の賞与の支給を予定している(X2年3月期に実際に同額支給された。)。また、X2年3月期に賞与引当金を300計上し、X3年3月期に同額の賞与の支給を予定している(X3年3月期に実際に同額支給された。)。賞与については、賞与を支給する事業年度に、その全額が税務上の損金に算入されるものとする。 - ② 繰延税金資産の計上及び取崩し
賞与引当金は、賞与を支給する事業年度の課税所得を減額する効果を有するため、将来減算一時差異に該当する。したがって、A社は、X1年3月期に計上した賞与引当金400に係る将来減算一時差異について繰延税金資産を計上する。
また、X2年3月期においては、賞与の支給に伴いX1年3月期に計上した賞与引当金は税務上の損金に算入され、当該賞与引当金に係る将来減算一時差異400が解消される一方、新たに賞与引当金を計上することに伴い将来減算一時差異が300生じる。したがって、A社は、X1年3月期に計上した繰延税金資産を取り崩し、新たに計上した賞与引当金に係る将来減算一時差異300について繰延税金資産を計上する。 - ③ 会計処理
- (3) 棚卸資産の評価損
- ① 棚卸資産の評価損に関する前提条件
A社は、X1年3月期に、営業循環過程から外れた棚卸資産について、一定の基準により会計上800の評価損を計上し、X2年3月期に当該棚卸資産をすべて処分する。棚卸資産の評価損については、当該棚卸資産を処分した事業年度に税務上の損金に算入されるものとする。 - ② 繰延税金資産の計上及び取崩し
A社は、X1年3月期において棚卸資産の評価損を計上したことにより、貸借対照表上の棚卸資産の金額が課税所得計算上の資産の金額を下回り、一時差異が生じることとなる。当該評価損は、当該棚卸資産を処分する事業年度に課税所得を減額する効果を有するため、将来減算一時差異に該当する。したがって、A社は、X1年3月期において、棚卸資産の評価損に係る将来減算一時差異800について繰延税金資産を計上する。
また、X2年3月期に当該棚卸資産をすべて処分することにより、当該評価損800がX2年3月期に税務上の損金に算入され、当該棚卸資産の評価損に係る将来減算一時差異が解消される。したがって、A社は、X2年3月期において、X1年3月期に計上した将来減算一時差異800に関する繰延税金資産を取り崩す。 - ③ 会計処理
- (4) 退職給付引当金
- ① 退職給付引当金に関する前提条件
A社は、退職一時金制度を有している。A社は、当該制度に係る退職給付引当金をX1年3月期に2,000、X2年3月期に1,000計上しており、X2年3月期の期末における退職給付引当金の残高は3,000である。A社では、X1年3月期及びX2年3月期に退職した従業員はいない。なお、退職給付引当金については、退職金の支給額が確定した事業年度に税務上の損金に算入されるものとする。 - ② 繰延税金資産の計上
退職給付引当金は、税務上、退職金の支給額が確定する事業年度に課税所得を減額する効果を有するため、将来減算一時差異に該当する。したがって、A社は、X1年3月期において、退職給付引当金に係る将来減算一時差異2,000について繰延税金資産を計上する。
また、X2年3月期においては、退職給付引当金を追加で1,000計上することに伴い将来減算一時差異が合計で3,000生じている。したがって、A社は、退職給付引当金に係る将来減算一時差異3,000について繰延税金資産を計上する。 - ③ 会計処理
- (5) 固定資産圧縮積立金
- ① 固定資産圧縮積立金に関する前提条件
A社は、X1年3月期の期末に、税法上の圧縮記帳の要件を満たす土地を取得し、積立金方式により税法上の圧縮記帳を行った(税法上の圧縮記帳額は1,000)。当該土地については、工場の敷地の用に供し、当面の間、売却の可能性はない。なお、税法上の圧縮記帳を行った資産については、売却が行われる場合、売却年度に土地圧縮積立金を取り崩し、当該取崩額が税務上の益金に算入されるものとする。 - ② 繰延税金負債の計上
A社は、X1年3月期において、積立金方式により税法上の土地の圧縮記帳を行ったことにより、X1年3月期の期末の貸借対照表上の土地の計上額は、課税所得計算上の土地の金額を1,000上回ることとなる。このように、積立金方式による税法上の圧縮記帳額(固定資産圧縮積立金繰入額)は、将来(例えば、土地の売却時)の課税所得を増額する効果を有するため、将来加算一時差異に該当する。したがって、A社は、当該将来加算一時差異1,000について繰延税金負債を計上する。 - ③ 会計処理
- (参考)
- 仮に、将来の事業年度において当該土地を売却した場合、売却時に次の会計処理を行うこととなる(法定実効税率は25%とする。)。
- (6) 交際費
- ① 交際費に関する前提条件
A社は、X1年3月期に交際費を200、X2年3月期に100計上した。交際費は、税務上、その全額が永久に損金に算入されないものとする。 - ② 繰延税金資産の計上
交際費は、永久に税務上の損金に算入されないことから、将来の課税所得を減額する効果を有さないため、将来減算一時差異には該当せず、一時差異等に該当しない項目となる(第77項参照)。したがって、A社は、繰延税金資産を計上しない。 - ③ 会計処理
- (7) 未払事業税
- ① 未払事業税に関する前提条件
A社は、未払事業税をX1年3月期に444、X2年3月期に405計上している(中間納付は行っていないものとする。)。X2年3月期において、税務上、事業税の納付時にX1年3月期に計上した未払事業税が同額、損金に算入されるものとする。 - ② 繰延税金資産の計上及び取崩し
