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企業会計基準第34号リースに関する会計基準
目 的
- 1. 本会計基準は、本会計基準の範囲(第3項及び第4項参照)に定めるリースに関する会計処理及び開示について定めることを目的とする。
- 2. 本会計基準の適用にあたっては、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」という。)も参照する必要がある。
会計基準
Ⅰ.範 囲
- 3. 本会計基準は、次の(1)から(3)に該当する場合を除き、リースに関する会計処理及び開示に適用する。
- (1) 実務対応報告第35号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」(以下「実務対応報告第35号」という。)の範囲に含まれる運営権者による公共施設等運営権の取得
- (2) 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与。ただし、製造又は販売以外を事業とする貸手は、当該貸手による知的財産のライセンスの供与について本会計基準を適用することができる。
- (3) 鉱物、石油、天然ガス及び類似の非再生型資源を探査する又は使用する権利の取得
- 4. 前項の定めにかかわらず、無形固定資産のリースについては、本会計基準を適用しないことができる。
Ⅱ.用語の定義
- 5. 「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいう。契約には、書面、口頭、取引慣行等が含まれる。
- 6. 「リース」とは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいう。
- 7. 「借手」とは、リースにおいて原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に獲得する者をいう。
- 8. 「貸手」とは、リースにおいて原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に提供する者をいう。
- 9. 「原資産」とは、リースの対象となる資産で、貸手によって借手に当該資産を使用する権利が移転されているものをいう。
- 10. 「使用権資産」とは、借手が原資産をリース期間にわたり使用する権利を表す資産をいう。
- 11. 「ファイナンス・リース」とは、契約に定められた期間(以下「契約期間」という。)の中途において当該契約を解除することができないリース又はこれに準ずるリースで、借手が、原資産からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該原資産の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリースをいう。
- 12. 「所有権移転ファイナンス・リース」とは、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるファイナンス・リースをいう。
- 13. 「所有権移転外ファイナンス・リース」とは、所有権移転ファイナンス・リース以外のファイナンス・リースをいう。
- 14. 「オペレーティング・リース」とは、ファイナンス・リース以外のリースをいう。
- 15. 「借手のリース期間」とは、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の(1)及び(2)の両方を加えた期間をいう。
- (1) 借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
- (2) 借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
- 16. 「貸手のリース期間」とは、貸手が選択した次のいずれかの期間をいう。
- (1) 借手のリース期間と同様の方法により決定した期間
- (2) 借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間(事実上解約不能と認められる期間を含む。)にリースが置かれている状況からみて借手が再リースする意思が明らかな場合の再リース期間を加えた期間
- 17. 「再リース期間」とは、再リースに関する取決めにおける再リースに係るリース期間をいう。
- 18. 「リース開始日」とは、貸手が、借手による原資産の使用を可能にする日をいう。
- 19. 「借手のリース料」とは、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、次のもので構成される。
- (1) 借手の固定リース料
- (2) 指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料
- (3) 残価保証に係る借手による支払見込額
- (4) 借手が行使することが合理的に確実である購入オプションの行使価額
- (5) リースの解約に対する違約金の借手による支払額(借手のリース期間に借手による解約オプションの行使を反映している場合)
- 借手のリース料には、契約におけるリースを構成しない部分に配分する対価は含まれない。ただし、借手がリースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行う場合を除く。
- 20. 「借手の固定リース料」とは、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、借手の変動リース料以外のものをいう。
- 21. 「借手の変動リース料」とは、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払のうち、リース開始日後に発生する事象又は状況の変化(時の経過を除く。)により変動する部分をいう。借手の変動リース料は、指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料とそれ以外の借手の変動リース料により構成される。
- 22. 「残価保証」とは、リース終了時に、原資産の価値が契約上取り決めた保証価額に満たない場合、その不足額について貸手と関連のない者が貸手に対して支払う義務を課せられる条件をいう。貸手と関連のない者には、借手及び借手と関連のある当事者並びに借手以外の第三者が含まれる。
- 23. 「貸手のリース料」とは、借手が貸手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、リースにおいて合意された使用料(残価保証がある場合は、残価保証額を含む。)をいう。貸手のリース料には、契約におけるリースを構成しない部分に配分する対価は含まれない。また、貸手のリース料には、将来の業績等により変動する使用料は含まれない。
- 24. 「リースの契約条件の変更」とは、リースの当初の契約条件の一部ではなかったリースの範囲又はリースの対価の変更(例えば、1つ以上の原資産を追加若しくは解約することによる原資産を使用する権利の追加若しくは解約、又は、契約期間の延長若しくは短縮)をいう。
Ⅲ.会計処理
1.リースの識別
(1)リースの識別の判断
- 25. 契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する。
- 26. 前項の判断にあたり、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む。
- 27. 契約期間中は、契約条件が変更されない限り、契約がリースを含むか否かの判断を見直さない。
(2)リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分
- 28. 借手及び貸手は、リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行う(適用指針[設例7])。
- 29. 借手は、前項の定めにかかわらず、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行うことを選択することができる(適用指針[設例7])。
- 30. 連結財務諸表においては、個別財務諸表において個別貸借対照表に表示するであろう科目ごと又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに行った前項の選択を見直さないことができる。
2.リース期間
(1)借手のリース期間
- 31. 借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の(1)及び(2)の両方の期間を加えて決定する(適用指針[設例8-1]から[設例8-5])。
- (1) 借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
- (2) 借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
- 借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手は借手のリース期間を決定するにあたってこれを考慮する。貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は、借手の解約不能期間に含まれる。
(2)貸手のリース期間
- 32. 貸手は、貸手のリース期間について、次のいずれかの方法を選択して決定する。
- (1) 借手のリース期間と同様に決定する方法(前項参照)
- (2) 借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間(事実上解約不能と認められる期間を含む。)にリースが置かれている状況からみて借手が再リースする意思が明らかな場合の再リース期間を加えて決定する方法
3.借手のリース
(1)リース開始日の使用権資産及びリース負債の計上額
- 33. 借手は、リース開始日に、第34項に従い算定された額によりリース負債を計上する。また、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上する。
- 34. 借手は、リース負債の計上額を算定するにあたって、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定する方法による。
