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企業会計基準第26号退職給付に関する会計基準
目 的
- 1. 本会計基準は、退職給付に関する会計処理及び開示を定めることを目的とする。
- 2. 本会計基準の適用にあたっては、企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」も参照する必要がある。
会計基準
範 囲
- 3. 本会計基準は、一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に支給される給付(退職給付)の会計処理に適用する。
ただし、株主総会の決議又は指名委員会等設置会社における報酬委員会の決定が必要となる、取締役、会計参与、監査役及び執行役(以下合わせて「役員」という。)の退職慰労金については、本会計基準の適用範囲には含めない。
用語の定義
- 4. 「確定拠出制度」とは、一定の掛金を外部に積み立て、事業主である企業が、当該掛金以外に退職給付に係る追加的な拠出義務を負わない退職給付制度をいう。
- 5. 「確定給付制度」とは、確定拠出制度以外の退職給付制度をいう。
- 6. 「退職給付債務」とは、退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたものをいう。
- 7. 「年金資産」とは、特定の退職給付制度のために、その制度について企業と従業員との契約(退職金規程等)等に基づき積み立てられた、次のすべてを満たす特定の資産をいう。
- (1) 退職給付以外に使用できないこと
- (2) 事業主及び事業主の債権者から法的に分離されていること
- (3) 積立超過分を除き、事業主への返還、事業主からの解約・目的外の払出し等が禁止されていること
- (4) 資産を事業主の資産と交換できないこと
- 8. 「勤務費用」とは、1期間の労働の対価として発生したと認められる退職給付をいう。
- 9. 「利息費用」とは、割引計算により算定された期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息をいう。
- 10. 「期待運用収益」とは、年金資産の運用により生じると合理的に期待される計算上の収益をいう。
- 11. 「数理計算上の差異」とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異をいう。なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理(費用の減額処理又は費用を超過して減額した場合の利益処理を含む。以下同じ。)されていないものを「未認識数理計算上の差異」という(第24項参照)。
- 12. 「過去勤務費用」とは、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加又は減少部分をいう。なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものを「未認識過去勤務費用」という(第25項参照)。
確定給付制度の会計処理
貸借対照表
- 13. 退職給付債務(第16項参照)から年金資産の額(第22項参照)を控除した額(以下「積立状況を示す額」という。)を負債として計上する。
ただし、年金資産の額が退職給付債務を超える場合には、資産として計上する1。
損益計算書及び包括利益計算書(又は損益及び包括利益計算書)
- 14. 次の項目の当期に係る額は、退職給付費用として、当期純利益を構成する項目に含めて計上する2。
- (1) 勤務費用(第17項参照)
- (2) 利息費用(第21項参照)
- (3) 期待運用収益(第23項参照)
- (4) 数理計算上の差異に係る当期の費用処理額(第24項参照)
- (5) 過去勤務費用に係る当期の費用処理額(第25項参照)
- 15. 数理計算上の差異の当期発生額及び過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用となる。)については、その他の包括利益に含めて計上する。その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行う(第24項また書き及び第25項また書き参照)。
退職給付債務及び勤務費用
(退職給付債務の計算)
- 16. 退職給付債務は、退職により見込まれる退職給付の総額(以下「退職給付見込額」という。)のうち、期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算する3。
(勤務費用の計算)
- 17. 勤務費用は、退職給付見込額のうち当期に発生したと認められる額を割り引いて計算する4。
(退職給付見込額の見積り)
- 18. 退職給付見込額は、合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考慮して見積る5。
(退職給付見込額の期間帰属)
- 19. 退職給付見込額のうち期末までに発生したと認められる額は、次のいずれかの方法を選択適用して計算する。この場合、いったん採用した方法は、原則として、継続して適用しなければならない。
- (1) 退職給付見込額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法(以下「期間定額基準」という。)
- (2) 退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法(以下「給付算定式基準」という。)
なお、この方法による場合、勤務期間の後期における給付算定式に従った給付が、初期よりも著しく高い水準となるときには、当該期間の給付が均等に生じるとみなして補正した給付算定式に従わなければならない。
(割引率)
- 20. 退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定する6。
- 21. 利息費用は、期首の退職給付債務に割引率を乗じて計算する。
年金資産
- 22. 年金資産の額は、期末における時価(公正な評価額をいう。ただし、金融商品については、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第6項)とする。)により計算する。
- 23. 期待運用収益は、期首の年金資産の額に合理的に期待される収益率(長期期待運用収益率)を乗じて計算する。
数理計算上の差異
- 24. 数理計算上の差異は、原則として各期の発生額について、予想される退職時から現在までの平均的な期間(以下「平均残存勤務期間」という。)以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理する7,8
- また、当期に発生した未認識数理計算上の差異は、これらに関する、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(以下「法人税等」という。)及び税効果を調整の上、その他の包括利益を通じて純資産の部に計上する(本会計基準第27項参照)。なお、未認識数理計算上の差異に係る法人税等は、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「法人税等会計基準」という。)第5-3項(2)の対象となる(法人税等会計基準第29-6項及び第29-7項)。