未払事業税は、事業税の納付時に課税所得を減額する効果を有するため、将来減算一時差異に該当する。したがって、A社は、X1年3月期においては、未払事業税に係る将来減算一時差異444について繰延税金資産を計上する。また、X2年3月期においては、事業税の納付に伴い当該未払事業税444が税務上の損金に算入され、当該未払事業税に係る将来減算一時差異が解消される一方、新たに未払事業税を405計上することに伴い将来減算一時差異が生じる。したがって、A社は、X1年3月期に計上した繰延税金資産を取り崩し、新たに計上した未払事業税に係る将来減算一時差異405について繰延税金資産を計上する。 - ③ 会計処理
- [設例2] 租税特別措置法上の諸準備金等に係る将来加算一時差異の取扱い(償却資産)
- 1. 前提条件
- (1) A社の決算日は、3月31日である。
- (2) A社は、X1年3月期の期末において、税法上の圧縮記帳の要件を満たす償却資産(固定資産)を取得し、積立金方式により税法上の圧縮記帳を1,000行った。当該償却資産について、売却の予定はない。
- (3) 当該償却資産の耐用年数は10年で、定額法により減価償却を行っている。
- (4) A社は、X2年3月期以降、10年間にわたり償却資産の減価償却に応じて固定資産圧縮積立金を毎期100ずつ取り崩す。
- (5) 税法上の圧縮記帳による固定資産圧縮積立金繰入額は、圧縮記帳を行った事業年度に、税務上の損金に算入され、固定資産圧縮積立金を取り崩した事業年度に当該固定資産圧縮積立金取崩額が、税務上の益金に算入されるものとする。
- (6) A社のX1年3月期の法定実効税率は30%である。また、X2年3月期に税法を改正するための法律が国会で成立し、X2年4月1日以後開始する事業年度の法定実効税率は25%となった。
- 2. 会計処理
- (1) X1年3月期
固定資産圧縮積立金及び繰延税金負債の計上(第15項参照) - (2) X2年3月期
税法の改正に伴う税率変更による繰延税金負債及び固定資産圧縮積立金の調整(第55項参照) - (3) X2年3月期
減価償却に応じた固定資産圧縮積立金及び繰延税金負債の取崩し(第15項参照) - 3. 将来加算一時差異の金額と固定資産圧縮積立金との関係図及び表示例
- (1) 関係図
A社におけるX1年3月期及びX2年3月期の一時差異の金額と固定資産圧縮積立金との関係を図で示すと、次のとおりになる。 - (2) 表示例
本設例における処理を前提として、A社の①貸借対照表、②損益計算書及び③株主資本等変動計算書を作成すると、次のとおりになる。 - [設例3] 子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異の取扱い
- 1. 前提条件
- (1) P社及びS社の決算日は、3月31日である。
- (2) P社は、X1年3月31日にS社株式の発行済株式の60%を840で取得し、子会社とした。
- (3) P社及びS社の法定実効税率は30%である。
- (4) S社は、回収可能性適用指針第17項に定める(分類1)に該当する企業であり、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。
- (5) 取得日現在のS社の資産及び負債の簿価と時価は、(表1)のとおりである。
- (表1)S社の資産及び負債の簿価と時価(X1年3月31日)
- 2. 会計処理(連結修正仕訳)
- (1) S社の資産及び負債の評価(評価差額の計上)
- (2) 評価差額に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計上(第18項参照)
- (3) 投資と資本の相殺消去
- [設例4] 子会社に対する投資に係る一時差異の取扱い
- [設例4-1] 子会社に対する投資の一部売却(投資の一部売却後も親会社と子会社の支配関係が継続してい
る場合) - 1. 前提条件
- (1) P社及びA社の決算日は、3月31日である。
- (2) P社はX1年3月31日にA社株式の100%を1,000で取得した。取得時のA社(国内会社)の純資産(簿価)は700(資本金200及び利益剰余金500)であり、300の含み益(評価差額(繰延税金負債考慮前))を有している。当該含み益は、A社株式の売却時まで実現しない。
- (3) A社株式の取得により生じたのれんの償却期間は5年とし、X2年3月期からX6年3月期にわたり全額が償却された。
- (4) P社がA社の留保利益を配当金として受け取るときに、P社では配当金のすべてが税務上の益金に算入されないため、追加で納付する税金は見込まれない。
- (5) P社はX6年3月にA社株式の20%を売却する意思決定を行い、X6年4月1日(X7年3月期)に300で売却する。
- (6) P社及びA社の法定実効税率は30%である。
- (7) P社のA社株式に係る持分計算、のれんの額及びのれんの償却累計額の算定及びA社株式の売却に係る影響額の算定は、(表1)から(表3)のとおりである。
- (8) 繰延税金資産及び繰延税金負債に関する仕訳以外のX2年3月期からX7年3月期の開始仕訳等は省略している。
- (表1) P社のA社株式に係る持分計算
- (表2) のれんの額及びのれんの償却累計額の算定
- ・取得時に生じるのれんの額
- ・X2年3月期からX6年3月期におけるのれんの償却累計額
- のれん償却累計額90=のれん90÷のれんの償却期間5年×5年