- 35. 借手のリース料は、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、次の(1)から(5)のもので構成される。
- (1) 借手の固定リース料
- (2) 指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料
- (3) 残価保証に係る借手による支払見込額(適用指針[設例11])
- (4) 借手が行使することが合理的に確実である購入オプションの行使価額
- (5) リースの解約に対する違約金の借手による支払額(借手のリース期間に借手による解約オプションの行使を反映している場合)
(2)利息相当額の各期への配分
- 36. 本会計基準第34項における利息相当額については、借手のリース期間にわたり、原則として、利息法により配分する(適用指針[設例9-1])。
(3)使用権資産の償却
- 37. 契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに係る使用権資産の減価償却費は、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により算定する。この場合の耐用年数は、経済的使用可能予測期間とし、残存価額は合理的な見積額とする(適用指針[設例10])。
- 38. 契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースに係る使用権資産の減価償却費は、定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じたものを選択適用した方法により算定し、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により減価償却費を算定する必要はない。この場合、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとする(適用指針[設例9-1])。
(4)リースの契約条件の変更
- 39. 借手は、リースの契約条件の変更が生じた場合、次のいずれかを行う。
- (1) 変更前のリースとは独立したリースとしての会計処理
- (2) リース負債の計上額の見直し
- ただし、リースの契約条件の変更に複数の要素がある場合、これらの両方を行うことがある。
(5)リースの契約条件の変更を伴わないリース負債の見直し
- 40. 借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、次のいずれかに該当するときには、リース負債の計上額の見直しを行う。
- (1) 借手のリース期間に変更がある場合(第41項及び第42項参照)
- (2) 借手のリース期間に変更がなく借手のリース料に変更がある場合
(借手のリース期間に変更がある場合)
- 41. 借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、次の(1)及び(2)のいずれも満たす重要な事象又は重要な状況が生じたときに、第31項の延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかについて見直し、借手のリース期間を変更し、リース負債の計上額の見直しを行う。
- (1) 借手の統制下にあること
- (2) 延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかの借手の決定に影響を与えること
- 42. 借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、延長オプションの行使等により借手の解約不能期間に変更が生じた結果、借手のリース期間を変更するときには、リース負債の計上額の見直しを行う。
4.貸手のリース
(1)リースの分類
- 43. 貸手は、リースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースとに分類する。
(2)ファイナンス・リースの分類
- 44. 貸手は、ファイナンス・リースについて、所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リースとに分類する。
(3)ファイナンス・リース
- 45. 貸手は、ファイナンス・リースについて、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行う。
- 46. 貸手は、リース開始日に、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理により、所有権移転ファイナンス・リースについてはリース債権として、所有権移転外ファイナンス・リースについてはリース投資資産として計上する。
- 47. 貸手における利息相当額の総額は、貸手のリース料及び見積残存価額(貸手のリース期間終了時に見積られる残存価額で残価保証額以外の額)の合計額から、これに対応する原資産の取得価額を控除することによって算定する。当該利息相当額については、貸手のリース期間にわたり、原則として、利息法により配分する。
(4)オペレーティング・リース
- 48. 貸手は、オペレーティング・リースについて、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行う。
Ⅳ.開 示
1.表 示
(1)借 手
- 49. 使用権資産について、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示する。
- (1) 対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法
- (2) 対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産等)において使用権資産として区分する方法
- 50. リース負債について、貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記する。
このとき、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属するものとし、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属するものとする。 - 51. リース負債に係る利息費用について、損益計算書において区分して表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記する。
(2)貸 手
- 52. リース債権及びリース投資資産のそれぞれについて、貸借対照表において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する。ただし、リース債権の期末残高が、当該期末残高及びリース投資資産の期末残高の合計額に占める割合に重要性が乏しい場合、リース債権及びリース投資資産を合算して表示又は注記することができる。
このとき、リース債権及びリース投資資産について、当該企業の主目的たる営業取引により発生したものである場合には、流動資産に表示する。また、当該企業の主目的たる営業取引以外の取引により発生したものである場合には、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金の期限が到来するものは流動資産に表示し、入金の期限が1年を超えて到来するものは固定資産に表示する。 - 53. 次の事項について、損益計算書において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する。
- (1) ファイナンス・リースに係る販売損益(売上高から売上原価を控除した純額)
- (2) ファイナンス・リースに係るリース債権及びリース投資資産に対する受取利息相当額
- (3) オペレーティング・リースに係る収益(貸手のリース料に含まれるもののみを含める。)
2.注記事項
(1)開示目的
- 54. リースに関する注記における開示目的は、借手又は貸手が注記において、財務諸表本表で提供される情報と併せて、リースが借手又は貸手の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示することにある。
(2)借手及び貸手の注記
- 55. 前項の開示目的を達成するため、リースに関する注記として、次の事項を注記する。
- (1) 借手の注記
- ① 会計方針に関する情報
- ② リース特有の取引に関する情報
- ③ 当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報
- (2) 貸手の注記
- ① リース特有の取引に関する情報
- ② 当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報
- ただし、上記の各注記事項のうち、前項の開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことができる。
- 56. リースに関する注記を記載するにあたり、前項において示す注記事項の区分に従って注記事項を記載する必要はない。
- 57. リースに関する注記を独立の注記項目とする。ただし、他の注記事項に既に記載している情報については、繰り返す必要はなく、当該他の注記事項を参照することができる。
Ⅴ.適用時期等
1.適用時期
- 58. 本会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計基準を適用することができる。
2.その他
- 59. 本会計基準の適用により、次の企業会計基準、企業会計基準適用指針、実務対応報告及び移管指針に従って会計処理されている取引についてはこれらの会計基準等の適用を終了する。
- (1) 企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「企業会計基準第13号」という。)
- (2) 企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下「企業会計基準適用指針第16号」という。)
- (3) 実務対応報告第31号「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」