過去勤務費用
- 25. 過去勤務費用は、原則として各期の発生額について、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理する9,10
- また、当期に発生した未認識過去勤務費用は、これらに関する、法人税等及び税効果を調整の上、その他の包括利益を通じて純資産の部に計上する(本会計基準第27項参照)。なお、未認識過去勤務費用に係る法人税等は、法人税等会計基準第5-3項(2)の対象となる(法人税等会計基準第29-6項及び第29-7項)。
小規模企業等における簡便な方法
- 26. 従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いて、退職給付に係る負債及び退職給付費用を計算することができる。
確定給付制度の開示
表 示
- 27. 積立状況を示す額(第13項参照)について、負債となる場合は「退職給付に係る負債」等の適当な科目をもって固定負債に計上し、資産となる場合は「退職給付に係る資産」等の適当な科目をもって固定資産に計上する。未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用については、これらに関する、当期までの期間に課税された法人税等及び税効果を調整の上、純資産の部におけるその他の包括利益累計額に「退職給付に係る調整累計額」等の適当な科目をもって計上する。
- 28. 退職給付費用(第14項参照)については、原則として売上原価又は販売費及び一般管理費に計上する。
ただし、新たに退職給付制度を採用したとき又は給付水準の重要な改訂を行ったときに発生する過去勤務費用を発生時に全額費用処理する場合などにおいて、その金額が重要であると認められるときには、当該金額を特別損益として計上することができる。 - 29. 当期に発生した未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用並びに当期に費用処理された組替調整額(第15項参照)については、その他の包括利益に「退職給付に係る調整額」等の適当な科目をもって、一括して計上する。
注記事項
- 30. 確定給付制度については、次の事項を連結財務諸表及び個別財務諸表に注記する。なお、(2)から(11)について、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない。
- (1) 退職給付の会計処理基準に関する事項
- (2) 企業の採用する確定給付制度の概要
- (3) 退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表
- (4) 年金資産の期首残高と期末残高の調整表
- (5) 退職給付債務及び年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債及び資産の調整表
- (6) 退職給付に関連する損益
- (7) その他の包括利益に計上された数理計算上の差異及び過去勤務費用の内訳
- (8) 貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上された未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の内訳
- (9) 年金資産に関する事項(年金資産の主な内訳を含む。)
- (10) 数理計算上の計算基礎に関する事項
- (11) その他の事項
確定拠出制度の会計処理
- 31. 確定拠出制度については、当該制度に基づく要拠出額をもって費用処理する。また、当該制度に基づく要拠出額をもって費用処理するため、未拠出の額は未払金として計上する。
確定拠出制度の開示
表 示
- 32. 前項の費用は、第28項の退職給付費用に含めて計上する。
注記事項
- 32-2. 確定拠出制度については、次の事項を連結財務諸表及び個別財務諸表に注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない。
- (1) 企業の採用する確定拠出制度の概要
- (2) 確定拠出制度に係る退職給付費用の額
- (3) その他の事項
複数事業主制度の会計処理及び開示
- 33. 複数の事業主により設立された確定給付型企業年金制度を採用している場合においては、次のように会計処理及び開示を行う。
- (1) 合理的な基準により自社の負担に属する年金資産等の計算をした上で、第13項から第30項の確定給付制度の会計処理及び開示を行う。
- (2) 自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないときには、第31項、第32項及び第32-2項の確定拠出制度に準じた会計処理及び開示を行う。この場合、当該年金制度全体の直近の積立状況等についても注記する。
適用時期等
- 34. 平成24年に改正した本会計基準(以下「平成24年改正会計基準」という。)は、平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。ただし、平成25年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することができる。
- 35. 退職給付債務及び勤務費用の定め(第16項から第21項参照)並びに特別損益における表示の定め(第28項ただし書き参照)については、第34項にかかわらず、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。ただし、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首からこれらの定めを適用することが実務上困難な場合には、次の注記を行うことを条件に、平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することができる。
- (1) 四半期財務諸表においては、当該定めを適用していない旨及びその理由
- (2) 事業年度末に係る財務諸表においては、当該定めを適用していない旨、その理由並びに退職給付債務及び勤務費用の定め(第16項から第21項参照)に基づき算定した当該事業年度末の退職給付債務の概算額
- なお、平成25年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することができる。
- 36. 第34項に従って平成24年改正会計基準を適用後、前項に掲げた定めを適用しない期間がある場合、当該期間については、企業会計審議会「退職給付に係る会計基準」(以下「平成10年会計基準」という。)における退職給付債務及び勤務費用に関する定め(同基準 二2、三2(1)及び(2))並びに特別損益における表示の定め(同基準 四2)に従う。
- 37. 第34項及び第35項に従って平成24年改正会計基準を適用するにあたり、過去の期間の財務諸表に対しては遡及処理しない。平成24年改正会計基準の適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額については、第34項の適用に伴うものは純資産の部における退職給付に係る調整累計額(その他の包括利益累計額)に、第35項の適用に伴うものは期首の利益剰余金に加減する。