- (表3)P社の個別損益計算書におけるA社株式の売却に係る影響額の算定
- 2. 会計処理(連結修正仕訳)
- (1) X1年3月期(A社株式の取得時)
- ① A社の資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の計上(第18項参照)
- ② 取得時に生じるのれんに係る繰延税金負債の計上
- (2) X6年3月期(A社株式の売却の意思決定時)
留保利益等から生じるA社株式に係る将来加算一時差異に関する繰延税金負債の計上(第23項参照) - (3) X7年3月期(A社株式の売却時)
- ① 開始仕訳
- ② A社株式の売却に伴う売却簿価と売却持分の相殺消去
- (参考1) P社の個別財務諸表におけるA社株式の売却仕訳
- ③ A社株式の売却によるA社株式に係る将来加算一時差異の解消に伴う繰延税金負債の取崩し
- ④ 株式売却益の資本剰余金への振替
- ⑤ A社株式の売却に伴う親会社の持分変動による差額に係る法人税等相当額の計上(第28項参照)
- (参考2) 売却直前の子会社に対する投資の個別貸借対照表上の投資簿価(以下の表では「個別上の簿価」という。)及び連結貸借対照表上の価額(以下の表では「連結上の価額」という。)並びに投資の売却価額との関係
- [設例4-2] 子会社に対する投資の全部売却(追加取得がない場合)
- 1. 前提条件
- (1) P社及びB社の決算日は、3月31日である。
- (2) P社はX1年3月31日にB社株式の発行済株式の100%を1,010で取得した。取得時のB社(国内会社)の純資産(簿価)は600(資本金200及び利益剰余金400)であり、300の含み益(評価差額(繰延税金負債考慮前))を有している。当該含み益は、B社株式の売却時まで実現しない。
- (3) B社株式の取得により生じたのれんの償却期間は10年とし、X2年3月期から償却している。
- (4) P社がB社の留保利益を配当金として受け取るときに、P社では配当金のすべてが税務上の益金に算入されないため、追加で納付する税金は見込まれない。
- (5) P社はX4年3月にB社株式のすべてを売却する意思決定を行い、X4年4月1日(X5年3月期)に1,200で売却する。
- (6) P社及びB社の法定実効税率は30%である。
- (7) P社のB社株式に係る持分計算、のれんの額及びのれんの償却累計額の算定及びP社の個別財務諸表及び連結財務諸表におけるB社株式の売却益の算定は、(表1)から(表3)のとおりである。
- (8) 繰延税金資産及び繰延税金負債に関する仕訳以外のX2年3月期からX5年3月期の開始仕訳等は省略している。
- (表1) P社のB社株式に係る持分計算
- (表2) のれんの額及びのれんの償却累計額の算定
- ・取得時に生じるのれんの額
- ・X2年3月期からX4年3月期におけるのれんの償却累計額
- のれん償却累計額60=のれん200÷のれんの償却期間10年×3年
- (表3) P社の個別財務諸表及び連結財務諸表におけるB社株式の売却益の算定
- 2. 会計処理(連結修正仕訳)
- (1) X1年3月期(B社株式の取得時)
- ① B社の資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の計上(第18項参照)
- ② 取得時に生じるのれんに係る繰延税金負債の計上
- (2) X4年3月期(B社株式の売却の意思決定時)
留保利益等から生じるB社株式に係る将来加算一時差異に関する繰延税金負債の計上(第23項参照) - (3) X5年3月期(B社株式の売却時)
- ① 開始仕訳
- ② B社株式の売却によるB社株式に係る将来加算一時差異の解消に伴う繰延税金負債の取崩し
- (参考) B社株式の売却に伴う連結修正仕訳(B社の資産及び負債の連結範囲からの除外及びB社株式売却益の修正に関する仕訳)
- (1) 前提条件
- ① P社は、X5年3月期において連結決算手続上、B社の個別貸借対照表を取り込んでいるものと仮定する。
- ② P社におけるB社の投資と資本の相殺消去に係る開始仕訳及びその振戻しに係る仕訳は省略している。
- (2) 仕訳
- ① B社の資産及び負債の連結範囲からの除外
- ② B社株式の売却直前のP社における持分の評価
- ③ B社株式売却益の修正
- [設例4-3] 子会社に対する投資の全部売却(追加取得がある場合)
- 1. 前提条件
- (1) [設例3]のS社株式の発行済株式の20%を、X2年3月31日に300で追加取得した。
- (2) S社は、X2年3月期において、X1年3月31日に時価評価した資産のうちその他の資産の一部を売却し、これに係る評価差益50(繰延税金負債考慮前)が実現した。
- (3) X1年3月期に発行済株式数の60%を取得した際に発生したのれん9については、X2年3月期に全額償却した。また、X2年3月期のS社の当期純利益は100であった。
- (4) X2年3月期においては、S社株式の売却の意思決定等は行われていない(第22項又は第23項に定める繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する要件を満たしていない。)。また、P社は、S社の利益を配当しない方針を採用している(第24項第2段落参照)。
- (5) X3年3月期において、X4年3月期にS社株式を第三者へすべて売却する意思決定を行った(第22項又は第23項に定める繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する要件を満たしている。)。また、X3年3月期のS社の当期純利益は100であった。