- (4) 移管指針第3号「連結財務諸表におけるリース取引の会計処理に関する実務指針」
Ⅵ.議 決
- 60. 本会計基準は、第532回企業会計基準委員会に出席した委員13名全員の賛成により承認された。なお、出席した委員は、以下のとおりである。
(略)
結論の背景
経 緯
1993年リース取引会計基準の公表
- BC1. 我が国のリース取引に関する会計基準としては、1993年6月に企業会計審議会第一部会から「リース取引に係る会計基準」(以下「1993年リース取引会計基準」という。)が公表された。1993年リース取引会計基準では、ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととされており、その理由として、「リース取引に係る会計基準に関する意見書」(1993年6月 企業会計審議会第一部会)では、「我が国の現行の企業会計実務においては、リース取引は、その取引契約に係る法的形式に従って、賃貸借取引として処理されている。しかしながら、リース取引の中には、その経済的実態が、当該物件を売買した場合と同様の状態にあると認められるものがかなり増加してきている。かかるリース取引について、これを賃貸借取引として処理することは、その取引実態を財務諸表に的確に反映するものとはいいがたく、このため、リース取引に関する会計処理及び開示方法を総合的に見直し、公正妥当な会計基準を設定することが、広く各方面から求められてきている。」と記載されていた。
- BC2. 1993年リース取引会計基準では、法的には賃貸借取引であるリース取引について、経済実態に着目し通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を採用しており、これはファイナンス・リース取引と資産の割賦売買取引との会計処理の比較可能性を考慮したものと考えられる。また、1993年リース取引会計基準は、リース取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類する点や、借手がリース資産を固定資産として計上する点など、国際会計基準及び米国会計基準と平仄を合わせるものであった。
- BC3. 一方、1993年リース取引会計基準では、ファイナンス・リース取引のうち所有権移転外ファイナンス・リース取引については、一定の注記を要件として通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理(以下「例外処理」という。)を採用することを認めてきた。1993年リース取引会計基準を適用していた大半の企業において、この例外処理が採用されていた。
企業会計基準第13号の公表
- BC4. 当委員会では、この例外処理の再検討について、2001年11月にテーマ協議会から提言を受け、2002年7月より審議を開始した。1993年リース取引会計基準に対する当委員会の問題意識は、主として次の点であった。
- (1) 会計上の情報開示の観点からは、ファイナンス・リース取引については、借手において資産及び負債を認識する必要性がある。特に、いわゆるレンタルと異なり、使用の有無にかかわらず借手はリース料の支払義務を負い、キャッシュ・フローは固定されているため、借手は債務を計上すべきである。
- (2) 本来、代替的な処理が認められるのは、異なった経済実態に異なる会計処理を適用することで、事実をより適切に伝えられる場合であるが、例外処理がほぼすべてを占める現状は、会計基準の趣旨を否定するような特異な状況であり、早急に是正される必要がある。
- BC5. 審議の過程では、主として、我が国のリース取引は資金を融通する金融ではなく物を融通する物融であり、諸外国のファイナンス・リースと異なり賃貸借としての性質が強いことを理由とし、例外処理を存続すべきとの意見も表明された。また、リース契約を通じたビジネスの手法が確定決算主義をとる税制と密接に関係してきたため、会計上の情報開示の観点のみでは結論を得ることが難しい課題であった。
- BC6. 当委員会では、4年にわたりこのテーマを審議し、その間、2004年3月に「所有権移転外ファイナンス・リース取引の会計処理に関する検討の中間報告」を公表し、また、2006年7月に試案「リース取引に関する会計基準(案)」、2006年12月に企業会計基準公開草案第17号「リース取引に関する会計基準(案)」を公表した。審議の過程では、関係各方面からの意見聴取も行い、我が国のリース取引の実態を踏まえ議論を行ってきたが、1993年リース取引会計基準において認められていた例外処理を廃止するとの結論に至り、2007年3月に企業会計基準第13号として公表した。
本会計基準の公表
- BC7. 国際会計基準審議会(IASB)は、2016年1月に国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下「IFRS第16号」という。)を公表し、米国財務会計基準審議会(FASB)は、同年2月にFASB Accounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic 842「リース」(以下「Topic 842」という。)を公表した。
IFRS第16号とTopic 842とでは、借手の会計処理に関して、主に費用配分の方法が異なるものの、原資産の引渡しにより借手に支配が移転した使用権部分に係る資産(使用権資産)と当該移転に伴う負債(リース負債)を計上する使用権モデルにより、オペレーティング・リースも含むすべてのリースについて資産及び負債を計上することとしている。
IFRS第16号及びTopic 842の公表により、これらの国際的な会計基準と我が国のリース会計基準とは、特に負債の認識において違いが生じることとなり、国際的な比較において議論となる可能性があった。この点、2016年3月に開催された第26回基準諮問会議において企業会計基準第13号等の見直しについて議論が行われ、これを受け、当委員会は2016年8月に公表した中期運営方針において日本基準を国際的に整合性のあるものとするための取組みに関する今後の検討課題の1つとしてリースに関する会計基準を取り上げることとした。その後、2017年12月開催の第375回企業会計基準委員会において、我が国における会計基準の改訂に向けた検討に着手するか否かの検討を行うこととし、2018年6月開催の第387回企業会計基準委員会から当該検討を開始した。 - BC8. 検討を行うにあたり、財務諸表作成者及び財務諸表利用者から幅広く意見を聴取した。当該検討の過程において借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上することへの懸念として、会計上の考え方、適用の困難さ、適用上のコスト等に関する意見が聞かれた。例えば、使用権モデルに基づき借手が資産及び負債を計上することについて、次の点に関して法的な観点から違和感があるとの意見が聞かれた。
- (1) 一般的な賃貸借契約(民法(明治29年法律第89号)第601条)では、貸手は、単に物件を引き渡しただけでは義務を完全に履行したことにはならず、その引渡後にも修繕義務等を負うため多少なりともリスクを負担している。
- (2) 借手による契約で定められた賃料を支払う義務の履行は、貸手の義務の履行が前提であるため、借手は、原資産の引渡しにより、無条件の支払義務を負う訳ではない。
- (3) 連結財務諸表上は、情報開示の観点でやむを得ないとしても、個別財務諸表については、民法上の考え方との齟齬がある(BC20項参照)。
- BC9. 前項の意見について、IFRS第16号では、リースが役務提供契約と異なる点について、次のとおり説明されている。
- (1) リースの場合、貸手による原資産の引渡しにより借手は特定された資産を使用する権利を支配し、それと交換に当該使用権に対する支払を行う無条件の義務を負う。
- (2) 役務提供契約の場合、顧客は契約の開始時に特定された資産の支配を獲得せず、通常、役務提供が履行される時点まで支払義務を負わない。
- この点、IFRS第16号においては、貸手が借手に対してさまざまな法的な義務を負う中で、原資産の使用権に対する支配に着目する観点から、原資産の引渡しに焦点が当てられているものと考えられる。IFRS第16号において、借手における支払義務が法律上の無条件の支払義務に該当しないとしても、会計上の資産又は負債の定義を満たす場合には、資産又は負債として計上するかどうかを検討することになると考えられる。IFRS第16号における、貸手が原資産を借手に引き渡した時点において借手が無条件の支払義務を有しているとの考え方は、我が国において必ずしも当てはまらない状況があると考えられるが、会計上、借手が無条件の支払義務を有するまで負債を認識しないということには必ずしもならないと考えられる。
このため、本会計基準では借手の原資産の使用に関連する権利及び義務が無条件であるとするIFRS第16号における記載は行っていないが、借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上する点において、国際的な会計基準と異なる取扱いになることは想定していない。 - BC10. 一方、借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上する会計基準の開発に対する次のニーズが識別された。
- (1) 国際的な会計基準との整合性を図ることは財務諸表間の比較可能性を高めることにつながると考えられること
- (2) すべてのリースについて資産及び負債を計上することに財務諸表利用者のニーズがあること
- (3) 重要なオペレーティング・リースについて企業会計基準第13号で定めていた賃貸借処理に準じた会計処理を継続することは、重要な負債が財務諸表本表に計上されていないことの指摘を国際的に受ける可能性があり、我が国の資本市場及び我が国の企業の財務報告に対する信頼性に関するリスクが大きいものと考えられること
- BC11. BC8項から前項までの議論を踏まえた結果、前項のニーズはいずれも重視すべきものと考えられ、会計基準の開発に着手することが必要であるとして、2019年3月開催の第405回企業会計基準委員会において、借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上する会計基準の開発に着手することとした。