- 38. 第35項に従って平成24年改正会計基準を適用するにあたっては、その適用前に第19項(1)に定める期間定額基準を採用していた場合であっても、適用初年度の期首において、第19項(2)に定める給付算定式基準を選択することができる。
- 38-2. 平成28年に改正した本会計基準(以下「平成28年改正会計基準」という。)は、平成29年1月1日以後適用する。
(個別財務諸表における当面の取扱い)
- 39. 個別財務諸表上、所定の事項については、当面の間、次のように取り扱う。
- (1) 第13項にかかわらず、個別貸借対照表上、退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額を負債として計上する。ただし、年金資産の額が退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額を超える場合には、資産として計上する。
- (2) 第15項、第24項また書き、第25項また書き、第29項及び第30項(7)(8)については適用しない。
- (3) 第27項にかかわらず、個別貸借対照表に負債として計上される額(本項(1)参照)については「退職給付引当金」の科目をもって固定負債に計上し、資産として計上される額(本項(1)参照)については「前払年金費用」等の適当な科目をもって固定資産に計上する。
- (4) 連結財務諸表を作成する会社については、個別財務諸表において、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の貸借対照表における取扱いが連結財務諸表と異なる旨を注記する。
- (5) 本会計基準等で使用されている「退職給付に係る負債」、「退職給付に係る資産」という用語(本会計基準の公表による他の会計基準等についての修正を含む。)は、個別財務諸表上は「退職給付引当金」、「前払年金費用」と読み替えるものとする。
(企業会計基準等の廃止)
- 40. 第34項の適用により、以下の企業会計基準及び企業会計基準適用指針は廃止する。
- (1) 企業会計基準第3号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正」(以下「企業会計基準第3号」という。)
- (2) 企業会計基準第14号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その2)」(以下「企業会計基準第14号」という。)
- (3) 企業会計基準適用指針第7号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正に関する適用指針」
- また、第35項の適用により、企業会計基準第19号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その3)」(以下「企業会計基準第19号」という。)は廃止する。
- 41. 日本公認会計士協会においては、日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第13号「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」(以下「退職給付実務指針」という。)及び「退職給付会計に関するQ&A」などの廃止を検討されることが適当である。
議 決
- 42. 平成24年改正会計基準は、第243回企業会計基準委員会に出席した委員11名全員の賛成により承認された。なお、出席した委員は以下のとおりである。
- (略)
- 42-2. 平成28年改正会計基準は、第350回企業会計基準委員会に出席した委員13名全員の賛成により承認された。なお、出席した委員は以下のとおりである。
- (略)
結論の背景
経 緯
平成10年会計基準の公表とその後の改正
- 43. 企業会計審議会が昭和43年に公表した個別意見書「退職給与引当金の設定について」においては、退職給付のうち企業が直接給付を行う形態に関する会計基準は明らかにされていたが、企業年金制度が我が国に導入されて間もなかったことから、企業年金制度に基づく退職給付の会計処理については明確な基準が示されていなかった。この結果、企業が直接給付を行う退職給付の一部を企業年金制度による給付に移行し両者を併用する場合が多くなった後でも、企業年金制度については拠出金を支払時の費目として処理する実務が行われていた。しかし、退職給付の支給方法(一時金支給、年金支給)や退職給付の積立方法(内部引当、外部積立)が異なっているとしても、いずれも退職給付であることに違いはないため、企業会計審議会では企業年金制度を含め退職給付について包括的に検討を行い、平成10年6月に「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「退職給付意見書」という。)及び平成10年会計基準として公表した。
- 44. その後、退職給付を巡る環境は著しく変化し、厚生年金基金の代行返上が可能とされたことや厚生年金基金(確定給付企業年金を含む。)における掛金の減額等の制限が緩和されたことなど、平成10年会計基準の設定時には予測し得なかった大幅な変化が生じたことから、当委員会は平成17年3月に、積立超過(年金資産が退職給付債務を超えること)の会計処理について、平成10年会計基準の一部を改正する企業会計基準第3号を公表した(第71項参照)。
- 45. また、当委員会では、「国民年金法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第104号)による制度改正も踏まえ、複数事業主制度の企業年金の取扱いについて検討し、平成19年5月に、平成10年会計基準の一部を改正する企業会計基準第14号を公表した。
- 46. さらに、欧州連合(EU)における第三国会計基準の同等性評価に関連して提案された欧州証券規制当局委員会(CESR)による「技術的助言」(平成17年7月)では、退職給付債務の計算における割引率の取扱いその他の点が国際財務報告基準(IFRS)と我が国の会計基準の相違点として指摘された。当委員会は、会計基準の国際的なコンバージェンスを進める観点から、平成20年7月に、平成10年会計基準の一部を改正する企業会計基準第19号を公表した(第65項参照)。
平成24年改正会計基準の公表
- 47. 当委員会と国際会計基準審議会(IASB)は、平成19年8月に「東京合意」(会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意)を公表した。当委員会では、国際的な会計基準における見直しの議論と歩調を合わせ、退職給付に関する会計基準の見直しについて、中長期的に取り組むこととしている。
- 48. 平成21年1月には、今後の取組みの中で、退職給付に関する会計基準等をどのように見直していくかについての検討に資するよう、「退職給付会計の見直しに関する論点の整理」(以下「論点整理」という。)を公表し、広く意見を求めた。当委員会は、論点整理に寄せられたコメントを分析し検討を重ねた結果、我が国における退職給付に関する会計基準の見直しを2つのステップに分け、ステップ1においては、以下を取り扱うこととした。
- (1) 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法の見直し(第55項及び第56項参照)