- (6) X4年3月期において、S社株式を第三者に1,340ですべて売却した。
- (7) P社及びS社の法定実効税率は30%である。
- (8) 繰延税金資産及び繰延税金負債に関する仕訳以外のX2年3月期からX4年3月期の開始仕訳等は省略している。
- 2. 会計処理(連結修正仕訳)
- (1) X2年3月期(S社株式の追加取得時)
- ① その他の資産の売却に伴う繰延税金負債の取崩し
- ② 追加取得したS社株式と非支配株主持分の消去
- (2) X3年3月期(S社株式の売却の意思決定時)
- ① 追加取得により生じた親会社の持分変動による差額に係る繰延税金資産の計上
- ② 留保利益等から生じるS社株式に係る将来加算一時差異に関する繰延税金負債の計上(本適用指針第23項及び第27項参照)
- (3) X4年3月期(S社株式の売却時)
- ① 開始仕訳
- ② S社株式の売却に伴う子会社の投資に係る将来加算一時差異に関する繰延税金負債の取崩し
- ③ S社株式の売却益に対する課税
- なお、P社の個別財務諸表及び連結財務諸表におけるS社株式の売却益は(表3)のとおりとなる。
- (表3) P社の個別財務諸表及び連結財務諸表におけるS社株式の売却益の算定
- (参考) 売却直前のP社の個別貸借対照表上の投資簿価(以下の表では「個別上の簿価」という。)及び売却直前のS社に対する投資の連結貸借対照表上の価額(以下の表では「連結上の価額」という。)並びにS社株式の売却価額との関係
- [設例4-4] 子会社に対する投資の全部売却(追加取得があり、かつ、子会社株式の売却の意思決定と同一
の事業年度に売却が行われる場合) - 1. 前提条件
- (1) [設例4-3]の(1)から(4)及び(7)は、同じ条件とする。
- (2) P社は、X3年3月期中にS社株式を第三者に1,340ですべて売却した。
- (3) X2年3月期及びX3年3月期の開始仕訳等は省略している。
- 2. 会計処理(連結修正仕訳)
- (1) X2年3月期(S社株式の追加取得時)
追加取得したS社株式と非支配株主持分の消去仕訳 - (2) X3年3月期(S社株式の売却の意思決定及び売却時)
追加取得により生じた親会社の持分変動による差額に対応する法人税等相当額の計上(第31項参照) - [設例5] 在外子会社の留保利益及び為替換算調整勘定に係る繰延税金資産及び繰延税金負債
- 1. 前提条件
- (1) 親会社(P社)は、在外子会社(S社)に対し、その設立時より資本金の全額(投資簿価100千ドル×200円/ドル)を出資している。
- (2) P社及びS社の決算日は、3月31日である。
- (3) 法定実効税率は30%である。
- (4) X1年3月期の期末に、P社はS社株式について、次の意思決定を行った。
- ① X3年3月期の期首に、第三者に売却を行う。
- ② 売却にあたって、S社の利益剰余金の全額を配当金として受け取り、その後S社株式を第三者に引き渡す。
- (5) X1年3月期の期末日のS社の貸借対照表は、次のとおりである。
- (6) S社の利益剰余金の全額を配当金として受け取る場合、追加で納付が見込まれる税金の額は、次のとおりである。
- ① P社は配当金の額に対して10%の外国源泉所得税が課される。当該外国源泉所得税は、P社においても、S社においても、税務上の損金に算入されないものとする。
- ② P社において当該配当金のうち税務上の益金に5%算入される。
したがって、P社が追加で納付すると見込まれる税金の額は、配当金の額に対する外国源泉所得税10%、及び税務上の益金に算入される額(配当金の額の5%)に法定実効税率30%を乗じた1.5%を合計したもの、すなわち、配当金の額に対して11.5%と見込まれる。 - (7) X2年3月期の期末日のS社の貸借対照表は、次のとおりである。
- (8) X3年3月期の期首に親会社はS社の利益剰余金300千ドルを全額配当金として受け取り、その後にS社株式をすべて100千ドルで第三者に売却した。配当金の受取時及び売却時における為替レートは、90円/ドル(X2年3月期の期末日の為替レートと同一)であった。
- 2. 会計処理(連結修正仕訳)
- (1) X1年3月期
- ① 留保利益に係る繰延税金負債の計上(第23項から第25項参照)
- ② 為替換算調整勘定に係る繰延税金資産の計上(第27項及び第116項参照)
- (2) X2年3月期
- ① 開始仕訳
- ② 留保利益に係る繰延税金負債の計上(第23項から第25項参照)
- ③ 為替換算調整勘定に係る繰延税金資産の計上(第27項及び第116項参照)
- (3) X3年3月期
- ① 開始仕訳
- ② 配当金の受取りとS社株式の売却
- ③ S社株式の売却に伴う為替換算調整勘定の取崩し及び繰延税金資産の取崩し
- (参考) X3年3月期における配当金の受取り及びS社株式の売却に関連する損益計算書上の該当項目及び影響額
- [設例6] 債権と債務の相殺消去に伴い修正される貸倒引当金に係る一時差異の取扱い
- 1. 前提条件
- (1) P社の期末日現在、100%子会社であるS社に対して160の債権がある。
- (2) P社の個別財務諸表上、当期に当該債権に対して80の貸倒引当金を計上している。
- (3) P社は、当期に計上した貸倒引当金繰入額80については税務上の損金算入の要件を満たしておらず、貸倒引当金繰入限度超過額は80である。