その後、当委員会は、リース会計基準の「開発にあたっての基本的な方針」(本会計基準BC13項参照)を定め、当該基本的な方針に基づき会計基準の開発に関する審議を行った。開発当初は、借手の会計処理と貸手の会計処理で齟齬が生じないよう、借手のための新しい会計基準を開発するのではなく企業会計基準第13号を改正することとしていたが、企業会計基準第13号を改正する形とする場合、削除する項番号や枝番となる項番号が多くなるため、利便性の観点から項番号を振り直し、新たな会計基準として開発することとした。
そのうえで、2023年5月に企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」を公表して広く意見を求めた。本会計基準は、公開草案に寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。 - BC12. 審議の過程では、本会計基準の実務への適用を行う過程で本会計基準の開発時に想定していなかった事態が生じ得るのではないかとの意見が聞かれた。このため、収益認識会計基準の公表時における対応(収益認識会計基準第96項)と同様に、本会計基準の実務への適用を検討する過程で、本会計基準における定めが明確であるものの、これに従った処理を行うことが実務上著しく困難な状況が市場関係者により識別され、その旨当委員会に提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否を当委員会において判断することとした。
開発にあたっての基本的な方針
- BC13. 当委員会は、借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めた。
- (1) 借手の費用配分の方法については、IFRS第16号との整合性を図る(本会計基準BC39項参照)。
借手の会計処理に関してIFRS第16号と整合性を図る程度については、IFRS第16号のすべての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみを取り入れることにより、簡素で利便性が高く、かつ、IFRSを任意適用して連結財務諸表を作成している企業(以下「IFRS任意適用企業」という。)がIFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となる会計基準とする。 - (2) そのうえで、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定める、又は、経過的な措置を定めるなど、実務に配慮した方策を検討する。
- また、貸手の会計処理については、IFRS第16号及びTopic 842ともに抜本的な改正が行われていないため、次の点を除き、基本的に、企業会計基準第13号の定めを踏襲することとした。
(1) 収益認識会計基準との整合性を図る点
(2) リースの定義及びリースの識別
Ⅰ.範 囲
1.原則的な取扱い
- BC14. 本会計基準は、契約の名称などにかかわらず、本会計基準の範囲に定めるリースに適用する(第3項参照)。
2.他の会計基準等との関係
- BC15. 本会計基準では、実務対応報告第35号の範囲に含まれる公共施設等運営事業における運営権者による公共施設等運営権の取得について、当該運営権の構成要素にリースが含まれるかどうかにかかわらず、本会計基準の範囲に含めないこととした(本会計基準第3項(1)参照)。これは、実務対応報告第35号において、当該運営権を分割せずに一括して会計処理を行うこととしており(実務対応報告第35号第29項)、当該運営権の構成要素についてリースに該当するかどうかの検討を行わないこととするためである。
- BC16. 貸手によるリースのうち、収益認識会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与については、IFRS第16号と同様に、本会計基準の範囲に含めないこととした(本会計基準第3項(2)参照)。これは、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」という。)は、知的財産のライセンスには、ソフトウェアのライセンスが含まれるとしており(収益認識適用指針第143項)、収益認識会計基準の範囲に含まれるソフトウェアのライセンスの供与には収益認識会計基準を適用することとするためである。
- BC17. 公開草案に寄せられたコメントの中には、リースを主たる事業としている企業においてはソフトウェアのライセンスの供与について本会計基準を適用することを認めるべきとの意見があった。リースを主たる事業としている企業のように製造又は販売以外を事業とする貸手においては、リースがソフトウェアの機能を顧客に提供するために利用されておらず専ら金融取引として利息相当額を稼得するために利用されていると考えられることを踏まえると、このような貸手においては収益認識会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与を区分し収益認識会計基準に従って会計処理を行うことの有用性は乏しいと考えられる。
したがって、製造又は販売以外を事業とする貸手(適用指針第71項(2))については、本会計基準第3項(2)の貸手による知的財産のライセンスの供与について本会計基準を適用することを認めることとした(本会計基準第3項(2)ただし書き参照)。 - BC18. 貸手によるその他の無形固定資産のリースについては、IFRS第16号ではその適用を任意とする定めはないものの、その他の無形固定資産のリースが広範に行われているようには見受けられなかったため、また、企業会計基準第13号における会計処理を変更する必要がないようにするため、本会計基準の適用を任意とした(本会計基準第4項参照)。
また、借手によるリースのうち、無形固定資産のリースについては、借手によるソフトウェアのリースが企業会計基準第13号に基づいて会計処理されている実務を変更する必要がないようにするとともに、無形資産のリースに適用することを要求されていないIFRS第16号との整合性を図るため、本会計基準の適用を任意とした(本会計基準第4項参照)。 - BC19. 公開草案に寄せられたコメントの中には、鉱物、石油、天然ガス及び類似の非再生型資源を探査する又は使用するリースについて、国際的な会計基準との整合性を図る観点から、本会計基準の範囲から除外すべきとの意見があった。借手の会計処理については、基本的に国際的な会計基準との整合性を図っているため、鉱物、石油、天然ガス及び類似の非再生型資源を探査する又は使用する権利の取得については、本会計基準の範囲から除くこととした(第3項(3)参照)。第3項(3)には、探査にあたって土地等を使用する権利は含まれるが、資源を探査するために使用する機械装置等(例えば、掘削設備)の個々の資産は含まれず、当該個々の資産がリースに該当するか否かは、リースの定義(第6項参照)及びリースの識別(第25項から第27項参照)の定めに従って判断することになる。
3.個別財務諸表への適用
- BC20. 当委員会では、本会計基準を連結財務諸表のみに適用すべきか、連結財務諸表と個別財務諸表の両方に適用すべきかを検討するため、次の項目について審議を行った。
- (1) 国際的な比較可能性
- (2) 関連諸法規等(法人税法、分配規制、自己資本比率規制、民法(賃貸借)及び法人企業統計)との利害調整
- (3) 中小規模の企業における適用上のコスト
- (4) 連結財務諸表と個別財務諸表で異なる会計処理を定める影響
- ここで、我が国においては歴史的に連結財務諸表が個別財務諸表の積み上げとして捉えられており、また、投資家の意思決定の有用性について、連結財務諸表と個別財務諸表で異なる説明をすることは難しく、同じ経済実態に対し、連結財務諸表と個別財務諸表とで異なる考えに基づく会計処理を求める会計基準を開発することは適切ではないとの考えに基づき、従来から、原則として、会計基準は連結財務諸表と個別財務諸表の両方に同様に適用されるものとして開発してきている。また、当委員会が2022年8月に公表した中期運営方針は、開発する会計基準を連結財務諸表と個別財務諸表の両方に同様に適用することが原則であることを示した上で、個々の会計基準の開発においては、特に個別財務諸表において関連諸法規等の利害調整に関係するためにその原則に従うべきではない事象が識別されるかどうかを検討することを示している。
公開草案を公表する前の審議の過程において、従来からの基準開発に対する基本的な考え方及び方針を覆すに値する事情が存在するかどうかという観点から個別財務諸表における会計処理についての検討を行った。
審議の結果、本会計基準の適用に関する懸念の多くは、個別財務諸表固有の論点ではないと考えられ、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理は同一であるべきとする基本的な考え方及び方針を覆すに値する事情は存在しないと判断した。 - BC21. 公開草案に寄せられたコメントの中には、前項(1)から(4)の項目に関連し、本会計基準を連結財務諸表と個別財務諸表の両方に適用することを懸念する意見があった。当該懸念に対して再度検討を重ねた結果、前項の判断を変更する結論には至らなかった。
Ⅱ.用語の定義
- BC22. 本会計基準では、IFRS第16号における借手に関する用語の定義のうち、本会計基準に関連のあるものは本会計基準の用語の定義に含めている。また、貸手に関する用語の定義については、企業会計基準第13号における定義を基本的に踏襲している。
- BC23. 本会計基準では、「契約」という用語について、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めと定義している(本会計基準第5項参照)。ここで、契約は、口頭によるものや取引慣行による場合においても、法的な拘束力があることを前提としたものであることを明確化するため、収益認識会計基準における「契約」(収益認識会計基準第5項及び第20項)と同様の定義としている。
- BC24. 複数の契約は、区分して会計処理を行うか単一の契約として会計処理を行うかにより結果が異なる場合がある。そのため、それぞれのリースにおける収益及び費用の金額及び時期を適切に計上するため、複数の契約を結合し、単一の契約とみなして処理することが必要となる場合がある。このような場合として、例えば、同一の相手方と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について、価格に相互依存関係が存在する場合や同一の商業上の目的で締結されている場合等が考えられる。