- (2) 退職給付債務及び勤務費用の計算方法の見直し(第57項、第60項から第63項及び第66項参照)
- (3) 開示の拡充(第77項参照)
- 平成22年3月には、平成10年会計基準を改正する企業会計基準公開草案第39号「退職給付に関する会計基準(案)」(第44項から第46項に掲げた平成10年会計基準の一部を改正する3つの企業会計基準も引き継いでいる。)を公表し、広く意見を求めた。公開草案に対して寄せられたコメントの中には、退職給付会計の改正は関連諸制度との調整が必要となること等を踏まえて、個別財務諸表への適用は慎重に検討すべきという意見があった。こうした中、個別財務諸表を当面どのように取り扱うべきかについて意見を聴取するために、公益財団法人財務会計基準機構内において平成22年9月に「単体財務諸表に関する検討会議」(以下「単体検討会議」という。)が設置され、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の負債計上に係る個別財務諸表の取扱いが当該会議における論点の1つとして取り上げられて議論された。単体検討会議の報告書は平成23年4月に公表され、当委員会では報告書で示された方向性の考え方を十分斟酌しつつ、その後も時間をかけて慎重に検討を重ねた(第86項から第89項参照)。平成24年改正会計基準は、このような経緯を経て、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。
- 49. 退職給付に関する会計基準の見直しを2つのステップに分ける進め方に関して、公開草案に対して寄せられたコメントの中には、基本的な方向性を支持する意見があった一方で、IASBにおける退職給付会計の見直しが確定してから結論を出すべきという意見や、短期間に複数回の基準改正は負担が大きくなる懸念があるという意見があった。こうした意見を踏まえ、当委員会において審議した結果、①貸借対照表が積立状況を示すようになることや注記事項を拡充することなどによって、財務諸表利用者の理解可能性を高め、透明性の向上による財務報告の改善を早期に図ることになる観点や、②貸借対照表上の取扱いはIASBにおける退職給付会計の見直しと整合的であり、退職給付債務及び勤務費用の計算方法の見直しと併せてコンバージェンスを図る観点から、平成24年改正会計基準を公表することとした。
平成28年改正会計基準の公表
- 49-2. 平成28年改正会計基準は、実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」においてリスク分担型企業年金の会計処理及び開示を明らかにしたことに伴い、確定拠出制度に係る注記事項を整備するために改正を行ったものである(第32-2項参照)。
範 囲
- 50. 退職給付意見書及び平成10年会計基準は、役員の退職慰労金について、労働の対価との関係が必ずしも明確でないことを理由に、直接対象とするものではないとしていた。平成24年改正会計基準でも基本的にこうした取扱いを踏襲している(第3項ただし書き参照)。
用語の定義
- 51. 平成24年改正会計基準では、国際的な会計基準も参考に、確定拠出制度と確定給付制度の定義を明示したが、これまでの考え方を変えるものではない(第4項及び第5項参照)。
- 52. 平成10年会計基準における「過去勤務債務」を、平成24年改正会計基準では「過去勤務費用」という名称に改めているが、これは、年金財政計算上の「過去勤務債務」とは異なることを明瞭にするためであり、その内容の変更を意図したものではない。
確定給付制度の会計処理
基本的な考え方
- 53. 平成10年会計基準は退職給付について、その支給方法や積立方法が異なっているとしても退職給付であることに違いはなく、企業会計において退職給付の性格は、労働の対価として支払われる賃金の後払いであるという考え方に立ち、基本的に勤務期間を通じた労働の提供に伴って発生するものと捉えていた。このような捉え方に立てば、退職給付は、その発生が当期以前の事象に起因する将来の特定の費用的支出であり、当期の負担に属すべき金額は、その支出の事実に基づくことなく、その支出の原因又は効果の期間帰属に基づいて費用として認識するという企業会計における考え方が、企業が直接給付を行う退職給付のみならず企業年金制度による退職給付にも当てはまる。したがって、退職給付はその発生した期間に費用として認識することとなる。
- 54. 平成24年改正会計基準においても、将来の退職給付のうち当期の負担に属する額を当期の費用として計上するとともに負債の部に計上するという基本的な会計処理の考え方を引き継いでいる。さらに、平成10年会計基準が採用していた次のような退職給付に係る会計処理に特有の事象についての考え方についても踏襲している。
- (1) 負債の計上にあたって外部に積み立てられた年金資産を差し引くとともに、年金資産の運用により生じると期待される収益を、退職給付費用の計算において差し引くこと
- (2) 退職給付の水準の改訂及び退職給付の見積りの基礎となる計算要素の変更等により過去勤務費用及び数理計算上の差異が生じるが、これらは、原則として、一定の期間にわたって規則的に、費用処理すること
貸借対照表、損益計算書及び包括利益計算書(又は損益及び包括利益計算書)での取扱い
- 55. 平成10年会計基準は、数理計算上の差異及び過去勤務費用を平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理することとし、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用)については貸借対照表に計上せず、これに対応する部分を除いた、積立状況を示す額を負債(又は資産)として計上することとしていた。しかし、一部が除かれた積立状況を示す額を貸借対照表に計上する場合、積立超過のときに負債(退職給付引当金)が計上されたり、積立不足のときに資産(前払年金費用)が計上されたりすることがあり得るなど、退職給付制度に係る状況について財務諸表利用者の理解を妨げているのではないかという指摘があった。
- このため、平成24年改正会計基準では、国際的な会計基準も参考にしつつ検討を行い、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を、これらに関する、当期までの期間に課税された法人税等及び税効果を調整の上、純資産の部(その他の包括利益累計額)に計上することとし、積立状況を示す額をそのまま負債(又は資産)として計上することとした(第13項、第24項また書き及び第25項また書き参照)。なお、個別財務諸表においては、当面の間、これらの取扱いを適用しないことに留意が必要である(第39項(1)及び(2)並びに第86項から第89項参照)。
- 56. 一方、数理計算上の差異及び過去勤務費用の費用処理方法については変更しておらず、従来どおり平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に費用処理されることとなる(第24項及び第25項参照)。この結果、平成24年改正会計基準では、数理計算上の差異及び過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分をその他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に当期純利益を構成する項目として費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うこととした(第15項参照)。