- (4) P社は、回収可能性適用指針第17項に定める(分類1)に該当する企業であり、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。
- (5) P社の法定実効税率は30%とする。
- 2. 会計処理
- (1) P社の個別財務諸表
- ① 貸倒引当金の計上
- ② 貸倒引当金に係る繰延税金資産の計上
- (2) P社の連結財務諸表
- ① 連結会社間の債権と債務の相殺消去に伴う貸倒引当金の修正(連結修正仕訳)
- ② 貸倒引当金の修正により生じる将来加算一時差異に係る繰延税金負債の計上及び個別財務諸表において計上した繰延税金資産との相殺
- [設例7] 未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い
- [設例7-1] 未実現利益の消去に係る一時差異の取扱い
- 1. 前提条件
- (1) S社は、P社の子会社であり、P社はS社株式の80%を保有している。
- (2) P社及びS社の決算日は、3月31日である。
- (3) X1年3月期にS社は、P社に製品Aを1,000で販売した。なお、当該製品の売上原価は600である。また、P社は、X1年3月期の期末において当該製品Aを棚卸資産として保有している。
- (4) X2年3月期にP社は当該製品Aを企業集団外部の顧客に1,300で販売した。
- (5) X1年3月期におけるS社の課税所得は400、X2年3月期におけるP社の課税所得は300である。
- (6) P社及びS社の法定実効税率は、それぞれ30%、20%である。
- (表1)P 社及び S 社の損益計算書及び貸借対照表並びに連結財務諸表の一部
- 2. 会計処理(連結修正仕訳)
- (1) X1年3月期
- ① 連結会社間の取引高の消去及び未実現利益の消去
- ② 未実現利益の消去に伴う繰延税金資産の計上(第34項参照)
- (2) X2年3月期
- ① 開始仕訳
- ② X1年3月期における未実現利益の実現
- ③ 未実現利益の実現に伴う繰延税金資産の取崩し
- (参考)連結損益計算書(税金等調整前当期純利益以下)
- [設例7-2] 未実現利益の消去に係る一時差異の取扱い(売却元の売却年度における課税所得が未実現利益
の消去額を下回る場合) - 1. 前提条件
- (1) S社は、P社の子会社であり、P社はS社株式の100%を保有している。
- (2) P社及びS社の決算日は、3月31日である。
- (3) X1年3月期にS社は、P社に製品Bを販売し、P社は当該製品Bを棚卸資産として保有している。連結財務諸表上、製品Bに係る未実現利益を100消去した。
- (4) X2年3月期にP社は、当該製品Bを企業集団の外部に販売したことに伴い、連結財務諸表上、未実現利益100が実現した。
- (5) X1年3月期におけるS社の課税所得は80である。
- (6) P社及びS社の法定実効税率は、それぞれ30%、20%である。
- 2. 会計処理(連結修正仕訳)
- (1) X1年3月期
- ① 未実現利益の消去
- ② 未実現利益の消去に伴う繰延税金資産の計上
- (2) X2年3月期
- ① 開始仕訳
- ② X1年3月期における未実現利益の実現
- ③ 未実現利益の実現に伴う繰延税金資産の取崩し
- [設例8] 連結会社間における子会社株式の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の取扱い
- 1. 前提条件
- (1) S1社及びS2社は、P社の100%子会社、S3社はS1社の100%子会社であり、これらの会社は、完全支配関係(法人税法第2条第12号の7の6)にある。
- (2) 各社の決算日は、3月31日である。
- (3) X1年3月期からX6年3月期の各期におけるP社、S1社、S2社の企業の分類は、いずれも回収可能性適用指針第17項に定める(分類1)に該当するものとする。
- (4) X1年3月期及びX2年3月期のS1社におけるS3社株式の個別貸借対照表上の投資簿価(以下「個別上の簿価」という。)は100、X1年3月期からX6年3月期までのS3社株式の連結貸借対照表上の価額(以下「連結上の価額」という。)は120であった。
- (5) S1社は、X1年3月期にS2社へS3社株式を売却する意思決定を行った(なお、当該意思決定以前は第23項の要件を満たしていない。)。
- (6) S1社は、X2年3月期の期中にS2社へS3社株式を130で売却した。なお、当該売却に伴い発生したS3社株式売却益30は、税務上の要件を満たし課税所得計算において繰り延べるものとする(法人税法第61条の11)。
- (7) S2社は、X6年3月期にS3社株式を企業集団外の第三者に売却する意思決定を行った。なお、連結財務諸表上、S2社におけるS3社株式に係る将来減算一時差異に関する繰延税金資産の全額につき、第8項(3)に従って回収可能性があるものとする。
- (8) X1年3月期からX6年3月期において、P社では配当金のすべてが税務上の益金に算入されない(S1社及びS2社から配当金を受領した場合及びS1社又はS2社がS3社から配当金を受領した場合、追加の税金の納付は生じない。)。
- (9) P社、S1社及びS2社の法定実効税率は、それぞれ30%とする。
- (図1)株式の所有関係
- 2. 会計処理
- (1) X1年3月期(S1社によるS3社株式の売却の意思決定時)
- ① S1社及びS2社の個別財務諸表における仕訳
- ② P社の連結財務諸表における仕訳