- BC25. リースの定義に関する定めは、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の範囲を決定するものであることから、国際的な会計基準との整合性を確保するためには、リースの定義に関する定めについて、IFRS第16号との整合性を確保する必要があると考えられる。そのため、本会計基準では、IFRS第16号におけるリースの定義をIFRS第16号の主要な定めとして本会計基準に取り入れ、「リース」について、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分と定義することとした(第6項参照)。
- BC26. 第11項にいう契約期間の中途において当該契約を解除することができないリースに準ずるリースとは、法的形式上は解約可能であるとしても、解約に際し相当の違約金を支払わなければならない等の理由から、事実上解約不能と認められるリースをいう。また、「借手が、原資産からもたらされる経済的利益を実質的に享受する」とは、当該原資産を自己所有するとするならば得られると期待されるほとんどすべての経済的利益を享受することをいい、「当該原資産の使用に伴って生じるコストを実質的に負担する」とは、当該原資産の取得価額相当額、維持管理等の費用、陳腐化によるリスク等のほとんどすべてのコストを負担することをいう。
- BC27. 再リースに関して、我が国の再リースの一般的な特徴は、再リースに関する条項が当初の契約において明示されており、経済的耐用年数を考慮した解約不能期間経過後において、当初の月額リース料程度の年間リース料により行われる1年間のリースであることが挙げられる。
- BC28. 本会計基準では、リース開始日において、リースの借手であれば使用権資産及びリース負債を、ファイナンス・リースの貸手であればリース債権又はリース投資資産を計上する(第33項及び第46項参照)。ここで、「リース開始日」とは、貸手が、借手による原資産の使用を可能にする日をいう(第18項参照)。
- BC29. 本会計基準では、貸手のリース料には、将来の業績等により変動する使用料は含まれないとしている(本会計基準第23項参照)。これは、企業会計基準適用指針第16号では、リース料が将来の一定の指標(売上高等)により変動するリース取引などが取り扱われていなかったことを受けて、当該取扱いを踏襲することを意図したものである。したがって、貸手においては、市場における賃料の変動を反映するように当事者間の協議をもって見直されることが契約条件で定められているリース料(適用指針第24項)は、将来の業績等により変動する使用料に含まれず、貸手のリース料に含まれると考えられる。
Ⅲ.会計処理
1.リースの識別
(1)リースの識別の判断
- BC30. リースの識別に関する定めは、リースの定義に関する定めと合わせて、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の範囲を決定するものであることから、国際的な会計基準との整合性を確保するためには、リースの識別に関する定めについて、IFRS第16号との整合性を確保する必要があると考えられる。
ここで、IFRS第16号では、顧客が特定された資産の使用を一定期間にわたり支配するのかどうかに基づいて、リースを定義しているとされている。また、顧客が特定された資産の使用を一定期間にわたり支配する場合、契約はリースを含んでいるとされている。さらに、これと対照的に、サービス契約では、サービスの提供に使用される資産の使用をサプライヤーが支配しているとされている。IFRS第16号におけるリースの定義及びリースの識別に関する定めでは、契約がリースを含むのかサービスを含むのかを判断する際の指針が定められている。
本会計基準では、IFRS第16号と整合的なものとしたリースの定義と同様に(本会計基準BC25項参照)、リースの識別に関する定めについて、基本的にIFRS第16号の定めと整合的なものとすることとした(本会計基準第25項から第29項参照)。
ただし、IFRS第16号のリースの識別に関する細則的なガイダンスや設例については、「開発にあたっての基本的な方針」(本会計基準BC13項参照)を踏まえ、国際的な比較可能性が大きく損なわれるか否かを主要な判断基準として、取捨選択して本会計基準及び適用指針に取り入れることとした。また、設例については、「開発にあたっての基本的な方針」を踏まえ、主要な定めの内容のみを取り入れることとした本会計基準及び適用指針(設例を除く。)において個々に定めていない事項を設例において示すこととならないよう、本会計基準及び適用指針(設例を除く。)における定めと同程度の内容となる形でIFRS第16号の設例を適用指針の設例に取り入れることとした。 - BC31. 審議の過程では、自動車のリース、我が国における事務所等の不動産賃貸借契約、賃貸用住宅事業のためのサブリ―ス契約及び定期傭船契約について、サービス性が強いためにリースとして取り扱うことを懸念するとの意見が聞かれた。
これらの契約について、サービス提供の要素が含まれることは否定されるものではないと考えられる。また、我が国における事務所等の不動産賃貸借契約について、IFRS第16号の想定とは異なり、借手が無条件の支払義務を負わないこともあるとの意見が聞かれた。
しかしながら、いずれの契約においてもサービスの要素を区分した後に、賃借人が特定の資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、当該資産の使用を指図する権利を有している部分が含まれる場合がある、すなわちリースの定義を満たす部分が含まれる場合がある。契約にリースの定義を満たす部分が含まれる場合に、当該部分についてリースの会計処理を行わないことは国際的な会計基準における取扱いと乖離することになる。
したがって、審議の結果、これらの契約について、本会計基準でIFRS第16号と異なる取扱いとする定めは設けないこととした。
なお、定期傭船契約については、IFRS第16号に設例があるが、IFRS第16号の基準の本文では、資産の使用方法及び使用目的は資産の性質及び契約の条件に応じて、契約によって異なる可能性が高いとのみ定められているのに対し、当該設例が資産の使用方法及び使用目的を特定しており、設例における判断が、基準が求めている判断であると誤解される可能性があることから、当該設例は取り入れないこととした。
(2)リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分
- BC32. 自動車のリースにおいてメンテナンス・サービスが含まれる場合などのように、契約の中には、リースを構成する部分とリースを構成しない部分の両方を含むものがある。本会計基準では、リースを構成する部分のみに本会計基準を適用するために、また、IFRS第16号における定めと整合的になるように、借手及び貸手は、リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行うこととしている(第28項参照)。
- BC33. 本会計基準では、第28項の定めにかかわらず、借手は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と当該リースに関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行う取扱いを認めている(第29項参照)。
当該取扱いは、IFRS第16号と同様の取扱いであり、借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上する会計基準の開発にあたって、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行うコストと複雑性を低減しつつ、会計基準の開発目的を達成するための例外的な取扱いである。IFRS第16号の結論の根拠では、一般的に、借手が重要なサービス構成部分のある契約について実務上の便法を採用すると、当該契約についての借手のリース負債が大きく増大することになるので、借手がこの実務上の便法を採用する可能性が高いのは、契約の非リース構成部分が比較的小さい場合のみであると予想していると説明されている。
一方、リースを構成する部分と当該リースに関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成しない部分として会計処理を行うことは、IFRS第16号も認めていない。借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上する会計基準の開発方針を踏まえて、本会計基準においてもこれを認めていない。
2.リース期間
(1)借手のリース期間
- BC34. 借手のリース期間の決定は、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の金額に直接的に影響を与えるものである。
IFRS第16号の開発の過程では、解約不能期間を超えて延長する権利又はリースの期間の終了前に解約する権利をリース期間に含めるべきかどうかの議論において、一部の利害関係者から、将来のオプションの期間中に行われる支払は、当該オプションが行使されるまでは負債の定義を満たさないため、リース期間を解約不能期間に限定すべきとする考え方が示された。この点、IFRS第16号では、次の理由から、オプションの対象期間をリース期間に反映することとしたとされている。 - (1) 2年の延長オプションが付いた3年のリースは、経済的に3年の解約不能リースと同様の場合もあれば、5年の解約不能リースと同様の場合もある。オプションが付いたリースは、オプションが付いていないリースと全く同じとはならない。
- (2) リースの延長オプション又は解約オプションはリースの経済実態に影響を与えるため、リース期間を決定する際にはオプションの対象となる期間の一部を含める必要がある。借手が延長オプションを行使することを見込んでいる場合、当該オプションの対象期間をリース期間に反映する方が、リースの経済実態をより忠実に表現することになる。
- (3) オプションをリース期間の決定で考慮することにより、例えば、借手にオプションを行使する明らかな経済的インセンティブが存在する場合に、当該オプションの対象期間をリース期間から除外することによってリース負債を貸借対照表から不適切に除外するリスクを軽減できる。
- BC35. また、IFRS第16号では、次の理由から、借手が延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが「合理的に確実」である範囲でオプションの対象期間をリース期間に含めることを決定したとされている。