退職給付債務及び勤務費用
(退職給付見込額の見積り)
- 57. 平成10年会計基準は、退職給付見込額に考慮すべき、合理的に見込まれる退職給付の変動要因(第18項参照)として、確実に見込まれる昇給等を挙げていた。しかしながら、退職給付債務及び勤務費用の計算基礎の1つである予想昇給率について、確実なものだけを考慮する場合、割引率等の他の計算基礎との整合性を欠く結果になると考えられることや、国際的な会計基準では確実性までは求められていないことを勘案し、平成24年改正会計基準では、確実に見込まれる昇給等ではなく、予想される昇給等を考慮すべきこととした((注5)参照)。
(平成10年会計基準における退職給付見込額の期間帰属方法)
- 58. 平成10年会計基準及び退職給付意見書は、労働の対価として退職給付の発生額を見積る観点からは、勤務期間を基準とする方法が国際的にも合理的で簡便な方法であると考えられているとし、第19項(1)に定める期間定額基準を退職給付見込額の期間帰属方法の原則的な方法としていた。しかしながら、平成10年会計基準の公表直前に改正された国際会計基準(IAS)第19号「従業員給付」では、その公開草案の段階で期間定額基準に類似した方法が提案されたものの、最終的には第19項(2)に定める給付算定式基準が採用されている。また、昭和60年(1985年)に公表された米国財務会計基準書(SFAS)第87号「事業主の年金会計」(現在は、FASB Accounting Standards Codification™(FASB による会計基準のコード化体系)のTopic715「労働対価-退職給付」に含まれている。)に基づく実務では、勤務期間を基準とした退職給付見込額の期間帰属が広く行われているが、これは、同基準により求められる給付算定式基準を、米国で一般的な退職給付制度に当てはめた結果であると考えられる。
- 59. 平成10年会計基準及び退職給付意見書は、期間定額基準以外の期間帰属方法として、給与基準と支給倍率基準を挙げていたが、これらの方法は一定の場合にのみ認められるとしていた。また、退職給付実務指針では、一定の場合に限り、ポイント基準が認められていた。
(平成24年改正会計基準による退職給付見込額の期間帰属方法の見直し)
- 60. 当委員会は、平成21年に公表した論点整理の中で、我が国の会計基準における退職給付見込額の期間帰属方法を、国際的な会計基準と同様に、第19項(2)に定める給付算定式基準に変更すべきかを論点として示し、論点整理に寄せられたコメントも踏まえて検討を行った。検討の過程では、給付算定式基準を導入すべきとされたものの、期間定額基準については廃止すべきか、あるいは両者の選択適用とすべきかについて意見が分かれた。
- 61. 期間定額基準を選択適用で認めるべきという意見は、我が国の退職給付会計では退職給付見込額の期間帰属方法を費用配分の方法として捉えており(第53項参照)、直接観察できない労働サービスの費消態様に合理的な仮定を置かざるを得ないことを踏まえれば、労働サービスに係る費用配分の方法は一義的に決まらず、勤務期間を基礎とする費用配分の方法(期間定額基準)についても、これを否定する根拠は乏しいという考え方に基づいている。また、給付算定式基準では、勤務期間の後期における給付算定式に従った給付が、初期よりも著しく高い水準となる場合(給付算定式に従う給付が著しく後加重である場合)、その部分について均等に生じるものとみなして補正すべきとされているが、これは、勤務期間を基礎とする配分に一定の合理性を認めていることを示唆している、という意見もある。
- 62. 一方、期間定額基準を廃止すべきという意見は、この方法の採用の経緯(第58項参照)を踏まえれば、これを改めて支持する根拠を欠くという考え方に基づいている。また、勤続年数の増加に応じた労働サービスの向上を踏まえれば、毎期の費用を定額とする期間定額基準よりも、給付算定式に従って費用が増加するという取扱いの方が実態をより表すものであり、勤務をしても給付が増加されない状況(定年直前に給付額が頭打ちになる場合や、将来給付すべての減額の場合など)でも費用を認識する場合がある点で期間定額基準は妥当でないという考え方や、給付算定式に従う給付が著しく後加重である場合など、勤務期間を基礎とする費用配分が適当な状況があるとしても、すべての勤務期間について配分する必要はないという考え方にも基づいている。このほか、退職給付債務の計算は給付算定式を基礎とすべきであり、これと直接関連しない測定値となる期間定額基準は妥当でないという考え方もある。
- 63. 検討の結果、期間定額基準が最適とはいえない状況があったとしても、これを一律に否定するまでの根拠はないことや、また、国際的な会計基準では、キャッシュ・バランス・プランを含めた一部の制度に対する給付算定式に従った方法の適用が不明確なため、この方法の見直しが検討されていることを踏まえ、適用の明確さでより優れていると考えられる期間定額基準についても、給付算定式基準との選択適用という形で認めることとした(第19項参照)。
(厚生年金基金の代行部分)
- 64. 厚生年金基金制度は、給付算定式や計算基礎が異なり得る、加算部分及び代行部分から構成される。すなわち、加算部分については、最終給与比例制度やポイント制度など、企業が独自に給付設計できるのに対して、代行部分については平均標準報酬月額に基づく、一種の平均給与比例制度として給付額が算定される。
平成10年会計基準は、当該制度は実態として、1つの運営主体によって、資産が一体として運用され一括して給付が行われており、区分計算することが難しいこと、母体企業が制度の運営及び維持に実質的に関与しており、過去勤務債務等が発生したときには、通常、全額を母体企業が負担している場合が多いことなどを理由に、企業会計においては、それぞれの部分を区分せずこれを全体として1つの退職給付制度とみなした上で、財政計算上の計算方法にかかわらず同一の会計処理を適用することとしていた。平成24年改正会計基準では検討の対象(第48項参照)としなかったため、原則として従来の考え方を変更していない。 - なお、給付算定式基準によって制度全体の退職給付債務を計算するにあたって、加算部分と代行部分とで給付算定式や計算基礎が異なる場合には、加算部分と代行部分について、それぞれの給付算定式及び計算基礎に基づくことが適当と考えられる。
(割引率)
- 65. 平成10年会計基準では、同注解(注6)なお書きにより、「割引率は、一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる」こととされていた。これは、期末における利回りを基礎とすることを原則的な考え方としながらも、相当長期間にわたって割り引かれる性質を持つ退職給付債務に関して、期末一時点の市場利回りで割り引くことが必ずしも適切とはいえない場合があることが考慮されていたためと考えられる。