- (2) X2年3月期(S1社によるS3社株式の売却時)
- ① S1社の個別財務諸表における仕訳
- ② S2社の個別財務諸表における仕訳
- ③ P社の連結財務諸表における仕訳
S3社株式の売却益に係る繰延税金負債の取崩し - (3) X6年3月期(S2社によるS3社株式の売却の意思決定時)
- ① S1社及びS2社の個別財務諸表における仕訳
- ② P社の連結財務諸表における仕訳
- (ア)開始仕訳
- (イ)S3社株式の売却益に係る繰延税金負債の取崩額の戻入れ
- (ウ)S3社株式に係る将来減算一時差異に関する繰延税金資産の計上
- P社の連結財務諸表におけるS3社株式に関連する繰延税金資産及び繰延税金負債の計上額は、(表1)のとおりである。
- (表1)S3社株式に関連する繰延税金資産及び繰延税金負債の計上額
- [設例9] 子会社が保有する親会社株式を当該親会社に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関
する取扱い - 1. 前提条件
- (1) S社は、P社(上場会社)の子会社であり、P社はS社株式の80%を保有している。
- (2) P社及びS社の決算日は、3月31日である。
- (3) X1年3月31日(決算日)において、S社はP社株式(親会社株式)を保有している。S社の保有するP社株式の帳簿価額は100、時価も100であった。S社は、P社株式をその他有価証券に分類している。
- (4) X1年12月にS社は、P社株式のすべてを200でP社に売却し、売却益100を計上した。
- (5) X2年3月31日(決算日)にS社は、当該P社株式売却益に対応する税金30を計上した。なお、S社の当期純利益は70(P社株式売却益100及びこれに対応する税金30)である。
- (6) P社及びS社における法定実効税率は、それぞれ30%とする。
- 2. 会計処理
- (1) P社の個別財務諸表(X2年3月期)
- ① 取得時(X1年12月)
- ② 決算時(X2年3月31日)
- (2) S社の個別財務諸表(X2年3月期)
- ① 売却時(X1年12月)
- ② 決算時(X2年3月31日)
- (3) P社の連結財務諸表(X2年3月期)
- ① 非支配株主に帰属する当期純利益の処理(X2年3月31日)
- ② 連結会社間の取引消去(X2年3月31日)
- ③ 子会社に生じる売却損益に対応する法人税等に対する親会社持分相当額の処理(X2年3月31日)
- [設例10] 法定実効税率の算定
- 1. 前提条件
- (1) A社の決算日は、3月31日である。
- (2) A社は、複数の事業所を有するが、主な所得源泉地である本社所在地に適用されている税率を基に法定実効税率を算定している。当該所在地における地方公共団体では、超過課税による税率により住民税及び事業税を課している。
- (3) X1年3月31日において成立している法律又は条例に規定されている税率であって、X1年4月1日以後開始する事業年度の法定実効税率の算定に関連する税率は、(表1)のとおりである。
- 2. 法定実効税率の計算式
- 地方法人税及び住民税(法人税割)の税率は法人税額を課税標準として定められている。また、特別法人事業税(基準法人所得割)の税率は、事業税(所得割)の標準税率による税額を課税標準として定められている。これらを考慮すると、法人税、地方法人税、住民税、事業税(所得割)及び特別法人事業税(基準法人所得割)の税金の額(以下「合計税額」という。)並びに課税所得に対する合計税額の割合(以下「合計税率」という。)は、次のとおり算定される。
- また、事業税(所得割)及び特別法人事業税(基準法人所得割)は、実際に納付する事業年度の課税所得又は税務上の欠損金の計算上、損金に算入されることを勘案すると、法定実効税率は、合計税率から、事業税率に法定実効税率を乗じた数値、並びに事業税率(標準税率)、特別法人事業税率及び法定実効税率を連乗した数値を控除して求められる。
- 上記の算式に、合計税率の算式を当てはめると、第4項(11)に示した次の算式が求められる。
- 3. 法定実効税率の算定
- A社のX1年3月期における決算において、X1年4月1日以後開始する事業年度に解消される将来減算一時差異に係る繰延税金資産及び将来加算一時差異に係る繰延税金負債の計算に用いる法定実効税率は、次のとおり算定される。なお、法定実効税率は、小数点以下第2位を四捨五入している。
- [設例11] 改正地方税法等が決算日以前に成立し、当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日に成
立していない場合の法定実効税率の算定 - 1. 前提条件
- (1) A社の決算日は、3月31日である。
- (2) A社は、複数の事業所を有するが、主な所得源泉地である本社所在地に適用されている税率を基に法定実効税率を算定している。当該所在地における地方公共団体では、超過課税による税率により住民税及び事業税を課している。
- (3) X2年3月31日に、改正地方税法等が国会で成立し、X2年4月1日以後開始する事業年度の事業税(所得割)の標準税率が改正された。
- (4) X2年4月1日以後開始する事業年度の超過課税による税率を定めた改正条例は、X2年3月31日において成立していない。
- (5) 事業税(所得割)の制限税率は、標準税率に1.7を乗じた税率である。
- (6) X2年3月31日において成立している、X1年4月1日からX2年3月31日までの間に開始する事業年度(当期)及びX2年4月1日以後開始する事業年度の法定実効税率の算定に関連する税率は、(表1)のとおりである。