- (1) 原資産を使用する期間についての企業の合理的な見積りをリース期間に反映することが有用な情報を提供する。
- (2) 借手によるオプションの行使について、重大な経済的インセンティブを有しているオプションの対象期間をリース期間に含めるアプローチも考えられる。当該アプローチでは、行使が見込まれることだけでは(行使する経済的インセンティブがなければ)十分ではないため、経営者の見積り又は意図だけに基づく閾値よりも客観的な閾値を設けることになり、他のアプローチでは適用が複雑になるという懸念に対処することができる。しかし、利害関係者から、「重大な経済的インセンティブ」の閾値が「合理的に確実」の閾値と同様であるのならば、国際会計基準(IAS)第17号「リース」における用語を維持すべきとの意見が聞かれたため、「合理的に確実」の閾値を維持する。
- BC36. BC34項及び前項に記載したIFRS第16号の開発時の議論を踏まえて、本会計基準では、次の理由から、借手のリース期間について、IFRS第16号における定めと整合的に、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定することとした(第31項参照)。
- (1) 存在するオプションの対象期間について、企業の合理的な判断に基づき資産及び負債を計上することが、財務諸表利用者にとって有用な情報をもたらすものと考えられる。
- (2) 借手のリース期間をIFRS第16号と整合させない場合、国際的な比較可能性が大きく損なわれる懸念がある。
- BC37. 審議の過程では、借手のリース期間に含める延長オプション又は解約オプションの行使可能性に関する「合理的に確実」の表現については、直訳的で判断を難しくしているため、他の表現を用いるべきとの意見が聞かれた。
この点、これまでの我が国の会計基準における既存の表現を用いることも検討したが、必ずしも蓋然性に関する表現が整理されていない面があり、また、これまでの我が国の会計基準における既存の蓋然性に関する表現を用いると、かえって、当該表現が用いられている会計基準等において、“reasonably certain”と同程度の閾値を示すとの誤解が生じる懸念がある。したがって、IFRS第16号における蓋然性を取り入れていることを明らかにするために、「合理的に確実」という表現を用いることとした。
(2)貸手のリース期間
- BC38. 国際的な会計基準においては、貸手のリース期間について、借手のリース期間と共通の定めとなっている。審議の過程では、貸手のリース期間について借手のリース期間と同様にすることを検討したが、次の理由から、継続して適用することを条件として借手のリース期間と同様に決定する方法(本会計基準第32項(1)参照)と企業会計基準第13号のリース期間の定めを踏襲した方法(本会計基準第32項(2)参照)のいずれも認めることとした。
- (1) 本会計基準は、主として借手の会計処理について改正を行うものであり、貸手は、借手による延長オプション又は解約オプションの行使可能性が合理的に確実か否かを評価することが困難であると考えられること
- (2) 借手による延長オプション又は解約オプションの行使可能性が合理的に確実か否かを評価することができる場合に借手のリース期間と同様に決定することを妨げる特段の理由がなく、また、借手のリース期間と同様に決定する方法を認めることにより、国際的な会計基準との整合性が図られると考えられること
3.借手のリース
(1)借手における費用配分の基本的な考え方
- BC39. 借手のリースの費用配分の方法として、IFRS第16号では、すべてのリースを借手に対する金融の提供と捉え使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る金利費用を別個に認識する単一の会計処理モデル(以下「単一の会計処理モデル」という。)が採用されている。
これに対して、Topic 842では、オペレーティング・リースの借手が取得する権利及び義務は、残存する資産に対する権利及びエクスポージャーを有さず、オペレーティング・リースを均等なリース料と引換えにリース期間にわたって原資産に毎期均等にアクセスする経済的便益を享受するものと捉えて、従前と同様にファイナンス・リース(減価償却費と金利費用を別個に認識する。)とオペレーティング・リース(通常、均等な単一のリース費用を認識する。)に区分する2区分の会計処理モデル(以下「2区分の会計処理モデル」という。)が採用されている。
この点、本会計基準では、すべてのリースを使用権の取得として捉えて使用権資産を貸借対照表に計上するとともに、借手のリースの費用配分の方法については、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上するIFRS第16号と同様の単一の会計処理モデルによることとした。この結論に至った理由として、次のことを考慮している。 - (1) 2007年8月に当委員会とIASBとの間で、「会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意」(東京合意)が公表された後は、米国会計基準を参考としながらも、基本的にはIFRSと整合性を図ってきたこれまでの経緯を踏まえると、米国会計基準の考え方を採用した方がより我が国の実態に合うことが識別されない限り、基本的にはIFRSと整合性を図ることになるものと考えられること
- (2) IFRS任意適用企業を中心として、IFRS第16号と整合性を図るべきとの意見が多くなっていること
- (3) 財務諸表利用者による分析においてリース費用を減価償却費と利息相当額に配分する損益計算書の調整が不要となる点及びリース負債を現在価値で計上することと整合的に損益計算書で利息相当額が計上される点で、単一の会計処理モデルの方が財務諸表利用者のニーズに適うと考えられること
- (4) オペレーティング・リースの経済実態との整合性の観点からは、単一の会計処理モデルと2区分の会計処理モデルのいずれが適切かについて、優劣はつけられないものと考えられること
- (5) 単一の会計処理モデルを採用した場合と2区分の会計処理モデルを採用した場合を比較したとき、いずれの場合に適用上のコストが小さいかどうかについて、多様な意見が聞かれたこと
(2)リース開始日の使用権資産及びリース負債の計上額
- BC40. 本会計基準では、借手のリース料について、IFRS第16号と同様に、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して貸手に対して行う次の支払としている(第35項参照)。
- (1) 借手の固定リース料
- (2) 指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料(BC41項からBC43項参照)
- (3) 残価保証に係る借手による支払見込額(BC44項参照)
- (4) 借手が行使することが合理的に確実である購入オプションの行使価額(BC45項参照)
- (5) リースの解約に対する違約金の借手による支払額(借手のリース期間に借手による解約オプションの行使を反映している場合。BC46項参照)
- BC41. 前項(2)の「指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料」について、借手の変動リース料には、将来の一定の指標に連動して支払額が変動するものがある。具体的には次のものが考えられる。
- (1) 指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料(例えば、消費者物価指数の変動に連動するリース料)
- (2) 原資産から得られる借手の業績に連動して支払額が変動するリース料(例えば、テナント等の原資産を利用することで得られた売上高の所定の割合を基礎とすると定めているようなリース料)
- (3) 原資産の使用に連動して支払額が変動するリース料(例えば、原資産の使用量が所定の値を超えた場合に、追加のリース料が生じるようなリース料)
- BC42. 前項(1)のリース料について、IFRS第16号においては、当該リース料は借手の将来の活動に左右されないものであり、将来におけるリース料の金額に不確実性があるとしても、借手はリース料を支払う義務を回避することができず、負債の定義を満たすことから、リース負債の計上額に含められている。本会計基準においても、国際的な会計基準との整合性も踏まえ、当該変動リース料をリース負債の計上額に含めることとした。
前項(2)及び(3)のリース料について、IFRS第16号においては、借手の将来の活動を通じてリース料を支払う義務を回避することができることから、リース料の支払が要求される将来の事象が生じるまでは負債の定義を満たさないとの考え方もあるため、リース負債の計上額に含められていないとされている。本会計基準においても、これらのリース料が本来的に負債として認識すべきものかどうか国際的に十分なコンセンサスが得られていない状況にあること及び国際的な比較可能性の観点を考慮し、これらのリース料をリース負債の計上額に含めないこととした。 - BC43. また、借手の変動リース料には、形式上は一定の指標に連動して変動する可能性があるが実質的には支払が不可避であるもの又は変動可能性が解消されて支払額が固定化されるものがある。これらのリース料の経済実態は借手の固定リース料と変わらないことから、借手の固定リース料と同様にリース負債の計上額に含めることとなる。これらのリース料として、例えば、リース開始日においては原資産の使用に連動するが、リース開始日後のある時点で変動可能性が解消され、残りの借手のリース期間について支払が固定化されるようなリース料等が該当すると考えられる。
- BC44. 本会計基準BC40項(3)の「残価保証に係る借手による支払見込額」について、企業会計基準適用指針第16号では、所有権移転外ファイナンス・リース取引のリース料において残価保証額を含めていたが、借手のリース料の定義を「借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払」としてIFRS第16号と整合させている本会計基準では、借手が支払うと見込む金額を借手のリース料に含めている。審議の過程では、借手が支払見込額を見積ることが困難であるとの意見が聞かれたことから、見積りが困難である場合に残価保証額を用いることができるとする簡便的な取扱いを設けることを検討した。しかしながら、借手は一定の見積りを行った上で残価保証が付された契約を締結するため、借手による見積りが困難であるということはないのではないかとの意見や、簡便的な取扱いを適用した場合、借手のリース料の定義である「借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払」から大きく乖離する可能性があるとの意見等も聞かれたため、簡便的な取扱いは設けないこととした。