- しかしながら、一定期間の利回りの変動を考慮して決定される割引率が期末における市場利回りを基礎として決定される割引率よりも信頼性があると合理的に説明することは通常困難であると考えられることなどから、国際的な会計基準とのコンバージェンスを推進する観点も踏まえ、平成20年に公表した企業会計基準第19号では、平成10年会計基準注解(注6)の定めについてなお書きを削除し、また、割引率は期末における利回りを基礎とすることを明示するよう改正をした。平成24年改正会計基準(注6)も、この改正後の定めを引き継いでいる。
なお、退職給付債務や勤務費用の計算にあたっては、合理的な補正方法によって、期末の割引率による計算結果を求めることができるものと考えられる。 - 66. 退職給付債務の割引計算における割り引く期間としては、退職給付の支払見込日までの期間が適当と考えられるが、平成10年会計基準は、必ずしもこれと一致しない退職日までの期間を前提とした定めを置いていたことから、平成24年改正会計基準ではそうした部分の記載を削除している。
数理計算上の差異及び過去勤務費用の会計処理
(退職給付意見書及び平成10年会計基準による考え方)
- 67. 退職給付意見書及び平成10年会計基準は、過去勤務費用及び数理計算上の差異について、次の(1)から(3)に掲げる考え方を採っていた。
- (1) 過去勤務費用及び数理計算上の差異については、その発生した時点において費用とする考え方があるが、国際的な会計基準では一時の費用とはせず一定の期間にわたって一部ずつ費用とする、又は、数理計算上の差異については一定の範囲内は認識しないという処理(回廊アプローチ)が行われている。
こうした会計処理については、過去勤務費用の発生要因である給付水準の改訂等が従業員の勤労意欲が将来にわたって向上するとの期待のもとに行われる面があること、また、数理計算上の差異には予測と実績の乖離のみならず予測数値の修正も反映されることから各期に生じる差異を直ちに費用として計上することが退職給付に係る債務の状態を忠実に表現するとはいえない面があること等の考え方が示されている。このように、過去勤務費用や数理計算上の差異の性格を一時の費用とすべきものとして一義的に決定づけることは難しいと考えられる。 - (2) 数理計算上の差異の取扱いについては、退職給付債務の数値を毎期末時点において厳密に計算し、その結果生じた計算差異に一定の許容範囲(回廊)を設ける方法と、基礎率等の計算基礎に重要な変動が生じない場合には計算基礎を変更しない等計算基礎の決定にあたって合理的な範囲で重要性による判断を認める方法(重要性基準)が考えられる。退職給付費用が長期的な見積計算であることから、このような重要性による判断を認めることが適切と考え、数理計算上の差異の取扱いについては、重要性基準((注8)参照)の考え方によることとした。
また、計算基礎にこのような重要性による判断を認めた上で回廊を設けることとする場合、実質的な許容範囲の幅が極めて大きくなることから、重要性基準に加えてさらに回廊を設けることとはしないこととした。 - (3) 基礎率等の計算基礎に重要な変動が生じた場合において計算基礎の見直しを行ったときなどに生じる数理計算上の差異については、過去勤務費用と同じく、平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理することとしている。この場合、一定の年数での規則的処理には、発生した期に全額を処理する方法を継続して採用することも含まれる。
(平成24年改正会計基準の考え方)
- 68. 当委員会が公表した企業会計基準第19号の審議の過程では、第65項に掲げた平成10年会計基準注解(注6)なお書きの削除に合わせ、回廊(前項(2)参照)の導入と重要性基準(前項(2)参照)の廃止を検討対象に含めるべきかが審議されたが、IASBが進めている退職給付会計の見直しの中では、回廊を含めたいわゆる遅延認識の廃止の議論がなされている途中であったことも考慮し、これらを含めないこととした。
- したがって、平成24年改正会計基準は数理計算上の差異及び過去勤務費用の費用処理に対する第67項の考え方をそのまま踏襲している(第48項及び第49項参照)。
年金資産
- 69. 企業年金制度を採用している企業などでは、退職給付に充てるため外部に積み立てられている年金資産が存在する。この年金資産は退職給付の支払のためのみに使用されることが制度的に担保されていることなどから、これを収益獲得のために保有する一般の資産と同様に企業の貸借対照表に計上することには問題があり、かえって、財務諸表の利用者に誤解を与えるおそれがあると考えられる。また国際的な会計基準においても年金資産を直接貸借対照表に計上せず、退職給付債務からこれを控除することが一般的である。したがって、年金資産の額は退職給付に係る負債の計上額の計算にあたって差し引くこととしている。この場合、年金資産の額が退職給付債務の額を上回る場合には、退職給付に係る資産として貸借対照表に計上することになる(第13項ただし書き及び第27項参照)。
(退職給付に係る資産の上限)
- 70. 平成10年会計基準注解(注1)では、次のような考え方に基づき、「実際運用収益が期待運用収益を超過したこと等による数理計算上の差異の発生又は給付水準を引き下げたことによる過去勤務債務の発生により、年金資産が企業年金制度に係る退職給付債務を超えることとなった場合には、当該超過額を資産及び利益として認識してはならない」とする資産の上限の定めを設けていた。
- (1) 外部に積み立てられている年金資産を企業の資産として認識することは適当でないこと
- (2) 当該超過額が将来退職給付費用の減少につながるとしても、一般的に年金資産の払戻しには制限があることから、企業への当該超過額の払戻しが行われない限り、これを利益として認識することは適当でないこと
- 71. しかし、その後に厚生年金基金の代行返上が可能とされたことや、厚生年金基金(確定給付企業年金を含む。)における掛金の減額等の制限が緩和されたことなど、平成10年会計基準の上限の定めの前提となる制約(前項(1)及び(2)参照)が概ね解消したことから、平成17年に公表された企業会計基準第3号によって、上記の資産の上限の定めを廃止した。
- 72. IAS第19号「従業員給付」では、積立状況を示す額が負の値となる場合、退職給付制度からの返還又は将来掛金の減額による経済的便益がないと判断される部分については、資産計上を認めないとしている。平成24年改正会計基準の審議の過程では、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点から、資産に上限を定める考え方を再び我が国の会計基準にも導入すべきかについて検討を行ったが、退職給付制度を巡る環境の相違などを踏まえ、今後のIFRSの動向を見極める必要性もあることなどから、平成24年改正会計基準では取り扱わないこととした。
小規模企業等における簡便な方法
- 73. 退職給付意見書では、従業員数が比較的少ない小規模な企業などにおいて、合理的に数理計算上の見積りを行うことが困難である場合や退職給付の重要性が乏しい場合には、退職給付費用を原則的な方法で計算せず簡便な方法での計算が認められると考えられる、とされていたが、これを見直して国際的な会計基準と同様に、重要性が乏しい場合にのみ簡便な方法を認めるようにすべきという意見があった。
- しかしながら、小規模な企業などでは、年齢や勤務期間に偏りがあることなどにより数理計算結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合があり得ると考えられ、費用対効果の観点に基づいた簡便な方法の認容の必要性は、退職給付意見書の公表後も変わらないと考えたことから、見直しを行わないこととした。