- 2. X2年4月1日以後開始する事業年度における事業税(所得割)の超過課税による税率の算定
- 当事業年度において地方税法等が改正され、かつ、当該改正地方税法等を受けた改正条例が決算日以前に成立していない場合、当該決算日において成立している条例に超過課税による税率で課税することが規定されているときは、改正地方税法等に規定されている標準税率に、当該決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える差分を考慮する税率による(第48項(2)②イ参照)。
- 当該差分を考慮する税率については次の2つの方法が考えられることから、それぞれの方法で法定実効税率を算定する。
- (1) 第49項(1)による方法
- (2) 第49項(2)による方法
- (1) 第49項(1)による方法により超過課税による税率を算定する場合の法定実効税率
- ① X2年4月1日以後開始する事業年度における事業税(所得割)の超過課税による税率の算定
第49項(1)の方法によると、超過課税による税率を算定する場合、改正地方税法等に規定されている標準税率((表1)の(ウ))に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率((表1)の(イ))が改正直前の地方税法等の標準税率((表1)の(ア))を超える数値を加えて算定する。
したがって、第49項(1)による方法によりX2年4月1日以後開始する事業年度における事業税(所得割)の超過課税による税率は、次のとおり0.8%と算定される。 - なお、この結果として得られた税率0.8%は、改正地方税法に規定されている事業税(所得
割)の制限税率(1.02%=0.6%×1.7)を超えない税率である。 - ② X2年4月1日以後開始する事業年度に解消する一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる法定実効税率の算定
①で算定した事業税(所得割)の超過課税による税率を前提とすると、X2年4月1日以後開始する事業年度に解消する一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる法定実効税率は、次のとおり算定される。当該税率は、小数点以下第2位を四捨五入している。 - (2) 第49項(2)による方法により超過課税による税率を算定する場合の法定実効税率
- ① X2年4月1日以後開始する事業年度における事業税(所得割)の超過課税による税率の算定
第49項(2)の方法によると、超過課税による税率を算定する場合、改正地方税法等に規定されている標準税率((表1)の(ウ))に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率((表1)の(イ))における改正直前の地方税法等の標準税率((表1)の(ア))に対する割合を乗じて算定する。
したがって、第49項(2)による方法によりX2年4月1日以後開始する事業年度における事業税(所得割)の超過課税による税率は、次のとおり0.7%と算定される。当該税率は、小数点以下第2位を四捨五入している。 - なお、この結果として得られた税率0.7%は、改正地方税法に規定されている事業税(所得
割)の制限税率(1.02%=0.6%×1.7)を超えない税率である。 - ② X2年4月1日以後開始する事業年度に解消する一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる法定実効税率の算定
①で算定した事業税(所得割)の超過課税による税率を前提とすると、X2年4月1日以後開始する事業年度に解消する一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる法定実効税率は、次のとおり算定される。当該税率は、小数点以下第2位を四捨五入している。 - [設例12] 遡及適用及び修正再表示による繰延税金資産の取扱い
- [設例12-1] 会計方針の変更に伴う遡及適用による繰延税金資産の取扱い
- 1. 前提条件
- (1) A社の決算日は、3月31日である。
- (2) A社は、X3年3月期に棚卸資産の評価方法を変更した。
- (3) X1年3月期及びX2年3月期におけるA社の分類は、回収可能性適用指針第17項に定める(分類1)に該当する。
- (4) 会計方針の変更に伴い、新たな会計方針を遡及適用した結果、表示期間のうち最も古い期間の期首(X2年3月期の期首)における棚卸資産に係る将来減算一時差異が遡及適用前よりも大きくなった。
- (5) (4)の結果、X2年3月期の期首において、将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じているとはいえない状況となる。
- 2. 繰延税金資産の回収可能性の判断の考え方
- (1) 新たな会計方針の遡及適用と税効果会計の適用に関する基本的な考え方
新たな会計方針の遡及適用により、表示期間より前の期間に関する遡及適用による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち最も古い期間(本設例ではX2年3月期)の期首の資産、負債及び純資産の額に反映され、また、表示される過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響が反映される(企業会計基準第24号第7項)。