- BC45. 本会計基準BC40項(4)の「借手が行使することが合理的に確実である購入オプションの行使価額」について、企業会計基準適用指針第16号では、所有権移転ファイナンス・リース取引のリース料において、借手に対してリース契約上、リース期間終了後又はリース期間の中途で、名目的価額又はその行使時点の原資産の価額に比して著しく有利な価額で買い取る権利(以下合わせて「割安購入選択権」という。)が与えられている場合の行使価額を含めていた。この点、IFRS第16号では、購入オプションは実質的にリース期間を延長する最終的なオプションと考えられるため、借手のリース期間を延長するオプションと同じ方法でリース負債に含めるべきであると考えたとされている。したがって、借手のリース期間の定義をIFRS第16号と整合させている本会計基準においても、借手のリース期間の判断と整合的に、借手が行使することが合理的に確実である購入オプションの行使価額をリース負債に含めている。
- BC46. 本会計基準BC40項(5)の「リースの解約に対する違約金の借手による支払額(借手のリース期間に借手による解約オプションの行使を反映している場合)」について、本会計基準では、借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を借手のリース期間に加えることとしている。このため、借手のリース料についても、借手のリース期間に借手による解約オプションの行使が反映されている場合には、リースの解約に対する違約金の借手による支払額を借手のリース料に含めることとした。
(3)使用権資産の償却
- BC47. 本会計基準では、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースは、原資産の取得と同様と考えられるため、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により減価償却費を算定することとしている(本会計基準第37項参照)。
一方、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースは、原資産の取得とは異なり原資産を使用できる期間がリース期間に限定されるという特徴があるため、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとすることとしている(本会計基準第38項参照)。ただし、実態に応じて借手のリース期間より短い使用権資産の耐用年数により減価償却費を算定することを妨げるものではない。
また、償却方法については、原資産の取得とは異なる性質を有するため、企業の実態に応じ、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と異なる償却方法を選択することができるとして、企業会計基準第13号の定めを踏襲している。 - BC48. 企業会計基準適用指針第16号では、所有権移転外ファイナンス・リース取引について契約上に残価保証の取決めがある場合、原則として、当該残価保証額を残存価額としていたが、本会計基準では、残価保証に係る借手による支払見込額が借手のリース料を構成する(本会計基準第35項(3)参照)ため、残価保証額を残存価額とする取扱いは廃止することとした。
(4)リースの契約条件の変更
- BC49. 本会計基準では、借手は、リースの契約条件の変更が生じた場合、変更前のリースとは独立したリースとして会計処理を行うか又はリース負債の計上額の見直しを行い、リースの契約条件の変更に複数の要素がある場合、これらの両方を行うことがあるとしている(第39項参照)。ここで、これらの両方を行うことがある場合の例としては、不動産の賃貸借契約において、独立価格であるリース料によりリースの対象となる面積を追加すると同時に、既存のリースの対象となる面積について契約期間を短縮する場合が考えられる。この場合、前者について独立したリースとして会計処理を行い、後者についてリース負債の計上額の見直しを行う。
(5)リースの契約条件の変更を伴わないリース負債の見直し
- BC50. 本会計基準では、借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、借手のリース料に変更があるときには、リース負債の計上額の見直しを行うこととしている(第40項参照)。借手のリース料の変更には、借手のリース期間の変更を伴うものと、伴わないものとがある。
(借手のリース期間に変更がある場合)
- BC51. 本会計基準では、借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、重要な事象又は重要な状況が生じたときに、現在の経済状況を反映して有用な情報を提供するために、延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかについて見直し、借手のリース期間を変更し、リース負債の計上額の見直しを行うこととしている(第41項参照)。
ここで、重要な事象又は重要な状況とは、借手の統制下にあり、かつ、延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかの借手の決定に影響を与えるものである。借手の統制下にあるという要件を設けたのは、借手が市場動向による事象又は状況の変化に対応して、延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかについて見直すことを要しないようにするためである。
また、重要な事象又は重要な状況として、例えば、次のようなものが考えられる。 - (1) リース開始日に予想されていなかった大幅な賃借設備の改良で、延長オプション、解約オプション又は購入オプションが行使可能となる時点で借手が重大な経済的利益を有すると見込まれるもの
- (2) リース開始日に予想されていなかった原資産の大幅な改変
- (3) 過去に決定した借手のリース期間の終了後の期間に係る原資産のサブリースの契約締結
- (4) 延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことに直接的に関連する借手の事業上の決定(例えば、原資産と組み合わせて使用する資産のリースの延長の決定、原資産の代替となる資産の処分の決定、使用権資産を利用している事業単位の処分の決定)
- BC52. また、本会計基準では、借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、借手の解約不能期間に変更が生じた結果、借手のリース期間を変更するときには、リース負債の計上額の見直しを行うこととしている(第42項参照)。ここで、借手の解約不能期間は、例えば、過去に借手のリース期間の決定に含めていなかった延長オプションを借手が行使する場合等に変更が生じる。
4.貸手のリース
- BC53. 「開発にあたっての基本的な方針」(本会計基準BC13項参照)に記載のとおり、貸手の会計処理については、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除き、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲している。
(1)リースの分類
- BC54. 「開発にあたっての基本的な方針」(本会計基準BC13項参照)を踏まえ、貸手におけるリースの分類については、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースとに分類した上で、ファイナンス・リースについて所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リースとに分類する企業会計基準第13号の方法を基本的に変更していない(本会計基準第43項及び第44項参照)。
(2)ファイナンス・リースの分類
- BC55. ファイナンス・リースのうち所有権移転外ファイナンス・リースについては、企業会計基準第13号における考え方と同様に、次の点で、所有権移転ファイナンス・リースと異なる性質を有するため、異なる会計処理を定めている。
- (1) 経済的には原資産の売買及び融資と類似の性格を有する一方、法的には賃貸借の性格を有し、また、役務提供が組み込まれる場合が多く、複合的な性格を有する。
- (2) 原資産の耐用年数とリース期間は異なる場合が多く、また、原資産の返還が行われるため、原資産そのものの売買というよりは、使用する権利の売買の性格を有する。
- (3) 借手が資産の使用に必要なコスト(原資産の取得価額、金利相当額、維持管理費用相当額、役務提供相当額など)を、通常、契約期間にわたる定額のキャッシュ・フローとして確定する。
(3)ファイナンス・リース
- BC56. 所有権移転ファイナンス・リースの場合、貸手は、借手からのリース料と割安購入選択権の行使価額で回収するが、所有権移転外ファイナンス・リースの場合はリース料と見積残存価額の価値により回収を図る点で差異がある。この差異を踏まえ、所有権移転ファイナンス・リースで生じる資産はリース債権に計上し、所有権移転外ファイナンス・リースで生じる資産はリース投資資産に計上する(第46項参照)。この場合のリース投資資産は、将来のリース料を収受する権利と見積残存価額から構成される複合的な資産である。
- BC57. リース債権は金融商品と考えられ、また、リース投資資産のうち将来のリース料を収受する権利に係る部分については、金融商品的な性格を有すると考えられる。したがって、これらについては、貸倒見積高の算定等において、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の定めに従う。
Ⅳ.開 示
1.表 示
(1)借 手