- なお、退職給付意見書における上記の「合理的に」を、平成24年改正会計基準では「高い信頼性をもって」に変更しているが(第26項参照)、これは内容の変更ではなく、退職給付実務指針に存在した従来の簡便な方法の具体的な定め(企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」に引き継がれている。)に平仄を合わせたものである。
確定給付制度の開示
表 示
- 74. 退職給付に係る負債(又は資産)及び退職給付費用の表示については、平成10年会計基準の取扱いを踏襲しているが、将来の退職給付のうち当期の負担に属する額を当期の費用として引当金に繰り入れ、当該引当金の残高を負債計上額としていた従来の方法から、これらにその他の包括利益を通じて認識される、未認識数理計算上の差異や未認識過去勤務費用に対応する額も負債計上額に加える方法に変更した(第55項参照)ことに伴い、「退職給付引当金」及び「前払年金費用」という名称を、それぞれ「退職給付に係る負債」及び「退職給付に係る資産」に変更している(第27項参照)。なお、個別財務諸表においては、当面の間、この取扱いを適用せず、従来の名称を使用することに留意が必要である(第39項(3)及び第86項から第89項参照)。
- 75. 新たに退職給付制度を採用したとき又は給付水準の重要な改訂を行ったときに発生する過去勤務費用について、平成10年会計基準は、これに係る当期の費用処理額が重要である場合、当該費用処理額を特別損失として計上することを認めていた一方で、退職給付意見書では、その発生時に全額費用処理する場合などにおいて、その金額が重要であるときに、特別損失として計上することを認めていた。
平成24年改正会計基準では、規則的な費用処理額が特別損益に計上されることは適当ではないと考えたことから、上記の2つの考え方のうち、退職給付意見書のものを引き継ぐこととした(第28項参照)。 - 76. 当期に発生した未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用並びに当期に費用処理された組替調整額については、その内訳の注記が求められる(第30項(7)参照)ことと、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」第9項において、その他の包括利益の内訳項目ごとに組替調整額の注記が求められることを踏まえ、包括利益計算書(又は損益及び包括利益計算書)上は区分表示を求めず、それらを一括して計上することとした(第29項参照)。
注記事項
- 77. 注記事項については、論点整理に対し、財務諸表の有用性をさらに高めるよう、その拡充を求める意見が多く寄せられたことや、より多くの項目を注記している国際的な会計基準とのコンバージェンスを進める観点から、退職給付債務や年金資産の増減の内訳など、国際的な会計基準で採用されている項目を中心に追加している。
確定拠出制度の会計処理
- 78. 確定拠出制度の会計処理については、平成10年会計基準では明示されていなかったものの、退職給付意見書の中でその考え方が示され、また、その後に公表された企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」などの中で取扱いが定められていた。平成24年改正会計基準での定義(第4項参照)及び会計処理(第31項参照)は、こうした従来の考え方や取扱いを踏襲したものである。
確定拠出制度の開示
- 78-2. 定義及び会計処理と同様に、平成24年改正会計基準での確定拠出制度の開示は、従来の考え方や取扱いを踏襲したものである。
- 78-3. リスク分担型企業年金が導入され、複数の制度が会計上の確定拠出制度に分類されることを受けて、平成28年改正会計基準では、財務諸表利用者が確定拠出制度に分類される制度の内容を理解できるようにするために、「企業の採用する確定拠出制度の概要」及び「その他の事項」を注記事項として追加することとした(第32-2項参照)。
複数事業主制度の会計処理及び開示
- 79. 複数事業主制度の会計処理及び開示(第33項参照)については、基本的に、平成10年会計基準の取扱い及びこれを改正する企業会計基準第14号の取扱いを踏襲している。
適用時期等
- 80. 平成24年改正会計基準の適用によって生じ得る会計方針の変更には、次のものがある。
- (1) 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の会計処理(第55項及び第56項参照)
- (2) 退職給付見込額の期間帰属方法(第19項参照)を含む退職給付債務及び勤務費用の計算方法(第57項、第60項から第63項及び第66項参照)
- (3) 特別損益に計上できる過去勤務費用(第75項参照)
- このうち、(2)の変更には、新たな年金数理計算のために一定の準備期間を要するという意見があったことから適用時期を分け、(2)に関連する定めについては適用時期を遅らせることとした(第35項参照)。
- 81. 前項に示した平成24年改正会計基準の適用により生じ得る会計方針の変更のうち、(1)については原則として当期純利益及び利益剰余金に影響を与えないことから(第56項参照)、年度末の財務諸表からの適用とする一方で、(2)はこれらに影響を与えることを踏まえ、期首からの適用とした。また、(3)についても当期純利益に影響を与え得ることから、(2)と併せて適用することとした(第34項及び第35項参照)。
- 82. 過去の財務諸表に対して、平成24年改正会計基準が定める新たな会計処理の遡及適用(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「企業会計基準第24号」という。)第4項(9))を求める場合、変更後の未認識数理計算上の差異の残高を算定するために、平成10年会計基準の適用と制度の開始のいずれか新しい方の時点以後の各事業年度の退職給付債務をすべて再計算するという過度な負担が生じることになるため、過去の財務諸表への遡及適用は求めないこととした(第37項参照)。
- なお、退職給付債務及び勤務費用の定め(第16項から第21項参照)の適用初年度(第38項参照)後において、正当な理由により退職給付見込額の期間帰属方法を変更する場合には、原則として、企業会計基準第24号第6項(2)の定めに従って遡及適用することになる。
- 83. 退職給付見込額の期間帰属方法の変更によって生じる退職給付債務の変動は、見積数値と実績との差異又は見積数値の変更等により発生した差異という、数理計算上の差異の定義(第11項参照)とは必ずしも整合しないことから、当該変動を含めた第35項の適用によって生じる退職給付債務の変動については、期首の数理計算上の差異に加減するのではなく、期首の利益剰余金に加減するものとした。
- 84. 平成24年改正会計基準の適用にあたっては、過去の期間の財務諸表に対する遡及処理は行われない(第37項参照)。したがって、平成24年改正会計基準が定める新たな注記事項(第30項参照)についても、過去の期間に対する財務諸表の組替え(企業会計基準第24号第4項(10))を行わないことに留意が必要である。