遡及適用により貸借対照表上の資産又は負債の額は変更されるが、課税所得計算上の資産又は負債の金額は修正されないため、差額が生じることになる。当該差額は通常、一時差異(本適用指針第4項(3)参照)に該当するため、表示される過去の各期間の財務諸表において、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上することになる(本適用指針第57項参照)。
ここで、繰延税金資産の回収可能性の判断は、会計上の見積り(企業会計基準第24号第4項(3))に該当する事項と考えられる。会計上の見積りの変更においては、過去の財務諸表作成時において入手可能な情報に基づき最善の見積りを行った場合、過去に遡って処理せず、当期以降の財務諸表においてその影響を反映することになる(企業会計基準第24号第17項及び第55項)。そのため、遡及適用に伴い将来の利益の額が変更されることに対応して、繰延税金資産の回収可能性の判断における将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額が変更される場合、会計方針の変更を行った年度以降において、変更後の将来の一時差異等加減算前課税所得を前提として、繰延税金資産の回収可能性を判断することになる(本適用指針第59項参照)。 - (2) 本設例における企業の分類及び繰延税金資産の取扱い
前提条件に記載のとおり、会計方針を変更する前のX2年3月期において、回収可能性適用指針における分類が(分類1)に該当していたA社は、新たな会計方針の遡及適用の結果、X2年3月期の期首においては、将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じているとはいえない状況にある。
しかしながら、過去の財務諸表の作成時において、回収可能性適用指針第15項から第32項に従って要件に基づき企業を分類し、当該分類に応じて回収が見込まれる繰延税金資産を計上しているため、当該繰延税金資産は、当該財務諸表の作成時において最善の見積りを行い計上されている。
したがって、会計方針の変更に伴い、新たな会計方針を過去の期間に遡及適用した結果、X2年3月期の期首の回収可能性適用指針における企業の分類が変更される可能性がある場合でも、過去の期間において繰延税金資産の回収が見込まれるとした判断には影響させず、企業会計基準第24号第17項に従って将来にわたりその影響を反映させることが適切であり、会計方針の変更を行った年度の損益に反映することになると考えられる。すなわち、X2年3月期においてはA社の分類は変更せず、分類の変更による影響額は会計方針の変更を行った年度(X3年3月期)の損益に反映させることになる。 - [設例12-2] 修正再表示による繰延税金資産の取扱い
- 1. 前提条件
- (1) B社の決算日は、3月31日である。
- (2) B社では、X3年3月期において、過去の期間(X2年3月期以前)の売上の過大計上が発見されたため、修正再表示を行った。
- (3) X1年3月期及びX2年3月期の回収可能性適用指針におけるB社の分類は、(分類3)に該当する。
- (4) 修正再表示により、表示期間のうち最も古い期間の期首(X2年3月期の期首)の回収可能性適用指針におけるB社の分類は、(分類5)に該当する。
- 2. 繰延税金資産の回収可能性の判断の考え方
- (1) 修正再表示と税効果会計の適用に関する基本的な考え方
過去の財務諸表における誤謬が発見された場合には、表示期間より前の期間に関する修正再表示による累積的影響額は表示する財務諸表のうち最も古い期間(本設例ではX2年3月期)の期首の資産、負債及び純資産の額に反映され、また、表示される過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響が反映される(企業会計基準第24号第21項)。
修正再表示により貸借対照表上の資産又は負債の額は修正されるが、課税所得計算上の資産又は負債の金額は修正されないため、差額が生じることになる。当該差額は、通常、一時差異(本適用指針第4項(3)参照)に該当するため、表示される過去の各期間の財務諸表において、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上することになる(本適用指針第60項参照)。
ここで、修正再表示した年度の比較情報における将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額や企業の分類の判断を変更する場合、当該変更に伴う影響は、当該修正再表示した年度の比較情報(X2年3月期)に反映させることになる(本適用指針第62項参照)。 - (2) 本設例における企業の分類及び繰延税金資産の取扱い
新たな会計方針の遡及適用の場合[設例12-1]とは異なり、X2年3月期の期首において、修正再表示によりB社の分類は(分類5)に変更される。その結果、B社がX2年3月期の期首において修正再表示前に計上していた繰延税金資産の回収可能性はないものとする。
2018年適用指針の公表による他の会計基準等についての修正
- 2018年適用指針により、当委員会が公表した会計基準等については、次の修正を行う。
(略)
2022年改正適用指針の公表による他の会計基準等についての修正
- 2022年改正適用指針により、当委員会が公表した会計基準等については、次の修正を行う(下線は追加部分を示す。)。
(略) - 以 上