- BC58. 一般的に、表示は、会計処理の結果を財務諸表本表に表すものである。会計処理を国際的な会計基準と整合性のあるものとしているにもかかわらず、表示を国際的な会計基準と異なるものとすることは、財務諸表本表の見え方が異なることにより会計処理が異なるとの印象を国内外の財務諸表利用者に与える可能性があり、我が国の会計基準を国際的な会計基準と整合性のあるものとするという本会計基準の趣旨が損なわれる可能性があると考えられる。
したがって、本会計基準において、借手の会計処理をIFRS第16号と整合的なものとする中で、借手の表示についても、IFRS第16号と整合的なものとすることとした。 - BC59. 貸借対照表に関して、IFRS第16号では、借手は使用権資産について、他の資産と区分して、財政状態計算書に表示する又は注記で開示することとされている。借手は、使用権資産について、財政状態計算書において区分表示しない場合、対応する原資産が自社所有であったとした場合に表示されるであろう表示科目に含め、使用権資産を含めた表示科目について開示することとされている。
審議の過程では、固定資産を有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産に区分する我が国における分類を変更し、固定資産に新たな「使用権資産」という区分を設けることを検討した。しかしながら、使用権資産が重要でない場合にまで、新たな「使用権資産」の区分を必ず設けなければならないことに違和感があるなどの意見が聞かれたことから、当該区分を設けないこととした。
現行の固定資産の分類(有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産)を前提として検討した結果、使用権資産について、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示することとした(第49項参照)。 - (1) 対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法
- (2) 対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産等)において使用権資産として区分する方法
- BC60. 損益計算書に関して、第51項に掲げるリース負債に係る利息費用の開示は、リース負債の帳簿価額を他の負債と区分した開示(第50項参照)とともに、借手のリース負債及び財務コストに関する情報を提供する。
(2)貸 手
- BC61. 「開発にあたっての基本的な方針」(本会計基準BC13項参照)に記載のとおり、貸手の会計処理については、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除き、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲している。
- BC62. 企業会計基準第13号では、「所有権移転ファイナンス・リース取引については、リース物件の取得と同様の取引と考えられる」としていた。また、所有権移転外ファイナンス・リース取引は「経済的にはリース物件の売買及び融資と類似の性格を有する一方で、法的には賃貸借の性格を有し、また、役務提供が組み込まれる場合が多く、複合的な性格を有する」とされていた。企業会計基準第13号では、貸手のファイナンス・リース取引の会計処理は、ファイナンス・リース取引のリース物件の売買と類似する性格に着目し定められていたと考えられる。
本会計基準においても、同様の観点から企業会計基準第13号における貸手のファイナンス・リース取引に係る会計処理の定めを踏襲している(本会計基準第45項参照)。 - BC63. 貸手の表示については、企業会計基準第13号を踏襲し、貸借対照表に関して、所有権移転ファイナンス・リースに係るリース債権と所有権移転外ファイナンス・リースに係るリース投資資産は区分して表示することとした(本会計基準第52項第1段落本文参照)。
ただし、IFRS第16号ではリース債権及びリース投資資産は区分されていないことを踏まえ、リース債権の期末残高が、当該期末残高及びリース投資資産の期末残高の合計額に占める割合に重要性が乏しい場合、リース債権及びリース投資資産を合算して開示したとしても財務諸表利用者にとっての情報の有用性に影響を与えない場合があると考えられるため、貸借対照表においてリース債権及びリース投資資産を合算して開示することができることとした(本会計基準第52項第1段落ただし書き参照)。
貸手におけるリース債権及びリース投資資産については、一般的な流動固定の区分基準に従い、当該企業の主目的たる営業取引により生じたものであるか否かにより、流動資産に表示するか、固定資産に表示するかを区分する(本会計基準第52項第2段落参照)。 - BC64. 損益計算書に関して、本会計基準第53項に掲げる貸手におけるファイナンス・リース及びオペレーティング・リースに係る各損益項目の開示は、収益認識会計基準において収益の分解情報の注記を求めていることと同様に、財務諸表利用者が収益のさまざまな構成部分に関する情報を理解することを可能にする有用な情報を提供する。
2.注記事項
(1)開示目的
- BC65. 本会計基準では、開示目的を定めることで、リースの開示の全体的な質と情報価値が開示目的を満たすのに十分であるかどうかを評価することを企業に要求することとなり、より有用な情報が財務諸表利用者にもたらされると考えられるため、リースに関する情報を注記するにあたっての開示目的を定めている(第54項参照)。
(2)借手及び貸手の注記
- BC66. 前項の開示目的を達成するためのリースに関する注記として、次の事項を示している(第55項参照)。
- (1) 借手の注記
- ① 会計方針に関する情報
- ② リース特有の取引に関する情報
- ③ 当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報
- (2) 貸手の注記
- ① リース特有の取引に関する情報
- ② 当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報
- 上記の事項は、開示目的との関連、すなわち、どのように開示目的が達成されることが想定されるかを踏まえて、財務諸表利用者にとって理解しやすい形での注記となるよう分類を行ったものである。
- BC67. 注記事項について、国際的な会計基準において要求されている開示がなされていない場合、準拠している会計基準が国際的な会計基準と異なるとの印象を国内外の財務諸表利用者に与える可能性があり、我が国の会計基準を国際的な会計基準と整合性のあるものとするという本会計基準の趣旨が損なわれてしまう可能性がある。
したがって、借手の会計処理をIFRS第16号と整合的なものとする中で、借手の注記事項についても、IFRS第16号と整合的なものとすることとした。ただし、「開発にあたっての基本的な方針」(BC13項参照)に記載のとおり本会計基準は簡素で利便性が高いものを目指していることから、取り入れなくとも国際的な比較可能性を大きく損なわせない内容については、必ずしもIFRS第16号に合わせる必要はないと考えられるため、取り入れないこととした。具体的には、我が国の会計基準に関連のない注記、少額リースの費用に関する注記及び短期リースのポートフォリオに関する注記については、取り入れていない。 - BC68. 貸手の注記事項に関しては、貸手の会計処理について、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除き、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲することとしたため、企業会計基準第13号の定めを踏襲することが考えられた。
一方、IFRS第16号における貸手の注記事項には、企業会計基準第13号における貸手の注記事項に比して多くの定めがある。IFRS第16号の定めをもとに注記を拡充した場合、国際的な比較可能性を達成し財務諸表利用者により有用な情報を提供することができると考えられる一方、財務諸表作成者に追加的な負担を課すことになる。
審議の結果、次の理由から、貸手の注記事項について、IFRS第16号と整合的なものとすることとした。 - (1) 貸手の会計処理を基本的に変更しないとしても、国際的に貸手の注記事項が拡充する中で同様に貸手の注記事項を拡充すべきであり、IFRS第16号と同様の注記事項を求めるべきであるとする意見が財務諸表利用者を中心に聞かれた。
- (2) リースの収益に関連する注記事項は、リースを本業とする企業などのリースが財務諸表に重要な影響を与える企業において重要な情報であると考えられ、リースを適用対象外としている収益認識会計基準では、重要性のある収益に関する情報を注記することを企業に求めており、リースに関する収益が収益の一形態であることを考慮すれば、収益認識会計基準と同様の注記を求めることが有用であると考えられる。
- (3) 収益認識会計基準における注記事項と同様の内容ではないもののIFRS第16号で求められている注記事項についても、企業会計基準第13号に同様の定めがあること、また、リース料の支払が通常分割して行われることを考慮した際に将来のリースのキャッシュ・フローの予測と流動性の見積りをより正確に行うことを可能にするという点で有用な情報を提供すると考えられる。
Ⅴ.適用時期等
- BC69. 本会計基準は、次の点を踏まえ、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間を2年半程度とし早期適用を認めることとした(第58項参照)。
- (1) これまでに当委員会が公表してきた会計基準については、会計基準の公表から原則的な適用時期までが1年程度のものが多い。
- (2) IFRS第16号の原則的な適用時期が2019年1月であり、Topic 842における公開企業の原則的な適用時期もほぼ同時期であったため、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間を長く設ける場合、我が国における実務が国際的な実務と整合的なものとなるまでの期間が長くなる。
- (3) リースの識別を始め、これまでとは異なる実務を求めることとなるため、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間は1年程度では短い可能性がある。
- (4) 一方、本会計基準の適用開始にかかる実務上の負担への対応として、我が国の会計基準を基礎とした場合に関連すると考えられるIFRS第16号の経過措置を取り入れていることに加えて我が国特有の経過措置を設けている。
- 以 上