- 85. 平成24年改正会計基準の適用時期に関して、公開草案の段階では、第80項(2)及び(3)を除く事項(第80項(1)など)については平成23年4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から、第80項(2)及び(3)については平成24年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することとしていたが、公開草案に対して寄せられたコメントの中には、平成24年改正会計基準を導入するための実務上の受入準備が整わないという意見があった。さらに、個別財務諸表を巡る審議状況なども踏まえて検討した結果、第80項(2)及び(3)を除く事項(第80項(1)など)については平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用することとし、これに併せて、早期適用についても、平成24年改正会計基準を公表後に関係各方面にて準備する期間を一定程度確保する観点から、適用時期を見直した(第34項参照)。また、第80項(2)及び(3)については平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することとしたが、審議の過程では、数理計算の準備状況(適用上の判断に係る準備も含む。)等から当該年度の期首からの適用が困難となる場合も懸念されるという意見があったことを踏まえ、当該年度の期首から第80項(2)及び(3)の定めを適用することが実務上困難な場合には、所定の注記を行うことを条件に、平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首からの適用も認めることとした(第35項参照)。
(個別財務諸表における当面の取扱い)
- 86. 公開草案に対して寄せられたコメントの中には、平成24年改正会計基準を個別財務諸表へ適用することについて慎重に検討すべきという意見があり、とりわけ公開草案で提案された内容のうち、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(以下「未認識項目」という。)を負債計上する取扱いは、重要な論点として審議された。また、本論点は単体検討会議においても議論され、当該会議の報告書では、年金法制との関係の観点や分配可能額に影響を与える可能性等を踏まえ、慎重に対処し連結先行も含め何らかの激変を緩和する措置を講ずる必要があるという方向性の考え方が示された。
- 87. 審議の過程では、年金法制による規制の結果、事業再編時に合理的な方法によって資産の移換や債務の引継ぎが困難な状況が存在し、また、受給者分は事実上移換できないため、親会社の債務として扱った上で子会社の剰余金で補われる場合もあり、個別財務諸表に未認識項目を負債として認識すると、事業再編後の経営実態を必ずしも適切に表していないとの意見や、未認識項目の負債計上は会社法上の分配可能額に影響が及ぶ可能性が懸念されるという意見があった。
- 一方、年金法制による影響の程度が明確でなく、影響範囲は負担する債務の一部に限定されるのではないかという意見や、会社法上の分配可能額は、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って作成された計算書類を基礎として、必要な調整を加えて計算されることとされているため、上記の懸念は会計基準の策定にあたり一義的に問題とすべきものではないという意見があった。
- 88. 当委員会では、上記のとおり市場関係者の合意形成が十分に図られていない状況を踏まえ、今後議論を継続することとし、現時点における対応としては、未認識項目の負債計上に係る個別財務諸表の取扱いについては、当面の間、平成10年会計基準の取扱いを継続することとした(第39項参照)。
- なお、連結財務諸表に関する変更に伴い、連結財務諸表を作成する会社については、個別財務諸表において未認識項目の貸借対照表における取扱いが連結財務諸表と異なる旨の注記を求めることとした(第39項(4)参照)。未認識項目を発生時に全額費用処理する場合には、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理が異なることにはならないため、当該注記は不要であると考えられる。
- 89. 前項までの審議にあたっては、未認識項目の負債計上に関して、個別財務諸表に任意で適用することを認めるかどうかについても検討されたが、当面の間は平成10年会計基準の取扱いを継続することとした経緯等も踏まえた結果、任意の適用の取扱いは採用されなかった。
平成24年改正会計基準の公表による他の会計基準等についての修正
- 90. 平成24年改正会計基準により、当委員会が公表した会計基準等については、(1)から(14)の修正を行っている(下線は追加部分、取消線は削除部分を示す。)。
- (略)
平成28年改正会計基準の公表による他の会計基準等についての修正
- 91. 平成28年改正会計基準により、当委員会が公表した会計基準等については、(1)から(3)の修正を行う(下線は追加部分、取消線は削除部分を示す。)。
- (略)
- 以 上
注
- 1 複数の退職給付制度を採用している場合において、1つの退職給付制度に係る年金資産が当該退職給付制度に係る退職給付債務を超えるときは、当該年金資産の超過額を他の退職給付制度に係る退職給付債務から控除してはならない。
- 2 臨時に支給される退職給付であってあらかじめ予測できないもの及び退職給付債務の計算にあたって考慮されていたもの以外の退職給付の支給については、支払時の退職給付費用として処理する。
- 3 退職給付債務は、原則として個々の従業員ごとに計算する。ただし、勤続年数、残存勤務期間、退職給付見込額等について標準的な数値を用いて加重平均等により合理的な計算ができると認められる場合には、当該合理的な計算方法を用いることができる。
- 4 従業員からの拠出がある企業年金制度を採用している場合には、勤務費用の計算にあたり、従業員からの拠出額を勤務費用から差し引く。
- 5 退職給付見込額の見積りにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には、予想される昇給等が含まれる。また、臨時に支給される退職給付等であってあらかじめ予測できないものは、退職給付見込額に含まれない。
- 6 割引率の基礎とする安全性の高い債券の利回りとは、期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回りをいう。
- 7 数理計算上の差異については、未認識数理計算上の差異の残高の一定割合を費用処理する方法によることができる。この場合の一定割合は、数理計算上の差異の発生額が平均残存勤務期間以内に概ね費用処理される割合としなければならない。 数理計算上の差異については、当期の発生額を翌期から費用処理する方法を用いることができる。
- 8 割引率等の計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができる。
- 9 過去勤務費用については、未認識過去勤務費用の残高の一定割合を費用処理する方法によることができる。この場合の一定割合は、過去勤務費用の発生額が平均残存勤務期間以内に概ね費用処理される割合としなければならない。
- 10 退職従業員に係る過去勤務費用は、他の過去勤務費用と区分して発生時に全額を費用処理することができる。
